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ストックホルム・イニシアチブ、核廃絶への決意を示す

【ベルリン/ストックホルムIDN=ラメシュ・ジャウラ

「核軍縮とNPTに関するストックホルム会合」(構成16カ国)が、2022年1月4~28日の日程で開催される第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議に対して、「人類を守るという利益のために、政治的リーダーシップを発揮し、条約の下でなされた公約や成果を尊重し、非核兵器世界に向けた決定的な道筋へと導くよう」求めた[訳注:再検討会議は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、再度の延期が決まった]。

2019年にスウェーデンで開始された「ストックホルム・イニシアチブ」は、核軍縮に実践的な推進力をもたらし、核兵器国と非核兵器国の架け橋となることを目的としている。

同グループがストックホルムで開催した5回目の関係閣僚会合ではさらに次のように決議した。「不可逆的で検証可能、透明な形で核兵器の廃絶を達成し、中間的措置として、核兵器のリスクを低減する決意で我々は一致している。」

Annalena Baerbock/By Bündnis 90/Die Grünen Nordrhein-Westfalen, CC BY-SA 2.0
Annalena Baerbock/By Bündnis 90/Die Grünen Nordrhein-Westfalen, CC BY-SA 2.0

会合の議長は、スウェーデンのアン・リンデ外相と、ドイツのアナレーナ・ベアボック外相が務めた。他の参加国は、アルゼンチン・カナダ・エチオピア・フィンランド・インドネシア・日本・ヨルダン・カザフスタン・オランダ・ニュージーランド・ノルウェー・韓国・スペイン・スイスである。

ベアボック氏は12月8日にドイツ外相に指名されたばかりである。同氏が第5回閣僚会合に初参加する以前、ドイツ外務省は「我が国は、国際軍縮イニシアチブを固めるうえで主導的な役割を果たすことを追求する」と述べていたが、これはまさに、ベアボック氏の前任者ハイコ・マース氏が行っていたことであった。

2020年にベルリンで開催された閣僚会合では、NPT創設50周年に合わせて全ての加盟国に参加を呼び掛けた共同宣言も採択されていた。その中には、核軍縮を前進させるための「飛び石」と呼ばれる提案も含まれていた。例えば、核戦力の完全なる透明性の確保、核ドクトリンにおけるより厳格な制約、エスカレーションのリスクを低減する措置、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長(2021年1月)、さらなる備蓄の削減、その他の広範な将来的措置である。

同グループは今回、NPT50周年から2年後に予定された第10回NPT再検討会議を3週間後に控えて、会合を持った。

第5回関係閣僚会合は次のように述べる。「来るNPT再検討会議は、核軍縮に向けた高いレベルのコミットメントを全ての国が示す重要な機会となる。『核軍縮とNPTに関するストックホルム・イニシアチブ』はこの点において実行可能な道を示してきた。我々は、条約が引き続き成功するように各国を導くうえで、再検討会議の議長であるグスタボ・ズラウビネン大使の取り組みを完全に支持する。」

閣僚会合は、同イニシアチブの文書にNPTの他の20カ国が新たに賛同したことを歓迎した。予想通り、ストックホルム平和イニシアチブは全ての加盟国に対して「とりわけ再検討会議の成果文書の起草において、これらの文書に盛り込まれた文言や実行可能なアイディアに引き付けた議論を行うよう」求めた。

閣僚会合は、米ロ間の新START延長に関する合意と、「戦略的安定対話」を発表した2021年6月の両国の大統領声明を歓迎した。同声明には「核戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならない」と再確認する文言が含まれていた。

Photo: US President Joe Biden and Russian President Vladimir Putin shake hands at the Villa la Grange on June 16 in Geneva, Switzerland. Credit: Visual China Group (VCG)
Photo: US President Joe Biden and Russian President Vladimir Putin shake hands at the Villa la Grange on June 16 in Geneva, Switzerland. Credit: Visual China Group (VCG)

これらは間違いなく、ストックホルム・イニシアチブの核軍縮に向けた2つの「飛び石」に対応した望ましい前進である。関係閣僚らはさらに、米中両国による2021年11月16日の首脳会談にも言及した。

しかし、いくらかの前進が見られたにも関わらず、残された作業は多い。NPT上の5つの核兵器国には条約の下での特別の責務があり、自らの核戦力を減らさねばならない。また、その他の核保有国の間にも、軍縮の意思は明確にみられない。

第5回閣僚会合は「核兵器国の間に信用と信頼を構築することで、世界の核軍縮の長期的な停滞にピリオドを打つのに役立つことであろう。」と述べた。

閣僚らは、全ての核兵器国に対して、次の世代の軍備管理取り決めに向けた基礎作業を行い、核戦力をさらに削減し、核爆発実験の完全停止に向けたリーダーシップを発揮し、核分裂物質生産禁止条約の交渉を開始し、多国間核軍縮検証能力構築に向けた取り組みを支援することを求めた。

閣僚らは、対話プラットフォーム、訓練、インターンシップ、フェローシップ、奨学金、モデルイベント、青年グループ活動など、若い世代と関与するための「核軍縮の前進に向けた飛び石的取組み」の呼びかけを改めて強調した。また、広島・長崎や、セミパラチンスクや太平洋などの元核実験場を含めた、核兵器によって影響を受けた地域への訪問やそれらの地域との交流を行うよう呼びかけた。

さらに閣僚らは、多様なジェンダーの観点を包含し、核軍縮の意思決定において女性を実効的に参加させる決意をあらためて述べた。(原文へ

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世界が核兵器の淵から動くにはまだ時間がかかる

|ドイツ|シリア人被告に人道に対する罪で歴史的裁定が下される

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルーア】

ドイツが普遍的管理権を行使して、シリアでの国家主導の拷問を審理してきた世界初の裁判で、被告の元シリア諜報機関の軍人が人道に対する罪(市民約4千人の拷問と数十人の拷問死に積極関与)で終身刑の判決を言い渡された。普遍的管轄権はジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪など、深刻な国際犯罪の容疑者を逮捕した国が、発生場所や容疑者の国籍にかかわらず訴追できる権利で、ドイツは、2002年から国内法に適用している。(原文へFBポスト

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中国とラオスを結ぶ新路線が貿易と観光に東南アジアの門戸を開く

【シンガポールIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

中国とラオス間を結ぶ全長414キロの新高速鉄道線が「陸の孤島」であったラオスを東南アジア地域に連結し、貿易と観光を促進することを可能にした。新線は中国からシンガポールへの鉄道の旅と陸上輸送を促進し、その結果、南シナ海経由の地域貿易の重要性は低下することになるかもしれない。

59億ドルをかけて建設された鉄道は、中国の習近平国家主席の「一帯一路」構想の支柱の一つであるが、同時にラオスにとっても、同国を内陸国(Land-Locked)から東南アジア大陸部の連結国(Land-Linked)経済に転換し、内陸・山岳国家ゆえの遅れを克服しようとする同国の戦略ビジョンの一環でもある。

ラオスのパンカム・ヴィパヴァン首相は8月、中国の新華社通信の取材に対して、一帯一路は「経済インフラや貿易、投資、人的な連結性を通じて、中国と『一帯一路』構想の諸国間の相互信頼と相互援助を深める機会だ」と述べ、鉄道はその重要な一部だとした。

The Ambassador of Timor-Leste, Mrs. Renata de Jesus participated in the historic Laos-China Train launch./ By Embassy of Timor-Leste in Vientiane - Embassy of Timor-Leste in Vientiane, Public Domain
The Ambassador of Timor-Leste, Mrs. Renata de Jesus participated in the historic Laos-China Train launch./ By Embassy of Timor-Leste in Vientiane – Embassy of Timor-Leste in Vientiane, Public Domain

新線はラオスの首都ビエンチャンを出発し、中国と国境を接する北部ボテンへとつながる。そこから、国境を超えてモハンから中国の鉄道網へと接続される。最初の2本の貨物鉄道は両サイドから国境を超え、既に300万ドル相当の商品を運んでいる。ただし、新型コロナウィルス蔓延のために国境を越えた人の往来は依然として禁じられている。

12月3日の新線開通式では仏僧がお経を唱え、中国製の鉄道車両のエンジンに聖水を振りかけた。ラオスのトンルン・シースリット国家主席は式で、「今日はラオスにとって新時代の幕開けであり、ラオスが内陸に孤立した山岳国家から陸で繋がる物流ハブへと転換する重要な一歩を踏み出した日だ。」と語った。

開通日、ビエンチャンの駅は、その多くにとって恐らくは初体験であろう鉄道旅行の切符を求める中産階級の市民達で早朝からごった返した。運行開始から1週間で5000人以上が切符を購入し、『ラオス・タイムズ』紙は、国境が1月に開放されることから、中国・昆明市の住民11万4000人以上が既にラオス行きの切符を購入している。

「中国ラオス鉄道有限公司」がラオス側の路線を運行する。会社自体は「中国鉄道グループ」とその他2社の中国国営企業の合弁であり、これらが株式の7割を保有する。ラオスの国営企業が残りの3割を保有している。このプロジェクトにおけるラオスの債務は15億4000万ドルであり、中国側の合弁企業の債務は24億ドルである。

これはラオス初の鉄道路線であり、中国は、運転士から保線係、鉄道維持労働者に至るまで、鉄道を管理する数百人のラオス人フタッフを訓練しなくてはならなかった。中国国境から100キロ離れた山間部の町ムアングゼイ出身のシダ・フェンフォンサワンは、中国が訓練した運転士の一人だ。

彼女の故郷の町では、長い間、国境を通じて中国との交易がなされていた。彼女は、「中国ラオス鉄道で安定した仕事、それも国家レベルの仕事に就けました。」と新華社通信に語り、これがラオスの全般的な発展を促し、故郷のムアングゼイも中国からの商品輸入によって栄えるだろうと予想した。

鉄道路線に沿った開発活動を適切に計画し適切な海外投資を行うことで、中国ラオス鉄道は、ラオスの観光や輸出入の振興を促し、債務を解消してラオス経済のいくつかの側面の改善につながるであろう。

アジア・パシフィック・パスウェイ・ツー・プログレス財団(マニラ)のルシオ・ブランコ・ピトロ研究員は『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙(香港)への12月の寄稿で、「これらのインフラ計画は、中国の巨大な一帯一路構想がコロナ禍の中でも道を切り開き、東南アジアに大きな影響をもたらしていることの証拠だ。東南アジアの接続性を強化し、経済復興を加速する死活的なパートナーとしての中国のアピール力をまちがいなく増すことになるだろう。」と語った。

今回の輸送ネットワークは、世界最大の自由貿易協定である「地域的包括的経済連携」(RCEP)が2022年に発効すると、その重要性を増すことになるだろうとピトロ研究員は指摘した。RCEPは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の全10カ国と中国を含めた5つの対話パートナー国によるものである。

2015年に起工し、中国の高速鉄道システムを国境を越えて延伸した中国ラオス鉄道は、中国による印象的な技術プロジェクトである。列車はベトナム戦争時に米国が投下した不発弾がまだ散らばっている土地を走る。標準軌道の単線であるこの鉄道は、険しい山間地を、総延長61キロの橋梁と198キロのトンネルを使って貫通している。ラオス国内には21の駅がある。うち10は旅客専用、その他は貨物用であり、このプロジェクトの二重の性格をよく示している。

他方、「ディプロマット」のセバスチャン・ストランジオ氏は、「どの程度までこの鉄道が地域の農村人口に利益を与えるかはまだ分からない。」と指摘した。「6年間の建設を通じて、鉄道建設のために立ち退きを余儀なくされた住民らは、受け取ったもの(補償)があまりに少ないと不平を述べている」とストランジオ氏は言う。また、ある米国の識者がこの鉄道について「たまたま他国内を走ることになった本質的に中国の公的インフラプロジェクト」にすぎないと述べていることを紹介した。

この鉄道路線が、中国がこの地域で後押しする唯一の運輸プロジェクトではない。2018年、複数の中国企業がラオス政府と協定を結び、総延長580キロの高速道路をビエンチャンからパクセまで建設することを決めた。パクセは、カンボジアとの国境に近いラオス南部の都市で、高速道路ができれば、鉄道と高速道路を国中で結んで、ラオス国内や近隣の国々との交易が促進され、経済成長の起爆剤になると期待されている。

タナレン・ドライポート(TDP)とビエンチャン物流団地(VLP)の建設、ベトナム中央ハティン県のブンアン港とVLPの接続、隣国カンボジアにおける総延長190キロのプノンペン=シハヌークビル高速道路という別のプロジェクトが、来年実現されると期待されている。中国企業はまたカンボジアの首都プノンペンと観光都市シエムレアプでの空港建設にも奔走している。しかし、TDPとVLPに投資しているのは中国ではない。

Overview map of the proposed connections for the Kunming-Singapore railway. / By Classical geographer - Own work, CC BY-SA 3.0
Overview map of the proposed connections for the Kunming-Singapore railway. / By Classical geographer – Own work, CC BY-SA 3.0

「2025ASEAN接続マスタープラン」と中国の「一帯一路」を連携させるアジア諸国の取り組みを具体化する建設計画が次々と実行されているが、これは中国・ASEANが11月に実施する記念サミットの主要な要素でもある。しかし「対中債務の罠」への解決策はまだ見出されていないとピトロ氏は指摘する。

「日本による『質のよいインフラ構築に向けたパートナーシップ』にせよ、米国の『よりよい世界再建』にせよ、欧州が最近発表した『グローバル・ゲートウェイ』にせよ、中国の攻勢がそのライバルたちを競争に走らせていることを示している。しかし、日本を除けば、これらの企図はまだ具体的なプロジェクトの形になっていない。それまでは中国の『一帯一路』が地域の諸国に強い影響力を及ぼし続けるだろう。」と、ピトロ研究員は語った。

ピトロ研究員は、例えばビエンチャン=ボテン線は、タイやベトナム、ミャンマーにおける類似の鉄道建設への推進力になるだろうと考えている。「こうした問題があるにもかかわらず、世界を接続する事業の契約が次々と結ばれ、それらに参加する地域の国々の間で中国の影響力は増している。中国の先手は実を結びつつある。」そのうえでピトロ研究員は、新線は「東南アジアの陸の孤島であったラオスにとってのゲーム・チェンジャーになるだろう。」と指摘した。(原文へ

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東南アジアでインフラ接続を推進する日中両国(趙洪厦門大学東南アジア研究センター教授)

国連事務総長、エチオピア内戦の終結を強く訴える

【ニューヨークIDN=キャロライン・ムワンガ】

エチオピアでは、北部少数民族ティグレ人の勢力と連邦政府間の内戦で、難民キャンプや農業インフラ、民間施設(診療所や学校等)も攻撃の対象となり、これまでに200万人以上が家を追われるなど、深刻な人道危機が進行している。先月には双方の間で対話の機運が高まったが、政府軍は1/7に突然ティグレ州の難民キャンプを空爆して56人の民間人を殺害したため、情勢は再び不透明になっている。(原文へ

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殺人ロボット規制を妨害する米国とロシア

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

20年に及んだ戦争の後、8月31日に米軍が最後の兵をアフガニスタンから撤退させた。ワシントンがこれに込めたメッセージは明確だ。今後の全ての紛争における「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(地上軍派遣)を米国は抑制するというものだ。もっとも、現在でもまだ、中東全域に4万人以上の米兵が展開している。

しかし、将来の波は、特に世界中のテロ集団に対する「影の戦争」で使用される「殺人ロボット」がもたらすかもしれない。そのほとんどがドローンや無人航空機(UAV)である。

米軍は8月29日、誤ってISIS-Kのアジトとされた場所に対して、ドローンからヘルファイアミサイル1発を撃ちこんだ。児童7人を含む10人の民間人が殺害された。米国防総省は「悲劇的な過ち」と述べたが、この民間人殺害に関して処罰を受けた者はいない。

この攻撃は、イラク・リビア・ソマリア・イエメン・シリア・アフガニスタンの内戦や紛争地帯でしばしば起こっているように、人工知能(AI)といよりは、誤った諜報(Faulty Intelligence)によって誘導されたものだった。恐らくこのような悲劇は、今後も繰り返されることになるだろう。

他方、第6回特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)再検討会議が12月13日から17日までジュネーブで開かれた。自律型致死兵器システム(LAWS)の将来に関する重要な会合だと見られていたが、予想通り失敗に終わった。

国連協会(本拠は英国)のキャンペーン責任者であるベン・ドナルドソン氏は、12月18日の閉会時にIDNの取材に対して、「多数の政府、ハイテクコミュニティー、国連事務総長からの緊急行動の呼びかけにまったく応えられていない。」と語った。

「英国殺人ロボットストップ運動」の運営委員でもあるドナルドソン氏は、「自律型兵器と群ロボットへの軍事的な投資が爆発的に伸びる中で、8年にも及ぶ議論の末、今日の国連が何も成果をもたらしていないのは偶然ではない。これらの兵器を開発している影響力がある一部の国々は、法的拘束力のある新規則の導入によって進歩がもたらされることを妨げている国々と同じだからだ。」と語った。

「フォーラムとしてのCCWの限界が白日の下に晒された。しかし、その他の国々と市民社会、技術界のリーダーによる強力な連合は進歩をもたらす決意を固めている。」とドナルドソン氏は指摘した。

クラスター弾や対人地雷に関する禁止条約の成功は、国連の外でも進展をもたらすことが可能であり、進歩的な諸国が目標に向かう姿勢を見せていることを示している。

「2022年、殺人の決定を機械に委ねてはいけないと真剣に考えている多数の人々は、この兵器の禁止に向けた新条約を起草し始めるだろう。国連でこの動きを妨害している国々は、自分たちが歴史のどちらの側につこうとしているのかを考えてなくてはならない。」とドナルドソン氏は訴えた。

「ストップ・キラーロボット」キャンペーンを主導する団体の一つである「アムネスティ・インターナショナル」は12月17日、厳しい調子の声明を発表した。米国やロシアを含めた、既に自律型兵器の開発に多額の投資をしている少数の国々が、国連の特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の全会一致ルールを使って多数の国々の意思を人質に取り、兵器システムの自律化に対する世界的な法的対応への進展を妨げようとしていることは今や明白だ、というのである。

新条約を策定する協議へのステップに第6回CCW再検討会議が合意できなかったことで、対人地雷やクラスター弾に関する条約の策定に繋がった条件を反映した法的対応が緊急に必要だとの認識が高まってきた。

「この8年間、戦力の使用を人間が意味ある形でコントロールするための新たな国際法の交渉を大多数の国々が一貫して呼びかけてきたにも関わらず、第6回再検討会議は、世界が望む結果に遥かに及ばない任務しか採択することができなかった。各国は、特定の目標に向けた作業に合意することなく、来年のCCW会合を迎えることになる。」とアムネスティは述べた。

Ray Acheson, Reaching Critical Will
Ray Acheson, Reaching Critical Will

婦人国際平和自由連盟(WILPF)の「リーチング・クリティカル・ウィル」の代表であるレイ・アチソン氏はIDNの取材に対して、「米国が提案した行動規範は(ロシア・イスラエル・インドなど一部の国々のように)自律型兵器の開発・使用を予防する条約の交渉を妨害している米国などの国々の視点を基にしており、全会一致で採択された行動規範など効果的ではないだろう。」と語った。

これらの国々は、自律型兵器システムの価値を喧伝するためにこの8年間を費やしてきた。「兵器と戦力の使用を意味ある形で人間がコントロールし、人権と尊厳を守るための明確な禁止と制限を盛り込んだ法的拘束力のある取り決めが必要だ」とアチソン氏は語った。

「対照的に、米国の考えている行動規範は、自律型兵器の開発を当然のものとみなし、それを促進すらしており、自律的な暴力をますます正常化してしまう。私たちは既に、武器を搭載したドローンとその他の遠隔操作戦争技術によって、人間が行う暴力から人間を引き離してしまう道へと転落してきてしまった。」

「これらの兵器は、信じがたい人的被害を与え、民間人の被害を引き起こす。国際法は損なわれ、戦力使用のハードルは下がる。また、「南」の人びとに対して、不均衡に使用され実験されている。」と、アチソン氏は指摘した。

自律型兵器システムはこうした害悪を悪化させる。そうした兵器の開発は、その他の新しい自律的・人工知能(AI)技術開発という文脈で理解されねばならない。

顔・声・歩き方・心拍認証などバイオメトリックのデータ収集、人の行動を予想する治安維持ソフトウェア、監視技術、人間をカテゴリー化し分類するメカニズム―こうしたことのすべてが世界中で軍隊や警察によって利用されるようになってきている。

「政府や軍隊、警察が先進技術を暴力と監視のためにいかに利用しているかの例をここに再び見て取ることができる。こうした展開の軌跡と、それが積極的に構築している世界を見て取ることができる。アルゴリズムやセンサー、ソフトウェアを基盤にして機能する兵器の出現を防ぐために今こそ行動しなくてはいけない。」とアチソン氏は主張した。

アムネスティ・インターナショナルはその声明で、オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク外相とニュージーランドのフィル・トウィフォード軍縮・軍備管理担当大臣がいずれも自律型兵器を規制するあらたな国際法の策定を呼びかけていると指摘した。

ノルウェーとドイツの新連立政権もそれぞれ、この問題に関して行動をとることを約束している。国連では68カ国が国際法の策定を訴え、地域を横断したリーダーシップが発揮されている。

数多くのAI専門家や科学者、ストップ・キラーロボット・キャンペーン、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際赤十字委員会(ICRC)、26人のノーベル賞受賞者、広範な市民社会があらたな国際法を求めている。殺人ロボットに関する外部プロセスを起動する舞台は整った。

ICRC
ICRC

ICRCは政策ペーパーで、自律兵器システムは、最初に人間によって起動されたり発射されたりした後は、センサーを通じて受容した環境からの情報に反応して、一般化された「標的に関するプロファイル」を元に、自ら攻撃を遂行する。

つまり、兵器の使用者は、結果として武器が使用された場合の特定の標的や正確なタイミング、場所を自ら選べないし、それを知ることすらできないということなのだ。

自律型兵器システムを使用することは、その効果を予測し制限することが困難なことから、リスクが伴う。戦力や兵器の使用において人間によるコントロールや判断が不在であることは、人道的、法的、倫理的観点からして重大な疑問を投げかける。

自律型兵器システムが機能するプロセスは次のようなものだ。

・武力紛争に影響を受ける者(民間人・戦闘員の双方)に対して害をもたらすリスクがあり、紛争のエスカレーションの危険もある。

・国際人道法、とりわけ、民間人保護のための敵対行為に関する規則を含めた、国際法への遵守に対して問題を投げかける。

・生と死にかかわる人間の決定を、センサーやソフトウェア、機械のプロセスに委ねることによって、人間性を巡る根本的な倫理的懸念を生み出す。

2015年以来、ICRCは諸国に対して、民間人を保護し、国際人道法に従い、倫理的に受容できるような形で、自律型兵器システムに国際的制限をかけることを呼びかけている。

他方で、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨年9月、自律型致死兵器以上に不安定をもたらす発明は考えにくいと語った。さらに、2年以内に開催される予定の「将来のためのグローバルサミット」でこの問題について検討することが期待されると語った。

このサミットではまた、核兵器やサイバー戦争、自律型致死兵器システムのもたらす戦略的なリスクを減じる措置を、「平和のための新しいアジェンダ」に盛り込むことを検討することになるだろう。

新たに設置された「国連未来研究所」は、大きなトレンドやリスクに関する報告を定期的に発行する予定だ。こうした取り組みを支援するために「『国連2.0』を立ち上げて、21世紀の課題に対処するための、意義があり、国連システム全体にわたり、多国間で、多くの利害関係者を巻き込んだ解決策を提示することになる。」とグテーレス事務総長は語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ICBMの廃絶で核の大惨事の危険は大きく下がる

【サンフランシスコIDN=ノーマン・ソロモン】

核兵器は、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアが「軍事主義の狂気」と名付けたもののきわみである。もしあなたが核兵器のことなど考えたくもないとすれば、それも理解できる。しかし、そのような身の処し方は限られた意味しか持たない。地球の破滅を準備することから大きな利益を得ている者たちは、私たちが核兵器について思考を回避することでさらに力を得ることになるからだ。

国の政策レベルにおいては、核の狂気は正常なものとみなされ、再考に付されることはない。しかし「正常」が「正気」を意味するとは限らない。ダニエル・エルズバーグ氏は、その好著『世界を終わらせるマシーン』の中で、フリードリッヒ・ニーチェの次のような戦慄の言葉を引用している。「個人の狂気は異常とみなされるが、集団や政党、国家、時代の狂気は規範と見なされる。」

現在、米国の核戦力維持に携わる政策官僚と軍備管理の主唱者たちとの間で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の将来をめぐる熱い論議が戦われている。ICMBの「近代化」に固執する「国家安全保障」派と、現在のICBMをそのまま維持することを主張するさまざまな批判派と間の論争である。両者とも、ICBMを全廃する必要性を認識することは拒絶している。

ICBMの全廃によって、世界的な核のホロコーストの危険性は大幅に下がることになろう。ICBMは効果的な攻撃には特に脆弱で、抑止上の価値はない。「抑止力」であるというよりも、実際には、地上に配備された「カモ」のようなものであり、それがゆえに「高度警戒態勢」の下に置かれているのである。

結果として、他国から向かってくるミサイルに関する通報が正確なものであれ、あやまった警告であれ、司令官はICBMを「使用するか失うか」の決断を即座に下さねばならない。「もし我々のセンサーが敵のミサイルが米国に向かっていると示したならば、大統領は、敵のミサイルが我々のICBMを破壊するよりも前にそれを発射するかどうかを考えなくてはならない。しかし、ひとたび発射されてしまったら、取り消しはできない」とウィリアム・ペリー元国防長官は記している。「大統領はその恐ろしい決断を下すまでに30分も与えられていない」。

ペリー元長官のような専門家は、明確に「ICBM廃絶」の主張をしている。しかし、ICBMは「金の生る木」だ。メディアは、いかにしてこの戦力を維持し続けるべきかについて報道を続けている。

『ガーディアン』は12月9日、米国防総省がICBMのオプションをめぐる調査を外部委託したと報道した。問題は、検討課題となっている2つのオプション、すなわち、現在配備されている「ミニットマンIII」ミサイルの運用期間延長か新型ミサイルの導入かという選択によっては、核戦争の高まる危険の低減に資するところがない、ということだ。しかし、米国のICBMを全廃すればそうした危険が減ることは明らかなのだ。

だが、巨大なICBMロビー集団は気勢を上げている。莫大な利益がかかっているからだ。ノースロップ・グラマン社は、「地上配備戦略抑止力」と誤解を生むネーミングをされた新型ICBMシステム開発に向けて133億ドルの契約を締結した。議会と大統領府におけるICBMへの自動的な政治的信奉と協調した動きである。

「核の三本柱」を構成する海上発射(潜水艦)と空中発射(爆撃機)の部分に関しては、完全に脆弱なICBMとはちがって、相手方の攻撃に対して脆弱ではない。潜水艦と爆撃機は、標的とするすべての国を破壊することが可能であり、合理的に考えうるよりも遥かに強力な「抑止力」を提供する。

それとは対照的に、ICBMは抑止力の真逆をいく。ICBMは、実際には、その脆弱性ゆえに核の第一撃の標的となってしまい、まさにそれと同じ理由によって、報復攻撃を行う「抑止力」とはならないのである。ICBMは、核戦争の開始にあたって敵の攻撃を吸収する「スポンジ」のような役割を果たすに過ぎない。

「高度警戒態勢」のもとに武装された400発のICBMは、5つの州に分散された地下サイロ深くに配備されているだけではなく、米国の政治的既成勢力の発想にも深く埋め込まれている。その目標が、軍需産業から多額の選挙資金を獲得し、軍産複合体に莫大な利益を与え、営利化した支配的なメディアと協調し続けることにあるのならば、そうした発想は合理的なものと言えよう。一方、もしその目標が核戦争の予防にあるのならば、その発想はバランスを欠いている。

エルズバーグ氏と私は『ネイション』誌で次のように書いた。「サイロでICBMを運用し続ける最も安価な方法を探ろうとする議論に囚われてしまうなら、我々に勝ち目はない。この国の核兵器の歴史は、それが真に支払うに足るもので、自らの愛する人たちをより安全にしてくれるものならば、彼らは支出を惜しまないということを物語っている。しかし、ICBMが実際にもたらすものはその真逆であることを人びとに示さねばならない。」たとえロシアと中国が同等の対応を示さなかったとしても、米国のICBM全廃は、結果的に核戦争の可能性を大幅に減ずることになろう。

米議会では、そうした現実には程遠い。先行きが見えず、これまでの常識が支配している。議員にとっては、核兵器に対して数十億ドルもの予算を承認することは自然な行為であるようだ。ICBMに関する機械的な想定に対抗していくことが、核の終末への行進を妨げるうえで、絶対に必要になるだろう。(原文へ

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【ヤンゴンIDN=キャロライン・ムワンガ】

国連開発計画(UNDP)は、ミャンマー(人口5500万人)では総人口の約半数にあたる約2500万人が、2022年初頭には貧困ライン(1日の所得が1590チャット=約100円)以下の暮らしを余儀なくされることになるとする報告書を公表した。このことは、パンデミック以前の15年間にわたる経済成長の成果が消滅して貧困率が2005年以来最悪の水準に逆戻りすることを意味する。

「貧困率の増加からは、生活収入の不足という問題にとどまらず、次世代の人的資源にマイナスの影響を及ぼす栄養、健康、教育へのリスクも見てとれる。ミャンマーの都市部の貧困率は、コロナ禍と進行中の政治的危機による複合的影響により、3倍を超す水準となる。」と報告書は述べている。

UNDPでは、2月に発生した国軍によるクーデターに伴う国民の所得水準への影響を測るための家計調査を5月から6月にかけてミャンマー全土で実施した。

カニ・ヴィグナラジャ国連事務次長補・UNDPアジア太平洋局長は、「通常、中間層が経済回復の原動力となるが、これほど大規模に貧困層が拡大しているミャンマーでは、その中間層が消滅してしまいかねない状況だ。」と指摘し、急速に不安定化している現状について警鐘を鳴らした。

同調査によると、パンデミックと国軍のクーデター前から既に貧困の危機に見舞われていたチン州ラカイン州では、貧困率が高止まりとなる見通しだ。一方、マンダレーヤンゴンといった主要都市部では、貧困層が増加するとともに、既に貧困に喘いでいた層は一層厳しい状況に追いやられると見られている。

報告書はまた、貧しい人々の雇用と収入の大半を生み出す中小規模ビジネスの他、とりわけ縫製業、観光業、サービス業、建設業が大きな打撃を受けていると指摘している。これらの産業はミャンマーの都市部に集中しているが、過密でインフラが未整備なうえに、水道その他のサービスへのアクセスが限られている都市部の環境はウイルスの拡散を悪化させている。

報告書はまた、都市部の世帯の約3分の1が収入減を補うため貯蓄を切り崩し、このうち半数が「貯蓄を使い果たした」と回答するなど、家計の貯蓄が大幅に減少したと指摘している。また都市住民の約27%が、家計をやりくりするために、主な移動手段であるバイクを手放したと回答している。

現金はますます不足してきており、ミャンマーの大手民間銀行カンボーザ(KBZ)銀行は、一日当たりの現地通貨引き出し可能額を約120ドル相当に制限している。さらに、困窮した家庭が頼りとしている出稼ぎ労働者からの国際送金も10%減少している。

報告書は、貧困率の増加は、国の開発全体に深刻な波及効果を及ぼすことになりかねないと警告している。

「我々は、ミャンマー政府は、年間GDPの4%相当の予算を社会救済策に割当てる必要があると見積もっている。経済規模が急速に縮小し、所得崩壊が起こっている中で、もし救済を目的とした社会的投資がなされなければ、多くの世帯を長期にわたって恒常的な貧困状態に固定してしまう可能性がある。」(原文へ

INPS Japan

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【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

核不拡散条約(NPT)は2020年で50周年を迎えた。この記念の年に第10回再検討会議が開催される予定だったが、残念ながら新型コロナウィルスの感染拡大のために延期になった。議長に指名されたグスタボ・スラウビネン氏は、会議を成功に導くために、この遅れを利用して締約国と協議を深めようとしている。

最終文書の採択は通常、会議の「成功」を示すものと見られている。しかし、NPTはその50年の歴史の中で見解の対立とコンセンサスの不在に悩まされてきた。2015年の前回の再検討会議以来、見解の相違を埋めることができず、新たな問題も発生してきた。そうした問題を抱えているにもかかわらず、NPTがしばらくの間はなくなることはないだろう。とはいえ、軍縮に関して全体としては貧相な実績しか残せていないことから、その永続性に疑問が付される可能性もある。

NPT採択以前の数十年に国連総会でなされた決定の歴史を見てみれば、興味深い事実が浮かび上がってくる。そのときの総会決議の多くがすでに、核不拡散関連の条項とともに、核軍縮の効果的措置の必要性を強調していたのである。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

1946年1月に採択された国連総会決議第1号は「核エネルギーの発見によってもたらされた問題に対処する」委員会を創設し、その組織に対して「原子兵器の廃絶」に向けた特定の提案を行うことを特に課した。しかし、2つの超大国の間の角逐と不信のために進展はもたらされなかった。

核兵器保有国の数の増加に対する懸念が高まり、アイルランドが主導した決議1665の採択に至った。同決議は1961年に無投票で採択されたもので、すでに核を保有している国を超えて保有国が増えることを予防するための協議を呼びかけていたが、軍縮には言及していなかった。

1965年、国連総会は決議2028(XX)を賛成93で採択した。核保有国であるフランスを含む5カ国が棄権した。その当時のその他全ての核保有国は賛成し、反対票はなかった。決議は、「18カ国軍縮委員会」(ENDC)に対して、核兵器の拡散を予防する条約を緊急に協議し、その条約が基盤とする原則を提示するよう求めた。

そこで提示された主要な原則は、核兵器国も非核兵器国も、直接的にも間接的に核兵器を拡散させてはならないこと、核兵器国と非核兵器国との間で容認できる責任と義務のバランスを打ち立てること、一般的かつ完全な軍縮、とくに核軍縮に向けた措置を採るべきことであった。

ENDCの2人の共同議長が別々に草案を出し、のちに共同草案となった。1968年3月、共同議長は、委員会の作業を通じて出された提案を盛り込んだ新たな条約草案を提示した。しかし、その草案はコンセンサスを得られなかった。

ENDCを構成した一部の非核兵器国が、草案は核兵器国と非核兵器国との間の適切な権利と義務のバランスに欠いており、より強力で法的拘束力のある軍縮義務を盛り込む必要があると考えた。

それに対応して、共同議長はのちにNPT第6条となる条文を提案した。一部のメンバー国はまた、原子力の平和利用を追求しようとの自らの取り組みを著しく損なうその他の条項があることを問題視し、いくつかの修正案が提示された。しかし、それ以上の変更は草案には加えられず、共同議長は「委員会に代わって」草案を国連総会に送り、コンセンサスを得ていない報告書を付帯することとした。

予想通り、総会でも草案に対するコンセンサスは得られなかった。結局、賛成95によって決議2373(XXIII)が採択された。相当数の国が棄権(21カ国)あるいは反対(4カ国)した。この結果は、国際条約を通じて核拡散を予防する必要性に対してはかなりの支持があるにもかかわらず、提案されたNPTの一部の重要な側面に関しては意見の対立が深かったことを示している。

しかし、徐々に、国際社会の圧倒的多数が、欠陥があったとしても条約を批准することの方が利益になると考えるようになった。NPTが現在の加盟国数に達するまでに30年かかった。全世界の国の加入まであと4カ国である。その4つの非加盟国のすべてが核能力を開発し、自らの核戦力を取得している。現在の9つの核保有国は、法的拘束力があり、独立機関による検証を受け、時限を定めた軍縮の義務を引き受ける意志を持っていないようだ。

核不拡散条約は、今日までのところ、軍備管理分野において最も加盟国の多い条約である。しかし、より強力で信頼に足る軍縮の公約がない限り、NPTの信頼性に対する疑問が投げかけられ、不満がはっきりと示される原因ともなる。

締約国の中の非核兵器国は、条約の欠陥を指摘し、より強力で、法的拘束力があり、時限を設けた軍縮の公約を求めてきた。条約第9条3項で「核兵器国」と認められた5カ国は、自国の核戦力を維持し近代化することが安全保障のために必要であると主張しつづけ、自らが望む限り核兵器を保持し自由に使用する権利を与えたものとしてNPTを見ているかのようだ。

現在の9つの核保有国は、核軍縮の要求に首尾一貫して抵抗してきた。NPT成立から50年、その軍縮の公約は果たされないままだ。

核兵器の使用がもたらす人道的側面への懸念は、2013年から14年にかけて開催された政府関係者と専門家による3回の会議につながった。これらの会議での知見に、多国間の審議・交渉機関におけるゆきづまりへの不満が合わさって、「軍縮協議を前進させる」作業部会の創設につながり、2017年には国連で核兵器禁止条約(TPNW)が採択された。TPNWは2021年1月22日に発効し、2022年3月にはウィーンで第1回締約国会合が開かれることになっている。

TPNW

TPNWに対しては核兵器国から激しい反対があった。にもかかわらず、来たるNPT再検討会議においては、核軍縮に向けた進展がそもそもあるのか、それがどの程度かといった議論を避けることは不可能だろう。一部の反対国による極端な立場は別としても、TPNWは、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置について誠実に交渉を行う」との締約国の責務を規定したNPT第6条と分かちがたく結びついている。122の非核保有国が2017年、核兵器を禁止する条約を交渉する会議を招集するための国連総会決議71/258に賛成することによって、そのことを成したのである。したがって、TPNWをNPTから切り離そうとしても、無益なことだ。すべてのNPT加盟国が、2つの条約が収斂していることをよく認識し、着目することだろう。

最終文書へのコンセンサスが得られないことは、NPT再検討会議ではよくあることだ。これまでの9回の会議のうち5回で最終文書の合意ができず、一部の会議では単に異なった見解を記録するだけの文書であったこともあった。1995年、2000年、2010年に重要な概念的成果があったことも事実だ。しかし、1995年に、(条約の無期限延長と引き換えに)中東に関して、そして再検討プロセスについてなされた重大な公約は、まだ目に見える成果を生んでいない。2000年に合意された「13項目の措置」にしても同様である。また、2010年再検討会議の最終文書に盛り込まれた勧告の長いリストについても同じだ。核兵器廃絶のための具体的措置につながるすべての努力が、実際のところ危機に瀕している。

来たるNPT再検討会議では多くの厳しい問題を扱うことになる。その中には、NPTの成立以前から存在した問題もある。その他の問題は、最近の変化や、世界の様々な地域における安全保障環境での緊張の再燃を背景としている。それらの問題の全てが、今回の会議が開かれる岐路を形作ることになる。

非核兵器国の間に不満がたまり堪忍袋の緒が切れかかっているにも関わらず、NPTが50年間も存続してきたことは注目に値する。拡散の抑制の点では完全に成功してきたとは言えない(核戦力は増強され、4つの核保有国が増えた)が、NPTは核兵器のさらなる拡散を予防する上で重要な役割を担ってきた。

しかし、この半世紀のNPTの残してきたものを冷静に判断してみるならば、その最大の失敗は、核軍縮の効果的な措置を実現できず、締約国の圧倒的多数の正当な期待に応えられなかった点にあろう。

Sergio duarte
Sergio duarte

米ロの核戦力の削減、あるいは、両国間の対話の再開のような、この線に沿ったいくつかの望ましい兆候が出てきているが、既存の核戦力を「近代化」しようとする熱心な動きによって台無しになっている。安全保障環境に関する高まる不安を打ち消すのにも、まったく十分ではない。人類はかつてないほど核の大惨事に近づいているかのようだ。

NPT加盟国は、NPTの軸は核軍縮の約束と引き換えに核保有オプションを放棄する点にあったことをあらためて思い起こすべきだ。この基本的な約束が果たされない限り、NPTの信頼性と永続性には疑問符が付されることになろう。第10回締約国会議は、NPTへの信頼性が強化されるのか、それともさらに損なわれることになるのかを物語るものになるだろう。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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シアルコートのリンチ事件は南アジアにとって何を意味するのか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チュラニー・アタナヤケ、チラユ・タッカル】

2021年12月3日、南アジアのトップニュースはスリランカ人の工場長プリヤンタ・クマラの不幸なリンチ殺害事件一色となった。2010年から輸出管理者としてパキスタンで働いていたプリヤンタ・クマラは、宗教的な言葉が書かれたポスターを剥がしたために殴打され、殺害され、火をつけられた。暴徒は、クマラの行為を神への冒涜と見なしたのである。陰惨な事件は多くの人々の良心を揺さぶり、パキスタン国内では抗議の声が、スリランカでは正義を求める声が上がった。(原文へ 

スリランカでは事件をきっかけに民族間の緊張が再燃し、人々はソーシャルメディアでゴタバヤ・ラージャパクサ大統領と政府に対し、プリヤンタ・クマラのために正義を実現するようパキスタンに圧力をかけることを要求した。スリランカ国内でイスラム過激派が引き起こしたイースターサンデーの爆弾テロ以降、人々は、自国とイスラム教世界との関係に極めて敏感になっている。

このような背景の中で起こった卑劣な攻撃は、パキスタンの国際的イメージ、スリランカとパキスタンの関係、南アジア地域主義に重大な影響を及ぼしかねない。

二つのパキスタン

この暴徒によるリンチ事件は、パキスタンで相次ぐ過激な事件が不幸にもまた一つ新たに加わった。アルジャジーラの集計によれば、1990年以降、神への冒涜を理由にした超法規的殺人により少なくとも80人が殺害された。最近では、今回のスリランカ人工場長への暴徒襲撃を煽ったとされる、原理主義運動が政治組織化した団体であるパキスタン・ラバイク運動(TLP)の支持者らが、パキスタンの主要都市で人質を取り、フランス大統領がイスラム教の微妙な問題に関する言論の自由を擁護したことに対してフランス大使の追放を要求した。TLPは2018年に、神への冒涜の疑惑で死刑判決を受けたカトリック教徒の女性、アーシア・ビビが、教皇の働きかけを受けて無罪になったことに抗議してデモ活動を展開した。この事件は、非イスラム教徒の保護という点でパキスタンのイメージを悪化させ、冒涜法を見直す契機となった。

シアルコートの襲撃事件の直後、パキスタンのイムラン・カーン首相は事件を明確に非難し、パキスタンにとって恥辱の日だと述べた。数時間の内に100人以上が逮捕された。被害者を暴徒から救おうとした男性には勇気のメダルが授与された。カーン首相は、スリランカのゴタバヤ大統領との電話で、加害者に対する迅速な措置を約束した。

こうした措置を講じたにもかかわらず、イムラン・カーン政権が過激派や冒涜法に対してどこまで本気で取り組むかは疑問視されている。カーン氏は、二つのパキスタンの板挟みになっている。一方では、迅速な措置を講じることで法の支配と全ての市民に平等が行き渡ることを示したいと考えており、それはパキスタンの不安定な経済と国際イメージを回復させようとする試みに不可欠なものである。他方では、これまでとは違うイスラム圏のリーダーシップを発揮したいという思いから、世界的なイスラム嫌悪に物申し、イスラム教徒に対する事件が世界のどこで起こっても反応し、パキスタンの冒涜法を世界に輸出したいという気持ちに駆られている。彼は、西側諸国が予言者の冒涜を恐れることを望んでいるが、ウイグル族に対する中国の扱いには沈黙を保っている。

評論家は、パキスタンが経済や観光業の可能性を十分に発揮するには、イムラン・カーンは国内のジハード主義者を取り締まる必要があると主張している。例えば、EUはすでに、マイノリティーに対する取り扱いを理由にGSPプラス(一般特恵関税の優遇制度)におけるパキスタンのステータスを見直そうとしている。ニュージーランドのクリケットチームは、安全上の懸念からパキスタンでのシリーズ戦を拒否した。パキスタン政府は現在のところ、安全、安定、秩序を確保するために原理主義者を取り締まるのではなく、むしろ国内での政治的利益のために過激派に迎合し続け、インド米国を名指しして、組織的にパキスタンへの投資の流れを断とうとしていると非難している。

そのような政治的な瀬戸際政策は、経済的な代償だけでなく、パキスタンのカシミールの大義に対しても道徳的代償ももたらす。就任以来、イムラン・カーン政権は、領土問題を宗教問題にすり替え、インドの行動全てを与党であるインド人民党の民族国家主義的イデオロギーに結び付けている。国内の過激なジハード主義者を保護しながら、神聖な説教壇から石を投げようとするカーンの姿勢は、良心的とはいえないだろう。今回リンチ殺人事件の犠牲となった罪のない工場長は、会社の輸出を拡大し、それによってパキスタンの輸出を拡大するために、残業して海外からの視察団を迎え入れる準備をしていた。ここで非難されるべきは誰でもなく、彼ら自身にほかならない。

地域外交への打撃

パキスタンではマイノリティーに対する暴徒のリンチ事件が頻繁に起こることとはいえ、南アジアの友好国の国民が犠牲になったのは今回が初めてである。パキスタンとスリランカは強固な関係で結ばれており、コロンボは、タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との対テロ戦でイスラマバードが支援してくれたことに、今なお感謝している。最近では、ともに北京へ傾倒することで両国関係が強化されている。

しかし、今回の事件は、すでに危うくなっていたスリランカのパキスタン観に影響を及ぼすだろう。なぜなら、スリランカ人がパキスタンで過激派による暴力被害に遭うのは今回が初めてではないからである。2009年、スリランカのクリケットチームがラホールで襲撃を受け、6人の選手が負傷した。外交関係は保たれたものの、スリランカ人選手にとって記憶は長く残り、彼らはパキスタンでのツアーを回避していた。シアルコートのリンチ殺人事件は2009年のラホール襲撃事件と同様に、外交関係を損なうことはないかもしれないが、訪問者、選手、労働者のいずれであれ、スリランカ人に対しパキスタンへの入国はよく検討するようけん制している。

先にイムラン・カーンがコロンボを訪問したことは、地域外交に新たな枠組みをもたらした。主要な地域外交フォーラムである南アジア地域協力連合(SAARC)は、インドとパキスタンの対立を受け、活動は低調なままである。ほとんどの首脳会談は、南アジアの二つのライバル国の衝突によって影が薄くなっている。カーン首相とラージャパクサ大統領の首脳会談は、南アジアの小国でも政治色の薄い「ローポリティクス」な領域では自力でパキスタンとの貿易関係や外交関係を深めることができる、それはインドにとってゼロサムゲームにならないということを示した。もしパキスタンとの結びつきが徐々に深まっていたら、政権が北京寄りかどうかにもよるが、ネパールやモルディブにとっても手本となったであろう。しかし、そのような予想図は、今回の陰惨な事件の記憶とそれが国内の対立に直接、影響を及ぼしたことにより、つぼみのうちに摘み取られてしまった。

就任以来、カーン首相は、パキスタンを観光と投資の対象国として復活させ、近隣諸国との関係性に新たな枠組みをもたらすことを自らの使命としてきた。政府が国内の強硬派に対してぐずぐずした態度を取るほど、目標はますます遠のく。加害者を迅速に裁き、地域パートナーの協力を得て宗教的過激主義を終わらせることだけが、悪化したイメージを救い、南アジアの地域パートナーとの信頼を回復することになるだろう。

今回の事件はまた、南アジア地域で拡大する宗教的過激主義とイスラム原理主義に光を当て、集団的な行動の必要性を訴えるものとなった。2016年のバングラデシュのカフェ「ホーリー・アーティザン・ベーカリー」襲撃事件、2019年のスリランカのイースターサンデー襲撃事件、2021年のタリバンによるアフガニスタン制圧はいずれも、テロリスト集団や過激な宗教グループが南アジアで増長していることを示している。したがって、今こそ地域が宗教的過激主義とテロの脅威に対して協調的かつ集団的な行動を取るべき時である。

チュラニー・アタナヤケ博士は、シンガポール国立大学南アジア研究所(ISAS)のリサーチフェローである。研究の重点は、中国とその南アジア政策、インド洋の地政学、スリランカの外交関係である。それ以前は、スリランカ防衛省が管轄する安全保障シンクタンクであるスリランカ国家安全保障研究所、外務省のシンクタンクであるラクシュマン・カディルガマール研究所、およびバンダラナイケ国際研究センターに勤務していた。著作および論文には、China in Sri LankaMaritime Sri Lanka: Historical and Contemporary Perspectives、および “Sino–Indian Conflict: Foreign Policy Options for the Smaller South Asian States”がある。eメールアドレスおよびTwitterで連絡を取ることができる。
チラユ・タッカルは、シンガポール国立大学およびロンドン大学キングスカレッジ共同の博士候補生である。以前はワシントンD.C.のスティムソンセンターで客員研究員を務めていた。研究テーマは、インドと南アジアの外交政策である。Twitterで連絡を取ることができる。