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|フランス|地中海同盟、不発の予感

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【パリIPS=フリオ・ゴドイ】

7月13日、EU27カ国、中東/北アフリカ13カ国の首脳、政府代表が地中海連合(UfM設立について討議するためパリに集結する。

フランスのニコラ・サルコジ大統領が提唱するUfM設立は、EUと北アフリカ12カ国間の経済、安全保障、移民/司法分野における協力体制作りを目指し1995年に開始されたバルセロナ・プロセスの拡大を目指すもの。(しかし、このバルセロナ・プロセスは実質的には成功していない)大統領は今回、バルセロナ・プロセスを環境、貿易分野にまで拡大し、地理的にはヨーロッパの西側諸国だけでなく、旧ユーゴスラビアやアルバニア、更にはイスラエル、パレスチナ、ヨルダン、シリアといった地中海の南部および西部の全ての国に拡大しようとしている。

 今回の会議に出席を予定している非EU加盟国は、モーリタニア、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、エジプト、イスラエル、シリア、レバノン、トルコ、アルバニア、モンテネグロ、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ。パレスチナ代表も出席の予定である。
 
 しかし、リビアはフランス提案を拒否。カダフィ大佐は会議不参加を表明している。同大佐は、7月9日の記者会見で、「UfMはアラブ、アフリカ諸国を分断するもので、EUには、アラブ連合やアフリカ連合を後退させる権利はない」と述べた。また、「同計画の目的はアラブ天然資源へのアクセスおよびアラブ諸国をイスラエルとの交渉テーブルに着かせることにある。UfMは、イスラム国家に対するテロの危険を高めるだけ」と語った。

カダフィ発言より重要なのは、ヨルダンのアブドラ国王の不参加である。同国王は、長い間計画していたバケーションと重なるとの理由で会議出席を辞退した。

トルコにとって、UfM参加はEU加盟に次ぐチャンスである。フランスはトルコのEU参加に強く反対してきたが、トルコ外交筋によれば、7月13日調印予定のUfM共同宣言についてフランス政府から大きな譲歩を引き出したという。

一方、ドイツ外務省は、フランスがUfMの主導に固執すれば、ドイツは2008年第2半期のフランス欧州政策全てに拒否権を行使すると警告している。同様の抗議はスペインからも寄せられており、一部アナリストはサルコジ大統領の外交的不手際を批判。立場が大きく異なる各国の合意は難しいのではないかとしている。サルコジ大統領のUfM構想について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|スーダン|ICCの告訴がもたらす希望と不安

【ナイロビIPS=ナジュム・ムシュタク】 

国際刑事裁判所(ICC)がスーダンのバシール大統領を戦争犯罪、人道に反する罪、大量虐殺で告訴したことは、ダルフールの人権活動家を大きく勇気づける一方で、スーダン政府の反発による事態の悪化も懸念されている。 

国連安全保障理事会の常任理事国の意見は分かれ、バシール大統領が早々に裁判に引き出される可能性は低いものとみられる。だがスーダン議会はバシール大統領の取り巻きが占め、司法は公正な裁判を行えず、国際社会はダルフールを無視してきた状況の中、ダルフールの人々は苦しみが国際社会に認知されたことに意味を見出している。

 2004年の国連の現地調査団はダルフールを世界最悪の人道的危機にあるとし、安全保障理事会はこの問題をICCに託していた。 

人口3,500万のスーダンは北部と西部にイスラム教徒が多い。イスラム教徒の中のアラブ系とアフリカ系との土地と水をめぐる争いは長年の問題となっており、2003年のダルフールでの衝突に政府がジャンジャウィードというアラブ系民兵組織を派遣したことに端を発し、過去5年間で40万人の非アラブ系住民が死亡、250万人が家を失った。 

ICCの検察官は政治的動機による大量虐殺を糾弾しているが、これまでICCが告発してきた戦犯はバシールに重用され、状況をさらに悪化させているという事実がある。また、安保理の拒否権を有する国でICCを支持しているのはフランスと英国だけだ。 

国連は今回の告訴がスーダンでの平和維持活動や人道支援活動の安全性に影響することを懸念している。アラブ連盟もアフリカ連合もICCの決定を支持していない。 

包括和平合意により政府寄りになったスーダン人民解放軍(SPLM)は、告訴よりも国際社会の協力と和平合意の実施が何より重要だと考えている。だがバシール大統領はダルフールの和平交渉に参加したことがない。今回の告訴が平和への圧力となり、「正義なくして平和はない」というICCの主張がマイナスの効果を及ぼさないよう願うしかない。 

スーダン大統領のICCによる告訴について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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10周年を迎えた国際刑事裁判所の成果と課題

オーストラリア連邦裁、宗教イベントにおける言論の自由を認める

【メルボルンIPS=ステファン・デ・タルチンスキ】

7月15日シドニーにおいて、教皇ベネディクト16世を迎え「ワールド・ユース・デー」(WYD)大会が開催された。同大会には、世界各地から20万人のカトリックの青年たちが参加したと見られる。 

同日、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州連邦裁判所は、カトリック教会が組織するイベントの参加者を当惑させる行為を禁止するWYD法の条項を破棄するよう命ずる判決を下した。 

同裁判は、No to Pope Coalition(NTPC:教皇連合に反対する会)のメンバー、レイチェル・エヴァンスとアンバー・パイクが起こしたもので、裁判長は、「WYD法は議会の意志を反映したものではないと判断し、警察、国家緊急サービス、州消防サービスのメンバーが、WYDが届け出たイベント会場付近で参加者以外の行動を取り締るのは言論の自由に反すると考える」と述べた。 
  
判決に先立ち、エヴァンスは、判決がどうあれ7月19日には、NSW人道主義者ソサエティー、同性愛者人権擁護団体、オーストラリア全国非宗教教会などの団体と共にカトリック教会の避妊、性、子供を産む権利などについての考えに抗議するデモおよびコンドームの配布を計画。WYD法では、WYD参加者に迷惑な行為を行った者は逮捕、最高5,500豪ドル(5,343米ドル)の罰金を課せられることになっていたが、エヴァンスは、教皇のいる間に我々の意見を知らしめる必要があると語っていた。 

WYDを巡っては、幾多の問題が指摘されている。シドニーのペル大司教は、少年に対する性的虐待を指摘された司祭の扱いで批判の的となっている他、司祭に強姦された2人の少女の両親は、教皇の謁見を求めてロンドンからシドニーにやって来た。また、大会のために約130人のホームレスが当局により移動させられたことに対しホームレス支援団体が抗議。ゲイ/レスビアン・カトリック・フォーラムに対してもWYD組織委員会が開催阻止を図ったと噂されている。 

今回の判決で、WYD大会付近での抗議活動は自由となったが、新規則は6月27日付官報で発表されたのみ。新法がいわば秘密裡に施行されたことに「NSW市民の自由協議会」のマーフィー会長は遺憾を表明している。「ワールド・ユース・デー」シドニー大会について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|カンボジア|ようやく始まるクメール・ルージュ「キリング・フィールド」裁判


【プノンペンIPS=アンドリュー・ネット】

裁判の開始は、法廷の遅れと不必要な官僚主義に対するとりわけカンボジア人からの批判を鎮めるのに大いに役立つだろう。こうした批判が、裁判の開始と公正なプロセスを求める圧力となってきた。

もうひとつ、被告人5人の健康も圧力となっている。全員が年老いており、多くの国民が公正な裁きが下される前に彼らが死亡することをおそれている。

 特別法廷の広報担当ヘレン・ジャルヴィス氏は「他の戦犯法廷に比べて、我々は大きく前進している」と言う。国内外多くの評論家も、支援の条件として国連に要求された「この規模および複雑さの裁判を第三国ではなくカンボジアで開く」という困難な試みを考えると、裁判は大きく前進しているとの意見で一致している。

カンボジア裁判所内に設置されたこの特別法廷には、カンボジア人司法官と共に国際司法官が参加し、主にカンボジアのまだ未発達の民法制度を用いて裁判が行われる。

法律扶助活動を行うNGO「Cambodian Defenders Project」の責任者ソク・サム・オウエン氏は「クメール・ルージュ幹部を裁く以上にいくつかの目的がある。新しい法廷のモデルが必要なこと。そして将来のカンボジア指導者にカンボジアには正義があることを警告することだ」と述べている。

しかし、国際人権諸団体は、カンボジアの未発達の司法制度およびカンボジア固有の腐敗汚職が司法手続きに悪影響を及ぼすことを依然懸念している。

人事に関わるリベート、およそ4,400万ドルにも達する資金不足、翻訳作業の大幅な遅れ、証人の保護など問題は多い。開廷が期待されるクメール・ルージュ裁判について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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10周年を迎えた国際刑事裁判所の成果と課題

【ロッテルダムIPS=イレーヌ・デベッテ】

7月17日で、国際刑事裁判所(ICCを設立するローマ規程が採択されて10年になる。ICCは、大量虐殺(ジェノサイド)、戦争犯罪、人道に対する罪を犯したと疑われる個人を裁くための、初の恒久的な国際法廷だ。 

1989年、トリニダード・トバゴ政府は、恒久的な刑事法廷を設立する提案を行った。その後、ユーゴスラビアやルワンダに関して特別法廷が設置されたが、1994年になって、恒久法廷のための規程がいよいよ起草された。そして、1998年にローマ規程が採択され、2002年に60ヶ国の批准をもって規程は発効した。現在、106ヶ国が批准を済ませている。しかし、米国・中国・インド・イスラエルなど批准していない国もある。

 最近でもさまざまな動きが起こっている。今年7月はじめには、旧コンゴの反体制指導者ジャン-ピエール・ベンバの身柄がベルギーからICC本部のあるハーグに移された。7月14日には、ルイス・モレノ-オカンポ検事が、スーダンのバシール大統領の逮捕状を請求した。ダルフール地区で発生している武力紛争に関して、戦争犯罪、人道に反する罪、大量虐殺に関与した容疑だ。 

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、7月11日、ICCの5年間にわたる活動を評価した報告書を発表した。捜査や起訴、現地事務所の開設、証人の保護などの点で進展があったと報告書は評価している。 

しかし、たとえば、コンゴの元軍閥トーマス・ルバンガに対する起訴手続きが停止した事案は、ICCの抱える困難を示している。捜査にあたる人間の不足が根本的な問題だと報告書は指摘する。ICCには独自の警察力がなく、逮捕状を執行しようとすれば、各国政府の警察に依存せざるをえないからだ。 

全世界2500のNGOを束ねる「国際法廷を求める連合」(CICC)は、ICC10周年を記念して、各種イベントを開いている。10周年を迎えたICCの話題について報告する。(原文へ) 

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 


|ネパール|王国から共和国となって、人々の生活

【レレIPS=マリカ・アリアル】

ネパールが共和国宣言を行った時、カトマンズはにぎやかな祝賀ムードに包まれた。レレでもやや控えめな行進が行われたものの、住民の多くはあまり関心がなかった。レレではこれまでネパール・コングレス党が優勢だったが、4月10日の制憲議会選挙ではマオイストのバルシャ・マン・プン・マガル氏がコングレス党の対立候補ウダイ・シャムシェル・ラナ氏を15,329票対14,011票で破った。

「この辺りの村ではネパールが今や共和国になったと知っているものは少ない。知っていてもそれが何を意味するかを本当に分かってはいない」とスナルさんはいう。スナルさんはかつて、現在の制憲議会で第3位となったネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(UML)の忠実な支持者だったが、数年前にマオイストに加わり、今はレレのダリット解放戦線の書記を務めている。

 「マオイストは村のダリットや他の抑圧された人々への差別をなくすために頑張ってきた」とスナルさんは家族が見下されていた頃を思い出して語る。茶店ではカーストの上位の人々と一緒の席に座ることは許されず、地元の茶店ではどこでも、お茶を飲んだ後で自分のコップを洗わなければならなかった。

スナルさんの妻のラクシュミーさんは慎重に言葉を選んで語る。「国王がいなくなっただけでは十分ではない。政党は国王よりもうまく国を治められるということを実際に国民に示さなければならない。生活水準が向上し、道路、開発、建設工事が行われ、子どもたちが無料で学校に通えて、私たちが医療の心配をしなくてよいようにならなければ、王もマオイストも他の政党も、私たちのような貧困層には皆同じだ」

レレにあるヒンズー教寺院では、僧侶のラム・プラサド・ギミレさん(65歳)が都会からやってきた参拝者を案内していた。ギミレさんはギャネンドラ前国王が荷物をまとめて王宮を出ていくのに2週間しか与えられなかったことを知っている。「政党は過ちを犯したが、気の毒な国王にも非がある」とギミレさんはいう。

ギミレさんは国王を退去させたやり方については憤慨しているが、国民が共和国を望んでいることは理解している。「それでも240年続いた制度を簡単になくしてしまっていいのだろうか。ビシュヌ神の生まれ変わりとみなしている人物への崇拝をやめるのか。価値観や伝統を手放すのはそれほど簡単だろうか」とギミレさんは自問している。

先週の閣議では、ヒンズー神の生まれ変わりとして崇拝されている前国王に、カトマンズ郊外のナーガールジュナ宮殿に住む許可が下された。また6月8日の夜遅く行われた閣議では、マヘンドラ故国王の妻で80歳のラトナ皇太后に、ナラヤンヒティ宮殿の敷地にあるマヘンドラ・マンジルに住む許可が下された。

ネパールの農村部は「人民戦争」の間に軍隊と反乱軍との紛争に巻き込まれることが多かったので、マオイストが権力を持つことで戦争はついに終わったという非常に強い期待感がある。

日雇労働者のアーシャー・カジ・マハルジャンさんのような人々の多くは、世の中は良い方向に変わりつつあると期待している。「全面戦争を経験したし、制憲議会選挙に投票した。そして今、新憲法が作成されているのだから、もちろん世の中は変わる」とマハルジャンさんはいう。

レレの町では、過去18年間ネパール軍に勤務していたバル・クリシュナ・シルワルさんが休暇を取って家に戻っていた。シルワルさんは戦争中にネパール西部でマオイストに対する主要作戦に加わっていて、戦争が終わったことを安どしている。「軍の最高司令官が誰になっても仕えるつもりだ」シルワルさんはいう。

けれどもシルワルさんは政党が国王の処遇の決定を急ぎすぎたと考えている。「国王は退位するにしても、国王を退かせる正しい方法は国民投票を行うことではなかっただろうか」とシルワルさんはいう。住民の多くと同じように、ネパールが王政であろうとなかろうと貧しい人々にはどうでもよいことだとシルワルさんは考えている。「人々は食料、水、仕事、道路、開発を望んでおり、誰が国を支配しようとかまわない」とシルワルさんは語った。

昼時になると、地元の茶店にはレレと近隣の村からの客があふれる。バヌ・バハドール・ラマさんはレレから20キロ離れた村Sanghumarからやってきた。息子のミム・ラマさん(20歳)はネパール軍に入隊していたが、3年前にカイラリでの激しい戦闘で死亡した。ラマさんの住む村では、村人のほぼ全員がマオイストに投票したが、ラマさんはコングレス党に投票した。「息子がマオイストに殺されたのに、マオイストに投票できるわけがない」とラマさんはいう。

息子を失ってから、ラマさんは妻と3人の幼い子供に1日2回の満足な食事を与えるために大変な苦労をしている。「ネパールが共和国になろうが、国王が宮殿を出ようが関係ない」とラマさんはいう。「息子はいない。私の人生はもう終わりだ。心配なのは家族を養うだけの稼ぎが今日あったかどうかだけだ」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|ケニア|見放される国内避難民

【ナイロビIPS=ナジム・ムシュタク

ケニアで多くの国内避難民(IDP)が追い詰められている。政府はこれまでの国内避難民支援の政策(『Operation Rudi Nyumbani』)を終了すると発表。国内の難民キャンプを閉鎖し、避難民に対して1、2週間のうちに帰還するよう促している。

ナイロビの『IDPs Advocacy and Policy Centre』のPrisca Kamungi氏は「実際に故郷に戻り再定住できる避難民は僅かである。彼らの多くはキャンプを追い出された後も、市外地の劣悪な状況でテント生活を強いられるだけだ」と、怒りを露にした。

国連によるとケニアにおけるピーク時の避難民の数は35万人から50万人とも言われている。現在、同国全土に設置された300ヶ所の国内避難民キャンプでは30万人を越える人々が身を寄せているという。

 市民団体や人権団体からもケニア政府に対して強い反発が出ている。ケニア国家人権委員会(KNCHR)は今月24日、政府の計画は大きな失敗を招くと酷評した。「ケニア政府は、世界で進められている難民のための再定住計画の国際基準を無視している」。

ケニア政府は和平合意を経て国際社会に国内の『正常化』をアピールしたい意図がある。同国では近年、暴動や混乱で世界から厳しい非難を受け、また人権団体からは国内避難民の窮状を訴える報告が相次いでいた。

「ケニアの難民支援に世界からの注目が集まる今こそ、国内避難民の帰還・再定住支援に向けた総合的な政策が必要だ」と、Kamungi氏は述べる。

ケニア国内避難民が直面する新たな苦難を伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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|ブラジル|気候変動が再生可能エネルギー源にも影響

【リオデジャネイロIPS=マリオ・オサヴァ

ブラジルはエネルギーの45%を再生可能エネルギー源に頼っている。これは先進諸国の3倍にも相当し、これは高く評価されることである。しかしこのために、ブラジルは気候変動に対する脆弱性が高い、と6月2日に発表された研究報告書は指摘した。

予測される2071~2100年の気候条件下では、サトウキビを除き、国内における再生可能エネルギー源によるエネルギー生産は減少する、とブラジル連邦リオデジャネイロ大学(UFRJ)の大学院 Institute of Engineering Graduate Studies and Research(COPPE)による研究のコーディネーターのひとりRoberto Schaeffer氏は述べている。

風力エネルギーの潜在発電量は、国内中部の強風の頻度が減るため、60%の減少が予測さる。バイオディーゼルの生産も、温暖化による北東部および中西部の油料作物生産の減少もしくは消滅により、深刻な影響を受けるだろう。

報告書はまた、降雨不足および異常降雨により、ブラジルの電力生産の85%を担っている水力発電所も影響を免れないとしている。

矛盾しているようだが、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が予測する温室効果ガスの排出が高めのシナリオ(A2シナリオ)では、水力発電量は平均1%の減少が予測されるが、排出量が低めのシナリオ(B2シナリオ)では、それよりも高い2.2%の減少が予測される。

Schaeffer氏によれば、これは「控えめな予測」であり、貯水池の水位が低く、小規模ダムが発電能力を失い、また、短期間に集中して豪雨が発生し、ダムの決壊を回避するために水門を開け、貯水された水を放流する必要が生じると、予測はさらに悲観的なものとなる。

また、2071~2100年の気候変動の予測に基づくと、平均気温の上昇により、2030年頃までにブラジルの電力消費量は8%増加するとの推定も明らかにされた。

すでに国内最大の貧困地域である北東部に、もっとも深刻な影響が予測される。北東部の半乾燥地帯はさらに乾燥が進み、バイオディーゼル用の作物生産が困難となり、水力発電の水源であるサンフランシスコ川流域の発電力は今世紀末までに7.7%の減少が見込まれる。

COPPE/UFRJのエネルギー・プラニング・プログラムの8人の研究者が執筆した気候変動とエネルギー安定供給に関する今回の研究報告書は、将来計画に当たっては、現状ではなく、予測される気候の影響を考慮に入れなければならないことを実証することが目的である。

研究報告書のもうひとりの執筆者Alexandre Szklo氏は、「不確実度が増した」ことで、アマゾン密林の河川の未開拓の可能性や気候変動がその流量に与える影響など、発電に影響を及ぼすさまざまな要因についてさらに適切なデータが求められると指摘している。

Szklo氏は、気候変動にもかかわらず、代替エネルギー源を促進する政策を引き続き実施すべきと言う。風力エネルギーは潜在能力の60%を失う可能性があるが、しかし「格別に好ましい」風が沿岸や沿岸水域に集中すると思われるので、このセクターにおける「投資の実行可能性は増大する」と語る。

ブラジル鉱業エネルギー省の計画立案機関であるエネルギー研究公社(EPE)のトップMauricio Tolmasquin氏は、不確実度は増すが、水力発電量の1~2%の減少は「このセクターのリスクの許容範囲内」であるので、事態全般については「ある程度平静」に見て大丈夫だと述べている。

水力発電は今後も、ブラジルのエネルギー基盤のもっとも重要な部分を担うだろう。将来の技術はヒマシ油や大豆など北東部における油料作物の損失を補うことができ、人口密度が高く、エネルギー需要が集中しているブラジル海岸線沿いの強い風力は引き続き役立つだろうと、Tolmasquin氏は報告書発表の場で述べた。

また、COPPEのエネルギー計画プログラムのコーディネーターLuis Fernando Legey氏は、気候変動に対処するためには、すでに技術的に可能であるものの費用が法外である酵素加水分解によるバイオ燃料の生産など、将来の代替エネルギーについて「大胆な仮説」が必要と述べている。

世界の人口の増加を考えると、省エネには「消費習慣」を変えることも必要と、Legey氏は指摘している。

国家電力エネルギー庁のジェルソン・ケルマン長官は、ブラジル国内で気候変動のもっとも深刻な影響を受ける地域においては、高圧送電線が問題解決の鍵を握っているとの考えを明らかにした。

ブラジルには8万kmに及ぶ高圧送電線が敷設されており、電力網は完全に相互連結しているので、エネルギー不足の地域があれば、他の地域がそれを補うことができる。

2001年のエネルギー危機の際は、一部地域で停電が発生し、エネルギー配給が行われた。研究報告書の発表に出席したケルマン長官によれば、降雨に恵まれた南部は他の地域に電力を分け与える余裕があったが、しかし当時は電力網の整備が不十分だった。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|南太平洋|広がる児童労働と性的搾取

【スバIPS=シャイレンドラ・シン】

南太平洋諸国においても、児童労働と児童に対する性的搾取が広がっている。正確な統計はないが、国際労働機関(ILO)の推計によると、パプアニューギニアの労働力の19%、ソロモン諸島の労働力の14%がそれぞれ児童であるという。

性産業も盛んだ。ユニセフは、2004年から05年にかけてフィジー・キリバス・パプアニューギニア・ソロモン諸島・バヌアツにおいて調査を行った。それによれば、これらの国のいずれにおいても、児童売春・児童ポルノ・児童セックスツアー・人身売買が起こっていたという。同調査書では、南太平洋では、貧困のために家族や友人によって児童が性産業のために売られる危険性が極めて高いとしている。

また、ある地域では、セックス・ワーカーのうち13才から19才までの児童が占める比率が3分の1であった。中には11才の子供もいた。

こうした問題に対処するいくつかの試みもある。ILOでは、今後2年間にわたって、TACKLE(教育を通じた児童労働根絶)というプログラムをアフリカ・カリブ海地域・太平洋の11ヶ国で展開する予定だ。

オランダ政府も、児童労働根絶のためにパプアニューギニアに250万ドルを投下することにしている。

ILOは、世界全体では5才から17才の子供2.46億人が児童労働に従事しているとみている。このうち3分の2にあたる1.8億人が最悪の形態の児童労働につかされているとされる。

南太平洋における児童労働の問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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Q&A・エジプト:百を超える犯罪に死刑適用

IPS:
エジプトではどれ位の人が、またどの様な罪によって極刑となっているのですか? 

アイマン・オカイル:
はっきりした数はわかりませんが、アムネスティ・インターナショナルは2007年の死刑判決は40強といっています。死刑が適用されるのは、公共利益破壊、麻薬犯罪、テロなど105種の犯罪です。エジプトでは27年間緊急事態法が敷かれており、これが2010年まで続く予定です。この他に、大統領は、軍事規則に従い民間裁判の軍事法廷移行を決定することができます。

 IPS:
多くの死刑関連法には欠陥があるとおっしゃいましたが。

AO:
死刑法の文言は曖昧で様々な解釈が可能なのです。また、裁判には政治的思惑も大きく作用します。

IPS:
宗教組織の反応はどうですか。 

AO:
死刑は社会に平和をもたらすものでも犯罪を抑止するものでもないのですが、エジプト最大の宗教組織アル・アザールの指導者は、死刑は神に与えられた権利であり、何者もこれを廃止することはできないと主張しており、人々もこれに影響されています。

IPS:
議会はどうですか。

AO:
広場などでの公開死刑を要求しています。外交委員会の副議長は、広場の処刑が無理であればテレビ放送をしろと提案しています。臓器密輸犯罪への死刑拡大、核関連用法に則ったテロ行為への死刑拡大も行われています。

IPS:
軍事法廷はどうですか。

AO
最も死刑判決が多いのが軍事裁判です。これまでにテロ関連で93人に死刑判決が下り、その内67人は既に処刑されてしまいました。我々は、死刑対象の105の罪を予謀殺人、国家反逆、戦時スパイ活動、ハイジャックおよび婦女暴行の大罪に制限し、全面廃止への足がかりとしたいのです。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan


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