この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=バシール・モバシェル 】
近頃、アミーナ・J・モハメッド国連副事務総長をはじめとする国連内のタリバン擁護論者らが、「(タリバン政権の)承認、確固たる承認への道筋に戻る小さな歩み」を踏み出すため、さまざまな地域および世界の利害関係者とドーハで会合した。その後国連は、アフガニスタンの国連機関で働く女性職員の解雇を求めるタリバンに屈しておきながら、「タリバンと国際社会の相互理解」を促すための国際会合にタリバン当局者を正式に招待する意向を明らかにした。これは、タリバン擁護論者による世界的キャンペーンの一例である。(日・英)
タリバン擁護論とは、彼らの過酷な秩序を正当化し、このテロリスト集団がアフガニスタンの真の支配者として国際的に承認される道を開こうとする、進行中かつ拡大中のPRキャンペーンである。タリバン擁護論者とは、アフガニスタンの正当な支配者としてタリバンの国際的地位を正常化するナラティブを推進するアフガニスタン人および非アフガニスタン人活動家の集合体である。これには、タリバン復帰をパシュトゥン人の覇権回復として歓迎するパシュトゥン人民族主義者、タリバンのアフガニスタン奪取をイスラムの勝利として喜ぶ国内外のイスラム原理主義者、そしてタリバンを承認することによって多様な利害や偽りの大義名分に寄与するオリエンタリストなどがいる。2部構成の本稿では、これらのタリバン擁護論者のナラティブ、考え方、利害、そして、これら多様な活動家グループが過激派集団の地位を合法的政権として正常化すること――つまり非・神聖同盟の出現――をどのように是認しているかについて、手短に検討する。
タリバン擁護論者の存在は、2006~2007年にさかのぼる。当時、アフガニスタン共和国の政権指導者は、いわゆる「良いタリバン」と「悪いタリバン」という考え方を宣伝していた。そうすることによって、ハミド・カルザイ大統領、アシュラフ・ガーニ大統領、ファルーク・ワルダックのような指導者やその取り巻きは、国内各地で政府軍がタリバンを標的にするのを防ぎ、タリバンの拡大とさらなる兵士のリクルートを許した。このような、良いタリバンと悪いタリバン、穏健なタリバンと過激なタリバン、ハッカーニ・タリバンとカンダハリ・タリバンという、見せかけのタリバンの多様性によって、共和国のエリート層や世界の為政者らは判断力が鈍り続け、テロリスト集団の一部とは協力して他のテロリスト集団と対抗できると思うようになってしまった。このようなナラティブは、完全な過激主義集団の内部対立が穏健な動きを生み出すに違いないと甘く思い込んでいる。しかしこの希望的観測とは裏腹に、タリバンに生じた内部対立は穏健派の形成にも全面分裂にも発展しなかった。2015年に、タリバン最高指導者ムッラー・オマールが実は2年前に死亡していたことを下級メンバーが知った時でさえ、そうはならなかった。
2022年12月に米国のカレン・デッカー臨時大使が投稿したツイートは、この甘さをよく表した例である。「私たち(カンダハル政府と私)は、人権が重要であることに言葉の上では合意しているようです。カンダハルの指導者たちがこれを実際の行動でどのように実現していくつもりか、知りたいと思います」。彼女のツイートの直後、カンダハリ・タリバンは、人権どころか何についても彼女の言う合意など全面否定するような声明を発表した。その後間もなく、女性教育の禁止を強く訴えたのはまさにカンダハリ・タリバンだったということが判明した。
多くのタリバン擁護派の一つがパシュトゥン人の自民族中心主義者であり、その一部は恐らく、同じ民族集団であるという以外はタリバンと何ら共通点がない。その中には共和国政権の高官もおり、彼らは共和国時代の20年間に国際社会からの資金援助で個人的に利益を得ていた一方で、タリバンの政権奪還を祝い、中にはそれ以前から彼らを支援していた者もいる。その好例がファルーク・ワルダックで、彼は、共和国時代の20年間に四つの政権にわたってさまざまな大臣職に就いた。しかし、タリバンが復帰すると彼はカブールに戻り、彼らが「国を解放し」て「純粋かつ原理主義的なイスラム政権」を樹立したことを祝福した。自民族中心主義者にとって、民族の政治的優位は、他のあらゆる政治的価値や思想的価値、さらにはコミュニティーの福利や願いよりも重要なのだ。人権擁護のプラカードを掲げたネクタイ姿の男性やメークアップをした洋装の女性がタリバンの代弁者になってしまうのはこのためである。
自民族中心主義者や他のタリバン擁護論者のナラティブは、二つの論点に大きく依存している。第1に、彼らはタリバン政権下で治安が良くなったと主張する。しかし、この仮定は、共和国時代の20年間にタリバンは治安を脅かす最大の要因であり、自爆攻撃を企て、地雷や自動車爆弾を仕込み、その他の形で恐怖を広めたという明白な事実に目を向けていない。また、タリバンが依然として、アフガニスタンの人々の生活、権利、自由にとって最大の脅威であるという事実にも目を向けていない。違法な拘束、拷問、レイプ、迫害、集団強制立ち退きや移転、超法規的殺人が、アフガニスタンではかつてないほど多く起こっている。女性たちは家の外を歩いているだけでも罰せられることを恐れ、メディアはニュースを公平に報道することによる重大な影響を恐れ、教師や学生はタリバンによる絶え間ない監視を恐れている。恐怖とサバイバルモードの中で生きることは、平和と安心の中で生きることではない。タリバンによる「人道に対する犯罪」、「ジェンダー・アパルトヘイト」、「フェミサイド」について、いくつかの国際組織が詳細かつ断固とした報告を行っており、そこではアフガニスタンの治安が良くなった様子が描かれていないことは確かである。
また、タリバン擁護論者は、タリバン政権下で汚職が減少したと主張する。タリバン政権下でパスポートを取得し、国外に逃れることができた人はこれに異議を唱えるかもしれない。タリバン政権下での汚職を報道する自由なメディアがないのだからアフガニスタンで汚職が減少したとは必ずしもいえない。この過激主義集団の支配下で最も明白かつ否定できない汚職の形態には、縁故主義、部族主義、非パシュトゥン人公務員の排除、彼らと非専門家やタリバンの家族や部族メンバーとの交代などがある。
タリバン擁護論者のもう一つのカテゴリーはイスラム原理主義者で、彼らはタリバンの政権復帰に歓喜している。こういったイスラム教徒たちは、タリバンの復帰をイスラムの勝利の象徴として祝っている。英国イスラム法評議会のメンバーであるコーラ・ハサンは、その例である。BBCのパネルディスカッションで、タリバン首長による残虐行為を列挙するアフガニスタン人パネリストの話に耳を貸すどころか、彼女は、「私が知っているムスリムの人は一人残らず・・・(タリバン復帰を)祝って」おり、タリバンにはチャンスを与えるべきだと強く主張した。コーラにとって、イスラム過激主義集団が国際包囲網をやっつけることのほうが、この過激主義集団の支配下にあるアフガニスタンの女性たちに共感を示すことよりも重要なのだ。彼女の発言は、イスラム神学者やアフガニスタン人コミュニティーの間で大きな反発を引き起こした。
言うまでもないことだが、こういったナラティブだけでなく、それを宣伝してタリバンを正当化しようとする人々にも警戒を怠らないようにしなければならない。自民族中心主義者やイスラム原理主義者のナラティブを受け入れることは、ひいては、宗教的過激主義、テロリズム、ジェンダー・アパルトヘイト、宗教的・民族的マイノリティーの迫害、人権の侵害、そして同じ人間の痛みや苦しみに対する完全な無視を容認することであると心に留めて欲しい。人権や社会正義を踏みにじる者の正当化を支持することは、論理的に人権擁護、包摂、平和醸成を訴えることの対極にある。しかし、オリエンタリストたちは対極性を気にしないどころか、それを糧としている。これについてはパートIIで論じる。
バシール・モバシェル博士は、アメリカン大学(ワシントンDC)の博士号取得後研究者。アフガニスタン・アメリカン大学非常勤講師のほか、EBS Universitätでも教鞭を執る。アフガニスタン法律・政治学協会の暫定会長を務め、アフガニスタンの女子学生に向けたオンライン教育プログラムを進めている。憲法設計と分断した社会におけるアイデンティティー・ポリティクスの専門家。カブール大学法律・政治学部を卒業(2007年)後、ワシントン大学より法学修士号(2010年)、博士号(2017年)を取得。
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