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原爆を作った男が原爆を落とした男に出会ったとき

【国連IPS=タリフ・ディーン

本年のアカデミー賞7部門で受賞した映画「オッペンハイマー」は、1945年8月に14万人~22万6000人の命を奪い広島と長崎の2つの日本の都市に壊滅的な打撃を与えた原子爆弾の開発に貢献したJ・ロバート・オッペンハイマー博士の人生を描いている。

原爆投下という悲劇は、聖書的規模の人道的大惨事と呼ぶにふさわしいものだが、この映画は核兵器の使用が引き起こした惨事ではなくその製造に焦点を当てたものだった。

2月の『タイム』誌でジェフリー・クルーガー氏は、ホワイトハウスでのハリー・S・トルーマン大統領とオッペンハイマー博士の面会について振り返り、「原爆を作った男と原爆を落とした男」と的確に表現している。

Portrait of President Harry S. Truman Creidt:Public Domain
Portrait of President Harry S. Truman Creidt:Public Domain

許されざる罪悪感に苛まれていたオッペンハイマー博士は、「大統領、自分の手は血で汚れているように感じる。」と、トルーマン大統領に言ったと伝えられている。

しかし、歴史の次の展開は異なったものだったと『タイム』誌のこの記事は伝えている。

トルーマン大統領は恬として、「気にしなくていい。すべて洗い流される。」と言ったとされる。また別の説では、トルーマン大統領は悪びれもしない調子でハンカチを振りながら「ここで手でも洗うかね?」と言ったとされる。

映画では、トルーマン大統領は単にハンカチを振っただけだった。

試写会で映画を観た平岡敬・元広島市長は、映画が描かなかった(=広島・長崎への原爆投下や、被爆地で何が起きたかを直接描写しなかった)ことに対してより批判的な目を向けている。

平岡氏は、「広島の立場からすれば、核兵器の恐怖が十分に描かれていません。映画は米国人の命を救うために(原爆が)使われた、という結論に持っていきかねない筋立てになっています。」と語ったという。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、映画「オッペンハイマー」の公開とそれを取り巻くメディアの注目は、核兵器のリスクについて一般の人々の関心を喚起し、核兵器廃絶運動への参加を新たな聴衆に呼びかける機会を生み出すことになったと述べた。

「核のリスクについて人々を啓発し、必要とされている希望と抵抗のメッセージを共有することができる。この映画は核兵器がいかにして始まったのかについてのものであり、核兵器禁止条約はそれをいかにして終わらせるのかについてのものだ。」とICANは指摘した。

ニューヨーク大学グローバル問題センターのアロン・ベン=メア元教授(国際関係学)は、「歴史的な観点から言えば、オッペンハイマー博士が核兵器開発の陣頭指揮を執った『マンハッタン計画』は、第二次世界大戦が勃発し、ナチスドイツが欧州の周辺諸国を次々と征服しながら進軍している中で始まった。」とIPSの取材に対して語った。

しかし、核兵器の開発が完了するころまでにはドイツはすでに降伏しており、日本だけが戦い続けていた。史料によれば、日本軍は、あらゆる前線で最後の一兵まで戦う覚悟であり、彼らの辞書に「降伏」という文字はなかったとベン=メア元教授は語った。

ジョージ・マーシャル米陸軍参謀総長は、もし戦争がさらにあと1、2年続くようなことがあれば、数十万人の米国人兵士とおそらく100万人以上の日本人が犠牲になるだろうとトルーマン大統領に助言した。

トルーマン大統領が「それでは何を提案するか」と問うたところ、マーシャル参謀総長らは、日本の1カ所か2カ所に核爆弾を投下すれば、戦争を速やかに終結させ、米日双方で数百万人の命が救われると示唆したという。

20年にわたって国際交渉と中東問題について講義してきたベン=メア元教授は、「トルーマン大統領は、日本が徹底抗戦の決意を固めていたことを考えれば、これが唯一の解決策かもしれないと最終的に説得された。」と語った。

しかしオッペンハイマー博士は、ひとたび原爆が投下されると、広島・長崎で起こった損害と死の状況を認識し、原爆の壊滅的な影響に個人的に責任があると感じるようになり、トルーマン大統領に面会した際に『自分の手は血で汚れているように感じる。』という発言につながったのだった。

J. Robert Oppenheimer/ public Domain.
J. Robert Oppenheimer/ public Domain

「トルーマン大統領はオッペンハイマー博士に対して、『君は核兵器開発を担ったかもしれないが、使用の決断を下したのはこの私だ、君にはその責任はない。』と述べ、自分のハンカチを取り出し、『これで手を拭きたまえ。』と言ったという。オッペンハイマー博士はすっかり意気消沈してトルーマン大統領の執務室を後にした。」とベン=メア博士は語った。

「仮に戦争が続いていたとして、トルーマン大統領が日本人の損害について懸念したとは日本人は信じないだろう。大統領が気にしていたのは米国人の被害の方だ。残念ながらこれは依然として論争の種になっているのだが、その後米日間で結ばれることになる強固な同盟関係のために、こうした問題は大部分乗り越えられることになった。」

「もちろん、起こったことに対するオッペンハイマー博士の深い悔悟をより複雑にしたのは、彼がその後共産党の党員だと疑われて、機密保持情報アクセス権は取り消されことにある。これによって彼は米国政府の仕事はできなくなった(死後に彼の名誉回復が図られた)」とベン=メア博士は語った。

しかし、全米公共ラジオ(NPR)の放送によると、日本の視聴者の多くは、映画「オッペンハイマー」のストーリー展開に不快感を示し、事態を不完全にしか描けていないと感じているという。

「映画は原爆を投下した側の視点からのものに過ぎません。落とされた側の視点があればよかったのにと思います。」と長崎の市民、ツヨコ・イワナイさんはNPRに語った。

「核兵器なき世界」の達成に向けて国連を中心に活動している「UNFOLD ZERO」によれば、オッペンハイマー博士は、初の核実験成功を自らの目で確かめた後、ヒンズー教の聖典バガヴァッド・ギーターから「我は死なり 世界の破壊者なり」という一節を口にしたとされる。

Photo: Atomic Bombing in Nagasaki and the Urakami Cathedral. Credit: Google Arts&Culture
Photo: Atomic Bombing in Nagasaki and the Urakami Cathedral. Credit: Google Arts&Culture

「実際、オッペンハイマー博士は世界を破壊する核爆弾の可能性に衝撃を受け、第二次世界大戦終結後は、国際的な核兵器管理や、平和、世界統治の促進に深く関与することになる。」

戦争が激化し、核保有国間の緊張が高まり、核戦争の脅威がかつてないほど高まっている今日、この映画は、こうした考え方がいかに重要で適切なものであるかを思い起こさせてくれるはずだ。」と「UNFOLD ZERO」は語った。

「これらに問題に関わるオッペンハイマー博士の思想や情熱、関与は映画ではほとんど描かれていない。しかし、核抑止の本質やナショナリズムの危険性、法の支配を強化することの重要性、核戦争の防止、グローバル・ガバナンスを通じた平和の実現といったことへの理解をあらためて深めるには、今日でもオッペンハイマー博士のこうした考え方は重要だ。」

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月18日、国連安全保障理事会で演説し、3月10日に開催されたアカデミー賞授賞式で作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞など7部門で受賞したこの映画について言及した。

Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists
Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists

人類が自滅にどれほど近づいているかを象徴する「世界終末時計」が「あらゆる人々に聞こえるほど大きな音を立てて進んでいる。一方で、学界から市民社会に至るまで核の狂気を終わらせる呼びかけが続いている。」とグテーレス事務総長は語った。

「ローマ教皇フランシスは、核兵器の保有は『不道徳』だと述べた。自らの将来について懸念する世界中の若者たちは、変革を要求している。広島・長崎の勇敢な生存者である被爆者は、真実を語りそれを力に変えるこの地球上で最大の模範として、平和のメッセージをたゆみなく送り続けている。」

グテーレス事務総長は、映画『オッペンハイマー』は「核による終末の過酷な現実を、世界中の何百万もの人々にまざまざと見せつけた。」と述べ、「その続編を、人類は生き残ることはできない」と警告した。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

*タリフ・ディーンはInter Press Service北米(IPS NORAM)顧問。

This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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【ケッタ(パキスタン)London Post=ドスト・バレシュ】

ティム・マーシャルは著書『Prisoners of Geography』の中で、「バロチスタンなくしてパキスタンはない」と主張している。また、パキスタンのカマル・ジャベド・バジュワ元陸軍参謀総長も、「パキスタンはバロチスタンなしでは不完全だ」と述べている。インド洋に近いという理由で、バロチスタンの重要性は21世紀にさらに高まるだろう。第一次世界大戦と第二次世界大戦は大西洋と太平洋に端を発している。21世紀はインド洋の世紀であり、インド洋を支配する国がアジアを支配する。中国や米国といった大国は、表向きはバロチスタンに執着している。

こうした中、ドナルド・ブローム米国大使が「港湾運営と開発計画、地域の物流ハブとしての港町グワダルの可能性、パキスタン最大の輸出市場である米国との接続方法について学ぶため」として2023年9月12日にグワダルを訪れた。パキスタン海軍西軍司令部との会談で、ブローム大使は地域問題について話し合い、今後数年間におけるパートナーシップの継続を強調した。

China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes - Own work, CC BY-SA 4.0
China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes – Own work, CC BY-SA 4.0

ブローム大使のグワダル訪問は興味深い議論を引き起こした。専門家の中には、今回の訪問はパキスタンにとって、この地域の地政学的状況をポジティブな方向に進めるうえで前向きな動きだと主張する者もいる。一方で、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)(=一帯一路構想で計画される6つの経済回廊の一つ。 中国の新疆ウイグル自治区のカシュガルから中パ国境の標高4693mのフンジュラーブ峠を通り、パキスタンのアラビア海沿岸にあるグワダル港を結ぶパキスタンを北から南まで縦断する全長約2000キロの巨大経済インフラプロジェクト)との関連から中国を苛立たせることになると考える者もいる。今回の訪問には利点も欠点もあるようだ。グワダルが経済ベンチャーであることは間違いない。パキスタンが先進国に投資を呼びかければ呼びかけるほど、国は最大の利益を得ることになる。CPECとグワダルの専門家であるマクブール・アフリディ大佐は、米国はグワダルに投資すべきだと述べている。米中二国間の貿易額は年間7100億ドルを超えている。米中双方がビジネス活動に携わっているのであれば、(パキスタンが)米国にグワダルへの投資を呼びかけることに何の問題もないというわけだ。

「グワダル国際都市を宣言したパキスタンは、先進国に投資を呼びかける必要がある。米国にとってのビジネスチャンスを制限することは、パキスタン経済に損害をもたらすことになる。米中の対立によってパキスタンが苦しむことがあってはならない。米中両国から利益を得ることが国益にかなうのだ。米国のグワダルへの投資は、欧州連合(EU)、日本、韓国、カナダ、オーストラリアからの投資への道を開くだろう。」とアフリディ大佐は付け加えた。パキスタンは、地理的位置、グワダルの潜在力、人的資源、天然資源を含む4つの重要な潜在力に恵まれている。こうした要因が、米中両政府によるパキスタン政府との友好関係構築を促す背景にある。

一方、米国は中国による開発を監視しながら、グワダルでの影響力を加速させようとしている。おそらく米国の要請を受けたサウジアラビアは、グワダルに製油所を設置しようとしたのだろう。米国政府はNGOの協力を得て、同市の教育・社会部門で活動を開始した。グワダル大学では、米国大使館が研究プロジェクトを立ち上げた。NGOと協力して、米国は社会的・教育的活動を実施している。これはグワダルで初めての新しい試みである。

米国は文化的・教育的イニシアティブに投資し、識字率を高め、バローチ語や様々な現地語の教材を作ろうとしている。また、中国がバロチスタンで安全保障上の課題や好ましくないイメージに苦しんでいる時期を利用して、積極的に自らのイメージを高める戦略を展開している。米国は、中国を権威主義政権と呼び、一帯一路(BRI)の下で債務の罠政策を推進し、新疆ウイグル自治区で人権侵害を引き起こしているとして、いたずらに中国に対するイデオロギー戦争を始めている。米国は、バローチ人が中国に対して良いイメージを持っていないという事実を十分に認識しており、中国に対する否定的な世論を広めようとしている。現地の人々は今、米国が中断を伴いながら様々な支援プロジェクトに関与しているのを見て困惑している。ブローム大使の訪問後、地元の民衆は、グワダル市が米中間の新たな対立の舞台になるのではと感じている。

米国は依然としてCPECに懐疑的で、グワダル港を海軍基地にすることで、中国が軍事利用するかもしれないと考えている。多くの専門家によれば、米国はグワダル港に進出することで、ホルムズ海峡での支配力を強化し、この地域におけるイランの影響力を牽制したいのだという。現在の国際政治では、インド、サウジアラビア、ブラジルといった中堅国が、米中の大国間競争から最大の利益を得ている。これらの当事者は大国間競争を利用し、米国にも中国にも全面的に依存することを避ける傾向にある。パキスタンは、米国大使をグワダルに招くことで、米中の綱引きから最大限の影響力を得ようとする中堅国の道を歩む可能性が極めて高い。

Map of Pakistan/ Wikimwdia Commons.
Map of Pakistan/ Wikimwdia Commons.

パキスタンはその歴史を通じて、国内の経済発展に取り組むことに失敗してきた。戦争経済の状態が今日も続いている。大国間の対立があるたびに、パキスタンは経済と安全保障の恩恵を受けるためにブロック政治の一部となってきた。安全保障と経済という2つの課題を平行して進めなければならないこの国が、予見可能な課題に対処するのは大変なことだ。パキスタンは従来のアプローチを採用すべきではない。時代は変わり、知識経済、産業化、地域連携の時代となった。政府は、グワダルを含む国内への投資を米国と中国双方に呼びかけ、これらのプロジェクトの発展を支援する計画を立てるべきだ。逆説的だが、もしパキスタン政府が中国の政策に同調すれば、米国はIMF(国際通貨基金)を通じて圧力をかけるだろう。米国政府はIMFを政治的手段として利用している。そのため、パキスタンはア米国の重要性を過小評価することはできない。

現実的に言えば、世界は変貌を遂げ、アジアの世紀となり、パワーバランスはイデオロギー的にも物質的にも、西洋から東洋へと移行しつつある。中国の台頭は驚くべき現象であり、弾丸を発射することなく大国の地位を獲得した唯一の新興大国である。中国政府は援助の代わりに投資を提供し、対立よりも平和を促進しようとしている。最終的な分析によれば、南アジアは、冷戦と、米国に支えられた対テロ戦争に引き起こされた未曾有の荒廃を目の当たりにしてきた。グローバリゼーションの時代に冷戦的な思考を捨て去ることは、世界平和の必須条件である。現在の大国間競争において中立を保つことは、パキスタンにとって唯一かつ最適な選択であり、中国よりも米国を優先することは逆効果である。(原文へ

*著者のドスト・バレシュ博士は、バロチスタン大学クエッタ校で国際関係を教えている。

INPS Japan

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|ルワンダ |荒廃から立ち直った国

【ブラゴエフグラード(ブルガリア)IPS=マージ・エンサイン】

パレスチナのガザ地区やウクライナ、そして報道される機会が圧倒的に少ない世界各地の紛争地帯の先行きが混迷を深める中、荒廃から立ち直った国の驚くべきサクセスストーリーを思い起こすことは有益かもしれない。すなわち ルワンダの事例である。

Remains of some of the over 800,000 victims of Rwanda’s genocide. Credit: Edwin Musoni/IPS
Remains of some of the over 800,000 victims of Rwanda’s genocide. Credit: Edwin Musoni/IPS

ルワンダのツチ族に対する大量虐殺(ジェノサイド)は30年前の今週始まった。死者の数は、今日のガザよりも桁違いに多かった。50万人から100万人のルワンダ人が、3カ月足らずの間に虐殺され、集団墓地はいまだに発掘されている。

当時米国は、犠牲者を「戦争の犠牲者」とみなし、「ジェノサイド」という言葉を使うことを拒否した。死者の数が増えるのを傍観していたのだ。これは、今日のガザに関する米国の声明や行動と不穏な共通点がある。実際、米国は殺戮を止めようとする努力を妨害した。国連平和維持軍を排除しようとする動きを主導し、国連による増援の承認を阻止した。ルワンダの人々を運命に委ねる決断を下したようだった。

ジェノサイドの後、何が起こったかは誰も予想できなかった。1994年以降、ジェノサイドを生きのびた人々と攻撃に参加した人々の間の和解が成立した。平均寿命は2倍以上に伸びた。事実、今日ではルワンダの人口の実に98%が健康保険に加入している。

100万人のルワンダ国民が貧困から脱却した。ルワンダは現在、社会経済開発においてアフリカ大陸をリードする国となっている。また、ビジネスや投資のしやすさにおいて、最高位にランクされている。

また、ルワンダは、正義の追求、貧困との闘い、ジェンダーの平等と市民参加を促進するための自国の解決策をモデル化し、アフリカをリードしている。現在、国会では女性が多数を占めている。

これらすべては30年前には想像もできなかったことだ。それがなぜ起こったのか?

殺戮が止むと、ルワンダは正義を求め、新たな指導者にジェノサイド後の進展に対する責任を負わせるための創造的なビジョンと新たな方法を見出した。ルワンダのガカカ法廷(=正義を貫くと同時に、和解に向かうことを目的とした裁判。加害者には自分のしたことを認める機会が与えられ、被害者には自分の愛する人に何が起こったのかを知る機会が与えられる。)による修復的正義のアプローチは、紛争後の正義と和解プログラムとしては世界で最も野心的なものの一つであった。

10年間にわたり、100万人の容疑者がコミュニティベースの法廷で裁かれた。許しと包容力を育みながら戦争犯罪に立ち向かい、地域社会の癒しを可能にした。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

ルワンダのイミヒゴ・システム(業績目標契約)は、植民地時代以前の文化的慣習に基づき、かつては高度に中央集権化されていた政府を、分権化された成果主義の統治モデルを用いて改革し、心に傷を負った人々が必要とするサービスを提供した。

地方と国の指導者は、定期的に政策の進展と影響を実証することが求められる。その結果、サービスへのアクセス、人間開発指標、地元の政治参加において、検証可能な改善が見られた。

ジェノサイド以降、ジェンダーの平等はルワンダの憲法と教育制度に組み込まれ、政治、経済、家庭生活を一変させた。今日、ルワンダの女性は先見性のあるリーダーである。大統領閣僚の半数、国会議員の61%が女性である。ルワンダの小学校への就学率は、女子を含めてほぼ全国一律となっている。革新的なIT教育と全国的なデジタルネットワークの普及により、ルワンダは教育進歩のモデルとなっている。

では、戦争と大量虐殺の混乱後の回復力と復興について、私たちはルワンダからどのような教訓を学ぶことができるのだろうか?

第一に、1994年の過ちを繰り返してはならない。米国と国際社会は虐殺を止めるために立ち上がり、食料と医療へのアクセスを確保しなければならない。

殺戮が止まれば、和解こそが再建への道である。中東の敵対勢力を和解させることが絶望的、あるいは不可能に思えるなら、ルワンダを見ればいい。100日間で100万人以上の少数民族ツチ族と、ジェノサイドに立ち向かったトワ族、フツ族がフツ族の民兵に殺害された。

「ルワンダの死者は、ホロコーストにおけるユダヤ人の死者の約3倍の割合で蓄積された。「広島と長崎の原爆投下以来、最も大規模な大量殺戮であった。」

しかしそれでも、敵対する者たちは最終的には一致団結した。それには並外れた政治的意志と、不可能を可能にする信念が必要だった。しかし、それは実現した。ルワンダの人々はともに、共通の問題に対する自国の解決策を考え、実行に移すことができた。

ジェンダー平等を重視し、被害者ではなく、先見性のあるリーダーとしての女性を重視したことも鍵である。調査によれば、女性の権利を促進し、教育や経済的機会へのアクセスを向上させている国は、そうでない国に比べて成長が速く、平和で、不平等や腐敗が少ない。

ルワンダには多くの課題が残されているが、現代において最も印象的な復活を遂げた。カガメ大統領に率いられた指導者たちは、憎しみと分裂、報復の政策を拒否し、灰の中から国を再建した。

UN Photo
UN Photo

このことは、ガザやウクライナ、その他の紛争に見舞われた国々にも可能性があるという希望と証拠を示している。大虐殺から30年後、ルワンダはそれが可能であることを証明している。(原文へ

マーギー・エンサイン教授は、ブルガリアにあるアメリカン大学の学長であり、「ルワンダ:歴史と希望」の著者であり、「ルワンダにおけるジェノサイドに立ち向かう」の共同編集者である。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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EmpowerHer フォーラム :女性の起業家精神と世界平和の追求


【ニューヨークATN=アハメド・ファティ

国連本部で開催されたエンパワーハー・フォーラムが成功裏に終了した後、ATNの取材に応じた同フォーラムの議長を務めるアニ・ホァン氏は、この画期的なイニシアチブを創設した動機と今後の抱負について語った。世界中の女性起業家を鼓舞し、支援することを使命とするエンパワーハー・フォーラムは、エンパワーメントとコラボレーションの象徴である。

ATN

女性の声に力を: 世界的な女性の団結
ホァン氏は、フォーラム設立の意図について、女性起業家のための専用プラットフォームを提供し、イノベーションを促進し、経済的自立を育成することだと説明した。また、起業家精神を通じて女性の自己改革とエンパワーメントを促すというフォーラムのコミットメントを強調した。

変革の触媒:エンパワーハー・フォーラムの内部
エンパワーハー・フォーラムが他の女性中心のプラットフォームと異なる点について質問されたホァン氏は、①体験の共有と相互学習に重点を置くユニークなフォーラムであること、さらに、②フォーラムが女性達の業績を紹介するだけでなく、参加者間の協力やリソースの共有を促し、起業の課題を効果的に克服できるようにする役割を担っている点を挙げた。

エンパワーメントへの洞察
男女平等を推進する上での女性の役割についての質問に対し、ホアン氏は、①自信をつけること、②継続的に学ぶこと、③社会活動に積極的に参加することを挙げ、セルフ・エンパワーメントの重要性を強調した。また、女性同士の相互支援の重要性を指摘し、進歩の重要な原動力として集団的成長と連帯を提唱した。

未来を描く
ホァン氏は、エンパワーハー・フォーラムをグローバル・プラットフォームに拡大し、物理的な会合とオンライン交流の両方を活用して、その影響力を最大化するという野心的な計画を概説した。また、世界規模で女性の起業と成長をさらに後押しするため、トレーニング、ワークショップ、資金援助の仕組みを統合する意向を示した。

人間性の調和
ホァン氏は、「Let Peace Prevail(平和を勝ち取ろう)」という曲についての議論に移り、この曲が生まれた深い動機について語った。この曲のユニークな音楽的言語と文化的要素の融合は、平和と団結への普遍的な共感を育むことを目的としていると語った。

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

平和の触媒としての音楽
平和を推進する上で音楽が果たすユニークな役割を振り返り、ホァン氏は言語や文化の壁を超える音楽が持つ比類ない力を強調した。また、音楽が紛争を解決し社会の調和を促進する上で極めて重要な役割を果たしてきた歴史的な前例を挙げながら、共感を呼び起こし、相互理解と和解を促進する音楽の能力を強調した。

エンパワーメントと平和のために団結しようという呼びかけ
ホアン氏の洞察は、より公平で調和のとれた世界を形成する上で、エンパワーハー・フォーラムのような取り組みや「Let Peace Prevail(平和を勝ち取ろう)」のような芸術的試みが持つ変革の可能性に光を当てた。エンパワーメントと平和への揺るぎないコミットメントを持つこれらのイニシアチブは、刻々と変化する世界情勢の中で希望の光となっている。(原文へ

INPS Japan

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世界中の人々のための音楽(民音音楽協会)

ガザ地区の戦闘休止を冷却期間に

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2023年11月25日に「Australian Financial Review」に初出掲載され、執筆者の許可を得て再掲載したものです。

イスラエル人とパレスチナ人は、何とかして過去に終止符を打たなければならない。さもなければ、混乱の未来に直面するだろう。

【Global Outlook=ラメシュ・タクール】

イスラエル人の人質50人とパレスチナ人の収監者150人を交換するため、ガザ地区での戦闘を4日間休止する取り決めは、紛争の動態を再構築するだろう。

ガザにおけるイスラエルの今の戦略には、五つの目標がある。ハマスの解体、人質の返還、イスラエル人兵士へのリスク低減、民間人の犠牲抑制、ガザ地区外への戦闘拡大の回避である。(

ハマスが10月7日に攻撃を仕掛けた目的は、できる限り多くの人を殺害し、レイプし、切断し、燃やし、誘拐すること。つまり、国民を守るイスラエル政府の能力に対する国民からの信頼を損なうこと、大勢の民間人の死者を出し、アラブ人街を炎上させる極めて暴力的な反応をイスラエルから引き出すこと、世界中のムスリムを激怒させ、西側諸国の都市を大勢の抗議者で埋め尽くすこと、イスラエルを国際的に孤立させること、アブラハム合意を解体すること、そして、アラブ諸国との国交正常化プロセスを中断させることである。

イスラエルは、人々が記憶する限り最も困難で緊迫した市街戦のさなかにある。ハマスの軍事力とインフラを削ぐため、数週間にわたって空爆した後、地上攻撃を行い、イスラエルはガザ北部を掌握した。戦闘計画は、ハマスを民間人から分離し、民間人を南部に移動させ、戦闘員を攻撃するというものだった。これは部分的に成功しただけである。なぜなら、ハマスは一般住民の間にあまりにも深く根を張っているからである。

情報戦の進捗状況は、さらにばらつきが大きい。大虐殺のビデオ画像も、継続中の軍事攻撃への支持を引き出すことが徐々にできなくなっている。占領地帯に国際メディアを入れて、戦時国際法に違反しているハマスの罪の証拠を開示し、情報を機密解除し、ビデオ映像や傍受した通信を公開するというイスラエルの戦術は、イスラエルが犯している戦争犯罪は虐殺の域に達するというハマスの宣伝に対抗するという意味では、限定的な成功しか収めていない。

軍事力とナラティブが交錯する戦争において、イスラエルは、反乱勢力が仕掛ける古典的な罠の挟み撃ちに陥っている。イスラエルにとっては勝利しないことが敗北であり、ハマスにとっては生き残るだけでも勝利である。

戦場がガザ地区南部に移行するにつれ、この不均衡はさらに悪化し得る。近隣諸国が受け入れを拒否するなか、民間人はそこからどこへ行けば良いというのだ? イスラエルは、安全なルートを通じた人道援助や支援物資の提供を、より明確に優先する必要があるかもしれない。

また、召集された30万人の予備役は、イスラエルのハイテク経済の崩壊を防ぐために本業に復帰する必要があるため、時間の経過はイスラエルにとって不利に働く。一方、ハマスもイランとヒズボラによる支援には限界があるということを分かっている。

戦闘休止によって、双方が状況を吟味し、短期および長期目標を再調整することが可能になる。

1日あたり十数名の人質解放が可能になるよう停戦が延長されるなら、ハマスは武器や戦闘員を再編成し、再武装し、再配置するための貴重な時間を稼ぎ、イスラエル民間人への攻撃を再開するだろう。

他方、戦闘休止が長引くほどイスラエルにとっては戦闘を再開することが政治的に困難になるだろう。それにより、ハマスのガザ地区における支配力とそこからイスラエルの安全保障を脅かす能力を破壊するという、イスラエルの最大の目的が妨げられる。

コストと利益が不均等であるということは、イスラエルに対して猛攻撃を加えることができるというメッセージとしてハマスに10月7日の再現を煽るものである。イスラエルは報復しようとしても、それを果たす前に停戦を強いられるだろう。

これを阻止する唯一の方法は、以前から存在していた二重の抑止力を再構築すること、すなわち、イスラエルの優れた情報活動と報復能力によってハマスの攻撃を抑止し、米国による介入という脅威によって地域のハマス同盟国を抑止することである。

そのためにイスラエルはまず、情報活動の失敗、国境の物理的障壁、10月7日のイスラエル軍の初動までの時間という、三つの疑問に答える必要がある。

また、ユダヤ人に対するホロコースト以来最悪の攻撃が加えられた日に国家の舵を取っていたビンヤミン・ネタニヤフが現職に留まるとは考えにくい。パレスチナ自治政府に対抗してハマスの強化に加担したのではないかという疑惑が調査で裏付けられようものなら、なおさらである。

また、イスラエルは2007年からガザ地区の陸路、海路、空路を封鎖し、230万人の住民に壊滅的な人道的影響を及ぼしており、封鎖を解除するよう圧力を受けるだろう。だからこそ、国連がガザ地区を「占領されたパレスチナ領域」と呼ぶのである。封鎖を解除しなければ、世界最大の天井のない監獄というガザ地区のナラティブが言われ続けるだろう。

ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の継続的拡大にも、終止符を打たなければならない。イスラエルの国内政治における内部的緊張を緩和しようとすると、外交政策において余りにも高い代償を強いられることになる。願わくは、イスラエルが再び、サウジアラビアのような主要アラブ諸国との国交正常化を模索して欲しい。

その一方で、イスラエルは国際的な支持基盤が縮小しつつあるという新たな常態に二つの面で適応しなければならない。西側世界では、若者たちがイスラエルに背を向けてパレスチナの大義に転向し、明白な世代間の分断が生じている。

また、西側世界が世界情勢に関するナラティブを支配する能力を徐々に失うなか、西側諸国とイスラエルは、イスラエル・パレスチナ関係の歴史がどのように見られているかを受け入れなければならなくなるだろう。

多くの人は、罪悪感に駆られたキリスト教西側諸国がユダヤ人に対し、ホロコーストの償いをパレスチナという通貨で支払ったと考えている。パレスチナを分割してイスラエルを建国することを賛成33、反対13で承認した国連総会決議181号(1947年)は、その時点で西側諸国に支配されていた。反対票の数を見れば、植民地独立後の世界における国連加盟国のバランスがいっそうよく分かる。

実際問題として、これは、イスラエルが世界唯一のユダヤ人の祖国として存在する権利を認めると同時に、パレスチナ人の彼ら自身の国に対する権利を認めるということを意味している。ハマスの軍事的破壊は必要かもしれないが、双方の最大限の要求には及ばないまでもそれぞれの最低限のニーズを満たす外交と交渉を伴わなければ、十分ではない。

われわれの誰もが、過去を振り返り、被害者意識と不満に満ちたナラティブを固定化し、内面化することがあるだろう。脱植民地化のイデオロギーが染み込んだ昨今の社会正義概念の基準を用いて歴史をさかのぼろうとすれば、人類がこれまで知る中で最も不安定で暴力的な時代が必ずや訪れるだろう。

そうではなく、われわれは未来に目を向けて、歴史的な不正義に終止符を打ち、力を合わせて許容可能な共存の未来を切り開くこともできる。

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長、および戸田記念国際平和研究所の上級研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。

国連保健機関、ガザの飢饉を警告

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

ガザ地区(長さ50km、幅5~8kmの狭く細長い種子島ほどの面積に200万人の人が住む 世界で最も人口密度が高い場所)の状況は壊滅的であり、ガザ北部は差し迫った飢饉に直面している。3月18日に発表されたIPC(総合的食料安全保障レベル分類)パートナーシップによる最新の分析によると、他の地域も危機に瀕している。ガザ地区への大幅な食糧搬入が許可されない限り、100万人以上が壊滅的な飢餓に直面すると予想されている。

ここ数ヶ月の敵対行為の前には、5歳未満の子どもの0.8%が急性栄養失調に陥っていた。しかしこの報告書によると、北部では、2月の時点で、この数値は12.4~16.5%にのぼっている。

Tedros Adhanom Ghebreyesus/ WHO
Tedros Adhanom Ghebreyesus/ WHO

世界保健機関のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「IPCの発表は、ガザ地区の人々が直面している悲惨な状況を反映しています。この危機が起こる前、ここには住民を養うのに十分な食糧があり、栄養失調になることはまれでした。今、人々は死に、さらに多くの人々が病気になっています。」と語った。

食料、水、その他の必要物資の供給を大幅に、かつ早急に増やさなければ、状況は悪化の一途をたどるだろう。既にすべての世帯が日々の食事を抜き、大人は子どもが食べられるように食事を減らしている。

数千人の生活と健康への長期的影響

WHOは、現在の状況が数千人の命と健康に長期的な影響を及ぼすと警告している。今この瞬間も、子どもたちは栄養失調と病気の複合的な影響によって命を落としている。栄養失調になると、重症化しやすくなり、回復が遅れたり、病気に感染して死亡したりしやすくなる。

栄養不良、栄養価の高い食品の摂取量の少なさ、繰り返される感染症、保健衛生サービスの欠如が長期的に及ぼす影響により、子どもたちの成長は全体的に伸び悩む。これは、将来の世代全体の健康と幸福を損なうことになる。

WHOとIPCのパートナーは、医療従事者と患者のために医薬品、燃料、食糧を届ける危険度の高いミッションを実施しているが、物資を届けるよう要請しても、しばしば妨害されたり、拒否されたりしている。道路が寸断され、病院内やその近くでも戦闘が続いているため、配達できる物資は少なく、遅々として進まない。

IPCの報告書は、WHOや国連のパートナー、非政府組織(NGO)が数カ月にわたって目撃し、報告してきたことを裏付けている。私たちのミッションが病院に到着すると、疲れ果てて空腹を訴える医療従事者に会い、食料や水を求められる。救命手術や手足の欠損から回復しようとしている患者、がんや糖尿病の患者、出産したばかりの母親、生まれたばかりの赤ん坊など、飢えとそれにつきまとう病気に苦しむ人々を目の当たりにする。

WHOは現在、栄養クラスターのパートナーとして、ラファの栄養安定化センターを支援し、医学的合併症を伴う重度の急性栄養失調の子どもたちを治療している。

「私たちは、ガザ北部のカマル・アドワン病院と、ラファの国際医療部隊野戦病院の2つのセンターの設立を支援しています。WHOは、アル・アクサ病院とアル・ナジャール病院の小児科病棟に対し、栄養物資や医薬品の提供、医療従事者のトレーニング、母乳育児を含む乳幼児への適切な授乳方法の普及などを通じて支援しています。」とWHOは語った。

さらなる栄養センターが必要

WHOは、合併症を伴う栄養不良に対処する医療従事者の訓練を行っている。また、治療を必要とする子どもたちのために、病院やセンターに医薬品を供給する支援を行っている。

ガザの主要な病院すべてに、栄養センターと安定化センターを増設しなけれ ばならない。栄養不良の管理を地元で拡大するためには、地域社会そのものが支援を必要としている。

WHOをはじめとする国連パートナーは、イスラエルに対し、より多くの 検問所を開放し、水、食料、医薬品、その他の人道支援物資のガザ地区への流入と輸送を加速化するよう求めている。(原文へ

INPS Japan

*INPS Japanでは、ガザ紛争のように複雑な背景を持つ現在進行中の戦争を分析するにあたって、当事国を含む様々な国の記者や国際機関の専門家らによる視点を紹介しています。

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|アフリカ| 海底ケーブルの損傷でインターネットが中断

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

 電話や長距離通話サービスやデジタル携帯電話ネットワークのない世界とはどんなものなのだろう。世界中の何十億という人々が、文字にすることなく親戚に電話をかけたり、ビジネスをしたり、情報を交換したりしているのだから、想像するのは難しい。

Netblocksによると、コートジボワールが最も深刻な障害に直面し、リベリア、ベナン、ガーナ、ブルキナファソが大きな影響を受けた。インターネット企業のCloudflareは、自社の監視アカウントを通じて、ガンビア、ギニア、リベリア、コートジボワール、ガーナ、ベナン、ニジェールで大規模な障害が続いていることを確認した。

午前8時までに、ナイジェリア、コートジボワール、ガーナで銀行閉鎖が報告された。

ケーブルの損傷によるネットワークの混乱は近年アフリカで発生している。しかし、「今日の混乱はもっと大きなものを示唆しており、これは最も深刻なもののひとつだ」とNetblocks社のリサーチ・ディレクター、イシク・メーテル氏は語った。

いくつかのケースでは、シャットダウンは意図的なものだった。たとえばセネガルでは、活動家グループが企画したサイレント・マーチの直前、火曜日に通信省が携帯電話会社にインターネット・アクセスを停止するよう指示した。

このデモ行進は、2月25日に予定されていた大統領選挙の突然の延期に抗議するためのものだった。先週の激しい衝突では3人が死亡し、多数の逮捕者が出た。

ナイジェリア、コートジボワール、リベリア、ガーナ、ブルキナファソ、南アフリカは、10カ国中最悪の被害を受けている。マイクロソフトは顧客に対し、ケーブルの修理が長期化する可能性があると警告した。西アフリカのデータセンターおよび接続プロバイダーであるMain Oneは、海底ケーブルシステムの断線によるインターネット停止を非難した。

比較的良好な位置にある南アフリカ

南アフリカは比較的良い位置にあるように見えるが、シエラレオネやリベリアを含むいくつかのアフリカ諸国では、実際に国に入ってくる光ファイバーケーブルは1本だけである。これらの国からのインターネット・トラフィックは、ケーブルが断線すると基本的に停止する。ナミビアとレソトも影響を受けた。

「当然ながら、これは生活、ビジネス、そして政治のあらゆる側面に大きな影響を与える」とジャハジーア氏は続けた。「衛星を経由して迂回できる通信もありますが、衛星トラフィックは世界のデジタル通信の1%程度にすぎません」。

デジタル植民地主義 “と呼ばれるものに対する疑問が浮上している。「以前は、ケーブルは公共部門と民間部門のパートナーシップの組み合わせによって資金を調達していましたが、現在ではアルファベット、メタ、ファーウェイなどの大手民間企業がケーブルインフラに資金を提供することが増えています。このことは、デジタル・インフラの管理と監視に深刻な影響を及ぼしている。」

「貧しい国々は、しばしば裕福な企業体の条件を受け入れるしかない。これはアフリカのデジタル主権にとって信じられないほど危険なことであり、もっと公に議論されるべきことである。」(原文へ

INPS Japan

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国連事務総長が映画『オッペンハイマー』は核の終末の厳しい現実を示したと警告

【国連IDN=タリフ・ディーン】

数々の賞を受賞した映画『オッペンハイマー』は、原子爆弾の開発に貢献したとされるロバート・オッペンハイマー博士の生涯を題材にしたもので、核軍縮を求める長年の運動と、世界で最も破壊的な兵器のひとつである核兵器のもたらす死と破壊に再びスポットライトを当てることとなった。

米国が1945年8月に広島・長崎に2発の原爆を投下した際、世界はこれほど甚大な人的災害を経験したことがなかった。両原爆による死者は14万人~22万6000人と推定されている。

「世界芸術科学アカデミー」理事で「グローバル安全保障研究所」所長であるジョナサン・グラノフ氏はこの映画について、今日の数千発の核兵器の持つ破壊力は我々の想像力をはるかに凌駕していると語った。

「この映画は、原爆を作る過程における個々の人間の行為に焦点を当てることで、このような装置を作ったのが人間の手であるならば、それを廃絶するのもまた人間の手によるものだということを私たちに思い起こさせてくれます。この任務を無視するのかそこに向かって努力するのかは、私たちの良心にかかっています。」と語った。

グラノフ氏の発言は、アルベルト・アインシュタイン博士からの強い警告を想起させる。「解き放たれた原子の力は、われわれ思考様式以外のすべてのものを一変させてしまった。こうして私たちは前代未聞の破滅へと突き進んでいる。」

こうしてアインシュタインは1955年、バートランド・ラッセルや他9人の著名な科学者らとともに強力な宣言を発し、人々にこう選択を迫った。「もし人々が皆その気になれば、人類の前には、幸福と知識と知恵の不断の進歩が横たわっている。それなのに争いを忘れることができないという理由で、死を選ぼうとするのか。私は一個の人間として人間に向かって訴える。『人間性』を想い出しなさい。それ以外を忘れなさい。それができれば、新しいパラダイスヘの道が開ける。さもなければ、人類の絶滅しかないだろう。」

現代の偉大な英雄の一人、ジョセフ・ロートブラット博士

映画『オッペンハイマー』は現代のヒーローであるジョセフ・ロートブラット博士を無視しているとグラノフ氏は指摘した。ロートブラット博士もアインシュタイン=ラッセル声明の署名者の一人であり、ナチスの原爆開発は不可能だと悟った時点でマンハッタン計画から降りた人物でもある。

ロートブラット博士は、同計画を主導した軍人グローブズ将軍に対してその事実を告げたが、原爆は単にナチスを抑止するためだけではなく、ソ連の力に対抗する意味合いも込めて開発が進められていることを知った。

「ロートブラット博士は、もし米国が原爆を開発・使用すれば軍拡競争の危険があると見ていました。」とグラノフ氏は語った。ロートブラット博士は、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議を創設し、1995年にはノーベル平和賞を受賞した。

オッペンハイマー博士も同様に軍拡競争の危険は感じており、きわめて破壊的な水素爆弾の開発には反対した。代わりに、核兵器の危険性を封じ込めるために、国際レベルでの外交や法、協力を促した。

オッペンハイマー博士はこうした政治的主張によって迫害され、セキュリティクリアランスを剥奪された。「映画は、実際には原則的なことが問題になっているのに、代わりに個人間の反目をゆがんだ形で強調している。」とグラノフ氏は指摘した。

世界芸術科学アカデミー(WAAS)

最終的にオッペンハイマー、ロートブラット、ラッセル博士は1960年、世界芸術科学アカデミー(WAAS)という著名な組織の設立に尽力し、世界から核兵器の脅威をなくし、生命の破壊ではなく改善に科学をより広範に使用しうるような近代的な取り組みを導くことになった。

WAASは今日でもその遺産を保っており、「継続的な進歩」、そして究極的には人間の安全保障という約束を果たすために活動している。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月18日に安保理で行った演説で映画『オッペンハイマー』に言及した。同作は10日、ハリウッドのアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞など7部門で受賞していた。

グテーレス事務総長は「世界終末時計は誰にも聞こえるぐらいの音でカチカチと音を鳴らしています。学界から市民社会に到るまで、この核の狂気を終わらせる呼びかけがなされています。」と語った。

「ローマ教皇は、核兵器の保有は『不道徳』だと述べました。自らの将来について懸念する世界中の若者たちは、変革を要求しています。広島・長崎の被爆者は、権力に対して真実を語り、時代を超えた平和のメッセージをたゆみなく送り続けています。」そしてハリウッドでは「核による終末という厳しい現実を世界の多くの人々にまざまざと見せつけました。」とグテーレス事務総長は指摘した。

ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)グローバル公共政策グローバル問題大学校「軍縮・グローバル・人間の安全保障」プログラムの責任者を務めるM・V・ラマナ教授は、映画『オッペンハイマー』は「それ以前の兵器よりもはるかに大きな破壊力を持つ原爆の発明と使用によって世界がいかに変えられてしまったかを示している。」と語った。

ヒロシマ・ナガサキ

オッペンハイマー博士が広島・長崎を破壊した原爆の創造を1940年代に監督して以来、核兵器の破壊力は格段に大きくなった。

ラマナ氏は、「核兵器を人間と都市の上に運ぶ方法は、射程・精度・数のいずれの面においても進化してきました。」と指摘したうえで、「資源と権力をめぐる終わりなき競争に駆り立てられて、核兵器保有国は他国の民衆を攻撃する軍事力の一方的な使用に常日頃から関与してききました。」と語った。

「ロシアのウクライナに対する攻撃や、イスラエルのガザに対する全面的な爆撃はその最新の一例に過ぎません。」とラマナ博士は語った。

米国は、朝鮮やベトナム、カンボジア、アフガニスタン、イラクなどのはるか遠方の国々への軍事攻撃で世界を主導し、数えきれないほどの人々を殺害してきたとラマナは指摘する。

「気候変動の危機が厳しさを増し、『血と土地』の論理を振りかざす国家主義的な運動が各国で激しくなる中、軍事的な対立の危険が増しており、核兵器がいつかどこかで使用されてしまうリスクも高まっています。」

ラマナ博士は最後にこう指摘した。「核兵器を廃絶する緊急性が高まっているだけではなく、オッペンハイマー博士や、とりわけアインシュタイン博士のような人々を熱狂させた別のアイディアについて真剣に再考すべき時だと思います。すなわち、(アインシュタインの挑発的なフレーズを使わせてもらうならば)「視野の狭い国家主義という時代遅れの概念」から脱却して『ひとつの世界』へと到るという道のことです。」(原文へ

INPS Japan

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核廃絶を求める私たちこそがグローバル・マジョリティーだ。(ジャクリーン・カバッソ西部諸州法律財団事務局長)

「グローバル・ヒバクシャ:核実験被害者の声を世界に届ける」(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

高まる水危機で紛争の危険が高まり、SDGs実現も危ぶまれる

【国連IDN=タリフ・ディーン】

中東の激動の政治と言えば、石油というたったひとつの宝の商品がもたらす不確実な富の問題に長らく集約されていた。

中東のある外交官はかつて「水を求めて乾いた砂漠を掘れば、必ずと言っていいほど石油が出てくる。」と語ったものだ。

しかし、水危機の高まりはそれを凌駕しており、途上国の数十億人の生活に影響を与えている。そして彼らの手には、残念なことに、石油も水もないのである。

3月22日に国連が発表した最新の報告書は、水をめぐる緊張が世界全体で紛争を悪化させていると警告した。

国連の水問題フォーラム「UNウォーター(国連33機関で構成)」を代表して国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が発行した『国連世界水開発報告2024年版』は、平和を維持するには各国が国際協力と国境を越えた合意を促進しなくてはならないと指摘している。

世界で30億人以上の人々が国境を越えた水資源に依存している。しかし、すべての共有水について協力協定を結んでいるのは24カ国にすぎない。

今日、22億人が依然として安全に管理された飲み水を手にすることができず、35億人が安全に管理された衛生サービスを利用できない。

17項目の持続可能な開発目標(SDGs)の中では、第6目標が「すべての人々に水と衛生へのアクセスを確保する」ことを謳っている。水資源や下水処理、生態系の持続可能な管理に焦点を当て、人々の可能性を広げる環境の重要性を謳っている。

しかし現在のところ、この第6目標を含むSDGsのどれもが順調に進んでいるようには見えない。

安全に管理された衛生を巡る状況は暗く、35億人が衛生サービスを利用できていない。都市や自治体は、加速する都市人口の増加に対応できていない。

「2030年までにすべての人が水を利用できるようにするという国連の目標は達成に程遠い。」と報告書は述べている。

国連総会(加盟193カ国)のデニス・フランシス議長は、3月22日の「世界水の日」いおける発言で、「水は生命の本質であり、水には本来国境などなく、境界線や文明を超えて自由に流れるものだ。今日ニューヨークに降る雨は、雄大なナイル川や美しいセーヌ川から流れてきたものかもしれない。私たちの生態系や水循環、ひいては私たちの世界の相互関係を鮮明に示している。」と語った。

水の過剰、不足、汚染、そのいずれであれ、水を巡る複雑に絡んだ状況は、気候変動の容赦ない影響によってさらに複雑化している。

フランシス議長は、水を巡るこうした状況が、社会的緊張や経済格差、政治的不安定の問題をさらに悪化させ、紛争と社会的不安定のリスクを高めていると指摘した。

だが、こうした過去の難題の中には、集団的な解決や協調のヒントが潜んでいる。水を巡る協力は、水が確保された平和な社会を作るうえで、単に利益をもたらすというだけではなく、不可欠なものなのである。

「気候変動の影響が増大し、人口が増加する中、最も貴重な資源の保護と保全に向けて各国内および各国間で団結することが緊急に必要とされている。」とフランシス議長は語った。

ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、「水資源への負荷が強くなる中、地方や地域での紛争のリスクも高まっている。ユネスコのメッセージは明確だ。すなわち、もし平和を守りたいのなら、水資源を守るだけではなく、この領域において地域と世界全体での協力を強化するために緊急に行動しなくてはならない。」と語った。

国際農業開発基金(IFAD)とUNウォーターで代表をそれぞれ務めるアルバロ・ラリオは「水は、持続可能かつ公正な形で管理されれば、平和と繁栄の源になりうる。また、文字通り農業の血液ともなり、多くの人々にとって社会経済的な原動力になる。」と語った。

ユネスコの報告書によると、2001年から2021年までの間に、干ばつによって影響を受けた人々は14億人に上る。

2022年時点で、世界人口の約半数が少なくとも一年の一部で深刻な水不足に見舞われており、4分の1は年間再生可能な淡水供給量の8割以上を使用する「極めて高い」レベルの水ストレスに直面している。

気候変動によってこうした現象の頻度と程度は強まると見られ、社会的不安定のリスクは高まっている。

他方で、オックスファムが3月21日に発表した報告書は、世界で最も影響力のある食料・農業企業のわずか28%しか水使用量を減らしておらず、水の汚染を減らす対策をしている企業はわずか23%しかいないと警告している。

「世界ベンチマーキング同盟」のデータを使用して350社を分析したオックスファムの今回の報告書は、3月22日の「世界水デー」に先立って発表された。

45年以上前に水に関する初めての大きな会議を招集した国連は、推定20億人が安全な飲み水を手にすることができず、最大30億人が年間のうち少なくとも1カ月は水不足を経験しているとしている。

分析の対象となったカルフール社やアブリル・グループをはじめとした350社は、世界の食料・農業企業の年商の半分以上を占めている。淡水利用の7割は農業向けであり、世界の産業ではこれ以上に水を使用する部門はない。工業的農業は水汚染に大きな責任を負っている。

オックスファムの分析はまた、350社中108社しか、水の少ない地域からの水利用についての情報開示をしていないと述べている。

「大企業が大量の水を汚染したり消費したりすれば、その犠牲になるのは地域社会だ。井戸は空になり、水道代は上がり、水源が汚染されて飲み水には適さなくなる。水が少なくなれば飢餓につながり、病気が増え、居住地を追われることにもなる。」とオックスファムフランス支部のセシル・ドゥフロー支部長は語った。

「企業が自らの慣行を変えるような善意に期待することはできない。政府が企業に自らの責任を取らせ、企業の利益追求に対して公共財を守らねばならない」とドゥフローは話す。

水と富は分かちがたく結びついている。富裕層は安全な飲み水を手にすることができるし、自費で高い水を買うこともできる。他方で、貧困層は、公的な上水道を利用できないことも多いし、水道代に収入の相当の部分を割かねばならない。

ペットボトル水市場の急成長は、大企業がいかに水を収奪・商品化しているか、それによっていかに不平等や汚染、害悪が加速されているかを示している。

国連によれば、巨大化するペットボトル水産業は、持続可能な開発目標の第6目標(安全な飲み水をすべての人の手に)の進展を遅らせている。

フランス当局は、2023年5月から2カ月、ボルビック地区を含んだピュイ・ド・ドーム県の干ばつ被害地域で多くの人々に水道使用制限を課している。

しかしこの制限は、多国籍企業ダノン社の子会社であるボルビック社には適用されていない。同社はこの間も、ボルビックの水ペットボトル生産のために地下水を使用し続けている。オックスファムによれば、2023年、ダノン社の利益は8億8100万ユーロに達しており、株主に12億3800万ユーロを配当している。

地球の気温上昇によって、干ばつの頻度が増し、降雨パターンや水の流出のあり方が変化することで、東アフリカや中東などの元々水資源の少ない国ではさらに水が少なくなるであろう。

人々が長い時間列に並んだり長距離を水を汲みにいったりするなど、日常的な水源へのアクセスでどれだけ苦労しているか、汚染された水を利用することでいかに健康を崩しているかを、オックスファムは長らく観察してきた。

たとえば、南スーダン・レンクにある中継キャンプでは300人以上の人々がたった一つの蛇口を共有しており、コレラなどの感染症蔓延の危険が高まっている。オックスファムは昨年、ソマリアやケニヤ北部、エチオピア南部の一部の井戸の9割が完全に枯れていると警告した。

オックスファムは各国政府に次の行動を求めている。

・水は人権と公共財の問題であると認識すること。人間への水の提供に関しては、利益追求を優先してはならないこと。

・水の汚染問題を含め、企業が人権や環境権・環境法を乱用・違反しないよう責任を取らせること。

・水の確保や公的水供給への補助、持続可能な水管理、気候変動に強い水・衛生に投資すること。水と衛生に関する国家計画・政策において、女性のリーダーシップ発揮や参加、全ての段階での意思決定を確実にすること。(原文へ

INPS Japan

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人工知能は社会への脅威

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ドン・バード】

筆者は数十年にわたり、人工知能の周辺で、また、時にはその領域内で仕事をしてきた。現在は、社会の有害な分極化を解消するための取り組みにおいて米国で最も効果を挙げている組織の一つ、ブレイバー・エンジェルズ(Braver Angels)でタスクフォースの共同議長を務めている。

現在AIを利用している、あるいは近いうちに利用しそうな多くの用途が、筆者の頭を悩ませている。実のところ、その一部に筆者は恐怖を覚えているし、読者も恐怖を覚えることを願うばかりだ! 考えて欲しい三つの事実がある。(

(1)「ディープフェイク」は、AIで生成した音声や動画である。ディープフェイクは、詐欺や政治的不正工作、あるいはポルノ制作のために使われ得る。実際にそのような例がソーシャルメディアに登場しており、「実はデサンティスが大好きだ」とヒラリー・クリントンが動画の中で語っている。「彼は、まさにこの国が必要としているタイプの人物であり、私は本気でそう言っている」。また、ある人の顔を別人の体に貼り付けるポルノビデオは、ますます広がりつつある。

(2)米国と中国はいずれも、何らかのAI制御兵器を実戦配備しようと躍起になっているようだ。これには、自律型致死兵器システム(LAWs)、すなわち、単に敵の「資産」(ドローン、線路など)を破壊するのではなく、人を殺す判断を自力で下すことができる兵器が含まれる。

(3)ChatGPTのような「大規模言語モデル(LLM)」の開発者は一般的に、それらのモデルが偏見や危険な情報を含んでいるなどの有害な文章を生成しないようにする機能を搭載している。しかし、再三再四にわたり「ガードレール」機能の抜け穴が発見されており、LLMが公開されてから数分で発見される場合もしばしばである。テロリストがそのような抜け穴を利用して、症状が1週間現れないため感染を広げる時間がたっぷりある新しい致死的病原体を開発する方法を学習することを想像して欲しい。

市民の間の信頼は民主主義社会の不可欠な要素であるが、AIはすでにそれを損ないつつある。2023年初め、有名なAI研究者であり批評家のゲイリー・マーカスは、「われわれは、もはや何を信じたら良いか全く分からない世界に極めて急速に行き着こうとしている。それは社会にとって、例えばこの10年間で、すでに問題となっている。この先はますます悪化する一方だと思う」と述べた。音声や動画のディープフェイクは、信頼が損なわれる一つの方法である。無害に見えるが、現実と人工の境界を曖昧にするものも、しかりである。

しかし、昔ながらの言い回しを使った偽情報キャンペーン、ますます極端化し分極化する見解に基づくコンテンツをしばしば提案するソーシャルメディア、いわゆる「ハルシネーション」など、他にもいくつかの脅威がある。ハルシネーションとは、完全に間違っていることをLLMが自信たっぷりに主張してくる、驚くほどよく見られる現象である。ミシェル・ウィリアムズによる「われわれはAIをどこまで野放しにするのか?(How far will we let AI go?)」という記事では、「ChatGPTが、銃は子どもたちにとって有害ではないと主張する研究をでっち上げ」、高く評価された学術雑誌に掲載された論文を引用したが、そんな雑誌は存在していないという事例を報告している。その一方で、コンピュータービジョンの進化は著しく、人間になりすますコンピューターを識別するReCAPTCHAやその他の手法を役に立たなくする恐れがある。また、自己の決定を説明することができる「説明可能なAI(Explanable AI)」は長年活発に研究が行われてきた分野であるが、今後1年や3年で説明可能性が普及すると思わないほうがいい。

AIがどのようにわれわれの脅威になるのかと聞かれた場合、専門家も一般人も、おおむね二通りのうちいずれかの反応をする。未来のAGIすなわち「汎用人工知能」は、近い将来ではないにしても、文明の存続にとって、さらには人類の存続にとってさえ深刻な脅威となるだろうというもの、あるいは、それはすでにわれわれの民主主義および/または社会にとって深刻な脅威となっているというもののいずれかである。筆者は、2番目の「AIは今日の民主主義と社会にとって脅威となっている」というグループである。われわれに何ができるだろうか?

さまざまな理由から、明白な解決策(開発の停止または凍結、認可制、ウォーターマーキングなど)のほとんどは、あまり多くの成果を挙げられそうにない。しかし、社会への脅威の一部は、ソーシャルメディアによって大幅に増幅されている。ソーシャルメディア企業はすでに、投稿が拡散する前にチェックを行っているが、別の方法でコンテンツをチェックするよう各社に要請することがかなり有益かもしれない。「AI生成された本物ではないコンテンツの害に対処する(Addressing the harms of AI-generated inauthentic content)」と題する短いながらも示唆に富んだ論文では、有名な偽情報研究者らが次のように論じている。

「言論の自由を守るという明白な課題があるだけでなく、AIに対する規制は、法令を遵守する事業者によって開発されたツールにしか効果がないだろう。しかし、AIのアルゴリズムやデータはオープンソース化されており、コンピューティング能力はますます低廉化しているため、悪意の行為者は、提案されているウォーターマーク基準のような規制枠組みに従う気は一切なく、独自の生成AIツールを開発するようになるだろう。AIによるコンテンツ生成ではなく、ソーシャルメディアプラットフォームを通した拡散を対象にした、別の規制枠組みを検討する必要がある。コンテンツに対する規制を、そのリーチに基づいて課すことも考えられる。例えば、ある主張が大勢の人の目に触れる前に、制作者に対してその事実性や来歴を証明するよう求めるといったことだ」

しかし、これらの問題を本当に解決できる技術はないだろう。ロバート・ライトは、「AIは危険になった。だから、外交政策の中心とするべきだ(AI has become dangerous. So, it should be central to foreign policy)」という記事の中で、戸田記念国際平和研究所の使命と特に関連性がある見解を表明しており、筆者もこの見解に同意する。

「ワシントンではAIの規制に関する真剣な議論がなされている。(…)AIの問題は、革新的な国内政策だけでなく、外交政策の基本的方向転換も必要である。このような変化は、ジョージ・ケナンが1947年に「フォーリン・アフェアーズ」誌に発表した、ソ連『封じ込め』政策を主張する『X論文』がもたらした変化の規模に匹敵する。しかし、今回の敵対国は中国であり、対立ではなく関与に向けた方向転換が必要である。AI革命という観点から見ると、第2次冷戦へと向かっている現在の流れを逆転させ、責任をもって技術進化を導くための国際努力に中国を引き入れることが、米国にとって極めて重要な利益となる」

AIによって増幅された偽情報は、特に危険である。なぜなら、近頃ではあまりにも多くの人が、突拍子もない極端な情報に飛びつくからだ。市民を教育し、AIが生成したコンテンツを識別できる可能性を高めることが重要であり、多少なりとも有用であるはずだ。しかし、筆者が真の解決と考えるのはただ一つである。到底受け入れ難い普通ではあり得ない極端な考え方に、激怒ではなく懐疑的な姿勢で反応するよう、十分な数の人々を説得することである。

ブレイバー・エンジェルズのような団体が何をできるかは、今後の課題である。

ドン・バード 1984年にインディアナ大学コンピュータサイエンスの博士号を取得。音楽情報検索分野の創設および音楽情報システムへの貢献で知られている。またテキスト情報検索、情報の視覚化、ユーザーエクスペリエンス・デザイン、数学教育などに学術界内外で取り組んでいる。バードは、オープンソースの楽譜作成システム「ナイチンゲール(Nightingale)」の作者である。現在は引退し音楽活動に時間を費やしているが、有害な社会の分極化を解消する取り組みを行う草の根団体「ブレイバー・エンジェルズ (https://braverangels.org)」 の活動に力を注ぎ、AIによる分極化と闘う「タスクフォース」の共同議長を務めている。

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