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FAWA(アジア太平洋女性連盟)が東京で創立65周年記念総会を開催

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.
今年65周年を迎えるFAWA(アジア太平洋女性連盟)の総会が、9月14日から19日の5日間にわたって「Women as the Key Force~For Change in the Asia Pacific Region~」をテーマに東京の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。日本、アメリカ、グアム、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、香港、インドネシア、マレーシア、マーシャルアイランドから代表団が参加した。INPS Japanからは浅霧理事長が尾崎行雄記念財団の石田尊昭事務局長(一冊の会理事長)の招待で参加し、ドキュメンタリーの制作を担当した。

With the theme “Women as the Key Force~For Change in the Asia Pacific Region ~” the 24Th FAWA Convention in Tokyo 2023 was held at National Olympic Memorial Youth Center between Sept 14 – 19, 2023. Delegates from Japan, the U.S., Guam, the Philippines, Singapore, South Korea, Taiwan, Hong Kong, Indonesia, Malaysia, Guam, and the Marshall Islands participated in the conference. Katsuhiro Asagiri, President and multimedia director of INPS Japan filmed the convention at the invitation of the Secretary General of Ozaki Yukio Memorial Foundation, Takaaki Ishida, who is also President of ‘Issatsu no kai‘, a Japanese NGO.

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汚染された海を守る公海条約が現実のものに

【国連IDN=タリフ・ディーン】

「世界の海洋を保護するための記念碑的な勝利」と称された歴史的な新国際条約が、国連総会で世界の政治指導者らよるハイレベル会合が開催中の9月20日に加盟国に署名開放される予定だ。

新条約は、違法かつ過剰な漁獲やプラスチック公害、無差別な海底採掘、海洋生態系の破壊などによって壊されてきた世界の公海のあり方について規制するものだ。

「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)に関する条約」を正式名称とする国連公海条約は、約20年の協議の末に合意されたものであり、国連の193の加盟国のうち60カ国が批准した時点で発効する。

批准プロセスとは、各国の法律に応じて、元首あるいは議会による最終承認を得るものである。米国では、大統領が条約に署名はできるが、批准には上院の3分の2以上の賛成を要する。

長くかかった条約協議においては、海洋遺伝資源(MGRs)、海洋保護区を含めた区域型管理ツール(ABMTs)、海洋保護区域(MPAs)、環境影響評価(EIAs)、能力構築及び海洋技術の移転(CB&TT)の5つの要素を含むパッケージが議論された。

今年の条約署名イベントで焦点が当てられた52本の多国間条約の中で、本条約を含む17本が環境関連であった。

多国間主義の勝利

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

2023年6月19日に採択されたこの歴史的な条約は「多国間主義の勝利」であると国連のアントニオ・グテーレス事務総長は評した。

国連の海洋問題海洋法局のウラジミール・ジャレス局長は、条約の重要性をあらためて強調して「海は危機にある」と指摘したうえで、「国連は加盟国がこの条約に普遍的に参加することを望んでおり、条約署名はその第一歩だ。」と語った。

国連条約課のデビッド・ナノプロス課長は9月14日、記者団に対し、「これらの条約への普遍的な参加は、その成功の絶対的な基礎となる。」と語った。

ナノプロス課長は、「オゾン層破壊物質の規制に関するモントリオール議定書は100種類近いオゾン破壊物質を規制しており、オゾン層の修復と地球温暖化の抑制に効果を発揮してきた。」と指摘したうえで、「同条約への普遍的な参加により、オゾン層は完全回復の途上にある。」と語った。

グリーンピースは、9月14日に発表された新たな報告書で、海洋への脅威に関する分析を行った。

『30×30:グローバル公海条約から海洋の保護へ』と題された報告書は、世界の海洋の30%を2030年までに保護する政治的なロードマップを提示した。

グリーンピースのこの報告書は「海洋の健康に対する脅威がきわめて高い程度にある」事実を述べ、国連公海条約を用いた緊急の保護を呼びかけている。

2018年から22年にかけて、公海での漁業活動は8.5%増えて計850万時間近くになり、「30×30」目標で保護しようとしている領域においては22.5%もの増加が見られるという。

こうした最近の動向は、海洋の現実は条約が目指すところと真逆に進んでいる状況を示しているとグリーンピースは指摘している。

SDGsに即した新条約

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

報告書は、漁業に並んで、海洋の温暖化、酸性化、汚染、それに深海での採掘という最近の脅威が海洋生態系にいかに悪影響を与えているかを分析し、公海条約を利用して「30×30」の目標を達成するための政治的行動を取ることが急務であると訴えている。

はえ縄漁が公海漁業の4分の3を占めるが、目的としない魚が多く網にかかってしまうため、破壊的な漁獲法だとされている。

現在、公海のうち保護されているのは1%に満たず、「30×30」目標を達成するには、1100万平方キロの海洋を毎年保護する必要がある。

「国家管轄権外区域の海洋生物多様性に関する国連臨時作業部会」の共同議長を務めたパリサ・コホナ博士は、「新条約は国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿ったものであり、海洋保護という目標に資するだけでなく、利益の共有と技術移転をめざすものだ。」と語った。

「海洋保護に向けたNGOの熱意は賞賛すべきだたが、漁業によって生計を保ち収入を得ている数多くの人々との利益のバランスも考えねばならない。」とコホナ博士は指摘した。

同氏によれば、途上国の数多くの人々が生活のために漁業に依存し、他の生計手段を持たない、という。

同時に、海産物はグローバル・サウスの多くの人々の主要なタンパク源でもある。コホナ博士は元スリランカ国連大使でもあり、最近は駐中国大使も務めていた。

同氏は、食料危機の可能性によって脅かされている世界にあっては、漁業に依存している多数の人々のことを忘れてはならないと指摘した。

人類と海洋の関係

「海洋保護と同じぐらいの熱意をもって、条約にある利益共有・技術移転の条項をある程度履行することで、グローバル・サウスのニーズに応えることができるかもしれない。」

このことを念頭に置きつつ、「条約の署名開放を歓迎せねばならない。新条約は人類と海洋とのあらたな側面を画することになろう。生命は海から生まれ、海は生命を支え続けることだろう。」とコホナ博士は語った。

グリーンピースの「海を守れキャンペーン」のクリス・ソーンは「公海条約は自然にとって歴史的な勝利ではあるが、我々が報告書で示したように、海洋生物への脅威は日々悪化している。」と指摘したうえで、「条約は海洋保護のための強力なツールとなるが、各国政府は緊急に条約を批准し、海が回復し繁栄する余地を海に与えるべく、海洋の保護地区を保たねばならない。」と語った。

ソーンはまた、「海における破壊的な行為が海洋の健康の将来を損ねており、したがって地球全体の健康をも損ねている。」と語った。

海の生命にチャンスを与えるためには、2030年までに少なくとも海洋の30%が海洋保護地区の設定によって保護されねばならない。

「そこまで7年しかない。海洋保護に熱心な国家は、来週の国連総会において公海条約に署名し、2025年の国連会議までに批准を済ませるようにしなければならない。」

グリーンピースの報告書はまた、条約を利用して海洋保護地区を確立するための政治的ステップや行動についても紹介している。

また、生態系的な重要性から特に3ヶ所の公海上の海域を挙げて、保護地区とするよう訴えている。すなわち、北西太平洋の天皇海山群、大西洋のサルガッソ海、オーストラリアとニュージーランドの間にある南タスマン海(ロード卿海丘)の3ヶ所である。(原文へ

INPS Japan

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アジア太平洋からインド太平洋へのシフトは誰のためか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2023年4月25日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 “アジア太平洋の時代は終わり、インド太平洋の新時代が始まった”

【Global Outlook=文正仁】

韓国や米国のみならず欧州で開かれる国際会議でも、このような発言がよく聞かれるようになった。インド太平洋という地政学的概念が、アジア太平洋という地理的概念に取って代わりつつある。

アジア太平洋秩序は本当に終わりを迎えたのだろうか? 私は同意する気になれない。

地域秩序の劇的な変化は、大国間の大規模な戦争やこれらの国における革命のような内政変化の結果として生じる。最もよく知られた例として、ナポレオン戦争後のウィーン体制、第一次世界大戦後の国際連盟、第二次世界大戦後の米ソの冷戦対立、そしてソ連崩壊がもたらしたポスト冷戦秩序などがある。(

筆者が極めて特異と感じるのは、従来のアジア太平洋秩序がいまだ健在であるにもかかわらず、日本の安倍晋三首相が最初に提唱し、米国のドナルド・トランプ、ジョー・バイデン両大統領が練り上げたインド太平洋戦略と、それがもたらした地域における新秩序が、これほど短期間で支配的パラダイムとして浮上したことである。

1990年代初めに冷戦が終焉を迎えたとき、米国が主導する一極体制のもとで地域再編成が起こった。まず、EUが独立した経済圏の形成に動いた。後れを取ることを恐れた米国は、カナダとメキシコを加えて北米自由貿易協定を締結し、さらに、日本とオーストラリアが音頭を取ったアジア太平洋経済協力(APEC)会議においても積極的な役割を果たした。

それが、アジア太平洋の時代の幕開けである。

ポスト冷戦時代のアジア太平洋秩序は、いくつかの点で前向きなものだった。

アジア、北南米、環太平洋の21カ国からなるAPECは、開かれた地域主義と自由貿易の最たる例となった。先進国と途上国の意見の相違など多くの課題は確かにあったものの、この枠組みからさまざまな2国間自由貿易協定のほか、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、ASEAN自由貿易地域(AFTA)といった多国間協定が生まれた。

さらに、アジア欧州会合(ASEM)の発足はアジアと欧州の結び付きを生み出し、地域的な自由貿易秩序の基礎としての役割を果たした。毎年開催されるAPECサミットは、政治や安全保障について首脳レベルで協議するフォーラムとなった。また、ASEANは、中国とロシアを含むアジア太平洋地域の安全保障協議を主導し、多国間レベルでの安全保障協力の新たな可能性を切り開いた。

政治体制や価値観が多様に異なるにもかかわらず、地域の交流と協力がより活発になり、ある程度の戦略的コンセンサスの形成をもたらした。1990年代以降にアジア太平洋地域が享受してきた平和と繁栄は、大陸国と海洋国の両方にまたがるこの地域秩序のたまものと言っても過言ではない。

インド太平洋戦略はインド洋と太平洋を「自由で開かれた」(米国の表現)あるいは「平和で繁栄した」(韓国の表現)ものにすることを目指し、協力の原則(韓国の表現)と同様、包摂、信頼、互恵を表現しているものの、その戦略にはアジア太平洋秩序との重大な違いがある。

インド太平洋戦略の構成グループと見なし得る日米韓の3カ国軍事協力、さらには4カ国戦略対話、AUKUS、NATOの勢力拡大を見れば一目瞭然である。

インド太平洋戦略は本質的に、太平洋、インド洋、大西洋を結び付けようという米国の伝統的海洋戦略を具現化した最新の策であり、また、現状を変更して影響力を広げようとする中国の試みを封じ込めるための地政学的な一手でもある。そのため、この戦略は集団的自衛権と排他的同盟に重点を置いている。

そのような戦略を正当化する理由として、「価値観外交」の「我ら対彼ら」というロジックが用いられる。中国、ロシア、北朝鮮のような専制主義国家の枢軸に対抗するために、民主主義国家が集まって連合を組むというわけである。

経済分野では、この戦略はインド太平洋経済枠組み(IPEF)の閉鎖的な地域主義によって特徴付けられる。米国は友好国や同盟国に対し、貿易および技術分野における中国とのデカップリングを強く求めている。リショアリング、ニアショアリング、フレンド・ショアリングといった言葉が示すように、インド太平洋におけるこの戦略の最終目標は、中国の排除である。

国際通貨基金による最近の報告書は、この種の地政学的および地経学的な再編成はグローバル経済に致命的な害を及ぼすだろうと警告している。

インド太平洋戦略は、中国の台頭を実存的脅威と見なす米国と日本の立場から見れば非常に道理にかなったものかもしれないが、彼らの意見や利益は、地域の他の国々のそれとは大きく異なるかもしれない。

そういった国々が二つの秩序のうちどちらかを選ぶことを余儀なくされた結果、深刻な巻き添え被害が生じ得ることを考えると、なおさらである。

さらに、アジア太平洋秩序は今なお非常に有益であり、それを葬り去ることは到底できない。

しかし残念なことに、ほとんどの国はインド太平洋への移行を無批判に受け入れており、学識者や政策決定者の間でこの移行の適切性に関する中身のある議論は全くなされていない。

アジア太平洋秩序とインド太平洋秩序が共存する、さらには共栄する道は本当にないのだろうか? インド太平洋戦略に加わることによる地域のコストと利益を、誰かが算出するべきではないだろうか? 韓国のような半島国家の場合、大陸を捨てて海洋戦略と運命を共にすることが現実に望ましいことだろうか?

韓国は長年にわたり、アジア太平洋秩序による恩恵を最も受けてきた国である。今こそ、活発な議論と討論を通して韓国自身の答えを見いだすべきである。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。これまで文在寅大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

INPS Japan

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不可能を可能に:ハンセン病制圧への生涯をかけた闘い

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ】

1974年、笹川陽平氏は、父親が資金援助していたハンセン病療養所に同行した際、病棟でじっと無表情でいる患者達を目の当たりにした。室内はハンセン病の臭いが充満していた―傷口から出る膿の匂いだった。

父は患者の横に座り、彼らの手と顔に触れ、「希望を持つように。」と励ましていた。当時すでにハンセン病は治療可能な病気であり、彼らが生きる希望はあったのだ。笹川氏はその時、ふと療養所の外で生活しているハンセン病患者たちを待ち受ける人生—差別と疎外にまみれた困難な人生—に思いをめぐらした。彼は静かに頭を垂れ、ハンセン病撲滅に生涯をささげることを決意した。

Yohei Sasakawa chronicles his campaign to rid the world of leprosy in his biography Making the Impossible Possible. Credit: Hurst Publishers
Yohei Sasakawa chronicles his campaign to rid the world of leprosy in his biography Making the Impossible Possible. Credit: Hurst Publishers

笹川氏の新著『不可能を可能にする(Making the Impossible Possible)』は、古来から多くの神話と誤解にまみれたこの病気との直接的な闘いを記録したものだ。2001年から務めるWHOハンセン病制圧大使として、ハンセン病が拡がっている70近い国を200回以上にわたって訪問している。

「訪問地のほとんどは、人々がきわめて厳しい状況下で生きる辺鄙な土地ばかりです。問題が起きているところはまさにその解決策が見つかる場所でもあるというのが私の信念です。」と笹川氏は語った。

「私はまた、知行合一(知ることと行うことは分離不可能)という新儒学の教えを信奉しています。私は行動する人間でありたいと思っています。私の息が続く限り現場で関わり続けるという熱情をもって国際人道支援活動に関与してきました。その意味で、私の仕事は私の個人的な満足のためにあると認めるのにやぶさかではありません。」

笹川氏がハンセン病制圧に取り組んだ足跡を振り返る中、笹川ハンセン病イニシアチブとノルウェーのベルゲン大学は、6月21・22日両日、「らい菌発見150周年記念ハンセン病ベルゲン国際会議」を共催した。

この会議は、ノルウェーの医師ゲルハール・アルマウェル・ハンセン博士によってハンセン病の原因菌である「らい菌」が1873年2月28日に発見されたことにちなんで開催される。この歴史的な記念日を記念して、150年経った今も、ハンセン病は決して過去の病気ではないことを強調しようとするものである。

ハンセン病は今なお顧みられない熱帯病として世界120カ国以上に存在し、毎年少なくとも20万人の新規患者が報告されている。しかし、この半世紀にわたる進歩によって、世界はハンセン病撲滅の目標へと近づいている。

ベルゲン会議は、らい菌が初めて観察された地で、多くの人々の知識と経験、英知から学び、この旅の中で最も困難な「ハンセン病撲滅」という最後の行程(ラストワンマイル)を完走する機運を高める機会である。

Geographical distribution of new cases of Hansen’s disease reported to WHO in 2016. Courtesy of WHO
Geographical distribution of new cases of Hansen’s disease reported to WHO in 2016. Courtesy of WHO

笹川氏の新著は、これまでに特定された課題や成果、ベストプラクティス、得られた経験や知己など、この旧来からの病気を撲滅する数十年に及ぶマラソンの最後の1マイルを走りきるために必要な洞察の宝庫が記されている。

この著は、「ハンセン病とそれが生んだ差別のない世界」を目指す笹川氏の最も詳細な記録である。

SDGs Goal NO.10
SDGs Goal NO.10

本書は、ハンセン病患者・回復者の声を直接聞くために世界各地の遠隔地を訪れ、政策立案者、政府の指導者、元首らと会談し、病患の人権を守るための措置などハンセン病に対する闘いへの新たな取り組みを提唱した記録である。 

「私が記憶する限り、これまで出席してきたあらゆる会合や会議、記者会見では3つのメッセージを繰り返し述べてきました。その第一は、ハンセン病は治療可能だということです。第二は、世界中で無料で治療が受けられるということ。第三は、ハンセン病に罹患した人びとへの差別は絶対にあってはならないということです。」と笹川氏は強調した。

「これらのメッセージを理解することは容易です。しかし、『差別は絶対にあってはならない』という3つ目のメッセージだけは、実践するのが容易ではありません。人間の生涯にわたって沁みついてしまった差別感情を払しょくするのは難しいからだ。」

「同様に、これらのメッセージは今回の2日間にわたる会議でも繰り返されるだろう。今日、ハンセン病は多剤併用療法(MDT)を通じて治療可能ですが、治療が遅れると障害が進行し、生涯にわたって困難を抱えることとなります。」

治療の遅れやその結果として生じる障害は、ハンセン病をめぐる偏見につながり、患者や家族が依然として差別に直面し続けている。差別のため病院で診察を受けることを躊躇する人々も多く、新規患者発見の障害にもなっている

世界保健機関(WHO)を中心に、多くの国や国際機関が2030年までにハンセン病ゼロ(疾病ゼロ、障害ゼロ、差別ゼロ)を目指している。

この目標の達成には関係者の緊密な協力が必要だ。この目的のため、今回の2日間の会議は世界各地から関係者を集め、医療・社会・歴史の3つの側面から議論を行った。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官、ノルウェーのイングヴィル・ヒャールコール保健・ケアサービス担当相がメッセージを寄せた。

The Bergen International Conference on Hansen’s Disease: 150 Years Since the Discovery of the Leprosy Bacillus. Photo: Sasakawa Health Foundation.
The Bergen International Conference on Hansen’s Disease: 150 Years Since the Discovery of the Leprosy Bacillus. Photo: Sasakawa Health Foundation.

また、ポール・ファイン・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院教授や、「ハンセン病回復者とその家族に対する差別撤廃に関する国連特別報告者」のアリス・クルス博士も基調講演を行った。

会議は、笹川ハンセン病イニシアチブが2021年に立ち上げたキャンペーン「ハンセン病/らい病を忘れるな」の一環である。2022年にインドのハイデラバードで開催した「ハンセン病に関する市民組織グローバルフォーラム」や、2023年の「ハンセン病に関するバチカン国際シンポジウム」、「ハンセン病患者に対するスティグマと差別を終わらせる2023年グローバル・アピール」に引き続いて開催されたもので、らい菌発見150年を記念している。(原文

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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長崎からウィーンへ:核兵器のない未来を目指す若者たち

【ウィーンIDN=髙橋光宣】

2026年NPT再検討会議第1回準備委員会が、7月31日から8月11日まで、オーストリアのウィーン国際センターで開催されました。国連でこのような国際会議に出席するのは初めてでした。命がけで声を上げてきた多くの長崎の被爆者の思いと、核兵器のない世界の実現に向けて、たゆまぬ努力を続けてきた多くの人々の願いを胸に、私はウィーンに到着しました。

The Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT) took place from 31 July to 11 August at the United Nations in Vienna. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
The Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT) took place from 31 July to 11 August at the United Nations in Vienna. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

過去2回のNPT再検討会議では、締約国間の意見の相違から最終文書を採択できなかったため、今回の準備委員会は、現在の議論の流れを変えるための重要な節目となることが期待されていました。しかし、2週間にわたる熱心な議論の末、議長総括を国連の公式文書として採択する合意が得られないまま、第1回準備委員会は終了しました。

私は、グローバル・ヒバクシャや若者の声を、もっと世界に広めるべきだと感じました。

準備委員会2日目、私はカザフスタンのセメイ市(旧:セミパラチンスク)の出身で、核実験被害者3世であるドミトリー・ヴェセロフ氏と出会いました。カザフスタンがソビエト連邦(ソ連)の一部だった頃、セミパラチンスク核実験場では、450回以上の核実験が行われ、150万人が影響を受けています。ヴェセロフ氏と会った際、私は固く握手を交わしました。彼は私の手を自分の肩に置き、骨が欠けていること、生まれてくる子供に影響が及ぶことを心配して、父親になることを諦めたことなどを話してくださいました。

核実験の被害者と会って話をしたのは初めてでした。大きな苦しみを強いられながらも、核兵器廃絶に向けて自らの体験を国際社会に伝え続けようとする、彼の決意に心を動かされました。私は彼との出会いを通して、核兵器の開発・使用によって被害を受けた「グローバル・ヒバクシャ」の経験や思いを、私が住む長崎の地域から、もっと広く伝えていかなければならないという強い責任を感じました。

From L to R: Mitsunobu Takahashi, Dmitriy Vesselov, a third-generation victim of nuclear testing in Semey City, and Alimzhan Akhmetov, the Founder-Director of the Center for International Security and Policy. Credit: SGI.

8月7日、SGIは、「グローバルユースとの対話:被爆体験の継承」と題した関連行事を、青年に焦点を当てている他団体とともに開催。はじめに、参加者は被爆者である小倉桂子さんの英語による証言を視聴。(※小倉さんの被爆証言映像は、こちらよりご覧になれます。)

次に、地域や背景の異なる若者たちとのパネルディスカッションに参加させていただきました。ディスカッションでは、特に若い世代の間で、核兵器問題に対する認識を高めるにはどうすれば良いかについて意見を交わしました。他地域の若者たちが、核兵器の廃絶への責任感を元に、様々工夫して取り組んでいることが、とても印象的でした。

広島・長崎の被爆者の平均年齢が85歳を越え、直接話を聞く機会が減ってきています。その意味で、被爆の実相や被爆者の証言を次の世代に伝えていくことが難しくなっています。

Group photo of speakers at the Side Event. Photo Credit: SGI
Group photo of speakers at the Side Event. Photo Credit: SGI

私が所属する創価学会長崎平和委員会では、1974年から2020年までに計10冊の被爆証言集を発行し、計314名の証言を収録。また、87名の被爆証言映像の撮影も行いました。これらの証言を集めるために、中学生、高校生などの若い世代が中心となり、インタビューを行いました。当初、被爆者の方々は、自分が体験した惨禍を思い出したくないと、証言することをためらっていました。しかし、若者たちの真摯で真剣な態度に、やがて被爆者の方々は、自分の体験を語るようになっていったのです。この取り組みは、若い世代への平和教育の重要な機会となりました。

ほかにも、長崎創価学会青年部として、”ピースウォーク “という教育活動を行っています。この活動は、子どもたちが親と一緒に被爆遺構や平和公園、長崎原爆資料館を訪れる機会を提供することを目的としています。また、大学生の有志が集まり、人類のゴミである核兵器をなくすため、まずは身近なゴミを無くそうと、長崎平和公園周辺の清掃活動も実施しています。

私の魂を揺さぶった被爆証言のひとつは、長崎で被爆された橋本トヨミさんのご証言です。1982年6月、橋本さんは、国連総会第2回軍縮特別総会に出席するためニューヨークを訪れました。その際、核兵器開発に携わった科学者たちと出会い、マサチューセッツ工科大学(MIT)のバーナード・T・フェルド教授に、アメリカ人を恨んでいるのかと問われ、橋本さんは、次のように答えました。 「それはそれは怨みました。こんなに苦しいことはないというくらい苦しみました。でも今は、どこの国の人にも、あなたたちアメリカ人にも、あんな思いはさせたくないと思って行動しとります」と。こうした被爆者の方達の思いに触れ、私も核兵器の廃絶を訴えるようになりました。

今日の若者たちは、広島と長崎の被爆者の高齢化のため、直接、被爆体験を聴くことができる最後の世代です。現在でも、核兵器の開発と使用によって引き起こされた、永続的な影響に苦しんでいる被害者がいます。私は世界中の若者と連帯し、(広島・長崎の)被爆者やグローバル・ヒバクシャの精神を受け継ぎ、継承していくために、周囲の人々との対話、長崎の若者たちとの取り組みを続けていきたいと思います。(原文へ

2026年NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議第1回準備委員会の関連行事で、長崎県の髙橋光宣氏が講演した。タイトルは、「グローバルユースとの対話:被爆体験の継承」。 この関連行事は、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、核時代平和財団(NAPF)、ニュークリア・ユリカ、リバース・ザ・トレンド、創価学会インタナショナル(SGI)、Youth for TPNWが共催した。

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ヘイトスピーチとジェノサイドの衝撃的な関連性

【東京INPS/UN News】

大量虐殺は銃弾やナタで始まるのではなく、ヘイトスピーチから始まる。ホロコーストはガス室から始まったのではなく、ヘイトスピーチから始まったのだ。1994年のルワンダにおけるツチ族に対する大量虐殺は、数十年にわたるヘイトスピーチが民族間の緊張を悪化させたことから始まった。ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるスレブレニツァの虐殺は、党に支配されたメディア・チャンネルを通じて、ボスニアのイスラム教徒を悪者にする絶え間ない民族主義的プロパガンダから始まった。

近年、世界はいくつかの大量残虐行為を目撃してきた。これらの事件の多くで、ヘイトスピーチは「ジェノサイドを含む残虐犯罪の前兆」として認識されている。憎悪を広めるためにソーシャルメディアやデジタル・プラットフォームが使われるようになったのは比較的最近のことだが、政治的利益のために公論が武器化されるのは、残念ながら新しいことではない。歴史が示し続けているように、偽情報と結びついたヘイトスピーチは、汚名、差別、そして大規模な暴力につながる可能性がある。

The Shocking Link Between Hate Speech and Genocide/ UN Story

国連ジェノサイド防止特別顧問のアリス・ンデリトゥが、ヘイトスピーチが現実にもたらす影響と、今後の発生を防ぐために私たち全員ができることについて語った。(原文へ

INPS Japan

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カザフスタンの不朽の遺産: 核実験場から軍縮のリーダーへ

【アスタナINPS Japan/Jibek Joly(Silk Way)TV Channel=浅霧勝浩、クンサヤ・クルメット・ラキモヴァ】

32年前のこの日(1991年8月29日)、セミパラチンスク核実験場は当時ソ連の一部を構成していたカザフスタンで大統領令が出されたことで、モスクワのソビエト連邦政府の立場に反して、永久に閉鎖された。その後ソ連から独立したカザフスタンは、当時世界第4位の核戦力の全廃とロシアへの撤去を実施し、自らの意思で核兵器国から非核兵器国となった世界で最初の国となった。

The “Humanitarian Impact of Nuclear Weapons and the Central Asian Nuclear-Weapon-Free Zone” regional conference held in Astana on Aug 29, 2023. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

それから18年後の2009年、カザフスタンの主導で国連総会はこの核実験場が閉鎖された8月29日を「核実験に反対する国際デー」とする決議案を採択した。再び核兵器が使用される脅威が現実味を帯びている現在、果たして核なき世界を実現することは可能なのだろうか?核兵器の使用や核実験がもたらす脅威について私たちは何を知っておくべきなのだろうか?ジベク・ジョリ(シルクウェイ)テレビとINPSジャパンは、カリプベク・クユコフ氏と、今年の「核実験に反対する国際デー」を記念してカザフスタンの首都アスタナで開催された「核兵器の人道的影響と中央アジア非核兵器地帯」地域会議(カザフスタン外務省、赤十字国際委員会、同国NGOの国際安全保障政策センター、核兵器廃絶国際キャンペーンと創価学会インタナショナル(SGI)が共催)の参加者を取材した。

Kazakhstan’s First Deputy Minister of Foreign Affairs Kairat Umarov delivered a opening speech. Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

地域会議では、開会の挨拶でカザフスタンのカイラト・ウマロフ第一外務副大臣は、核実験に反対する規範と核実験の防止は、核兵器のない世界の実現に向けた努力を進める上で不可欠であると強調した。

また、CISPアリムジャン・アフメートフ所長、赤十字国際委員会中央アジア地域のビルジャナ・ミロシェビッチ代表、寺崎広嗣SGI平和運動総局長が開会の辞を述べた。


午前中の、核兵器使用の「人道的影響」を検証するセッションでは、冒頭、核実験被害者の第3世代であるディミトリー・べセロフ氏が登壇し、核実験が世代を超えて人々の健康に甚大な悪影響を及ぼしてきた実態や、政府の努力にも関わらず被爆者の多くが未だに救済されていない社会状況について力強く証言した。

Credit: Jibek Joly (Silk Way) TV Channel

核兵器に断固反対する

米軍が日本の広島、長崎に原子爆弾を投下してから4年後の1949年8月29日、ソビエト連邦政府が今日のカザフスタン北東部に設置したセミパラチンスク核実験場(日本の四国或いはベルギーの大きさ)で初の核爆発実験が行われ、セミパラチンスク(現在のセメイ市)の住民をはじめすべてのカザフ人の生活が一変することとなった。カザフ人が伝統的に神聖と考えている大地で、実に、地上 25回、空中86 回を含む、456回のもの核実験が40年間に亘って繰り返され、風に乗って周辺に降り注いだ放射性降下物により、推定で150万人以上のカザフ人が影響を受けたとみられている。

Karipbek Kuyukov is an armless painter from Kazakhstan, and global antinuclear weapon testing & nonproliferation activist. Photo Credit: Jibek Joly TV Channel.

しかし核実験は今日まで被害者の生活に深刻な影響を及ぼしている。母親の胎内で被爆し両手がない状態で生まれた著名な画家カリプベク・クユコフ氏も、核実験場周辺の広大な地域で放射線に晒され、遺伝子レベルで引き起こされた多くの健康被害に苦しんできたひとりだ。クユコフ氏は核実験場の閉鎖を決めた大統領令に決定的な影響を与えたネバダ・セミパラチンスク運動に初期の段階から参加したほか、作品を通して核実験の恐ろしさを伝えている。クユコフ氏が筆を口や足の指を使って描く肖像画は、いずれも核実験を生き延びた被害者だ。「核実験で亡くなった方々に思いを馳せながら、自分に課した使命を果たせるよう、祈りながら絵を描いています。」とクユコフ氏は語った。

Dmitriy Vesselov, a third-generation victim of nuclear testing made a powerful testimony at the regional conference. Photo credit: Jibek Joly TV Channel.

地域会議で被爆証言をしたディミトリー・ヴェセロフ氏は、セミパラチンスク出身の被爆3世だ。祖母は胃がんで他界している。彼は鎖骨がないのが特徴の肩鎖関節異骨症を患っており、彼の手はわずかに筋肉と靭帯でのみつながっている状態で、本格的な作業ができない。また骨と頭蓋骨の発達にも異常があり、気管支肺系の病気や関節症にもかかりやすい。「私は頸椎の非癒合症で、直立の姿勢を長く続けていると、脳や神経末端に供給している血管が圧迫され始め、水平の姿勢をとる必要があります。自分の子供たちにこの病気で苦しんでほしくありません。このため、医学が飛躍的に発展して健康な子供が生まれる保証がない限り、私は意図的に子供を作らないことにしています。」とヴェセロフ氏は語った。

Nuclear explosion at Semipalatinsk Nuclear Test Site. Photo credit: Jibek Joly TV Channel.

40年に亘ってセミパラチンスク核実験場で爆発した核兵器の威力は、広島・長崎に投下された原爆の2500倍と推定されている。核対立により、核使用や核実験が及ぼした歴史的な悲劇を繰り返さないことと、今日の被害者への支援の重要性が、地域会議で議論された。

Mr. Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues of SGI which co-organized the regional conference with Kazakh Ministry of Foreign Affairs, CISP, ICAN and ICRC to commemorate the International Day against Nuclear Testing at Kazakh Capital on Aug 29.Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.
Mr. Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues of SGI which co-organized the regional conference with Kazakh Ministry of Foreign Affairs, CISP, ICAN and ICRC to commemorate the International Day against Nuclear Testing at Kazakh Capital on Aug 29.Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

この地域会議を共催した創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長は、地域会議について、「核兵器の脅威というものがかつてなく高まっている中で、改めて核兵器のない世界へどのようなプロセスを進めることができるか。5か国の代表が集まって出発点となる新たな節目だと思っています。」と語った。

また、カザフスタン外務省との協力関係について、「SGIは広島・長崎の被爆経験を持つ日本に本部を置く国際団体ですが、カザフスタンとは核問題について様々な国際会議の場での接点ができ、この数年来、NPT(核不拡散条約)やTPNW(核兵器禁止条約)の場でサイドイベントを共催したり、様々な連携が実現しました。」と説明した。

Interview with Mr Hirotsugu Terasaki, Director General of the Soka Gakkai International (SGI). Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

また、被爆者支援の経験を持つ日本として、カザフスタンが核実験の被害者に対してどのような支援が可能かという質問に対して、「広島・長崎で起こった出来事の後、日本政府や国際社会の協力がどのような形で行われたかという日本の経験は、カザフスタンにとっても参考になる基準があるかと思います。しかし、一つ一つの科学的な根拠がどうしても要請されますので、そのプロセスを丁寧に進めながら、しかし、迅速に今苦しんでいる人たちに手当を国民の支持を得ながらどのようにして合理的な判断を進めることができるか、これは大いにチャレンジすべきだと思います。カザフスタンもその方向でチャレンジを進められるものと期待しています。」と語った。そして、地域会議でも議論された、核兵器の使用・実験による被害者への援助と環境修復とそのための国際協力を定めたTPNWの第6条と第7条の規定について、現在国際社会でこれらの規定を前進せるための議論が行われており、その作業部会の中心である議長にカザフスタンが就任していることを指摘したうえで、「その意味でも、カザフスタンの自国での挑戦が、国際社会の中でもその経験が生かされながら、相乗効果をあげていく方向で進むことを、私たちは全力で支援していきたいと考えています。」と語った。

ヴェセロフ氏は、カザフスタンでは核実験の被災者に対する国の支援として、国家から特別な医療保険や給付金が支給されているが、身体障がい者として認定されるか、放射線が原因の病気で亡くなった人の家族の一人のみが対象とされているため、彼のように核実験の影響を受けた犠牲者と認定されても、身体障害者として認定されなかった人々は支援の対象にならないなど、多くの核実験の被害者が支援を必ずしも受けられていない現状を訴えた。

ヴェセロフ氏は今後について、「私の苗字『ヴェセロフ』は『楽しい』という意味を持っています。こうした問題を抱えていても、人生は続くのですから、今後も絶望することなく、前を向いて生きていきます。」と語った。また、国際社会に対して訴えたいことはという質問に対して、「私の証言が核兵器の危険性を伝える実例として、そして、小型核兵器の使用や限定的な核戦争について語る人たちへの非難を込めた警鐘として活かされることを希望します。核兵器の被害者の願いは、恐ろしい惨劇が地球上のどこであっても二度と繰り返されないことです。」とヴェセロフ氏は語った。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.

昨年、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領は「核爆発はカザフの国土に深刻な被害をもたらしました。このような悲劇は二度と起こしてはならなりません。わが国は核セキュリティの原則を堅持します。」と語った。地域会議の参加者は、カザフスタンが第3回TPNW締約国会議の議長に指名されたことに注目した。今回の地域会議に参加したセミパラチンスク(セメイ)条約加盟国は、11月27日から12月1日にかけてニューヨークの国連本部で開催される第2回TPNW締約国会合に、少なくともオブザーバーとして出席すること、また早い機会にTPNWに署名・批准することを通じ、中央アジア地域を代表して核軍縮への貢献に取り組むカザフスタンを支援するよう奨励された。(英語版へ

Jibek Joly Logo.

*Jibek Joly(SilkWay) TVチャンネル(カザフスタン共和国大統領テレビ・ラジオ複合体NJSCが所有。)は、2022年9月1日にカザフ語とロシア語で放送を開始。国内ではSilkWayTVチャンネルのファミリー向けエンターテイメント版としてカザフ語に吹き替えられた世界の映画、人気シリーズ、アニメ映画のほか、シルクウェイアーカイブからのベストプロジェクトも放送している。傘下のSilkWayTVチャンネルは同国初の国営衛星テレビチャンネルで3つの人工衛星(HotbIRD 13B、Galaxy 19、Measat 3A)を通じて4大陸118カ国に放送しており、現在の総視聴者数は3億人。同チャンネルはまた、カザフスタンと中央アジアに重点を置いた最新ニュースを5か国語(カザフ語、ロシア語、英語、キルギス語、ウズベク語)で毎日放送している。今回INPS Japanが共同取材した報道ニュースは、カザフ語版ロシア語版英語版が118カ国に放送された。

8月29日のイベントに関する共同報道は、トグジャン・イェッセンベイ元カザフスタン共和国大統領テレビ・ラジオ複合体(NJSC)国際関係部長の協力により実現した。

INPS Japan/Jibek Joly(Silk Way)TV Channel

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近代のシルクロードはラオスに発展をもたらすか

【ビエンチャンIDN=パッタマ・ビライラート】

中国が建設した高速鉄道が2021年12月に開通したことで、ラオスはアジア全域の貿易と観光の機会に開かれた現代のシルクロード・プロジェクトに加わった。しかし、内陸国のラオスがその果実を十分に享受しているか国内では疑問視する声も少なくない。

「ラオス・中国鉄道が開通してから、ラオスへの観光客は増加しています。特にタイ人とベトナム人はラオスへの主要な旅行者であり、中国人は旅行やビジネスのためにラオスを訪れています。」と観光局職員のソムポン・タマヴォン氏はIDNの取材に対して語った。

しかし、ラオスのNGO職員サンフェット・マニヴォン氏はやや懐疑的だ。「中国人観光客がラオスに来ると、中国人が経営するホテルに泊まり、レストランで食事をする。その結果、収入はラオスの人々には行き渡らないのです」と彼は苦言を呈した。

Map of Laos
Map of Laos

「また、中国国境の街ボーテンのように、中国人がカジノやホテルを所有している地域では、人民元が主要な取引通貨となっている。この問題を解決するために、ラオスと中国は今年1月、以前のように他の通貨を経由して両替するのではなく、ラオス・キップと中国元の直接交換を促進することで合意した。

高速鉄道は外国からの乗客を連れてくるだけではなく、ラオス国民の旅行時間も短縮した。これまでタイ国境部の一部を除き鉄道が存在しなかったラオス人の間では、列車旅行に対する憧れが強い。

「以前はヴァンヴィエンまでバスで4時間かかりましたが、今はビエンチャンから電車で55分で着きます。」と、国境を越えてタイのウドンタニで学ぶ看護学生3年生のヴィライポン・ポムチャン氏はIDNの取材に対して語った。彼女の唯一の不満は、列車の出発45分前にしか切符の販売が開始されないため、駅で並ばなければならないことだった。

この鉄道は、中国の習近平国家主席が2013年に打ち出した「一帯一路構想(BRI)」の一環で、東アジアから東南アジア、中央アジア、中東、欧州を陸上と海上の2ルートでつなぐものだ。全体で147カ国が参加している。

2017年5月、ラオスと中国は7つの協力分野(インフラ、農業、能力開発、工業団地、文化・観光、金融・銀行、マーケティング)に焦点を当てた「一帯一路マスタープラン」に署名した。

「ラオス・中国鉄道」は両国間の一帯一路の協力の中では最も優先順位が高い。この鉄道は全長1035キロメートル、時速160キロでラオスの首都ビエンチャンと中国南西部雲南州の州都昆明をつないでいる。かたや同線は中国の全国鉄道網に接続し、もう一方の端では(メコン川の橋を渡る鉄道路線が確立された後)汎アジア鉄道網の一環としてタイやマレーシア、シンガポールに接続する。

ラオス国内の線路は全長422.4キロメートルで、北方の国境の街ボーテンとルアンプラバン、人気の観光地ヴァンヴィエン、首都のビエンチャンを接続する。LCRは、市場や資源へのアクセスを改善し、雇用を創出し、貧困を削減することで、地域に経済・社会的発展をもたらすものと期待されている。

中国ラオス鉄道を有する中国鉄路昆明局集団とラオス中国鉄路によると、2023年4月までにこの国境を越える鉄道の旅客輸送量は1443万人、貨物輸送量は1880万トンに達したという。今日、地元と外国の乗客が席を埋めている。

しかし、プロジェクトによってラオスの債務負担が増えたのではないかという国内外からの批判は絶えない。「東南アジアの水力電力源」になることを目指しているラオスは、電源開発のために多額の債務を抱えており、この鉄道プロジェクトはさらに60億ドルの借金を増やしたと推定されている。

この債務の半額は中国向けで、米国の研究機関「エイドデータ」によると、国営企業による債務としてバランスシート外の扱いになっているものも含めると、ラオスの対中国債務はGDPの65%にも達し、世界的にもかなり高いレベルになっているという。

「ラオスの債務は重く、自らに有利なように交渉を進められていない。一部の果物や野菜、その他のモノが中国から鉄道でラオスに流入している程度です。」と先述のNGO職員のマニヴォン氏はIDNの取材に対して語った。

他方、世界銀行が2023年5月に発表した報告書によると、ラオス-中国間の鉄道路線と新しいドライポートにより、乗客の移動と貿易の流れが促進され、天然資源の輸入が産業活動を活発化させたが、マクロ経済の不安定さと外部要因によって回復が遅れているという。

多額の対外債務を返済する必要性、輸入物価の高騰、外貨の制限により、キップの価値は急落し、高インフレを引き起こし、収入・消費・投資の低迷を招いている。

ラオスの民間組織「中小企業センター」の共同創設者ノイ・マリワン氏は、「熟練労働者の多くがラオスを離れてタイなどで働いています。また、ラオスで設立された多くの外国企業が自国人の専門家を雇用しています。」と指摘したうえで、「中国系農場の非熟練労働に関してすら中国人が雇用されています。ラオスの労働法では、このような場合ラオス人を雇用しなくてはならないと定めていますが、外国企業はラオス人労働者はレベルが低いからと主張しているのです。」と語った。

マニヴォン氏は、「ラオスで中国人はしばしばある種の特権を与えられていると言って差し支えありません。中国人男性が土地を取得する目的でラオス人女性と結婚しているケースもあります。中国系経営者がラオスのバナナ農園に投資し、現在、6万6000エーカーもの農場があります。バナナはラオス・中国鉄道で中国に送られますが、農場で働くラオス人やその家族は残留駆除剤の被害にさらされています。」と付け加えた。

マリワン氏は、「列車の運行により農業分野の中小企業の数が増えました。しかし、それらは資本がないためラオス人が所有しているのではなく、中国の投資家が所有しています。ラオス人にとって、中国人と共同投資できる貴重な機会なのです。」と語った。

マリワン氏はまた、「コロナ禍以前の経済はそれほど悪くなかったが、債務返済時期が訪れてキップの価値が下がり、ラオス経済は脆弱になっています。」と指摘した。加えて、鉄道網によって中小企業が利益を得られるかどうかについても懐疑的な見方を示した。

「農業に携わるラオスの中小企業の多くは、地元市場で製品を販売しています。」とマリワン氏は指摘した。「彼らはまた、列車で製品を輸出したいと考えています、政府の支援は一部の中小企業にしか利用できないため、資本が不足しています。」

ラオスの別の中小企業経営者バウンサビー・インサヴォン氏(仮名)も同じ見方だ。「現在、ラオスの生活費はとても高い。世界銀行やアジア開発銀行が政府を通じて借款をしているが、資金を受けられるだけの条件を満たせる者は多くない。」

ラオス国立大学の学者ホンマラ・フェンシサナヴォン氏は鉄道網が長期的にラオスに経済発展をもたらす可能性についてより楽観的だ。「ラオス・中国鉄道がラオスにもたらすものはあります。」と語るフェンシサナヴォン氏は、中国から靴やかばん、化粧品などを鉄道で取り寄せてオンラインで販売する学生らの存在を指摘した。

China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes - Own work, CC BY-SA 4.0
China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes – Own work, CC BY-SA 4.0

「加えて、中国語を話すスタッフへの需要も高いです。若者たちは、働く意志さえあれば大学の学位など必要なく、中国語を習うこともできます。中国語を習得したら、ラオスの中国系企業に雇ってもらいやすくなるのです。」

「農業分野への投資と成長を通じて、ラオスが自国を維持する希望があることは心強い。ラオス-中国間の鉄道は、中国への輸出を増やす貴重な機会を提供してくれます」とマリワン氏は指摘した。しかし、そのためにはラオスの考え方を変える必要がある、と彼女は主張する。

「ラオス政府と国民は、どのような製品が求められているかを知り、その製品の栽培と販売に投資する必要がある。この方向で努力を続けることで、ラオスは長期的な持続可能性と繁栄を達成することができます」と、マリワン氏は希望に満ちた声で語った。(原文へ

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核武装はソウルにとって得策ではないかもしれない

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2023年5月5日に「ジャパン・タイムズ」紙に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

核武装は、韓国の世界的地位を高めるというよりむしろ傷つける

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール 

2023年5月2日、ペンタゴンの報道官、パット・ライダー准将は、米国のオハイオ級弾道核ミサイル搭載潜水艦が1980年代以降初めて韓国に寄港することを認めた。

この寄港は、米国のジョー・バイデン大統領と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が4月26日、両国の2国間同盟70周年を祝って調印したワシントン宣言に基づく拡大抑止強化の一環である。

この合意は、米国が韓国への「戦略資産の定期的な展開を通じて、抑止力をより可視化する」ことと、新たな核協議グループを創設し、ワシントンが朝鮮半島における脅威事態にどのように備えるかについて、韓国からのインプット拡大を促すことを定めている。これは、グローバルな核不拡散体制の枠内にとどまるために韓国が要求し、支払われた対価である。(

2023年1月、尹は現職の韓国大統領として初めて、韓国が自前の核兵器を持つ可能性を提起した。世論調査では、独自の核抑止力を持つことに賛成する韓国国民の割合が、2016年に60%、2022年に71%、そして2023年1月にはほぼ77%と、上昇の一途をたどっている。これは米国の核兵器の韓国配備より好ましいと考えられ、国民は、米国との同盟、中国との関係、北朝鮮非核化の見通しに生じ得る悪影響については気にしていなかった。

米国による核の傘の信頼性が疑問視されていることに加え、地政学的圧力が高まっていることが、核武装論の魅力を高めている。2022年10月にウラジーミル・プーチン大統領が口にした、世界は第二次世界大戦以来の最も危険な10年に直面しているという警告に異論を唱えるのは難しい。バイデンも同月、核のアルマゲドンについて警告した。一方、中国は着実に核兵器を増強し、その数は世界第3位の410発に達している。それでも、それぞれ5,000発を超えるロシアと米国にははるかに及ばない。

地域で高まるナショナリズム、海洋領土紛争、北朝鮮の核による反抗、米国の抑止力の信頼性に対する疑念は、核武装論の強力な促進剤となっている。ロシアのウクライナ侵攻、一連の核の威嚇、イランの核兵器開発再開を示唆する兆候、相次ぐ北朝鮮のミサイル実験は、「世界最大の火薬樽」としての朝鮮半島に関する懸念をいっそう高めるものにほかならない。

韓国が核武装するための技術的および物質的能力を有することを真に疑うものはいない。国立ソウル大学の原子核工学者、徐鈞烈(ソ・ギュンリョル)教授は、2017年に「ニューヨーク・タイムズ」紙に対し、ソウルはそうと決めれば6カ月で核兵器を製造することができると述べた。唯一の深刻なハードルは、政権の政治的意志だという。彼以外のほとんどの人は、それには3~5年必要だと考えている。

法的な道筋は、例えば北朝鮮が7回目の核実験を行い、ソウルがこれをきっかけとして核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言した場合、容易になるだろう。第10条は、「・・・・・・異常な事態が自国の至高の利益を危うくしている」場合に締約国が条約から脱退することを認めている。ソウルにとって重要な国のうち、この理由に本気で反論する国がどれだけあるだろうか?

日本、EU、米国は、核開発に踏み切った韓国に制裁を科すことはないと思われる。北朝鮮が戦術核弾頭、ICBM能力、水中核攻撃ドローンを獲得し、米中間の緊張が高まる状況において、米国人は、韓国の核抑止力を米国への直接核攻撃のリスクを低減するものと見なすようにさえなるかもしれない。中国に関するソウルとワシントンの政策の食い違いや、世界秩序を担う米国人の意志も能力も低下しているという証拠は、さらなる誘因をもたらす。しかし、韓国が核武装することによって、米国が同盟を完全解消したいという衝動を募らせたとしたら、ソウルはそれで落ち着いていられるのだろうか?

2022年の世論調査は、独自の抑止力を支持する理由について詳細に尋ねた。韓国国民は、北朝鮮を現在最大の脅威と見なしているが、10年後には中国の方が大きな脅威になると考えている。大多数の人が核兵器を望む理由は、北朝鮮以外の脅威に対する防衛のため(39%)、次いで国家の威信向上のため(26%)、北朝鮮の脅威に対抗するため(23%)、そして米国の信頼性に対する疑念のため(10%)だった。

これらの信念の一つ一つが争点となる。韓国が核武装すれば地域に核軍拡競争が勃発し、歯止めのきかないエスカレーションサイクル、誤算、誤解、あるいは事故によって破滅のリスクが劇的に高まるだろう。戦時下の苦い記憶や根強い不信の歴史を背景に持つ東アジアにとって、最も必要ないものはソウルと東京の核をめぐる緊張であり、それはすでに極めて不安定な状態にある地政学的緊張をさらに高めるものである。

韓国が核武装すれば、北朝鮮を非核化しようとする全ての努力が台無しになり、米国との同盟も破綻する恐れがあり、ソウルは中国、北朝鮮、ロシアの足並みを揃えた圧力に対していっそう脆弱になるだろう。それは、ソウルの世界的地位を高めるというよりむしろ傷つける可能性が高い。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の国家安全保障問題特別顧問を務めた文正仁(ムン・ジョンイン)は、さらに踏み込み、韓国の民生原子力産業が米国の1954年原子力法に基づく「123協定」にいかに大きく依存しているかを指摘する。

ラケッシュ・スードは、マンモハン・シン元インド首相の核不拡散・軍縮担当特使を務めた。彼は2022年7月、戸田記念国際平和研究所に寄稿した意見記事において、今日最も喫緊の核政策課題は78年間続いてきた核兵器使用のタブーが破られないようにすることだと論じた。2023年2月、ワシントンに本拠を置く軍備管理協会のダリル・キンボール会長は、その目標に向けたいくつかのステップを説明した。2023年4月、創価学会インタナショナルの池田大作会長は、5月に広島で開催されるG7サミットに対して「核兵器の先制不使用の誓約に関する協議を主導」するよう提言を発表した。

一方、ワシントン宣言は、韓国で盛り上がる核武装論に待ったをかけた。バイデンは、ソウルに対する米国のコミットメントは「揺るぎなく、強固」であり、米国は核兵器も含む全ての能力を用いて拡大抑止を支えると繰り返した。それに対しソウルは、「米国の拡大抑止の約束を全面的に信じ、米国の核抑止力への揺るぎない信頼の重要性、必要性、利益を認識する」と表明した。また、「グローバルな不拡散体制の基礎である」NPTへのコミットメント、そして原子力の平和利用に関する2国間協定へのコミットメントを再確認した。

しかし、2024年の大統領選挙でドナルド・トランプが米国の大統領に再び選ばれたら、韓国は再び神経を尖らせ、エスカレーションサイクルが再び始まるだろう。

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長、および戸田記念国際平和研究所の上級研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。

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核戦争から世界を救った男

市民社会がパリ協定の履行に懸念示す

【ボン/ニューデリーIDN=リタ・ジョシ】

125以上の市民団体が、世界中の地域社会や生態系が甚大な被害を被っている一方で、大手汚染物質排出者がネット・ゼロという欺瞞に満ちた主張を隠れ蓑に排出を続けていることに懸念を表明した。化石燃料から公正かつ平等な形で段階的に撤退することに始まり、公正な負担という原則に則って、現実的かつ大規模で緊急の削減を実現することを求めた。

2015 United Nations Climate Change Conference/ COP21
2015 United Nations Climate Change Conference/ COP21

メキシコのETCグループのシルビア・リベイロ氏は、「パリ協定の下でのメカニズムが、直接空気回収や海洋施肥といった海洋環境を変化させる技術などの気候工学的(ジオエンジニアリング:「人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変)手法を受け入れねばならないのは愚かなことだ。」と語った。

リベイロ氏は、これらの技術が大気中の炭素を効果的かつ恒久的に除去できるという証拠はないと考えている。さらに重要なことは、大汚染企業が排出削減を避けるための口実として利用される可能性があるということだ。多くの国連機関がこれらの技術を禁止するモラトリアムを設定しているため、国連気候変動枠組条約(UNFCC)はその決定を尊重する必要がある。

世界中で気候変動による影響がますます頻発し、激しくなっている今、気候変動関連の行動において時間の浪費は許されない。欺瞞に満ちたネット・ゼロの主張のもと、大口汚染者は排出を続け、地域社会や生態系は大きな被害を被っている。公正かつ公平な化石燃料の段階的な使用停止から始め、フェア・シェアの原則に沿って、現実的かつ深く、緊急に排出量を削減する必要がある。

TOM B.K. GOLDTOOTH

先住民族環境ネットワークのトム・ゴールドトゥース代表は、気候変動の影響緩和についてはグローバルな化石燃料からの脱却がまず優先されねばならないと語った。炭素市場やカーボンオフセット、カーボンプライシング、炭素除去などは、不当に大きな被害を受けている先住民族にとっては不十分だと彼は主張した。

ゴールドトゥース代表によると、こうした戦略は過去20年間、権利侵害や土地収奪、さらに不釣り合いな影響をもたらしただけだという。これらの戦略によって、権利の侵害や土地の奪取、さらなる不当な影響がこの20年間にもたらされてきた。したがって、彼はパリ協定第6条4項の監督機関に対し、炭素市場、オフセット、カーボンプライシングに終止符を打つよう求める彼の訴えを認めるよう求めている。

さらなる炭素市場やカーボンオフセット、炭素除去を解決策とみなしてはならない。先住民族は、これらによる権利の侵害や土地の奪取、さらなる不当な影響をこの20年間経験してきた。パリ協定第6条4項の監督機関は、炭素市場やカーボンオフセット、カーボンプライシングの時代を終わらせるべきとの我々の要求に耳を傾けねばならない。母なる大地は、化石燃料を地球に留めておくことを望んでいるのだ。

地球の友インターナショナルのリセ・マッソン氏は、「炭素除去をめぐる条項を検討している国連機関は、産業界による影響を受けてはならず、土地を基盤にした技術的な炭素除去の形態といった危険な方向に道を開くものであってはならない。」と語った。

「科学的な証拠が示しているものは明らかです。つまり、オフセットは解決策にはならないということです。オフセットは、何よりもまず、世界の開発途上国、小規模農民、先住民に害を及ぼします。時間を無駄にするのをやめ、緊急かつ大胆な、そして現実的な排出削減に取り組もうではありませんか。」とマッソン氏は付け加えた。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

気候正義を要求するグローバル・キャンペーンのグローバル・コーディネーターであるギャディル・ラバデンツ氏は、直接的かつ明確な利益対立の問題を指摘した。すなわち、長年にわたって気候変動を引き起こし、対策に向けた迅速な行動を妨げてきた産業が、意思決定プロセスで役割を果たせるようにしている問題である。

監督機関による協議プロセスによって、市場戦略を指向する関係者や二酸化炭素除去(CDR)産業に、彼らが望むアジェンダをさらに強化する機会が与えられ、その結果、手続きそのものを毀損する事態となっている。UNFCCCが、CDR産業によるこの不規則な権力を放置することなく、真に民衆のための成果をもたらすために、草の根の選択に価値を置くことが不可欠である。

「気候正義を要求するグローバル・キャンペーン」のラチター・グプタ氏によるパリ協定第6条4項による監督機関委員に対する公開書簡はこちらから。(原文へ

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