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|エイズ・アフリカ|エイズ対策に効果の兆し

【ヨハネスブルグIPS=ザヒラ・カルサニ】

UNAIDS(国連合同エイズ計画)の最新報告書によれば、エイズで苦しんでいる人々は世界で約3,300万人。アフリカのサハラ以南の国々だけで2,200万人を数えるという。感染者は2007年で約270万人増加した。しかし、感染率が高かったアフリカの一部の国では、予防策の成果が上がっている。

例えば、アフリカでエイズ被害が最も多い10カ国の1つルワンダでは、影響の重大さに気づいた政府が、胎児感染の予防に男性パートナーの参加を呼び掛けるなどの予防および治療に強いコミットメントを示した。

 ルワンダ・エイズ管理委員会のアニタ・アシインベ事務局長は、「2004年には妻のエイズ検査に同行する夫は僅か6パーセントだったが、現在では64パーセントに達している。女性は、もし病気が発見されても夫の協力が得られると知って安心している」と語る。同氏は、「例えば、感染した女性が授乳を避けていることに家族の批判があっても、男性がそれは致し方ないのだと説明すれば解決する」と言う。

政府統計によれば、ルワンダの2008年エイズ感染率は、2000年の7パーセントから3パーセントに減少した。エイズに感染した母親から生まれた新生児の感染率は2年前には40パーセントだったが、今では10パーセントに低下している。

一方、ケニアでは患者は増加傾向にある。2003年に行われた健康調査では、感染率は6.7パーセントであったが、「ケニア・エイズ指標調査」は、2008年は7.8パーセントに増加した。

「ケニア・エイズワクチン計画」のオム・アンザラ氏は、「エイズに対する一般の理解は90パーセントに達したので、予防キャンペーンの中心を性産業等で働く高リスク者に移行する」と語る。しかし、「抗レトロウィルス治療が依然鍵だが、ビールス検査や肝臓機能検査などの重要なテストを行わずに抗レトロウィルス剤の使用を拡大すれば、近い将来新たな問題を生むことになる」と警戒する。

南アフリカ・エイズ研究プログラムセンター(CAPRISA)のカリム科学副部長は、年上の男性と性的関係にある18歳から24歳の女性に新たな感染の危険が増大しているという。彼女たちは、年上の男性に安全なセックスを求めることも、彼らの性生活についても問いただす立場にないというのだ。「我々は、禁欲・貞節・コンドーム使用というお決まりのアプローチを取っており、男性の包皮切断手術のエイズ予防効果などについての議論はなされていない」と語っている。

アフリカのエイズ感染についての最新報告を紹介する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

核計画「疑惑」を攻撃抑止に使うイラン

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【ワシントンIPS=ガレス・ポーター】

『ニューヨーク・タイムズ』1月5日付は、イランが山間部のトンネルや壕の中に「原子力複合施設の大部分を隠匿している」と伝えた。

このストーリーは、米国などの諜報機関がコム近くに第2のウラン濃縮施設があることを発見した昨年9月からはじまる。その基本線は、「イランが国際社会の目を逃れて核兵器を製造するために秘密の核施設を持とうとしている」というものだ。

 しかし、あらゆる証拠を総合してみると、事実はまったくその逆であることがわかる。イランは外界の目から核施設の存在を隠そうとしているどころか、逆に、イランが3年以上にわたって地下深くに主要な核施設を隠してきたと西側の諜報機関に信じ込ませようと画策しているのだ。

この驚くべき結論の理由は実に簡単だ。核計画に関するイランの主要な関心は、核施設に対する米国やイスラエルの攻撃を抑止することにある。そのために、イラン政府は、イランの核施設を完全に破壊したりそのすべてを発見することはとうてい無理だと米国やイスラエルの軍関係者に認識させる必要があるのである。

コムの施設とトンネル・ネットワークをめぐる混乱を解くカギは、米国などの諜報機関が、コム核施設の建設が始まるはるか以前から、衛星写真や地上のスパイなどを用いて同施設の密な監視を続けている事実をイランが知っているという点にある。

反体制テロ組織「ムジャヒディン・ハルク」(MEK)の政治部門であるイラン国民抵抗評議会(NCRI)は、2005年12月20日に記者会見を開き、イランの核開発に関連して、コム近くにあるものを含め計4つの地下トンネルがあることを明らかにしていた。
 
NCRIはまた、2002年8月の記者会見でナタンツのウラン濃縮施設の存在を暴露して、イランの核計画に対する強い国際的圧力が作り出されることになった。NCRIの主張の一部は、国際原子力機関(IAEA)の調査報告でも取り上げられたりしている。

しかし、NCRIがコムの件について暴露したとき、コムには核開発に関連したトンネルなどなかったことは明白だ。

イラン当局は、MEKと米・イスラエルとの緊密な関係を考え、海外諜報機関がMEKの暴露したトンネルに監視の焦点を絞るであろうことを十分認識しておかねばならなかった。

米国・欧州諸国は、衛星写真を使ったコムの体系的監視を2006年には開始したことを認めている。

つぎに起こったことは、イランの戦略を分析するにあたって特に重要なヒントを提供してくれている。複数の情報によれば、対空砲兵部隊がコム山間部の基地に移動され、そこに向けてトンネルを掘ったという。

このことは、イラン当局が同施設が監視下にあることを認識していたのみならず、そこへの注目を集めようとしていたことも明確に示している。

この後、諜報部門の中では大きな論争が巻き起こった。諜報部門とのゆかりがあるフランスの安全保障コンサルタントのローランド・ジャカール氏は、「コムの施設は諜報部門の視線を釘付けにさせるための単なる『おとり』であり、実際の核施設はどこか別の場所にあるのだという分析がある。」と、昨年10月の『タイム』誌で紹介している。

もしこのサイトが監視下にないとイランが考えているのなら、わざわざ対空砲兵部隊を移動させる意味はなくなる。

この防空部隊は、明らかに、コムの新施設の建設が継続する様子を外国に監視させるためのものである。科学・国際安全保障研究所(ISIS、ワシントンDC)の取得した衛星画像を分析したポール・ブラナン氏によると、施設建設は2006年中ごろから2007年中ごろのどこかの時点で始まったという。


もちろん、建設がさらに進んでみないと、衛星画像解読のスペシャリストといえども、サイトの正確な目的についてまではわからない。ある米国諜報筋は、9月25日の会見で、2009年春ごろまでは、それがウラン濃縮施設であることについて諜報部門でも見解が一致していなかったと語った。

他方、イランは、自国の核施設の防護のために「受動的な防衛戦略」を採っている明確な証拠を外国の諜報部門に与えている。「受動的防衛組織」のゴラム・レザ・ジャラリ議長は、2007年9月24日にイランのテレビで発した声明において、この戦略は「我が国の重要かつ機密的な施設を隠匿・防護し、その脆弱性を少なくするものだ。」と語っている。

ジャラリ議長は、2007年8月24日、メヘル(Mehr)通信に対して、IAEAに核施設を監視させていること自体、計画の一部だと述べた。『ニューヨーク・タイムズ』が1月5日に報じたように、イスファハンのウラン転換複合施設付近の山中に向けてトンネルが建設されている。

西側メディアは、イランは、コムの施設について西側諜報部門に察知されてはじめて、9月21日のIAEA宛て書簡において同施設に関する通告を行ったと報じている。

しかし、同日にオバマ政権が記者会見で配った「Q&A」集では、「なぜイランは今この施設について告白することを決めたのか?」という質問に対して、「我々には答えがない」と書かれているのである。

実際、イランのIAEA宛9月21日の書簡(その抜粋はIAEAの11月16日の報告書に掲載されている)は、米国とイスラエルの戦争計画者たちを混乱に陥れる作戦のようにも見受けられる。書簡によれば、第2の濃縮施設の建設は「受動的防衛体系の利用などのさまざまな方法を通じて機微の核施設を防護する主権に基づいたものである」とされている。

『タイム』誌のジョン・バリー氏が10月2日に書いているように、諜報関係者たちは、この書簡を、集中的に監視されている10以上のトンネルの中には、公にされていない核施設がさらに存在しているという風に読んだ。

その数日後、マフムード・アフマディネジャド大統領にきわめて近い日刊紙『ケイハン』は、コムの施設の存在を発表したことによって、西側による軍事攻撃はやりにくくなったと論じている。なぜなら、「施設が複数あることは、非常に効果的な防衛的措置となるから」だという。

この記事を読むと、イランは、他の核施設がいったいどこに隠されているのかという疑念を米国・イスラエルの諜報部門の中に掻き立てることによって、彼らの企図をうまく挫いていることがわかる。

イランのトンネル複合体に関する『ニューヨーク・タイムズ』の記事は、「イランの戦略は、イランの核計画に対する致命的な一撃を加える可能性に関する米国とイスラエル内での議論に影響をもたらすことに成功している。」と示唆している。「西側の軍事的・地政学的計算を狂わせる……偽装工作」という言い方を同記事はしている。

イランの「受動的防衛」戦略はオバマ政権に非軍事的解決を主張させる「決定的な要因」になっているとの専門家の見方を同記事は伝えている。

イランの戦略がイスラエルの計算に与える影響ということで言えば、2002年から06年までイスラエル国軍諜報部門の長であったアーロン・ゼーヴィ・ファーカッシュ少将が、親イスラエル的な団体「ワシントン近東政策研究所」が昨年10月に開いた会合で、米国空軍によるイラン空爆を支持する発言をしたという事実がある(それはイスラエルの標準的な立場でもある)。

しかし、ファーカッシュ氏は同時に、「西側諜報部門はイランの全核施設について把握しているわけではない。」とも警告している。また別のところでは、「イスラエルが攻撃に加わることには反対する。」とも発言している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


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|欧州|ガス供給停止と政治的冷え込み

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【ブダペストIPS=ゾルタン・ドゥシジン】

経済危機に苦しむロシア、破綻寸前のウクライナ。中央ヨーロッパとバルカン半島を凍えあがらせる紛争の責任がどこにあるのか誰も断言できない。

ウクライナの支払い遅延、ロシア国営ガスプロムのガス供給停止という応酬は2006年以来、毎年恒例となっている。ウクライナのパイプラインに供給されるガスの80%が欧州向け。ロシアはウクライナがガスを抜き取っているとして供給を停止する。

ロシアのプーチン首相はガス供給の再開条件として、EUの監視団派遣を挙げている。「この監視団は12月に派遣すべきだった。EUは過去の教訓を活かしていない」とIPSの取材に応じたハンガリー国際関係研究所のAndrás Deák氏は言う。


ほとんどの欧州諸国が1,000立方メートルあたり400ドルでガスを購入しているのに比べ、ウクライナの購入価格は179ドル。ロシアは250ドルまでの値上げを迫っており、2009年の供給契約は成立していない。

ウクライナはガスプロムへの15億ドルの支払いに中央銀行の資金を使い、2009年にも金と外貨を使い果たして債務不履行となるおそれがあるとユーシチェンコ大統領は言う。しかし、ガスパイプラインのロシアへの売却は拒否している。

ウクライナ国内でエネルギー政策は政争の具になっていると報道機関は指摘する。「期限前議会選挙の可能性が大きくなるなか、ガスの値上がりにつながる契約にサインしようとする者はいない」とDeák氏は言う。一方、世界規模の経済危機は欧州のガス会社の買い控えという形でロシアにも及んでいる。

もっとも影響を受けているのが、備蓄施設を持たず100%をロシアのガスに頼っているバルカン諸国である。ボスニア、チェコ、スロバキア、ハンガリー、オーストリア、ブルガリア、クロアチア、マケドニア、セルビア、ギリシャにも深刻な影響が及んでいる。

このような事態は経由地としてのウクライナの地位を脅かし、信頼できる供給元としてのロシアの地位をも脅かしている。

ロシアによるウクライナへのガス供給停止問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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|ロシア|熊(ロシア)が反撃開始

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【モスクワIPS=ケスター・ケン・クロメガー】

ソ連の専制政治終焉後の困難な18年を経て、ロシアは着実に国際舞台に戻ってきた。

「失われた10年」と言われる エリツィン政権後に起きた プーチン政権での急速な発展は、プーチン首相/ メドベージェフ大統領の政権で引き続き発展する期待を持たれている。

しかし、ロシアは、米国オバマ大統領の選任と時を同じくして起こった景気後退と、近隣共和国グルジアウクライナに代表される東欧への 北大西洋条約機構(NATO)拡大の脅威という新たな難問に直面している。

「現ロシア政権は、近隣共和国をはじめとして世界に対し、より断固たる姿勢を示そうとしている。米国主導でグルジアとウクライナをNATOに加盟させようという動きに堪忍袋の緒を切らしたロシアがグルジアで起こした最近の軍事行動は、その証であり、ロシアの威光を高めた。」と米国の軍事・外交専門家のカーペンター氏はIPSに語った。

ロシア政府高官は、世界開発プログラムへの提供資金の増額、世界最貧国への支援金増額、アジア、アフリカでの教育プログラムなどや中南米への資金提供をロシアが実施してきていることを宣伝し、NATO拡大阻止の対策のひとつとしている。

しかし、最新の世界状況はロシアの影響力を低下させるかもしれない。「より確固たる役割を果たしたいにもかかわらず、ロシアの力は、どちらかというと制約を受けている。石油、天然ガスなどの価格が急騰していたときとは違って、それらの価格が暴落した今では、ロシア政権の力は6か月前よりはるかに弱体化し、軍備増強は難しく、世界への影響力拡大は遅れるだろう。」とカーペンター氏は言う。

世界危機について、メドベージェフ大統領は、世界の国々が協力して対応する必要があり、「信用回復なしには、長期ベースで建設的な二国間外交構築の可能性を実現することはできない。」と述べた。しかし、ロシアの金と金属通貨保有量は世界第3位であり、ロシアが嵐を乗り切る助けになるだろうと付け加えた。

ロシア現政権の世界への影響力拡大戦略と世界経済危機の影響について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|国連|戦争も平和もメディア次第

【国連IPS=ナスターシャ・ホフェット】

2003年にラジオとテレビの放送局であるリブレデミルコリーヌ社の二人の記者がルワンダ大虐殺の戦争責任を問う裁判で有罪判決を受けた。紛争期間中にメディアが憎しみをあおるような内容の報道を行うことの危険性が浮き彫りになった判決である。この判決は1993年から94年にかけての同社の報道内容が「ルワンダにおける憎しみをあおり、大量虐殺につながった」ことに基づいており、ニュルンベルグ裁判における反ユダヤ主義報道に対する有罪判決以来初のメディアに対する有罪判決である。

専門家は国連開発計画(UNDP)や世界銀行や国連平和構築委員会などの国際機関が紛争当事国のメディアと協力して適切な対応を取る必要性を指摘している。

紛争を専門とするNGOであるサーチフォーコモングラウンドの代表は「紛争地域においては対話型のコミュニケーションを確立し、政治で決まったことを国民に伝え、国民のニーズ、怖れ、願いなどを政府に提案しやすくすることが有効だ。現状では予算不足で平和構築にメディアが貢献するレベルに達していない。」と述べた。

 コミュニケーションは紛争の再燃防止や治安の維持にも有効であると言う国連広報担当者の指摘もある。

国連平和維持軍は国連全体の半分近くの予算を割り当てられているにもかかわらず派遣先の国において平和維持軍が公共メディアを整備するための予算はごくわずかにとどまっている。

国連開発計画のメディア開発担当者は動員解除や和解や選挙にメディアは積極活用すべきだと指摘する。また平和構築委員会も場当たり的な緊急時だけの対策でなくメディアを視野に入れた紛争対策を考えるべきだとも述べた。

米国平和研究所の代表者は様々な機関同士の連携不足を指摘する。いろいろなプログラムの経験を機関間で共有できるような用語の統一や戦略的枠組みなどが予算不足のため整備できない状態である。

紛争後の選挙により樹立された新しい政府の認知度を高め国民の意見をフィードバックするのがメディアの役目である。たとえばボスニアの紛争後ラジオやテレビの広報活動が効を奏し国内避難民が帰還することができた。1998年に北アイルランドの国民投票で聖金曜日協定が可決されたのもメディアに負うところが大きかった。

とは言え、メディアのインフラが破壊されていたり紛争以前に存在すらしていなかった場合はメディアを活用することはできない。国際機関が全国を網羅するメディアのインフラ整備を支援するべきである。

国連平和維持軍はシエラ・レオネで2000年にRadio UNAMSILと言うラジオ局を開局した。国連は政府が独立の放送局を運営できるようになるまで平和維持軍撤退後も政府がUNAMSILの運営を続けるとの合意を取り付けた。

たいがいの紛争当事国は紛争後メディアを設立する余裕など無いのだから国連が再建戦略を行う上でメディア開発を最優先課題に据え、資金援助を取り付けるべきである。

報道内容とジャーナリズムの公正さを大切にするために研修も重視しなければならない。

紛争問題を専門とするNGO代表者は「私たちは技術支援を行うことでジャーナリストを育て、いろいろな人たちの声を世の中に訴えていきたいと思う。」と述べた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|米国-中東|メディア、重要な時期に「ガザに盲いて」

【ワシントンIPS=ジム・ローブ、アリ・ガリブ】

新聞・テレビを含む米主流メディアは、11月4日の米大統領選挙の報道に全精力を注ぎ、同日のイスラエルによるハマス攻撃に関する報道は極めて限られたものだった。

しかしこのイスラエルによる軍事行動は、エジプトの仲介により2008年6月19日に発効、以来およそ4カ月半にわたってほぼ維持されてきた停戦に致命的な打撃を与えたようである。

ハマスはこのイスラエル側の攻撃に報復して、翌5日イスラエル領に35発余のロケット弾を撃ち込み、イスラエルは過去17カ月間の対パレスチナ経済封鎖をさらに強化する事態となった。

 「両者ともに停戦協定を完全に遵守していたわけではないものの、イスラエルによるこの襲撃が最大の協定違反だ」とサンフランシスコ大学のスティーヴン・ズーンズ教授は指摘する。「あの襲撃は大変大きな挑発であり、今から考えればハマスの停戦破棄を誘い出すことを意図したものであったと思う」と述べている。

12月27日にイスラエルがハマス支配のガザ地区空爆を開始した際には、とりわけテレビ・新聞のコメンテーターをはじめ米主要メディアは、停戦違反の責任について、イスラエル領に対するロケット・迫撃砲攻撃を継続し、12月19日に期限が切れる停戦協定の延長を拒否したハマス批判に終始した。

こうしたメディアの論評は、政府高官が米国内のネットワークおよびケーブルテレビのニュース番組に出演するなどイスラエル側の広報戦略に一致するものである。たとえば、イスラエルのリブニ外相はNBCの日曜日政治対談番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、ハマス側の停戦違反を主張。11月4日のイスラエル側の攻撃には一切触れずに終わるとともに、番組にはその発言に反論するパレスチナ側のゲストの出演はなかった。

メディア監視団体FAIR(公正で正確な報道)の理事ピーター・ハート氏は「11月4日の襲撃は本質的に、主流メディアの集合的記憶にほとんど存在していない」と述べ、大統領選の報道で賑わうなかイスラエル側の襲撃に関する報道は限られるだろうことをイスラエルは承知していたかもしれないと指摘している。

米主流メディアにおけるイスラエル・ガザ攻撃報道の欠落について報告する。(原文へ

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩

|アルゼンチン|暴力的な警察、「若者と貧困者」が犠牲に

【ブエノスアイレスIPS=セバスティアン・ラクンサ】

アルゼンチンでは、独裁的軍政から民政に移管された1983年からこの25年間に、警察署や刑務所における虐待、即決処刑、あるいはすぐに発砲する警察官などによる死亡者が2,557人を数えることが、弁護士を中心メンバーに警察の虐待による被害者擁護のために活動する団体「警察および制度上の抑圧に対抗する協会」(CORREPI)の最新年次報告書(2008年末発表)で明らかにされた。

CORREPIは、被害者の大半は「暴力の横行する貧困地区に暮らす浅黒い肌の若者」と説明、被害者の2分の1以上が25歳未満、3分の2が35歳未満であるとしている。 

CPRREPIのグスタヴォ・フィログラッソ氏はIPSの取材に対し「警察の虐待による犠牲者2,557人は氷山の一角。実際はもっと多い」とし、次のように語った。「これは不法な抑圧の話ではない。次々と承認されている立法改革によって合法化されつつある国家による抑圧なのだ」 

CORREPIは、2003年から2007年までのキルチネル政権そしてその夫人クリスティーナ・フェルナンデス・キルチネルが大統領に就任した現政権こそ、最大の抑圧の責任者と結論づけている。

 フィログラッソ氏によれば、この2政権は1976年から1983年までの独裁政権中における人権侵害の責任者の裁判を促進する政策で評価されているにもかかわらず、治安当局の手による死亡者が最大だという。 

ただ、このCORREPIの結論に対し、他の主要人権団体には異なる見解も見られる。訓練や武器に関してだけでなく、権限や士気に関しても、警察は不活性化されており、犯罪者の権利を擁護するための施策は間違っているとの声も聞かれる。 

アルゼンチンにおける警察の虐待による被害者について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

ロシア・ウクライナ間でガス紛争発生

【モスクワIPS=ケスター・ケン・クロメガー】

ロシアのガスプロム社とウクライナとの間でガスの価格をめぐる交渉が不調に終わり、1月1日、ロシアのプーチン首相は、ガスプロムに対してウクライナへのガス供給量を減らすよう命じた。

ロシアは、本来であればウクライナを経由して欧州連合(EU)各国に向かうはずのガスをウクライナが途中で抜き取っているとの疑いをかけている。ウクライナはこれを否定している。

またロシアは、ウクライナに供給したガスの代金が不払いであると主張し、同時に、今年については適正な価格を求めていくとしている。EU各国は現在1000立方メートルあたり500ドルを支払っているが、ウクライナには450ドルを要求している。

EUはガス供給の4分の1をロシアに依存しており、そのうち80%がウクライナ経由だ。ウクライナへの供給量低下は、さっそくEU各国にも影響を及ぼしている。

たとえば、ルーマニアでは33.8%、トルコでは22%、ギリシャでは15.9%、それぞれガスの供給量が減った。東欧では平均して24.7%の減少である。

欧州各国はロシア以外のエネルギー源を模索し始めている。エストニアのウルマス・パエト外相は、EUはガスプロムへの依存を低め、共通のエネルギー政策を持たねばならない、とテレビで語った。と同時に、現在のEU議長国であるチェコがこの問題に関与しない方針を採ったことに驚きを示した。

ロシアによるウクライナへのガス供給停止問題を取り上げる。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|東アフリカ|魚の頭さえ手に入らない

【ジンジャ(ウガンダ)IPS=ワンビ・マイケル】

ビクトリア湖には、英国の植民地であった1950年代に、肉食のナイル・パーチが持ち込まれた。以来、在来生態系を破壊している。ウガンダ、ケニア、タンザニアはナイル・パーチを欧州に大量に輸出し、外貨獲得という意味ではコーヒー、綿花といった換金作物をしのぐほどである。例えばウガンダからは20か所の加工工場が年間3万トンを輸出し、1億5,000万ドルを稼いでいた。

 しかし乱獲がすすみ、漁獲量が激減し、価格が高騰しているために、近隣4,000万人の生活が脅かされている。ウガンダの漁業担当官によると、2007年の輸出は1億1,730万ドルで前年より1,940万ドル減少した。輸出も2005年以来、6,000万ドルの減少である。同担当官によると、地域の加工工場は稼働率が30-50%で、輸送費と燃料費の上昇が追い打ちをかけている。 

すでに食糧危機によって、ウガンダの首都カンパラでは、1キロ0.5ドルだったナイル・パーチが3.5ドルになっていた。そのため人々は欧州向け輸出に切り身を取った後の、頭や骨を買っていた。しかしそれすら今では買えなくなっている。コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、南スーダンへ輸出されるようになったのだ。 

東アフリカ共同体とウガンダ、ケニア、タンザニア3カ国によって1994年設立されたビクトリア湖漁業機構(Lake Victoria Fisheries Organization:LVFO)は、ビクトリア湖の資源管理を目的とする。LVFOのニエコ氏は、「2005年以来登録船舶数は16%増加し、加工工場の稼働を挙げるために、より遠くまででかけ、違法な漁法を用いてさえいる。」と指摘している。かつては一度に100キロの水揚げのあった漁師も、今では20-30キロしか獲れない。湖の島々で薪を集め、売るようになった人もある。 

ビクトリア湖内の領域はウガンダが43%、ケニアが6%、タンザニアが51%有する。ケニアの船舶は毎日推定300隻がウガンダ領域に入っている。逮捕され、乗組員が拘留されたこともあった。ウガンダはケニア及びタンザニアが無策で、多くの協定が無視されていると批判している。昨年10月、LIVOの大臣レベル協議では、保護区を作ることも検討された。 

資源の枯渇が地域経済を圧迫し、近隣国との間で紛争の種ともなりかねないビクトリア湖の漁業について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|米国|米3大ネットワークの2008年海外報道、最低を記録

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

権威あるティンドール・レポートが発表した最新の報道年次報告によると、米兵20万人強が関係する2つの戦争およびグローバル経済危機にも拘わらず、米3大テレビ局による2008年外国関連ニュースは最低を記録した。

大統領選および石油高騰、その後の金融危機の国内影響報道に押され、米市民の殆どが国内/国際ニュースの第1情報源としている3大ネットワークの夜30分のニュース番組が取り上げた国際/海外問題は、同報告が始まった1988年以来最も少なかった。

ティンドールの創設者で発行人のアンドリュー・ティンドール氏は、IPSに対し「2008年は国内ニュースにとって特別な年であったので、1年後には、国内ニュースが比較的少なければ外国報道がもり返すのか、あるいは2008年の傾向が大手メディアの真の転換期であったのかを検証する」としている。

 「大きな選挙がなく、経済問題も解決されれば国際ニュースは復活するだろう。あるいは、世界のニュースに関心のある人は、インターネットを更に活用することになるかも知れない。そしてテレビ・ネットワークは‘国際問題に関心のある個人はどうぞインターネットへ’と言うかも知れない」と同氏は語る。

約2,300万人の米国居住者は、平日夜の3大ネットワーク・ニュース番組を22分見ている。CNN、フォックス・ニューズ、MSNBCを含むケーブル・ニュースを見ている視聴者の数は大幅に増加しているが、ネットワーク・ニュースの視聴者は依然10倍に上る。

ピュー・リサーチ・センターが先月発表したピープル&ザ・プレスのための最新調査では、2008年には約70パーセントの人がテレビを国内/国際ニュースの主要情報源にしていたという。また、インターネットが、国内/国際ニュースの主要情報源として、特に若者の情報源として日刊紙を上回ったという。

ABC、CBS、NBCの3大ネットワークは国内/国際ニュースに年間合計約15,000分を、あるいは夜の30分ニュース番組のうち約22分を費やしている。

同報告書によれば、2008年に最も多く取り上げられた話題は大統領選で、放送時間は約3,700分。少なくとも1988年後のどの大統領選よりも多く報道された。

住宅市場低迷、ガソリン価格高騰から9月中旬の金融危機とその後の救済策といった経済関連報道は約2,800分と過去21年間で最も多く、1990年および2001年の2回の不況時と比べ放送時間は約1,000分多かった。

ティンドール氏によれば、国際関係報道は約1,900分で、共和党議会がビル・クリントン大統領の国際課題、特に国連および他の多国参加フォーラムへのコミットメント抑制に成功した1990年代中頃のレベルに近かったという。

同氏は、「9・11後に皆が、国内問題に没頭する余り90年代にグローバルな展望を持たなかったことは大きな誤りだったと言った。ネットワーク・メディアは、世界、特にイスラム世界の報道に大きな努力を払ったが、それは、2001年以来最低の国際報道となった昨年のレベルにまで落ち込んでしまった」と語る。

3大ネットワークの2008年報道トップ20では、未だ13万人を超える米兵が派遣されているイラク戦争が放送時間244分で、海外トピックの第1位。オバマ次期大統領、ジョン・マケイン氏、ヒラリー・クリントン氏の選挙戦、金融安定化策、石油/ガソリン価格、株の暴落に次いで7位にランクされた。

しかし、244分は、合計約1,200分の2007年イラク戦争報道と比べればほんの僅かである。7月に発表された特別報告書の中で、ティンドール氏は当時のイラク米司令官デイビッド・ペトレイアス大将が議会公聴会において「拡大」戦略を首尾よく擁護してから2007年9月までのイラク報道急減を追った。

2003年から2007年末まで、3大ネットワークは同戦争を毎週平均31分放送したが、昨年は平均僅か6分となった。ニューヨーク・タイムズは先週、3大ネットワークはバグダッドへの正規雇用特派員派遣を停止した旨明らかにした。実際、昨年の244分ののうちイラクからの中継は僅か88分であった。

海外トッピック第2位、全体第9位は、放送時間236分の北京オリンピックであった。しかし放送のほとんどは米国選手のメダル獲得に集中していた。更に、そのスポーツ部局が米国への独占放送権を所有していたNBCの北京放送は他の2社を大幅に上回っていた。

同報告書のトップ20にランクされていた他の外国トピックはアフガン戦争で、放送時間126分、第17位。米国を襲った竜巻の報道と同位であった。2008年は、米国およびNATOの7年に及ぶ戦闘の最悪の年であった。そして、米政府が今後約6か月間で兵士35,000人を派遣し約6万人とすれば、同戦争は2009年の海外トピック第1位となろう。

他の海外トピックには、オリンピック直前の中国四川大地震(119分。うち94分は中国からの報道)、先月のムンバイ同時多発テロ(70分。うち40分はインドからの報告)、ミャンマーのサイクロン・ナルギス(65分)、ロシア・グルジア紛争(53分。うち44分は外国通信)、イスラエル・パレスチナ紛争(47分)、ジンバブエ情勢(47分。うち26分は市域からの報道)などが含まれる。

フォーリン・ポリシー・マガジンの編集者モーゼス・ナイムはネットワークの国際報道激減を憂慮している。「国際的性質の金融危機に直面している時に、この国が2つの戦争を行っているとは、また国民の運命が米国の国境を越えて起こる事柄にこれまでになく深く関係している時にネットワークが外国報道の削減を決定するとは、皮肉かつ矛盾している」と同氏は語る。

ナイム氏は、過去2年間急激に発行部数、広告収入が減っている新聞は、海外支局を閉鎖していると指摘する。(しかし)「これは国民にとっては残念なことだが、我々のような雑誌には良いことだ」という。

実際、ピューのジャーナリスム向上プロジェクト(Project for Excellence in Journalism)が7月に発表した報告書によれば、米新聞の2/3が海外ニュースの報道紙面を縮小したという。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


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