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シエラレオネにおける女性性器切除に対する沈黙は、私たちを守らない

【シエラレオーネ/フリータウンIPS=カータ・ミナー】

世界中で2億人以上の女性と少女が女性性器切除(FGM)を受けている。FGMとは、医学的な理由なく外陰部の一部または全部を切除する行為だ。

この慣習は主にアフリカで行われており、生涯にわたる深刻な影響をもたらす。出産時の合併症や性交時の激しい痛みを引き起こし、少女たちの教育を妨げ、児童婚への入り口となることも多く、結果として貧困の連鎖に陥らせる。しかし、この状況を変える明確な道筋がある。

シエラレオネでは、15歳から49歳の女性の83%がFGMを受けている。この慣習は、シエラレオネの女性たちの文化的アイデンティティと深く結びついているボンド・ソサエティ(Bondo Society)という秘密結社と密接な関係がある。このソサエティは、女性の成長のための場とされ、姉妹の絆や連帯の象徴ともされている。

しかし、女性同士の連帯が少女の身体の自主権を犠牲にしてはならない。少女の性器を伝統の名のもとに切ることは通過儀礼ではなく、暴力である。そして、これは今すぐに終わらせなければならない。

この有害な伝統を終わらせるには、まず沈黙を破る必要がある。私が育った家庭では、FGMについて議論することも、疑問を持つことも、認識することもなかった。私の母はこのソサエティの一員だったが、私と姉にはFGMを受けなかった。しかし、それについて話し合うこともなかった。

今振り返ると、彼女の沈黙は無関心ではなく「生き抜くための手段」だったと気づきます。シエラレオネでは、FGMに公然と反対することは社会的・文化的な制裁を受けることを意味する。それでも、沈黙は共犯になり得るのだ。

沈黙によってFGMが伝統的な文化として扱われ続けると、それが人権侵害であるという認識が薄れてしまう。

FGMの被害者や活動家の中には、沈黙を拒否し、社会の規範に挑戦し、開かれた対話を促し、この慣習を根絶しようとする人々がいる。

彼らの戦略の一つは、FGM撲滅運動と普遍的教育の推進を結びつけることだ。また、テクノロジーを活用し、FGMに関するストーリーを伝え、文化の美しさとFGMの残酷さの両面を浮き彫りにすることも重要だ。こうした取り組みは、長年続いてきたFGMを終わらせるために不可欠である。

しかし、対話だけでは不十分だ。FGMをなくすためには、法律や政策の改革が必要である。

一部の進展は見られている。先日開催されたアフリカ連合(AU)首脳会議では、女性や少女に対する暴力を終わらせるためのAU条約が採択された。この条約は、FGMを含むあらゆる暴力を防止・根絶するための包括的で法的拘束力のある枠組みを提案している。

この条約は、暴力の根本原因の解決、法的・制度的なメカニズムの強化、人権とジェンダー平等の促進を求めている。また、シエラレオネが2015年に批准したマプト議定書の理念も継承している。

マプト議定書は、アフリカにおける女性の権利に関する包括的な法制度であり、有害な慣習の廃止、女性の生殖の権利、尊厳、安全などを保障するものでである。しかし、シエラレオネでは依然としてFGMを禁止する国内法が制定されていない。

現在、FGMを禁止する機会が訪れている。それが児童権利改正法案(Child Rights Amendment Bill)だ。この法案は、2007年に制定された児童権利法の改正を目指しており、未成年者に対するFGMを明確に禁止する条項が含まれている。

データによると、FGMを受ける少女の71%が15歳未満だ。この法案が成立すれば、少女たちの権利が法的に保護され、加害者が処罰されることになる。それによって、FGMの抑止力が強まり、子どもへの人権侵害を大幅に減少させることができる。

FGMを終わらせることは可能だ。しかし、それには多角的な戦略と強い意志が必要である。最も重要なのは、沈黙せず、FGMを正当化する有害な社会規範や物語に挑戦することだ。

さらに、市民は進歩的な法律を求め、それを完全に実施させるよう政府に働きかける必要がある。これが実現しない限り、シエラレオネの多くの女性や少女たちは、引き続き防ぐことができる健康被害や人生への深刻な影響に苦しみ続けることになるだろう。(原文へ

カアタ・ミナは、アフリカのフェミニスト活動家であり、2024年インパクト・ウエスト・アフリカ・フェロー。フェミニスト教育と地域主導の取り組みを通じてジェンダー平等の実現を目指している。彼女は政策提言、プログラム設計・管理、フェミニスト教育、イベント運営の経験を持ち、権力構造に挑戦するキャンペーンや社会正義・ジェンダー平等の推進に取り組んでいる。また、学術分野でも活動し、シエラレオネ大学(フーラ・ベイ・カレッジ)の**ジェンダー研究・ドキュメンテーション研究所(INGRADOC)**で講師を務めている。

核軍縮の現状維持は許されない、人類は大きなリスクにさらされている

【ウィーンINPS Japan=オーロラ・ワイス】

核兵器は、ウラジーミル・プーチンがそれを脅迫の手段として利用し始める以前から、またイスラエルの将軍がガザのパレスチナ人を壊滅させるために使用する可能性を示唆する以前から、さらにはイランがウラン濃縮を進め、それが米国の制裁を招き、そのイスラム国家をさらに孤立させることになる以前から、世界的な脅威であった。

核兵器によるあらゆる脅しは、極めて深刻に受け止めなければならないだけでなく、完全に容認できない無責任な行為である。

その壊滅的な人道的影響と甚大なリスクを考えれば、私たちは核兵器に関するパラダイム・シフトを必要としている。核兵器や核抑止力が安全保障を保証するものではないことは明らかである。

核の脅威はここ数十年で最も高まっている。欧州は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、かつてないほど核の危険にさらされてきた。近年、ロシアからの核の脅しに恐怖を抱くだけでなく、ウクライナのザポリージャ原子力発電所が損傷することによる核災害の可能性にも不安を感じてきた。

2022年には、ロシア軍が欧州最大の原発であるザポリージャ原発の管理棟や主変圧器に火を放ち、消防士の立ち入りを禁止した。この危機的状況の後、幸いにも国際原子力機関(IAEA)の専門家による監視のもとに置かれているが、ロシアとウクライナは互いにその原発へのテロ攻撃を計画していると非難し合った。この状況に警鐘を鳴らし、「核戦争防止のための物理学者(IPPNW)」は、原発に対する軍事攻撃の禁止を求めた。戦時下で適切な災害対応を行うことは不可能であることを、私たちは認識しなければならない。

核兵器が使用される場合、それが意図的な使用、エスカレーション、あるいは人的・技術的ミスによる誤作動であれ、その結果は壊滅的なものとなることは明白だ。それは、単に即時の破壊や無実の人々の命が失われることにとどまらない。経済への影響や、パニックによる大量の難民発生など、長期的な影響も考慮しなければならない。限定的な核戦争であっても、地球規模の食糧供給が崩壊し、大規模な「核の冬」を引き起こす可能性がある。その結果は想像を絶するものであり、唯一の解決策は予防である。しかし、予防が成功するためには、核兵器の全面禁止が不可欠である。

新たな技術、例えば人工知能やサイバー攻撃の脆弱性も、核のリスクを増大させている。だからこそ、150を超える非核保有国は、核リスクの削減を求めている。その「ゴールド・スタンダード」は、核保有国が核兵器を完全に禁止することである。しかし、核兵器を保有する9か国(アメリカ、ロシア、フランス、中国、イギリス、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮)は、それを全く望んでいない。それどころか、彼らは大量破壊兵器の改良と核兵器の増強を進めている。現在、世界の核兵器の総数はおよそ13,000発と推定されている。

この現実を変えなければならない。核軍縮の現状維持はもはや許されず、人類全体が取り返しのつかないリスクにさらされている。

私はウィーンでイラン核合意(JCPOA)に関する交渉を取材してきた。その中で注目したのは、米国の代表団はイラン代表団とは直接交渉せず、他の関係国が仲介する関節交渉を行った点である。日をまたぐ交渉の終盤になると、ロシアの代表が中国とイランを代表して向かいのホテルへ行き、そこに待機していた米国の代表団と制裁解除について交渉したのだった。

この合意の支持者たちは、JCPOAがイランの核兵器計画の再開を防ぐことに寄与し、それによってイランとイスラエルやサウジアラビアといった地域のライバル国との対立の可能性を低減させると主張している。しかし、2023年初頭に国連の査察官が、イランが兵器級に近いウランを濃縮している痕跡を確認し、国際社会に衝撃を与えた。イランが正式に核兵器保有国となれば、安全保障上の理由からサウジアラビアやイスラエルも核開発を進めることになり、中東における核戦争の可能性を高めることになるだろう。

そのリスクにもかかわらず、核保有国はますます核兵器を強化し、核を持たない国々も厳しい制裁の下で開発を進めている。そして、核兵器を持たない国々は、核保有国の軍縮を求めている。では、核を保有しない北大西洋条約機構(NATO)加盟国はどのような立場をとっているのだろうか?

NATO加盟国の中で、近い将来に核兵器禁止条約(TPNW)に署名する国が現れる可能性は低い。NATOはこれまで、TPNWは核不拡散条約(NPT)と両立しない」という理由で、この条約に関する会合への建設的な関与を拒んできた。しかし、これは事実ではない。

NATOは依然として核兵器を安全保障の要と見なしている。しかし、軍縮の専門家たちは、「人為的なミス(意図的か非意図的かを問わず)、技術的なエラー、サイバー攻撃などによって、いつか必ず何かが起こる」と警告している。核兵器を保有し、貯蔵すること自体が、あまりにも大きな安全保障上のリスクなのだ。

2025年1月20日に米国大統領に再就任したドナルド・トランプは、既にいくつかの過激な行動に出ている。国際人道支援団体への援助を打ち切っただけでなく、グリーンランドやカナダを米国に併合しようとするという衝撃的な野望まで抱いている。国際社会は、トランプの野心がどこまで広がるのか、そして彼がそれを実現するためにどのような手段を用いるのか、極めて危機感を持って見守っている。このような世界的に不安定な時代において、ほんのわずかな誤った判断が核戦争につながる可能性がある。

米国の歴史を振り返れば、核兵器の使用をためらわない姿勢がうかがえる。映画「オッペンハイマー」を観た人なら、核爆弾の開発者がホワイトハウスを訪れた際、ハリー・トルーマン大統領が「自分こそが原爆を投下した大統領として歴史に名を刻む」と誇らしげに語るシーンを思い出すだろう。トルーマンは、その結果がどうであれ、歴史に名を残すことを誇りにしていた。

UN
Credt: UN

しかし、核兵器の使用を命じた米国大統領はトルーマンだけではない。それ以降も、多くの大統領が核の使用を検討していた。

ダニエル・エルズバーグの著書『終末兵器』を参考にすれば、米国の核戦略が70年にわたってどのように維持されてきたかがわかる。エルズバーグはかつて大統領顧問を務め、ベトナム戦争時の「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露した伝説的な内部告発者である。彼が明かしたところによると、1960年代、酔った状態のリチャード・ニクソン大統領は北朝鮮への核攻撃を命じたことがあった。米国の偵察機が撃墜されたことに激怒したニクソンは、軍司令官に電話をかけ、戦術核攻撃の標的を指定した。だが、当時の国家安全保障担当補佐官であるヘンリー・キッシンジャーが軍と交渉し、ニクソンが酔いから覚めるまで待つように説得したという。

その後のニクソンは、ソ連に向けて核爆弾を搭載した爆撃機を飛ばし、「自分は本当に第三次世界大戦を始めるかもしれない狂人だ」という噂を流すことで、敵国を威嚇しようとしたとされる。

現在の米国の政策では、大統領が核攻撃を命じることにほぼ制限がない。軍は戦争法に違反すると判断した命令を拒否することができるが、一般的な理解として、大統領はいつでも、どんな理由でも核兵器を発射できる権限を持っている。

この現状を変えるためには、「先制不使用(NFU)」政策の採用が急務である。この政策は、米国が核兵器を「先に使わない」と明確に定めるものであり、同時に議会の戦争宣言権限を再確認するものでもある。米国の憲法には「大統領が単独で戦争を始めることはできない」と明記されている。それにもかかわらず、大統領が単独で核戦争を始めることができる現状は、矛盾していると言わざるを得ない。したがって、NFU政策の導入は不可欠であり、核戦争の危険を未然に防ぐための最も基本的な一歩である。(原文へ

INPS Japan

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核兵器は、減るどころか増加し続けている

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「危険な核のレトリックと脅威」が飛び交う中、地政学的緊張が劇的に高まっている現状は、各国が法的拘束力のある核兵器禁止条約(TPNW)を支持する行動をとるべきだという強い警鐘である―国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、3月3日にこう訴えた。

国際の平和と安全の維持を主要な使命とする国連は、長年にわたり核兵器のない世界を目指す国際的な取り組みを主導してきた。しかし、反核条約が増えているにもかかわらず、その進展は比較的遅い。唯一の慰めは、80年以上にわたり核攻撃や核戦争が発生していないことだ。

A visitor watches a video of a nuclear bomb test while touring the Atom pavilion, a permanent exhibition centre designed to demonstrate Russia’s main past and modern achievements of the nuclear power industry, at the All-Russia Exhibition Centre in Moscow on 6 December 2023. (Photo by Natalia Kolesnikova. Photo: AFP/NTB

それにもかかわらず、ノルウェー人民援助(NPA)が米国科学者連盟(FAS)と協力して発表した「核兵器禁止監視報告書(Ban Monitor)」によると、使用可能な核兵器の数は2024年初めの9,585発から25年初めには9,604発へと増加した。この数は、1945年に広島を壊滅させ、14万人を殺害した原爆の約14万6,500発分に相当するとされる。

さらに、これらの核兵器の40%は、潜水艦や地上配備ミサイル、爆撃機基地に配備されており、即時使用が可能な状態にある。現在、核兵器を保有する9か国は、米国、ロシア、フランス、中国、英国、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮である。

FAS

核兵器禁止監視報告書によれば、2017年に国連が核兵器禁止条約(TPNW)を採択して以降、老朽化した核弾頭の廃棄によって核弾頭の総数は徐々に減少してきたが、実際に使用可能な核兵器の数は2017年の9,272発から着実に増加しているという。

「この増加傾向は、各国が核戦力の近代化や拡張を進める限り続くと予想される。軍備管理と軍縮努力における画期的な進展がない限り、核兵器の削減は難しい。」と、報告書の主要執筆者の一人であり、FASの核情報プロジェクトのディレクターであるハンス・M・クリステンセン氏は警告する。

Jonathan Granoff, President, Global Security Institute
Jonathan Granoff, President, Global Security Institute

グローバル・セキュリティ・インスティテュートのジョナサン・グラノフ会長はIPSの取材に対して、「核兵器を持つ9か国が、核抑止戦略を維持しながら核兵器の能力を拡張することは、重大な矛盾を孕んでいる。」と指摘する。

「核兵器が精度と破壊力を増すほど、安全性は低下する。一部では破壊力を抑えた新型核兵器が開発されているが、それはむしろ使用の可能性を高め、核使用の禁忌を破ることにつながるかもしれない。これは、我々が生き延びられないほどの危険な道だ」と警鐘を鳴らした。

グラノフ氏は、核兵器の存在を正当化する論理を疑問視し、次のように問いかける。 「仮に9か国が『天然痘やペストのような生物兵器を使うのは許されないが、9か国だけは国際安全保障のために使用や使用の脅しが許される』と主張したら、それは理にかなうのだろうか? 現状の核抑止戦略は、それと同じではないか?」

3月5日の「軍縮と不拡散の認識のための国際デー」に際し、グテーレス事務総長は、「人類の未来を守るためには、武力や軍拡ではなく、対話・軍縮・国際協力といった平和を実現するための仕組みにこそ力を注ぐべきだ。」と強調した。しかし、世界の緊張は高まり、核の脅威は増し、抑止力となる仕組みが崩れつつあると警告した。

また、各国指導者に対し、核の拡散を防ぎ、核実験を防ぎ、核兵器の使用を防ぐためのシステムと手段を強化し、軍縮義務を果たすよう呼びかけた。さらに、最近採択された「未来のための協定(Pact for the Future)」の軍縮関連の取り組みを推進するよう求めた。

国際NGOであり、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメンバーであるノルウェー人民援助は、ウクライナ、北東アジア、中東をめぐる核保有国間の地政学的緊張の高まりを背景に、核兵器の使用リスクが冷戦時代と同等かそれ以上に高まっていると警告している。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

核兵器禁止監視報告書は、TPNWに違反する形で、ロシアと北朝鮮が昨年、核兵器の使用を示唆する発言を行ったと指摘する。北朝鮮は韓国に対し明確に核の使用を脅し、ロシアはウクライナに対し暗に核使用の可能性を示唆した。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のM.V.ラマナ教授は、核兵器の増加は、戦争リスクの高まりと核兵器保有国による近代化の動きと関連していると指摘する。

米国とロシアは、ほぼすべての核兵器運搬システムを更新中であり、米国の核戦力近代化計画の総費用は1兆ドルを超えると見積もられている。また、中国は小規模ながら急速に核戦力を増強している。

さらに、AI(人工知能)やサイバー戦争の発展が核戦争リスクを増大させる要因となっており、軍備競争の加速が大惨事を引き起こす危険性を指摘した。

Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN
Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN

ICANのメリッサ・パーク事務局長は、この報告書の発表を歓迎し、「問題の本質は、使用可能な核兵器が増えていることだが、解決策もある。それは、TPNWへの国際的支持の拡大だ」と強調した。

「TPNWは、核兵器を明確に禁止し、公正かつ検証可能な軍縮への道を示す唯一の条約である。核保有国とその支持国は、もはや反対をやめ、国際社会の多数派に加わるべき時だ。」と訴えた。

また、報告書は、欧州諸国がNPTの義務を持ちながらも核軍縮を妨げる主要な要因となっていると指摘し、EUに対し、TPNWへの姿勢を再考し、政策転換を模索するよう求めている。(原文へ

INPS Japan/INPS UN BUREAU

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日本生まれのネパール人の子どもたち、アイデンティティに揺れる

日本で働くネパール人両親の子どもたちがネパールに戻り、現地の生活や学校に適応する過程で様々な困難に直面している。

【カトマンズNepali Times=ピンキ・スリス・ラナ】

アヤン・ダッラコティさんは日本で生まれ育ち、日本語を話し、自身を「日本人」だと感じていた。しかし、成長するにつれて自分が実際にはネパール人であることに気づいた。アヤンが8歳のとき、母親のプラティバは弟のアバンと共に彼をネパールに連れて帰った。父親のアンジャイは「ネパール人になる」ために子どもたちを帰国させることを決めたのだった。

アヤンはある程度ネパール語とネパールの環境に馴染みがあったが、カトマンズの教育システムや生活は全くの異世界だった。「同じく日本から帰国したクラスメートがいるときは少し楽だったようですが、ネパール人の友達を作るのは簡単ではありませんでした。」と母親のプラティバは振り返る。

日本で増加するネパール人移民

現在、日本はダッラコティ家のようなネパール人家族にとって主要な移住先となっている。公式統計によると、日本には18万人のネパール人が在住しており、昨年だけで3万5千人が新たに日本へ渡航した。これは前年より30%の増加である。

日本大使館のデータによれば、昨年の渡航者の内訳は、2万3,124人が学生ビザ、8,566人が就労ビザ、7,849人が家族ビザだった。初期のネパール移民の多くは「技能労働者」として料理人を主としていたが、現在の移民の大多数は学生ビザで渡り、パートタイムで働いている。

ネパール人の家族は日本では一緒に暮らすことができるため、ネパール語や文化、英語を教えるネパール人学校が日本の大都市に設立されている。しかし、都市部から離れた場所に住む家庭の子どもたちは日本の学校に通うしか選択肢がない。

日本とネパールの間でアイデンティティに揺れる子どもたち

All photos: GOPEN RAI

アンジャイ・ダッラコティさんは学生ビザで日本に渡り、その後就労ビザを取得した。妻のプラティバは数年後に家族ビザで日本に加わり、アヤンとアバンが日本で生まれた。しかし、12年後、プラティバは2人の息子を連れてネパールに帰国した。

ネパール人家庭では、子どもたちが「二つの世界の狭間」で適応に苦労する例が増えている。子どもたちはまず日本に行くこと、そしてネパールに戻り学校生活に再適応することの二重の課題に直面する。

東京の上智大学の田中雅子教授によれば、日本には約2万人のネパール人未成年者がいる。田中教授は日本のネパール人移民に密接に関わっており、多くの母親が子どもたちが故郷のアイデンティティや文化を失うことを懸念してネパールに戻ることを選んでいると語った。また、子どもたちが十分な英語教育を受けていないことを心配する親も多く、これが将来の競争力の低下につながると考えている。

学業と文化への再適応の困難

All photos: GOPEN RAI

ネパールに戻った子どもたちは、現地の教育システムに適応するために学年を繰り返す必要があることが多い。例えば、シビカ・スベディくんは日本で1年生を終えた後、ネパールで再び1年生を始め、現在は9年生。母親のニトゥ・ビスタ・スベディさんは、「ネパールのカリキュラムの基礎を強化するためには必要なことだった。」と語った。

さらに、言語の問題や異なる教育システムへの適応により、心理的な負担も大きい。心理学者スリジャナ・アディカリ氏は、「安定した環境で成長することが子どもの健全な発達には不可欠だ。」と述べ、環境の不安定さが分離不安や人間関係の構築に苦労をもたらす可能性を指摘した。

日本でのネパール教育の現状

All photos: GOPEN RAI

現在、日本にはネパールの教育カリキュラムを採用する学校が増えており、その中でも東京のエベレスト国際学校は、ネパール教育省から認可を受け、ネパールのSEE(中等教育試験)を実施できる唯一の学校である。しかし、これらの学校は私立の国際学校であり、日本政府からの補助金や特典がないため、経済的な負担が大きいのが現状である。

田中教授は、日本の他の認可国際学校のように、これらのネパールカリキュラム学校も日本政府とネパール政府の両方から認可を受けるべきだと提案している。それにより、子どもたちの将来の選択肢が広がり、教育の質も向上することが期待される。

日本とネパールの狭間でアイデンティティに揺れるネパール移民の子どもたちにとって、両国の連携した支援が求められている。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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「レバノンで私が経験したことを誰も知りません。この苦しみは、私だけのものです。」

【カトマンズNepali Times=サジタ・ラマ】

レバノンからネパールへ帰国して3年が経ちました。12年間働き続けた家族から一切の給与を受け取ることができなかった私が、生きて帰れるとは思っていませんでした。

私は何も持たずに帰国しました。母が支えてくれなければ、どうなっていたか分かりません。帰国後しばらくは何もできずにいましたが、ようやく気持ちを奮い立たせ、美容の技術を学びました。しかし、海外での経験がトラウマとなっていたのか、人付き合いを避け、クラスでもあまり話しませんでした。

私の苦しみは、私だけのもの。レバノンでの経験を誰にも話すことはありませんでした。

訓練センターでは仕事の紹介も受けました。フェイシャルやヘアストレートなどを数か月試しましたが、使用する薬剤で胸が痛み、続けることはできませんでした。

そんな中、私は料理をすることが心の癒しになると気づきました。現在は家庭の朝食と夕食を作る仕事をしており、ときどきホームパーティーのケータリングも請け負います。

私はひとりで40~50人分の食事を作ることができます。仕事のほとんどは口コミや紹介によるものですが、多くの人が私の料理を気に入ってくれています。それが何より嬉しいです。特にタカリ料理が得意で、YouTubeでレシピを学びながら日々腕を磨いています。レバノンの家族のために料理していた経験も役立っています。ただ、あちらの食事は油が少なく味も淡白でしたが。

Sajita Lama ponders her future in the tin hut where she cooks for a living.
Sajita Lama ponders her future in the tin hut where she cooks for a living.

音楽を聴きながら楽しく料理をしようと努めていますが、それでも時折フラッシュバックが起こり、あの12年間を思い出してしまいます。なぜ彼らは私に一銭も支払わずに済んだのか。あの過酷な労働は、すべて無駄だったのか。

ネパールでは時間給や日給で支払いを受けることができますし、チップをもらえることもあります。決して多くはありませんが、それでも「支払われる」ということが、レバノンとは大きく異なります。

海外から戻ってきた人たちは貯金を持ち帰り、それを元手に投資をしています。でも、私は何も持ち帰れませんでした。命からがら帰国しただけです。それでも、前を向こうと努力しています。仕事を持ち、人との交流も増えてきました。

レバノンでの未払い賃金については、現在も法的手続きを進めています。支払いが行われるのがいつになるのか、あるいは本当に支払われるのかも分かりません。ただ、法的手続きには時間がかかると言われているので、気長に待つしかないと思っています。

帰国当初は、アラビア語とネパール語を混同してしまうことがよくありました。今ではアラビア語を忘れてしまいました。帰国時、私はわずか30キロしかなく、食事もほとんどとれませんでした。今は食欲も戻り、少しは食べられるようになりました。

今、私は再び海外で働くことを考えています。今度は美容師や料理人として、ドバイに行こうかと考えています。しかし、訴訟のためにネパールに残るべきかどうか迷っています。もしも裁判の手続きで呼び出されたら、その時すぐに戻れるのか——それが不安です。

もし未払い賃金をすべて受け取ることができたら、海外に行かずに小さな खाजा घर(軽食堂) を開きたいです。バス停の近くなど、人通りの多い場所に小さな店を構え、少しずつ大きくしていけたらと思っています。

今の仕事でなんとか生活はできています。でも、それ以上のことはできません。私はまだ若い。数年間だけでも海外で働き、その後ネパールで事業を立ち上げることは可能かもしれません。

ただ、一度ひどい経験をしているだけに、もう一度同じ目に遭うのではないかという恐怖もあります。でも、母は「前を向きなさい」と言ってくれます。「起こったことは忘れなさい。あなたにできないことなどない」と。

私の夢は、カトマンズに小さな家を持つことです。2階に住み、1階では助けを必要としている人たちを支援する施設を作りたい。貧しく、病気で、頼る人のいない人たちに食事を提供し、世話をするのです。

それが実現すれば、どんなに嬉しいことか。

でも、まずは自分の生活を安定させなくてはなりません。他人を助けるには、まず自分が助かることが必要なのです。


【ディアスポラ・ダイアリーズ第4回】

(ネパール・タイムズ第1104号、2022年3月25日~31日 掲載)

私は18歳のとき、レバノンへ行きました。12年間、家政婦として働きました。そのうち給与が支払われたのは、わずか1年9か月分だけでした。

The Nepali TImes.
The Nepali TImes.

私のケースは特異です。多くの人は雇用主に搾取されていることに早く気づきますが、私は長い間、それを理解していませんでした。私は雇用主の家族とうまくやっていましたし、彼らは「あなたの給料は銀行に貯めてある」と言ってくれました。それを信じない理由はありませんでした。彼らは「家族同然」だと思っていたのです。

しかし、それは私の勘違いでした。ただの労働力として利用されていただけだったのです。

2010年にネパールを出国するとき、義姉が5ルピー札をくれました。私は12年間、それを大切に持っていました。そして、帰国したときも、私の所持金はその5ルピー札だけでした。

今、その5ルピー札はラミネート加工してあります。私は決して忘れないでしょう。ネパールを出発するときに持っていたお金、それが私が帰国したときに持っていた唯一のお金だったのです。

(※本記事には、サジタ・ラマの帰国時の映像や、彼女のレバノン人雇用主へのインタビュー映像があります。一部視聴者にとっては衝撃的な内容を含む可能性があります。)

ディアスポラ・ダイアリーズは、ネパール・タイムズと Migration Lab の共同企画です。海外での生活、仕事、留学などの経験を共有する場を提供しています。(原文へ

INPS Japan

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国連は80年の歴史で最大の危機に直面しているのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国際連合(UN)は、設立から約80年の歴史の中で存続の危機に直面している。トランプ政権が、国連への資金提供を大幅に削減し、複数の国連機関からの脱退を脅す動きを強めているためだ。これらの機関は、主に人道支援活動を世界中で展開している。

Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe - Own work, CC BY-SA 4.0
Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe – Own work, CC BY-SA 4.0

さらに、テクノロジー業界の大富豪であり、事実上トランプ大統領の「首相」とも称されるイーロン・マスク氏は、米国が北大西洋条約機構(NATO)と国連から脱退するべきだと主張している。

マスク氏は、右派の政治評論家が「今こそ米国がNATOと国連を脱退する時だ」と投稿した内容に対し、「同意する」と応じた。マスク氏はトランプ政権において最も影響力のある助言者とされており、「政府効率化省(DOGE)」の長として米国の官僚機構に対して徹底的な締め付けを行っている。次のターゲットは国連になるのだろうか?

この国連への脅威は、共和党の議員らが「国連脱退法案」を提出したことでさらに強まっている。この法案は、国連が「アメリカ・ファースト」の政策と合致しないと主張するものである。

元国連事務次長であり、ユニセフ(UNICEF)の元副事務局長であるクル・チャンドラ・ガウタム氏は、国連に対するトランプ/マスク政権の「悪意に満ちた意図」を証明するものだと指摘している。

米国政府は現在、ポリオ、HIV/AIDS、マラリア、栄養改善プログラムなどの資金を停止しており、多くの国際NGO、国連機関、政府、民間請負業者が運営するプロジェクトが打撃を受けている。これらのプログラムは、米国務省によって「不可欠かつ救命的」と認定され、資金削減の例外措置を受けていたにもかかわらず、現在では「赤ちゃんを風呂の水ごと捨てる」ような状況となっている、とガウタム氏は嘆く。

これにより、何百万もの子どもや女性が病気や栄養失調に苦しみ、命を落とす危機にさらされている。トランプ/ルビオ政権の「合理的な保証」は幻想に過ぎず、国連の信頼性も損なわれていると警鐘を鳴らしている。

UN Secretary-General António Guterres addresses the preparatory ministerial meeting for the Summit of the Future. | Credit: UN Photo/Laura Jarriel.
UN Secretary-General António Guterres addresses the preparatory ministerial meeting for the Summit of the Future. | Credit: UN Photo/Laura Jarriel.
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、記者会見でこの危機に対する深い懸念を表明した。

「過去48時間の間に、国連機関や多くの人道支援・開発NGOから、米国の深刻な資金削減に関する情報が相次いで寄せられました。これらの削減は、広範囲にわたる重要なプログラムに影響を及ぼしています」と述べた。

この影響は、人道支援活動、戦争や自然災害からの復興支援、開発事業、テロ対策、違法薬物取引の防止など多岐にわたる。事務総長は、「その影響は、世界中の脆弱な人々にとって特に壊滅的なものになる」と警告している。

国際民主主義組織「Democracy Without Borders」のアンドレアス・ブメル事務局長は、共和党の一部から米国の国連脱退を求める声が出るのは新しいことではないと指摘する。

しかし、「トランプがこれを支持する可能性は低いものの、外交的圧力をかける手段として利用する可能性は否定できない」と述べる。彼はまた、「米国が国連を脱退することで得られる利益よりも失うものの方が大きいが、トランプの行動は必ずしも合理的ではなく、米国の利益に沿っているとも限らない」と指摘した。

現在、米国は国連の通常予算と平和維持活動予算の約22%(2024年の予算は35.9億ドル)を負担している。では、米国は一方的に拠出額を削減できるのか?
Ambassador Anwarul Chowdhury
Ambassador Anwarul Chowdhury

バングラデシュの元国連大使で、国連事務次長を務めたアンワルル・K・チョウドリー氏は、「いいえ、米国が一方的に削減することはできません」と明言する。

通常、拠出金の割合は国連加盟国が合意する「分担金委員会」で協議され、その後「第五委員会」で承認される。すべての加盟国の合意が必要であり、米国の拠出額を減らす場合は、他国の負担割合を増やさなければならない。

ただし、特定の国連機関から脱退すれば、その機関への拠出義務はなくなる。過去には、米国が支払いを遅らせる、または一部のみを支払うといった戦術を取ったことがある。

国連広報官のステファン・ドゥジャリック氏によると、米国の資金削減の影響は広範囲に及ぶ。
  • 国連薬物犯罪事務所(UNODC):50以上のプロジェクトが終了。メキシコ事務所(フェンタニルの流入対策を担当)は閉鎖の危機。
  • 国際移住機関(IOM):コンゴ民主共和国(DRC)のプログラムはほぼ完全に停止。ハイチの支援プログラムも危機的状況。
  • 国連食糧農業機関(FAO):27件の事業が打ち切り。

ドゥジャリック氏は「国連は、より効率的に、重複を排除しながら活動する方法を模索している」としながらも、「いかなる組織であれ、より良く、より迅速に働く方法を見直すことは必要だ」と述べた。

米国による国連資金削減の動きは、世界中の人道支援や開発事業に壊滅的な影響を与えつつある。米国の国連脱退が現実となるかは不透明だが、その可能性が外交カードとして使われることは十分考えられる。国連は今、80年の歴史の中で最大の試練に直面している。(原文へ

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ロバート・R.カウフマン】

ドナルド・トランプが2期目の大統領職に就任してから最初の30日間で、彼とその側近たちは、ある種の「政治クーデター」を緩慢に進行させていると評されている。新政権は、制度的な抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)や市民的・政治的権利に対する全面的な攻撃を開始し、公衆衛生、社会福祉、環境保護といった重要分野での政策を急速に転換させた。外交政策においても、ロシアや中国のような権威主義的なライバル国の侵略に備えて築かれてきた長年の政治的・軍事的同盟を覆している。世界の他の国々では、こうした動きが「競争的権威主義体制」と呼ばれる形態の政治体制を生み出してきた。これは、一見すると民主的な制度が存在しているように見えても、実際には権威主義的な支配が行われている体制を指す。(英語版

トランプの今回の攻撃がどのような結末を迎えるかはまだ分からないが、彼の1期目と現在の状況には重要な違いがあることを強調する必要がある。トランプ1.0は政治的言論や慣習の根幹を揺るがし、彼を勝利に導いた社会の分断をさらに激化させた。しかし、当時のアメリカの政治制度と憲法上の機関は大きく損なわれることなく存続していた。1期目の民主主義への脅威は、議会の反対、司法の判断、報道機関、市民社会によって抑えられていた。共和党内の反発もまた、トランプの権力乱用を制限する重要な要素となっていた。

しかし、現在のトランプ2.0がアメリカ民主主義に与える脅威ははるかに深刻である。それは、単なる政治的慣習の破壊ではなく、法制度や憲法機関そのものを標的にしているからだ。共和党が完全に支配する議会は、独立機関への攻撃、監察官の解任、大量解雇や予算凍結を通じた政府機関の弱体化を許容している。USAID(米国国際開発庁)の実質的な解体が、その象徴的な例だ。上院は、かつては主流から逸脱していると見なされていた人物の政治的高官への任命を容認し、イーロン・マスクによる官僚機構の「改革」に対しても沈黙を保っている。下級裁判所はいくつかの政策を阻止しようとしているが、保守派が多数を占める最高裁がそれを支持するか、あるいはトランプがその判決を無視する可能性も否定できない。さらに、報道機関や市民運動、そして大企業といった、1期目にはトランプの暴走を抑える役割を果たした勢力も、今回は混乱し、萎縮しているように見える。

トランプの圧倒的な行動のスピードと量によって、支持者も反対派も対応が追いつかず、混乱している。明らかに違法な政策もある一方で、法律のグレーゾーンを巧みに利用しており、それが反対勢力の結束を困難にしている。さらに、彼(およびマスク)がすでに行った行政機関の破壊は、回復不可能な影響を及ぼしている可能性がある。例えば、医療、環境、教育、国際援助などの分野では、専門知識の喪失、研究の中断、重要なサービスの停止、国家安全保障への脅威の増大といった形で、その損害はすでに顕在化し始めている。

アメリカが直面している脅威の大きさを理解するには、これを国際的な視点から分析することが有効である。政治学者のステファン・ハガードと筆者は、16か国の「民主主義の後退」の事例を分析し、権威主義的支配を確立した国(ハンガリー、トルコ、ベネズエラ)と、それを防いだ国(ブラジル、アメリカ1期目)に分類した。ブラジルのボルソナロ政権やトランプ1.0のアメリカでは、司法や議会、地方政府の抵抗によって権威主義的な動きが制御されていた。しかし、権威主義化した国では、支配政党が制度を掌握し、それを利用して反対派を無力化し、民主主義を形骸化させていた。

今回のトランプ2.0は、こうした権威主義的な国家のモデルにより近づいている。議会はトランプの権限拡大を容認し、最高裁の独立性には疑念が残り、反対派は分裂し、士気を失っている。

それでも、アメリカが完全に権威主義へ転落したわけではない。いくつかの要因が、トランプの権力掌握を阻んでいる。

第一に、弱体化したとはいえ、憲法上の制度はまだ機能している。下級裁判所は依然としてトランプの政策を遅らせる手段となっており、地方自治体は対抗の拠点となり得る。市民社会も、時間が経つにつれて再び声を上げる可能性がある。メディアも圧力を受けているが、それでもなお、他国の権威主義体制と比べれば強力な批判の場となっている。

第二に、トランプの支持基盤内にも亀裂がある。企業は減税や規制緩和を期待して政権に接近しているが、サプライチェーンの混乱、高関税、移民労働力の縮小、地政学的リスクの増大といった問題に直面するにつれ、反発が強まる可能性がある。特に自動車産業は、輸入制限や鉄鋼関税の影響を受け、共和党支持基盤の州でも経済的不満を引き起こすかもしれない。

第三に、トランプの政策は、彼の有権者にとっても打撃となる可能性がある。貿易政策や移民政策が物価の上昇や雇用不安を引き起こせば、支持の低下につながる。さらに、新たな公衆衛生危機への対応や、ウクライナや中東、アジアの紛争処理に失敗すれば、不満はさらに高まるだろう。

トランプの2期目の政権運営は非常に危険なものであり、すでに国家機能に回復困難な損害を与えている。しかし、彼の権威主義的な野望を阻止できる可能性はまだ残されている。仮にトランプの動きを封じ込められたとしても、アメリカの民主主義が今後長期的に健全な形で存続するためには、新しいアプローチが必要となる。それが成功するかどうかは不透明だが、少なくとも、権威主義への転落を防ぐことができれば、トランプ退場後に公正で強固な民主主義を再建する道は開かれるだろう。

ロバート・R・カウフマンは、ラトガース大学の政治学名誉教授である。彼は、『バックライディング:現代世界における民主主義の退行』(ケンブリッジ大学出版、2021年)の共著者である。

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人道支援団体、スーダンの避難民への支援に困難直面

【国連IPS=オリトロ・カリム】

2024年の最終四半期に入り、スーダン内戦が激化し、迅速支援部隊(RSF)とスーダン軍(SAF)による武力衝突が一層残忍なものとなっている。治安の悪化により、何百万人もの人々が避難を余儀なくされ、飢餓や貧困に苦しんでいる。さらに、戦闘の継続により、人道支援団体が支援を拡大することが難しくなっている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2月20日に報告書を発表し、2024年の第2四半期から第4四半期にかけての避難民の増加と暴力の傾向を分析した。特に第4四半期はスーダン国民にとって極めて混乱した時期であった。北ダルフール州のザムザム避難民キャンプでは、大規模な砲撃が発生し、避難民のさらなる移動が妨げられ、安全な避難先の確保が困難となった。

UNHCRは、スーダンを「世界最大の避難民危機」に分類し、2023年の内戦勃発以来、国内避難民は1,150万人以上に達したと報告している。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、スーダンの人口の約3分の2が人道支援に依存して生存しており、避難民は飢餓に直面し、隣国も国外避難民を受け入れる資源が不足している。

2024年6月から10月半ばにかけて、セナール州およびアルジャジーラ州での武装勢力同士の衝突により、国内避難が急増し、UNHCRは約40万人の新たな避難民に対する人道支援が必要になったと推定している。ダルフールおよびブルーナイル地域では、農業地域への攻撃が発生し、農作物の生産に甚大な被害が及んだほか、性的・ジェンダーに基づく暴力が急増した。

性的暴力が武器化

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、過去1年間で、性的暴力が戦争の手段として急増しており、120件の事例が記録され、203人以上が被害を受けたと報告されている。しかし、報復への恐れや社会的スティグマ、被害者支援の医療・司法サービスの欠如により、実際の被害者数ははるかに多いと推測される。

ジェノサイドの指摘と武器供給問題

1月、当時の米国務長官アントニー・ブリンケンは、RSFによる最近の国際人道法違反は「ジェノサイドに該当する」と発言した。また、アラブ首長国連邦(UAE)はRSFへの武器供給を行っていると非難されているが、UAE側はこれを否定している。国連は現在、ダルフールにおける武器禁輸措置の延長を決定していない。

RSFの攻撃と「並行政府」構想

2月18日、RSFはアル=カダリスおよびアル=クルワット地域で3日間にわたり攻撃を実施した。これらの地域にはほとんど軍事的プレゼンスがなく、スーダン外務省は433人以上の民間人が死亡したと推定している。また、RSFによる処刑、拉致、強制失踪、略奪の報告もある。

これらの攻撃と同時期に、RSFとその同盟勢力はケニアの首都ナイロビで、RSFが支配する地域での「並行政府」樹立に向けた憲章に署名した。これに対し、SAFはこの構想を拒否し、ハルツーム全域の奪還計画を表明した。

「民間人や民間施設への継続的かつ意図的な攻撃、即決処刑、性的暴力などの行為は、国際人道法および人権法の原則に対する重大な違反を示している。一部の行為は戦争犯罪に該当する可能性がある」と、国連人権高等弁務官フォルカー・トゥルク氏は述べた。

人道危機の深刻化

国連人道問題調整事務次長兼緊急援助調整官のトム・フレッチャー氏は、「スーダン内戦の影響は国境を超え、近隣諸国を不安定化させ、世代を超えてその影響が続く恐れがある」と警告する。

スーダンでは数百万人が食糧、清潔な水、避難所、医療へのアクセスを失っている。

「すでに極度の脆弱状態にあった人々が、食糧も水も手に入れられません。一部の地域では夜間の冷え込みが厳しいのに、避難民の家屋が焼き払われてしまったのです」と、「国境なき医師団(MSF)」のミシェル=オリビエ・ラシャリテ氏は報告している。RSFによる2月初旬のザムザム避難民キャンプへの攻撃後、多数の重傷者が発生したものの、MSFザムザム病院の手術設備が限られているため、適切な治療が受けられない状況だという。

MSFのデータによれば、スーダンの人口の約半数にあたる2,460万人が深刻な食糧不足に直面しており、そのうち8550万人は「緊急または飢饉に近い状況」にある。最新の統合食糧安全保障分類(IPC)報告では、ダルフール北部のザムザム、アブ・ショーク、アル・サラム避難民キャンプや、西ヌバ山地の2カ所で飢饉が発生していると警告している。

「ダルフール、コルドファン、ハルツームでは、飢餓による死亡が報告されています。ザムザムキャンプでは、食糧不足のため、人々は家畜の餌として使われるピーナッツの殻と油を混ぜて食べています」と、国連事務総長報道官のステファン・デュジャリック氏は述べた。

人道支援の停滞

支援の緊急性が増す一方で、スーダンでの人道支援活動はほとんど機能していない。MSFは、最も危機的な地域の治安悪化により支援物資の輸送が妨げられていることに加え、国連の「怠慢による無策」が栄養危機の悪化を招いていると批判している。

「スーダンの一部地域では支援活動が難しいですが、不可能ではありません。人道支援団体や国連が本来やるべき仕事です」と、南ダルフール州ニャラで活動するMSFのマルセラ・クレイ緊急コーディネーターは指摘する。「空路などの選択肢が未だ検討されていない地域もあります。行動しないことは選択であり、それが人々を死に追いやっています。」(原文へ)

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アフガン難民を含む多くの人々、USAIDの資金凍結の影響を受ける

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【ペシャワールIPS=アシュファク・ユシュフザイ】

「警備員からクリニックが閉鎖されたと聞かされたとき、私はショックを受けました。私は親族と一緒に、無料の健康診断を受けるために通っていたのに……」と語るのは、22歳のアフガニスタン人女性ジャミラ・ベグムさんだ。

Map of Pakistan/ Wikimwdia Commons.
Map of Pakistan/ Wikimwdia Commons.

このクリニックは、パキスタンの4つの州のひとつであるカイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワール郊外に、USAID(アメリカ国際開発庁)の資金援助を受けたNGOによって設立された。妊産婦の健康を守る目的で運営されていたが、現在は閉鎖されている。出産を控えているベグムさんは、私立病院の血液検査や超音波検査の高額な費用を支払えず、出産が無事にできるか不安を抱えている。

同じくアフガン難民のファリーダ・ビビさんも、クリニックの閉鎖に不安を募らせる。

「これまで、アメリカの資金で運営されていたクリニックで、産前・産後の診察を受けるアフガン人女性が毎月十数人はいました。しかし、突然クリニックが閉鎖されてしまい、多くの人が行き場を失いました」と、ペシャワール郊外の別のクリニックで働く女性医療スタッフのビビさんは語る。

資金凍結がもたらした医療危機

パキスタンには190万人のアフガン難民が暮らしており、その多くの女性が、アメリカの資金で運営されるNGOの医療施設に頼っている。

「アフガン人女性は、遠くの病院に行くことができません。しかし、私たちのクリニックは女性スタッフのみなので、安心して通うことができました。しかし突然、小規模なクリニックが一斉に閉鎖され、避難民の健康が危機にさらされています」とビビさんは続ける。

「昨年は700人の女性が無料で健康診断や薬を受けることができました。そのおかげで、妊娠・出産に関連する合併症を防ぐことができたのに……」

カイバル・パクトゥンクワ州の農村部で女性支援を行うNGOの代表、ジャミラ・カーンさんも、この資金凍結に強い懸念を示している。

「USAIDの資金の大半はNGOを通じて使われていました。しかし、資金供給が途絶えたことで、多くの団体が閉鎖を余儀なくされるか、新たな資金源を探さなければならなくなりました。現時点では、支援活動の継続が非常に困難になっています」と彼女は語る。

USAID資金凍結の波及効果

USAID
USAID

USAIDの元職員であるアクラム・シャー氏によると、USAIDの資金凍結はパキスタン全土のあらゆる分野に打撃を与えている。

「アメリカが資金提供していた39のプロジェクトは、エネルギー、経済発展、農業、民主主義、人権、ガバナンス、教育、医療、人道支援など多岐にわたります。資金凍結により、すべての分野で深刻な影響が出ています」とシャー氏は指摘する。

ドナルド・トランプ前大統領が就任後、世界規模でUSAIDの資金を停止するよう指示したことで、パキスタンでは8億4,500万米ドル規模のプロジェクトが中断された。

「突然の資金打ち切りは、小規模農家にも壊滅的な影響を与えます。USAIDの資金を頼りにしていた彼らは、今後の農業計画をどのように進めればよいのか、頭を抱えています」とシャー氏は続ける。

「私たちの農業は最も大きな打撃を受けています。USAIDの支援による資金や技術的な援助が、農作物の生産性向上に不可欠だったのです」と農民のムハンマド・シャー氏も嘆く。

「長年にわたり、USAIDの支援で高品質の種子、農具、肥料を手に入れ、生産量を増やして生計を立ててきました。しかし、これからはどうすればよいのでしょうか」

医療・教育・インフラへの影響

パキスタン国立保健サービス規制・調整省のラエース・アハメド医師によると、USAIDの資金がなくなることで、医療システム強化プログラムや統合医療サービス提供プログラムの運営が困難になるという。

「パキスタンの医療インフラを強化するために、USAIDは8,600万米ドルの資金を約束していました。しかし、このプロジェクトが中途半端な状態で終了することになります」

さらに、世界保健供給チェーンプログラムを通じて、必須医療品の供給を確保するために予定されていた5,200万米ドルの支援も打ち切られる見通しだ。

教育部門も打撃を受けている。教育官のアクバル・アリ氏は、低所得層の学生を支援する「メリット&ニーズベース奨学金プログラム」のために予定されていた3,070万米ドルの資金が消えたことを嘆く。

「このプログラムは、貧困層の子どもたちが教育を受け続けるための希望でした。しかし今では、それが夢となってしまいました」

民主的ガバナンス強化プロジェクトも停止されている。このプログラムには1,500万米ドルが割り当てられており、教師を含めた民主主義教育の推進が目的だった。さらに、アフガニスタン国境沿いの暴力に苦しむ部族地域の統治改善プロジェクト(4,070万米ドル)も中止された。

平和構築とインフラ整備も影響を受ける

社会活動家のムハンマド・ワキル氏は、アメリカの資金で運営されていた「パキスタン平和構築プログラム」が閉鎖されたことを嘆く。このプロジェクトは、宗教・民族・政治的調和を促進するために9百万米ドルの資金が充てられていた。

「私たちは職員に自宅待機を命じ、今年予定していた20のワークショップを中止しました」とワキル氏は語る。

彼は、「平和と宗教調和の推進を掲げてきたアメリカが、なぜ突然支援を停止したのか」と疑問を投げかけた。

さらに、パキスタンのエネルギー・水資源確保の要であるマンガラ・ダムの改修プロジェクト(1億5,000万米ドル)も影響を受けている。

「アメリカ・ファースト」の影響

これらの援助停止は、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策の一環として行われた。

1961年にジョン・F・ケネディ大統領によって設立されたUSAIDは、長年にわたり米国の外交政策の要となってきた。2023年度には437億9,000万米ドルの援助資金を世界130カ国以上に配分していた。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU

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【国連IPS=ジョイス・チンビ、ナウリーン・ホセイン】

国連の緊急・長期危機下の教育支援基金(Education Cannot Wait, ECW)は、タリバンによる女子の中等教育禁止令にもかかわらず、アフガニスタンの少女たちへの教育支援を続けている。アフガニスタンの女子ロボット工学チーム(Afghan Robotics Team)のように、ECWも「ルールを破り」、少女たちに学びの機会を提供し続けている。

ECWのエグゼクティブ・ディレクターであるヤスミン・シェリフさんは、国連の国際女性デーの記者会見で、タリバンの禁止令を象徴的に破るために紙を破り捨てた。彼女は、「この禁止令は国際法に違反しており、150万人もの少女たちが教育から締め出されている。」と強く非難した。

ECWは、最も支援が届かない地域で、国際パートナーと共に3,000万ドル(約45億円)を投資した地域密着型プログラムを実施しており、この中で教育を受けている生徒の65%が女子および10代の少女たちである。シェリフさんは、「禁止令を破り、ルールを破ることが必要だ」と語り、すでに10万人以上の子どもたちに教育を提供したと報告した。

彼女はまた、資金提供者に対し、この「ルール破り」に加わるよう呼びかけた。

「世界には、ルールを破ってでも助けたいと考えている人々がいる。この教育支援はまさにその一例です。どうかアフガニスタンの少女たちを支援してください。」

映画『ルール・ブレイカーズ(Rule Breakers)』は、科学技術の夢を追いかけるアフガニスタンの少女たちの実話をもとにした作品で、女性が教育を受けること自体が「反逆」とされる国で、伝統や固定観念を打ち破った少女たちの物語を描いている。

映画は、アフガニスタンの全女子ロボット工学チーム「アフガン・ドリーマーズ(Afghan Dreamers)」の実話を基にしており、彼女たちを支えた女性たちの姿をも浮き彫りにしている。

本作は国際女性デーに先立ち、米国、カナダ、南アフリカ、スリランカで公開され、世界中の人々にアフガニスタンの少女たちの現実を訴えている。

Yasmine Sherif, the Executive Director of Education Cannot Wait, addresses a press conference at the United Nations.

「映画を観れば、『お金がないからできない』『無理だ』という言い訳が通用しないことがわかります。『ルール・ブレイカーズ』を観て、新しい道を創り出してほしい。」
- ヤスミン・シェリフさん(ECWエグゼクティブ・ディレクター)

映画の共同プロデューサー兼脚本家のエラハ・マフブーブさんは、「アフガニスタンの女性は単なる犠牲者ではなく、勇敢に未来を切り開こうとしている。」と語った。

「これまでのメディアや映画では、アフガニスタンの女性は悲劇の象徴として描かれてきました。しかし、それだけが彼女たちの全てではありません。この映画では、社会の期待や制限の中でも決して諦めず、夢を追い続ける少女たちの姿を描いています。」- エラハ・マフブーブさん(『ルール・ブレイカーズ』脚本・製作総指揮)

「アフガン・ドリーマーズ」は、2017年にヘラート出身の女性ロヤ・マフブーブによって結成された。科学技術分野に女性は不要だと言われ続けた彼女たちは、数々の障害を乗り越え、エンジニアリングとロボット工学を学び、国際大会で活躍した。

また、2021年のタリバン政権復活後、19歳だった元キャプテンのソマヤ・ファルーキは、現在米国の大学でエンジニアリングを学びながら、ECWのグローバル・チャンピオンとして教育支援活動を続けている。

「『ルール・ブレイカーズ』は、今もタリバン政権下で教育を奪われている何百万もの少女たちの現実を世界に伝えます。私たちの声を、沈黙させることはできません。」
- ソマヤ・ファルーキさん(元アフガン・ドリーマーズキャプテン、ECWグローバル・チャンピオン)

彼女の活動の一環として、ECWは「#AfghanGirlsVoices」キャンペーンを展開。これは、アフガニスタンの少女たちの切実な声を、イラストや証言を通じて国際社会に発信する取り組みである。

世界の教育危機と「ルール・ブレイカーズ」のメッセージ

現在、世界で約2億3,400万人の子どもたちが紛争や気候変動による災害、強制移住により教育を受けられない状況にある。

特に、障がい児、女子、難民の子どもたちは最も影響を受けやすい層である。

アフガニスタンは、世界で唯一、女子が6年生以上の教育を正式に禁止されている国であり、約140万人の女子が意図的に教育から排除されています。

『ルール・ブレイカーズ』は、そんな危機の中にいる子どもたちを世界が見捨ててはならないという強いメッセージを発信している。

「この映画は、教育の力、科学技術の可能性、そして女性のレジリエンスを証明するものです。アフガニスタンの少女たちは、自分たちの未来を切り開く力を持っています。」- エラハ・マフブーブさん(脚本・製作総指揮)

Education Cannot Wait’s #AfghanGirlsVoices campaign has reached 184 million online individuals, 4.1 billion potential audience members, and 4,100 mentions to date. Credit: ECW

ECWは、世界中の子どもたちが安全で質の高い教育を受けられるよう、今後も活動を続けていく。

「資金提供者、政府、民間企業の皆さん、どうか考え方の枠を超えてください。『お金がない』のではなく、『できる』のです。ECWとそのパートナーが、今この瞬間も教育を提供しています。」- ヤスミン・シェリフさん(ECWエグゼクティブ・ディレクター)

『ルール・ブレイカーズ』は、すべての子どもたちに学びの機会を提供し、「闇の中から、希望と可能性の光を灯す物語」として、世界中の人々の心に響くでしょう。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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