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|ラテンアメリカ・カリブ地域|気候変動会議の成功に向けて前進

【ニューヨーク/サントドミンゴIDN=キャロライン・ムワンガ】

ドミニカ共和国政府が主催して5月14日まで3日間の日程で開催されていたテーマごとのオンライン会議「ラテンアメリカ・カリブ気候ウィーク(LACCW)2021」が、グラスゴーで11月1日から12日まで開かれる国連気候変動会議(COP26)の成功に向けて重要な推進力を生みだしたと伝えられている。

ラテンアメリカ・カリブ地域、アフリカ、アジア太平洋、中東、北米と地域ごとに開かれている気候変動ウィークの重要な目的は、官民の多様な利害関係者が一堂に会して、一つの傘の下で、目的を同じくしながら気候問題に取り組むことにある。

今回の会合で生み出された推進力は、主催国のドミニカ共和国政府、あらゆるレベルの諸政府、民間部門のリーダー、学界の専門家、その他関係者を含めた5000人以上の参加者の対話からきている。

Map of Dominican Republic

約300人の発言者が、30以上の世界的・地域的組織と協力して、83のイベントと、100時間近いライブ発表と討論にオンラインで参加した。

ドミニカ共和国のオルランド・ホルヘ・メラ環境・天然資源大臣は開会挨拶で、「COP26を前にして、私たちは全国的な気候アクションプランの目標を引き上げ、温室効果ガスを27%削減し、パリ協定の目標に従って気候ニュートラルに向かって前進を遂げようとしています。[…]私たちにとっては、気候アクションは単に排出ガス削減を意味するのではなく、来たるべきものに備える必要があるのです。」と語った。

4日間に及ぶオンライン会議は、気候関連アクションの国家計画への統合、気候リスクへの適応、カーボンニュートラルに向けた変革的な機会という3つの主要な領域における行動を促すためのものであった。結果として、ラテンアメリカ・カリブ地域は、グラスゴーでのCOP26に向けて強力な立場を固めるために「また一歩前進」した。

ドミニカ共和国の国家気候変動評議会の副議長を務めるマックス・プーチ博士は、「人間が生きている複雑かつ対立含みの状況の中、楽観すべき理由があります。気候変動の科学的根拠を強固に否定してきた者達は戦いに敗れ、説得力を失いつつあります。他方で、私たちの目前に横たわっている危険に対する認識が高まっています。ますます多くの国の指導者達が、人類共通の運命を守るための方法として気候関連アクションを積極的に取る必要性を認識するようになり、世界市民たちも勢いを得ています。」と語った。

チリの環境相で国連気候変動会議「COP25」の議長を務めたキャロライナ・シュミットは「地域の国々は連帯してCOP26に向かい、遅くとも2050年までのCO2ニュートラルと強靭性の獲得という共通の目標をもって、最大限の努力を行わなくてはならない」と語った。

LACCW2021は、地域及びグローバルな気候関連目標を前進させる重要なプラットフォームを提供している。広範な地域の利害関係者たちは、気候に関するアクションを提示し、COP26を前にして、パリ協定の下で、「自国が決定する貢献」(NDCs)と呼ばれる各国別の強力な気候変動対策の提出に関してその進捗状況を測ることになる。

LACCW2021のさらなる焦点は、国連の「ゼロへのレース、強靭性へのレース」キャンペーンに対して情報を提供し、多国間の気候対策プロセスにおいてあらゆる人々の声が聞かれるようにすることにある。

「NDCsを積極的に更新することがますます重要になっている。NDCsは、持続可能な開発目標(SDGs)とともに、人々の生活の質をいかにして改善すべきかについての明確なビジョンを伴った、コロナ危機後の持続可能でクリーンな形での復興を導く灯となるだろう。」とチリのシュミット環境相は語った。

シュミット氏とCOP26のアロク・シャルマ議長は他方で、全ての国々に対して、「気候野心同盟」の下で成した公約を果たすか、あるいはこの動きに加わるかするように求めた。マドリッドで開催されたCOP25でチリが議長を務める中で始められたこのイニシアチブは、2050年までのCO2排出ゼロ目標に向かって取り組みを進める国家や企業、投資家、都市、地域や、NDCsを更新することを約束している国々を糾合するものだ。

COP26での成功が極めて重要であると強調したパトリシア・エスピノーサ国連気候変動枠組み条約事務局長は「COP26は、気候変動に対処し、パリ協定を履行し、気候対策関連目標を打ち立て続ける我々共通の取り組みにとって、ある種の『信頼性テスト』に他なりません。」と指摘したうえで、「2021年は、各国が厳しい決定を下し、重要な進展を見せる一年でなくてはなりません。同時にこの年は、前例なき機会を提供している年でもあります。なぜなら、各国が、パリ協定に沿う形でコロナ危機から立ち直り、強靭で、持続可能で、環境にやさしい復興経済を構築しようとしているからです。」と語った。

Patricia Espinosa Cantellano / By Mozamaniac – Own work, CC BY-SA 4.0

LACCW2021は3つの領域に焦点を当てた。①主要な経済部門の行動を国家計画に組み込む。②気候変動のリスクに対応し、強靭性を身につける。③変革の機会を捉えて、地域を、低排出で高度に強靭な発展の軌道に乗せる。

約4000人がLACCW2021のテーマ別オンライン会合に登録をした。政府閣僚、多国間組織の高官、非政府組織に加え、先住民族のリーダーや若者、市民社会からの参加もあった。

オヴァイス・サルマド国連気候変動枠組み条約事務次長は、「ラテンアメリカ・カリブ地域でこの4日間にわたって開かれた実りのある集まりは、気候変動の緊急性が非常によく理解されていることを示しています。ラテンアメリカ諸国が気候対策に取り組みつつコロナ禍にも対処している様子に感銘を受けました。」と語った。また、「COP26まであと半年、私たちは重要な局面に立っています。」と指摘した。

また、「多くの国が、パリ協定の下における各国別の気候変動対策である『自国の決定する貢献』(NDCs)を新たに策定するか、あるいは更新しており、今年は、パリ協定上の目標に到達する軌道に国際社会が乗っているかどうかを確定する年でもあります。LACCW2021を通じて推進力が生まれ、将来もっと多くのことができるという可能性も見えてきました。従って、COP26は成功するとの楽観的な感触を得ています。」と語った。

3日間にわたって、中心的な主催者が、世界共通の気候変動という難題に対処するために肝要なテーマについて議論を主導した。

世界銀行は、各国の措置と経済全体におけるアプローチを検討して、統一的な対策を目指し、持続可能で環境にやさしい復興に向けた国別の計画を作成しようとしている。

国連開発計画は、気候・強靭性開発に向けた統合的なアプローチに関する部会を開き、気候リスクと気候変動の解決策が複数の部門を再形成しつつある現状について検討した。

国連環境計画の部会では、新しい未来の姿や行動、技術、そこに到るために必要な資金を追求する変革的な機会をつかむというテーマで議論を行った。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

LACCW2021の最終日には、COP26の議長が、軽減・適応・資金の掘り起し・連携という、COP26に向けた英国の4つのテーマに関して検討するイベントを開いた。

COP26の「気候対策アクションに向けた媒介」キャンペーンの一環として地域で決められるNDCsの能力構築から、自然に基礎を置いて解決を図ろうとする先住民族との対話、学術研究・イノベーション・気候関連金融に関する議論に至るまで、多くの議論がなされた。

COP26ラテンアメリカ・カリブ地域大使のフィオナ・クラウダーは「LACCW2021は、私たちが直面する課題と、パリ協定の目標を達成する機会について検討し、ラテンアメリカ・カリブ地域で排出ゼロに向かっていくことを可能にした。」と語った。

COP26への次なるステップとしては、国連気候変動枠組み条約の補助機関であり、5月から6月にかけて開かれる「気候変動会議」や「アジア太平洋気候ウィーク」、7月の「アフリカ気候ウィーク」がある。これらを受けて、11月にグラスゴーでCOP26が招集される。(原文へ

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尾崎行雄生誕160周年を迎えて

【東京IDN=石田尊昭

「尾崎行雄と憲政記念館」

国会議事堂の向かい側にある憲政記念館は、もともとは憲政の父・尾崎行雄を記念する「尾崎記念会館」として建てられたものである。今から約60年前、同館の建設に向け、尾崎行雄記念財団が全国に寄付を呼びかけた。超党派の国会議員・地方議会議員、経済界、労働界、教育界、全国の小中学生、海外日系人など幅広い層から浄財が寄せられ、さらに天皇陛下の御賜下金を得て1960年に完成。同時に衆議院に寄贈された。

正門を入ると、議事堂に向かって立つ尾崎行雄の銅像が出迎えてくれる。その凛とした姿は当時も今も変わらない。ただ、国会を見つめるその眼差しは、ますます厳しさを増しているようにも思える。
 

■憲政の父・尾崎行雄

尾崎行雄は、1890年の第1回総選挙から第25回まで連続当選し、60年以上にわたり衆議院議員を務めた。その当選回数と議員在職年数は、日本の議会史上、未だ誰にも破られていない偉大な記録である。だが、憲政記念館にある尾崎の銅像も展示物も、単に尾崎の記録を褒め称えるためのものではない。尾崎行雄の思想と行動を冷静に見つめ直し、その中から現代に生かすべきものを見つけ出すことが重要だ。

尾崎は、立憲政治の確立を唱え続けた政治家である。特権的勢力が思うがままに振る舞う「人の支配、力の支配」ではなく、憲法に基づく「法の支配、道理の支配」を主張した。立憲政治の最大の目的は、この「法の支配」を通じて、国民の生命・財産・自由その他の権利を保障することにある。それを実現する最善の方法は、尾崎曰く「人民から代表を出して、その代表がつくった法律による以外は税金を課したり使ったりできず、また牢に入れることもできないようにすること」である。その代表は有権者の投票によって選ばれるため、立憲政治は「有権者中心の政治」であると尾崎は言う。

立憲政治の確立に向けて政党・政治家のあるべき姿を説いた尾崎は、同時に、政治家を選ぶ「有権者のあるべき姿」を説き続けた。

■尾崎行雄の政党観

尾崎は、立憲政治を「立法部の多数を基礎とする政党内閣」が行う政治であるとし、政党の役割を重視した。藩閥・軍閥勢力を排するには近代的な政党組織が必要であると考え、政党のあるべき姿、公党の精神を説くとともに、自らがそれを実践していった。

尾崎は目まぐるしく所属政党を変えている。そして最も長く過ごした期間は「無所属」だった。政党を転々とし、また設立・解散、脱党・復党を繰り返す尾崎は変節漢と非難された。だがこれは、自身の利害得失や感情・しがらみに基づいた行動ではなく、公党としてのあり方、国家国民本位の政策実現を求めた結果である。

尾崎は、亡くなる4年前(1950年)、次のような短歌を詠んでいる。

 「国よりも党を重んじ
   党よりも身を重んずる人の群れかな」

70年前の歌が現在の日本に当てはまるとすれば、国民にとっては悲劇以外のなにものでもない。選挙が近づくたびに、他の政党に移ったり、新たなグループを立ち上げたりする議員が必ず出てくる。また政党の離合集散も繰り返される。そうした行動は必ずしも悪いこととは言えない。問題は、彼らが一体何を目指し、どういう動機で動いているか、ということだ。

国家国民のための政策実現を求めての行動か、それとも、ただただ自身の当選、自己保身を求めての行動か。与野党問わず、国家・社会のあり方と政策を提示し、論争・競争するのが政党(公党)の役割だ。「公」ではなく「私」のために、政策実現よりも自己保身のためになされる数合わせや離合集散は、国民の政党不信、政治家不信を助長させるだけである。

尾崎が目指した公党のあり方―「金や数の力、親分子分のしがらみ、個人の利害」ではなく「道理と政策」で競い合える政党を育むことを今一度、政治家も有権者も考える必要があるだろう。

■憲政記念館リニューアル

冒頭に述べた憲政記念館は、来館者一人一人が、我が国の議会政治の歴史とともに、尾崎の信念や生き方を振り返り、有権者として(あるいは政治家として)自らの行動に役立てていく場でもある。この憲政記念館は、来年(2022年)からリニューアル工事に入り、2026年度中に完成する予定である。現在の敷地に国立公文書館と合築となるが、現記念館のデザイン・特徴を継承し、尾崎の銅像も現在の形のまま館内に設置される予定である。ちなみに、来年4月からは、国会参観バス駐車場横(現記念館の向かい側)に「憲政記念館・代替施設」が開館する。そちらにもぜひご来館頂きたいが、何よりも、「尾崎記念会館の面影」を残す現記念館に、今年中にお越し頂き、60年の歴史に思いを馳せて頂ければ幸いである。(現在、同館では「憲政記念館ふりかえり展」を開催中)

以上は、尾崎の選挙区・伊勢を中心に咢堂精神の普及に努める「NPO法人咢堂香風」の機関紙『咢堂香風』(2021年6月30日発行)に掲載された文章に加筆したものです。

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北大西洋条約機構、対ロ・対中対策にシフトへ

【ブリュッセルIDN=ロバート・ジョンソン】

「私たちが現在経験しつつあるものは、北大西洋条約機構(NATO)の脳死だ。」と、2019年9月の『エコノミスト』誌のインタビューで明け透けに語ったのは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領である。欧州は「崖っぷちに立っている」と語るマクロン大統領は、地政学的な勢力として自ら戦略的にものを考え始める必要性を説いた。でなければ、「自らの運命をもはや支配できなくなる」からだ。

これはドナルド・トランプが米国の大統領に就いてから2年後のことである。この不穏な情勢を背景にNATOのイェンス・ストルテンベルク事務総長は、「NATO再検討グループ」を結成した。座長にはドイツのトーマス・デメジエール元国防省と米国のウェス・ミッチェル元国務省高官が就任した。これはまた、NATOが直面する脅威とそれへの対処能力を概観した「戦略的概念」が2010年以来改定されていないことを念頭に置いたものだった。

1949年のNATO創設以来、「核抑止」がNATOの相互安全保証と集団的防衛の中核にある。この1949年に出された最初のNATO「戦略的概念」は「例外なく、あらゆる種類の兵器によって、可能な限りすべての手段を用いて、即時に戦略的爆撃を実行する能力を確保する」必要性に触れている。

NATO Member States

2010年の「戦略的概念」も2012年の「抑止・防衛態勢見直し」も、30カ国からなる現在のNATOは可能な限り最小の戦力レベルで安全保障を追求し、軍備管理・軍縮・不拡散を目指すことを約束すると述べている。

米国は1953年7月にNATOに核兵器の提供を公約し、1954年9月に欧州に初の戦域核兵器を配備した。1960年代に核不拡散条約(NPT)の交渉が始まった時点ですでに有効であったNATOの核共有協定は、最終合意されたNPTの文言の先駆けとして、米ソ間で秘密裏に認知されていた。

英国もまた、現在の潜水艦のみを基盤としたシステムと、連続航行抑止(常時1隻が海洋パトロールしている抑止態勢)を含め、その核戦力をNATO同盟国の防衛のために50年以上に亘って提供し続けている。

NATOは、東西冷戦が最も激しかった時期と比べれば、地上配備の核兵器を9割以上も削減し、欧州に配備された核兵器も削減することで欧州同盟諸国の核兵器への依存度を低減させてきた、と強調している。

NATOは、2016年のワルシャワサミットで、軍備管理と軍縮の進展には、現在の支配的な安全保障環境を考慮に入れなくてはならないとの見解を示し、ロシアが近年攻撃的な態度を取り軍備を拡張している以上、軍縮に向けた適切な環境は存在しないと認識している。

ブリュッセルで開催された2018年のNATOサミットでは、各国元首が再び、「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟でありつづける」と述べて、これまでの長年にわたる核抑止依存を再確認した。

ストルテンベルク事務総長が設置した「NATO再検討グループ」は『2030年のNATO:新しい時代に向けた連帯を』と題する報告書を2020年11月20日に発表した。この報告書は「ロシアの攻撃的な行動、テロの脅威、サイバー攻撃、新しく破壊的な技術、気候変動が安全保障に与える影響、中国の勃興」といった今日および将来の課題について焦点を当てている。

Secretary of State Michael R. Pompeo meets with NATO Secretary General Jens Stoltenberg, on the margins of the NATO Ministerial, at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on April 3, 2019.

報告書は、「依然として攻撃的なロシアや中国の勃興といった体系的な対立関係への回帰」や新しく破壊的な技術(EDTs)、同時にNATOが直面している国境を越えた脅威やリスクによって特徴づけられる「より厳しい戦略的環境」のもたらす必要にNATOが対応していくことを謳った。

報告書は、NATOはロシアに対して「抑止と対話の二面作戦」を続けることを望む、と述べた。つまり、NATOは、ロシアの「脅威と敵対的な行動に対して、ロシアの攻撃的行動の変容と国際法遵守への回帰を妨げている『いつものやり方』に戻ることなく、政治的に連帯し、決意をもって、一貫した形で対応すべきだ。」ということだ。

同時にNATOは、ロシアとの平和的共存を協議し、ロシアの態度に建設的な変化が見られる場合は好意的に対応する用意があると述べた。加えて、NATOの二重戦略は、「ロシアによる攻撃」、さらには「ハイブリッドな形態のロシアの攻撃」に関しても、そのコストを上げることにつながり、同時に、軍備管理とリスク低減措置を協議するための政治的影響力の強化にも資することになろう。

また、NATOは、中国の国家的能力や経済的勃興、指導者の語るイデオロギー的な目標に関する評価を基盤として、中国という安全保障上の脅威に対して、時間や政治的資源、行動を費やす必要がある。

報告書はさらに、「NATOは、2030年に向けて中国の重要性が増してくる世界にアプローチする政治戦略を策定しなくてはならない。NATOは、その構造全体でもって中国からの挑戦を受け止め、中国に対するNATO諸国の安全保障上の利益のすべての側面について検討する諮問機関を設置することを検討すべきだ。」と述べている。

中国の技術開発の持つ意味合いについて評価し、連合国軍最高司令部の欧州管掌範囲における集団的防衛や軍事態勢、強靭性に影響を与える可能性のあるあらゆる中国の活動に対して防衛する取り組みをNATOは強化しなくてはならない。

NATOがブリュッセル(ベルギー)の本部で6月14日に開催する予定のサミットは「欧州と北米の間の連帯を体現するものとしてのNATOを強化するまたとない機会になるであろう。」と、NATOの報道発表では述べられている。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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アフリカとの貿易関係を深めるロシア

【モスクワIDN=ケスター・ケン・クロメガー】

プーチン政権は、アフリカを今世紀最大のフロンティア市場と捉えて、2019年には史上初のロシア・アフリカサミットを開催。かつてアフリカ諸国の独立闘争支援や開発援助を積極的に展開した(ロシアの前身である)ソ連時代のポジティブなイメージを梃にしながら、安全保障面の協力や留学生の受入れ、民間投資・貿易促進を積極的に後押ししている。これは近年拡大しつつあるロシアーアフリカ間の貿易・投資の動向を取材した記事。アフリカでは、世界貿易機関(WTO)創設以来最大の自由貿易協定といわれる、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定が、今年初めに運用を開始している。(原文へ

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再生可能エネルギーはグローバルなエネルギー転換の柱だ

【レノ(米ネバダ州)IDN=J・W・ジャッキー】

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、風力や太陽光などさまざまな再生可能エネルギーが2050年までに世界の電力供給の中心を占めるようになるとの最新の分析を明らかにした。3月16・17両日に「ベルリン・エネルギー転換対話」でIRENAが発表した「世界エネルギー転換展望」要覧で論じられている。

現在加盟数163か国(162カ国と欧州連合)をかかえるIRENAは、持続可能なエネルギーの将来に向けて移行しようとする国を支援する世界的なエネルギー変革のための政府間組織で、国際協力の主要なプラットフォーム、中核拠点、再生可能エネルギーに関する政策、技術、リソースの集積所として、あらゆる形の再生可能エネルギーの広い適用と持続可能な使用を推進する主導的な役割を果たしてきた。

「気候投資プラットフォーム」への貢献の一環として、IRENAは、再生可能エネルギー関連プロジェクトの実現を支援する用意がある金融機関や開発機関、民間投資家に対して、地域毎にまとめられた特設のポータルを通じて適切なプロジェクトへの参加を呼びかけている。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

気候変動に対処するには、2050年までにエネルギー需給の脱炭素化を達成する必要がある。この動きは、世界的なエネルギー転換に重大な影響を及ぼし、エネルギー部門の脱炭素化にあたって、電気が重要な要素となることを意味する。

国際社会は2015年9月に開催された国連のサミットで、17項目からなる持続可能な開発目標(SDGs)という世界共通目標を2030年までに達成することを決めた。すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保することは、SDGsの第7目標に明記されている。また、気候変動とその影響に立ち向かうために緊急対策を取ることは、SDGsの第13目標にあたる。

急速な炭素削減に向けた代替手段は利用可能であるが、2021年以降もクリーン・エネルギーが成長する見通しである。再生可能エネルギー、電化、省エネが、エネルギー転換の中心に据えられることが理想だ。以下、エネルギー転換を加速させることができる3つの要素について説明していく。

持続可能性と社会経済的なバランス

奇妙に聞こえるかもしれないが、エネルギー転換と経済成長の相互関係は、エネルギー転換指数(ETI)で高位にある国において重大な課題に直面している。実際、指標が存在する115カ国の中で、ランキングを上げ、かつ経済成長も成し遂げた国は全体の半数以下であった。さらに、原油価格高騰の懸念が高まるなど、先進国は多くの問題に直面している。

この10年ほどで、先進国の世帯では電気料金が25%増加した。同じ期間に、経済成長と環境の持続可能性、開発分野において前進がみられたのは途上国の40%にも満たなかった。

エネルギー転換をバランスよく進めるには、安全とエネルギーへのアクセス、経済開発、持続可能な管理を達成しなくてはならないことを指導者は理解する必要がある。エネルギー転換の特定の要因にのみ力を入れることは、世界的な不平等の原因となり、気候変動に関する目標の不達成につながるからだ。

教訓の共有

クリーン・エネルギーに関して言えば、欧州・北欧諸国は、政治的コミットメントの強さや統合的な電力市場、持続可能性実現に向けた強力な規制政策のために、高い実績を誇っている。これらの国々の規制政策は、エネルギーを転換する革新的な技術の採択を中心としたものだ。興味深いことに、中国やインド、ブラジルといった新興国も、再生可能エネルギー源を強化し、エネルギーの集中的な使用を減らし、グローバルなエネルギーアクセスを拡大している。

しかし、エネルギーの転換プロセスにはまだかなりの格差がある。この格差を急速に埋めるために、国家間の協力が最も優先されねばならない。エネルギー転換指数(ETI)で高位にある国は、その規制とイノベーションについて、新興国と知見を共有しなくてはならない。

地方レベルで言えば、各国政府は、地域コミュニティーを持続可能なプロジェクトに巻き込みながらクリーン・エネルギーへの移行を図ることが可能だ。例えば、クリーン・エネルギーに関する教育によって、太陽光や地熱、風力に関する関心を高め、新システムの開発に向けた余地を生み出すことができる。 

移行を通じた強靭化

IRENA

この10年間のエネルギー転換は不均等な形でしか生じていない。ETIのランキングを上げたという意味では、115カ国中わずか13カ国しか達成していない。新型コロナ感染症のパンデミック(世界的大流行)による債務危機とシステム的な衝撃が、エネルギー転換のロードマップに影響を及ぼしている主な要因だ。

不可逆的な進展を促進し、今後ありうるリスクを抑えるために、各国は、経済・政治・社会的実践においてエネルギー転換の公約とロードマップを守らねばならない。そうすることで、再生可能エネルギーの利用を促進し、CO2排出燃料を減らし、規制の枠組みを改善することができる。

グローバルなエネルギー転換のプロセスは始まったばかりだが、政策決定者や投資家、消費者、イノベーターには、持続可能性に関する目標を達成するために必要なことを行ってほしい。

社会経済的なバランスや持続可能性に関するバランスを向上させ、規制政策やイノベーションに関する教訓を共有することで、各国はグローバルなエネルギー転換を促進することができる。各国政府は、強靭さを身につけ、生態系やセクターを超えた協力を促進すべきだ。(原文へ

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|視点|経済と社会のデジタル化を加速させる新型コロナウィルス(カヴェー・ザヘディ国連アジア太平洋経済社会委員会事務局次長)

【バンコクIDN=カヴェー・ザヘディ】

私たちは決定的な瞬間を生きている。新型コロナウィルスの感染拡大がもたらす壊滅的な影響は世界のあらゆる場所に及んでいる。この時期を振り返ってみた時に、歴史が「コロナ以前の世界」と「コロナ後の世界」に分割されてしまったことに気づくだろう。

「ポストコロナ」の世界を決定づける特徴の一つは、私たちの生活のあらゆる側面を貫いている、デジタル化による社会変容ということにあろう。主席技術官なら、経済と社会のデジタル化を予測不能なペースで推し進めた新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)が、自分たちの任務を完了させてしまったというかもしれない。

資料:www.hec.edu/en
資料:www.hec.edu/en

デジタル化による社会変容はデジタル技術の興隆と共に進行してきた。こうした技術は、各国政府が空前のペースと規模で社会保護措置を実行する上で、支えとなってきた。e-保健やオンライン教育を可能にし、企業がデジタル金融やe-コマースを通じて経営を存続させ取引を続けることを可能にしてきた。

しかし、各国がポストコロナに向けた再建に取り掛かりつつある中で、私たちが直面している最も深刻な問題のひとつは、現在身近で起きているデジタル化による社会変容が、アジア太平洋地域の国々で、極端な格差を広げないようにすることであろう。

もし、「誰も置き去りにしない」という持続可能な開発目標(SDGs)の公約を果たそうとするならば、「包摂」こそが、デジタル化による社会変容の中心に据えられねばならない。とりわけ、「包摂」という目的を、インターネットのアクセス、デジタル関連スキル、デジタル金融、e-コマースというデジタル経済の4つの中心的基盤の中に埋め込む必要がある。

おそらく読者は、この記事をノートパソコンか携帯電話で読んでいることだろう。つまり、デジタル世界へのアクセスがあるということだ。そうしたアクセスがない状態でコロナ禍を生きていくなど、想像もつかないことだ。しかし、残念なことに、アジア太平洋地域に暮らす20億人以上の人々にとっては、それが現実なのである。

そして、その20億人の中には、社会的に最も弱い立場の人々が含まれる。たとえば、東アジアと太平洋地域の学生の約20%、南アジア・西アジアの学生の約40%は、昨年、リモート学習を利用することができなかった。このことは、世代間格差と貧困を永続化させてしまう効果を持つことだろう。

Asian businessman standing and using the laptop showing Wireless communication connecting of smart city Internet of Things Technology over the cityscape background, technology and innovation concept/ Image source: Talent & Organization Blog for Financial Services

デジタル格差に対応するために、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が進めている「アジア太平洋情報スーパーハイウェイ構想」が、①インフラの接続性、②効率的なインターネットのトラフィックとネットワーク管理、③e-強靭化、④ブロードバンド環境の安価な整備という4つの相互に関連した柱に焦点を当てている。

しかし、インターネットのアクセスを確保するだけでは十分ではない。アジア太平洋地域ではデジタル関連スキルの格差がますます拡がりつつある。アジア太平洋地域でデジタル経済の分野で最も先進的なトップ10カ国においては、人口の9割以上がインターネットを利用している。今世紀の初め、この割合は25%程度だった。対照的に、ワースト10カ国においては、インターネット利用者は2000年当時が1%で、現在でもわずか20%にとどまっている。

これに対応して、UNESCAPが運営している「アジア太平洋情報通信教育訓練センター 」では、政策決定者や女性・若者を対象に、需要主導型教育訓練プログラム提供して、デジタル関連スキルを身につけさせている。

デジタル金融に関しては、電子決済の利用者が最近増えつつあるものの、男女間の格差が続いている。加えて、東アジアと太平洋地域では、女性が主導する起業において、1.3兆ドルもの資金ギャップが発生している。

また、アジア太平洋地域が世界のe-コマース取引の4割以上を占め、世界のe-コマース市場を主導しつつあるが、内訳をみればこれらの利得は域内のごくわずかの市場によって主導されているという問題がある。

これに対してUNESCAPが実施している「女性起業媒介プロジェクト」では、コロナ禍でより厳しい状況に直面している女性起業家を支援するために、革新的なデジタル金融とe-コマースの解決策を生み出すことで、彼女たちの抱える問題に対処しようとしている。例えば、「デジタル家計簿アプリ」や「アグリテック解決法」のような取り組みを通じて、幅広いデジタル金融やe-コマースソリューションをサポートし、女性起業家が少しでも生き残っていけるような包摂的オプションを提供している。今日までに、このプロジェクトを通して7000人以上の女性起業家が資金提供を受け、民間資本5000万ドル以上を活用した。

Responding to the COVID-19 Pandemic: Leaving No Country Behind/ UNDP

「包摂」は、まちがいなく、包摂的なデジタル経済の中核的な基礎を築くことに焦点を当てたESCAPの技術・イノベーションをめぐる活動の中心理念である。

ESCAP、アジア開発銀行、国連開発計画が最近出した報告書『新型コロナウィルスへの対応:どの国も置き去りにしない』は、コロナ禍においてデジタル技術が果たした中心的な役割とコロナ後の社会再建において果たしうる役割を強調した。しかし、報告書は、全ての人々に安価で信頼性の高いインターネットを提供し、コロナ後の社会再建で中核的な役割を果たすデジタル経済の核心部分にアクセスできるような取り組みを各国が進めない限り、デジタル化は、国内及び国家間における経済・社会開発の格差を拡大することになりかねないことを示している。

デジタルによる社会変容は間違いなく起こるが、その方向性は定かではない。各国政府や市民社会、民間部門は、デジタル技術が経済だけではなく社会や環境にも好影響を与え、「包摂」を中心的な理念とするように、互いに協力しなくてはならない。そうして初めて、持続可能な開発目標における前進を加速させるデジタル技術の変革的なポテンシャルを発揮させる機会を得ることができるであろう。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン

冷戦後、「平和の配当」は実現されなかった。ロシアと米国という二大核兵器保有国の保有数は減少したが、削減プロセスは完全に停止してしまっている。核兵器のさらなる近代化を背景に、核兵器保有国の数は倍増し、核兵器が使用されるハードルは引き下げられ、核兵器関連支出は増加した。さらに、核不拡散体制は徐々に弱体化している。

核拡散を減少させるうえで非核兵器国ができる貢献の一つに、非核兵器地帯の創設がある。非核兵器地帯は、核不拡散と信頼醸成を構築するうえで実践的な貢献をしてきたとみなされている。非核兵器地帯の主要な要素は、(1)特定の地域における域内諸国が、核兵器の取得や、自国領域への核兵器配備を認めないこと(2)検証体制に関する合意(3)ロシア・米国・中国・フランス・英国の五大核兵器国から安全の保証を得ること、である。

非核兵器地帯を正しく定義するという問題

核不拡散条約第7条は、加盟国の集団が非核兵器地帯を創設する権利について触れている。1960年代後半に、多くの非核兵器国を含む地域的なゾーン(地帯)を創設することをNPTの交渉者たちが促進しようとしたことは理解できる。

ラテンアメリカにおける最初の非核兵器地帯創設の経験をベースとして、また、それに促される形で、国連総会は1974年、世界のその他の地域においても非核兵器地帯の創設を促進するために「あらゆる側面における非核兵器地帯の問題について包括的に研究すること」を呼びかけた。政府専門家による特別グループが結成され、1975年には報告書を出した。この研究は、そのタイトルとは裏腹に、それまでの地域的な(非核兵器)地帯のみを対象としていた。

しかしながら、研究グループは、非旧来型(従来の非核地帯に含まれない国)があり得るケースも排除すべきでないという点も認識していた。実際、地理的位置や、政治的・法的理由から、個別の国家が旧来型の(非核兵器)地帯に加盟できない、ということがある。ここで問題となるのは、そうしたケースは国際法によって規制され保護されるべきか、ということだ。もしそうでないとしたら、我々が構築しようと取り組んでいる核兵器なき世界において、多くの盲点やグレーゾーンが存在するかもしれない、ということになってしまう。

このことを念頭に、先の報告書は、非核兵器地帯創設に関連した義務は、国家の集団や、大陸あるいは広範な地理的な地帯全体だけではなく、個別の国家によっても担われるものかもしれないと指摘している。

国連総会は、この報告書を検討したうえで、決議3472Bで非核兵器地帯の定義をしている。定義の範囲に関して、総会は、この定義は「非核兵器地帯の特定の事例に関して総会が過去に採択した、あるいは今後採択するかもしれない決議をいかなる意味においても損なうものではないし、そうした決議から生じる加盟国の権利を損なうものでもない」と断っている。この問題に関する見解の相違のために、決議は賛成82・反対10・棄権36で採択されており、この定義が世界的に支持されたわけではないことを示している。

非核兵器地帯に対するこうした地域的なアプローチを基盤として、ラテンアメリカ・カリブ地域、南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸全体中央アジアの5つの地帯で旧来型の非核兵器地帯が創設された。ここには118カ国が含まれ、世界の人口の4割と国連加盟国の6割が含まれる。これは、非核兵器地帯が核不拡散に対して成した実践的な貢献である。現在、紛争のある地域や、大国が地政学的な利益を持っている地域において地域的な非核兵器地帯を創設しようという第二世代型の試みが始まっている。具体的には、中東、北東アジア、南極である。

南太平洋や東南アジア、アフリカにおける非核兵器地帯創設の進展に促されて、国連総会は1997年1月、軍縮問題に関する検討と勧告を行う補助機関である国連軍縮委員会に対して、ガイドラインの策定を通じて非核兵器地帯のさらなる創設を促進する支援を行うよう求めた。

国連軍縮委員会は1999年、それぞれの非核兵器地帯は、問題となっている地域の特殊状況の産物であり、「非核兵器地帯の発展の現在の段階において一般的に認められている知見を完全に網羅したものではない」と強調するガイドラインを策定した。すなわち、非核兵器地帯の定義の問題はより広い観点から検討すべきであることがここで示唆されたわけである。

モンゴルの経験

冷戦の間、モンゴルは2つの超大国のうちの一方(=ソ連)の同盟国であり、その政治的影響下にあった。1969年の中ソ国境紛争後、ソ連は、中国の核施設に対する先制攻撃を意図していた時期があった。米国はソ連に対して、こうした行為は第三次世界大戦の引金になるという考えを伝えた。ソ連はおそらく、米国のこうした反応を見て一歩引いたと考えられる。

ソ連と中国に挟まれたモンゴルの主な教訓は、核兵器国と同盟を組み、その基地を受け入れることは信頼醸成につながらず、基地受け入れ国を正当な軍事的標的にしてしまうということだった。この教訓と、ロシアと中国が隣接する第三国の領土を互いの攻撃のために利用しないとした合意を念頭に、モンゴルは1992年、非核兵器地帯(すなわち、一国地帯)であることを宣言し、それ以降、その地位を国際的に容認させ、保証させるための努力を払ってきた。

政治的には、五大国は、平和的な姿勢であるとしてモンゴルの動きを歓迎したが、実際のところ、一国非核兵器地帯化という考え方の支持には後ろ向きであった。モンゴルは、自らの構想への支持を得るために、1997年に国連軍縮委員会に対して、一国非核兵器地帯創設の問題について検討し、新ガイドラインを策定することを求める提案を行い、これに関する作業文書を提出した。しかし、五大国は、このようなことをすれば望ましくない前例が作られ、新たな地域的非核兵器地帯を創設するインセンティブがなくなるとして、モンゴルの構想に支持を与えなかった。五大国の後ろ向きな姿勢のために、国連軍縮委はこの問題を検討する機会を奪われた。

モンゴルの問題に関する国連総会決議について協議した際にも、五大国はモンゴルに一国非核兵器地帯化を認めることに依然として後ろ向きであった。協議の後、彼らはモンゴル独自の非核兵器地位については認めたが、「地帯」を名乗ることは認めなかった。

Map of Mongolia

モンゴルは五大国と、専門家レベルや大使レベルの二国間で、さらに、五大国をひとつの集団とした三者間の枠組みで約20年間、協議と交渉を続けた。モンゴルがこの問題を多国間条約の形で処理することはないと認めたため、五大国は2012年、モンゴルの非核兵器地位を尊重し、それに違反する行為を慎むことを、モンゴルに対して、そして実際上はお互いに対して約束した共同声明に署名した。モンゴルの懸念に対処した重要なステップであったが、五大国は依然として、モンゴルを非核兵器「地帯」と認めることを拒絶した。

国連安保理の常任理事国である五大国は、国連憲章によって国際の平和と安全を維持する主たる責任を与えられている。その五大国に対して、国際の信頼と平和につながるような一国(非核)地帯を創設することと、核の盲点やグレーゾーンに核関連施設を設置することを認めてさらなる不信感を生むことのいずれか重要なのか選択を迫ることは、意味のあることだ。そしてその答えは明らかである。

一国非核兵器地帯のより広範な意義

一国(非核)地帯は、モンゴルにのみ関連した現象ではない。例えば、ネパールやアフガニスタンにこういった(非核)地帯を創設することもできる。従って、インドとパキスタンが1998年に事実上の核兵器国となった際、南アジアの一部の国がこの問題に関心を示したのである。たとえば、関連した問題を扱うために、11条から成る法案がバングラデシュ国会に提出された。スリランカでも、少なくとも学会でこの概念への関心が高まった。2016年、アイスランド議会は、同国とその排他的経済水域を非核兵器地帯と宣言した。核兵器禁止条約の発効に伴って、軍事・政治的同盟を組んでいる一部の締約国が、似たような状況にある国の動向に刺激されて、平時に核兵器の配備を認めることを違法化する決定を行うかもしれない。

国際法の欠陥は正さねばならない

一国非核兵器地帯化の承認を拒絶する五大国の姿勢は、国際法の発展に欠陥を生んでいる。こうした抜け穴が現実にもたらす法的効果について真剣に検討しなければならない。というのも、地域的な(非核)地帯がいかに有効であろうとも、結局のところ、核兵器なき世界は、その最も脆弱な部分と同程度しか機能しないからだ。非核兵器地帯でその99%が覆われている南半球の領域においてすら、実際のところそうなのである。

TPNW Treaty
TPNW Treaty

こうして、西太平洋においては、地域的(非核兵器)地帯の加盟国ではない小規模な島嶼国と、周囲に広い海洋空間を抱える非自治領域を、非核兵器世界の構築から排除すべきではない。南半球の他の領域に関しても同じことがいえる。

軍拡競争の激化に伴って、核保有国が、非核兵器国や非自治領域の領域を利用して、実際の核兵器とまではいかないにしても、監視や追跡、(ミサイルなどの)誘導やサイバー干渉のための装置や指揮管制システムの一部などを設置する誘惑をもつ可能性が排除できない。そうすることによって、時間と空間が、決定的とまでは言えないにしても、重要な軍事的要素になりつつある時代において、政治・軍事的なアドバンテージを取ろうとするのである。従って、五大国が、核兵器支援関連活動において非核兵器国を巻き込まないとする共同声明(より穏和な保証の形)を発する必要がある。

非核兵器地帯に関する新たな研究の必要性

上記で触れた状況は、非核兵器地帯の本質的な一部としての一国非核兵器地帯を承認する重要性を裏付けている。一国非核兵器地帯は、脆弱な部分となるのではなく、非核兵器地帯の可能性を限界まで押し広げるのである。

モンゴルは、2013年9月の「核軍縮に関するハイレベル会合」において、第二世代の非核兵器地帯に関する協議を行うのに有益だと考えられる、この40年間の国家慣行や豊かな経験、教訓を実践的に活用することによって、非核兵器地帯をあらゆる側面から再度包括的に研究することを提案した。この研究は、非核兵器地帯条約の基本枠組みにおいて、五大国が無条件で安全保証を与えるという問題について検討するものでなくてはならない。

この研究では、将来を見据えて、一国(非核兵器)地帯創設の問題について検討すべきだ。また、地域的な非核兵器地帯の加盟国でない非核兵器国に対して、国際法的に拘束力のある形ですべての非核兵器国に対する消極的安全保障が交渉され、合意されるまでの間、上で述べたより穏和な形の保証を与える可能性を検討すべきだ。要するに、現在の非核兵器地帯の慣行を超えた思考と行動が必要であるということだ。

非核兵器地帯とモンゴルに関する会議が今年のNPT再検討会議直前に開かれるが、これは、非核兵器地帯を強化し、平和とより大きな安全という大義に向けてその機能を地理的に拡大する機会を提供するものとなるだろう。この会議は、核不拡散体制の強化に対する非核兵器地帯の実践的な貢献となるはずだ。(原文へ) 

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クーデターの指導者たちは国連演説に正当性を求めようとしたのか

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

最近のミャンマーにおける軍事クーデターやヨルダンの宮廷クーデター未遂は、かつて多くの国、とりわけアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアにおいて、軍がクーデターで政権を掌握した時代を彷彿とさせるものだった。

少なくとも一人の政治指導者(タイ王国首相)が、国連総会に出席中に政権の座を追われた。演説を終えた首相は、突然ホームレスで帰る祖国がなくなり、とある中東の国に亡命申請することになった。

この中東の国はそれまでにも国を追われた政治指導者らを数人受け入れてきた実績があることから、ある新聞社は、その国の空港ターミナルの到着ラウンジには、「VIP及び追放された世界の政治指導者専用」を書かれたエクスプレスレーンがあると揶揄する漫画を掲載したものだ。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

また、国連会期中に一国の首相が追放される事態を目のあたりにしたある政府関係者は、国連を訪れるすべての政治指導者に皮肉を込めて、国連訪問中に本国でのクーデターを防ぐためにも、「国連代表団にはもれなく自国の陸海空の長官も加えるべきだ」とアドバイスする一幕さえあった。

残念ながら、軍事クーデターには、多くの人命損失が伴うものだ。ミャンマーの国連カントリーチームは、「2月1日の軍事クーデター以来、引き続き人命が失われていることに深い懸念を抱いている。」先週時点で、拘留中の人々も含めて少なくとも224人が治安部隊により殺害されたとされている。しかし、国連人権高等弁務官事務所によると、女性や子供も含む数百人が重軽傷を負っていることから、実際の犠牲者の数は250人を上回っているとみられている。

ミャンマー以外では、今年2月に、ハイチとアルメニアで2つの無血クーデター未遂が発生している。いずれも支持が広がらず政権転覆には至らなかった。

最近出版された国連に関する本に、歴代国連事務総長のなかで唯一コフィ・アナン(1997~2006)氏が国連総会に対して、非民主的な手段や軍事クーデターで政権をとった政治指導者を国連総会で演説させないよう強く働きかけたエピソードが詳述されている。

ある国連高官が言うように「軍事指導者らは国連総会で演説することで自らの正当性を求めているのだろうか。」

2004年にアフリカ連合の前身にあたるアフリカ統一機構(OAU)がクーデターの指導者をアフリカ首脳会議に出席させない方針を発表した時、アナン事務総長はこの決断を世界各国の軍事独裁者を罰する未来のモデルケースとして評価した。そして、この考えを一歩進めて、国連の最高決定機関である国連総会がOAUの決定を良き前例として、軍事政権の指導者に総会で演説することをいつの日か禁止するようになることを望むと語った。

アナン事務総長の提案は史上初のものだったが、事務総長ではなく加盟国が支配する国連で採用されることはなかった。しかしアナン氏のこうした動きにより、国連に駐在する外交官らは、いつの日か自らが軍事指導者が率いる本国を代表することになりはしないかという思いに苛まれることになった。

Joint Special Envoy Kofi Annan spoke with the media at the United Nations Office at Geneva following the June 30, 2012 Meeting of the Action Group for Syria./ By US Mission in Geneva -, Public Domain

ガーナ人で歯に衣を着せないアナン事務総長はまた、「道路や医療体制が崩壊しつつあり、子どもたちが通う学校には本も机も教師もいない、そして電話も通じないような状況でも、数兆ドルもの公的資金が一部のアフリカの政治指導者らによって隠匿されている。」と語った。また、民主的に選出された政権を軍事力で転覆させたアフリカの政治指導者らを激しく非難した。

言うまでもないことだが、国連は「慈悲深い独裁者」と「無慈悲な独裁者」の区別をしない。しかし、日頃複数政党制民主主義と自由選挙を説き勧めている国際機関として、国連は今でも、国連総会の期間中は軍事指導者に対しても接待し、議場で発言することを許可している。

パレスチナ解放機構の指導者ヤ―セル・アラファトは国連で演説をしたが、イラクのサダム・フセインやシリアのハフェズ・アルアサドやバシャール・アルアサド親子、北朝鮮の金日成や孫の金正恩といった最も論争の的になっている独裁的な指導者らは、国連で演説するには至っていない。

スーダンの前大統領オマル・ハサン・アル=バシールが戦争犯罪で起訴されたとき、米国にビザを拒否され2013年9月の国連総会ハイレベル会合に出席できなかったことがあった。当時の国連スーダン政府代表部は国連法務部に対して、「民主的に選ばれた大統領が、国連―米国間の合意に違反して米国がビザの発行を拒否したために国連総会に出席する機会を奪われた。」と申し立てた。

一方、国連総会で演説した軍事指導者の中には、キューバのフィデル・カストロ、リビアのムアンマル・アル・カダフィ大佐、マリのアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ(1991年のクーデターで政権を掌握したが後に大統領に選出された)、ガーナのジェリー・ローリングス(1979年のクーデターで政権を掌握し前政権の首脳を処刑したが、後に民主的な選挙で民間の大統領として選出された)などがいる。

かつてインターナショナル・ヘラルド・トリビューンが指摘したように、ローリングスは「アフリカの元軍事指導者の中で、史上初めて、有権者に複数政党制の下で自身の後継者を選ばせた人物だった。」

Jerry John Rawlings

一方、カダフィ大佐は2009年9月に国連総会への歴史的初訪問を果たした。ロンドン・ガーディアン紙は、カダフィ大佐が一般演説を行った際の模様を「カダフィ大佐は、国連総会での15分間の持ち時間を6倍以上も上回る1時間40分にわたる演説を強行して、国連主催者側を失望させた。」と報じている。

ガーディアン紙はさらに、「カダフィは風変わりかつ残忍で極端な言動をする人物という評判のとおり、各国代表団の前で国連憲章を投げ捨てたり、国連安保理をアルカイダのようなテロリスト組織呼ばわりしたり、イラク戦争の責任を負わせるためジョージ・ブッシュ大統領やトニーブレア英首相を裁判にかけるよう呼びかけたり、アフリカの植民地に対する補償として7.7兆ドルを要求したり、豚インフルエンザ(2009年新型インフルエンザ)はワクチンを売るために軍の研究所で造られた生物学兵器だと主張したりした。」と報じた。

2020年10月、ニューヨークタイムズは少なくとも10人のアフリカの文民指導者が権力の座から降りることを拒否し、大統領任期を3期目や4期目、中には生涯権力に留まるために7期目を可能にするような憲法改正に着手した、と報じた。

こうしたアフリカの指導者にはギニア(3期目に立候補中)、コートジボワール、ウガンダ、ベニン、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、ガーナ、セイシェルの大統領が含まれる。現職の大統領が退陣するのはニジェールのみである。

タイムズ紙は、全ての軍事クーデターを非難して、ギニアビサウのウマロ・シサコ・エンバロ大統領の「3期目はクーデターと同じだ。」という言葉を引用した。

先週(4月19日)、「アフリカ最長の独裁者の一人」と称されるチャドのイドリス・デビ大統領が(反乱軍との銃撃で)急死し、息子で37歳のマハマト・イドリス・デビが新大統領に就任した。しかし、4月24日のニューヨークタイムズ紙によると、チャドの野党はこれをクーデターと非難している。なぜなら、同国の憲法によれば、現職の大統領が死亡した場合は、新たに選挙が実施されるまで国会議長が暫定大統領を務める規定になっているからだ。

Photo: Idriss Deby Itno who died on April 20. Source: Afrik.com

タイムズ紙はまた、東南アジアの一部の国々も軍事独裁体制が敷かれていると指摘している。

前回のクーデターの首班で元陸軍司令官のプラユット・チャンオチャは、現在も政治的に不安定な同国の首相の地位にある。カンボジアでは、アジア最長の与党指導者と称されるフン・センが政治王朝を打ち立てている。そしてフィリピンでは、ロドリゴ・ドゥアルテが数千に及ぶ超法規的殺人の指揮を執っている。

米国は中国の権威主義的な政権がイスラム教徒のウィグル族その他の少数民族や宗教的少数派に対してジェノサイドを行っているとする公式見解を発表した。

報道によれば、東南アジアのある国で、長期にわたって権威主義的な政権を率い、選挙操作でも知られるある大統領は、「私は投票する権利を付与すると約束はしたが、それらの投票を数えるかどうかということについては何も言っていない。」と語ったという。」

一方ロシアでは、CNNの報道によると、ウラジーミル・プーチン大統領が自身の任期を最大2期伸ばして2036年まで続投することを可能にする法改正案に署名した。

4月上旬、ソマリア議会の下院は(今年2月に任期満了を迎えている)大統領の任期を2年間延長する決議を行った。ソマリア上院はこの決定は違憲だとして、国際社会の介入を求めている。

これについてコメントを求められた国連のステファンドゥジャリク報道官は、先週記者団に対して、「私たちは最新の動向を見てきました。私が今言えることは、国連はソマリアで起こっていることに深く憂慮しており、現在、事態の推移を精査しているところです。」と語った。

またドゥジャリッチ報道官は、ミャンマー情勢について議論した最近の東南アジア諸国連合(ASEAN)の会合について、「ASEANは国際社会が望む、ミャンマーに民政を復帰させるという目標を実現するうえで、大変重要な役割を担っている。」と語った。(原文へ

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世界銀行・IMFがコロナ禍で影響を受けた国々への支援を表明

【ワシントンIDN=キャロライン・ムワンガ】

新型コロナウィルスのパンデミック(世界的な大流行)によって影響を受けた経済の立て直しを図りつつも、環境にやさしく、強靭で、包摂的な将来の基礎を築くことはできる。これは、世界銀行・国際通貨基金(IMF)グループが4月5日から11日にかけて開いたオンライン会議でのメッセージである。世銀のデイビッド・マルパス総裁が、新型コロナや気候変動、拡大する貧困や不平等、強まる不安定感や暴力など、世界が直面している大きな問題について、『経済復興:環境にやさしく、強靭で、包摂的な将来に向けて』の中で述べている。

米国のジャネット・イエレン財務長官は、世界の復興を支援し続けるよう先進国に求めた。また、開発目標に加えて、気候関連の目標に途上国が達することができるような支援の重要性を強調し、グリーンファイナンスが利用可能であるかどうかがカギを握ると述べた。

IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事もマルパス総裁、イエレン財務長官との議論に加わり、気候リスクは世界のマクロ経済と金融の安定性にとって大きな脅威になりつつあると指摘した。

David Malpass, president of the World Bank Group/ By Franz Mahr (World Bank), CC BY-SA 2.0

持続可能性やイノベーション、包摂といったテーマについて議論した他の発言者には、カンボジアやエジプトの閣僚、若者代表、企業経営者、市民社会代表などがいた。メリンダ・ゲーツ氏は、女性を復興の中心に据えるよう呼びかけ、グラミー賞を受賞した歌手のソミが「チェンジング・インスピレーション」を歌って、イベントは幕を閉じた。

世銀のマルパス総裁は、非正規労働者や社会的弱者に打撃を与えたコロナ禍の直接的な影響のなかに、不平等の問題が最もよく見て取れると語った。不平等は、新型コロナワクチンの接種や富の集中、財政刺激策や資産購入の不平等な影響、とりわけ最貧国における人々の債務者・債権者関係の不均衡に現れている。

「世銀グループは、これらの問題に対応すべく、前向きの取り組みを進める」とマルパス総裁は約束した。世銀は、コロナ禍に対応して、広範かつ迅速な行動を取り、途上国向けの100件以上の支援活動を即座に実行に移した。2020年のコミットメントは前年から65%伸びた。

世銀グループは、ワクチン開発以前からGAVIアライアンスや世界保健機構(WHO)、国際連合児童基金と緊密に協力して、100件以上の能力アセスメントを行ってきた。現在は、複数の国々に関して新型コロナワクチン供給のための融資について理事会で審査を行っている。すでに10件が承認され、4月にさらに10件、5月・6月に約30件が予定されており、総融資額は50カ国で約40億ドルとなる。

これらの国々は、COVAXアライアンスと製薬会社から新型コロナワクチンが正しく供給されるかどうかという問題を抱えている。多くの途上国が、持続不可能なレベルの債務を抱えた状態でコロナ禍に見舞われた。「世銀は、利子支払い猶予の取り組みを進め、債務契約における透明性の向上を図っている。」と、マルパス総裁は語った。

Photo: Syringes are assembled and then packaged in a facility in Spain. © UNICEF/Francis Kokoroko
Photo: Syringes are assembled and then packaged in a facility in Spain. © UNICEF/Francis Kokoroko

明らかに、双方の施策が意味を持つことになる。例えば、世銀は、人々が利用可能な資源を最大化することを視野に入れて、「債務返済猶予イニシアティブ」(DSSI)の対象国への無償資金協力や融資を増強している。

また、世銀とIMFは緊密に協力して、G20が「DSSIを超えた債務取扱いに向けた共通枠組み」を実行できるよう支援している。これは、公的債務問題への対処を狙った新たな枠組みである。マルパス総裁は、「我々はチャドへの要請を強めており、世銀は、急速に資源を配分することができるようにと望んでいる。」また、「世銀は、この2年間の気候関連金融の実績を考慮して、融資枠の大幅拡大を含む新たな気候変動行動計画を纏めつつある。気候関連と開発関連を統合したプログラムの一環として、諸国に新たに分析支援を行うことも含む。」と語った。

同計画では、適応と緩和の双方に焦点を当てて、活動の優先順位を定めていく。また、石炭利用からの適切な移行が特に強調されている。世銀はまた、気候変動に関する法的拘束力のある国際条約である「パリ協定」(2016年11月4日発効)の目的に融資の流れを合わせる取り組みも進めている。同協定は、2015年12月12日にパリで開催された第21回締約国会議(COP21)で196カ国によって採択されたもので、その目標は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満、望むべくは1.5度未満を目指すものである。

米国のイエレン財務長官は、「米国経済のより力強い成長が、世界全体の状況に対してプラスの波及効果を持つことになるだろう。『すぐに支援を取り下げるな』という金融危機の教訓を我々は慎重に学ぶことになるだろう。」と述べ、米国が国内で進めている施策が世界全体に対しても有益であることを望んでいると表明した。

イエレン財務長官はまた、「米国はすべての先進国に対して、財政政策と通貨政策を用いて、グローバル経済全体の成長に向けた世界の復興を下支えし続けるよう求めるだろう。」と強調した。

IMFのゲオルギエバ専務理事は、米経済の復活に向けて同国が取っている行動は世界全体のためになると強調した。IMFは今年の予想を立てつつあるが、それぞれの国内、及び国家間において、危険なほどに経済的な富が偏在するようになっている。

Kristalina Georgieva, Managing Director of IMF/ By World Bank Group/ Grant Ellis, CC BY-SA 4.0

「今回の会合において、誰もが公正に取り扱われるべきだと強調しているのはこのためだ。どこにおいても公正な取り扱いをすることで、このパンデミックを安全に終結まで導き、持続可能な回復の下支えとすることができよう。そしてまたこれは、脆弱な立場にある人々や国々の生活水準を向上させる機会を与える公正な取り扱いなのである。」と、ゲオルギエバ専務理事は語った。

2021年春の世銀グループ・IMF会合が終わりに近づく中、世銀総裁は、全ての利害関係者、G7、G20、世銀開発委員会が、気候や債務、ワクチン、その他の開発問題に関して強力な支援を行っていることに「非常に満足している」と語った。

世界銀行・IMF開発委員会のコミュニケは、世銀による「この2年間における気候ファイナンスの拡大、途上国における最大の多国間気候投資源としての役割、生物多様性の強調、適応・緩和・強靭化に向けた技術的・金融的支援」を称賛した。

コミュニケは、「2021~25年に向けた世銀気候変動行動計画」を見据えて、災害リスク管理や災害対策準備、災害対応におけるその活動を認識した。「我々は、今年後半に行われる、生物多様性条約第15回締約国会議国連砂漠化対処条約第15回締約国会議国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議の準備における世銀グループおよびIMFの重要な役割を支持する。」さらに「我々は、最貧国の新型コロナウィルス危機への足元の対応を支援するため、IDA 第 19次増資の資金を2023年度から2022年度に前倒しすることを支持する。また、我々は、IDA 第20次増資の 1 年前倒しを歓迎する。」と述べている。

国際開発協会(IDA)は、世界の最貧国を支援する世銀の一組織である。173の関係国が管理するIDAは、経済成長を加速し、不平等を減らし、民衆の生活水準を向上させるゼロもしくは低金利の融資(「クレジット」と呼ばれる)と無償資金協力の提供によって貧困を削減することを目的としている。

2021年12月までに合意される野心的かつ成功裏の IDA 増資は、強固な政策枠組みのもと、パンデミックの短期及び長期的な影響に対応するIDA対象国の、環境にやさしくかつ強靭で包摂的な回復を支えるであろう、とコミュニケは述べている。(原文へ

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裕福な国々よ。聞いていますか?南の発展途上国に負っている気候負債を返済すべき!

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

多くのアフリカの活動家らが、米国のジョー・バイデン大統領が40の国・地域の代表を招いて4月22日に主催した気候変動サミットに耳を傾けていた。その中に、グリーン経済連合の社会契約イニシアチブ特別顧問をつとめるクミ・ナイドゥ氏と、地球の友インターナショナルのディプティ・バートナーガー氏の姿があった。

アムネスティ・インターナショナルの事務総長とグリーンピースの事務局長を務めた経験があるナイドゥ氏は、気候危機に関して、とりわけ米国(トランプのみならずそれ以前の歴代政権)による対応の遅れにより、世界は真夜中(地球滅亡)から1分前にまで追い込まれている、と警鐘を鳴らしている。

「南の途上国が支援を求めている時、それがアジアであれ、アフリカであれ、或いは、ラテンアメリカ、中東、カリブ海地域の国であれ、チャリティーを求めているのではありません。私たちは単に、『この(気候変動の)問題の歴史、すなわち、欧州、北米その他の先進国が汚いエネルギーを梃に経済を構築してきたという事実を認めるよう。』主張しているだけなのです。」

Kumi Naidoo während der Münchener Sicherheitskonferenz 2019/ By Kuhlmann/ MSC -/CC BY 3.0 de

「私たちは是正と償いを求めているのです。そして裕福な国々に気候負債を支払うよう求めているのです。」「(先進国が)歴史的に排出してきた二酸化炭素の量など、統計が明確に示しています。」とナイドゥ氏は語った。

ディプティ・バートナーガー氏は、「米国政府は途上国がネットゼロ(エミッション)戦略を確立するのを支援する」としている新たなグローバル気候アンビションイニシアチブについて、「ネットゼロ(或いはカーボンオフセット)は、基本的に企業の戦略です。世界で最も環境を汚している企業からもネットゼロ提案がなされています。これらの企業は突然ネットゼロ目標を掲げて取り組みを活発化させました。そこで誰もが、これらの企業は何十年にも亘って気候科学を抑えつけてきたにもかかわらず、なぜ突然熱心に目標を掲げるようになったのか不思議に思うでしょう。」と語った。

「ネットゼロ戦略は、(植林活動などへの支援を通じて)再び二酸化炭素を自然界に吸収させることができると説いているため、これを口実に、企業はこれまで通りの環境を汚染する活動を継続してしまう側面もあるのです。つまり、ネットゼロ戦略は、温室効果ガス削減のためのプロジェクトに投資して二酸化炭素を隔離することで、排出分を相殺(オフセット)しようとする取組みなのです。しかし二酸化炭素を隔離するために、こうした企業は実際にどこの川や湖を使うというのでしょう。結局は南の開発途上国において人々が生活していくために利用している土地や森林が狙われ、大規模な土地収奪の対象になっています。」

「つまり自然を商品化することが次の市場となっており、私たちはこれに断固として反対しています。」と、バートナーガー氏は語った。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、国際マザーアース・デーに寄せたメッセージの中で、地球を回復させ、自然と和解する活動に尽力するよう呼びかけた。

「今年の国際マザーアース・デーは、人類が自然界を破壊し続け、私たちの地球が今、『転換点』にあるなかで迎えています。私たちは、顧みることなく地球の資源を奪い、野生生物を激減させ、空や大地や海をゴミ捨て場のように扱っています。極めて重要な生態系や食物連鎖は、崩壊寸前にまで追いやられています。」とグテーレス事務総長は語った。

「これは自殺行為です。私たちは自然との戦争を止め、自然を大切に育み、健康な状態に戻さなければなりません。」

グテーレス事務総長は、「(自然との)戦争を終わらせるには、世界の気温上昇を1.5度に抑える『大胆な気候変動対策』を講じ、生物多様性の保護のためにより強力な対策をとらなければなりません。さらに、廃棄物を削減する循環型経済の構築によって、汚染を抑制しなければなりません。」と語った。

グレーレス事務総長は、これらの対策は、私たちの「唯一の家」である地球を守り、何百万人分もの新たな雇用を創出することになる、と語った。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックからの復興は、世界をよりクリーンで、より環境に配慮した、より持続可能な道へと導くチャンスなのです。…地球を回復させ、自然と和解するという大仕事に尽力しようではありませんか。」とグテーレス事務総長は呼びかけた。(原文へ

INPS Japan

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