【カブールIPS=サイード・ザブリ(Pajhwork Afgan News)】
トニー・ブレア英首相は、北大西洋条約機構(NATO)軍によるイスラム原理主義勢力、タリバン掃討作戦の任務は着実に成功へ近づいてきていると主張。しかし、この驚くべき発言は実際のアフガニスタンの現場で実証する必要があるだろう。
ブレア首相はNATO首脳会議が閉幕した29日、ラトビアの首都リガで報道陣に対し「アフガンでのNATOの任務について(現在はまだ大きな成果は見られないが)今後必ず目に見える成果をもたらすだろう」と楽観的見方を示した。
この記者会見のわずか数時間前、南カブールの道路で反政府勢力による待ち伏せ攻撃を受けたNATO軍兵士2名が負傷。会見ではこの銃撃戦に関する詳細は明らかにされなかったが、最近アフガニスタンの首都カブールやその周辺地域で連合軍の車列を狙った襲撃が多発している。
昨年12月、米軍が(イラクへの派兵増員により)アフガニスタンで活動を展開する4,000人の兵士を撤退させることを発表して以降、多国籍軍・アフガニスタン国軍とタリバンの間での攻撃は激化している。米軍から指揮権を移譲したカナダ・英国・オランダ、さらにNATO主導の国際治安支援部隊ISAF(International Security Assistance Force)は、南部ヘルマンド州やカンダハール州のタリバン拠点地域で戦闘を行っている。
月曜日(27日)、警備の厳しいカンダハール空港でNATO軍車列への自動車による自爆攻撃でカナダ兵2名が死亡した。これによりカナダ人の犠牲者数は今年に入って36人になった。
このような自爆テロ行為が行われたのは、アフガニスタンの30年にわたる紛争でも初めてのことである。今年は102件を超える自爆テロが発生したが、これによる死者のほとんどは民間人であった(このうち外国人兵士の死亡者数は17人)。
木曜日(30日)には、ヘルマンド州でタリバン兵との戦闘中にNATO軍兵士1名が負傷。軍のスポークスマンは1名のISAF兵士が(近接支援機と軍の支援を受けた)軍事行動の際に軽症を負ったことを確認した。
2001年に米国主導の連合軍によりカブールからの撤退を余儀なくされたタリバンは、アフガン政権の奪還と海外からの治安部隊の崩壊を目指して、僅か5年で勢力を回復させた。この戦闘により、今年は約4,000人もの死亡者が出たと見られている(死亡者数の4分の1は戦争による被害を最も多く受けている南部の民間人)。
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は、同国全土に3万2,000人もISAF兵士を配備することでテコ入れを図った。主な派遣国の内訳は、米国が1万1,800人、英国が6,000人、ドイツが2,700人、カナダが2,500人、オランダが2,000人、イタリアが1,800人、フランスが975人である。
しかし、(域外活動として初めてとなる)NATOが指揮するアフガニスタンでの軍事任務は、NATO26の加盟国の立場を真っ二つに分けることになった。フランス・スペイン・イタリア・ドイツなどの加盟国はタリバン掃討作戦で自国の兵士を犠牲にすることを拒否した。タリバンによる外国人兵士の犠牲者は今年、英国人兵士36人を含めおよそ100人に上っている。
NATO加盟各国は、アフガニスタンの復興を目指した平和維持活動の役割においてそれぞれが異なる立場をとっている。このため治安の悪化する同国の各地域では復興支援がほとんど進んでいない状況である。この加盟各国が独自に決めた自国部隊の展開地域や行動規範が障害となり、首都カブールではNATOの機能が麻痺している。
この長い戦争を体験するなか、アフガニスタンの人々は同国の治安回復や資金面の援助などの実現に向けた西側諸国の復興支援活動に大きな期待を抱いた。しかし、部隊の配備や航空機の移動範囲の決定をめぐるNATO加盟国の間の論争は、アフガンの人々を落胆させる結果となった。
ジャーナリストで『タリバン~イスラム原理主義の戦士たち~』の著者であるアハメド・ラシッド氏は「カブール周辺の紛争多発地域で暮らす住民のNATOに対するイメージは決して良くない」と述べた。
NATOは今回の首脳会議で、フランス・スペイン・イタリア・ドイツの首脳から、緊急時に限り南部の治安への関与を行うとする僅かな譲歩を得ることができた。しかし、この『緊急時』に関する詳細な定義も未だに不透明なままである。
比較的平和な西部地域を拠点としているスペイン軍がこれまで妥協することはなかったが、今回の会議でホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相は、緊急時における負傷したNATO軍兵士を避難させる手段として同国のヘリを用意することを申し出た(ただし激しい戦闘が続く南部での使用は認めていない)。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、現在アフガニスタンで展開する2,900の強力部隊の要員をさらに増やすことを求めたNATOの要請を拒否した。しかし同首相は、時限的なものとして(情勢の不安定な)南部への支援を確約した。
フランスのジャック・シラク大統領は、アフガン上空に多数の戦闘機やヘリを配備すること、さらに1つの大隊をカブールから派遣させることに同意した。一方イタリアのロマノ・プロディ首相は「兵士を西部から最も治安の悪い南部や西部に移動させるかどうかについては、臨機応変に決断していくつもりだ」と述べた。
アフガンに要員を派遣しているその他の国々も、大幅な増派を表明した。活動規制の緩和については、オランダ・ルーマニアの派遣部隊はすべての規制を解除するものと報じられている。一方、チェコ・デンマーク・ハンガリー・ギリシャも規制を緩める方向で同意している。
NATOは、各国に対して派遣中の部隊への活動制限の緩和と大規模な増員を求めるなかで、今回は僅かではあるが動きが見られたことを高く評価した。
NATO幹部のJaap de Hoof Scheffer氏は「アフガニスタンに駐留する3万2,000人の兵士のうち2万人が戦闘地域・非戦闘地域での軍事行動が可能である」と述べたものの、未だに軍の要求を満たしてはいないことを認めた。アフガンの現状を考えると、ブレア首相の『勝利予測』はあまりにも楽観的過ぎると言わざるを得ない。(この記事はPajhwork Afgan Newsの同意を得て発表されたものである)(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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