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禁止の力:核兵器活動を非合法化

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョリーン・プレトリウス】

2021年1月に発効する核兵器禁止条約(TPNW)は、多くの活動を非合法化することにより核兵器を禁止するものである。これには、核兵器の保有、開発、実験、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇、奨励、配備などがある。なぜ核兵器の禁止が、核兵器に対する人々の考え方に心理的転換をもたらす歴史上重要な転換点であるかを理解するためには、何かを非合法化することが意味するものを理解する必要がある。(原文へ 

ある活動を非合法化するということは、それがコミュニティーにより受け入れられないものと見なされており、そのため、それを非合法化、非正当化することによりその活動を終わらせる(あるいは廃止する)法律が作られるということを意味する。それは、誰もその活動に二度と従事しないということを意味するわけではないが、従事すれば、彼らは法律の間違った側(あるいは法律の“外側”)にいるということになる。誰かが非合法化された場合、彼/彼女はもはや、コミュニティーの法律によって与えられる保護や便益を受けられなくなる。核兵器禁止の力はそこにある。核兵器(その延長でいえば、核戦争や原子力事故)を可能にする活動に従事する、あるいは従事することを考えるインセンティブが、これによって変化する。国の指導者だけでなく、核兵器に関する意思決定、支援、運用の過程に関与する個人の心理に影響を及ぼす。これには、核科学者、研究者、政治家、ビジネス関係者、技術者、軍司令官、その他、核兵器活動を支援する人々が含まれる。

第一に、ほとんどの個人、さらには個人を取り巻くコミュニティーである国家でさえ、法律の正しい側にいたい、道徳的に受け入れられることをしたいと望む。核兵器禁止が立脚する人道的アプローチの道徳的説得力は、核兵器を可能にする活動、そしてそのような活動に従事する人々に公式な非難を付す根拠となる。しかし、TPNWの影響は道徳的説得力にとどまらず、核兵器を可能にする活動に参加する人々に具体的な影響を及ぼす。非合法化された活動の結果として取得したものは、将来、押収され、破壊され、あるいは喪失する恐れがある。核兵器の製造や近代化のために巨額の投資をする国家は、国際社会から糾弾され、制裁を受け、最終的には核兵器を放棄せざるを得なくなるかもしれない。核兵器技術に投資する企業は、違法かつ不道徳な活動から利益を得ていることにより訴訟を起こされるかもしれない。核兵器技術者は、選んだキャリアと評判を失うかもしれない。

国家や個人へのインセンティブを変化させるTPNWの力は、物質的および評判上の傷がつくリスクだけにとどまらない。関係するすべての者にとって懲罰的影響も及ぼす。個人が核兵器活動に従事した場合、国際裁判所で裁判にかけられるかもしれない。核兵器禁止は、国際法制度に適合することを忘れてはならない。したがって、それが禁止する活動は、TPNWの文脈だけでなく、これを補完する国際法の文脈においても裁かれることになる。このような国際法の分野として、紛争における戦闘員と文民の区別、均衡のとれた戦力行使、不必要な苦痛の禁止を求める武力紛争法や、生存権と安全な環境への権利を保護する人権法がある。TPNWは、これらの国際法ですでに成文化された人道的根拠に基づいて兵器を禁止している。

人道的根拠に基づいて禁止されている他の二つの国際的行為、具体的には奴隷制と侵略戦争を禁止する国際法の影響力を見れば、禁止の力がよく分かる。かつては当たり前のように行われ、合法的だった奴隷制と侵略戦争は、逸脱とされるようになった。国際法の機能に関するより具体的な例は、この分野に存在する。1961年、アドルフ・アイヒマンは、アルゼンチンでイスラエルの特務員に捕らえられた後、ホロコーストで果たした役割によりイスラエルで裁判にかけられた。彼の捕捉と裁判は、奴隷制や海賊行為を廃止した法律により確立された主導原理、すなわち、人類の敵はいずれの国家でも捕捉して裁判にかけることができるという原理によって正当化された。アイヒマンは有罪とされ、処刑された。アウトロー(人類の敵)である彼は、いかなる法律によっても保護されることはできなかった。ニュルンベルク裁判と東京裁判のいずれにおいても、被告は、戦時中の残虐行為に加え、侵略戦争を非合法化した1928年のケロッグ・ブリアン条約を根拠とする平和に対する罪にも問われた。ロシアのクリミア併合は、ロシアに対する制裁と国際的な非難を引き起こした。また、重要な点として、クリミアに対するロシアの主権については不承認が示された。なぜなら、違法な行為、すなわち侵略戦争によってクリミアを獲得したからである。

このような法的前例は、TPNWが非合法化する活動に従事する個人や国、大国にとってさえも、意欲をそぐ強力な要因となるはずである。米国やロシアの指導者、あるいは核兵器を運用し、核戦略を策定する個人が、ハーグ裁判所で核兵器活動の罪により裁判にかけられることになるとは今は想像もできないかもしれない。しかし、第二次世界大戦終結前のドイツは大国だったことを忘れてはならない。ナチスが思い知った通り、きょう手出しができない大国も、あすは敗者として法に向き合わなければならないかもしれない。意図的であるか否かを問わず、核戦争とそれがもたらした想像を絶する人道的災害に責任がある国家とその指導者を思い浮かべて欲しい。そのような出来事の後で、核の抑止力はそのような惨事のリスクを正当化するものだったという弁明を世論は受け入れないだろうし、裁判所も受け入れないだろう。

確かに、現時点では、TPNWが拘束力を持つのは条約加盟国のみになる見込みである。しかし、核兵器禁止は徐々に力を拡大し、国際慣習法、つまり法律として認められる一般的慣行となり、どこでも、誰にでも拘束力を持つようになる可能性がある。それは、どのように機能するだろうか?国際慣習法は、慣行のパターンの実践にかかわるものであり、また、法的期待のパターン、つまり、あるものが法律としても受け入れられるとはいかなることであるのかという認識にもかかわる。核兵器保有国は、TPNWが核兵器に対抗する国際慣習法に寄与することを否定するために四苦八苦してきた。しかし、問題は、政府高官が何を言うかだけではなく、一般の人々が核兵器についてどう考えるかが、国際慣習法の形成にとって重要だということである。パウスト(Paust)は、こう論じている。「……特定の国家は、特定の規範が慣習法であることに同意せず、そのような規範を破りさえするかもしれない。しかし、一般に共有された法的期待のパターンとコミュニティーに現存する同調行動によってその規範が支持されているのなら、その国家はなおも拘束を受けるといえる」。

TPNWに加盟していない国に対して核兵器禁止に拘束力を持たせる根拠は、すでに構築されている。核兵器に反対する規範は、ほぼ普遍的な条約である1970年の核兵器不拡散条約(NPT)において明確になっている。残念ながら、NPTには法的抜け穴があり、核兵器保有国は核軍縮を無期延期することができる(1995年に同条約が無期限延長された時以来)。NPTは、第6条に核軍縮交渉を拘束力のある義務と定めているにも関わらず、1967年までに核実験を行った国家に対し、かかる交渉を行う期日を定めていない。核兵器保有国は、したがってNPTは彼らに核兵器を保有し、自国の思い通りに管理する国家主権を認めているのだと不誠実な解釈をしている。NPTに加盟していない4カ国は、核兵器保有国の例にならい、核兵器を獲得した。このような行為と解釈は、核兵器禁止とその慣習法としての地位に反するものである。私が考えるに、核廃絶に真剣に取り組む国々にとって、NPTに対するこのような解釈を無効化し、条約の本来の意図を改めて訴え、核兵器禁止の慣習法としての地位を強化する唯一の方法は、NPTを脱退してTPNWに加盟することである。脱退は、核兵器保有国が第6条に違反していることを正当な根拠とすることができる。

核兵器禁止の慣習法としての地位は、1986年のレイキャビク・サミットでレーガンとゴルバチョフが表明したように、幾度となく世界各国の首脳が公然と核兵器に遺憾の意を示していることによっても裏付けられる。国家首脳が核兵器を使用する可能性があったものの、その人道的影響(核のタブー)ゆえに、実際には使用しなかったという事例は、核兵器使用に反対する国家行動のパターンであることが明らかである。

TPNWは、積極的な国家や市民社会が、核兵器活動は人類全体にとって一般的に受け入れられないという法的事例を強化するために、必要な政治的取り組みを行うための手段である。近頃、NATO加盟20カ国と日本および韓国の元大統領、元首相、元外相、元防衛相、合わせて56人が公開書簡により、現職の首脳に対してTPNWに加盟するよう呼びかけたことは、このような取り組みの一例である。

ジョリーン・プレトリウスは、南アフリカのウェスタンケープ大学で国際関係学を教えている。1995年に核不拡散・核軍縮における業績によりノーベル平和賞を受賞した「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の南アフリカ支部会員。

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シリアを巡るバイデン大統領のジレンマ

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

第一次世界大戦後に英仏が既存の民族、宗教分布を無視して国境を確定した(=今日の内戦の火種)モザイク国家シリアの歴史と、米歴代政権のシリア内戦への関与の系譜(CIAが後に敵になるISISやアルカイダ支持者を含む反アサド勢力を支援)を解説したジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。トランプ政権はシリアからの米軍全面撤退を打ち出したが、シリア担当の外交官らがサボタージュして依然として600人以上の米軍がシリアにとどまっていることが最近明らかになっている。シリアからの全面撤退は、従来米国と同盟してアサド政権・ISISと闘ってきたクルド勢力を見捨ててトルコの攻撃に晒すことになる、として反対を表明してきたバイデン氏が、大統領就任後に再びシリアへの関与を強めるのか否かに注目している。また、アサド政権を支援するイランとの核合意を破棄したトランプ政権に代わってバイデン政権は合意を復活される可能性があり、米国の中東外交の変化がシリア情勢に及ぼす影響についても考察している。(原文へFBポスト

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TPNWはNPTと矛盾するか、あるいは弱体化させるのか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タリク・ラウフ

核兵器禁止条約(TPNW)は、必ずしも、条約を支持する非核兵器保有国(NNWS)と核兵器保有国の大半および米国の核の傘に守られた米同盟国との間に争いをもたらす種となっているわけではない。TPNWに反対する人々は、TPNWに関する多くの懸念や欠点を指摘している。この短い論稿は、そのいくつかに答えるものである。(原文へ 

批判的な人々は、TPNWには以下のような欠陥があると主張する。

  1. 核兵器の定義がない: 確かにその通りであり、定義がない。しかし、不拡散条約(NPT)における非核兵器地帯(NWFZ)条約五つのうち四つにおいても定義はなく、定義があるのはトラテロルコ条約のみである(第5条)。
  2. 核不拡散条約(NPT)(第6条)に定める核軍縮の「効果的措置」を構成しない: TPNWは、核軍縮に関してNPT第6条で求められる「効果的措置」であり、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)および2010年の新START(新戦略兵器削減条約)や1987年の中距離核戦力全廃条約(INF)のようなソ連/ロシアと米国の2国間協定(これらはNPTではなく国家安全保障を理由として締結されたが)、ラテンアメリカ・カリブ諸国、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアで運用される五つの非核兵器地帯条約と肩を並べるものである。NPTは自動執行条約ではなく、執行を可能にする措置を必要とする。例えばNPT第2条および第3条に定める不拡散の誓約を検証するためには、NNWSと国際原子力機関(IAEA)との間で保障措置協定を締結する必要がある。第7条を執行するためにはNWFZ協定が必要である。また、原子力の平和利用に関する第4条を執行するためには原子力協力協定が必要である。
  3. 最新のIAEA保障措置(追加議定書)が含まれていない:正確には、TPNWの第3条に、NNWSの各締約国は「少なくとも、本条約発効時に効力を有する[IAEA]保障措置義務を守るものとする。ただし、これは、当該締約国が将来追加的な関連文書を採択する事を妨げない」と規定している。一方、IAEA理事会が1997年モデル追加議定書(AP)(INFCIRC/540)をNPT加盟NNWSに対するIAEA NPT包括的保障措置協定(INFCIRC/153)の必須項目にできなかったことは非常に残念なことであり、IAEA総会は、保障措置に関する年次決議において「追加議定書の締結は、各国の主権的決定である」と述べた。TPNWは、加盟NNWSに対して、少なくとも既存の保障措置協定を維持するよう求め、さらに強化した保障措置を規定した。これによりNPT加盟NNWSの80%が追加議定書を実施しているため、TPNWは不拡散の検証に関する現行の事実上の標準を確保している。これは、NPTが定める標準より厳しいものとなっている。
  4. 核軍縮の検証が含まれていない: 確かにその通りである。しかし、NPTにもNWFZ条約にも、検証の技術的詳細は含まれていない。現実には、検証は「機関[IAEA]の保障措置制度」に委ねられている。IAEAは、1970年のNPT発効を受けて1970~1971年に加盟国との共同作業により包括的保障措置(INFCIRC/153)を策定し、1993~97年に追加議定書(INFCIRC/540)を策定した。TPNW/IAEA加盟国は、TPNW発効後1年以内に開催されることになっている第1回締約国会議にIAEAを招待し、検証アプローチを策定する技術作業部会を設置するとともに、この目的のため、2021年IAEA総会で決議案を提出するべきである。また、慣習的な国際法の地位を獲得し、かつ検証に関する規定がない1972年署名(75年発効)の「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約(BTWC)」とは異なり、TPNWは、実際には検証アプローチを規定している。

 このほかの批判には、次のようなものがある。

  1. TPNWは、核兵器保有国の加盟を認める一方で、核兵器を保有していたが 武装解除した国の参加も認めるという点で矛盾している: 化学兵器禁止条約(CWC)は、化学兵器保有国も過去に備蓄化学兵器を廃棄した国もCWCに加盟することを認めていることを思い起こすことが有益である。したがって、TPNWも同様のロジックに従い、核兵器保有国もTPNWに加盟することができ、そのうえで、締約国により指名される権限ある国際当局の援助を受けて検証可能な形で核兵器を廃棄することができる。
  2. TPNWは、「核兵器の非保有に関する法的規範が存在しないことを示している」: TPNWの目的の一つが、核兵器保有を禁止する法的規範を確立することであり、これは、BTWCとCWCがそれぞれ生物兵器と化学兵器を違法化したことと同様である。
  3. TPNWは、「NPTに対する競合体制」を確立するもので、「NPTからの離脱」を招きかねない: トラテロルコ条約が初めてその適用地帯における核兵器を「禁止」し、その後、核兵器を否定する四つのNWFZ条約が締結されたが、いずれもNPTに対抗する、または取って代わるものとはみなされておらず、むしろ補い合うものと考えられている。TPNW締約国がNPTから「離脱」して、その不拡散義務を「縮小」しようとする可能性があると示唆することは、まったくもって筋の通らない話である。なぜなら、すでに上に述べた通り、TPNW自体が各締約国に対して「少なくとも、本条約発効時に効力を有する国際原子力機関の保障措置義務を守るものとする。ただし、これは、当該締約国が将来追加的な関連文書を採択する事を妨げない」(第3条)と求めているからである。
  4. TPNWは、「拡大抑止に基づく同盟関係を非正当化する」ものであり、そのため、同盟に加わるNNWSが自前の核兵器計画を策定する誘因になる: そのような主張は、同盟に加わるNNWSのNPTに対する誠実さと責任感を疑問視し、彼らが拡大核抑止に依存しているというだけの理由でその不拡散の信用性は疑わしいと示唆するものである。“ケーキを手元に残そうとし、同時にケーキを食べようとする”状況、つまり、核兵器の恩恵を被りながら(実際に核兵器を保有していなくても領土内に核兵器が配備されている場合を含む)、他のNNWSには不拡散を説いており、その結果、実質的にはNPTへの信頼を損なっているというのである。

 結論として、TPNWが発効し、賛成票を投じた122カ国のうち、さらに多くの国が批准手続きを完了し、それによって強行規範を確立して、すべてのNPT締約国だけでなく他の核兵器保有国にも対世的義務(訳者注=国際社会全体に対して負う義務)を生じさせたとき、慣習的国際法の下でTPNWが核兵器の禁止を生じさせる(create)ことはきわめて明白である。

タリク・ラウフは、国際原子力機関(IAEA)検証・安全保障政策課長(2002~2011年)、NPT運用検討会議へのIAEA代表団団長代理(2002~2010年)であった。日本の「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」委員(2017~2020年)、2015年NPT運用検討会議において主要委員会I(核軍縮)議長上級顧問を務めた。また、1987年よりすべてのNPT会合に公式代表者として出席している。

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カリスマ的指導者で汎アフリカ主義の信奉者ローリングス氏を偲ぶ

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

「よく響く太い声でクマのような大男(大柄で髭を生やした風貌)。」ガーナのジェリー・ジョン・ローリングス元大統領をそのようなイメージで思い出す人々もいるだろう。地元紙によると、ローリングス元大統領は11月12日、コルレ・ブー教育病院で亡くなった。享年73歳だった。

「巨木が倒れました。ガーナにとって計り知れない損失です。」と、ナナ・アクフォ・アド現大統領は語った。12月7に予定されている大統領選に向けた選挙活動は、ローリングス前大統領を偲んで一時休止となった。

Jerry John Rawlings
Jerry John Rawlings

ローリングス氏は、1947年6月22日にアクラで、スコットランド出身の薬剤師の父ジェームズ・ラムゼイ・ジョンとガーナ人(エウェ人)の母ビクトリア・アグボトゥィのもとに生まれた。首都の名門アチモト学校を卒業後、1967年8月にガーナ空軍(テシエの士官学校)に入隊した。

69年の卒業時には、空軍の最優秀士官候補生に授与される「スピードバード賞」を獲得。77年には幼なじみのナナ・コナドゥ・アゲマンと結婚して、4人の子供を儲けた。

ツイッター上でも多くの哀悼の言葉が寄せられたが、そうした一人でナイジェリアの起業家チェチェフラム・イケブイロ氏は、「ジェリー・ローリングス氏に憧れて育ちました。子どもの頃、彼がいかにして自力で政府から権力を奪取し腐敗を一掃したかについて聞かされていたからです。つまり当時のガーナ国民の生活は耐え難いほど悲惨なものとなっており、軍事独裁政権を倒すしかなかった。そして汚職・腐敗を止めるため、いわゆる『大掃除』作戦を断行したのだ、と。」

ガーナはサブサハラアフリカで欧州の宗主国から独立した初めて黒人国家だが、20年間に亘って政情不安(4回のクーデター)と経済停滞が続いた。ローリングス空軍大尉(当時)がその後長期にわたる政治の表舞台に出てきたのは1979年に軍事クーデターを率いたときで、当初は不正・腐敗に関与していた前政権の元首や高官を裁判にかけて銃殺刑に処すなど、厳しい政策を断行した。

ローリングス氏は当時、「もし権力の座にある人々が、私利私欲のために地位を利用するならば、民衆の抵抗に遭い追放されることになる。私自身も、これから行うことについてガーナの民衆の了承が得られなければ、銃殺隊の前に立つ覚悟はできている。」と宣言して、チームとともに腐敗一掃に着手した。ただし後年、いくつかの処刑については後悔していると回想している。

ローリングス氏は当時、自由アフリカ運動(FAM)など幅広い層の民衆の支持を得ていた。FAMは、独立後も支配的な影響力を及ぼしてきた欧州の旧宗主国政府や西側ビジネスの利権に近い腐敗した政治指導者らから、一致団結してアフリカ大陸を解放することを夢見る若者達の運動である。

1980年までに、既に軍で10年のキャリアを積んでいたローリングス氏は、若い兵士たちや貧困に喘ぐ都市部の労働者層の間で高い人気を誇るカリスマ的なリーダーになっていた。政権を掌握したローリングス氏は、ガーナ独立後の初代大統領クワメ・エンクルマを彷彿とさせる反帝国主義的な外交政策を推進した。

キューバ政府は、エンクルマ時代の友好関係を復活させてローリング政権に対して、とりわけ保健と教育分野の支援を表明した。そして、同国の青年の島にアンゴラ、モザンビーク、ナミビア、エチオピアの人民解放運動の子供たちのために設立した学校と並んで、ガーナの子供たちに向けた学校を開校した。

Map of Ghana

ローリング政権はまた、米国と南アフリカ共和国のアパルトヘイト政権が支援するゲリラ勢力の攻撃に晒されていたアンゴラ政府と友好関係を維持した。また、自身と同じく軍人出身のカリスマ的な指導者で1983年に政権を握ったブルキナファソのトーマス・サンカラ氏とも密接な関係を築いた。

冷戦が終結すると、ローリングス氏は民主化を推進して複数政党制を導入、選挙に勝利して大統領を2期務めた。2000年の大統領選挙では、憲法の三選禁止の規定に従い出馬しなかった。引退後は、アフリカ連合ソマリア特使、オックスフォード大学講師を務めたほか、2019年7月にはトーマス・サンカラ記念委員会の委員長に就任している。

「ローリングス氏は神がガーナに遣わした賜物でした。心から彼の冥福を祈ります。」とかつての盟友コジョ・ボアキェ・ギャン少佐が語ったと報じられた。(原文へ

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

核兵器禁止(核禁)条約の批准国が50カ国目に達したという知らせを受けたとき、サーロー節子さんは、「椅子から立ち上がることができず、両手に顔を埋めて喜びの涙にくれました。…私の心の中に生きている、広島長崎で命を失った多くの魂に思いを馳せました。愛する魂に『やっとここまでこぎ着けましたよ』と語りかけました。かけがえのない命で究極の犠牲を払わされた彼らに、最初にこの素晴らしいニュースを報告しました。」と語った。

広島原爆の被爆者であるサーロー節子さんは核兵器の廃絶を訴えて長年にわたって活動してきた。2017年のノーベル平和賞受賞団体である「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のウェブサイトに掲載された声明の中でサーローさんは、「私はこのことに達成感と満足感、そして感謝の思いでいっぱいです。この気持ちは、広島・長崎で原爆を生き延びた人々や南太平洋の島々やカザフスタン、オーストラリア、アルジェリアで行われた核実験で被爆した人々、さらにカナダ、米国、コンゴのウラン鉱山で被爆した人々も同じような気持ちでいると思います。」と語った。

Photo: Setsuko Thurlow, Source: Wikimedia Commons

広島・長崎への原爆投下75年にあたり、「核兵器を憂慮する信仰者のコミュニティー」は、世界189団体の賛同を得て8月6日に発表した共同声明の中で、「核兵器は、たった一発であっても、私たちの信仰の伝統と全く相容れないものであり、私たちが愛するすべてのものに想像を絶する破壊をもたらす脅威である」ことを改めて確認した。

「世界各地の多様な信仰を基盤とする団体(FBO)の連帯として、私たちは声を一つに人類の存続を脅かす核兵器の脅威を拒絶する」と共同声明は宣言している。

それから4カ月も経過しないうちに、教会や仏教団体を含む幅広い非政府組織(NGO)が、核兵器の包括的な禁止を初めて定めた核禁条約を歓迎した。

全ての核兵器を廃棄しその使用を永久に禁止することを目的とした核禁条約は、10月24日に決定的な節目(発効要件となる50カ国目が批准)を迎え、来年1月22日に発効することになった。

「ローマ教皇庁と歴代の教皇は、核兵器に反対する国連と世界の取り組みを積極的に支援してきました。」と『バチカン・ニュース』は報じている。教皇フランシスコは、国連75周年を記念した9月25日のビデオメッセージで、核軍縮や不拡散、核兵器の禁止に関する主要な国際的・法的枠組みへの支持を改めて呼びかけた。

Pope Francis in a meeting with President Christina Fernandez de Kirchner of Argentina in the Casa Rosada./ By Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation), CC BY-SA 2.0

主に英国国教会、正教会、プロテスタント系のキリスト教徒5億5000万人以上が加盟する世界教会協議会(WCC)も、10月26日、核禁条約の批准を歓迎した。

「条約が発効する90日の期間がついに動き出しました。すなわち、国際法における新たな規範的基準が創設されたということであり、締約国は条約を履行し始めなければならないということを意味します。」とWCCの「国際問題に関する教会委員会」担当局長であるピーター・プローブ氏は語った。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)年鑑によると、2020年初めの時点で推定1万3400発の核弾頭が人類の生存を脅かしている。しかし、核兵器を保有・開発し続けている9カ国の政府(ロシア・米国・中国・フランス・英国・パキスタン・インド・イスラエル・北朝鮮)が、核禁条約を厳しく批判している。

世界の192の国・地域に広がる、コミュニティーを基盤とした仏教団体である創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長は声明の中で、「条約の発効によって、核兵器が史上初めて全面的に『禁止されるべき対象』との根本規範が打ち立てられます。このことは、誠に重要な歴史的意義があります。」と述べ、これから発効までに、さらに多くの国が核禁条約に批准し、この規範がさらに強化されることに期待を寄せ、「世界の民衆に条約の意義と精神が広く普及されることを願ってやみません。」と語った。

寺崎氏はさらに、「条約発効後1年以内に開催される第1回締約国会合に、核保有国、日本を含む依存国も参加(注=条約未批准国も参加可能)し、核軍縮義務の履行も含め、核廃絶への具体的なあり方について幅広く検討することを強く祈念するものです。」と期待を寄せた。

同氏はまた、「核禁条約は、現実的な安全保障の観点を考慮せず、核保有国・依存国と非保有国との間の溝を深める」との批判が存在することを指摘したうえで、「しかし、核兵器に私たち市民の生命と財産の保証を託すことはできません。両者の間に溝があるとすれば、それは、核不拡散条約(NPT)で掲げられている『核保有国による核軍縮義務』の履行の停滞に原因があり、その履行のための具体的措置として、核禁条約が誕生したといえます。」と語った。

現在、世界では一層深刻な軍拡競争が始まっており、核兵器の近、小型化が進み、「使える兵器」となろうとしていることからも、核禁条約発効の持つ意味はきわめて大きい。

寺崎氏は、「人類を人質にする核兵器の存在を容認し続けるのか、それとも禁止し廃絶させるのか。この方向性を決めるのは市民社会の圧倒的な『声』です。私たち創価学会、SGIは、『核兵器のない世界』の実現へ向け、世界の民衆の連帯を更に広げるべく、より一層尽力してまいります。」と結論付けた。

SGIの声明は「核兵器なき世界への一歩前進に、これまで尽力されてきたヒバクシャの皆さま、有志国、国連、国際機関、共に汗してきた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)をはじめとするNGOの友人など、全ての関係者に深い敬意を表したいと思います。」と述べている。

1995年にノーベル平和賞を受賞した「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」のセルジオ・ドゥアルテ会長と、パウロ・コッタ・ラムジーノ事務局長は声明の中で、核禁条約は「核兵器が使用されれば、人間や環境に受け入れがたい影響が及ぶという常識的な考えに基づいている。」と語った。

Sergio duarte
Sergio duarte

パグウォッシュ会議は、近い将来に核禁条約の加盟国数が、とりわけ既存及び計画されている非核兵器地帯に属する国々を含む形で拡大することに期待を寄せている。パグウォッシュ会議の声明は、「核禁条約はNPTと完全に両立するものであり、加盟国が他国に属する核兵器をホストすることを明確に禁止した唯一の条約である。核兵器国と非核兵器国は、核兵器の完全廃絶を成し遂げて核兵器があらゆる国の安全保障にもたらす脅威をなくすよう、協力していかなければならない。」と述べている。

モンゴルのNGOでICANのパートナー団体である「ブルーバナー(青旗)」は、 核禁条約批准国が50か国に達したことについて、「この最も危険な大量破壊兵器を国際法の下で違法化するうえで、大きな政治的推進力であり重要な一歩となった。」として歓迎した。

ブルーバナーは声明のなかで、「核禁条約の発効により、核兵器と核保有が『絶対悪であるという烙印』が押されることとなり、最終的な完全廃絶という目標を前進させることになるだろう。」と指摘したうえで、国際的な非核地位を認められ「人道の誓約」に加わり核禁条約の交渉に参加して採決に賛成したモンゴルが、「核禁条約に早期に加盟」するよう引き続き努力すると誓った。

さらに声明は、「ブルーバナーが、地域レベルでは、北東アジアにおける信頼を醸成するために地域の他の市民団体と協力し、核兵器が完全に廃絶されるまで、朝鮮半島の非核化と北東アジア非核兵器地帯の創設に向けて引き続き努力していくこと。さらに、全ての国に対して、核禁条約の署名・加盟を訴え、世界平和と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて同条約のもつ重要性に関して意識喚起すべく、引き続き他の諸団体と協力していく。」と述べている。

ブルーバナーは、核不拡散と、モンゴルを非核兵器地帯化する同国の取組みを後押しすべく、2005年に創設された。このNGO団体の議長は、モンゴルの元国連大使であるジャルガルサイハン・エンクサイハン博士である。

核政策法律家委員会(LCNP)西部諸州法律協会(WSLF)は米国政府に対して、「核禁条約への反対を取り下げ、核兵器に役割を与えない、より民主的な世界を実現し、国家の安全保障よりもむしろ人間の安全保障に向けたパラダイムシフトをはかるという核禁条約のビジョンを認める」よう強く要請している。両団体は、ICANのパートナー団体でもある国際反核法律家協会(IALANA)に加入している。(原文へ) |ドイツ語

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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核実験禁止条約の次期監督者選出に寄せて

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメシュ・タクール

世界的パンデミックの悪夢と核兵器管理の支柱崩壊のただなかで、反核運動の天空に今なお明るく輝く数少ない星の一つのリーダーが、11月25~27日にウィーンで選出されることになっている(訳者注=パンデミックのため、2021年以降に延期された)。(原文へ 

包括的核実験禁止条約は、変わり種である。化石と化したジュネーブ軍縮会議で交渉が膠着状態になったとき、オーストラリアが救出作業を主導し、1996年、国連総会での採択を実現した。すべての条約でないにせよ、一連の軍備管理協定の中では珍しいことに、この条約は法的には未発効であるものの、実務的には完全に機能している。これまでに184カ国が署名し、168カ国が批准している。附属書2には44カ国がリストアップされており、これらの国の批准が発効の要件となっている。44カ国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国は、署名したものの批准しておらず、インド、北朝鮮、パキスタンは署名もしていない。

批准を保留している8カ国すべての批准が私の生きている間に実現する見込みは皆無であり、儀式的再確認以上に気にすることは時間と労力の無駄である。この方式は、条約の発効を妨害するために巧妙に仕組まれたものかもしれない。標準的な方式では、発効に必要な批准数とその後の発効までの日数が指定される。そのため、2017年に採択された核兵器禁止条約では、発効に必要な批准数は50カ国のみであった。50カ国目の批准が10月24日に受理され、核兵器保有国は1カ国も署名していないにもかかわらず、条約は2021年1月22日に発効することになっている。

核実験禁止条約は、これとは根本からかけ離れている。当時も我々の一部が問うたことであるが、明白な疑問は、「他の条約が同様の方式を採ったなら、どうなっていただろうか?」である。その明らかな答えは、「どの条約も、世界の核秩序の基盤である核不拡散条約ですら、今日に至っても法的に発効していないだろう」である。

包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)は、核実験禁止条約の実施機関である。条約が発効するまでの間、暫定技術事務局が301の施設の国際監視制度と現地査察により、核実験禁止の遵守状況の検証に責任を負っている。オーストラリアには国際監視制度の一環として22の観測所と一つの研究所があり、施設数は世界で3番目に多い。

暫定事務局を率いる事務局長は、260人の職員と年間約1億3000万米ドルの予算を監督する。事務局長は、条約の検証制度に関連する取り組みを主導し、観測所のデータが、特に核実験(または地震)を検知した場合は、すべての締約国に通知されるようにする。歴代の事務局長は、ドイツのヴォルフガング・ホフマン氏(1997~2005年)、ハンガリーのティボル・トート氏(2005~13年)、ブルキナファソのラッシーナ・ゼルボ氏(2013年~現在)である。

ゼルボ氏の2期目の任期は2021年7月31日に終了する。彼の後任として10月9日の推薦期日までに名前が挙がったのは、オーストラリアのロバート・フロイド氏のみだった。しかし、理事会議長を務めるアルジェリアのファウジア・メバルキ(Faouzia Mebarki)氏の質疑を受けて、ゼルボ氏は6月に、締約国が望むのであればもう1期務めてもよいと述べた(実を言うと、私はフロイド氏ともゼルボ氏とも知り合いである。キャンベラ在住なので、当然ながらフロイド氏との接触がはるかに多い)。

国連中心のグローバルガバナンスを研究する者として、私は、すべての国際機関の最高責任者は任期を2期までとすることを強く提唱している。CTBTOの場合、前任者たちもこれを守り、条約の第2条D-49にも条約発効後の事務局長の任期は2期までと定められている。事務局と機構の制度的一貫性を保つためにも、成功を収めた模範的な最高責任者の尊厳ある選択肢は、職務を立派にやり遂げ、国際社会の感謝を受けたうえで、品位をもって退場することである。条約の任期制限条項は現在の状況には適用されないという詭弁を弄して、現職者が条約に違反するなら、事務局長として核実験禁止条約の規定の遵守を徹底させる道義的および政治的権威は、致命的に損なわれるだろう。

締約国は、あたかも条約がすでに発効しているかのように、実際上のあらゆる点において国際監視制度を運用に取り入れることによって、発効を妨げる法的障害を回避してきた。その一環として、条約に定められた任期制限の適用も含まれなければならない。ゼルボ氏は、機構の運用監視制度をきわめて信頼性の高いレベルまで強化したという点で、非常に優れた業績を挙げている。ふさわしい有望な候補者がいないというのであれば、今回に限り、締約国はゼルボ氏の3期目続投を考えても良いだろう。

フロイド氏は、CTBTOの重要な業務を担う候補としてふさわしく、実に素晴らしい経歴を有している。科学者として教育を受けた彼は、現在、核実験禁止条約を含むさまざまな大量破壊兵器管理条約の実施を担う国家機関である、オーストラリア保障措置・不拡散局の局長を務めている。技術的課題と政治的課題が交わる場において、技術面、運営面、外交面のハイレベルなリーダーシップを発揮してきた実績を有するフロイド氏は、事務局長に選出されれば、核不拡散・軍縮を推進する国際的努力におけるコンセンサス構築を構想している。これまでも現在も、国際組織における主導的地位に就くオーストラリア人が多すぎたということもないはずである。

インド太平洋地域では、1945年より、中国、フランス、インド、北朝鮮、パキスタン、英国、米国により、7回の核実験が実施されている。核実験に関しては、オーストラリアには葛藤の歴史がある。1956年から1963年までの間、英国は、オーストラリア領内で数回の核実験を実施し、それは長期にわたる傷跡を、特に先住民の人々に残した。1966年から1996年までの間、フランスは、フランス領ポリネシアにおいて200回近い大気圏内および地下核実験を行った。これは、太平洋地域全体に核実験への反発を引き起こし、オーストラリアとニュージーランドを核実験完全禁止の国際キャンペーンへと向かわせた。

CTBTOは今後、すぐにも核実験を再開する恐れがある北朝鮮の情勢を密接に監視する必要がある。逆に、北朝鮮が予想に反して非核化した場合、CTBTOはその後の検証メカニズムにおいて重要な役割を果たすことになる。いずれの場合にせよ、インド太平洋地域における経験豊富な人物が指揮を執ることは有益である。

この記事は、2020年11月17日にASPIの「The Strategist」に最初に掲載されたものです。
https://www.aspistrategist.org.au/choosing-the-next-overseer-of-the-nuclear-test-ban-treaty/

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)理事を務める。元国際連合事務次長補、元APLN共同議長。

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョセフ・カミレリ】

数週間前にホンジュラスが50番目の批准国となり(2020年10月24日批准)、核兵器禁止条約がまもなく発効する運びとなったことは、重大な出来事である。条約は、1個の核弾頭も削減しないが、核兵器が倫理的に許されず、国際法に反するという原則を強化するものである。(原文へ 

核兵器保有9カ国あるいは国連安全保障理事会の常任理事国がいずれも条約の署名や批准を行っていないことは、さして驚くべきことではない。これらの国の政府はいずれも、2017年7月の条約採択を喜ばず、いくつかの国、なかでもトランプ政権は激しく反対した。

状況をさらに物語るように、G7参加国とNATO加盟の諸国はいずれも、条約の批准はおろか署名すらしておらず、いずれも近い将来署名する見込みはない。G20については、参加20カ国のうち6カ国のみが採択に賛成票を投じ(アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ)、そのうち署名と批准を行ったのは南アフリカのみ、そのほかに署名したのはインドネシアのみであった。

このほか2カ国が、国際舞台における特筆すべき対応を見せた。EU加盟27カ国のうち、比較的影響力の小さい5カ国(オーストリア、キプロス、アイルランド、マルタ、スウェーデン)のみが条約の採択に賛成し、3年後にアイルランドとマルタのみが締約国となった。

経済協力開発機構(OECD)の場合、加盟37カ国のうち、採択に賛成したのはわずか7カ国、批准手続きを完了したのはオーストリア、アイルランド、ニュージーランドの3カ国のみである。

このような分析がなぜ重要なのか? なぜなら、経済的、軍事的に力を持つ国家はほぼ例外なく、核兵器の開発、保有、威嚇、使用を違法化する動きへの参加を拒否していることが分かるからである。もっとも、必死の努力にもかかわらず、核兵器保有国が条約を阻止できなかったことは紛れもない事実である。忠実な同盟国や従属国の支援と励ましを受けて、彼らは現在、条約を牙のないトラのままにしておこうともくろんでいる。

このような悪質な戦略は、必ずしも成功するとは限らない。条約がわずか3年で必要な批准を獲得できたのは、心強い話である。いまや目指すべきことは、今後3年間で批准国を倍増させることである。それにより、条約の道義的力を増強し、核依存症を手放すよう、各国政府や一般の人々への圧力も高めていくことができる。

条約への支援を広げることはきわめて重要である。しかし、それだけでは十分ではない。条約に加盟するには程遠いにもかかわらず、各国、とりわけ核抑止が自国の安全保障の鍵になると考えている国は、実質的で検証可能な、期限を区切った核軍縮合意の見込みを高めるかのような振る舞いをすることがある。

例えば、包括的核実験禁止条約の発効は、同条約第14条に指定された44カ国すべての批准を条件としており、36カ国は粛々と批准したものの、主要国、具体的には米国、中国、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル、イラン、エジプトは、まだ批准していない。

その他の重要なステップには、次のようなものがある。

  • 核兵器使用に対する作戦即応性の引き下げや先制不使用方針など、核兵器保有国による核リスク低減策や核の透明性に関する対策
  • 核保有国による核備蓄削減と核兵器近代化計画の中止の合意
  • 中東非核兵器地帯を確立する国連プロセスの再開
  • 北東アジア非核兵器地帯を確立する前段階としての信頼醸成措置

核保有国が核軍縮に向けて動くという責任は、議論の余地がない。それでも、米国の影響力の強い同盟国や友好国が果たしうるきわめて重要な役割がある。ロシアと中国の場合、同盟国や友好国は数が少なく、影響力も概して小さいが、だからといって彼らを看過するべきではない。

これらの中小国は、核兵器不拡散条約の締約国のほぼすべてを占める。その多くは、さまざまな場面で、自らを核軍縮の熱心な提唱者であると表明してきた。現在、米国の同盟国で核兵器禁止条約を批准しているのは、ニュージーランドとフィリピンの2カ国のみである。ロシアが主導する集団安全保障条約機構では、禁止条約を批准した加盟国はカザフスタン1カ国のみである。

これらの国の少なくとも一部から一定の支援を引き出すことは、戦略的に重要であり、政治的に実行可能である。核兵器禁止条約に現在欠けているものは、他の多国間合意、特にオタワ条約(対人地雷禁止条約)、クラスター弾禁止条約、(国際刑事裁判所に関する)ローマ規程に対して欧州諸国が示したような力強い支援である。京都議定書からパリ協定まで、気候変動対策についても同様のことがいえる。

核兵器の話となると、米国の一部同盟国の態度を変えることは難しいだろう。特にフランス、また、それほどでもないが英国もそうである。しかし、NATO内では、カナダ、ノルウェー、オランダ、ギリシャ、イタリア、さらにはドイツやトルコなど、かなり多くの国が時間をかければ説得に応じてくれるかもしれない。アジア太平洋地域でも、日本、韓国、オーストラリアに同様のことがいえるだろう。

これらの国の1カ国あるいは何カ国かが兄貴分に逆らって条約に署名するようもっていくことを、戦略的優先事項とみなすべきである。それにより、条約が切に必要としている地政学的影響力を獲得して、他の同盟国が後に続くための先例を作り、核兵器保有国が条約への姿勢を再考して実質的な核軍縮アジェンダを支援するよう、圧力をかけることができる。

このようなことは、国民感情(「世論」とは別に)の大きな転換がなければ、ほとんど、あるいはまったく起こらない。確かに、いくつかの組織は広範囲にわたる啓発キャンペーンやアドボカシーキャンペーンを実施している。その中には、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、PragueVision、核軍縮・不拡散議員連盟、バーゼル平和事務所、グローバル・セキュリティ・イニシアティブ、平和首長会議2020ビジョン、アボリション2000がある。これらのうち最も大きな成果を挙げているのが、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)であり、設立後わずか10年で、2017年ノーベル平和賞を受賞した。ICANは、共感を得られそうな国の政府に集中的なロビー活動を行い、政府間プロセスや政府間交渉にまで介入し(成功の度合いはさまざまであるが)、国連においてより強固な足場を築いてきた。

しかし、彼らは、冷戦終結の前触れとなった1970年代後半から1980年代前半の大衆の熱狂と動員を再現することはできなかった。核兵器が実存的脅威をもたらすという命題は、抽象的には広く認められているが、緊急の集団行動を要請するものとしては受け止められていない。ここでの問題は、「あまりにも多くの不吉な暗雲が頭上に漂う状況にうんざりしている一般の人々を、いかに活性化できるか?」である。この点について、特に米国と密接な同盟関係にある欧州およびインド太平洋地域の国々において、我々は持続的な国民的対話を行う必要がある。

そのような対話は、大胆かつ創造的な思考を養うものでなければならない。それは、我々が抱える核の苦境の症状だけでなく、その原因を探るものでなければならない。核の脅威が、他の問題や危機、とりわけ気候変動と密接に絡み合っており、それらの問題はいずれも単独で十分に理解することはできないし、まして対策を講じることもできないということを明確にしなければならない。きわめて重要なこととして、我々は安全保障への分別あるアプローチを妨げる障害を特定し、目的に合わない考え方や制度を疑う姿勢を持たなければならない。そして、これらはすべて、包括的なアウトリーチプログラムの一環として、職業団体、企業、労働組合、コミュニティーや宗教団体、スポーツおよび文化的ネットワークなど、さまざまな組織と連携しながら行う必要がある。

道はまだ始まったばかりである。

ジョセフ・アンソニー・カミレリは、ラ・トローブ大学名誉教授であり、1994年から2012年まで国際関係論の講座を担当した。また、2006年から2012年まで同大学Centre for Dialogueの初代センター長を務めた。オーストラリア社会科学アカデミーのフェローである。執筆または編集に携わった主要な著書は約30冊、執筆した書籍の章および学術誌の論文は100本を超える。テーマは、安全保障、対話と紛争解決、社会における宗教と文化の役割、オーストラリアにおける多文化主義、アジア太平洋地域の政治などの分野に及ぶ。最近の共著には、マイケル・ハメル・グリーンとの “The 2017 Nuclear Ban Treaty: A New Path to Nuclear Disarmament” (2019年)、デボラ・ゲスとの “Towards a Just and Ecologically Sustainable Peace: Navigating the Great Transition” (2020年)がある。

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火災に見舞われるキリマンジャロ山

【バイロイトIDN=アンドレアス・ヘンプ】

先月中旬にも中腹で大規模な火災に見舞われたアフリカ最高峰キリマンジャロ山(標高5895m)が直面している環境危機について解説した記事。この地域では過去150年に亘って大気の乾燥(山頂の氷河は既に90%が喪失)が進行していることに加えて、特に1996、97年に発生した大規模な火災により、かつて森林が保っていた保湿力(霧や土壌に蓄えられた水分)が失われ火事の原因となる大気の乾燥を一層悪化させている。さらにキリマンジャロで暮らす人口は1911年の約10万人から現在は120万人に増加し、この間森林の50%が伐採や開拓により失われた。タンザニア政府はこれ以上の森林破壊を防ぐために、森林地帯を国立公園に編入して規制・管理の強化に乗り出している。(原文へ)FBポスト

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核兵器は国際法の下で非合法となる – 国連にとって画期的な勝利(ソマール・ウィジャヤダサ国際弁護士)

【ニューヨークIDN=ソマール・ウィジャヤダサ】

核兵器禁止(核禁)条約は10月24日に批准した国が発効要件となる50カ国に達したため、90日後の2021年1月22日に発効する。これにより、核兵器(最も危険な大量破壊兵器)は、国際法の下で最終的に非合法となる。

核禁条約の発効は、75年に亘って核兵器の全面廃絶を最優先の軍縮課題としてきた国連にとって画期的な勝利である。核禁条約の発効が、1945年8月の悪名高い原爆使用と、同年の国連創設から75周年目と重なったことは、注目に値すべきことだ。

核禁条約の重要性を十分理解するには、国連が創設以来、核兵器を禁止するという崇高な目標を達成するために取り組んできた歴史的な歩みを振り返る必要がある。

歴史的な失望と業績

国連は、2つの世界大戦で無数の命が失われ、国際社会が米国による広島と長崎への原爆使用がもたらした惨状(広島で129,000人、長崎で226,000人が死亡)を目の当たりにした後、1945年に創立された。

Photo: Clockwise, from top left: U.S. combat operations in Ia Đrăng, ARVN Rangers defending Saigon during the 1968 Tết Offensive, two A-4C Skyhawks after the Gulf of Tonkin incident, ARVN recapture Quảng Trị during the 1972 Easter Offensive, civilians fleeing the 1972 Battle of Quảng Trị, and burial of 300 victims of the 1968 Huế Massacre. Credit: Wikimedia Commons.

国連が「戦争の惨害から将来の世代を救う」という高い目標を掲げ、紛争を平和的に解決するための無数の仕組みを国連憲章に明記しているにもかかわらず、多くの国々が数百に上る戦争を仕掛け、数百万人が死亡、数千万人が家を追われ、無数の人々が怪我をしたり家族を失っている。

2014年、デイビッド・スワンソン氏は、学術誌アメリカン・ジャーナル・オブ・パブリック・ヘルスへの寄稿文の中で、「第二次世界大戦が終結して以来、世界の153箇所で248件の武力紛争が発生してきた。米国は1945年から2001年の間に201の軍事作戦を海外で展開した。またその後もアフガニスタンやイラク等各地で軍事作戦を遂行してきた。」と記した。

皆さんご存知の通り、極東における共産主義封じ込め政策は、ベトナム、北朝鮮、ラオスに荒廃をもたらし、45年に亘った冷戦は東ヨーロッパ諸国の軍事同盟(ワルシャワ条約機構)の終焉とソ連の解体につながった。また、ブッシュドクトリンとレジームチェンジ(体制転換)政策により中東では数百万人の命が失われた。

中東で起こったアラブの春では、数千人が死亡し、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンでは体制転換(リビア、イエメンでは内戦)へとつながった。シリア内戦ではこれまでに22万人以上が死亡し、中東地域全体ではこれらの内戦で5000万人以上の人々が家を追われた。

Photo: Rabaa al-Adawiya mosque during the violent dispersal of pro-Morsi sit-ins, 14 August 2013. CC BY-SA 3.0

平和活動家のトム・マイヤー氏は、「米国の軍事介入は中東地域にとって災難以外の何ものでもありません。米軍はイラクを破壊し、リビアを不安定にし、エジプトでは独裁者を育み、シリア内戦を加速させ、イエメンを破壊しました。また、バーレーンでは民主化運動の鎮圧を手助けしたのです。」と語った。

こうして引き起こされた衝突のなかには1962年のキューバミサイル危機のように世界を核戦争の瀬戸際まで追い込んだものもあった。

ダグ・ハマーショルド国連事務総長(1953~61)は、国連は人類を天国に連れて行くためではなく、地獄から救うために作られた。」と語った。

実際に国連は世界を地獄から救った

国連は、時には悲劇的な後退に見舞われながらも、核兵器を廃絶するという究極の目的を決してあきらめなかった。それは国連が核兵器を地上で最も非人道的で危険な兵器であり、都市全体を壊滅させ、潜在的に数百万人の命を奪い、自然環境を破壊し、長期にわたる壊滅的な影響で未来世代の生命をも脅かす存在と認識してきたからだ。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

国連総会は1946年1月24日に採択した第一号決議で、「全ての核兵器および大量破壊兵器の廃絶」を目標として掲げた。

1945年の時点で、核兵器を所有し実際に使用(広島と長崎に原爆を投下)したのは米国が世界で唯一の国であった。

以来、ロシア(旧ソ連時代の1949年)、英国(1952年)、フランス(1960年)、中国(1964年)、インド(1974年)、パキスタン(1998年)、北朝鮮(2006年)、さらにイスラエル(取得年を非公開)が核兵器を取得している。

今日、世界には地球を何度も破壊できる約13400発の核兵器があり、その92%を米国とロシアの2カ国が保有している。

国連は、長年の間に、核兵器を含む大量破壊兵器の禁止を目指して、核不拡散条約(1968年)、生物兵器禁止条約(1972年)、化学兵器禁止条約(1993年)、包括的核実験禁止条約(1996年)、武器貿易条約(2014年)といった条約やメカニズムを採択してきた。

現在、国連加盟国の60%にあたる115カ国を網羅する非核兵器地帯が、ラテンアメリカ、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアに構築されている。

これら非核兵器地帯の創設は重要な成果であり、2017年に国連が「核兵器の全面廃絶のために核兵器を禁止する」核禁条約を採択する道筋を切り開くことにつながった。

核禁条約は、核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的被害を強調しており、締約国による核兵器の開発、実験、使用または使用の威嚇、生産、保有、取得、移転、領域内などへの配置を禁止している。

称賛と欺瞞

9月には、ニューヨークタイムズ紙が、「北大西洋条約機構(NATO)の加盟国のうち20か国の首相、外相、国防相経験者など56人が、(核禁条約に参加していない)自国の現役の政治指導者に公開書簡を送り、核禁条約への参加を呼びかけた。」と報じた。

同紙によると、この公開書簡には、カナダ、日本、イタリア、ポーランドの元首相、アルバニア、ポーランド、スロヴェニアの元大統領、24人の元外務大臣、10数人の元国防大臣、ハヴィエル・ソラナ及びウィリー・クラース元NATO事務総長、そして潘基文前国連事務総長等が署名している。

署名者の中に、米国の「核の傘」に保護を求める核依存国(日本、韓国、オーストラリア)やドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコのように自国領内の6拠点に米国の核兵器(約180発)を共有している国々が含まれているのは特筆すべきことだ。

米国のCBS放送によると、核禁条約の批准が順調に進む中、米国は批准国に送った書簡のなかで、「(NPTで核保有を認められた)5大国は、NATO同盟諸国とともに核禁条約の『潜在的影響』に一致して反対している。」と表明し、批准書を撤回するよう働きかけたという。同書簡には、「核禁条約を批准する貴国の国家主権は尊重するが、それは戦略的な誤りであり、批准を取り下げるべきだ。」と強調されていた。

この行動は、核兵器の廃絶を目指して75年間に亘って取り組んできた国連を侮辱するのみならず、核のホロコーストの脅威から解放されて平和に暮らすことを望む世界の大半の人々の意思を、超大国が甚だしく無礼かつ好戦的に阻害しようとした試みに他ならない。

核兵器保有国は核禁条約に署名しないかもしれないが、この条約が発効すれば、今は違法となっている他の大量破壊兵器(生物・化学兵器)と同様に、核兵器が国際法の下で違法となるため、あらゆる国に核禁条約を順守する道徳的責務が生じるということを強調しておきたい。

かつて、核兵器保有国に中には、「私の核ボタンの方があなたのものより、はるかに大きく強力だ。」という横柄な発言をし、核兵器の使用をちらつかせて他国を威嚇し従わせようとした事例もあるが、核兵器が違法化されれば、このような虚栄心に満ちた時代は過去の歴史になるだろう。

ウラジーミル・プーチン大統領は、「米国が率いる西側のパートナーは、現実的な政策を推進するにあたって、国際法よりも銃のルールに従って行動することを好むようだ。これらの国々は自らの排他性と例外主義を信じるようになり、世界の運命は自分たちが決めることができ、自分たちだけが常に正しいと考えている。」と語った。

米国が最近北朝鮮に対して「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を要求したように、ほぼ全ての国々が今日、核兵器保有国に対して核兵器を廃絶することで国際法に従うよう懇願している。

ICAN

核禁条約のもとで核兵器の廃絶が不可避となった今日、世界のあらゆる指導者は国連と協力して、全ての人々にとって平和と正義と安全保障と繁栄が保証される世界秩序を構築する必要がある。

かつてハリー・トルーマン大統領は、「偉大な国々の責務は 世界の民衆を支配するのではなく、民衆に尽くすことだ。」と述べている。(原文へ) 

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

セネガル沖の大西洋上で発生した今年最悪規模の移民船沈没事故(10/29)と国連の対応を報じた記事。西アフリカから欧州へ向かう移民らの多くは、陸路でニジェールやリビアのサハラ砂漠を通り地中海沿岸を目指してきたが、EUの働きかけによりこのルートに対する当局の取り締まりが強化されたことから、(今回の事故のように)スペインのカナリア諸島からの欧州入りを目指し大西洋東部の危険な航路を通るいわゆる「大西洋ルート」の利用(とそれに伴う犠牲者の数)が増加している。フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官 は、人身売買・密航ネットワークの実態について、「子供の目の前で両親が殺害された話など残忍な暴力行為が横行しており、あまりに恐ろしい状況に衝撃を受けています。中でも最も言語道断なのは、こうした暴力の一環として何千人もの女性達がレイプされている現実です。」と語った。(原文へ

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