【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】
世界の主要な5つの核兵器国(米国・英国・中国・フランス・ロシア)が核戦争の予防とさらなる核兵器の追求の放棄を誓った。しかし、1月3日に発表された5カ国の共同声明には、現在の核戦力の改修・強化の放棄といった反核活動家たちが要求している内容が明らかに取り入れられていない。
「アクロニム軍縮外交研究所」のレベッカ・ジョンソン代表はIDNの取材に対して、今回の「弱く、不十分な声明」は(国連安全保障理事会の常任理事国でもある)5カ国が「最近は何も合意できない」と思われていただけに歓迎すべきものなのかもしれない、と語った。
「核戦争は戦われてはならないことを認識する方向で一致したことは、もし5カ国がそれを実際に行動で示していたなら、素晴らしいものになっただろう。」
「もちろん、5カ国は、軍事的な対立を避け、互いを標的とすることを避ける必要があるが、核兵器禁止条約に署名し、自ら保有する数千発の核兵器を廃棄する点についてはどうなのか。」とジョンソン氏は問うた。
「しかし、今回の声明は、『核戦争に勝者はおらず、戦われてはならない』とする1985年のレーガン=ゴルバチョフ声明を繰り返しただけで、核禁条約を無視し、言葉に実質を与えるだけの具体的な軍縮行動について何も触れていない」と指摘した。
これはもはや「ジェスチャー政治」ですらない。核保有国は5カ国だけでなく全部で9カ国あり、そのすべてが核戦力の改修・強化に余念がないからだ、と「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN、ジュネーブ)の初代代表でもあったジョンソン氏は語った。
「5カ国は、『未承認あるいは意図しない』核兵器使用を非難しつつも、核兵器が『防衛目的』のためにだけ使用されるのなら問題ないとの見方を示した。これで世界が安心するとでも思ったのだろうか。」
ジョンソン氏は、「たった1回の核兵器使用でも、それが未承認であれ、意図しないものであれ、『防衛的』なものであれ、人道的に壊滅的な被害を引き起こし、核戦争の導火線に火をつける可能性がある。レトリックの下に隠れているのは危険な傲慢と現実の否認だ。」と指摘したうえで、「今のままでは、9カ国のうちどの国であっても、過失あるいは故意によって核兵器を発射する愚かな選択を採る可能性がある。」と語った。
「核兵器を保有しつづけ、それを宣伝あるいは誇示しつづけるかぎり、世界全体に核戦争の危機が存在する。だから、核兵器へのこうした姿勢に終止符をうち、すべての核保有国に対して、彼らが無視するかどうかに関わりなく、その核政策に対してより大きな経済的・政治的なコストと圧力をかける核兵器禁止条約をより多くの国々が支持するようになってきたのだ。」
核不拡散条約(NPT)に加盟にしていないその他4つの核兵器国は、インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮であり、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によると4カ国合計で461発の核兵器を保有している。
しかし、これら4カ国は、核保有国を名指しすらしていない国連のアントニオ・グテーレス事務総長の声明を受けて、なんら行動を起こしていない。
つまり、4カ国は視野の外にあり、名前すら出されていないのである。
国連のステファン・ドゥジャリク報道官は、事務総長が4カ国について言及していない件について、「いや、すべての核兵器が廃絶されるべきだという事務総長のメッセージは明確です。声明は、核兵器を保有する国々との対話であり、核兵器保有を明らかにしている国々と、その他すべての加盟国に対するメッセージなのです。」と語った。
ドゥジャリッチ報道官は、事務総長はこの機会を利用して、「あらゆる核のリスクを取り除く唯一の道は、全ての核兵器を廃絶すること」とするこれまでの見解を改めて述べた、と語った。事務総長は、核保有国や全ての国連加盟国と協働して、この目標をできるだけ速やかに達成できる努力すると繰り返した。
SIPRIは、2019年の報告書で、米ロ両国が「自国の核兵器やミサイル、運搬手段を更新し近代化する広範かつ高価な計画」を追求していると述べた。
2018年、米国防総省は、新型核兵器を開発し、その他の核兵器を改修して新たな役割を付与する計画に乗り出したとSIPRIは会見で述べている。「その他の核保有国の核戦力はこれよりずいぶん小規模だが、すべての保有国が新型核兵器システムの開発中あるいは配備を進めているか、そのような計画を明らかにしている。」
「西部諸州法律家財団」のジャッキー・カバッソ代表はIDNの取材に対して、「不都合な真実」は、核抑止、すなわち核兵器使用の威嚇という危険な教義に核保有国が固執する限り、核兵器は存在し続けるという点にあると語った。
NPTが発効してから半世紀、NPT上の核兵器国の行動は、NPTの目指すところと反対の方向に向かっているとカバッソ氏は指摘した。
「NPT非加盟のインド・イスラエル・パキスタン・北朝鮮を含めたすべての核保有国が、核兵器の質向上を目指した高価な計画を推進しており、量的に増強している国もある」。
カバッソ氏は、「P5声明の前向きな言葉とは裏腹に、現実には新たな核軍拡競争が始まっている。」と語った。
「今回は、サイバー能力や人口知能、開発中の超音速能力、中距離運搬手段への回帰、通常兵器・核兵器両用運搬手段の生産などによって、事態は複雑化している。」
2010年、NPT加盟国は、安全保障戦略における核兵器の役割を低減することに全会一致で合意した、とカバッソ氏は指摘する。それから12年、実際にはその真逆、核兵器の役割の拡大が起こっている。
「核保有国とその同盟国による軍事作戦の規模と速度は、核兵器訓練などにみられるように、増している。継続されているミサイル実験や、核保有国同士の軍隊が時に起こしている対立が、核の危険を悪化させている。」とカバッソ氏は指摘した。
「ウクライナや台湾といった対立の焦点があり、核兵器使用のリスクはかつてなく高まっている。核軍縮プロセスは停滞し、NPT上の5つの核兵器国は、自らがNPT第6条の義務を果たしていると自信をもって言えなくなっている。」
明らかに、NPT外の4つの核保有国を核兵器廃絶の協議に巻き込まなくてはならない、とカバッソ氏は訴えた。
ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)公共政策グローバル問題大学校リュー記念グローバル問題研究所で軍縮・グローバル人間安全保障プロジェクトの責任者を務めるM・V・ラマナ教授は、今回の核保有5カ国声明は明らかにNPT再検討会議に向けて準備されたものだと語った(会議は1月第1週に予定されていたが、新型コロナウィルスの感染拡大予防のために延期された)。
「私には、そのことが、なぜNPT非加盟国がこの声明に入っていないかの説明になっているように思われる。さらに言えば、声明は、例えばインド・パキスタン間であっても、核保有国間の戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならないということを示唆している。」
「とはいえ、次の2点を付け加えておきたい。第一に、軍縮義務はNPT上の核兵器国だけではなく、その他4つの核保有国にもあるということ。1996年、国際司法裁判所は、「厳格かつ効果的な国際管理の下でのあらゆる側面における核軍縮につながるような交渉を誠実に追求し、妥結させる義務が存在する」と全会一致で判断した。
従って軍縮義務はすべての国に適用される、とラマナ氏は指摘した。
第二に、レーガンとゴルバチョフが数十年前に述べたことを再度強調するのはいいとしても、今回の声明は、進行中の核兵器近代化プロセスと既存の核戦力維持への投資を反転させる意思を示していない点で残念なものだ、とラマナ氏は語った。
五大核保有国の指導者らはその共同声明でこう述べている。「核戦争に勝者はなく、戦われてはならないということを我々は確認する。核使用は広範な影響をもたらすことから、我々はまた、核兵器が存在し続ける限り、それらは、防衛目的に奉仕し、攻撃を抑止し、戦争を防止するものでなければならないということを確認する。我々は、核兵器のさらなる拡散は防止されねばならないと強く信じる。」
「我々は、核の脅威に対処することの重要性を再確認し、不拡散・軍縮・軍備管理にかかわる二国間・多国間の合意と公約を守り従うことの重要性を強調する。我々は『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行う』との核不拡散条約(NPT)第6条の義務も含め、NPTの義務を果たし続けることを約束する。」
他方で、米国科学者連盟(FAS)は、冷戦終結以降に核兵器を削減する取組みがなされてきたにも関わらず、世界全体では、2021年半ば時点で合計1万3150発の核兵器を保有しており、高水準に留まっていると指摘する。
そのうち約91%をロシアと米国で保有しており、それぞれ約4000発の弾頭を備蓄している。その他の核保有国は安全保障のために数百発以上の核兵器を必要とはしていない。
世界的に見ると、核兵器の数自体は減り続けているが、削減のペースは過去30年間と比べると鈍化している。さらに、その削減のすべては、退役した弾頭の解体作業を依然として続けているロシアと米国でのみ起こっているとFASは指摘している。(原文へ)(PDF版)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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