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トランプ氏の関税攻勢、癇癪、そして貿易戦争──そして世界の戦略的健忘症

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

ドナルド・トランプ大統領が米国への全輸入品に「相互主義」に基づく関税を課すと発表したことで、世界は戦略的な対応ではなく、衝撃で応じた。中国製品への関税は驚異の145%に引き上げられ、ベトナムも46%の関税引き上げの対象に。さらに、従来は米国の同盟国だった欧州諸国も、この経済的な十字砲火に巻き込まれた。

世界貿易機関(WTO)のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は、この動きを受けて、2025年の世界貿易成長率見通しを3.0%から0.2%に大幅下方修正。米国の関税強化とその経済波及効果が主要因であるとし、世界のGDP、金融市場、特に途上国経済への影響に懸念を示した。

しかし、こうした展開に「なぜ驚いているのか?」という疑問も浮かぶ。

トランプ氏の経済戦略は、当初から一貫して明示されてきた。初めて大統領に就任した当初から、彼の貿易哲学は多国間主義ではなく「相互主義」を中核に据えていた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、WTOへの敵対姿勢、そして友好国・敵対国を問わず鉄鋼・アルミへの関税を課した一連の動き──今回の措置は、こうした路線の延長線上にすぎない。

では、なぜ世界は今になって慌てているのか?

それは、米国経済の決意と影響力を過小評価するという「世界的な健忘症」が働いているからかもしれない。米国の経済規模は27兆ドルを超え、世界最大かつ最も回復力のある経済であり、世界最大の消費市場を有している。この巨大市場へのアクセスが武器化された時、その影響は迅速かつ深刻である。

今回の混乱が示しているのは、そうした驚きそのものよりも、世界が長年抱いてきた前提──「米国市場は常に開かれている」という幻想が崩れたことにある。

ここでいくつかの不都合な問いが浮かび上がる:

  • 世界経済は、米国市場への依存度が危険なほど高まっているのではないか?
  • 今回のパニックは過剰反応なのか、それとも貿易戦略を見直すための必要な目覚ましなのか?
  • グローバル・サウスの国々は、なぜ「米国後」の貿易体制に備えてこなかったのか?

経済的側面だけでなく、心理的な要因もあると言われている。脅威は単なる財政的打撃ではなく、「象徴的」な意味合いも持つ。トランプ氏の関税政策は、世界最大の経済大国における「予測可能性の崩壊」を意味する。国際的なルールが一夜にして変わるような状況では、「不確実性」が新たな通貨となり、不確実性こそがグローバル貿易にとって最大の毒である。

米国の最も近いパートナーである欧州諸国でさえ、裏切られたと感じている。長年優遇措置に慣れていた彼らも、今では戦略的ライバルと同列に扱われ、自動車や農産物などの輸出品が二桁の関税を課される事態に。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「かつての“西側”は死んだ」と発言。米国の予測不能な政策に対し、EUの安定性と民主主義、そして自由貿易への姿勢との対比を強調した。

そして中国との関係は、すでに緊張していたところにさらなる悪化を招いている。145%の関税は、もはや「税金」というより「壁」だ。中国のテクノロジーや製造業企業は、事実上米国市場から締め出されることになる。その影響は甚大で、サプライチェーンの混乱、投資の停滞、そして世界の2大経済圏のさらなる分断が避けられない。

European Commission President Ursula von der Leyen
European Commission President Ursula von der Leyen

中国も報復関税として最大125%の関税を米国製品に課すと発表し、中国商務省は「関税をいくら上げても経済的合理性は失われ、米国の政策は世界経済の笑い話になる」と痛烈に批判した。

一方、あまり注目されていないが重要なのは、米国の消費者側の影響である。ウォルマートの棚やフォードやGMのショールームで、これらの関税の影響は確実に現れる。価格は上昇し、商品の供給は減るだろう。「アメリカ・ファースト」の掛け声に歓声を上げていた支持層も、いずれその代償を痛感することになる。

だが、この混乱の中にはあまり語られていない「チャンス」もある。

今回の関税措置が先進工業国に打撃を与える一方で、ラテンアメリカ、サブサハラ・アフリカ、東南アジア、中東の一部など、一部の新興国は比較的軽い10%程度の関税で済んでおり、逆に米国市場での輸出拡大のチャンスを得ている。政治的な必要から再編されつつあるサプライチェーンの中で、これらの国々が存在感を高めるチャンスが到来しているのだ。道のりは容易ではないが、脱・大国依存の可能性が開かれている。

では、こうした政策は持続可能なのか?

トランプ氏は「短期的な痛みが長期的な利益につながる」と信じ、有権者に訴えている。国内製造業の復活、サプライチェーンの再構築、そして米国経済の主導権回復──それが彼の賭けである。ただし、その過程では財政的なコストだけでなく、米国の外交的孤立、国際機関の弱体化、さらには米国を迂回する新たな貿易体制の誕生という代償も伴うだろう。

そして世界はどうするのか?

いまこそ「世界の再設計」が求められている。米国市場に過度に依存してきた国々は、自国市場の強化や多角的な貿易戦略の再構築を真剣に検討する時を迎えているのかもしれない。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/trump-s-tariff-blitz-tantrums-and-trade-wars-and-the-world-s-strategic-amnesia

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初の女性国連事務総長をどう選出するか:国連が直面する困難な課題

【国連IPS=アンワルル・K・チョウドリ】

2025年3月21日、国連の女性の地位委員会(CSW69)の第69回会合が閉幕した。3月10日から2週間にわたり開催されたこの年次会合は、国連の枠組みの中で開催される最大規模の女性活動家たちの集まりとされており、主に市民社会組織を代表する世界各地の女性たちが参加している。今年は、NGO CSW69フォーラムのプラットフォーム上で、実に11,000人を超える参加登録があった。

今年の会合は「北京+30」として宣伝され、1995年に開催された第4回世界女性会議で採択された「北京宣言および行動綱領」の実施状況の確認に焦点が当てられた。また、一部の市民社会活動家たちは、2025年が、2000年に採択された画期的な国連安全保障理事会決議1325(女性の平和と安全保障における貢献の重要性を強調)の25周年でもあると指摘した。

今回初めて、CSW69と並行して開催された市民社会のイベントでは、国連設立から80年間一度も女性が就任していない国連事務総長(UNSG)の選出に女性を選ぶべきだというテーマが取り上げられた。中でも2つのイベントは、次期事務総長に女性を選ぶ緊急性に完全に焦点を当てたものであった。

最初のイベントは、CSW69のプレイベントとして3月5日に開催され、「歴史的な初の女性?フェミニスト女性の国連事務総長に対する各国の反応を追う」と題され、グローバル女性平和構築者ネットワーク(GNWP)、NYU国際問題学部、「1 for 8 Billion」キャンペーンによって主催された。

2つ目のイベントは、CSW69の最終日に開催された「最高レベルのジェンダー平等:女性の事務総長を選出する」と題されたもので、WomanSGキャンペーンと国連制度に関する学術評議会(ACUNS)により主催され、筆者も両方のイベントで登壇した。

現職のアントニオ・グテーレス事務総長(元ポルトガル首相)は、2026年12月31日に2期・10年の任期を終える予定だ。次期事務総長の選出は、同年10月以降になると予想されている。国連憲章第97条は「事務総長は、安全保障理事会の勧告に基づき、総会によって任命される。」と定めている。

この条文の最後の一文が文字通りに解釈されてきたためか、過去に選ばれた事務総長はすべて男性だった。しかし、1945年に署名された国連憲章は、国際的な文書として初めて男女平等の原則を明記したものでもある。

エレノア・ルーズベルトがかつて述べた「重要な決定は、男性のみ、または男性によって支配された集団でなされ、女性が持つ特有の価値が表に出ることはほとんどない」という言葉が、今も現実を突いている。

安全保障を含め、政治の世界はいまだに「男社会」であり、ジェンダー平等を強く掲げる国連ですら、女性のリーダーシップに対して芳しい実績を持っていない。

事務総長に女性を選ぶための3つの提案

私はこれまで繰り返し、女性の事務総長選出を求めてきた。2012年には「文化平和運動(GMCoP)」創設者として、世界のリーダーたちに「次期事務総長に女性を」というアクションを呼びかけた声明を共同で発表した。2016年にも繰り返し強調したが、8つの選挙で女性が選ばれなかったという事実は異常であり、国連に対する信頼を損ねている。

では、次こそ女性の事務総長を実現するにはどうすればよいか。私は次の3つの提案をする:

提案①:「自然な選択肢」=現在の副事務総長アミナ・モハメッド氏(ナイジェリア)

副事務総長は国連の内部を熟知しており、SDGsの策定にも中心的役割を果たした有能で尊敬されるリーダー。彼女を推薦することは最も現実的かつ自然な流れである。

提案②:GRULAC(ラテンアメリカ・カリブ海グループ)から女性のみを候補に出す

地域の持ち回り原則からも、次はこのグループの順番とされている。もし安保理がそれを認め、かつGRULAC加盟国が女性候補のみに絞って提名すれば、必然的に女性から選ばれることになる。

提案③:「非常手段」=総会が安保理の男性候補を拒否する
アンワルル・K・チョウドリ

安保理が男性候補を推す場合、総会がこれを拒否し、再考を促す。2度にわたり拒否すれば、安保理も女性候補を推薦せざるを得なくなる。これは、1997年の地雷禁止条約(オタワ条約)で市民社会が政府の不作為に対抗した「草の根外交」の成功例に倣うものである。

市民社会の力で、国連総会を動かし、80年にわたる「男性専任」の歴史を変えることは可能だ。国連憲章に明記された「任命の最終責任」は193加盟国にある。この原則を活かすことこそが、国連の信頼を回復し、真の意味でのジェンダー平等を実現する第一歩となるだろう。(原文へ)

アンワルル・K・チョウドリー大使は、2000年に安全保障理事会決議1325を主導した国連元大使であり、UNICEF執行理事会の元議長、国連制度の専門家として広く知られる人物。

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米国によるマーシャル諸島での核実験の遺産―正義と責任を求めて

【メルボルンLondon Times=マジド・カーン / ウザイル・アフマド・タヒール】

物理学者オッペンハイマーを描いたハリウッド映画『オッペンハイマー』は、米国による核実験の遺産、特に米国本土およびその海外領土に暮らす先住民コミュニティに与えた壊滅的な影響について、世界的な議論を巻き起こしている。多くの人々にとって、この映画は長らく忘れられていた歴史を再び照らし出し、マーシャル諸島の人々にとっては、彼らの土地、身体、未来を長年にわたって傷つけてきた核実験の痛ましい記憶を呼び起こす契機となった。

Oppenheimer poster/The Nepali Times
Oppenheimer poster/The Nepali Times

マーシャル諸島は、小さな環礁と島々から成る太平洋の国であり、1946年から58年にかけて、米国が23回の核および熱核実験を行った地である。これらの実験の中には、米国がこれまでに行った中で最も強力なものも含まれており、マーシャル諸島の人々に消えることのない傷跡を残した。特に1954年の「キャッスル・ブラボー」水爆実験は、この痛ましい歴史を象徴する出来事である。3月1日に行われたこの実験は、予想を大きく上回る巨大な爆発を引き起こし、キノコ雲は上空40キロメートルまで達した。近隣のロンゲラップ環礁に暮らしていた人々にとって、これは放射線障害による長年の苦しみの始まりであった。

マーシャル諸島の人々の苦難は、1946年に米国が同地で核実験を始めた時点に遡る。ビキニ環礁の住民たちは、実験のために強制移住させられた。米国政府は「たとえ砂州に取り残されたとしても、米国本土の子どものように大切にする」と約束したが、この約束は守られなかった。ビキニ環礁の人々は故郷に戻ることは許されず、他の島に移された人々もまた、想定されていなかった放射線にさらされた。

なかでも悪名高いキャッスル・ブラボー実験は、米国の核兵器開発において飛躍的な進展を目指して行われたものであった。しかしその規模は想定を大きく超え、放射性降下物は危険と見なされていなかった島々にも及んだ。爆心地から160キロ以上離れたロンゲラップ環礁の住民たちも深刻な影響を受け、多くの人が火傷、吐き気、嘔吐などの放射線障害の症状を訴えた。これらの症状は、マーシャル諸島における長期的な健康被害の始まりに過ぎなかった。

放射線被曝は「静かな殺し屋」である。甲状腺がんや白血病といった病気は、放射線との直接的な因果関係が指摘されている。健康被害に加えて、環境への影響も深刻だった。爆発による直接的な被害のみならず、放射性降下物は長年にわたり土地や海、食料供給を汚染し続けている。かつては豊かな植生と動物に恵まれていた地域も、今では荒廃し、人が住むには安全ではなくなった。土地と海と深く結びついて生きてきた人々にとって、この環境破壊は特に痛ましいものである。

Image: The United States conducted the first in a series of high-yield thermonuclear weapon design tests, the Castle Bravo test, at Bikini Atoll, Marshall Islands, as part of Operation Castle on 1 March 1954. Credit: U.S. Department of Energy. Credit: U.S. Department of Energy
Image: The United States conducted the first in a series of high-yield thermonuclear weapon design tests, the Castle Bravo test, at Bikini Atoll, Marshall Islands, as part of Operation Castle on 1 March 1954. Credit: U.S. Department of Energy. Credit: U.S. Department of Energy

米国政府は、健康と環境への被害だけではなく、非倫理的な科学実験によってもマーシャル諸島の人々を傷つけた。1950年代から始まった「プロジェクト4.1」と呼ばれる秘密の医療プログラムでは、被曝した人々を対象に放射線の影響を研究した。長年にわたり、マーシャル諸島の人々には研究の真実は明かされず、必要な保護や医療支援も提供されなかった。1994年にこのプログラムの詳細が機密解除されたことで、マーシャル諸島の人々が「実験台」として扱われていたことが明らかとなり、米国政府への不信はさらに深まった。

米国政府の対応は極めて不十分である。明らかな被害があったにもかかわらず、政府は正式な謝罪を一度も行っていない。1994年、米国とマーシャル諸島は「自由連合盟約(COFA)」を結び、一定の補償はなされたが、これは概ね不十分と見なされている。健康や環境に関する支援も約束通りには行われておらず、米国の誠意を欠いた対応に、マーシャル諸島の人々は見捨てられ、裏切られたと感じている。

キャッスル・ブラボー実験から70周年を迎える今、私たちはこれらの行為の継続的な影響について考え直すべきである。米国政府は対応してきたと主張するかもしれないが、マーシャル諸島の人々にとって、がん、避難、環境破壊といった核実験の影響はいまだに現在進行形である。米国はその加害の責任を果たし、正当な補償を行うべきである。

マーシャル諸島は地政学的に重要な拠点であり、米国軍は太平洋地域での作戦のために同国に基地を置いている。しかし、この戦略的関係には、長年にわたる搾取と裏切りの歴史が横たわっている。マーシャル諸島の人々は、地政学の駒ではない。彼らは正義と承認、そして放射能の影から抜け出して生き直す機会を与えられるべき存在である。

Flag of Marshall Islands
Flag of Marshall Islands

マーシャル諸島が米国に求めることは明確だ―さらなる核補償、そして何よりも正式な謝罪である。これは決して過剰な要求ではなく、一国の超大国が他国の国民に与えた甚大な被害に対する当然の対処である。これらの問題が解決されない限り、米国による核実験の遺産は、マーシャル諸島に米国自身にも深い傷跡として残り続けるだろう。

結論として、マーシャル諸島における核実験の遺産とは、搾取、苦しみ、そして破られた約束の歴史である。マーシャル諸島の人々は、米国の核開発という無謀な追求の犠牲となり、長年にわたり健康被害、環境破壊、避難生活を強いられてきた。米国はこの加害の責任を認め、謝罪し、マーシャル諸島の人々が生活を再建するために必要な補償を提供すべきである。核の正義は、マーシャル諸島のためだけでなく、米国が果たすべき道義的責務として実現されなければならない。(原文へ

INPS Japan/London Post

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開発援助が縮小する時代のフィランソロピー

効果が実証された出産前の栄養投資に集中すべきであり、即効性のない華やかな多部門型プランではない

【カトマンズNepali Times=ウィリアム・ムーア】

公的援助に代わってフィランソロピー(慈善活動)がすべてを担うことはできない。しかし、正しく活用すれば、きわめて力強い原動力となる。

現在、世界的な開発資金は逼迫しており、欧州各国では援助予算が防衛や再軍備に振り向けられ、米国は対外援助の在り方を根本から見直している。こうした中で、援助関係者は苦境に立たされている。

これに対する反応は、主に2つのタイプに分かれる。一つは、フィランソロピーがその穴を埋めるべきだという声。もう一つは、援助から後退する政府を倫理的に非難する立場だ。だが、残念ながら前者は非現実的であり、後者は効果が薄い。

民間の寄付だけで世界規模の課題を解決することはできず、政治家に「あなたたちは道徳的に破綻している」と言っても、味方を増やすことにはつながらない。むしろ、政策決定者の立場に寄り添い、議論の焦点を明確にし、実際に効果のあることに集中する必要がある。

厳しい現実を言えば、多くの政府開発援助(ODA)は、成果よりも手続き重視で設計されており、その多くは「効果」ではなく「体裁」を優先している。フィランソロピーも例外ではない。

私たちエリノア・クルック財団の初期段階では、すべての栄養不良の原因に同時に取り組むという包括的で多部門型のアプローチに資金を提供していた。しかし、その結果は期待外れだった。理論的には魅力的に見えても、栄養不良の改善にはほとんどつながらなかった。

その失敗から学び、私たちは方針を転換した。現在は科学的根拠が確立されており、短期間で効果が見込める領域に絞って資金提供している。

科学的に証明されたシンプルな介入:妊婦向けマルチビタミン

先日パリで開催された「Nutrition for Growth(N4G)」サミットで、私たちは5000万ドルの資金提供を発表した。他のドナーからの2億ドルとともに、妊婦向けマルチビタミン(MMS)の拡充に充てられる。これは10億ドル規模の世界的ロードマップの一環であり、世界中どこに住んでいても妊婦がこのサプリメントにアクセスできるようにすることを目的としている。

この分野における科学的知見は明確である。MMSは、現在も多くの低所得国で使用されている鉄分・葉酸(IFA)タブレットの改良版であり、15種類の栄養素を1錠にまとめて摂取できる。これにより、妊婦の貧血、死産、低出生体重が劇的に減少する。

経済的リターンも高く、1ドルの投資に対して37ドルの効果が見込まれ、乳児死亡率は最大3分の1減少するとされる。

解決策はある、必要なのは意志だけ

母体の健康格差は深刻である。ロンドンでは、妊婦は日常的に包括的なビタミンを受け取るが、ラゴスでは鉄・葉酸すらもらえないことがある。この差は知識の有無ではなく、投資する意志の違いに過ぎない。解決には科学的なブレークスルーは不要で、すでに証明された手法への投資が求められている。

20年以上にわたる研究、ランセット誌の3本の論文、世界銀行の複数の投資報告書は、効果が立証されながらも慢性的に資金が不足している約10の栄養介入策を指摘してきた。それらは、派手な理念的構想ではなく、今すぐ導入できるシンプルで実証的な取り組みである。

例えば、

  • 母乳育児支援
  • ビタミンAの補給
  • 妊婦へのMMS提供
  • 重度栄養不良の子ども向けの特別食(RUTF)

などが含まれる。これらの対策を、栄養不良率の高い9カ国で拡大すれば、5年間で少なくとも200万人の命を救えると試算されている。
必要な資金は年間わずか8億8700万ドルに過ぎない。

小さな投資で、大きな命を救う

2023年だけでも、栄養不良は世界の子どもの死因としてトップとなり、約300万人が命を落とした。これらの死は「避けられない悲劇」ではない。予測可能で、しかも防止にかかる費用はわずかである。

宇宙旅行に何百万ドルも費やす世界で、2ドルのビタミンを妊婦に提供できない理由はない。

今回のN4Gサミットは、五輪と連動して開催されてきたサミット・シリーズの最後となるかもしれない。次回の開催国となる米国は、この伝統を引き継がない可能性を示唆しており、今回パリで表明されたコミットメントは一層の緊急性を帯びている。今や、あいまいな誓約や政治的ポーズでは済まされない。

私たちは、各国政府に過去のような予算規模で援助せよと求めているのではない。残されたODA予算を、効果が証明された対策に的確に使ってほしいと訴えているのだ。

たとえば、MMSへの控えめな投資でさえ、G7各国が防衛費に費やす1週間分の支出未満で、60万人の命を救うことができる。

予算が限られていても、私たちには何百万もの命を救う可能性がある。だがそれは、「あれもこれもやろう」とするのではなく、「正しいことをやる」ことに集中したときに初めて実現する。(原文へ

ウィリアム・ムーア氏は、エリノア・クルック財団CEO、栄養強化基金「Stronger Foundations for Nutrition」議長を務めている。

INPS Japan/Nepali Times

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新年の革命──王政復古を求める穏やかなデモにカトマンズの支持者が集結

【カトマンズNepali Times=シュリスティ・カルキ】

4月8日、ネパール王政復古を掲げる民族主義政党「RPP(国民民主党)」の指導者たちが再びカトマンズの街頭に立ち、力強い演説を行った。ただし今回は、放火や略奪は起きず、警察が実弾や催涙ガスを使用する事態にも至らなかった。

RPPの指導者たちは、3月28日のティンクネでの暴動に関連して逮捕された副党首ラビンドラ・ミシュラや国会議員ドワル・シャムシェル・ラナらの釈放を要求。暴動では2人が死亡しており、指導者たちは「抗議開始前から催涙ガスで挑発してきた政府こそが、犠牲者の責任を負うべきだ。」と非難した。

その後の調査で、警察が高性能のアサルトライフルから少なくとも100発の実弾を発砲していたことが明らかになった。負傷者120人のうち21人が銃弾による傷を負っており、その多くは通行人や帰宅途中の市民だった。

8日にバルクのリングロード沿いで行われた抗議活動は、それ以前のものに比べてかなり穏やかで、RPPの支持者の参加も少なかった。前回の放火や破壊行為によって、特に銀行債務不履行者で医療業界の大物ドゥルガ・プラサイを「司令官」に据えたティンクネ集会への支持が、ギャネンドラ元国王自身への信頼とともに損なわれた可能性がある。

一部の王政支持者は、ギャネンドラが2001年から08年まで国王であった際の過ちを認めているが、長い歳月を経て反省を深め、今ではより規律ある姿勢を見せていると擁護する。彼らはまた、一部のネパール人の間にある「王政時代の国内安定と国際的尊敬」への郷愁に訴えて支持拡大を図っている。

RPPのプラカシュ・チャンドラ・ロハニ氏は次のように述べている。「ネパール人はより良い公共サービス、社会的弱者への機会の提供、そして国家資源の誠実かつ効果的な運用を期待してきた。しかし現在の指導者たちは、その約束を果たせていない。言葉と現実の乖離は広がり、人々の期待は裏切られ、かつて抱いていた敬意は嫌悪へと変わった。」

実際、多くの論者が、過去30年にわたって政権を交代で担ってきた三大政党(UML、ネパリ会議派、マオイスト)とその歴代首相たちに対し、国民の怒りに真摯に向き合うよう警鐘を鳴らしている。

「UML、会議派、マオイストは、自らの姿勢を省みるべきだ」と、『ナガリク』紙の編集長グナラジ・ルイテルは今週の論説で述べた。「既得権益に固執するリーダーたちは、自分の身は守れるかもしれないが、この体制全体を守ることはできない。王政回帰の波を止めるには、若い指導者による統治改革を通じて、国民により良い政治の希望を与える以外にない。」

一方、パンチャヤト体制のような絶対王政復活を目指す急進的な王党派と、立憲君主制を支持する穏健派との間の路線対立が、王政運動全体の力を削いでいる。

RPPとRPPネパールの分裂は、2022年の総選挙において王党派の議席を減らす結果となり、両党は3月の暴動を非難したものの、その責任を政府に押し付ける形を取っている。

皮肉なのは、共和制憲法の廃止を主張する王党派自身が、2022年選挙でUMLと選挙協力していたことである。RPPネパールのカマル・タパ党首はUMLの候補として選挙に出馬したが、ここ最近の2回の集会には参加しておらず、「RPP党旗ではなく国家の旗のもとでの運動にのみ参加する。」と表明している。

RPPのラジェンドラ・リンデン党首は、プラサイ氏の影響力に懸念を示しながらも、党内の急進派を非難することに慎重になっているとされ、内部の亀裂を恐れている様子だ。

また、ギャネンドラ国王を象徴的な存在とするだけの制度に復帰するという主張に対し、果たして本人が形式的な立場に満足するのかという疑念もある。絶対的な支配を志向するギャネンドラが、儀礼的な国王にとどまるとは限らないという見方だ。

ロハニ氏はこう断言する。「今のネパールで、絶対君主制を国民が受け入れることはない。そしてそのことは国民も、ギャネンドラ国王自身も十分に理解している。封建時代のネパールであれば伝統的な王制の制度的機能は通用したかもしれないが、現代社会において絶対君主制は理念的にも現実的にも成立しない。」(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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ジミー・カーター氏を偲んで:国連の視点から

密航対策─ヨーロッパは方針を転換すべきだ(ミシェル・ルヴォワ国際無登録移民協力プラットフォームディレクター)

【ブリュッセルIPS=ミシェル・ルヴォワ

ヨーロッパが人身密航に取り組むために採るべき唯一の合理的かつ人道的な方法は、人々が安全かつ尊厳を保ってヨーロッパに到達できる正規ルートを開くことである。

ヨーロッパの密航対策は、有害で不条理だ。

European Union Flag
European Union Flag

正規の移動経路が不足しているという根本的な問題を放置し、危険な旅を余儀なくされる移民たちを取り締まる代わりに、ヨーロッパ諸国は移民本人、支援者、人権擁護者、ジャーナリスト、弁護士、一般市民をターゲットにし、さらには国境監視産業に数十億ユーロを投じている。

多くの人々が密航に頼るのは、それ以外にヨーロッパへ到達する安全な手段が存在しないからである。だが、「密航者」とされる者への取り締まり(実際には移民自身であることも多い)を強化しても、より良い選択肢が生まれるわけではない。むしろ、人々をさらに危険なルートへと追いやり、支援者を脅かすことになっている。

そして、欧州連合(EU)が新たに提案している「ファシリテーション指令(Facilitation Directive)」は、状況をさらに悪化させるおそれがある。

「連帯」の犯罪化

欧州委員会が2023年末に提案したこの指令は、2002年に導入された「ファシリテーターズ・パッケージ」の更新を意図しているとされている。しかし実際には、古い問題の再生産にすぎない。

現行案は、2023年12月にEU理事会で概ね承認されたが、「密航」の定義を拡大し、刑罰の上限を引き上げている。

欧州議会では今月からこの指令に関する審議が始まり、最終的な採決は夏に予定されており、年末にかけて委員会・理事会との最終交渉に入る見通しだ。

問題なのは、この草案が不法滞在者との連帯的行為に対する刑事罰の回避を、明確に保障していない点にある。「人道条項」が法的拘束力を持つ形で盛り込まれておらず、各国には「連帯行為を犯罪化しないよう望ましい」といった曖昧な提案しかされていない。

これにより、法的な不確実性が高まっており、欧州委員会自身が依頼した調査でもその問題点が認識されている。いくつかの加盟国では極右や反移民勢力が政権を握り、他の国でも台頭している中で、このような曖昧さは、家族、NGO、人権活動家、一般市民による人道的支援が容易に犯罪扱いされる危険性を残す。

これは想像上の話ではない。PICUMでは近年、移民支援に対する「連帯の犯罪化」が着実に増加していることを記録している。

  • 2021年1月〜2022年3月の間に少なくとも89人
  • 2022年には少なくとも102人
  • 2023年には少なくとも117人
    が刑事訴追された。

密航ルートがより危険で不規則になる中で、移民自身が仲間を助けたことを理由に訴追される例も増えている。

これらの数字は氷山の一角に過ぎない。密航に関連して起訴・有罪判決を受けた人の統計や公式データはほとんど存在せず、多くの事例は報道されず、特に移民当事者は報復を恐れて声を上げられない。

命を救った人々が犯罪者扱いされる現実

これらの事例の背後には、海上で命を救い、車に乗せ、シェルターや食料・水・衣類を提供した市民がいる。たとえばラトビアでは、ベラルーシ国境で立ち往生していた移民に食料と水を与えただけで、2人の市民が「不法入国の幇助」で起訴された。

ポーランドでは、ベラルーシ国境に取り残された人々に人道支援を行った5人が、最長5年の禁錮刑に直面している。

イタリアでは数週間前、クルド系イラン人の活動家で映画監督のマイスン・マジディ氏が、2023年に移民上陸に関与したとして人身売買の容疑で逮捕された。彼女は2年4か月の懲役を求刑され、裁判を受けるまでに300日以上も拘留された。

告発の根拠は、船内で食料と水を配ったことを「船長の補佐」と解釈した2人の乗客による証言だったが、のちに彼らは証言を撤回した。

ギリシャでは、エジプト人の漁師とその15歳の息子が密航罪で起訴された。父親が船の操縦を引き受けたのは旅費を払えなかったためだったが、父は予審拘留の末、280年の禁錮刑を宣告された。息子は父と引き離されたうえ、少年裁判所で同様の罪に問われている。

誰が利益を得ているのか?
Credit: Office of the UN High Commissioner for Refugees (UNOHCR)
Credit: Office of the UN High Commissioner for Refugees (UNOHCR)

こうした密航対策は、移民の安全を高めるどころか、むしろ状況を悪化させている。移民研究者のハイン・デ・ハース氏は「密航は移民の原因ではなく、国境管理の結果である」と述べている。

つまり、誰がこれらの政策で得をしているのか?短期的な選挙目当ての政治家だけではない。国境管理、査証、税関対策に充てられるEU予算は、2021~2027年の間に、前期比で135%増加し、28億ユーロから65億ユーロに拡大した。

この予算拡大の大部分は民間企業、とりわけ防衛産業大手(エアバス、タレス、レオナルド、インドラなど)に流れており、彼らは国境監視に経済的利害を持っている。

porCausa財団の調査によれば、スペイン政府は2014~2019年の間に南部国境管理に6億6000万ユーロを支出しており、その大半が10社の大企業に向けられ、国境監視(5億5100万ユーロ)、拘束・強制送還(9780万ユーロ)に使われた。

今、何が必要か?

EU理事会は、ファシリテーション指令の交渉段階において、移民および人道支援の犯罪化につながる余地を残した立場をすでに採用している。

欧州議会には、移民と連帯行為を刑事処罰から守る法的拘束力のある条項を導入するチャンスがまだ残されている。これが導入されなければ、どのような事態が待っているのか、欧州議員たちは十分に理解すべきだ。

指令の枠を超えて、ヨーロッパは理解すべきだ──人身密航に対処するための唯一合理的で人道的な方法は、人々が安全かつ尊厳をもってヨーロッパに到達できる正規ルートを開くことなのである。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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韓国は高齢化を乗り越えられるか?IMFが描く回復の青写真

【ワシントンDC IPS=ラフル・アナンド、ディア・ヌールエルディン、スン・ゼシー、シン・シンディ・シュー】

強固な経済基盤と健全なマクロ経済政策により、韓国経済はここ数年で複数のショックを乗り越えてきた。しかし、他の主要な先進国と比べて潜在成長率の低下がより速く進行しており、今年の経済成長もやや鈍化すると見られている。

さらに、韓国は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでおり、労働供給の減少や投資需要の縮小を通じて、成長の鈍化と生活水準の低下をもたらすおそれがある。

最新のIMF第4条協議報告書(Article IV Report)によれば、2050年までに韓国の労働人口は4分の1以上減少し、潜在成長率は年間平均0.67ポイント低下する可能性があるという。

しかし、希望はある。以下のような改革が、高齢化の悪影響を和らげる助けになる。

労働参加率の向上

とくに女性や高齢者の労働参加を拡大することで、労働供給の減少を抑えることができる。他の先進国の経験を踏まえたシナリオでは、高齢者の労働参加率が3ポイント上昇し、女性の参加率の男女差が半減すると仮定している。この場合、2050年までの高齢化の影響のおよそ5分の1を相殺できるとされる。

資源配分の効率化

産業内の企業間で労働力と資本をより生産性の高い企業に移動させる改革により、総体的な生産性の向上が見込まれる。こうした改革には、企業の設立・廃業に関する規制緩和、資金調達の円滑化、歪んだ補助金の撤廃などが含まれる。上位企業と下位企業の生産性格差が縮小する改革シナリオでは、潜在成長率が年間平均0.22ポイント上昇し、高齢化によるマイナスの約3分の1を打ち消せると分析されている。

人工知能(AI)の活用促進

AIのより広範かつ効果的な導入は、潜在成長率を支える要因となる。AIは経済に次の3つの経路を通じて影響を与える:

1.労働の代替:AIが一部の仕事を人間に代わって担い、生産性は向上するが労働需要は減少する
2.労働の補完:AIが一部の業務を補完し、生産性を高めつつ雇用を維持する
3.総合的な生産性向上:AIが全般的な業務効率を引き上げ、労働需要も増加する

IMFが韓国銀行との共同研究として発表した論文「Transforming the Future: The Impact of Artificial Intelligence in Korea」によれば、これら3つのチャンネルすべてでAIの導入が進んだ場合、潜在成長率は年間平均0.44ポイント押し上げられる可能性があるという。

最終的に、労働参加率の上昇、資源配分の効率化、AIの導入促進といった対策を組み合わせれば、高齢化による経済へのマイナス影響を完全に相殺することも可能だ。

改革を加速させることは、早期の成長実現につながるだけでなく、国民の支持を得る上でも効果的であり、将来のショックへの備えにもなる。さらに、政府が高齢化社会への適応に向けた財政的な余地を確保する上でも重要である。(原文へ

※筆者紹介:ラフル・アナンド氏はIMF韓国担当ミッションチーフ。ディア・ヌールエルディン氏はリサーチ局エコノミスト。スン・ゼシー氏およびシン・シンディ・シュー氏はアジア太平洋局所属のエコノミスト。この記事は、IMFの2024年「韓国国別報告書」および韓国銀行と共同作成された「AIの韓国経済への影響に関する特別報告書」に基づいている。

INPS Japan

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ロヒンギャ難民、バングラデシュにもミャンマーにも安全な居場所はない

【国連IPS=オリト・カリム】

4月4日、ミャンマー当局は、バングラデシュに滞在している約18万人のロヒンギャ難民が帰還の対象となることを確認した。だが、ドナルド・トランプ米統領によるUSAID(米国国際開発庁)支援の削減、そしてミャンマーで深刻化する人道危機の中で、帰還が本当にロヒンギャ難民にとって最善の道なのかは不透明なままである。

Location of Bangladesh
Location of Bangladesh

ラカイン州でミャンマー軍が行った一連の武力攻撃と人権侵害を受け、100万人以上のロヒンギャが民族迫害から逃れ、バングラデシュのコックスバザールに避難した。ロヒンギャはミャンマー政府により市民権を否定されており、現在、世界最大の無国籍民族とされている。コックスバザールは「世界最大の難民居住地」とも言われている。

過去1年間だけで、7万人以上のロヒンギャがバングラデシュへ逃れた。バングラデシュ政府は2018年以降、80万人以上のロヒンギャ難民の名前を帰還対象者として提出してきた。ミャンマー政府はこのうち18万人を帰還対象として認め、さらに7万人については審査中であると発表。さらに、残る55万人についても確認作業を加速するとしている。

しかしながら、2017年の軍事攻撃以降、ミャンマー国内の人道状況はさらに悪化しており、ロヒンギャにとって安全な帰還環境とは到底言えない。ミャンマー国内で続く内戦は、数千人の市民の命を脅かし続けており、政治的・経済的な混乱に加えて、地震によって打撃を受けた保健医療体制も大きく損なわれている。支援団体や政府が安全な帰還を実現することは困難な状況だ。

そもそも、帰還プロセスは、100万人のロヒンギャがバングラデシュへ逃れることとなった根本原因に対処していないという批判もある。

ロヒンギャ難民のシャフィクル・ラフマン氏はこう語る。「何年も待たされた挙げ句、確認されたのは18万人だけ。これはただの目くらましにすぎません。私たちは本当の解決策を求めています。ミャンマーは私たち全員を受け入れるべきであり、市民権と尊厳、権利を保障して帰還させるべきです。それがなければ、このプロセスに意味はありません。」

現在、バングラデシュ国内のロヒンギャ難民は、過密状態、不十分な基本サービス、暴力、気候変動、そして搾取の中で暮らしている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、バングラデシュは自然災害による被害を最も多く受けた国の第3位にランクされている。猛暑、サイクロン、洪水、大雨といった気候変動の影響はロヒンギャに特に深刻な影響を与えている。

「この難民キャンプと、それを受け入れている地域社会は、気候危機の最前線にいます。夏は灼熱で火災のリスクが高まり、モンスーンとサイクロンの季節には洪水や地滑りが家屋や命を奪います」と、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は語った。

コックスバザールの過密も治安悪化を招いている。UNHCRの推計によれば、キャンプ内の避難民の50%以上が女性と少女であり、性暴力や搾取のリスクに常にさらされている。

「夜になると暴力が増す」と、難民たちは国境なき医師団(MSF)に訴えている。あるロヒンギャ難民は「大きな物音を聞くと、ミャンマーにいたときの恐怖がよみがえります。誰かが来て、連れ去られるんじゃないか、もっと酷いことが起こるんじゃないかって。心臓がドキドキして眠れません。安全を感じたいけど、それが難しいんです。」と語った。

MSFの推定によれば、2024年には1,000人以上の若者がミャンマーで武装グループに徴用されたという。暴力の被害者たちは報復を恐れ、正義を求めたり医療を受けたりすることすらできない。

ジャムトリ・クリニックのメンタルヘルス・カウンセラーはこう語る。「多くの患者が暴力を恐れて避難所から出られません。医療施設に行けば家族が狙われるのではと不安なのです。実際に過去に起きたシェルター放火などの暴力が、その恐れの根底にあります。」

USAID
USAID

人道団体や報道機関は、トランプ政権によるUSAID(米国国際開発庁)資金の削減が、帰還支援とロヒンギャの保護体制に深刻な影響を与えていると警告している。グテーレス国連事務総長は、コックスバザールを「資金削減の最も深刻な影響が出る“震源地”」と表現し、「無制御な人道的災害になる」と語った。

国連児童基金(UNICEF)バングラデシュ代表ラナ・フラワーズ氏は、「米国の補助金削減により、ロヒンギャの子どもたち向けサービスが大幅に縮小され、命や安全、将来が危機にさらされている。」と警鐘を鳴らした。また、医療制度の弱体化によって「致死性の高い感染症の発生リスクが増加し、公衆衛生全体が脅かされる。」とも述べている。

ロヒンギャが平和的に帰還するには、彼らを追い出した根本問題に対処しなければならない。フラワーズ氏も「彼らは安全に帰国できる状況にない上に、働く法的権利もありません。」と語った。

Prime Minister of the Republic of the Union of Myanmar Min Aung Hlaing

ロヒンギャ難民の安全な帰還のためには、ミャンマーでの保護体制を強化するための資金が持続的に必要である。ロヒンギャに対する迫害の問題は、法的に解決されなければならない。とりわけ、彼らにミャンマーの市民権を付与するための法改正は、平和的かつ恒久的な帰還に向けたカギとなる。また、国際人道法違反に対する説明責任と透明性の確保も必要だ。

国連ミャンマー人権特別報告者のトム・アンドリューズ氏は次のように述べている。「ロヒンギャの苦しみに対する責任は国家のトップにある。ジェノサイドを主導したミン・アウン・フライン氏は今や非合法かつ正統性のない軍事政権の頂点に立ち、ミャンマー全土の市民に攻撃を加えている。彼は責任を問われ、法廷に立たねばならない。」

そしてこう続けた。「ロヒンギャはもはや空虚な約束にうんざりしている。彼らの子どもたちは政治的な美辞麗句や無意味な国連決議では生きていけない。世界はこの無関心という致命的な麻痺状態を終わらせねばならない。ジェノサイドの責任者に対する即時の措置、そしてロヒンギャの命と未来を救うための行動が今すぐに必要だ。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

トランプ政権による国連やその他の国際機関への敵対姿勢が高まる中、先週ニューヨーク・タイムズのコラムニストが「ちょっと過激かもしれない」として提案したのは、米国が国連から完全に脱退するという案だった。

このコラムニストは、国連本部ビル(39階建て)の「素晴らしいイーストリバーの眺め」を皮肉交じりに称賛し、それを高級マンションに転用したらどうかと提案した。

United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.
United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.

今年2月、ホワイトハウスが発表した大統領令のタイトルは「米国の国連機関からの脱退および資金拠出の終了、ならびにすべての国際機関への支援の見直し」であった。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

トランプ大統領は、これまでに国連人権理事会、世界保健機関(WHO)、気候変動枠組条約から脱退し、さらに国連教育科学文化機関(UNESCO)やパレスチナ難民支援のための国連機関(UNRWA)からの脱退も示唆してきた。また、ローマに本部を置く世界食糧計画(WFP)との契約を打ち切ると発表したが、これは後に「誤り」だとして撤回された。

トランプ氏が関税政策を一部撤回したように、国連機関からの離脱も覆す可能性はあるのか? それは非常に考えにくい。

世界中に広がる米国の関税措置は、長年にわたり築かれてきた国際貿易の基本原則を脅かし、ジュネーブに本部を置く世界貿易機関(WTO)の信用をも損ねている。WTOは国際貿易のルールを扱う唯一の国際機関とされている。

貿易専門のシンクタンク「Hinrich Foundation」の政策部門トップであるデボラ・エルムス氏は、「WTOはもう終わったようなものだ。ただ、今後重要なのは他の加盟国がどう対応するかだ」と語る。「制度を守る姿勢を示すのか? それとも重要な原則や規則を無視するのか?」

トランプ大統領は先週、90日間の猶予を設け、関税の一部を撤回したと発表した。ただし中国はその対象外で、中国からの輸入品には125%の関税が課される。

他国に対しては、10%の一律関税を導入するが、カナダとメキシコは別枠の関税措置となる。欧州連合(EU)には20%、日本には24%、ベトナムには46%の関税が課されていたが、それら一部が撤回された。

中国政府は報復措置として、米国からのすべての輸入品に対して関税を課すと表明。「これは国際貿易のルールに反し、中国の正当な権益を損なう、典型的な一方的ないじめの手法だ」と中国財政部は非難した。

CIVICUS(市民社会組織の世界的連合)の暫定共同事務局長マンディープ・S・ティワナ氏は、「我々は国際秩序の崩壊を招く、価値なき取引外交の時代に入っている」と警鐘を鳴らした。権威主義とポピュリズムの台頭によって、情報を操作し、個人崇拝によって統治する指導者が増え、国際的な規範が破壊されつつあるという。

「市民社会と独立メディアは権力の乱用を抑制する重要な役割を担っているが、前例のない攻撃にさらされている」と彼は指摘する。これは第1次・第2次世界大戦前の状況に類似しており、人類はすでにこの道をたどったことがある。

ティワナ氏は、「市民の組織化と行動こそが、憲法と国際法に刻まれた理想を守る最後の砦である」と述べた。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、関税による経済的影響について記者団に対し、「貿易戦争は極めて否定的な結果をもたらす。勝者はいない。全員が損をする」と語った。

「とりわけ、脆弱な開発途上国が最も深刻な影響を受けるだろう。世界経済が景気後退に陥れば、最も貧しい人々に壊滅的な影響が及ぶ」とも警告した。

Conscience International会長で米国平和学者のジム・ジェニングス博士は、関税を巡る「Hands Off」抗議運動の広がりが、19世紀の保護主義論争を再燃させる恐れがあると述べた。

当時、ウィッグ党(現在の共和党)は高関税を支持し、民主党は労働者階級に配慮し自由貿易を主張していた。リンカーン大統領もかつて関税支持を公言していたが、1860年にはその主張が政治的に不利だと悟って撤回している。

「今日のトランプ氏の言動は市場を混乱させ続けており、ウォール街が求める“安定性”は失われている。アマチュアが経済を操っているようなものだ」とジェニングス氏は批判した。

また、グローバル経済が第3次世界大戦の瀬戸際にある今、貿易戦争は「最も避けるべき事態だ」と強調した。

Democracy Without Bordersの事務局長アンドレアス・ブンメル氏も、米議会が大統領の貿易戦争を静観していることに懸念を表明した。

Ngozi Okonjo-Iweala, Managing Director, World Bank.

一方、米国務省は4月9日、14カ国での国連世界食糧計画(WFP)の緊急支援事業に対する予算カットの一部を「誤って行った」として撤回したと発表した。

中国はWTOに提訴し、米国の関税は「国際経済と貿易秩序の安定を脅かす典型的な一方的ないじめ行為」だと非難している。

WTOのオコンジョ=イウェアラ事務局長は、「今回の措置と、今年初めから導入されたその他の措置を合わせると、今年の世界の物品貿易量は1%程度縮小する可能性がある」と警告した。

これは当初の成長予測から約4ポイントの下方修正に相当する。「このような関税の応酬がさらなる貿易縮小を招く恐れがある」と述べ、WTO加盟国に冷静な対応を呼びかけた。

なお、現在でも世界貿易の約74%は、WTOの「最恵国待遇(MFN)」の下で行われており、これを守ることが重要だと強調した。(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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家畜への置き換えで有害な害虫が増加

【ニューデリーINPS Japan/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

野生動物を家畜に置き換えることで、ダニやダニ媒介性疾患のリスクが増加する可能性があり、動物と人間が共存する環境では病気を媒介する昆虫のリスクをより監視する必要があると研究者たちは指摘している。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

ヒマラヤ地域における家畜の影響について、研究者たちはクモや他の小型捕食者に対する影響を調査した。これらの捕食者は、吸血性のダニや草を食べるバッタなどの害虫を捕食することで生態系のバランスを維持している。

この研究は、インド北部スピティ地方のキバー村(Kibber Village) で14年間にわたり行われ、フェンスで囲った区画でアリ、ハチ、ダニ、クモ、バッタ、甲虫などの節足動物(関節のある足と外骨格を持つ生物)の動向を追跡した。分析の結果、家畜が放牧されている区画では、野生動物が生息する地域と比べてダニの数が多いことが明らかになった。

ダニは野生動物と家畜の両方の間で病気を広めており、世界の牛の80%以上に影響を与えていると研究は指摘している。さらに、ダニは人間にも脅威を与えている。

調査対象地域の野生動物には、バルアル(青羊)、野生のヤク、アイベックス(野生のヤギ)、野生のロバ などが含まれていた。一方、家畜には牛、馬、ロバ、ヤギ、羊 が含まれていた。

Photo: Desert Locusts in Isiolo County, Kenya. Source: FAO
Photo: Desert Locusts in Isiolo County, Kenya. Source: FAO

家畜が放牧されている地域では、草を食べるバッタが大量に発生しており、これらを捕食するクモの数が減少していた。

このことは、在来の野生動物の犠牲による家畜の増加が、生態系に異なる影響を与えることを意味すると、研究の筆頭著者であり、インド科学研究所バンガロール校(Indian Institute of Science Bangalore)の生態科学センターの准教授スマンタ・バグチ(Sumanta Bagchi)氏は指摘している。

「これらの違いは、土地管理と家畜管理の改善に向けた課題と機会の両方を提供しています」とバグチ氏は述べている。

バッタの大量発生は、放牧動物が利用する植生の劣化につながり、ダニやダニの増殖は媒介性疾患のリスクを高める可能性があるという。

ワンヘルス・アプローチの必要性

このような影響に対応するためには、計画的な介入が求められる。バグチ氏は、これは国連の「ワンヘルス(One Health)」アプローチ と一致しており、人間、動物、生態系の健康のバランスを取り、動物から人間に感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)を抑制することを目的としていると述べている。

同氏は、野生動物、家畜、人間が密接に共存する生態系では、媒介性疾患のリスクを監視し、サーベイランスを強化する必要があることを強調した。

クモやその他の節足動物は、栄養循環、受粉、種子散布 などの生態学的機能を果たすと同時に、バッタやダニなどの害虫を捕食している。

放牧動物は、節足動物の食物資源を減少させることで直接的に影響を与えるだけでなく、植生を変化させることで間接的にも影響を及ぼす。

「クモは捕食者として、森林のオオカミや海洋のサメと同様に物質とエネルギーの流れに影響を与えています」と研究では指摘している。「つまり、人間の土地利用は、大型捕食者によるよく知られたカスケード効果(生態系への連鎖的影響)だけでなく、クモのような小型捕食者を介しても影響を及ぼす可能性があるのです。」

インド国立農業科学アカデミー(India’s National Academy of Agricultural Sciences)のフェローで、天然資源管理の専門家であるクリシュナ・ゴパール・サクセナ(Krishna Gopal Saxena)氏は、SciDev.Net の取材に対して、「今回の研究を含め、家畜の影響下でなぜクモの個体数が減少するのか、あるいはどのタイプのクモが影響を受けるのかについて、確定的な説明をした研究はまだ存在していません。」と述べている。

「季節、種、実際の場所など、変数が多すぎるのです。」

バグチ氏も、今回の研究データは、家畜が放牧されている地域でクモや昆虫捕食者が減少し、バッタが増殖する現象について、明確な説明を提供していないことを認めている。

同氏は、植生の変化がクモの餌の捕獲能力に影響を与えている可能性を示唆している。

Ranjit Debraj
Ranjit Debraj

サクセナ氏は、スピティ地域ではバルアル(青羊)などの野生動物が家畜と一緒に放牧している光景がよく見られると述べている。
「家畜と野生草食動物の間で病気が交差感染することは珍しくなく、ダニの拡散だけでなく、消化管寄生虫(胃腸線虫) への懸念もあります。」

同氏は、「家畜、野生動物、植生、害虫、クモなどの捕食性節足動物を結びつける正確なメカニズムを明らかにするために、さらなる調査が必要である」と述べている。

今回の研究は、家畜への依存が増えることで、クモや他の小型捕食者の減少を招き、それが害虫の増殖と生態系のバランスの崩壊につながる可能性があることを示している。この影響は、媒介性疾患のリスク増加や放牧地の劣化など、人間の健康と生態系の維持に関わる課題をもたらす。今後は、さらなる調査を通じて、この複雑な関係性の解明と持続可能な土地管理のための対策が求められる。(原文へ

INPS Japan/ SciDev.Net

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