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アフガン難民を含む多くの人々、USAIDの資金凍結の影響を受ける

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【ペシャワールIPS=アシュファク・ユシュフザイ】

「警備員からクリニックが閉鎖されたと聞かされたとき、私はショックを受けました。私は親族と一緒に、無料の健康診断を受けるために通っていたのに……」と語るのは、22歳のアフガニスタン人女性ジャミラ・ベグムさんだ。

Map of Pakistan/ Wikimwdia Commons.
Map of Pakistan/ Wikimwdia Commons.

このクリニックは、パキスタンの4つの州のひとつであるカイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワール郊外に、USAID(アメリカ国際開発庁)の資金援助を受けたNGOによって設立された。妊産婦の健康を守る目的で運営されていたが、現在は閉鎖されている。出産を控えているベグムさんは、私立病院の血液検査や超音波検査の高額な費用を支払えず、出産が無事にできるか不安を抱えている。

同じくアフガン難民のファリーダ・ビビさんも、クリニックの閉鎖に不安を募らせる。

「これまで、アメリカの資金で運営されていたクリニックで、産前・産後の診察を受けるアフガン人女性が毎月十数人はいました。しかし、突然クリニックが閉鎖されてしまい、多くの人が行き場を失いました」と、ペシャワール郊外の別のクリニックで働く女性医療スタッフのビビさんは語る。

資金凍結がもたらした医療危機

パキスタンには190万人のアフガン難民が暮らしており、その多くの女性が、アメリカの資金で運営されるNGOの医療施設に頼っている。

「アフガン人女性は、遠くの病院に行くことができません。しかし、私たちのクリニックは女性スタッフのみなので、安心して通うことができました。しかし突然、小規模なクリニックが一斉に閉鎖され、避難民の健康が危機にさらされています」とビビさんは続ける。

「昨年は700人の女性が無料で健康診断や薬を受けることができました。そのおかげで、妊娠・出産に関連する合併症を防ぐことができたのに……」

カイバル・パクトゥンクワ州の農村部で女性支援を行うNGOの代表、ジャミラ・カーンさんも、この資金凍結に強い懸念を示している。

「USAIDの資金の大半はNGOを通じて使われていました。しかし、資金供給が途絶えたことで、多くの団体が閉鎖を余儀なくされるか、新たな資金源を探さなければならなくなりました。現時点では、支援活動の継続が非常に困難になっています」と彼女は語る。

USAID資金凍結の波及効果

USAID
USAID

USAIDの元職員であるアクラム・シャー氏によると、USAIDの資金凍結はパキスタン全土のあらゆる分野に打撃を与えている。

「アメリカが資金提供していた39のプロジェクトは、エネルギー、経済発展、農業、民主主義、人権、ガバナンス、教育、医療、人道支援など多岐にわたります。資金凍結により、すべての分野で深刻な影響が出ています」とシャー氏は指摘する。

ドナルド・トランプ前大統領が就任後、世界規模でUSAIDの資金を停止するよう指示したことで、パキスタンでは8億4,500万米ドル規模のプロジェクトが中断された。

「突然の資金打ち切りは、小規模農家にも壊滅的な影響を与えます。USAIDの資金を頼りにしていた彼らは、今後の農業計画をどのように進めればよいのか、頭を抱えています」とシャー氏は続ける。

「私たちの農業は最も大きな打撃を受けています。USAIDの支援による資金や技術的な援助が、農作物の生産性向上に不可欠だったのです」と農民のムハンマド・シャー氏も嘆く。

「長年にわたり、USAIDの支援で高品質の種子、農具、肥料を手に入れ、生産量を増やして生計を立ててきました。しかし、これからはどうすればよいのでしょうか」

医療・教育・インフラへの影響

パキスタン国立保健サービス規制・調整省のラエース・アハメド医師によると、USAIDの資金がなくなることで、医療システム強化プログラムや統合医療サービス提供プログラムの運営が困難になるという。

「パキスタンの医療インフラを強化するために、USAIDは8,600万米ドルの資金を約束していました。しかし、このプロジェクトが中途半端な状態で終了することになります」

さらに、世界保健供給チェーンプログラムを通じて、必須医療品の供給を確保するために予定されていた5,200万米ドルの支援も打ち切られる見通しだ。

教育部門も打撃を受けている。教育官のアクバル・アリ氏は、低所得層の学生を支援する「メリット&ニーズベース奨学金プログラム」のために予定されていた3,070万米ドルの資金が消えたことを嘆く。

「このプログラムは、貧困層の子どもたちが教育を受け続けるための希望でした。しかし今では、それが夢となってしまいました」

民主的ガバナンス強化プロジェクトも停止されている。このプログラムには1,500万米ドルが割り当てられており、教師を含めた民主主義教育の推進が目的だった。さらに、アフガニスタン国境沿いの暴力に苦しむ部族地域の統治改善プロジェクト(4,070万米ドル)も中止された。

平和構築とインフラ整備も影響を受ける

社会活動家のムハンマド・ワキル氏は、アメリカの資金で運営されていた「パキスタン平和構築プログラム」が閉鎖されたことを嘆く。このプロジェクトは、宗教・民族・政治的調和を促進するために9百万米ドルの資金が充てられていた。

「私たちは職員に自宅待機を命じ、今年予定していた20のワークショップを中止しました」とワキル氏は語る。

彼は、「平和と宗教調和の推進を掲げてきたアメリカが、なぜ突然支援を停止したのか」と疑問を投げかけた。

さらに、パキスタンのエネルギー・水資源確保の要であるマンガラ・ダムの改修プロジェクト(1億5,000万米ドル)も影響を受けている。

「アメリカ・ファースト」の影響

これらの援助停止は、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策の一環として行われた。

1961年にジョン・F・ケネディ大統領によって設立されたUSAIDは、長年にわたり米国の外交政策の要となってきた。2023年度には437億9,000万米ドルの援助資金を世界130カ国以上に配分していた。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU

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【国連IPS=ジョイス・チンビ、ナウリーン・ホセイン】

国連の緊急・長期危機下の教育支援基金(Education Cannot Wait, ECW)は、タリバンによる女子の中等教育禁止令にもかかわらず、アフガニスタンの少女たちへの教育支援を続けている。アフガニスタンの女子ロボット工学チーム(Afghan Robotics Team)のように、ECWも「ルールを破り」、少女たちに学びの機会を提供し続けている。

ECWのエグゼクティブ・ディレクターであるヤスミン・シェリフさんは、国連の国際女性デーの記者会見で、タリバンの禁止令を象徴的に破るために紙を破り捨てた。彼女は、「この禁止令は国際法に違反しており、150万人もの少女たちが教育から締め出されている。」と強く非難した。

ECWは、最も支援が届かない地域で、国際パートナーと共に3,000万ドル(約45億円)を投資した地域密着型プログラムを実施しており、この中で教育を受けている生徒の65%が女子および10代の少女たちである。シェリフさんは、「禁止令を破り、ルールを破ることが必要だ」と語り、すでに10万人以上の子どもたちに教育を提供したと報告した。

彼女はまた、資金提供者に対し、この「ルール破り」に加わるよう呼びかけた。

「世界には、ルールを破ってでも助けたいと考えている人々がいる。この教育支援はまさにその一例です。どうかアフガニスタンの少女たちを支援してください。」

映画『ルール・ブレイカーズ(Rule Breakers)』は、科学技術の夢を追いかけるアフガニスタンの少女たちの実話をもとにした作品で、女性が教育を受けること自体が「反逆」とされる国で、伝統や固定観念を打ち破った少女たちの物語を描いている。

映画は、アフガニスタンの全女子ロボット工学チーム「アフガン・ドリーマーズ(Afghan Dreamers)」の実話を基にしており、彼女たちを支えた女性たちの姿をも浮き彫りにしている。

本作は国際女性デーに先立ち、米国、カナダ、南アフリカ、スリランカで公開され、世界中の人々にアフガニスタンの少女たちの現実を訴えている。

Yasmine Sherif, the Executive Director of Education Cannot Wait, addresses a press conference at the United Nations.

「映画を観れば、『お金がないからできない』『無理だ』という言い訳が通用しないことがわかります。『ルール・ブレイカーズ』を観て、新しい道を創り出してほしい。」
- ヤスミン・シェリフさん(ECWエグゼクティブ・ディレクター)

映画の共同プロデューサー兼脚本家のエラハ・マフブーブさんは、「アフガニスタンの女性は単なる犠牲者ではなく、勇敢に未来を切り開こうとしている。」と語った。

「これまでのメディアや映画では、アフガニスタンの女性は悲劇の象徴として描かれてきました。しかし、それだけが彼女たちの全てではありません。この映画では、社会の期待や制限の中でも決して諦めず、夢を追い続ける少女たちの姿を描いています。」- エラハ・マフブーブさん(『ルール・ブレイカーズ』脚本・製作総指揮)

「アフガン・ドリーマーズ」は、2017年にヘラート出身の女性ロヤ・マフブーブによって結成された。科学技術分野に女性は不要だと言われ続けた彼女たちは、数々の障害を乗り越え、エンジニアリングとロボット工学を学び、国際大会で活躍した。

また、2021年のタリバン政権復活後、19歳だった元キャプテンのソマヤ・ファルーキは、現在米国の大学でエンジニアリングを学びながら、ECWのグローバル・チャンピオンとして教育支援活動を続けている。

「『ルール・ブレイカーズ』は、今もタリバン政権下で教育を奪われている何百万もの少女たちの現実を世界に伝えます。私たちの声を、沈黙させることはできません。」
- ソマヤ・ファルーキさん(元アフガン・ドリーマーズキャプテン、ECWグローバル・チャンピオン)

彼女の活動の一環として、ECWは「#AfghanGirlsVoices」キャンペーンを展開。これは、アフガニスタンの少女たちの切実な声を、イラストや証言を通じて国際社会に発信する取り組みである。

世界の教育危機と「ルール・ブレイカーズ」のメッセージ

現在、世界で約2億3,400万人の子どもたちが紛争や気候変動による災害、強制移住により教育を受けられない状況にある。

特に、障がい児、女子、難民の子どもたちは最も影響を受けやすい層である。

アフガニスタンは、世界で唯一、女子が6年生以上の教育を正式に禁止されている国であり、約140万人の女子が意図的に教育から排除されています。

『ルール・ブレイカーズ』は、そんな危機の中にいる子どもたちを世界が見捨ててはならないという強いメッセージを発信している。

「この映画は、教育の力、科学技術の可能性、そして女性のレジリエンスを証明するものです。アフガニスタンの少女たちは、自分たちの未来を切り開く力を持っています。」- エラハ・マフブーブさん(脚本・製作総指揮)

Education Cannot Wait’s #AfghanGirlsVoices campaign has reached 184 million online individuals, 4.1 billion potential audience members, and 4,100 mentions to date. Credit: ECW

ECWは、世界中の子どもたちが安全で質の高い教育を受けられるよう、今後も活動を続けていく。

「資金提供者、政府、民間企業の皆さん、どうか考え方の枠を超えてください。『お金がない』のではなく、『できる』のです。ECWとそのパートナーが、今この瞬間も教育を提供しています。」- ヤスミン・シェリフさん(ECWエグゼクティブ・ディレクター)

『ルール・ブレイカーズ』は、すべての子どもたちに学びの機会を提供し、「闇の中から、希望と可能性の光を灯す物語」として、世界中の人々の心に響くでしょう。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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Goal5(ジェンダー平等を実現しよう)INPS Japan/ IPS UN Bureau Reportニュース

カザフスタンの核実験に関するドキュメンタリーが核廃絶の必要性を訴える

【国連IPS=ナウリーン・ホサイン

私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」は、カザフスタン共和国のセメイ地域における核実験の生涯にわたる影響を明らかにする作品だ。

Togzhan Yessenbayeva  Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

ニューヨークを拠点とする国際関係法の専門家であり、セメイ出身の3世代目の被害者であるトグジャン・イェッセンバエワ氏は、核実験が自分のコミュニティや環境に与えた「深刻な影響」を認識していると語った。セミパラチンスクで行われた核実験は、今もなお人々に「深刻な負の遺産」を残しているという。

「国連の関心が重要なのはもちろんですが、それ以上に不可欠です。核兵器の問題と、それに取り組む緊急の必要性について、世界的に認識されることが求められています。」「この映画からも分かるように、核の問題は非常に重いテーマです。しかし、核兵器禁止条約(TPNW)の第3回締約国会議は、国際機関や専門家が核軍縮の必要性を訴える場として極めて重要です。」と、イェッセンバエワ氏は語った。

さらに、「私たちは核の脅威から自由になるために協力することが不可欠であり、それを世界の舞台で訴えなければなりません。これは私たちカザフ人にとっての国民的悲劇です。セメイ地域や東カザフスタンだけでなく、すべての人々がこの悲劇を知るべきです。」と続けた。

国連での初上映と広がる国際的関心

そして今年の第3回締約国会議では、カザフスタンの国連常駐代表部、国際安全保障政策センター(CISP)、創価学会インタナショナル(SGI)の共催により、40分の完全版が初めて公開された。

「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」の初上映は、2023年に国連で開催されたTPNW第2回締約国会議で行われた。この際には20分版が上映され、セミパラチンスク核実験場が東カザフスタンの地域社会に及ぼした影響を広く伝えることに成功した。

このドキュメンタリーは、セメイ市とその周辺地域の第2世代・第3世代の被害者たちの証言を中心に構成されている。彼らは、「ポリゴン」として知られるセミパラチンスク核実験場の影響を受けながら生きてきた。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

核実験被害者の声を伝える意義

Alimzhan Akmetov(Left), and Diana Murzagaliyeva(Right), a fourth-generation survivor of nuclear testing, taped her mouth shut, representing the years she spent unable to speak. Photo credit: UN Photo/Manuel Elías

監督を務めたCISPの創設者アリムジャン・アクメートフ氏は、上映会で「被害者と信頼関係を築くことが重要だった。」と語った。「これまでの経験から、自分たちの話が世間に伝わっても何も変わらなかったと感じる人々もいて、取材を拒否する人もいました。」

それでも、CISPとSGIは、「この問題を国際的な議論の最前線に押し上げるため、国連での上映を決めた。」とアクメートフ氏は語った。

「私は、軍縮会議、特にTPNW締約国会議こそが、カザフスタンの核実験の影響を伝えるのに最適な場だと信じています。なぜなら、軍縮問題に携わる人々は、このドキュメンタリー作品のメッセージをさらに広く伝えることができるからです。国連には多くの国が参加しており、より効果的に問題を周知できます。」

2023年の初上映以来、アクメートフ氏とそのパートナーは、20分版をドイツやアイルランドなど、各国政府の招待を受けて上映してきた。40分の完全版もカザフスタンと日本で上映予定で、SGIの支援を受けている。

Tomohiko Aishima, Executive Director of Peace and Global Issues, SGI. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

SGIと核廃絶の取り組み

このドキュメンタリー作品のスポンサーであるSGIは、「平和の文化」の推進を使命の一つとしており、核廃絶を目指す国際的な連携を構築している。SGIの相島智彦平和運動局長によると、SGIは特に核実験が行われた地域に焦点を当て、被害者が地域を超えて世界的な舞台で証言できる機会を提供してきたという。

核実験がもたらした健康被害と心理的影響

ドキュメンタリーでは、被害者たちがポリゴンの影響について語っている。言語障害や視覚障害、がんの発症率の高さなど、核実験による健康被害は深刻だ。特に小児や青少年の白血病患者が多く、コミュニティの苦悩は今も続いている。

また、核実験や放射線被曝による心理的影響にも焦点が当てられている。核実験期間中の自殺率が極めて高かったことが指摘されており、その多くは子どもや若者だった。

「首つり自殺はポリゴンの病気と呼ばれていました。」とある証言者は語る。

「安全」とされた湖は今

40分の完全版には、新たな証言のほか、実験当時のアーカイブ映像も加えられた。核実験の直後と現在の環境とのコントラストが強調されている。

特に印象的なのは、「チャガン湖」(現在のアバイ州)の映像だ。当時の科学者たちは「(核爆発の)50日後には放射線レベルが安全レベルになる。」と主張していたが、今日もなおこの湖は「原子の湖」と呼ばれ、高レベルの放射能を帯びている。

Photo: Craters and boreholes dot the former Soviet Union nuclear test site Semipalatinsk in what is today Kazakhstan. (File) Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization (CTBTO).
Photo: Craters and boreholes dot the former Soviet Union nuclear test site Semipalatinsk in what is today Kazakhstan. (File) Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization (CTBTO).

より多くの人々へ

「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」の20分版は以下の通りYouTubeで視聴可能だ。(原文へ

本記事はIPS NoramがINPS JapanおよびECOSOC協議資格を持つ創価学会インタナショナル(SGI)と連携し提供している。

INPS Japan

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架け橋を築く:アブラハム合意が形づくる中東外交

【エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】
2020年9月、アメリカの仲介により、イスラエルはアラブ首長国連邦(UAE)およびバーレーンと国交正常化の二国間協定を締結した。その後、スーダン(ただしハルツーム当局によってはいまだ批准されていません)およびモロッコもこの合意に加わった。この画期的な協定は、ユダヤ教とイスラム教がともに預言者アブラハムを共通の祖と見なしていることから、「アブラハム合意」と名付けられた。

アブラハム合意の枠組みにおいて、アラブ諸国はイスラエルの主権を認め、それにより両国間で正式な外交関係が樹立された。

Roman Yanushevsky
Roman Yanushevsky

実際、イスラエルとの関係改善を望むアラブ・イスラム諸国はさらに存在しており、今後数年間でアブラハム合意に加わる国は増えると見られている。ただし、国内外の事情により、現段階でその意志を公にする準備が整っていない国もある。

共通の敵が共通の基盤を作る

実際には、アラブ・イスラエル間のイランに対する同盟は2017年末までに形成されていた。イランはユダヤ国家および穏健なスンニ派諸国の両方に敵意を示し、核開発への野望や地域の武装勢力への支援を続けており、それがイスラム国家の「敵同士」であった国々の接近を促した。

イスラエルと一部のイスラム諸国の間では、相互の地域的利益に基づく政治・軍事レベルでの非公開の協力が長年続いていたが、地域覇権を狙うイランの攻勢的な台頭により、それが一層強まる形となった。アブラハム合意は、そうした対話を容易にし、秘密裏および公然の両面で、多層的・多分野の協力を可能にした。その中のひとつが、核技術に関するアラブ・ユダヤ間の対話である。

イスラエルは1960年代以降、核兵器を保有していると広く信じられており、核弾頭数は80発から400発と推定されている。ただし、イスラエルは従来から「核の曖昧戦略」をとっており、核兵器の保有を肯定も否定もしない立場を維持している。

その目的のひとつは、地域内での核軍拡競争を避けることにある。しかし、イランの核開発はその懸念を現実のものとし、軍拡競争をほぼ避けがたいものにしている。

イスラエルは友好国と技術を共有する用意がある

2022年9月、イスラエル原子力委員会のモシェ・エドリ事務局長は、アブラハム合意に加わったアラブ諸国と、イスラエルの核技術や知見の一部を共有する可能性を示唆した。

「アブラハム合意に見られる地域の新たな精神が、核分野を含む意味のある直接対話への道を切り開くことを期待している。」と彼は述べた。

「イスラエルの最先端技術は、我々に高度な知識と能力を与えてくれます。それをIAEA(国際原子力機関)の枠組みのもとで他国と共有する用意があります。」と、オーストリアでのIAEA総会にて語った。

このように、イランのテロ支援や核開発に対抗するため、地域では協調的かつ断固たる取り組みが進んでおり、ここ数か月でその動きはさらに強化されている。

変化の風

ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰して以来、イランとの核対話は一層緊張を増している。米国はイランに対し、核計画の制限に関する交渉を始めるよう最後通告を出し、互いに脅し合う状況となっている。

イランはイスラエルとの戦争で立場が弱まり、その主要な代理勢力(プロキシ)も深刻な打撃を受けたが、依然として一部の勢力は破壊行動を継続している。たとえば、イエメンのフーシ派は今も暴力と混乱を引き起こしている。

イランは米国との直接交渉を拒否しているものの、間接的な形での交渉には応じる姿勢を見せている。しかし、これらの交渉が決裂した場合、イランおよびその核開発に対して、米国主導のイスラエルおよび穏健な湾岸諸国による国際連合が新たな地域戦争に踏み切る可能性もある。

その土台はアブラハム合意によって築かれ、2024年4月と10月にイランがイスラエルへの報復として数百発のミサイルを発射した際には、共通の地域的取り組みによって大部分が迎撃され、その実効性がすでに試された。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with  Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

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地球全体の問題:女性に対する暴力というパンデミック

【ニューヨークIPS=アザ・カラム】

ジェンダーに基づく暴力の根絶を目指して始まった「女性に対する暴力撤廃のための16日間の行動。」今年のテーマは、女性と少女に対する暴力がパンデミック規模に達している現実を強調している。その数字は驚愕に値する。

統計によれば、世界中で数百万の女性と少女が身体的または性的暴力を受けている。欧州では人身取引の95%が女性を性的搾取の対象としており、2023年には10分毎にパートナーや家族によって女性が故意に殺害された。また、3人に1人の女性が生涯で暴力を経験し、4人に1人の思春期の少女がパートナーから虐待を受けている。

この「16日間の行動」は、あらゆる意思決定者による責任と行動を求め、約束を新たにする機会である。2025年は「北京宣言」と「行動綱領」の30周年にあたる。これらは、UN Womenが「女性と少女の権利とジェンダー平等の達成に向けた先見的な青写真」と評するものである。

女性に対する暴力(VAW)というパズルの重要な要素

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

女性に対する暴力がパンデミック的規模に達しているにもかかわらず、政府当局による正式な宣言は行われていない。また、増加の一途をたどる恐ろしいデータがある中で、いくつかの重要な側面が浮かび上がっている。

国際的活動家であり、リード・インテグリティの創設パートナーであるフラタ・モヨ博士は、女性と男性の「正義ある共同体」のプログラムを推進した人物である。彼女は、権力の不平等が女性に対する暴力の中心にあると強調している。モヨ博士はまた、メンターとメンターに指導を受ける側が互いに学び合う相互性の重要性を訴えており、この意識を高めることが個人、家族、社会、国家における権力の不均衡を正す手段となると述べている。

一方、リード・インテグリティのもう一人の創設パートナーであり、テンプル・オブ・アンダースタンディングの国連代表を務めるエコフェミニストのグローブ・ハリス氏は、地球への搾取的暴力が女性に対する暴力を反映しており、その逆もまた然りであると主張している。つまり、女性と少女への暴力と地球への暴力を分けて考えるのではなく、統合的に取り組む必要があるというのだ。

リード・インテグリティのシニアアドバイザーでありジェンダー専門家のゲハン・アブゼイド氏も、VAWは生態系、経済、政治、社会を含むすべての生活領域に浸透する構造的暴力の問題であると指摘しています。不平等な権力関係が人々や機関を暴力的な関係に陥らせる基盤となっている。

終わりなき連帯の必要性

COP 29 Site
COP 29特集サイト(バナーをクリックしたください)

VAWの根本原因が不平等な権力関係である以上、その解決は女性だけに任せるべきではない。法的措置や政策だけでは不十分であり、あらゆる人々、機関、国家、イニシアチブがその責任を負うべきである。また、女性同士の暴力や男性同士の暴力もVAWの増加と関連しており、戦争などの暴力的な状況はその一例である。

多様なステークホルダーを巻き込む取り組みとして、2024年にアゼルバイジャン・バクーで開催されたCOP29で発足した「女性・信仰・気候変動ネットワーク」が挙げられる。このネットワークは、女性の信仰心を持つリーダー(先住民族の女性を含む)を中心に、政府やNGO、多国間機関と協力し、権力の不均衡を是正するための知識と影響力を高めることを目指している。

統合的アプローチへの移行

私たちがそれぞれの領域(世俗的、宗教的、フェミニスト、人権、平和構築、経済など)で懸命に働きながらも、相互に関連する暴力の形態を十分に対処できていないのではないか、という自問が必要である。このVAWというパンデミックの認識が、分断と恐怖の中でも連携を促進する契機となるのか、それとも過去の過ちを繰り返すのか。私たちの平和的共存、ひいてはこの地球で生き続ける能力そのものがかかっている。(原文へ

アザ・カラム博士はリード・インテグリティの会長兼CEOであり、ノートルダム大学アンサリ宗教・グローバルエンゲージメントセンターのアフィリエイト教授。

INPS Japan

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国連、カザフ核実験被害者の証言に注目し、「核の正義」を求める呼びかけ

【ニューヨークThe Astana Timesナジマ・アブオヴァ】

3月3日~7日、ニューヨークの国連本部で開催された「核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議(3MSP)」において、カザフスタンの核実験の被害者と反核活動家が、核の正義と核兵器の人間および環境に及ぼす長期的影響について議論を主導した。

沈黙を破る——被害者の証言

Diana Murzagaliyeva, a fourth-generation survivor of nuclear testing, taped her mouth shut, representing the years she spent unable to speak. Photo credit: UN Photo/Manuel Elías
Diana Murzagaliyeva, a fourth-generation survivor of nuclear testing, taped her mouth shut, representing the years she spent unable to speak. Photo credit: UN Photo/Manuel Elías

18歳のディアナ・ムルザガリエワさんは、セミパラチンスク核実験場での核実験の4世代目の被害者として、サイドイベントで衝撃的な証言を行った。彼女は、口をテープで塞ぐという象徴的な行動からスピーチを始めた。

「私が9歳になるまでは、まさにこのように感じていました」と、ムルザガリエワさんは語った。

彼女は発話障害(ジスアースリア)を伴う脳性まひを患って生まれた。これは、彼女の地元で行われた核実験による放射線被曝が原因と診断された。

「私の声帯は正常に機能しませんでした。他の子どもたちが笑ったり、歌ったり、遊んだりしている間、私は黙ったまま、自分を表現することができませんでした。」と彼女は振り返る。

彼女は幼少期を病院やリハビリセンターで過ごし、深刻な放射線障害を抱えた子どもたちに囲まれていた。その多くは孤児や捨てられた子どもであり、絶え間ないいじめに苦しんでいた。9歳になるまでに、彼女は放射線による脚の変形を修正するための複数の手術を受けていた。

それでも、彼女は自らの苦しみを行動へと昇華させることを決意した。

「私は環境と障がいを持つ子どもたちのために戦うと誓いました。彼らの目となり、耳となり、声となると約束したのです。」と彼女は述べる。

話すことができなかった幼少期、彼女は執筆を通じて自らを表現する手段を見つけた。14歳のとき、彼女は障がい児の夢と環境問題をテーマにした童話を書き、翌年には200部を出版し、その売り上げを病気の子どもたちの支援に寄付した。

しかし、彼女の物語は彼女一人の苦難ではない。

「私の42歳の母は、幼少期から聴覚障害を抱えています。祖母は癌を患い、すでに亡くなりました。曾祖母は9人の子どもを出産しましたが、そのうち4人は2歳の誕生日を迎える前に亡くなりました。」と彼女は語る。

彼女の曾祖母は1932年、核実験場近くのカラウル村で生まれ、核実験が始まると強制的に移住させられた。1949年8月29日の最初の核実験の際、曾祖母は妊娠中であり、その後生まれた娘は1年しか生きられなかった。

「これらの話は、私だけのものではありません。何世代にもわたり沈黙を強いられてきた多くの家族の物語です。」と彼女は訴える。

スピーチを締めくくる際、彼女は大きな決意を示した。

「長年、私は話すことができないと思われていました。しかし、今、私は皆さんの前に立ち、沈黙を強いられてきたすべての人々の声を届けています。」と彼女は力強く語った。

Side Event: Full Documentary Premiere ”I want to Live On” held on Maech 3, 2025 at UN Headquarters. Photo: Katsuhiro Asagiri, INPS Japan.

共鳴する証言:核の悲劇を共有する記憶

Rebecca Eleanor Johnson, an anti-nuclear activist since the 1980s and executive director of AIDD. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times

1980年代から反核運動に関わり、Acronym Institute for Disarmament Diplomacy(AIDD)の事務局長を務めるレベッカ・エレノア・ジョンソン氏は、ムルザガリエワさんの証言に深く心を動かされた。

「セミパラチンスク核実験に関するドキュメンタリー作品「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」を上映するサイドイベント(創価学会インタナショナル(SGI)国際安全保障政策センター(CISP)、カザフスタン共和国政府国連常駐代表部の共催事業)のドキュメンタリーの内容も非常に力強いものでしたが、彼女の証言にはそれ以上の力がありました。」とジョンソン氏は語る。

特に、ムルザガリエワさんが「祖母はカラウル村の出身」と語った瞬間、ジョンソン氏は運命的なつながりを感じた。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

「1989年、私はグリーンピースの核実験禁止条約の国際コーディネーターとしてカラウル村を訪れました。オルジャス・スレイメノフ氏が『ネバダ・セミパラチンスク運動』を立ち上げたばかりの頃で、私は国際会議に招かれ、カザフスタンを訪問したのです。」と彼女は回想する。

当時、彼女は放射線被曝による病気で子どもを3人失い、最後の生き残った息子を看病していた母親と出会った。そのときの記憶が、ムルザガリエワさんのスピーチによってよみがえった。

「もしかしたら、あの女性は彼女の祖母だったのかもしれません。誰にも分かりません。でも、これこそが、核兵器が80年間もたらし続けてきた恐ろしい被害の人道的な側面なのです。」と彼女は語った。

核爆発の記憶を描く

From left to right: Karipbek Kuyukov, a Kazakh painter, global anti-nuclear activist, and Kazakhstan’s Goodwill Ambassador and Yerdaulet Rakhmatulla, QNFC co-founder. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times

カザフスタンの画家であり、世界的な反核活動家であり、カザフスタンの親善大使を務めるカリプベク・クユコフ氏もまた、自らの証言を共有した。

「私の人生、そしてカザフスタンの歴史そのものが、核実験の恐怖を象徴しています。」と彼は語る。

彼はセミパラチンスク核実験場から100kmのイギンディブラク村で生まれたが、母親の被曝の影響で生まれつき両腕がなかった。

「私の故郷では、崩壊した家、汚染された家畜、そして放射線による深刻な遺伝的影響を目の当たりにしました。」と彼は述べる。

彼は56歳になるまでの半生を核廃絶運動に捧げ、自身の苦しみを芸術に昇華してきた。

「私の絵画には、核実験がもたらした悲劇のすべてが描かれています。私は、世界に安全な未来について考えるよう訴えています。」とクユコフ氏は述べる。

3MSP TPNWの展示では、クユコフ氏の絵画が展示され、核実験の傷跡を訴えかけた。

最後に、彼は力強く訴えた。「今こそ、核の狂気を止める時です」原文へ

Karipbek Kuyukov’s background information stand and paintings, displayed at the exhibition as part of the 3MSP TPNW. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times
Karipbek Kuyukov’s background information stand and paintings, displayed at the exhibition as part of the 3MSP TPNW. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times

INPS Japan/The Astana Times

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【ニューヨークIPS=マンディープ・S・ティワナ】

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

米大統領選の翌日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、米国の人々が民主主義プロセスに積極的に参加したことを称賛する短い声明文を発表した。彼は賢明にも、2021年に暴動を扇動して国民の意思を覆そうとしたドナルド・J・トランプの当選が、国連が世界中で人権と法の支配を推進する取り組みにとって大きな後退であるという指摘を避けた。トランプ氏は、国連が維持しようとしている国際的な規範を軽視するロシアのウラジーミル・プーチンやハンガリーのヴィクトル・オルバンといった権威主義的な強権者たちを自他ともに認める崇拝者である。

そのため、国連事務総長の報道官ステファン・デュジャリックへの11月6日の記者会見での質問は、ウクライナ戦争へのトランプ氏の対応、新政権による国連への資金削減の可能性、さらにはトランプが政権を引き継ぐ際の国連の対応策にまで及んだ。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

米国は世界情勢において非常に大きな役割を担っている。そのため、ワシントンでの政策変更は全世界に影響を及ぼす。私のようにグローバルな市民社会連盟を導く責任を担う者にとって、トランプ氏の再選がもたらす影響は憂慮すべきものだ。

トランプが権力の座にいなくても、すでに私たちはルールを無視して行われる戦争、腐敗した大富豪が自らの利益のために公共政策を左右する世界、そして貪欲による環境破壊が気候災害への道を進んでいる現実に直面している。ジェンダー正義で苦労して獲得した進展も後退の危機に瀕している。

トランプ政権第1期では、国連人権理事会への軽視や、気候変動対策のためのパリ協定からの離脱などが見られた。また、世界中の市民社会団体への支援を制限し、女性の性的および生殖の権利を推進する団体を標的にした。民主主義と人権の促進は米国の外交政策の重要な柱だが、トランプ氏の再選によりこれらの価値が脅かされている。

誤情報と偽情報がパンデミックレベルに達している状況で、こうした戦術を駆使して分断を煽り、半分の真実や完全な嘘を基盤とするキャンペーンを展開した候補者に、米国有権者の大半が票を投じたことは非常に憂慮すべきことだ。このような手法は、すでに分極化している米国の亀裂をさらに深める結果となった。

トランプ大統領の無関心とCOVID-19否定論により、全米の家族は打ちひしがれ、何万人ものアメリカ人が回避可能な感染症で命を落とす結果となった。 彼の政権による移民の拘束と強制送還政策は、マイノリティのコミュニティに恐怖を植え付けた。 今回トランプ氏は、数百万人の人々を強制送還すると公言している。

トランプ氏は中絶の権利に関する立場から、中絶を禁止する法律を導入した米国の複数の州で、女性たちに計り知れない苦しみをもたらしてきた。また、有害な化石燃料の採掘を加速させることを公約しており、ジェンダー正義の擁護者、環境保護活動家、移民の権利活動家を間違いなく自らの権力に対する脅威と見なしている。

UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri

トランプ氏とその側近が示している傾向を考慮すると、汚職や人権侵害を暴露する野党政治家、活動家、ジャーナリストは、新政権によって監視の強化、脅迫、迫害のリスクにさらされる可能性が高い。

国際レベルでは、トランプ氏の当選により、イスラエル、ロシア、アラブ首長国連邦の権威主義的指導者たちを暗黙に支持しているため、占領パレスチナ地域、スーダン、ウクライナにおける戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド行為に対する説明責任を確保する取り組みに暗雲が立ち込めている。これらの指導者たちは、紛争を煽り立て、海外で大混乱を引き起こしている。将来のトランプ政権は、国連の資金源を断ち、ルールに基づく国際秩序を弱体化させ、独裁者を勢いづかせようとするかもしれない。

At an ICAN campaigners meeting in NYC in 2025. Credit: Katsuhiro Asagiri, INPS Japan.

たとえ現状が暗澹たるものに見えたとしても、世界には多様性を称え、正義と平等を推進するという揺るぎない決意を貫く市民社会活動家や組織が何百、何千と存在していることを忘れてはならない。未来を想像するには、時には過去から学ぶ必要がある。

インドの独立運動、南アフリカのアパルトヘイトに対する闘い、米国の公民権運動は、権威主義的な指導者によってではなく、連帯の精神で結ばれ、必要な限り弾圧に抵抗する決意を固めた勇敢な個人によって勝ち取られた。

このことは、米国の市民社会に対しても、高尚なアメリカの理念はどのような大統領よりも長く続く価値があり、守る価値があるという教訓を与えている。(原文へ

マンディープ・S・ティワナ氏は、世界的な市民社会連合であるCIVICUSの暫定共同事務局長。また、国連におけるCIVICUS代表も務めている。表も務めている。

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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カザフスタン、ニューヨークで核軍縮の世界的推進を主導

【ニューヨークThe Astana Timesナジマ・アブオヴァ】

3月3日、核兵器禁止条約(TPNW)の第3回締約国会議(3MSP)が国連本部で開幕した(7日まで)。本会議では、カザフスタンが議長を務め、世界的な安全保障の懸念が高まる中、核兵器廃絶への国際的な誓約が改めて強調された。

カザフスタンの緊急行動呼びかけ

From left to right: Izumi Nakamitsu, Akan Rakhmetullin and Christopher King. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times
From left to right: Izumi Nakamitsu, Akan Rakhmetullin and Christopher King. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times

カザフスタンのアカン・ラフメトゥリン第一外務次官は、開会の辞で軍縮努力を継続する必要性を強調した。彼は、本会議が国連創設80周年および広島・長崎への原爆投下から80年の節目と重なることの歴史的意義を指摘した。

「核兵器の存在とその使用の可能性は、今や世界の安全保障にこれまで以上の脅威を与えています。我々の使命の緊急性は、『終末時計』がさらに深夜に近づいているという事実によって痛感されます。これは、地政学的緊張の高まりと核の脅威の増大を示す警鐘です」とラフメトゥリン氏は述べた。

彼は、地政学的な不安定化、核兵器の増強、および核兵器使用を巡る挑発的な言動の拡大が、前例のない危機を生んでいると指摘した。TPNW発効以降の進展を振り返りつつ、条約が有効な軍縮メカニズムであることを強調し、その普遍化と実施に向けた取り組みの継続を呼びかけた。

「核兵器の廃絶は単なる願望ではなく、絶対的な必要事項なのです」と述べたラフメトゥリン氏は、カザフスタンが450回以上の核実験に苦しんだ歴史を振り返り、それが同国の軍縮への揺るぎない決意を形作ったと語った。

Semipalatinsk former nuclear weapon test site/ photo by Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk former nuclear weapon test site/ photo by Katsuhiro Asagiri

また、被害者支援と環境修復に向けた具体的な措置について議論を深めるよう促し、「国際信託基金の設立」というアイデアを提案した。

「この会議は、単なる誓約の再確認の場ではなく、核軍縮を不可逆的なプロセスにするための政策を推進する絶好の機会です。我々は決意を再確認するだけでなく、核兵器の完全廃絶へと導く主要な措置を積極的に追求しなければなりません」と締めくくった。

国連、TPNWへの支持を強調

Izumi Nakamitsu/ photo by Katsuhiro Asagiri
Izumi Nakamitsu/ photo by Katsuhiro Asagiri

国連事務次長兼軍縮担当上級代表の中満泉(なかみつ・いずみ)氏は、開会挨拶でTPNWの重要性を強調した。

国連事務総長アントニオ・グテーレス氏を代表し、中満氏は地政学的緊張の高まりと軍縮の進展が見られない現状に警鐘を鳴らした。

「前回の締約国会議で、私は事務総長の言葉を引用し、『我々の世界は制御不能になりつつある』と述べました。地政学的緊張が高まり、世界的課題が増大し、そして皆さんが政治宣言で再確認したように、核兵器の存続と軍縮の停滞が、核の惨禍をもたらすリスクを高め、人類全体にとって存亡の危機をもたらしています」と中満氏は語った。

The Third Meeting of States Parties (3MSP) to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW) convened at the United Nations headquarters. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times

「残念ながら、こうした傾向は続き、むしろ悪化しています」と付け加えた。

しかし、彼女はTPNWの締約国が増えていることや、核兵器の壊滅的な影響に対する認識の広がりを前向きな進展として指摘した。

「TPNWへの加盟は、国際社会に向けた重要なメッセージを発信することになります」と述べ、2026年の第1回再検討会議に向けて関与を強化するよう各国に求めた。

ICAN:「核軍縮は政治的選択である」

Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN
Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の事務局長であるメリッサ・パーク氏は、広島・長崎で25万人以上(うち38,000人が子ども)が犠牲となった悲劇を振り返りながら、緊急行動の必要性を訴えた。

「多くの人々が、核兵器が世界に恒久的に存在するものだと諦めています。しかし、私たちは決してその考えを受け入れてはなりません。核兵器は人間の手で作られたものであり、人間の手で解体することができます。これはユートピア的な夢ではありません」とパーク氏は述べた。

彼女は、カザフスタンや南アフリカを例に挙げ、核軍縮が可能であることを示し、技術的な障壁ではなく、政治的な障壁こそが進展を妨げていると指摘した。

「危機の時代においては、期待を下げたり、要求を和らげたりしがちです。しかし、リスクが高まれば高まるほど、より野心的であるべきです」と語った。

また、パーク氏は核兵器の近代化・増強を進める9つの核保有国と、その同盟国の関与を非難し、核抑止の概念を「自己満足的な幻想」として批判した。

「核抑止は、究極のテロ行為です」と、ノーベル賞受賞者ジョゼフ・ロートブラットの言葉を引用した。

赤十字、法的・人道的責務を強調

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

国際赤十字委員会(ICRC)の常駐代表であるエリーズ・モスキーニ氏は、TPNWが国際法を強化し、核軍縮を促進し、核兵器が引き起こす長期的な被害に対応する上で重要な役割を果たしていると指摘した。

「今日、世界のほぼ半数の国々がTPNWに拘束される意志を表明しました。これは多国間主義の勝利であり、核軍縮の議論と意思決定において人類を中心に据えるべきだという明確なメッセージです」とモスキーニ氏は述べた。

彼女は、TPNWが国際人道法に沿って核兵器を包括的に禁止することで、法的な空白を埋める役割を果たしていると指摘した。

また、被害者支援と環境修復のための「国際信託基金」の設立を進めるよう各国に呼びかけ、「核兵器の壊滅的な人道的影響を再確認し、その使用を示唆するいかなる行為も非難することが不可欠である」と強調した。(原文へ)

INPS Japan/ The Astana Times

Original Link: https://astanatimes.com/2025/03/exclusive-kazakhstan-leads-global-push-for-nuclear-disarmament-in-new-york/

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「娘たちの虐殺」— ネパールの出生性比が示す深刻な男女格差

【カトマンズNepaliatimes=シュリスティ・カルキ】

公衆衛生専門家のアルナ・ウプレティ氏は、数年前、ドルポからネパールガンジへ向かう飛行機内で、妊娠中の女性と会話を交わした。その女性は、「医師の診察を受けるため」に都市部へ向かっていると言い、ウプレティ氏は、地方の女性たちが積極的に産前ケアを受けていることを喜んだ。しかし、その女性が「すでに2人の娘がいるので、超音波検査で胎児が女の子だと分かれば中絶する」と話した瞬間、衝撃を受けた。

ウプレティ氏がネパールガンジの病院で看護師たちにこの話をすると、彼女たちは特に驚くこともなく、「カーナリ地方の妊婦たちは、胎児の性別を確認し、性別選択に基づく中絶を受けるためにやって来る」と語った。

このような事例は毎年数万回も繰り返されており、2021年のネパール国勢調査のデータにも明確に表れている。ネパールでは男性の出生数が女性よりも顕著に多く、アジアでも最も出生性比が高い国の一つとなっている。

出生性比(SRB)とは、100人の女児の出生に対する男児の出生数を示す指標である。生物学的には、男児の出生数が若干多い傾向があり、自然なSRBは105:100とされる。しかし、ネパールの2021年国勢調査ではSRBが112:100と大幅に上昇し、2011年の106:100から急増したことが分かる。

最も出生性比が高いのは、インド国境に接するダヌシャ地区(133:100)で、対照的にムスタン地区では92:100と、女児の出生が男児よりも多い珍しい地域となっている。州別では、マデス州(118:100)が最も高いSRBを記録している。

この傾向の背後には、性別に基づく選別出産(GBSS)と、それを助長するネパールの男性優位な伝統的価値観がある。

Source: 2021 NEPAL CENSUS
Source: 2021 NEPAL CENSUS

GBSSには、産前と産後の2種類がある。

  • 産後の性別選択:乳児期の女児の放棄、栄養や医療ケアの差別、または女児殺害。
  • 産前の性別選択:受精時に特定の性別を選ぶ方法、または超音波検査で性別を確認し、望まない性別(多くの場合、女児)の胎児を中絶する方法。

世界的に見ても、男児を望む傾向が性別選択の主な原因となっている。2021年の国勢調査のデータは、ネパール人が胎児の性別を選択し、中絶を行うケースが増加していることを裏付けている。これは、クリニックが胎児の性別を明かすことを法律で禁じられているにもかかわらず、超音波診断技術を用いた性別選択が横行しているためだ。

ネパール社会では、伝統的に息子が家系を継ぎ、経済的な支えとなり、老後の親の世話をし、葬儀の儀式を行い、財産を相続する存在として重視されてきた。

これはネパールだけの問題ではなく、インド(SRB 108:100)や中国(SRB112:100)でも見られる傾向だ。インドでは文化的要因、中国では一人っ子政策の影響が背景にあった。しかし、両国では出生性比の改善が進んでいるのに対し、ネパールでは2001年の104:100から、2011年には106:100、2021年には112:100と悪化している

Source: 1952/54-2021 NEPAL CENSUSES
Source: 1952/54-2021 NEPAL CENSUSES

また、都市部の方が出生性比が高い(114:100)という結果も示されており、これは「教育水準が高い都市部では、女性差別が少ない」という通説を覆すものだ。都市部では、医療機関へのアクセスのしやすさが、性別選択の機会を増やしている可能性がある。

中央人口学研究所(Tribhuvan University)のヨゲンドラ・B・グルング氏は、「ネパールの出生性比の偏りは、深く根付いた家父長制を反映している」と指摘する。さらに、出生性比の偏りは、以下のような社会問題を引き起こす可能性がある。

  • 女性の減少による人口バランスの崩壊
  • 結婚の機会の減少と、花嫁の人身売買の増加
  • 性的暴力や人身売買、強制結婚のリスク増加
  • 労働力不足と経済への影響

出生届の提出率が低いために、実際の性比がさらに悪化している可能性もある。特に、息子の出生は届け出るが、娘は登録しない家庭が多いという調査結果もある。

国際連合人口基金(UNFPA)のネパール代表、ウォン・ヨン・ホン氏は、「性別選択の実態を把握するためには、病院やクリニックのデータを集め、より詳細な研究を行う必要がある」と述べている。

Sex ratio at birth (2021) in selected Asian countries. Source: OUR WORLD IN DATA
Sex ratio at birth (2021) in selected Asian countries. Source: OUR WORLD IN DATA

また、ネパール政府は、以下の対策を講じる必要がある:

  1. 妊娠中の性別選択技術の監視を強化するための規制強化
  2. 社会保障制度の拡充(老後の親の生活支援を政府が担う)
  3. 女性の教育と雇用機会の向上
  4. 文化的・宗教的なジェンダー規範の見直し
  5. 社会全体での意識改革キャンペーン

インドでは、「ベティ・バチャオ・ベティ・パダオ(娘を救い、娘を教育せよ)」という国家レベルのキャンペーンが出生性比の改善に貢献した。ネパールも同様の取り組みが求められる。

ネパールの出生性比の偏りは、単なる統計上の問題ではなく、社会全体の構造的な課題である。女性の権利向上とジェンダー平等を推進するためには、法律だけでなく、社会的・文化的な意識改革も不可欠だ。

アルナ・ウプレティ氏は、「安全な中絶は女性の権利であり、GBSSの根本的な問題を解決するには、家父長制の文化を批判的に見直す必要がある」と強調する。ネパールが真のジェンダー平等を実現するためには、政府、市民社会、国際機関が連携し、多角的なアプローチを取る必要がある。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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二人のアフリカ人作家に対する不名誉な非難と『人間の最奥に秘められた記憶』

【ストックホルム(スウェーデン)IPSジャ-ンディウス】

2021年、セネガルの小説家モハメド・ムブガル・サールは、サハラ以南のアフリカ出身の作家として初めて、フランス最古で最も権威ある文学賞であるゴンクール賞を受賞した。

文学

彼の小説『La plus secrète mémoire des hommes(人間の最奥に秘められた記憶)』は、パリに住む若きセネガル人作家が主人公だ。彼は偶然、1938年に出版された幻のセネガル人作家T.C.エリマーヌの小説に出会う。この作家はかつてパリのメディアから絶賛されていたが、その後忽然と姿を消した。

エリマーヌは失踪する前に盗作の疑いをかけられ、その結果として訴訟に敗北。彼の出版社は、小説『非人道の迷宮』のすべての在庫を回収・破棄することを余儀なくされた。しかし、いくつかの極めて希少なコピーが残され、それを読んだ者に深い影響を与えた。

小説の主な主人公(他にも数人の登場人物がいる)は、最終的にフランス、セネガル、アルゼンチンにわずかな足跡を残した幻のエリマーヌを追い求め、絶望的な旅に巻き込まれていく。

多声的で精緻なサールの小説、アフリカ文学に横たわる疑問

サールの多面的で巧みに書かれた小説を読むと、多様な声が入り混じり、調和したり、矛盾し合ったりする「合唱」に出会う。この物語は迷宮のように変化し、フィクションと現実の境界が曖昧になり、未解決の謎が残される。サールは世界文学の大海原を自由に航海しているかのようで、あらゆる重要な作品を読んでいるように思える。作品中の暗示は明白なものもあれば、見えないままのものもある。最終的にこの小説は、神話と現実、記憶と現在の境界、そして最も重要な問い―「物語とは何か?」「文学とは何か?」―を探求する。それは「真実」に関わるものなのか、それとも現実のパラレルなバージョンを構築するものなのか?

この魅惑的な物語の表面下には、不穏な問題が浮かび上がる。なぜサール以前の二人の優れた西アフリカの作家が、盗作の疑いで厳しく批判され、非難されたのか?なぜ彼らは「アフリカ的でない」とされたのか?アフリカの作家たちは、文学界の偏見に満ちた評価により、異国的な珍品として扱われる運命にあるのだろうか?ノーベル賞を受賞したナディン・ゴーディマーJ.M.クッツェーのような白人作家を除き、アフリカの作家たちはヨーロッパ文学の模倣者と見なされ続けるのだろうか?

人間の最奥に秘められた記憶』と、実際の作家たちの苦難

『人間の最奥に秘められた記憶』は不穏な前史を持ち、ギニアの作家カマラ・ライエや、同じく不幸な境遇にあったマリのヤンボ・ウオロゲムの実体験を反映している。

15歳の時、カマラ・ライエはフランス植民地ギニアの首都コナクリに移り、機械工学の職業教育を受けた。1947年、彼はパリに渡り、さらに機械工学を学んだ。1956年、カマラ・ライエはアフリカに戻り、ダホメ(現ベナン)、ゴールドコースト(現ガーナ)、そして独立したばかりのギニアで政府の職務を歴任した。しかし1965年、政治的迫害を受けてセネガルに亡命し、故郷に戻ることはなかった。

1954年にカマラ・ライエの小説『王の視線(Le regard de Roi)』がパリで出版され、当時「アフリカから生まれた最高のフィクション作品の一つ」と評された。この小説は非常に奇妙で、現在もその特異性を保っている。特に、主人公が白人であり、物語が彼の視点で展開される点が注目さる。

主人公のクラレンスは、故国でほとんどのことに失敗した後、アフリカで一攫千金を目指して到着する。しかし、ギャンブルで全財産を失い、ホテルを追い出された彼は、アフリカの奥地に裕福な王がいるという伝説を追う決心をする。その王が彼を支援し、仕事や人生の目的を与えてくれると信じていたのだ。

ライエの小説は、人間が神を求める寓話となっている。クラレンスの旅は自己実現への道へと発展し、一連の夢のような屈辱的な経験を通じて知恵を得る。その経験はしばしば厳しく、時には悪夢のようだが、物語には時折、滑稽で魅力的なユーモアが差し込まれている。

しかし、一部の批評家はこれが本当にアフリカ文学なのかと疑問を投げかけた。その言語は魅力的にシンプルだったが、寓話的な語り口はキリスト教的であるとされ、アフリカの伝承は「表面的」であり、語り口は「カフカ的」だとされた。アフリカの作家の中にも、ライエがヨーロッパの文学的手本を「模倣している」と考える者がいた。ナイジェリアの作家ウォーレ・ショインカは、『王の視線』をカフカの小説『城』の弱い模倣であり、それをアフリカに移植したものだと特徴づけた。さらに、フランスでは、若いアフリカ人の自動車整備士が『王の視線』のような奇妙で多面的な小説を書けるはずがないという疑念が広がったのだ。

アフリカ文学への辛辣な非難―ライエとウオロゲムの不遇な運命がサールに与えた影響

カマラ・ライエの『王の視線』は、その興味深い天才的な作品であるにもかかわらず、容赦ない非難の対象となった。この非難は次第に激化し、最終的には米国の教授アデル・キングによる決定的な研究により、彼の名声に致命的な打撃が与えられた。1981年、キングは『The Writing of Camara Laye』で、『王の視線』が実際にはフランシス・スーレという反逆的なベルギーの知識人によって書かれたものであると「証明」した。スーレはブリュッセルでナチスや反ユダヤ主義のプロパガンダに関与し、第二次世界大戦後にフランスへ逃れざるを得なくなった人物である。

キングによると、スーレは出版社プロンの編集者ロベール・プーレと共謀し、自身の小説を若いアフリカ人作家が書いたものとして発表することで、その成功を確実にしたとされている。彼女はライエのフランスでの生活を詳細に追跡し、彼がプロン社から『王の視線』の著者として行動するために報酬を受け取ったと結論付けた。

キングは、ライエの小説が「アフリカ的ではなく、ヨーロッパ的な文学形式を持っている」と述べ、これがスーレの作品であることを示唆した。しかし、スーレの文学的成果は非常に乏しく、ライエが他にも優れた小説を執筆している事実を無視している。キングはまた、ライエがスーフィズムの伝統に由来するメシア的なテーマを持つことを無視し、「カフカ的な」要素もライエ自身がフランツ・カフカに影響を受けた可能性を排除した。

これらの疑わしい仮定にもかかわらず、キングの結論は広く受け入れられ、2018年にはクリストファー・ミラーの著書『Impostors: Literary Hoaxes and Cultural Authenticity』にも目立つ形で引用された。

ヤンボ・ウオロゲムの『暴力の義務』への激しい非難

1968年には、西アフリカのもう一人の優れた作家ヤンボ・ウオロゲムが、画期的な小説『暴力の義務(Le devoir de violence)』で同様の運命をたどった。この作品は、アフリカの架空の王国(現在のマリに類似)における700年にわたる暴力の歴史を扱い、流れるような一級の筆致で極端な暴力、王室の圧政、宗教的迷信、腐敗、奴隷制度、女性器切除、レイプ、女性嫌悪、権力の乱用を描写した。また、真の愛や調和のエピソードも交えながら、強力で腐敗したアフリカのエリートが植民地勢力と共謀して富を築いた様子を容赦なく描いている。

この小説は、一部の批評家や作家、特に「ネグリチュード」の支持者から激しい反発を招いた。ネグリチュードはフランス語圏の知識人たちによって発展した文学理論で、アフリカの独自文化を強調したが、ウオロゲムはこれを「ネグライユ」と揶揄し、アフリカの人々に従属的で劣等感を植え付けると非難した。

最終的には、尊敬される作家グレアム・グリーンがウオロゲムの『暴力の義務』に対して訴訟を起こし、作品が彼の小説『It’s a Battlefield』の一部を盗用していると主張した。グリーンは訴訟で勝訴し、フランスで『暴力の義務』は出版禁止となり、全ての在庫が破棄された。この結果、ウオロゲムは小説を書くことをやめ、故郷マリに戻り、最終的には隠遁生活を送った。

サールの小説に影響を与えた二人の作家の運命

モハメド・ムブガル・サールの『人間の最奥に秘められた記憶』は、こうした二人の西アフリカ作家の運命を想起させている。サールの小説では、セネガルとフランスという二つの異なる世界の間で揺れる若い作家が描かれている。彼は文学の世界で慰めを見出し、エリマーヌの小説という「宝石」に出会う。しかし、エリマーヌの正体を追い求める彼の旅は虚しく終わり、その過程で彼自身のアイデンティティ探しもまた無駄に終わってしまう。この物語は、私たちが生きる世界という迷宮の中で、自分自身を見つけることの難しさを象徴している。

サールの作品は、前例の作家たちが「本物ではない」とされ、「盗作」と非難された運命を反映しつつ、グローバル化した世界の中で何が「本物」なのかを問いかけている。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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