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|視点|核兵器禁止条約がもたらす希望(ジョセフ・ガーソン平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン議長)

【ニューヨークIDN=ジョセフ・ガーソン

核兵器禁止(核禁)条約の批准国が50に達し、90日後の来年1月22日に発効する。広島・長崎の被爆者や核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の活動家、外交官らが、非核兵器世界の実現に向けた長い闘いに条約がもたらした貢献を喜び合った。

次の、最も重要なステップは、「核の傘」の下にある国ひとつ以上の署名と批准を得ることだ。欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国か、あるいは、「クアッド」と名付けられた、いわばアジア太平洋地域におけるNATOのようなものに属する日本・オーストラリア・インドのうちの一つがこれに当たる(クアッドの4番目の構成国は米国)。

各国政府は、衰えつつある世界の覇権国の気分を害するようなリスクを自発的に取ることはない。過去に見てきたように、政府の政策や公約は、世論や公の議論、大衆の動員によって変わりうるのである。

Doomsday Clock/ BAS

核禁条約がつくり出す議論の場や仕組み、それが解き放つ政治的な力は、現在のまたとない機会に現れた。『原子力科学者会報』は、「世界終末時計」の針を「真夜中(=地球と人類の滅亡)まで100秒」に近づいているという、これまでになく厳しい警告を発している。これは冷戦開始以来もっとも、「真夜中」に近づいている。

世界の核大国はそれぞれの核戦力を強化している。南シナ海や東シナ海、台湾海峡において、1914年にサラエボで響いた銃声のように、軍が引き起こす事件や事故、見込み違いが、連鎖的に拡大する戦争を引き起こしかねない。同様のことがバルト海や黒海に関しても言える。米国によるB-52爆撃機の運用も含め、米ロ間の挑発的な軍事「演習」が、大惨事の引き金を引きかねない。

2017年に国連で条約交渉が行われ、122カ国の賛成を得て採択された事実は、原爆が投下された広島・長崎や、核実験が行われたマーシャル諸島、オーストラリア、ユタ州やセミパラチンスクの風下住民など被爆者たちによる多大な功績だと認識されなければならない。彼らの、感情のこもった、焼け付くような証言、彼らとその家族、コミュ二ティーが受けた被害からくる確固とした主張は、国際的な議論の焦点を、従来の表面的な安全保障問題に終始する不毛で詐欺的な内容から、国際的な議論の焦点を、安全保障上のみせかけの執着と不毛かつごまかしのものから、実際に核保有国が何をしているか、核兵器が人道上にも地球環境にとっても壊滅的な結果をもたらすというものに変えた。

毎年開かれる広島・長崎の世界大会や、オスロやナヤリット、ウィーンで3度に亘って開催された「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(人道性会議)において、被爆者たちは、国連で核禁条約の協議を開始した外交官も含めて、人々の心を開き、心をつかんだ。

核禁条約は基本的に、批准国に対して、「核兵器やその他の核爆発装置を開発・実験・生産・製造・取得・保有・備蓄すること」を禁じるものである。また、核兵器や核爆発装置を移転したり受領したりすることも禁じられる。つまり、核兵器を自国に配備・展開させることが出来ないということである。さらに、核兵器を管理することや、条約で禁じられた行為に対する支援を与えることもできない。核兵器の被害者を支援し、環境回復を図ることも義務付けられる。そして、重要な意味合いをもちうる条項として、締約国に対し、日本や米国を含めた非締約国へ批准や署名を促すことを求めている第12条がある。

もし締約国に必要な勇気と想像力があるのならば、時間とともに、核禁条約を普遍化するために必要な政治的、外交的、経済的力と道徳的説得力を発揮することができるかもしれない。広島・長崎で聞いた被爆証言に心を突き動かされ、ウィーンで「核兵器の人道的影響に関する国際会議」を主催したオーストリアのアレクサンダー・クメント元軍縮大使は最近、これは長いプロセスになるだろうが、熱意をもってやれば達成可能な目標だとの見方を示した。

Ambassador Alexander Kmentt/ UN photo

核禁条約が必要であったというわけではない。50年前、核不拡散条約第6条において、核保有国は「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行うこと」を約束していた。また、国連総会の第一号決議は「平和目的にのみ利用するように原子力を管理」し、「原子兵器と大量破壊に応用可能なその他すべての主要な兵器を国家の軍備から廃絶する」ことを目指すと定めていた。

NPT発効から40年後、2010年NPT再検討会議の閉会にあたって、核保有国は「覆すことのできない約束」だとして、世界の核兵器を体系的かつ前進的に減らすための13項目の実践的な措置を履行することを再確認した。2020年のこれまでにその中で実際に採られた措置はわずか1つである。

米国を中心とした核保有国は、これらの国際的な法的義務を果たすよりは、人類の生存を可能とする「核兵器なき世界」を生み出すために必要な措置を採ることを頑なに拒んでいる。これらの国々は、大量虐殺を引き起こし地球さえも滅ぼしかねない核戦力を継続的に強化し、核戦争ドクトリンに磨きをかけ、核戦争の開始に向けた準備を進め、あるいは、開戦の脅しをかけている。

(ジャーナリストで学者のフレッド・カパン氏は新著『爆弾』のなかで、世界のほとんど誰も知らない話として、ドナルド・トランプ大統領が(北朝鮮に対して行った)「炎と怒り」の威嚇と核戦争の準備が、いかにして世界を壊滅寸前まで追い詰めたかを記述している。)

核兵器国は、誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定したNPT第6条と2010年NPT再検討会議で行った「覆すことのできない約束」の履行を拒むことで、NPTの正当性を完全に破壊したとまでは言えないにしても、損なってきている。人類の生存を脅かすこうした核兵器国の不作為と、「人類と核兵器は共存できない」という被爆者による緊急の呼びかけが生み出した政治的な熱気、さらに世界の多様な平和運動が一貫した要求に徹したことが、核兵器禁止条約の交渉と署名、批准、そしていまや条約発効へとつながった。

核禁条約はそれ自体で核弾頭を一発たりとも減らすことはないが、核のハルマゲドン(最終戦争)に備えつつある国々を守勢に回らせる効果がある。

2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

米国をはじめとした5つの核兵器国(5大国)は、核禁条約はNPTを危機に晒すという誤った主張をして、当初から核禁条約の交渉と条約自体に反対していた。実際には、クメント大使が繰り返し述べているように、核禁条約はNPTを補完し、強化するものだ。

5大国は条約交渉をボイコットし、外交や記者会見の場で核禁条約への反対表明を行い、核兵器に依存する国々に対して、条約に署名・批准しないよう強い圧力をかけた。50カ国目の批准がなされる前夜にAP通信が報じたように、トランプ政権は、核保有国は核禁条約が「もたらしかねない影響に反対して連帯する」と述べて、条約を批准した諸国に条約から脱退するよう圧力をかけた。

古い諺にもあるように、海の潮を押しとどめようとするのに似て、これは無駄骨というものだろう。トランプ大統領やプーチン大統領、そして彼らの同志(=核保有国の指導者)たちは、すぐには消えそうもない新型コロナウィルス感染症の封じ込めに失敗しているのと同じように、核禁条約の発効を押しとどめることはできないだろう。

核禁条約の発効は、核兵器のない世界に向けた闘争の新たな段階の始まりとなる。広島・長崎の被爆者と日本の平和運動は、核兵器廃絶の闘いを長らくけん引してきた。彼らのキャンペーンは、核禁条約の実現にとって非常に大きな役割を担ってきた。

上で述べたように、核禁条約にとって最も火急の課題は、「核の傘」に依存する諸国の署名・批准を得ることだろう。この挑戦に成功すれば、核兵器国グループの結束を乱し、核保有主義の塊を崩すことになる。

日本は核攻撃による唯一の被爆国で、国民の多くは核禁条約を支持している。このことから日本政府が条約支持にまわるのは、時間の問題かもしれない。しかし、その実現のためには、広範でひたむきな運動、行動こそが必要となる。

明らかに、私たち米国市民には、世界で最も危険な国の政策やドクトリン、行動を変化させる道義的な責任がある。「核兵器なき世界」をもたらすとしたNPTの約束や、2010年NPT再検討会議で再確認された「核兵器の全面廃絶に対する核兵器国の『明確な約束』を含む核軍縮のための13項目合意を尊重し、実現しなくてはならない。

数日のうちに、米大統領選が終わるが、もしトランプ氏が、(231年前に奴隷制を擁護するために憲法に書き込まれた)非民主的な選挙人制度を通じて、あるいは選挙後のクーデターによって勝利するようなことがあれば、暗い見通しに直面することになるだろう。つまり、トランプ氏の専制が固められ、米国の先制攻撃能力を回復させようとしている国防総省の極度に危険なキャンペーンが強化されるのである。

選挙には限られた希望しかない。機能不全と詐欺、不遜、惨事に満ちたトランプ政権の4年が経過し、バイデン元副大統領が選挙を勝ちそうに見える。バイデン氏が核禁条約にすぐに署名することはないだろう。彼が勝利すれば、「核兵器なき世界」のために努力するとの公約に反して、核戦力の強化と、核戦争を戦い「勝利」するための米国の準備は続けられることになるだろう。

UN Photo
UN Photo

しかし、良い面を見るならば、バイデン政権の4年間は、被爆者が始めた長い取り組みの次のステップを考える時間と政治的空間、機会を与えることになるだろう。我々は、バイデン氏に核兵器の先制不使用政策を採るとした公約を順守するよう主張していく。ポストコロナ、ポストトランプ期において経済・社会の再活性化が緊急に求められる中、必然的に国家予算の優先順位を巡って「大砲(軍事支出)かバター(社会支出)」議論が交わされることになるだろう。これにより、イランとの核合意への復帰や、核廃絶まではいかなくとも再び軍備管理が進められる展望、さらには、米国の核戦力とその運搬手段の更新に費やされる支出を大幅に削減する道が開かれるだろう。

先週、クメント大使は、核禁条約は、1980年代と同じように核軍縮の緊急性に関する「社会的論議」に火をつけることになるとの見方を示した。マサチューセッツ州議会は、核禁条約に従うために州が採るべき措置に関する調査を進めることを決め、米国政府が多額の核兵器関連費用を削減しNPT第6条を履行するよう強く求めた。このように、絶対的な力を持つ国の一隅でも、社会的論議は始まっているのである。(原文へ

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「変化の風」が「終身大統領」を目指すアフリカの指導者らを阻止するだろうか

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

英国のハロルド・マクミラン首相がかつて、「変化の風がアフリカ大陸を通じて吹いている。我々がそれを好むかどうかに関わらず、このナショナリズムの高まりは政治的な事実である。」と語った。

この発言は1960年代のことで、当時アフリカ大陸各地で英国の国旗が降ろされ、代わって新たに独立した国々の国旗が掲げられた。

「今でもあの旗を見ていたのを覚えています。英国の国旗が降ろされ、続いてナイジェリアの国旗が揚げられました。」と、ネットフリックスが新たに公開したドキュメンタリー番組「アフリカ植民地の旅」に収録されているフランチェスカ・エマニュエル事務次官は述べている。

「その光景はなんとも美しいものでした。ついに、素晴らしい日が私たちに訪れたのです。…この時の気持ちは、なんとも例えようがありません。」

しかしそれから40年が経過し、独立時の国民に対する約束は、憲法が規定する任期を遵守しょうとしないアフリカ各地の政治指導者らの挑戦を受けている。これに焦燥感を募らせてきた若者らが再び「国旗を掲げる」よう要求したことを契機に、コートジボワール、ギニア、カメルーン等、アフリカの十数カ国の街々で暴動が発生した。

ギニアでは、現職のアルファ・コンデ大統領(82歳)が3期目を目指して憲法改正を行った自身に対するデモに対して弾圧を指示している。アムネスティ・インターナショナルによると、憲法改正に抗議するデモ隊に治安機関が発砲するなどして、この1年で50人以上が死亡した。大統領選挙は10月18日に実施されたが、野党支持者と治安機関との衝突が広がり、混乱が懸念されている。

Map of Africa

コートジボワールでも、憲法の規定に反して3期目の出馬を表明したアラサン・ワタラ大統領(78歳)に抗議する数千人の群衆が首都アビジャンの通りを埋め尽くした。ワタラ大統領は5カ月前、大統領選へは立候補しないとして「指導者の世代交代」を宣言していたが、与党連合の統一候補が死亡したことを理由に前言を撤回した。大統領選挙は10月末に予定されている。

ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領は、9月に開催された西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の会議で(コンデ、ワタラ両大統領に対して)、「私たちは各々の国の憲法の条項、とりわけ大統領の任期に関する規定を順守する義務があります。」「まさに大統領の任期問題が、私たちの国が加盟している西アフリカ地域に危機と政治的緊張をもたらしている分野に他なりません。」と語った。

「アフリカ大陸を通じて、現職の大統領が権力に固執する傾向が強まっており、そのことが失業、紛争、腐敗、経済不況、人権侵害を引き起こす原因となっています。欧米諸国から、アフリカの優れた指導者として高く評価されているルワンダのポール・カガメ大統領(62歳)でさえ、自らの権力を維持するための憲法の改正(3選を認めその後も最長2034年までの続投を可能にした)を行っています。事実、エコノミスト誌が発表した2019年版民主主義指数によると、55カ国あるアフリカ諸国のうち、半数以上が終身大統領か(エコノミスト誌が言うところの)独裁政権により統治されています。」と、コンゴ人フリージャーナリストのヴァヴァ・タンパ氏は語った。

アフリカでは向こう数カ月のうちに、タンザニア、ブルキナファソ、ガーナ、ニジェール、ウガンダ、中央アフリカ共和国で総選挙が予定されている。はたして、アフリカ各地で広がりつつある民衆運動は、再び「変化の風」をもたらすだろうか。(原文へ

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|視点|新型コロナで浮き彫りになる搾取的労働へのグローバルな構造的依存(ランダール・ハンセン トロント大学ムンクグローバル問題・公共政策校所長)

【トロントIDN=ランダール・ハンセン】

2019年11月、カナダ連邦政府の関係者がトロント大学ムンク校を訪れ、来たるグローバルな脅威について解説するよう依頼された。私たちは、不平等や飢餓、気候変動、公衆衛生、プラスチック公害等について議論したが、その際、病原菌に言及したものは誰もいなかった。せいぜい抗微生物薬耐性の脅威についての議論が最も近いものだった。

4ヶ月後、その部屋で議論した誰もが都市封鎖(ロックダウン)に遭遇した。新型コロナウィルス感染症が、まるで貨物列車が踏切に停まったままの車に衝突したかのように、世界を襲ったのだ。ウィルスが私たちの日常生活のリズムを寸断した結果、今後経済や政治は再構成を余儀なくされるだろう。

それがどのような形でなされるかは依然不透明だが、このことだけは確かだ。すなわち世界中で、中流階級の生活水準が、肉体労働者、とりわけパンデミックの最中においては、安値で働く大勢の移住労働者の死に依存しているということだ。新型コロナの感染拡大がこうした依存の事実を浮き彫りにしたが、そのこと自体は新しいことではない。なぜなら、少なくとも1970年代以来、これは各国と世界の資本主義の基本的な特徴であり続けているからだ。コロナ禍の灰の中から立ち上がる、新しく、より公正な世界について様々な議論がなされている一方で、世界が低賃金労働にどっぶりと依存している問題については出口が見えない状況が続いている。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

コロナ禍は、世界が低賃金で搾取的な労働に構造的に依存している事実を白日の下にさらした。

2月にアジアの多くの地域で、3月に欧州と北米の多くの地域でロックダウンが広がる中、低熟練の移民労働者は、失業・監禁・追放・感染という4つの運命に見舞われることになった。

トルコでは、パンデミックにより国内の経済成長と海外送金が大きな打撃を受け、非正規部門で働いていた370万人のシリア移民の多くが真っ先に解雇された。ロックダウンされたシンガポールでは、3万人の移住労働者が1部屋当たり20床というすし詰め状態の寮に閉じ込められた。

ナレンドラ・モディ首相が3月24日に13億人の国民に対してロックダウンを発表したインドでは、少なくとも60万人の国内移民が故郷に戻ろうとした。道路や鉄道に殺到する彼らの姿は、インド・パキスタン分離独立時にみられた逃避行と追放の記憶を想起させるものだった。サウジアラビアでは、ロックダウン措置に伴い、政府は2800人以上のエチオピア移民を追放した。

こうしたロックダウン措置に伴う解雇や追放の事例は、先進国か途上国かを問わず、あらゆる国々が低賃金の移住労働にいかに構造的に依存しているかを露呈した。2019年に5540億ドルに上った海外送金は、国際援助よりも多くの収入を産んでいる。タジキスタンでは、ロシアに移住した100万人以上の一時労働者からの海外送金が、同国のGDPの実に半分を占めている。

新型コロナの感染拡大のために、世界の海外送金は今年、1080億ドル減となるかもしれない。しかし、南の発展途上国もまた、安価な移住労働に依存している。主として、インドや中国の内地移民、マレーシア、香港、シンガポール、タイ、ペルシャ湾岸諸国の外部からの移民である。彼らは、建設・製造・食肉加工・介護・清掃など、多くの肉体労働に従事している。

北の先進諸国では、複数の部門が未熟練の移民労働者に依存しているが、とりわけ、農業と食肉包装の2つの分野が際立っている。食肉包装と食肉加工では、労働者が密集した環境で、年々早くなる生産ラインで送られてくる鶏、豚、牛の解体作業に従事している。移住労働者らは、狭苦しい、しばしば不潔な場所で暮らすことを余儀なくされている。契約上の詐欺や賃金の詐取、ビザの違法な取り上げなど、人身売買が横行している。

これらの部門は、新型コロナに集団感染する格好の温床となっている。ドイツやアイルランド、フランス、ベルギー、ポーランド、オランダ、米国で、食肉加工工場が新型コロナのホットスポットになり、何万人もの労働者が罹患している。米国だけでも、すでに5月までに食肉工場、鶏肉工場の労働者1万6200人が陽性判定を受け、86人が亡くなった。死者の87%がマイノリティであった。

メディアの論評の多くが、こうした状況に驚きや、怒りすら示している。しかし、世界経済が安価で取り換えがきく労働者に依存してきたことを考えれば、こうした反応は不思議と言わざるを得ない。国際労働機関の統計によると、世界の移民の21%が未熟練労働者だが、これは過小評価だ。名目的には中程度の熟練とされている人の多くが、実際には未熟練だからだ。

1970年代以来、テイラーシステム(科学的管理法)を体系的に適用してきた企業は、かつては熟練労働だった販売アシスタントや組立工、スーパーのレジ係、事務補助員などの仕事を未熟練労働に替えてしまった。工場は労働者の研修を削減し、機能をルーティーン化し、(バーコードに典型的にみられるような)技術を利用して、労働を未熟練化した。労働の未熟練化はえてして、労組加入率の低さ、低賃金、福利厚生の不在を意味する。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

小売り・接客・建設・農業・食肉包装の部門に低賃金労働者が層を成して存在しているということは、衣料品や住宅、ファーストフード、食料雑貨、そしてあらゆる種類の小売品が、本来あるべき価格よりも安いということを意味する。これらの商品やサービスが生産される条件はあまりに魅力がない(3K「きつい」「きたない」「危険」)ため、地元出身の労働者たちは、よりよい賃金を求めてこれらの部門から退出していく。そして合法、違法に関わりなく、移住労働者がその穴を埋めることになる。

このプロセスはグローバルなものだ。フィリピンの未熟練労働者が香港に移住して家事労働をしている。未熟練のカンボジア人やミャンマー人がタイに移住して農業や製造業で働いている。未熟練のメキシコ人が米国に移住して食品包装や農業、建設、介護部門で働いている。バングラデシュやインドネシア、中央アジアの低熟練労働者らがペルシャ湾岸諸国やマレーシア、ロシアに移住して、建設部門で働いている。

インドや中国では、数千万人にのぼる国内移住者が同じ機能を担っている。新型コロナの件があっても、この構造は全く変わらない。実際、新型コロナの感染拡大で構造的損害を被った貧しい国々では、安価な労働者、とりわけ安価な移住労働者への需要は、むしろ強まっていくことだろう。(原文へ

INPS Japan

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|国際フォーラム|北東アジア非核化と経済開発への新たなアプローチを呼びかけ

【ウランバートルIDN=アラン・グア】

モンゴルの元国連大使で現在はNGO「ブルーバナー(青旗)」の議長を務めるジャルガルサイハン・エンクサイハン博士は、「北東アジアに非核兵器地帯を創設し、北朝鮮に対して、統合的で信頼できる『ミニ・マーシャルプラン』を提供することは、朝鮮半島のみならず東北アジア地域全体の安全保障の向上や発展にとってウィン・ウィンの関係をもたらす。」と確信している。

米国と北朝鮮の両国が、「核兵器に依存しない抑止をはじめとして、朝鮮半島における安全保障上の脅威を解決するための大胆な考え方をする必要があります。」とエンクサイハン氏は国際フォーラムで語った。

国際政策フォーラムは、グローバル平和財団、アクション・フォー・コリア・ユナイテッド(AKU)、ワンコリア財団、ブルーバナーが共催して9月30日にモンゴルの首都ウランバートルで開催された。

フォーラムでは、2つの円卓会議(分科会)が同時進行する形式で議論が進められた。ひとつは、北東アジア非核地帯を確立していく展望に関するもので、南北朝鮮と日本に対するロシア・中国・米国による安全保証、核兵器に依らない抑止、地域安全保障協力の「ポスト冷戦枠組み」の構築、北朝鮮に対する国際的な「ミニ・マーシャルプラン」の提供、北朝鮮の地域経済開発への組み込みといったテーマが話し合われた。

エンクサイハン博士は、「米国による安全の保証は信頼に足るものであり、北東アジア非核兵器地帯が法的にも政治的にも信頼できるものだと北朝鮮に確信させるうえで、ロシアと中国が安全を保証することは重要です。それはまた、非核化による戦争抑止を拘束約定とすることによって、北東アジア地域における核軍拡競争を防ぐことになるでしょう。」と語った。

Dr Enkhsaikhan addressing the forum. Credit: Alan Gua

1994年北朝鮮核危機の際に米政府の交渉団代表を務めたロバート・カルーチ元国務次官補(政治軍事問題担当)は、「もし北東アジア非核兵器地帯が追求されるならば、米国の核からの脅威に対する北朝鮮の懸念の問題と、米国が同盟上負っている義務と安全保障上の利益の問題に対処せねばなりません。」と指摘したうえで、「もしこの問題に関してなんらかの動きを起こすならば、『非核化』という用語の明確な理解や、核分裂性物質の問題、その生産施設などの問題が、適切に対処される必要があります。」と語った。

限定的な北東アジア非核兵器地帯をかつて支持していた又松(ウソン)大学のジョン・エンディコット学長は、北東アジアにおける非核地帯の概念は、「時間をかけて相互の信頼と友好を構築していくプロセスでなければなりません。」と語った。円卓会議の議論では、核保有国の「核先制不使用の公約」や(核兵器の役割を他国からの核攻撃への抑止に限定する)「唯一の目的」論について話し合われた。こうした政策に賛意を示すものもあったが、一方で、核抑止政策の効果を毀損しかねないとする意見もあった。

また、朝鮮半島の非核化に進展をもたらすには、北朝鮮に対するアプローチの大胆な変更と、北東アジア非核兵器地帯を含む信頼に足る地域安全保障メカニズムが必要だとの見解も出された。全体的な安全保障環境を改善するには、現在および将来の感染症の拡大やインフラ開発、微粒子公害、海洋汚染などの共通の非軍事的な安全保障上の問題に共同で対処することが必要だとの指摘もあった。

2つめの円卓会議では、中央統制経済から自由市場へと移行したモンゴルの事例がケーススタディとして取り上げられるなど、北東アジアにおける経済的発展の展望について議論された。またこのセッションでは、ベトナムの事例にも触れられた。ワールド・トレード・パートナーシップのジョン・ディクソン会長は、「政府や大規模な多国間の機関がゆっくりとしか動けないなら、朝鮮半島の経済的統合に関する、お互いの国にとって平和的で生産的な枠組みを可能にするような計画を予備として考えておくようにすることは必須です。」と強調した。

「グローバル平和財団」で北東アジアの平和と開発問題を研究するイエチン・リー上席研究員は、「中国は北朝鮮にとっても韓国にとっても最大の貿易相手であり、インフラや工業、観光、鉱業、サービス部門を発展させ平和的統一を実現していくことは、中国や北東アジアにおける経済成長を考えるならば、『低い位置にぶら下がっている果実』のように大きな努力をしなくても容易に解決できる目標です。」と指摘した。

韓国・中国・日本・イギリス・フィンランド・ロシア・インド・モンゴル・米国からの安全保障問題の専門家、エコノミスト、政治学者ら約35人が、朝鮮半島の74年にも及ぶ分断の終焉に貢献するという文脈の下で、2つの問題について検証した。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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米中間の力の移行、冷戦か、実戦か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメシュ・タクール

現在の米中対立を第二次冷戦と呼ぶことは、どれほど的確だろうか?世界が実戦に巻き込まれる可能性はあり得るのか?それは、どちらも勝者たりえない、全員が敗北者となる戦争である。(原文へ 

2018年10月にハドソン研究所で行ったアジェンダをリセットする演説で、マイク・ペンス米副大統領は、中国による多くの略奪的行為や攻撃的行動を数え上げた。米国を西太平洋から追い出し、同盟国を助けに来させないようにする決意で、人工島に軍事基地の列島を建設し、対艦・対空ミサイルを配備することにより、「北京は、陸海空および宇宙における米国の軍事的優位性を侵食する能力を、重点的に構築してきた」とペンスは述べた。しかし、米国は「ひるむことなく」中国の不正行為に打ち勝つと結論付けた。

ウォルター・ラッセル・ミードは、ペンスが「第二次冷戦」を宣言したと論じた。マイク・ポンペオ国務長官は2020年7月23日にカリフォルニアで行った演説で、政権の中国に対する戦略的アプローチを更新した。中国を民主主義の存続にかかわる脅威と表現したうえで、「中国共産党から我々の自由を守ることが、この時代の使命だ」と断言し、「志を同じくする国々が新たに団結し、民主主義の新たな同盟を形成するべき時だ」と述べた。ロナルド・レーガン大統領は、ソ連との軍備管理交渉における基本姿勢を「信頼せよ、されど検証せよ」という名言で示したが、ポンペオ国務長官は、中国の共産主義体制に対して「信じてはならず、検証しなければならない」と述べた。

ワシントンは、自己成就的ナラティブに注意する必要がある。核兵器管理、軍縮、不拡散に関する協定が急速に崩壊しつつあることも、核兵器使用のリスクの高まりに拍車をかけている。ドナルド・トランプ大統領の軍備管理担当特使であるマーシャル・ビリングスリー氏は、軽率にも、「我々は、このような[軍拡]競争に勝つすべを知っている。そして、敵対国を忘却の淵に沈めるすべを知っている」と主張している。これは、コロナウイルスの感染拡大、そしてロックダウン措置が米国経済に及ぼした壊滅的状況のさなかにあって、驚くほど妄想じみた発言である。

冷戦2.0という特徴付けには深刻な欠陥があり、また、不適切かつ危険な一連の政策を誘発する可能性がある。米中間の競争は、両者がお互いの政治的イデオロギー、経済モデル、世界的強国としての野心を死に追いやろうと冷たい戦闘を繰り広げる宿敵関係ではない。どちらも、相手を破壊することにイデオロギー的に傾倒しているわけではなく、二元論的争いでできるだけ多くの国を自分の側につけようとしているわけでもない。世界は、二つの厳格な国家グループに分かれて、敵グループの国とはほとんど接触しないという状況にはならない。今日、ほとんどの国は、中国と米国のどちらとも複雑に絡み合う利害関係がある。今日の米国は、勝利主義的な民主主義促進をしているわけではない。中国側も、自由民主主義が危機にさらされているとはいえ、共産主義は政治体制を構築する代替的原理としての信用を失っており、本格的な競争を仕掛けてきているわけではない。また、中国は、その経済モデルを輸出することに関心を示してもいない。

冷戦の背骨は、欧州の中央を通っていた。米中間には、これに相当する明白な地理的前線がない。米国と旧ソ連の核兵器備蓄量がおおむね同程度であったのに対し、中国が保有する核弾頭は320個で、米国の保有量のわずか5.5%である。世界規模で広がった米ソ対立とは異なり、中国は、アジア太平洋地域の外では米国の軍事力に対抗していない。しかし、ソ連の一元的国力と異なり、中国は総合国力であり、急速に戦略的足場を拡大し、地域および世界の統治機構において存在感を増している。

このことは、ソ連を最終的に崩壊させた封じ込め政策が奏功する見込みを大幅に低下させる。その一方で、超大国として浮上する中国と、超大国として現状を維持する米国との間で、戦略的断絶により生じる戦争のリスクを増加させる。冷戦という誤った表現は、北京に、米国の憎悪はもはやぬぐい切れず、米国の要求に譲歩しても意味がないという考えを植え付けるものである。今起こっていることは、新たな冷戦ではなく、現状の超大国と新興の超大国との間の昔ながらの対立と競争であり、政治術のあらゆる最新ツールが駆使されているということである。実戦は不可避ではないとはいえ、グレアム・アリソンは、<トゥキディデスの罠>により、力の移行期に軍事衝突が起こる歴史的確率は75%であると指摘する。

2世紀にわたり西洋と日本によって中国に加えられた侮辱、不正、屈辱を心理戦略的背景として、中国の正当な願望が阻止され、その権益が攻撃されるなら、激化する米中間の対立は戦争へと発展するだろう。中国にとって、地位とアイデンティティーの問題は経済的な損得計算より重要である。太平洋地域の軍事バランスは米国に大きく偏っているため、北京はワシントンに楯突くほど愚かではないだろうと米国人は思っているかもしれない。あるいは、中国は地域経済および世界経済と一体化しているため、武力紛争はあまりにもコストが大きく、検討もしないだろうと思っているかもしれない。

しかし、逆に中国の指導者たちが、ワシントンへのコストはあまりにも高いため、緊張がエスカレートして全面戦争に至る前に米国は引き下がるだろうと考えているとしたら、どうなるだろうか? 戦狼外交と陸海国境付近における強引な軍事行動を繰り返し、多くの国を巻き込む中国の姿勢は、習近平国家主席の見識への疑念を引き起こしている。かつて最高指導者であった鄧小平は、中国は注意深く、慎重に、辛抱強く好機を待てと助言したが、習近平はそれを放棄したのである。習近平国家主席は、中国の好機を見誤ったのだろうか?

 人類の歴史に流れる血の川は、そのような幾多の誤認や誤算の間を縫って、かつての大国を忘却に沈める海へと注ぐのである。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)理事を務める。元国際連合事務次長補、元APLN共同議長。

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新型コロナで消費者の購買行動のデジタル化が加速していることが明らかに

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルーア】

「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な流行(パンデミック)はデジタル社会への加速を強めました。私たちが今日起こしている変化は、今後経済が回復しても継続していくでしょう。オンラインショッピングの広まりは、世界がパンデミックから回復するにつれデジタル化のチャンスがさらに拡大することを意味しており、あらゆる国がこの機会を活かせるよう対策を急がねばなりません。」と、ムキサ・キトゥイ国連貿易開発会議(UNCTAD)事務局長は語った。

キトゥイ事務局長の発言は、COVID-19のパンデミックがeコマースやデジタルソリューションの活用について消費者の行動にどのような変化をもたらしたかを調べた「新型コロナ感染症(COVID-19)とeコマース」と題した調査結果に基づくものである。調査国は先進国と新興国を含む9カ国(ブラジル、中国、ドイツ、イタリア、韓国、ロシア、南アフリカ共和国、スイス、トルコ)であった。

Official portrait of Mukhisa Kitutyi, Secretary-General of UNCTAD. 13 July 2018. UN Photo / Jean-Marc Ferré

パンデミックにより調査回答者(3700名)の半数以上がオンラインで以前よりも頻繁にショッピングしていると答え、ニュース、健康関連情報、そしてデジタルエンターテインメントもオンラインが多いと回答していた。またこの調査によると、とりわけ新興国の消費者が、店舗購入からオンラインショッピングへの転換を最も劇的に遂げていた。

UNCTAD、ネットコムスイスコマースアソシエーション、ブラジリアンネットワークインフォメーションセンター、インベオンが共同実施したこの消費者調査によると、ほとんどのカテゴリーにおいてオンラインによる購入が6%から10%増加している。

最も伸びているのはICT /エレクトロニクス、ガーデニング/DIY、医薬品、教育、家具/家庭用品、化粧品/パーソナルケア用品である。しかし、買い物客一人当たりの月毎のオンライン支出額は大幅に減少している。新興国、先進国共に高額支出は抑えられ、新興国では生活必需品がよく売れている。

観光、旅行関連部門が最も打撃を受け、オンラインショッピングの平均支出額は75%減となっている。

「ブラジルではパンデミックの間、より多くのインターネットユーザーが食料品や飲み物、化粧品、薬といった必需品を購入するなど、消費者の傾向が大きく変わりました。」と、調査に参加したブラジリアンネットワークインフォメーションセンターのアレクサンドラ・バルボサ氏は語った。

COVID-19 and E-commerce”/ UNCTAD

パンデミックによるオンラインショッピングの増加は国によって違いが見られる。中国、トルコが非常に強い伸びを示している一方で、既にeコマースが普及しているスイス、ドイツでは緩やかな伸びとなっている。

また女性や高等教育を受けている人は他のグループよりもオンライン購入が増加している。年齢では25歳から45歳が若い世代よりも増加している。ブラジルの場合、社会的に最も弱い立場にいる人々や女性の間で増加している。

また、調査を行った9カ国の中で、小規模な小売業者がeコマースで商品を売る態勢が最も整っていたのが中国で、最も整っていなかったのが南アフリカ共和国だった。

調査に参加したインベオンの創業者でCEOのヨミ・カストロ氏は、「ビジネス戦略の中心にeコマースを置いている企業はポストコロナ時代に向けた準備ができています。動きの速い日用品や医薬品を扱う店舗利用が多い企業には膨大なチャンスがあります。」と語った。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

「コロナ後の世界はeコマースの類を見ない成長が、国内、海外の小売業の枠組みを混乱させるだろう。従って政策担当者らは、中小企業のデジタル化を促進する具体的な政策を採用し、専門技術を身に着けた人材を育成し、海外のeコマース投資家の関心を引き付けるようにしなくてはなりません。」と、ネットコムスイスコマースアソシエーションのカルロ・テレーニ氏は語った。

デジタルの巨人がより強くなる

調査によると、Covid-19拡大後に最も使われた通信プラットフォームは、いずれもフェイスブック社が所有しているワッツアップインスタグラムフェイスブックメッセンジャーであった。また、テレワーク需要拡大により、ズームマイクロソフトも恩恵を受けたと報告した。

一方、ズーム、マイクロソフトチームスは職場でのビデオアプリで最も拡大している。中国では、ウィーチャットディントーク、テンセントカンファレンスが、トップのコミュニケーションプラットフォームとなっている。

今回の消費者調査で明らかになったオンライン上の変化は、COVID-19のパンデミックが終息した後も続いていく見込みだ。多くの回答者、特に中国、トルコでは必需品を中心にオンラインショッピングを続けると答えている。また海外のツーリズムの影響が継続すると予想し、回答者は地元での旅行を継続すると答えている。(原文へ)|

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【モスクワIDN=ケスター・ケン・クロメガー】

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核兵器禁止条約の軍縮プロセスに核保有国を取り込むために

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トマス・E・シア】

近いうち、おそらく年末までに、核兵器禁止条約(TPNW)の署名国84カ国(現時点)のうち50カ国が批准手続きを完了し、TPNWが発効するだろう。現在核兵器を保有する9カ国はいずれも条約への前向きな関心を示しておらず、核軍縮のプロセスに着手しようとする国際社会のあらゆる努力を、責任を問われることなく拒絶し続けている。TPNWが発効すれば、この条約は、9カ国の核保有国(中国、フランス、インド、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、ロシア、英国、米国)を含む国際社会全体に対して、全面的な核兵器廃絶に向けた前進を奨励し、講じられたすべての措置を検証し、不正行為を検出し、平和と安定の進展を称賛するための法的枠組みを初めて既成事実として提示するものとなる。(原文へ 

おそらくTPNW締約国が直面する最も重要な決定は、TPNWの検証システムを確立することである。そのためには、その対象範囲や制度的業務を決定しなければならない。そして、核保有国は各の核兵器備蓄と核兵器支援設備を廃絶し、あるいはそれらの設備の一部を平和利用のために不可逆的に転換し、また、既存の兵器を後で使うために隠したり、新たな兵器を製造したりしないようにするための方法や手順を決定しなければならない。条約締約国が選択を行い、それによってTPNWの運用方法を決定する一方で、核保有国は、この条約を拒絶し続けるべきか、もしかしたら自国にとって取り組みやすい代替案を提示するべきか、あるいはTPNWに参加した方が実際には自国の利益にかなうと考えるべきか否かを再考することとなるだろう。

今後は国連総会、核兵器不拡散条約(NPT)、IAEA総会、包括的核実験禁止条約機関準備委員会など、あらゆる場において、TPNW締約国が手を緩めることなく外交圧力をかけ、核保有国が拒絶し続けることを居心地悪くさせることを期待するべきである。

核インシデントの性質と近接性にもよるが、核戦争、核兵器の不正使用、1個以上の核兵器の爆発につながる妨害破壊行為、テロリストによる1個以上の核兵器の盗取または国家もしくは準国家組織への不正売却、そして世界の核兵器に対するあまりにも長期にわたる国際的容認によって示される事実上の奨励が壊滅的な結末をもたらす場合、すべての国がそれを防ぐ力を持たない犠牲者として苦しむであろう。 TPNWがこれらのリスクにどのように取り組むかによって、TPNWの成功が左右される。

条約締約国は、TPNWの成功はすべての国の既得利益を守るものであり、核による破滅的状況を回避するという膨大な道徳的、倫理的、法的義務をすべての国が負うことを、核保有国が正しく認識するよう支援する必要がある。核保有国は、TPNWにおいて求められているステップをひとつずつ開始するべきであり、TPNWの成功に欠かせない能力を構築するために人材と資源を提供するべきである。

NPTが核不拡散体制の基礎であるのと同様、TPNWは、今後の国際的核軍縮体制を支えるものとなる。TPNWの検証システムに、敵対する核保有国間の個別の核兵器削減合意を織り込み、核兵器がもたらすリスクを管理するために上記の信頼醸成措置を包含することができるなら、TPNWの下でさらに大きな前進を遂げることができるだろう。

9カ国の核保有国が核兵器を保有しているという共通項を持っているのは確かだが、これらの国々は根本的に異なっている。個々の核保有国に合わせた検証システムを策定することが必要である。ただし、9つの異なるアプローチではなく、それぞれ3カ国からなる2つのグループを設けるべきである。第1のグループは、ロシア、米国、中国、第2のグループは中国、インド、パキスタンとするべきである。残りの核保有国であるフランス、イスラエル、北朝鮮、英国は、個別に対応するべきである。なぜなら、これら4カ国は他の保有国に支配的な影響を及ぼしていないため、個別の進捗状況を他の保有国と連動させると複雑性が増し、さらなる遅れが生じるからである。

核保有国のうち最初に条約に参加した国に対しては、特別な名誉と称賛が与えられるべきである。アメリカ人であり、アイルランド系であり、楽観主義者である筆者は、ジョー・バイデンが2021年1月20日に次期合衆国大統領に就任することを期待する。また、彼の最優先政策のリストに、NPT再検討会議の準備として米国の核不拡散および核軍縮関連政策の全面的な見直しが含まれていることを期待する。再検討会議は2020年に予定されていたが、新型コロナ感染拡大のために延期された。あるいは、ロシアのためかもしれない。

各の核保有国は、自国の国家安全保障が危険にさらされることはないと確信し、自国の行動が、敵対する核保有国、ひいてはすべての核保有国による同様の行動を促すきっかけとなると確信したなら、措置を講じるはずだと私は信じている。

元米国上院議員サム・ナンの言葉を引用するなら、「私にしてみれば、どちらがよりナイーブか、質問してほしいところだ。核兵器のない世界か、それを目指して一歩一歩進むことか、人々に希望を与え、ビジョンを与え、この長期的目標に向かってともに努力するチャンスを与えることか? 何がナイーブだって? それがナイーブなのか? それとも、核のトラの尾を踏みつけたままでいられると信じるべきなのか? ほかの8カ国も一緒になって尾を踏みつけて、とんでもない大惨事を避けられると? 歴史が教えてくれるだろう」

トマス・E・シア博士は、現在、米国科学者連盟の非常勤シニアフェローを務めている。シア博士は、24年間にわたってIAEAの保障措置部門に勤務し、ロシアと米国の核兵器計画で放出された核分裂性物質の分類をIAEAが検証することの実行可能性を検討する6年間に及ぶ三者イニシアティブの下で、IAEAの努力を率いた。

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