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|視点|スリランカと日本、 旧友の帰還(ネヴィル・デ・シルヴァ元ロンドン副高等弁務官、ジャーナリスト)

【ロンドンIPS=ネヴィル・デ・シルヴァ】

5月24日、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ大統領が3日間の日程で日本を公式訪問した。昨年9月に安倍晋三元首相の国葬に出席して以来、2度目の来日となる。

ウィクラマシンハ大統領にとって、岸田文雄首相との首脳会談は、安倍元首相の葬儀に合わせて行われたものに続いて2度目となるものであり、スリランカの外交政策の見直しや中国への過度の依存からの脱却における日本の重要性を示している。

また、今回のウィクラマシンハ大統領の訪問には、深刻な経済危機に陥っているスリランカ経済の立て直しに日本政府の一層の支援を求めるとともに、ここ数年、何度も嫌な思いをしてきた日本の投資家に対して、スリランカへの回帰を促す目的があった。

ゴタバヤ・ラジャパクサ前政権は、すでに着工していたコロンボの次世代型路面電車(LRT)整備計画など、日本と合意していた主要プロジェクトを事前通告なしに破棄した。また、コロンボ港の東ターミナル開発に関する日本、インド(およびスリランカ)との3者協定も反故にした。

岸田首相との会談で、ウィクラマシンハ大統領は、日本との過去の関係に遺憾の意を表明し、前政権により中止されたプロジェクトを再開する用意があると語った。

スリランカは昨年4月にデフォルト(=債務不履行状態)を宣言するなど深刻な経済苦境に陥っているが、今回の大統領訪問には、日本との経済協力復活を目指す以上のものが含まれている。スリランカは、凡庸な統治と無能なアドバイザーによって陥った、あるいは陥らされた経済の泥沼から抜け出すための救済策を国際通貨基金(IMF)に求めなければならなかった。

日本との新しい関係は、二国間関係を超えた広い範囲をカバーしている。しかし、高い税金、公共料金の引き上げ、国内物価の高騰に苦しむスリランカの人々にとっては、日々の暮らしが最優先事項である。

Anti-government protest in Sri Lanka on April 13, 2022 in front of the Presidential Secretariat/ Photo by AntanO – Own work, CC BY-SA 4.0

一方、小規模な産業や企業は、莫大な電気料金や水道料金の値上げなどの運営コストに耐えられず閉鎖され、人々は職を失っている。また、医師、エンジニア、測量士、IT・技術者などの専門職が、先進国、途上国を問わず、海外に就職したり、新たな機会を求めて国外に流出している。

日本は、IMFがスリランカに求めている債務再編について、インド・日本・先進国からなる主要債権国会議(パリクラブ)での協議を主導するなど、積極的に支援の手を差し伸べている。また日本は、ジュネーブの国連人権理事会でも、米国、英国、カナダ、一部の欧州諸国のように(タミル人に対する人権問題等を巡って)スリランカを非難する西側諸国とは一定の距離を置いた、より冷静で穏やかなアプローチをしてきた。

さらに、インド洋地域の国際政治が複雑化し、対立が激化する中で、デリケートな外交問題に巻き込まれているスリランカ政府は、インドや欧米とともに、この地域で海軍活動を拡大し存在感を増している中国に対抗する勢力として、日本を捉えている。

しかし、ウィクラマシンハ大統領が日本との関係強化を図ろうとする理由は、他にも2つある。ひとつは国家的なもの。もうひとつは、そうとは思わない人もいるかもしれないが、個人的な理由である。

国家的な動機は、ラジャパクサ政権(マヒンダとゴタバヤの両大統領)の下であまりにも近づきすぎていた中国との関係に距離を置くことである。スリランカはその地政学的位置故に、この地域への影響力拡大を企図する中国の関心を常に惹きつけており、地政学的な嵐の中に巻き込まれる可能性がある。

習近平国家主席と中国指導部は、親欧米、特に親米的とみなしているウィクラマシンハ氏よりも、ラジャパクサ兄弟が権力の座に戻ることを望んでいる。さらに、ウィクラマシンハ氏は、「スリランカにとって日本をより信頼できる友人であり、超大国の野心を持たない国だと考えている」と結論づけることもできる。

もうひとつの理由は、日本の指導者たちがスリランカに対して抱いてきた、または育んできた強い絆にある。その起源は1951年、敗戦国日本の戦後平和条約を作成するために48カ国が集まったサンフランシスコ講和会議まで遡る。

この会議でセイロン(当時)が果たした重要な役割、それはセイロン大蔵大臣(当時)のジュニアス・リチャード・ジャヤワルダナ(通称「JR」)氏の活躍によるものだったことは、今ではあまり知られていないかもしれない。

Junius Richard Jayawardana Photo: Public Domain

ジェヤワルダナ氏は、その親米的な傾向から「ヤンキー・ディッキー」と呼ばれ、1978年にスリランカ初の大統領となった人物で、ラニル・ウィクラマシンハ氏の叔父に当たる。

当時のセイロンは、英国から3年前に独立したばかりであり、日本との関係では第二次世界大戦中の1942年に首都コロンボと英海軍基地があった北部のトリンコマリーを日本軍に空襲された経験を持っていた。日本の将来を決めることになる議論がなされたサンフランシスコ講和会議で、はたして、このインド洋の小国を代表したジェヤワルダナ氏は何を語ったのだろうか。

同会議では、他の国々が日本への制裁を求め、戦時中の損害に対する補償を要求する中、ジェヤワルダナ氏は、日本が自由に未来を築けるよう独立支持を主張すると共に、「憎悪は憎悪によって止むことはなく、慈愛によって止む」との釈尊の言葉(法句経の一節)を引用して、日本に対する戦時賠償請求を放棄する演説を行った。興味深いことに、スリランカと日本はともに仏教国だが、二つの異なる流派(前者が小乗仏教、後者が大乗仏教)に属している。

バンドゥ・デ・シルヴァ元スリランカ大使は、8年前に講和会議を回想した手記の中で、「ジェヤワルダナ氏の演説は大きな拍手で迎えられた。」と述べている。また当時のニューヨーク・タイムズ紙は、「(ジェヤワルダナ氏の演説は)雄弁で哀愁があり、オックスフォード訛りが残る自由なアジアの声が、今日の対日講和会議を支配した」と記している。

2002年にコロンボで開催された外交関係樹立50周年記念式典で、日本大使が述べたことが、両国の友好関係の基礎を最もよく表しているのではないだろうか。

大塚清一郎大使は、サンフランシスコ講和会議でのジェヤワルダナ氏のスピーチを想起しながら、「戦後の厳しい状況の中、日本が灰の中から立ち上がり、国を再建し始めたとき、日本の人々に真の友好の手を差し伸べたのは、スリランカ(当時はセイロン)の政府と人々でした。日本と日本国民は、スリランカ政府と国民が困難な時に差し伸べてくれた友情と大らかさに、心から感謝してきました。この精神に基づき、日本は真の友人として、またスリランカの発展のための建設的なパートナーとして、スリランカとしっかりと肩を並べてきたのです。1951年9月8日、サンフランシスコでジェヤワルダナ氏が語ったこの精神、すなわち友情と信頼によって、50年に亘る両国の二国間関係は導かれてきたのです。」と語った。

しかし、ジェヤワルダナ氏が日本の独立を強く明確に支持したことが、その後のセイロンの立場にネガティブな影響をもたらすことになったかもしれないという見方が存在する。

当時は東西冷戦が激化し始めており、ソ連は日本との平和条約について日本の行動の自由を制限するような修正を提案した。これに対してセイロン代表(=ジェヤワルダナ氏)は、「平和条約は日本国民に言論、報道、出版、宗教的礼拝、政治的意見、公共集会等の基本的自由を与えるものでなければなりません。まさにソ連が修正案で求めているこれらの自由は、ソ連国民自身が持ちたいとあこがれているものである。」と皮肉交じりにソ連の提案に異議を唱えた。

ソ連は、ジェヤワルダ氏が公の場でソ連提案を非難したことへの報復として、セイロンが英国との防衛条約があるため独立国ではない等の理由を挙げて、セイロンの国連加盟をその後何年も阻止した、という説もあるくらいだ。*1)

Japanese Prime Minister Shigeru Yoshida (1878–1967, in office 1946–47 and 48–54) and members of the Japanese envoy sign the Treaty of San Francisco./ Public Domain
Japanese Prime Minister Shigeru Yoshida (1878–1967, in office 1946–47 and 48–54) and members of the Japanese envoy sign the Treaty of San Francisco./ Public Domain

その後セイロンが1956年に国連加盟を果たした経緯は、米ソ間の取引(互いに拒否権を行使して国連加盟を阻止していた国々を互いに承認する取引)の結果である。しかし、それはまた別の話である。(原文へ

*1) ジェイワルダネ氏は、ソ連の修正案に対する反論として、「言論の自由」問題を取り上げてソ連を皮肉ったほか、米国に対して琉球・小笠原両諸島を日本に返還するよう求めたソ連提案を逆手にとって、ソ連が保有する南樺太、千島列島も日本に返還すべきであると主張した。また、インドがサンフランシスコ講和会議に参加しなかったのは「一層寛大な講和を結ぼうとしているためである。」と解説し、ソ連の不興を買ったと言われている。

ネヴィル・デ・シルヴァはスリランカのジャーナリスト。香港の「ザ・スタンダード」で要職を務め、ロンドンの「ジェミニ・ニュース・サービス」に勤務した。ニューヨーク・タイムズやル・モンドなどの特派員を歴任。最近では、スリランカのロンドン副高等弁務官を務めた。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・サイカル

この記事は、2023年3月17日に The Strategistに初出掲載されたものです。

敵対する二つの産油国であるイランとサウジアラビアは、7年にわたる不和の後、中国が仲介した協議で国交回復に合意した。どちらの側も信頼醸成を多分に必要としているものの、両国の和解は米国とイスラエルのタカ派への配慮を犠牲にして、地域の地政学的情勢を変える可能性がある。(

イランとサウジアラビアの長年にわたる宗派対立と地政学的対立は、ペルシャ湾地域における緊張と紛争の大きな火種となってきた。伝統的に、イランはイスラム教シーア派の守護者として自らを位置づけようとしてきたのに対し、サウジアラビアはイスラム教スンニ派の指導権を主張してきた。また、両国とも、地域における地政学的優位を争っている。両国とも、イラク、シリア、レバノン、イエメンといった地域の紛争多発国のいくつかに関与し、互いに敵対している。

伝統的に米国の支援を受けてきたサウジアラビアは、イランの核計画を懸念し、同国を地域的脅威と見なして、中東でイランに敵対するもう一つの米同盟国イスラエルとの水面下の外交ルートを開いた。さらに、湾岸協力会議に加盟するいくつかのパートナー国(特にアラブ首長国連邦とバーレーン)とこのユダヤ国家の国交正常化を後押し、反イラン戦線を形成した。それに対し、イランはロシアおよび中国と密接な関係を築いてきた。2016年初め、サウジが著名なシーア派聖職者を処刑し、テヘランのサウジ大使館をイラン人暴徒が襲撃したことを受けて、リヤドはテヘランとの関係を断絶した。

しかしながら、主人公である両国にとって地域の情勢は近頃変化している。米国の厳しい制裁下にあり、2022年9月以降国民の抗議運動に悩まされているにもかかわらず、イランのイスラム政権はレバント地域(イラクからレバノンまでのエリア)とイエメンにおける地域的影響力を何とか維持しており、ウクライナ紛争では殺傷力のあるドローンをロシアに供給することによってその軍事力を顕示している。

サウジアラビアは、イランの影響力を撃退することもできず、これまで通り米国を非常に頼りになる同盟国として信頼し続けることもできずにいる。米国がイランの抑え込みにもアフガニスタンでの敗北回避にも失敗した今となっては、なおさらである。サウジは、外交関係を多様化し、まさにイランが連帯を確立している相手国、とりわけ中国との密接な関係を築くことが自国の利益になるという認識をますます深めている。

サウジアラビア王国の事実上の若き統治者であるムハンマド・ビン・サルマンは、このような多様化について、彼が人権侵害を犯していると批判するワシントンに対する不満を示唆するだけでなく、2030年までにサウジアラビアを地域の超大国にするという彼の構想を実現する助けになると見なしている。そのために彼は、富の源泉としての炭化水素に対する国の依存度を低減したいと考えている。経済、貿易、投資やハイテク産業の流入を拡大し、社会的・文化的情勢を変化させ、ただし専制政治体制は変えないことを望んでいる。その意味で、彼は中国のモデルにより大きな魅力を見いだしている。

北京は、自らの援助のもとでイランとサウジが和解したことをこれ以上ないほど喜んでいる。それは、近頃のウクライナ和平提案とともに、北京が世界で展開する外交攻勢の一歩を構成する。すなわち、他国への内政不干渉政策を通して国際舞台における調停者としての中国の信用を高めようとする試みである。その根底にあるメッセージは、米国を干渉主義の「戦争屋」国家だと提示することである。それに加え、中国が年間石油需要の約40%を輸入している中東地域と、より深くより広い貿易関係を築くための道筋をつけるものとなる。

こういった展開に、米国とイスラエルが心穏やかでいられるはずはない。両国とも、イランに対する地域の態度が軟化することは、特に中国がそれを後押ししている場合、自国の利益に反すると考えているからである。米国は、イランの核計画、地域的影響力、そして宗教的制約や生活水準低下に抗議してイランの女性たちが声をあげた近頃の国内騒乱への対応について、イラン政権に対して最大限の圧力をかけ続けたいと考えている。また、よりによって米国が封じ込めようとしている国にサウジアラビアが接近するのを見たいとは思っていない。

イスラエルは、イランのイスラム政権を実存的脅威と見なしており、イランが核兵器保有国となることを防ぐためなら何でもすると明言している。両国の影の戦争は、ここしばらくの間膠着状態に陥っている。イスラエルは、シリアやレバノンでイランの標的を頻繁に攻撃しており、イランの核科学者数人を暗殺し、船舶を襲撃している。最近ではより大胆な行動を取り、イランの核施設が立地するイスファハンの防衛施設に直接攻撃を加えた。それに対し、イランは、イスラエルの船舶、情報部員や外交官を標的にし、イスラエルのいかなる敵対行動にも報復すると誓った。

イスラエルとイランが一触即発の状態になったことは何度かある。両国が直接衝突すれば、地域の内外に壊滅的な影響が及ぶだろう。とはいえ、中国が外交、安全保障、情報活動においてイスラエルと良好な協力関係を結んでいることを思い出すのも重要である。北京がここでも介入し、米国が失敗したイスラエル・パレスチナ紛争の解決を実現することを期待できるだろうか? イスラエルが頑なに占領をやめようとせず、米国がイスラエルに揺るぎない戦略的支援を行っている以上、それはまず期待できないだろう。

アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。

INPS Japan

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|フィジー|看護師が海外流出し、医療サービス継続の危機

【スバIDN=ポーリアシ・マテボト】

今年に入り、800人以上の看護師が地元の民間企業に転職したり、主に隣国のオーストラリアやニュージーランドなど海外に移住したりして、より良い環境を求めて去っていったと報じられ、不振にあえぐフィジーの医療業界は新たな大打撃を受けている。

過去の政権が放置してきた医療インフラの老朽化に加えて、低い給与水準や、コロナ禍の間に保健省が医療の質を維持しなかったことで、医療部門は悲惨な状態に陥っている。

整形外科医のエディー・マケイグ博士によると、看護師が大量に離職しており、この1年間だけでも全労働力4分の1にあたる800人以上が海外へ移住しているという。博士によると、医療関係者の離職にはいくつかの理由が考えられる。彼らの主な動機は、賃金待遇や労働条件の悪さ、厳しい政治環境、子供たちのためにより良い機会を求めることにあった。

Fiji on the globe/By TUBS - This vector image includes elements that have been taken or adapted from this file:, CC BY-SA 3.0
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「昨年(2022年)、私たちは807人の看護師を失いましたが、これは3056人の看護師の26.77%に相当します。」と博士は明かし、「社会経済的な問題のために、医療専門家が提供する患者ケアの水準も低下しています。」と指摘した。

「医療提供者が推進し、一般の人々が望み求めている医療を全て提供できるだけの資源がないのです。」と博士は語った。

フィジー中央地区の医療技官であるテビタ・コリニャジ氏は、ノーソリ保健センターには看護師の空きが37人も出ていると話す。また、現在のスタッフは疲弊しており、「医療サービスパシフィック」とのカウンセリングがこのチームのために行われていた。

「この3カ月で辞職した職員61人のうち、16人がナウソリ(首都スバ近郊)出身者でした。人員体制については、138のポストに対して39人の欠員となっています。」とコリニャジ氏は語った。

「当院のGOPD(一般外来)では、週平均2500人の患者が受診しています。この数には、SOPD(専門外来)や産科での診察は含まれていません。」

コリニャジ氏は、「スタッフは過剰労働になっており、特定の部署は閉鎖されている。」と指摘した上で、「現スタッフは業務をカバーするために超過勤務を余儀なくされ、シフト時間も12時間に延長されました。」と語った。

コリニャジ氏はまた、「『小児疾患総合管理(IMCI)』のような通常のサービスを閉鎖せざるを得なかったことも、待ち時間の長期化につながりました。管理部門と保健省は、原因を追究することなく現在のスタッフ不足に対応しようとしています。」と語った。

オーストラリアやニュージーランドの医療部門はこの数年、フィジーの経験豊富なフィジー人看護スタッフを積極的に採用している。オーストラリアで高齢者介護の仕事に就く太平洋諸島の看護師の中には、より高い資格を持つ者もいるはずだ。フィジーの専門家たちは、この地域の医療システムに重大な空白を残す「頭脳流出」を懸念している。

フィジー看護師協会のアリシ・ブディニアボラ会長はIDNの取材に対して、海外で老人介護に従事するためにフィジーを離れる「経験豊富で十分な資格をもった」看護師の多くは、その職務内容以上の資格を持った人々だという。「一部の人々は助産師、一部は高度な診療看護師、一部は一次的診療所の管理者になれるような人々です。これほど高度な資格を持った看護師がフィジーから流出することは大きな損失です。」

海外で働くフィジー出身看護師の数は統計上明らかではない。ブディニアボラ博士はそれでも、そのほとんどがこの半年でオーストラリア・ニュージーランド・中東・米国へと出国したとみている。

医療体制が逼迫してきているにも関わらず、フィジー政府は箝口令を敷いて具体的な数字を明らかにしようとしない。「政府は情報を隠しています。出国者の数字はわからないが、看護師が毎日辞めていっていることだけはわかります。」とブディニアボラ博士は語った。

ブディニアボラ医師は、少なくとも太平洋地域の看護師には、スキルアップの機会が与えられることを望んでいる。「私は、オーストラリアが専門的な能力開発の道筋に目を向け、ただ高齢者ケアに従事させるだけでないことを望んでいます。」

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

コロナ禍の間、オーストラリアのコロナ関連の死者のほとんどは老人ホームに居住していた人々であり、この部門に適切な訓練を受けたスタッフが少ないことが原因であると批判された。

オーストラリアやニュージーランドの高等委員会のコメントは取れていないが、オーストラリア放送局は昨年11月、「太平洋オーストラリア労働移動」(PALM)スキームがフィジーの看護師不足を招いているとの批判はあたらないとの豪州政府の反論について報じている。

PALMスキームによって、さらなる労働力を必要とする同国の企業は太平洋島嶼9カ国と東ティモールから労働力を雇い入れることができるようになった。非熟練、低熟練、準熟練の職種において、最長9ヶ月の季節労働、または1年から4年の長期労働のために労働者を雇うことができる。

豪州政府のウェブサイトでは、「雇用者が、信頼性が高く生産的な労働者を雇用できるようになると同時に、太平洋諸国や東ティモールの労働者が豪州で働き、スキルを伸ばし、自国に送金できるようになる。」と説明されている。

The Pacific Australia Labour Mobility (PALM) scheme

政府は、5月9日に議会に提示された予算で、すでに3万7700人以上を太平洋諸国や東ティモールから雇い入れている同スキームをさらに拡張するとしている。

この制度が最初に導入されたとき、当時のパット・コンロイ国際開発・太平洋大臣は、高齢者ケアに従事するために訓練を受けている太平洋地域の労働者のうち、看護師の資格を持つ者は「ごく一部」であると述べていた。

コンロイ大臣は、「オーストラリアはこの地域の経済発展に貢献したい。太平洋諸国から医療労働力を奪おうという気はない。」と指摘した上で、「同スキームは豪州と太平洋地域の諸国との間に『ウィンウィンの関係』をもたらすものです。労働者が収入を本国に送り、同時にオーストラリアの労働力不足も補うことで、地域の経済発展に大いなる貢献を成しています。」と語った。

匿名で取材に応じた経験30年以上のフィジーのある看護師は、今年の末までにはニュージーランドに移住する計画であるという。その決断は簡単なものではなかったが、自身とその家族のために太平洋を越える決断をしたという。

「ここ数年、私たち(医療従事者)のフィジーでの労働条件は無視されてきました、 そのため、私たちの多くは、新天地を海外に求めるという難しい決断を下しました。看護師の多くが、移住するとまずは老人介護から入り、のちに現地の医療部門に入っていくチャンスを狙います。遠回りではありますが、甘受するしかありません。」と語った。それが、ニュージーランドに移住するフィジーの看護師たちを待っている運命である。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

海外に移住した彼女の同僚たちの多くがすでに海外での生活に慣れ、フィジーの家族への送金を始めているという。家族にとってはボーナスのようなものだ。

他方で、フィジー経済に影響を与える多くの問題に新連立政権が対処しようとする中、看護師の大量海外移住は間違いなく最優先事項となっている。

保健事務次官のジェイムズ・フォン博士は会見で、保健省は、実現可能な解決策を探るために看護師協会のような関連団体と協議を重ねていると記者団に語った。来週までに、すべての関連する政府機関と看護師関係団体を束ねた作業部会で適切な予算を提案することになるという。

フォン博士は、「そこでの提案がどのようなものであれ、すべての当事者の願いを尊重したものでなければなりません。」と語った。事務次官は、保健省は今月末までに、2023-24年度予算において何らかの看護師流出対策を打ち出すことになると示唆した。(原文へ

INPS Japan

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アゼルバイジャンはウクライナへの支援を一貫して続けている

【バクーAzVision=ヴァシフ・フセイノフ】

6月1日、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は、モルドバのキシナウで開催された欧州政治共同体第2回会合で、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ウクライナがロシアの侵略と戦う中、南コーカサス地域の指導者の中でアリエフ大統領が唯一、ウクライナ大統領と会談したことは特別な政治的意義を持つものである。

両首脳は会談で、国際的に認められた国境内での自国の領土保全と主権を相互に支持することを表明した。両首脳がロシア語で話す方が慣れているにもかかわらず、会談であえて英語を使用したことは、非常に象徴的で興味深い点であった。

アゼルバイジャンとウクライナは、公式に互いを「戦略的パートナー」とみなし、国際的に承認された国境の領土保全と不可侵を一貫して支持してきた。ロシアによるウクライナ侵攻が始まる1カ月前、両国間の対立が激化する中、アリエフ大統領は、バルト三国を除く旧ソ連構成国の指導者の中で唯一キーウを訪問し、二国間協力の深化に関する多くの協定に署名、ウクライナの領土保全と主権の支持を表明した。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

したがって、今回の両首脳の会談は、ロシア側からのあらゆる圧力にもかかわらず、アゼルバイジャンが一貫してウクライナを支援していることを示すものであった。アゼルバイジャン政府によると、本格的な戦争が始まって以来、アゼルバイジャン政府はウクライナに約2000万ユーロ相当の人道支援を行ってきた。アゼルバイジャンの国営エネルギー会社SOCARは、ウクライナのガソリンスタンドにおいて、ウクライナ国家緊急サービス(DSNS)が運営する救急車や車両向けに燃料を無料で提供している。SOCARのガソリンスタンドはウクライナ国内に50カ所以上あることから、これはDSNSにとって重要な支援となっている。

さらに、アゼルバイジャンはウクライナに対して、医療品や衣料品など様々な形で援助を行い、人道支援を拡大している。アゼルバイジャンは、電力不足で暖房が不足しているウクライナの地域に、変圧器45台、発電機50台を寄贈した。興味深いことに、ロシア外務省は、アゼルバイジャンによる変圧器と発電機の提供をウクライナへの軍事支援と見なし、「困惑」を表明した。

「アゼルバイジャン政府の措置は不可解である。ロシア連邦軍は、特別軍事作戦の一環として、ウクライナ政府が軍事利用している同国の重要インフラを破壊している。アゼルバイジャンの支援物資は、状況を根本的に変える可能性が低く人道支援には当たらない。」と、ロシア外務省の担当官は2022年12月に地元メディアに語っている。

しかし、こうした反応にアゼルバイジャンがウクライナ支援を止めることはなかった。最近も6月6日にカホフカ水力発電所のダム崩壊の影響を緩和するために、ポンプ、ボート、防護服、制服からなる人道支援をウクライナに提供して連帯の意志を示した。

6月1日の会談の中で、ゼレンスキー大統領は、ウクライナのインフラ再建のために提供されたアゼルバイジャンの支援について、アリエフ大統領に謝意を伝えた。「我々は、キーウ州のインフラ復旧に対する貴国の支援を感謝しています。ウクライナの更なる復興に向けた支援を希望しており、戦後は、貴国がウクライナへの投資プロジェクトに積極的に参加することを期待しています。」と語った。

アゼルバイジャンは、ウクライナへの人道的支援とともに、ロシアによる西側制裁の回避を支援しない旧ソ連圏における数少ない国の1つである。このようなアゼルバイジャン政府の姿勢は、ウクライナへの全体的な支援と一致しており、一部の旧ソ連諸国の姿勢とは対照的である。

例えば、最新の国際レポートでは、「アルメニアのロシアへの輸出は2022年に急増し、前年比187%という驚異的な成長率を記録した」と明らかにされている。しかも、その半分以上が第三国からの輸入品の再輸出であり、制裁回避のために欧米からの輸入品をロシアに振り向ける際にアルメニアが重要な役割を果たしているとの憶測に拍車をかけている。」これは、米国が同国を制裁回避の面で課題を抱える5カ国のうちの1つに挙げている理由として紹介されている。

Map of Azerbaijian
Map of Azerbaijian

この状況は、「アルメニアはロシアによるウクライナ戦争においてロシアの同盟国ではない」と西側諸国を説得しようとしているニコル・パシニャン首相の発言と矛盾している。アゼルバイジャンが現在の地政学的状況においてより独立した立場にあるのは、同国が豊富な天然資源を有し、地理的に、中東回廊と南北輸送回廊の両方に位置しているからだと説明する識者もいる。

しかしこの分析は、アゼルバイジャンのバランス外交と、ロシアの地域的野心に対する独立したスタンスが1990年代半ばまで遡るという事実を無視したものである。数十年前にロシアの軍事・経済ブロックに参加し、アゼルバイジャン領土の約2割を30年以上にわたって占領し続けるためにロシアの支援を受けたアルメニアとは対照的に、アゼルバイジャンはその外交政策をロシアのそれと一致させることはなく、クレムリンの主張と圧力にもかかわらずロシア主導の統合プロジェクトを回避してきた。

しかし、アゼルバイジャンのウクライナの領土保全と国際的に認められた国境内の主権に対する支持は、同国の広範な外交政策の原則を示すものである。隣国アルメニアによる侵略と民族浄化を経験したアゼルバイジャンは、ウクライナが今日直面している課題に対して明確な理解と共感を持っている。(原文へ

ヴァシフ・フセイノフは、バクーにある国際関係分析センター(AIRセンター)のシニアアドバイザー。

INPS Japan/AzVision

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この記事は、アメリカン・テレビジョン・ネットワーク(ATN)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【国連ATN=アハメド・ファティ

Ahmed Fathi、UN Correspondent, Managing Driector of ATN

カザフスタンはかつて旧ソビエト連邦を構成した共和国で、ロシア人の人口はかなり多いが減少傾向にあり、ロシアのウクライナ侵攻を巡って両国関係に溝が生じている。カザフスタン当局は、ウラジーミル・プーチン大統領が 「ロシア語を話す同胞」を保護するためという(ウクライナに侵攻した際と)同様の口実で介入することを恐れている。カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は6月、ロシア主導のユーラシア経済連合と集団安全保障条約機構(CSTO)のメンバーでありながら、「カザフスタンは(ウクライナ東部の)自称『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』を、国家として承認しない」考えを示した。

プーチン大統領はドンバス地域を親ロシア国家にしたいのだ。トカエフ大統領の反対にもかかわらず、6月にロシアがカザフスタンの石油輸出に介入したことで、カザフ政府との間に亀裂が生じた。ロシア軍が燃料価格の高騰を巡る抗議活動からトカエフ政権を守った半年後に、亀裂が生じたのだ。トカエフ大統領は1991年の独立以来最悪の暴動を契機にヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領を失脚させた。もしナザルバエフ氏がまだカザフスタンの大統領だったら、ウクライナ問題に対してもっと親ロシア的な立場をとっていただろう。

トカエフ大統領とプーチン大統領が石油市場を巡って「チキンレース」を展開したため両国の間に溝が生じている。トカエフ大統領は7月上旬、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長に「カザフスタンは東と西、南と北の間の『緩衝市場』として機能するかもしれない」と述べ、欧州市場向けにカザフ産原油を増産する用意がある旨を伝えた。これは、EUと米国によるロシア産石油の輸出制限に言及したものである。トカエフ大統領は、カザフスタンが「世界と欧州の市場を安定させる」と述べた。 原油価格は、2月のロシアによるウクライナ侵攻後、6月に1バレル120ドル近くまで14年ぶりの高値をつけたが、その後、世界不況への懸念から90ドル程度まで下落した。EUが海上輸送されるロシア産の原油を禁止すれば、原油価格は再び上昇する可能性がある。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

カザフスタンの原油出荷が価格を落ち着かせる可能性がある。世界の石油の1%(140万バレル/日)(bpd)を輸出している。この石油はEUの必要量の6%を供給しているが、もっと多く生産される可能性がある。カザフスタンは内陸国であるため、20年前から、同国の石油輸出の約4分の3がロシア黒海沿岸(カザフ領からロシアのノボロシスクの港にCPCパイプラインで輸送)を経由しており、ロシア政府がカザフスタン産石油輸出を事実上支配してきた。プーチン大統領は、トカエフ大統領が欧州に対して石油の増産を申し出たので、その報復をしようとしたのである。

7月5日、ロシアの裁判所が「環境基準違反」を理由にして、この1500キロにおよぶCPCパイプラインによる石油の供給を、30日間停止するよう命じたのである。これによりノボロシスクターミナルは頻繁に閉鎖されていたが(6月には港の水域で第二次世界大戦時の爆発物が発見されたとして閉鎖された)、多くのエネルギーアナリストは、閉鎖はロシアのウクライナ侵攻に対するトカエフ大統領の態度に対するプーチン大統領の不満の表れと解釈している。ロシアとしては、欧州や米国がウクライナに軍事援助を続けるなら、カザフスタンが石油やガス輸出を独自に制限するのは困るのだ。

しかしロシアによるこうした圧力は、かえってカザフスタンが石油輸出先を多様化する動きを促す可能性がある。カザフスタンの国営石油会社カズムナイガス(KMG)は、アゼルバイジャンの国営石油会社ソカールと、トルコのジェイハンに至るバクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン(BTCパイプライン)を通じてカザフの石油を輸出する協議を進めた。この新しい輸出ルートは9月に開始されるが、ロシア経由のCPCパイプラインの日量140万バレルに比べれば、その石油輸送能力は小さい。

Location of Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline/ By Charles - Own work, CC BY-SA 4.0
Location of Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline/ By Charles – Own work, CC BY-SA 4.0

バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)ルートは、アゼルバイジャンとロシア領を避けることで合意しているため、カザフスタンはカスピ海を渡ってバクーに石油を輸出しなければならなくなる。カザフスタンはまた、2023年にアゼルバイジャンのバクー・スプサパイプラインを経由してジョージアの黒海沿岸のスプサからも国際市場に石油を輸出することを提案している。BTCルートを通じた出荷量は10万bpdで、ロシア経由のCPCパイプラインルートの8%に相当する。プーチン大統領とトカエフ大統領の確執で、欧米の制裁がロシアの軍事的努力に与える影響も変わってくるかもしれない。紛争が激化すれば、中国、EU、米国はカザフスタンとの関係を強化し、ロシアの勢力圏に影響力を持つようになるかもしれない。(原文へ

INPSJ Japan

*この記事は2022年8月25日に配信されたものである。

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非核世界は若いリーダーから始まる

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連はいまや、「核兵器なき世界」を実現するためには、未来の若いリーダー達を中心に始めるべきだと考えている。

この大胆な目標を追求するにあたって、国連軍縮部と日本政府は、この殺戮兵器を世界からなくすことに貢献するための革新的な学習プログラムへの応募を若者たちに呼びかけている。

「ユース非核リーダー基金」と呼ばれる世界的な研修プログラムの公募が始まっている。

国連軍縮部が運営し、日本政府の財政負担によって可能となったこの研修プログラムは、18歳以上の若者を対象に最大100名の奨学金を提供する。

岸田文雄首相は昨年8月、核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議の場において、この新たな軍縮教育・人材育成を目的としたプログラムのために国連に対して1000万ドル(約13・3億円)を拠出すると表明した。日本政府はこのイニシアチブを通して、世界から若者らを広島・長崎に招き、被爆の実相に触れもらい、原爆の惨禍を世界に伝えることをめざす。

Mr. Fumio Kishida, Prime Minister of Japan delivering a speech at NPT Review Conference at the UN General Assembly Hall on August 1, 2022/ Photo by Mariko Komatsu
Mr. Fumio Kishida, Prime Minister of Japan delivering a speech at NPT Review Conference at the UN General Assembly Hall on August 1, 2022/ Photo by Mariko Komatsu

国連軍縮部は、「核兵器は戦時に使用されたのは2回(1945年の広島・長崎への原爆投下)のみだが、現在も約1万2500発ほどの核兵器があり、これまでに2000回以上の核実験が行われてきた。1発の核兵器が都市全体を破壊し、何百万人もの命を奪う可能性があり、その長期的な破滅的影響によって自然環境と次世代の生命を危険にさらす。」と述べている。

このプログラムは、より平和で安全な、「核兵器のない世界」に向けた変化を生み出すために自らの才能を用いる意欲のある若者たちを支援するもので、その意図は、核兵器国、非核兵器国の双方から核不拡散・軍縮を主唱する未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらうことを主要な目的としている。

さらに、政府、市民社会、教育、研究、メディア、産業等の分野からの未来のリーダーや主要な役割を担う多様な人材による、グローバルなネットワーク作りを目指している。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

「平和・軍縮・共通の安全保障を求めるキャンペーン」の代表で「国際平和・地球ネットワーク」の共同呼びかけ人であるジョセフ・ガーソン氏は、「国連軍縮部の『ユース非核リーダー基金』について読んで勇気づけられました。国連軍縮部は核戦争防止と軍備管理・軍縮のために粘り強く活動することで、世界の人々にとってかけがえのない存在となっています。とはいえ、私の希望は、将来のリーダーを嘱望された研修生が、単に歴史や外交・ロビー活動のスキルを学ぶにとどまらず、限界を乗り越え、正統でない権威に疑問を呈し挑戦し、時には、核のアルマゲドンを容認しその準備を進める権力側の平和をかき乱す活動へと市民社会を導くようになってほしい。」と語った。

ガーソン氏はまた、「せっかく築いた軍備管理秩序が崩壊し、人類はその生存を脅かす核戦争の危機に直面しています。一方で、ロシアのクリミア支配が脅かされた場合、自暴自棄になったプーチン大統領が戦術核兵器で対応するという脅しを実行する恐れがある。」と警告した。

「そのようなことがあればウクライナにとっては大量虐殺的な意味を持ち、さらなる核のエスカレーションにつながる可能性もあります。他方で、1945年の広島原爆の爆心地近くの碑の前でG7首脳が立って写っている写真は、オーウェル的な『同意の調達』のためのものです。ここに写っている男女は、核兵器の先行使用を命令することができる存在だ。あるいは、日本の岸田文雄首相の場合、米国の核先行攻撃に依存した軍事戦略を持つ国を率いる存在です。」と、ガーソン氏は語った。

Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

人類は、核戦争と気候変動という2つの差し迫った存亡の危機に直面しているという現実がある。2010年のNPT再検討会議を前にして、当時の潘基文国連事務総長は、世界中から集った約1000人の核廃絶活動家らに対して、「諸政府が非核世界をもたらしてくれるわけではない。」と発言している。

「核廃絶は下からの圧力によってのみ実現が可能です。今回の研修プログラムに参加する市民社会の若いリーダーたちは、核軍縮に向けた諸政府による新たな公約を勝ち取り、人類の生き残りを図るうえで必要な民衆からの圧力を形成するために、時には声をあげることも求められています。」とガーソン氏は語った。

他方、国連軍縮部は、研修参加者は今後2年で核軍縮や不拡散、軍備管理についてオンラインで学び、一部の参加者は広島・長崎での1週間の実地研修に臨む、としている。

未来のリーダー候補らは、各種シンクタンクや市民団体、メディア、外交官などの軍縮専門家と意見交換し、核軍縮や不拡散、軍備管理に関連した問題に関与し貢献する実践的なノウハウを身につけていく。

参加者らは「ヒバクシャ」と呼ばれる広島・長崎の原爆投下を生き延びた方々から教訓を学ぶことができる。被爆者らは、核兵器が引き起こす想像を絶する苦しみについて世界に訴えてきた。ヒバクシャの高齢化が進む中、彼らの力強い語り口と核兵器廃絶の訴えを未来世代に継承していくことが重要となる。

本プログラムは2023年に始まり、2030年まで続く予定だ。2030年は、広島・長崎への原爆投下から85年、核不拡散条約(NPT)発効から60週年に当たるなど、さまざまな節目の年でもある。

プログラムに参加した研修者らは、次の世代の若い核軍縮活動家を育て導く重要な役割を担うことになる。「ユース非核リーダー基金」による研修プログラム第1期生(2023~25年)に続いて研修は第4期まで行われる予定だ。プラスの波及効果を生み出し、人類を核兵器から救うという共通の目標を持つ才能ある未来のリーダーたちの世界的ネットワークが強化される予定だ。

UNODA

教育やスキルの研修、指導、その他の支援を通じて、参加者がプログラム参加後もそれぞれの関心分野と専門領域において軍縮や平和・安全保障の活動を続けていくことが期待されている。

近年、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、若者の役割が究極の変革の力であることを認識し、軍縮の大義を支持する若者の力が証明されたと指摘し、若者のエンパワーメントを大きく後押ししている。(原文へ

INPS Japan

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リベラルな国際秩序のほころびが政策志向の研究に及ぼす影響

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール

第2次世界大戦終結時に米国主導のもとで構築されたリベラルな国際秩序に崩壊が迫っていることについて、すでに何年も前から多くのアナリストが言及している。

国際政治とは、権力、経済力、そして良い国際社会を目指す理念の相互作用に基づいて、国際秩序の支配的な規範を構築しようとする争いである。この数十年の間に富と権力は西側から東側へと移行し、世界秩序のリバランスをもたらしている。中国が世界の大国へと劇的に地位を高めるにつれて世界情勢の重心がアジア太平洋へと移行すると、中国中心の秩序に適応するための西側諸国の能力や意欲について、多くの気まずい疑問が提起された。数世紀ぶりに、どうやら世界の覇権国が西側国でなくなり、自由市場経済国でなくなり、自由民主主義国でなくなり、英語圏諸国でなくなるのだ。(

より最近では、アジア太平洋という概念枠組みは、インドの象がついに踊りの輪に加わったことにより、インド太平洋の概念へと再構築された。また2014年、とりわけ2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州の安全保障、政治、経済の構造という問題が議論の最重要テーマとして再浮上している。

ロシア問題が地政学的優先事項として再燃したことに加え、核の時代に大国間の安定性を支え、予測可能性をもたらしていたさまざまな条約、協定、合意、実践からなる国際軍備管理体制の主柱のほぼ全てが崩壊した。

AUKUS級攻撃型原子力潜水艦の開発計画を伴う新しい米英豪安全保障協定(AUKUS)は、地政学的現実の変化を反映するものであると同時に、ほぼ間違いなくそれ自体が世界的な不拡散体制への脅威であり、中国との関係における新たな緊張の火種となるものと言える。2023年3月13日にサンディエゴで潜水艦計画の発表が行われた際に英国のリシ・スナク首相が述べたように、世界が直面する安全保障上の課題の深刻化、すなわち「ロシアによる違法なウクライナ侵攻、中国の強硬姿勢の拡大、不安定化をもたらすイランと北朝鮮の行動」は、「危険、無秩序、分断の全てを大きな特徴とする世界を生み出す恐れがある」。一方、習近平国家主席は、米国が西側諸国を主導して「中国に対する全面的な封じ込め、包囲、抑圧」を行っていると非難した。

最後に、地域および世界のガバナンス制度は、その根底にある地政学的、経済的国際秩序という構造から切り離すことができない。また、これらの制度は、気候変動やパンデミックといった、存亡を左右する脅威のような他の喫緊の世界的課題や危機を管理するという目的を十分満たしているとは言えない。驚くことではないが、台頭する修正主義国家は、国際的なガバナンス制度を改変して自国の利益、統治理念、好みを反映させることを望んでいる。また、これらの国は、管理機構を主要西側国から自国の首都に移転することを望んでいる。イランとサウジアラビアの和解において中国が果たした役割は、今後起こることの前触れかもしれない。

歴史の転換点を証明するような「現実世界」の出来事は、研究機関やシンクタンクに重大な挑戦を突きつけ、今後(数)十年にわたる研究課題や政策提言の見直しを迫るものである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

INPS Japan

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国家による殺人事件が過去最高を記録

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1996年、タリバンが政権を奪取したとき、最初の政治行動が、捕縛したアフガニスタン前大統領のモハメッド・ナジブラーの死体をカブールのアリアナ広場で吊るすことだった。

2021年8月15日、再びタリバンが、米国が支援するアシュラフ・ガニ政権を打倒した。ガニ前大統領は元世界銀行職員で、最も権威あるアイビーリーグの教育機関(コロンビア大学)で人類学の博士号を取得した人物である。

首都陥落前にアラブ首長国連邦(UAE)に亡命したガニ前大統領はFacebookの投稿で、ドバイに避難した理由は、「タリバンに吊るされる恐れがあったから」を記した。もしそうなっていたとしたら、タリバンは世界で唯一、2人の大統領を吊るした政府という不名誉な栄誉を手にすることになっていただろう。

しかし、不幸中の幸いそうはならなかった。またガニ前大統領は、国庫から盗んだ数百万ドルの入ったスーツケース数個を携えて大統領府から逃げ出したとする風評を否定した。

1980年4月12日、サミュエル・ドウは軍事クーデターを起こし、リベリアの大統領官邸でウィリアム・R・トルバート・ジュニア大統領を殺害した。リベリアは19世紀にアフリカ系アメリカ人の解放奴隷によって設立された国で、首都モンロビアの名称は、米国の第5代大統領ジェームズ・モンローにちなんでいる。

捕縛された前政権の閣僚らは全裸で市中を歩かされ、首都モンロビアの海岸で銃殺された。BBCは1980年4月、「リベリアで追放された前政権の13人の主要幹部が、新しい軍事政権の命令で公開処刑された。」と報じた。

この時処刑された人々の中には、元閣僚数名と、暗殺されたトルバート前大統領の兄が含まれていた。「彼らは首都モンロビアの陸軍兵舎に隣接する海岸で杭に縛られ、銃殺された。処刑を見るために兵舎に連行されたジャーナリスト等は、(処刑は)残酷で雑なやり方だと語った。」とBBCは伝えた。

しかし、一部の国では国家主導の殺人が増加している。

Amnesty International Logo
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人権団体アムネスティ・インターナショナル(AI)は5月16日に発表した調査報告書において、2022年はイラン、ミャンマー、中国、サウジアラビア、エジプト、北朝鮮、ベトナム、米国、シンガポール等20カ国で死刑が執行され、総件数は前年比53%増の883件にのぼり、「2017年以降、世界的に最も死刑が執行された。」としている。

この死刑執行の急増は、サウジアラビアで1日に81人が処刑されるなど中東・北アフリカ地域での執行数が大幅に増えたためだ。またこの数には、中国であったとされる数千件の死刑執行数は含まれていない。一方で、6か国が死刑を全面的・部分的に廃止した。

生存者を治療する世界最大の国際組織であり、拷問の廃止を提唱している拷問被害者センターの所長兼CEOであるサイモン・アダムス博士は、IPSの取材に対して、「司法による物々しい儀式を取り払えば、死刑は冷徹に計算された国家による殺人に他なりません。死刑は、生命に対する普遍的な人権(=生きる権利)を侵害し、明らかに残酷で卑劣で異常な刑罰に当たります。」と語った。

「現在、世界の多くの国々が死刑を時代遅れで退廃的な慣行とみなしているが、多くの抑圧的な国家で死刑執行が増加していることは事実である。」

「イラン政府は、『女性、命よ、自由を!』ヒジャーブ抗議運動に対して、社会統制の手段として絞首刑をもって臨み、デモ参加者や、政治的反体制派、少数民族を処刑している。」と指摘した。

Amnesty International

同様に、ミャンマーの将軍たちも、軍事政権に対する広範な反対運動を抑えることができず、再び絞首刑を導入している。「しかし、歴史が教えてくれることは、国家は政治犯を処刑することはできても、その思想を殺すことはできないということだ。」とアダムズ博士は語った。

「国連安全保障理事会の議長国である米国と中国が、世界で最も多くの自国民を処刑している国であることは、道徳的に非難されるべきことです。両国は、国連総会で死刑執行一時停止(モラトリアム)決議に賛成票を投じた125の国連加盟国の仲間入りをする時が来たのです。」

一部の国々では、死刑の残忍なやり方は、残酷で卑劣で異常な刑罰に当たるだけでなく、拷問に当たる可能性もある。

公開絞首刑、斬首刑、電気処刑、石打ち刑などの野蛮な方法が21世紀になっても行われていることは、全人類にとって恥ずべきことだ、と指摘した。

国連の役割について問われたアダムズ博士は、「国連は、世界的な死刑廃止を進めるために、間違いなくもっと積極的な役割を果たすべきだ。」と語った。

アムネスティ・インターナショナルのアグネス・カラマール事務局長は、「中東・北アフリカの国々における死刑執行の激増は、国際法違反であり、人命軽視の現れである。」と語った。

中国を除けば、明らかになっている死刑執行数の実に90%を、この地域の3か国が占めている。イランでは2021の314から22年の576人へと急増し、サウジアラビアでは21年の65人から22年の196人とほぼ3倍に増え、アムネスティの記録によると過去30年間で最多を記録した。またエジプトでは、24人が処刑された。

アムネスティ・インターナショナルによると、中国、北朝鮮、ベトナムなど、死刑を多用することで知られる国々は、死刑に関して秘密主義を貫いているため、実際の総数ははるかに高い。

中国での正確な死刑執行数は不明だが世界で最多の国であり、イラン、サウジアラビア、エジプト、米国が続いている。

一方、死刑に批判的な国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、昨年7月にミャンマー軍事政権によって行われたミャンマーの4人の政治活動家(軍政を批判する歌で知られるヒップホップ歌手のピョーゼヤトー、「ジミー」の名で知られる活動家チョーミンユ、フラミヨーアウン、アウントゥラゾー)の死刑を「強く非難し」、彼らの家族に弔意を示した。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

グテーレス事務総長の報道官は、「事務総長は、あらゆる状況下で死刑を科すことに反対しています。今回の死刑執行は、ミャンマーで1988年以来初めて行われたもので、同国における既に悲惨な人権状況がさらに悪化したことを意味します。」と語った。

報告書の中でグテーレス事務総長は、死刑の普遍的廃止に向けた傾向を確認するとともに、死刑の使用を制限し、死刑に直面する人々の権利保護を保証するセーフガードを実施するイニシアティブを強調している。

一方、アムネスティ・インターナショナルは、6カ国が死刑を完全または部分的に廃止したことから、希望の光が見えてきたと述べている。

カザフスタン、パプアニューギニア、シエラレオネ、中央アフリカ共和国はすべての犯罪で死刑を廃止し、赤道ギニアとザンビアは通常犯罪に対する死刑を廃止した。

その結果、2022年12月時点では112カ国が死刑を全廃し、9カ国が通常犯罪に対して廃止している。 

また、リベリアとガーナでは死刑廃止に向けた法的な取り組みが進み、スリランカとモルディブの当局は死刑を執行しないことを明言している。マレーシアの議会では絶対的法定刑としての死刑を廃止する法案が審議中である。

「多くの国が死刑制度と決別し続けている今こそ、他の国もそれに続くべきです。イラン、サウジアラビア、中国、北朝鮮、ベトナムなど少数派の国々は、早急に時代に追いつき、人権を守り、人ではなく正義を執行すべきです。」とカラマール事務局長は語った。

報告書は、「国連総会では、過去最多となる125カ国が死刑執行一時停止決議に賛成票を投じた。希望を感じる一方で、2022年の悲惨な数値は闘いの厳しさを物語る。アムネスティは死刑のない世界が実現するまで、死刑廃止運動を続ける。」と述べている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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【アスタナINPS Japan/GESE=ギエルモ・アヤラ・アラニス】

ギエルモ・アヤラ・アラニス記者

「2022年初頭に起きた騒擾や、ロシアとウクライナの地域紛争などの緊張状態から巧みに脱してきたカザフスタン政府の能力は、カシム=ジョマルト・トカエフ大統領の経験と優れたリーダーシップの賜物です。」と、メキシコのホセ・ルイス・マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)は語った。

6月8日から9日にかけてカザフスタンの首都で開催されたアスタナ国際フォーラムに参加したマルチネス大使は、「カザフスタンと中央アジア地域の安定に寄与できる経験と才覚の多くは、トカエフ大統領が外相として同国の外交を牽引した時期(2002年~07年)に育んだものです。」と語った。

「トカエフ大統領の経験は、中央アジア地域の平和と安定を確保する上で大いに役立っています。カザフスタンは、この地域をまとめる最も安定した地域大国であり、我が国(メキシコ)がカザフスタンに近く大使館を新たに設置するのは素晴らしいことだと考えています。」(ホセ・ルイス・マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)

マルチネス大使は、ユーラシア研究グループ(GESE)のギエルモ・アラヤ記者の取材に対して、「今年下半期に予定されているメキシコ大使館の開設が、カザフスタンをメキシコを恒常的に結び続ける機会となり、そこではメキシコ人の経験が協力メカニズムを開く大きな可能性を秘めている。」と強調した。

アスタナ国際フォーラムでのインタビューに答える、メキシコのホセ・ルイス・マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
Flags of Kazalhstan and Mexico

「これにより、あらゆる分野でのグローバルなコミュニケーションが可能になるでしょう。とりわけ今日の世界情勢を鑑みれば、(カザフスタンが設立を主導した)中央アジア非核地帯と、(メキシコのノーベル平和賞受賞者、アルフォンソ・ガルシア・ロブレス氏が設立に寄与した)ラテンアメリカ及びカリブ海地域非核地帯の重要性が増しています。両非核地帯創設の経緯や有効性などについて両国は非核・軍縮を進めていくための協力を一層模索していくべきです。」と、マルチネス大使は語った。

 マルチネス大使はまた、トルコでトウモロコシ粉製品を販売しているグルマ社のように、現在この地域にメキシコ企業が存在することを指摘した。「中央アジア市場は、既にこの地域に進出しているメキシコ企業にとっても、これから市場拡大を目指すメキシコ企業にとっても、非常に重要になる可能性があります。」と語った。

大使は、カザフスタンには約15人のメキシコ人が暮らしていると語った。「首都アスタナとカザフスタン最大の人口を誇る都市アルマトイの2つの主要都市に暮らしており、職業は医師、アスタナ・オペラで活躍するダンサー、スペイン語の教師などです。彼らは、言葉や習慣、メキシコからの距離といった壁を取り払い、能力を発揮しています。」

ボルサ研究所(BIVA)のコミュニケーション部長であり、アスタナ国際フォーラムの分科会「創造的な経済:持続的かつ包摂的な成長の促進」でモデレータを務めたサルバドール・レアル氏は、「中央アジア・ユーラシアにおける経済大国として発展を目指すカザフスタンにとって、経済のさまざまな分野でメキシコが蓄積した経験は貴重なものだ。」と語った。

アスタナ国際フォーラムで語るBIVAのコミュニケーションディレクター、サルバドール・レアル氏 撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
“カザフスタンは、ソフトパワー、音楽、文化、芸術分野、アイデアの面でメキシコから学ぶべきことが多い。メキシコは文化大国です。” (サルバドール・レアルBIVAコミュニケーション部長)

GESEは在メキシコ・カザフスタン大使館のオルジャス・イサべコフ臨時代理大使の招待でアスタナ国際フォーラムを取材した。レアル氏は、「両国には経済全般で大いに協力を拡大する機会がある。」と強調した。

“カザフスタンはビジネスチャンスを求めて全力を尽くしています... メキシコには提供できるものがたくさんある。例えば農業部門が思い浮かびます。メキシコの農産物には非常に多くの需要があり、気候の問題を考慮してもカザフスタンの需要に応じた協力が可能です。” (サルバドール・レアルBIVAコミュニケーション部長)
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

「また、一帯一路構想に関連して、物流の重要な拠点であるカザフスタン領内で大規模に建設が進められている高速道路などのインフラにもメキシコが協力できる機会があるかもしれません。また、メキシコが自らの経験を活用する方法に精通している観光業や電気通信の分野でも、メキシコとカザフスタンの間で協力する可能性があります。」

分科会「創造的経済:持続的かつ包摂的な成長の促進」に参加したカザフスタンのアリベク・クアンティロフ経済大臣は、「この国にとって、国民の10人中3人、つまり、人口の 30% が子供であることから、創造性の発達を奨励することが非常に重要であり、問題に直面した時に解決策を考えたり、工夫したりするノウハウに関しては、おそらくメキシコの子供たちの経験が参考になるだろう。」と語った。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのスペイン人教授であるアンドレス・ロドリゲス=ポゼ氏は、「カザフスタンは大規模な市場である中国や欧州連合とのダイナミックな連携を実現するため、自国の領土が戦略的な位置にあることをうまく活かしています。また、自然資源を有効に活用して、1991年の独立時には想像もつかなかったレベルの成長と発展を遂げました。」と語った。

ポゼ教授はまた、「カザフスタン市場は魅力的で安定しており、特にクリーンエネルギーへの転換を目指すエネルギー分野では多くのビジネスチャンスがあるため、イベロアメリカ諸国は投資の機会を逃してはならない。」と強調した。

インタビューに答えるアンドレス・ロドリゲス=ポゼ教授 撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
“カザフスタンは非常に大きな潜在能力を持つ市場であり、新興市場です。経済成長が低迷しているイベロアメリカ諸国は成長機会がある市場に目を向け、それを利用する必要があります。ここには多くの機会があります。”(アンドレス・ロドリゲス=ポゼ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)

ポゼ教授は、米州銀行、アフリカ開発銀行、アジア開発銀行など、さまざまな開発銀行で勤務した経験を持つエコノミストである。2000年初頭からアジア市場に精通し、2021年からはカザフスタン問題に取り組んでいる。教授は、イベロアメリカ人の創造力がカザフスタンの日常生活にますます広がる可能性を否定していない。(原文へ

マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)とBIVAのレアルコミュニケーションディレクター 撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
セメイの平和記念公園でレポートするギレルモ・アラヤ記者

* ギエルモ・アヤラ・アラニスはメキシコのジャーナリスト・テレビレポーター。メキシコ国立自治大学(UAM)ソチミルコ校では核軍縮を研究、国際関係学の修士号を取得。カザフスタンには、2019年に国際プレスチームのメンバーとしてセミパラチンスク旧核実験場とセメイ、アスタナでは「ナザルバエフ賞」を取材した。「アスタナ国際フォーラム」には、ユーラシア研究グループのレポーターとして取材。

INPS Japan/GESE

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INPS Japanが国際プレスチームと共に旧セミパラチンスク核実験場とセメイを取材

欧州の公務員が児童人身売買に関与した疑い

【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス】

2022年12月、ザンビアのヌドラ空港入国管理局が8人のクロアチア人を児童人身売買と文書偽造の容疑で逮捕したとのニュースが伝わり、クロアチア当局関係者がこれに関与したのではないかとの疑いが持ちあがった。

当初は、コンゴ民主共和国出身の児童の養子縁組に関する文書の真実性が疑われた。と言うのも、2017年以来、同国の児童を国境を越えて養子にすることは法的に禁じられているからだ。逮捕された容疑者は児童人身売買未遂によって訴追され、ザンビア最高裁で審理が間もなく開かれる。

養子縁組に関わる文書の偽造に関わったとされるコンゴの弁護士もあわせて逮捕されており、すべて違法と知りつつ行ったとの容疑を認めている。

ザンビアのディクソン・マテンボ内務大臣は3月21日、数ヶ月の沈黙を破り、「強制的失踪に関する国連委員会」の場で初めて待望の情報を確認した。

児童人身売買未遂容疑で12月にザンビアで逮捕された8人のクロアチア人は、偽の養子縁組書類に基づいて入手した旅行書類を使用していた。また、ザンビア政府は「正式なクロアチア国民」となった子供たちを母国コンゴ民主共和国に送還したいとの意向を持っている。

Map of Congo
Map of Congo

資源豊かなコンゴ民主共和国は1998年以来続く紛争によって混乱状態に陥っている。紛争によって500万人以上が亡くなり、100万人がHIVに感染している。これによって70万人以上の孤児が残された。しかし、新たな家族法制が制定された2017年以来、外国人が同国の子どもを養子縁組することは法的に禁じられている。

コンゴ民主共和国で作成されクロアチアの裁判所に提出された(IDNも確認した)偽造文書によって、元の文書の真正性を確認しないまま養子縁組が認定されていた。つまり、コンゴから届いた養子縁組に関する虚偽の判決がクロアチアで認められ公式なものとなっていたのだ。

これらを基礎としてこの児童らが登録され、内務省がビザを発行することになる。そののち、児童らはザンビアを通じてクロアチアに送られることになっていた。

児童の権利と養子縁組の専門家であるローリー・ポスト氏は、「このようなケースでは標準的な手続きである外交ルートを通じて書類が届かなかったため、養子縁組の信憑性そのものが疑われる状況にあった。」と語った。

「養子を取る親に一度も会ったことがないか、あるいは、クロアチアに一度も行ったことのない子どもに関して、受入国でビザを発行することはクロアチア内務省では通常行っていない。」

社会福祉家族省の広報は、(コンゴ民主共和国のように)ハーグ条約の署名国でない国からの国際養子縁組に関して同省は監督権限を持っていない、と主張した。

この10年間でクロアチアの裁判所が何人の児童の国際養子縁組を認めたのかは不明だ。内務省は94人の子どもに関してビザを出したが、社会福祉家族省のマリン・ピレチッチの報道声明によると、131人のコンゴ民主共和国出身の子どもが養子になったという。両者の数字は合わず、IDNが匿名の情報源から得た情報によると、クロアチアの家族の一員になったはずの残り37人の子どもたちの行方がわからなくなっているという。

新たに創設された「コンゴ民主共和国の国際養子縁組里親協会・クロアチア」のデータによると、104人に加えて4人の子どもが、クロアチア外に住む3家族へと里子に出されたという。国土安全保障省では正確な数を把握しておらず、子どもの行方も、現在どのような状況で暮らしているのかもわからない。クロアチア当局は自国出身の児童に対してはこのような粗雑な扱いはしないだろう。

信頼できる情報筋がIDNに語ったところによると「子ども一人当たりの値段は1万5000~4万ユーロ。子どもの養子縁組を媒介する孤児院のオーナーであるエマニュエル・コバンゴ氏は、子供1人につきおよそ1万ドルを請求する。また、弁護士や裁判の通訳、移動・宿泊費など別の費用もかかり、結局コストは1万5000ユーロから4万ユーロとなる。」という。

Photo: Artwork from the Global Report on Trafficking in Persons 2018, UNODC.
Image: Enlarged and cropped image on Cover of 2016 UNODC Global Report on Trafficking in Persons.

里親自身がIDNに語ったところによると、クロアチアの都市ズラタルの裁判官は賄賂をもらって養子縁組を承認したという。

IDNは、法的枠組みからこの問題を検討している家族法の専門家ドゥブラフカ・フラバル教授に、文書や裁判所の決定が欠如している問題について見解を問うた。

「このような行為は、刑事上の犯罪とは言えないにしても、懲罰の対象にはなる。捜査中に証拠を隠したり、証人に影響を与えたりする可能性を減らすために、彼らは職務から外されるべきだった。しかし、重要な問題は、クロアチアでは何の捜査も行われていないという点だ。」とフラバル教授は警告した。

「外国の裁判所の決定を右から左に承認するだけの行為は正当化できない。電子的記録だけではなく紙の形態でも記録が残されるべきなのだから、『記録が残っていない』は通用しない。裁判所の決定はそれぞれ別のものとして記録され、50年間は保存されるべきだ。」

「法的推論は裁判所の決定の不可欠の要素で、すべての裁判官が提示しないといけないものだ。このような判決文に何も説明が書かれていないのはどうしてか。」とフラバル氏は疑問を呈した

コンゴ民主共和国から到着したとみられる児童を迎えるためにクロアチアから里親がザンビアに来た際ですら、支払いは続いている。里親がホテルの部屋につくと、子どもを連れて行く前にさらなる書類の準備が必要だという口実の下に、里親と子ども双方から渡航用の文書を取り上げてしまう。

そこまでに多額の支払いを済ませてしまっているから、今さら断るわけにもいかない。そののち、同じ人物らが戻ってきて、さらなる文書準備のための金を請求するが、たいていは約2000ドルかかる。状況を目撃したことのある人物は「詐取は非常に巧妙な形で行われる」と話す。違法な養子縁組の手続きを経験したことのあるクロアチアの人物は匿名で、渡航用の文書を取り上げられているから「帰りようがなかった」と語った。

こうした行為は、5月26日にザンビアのヌドラ空港でクロアチア人を逮捕した警察官の裁判での証言でも裏付けられた。彼らは、コンゴの児童の人身売買の黒幕であったと検察が主張するスティーブ・ムリジャ氏は、コンゴ民主共和国の孤児院からザンビアまで児童を連れてくるのに一人当たり2040ドルを要求していたと証言した。この警察官はさらに、起訴されたクロアチア人の一人と、児童の出身地であるコンゴの孤児院を運営してたエマニュエル・コボング氏と共謀していたスティーブ・ムリジャ氏との間で、アプリ「ワッツアップ」を通じたやり取りがなされていたと証言した。

子どもの権利とルーマニアからの違法養子縁組の問題のパイオニアとして欧州委員会で20年以上も働いてきたオランダ人専門家ローリー・ポスト氏は、国際養子縁組のメカニズムを熟知している。彼女はまた『ルーマニア:輸出のみの国』と題する書籍の著者でもあり、「国際『養子縁組店ストアー』がルーマニアでの活動を閉鎖した後、コンゴ民主共和国に移ってきた。」と指摘した。

「これは国連の子どもの権利条約に違反しているだけではなく、今回のように注文・支払い・配達という手順を踏んでいるなら、まぎれもなく人身売買に他ならない。人間を売り買いするのは禁じられている。腐敗した養子縁組の慣行は子どもの権利とは何の関係もなく、ただ市場の需要に応えているだけだ。」とポスト氏は強調した。

表面上は利他的な行為であり、単に子どもを貰い受けているだけと里親側では考えるかもしれないが、それが媒介人側の手口なのだ。より深く事態を眺めてみると、養子縁組産業は、実際には孤児ではない「孤児」から搾取しようと手ぐすねを引いている者ばかりである。これが、コンゴ民主共和国の子どもたちに起こったことだ。

(匿名を希望した)一部の里親はIDNの取材に対して、コンゴ民主共和国にいる子どもの実の親たちから定期的に連絡を受けていたから、子どもが誘拐されてきたとは思わなかった、と話している。しかし、このケースにおいては、子どもの実の親だと主張する人物らがクロアチアの里親に対して金を請求しており、いわば精神的なゆすりのような状況になっている。

ポスト氏は、マフィア(つまり組織犯罪勢力)が国際養子縁組の媒介者の背後にいるとし、「このクロアチアのケースの偽造文書に加えて、里親になりたいという西側諸国の人々の要望に応えるために親から無理やりに引きはがされた子どもたちのケースもある。」と指摘した。

Aurora Weiss, UN Global Reporter
Aurora Weiss, UN Global Reporter

ポスト氏は、「同じ人物らがこの産業で暗躍しており、同時期に複数の国で活動している。」と指摘した。彼女によると、これはいわばサーカス一座のようなものだ。仲買人たちは「店」を構え、捕まれば別の国へ行き、そこで店を開く。この産業で創出されている商品は子どもだ。消費者が望むのであれば、子ども達は地球の裏側のまったく違った文化の国にでも連れて行かれる。

クロアチア政府に捜査の意思がないことは、公務員がこの組織犯罪に加わっており、それを隠蔽しようとの圧力が働いていることを示唆している。クロアチアは昨年、強制的失踪に関する条約を批准しており、国連人権高等弁務官事務所の強制失踪委員会(CED)がこの問題を管轄している。(原文へ

注:法手続きが進行している関係上、多くの関係者が本件の報道にあたって匿名を希望した。

※この件が報道されたのち、ザンビアの裁判官が6月1日にクロアチアの4組の夫婦に無罪を言い渡したと報じられた。彼らは児童人身売買の容疑で半年近く収監されていた。首都ルサカ北方にあるヌドラの裁判所でメアリー・ムランダ裁判官は、この8人に対する「訴追には十分な証拠が得られなかった。したがって無罪を言い渡す」と述べた(AFP通信による)。違法な養子縁組に関する捜査はクロアチアと欧州各国で続けられることになる。

INPS Japan

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