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|軍縮|オバマ大統領、START後継条約批准を勝ち取る

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

12月22日、ロシアとの新しい戦略兵器削減条約(START)批准採決で、13人の米共和党上院議員が党指導層の方針に反して賛成票を投じたことで、批准に必要な上院の3分の2以上の賛成が得られた。バラク・オバマ大統領にとっては、外交政策と国内政治の両面において重要な勝利となった。

オバマ大統領は臨時の記者会見を開いて超党派による投票結果を歓迎し、「我々の安全保障に関して共和党と民主党が協力しているという強力なシグナルを世界に送ることができる」と述べた。

 「これはこの20年ではもっとも重要な軍備管理上の協定である。米国はより安全になり、ロシアとともに我々の核戦力は削減されることになろう」。

外交政策に関しては、世界の核不拡散体制強化だけではなく、漸進的な世界の非核化推進というオバマ大統領のビジョンも保たれることになった。

短期的に言えば、対露関係の「リセット」というオバマ大統領の唱導してきた政策にも改めて弾みがつくことになる。イラン核開発の抑制とアフガニスタンにおける米国の対テロ戦争の遂行というオバマ政権の2大対外政策に関して、ロシアの協力を得ることが、成功の鍵を握ると考えられている。

ロシア政府筋も同日、ロシア国会も週末には条約案を批准する見込みだと述べた。

政局の面から言えば、これだけ多くの共和党議員がオバマ政権側に付いたということが、共和党内で少なくとも国家安全保障問題で深刻な分裂があることを示している。オバマ政権は、2011年1月からの議会で共和党が多数を占めるようになるにもかかわらず、こうした分裂を効果的に利用することができるであろう。

さらに、11月末の中間選挙で民主党が惨敗して以降、米議会においてオバマ政権はいくつかの得点を挙げてきたが、今回の新STARTの批准はその延長線上に起こったものである。850億ドルの減税・景気刺激予算を通過させたこと、同性愛者であることを公表した者が米軍で軍務につくことを禁止した「聞かざる、言わざる」政策を共和党右派からの激しい反発を押し切って廃止したことが特筆される。

ある米議会スタッフは、オバマ政権がいうところの11月選挙の「大惨敗」を念頭に置きつつ、「今回の投票結果で、中間選挙直後は言うに及ばず、ほんの1週間前に思われていたよりも大統領ははるかに影響力のある政治的プレイヤーであることを見せつけて1年を締めくくる形になった」と語った。

START後継条約の批准までには、3週間にわたってホワイトハウスが中心となった激しいロビー活動が行われた。国防総省、米軍幕僚、安全保障関係の元高官もこれを支援した。共和党の歴代の5つの政権から、ジョージ・ブッシュ元大統領(父)、元国務長官として、ヘンリー・キッシンジャー氏、ジョージ・シュルツ氏、ジェイムズ・ベーカー氏、コリン・パウエル氏、コンドリーザ・ライス氏が新START賛成を表明した。

昨年4月に署名された新条約の主要部分は比較的穏健な内容のものだと考えられている。米露両政府は、それぞれの戦略核弾頭を7年以内に1550~2200発までに削減する。

また、米露による相互査察の再開も盛り込まれた。ブッシュ(父)政権が1991年に結んだ第一次STARTが2009年12月に失効したため、相互査察もそこで取りやめになっていた。

条約の内容はこのように穏健なものであるが、共和党のジョン・カイル上院院内幹事(アリゾナ州選出)などの右派が批准に反対した。条約上の文言によって米国のミサイル防衛システムの開発が妨げられる可能性があること、ロシアの数千発に及ぶ戦術核が条約でカバーされていないことが反対の論拠だった。また検証に関する条項が不適切だという意見もある。

しかし、より強力な反対は、むしろ政局がらみのものであった。「民主党が次の会期では多数でなくなってしまうにもかかわらず、レームダック・セッション(中間選挙後から2011年1月の新会期までの残りの会期)の間に軍備管理条約を通すべきではない。」という主張である。

上院が5日間の審議を締めくくって条約案を賛成67・反対28で承認したことを受けて、リンジー・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)は「なぜ批准まであと5週間待てなかったのか」と不満を口にした。

次の会期で共和党議員が6人増えるという状況の下では、オバマ政権が条約批准を勝ち取るのはより困難で、政治的にコストの高くつくものになるものであろうことは、条約賛成派にとって自明であった。

そこでオバマ政権は、中間選挙を前にして、カイル議員らと協議してその他の分野で譲歩を行った。核兵器近代化5カ年計画のために850億ドルの支出を約束したのがその代表である。

オバマ政権は、カイル議員が、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(ケンタッキー州選出)の支持を受けて、条約批准の採決を翌年まで遅らせるかもしれないと示唆したことに衝撃を受けた。

この時点において、ホワイトハウスのロビー活動に加速がつき、平和、軍縮、宗教などの関連集団は支持者を動員して浮動的な上院議員に地元から圧力をかけさせた。

この時点では、共和党からはリチャード・ルーガー上院議員(外交委員会筆頭理事、インディアナ州選出)ただひとりが条約を強く支持していたにすぎなかったが、少なくとも6~7人の共和党議員が、適切な状況が生まれれば賛成票を投じる方向に傾いていた。

その後、ホワイトハウスは、存命のすべての元国務長官、ほとんどの元国防長官と、ジョージ・ブッシュ(子)氏を除く全ての存命の元大統領を担ぎ出した。また、条約否決でイラン問題に関してロシアからの協力が得られなくなる結果になることを恐れる主要なNATO同盟国と、主要なユダヤ系団体からの、条約賛成への強力な支持も取り付けた。これに対して、極右のヘリテージ財団、ジョン・ボルトン元国連大使(アメリカン・エンタープライズ研究所)、『ウィークリー・スタンダード』誌のウィリアム・クリストル氏などの著名なネオコン、サラ・ペイリン氏やミット・ロムニー氏などの2012年大統領選の候補者などが、批准反対の論陣を張った。

世論調査では条約賛成が圧倒的であったが、マコネル議員やカイル議員は右派についた。しかし、今となってみれば、これは重大な計算違いであった。21日になって、共和党のナンバー3であるラマー・アレクサンダー議員(テネシー州選出)が賛成に回ったのである。

アダム・ソーヤー氏は、この件についてウェブサイト「アメリカン・プロスペクト」でこう書いている。「共和党は自らを非難するしかない。なぜなら、上院共和党は批准を党派対立の問題にしてしまったからだ。もともとは共和党の大統領らが結び、民主党の大統領が更新したロシアとの協定は、いまや、オバマ政権にとっての大勝利となった」。

条約を支持する主要NGOのひとつ「プラウシェアーズ財団」のジョー・シリンシオーネ代表はいう。「結局のところ、共和党議員の4分の1以上が、軍指導部とほとんどの元国防長官、国務長官の意見を受け入れて、ジョン・カイル議員やジョン・ボルトンの勧告を無視したということだ」。「もっと兵器を、もっと戦争を、という彼らの極端な見解は、何がベストかを知っている人々によって拒絶された。核政策や軍事行動、軍事予算に関する今後の議論を考えると、これは希望のある兆候だと言える」。

こういう見立てもある一方で、オバマ政権が新START後の軍縮問題で最重要課題と位置づける包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准については、共和党右派がかつてよりも勢力を伸ばした次期の上院では困難だろうという見方がもっぱらだ。

結果として、オバマ政権は、戦術核兵器削減などのより穏健な合意をロシアと結ぶことを追求し、米国が長期的な目標として非核化の約束を果たしていると国際社会に印象付けようとするのではないか。

他方で、22日の採決はロシアとの関係改善につながるであろう。ロシア政府は、条約案の否決ないしは採決遅延を行わないよう警告する発言を今週に行っていた。

ジョージタウン大学「生起する脅威プロジェクト」のディラン・マイルズ-プリマコフ氏(ロシア専門家)は、「おそらく、条約が米露の核戦力に与える影響と同じく重要なのは、これが両国関係全体の改善に資するという点であろう。」「もし条約が通っていなかったら、アフガニスタンへの兵員・軍事物資輸送のためのロシア領土・空域の米国による利用は危機に瀕していたかもしれないし、国連安保理でイランに対する新制裁決議を採択する際にロシアが拒否権を行使することになったかもしれない」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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│カンボジア│欧印貿易交渉で抗レトロウィルス薬入手困難に?

【プノンペンIPS=フォン・ペン】

この7年間毎日、1日2回、メン・トールさん(39)は薬を飲み続けてきた。彼は、1990年にHIVテストで陽性と判定された。それ以来、木の根っこなどを原料にした伝統的な薬を使ってきたが、症状は一向に改善しなかった。 

しかし、2003年になって抗レトロウィルス薬を使い始めてから体調が安定し、定職にも就けるようになった。

 しかし、EUとインドとの間の貿易交渉が、トールさんたちの将来に暗雲を投げかけている。現在両者の間で進んでいる交渉で、欧州企業の知的財産権を守るために、インド企業がジェネリック薬を製造することが大幅に制限されようとしているのである。 

しかし、国内のエイズ患者のうち90%がインド製のジェネリック薬に依存しているカンボジアのような国においては、これは深刻な事態を引き起こすことになる。 

カンボジアのエイズ罹患率(成人)は1998年には2%だったが、今年は0.7%まで低下している。この間、抗レトロウィルス薬の使用が爆発的に増えたのは、偶然ではない。2001年には国内でわずか71人しか使用していなかったが、今年は4万人も使用している。これは国内のエイズ患者の86%を占める。 

「HIV/AIDSとともに生きるカンボジア市民ネットワーク」のヘン・フィン氏によれば、2000年ごろには抗レトロウィルス薬での治療を受けるには年間1万ドルが必要であったが、現在はわずか80ドルで事足りるという。 

オックスファム・インターナショナルとヘルス・アクション・インターナショナルが10月に発表した報告書では、EUが欧州市民のために医薬品の価格を下げようと努力する一方で、途上国のエイズ患者の薬代を高くするような交渉を行っていることを「ダブルスタンダード」だと非難している。 

欧州委員会は、「貧困国の市民も低価格の医薬品を手にできるようにするのがEUの方針」だと弁解しているが、「健康に対する権利に関する国連特別報告官」のアナンド・グローバー氏は、欧印協定のリークされた草案によれば、インドでのジェネリック薬生産は「相当に制限される」ことは間違いないだろう、としている。 

途上国のエイズ患者を危機に陥れる欧印貿易協定について報告する。 

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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|軍縮|核抑止の神話を解く

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Public Domain

【国連IPS=カンヤ・ダルメイダ】

1980年代末に冷戦の恐怖が去ろうとするなか、米国のロナルド・レーガン大統領とソ連(当時)のミハイル・ゴルバチョフソ連共産党書記長が、「核兵器の完全廃絶」を議論するためにアイスランドの首都レイキャビクで会談を行った。

それから20年後、世界の指導者らは、依然として大量の核兵器を維持し続けている。

国連の「軍縮・平和・安全保障に関するNGO委員会」が作成した2010年の統計によると、現在9ヶ国(安保理五大国+インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル)が核兵器を所有(あるいは、それを開発・配備する手段を保有)している。その内、米国とロシアが全体の95%を占めている。

 長年にわたって、特に米国の外交政策論議においては、軍縮の問題は「抑止論」によって支配されてきた。「国家に対する潜在的な敵は核戦争の脅威によって抑止しうる」という考え方である。

「NGO軍縮委員会」が今週開催したパネル・ディスカッションでは、法律の専門家であるジョン・バローズ氏とワード・ウィルソン氏が抑止論の誤りを暴き、軍縮に関する対話をより建設的な方向に向けていくための議論を行った。

不拡散研究センター(CNS)の研究員であるウィルソン氏は、「国際社会は、我々の世界に関する理解として、コペルニクス的転回にも似た軍縮に対するアプローチの大胆な変化、つまり、パラダイム・シフトを起こす必要がある。」と語った。

「長年にわたって、米国をはじめとした多くの国が、核抑止論を『危険でおそらくは非道徳的なものではあるが、確実に必要なものである』という考え方をとってきた。」とウィルソン氏は言う。

しかし、ウィルソン氏の研究によれば、核兵器の使用も、あるいは使用の威嚇も、戦争を抑止したり、相手方に降伏を促したり、勝利を確実にしたりする効果はないという事例が歴史には多く見られるという。

おそらく、核兵器の持つ力を示すものとして最も多く引用されるのが、ハリー・トルーマン大統領が1945年8月6日に広島に原子爆弾を投下する命令を下した後に日本が降伏した、という事例であろう。

米国は、広島の悲劇は核兵器の「サクセス・ストーリー」であると宣伝し、その後の核兵器開発を推進し正当化するための例えとして用いてきた。

しかし、ウィルソン氏は、多くの人々が注目してこなかった事実に目を向けさせることによって、こうした考え方を解体することを試みた。たとえば、広島は、45年8月までに容赦なく爆撃されてきた日本の68都市のひとつに過ぎない、という事実である。

原爆投下による広島での死者数は、それまでの日本本土空爆における死者数の中でいうと、9位か10位にしか入らない。だとすると、なぜ、日本はリトル・ボーイの直後に降伏したのだろうか?
 
 ウィルソン氏によれば、その答えは、単なる神話の創造によるものだという。多くの歴史家や法律専門家、学者らが実際には、8月9日の長崎への原爆「ファット・マン」投下前のソ連軍の侵攻が日本の降伏に関しては重要であったという見解で一致している。

こうした神話解体には、法律の面から見て多くの意味合いがある。とりわけ、核兵器の使用が国際人道法に明確に違反している、ということである。

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核政策に関する法律家委員会(LCNP)のジョン・バローズ代表は最近、「米国の核兵器への依存を終わらせ、グローバルな核廃絶を達成する―法が要請する賢明な政策」という共同声明の作成に加わった。抑止であれ、何の目的であれ、核兵器の保有が違法であることを詳細に論じたものである。

この声明は、「この環境においては、数千発を超える米国の核兵器は米国の安全保障上の利益にかなわない。核兵器はそれ自体、米国の直面する安全保障状況の脅威になっている。」と述べている。

さらに同声明は、ハーグ陸戦法規ジュネーブ条約国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程国際司法裁判所(ICJ)の1996年の勧告的意見など、戦争と武力紛争に関する国際法の中に核兵器の問題を位置づけている。

バローズ氏はIPSの取材に応じて「核兵器の使用が武力紛争に関する国際法によって違法だとされている事実は、米国が核兵器を使用すると脅すことは違法であるということを示しています。つまり、抑止の政策もまた違法だということです。特定の状況において核兵器を使用する気がないのなら、なぜ核兵器を保有する必要があるでしょうか?」「私たちには、人類の絶滅を脅しの種にする憂慮すべき状態が当然のことになってしまっています。私たちは、このような世界に住みたいのではありません」と語った。しかし、米国は平然として自国の核兵器を強化する一方で、世界的な非難をイランや北朝鮮、シリアといった国々に向けようとしている。

さらにバローズ氏は、「国連安保理が、核兵器を保有した五大国(米国、ロシア、中国、フランス、英国)によって牛耳られているという状況の下では、『脅威』を与える手段として核兵器に国家が依存するという状態を打ち破るために、国際社会が1996年のICJ勧告的意見の先へと踏み出ていく明確な方法があるわけではありません。」と語った。

「しかしメキシコは現在、ICCのローマ規程を改定して、核兵器の使用、あるいはその威嚇を違法化しようと提案しています。」「ICCの加盟国が近い将来この改定を採択することはありえることです。ローマ規程にすでにある禁止武器リスト(毒ガス、人体内において展開する弾丸)に核兵器を付け加えることで、核兵器を使用しないという国際規範を定着させていくことができるでしょう。」とバローズ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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海部俊樹元首相(INPS Japan会長)による講演会を収録

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.

東京のホテルオークラで海部俊樹元首相(INPS Japan会長)による講演会(政策研究会主催:政経セミナー)が開催され、INPS Japanからは浅霧理事長が参加し、撮影・編集を担当した。

翻訳=INPS Japan

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小売から世界の環境保護活動へ(イオン環境財団)

オバマ大統領、新START批准を最優先課題に

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

先の中間選挙で大勝した共和党優勢の議会がスタートする来期までの期限が差し迫る中、バラク・オバマ大統領は、ロシアとの間に締結した上院における新戦略兵器削減条約(新START)の批准承認を、議会対策の最優先課題に据えたようだ。

オバマ大統領は、上院での新START批准承認を獲得するために、核兵器近代化予算の追加を求める共和党の要求に応じる用意があるとしたのに続いて、さらに「ブッシュ大型減税」措置の延長に高所得者世帯も含めるべきとの共和党の要求も受け入れる意向を示唆している。

U.S. President Barack Obama's official photograph in the Oval Office on 6 December 2012.

 一方、オバマ大統領は、過去5代の共和党政権下で国務長官を務めた5人を含む共和党外交族の重鎮からかなりの支持を得ている。

ヘンリー・キッシンジャー氏、ジョージ・シュルツ氏、ジェームズ・ベーカー氏、ローレンス・イーグルバーガー氏、コリン・パウエル氏の歴代国務長官は、12月2日付のワシントンポストに寄稿した連名記事の中で、新STARTは「明らかに米国の国益に資するもの」であり、批准すべきであると結論付けている。

ニクソン、フォード、レーガン、ジョージH.W.ブッシュ、ジョージW.ブッシュの歴代政権下で国務長官を務めたこれら5名の著者は、「当時各々の上司である歴代大統領は、公正で検証可能な仕組みのもとで核兵器の数を削減することが、核戦争勃発のリスクを減らし、米国のソ連及び後のロシア連邦との2国間関係を安定化させることを理解していた。」と記している。

しかし新STARTが上院で批准承認されるかどうかの見通しは依然として不透明である。来月の新会期後に大幅に勢力が拡大する強硬路線のネオコン(新保守主義者)や共和党右派の議員は、米露両国が配備済長距離核弾頭数の上限を2200から1550に各々削減する条項等を合意した新STARTの承認を、依然として断固反対する立場をとっている。

新STARTが批准されれば米露両国による核ミサイルの相互検証作業を再開できる。現在は1991年にブッシュ(父)大統領が締結し、まもなく批准された従来のSTARTが昨年12月に期限切れとなり、相互の検証作業が停止されたままの状態となっている。

新STARTの反対者は、同条約は、検証システムが不十分(新START条約では、移動式大陸間弾道ミサイル〈ICBM〉の生産工場における常駐査察が廃止されるとともに、移動式ICBMを他のICBMと区別して扱わない方式を採用。また、従来のSTARTと比較して査察対象と回数を減らすことで検証の効率化を図り、負担軽減を図っている。反対勢力はロシアが移動式ICBMへの依存度を高めている中、移動式ICBMに対する監視を緩めるのは妥当ではないと主張している:IPSJ)であり、米国が将来イラン、北朝鮮、そしてロシアを含むその他の敵国からの攻撃から国土を守るミサイル防衛システムの開発・配備能力を制限しかねないと主張している。

保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のエド・ミース氏とネオコン系シンクタンク「American Enterprise Institute (AEI)」のリチャード・パール氏は、12月2日付のウォールストリートジャーナル紙に寄稿した共同署名記事の中で、「レーガン大統領は、米国は、軍縮交渉に関しては強気に出て優勢な立場で交渉すべきということを理解していた。」と記している。

ミース氏は、レーガン政権下で司法長官及び大統領の政治顧問として仕えた人物である。また、パール氏は同政権で国防次官補として軍縮交渉の任にあたった人物である。

また両著者は、「これだけロシアに譲歩して得た内容が欠陥だらけの合意を、オバマ大統領や共和党の著名な政治家が、故レーガン大統領の記憶に言及して批准承認を訴えたのは全く恥知らずで不適切な行為と言わざるを得ない。」と記している。

米国憲法では、条約批准には定員100人の上院議員の3分の2にあたる67人の賛成が必要である。今期中、民主党は58議席を確保しているため、オバマ大統領は9人の共和党上院議員の支持を獲得できれば批准承認に持ち込むことが可能である。
 
 しかし今までのところ、6名の共和党上院議員が、環境が整えば条約批准承認案を支持する用意があると示唆している他は、共和党の重鎮(インディアナ州選出)で上院外交委員会で重要なポジションにあるリチャード・ルーガー上院議員のみが、条約支持を強く表明しているにすぎない。

一方、新会期が始まれば民主党は議席を多数失い、オバマ大統領は新START条約の批准を確保するためには、少なくともさらに6名の共和党議員を説得しなければならなくなる。専門家の大半が同条約の批准はなお可能との見方を示しているが、そのためには、オバマ大統領はかなりの政治的な譲歩を視野に入れた説得工作をおこなわなければならないだろう。

新STARTの批准はオバマ政権の核戦略を進める上で重要な試金石であることから、オバマ大統領は条約への支持を獲得するため既に多くの努力を傾注してきた。

オバマ政権は、新STARTに関する共和党側の首席交渉人であるジョン・カイル上院議員(アリゾナ州選出)との先月の交渉において、同上院議員をはじめとした条約懐疑派の要求を受入れ、核兵器近代化5か年計画予算800億ドルに41億ドルを追加することに同意した。

オバマ政権は、カイル上院議員が先月他の共和党議員と共に、「依然として核兵器近代化計画とミサイル防衛計画の在り方に懸念を持っており、このままでは会期末までに新START批准承認案を審議する時間が残されていない」と発表したことに衝撃を受けていた。

一方、米国内3か所の国立原子力研究所の所長は、12月1日に公表されたルーガー上院議員及びジョン・ケリー上院外交委員会委員長に宛てた書簡の中で、現在の核兵器近代化計画は、「新STARTで合意された1550基を配備済戦略核弾頭の上限とする米国の核抑止体制の安全性、信頼性、及び効率性を維持する上で、あらゆるリスクを想定しても十分信頼に足る内容」であり、したがって「大変満足している」と記している。

新START支持派は、この科学者達の保証をもってすれば、条約批准案への十分な支持が獲得できると主張しているが、オバマ大統領は、批准支持を確実にするためには、さらなる譲歩も辞さない勢いである。

事実、富裕層への「ブッシュ大型減税」適用延長を現在最優先課題に位置付けている共和党は、この問題でオバマ大統領の譲歩を引き出せない限り、新STARTの批准審議に入らない構えを見せている。ブッシュ大型減税は、9・11の同時多発テロの後でアメリカ経済が低迷したことを受けてブッシュ大統領が期限付きで導入した臨時減税案で、今月末適用期限を迎える。

2008年の大統領選で年間所得が25万ドル以下の世帯に対して増税しないと公約したオバマ大統領は、同所得基準を上回る富裕層への減税措置を延長しないことで、向こう数年間で数兆ドル相当の財政赤字削減が見込みると期待していた。

しかし上院の新START批准を優先して、富裕層への減税措置延長で妥協を受入れる姿勢を見せるオバマ大統領に対して、大統領支持者の間に落胆が広がっている。

ワシントンポスト紙のコラムニストE.J.ディオン氏は、12月2日付のコラムに「上院は年末に会期が終わる前にロシアと調印した新STARTを批准すべきです。しかし極めて重要な外交イニシアチブを審議通過させるために、大統領がこともあろうに減税問題で折り合いをつけなければならないという今日の状況は、この国のありかたとしていかがなものだろうか?」と記している。

オバマ大統領が大型減税の延長問題で柔軟な対応を示唆したことから、カイル上院議員を含む共和党議員の間で今期の議会が休会になる前に、新START批准審議を行う時間がまだあると示唆する議員が増えている。

事実、(新STARTの批准を確保するために)十分な人数の共和党議員が、富裕層への大型減税延期の問題が解決されれば、早ければ来週後半にも新START批准問題が上院で取り上げられるだろうとする議会関係者の見通しを支持している。

ルーガー上院議員は12月1日、「これは2段階のプロセスだ。すなわち、まず大型減税の延期問題に取り組んでから、新START批准問題に取り組むということだ。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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│インド│「英語の女神」に目を向けるダリット

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

数百年にも及ぶカースト制度の差別から逃れるため、インドのダリットが「英語の女神」に目を向けている。

「壊れた人々」を意味する被差別階級のダリットが、ウッタル・プラデシュ州(人口1億9000万人)ラキンプール・ケリに新しい寺院の建設を始めた。そこに建立される女神は、その姿がニューヨークの自由の女神によく似ている。ただし、手に持っているのは松明ではない。右手にはペン、左手には本を抱えている。

その上、ヒンズーの神は通常、蓮(ハス)の台座に立っていることが多いのだが、この女神はコンピューターの端末の上に立っている。ダリットが加わりたいと願う技術時代の象徴である。それは、ダリットを不可触賤民として特定の職業を強制、差別してきた遺制からの離脱を意味している。

Thomas Babington Macaulay, 1st Baron Macaulay by the French photographer Antoine Claudet, Public Domain

寺院の最高位の聖職者でダリット出身の知識人として著名なチャンドラ・バーン・プラサッド氏は、「ウッタル・プラデシュ州のバラモン(カーストの最高位)は英語を敵視するという過ちを犯してきました。ヒンズー語偏重の国家主義的政策を進めたためにバラモン階級自身が時代から取り残されてしまったのです。私達ダリットはこの失敗を繰り返さない決意をしています。インドが国際化していく中で、ダリットに限らず時代から取り残されないでいくための唯一の方法は英語を身に着けることに他ならないのです。」とIPSの取材に応じて語った。

インドでは学校での英語学習を選択制にしてきた州では、必修の州よりも子どもたちの学力レベルが落ちるという。「それが、(カルナタカ州の州都)バンガロールが情報技術の国際的ハブになれても、(ウッタル・プラデシュの州都)ラクナウがそうはなれない理由なのです。」とプラサッド氏は語った。

プラサッド氏は、19世紀に英国からインドに赴任して英語教育の普及に多大な功績を遺した政治家トーマス・バビントン・マコーリー氏に影響を受けていると公言している。マコーリー氏はインド人の英国人化を企図して1854年にインドに英語を導入した人物で、当時次のように述べている。「英語教育を受けたヒンズー教徒は誰しもヒンズー教の教えに縛られ続けることはないだろう。我々の英語教育計画が実施されれば30年後には(英国風の知性と教養を身に着けた)インド人社会層において偶像崇拝者はいなくなるだろう。」このようなマコーリー氏の教育政策は、後世のヒンズー至上主義者のかっこうの批判の対象となっている。

しかしプラサッド氏は、「マコーリー氏の教育政策はそれまで上級カーストに独占されてきたサンスクリット語による伝統的な学習制度を解体し、新たにダリットに対して教育の門戸を開放するものだったのです。」と語った。

「イギリスが英語で授業を行う学校をインドに開設したとき、当初ダリットは上位カーストによって入校を阻まれました。それで、植民地政府は、カーストや信条、性別、宗教によって入校を拒否してはいけないとの命令を発さねばならなかったのです。またマコーリー卿は、すべてのインド人の平等な取り扱いを定めたインド刑法を起草した人物でもありました。」と語るプラサッド氏は、インド社会に革命をもたらした政治家の誕生日である10月25日を毎年祝っている。

それとは対照的に、ヒンズー至上主義者達は彼らの伝統格式を共有しないインド人を侮蔑の意味を込めて「マコーリーチルドレン」と呼んでいる。

「マコーリーチルドレン」の中でも最も著名な人物が、ダリット出身でコロンビア大学とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの学位を取得したビームラーオ・ラームジー・アンベードカル氏(1891~56年)である。

1949年のインド憲法の起草者として同国の歴史に偉大な足跡を残したアンベードカル氏は、「英語は雌ライオンの乳」と呼び、出身を同じくするダリットに対して、自らを開放する手段として英語学習とその使用を強く勧めた最初の人物である。

アンベードカル氏が起草したインド憲法は、信仰の自由を保障しあらゆる形態の差別を非合法化するとともに、ダリットと下級カーストに対して教育、公的雇用、議会議席数の三分野において一定の優先枠留保制度(Reservation system)を与えている。

プラサッド氏は、「しかしこうした憲法の規定にも関わらず12億のインド人口の16%を占めるダリットは、今日でも様々な差別に晒されていいます。例えばインドの多くの地域においてダリットはインズー寺院への立ち入りを許されていません。だから私たちは『英語の女神』を祭るダリット自身のための寺院を設立する計画を立てているのです。これらの寺院ではすべての社会階層の人々の参拝を歓迎します。」と語った。

「プラサッド氏は、まさにインドの伝統である柔軟性と順応性に根差したアイデアをもとに『英語の女神』という構想を思いついたわけです。」とインドの著名な文化社会学者でネルー大学名誉教授のヨジェンドラ・シン氏は語った。

「プラサッド氏は『英語の女神』構想を通じて、彼がインドの歴史とインド社会のエートスでもある『現在を過去に見いだす無限の能力(この場合、『英語の女神』は新しい試みだが、インド伝統の宗教的慣習である偶像崇拝をうまく利用したもの)』に対して深く理解していることを示しました。」と「インドの伝統の近代化」の著者でもあるシン教授は語った。

同様の手法は、ウッタル・プラデシュ州のマヤワティ・ダリット問題担当相の政策にも見いだすことができるかもしれない。同担当相は、各方面からの批判を顧みることなく、公金を使ってハンドバック(ほどんどのインド人にとって女性の近代化と力を象徴するアイテム)を手に抱えた彼女自身の銅像を同州の各地に立てているのである。

シン教授は、「たとえプラサッド氏が進めているインド各地に「英語の女神」を祭る寺院を建設する計画がとん挫したとしても、英語を学ぶことは意味があるというメッセージはインド社会に広く伝わるだろう。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

「完全なる嵐」が起こした2007~08年の食料危機

【ワシントンIPS=マシュー・バーガー】

現在の食料価格の上昇はまだ危機のレベルには達していないが、価格は今後も乱高下をつづけると研究者はみている。

この研究をまとめたのは、国際食料政策研究所のデレク・ヒーデイ研究員ら。2007~08年の食料危機の原因をさぐった研究だ。

それによれば、食料危機を起こしたのは、さまざまな要因が重なった「完全なる嵐」(perfect storm)だという。エネルギー価格の上昇、バイオ燃料需要の拡大、ドル価値の低下、消費者パニック、輸出制限、天候不順などの原因が折り重なっている。

 他方で、インド・中国における需要の拡大、作物生産の減少、穀物備蓄の減少、先物市場における投資といった要因については、否定している。

2008年夏に食料価格がもっとも高騰したのち、世界で飢餓に苦しむ人々は2009年に史上最高の10億人を超えた。国連世界食糧計画(WFP)の推計によると、今年は、9億2500万人が慢性的な飢餓状態にあるとみられる。

国連食糧農業機関(FAO)は、11月17日、今年の世界の穀物生産は前年比2%減と予想されることを発表した(従前の予想は1.2%増)。

6月以来、小麦価格は60%、トウモロコシは50%上昇しているが、国際食料政策研究所のシェンゲン・ファン所長は、これによって「危機」が訪れたとはまだみなせないと話す。なぜなら、食糧備蓄量が以前よりも多くなっているからだ。

バイオ燃料の登場以来、エネルギー価格が食料価格に与える影響が大きくなっている。ファン氏は、バイオ燃料は気候変動の解決策にならないため、それに補助金を費やすことはやめるべきだという立場である。

食料価格上昇の動向と原因について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

新START推進派が切る「イランカード」

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【ワシントンIPS=バーバラ・スラビン】

米露間の新戦略兵器削減条約(新START)に対する支持獲得のためにオバマ政権が展開している議論の中で、共和党にもっとも受けるのは、イランをからめたものであろう。

ゲーリー・サモア大統領補佐官(核不拡散担当)は、11月18日、イランと新STARTとの関連について、「米議会のレームダック・セッション(中間選挙後から来年1月の新会期までの残りの会期)において新STARTを批准することができないならば、イランの核開発に対する『連合を弱める』、とりわけ『ロシアとの連携を保つ』点に関して深刻な結果を招きかねない」と語った。

 大方の予想に反して、ロシアはイランに対して対抗的であった。昨夏には、国連安保理でイランに対する厳しい制裁決議に賛成し、米国あるいはイスラエルによる核施設攻撃を抑止するためにイランが導入を狙っていた防空システム「S-300」の売却をとりやめた。

米露関係の「リセット」において大きな目玉ともいえる新STARTを上院が批准しないなら、この連携は危機に陥るとする点で多くの専門家は一致している。ジョージ・メイソン大学(バージニア州)のロシア専門家マーク・カッツ氏は、ロシアが防空システム売却を中止したことは、米上院がSTARTに関して「正しい結論に達するようになされた妥協」だとみている。

かつて軍備管理交渉に関わり、現在は、核兵器なき世界を目指すグループ「グローバル・ゼロ」の議長であるリチャード・バート氏は、11月17日、「ニューズ・アワー」でジム・レーラー氏にこう語っている。「新STARTの批准を避けたい国が世界で二つだけある。それは、イラン政府と北朝鮮政府だ」。

新STARTは米露の核弾頭数を1550発、運搬手段を800にまで制限するものだが、これはごく控えめな削減に過ぎない。今週、条約批准には黄色信号が灯った。共和党を代表して新START問題に関してオバマ政権と協議を行っているジョン・カイル上院議員(アリゾナ州)が、今会期中に上院で条約案を投票に付すかどうかについて、否定的な発言をしたのである。

早期に条約を通過させるべきだと主張している共和党議員は、外交委員会のリチャード・ルーガー筆頭理事(インディアナ州)だけである。条約批准に必要な67票を得るには、オバマ政権は8人の共和党議員の支持を必要としている。

民主党は、共和党はオバマ再選の見通しをつぶしにかかっていると非難している。ニクソン・センターにおいて講演したサモア補佐官は、「問題はより大きなものであり、条約は米国のリーダーシップの重要なシンボルとなった」と語った。

共和党の上院院内幹事に再度選ばれたばかりのカイル議員を含め、共和党議員に対する説得工作が続いている。

ブッシュ政権において国務次官補(不拡散担当)を務めたステファン・ラドメーカー氏によれば、カイル議員は条約に「反対だとは言っていない」が、核兵器の近代化を進めるためにさらなる予算が必要と述べたという。オバマ政権はすでに、核兵器関連で10年間で850億ドルの予算を認めている。しかし、サモア補佐官によれば、上院が条約を批准しないとこの予算も危うくなるという。

過去には新STARTを批判していた共和党のラドメーカー氏も、イランに関する国際的なコンセンサスが弱まりそうな状況の中、新STARTを支持すべきだと考えるようになったという。

「もし私が上院議員だったら、なんとかして条約に賛成投票をしようとするだろう」とラドメーカー氏は言う。しかし、後に彼はこうも言っている。「条約の問題点をできるだけ多く改善するために、助言や同意の決議にあるよりも、もっと多くの条件や明確化を私なら望むだろう」。

サモア補佐官は、イランは、核不拡散問題に関しては、オバマ政権にとっての優先順位が高いと強調した。イランは核兵器開発を否定しているが、サモア補佐官は、「それこそがイランの目標であると見て間違いない。イランは(国際的な核不拡散体制に)侵食するがんのようだ」と語った。

オバマ政権は、イランへの制裁と国際社会でのさらなる孤立によって、イラン核開発のペースを緩め、核開発への意味ある制限について交渉を進めることができるという立場だ。新しい交渉は12月5日にも始まるものと見られているが、イランは、交渉の場所についても、まだ約していない。イラン政府はトルコを示唆してきたが、サモア補佐官は、トルコは国連安保理決議でイラン制裁に反対しており、「中立的な会場とはいえない」から、トルコはありえないだろうとみている。

サモア補佐官は、「イランがナタンツの施設に貯蔵している低濃縮ウランのための医療用アイソトープを生産する原子炉と引き換えに、イランに対して燃料を提供するという1年越しの提案を、米国とその同盟国は見直そうとしている。」「米国は、国連安保理決議に従ったウラン濃縮の完全な一時停止にイランが合意することを、かたくなに主張している。ただし、濃縮の一時停止はあくまで短期間だけとなるかもしれない」と語った。

一時停止の実施期間、そして「どのような条件の下で一時停止を中止するか」が、交渉のポイントなるだろうと。サモア補佐官は語った。

イランは、核不拡散条約(NPT)の署名国として、イランにはウランを濃縮する権利があると主張している。

サモア氏は、イランの核問題を解決する手段として、イスラエルがその核態勢を公にすべきだという提案を否定した。サモア氏は「イスラエルはNPTの加盟国でない」と指摘した上で、「イランはNPT体制内部において破壊工作を行っている」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ベルリン・ウィーンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

世界の約190ヶ国は、1996年に国連総会で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効がきわめて重要な意味を持っていることを理解してくれていることだろう。CTBTとは、軍事目的であれ民生目的であれ、あらゆる環境において核爆発実験を行うことを禁じた条約である。

CTBTはいまだ発効していないが、すでに153ヶ国が批准し、世界のほとんどの国である182ヶ国が署名を済ませている。包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会事務局長のティボル・トート氏(ハンガリー出身)は、「条約の発効は次に当然に取るべきステップであり、政治的なリーダーシップがあれば、ほぼ確実に手中に収めうるものだ」と語った。

批准を済ませていない国のひとつが米国である。しかしトート氏は、「条約発効のために批准が必要とされている44ヶ国が主導権を発揮し、『米国の批准待ち』を自らが批准しない理由にすべきではない」という。

 トート氏とCTBTOのスタッフらは、1997年にウィーンで同機構が創設されて以来、人目に付かないところで、条約への支持を広め信頼性の高い検証システムを構築すべく、努力してきた。

「検証システムの有効性はすでに証明されている」とトート氏はIDNのラメシュ・ラウラへの独占インタビューで語った。北朝鮮が2006年10月に核実験を行った際、CTBT加盟国は、実験後わずか2時間で、実験のマグニチュード・場所・深さ・時間に関する情報をえた。2009年5月の実験でも同様であった。

以下は、トート氏への電子メールインタビューの内容である。

Q:1996年にCTBTO準備委員会が創設されて以来最大の事件は何でしょうか。失敗事例というより成功、あるいはその逆でもかまわないのですが。

トート:今日の時点でCTBTの批准国は153で、署名国は世界のほぼ全体をカバーする182ヶ国です。10年前には、批准国51・署名国155で、監視ステーションはひとつも認証されていませんでした。今日、世界中のあらゆる地点において、核爆発を検知すべく約250のステーションが機能しています。条約が政治的逆風状態にあるなかでこうした成果をあげていることが重要です。各国が現実論としてこの条約を支持し、実際にCTBTを普遍的な規範として打ち立てたのです。

今日の政治的状況はずいぶん変わりました。近年の多くの重要会議において、多国間主義は過去のなごりではなくなり、CTBTへの支持がより広く拡大していっています。昨年のCTBT発効促進会議は、103ヶ国の参加という前例のない規模でした。

同会議は、条約の発効に向けて、依然として署名・批准していない国に条約加盟を強く求める最終宣言を全会一致で採択しました。米国、中国、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエルといった、署名はしているが批准を済ませていない国が、他の批准国とともにこの決議に賛成しました。また、昨年の国連第一委員会では、圧倒的多数の国がCTBTへの支持を決議しました。さらに最近では、条約発効促進のための第5回閣僚会議において出された声明に70ヶ国以上が賛同しています。

CTBTO準備委員会の構築した検証システムは80%程度は完成していると思います。検証システムの有効性はすでに証明されている、ということです。残念ながら北朝鮮が2006年10月に核実験を行ったのですが、CTBT加盟国は、実験後わずか2時間で、実験のマグニチュード・場所・深さ・時間に関する情報を得たのです。世界で24ヶ所のステーションが実験を検知しました。2009年5月には、前回よりもやや大きい規模の実験だったのですが、世界61ヶ所で検知しました。

CTBTOのデータは、災害を軽減し、民間・科学利用の面でも利益をもたらしています。たとえば、2005年以来、CTBTOは太平洋・インド洋の津波警戒センターに直接データを提供しています。これによって各センターの能力は高まりました。津波を発生させる地震を察知し、被害の及ぶ危険性のある地域に警戒宣言を発して避難をたすけているのです。これが、科学的研究を日常生活の必要に応用する多くのやり方のひとつなのです。

前向きの推進力

Q:オバマ大統領が2009年4月にプラハで行った有名な演説によって、あなたの任務は容易になったといえるでしょうか。あるいは、核軍縮・核廃絶という大海への一滴に過ぎないということでしょうか。
 
トート:プラハ演説だけではなくその他のさまざまな場所において表明されているオバマ政権のCTBT支持は、条約の発効実現に向けて積極的な動きを確かに作り出しています。核技術を持った44ヶ国(いわゆる「付属書2諸国」)のうちまだ条約批准を済ませていない9ヶ国のなかのひとつとして、米国による批准の重要性は強調してもしすぎることはありません。

とは言いながら、条約発効のために批准が必要とされている44ヶ国が主導権を発揮し、『米国の批准待ち』を自国が批准しない理由にすべきではありません。インドネシアが5月にCTBT批准プロセスを開始すると発表したことは、正しい方向へのステップのひとつだと言えましょう。残りの「付属書2諸国」には、CTBTに対する特別の責任がありますが、すべての国家に関して、署名と批准を済ませることが条約発効への重要な推進力になると考えています。

Q:予測しうる将来において核兵器なき世界を実現するという点に関して、現在の状況をどうみていらっしゃいますか。

トート:核軍縮と完全廃絶に関しては、今日あらたに楽観的な考えが出てきていると思います。5月に行われた2010年NPT運用検討会議は、2005年の失敗を乗り越えて、この多国間の軍縮プロセスにあらたな命を与えました。約190の加盟国が、最終文書において、CTBTの発効が核軍縮・核不拡散体制の中心的要素のひとつであるとあらためて認めたのです。

CTBTの発効は、核実験に対する法的な障壁を設けて、核保有国による新型核兵器の質的改善や開発を妨げることによって、世界から核兵器をなくすという世界的な努力における一里塚となることでしょう。さらに、これから核兵器を持とうとする国が開発計画を進める途上で技術的・科学的確信を打ち立てて行くうえで核実験は欠かせないものですから、CTBTは核不拡散の面でも重要な制度だといえます。条約の発効は次に当然に取るべきステップであり、政治的なリーダーシップがあれば、ほぼ確実に手中に収めうるものです。

市民社会の役割は不可欠

Q:NGOや市民団体との関係をどのようにみていますか。

トート:世界の市民と市民社会がそれぞれの政府と議会に圧力をかけて約束を果たすように求めていくうえで果たす役割は、CTBT発効に向けて不可欠のものです。いくつか例を挙げると、核実験禁止国際キャンペーンやネバダ・セミパラチンスク運動、太平洋でのグリーンピースの活動は、CTBTを1990年代半ばに成立させるうえで大きな役割を果たしました。今日、CTBTに依然として加盟していない国に責任を果たさせるために、NGOと市民社会の力が必要です。CTBTの目標と目的に対する関心を高め支持を広げていくために、さらなる市民の草の根の運動が必要です。活動的なNGOや市民社会の参加によって、各国政府が約束を果たす最終段階に押し出されることになるでしょう。

Q:NPT運用検討会議の結果、CTBT発効に向けた現実的な可能性が新たに生まれたと思いますか。

トート:運用検討会議で採択された最終文書で、CTBT発効が国際的な核軍縮・核不拡散体制の中心的要素のひとつだとはじめて認められたことは、国際社会がCTBTの早期発効を強く支持していることの表れだと考えています。CTBTは、加盟国間の分断を乗り越える上で、既存のあらゆる措置のなかでもっとも優れたものでしょう。なぜなら、CTBTはNPTの3本柱すべてに寄与するものだからです。つまり、CTBTは、核軍縮へのコミットメントの象徴であり、不拡散を強化し、平和利用を推進するものなのです。

発効したCTBTは、中東やアジアにおける強力な信頼醸成・安全保障構築措置となることでしょう。CTBTはすでに存在し、世界のほとんどの国からの支持を得ているものですから、成果が比較的短い時間で得られる現実的なツールだといえます。すでに試行され実験されている強力な検証システムもあります。CTBTは、これ以上核実験をやってはいけないという規範を体現したものであり、核実験は禁止されるべきであるという国際社会の政治的意思は明らかです。いま必要なのは、核兵器の完全廃絶に向けた、最初の、もっとも重要なステップであるCTBTを発効させることで、目に見える成果をあげることでしょう。

CTBTO

非差別的な検証システム

Q:国際監視システム(IMS)と検証システムが完成した際には、もう抜け穴はないといえるでしょうか。

トート:CTBTは、透明性が高く、民主的で非差別的な検証システムを誇っています。この検証体制はすでに稼動しています。部分的に稼動しているだけだったにも関わらず、2006年と09年の北朝鮮の核実験を、迅速かつ正確に検知することができました。IMSが完成すれば、337の施設によって、地震、水中音響、超低周波、放射性核種の各技術を用いて、爆発力の大きさに関わらず核爆発実験を検知することができるようになるでしょう。システムの抜け穴を見つけようとする輩が出ることは避けられませんが、検証システムは、CTBTの条項を遵守しない行為への強い抑止力となるものと思います。

Q:CTBTOを核廃絶への道を切り開く唯一の機関と位置づけることは適切でしょうか。

トート:あらゆる形態の核実験を永遠に禁止することは必要ですが、『核兵器なき世界』を実現する上での十分条件ではありません。CTBTOは、そのような重要な目標を達成する任務を与えられた組織として、核兵器なき世界の実現に向けた重要な役割を果たしています。核不拡散・核軍縮体制をCTBTの発効なしに強化することは難しいでしょう。CTBTは、より強化された核不拡散・核軍縮体制全体の中で、より強力なツールとなるものと思います。

Q:現在原子力技術を持たない30ヶ国以上が、原子力発電計画に向けて精力的に動き出しています。そこには先進国もあれば、途上国もあります。こうした動きは、CTBTの目的を推進する上で障害になりませんか。

トート:たしかに、原子力導入への高まる関心が核拡散への懸念を高めるものであることは否定しえません。燃料サイクル技術は本来的に軍民両用的な性質を持っているからです。この状況下で、CTBTを早期発効させる緊急性はより高まっているといえるでしょう。CTBTが発効すれば、核開発へのより強力かつ検証能力を伴った最後の障壁となるだけでなく、各国の動機において信頼を形成するための重要なツールとなることでしょう。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

アフリカの飢餓克服には農民の声に耳を傾ける必要がある

【IPS名古屋=スティーブン・リーヒ

アフリカは飢えている。2億4000万人の人々が栄養不良の状態にある。そうした中初めて、アフリカの零細農民たちが、サブサハラアフリカの食糧問題をどのように解決すべきかについて意見を求められている。しかし彼らの回答内容は、資金の大半をビル&メリンダ・ゲイツ財団による助成を得て国際的に実施に向けた努力が進められている「アフリカ緑の革命」を直接的に否定するものとなっているようだ。

10月16日の「世界食糧デー」にマルチメディア誌上で公表された報告書によると、西アフリカの家族経営の農民達は、次のような希望を語ったという。つまり、新たなハイブリッド種子や化学肥料や農薬ではなく、地元の種子を使用したい。貴重な現金を化学物質に費やすことを避けたい。そして最も重要なポイントとして、公的な農業研究を彼らのニーズに合ったものとしていきたい。という内容である。

 「こうした小規模農家の人々には明確なビジョンがあるのです。彼らは、『アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)』のアプローチを拒絶しているのです。」と、報告書の共同執筆者である非営利研究機関「国際環境開発研究所(IIED:本拠ロンドン)」のマイケル・ピンバート氏は語った。

「こうした農家の声は、小規模農家をはじめとした生産者自身が、農業及び各方面の専門家の見解に耳を傾け質問した上で自ら導き出した提案であり、真に農家主導の評価と言えます。」とピンバート氏は語った。

またピンバート氏は、「食料と農業に関する政策と研究は、私たちが口にする食料をまさに供給している人々の価値観やニーズ、知識、関心を無視する傾向にあります。それどころか、強大な多国籍種子会社や食料小売企業の商業的利益のためになっていることが少なくありません。」と語った。

食料への権利に関する国連特別報告官のオリビエ・デシューター氏は、食料・農業調査のあり方を、より民主的かつ社会に対して責任を持つ内容へと根本的に変革させる必要性を支持している。

デシューター氏は、「西アフリカの食糧主権にむけた農業調査の民主化」と題したIIED報告書の序文に、「西アフリカにおいて農業研究に農民自身の査定を取り入れたり市民陪審団を組織しようとする努力は称賛に値します。」と記している。

このマルチメディア報告書には、西アフリカ各地の食糧生産者による諸意見や心配事項が、ビデオ及び音声ファイルで収録されている。

「アフリカでは約5億人の農民が2ヘクタール未満の小規模農地を生活基盤にしており、その大半が女性である。また主に援助供与国によって資金支援を受けているアフリカの公的農業研究の現状に対して、深刻な懸念が持たれている。資金提供団体がどのようなタイプの農業研究に拠出するかを決定し、実施される農業研究の内容はほぼ例外なく、毎年の購入を強いるハイブリッド種子や化学肥料等の使用を勧めるといった、先進国の科学技術優先のバイアスがかかったものとなっている。」と、マイケル・ピンバート氏は語った。

小規模農家がアフリカの公的農業研究に期待する内容を特定するため、マリにおいて現在行われている農業研究を対象にした農家主体の独立調査が実施された。その調査結果は、40~50名の一般農民やその他生産者からなる2つの市民陪審団に報告された。各陪審員は、小規模農家がどのような農業調査を期待しているか、或いは食料・農業調査をいかにより民主的にできるかといった問題について検討した。

陪審員たちはアフリカ、欧州出身の幅広い専門家に聞き取り調査を行った。また彼らは自らの経験に照らし合わせて提出された証拠を吟味し、各国政府に対する提言内容について合意していった。こうした提言の中には、農業調査のアジェンダや戦略的優先順位を設定する過程に農民を直接参加させるものや、伝統的農法やエコロジー農業の研究、また、現在の西アフリカのように外国からの資金支援に頼るのではなくこの種の調査は自国政府の資金支援で行うべきという提言が含まれている。

「これは完全にオープンな参加方式のプロセスです。」と、インドや南米で同様の試みに参画した経験を持つピンバート氏は語った。陪審員は、幅広い地域から知識のレベル、男女比など慎重に検討を重ねた上で選ばれている。また、すべてのプロセスが公平かつオープンに実施されていることを確かめるため、選挙監視団のような独立監督委員会が設置されており、委員にはセネガル、ブルキナファソ、ニジェール、ベニンから代表が就任している。

「このような試みは西アフリカの歴史史上初めてのことです。もっともこうした点では、米国やカナダにおける一般的な農民の場合も、公的農業研究に何を期待するかを相談されたことはありません。」とピンバート氏は語った。

「農民や『一般の』市民がどのような農業調査を実施すべきか直接的に決定できることが、食料の安全保障を確保し、地域住民の生活や福祉を守り、気候変動に対する抵抗力をつけるうえで極めて重要な前提条件となります。」
 
 2008年の食糧危機のあと、AGRAに代表される「アフリカに新たな緑の革命」をもたらそうとする大きな動きがでてきている。AGRAはコフィ・アナン前国連事務総長が代表をつとめる4億ドル規模のイニシアチブで、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とロックフェラー財団の支援を受けている。AGRAは、アフリカの小規模農民の収穫量を2倍から4倍に押し上げることを目指している。

「私たちは機能すると確信できるものを選んで投資しているのです。」と、シルビア・マシューズ・バーウエルAGRA理事は語った。バーウェル氏は、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団のグローバル開発部門の理事長でもある。

AGRAは旱魃に耐性をもつメイズといった新しい種子の開発や土壌改良、市場アクセスの向上、農民教育の分野に資金を投入している。

「農民達は、農業調査に対して、それが一助となって家族を養い、余剰作物を市場で売却できるようになれることを期待しているのです。AGRAのコンサルタントは現地に足を踏み入れ農民達と語り合っているのです。つまり私たちは農民の声を事業に取り入れようとしているのです。」とバーウエル氏は語った。

しかし多くの人々は、AGRAのアプローチを、ハイブリッド種子と農薬を用いて高い収穫高を目指すことに主眼を置いた欧米の農業生産方式を小規模化したものと見ている。

「AGRAの目的は農民達を開発の主体者とするのではなく、外からの支援(ハイブリッド種子や化学肥料等)や市場に依存させることのように思えます。」と米国ヴァージニア州に本拠を置くミレニアム研究所所長のハンス・ルドルフ・ヘレン氏は語った。ヘレン博士は1995年の『世界食糧賞』の受賞者で、アフリカで発生したキャッサバ危機にバイオ制御プログラム(キャッサバを食い荒らす外来種コナカイガラムシを天敵の蜂を散布して生態系バランスを図る手法)を適用して約2000万人を飢餓から救った人物として知られている。

またヘレン氏は、「私たちは欧米における諸事例において、こうした外部(インプットや市場)への依存関係が、農民人口の減少、農家所得の減少…そして失業者の増加という悪循環へとつながっていくのを目の当たりにしてきました。」と語った。ヘレン氏は「開発のための農業科学技術の国際的評価(IAASTD)」の共同議長をつとめている。

IAASTDは、世界に十分な食料を確保するには、食料生産と清潔な水供給の確保、生物多様性の保護、貧困層の生活向上を密接に結びつけた農業生態系こそが最も望ましいと結論付けた。「アフリカの農業が必要としているものは、輸入肥料に依存したより大規模な農業生産への転換ではなく、小規模農家が農業生態系に沿った多機能な活動を展開していける環境づくりなのです。」とヘレン氏は語った。

「小規模農家や地域組織(生活協同組合や小さな農業技術学校等)の取り組みは、農業生態系を重視した活動で十分な食料を生産できることを示しています。」とワシントン州立大学のフィリップ・ベレアーノ名誉教授は語った。

またベレアーノ教授は名古屋からの電子メールによる取材に応じ、「AGRAは、小規模農家と相談し、彼らのアドバイスに耳を傾け、提言に従うというプロセスに失敗したのです。」と語った。ベレアーノ教授は、工業先進国の大規模資金拠出団体がアフリカに対して先進国型のアグリビジネスモデルを押し付けていると主張している『AGRAウォッチ』という市民団体に参画している。

「アグリビジネスは、自らを『食料問題』の解決策として売り込んできました。そして2008年の食糧危機で衝撃を受けた多くの政府が今では彼らに耳を傾けている状況です。アフリカには広大な土地と天然資源があります…そして今ではそれらを巡る争奪戦が起こっているのです。」とピンバート氏は語った。

「AGRAをはじめ多くの科学者や大手NGO(非政府組織)は、ハイテクと官民パートナーシップを駆使したビジネスアプローチこそがアフリカの食糧問題解決の方策だと確信しており、小規模農家の世界観を受入れることができないのです。しかしこうしたアプローチの末に実際に起こることは、小規模農家が新たなハイブリッド種子や肥料、農薬をクレジットで購入し、結局は借金返済のために土地を追われ、都市部に流入していくことになる。一方、大規模な企業型農場がこうした小規模農家の土地を吸収統合していくのです。これこそがインドの多くの小規模農家に起こった現実なのです。」とピンバート氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan