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|国際フォーラム|北東アジア非核化と経済開発への新たなアプローチを呼びかけ

【ウランバートルIDN=アラン・グア】

モンゴルの元国連大使で現在はNGO「ブルーバナー(青旗)」の議長を務めるジャルガルサイハン・エンクサイハン博士は、「北東アジアに非核兵器地帯を創設し、北朝鮮に対して、統合的で信頼できる『ミニ・マーシャルプラン』を提供することは、朝鮮半島のみならず東北アジア地域全体の安全保障の向上や発展にとってウィン・ウィンの関係をもたらす。」と確信している。

米国と北朝鮮の両国が、「核兵器に依存しない抑止をはじめとして、朝鮮半島における安全保障上の脅威を解決するための大胆な考え方をする必要があります。」とエンクサイハン氏は国際フォーラムで語った。

国際政策フォーラムは、グローバル平和財団、アクション・フォー・コリア・ユナイテッド(AKU)、ワンコリア財団、ブルーバナーが共催して9月30日にモンゴルの首都ウランバートルで開催された。

フォーラムでは、2つの円卓会議(分科会)が同時進行する形式で議論が進められた。ひとつは、北東アジア非核地帯を確立していく展望に関するもので、南北朝鮮と日本に対するロシア・中国・米国による安全保証、核兵器に依らない抑止、地域安全保障協力の「ポスト冷戦枠組み」の構築、北朝鮮に対する国際的な「ミニ・マーシャルプラン」の提供、北朝鮮の地域経済開発への組み込みといったテーマが話し合われた。

エンクサイハン博士は、「米国による安全の保証は信頼に足るものであり、北東アジア非核兵器地帯が法的にも政治的にも信頼できるものだと北朝鮮に確信させるうえで、ロシアと中国が安全を保証することは重要です。それはまた、非核化による戦争抑止を拘束約定とすることによって、北東アジア地域における核軍拡競争を防ぐことになるでしょう。」と語った。

Dr Enkhsaikhan addressing the forum. Credit: Alan Gua

1994年北朝鮮核危機の際に米政府の交渉団代表を務めたロバート・カルーチ元国務次官補(政治軍事問題担当)は、「もし北東アジア非核兵器地帯が追求されるならば、米国の核からの脅威に対する北朝鮮の懸念の問題と、米国が同盟上負っている義務と安全保障上の利益の問題に対処せねばなりません。」と指摘したうえで、「もしこの問題に関してなんらかの動きを起こすならば、『非核化』という用語の明確な理解や、核分裂性物質の問題、その生産施設などの問題が、適切に対処される必要があります。」と語った。

限定的な北東アジア非核兵器地帯をかつて支持していた又松(ウソン)大学のジョン・エンディコット学長は、北東アジアにおける非核地帯の概念は、「時間をかけて相互の信頼と友好を構築していくプロセスでなければなりません。」と語った。円卓会議の議論では、核保有国の「核先制不使用の公約」や(核兵器の役割を他国からの核攻撃への抑止に限定する)「唯一の目的」論について話し合われた。こうした政策に賛意を示すものもあったが、一方で、核抑止政策の効果を毀損しかねないとする意見もあった。

また、朝鮮半島の非核化に進展をもたらすには、北朝鮮に対するアプローチの大胆な変更と、北東アジア非核兵器地帯を含む信頼に足る地域安全保障メカニズムが必要だとの見解も出された。全体的な安全保障環境を改善するには、現在および将来の感染症の拡大やインフラ開発、微粒子公害、海洋汚染などの共通の非軍事的な安全保障上の問題に共同で対処することが必要だとの指摘もあった。

2つめの円卓会議では、中央統制経済から自由市場へと移行したモンゴルの事例がケーススタディとして取り上げられるなど、北東アジアにおける経済的発展の展望について議論された。またこのセッションでは、ベトナムの事例にも触れられた。ワールド・トレード・パートナーシップのジョン・ディクソン会長は、「政府や大規模な多国間の機関がゆっくりとしか動けないなら、朝鮮半島の経済的統合に関する、お互いの国にとって平和的で生産的な枠組みを可能にするような計画を予備として考えておくようにすることは必須です。」と強調した。

「グローバル平和財団」で北東アジアの平和と開発問題を研究するイエチン・リー上席研究員は、「中国は北朝鮮にとっても韓国にとっても最大の貿易相手であり、インフラや工業、観光、鉱業、サービス部門を発展させ平和的統一を実現していくことは、中国や北東アジアにおける経済成長を考えるならば、『低い位置にぶら下がっている果実』のように大きな努力をしなくても容易に解決できる目標です。」と指摘した。

韓国・中国・日本・イギリス・フィンランド・ロシア・インド・モンゴル・米国からの安全保障問題の専門家、エコノミスト、政治学者ら約35人が、朝鮮半島の74年にも及ぶ分断の終焉に貢献するという文脈の下で、2つの問題について検証した。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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米中間の力の移行、冷戦か、実戦か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメシュ・タクール

現在の米中対立を第二次冷戦と呼ぶことは、どれほど的確だろうか?世界が実戦に巻き込まれる可能性はあり得るのか?それは、どちらも勝者たりえない、全員が敗北者となる戦争である。(原文へ 

2018年10月にハドソン研究所で行ったアジェンダをリセットする演説で、マイク・ペンス米副大統領は、中国による多くの略奪的行為や攻撃的行動を数え上げた。米国を西太平洋から追い出し、同盟国を助けに来させないようにする決意で、人工島に軍事基地の列島を建設し、対艦・対空ミサイルを配備することにより、「北京は、陸海空および宇宙における米国の軍事的優位性を侵食する能力を、重点的に構築してきた」とペンスは述べた。しかし、米国は「ひるむことなく」中国の不正行為に打ち勝つと結論付けた。

ウォルター・ラッセル・ミードは、ペンスが「第二次冷戦」を宣言したと論じた。マイク・ポンペオ国務長官は2020年7月23日にカリフォルニアで行った演説で、政権の中国に対する戦略的アプローチを更新した。中国を民主主義の存続にかかわる脅威と表現したうえで、「中国共産党から我々の自由を守ることが、この時代の使命だ」と断言し、「志を同じくする国々が新たに団結し、民主主義の新たな同盟を形成するべき時だ」と述べた。ロナルド・レーガン大統領は、ソ連との軍備管理交渉における基本姿勢を「信頼せよ、されど検証せよ」という名言で示したが、ポンペオ国務長官は、中国の共産主義体制に対して「信じてはならず、検証しなければならない」と述べた。

ワシントンは、自己成就的ナラティブに注意する必要がある。核兵器管理、軍縮、不拡散に関する協定が急速に崩壊しつつあることも、核兵器使用のリスクの高まりに拍車をかけている。ドナルド・トランプ大統領の軍備管理担当特使であるマーシャル・ビリングスリー氏は、軽率にも、「我々は、このような[軍拡]競争に勝つすべを知っている。そして、敵対国を忘却の淵に沈めるすべを知っている」と主張している。これは、コロナウイルスの感染拡大、そしてロックダウン措置が米国経済に及ぼした壊滅的状況のさなかにあって、驚くほど妄想じみた発言である。

冷戦2.0という特徴付けには深刻な欠陥があり、また、不適切かつ危険な一連の政策を誘発する可能性がある。米中間の競争は、両者がお互いの政治的イデオロギー、経済モデル、世界的強国としての野心を死に追いやろうと冷たい戦闘を繰り広げる宿敵関係ではない。どちらも、相手を破壊することにイデオロギー的に傾倒しているわけではなく、二元論的争いでできるだけ多くの国を自分の側につけようとしているわけでもない。世界は、二つの厳格な国家グループに分かれて、敵グループの国とはほとんど接触しないという状況にはならない。今日、ほとんどの国は、中国と米国のどちらとも複雑に絡み合う利害関係がある。今日の米国は、勝利主義的な民主主義促進をしているわけではない。中国側も、自由民主主義が危機にさらされているとはいえ、共産主義は政治体制を構築する代替的原理としての信用を失っており、本格的な競争を仕掛けてきているわけではない。また、中国は、その経済モデルを輸出することに関心を示してもいない。

冷戦の背骨は、欧州の中央を通っていた。米中間には、これに相当する明白な地理的前線がない。米国と旧ソ連の核兵器備蓄量がおおむね同程度であったのに対し、中国が保有する核弾頭は320個で、米国の保有量のわずか5.5%である。世界規模で広がった米ソ対立とは異なり、中国は、アジア太平洋地域の外では米国の軍事力に対抗していない。しかし、ソ連の一元的国力と異なり、中国は総合国力であり、急速に戦略的足場を拡大し、地域および世界の統治機構において存在感を増している。

このことは、ソ連を最終的に崩壊させた封じ込め政策が奏功する見込みを大幅に低下させる。その一方で、超大国として浮上する中国と、超大国として現状を維持する米国との間で、戦略的断絶により生じる戦争のリスクを増加させる。冷戦という誤った表現は、北京に、米国の憎悪はもはやぬぐい切れず、米国の要求に譲歩しても意味がないという考えを植え付けるものである。今起こっていることは、新たな冷戦ではなく、現状の超大国と新興の超大国との間の昔ながらの対立と競争であり、政治術のあらゆる最新ツールが駆使されているということである。実戦は不可避ではないとはいえ、グレアム・アリソンは、<トゥキディデスの罠>により、力の移行期に軍事衝突が起こる歴史的確率は75%であると指摘する。

2世紀にわたり西洋と日本によって中国に加えられた侮辱、不正、屈辱を心理戦略的背景として、中国の正当な願望が阻止され、その権益が攻撃されるなら、激化する米中間の対立は戦争へと発展するだろう。中国にとって、地位とアイデンティティーの問題は経済的な損得計算より重要である。太平洋地域の軍事バランスは米国に大きく偏っているため、北京はワシントンに楯突くほど愚かではないだろうと米国人は思っているかもしれない。あるいは、中国は地域経済および世界経済と一体化しているため、武力紛争はあまりにもコストが大きく、検討もしないだろうと思っているかもしれない。

しかし、逆に中国の指導者たちが、ワシントンへのコストはあまりにも高いため、緊張がエスカレートして全面戦争に至る前に米国は引き下がるだろうと考えているとしたら、どうなるだろうか? 戦狼外交と陸海国境付近における強引な軍事行動を繰り返し、多くの国を巻き込む中国の姿勢は、習近平国家主席の見識への疑念を引き起こしている。かつて最高指導者であった鄧小平は、中国は注意深く、慎重に、辛抱強く好機を待てと助言したが、習近平はそれを放棄したのである。習近平国家主席は、中国の好機を見誤ったのだろうか?

 人類の歴史に流れる血の川は、そのような幾多の誤認や誤算の間を縫って、かつての大国を忘却に沈める海へと注ぐのである。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)理事を務める。元国際連合事務次長補、元APLN共同議長。

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新型コロナで消費者の購買行動のデジタル化が加速していることが明らかに

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルーア】

「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な流行(パンデミック)はデジタル社会への加速を強めました。私たちが今日起こしている変化は、今後経済が回復しても継続していくでしょう。オンラインショッピングの広まりは、世界がパンデミックから回復するにつれデジタル化のチャンスがさらに拡大することを意味しており、あらゆる国がこの機会を活かせるよう対策を急がねばなりません。」と、ムキサ・キトゥイ国連貿易開発会議(UNCTAD)事務局長は語った。

キトゥイ事務局長の発言は、COVID-19のパンデミックがeコマースやデジタルソリューションの活用について消費者の行動にどのような変化をもたらしたかを調べた「新型コロナ感染症(COVID-19)とeコマース」と題した調査結果に基づくものである。調査国は先進国と新興国を含む9カ国(ブラジル、中国、ドイツ、イタリア、韓国、ロシア、南アフリカ共和国、スイス、トルコ)であった。

Official portrait of Mukhisa Kitutyi, Secretary-General of UNCTAD. 13 July 2018. UN Photo / Jean-Marc Ferré

パンデミックにより調査回答者(3700名)の半数以上がオンラインで以前よりも頻繁にショッピングしていると答え、ニュース、健康関連情報、そしてデジタルエンターテインメントもオンラインが多いと回答していた。またこの調査によると、とりわけ新興国の消費者が、店舗購入からオンラインショッピングへの転換を最も劇的に遂げていた。

UNCTAD、ネットコムスイスコマースアソシエーション、ブラジリアンネットワークインフォメーションセンター、インベオンが共同実施したこの消費者調査によると、ほとんどのカテゴリーにおいてオンラインによる購入が6%から10%増加している。

最も伸びているのはICT /エレクトロニクス、ガーデニング/DIY、医薬品、教育、家具/家庭用品、化粧品/パーソナルケア用品である。しかし、買い物客一人当たりの月毎のオンライン支出額は大幅に減少している。新興国、先進国共に高額支出は抑えられ、新興国では生活必需品がよく売れている。

観光、旅行関連部門が最も打撃を受け、オンラインショッピングの平均支出額は75%減となっている。

「ブラジルではパンデミックの間、より多くのインターネットユーザーが食料品や飲み物、化粧品、薬といった必需品を購入するなど、消費者の傾向が大きく変わりました。」と、調査に参加したブラジリアンネットワークインフォメーションセンターのアレクサンドラ・バルボサ氏は語った。

COVID-19 and E-commerce”/ UNCTAD

パンデミックによるオンラインショッピングの増加は国によって違いが見られる。中国、トルコが非常に強い伸びを示している一方で、既にeコマースが普及しているスイス、ドイツでは緩やかな伸びとなっている。

また女性や高等教育を受けている人は他のグループよりもオンライン購入が増加している。年齢では25歳から45歳が若い世代よりも増加している。ブラジルの場合、社会的に最も弱い立場にいる人々や女性の間で増加している。

また、調査を行った9カ国の中で、小規模な小売業者がeコマースで商品を売る態勢が最も整っていたのが中国で、最も整っていなかったのが南アフリカ共和国だった。

調査に参加したインベオンの創業者でCEOのヨミ・カストロ氏は、「ビジネス戦略の中心にeコマースを置いている企業はポストコロナ時代に向けた準備ができています。動きの速い日用品や医薬品を扱う店舗利用が多い企業には膨大なチャンスがあります。」と語った。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

「コロナ後の世界はeコマースの類を見ない成長が、国内、海外の小売業の枠組みを混乱させるだろう。従って政策担当者らは、中小企業のデジタル化を促進する具体的な政策を採用し、専門技術を身に着けた人材を育成し、海外のeコマース投資家の関心を引き付けるようにしなくてはなりません。」と、ネットコムスイスコマースアソシエーションのカルロ・テレーニ氏は語った。

デジタルの巨人がより強くなる

調査によると、Covid-19拡大後に最も使われた通信プラットフォームは、いずれもフェイスブック社が所有しているワッツアップインスタグラムフェイスブックメッセンジャーであった。また、テレワーク需要拡大により、ズームマイクロソフトも恩恵を受けたと報告した。

一方、ズーム、マイクロソフトチームスは職場でのビデオアプリで最も拡大している。中国では、ウィーチャットディントーク、テンセントカンファレンスが、トップのコミュニケーションプラットフォームとなっている。

今回の消費者調査で明らかになったオンライン上の変化は、COVID-19のパンデミックが終息した後も続いていく見込みだ。多くの回答者、特に中国、トルコでは必需品を中心にオンラインショッピングを続けると答えている。また海外のツーリズムの影響が継続すると予想し、回答者は地元での旅行を継続すると答えている。(原文へ)|

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ロシア、中央アフリカ共和国に参入する

【モスクワIDN=ケスター・ケン・クロメガー】

中央アフリカ共和国(ダイヤモンドなど鉱物資源に恵まれる一方で2013年から続く内戦で国民の半数が人道支援を必要としている世界最貧国)との関係強化に動くロシアの動向を取材した記事。同国では、2019年2月6日に政府と武装グループの間で和平協定における最終合意が調印され、国連の支援の下、大統領選挙及び国民議会議員選挙(12/27)の準備が進められている。(原文へFBポスト

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【ナディール・アリ・ワニ】

中国の国内少数民族に対する教育政策(固有言語に代わって公用語である北京語の使用を強化している)を巡る諸議論に焦点をあてたナディール・アリ・ワニ氏による視点。中国は、昨年発表した白書「Seeking Happiness for People: 70 Years of Progress on Human Rights in China」で、国内の少数民族の言葉の使用と発展の自由を保障しているとしているが、人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、少数民族のアイデンティティーを消し去り漢民族への同化(Hanization)政策を推し進めているとして批判を強めている。(原文へFBポスト

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ウクライナ騒乱(2014年)とナゴルノ・カラバフ紛争(2020年)で、対照的な対応を見せた米国とEUの外交姿勢から浮き彫りとなた2重基準(ダブルスタンダード)について解説したジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。ウクライナ騒乱では、オバマ政権(当時の担当はバイデン副大統領)は、民主的とは言えない親欧米勢力に対して武器支援を含む積極的な介入を行ったのに対して、アルメニアに対しては、非暴力の民主化要求デモが暴力的に鎮圧されても無視し続けた。アルメニアとアゼルバイジャンが軍事衝突したナゴルノ・カラバフ紛争に際しては、ウクライナ騒乱の際とは対照的に、米国はほとんど関心を示さず、ロシアに調停・平和維持軍の派兵を任せた。著者は、ユーラシア地域における米国の介入基準は、民主主義を支援するという大義名分をよそに、現実には対ロシア包囲網に資する否かが重要なポイントとなっていると分析している。(原文へFBポスト

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核兵器禁止条約の軍縮プロセスに核保有国を取り込むために

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トマス・E・シア】

近いうち、おそらく年末までに、核兵器禁止条約(TPNW)の署名国84カ国(現時点)のうち50カ国が批准手続きを完了し、TPNWが発効するだろう。現在核兵器を保有する9カ国はいずれも条約への前向きな関心を示しておらず、核軍縮のプロセスに着手しようとする国際社会のあらゆる努力を、責任を問われることなく拒絶し続けている。TPNWが発効すれば、この条約は、9カ国の核保有国(中国、フランス、インド、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、ロシア、英国、米国)を含む国際社会全体に対して、全面的な核兵器廃絶に向けた前進を奨励し、講じられたすべての措置を検証し、不正行為を検出し、平和と安定の進展を称賛するための法的枠組みを初めて既成事実として提示するものとなる。(原文へ 

おそらくTPNW締約国が直面する最も重要な決定は、TPNWの検証システムを確立することである。そのためには、その対象範囲や制度的業務を決定しなければならない。そして、核保有国は各の核兵器備蓄と核兵器支援設備を廃絶し、あるいはそれらの設備の一部を平和利用のために不可逆的に転換し、また、既存の兵器を後で使うために隠したり、新たな兵器を製造したりしないようにするための方法や手順を決定しなければならない。条約締約国が選択を行い、それによってTPNWの運用方法を決定する一方で、核保有国は、この条約を拒絶し続けるべきか、もしかしたら自国にとって取り組みやすい代替案を提示するべきか、あるいはTPNWに参加した方が実際には自国の利益にかなうと考えるべきか否かを再考することとなるだろう。

今後は国連総会、核兵器不拡散条約(NPT)、IAEA総会、包括的核実験禁止条約機関準備委員会など、あらゆる場において、TPNW締約国が手を緩めることなく外交圧力をかけ、核保有国が拒絶し続けることを居心地悪くさせることを期待するべきである。

核インシデントの性質と近接性にもよるが、核戦争、核兵器の不正使用、1個以上の核兵器の爆発につながる妨害破壊行為、テロリストによる1個以上の核兵器の盗取または国家もしくは準国家組織への不正売却、そして世界の核兵器に対するあまりにも長期にわたる国際的容認によって示される事実上の奨励が壊滅的な結末をもたらす場合、すべての国がそれを防ぐ力を持たない犠牲者として苦しむであろう。 TPNWがこれらのリスクにどのように取り組むかによって、TPNWの成功が左右される。

条約締約国は、TPNWの成功はすべての国の既得利益を守るものであり、核による破滅的状況を回避するという膨大な道徳的、倫理的、法的義務をすべての国が負うことを、核保有国が正しく認識するよう支援する必要がある。核保有国は、TPNWにおいて求められているステップをひとつずつ開始するべきであり、TPNWの成功に欠かせない能力を構築するために人材と資源を提供するべきである。

NPTが核不拡散体制の基礎であるのと同様、TPNWは、今後の国際的核軍縮体制を支えるものとなる。TPNWの検証システムに、敵対する核保有国間の個別の核兵器削減合意を織り込み、核兵器がもたらすリスクを管理するために上記の信頼醸成措置を包含することができるなら、TPNWの下でさらに大きな前進を遂げることができるだろう。

9カ国の核保有国が核兵器を保有しているという共通項を持っているのは確かだが、これらの国々は根本的に異なっている。個々の核保有国に合わせた検証システムを策定することが必要である。ただし、9つの異なるアプローチではなく、それぞれ3カ国からなる2つのグループを設けるべきである。第1のグループは、ロシア、米国、中国、第2のグループは中国、インド、パキスタンとするべきである。残りの核保有国であるフランス、イスラエル、北朝鮮、英国は、個別に対応するべきである。なぜなら、これら4カ国は他の保有国に支配的な影響を及ぼしていないため、個別の進捗状況を他の保有国と連動させると複雑性が増し、さらなる遅れが生じるからである。

核保有国のうち最初に条約に参加した国に対しては、特別な名誉と称賛が与えられるべきである。アメリカ人であり、アイルランド系であり、楽観主義者である筆者は、ジョー・バイデンが2021年1月20日に次期合衆国大統領に就任することを期待する。また、彼の最優先政策のリストに、NPT再検討会議の準備として米国の核不拡散および核軍縮関連政策の全面的な見直しが含まれていることを期待する。再検討会議は2020年に予定されていたが、新型コロナ感染拡大のために延期された。あるいは、ロシアのためかもしれない。

各の核保有国は、自国の国家安全保障が危険にさらされることはないと確信し、自国の行動が、敵対する核保有国、ひいてはすべての核保有国による同様の行動を促すきっかけとなると確信したなら、措置を講じるはずだと私は信じている。

元米国上院議員サム・ナンの言葉を引用するなら、「私にしてみれば、どちらがよりナイーブか、質問してほしいところだ。核兵器のない世界か、それを目指して一歩一歩進むことか、人々に希望を与え、ビジョンを与え、この長期的目標に向かってともに努力するチャンスを与えることか? 何がナイーブだって? それがナイーブなのか? それとも、核のトラの尾を踏みつけたままでいられると信じるべきなのか? ほかの8カ国も一緒になって尾を踏みつけて、とんでもない大惨事を避けられると? 歴史が教えてくれるだろう」

トマス・E・シア博士は、現在、米国科学者連盟の非常勤シニアフェローを務めている。シア博士は、24年間にわたってIAEAの保障措置部門に勤務し、ロシアと米国の核兵器計画で放出された核分裂性物質の分類をIAEAが検証することの実行可能性を検討する6年間に及ぶ三者イニシアティブの下で、IAEAの努力を率いた。

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次期米国大統領が北朝鮮に対して取りうる実際的アプローチ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョセフ・ユン/フランク・オウム】

3年にわたり北朝鮮に対して一貫性のないアプローチを続けた揚げ句、トランプ政権は、核の脅威の低減や朝鮮半島における平和と安全保障の強化をほとんど進展させなかった。現在、北朝鮮は相変わらずウランを濃縮し、ミサイル攻撃力を高め、2018年に講じられた南北朝鮮融和策を覆している。次期米国大統領は、このような憂慮すべき状況に対処しなければならない。(原文へ 

米国政府は、過去のアプローチの失敗から正しい教訓を学ぶべきである。近い将来の非核化というドン・キホーテ的な夢に立脚した過激な政策を捨てるべきである。そのかわり、次期大統領は長期的な非核化と並行して平和と安定性を優先し、相互的かつ均衡的な対策を講じて、現実的な短期的成果と安全保障上の具体的見返りを求め、地域のパートナーから支援を得る、より実際的かつ積極的な外交を追求するべきである。そうしなければ、北朝鮮はいっそう挑発的な行動に出るようになり、近隣諸国だけでなく米国本土にも脅威となるだろう。

圧力だけでは十分ではない。

これまで、米国が北朝鮮を非核化するための実用的理論は、核兵器か国家の存続かの二者択一を迫ることだった。金正恩(キム・ジョンウン)の選択肢をより明確にするため、オバマ政権は国際社会に協力を求めて、世界的圧力キャンペーンを行った。その後トランプ政権は、圧力キャンペーンを強化した。トランプ大統領は、北朝鮮が脅しを続けるなら「炎と怒り」に直面するだろうと断言し、もし攻撃を受けたら米国は北朝鮮を「完全に破壊」すると警告した。

しかし、北朝鮮を説得して非核化させるには程遠く、圧力アプローチは、確実な核抑止力の追求に拍車をかけただけのように思われる。キム(金)はミサイル実験と核実験にいっそう力を入れ、2017年にはついに、250キロトンの核爆弾と米国本土全体を射程に入れることができる長距離弾道ミサイルの実験に成功した。というのも、制裁は、多大な犠牲を払わせるにもかかわらず、政治体制の行動を変化させるにはほとんど効果がないからである。特に、敵の攻撃を抑止するために、圧力には圧力で対応しなければならないと信じている政治体制の場合はなおさらである。

北朝鮮体制は、制裁逃れ、銀行や暗号通貨取引所からのサイバー窃盗、人民に対する完全支配、多くの第三国、特に中国とロシアによる制裁実施の緩さによって、世界的圧力キャンペーンにも持ちこたえることができた。結局のところ、圧力のみを前提とした理論は、対象となる体制がそれに逆らうような反応をし、回避する方法を積極的に模索すると、大きな犠牲と人民の苦しみをいとわない結果を招き、また、実効的な圧力をかけることを好まない、またはそれができない第三国から援助を受ければ、役に立たないのである。

何が効果的か?

持続的な成果を達成するためには、米国の政策は範囲を大幅に広げ、より現実的かつ実際的な対策を盛り込む必要がある。最近発表した報告書「朝鮮半島における平和体制」( “A Peace Regime for the Korean Peninsula”)において、我々は、米国平和研究所の同僚とともにこれらの問題の多くを検討した。

非核化と並行して、平和を優先する。

2018年6月のシンガポール宣言において、キムは、「完全な非核化に向けて取り組むこと」を自分が約束するのであれば、米国は「新たな米国―DPRK関係」を確立し、「朝鮮半島における長期的かつ安定的な平和体制」を構築することを約束しなければならないと主張した。現在交渉は膠着状態であるものの、北朝鮮はシンガポール宣言を明確に放棄していない。そこが他の過去の合意と違う点である。現実的かつ論理的なアプローチは、平和と非核化を並行して追求することである。六者会合参加国の大部分、すなわち、韓国、北朝鮮、中国、ロシアは、この枠組みを速やかに承認するだろう。

相互性と均衡性を確保する。

平和と非核化を並行して交渉するには、両サイドの利益を考慮した、相互的、均衡的、同時的な譲歩の交換が必要である。バランスの取れたアプローチとは、非核化措置と並行して、制裁緩和、外交正常化、朝鮮半島における米国の軍事活動の縮小といった、北朝鮮が望むことに取り組むことである。

現実的な、短期で得られる安全保障上の見返りを強調しつつ、長期的な非核化交渉に取り組む。

北朝鮮は、その歴史において唯一注目に値する成功をもたらした“宝刀”を簡単に放棄するはずがない。短中期的未来における完全な非核化は夢物語ではあるが、北朝鮮の核・ミサイル活動を凍結させる暫定的な取引の実現と検証はおおむね可能であり、それはただちに安全保障上の見返りをもたらすというのが、こんにち多くの専門家が認識するところである。つまり、米国は北朝鮮の非核化に向けた段階的アプローチを追求するべきであり、そのためには長年にわたる交渉、度重なる後退、そして持続的な信頼醸成措置が必要であるという現実を受け入れるべきである。

地域パートナーからの主体的参加を強める。

平和と非核化に向けた真摯な努力には、米朝と並んで朝鮮戦争の主要交戦国であった中国と韓国の参加が必要である。米国は、中国および韓国との連携なくして朝鮮半島の平和と安全保障を推進する持続可能な枠組みを創出することはできないだろう。また、適切な時期に日本とロシアの関与も取り付けるべきである。

北朝鮮は、米国大統領選を非常に注意深く見守るだろう。勝者がドナルド・トランプであれジョー・バイデンであれ、北朝鮮政府は、レバレッジを創出して有利な条件で駆け引きを始められるよう、意図的に危機を作り出すことによって相手を試そうとする可能性が高い。そうさせないよう、次期米国大統領は、平和と非核化の両面から北朝鮮政府と協議し、中国および韓国との対話を開始する準備があることを示唆することにより、素早く主導権を握るべきである。そうすることにより、朝鮮半島の平和と安全保障を実現する新たな枠組みの構築に向けた、実際的な道筋を敷くことができるだろう。

ジョセフ・ユン大使は、米国平和研究所でアジアプログラムのシニアアドバイザーを務めている。フランク・オウムは、米国平和研究所で北朝鮮のシニアエキスパートを務めている。本稿で表明された見解は、あくまでも執筆者の見解であり、彼らが関係するいかなる機関の立場を必ずしも反映するものではない。本稿は、最初に「原子力科学者会報」において、より長文で発表されたものである。:
https://thebulletin.org/2020/10/a-practical-approach-to-north-korea-for-the-next-us-president

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

冷戦時代の兵器統制構造は、もはやその目的を満たすものではない。現代の地政学情勢において、核の二国間対立は核の鎖となった。現行の核兵器管理体制は、軍縮とは二国間の妥協的取引によって成し遂げられるものであり、その両国の存続こそが安定した戦略的二大国体制に依存しているという概念に基づいて構築されている。しかし、ますます多極化する世界秩序において、そのような体制では他の核兵器保有国の選択を制御することも抑制することもできない。(原文へ 

中国―インド―パキスタンの関係を取り巻く戦略地政学的環境が、その適例である。この核の三つ巴関係は、互いに接する国境、重大な領土問題、1947年よりたび重なる戦争の歴史という点で、冷戦時代にも他に類を見ない。3カ国のうち中国のみが、1968年の核兵器不拡散条約(NPT)加盟国であり、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名国である。中国はCTBTをまだ批准しておらず、また、インドとパキスタンはNPTとCTBTのどちらにも署名することを拒否しており、世界の核秩序の基礎をなす条約でもこれらの国の核政策を制御できないことを明確にしている。したがって、これらの国の核兵器、核ドクトリン、核態勢を抑制するために別のメカニズムが必要である。

数十年にわたり、北大西洋地域における実質的な核の二極体制が続いた後、我々は現在、はるかに複雑な時代に直面している。いまやインド太平洋地域にも同等の注意が向けられ、複数の均衡が求められ、能力レベルの大きな差は必然的に戦略的奇襲の可能性をはらんでいる。サイバー戦争、宇宙におけるデュアルユースシステム、人工知能を用いた自律型兵器といった新技術は、力関係に新たな不安定性をもたらしている。このような増大するリスクは、インド太平洋地域において、目的にかなった核規制体制を早急に制度化する必要があることを示している。

「原子力科学者会報」に掲載された論文において、マンプリート・セティ(Manpreet Sethi)氏と私は、中国とインドの核兵器先制不使用政策および態勢が、6月の激しい衝突とその後の緊迫した軍事的にらみ合いの只中でさえ、戦略的安定性にいかに寄与したかについては、世界の他の核兵器保有国も広く見習うべきであり、より広範な国際研究に値すると論じた。この論文で私は、戸田記念国際平和研究所の最近の政策提言を引用しつつ、インド太平洋地域もまた、北大西洋地域で形成された二つのメカニズムが、地域の核の鎖にとってどのような意味を持ちうるかを検討すべきことを論じる。

オープンスカイズ条約(領空開放条約)

5月21日、米国は1992年オープンスカイズ条約から脱退した。この条約は、1955年にドワイト・D・アイゼンハワー大統領が行った大胆な提案に端を発する。当時ソ連政府はそれを拒絶したが、冷戦終期、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、1990年の欧州通常戦力条約に基づく戦力の制限を検証するために有効な方法としてこれを再提案した。ソ連崩壊後のロシア政府はこれを受け入れ、オープンスカイズ条約は1992年3月24日に調印され、2002年1月1日に発効した。条約加盟国は2020年までに35カ国に達した。

同条約は、これまでに約1,500件のミッションを承認しており、そのうち500件以上がロシア上空での飛行である。ロシアは、上空を最も多く通過され、最も監視されている国である。飛行は直前の通知によって実施され、主要な軍備と欧州域内での経路を証明する写真が提出される。上空通過については、回数、状況、タイミング、そして監視設備の技術的能力が厳重に監視される。オープンスカイズ条約は、信頼醸成およびリスク低減への政治的取り組みを象徴するとともに、実際的な貢献を行うものであり、飛行のたびに奇襲攻撃への懸念が軽減される。

また、印パ間と中印間でそれぞれ相互拘束的な二国間協定を締結する、あるいは、3カ国すべての間で三国間協定を締結することも考えられる。アルナーチャル・プラデーシュからアクサイチン、ラダック、カシミールを経てアラビア海に抜けるふたつの実効支配線の周辺を上空から査察することは、境界の維持、侵犯の検知、侵入の防止に役立つといえる。2020年春および初夏にガルワン渓谷で発生した事案のように、国防侵犯を早期に検知することで、核兵器による軍事対応の敷居が高くなり、外交的解決に向けて先手を打ちやすくなる。

海上事故防止協定

米露の戦略的対立関係において、潜水艦搭載核兵器は生存性を高め、先制攻撃成功の可能性を低減することによって、安定性を確かなものにしている。それとは対照的に、インド太平洋地域において、潜水艦搭載核兵器によって継続的な海上抑止力を達成しようとする競争は、不安定化をもたらすおそれがある。なぜなら、インド太平洋地域の強国は、十分に練られた作戦構想、堅牢で冗長性を備えた指揮統制体系、航行中の潜水艦の安全な通信を欠いているからである。

1960年代後半、米ソ海軍の間で船舶と航空機が関与する接近事故が数回発生しており、状況がエスカレートして制御不可能になるおそれもあった。このようなリスクを低減するため、1972年5月25日に海上事故防止協定が締結された。同協定は特に、衝突の防止、混雑海域での機動回避、監視対象艦船の挑発や危険を誘発しない安全な距離を維持した監視活動、潜水艦が付近で演習を行っている場合の船舶への通知、相手方の航空機または船舶に対して模擬攻撃を行わない措置を、両サイドに求めている。

他の信頼醸成措置と同様、この協定も、両海軍の規模、兵器、戦力構成に直接影響を与えるものではない。むしろ、機能的な海軍間プロセスによって、相互の軍事活動に関する知識と理解が深まり、事故、誤算、コミュニケーション不足による紛争の可能性が低くなり、平時においても危機においても安定性が強化されるのである。協定の個別の規定ではなく、このような一般原則が、中印パ関係において同様の協定を策定しようとするときに重要な検討事項となるだろう。

核規制体制の制度化

地政学的緊張が高まる中で緊迫する国際安全保障環境、一部の核保有国首脳の無責任な発言、北朝鮮やおそらくイランのような国家への核兵器拡散、最新の核ドクトリンで想定されるこれらの国の役割拡大、新技術の出現、崩壊しつつある軍備管理構造はいずれも、偶発的または意図的な核兵器使用のリスクを増大させている。インド太平洋地域では、軍備管理協定がなく、実際的な信頼醸成措置の歴史もないため、リスクはとりわけ深刻である。

軍備管理措置は、政治的雰囲気が良好であれば容易に開始できるが、政治的雰囲気が緊迫しているほど、それらの必要性がより重大になる。核軍縮は、それが目標としてどれほど望ましくても、また、論理的に正しいことがどれほど明白であっても、依然として見通しのきく範囲の先にある。その一方で、偶発的、非承認、あるいは閾値超過による武力衝突がアジア・世界の核兵器発射という事態を招くリスクが増大しており、それに対する追加的な安全措置の制度化が緊急に必要である。本稿で提案したように、信頼醸成措置とリスク低減措置を制度化し、核規制体制を実践することによって、グローバルレベルでもインド太平洋地域でも、危機時および軍拡競争時の安定化措置を強化することができるだろう。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)理事を務める。元国際連合事務次長補、元APLN共同議長。

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タウキエイ・キタラ

2020年10月19日、太平洋諸島出身の鋭い知性を持つ有識者たちがフォーラムに登壇し、母国での生活や気候変動の影響と戦う日々について、幅広い豊かな経験を人々に伝える。スピーカーのうち2名は元国家首脳で、元ツバル首相のエネレ・ソポアガ(Enele Sopoaga)閣下と元キリバス大統領のアノテ・トン(Anote Tong)閣下である。太平洋諸島フォーラム事務局気候変動アドバイザーのエクスレー・タロイブリ(Exsley Taloiburi)氏、気候変動活動家であり詩人であるマーシャル諸島出身のキャシー・ジェトニル=キジナー(Kathy Jetnil-Kijiner)氏も討論に参加する。10月19日のオンラインフォーラムは、気候変動と主権を議題とするオンラインフォーラム・シリーズの第1回となる。狙いは、島ならではの知識と経験に脚光を当てることである。それは、太平洋諸島における主権のあり方がなぜ独特であるか、また、長年受け継がれてきたヴェストファーレン的主権概念(我々は、これを脱植民地化する必要がある概念とみなし始めている)となぜ異なるのかを理解するために不可欠である。(原文へ 

太平洋諸島の人々が、土地や海への直接的脅威となっている気候変動と戦っていることは、誰もが知っている。しかし、気候変動のために、私たちが政治的独立とアイデンティティーを求める戦いも強いられていることを、どれだけの人が知っているだろうか? これは、私たちの主権の問題である。たとえ祖国の土地が大きなリスクにさらされていようとも、主権を私たちの手から奪われるままにするわけにはいかない。

主権という概念に初めてふれる人のために説明すると、主権とは、それぞれの国が独立した国であり、国民や領土に関して独自の決定を下すことを認める基本的な国際法である。私の祖国であるツバルは、独立国家であるために、英国とキリバスの両方からの独立を確保するために、必死に戦った。ツバルの独自の文化を他者に支配されたくなかったからであり、自分たちの決定を自分たち自身で下したかったからである。自分たちの文化と国民のことは、自分たちが最もよく知っている。主権なくして、人々のために決定を下すことはできない。また、ヴェストファーレン体制では居住可能な土地があることが条件とされる。他国の一部の人々は、気候変動によって私たちの国が常に居住可能ではなくなったのだから、より大きな国で安全な居住地を手に入れる代わりに主権を放棄すればよいと考えているようだ。しかし、気候変動はほとんど私たちのせいではないのに、土地が居住困難になったからといって、なぜ私たちが、国民として国民のために決定を下す権利を放棄しなければならないのだろうか?すべての人は安全な居住地を持つ権利があるが、気候正義と人道主義のあらゆる原則に鑑みて、私たちの土地に何が起ころうとも、私たちが大切にするもの、つまり主権を放棄しなければならないということがあってはならない。その土地に根差す人々は、その領土に対する権利を持ち、その領土について決定を下す永遠の権利を持つ。たとえ領土がどれほど変化し、他の国々が私たちに何を負わせようとも、それは変わらない。

いずれ私たちはより安全な居住地を必要とするとしても、それを手に入れるために主権を放棄する必要はまったくなく、また、私たちの海を放棄する必要はまったくないと、私たちは認識する。豊かな国々は、私たちの豊かな海へのアクセスを求めるが、海は彼らの所有を得るためのものではない。大国は、私たちの豊かな海、私たちの祖国である島々、私たちの祖先が住み、私たちが文化を通して深く結びついている場所を奪う方法を模索し始めている。私たちは今、自分たちのものを持ち続ける権利を求めて戦う必要がある。何があろうとも、私たちの主権を守る必要がある。それを実現する方法について論じ始める必要がある。

10月19日のオンラインセッション(https://events.humanitix.com/climate-change-challenges-to-the-sovereignty-of-our-pacific-atoll-nations)は最初の一歩であるが、2021年には再びオンラインセッションが開催される。その際はさらに多くのスピーカーを迎え、もしかしたら対面の会議となるかもしれない。このオンラインフォーラムは、太平洋諸島の人々の視点から見た主権、そして、気候変動が太平洋地域に散らばる多くの小さな島々の主権にどのような影響を及ぼすかについて意見を表明し、公開討論する場をもたらす。オンラインフォーラムでの議論を足掛かりとして、いずれ、ここオーストラリアや太平洋地域から有識者、市民社会団体、関心を持つコミュニティーメンバーを招いた対面会議が行われるだろう。対面会議によって参加者同士の交流や議論が深まり、政策決定に役立つ、そして太平洋地域ならびに国際領域における法的境界の保全に影響を及ぼすビジョンが生まれるだろう。私たち太平洋島嶼国は、私たちの土地、価値、慣習、海洋領域に対する主権を気候変動によって奪われるままにすることはできないし、またそうするつもりもない。

タウキエイ・キタラはツバル出身で、現在はオーストラリアのブリスベーンに居住している。ツバル非政府組織連合(Tuvalu Association of Non-Governmental Organisation/TANGO)というNPOのコミュニティー開発担当者であり、ツバル気候行動ネットワークの創設メンバーでもある。ツバルの市民社会代表として、国連気候変動枠組条約締約国会議に数回にわたって出席している。ブリスベーン・ツバル・コミュニティー(Brisbane Tuvalu Community)の代表であり、クイーンズランド太平洋諸島評議会(Pacific Islands Council for Queensland/PICQ)の評議員でもある。現在、グリフィス大学の国際開発に関する修士課程で学んでいる。

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