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|ロシア|激化する軍拡競争に高まる懸念

【モスクワIDN=ケスター・ケン・クロメガー】

ロシアは、今日蔓延している核拡散のリスクと脅威は、核不拡散条約(NPT)の厳格な履行によって除去できると考えている。その際、核不拡散・軍縮・原子力の平和利用という三本柱の間のバランスを尊重し保つことが必要だとしている。

2020年は4月から5月にかけて、ニューヨークの国連本部でNPT再検討会議が開催される。セルゲイ・ラブロフ外相は、来たる再検討会議では「できるだけ対立を避けたい。お互いに話をせず、耳を傾けることすら拒否し、他者が言っていることに関しててんでばらばらに言いたいことを言っていた2015年NPT再検討会議の二の舞は避けなくてはならない。」と考えている。

Sergey Lavrov, Minister of Foreign Affairs for the Russian Federation/ By The Official CTBTO Photostream - 2019 Comprehensive Test-Ban Treaty Article XIV Conference, CC BY 2.
Sergey Lavrov, Minister of Foreign Affairs for the Russian Federation/ By The Official CTBTO Photostream – 2019 Comprehensive Test-Ban Treaty Article XIV Conference, CC BY 2.

「こうした対立こそが、(ロシア政府が見るところの)むしろ危険で同時にただの幻想に過ぎない現象、つまり、核兵器国の安全保障上の利益と戦略的現実を考慮に入れることなく核兵器を放棄することを『強制』しようという傾向が広がる原因であった。こうしたアプローチは、現在は署名開放されている核兵器禁止(核禁)条約の起草が加速されるという結果につながった。」と、ラブロフ外相は2019年11月8日にモスクワで開催された会議で行った演説の中で語った。

ラブロフ外相は「ロシアは核禁条約に加盟する予定はない。」と強調したうえで、「ロシア政府は核兵器のない世界を構築するという目標は共有している。しかし、この目標は、核禁条約が依って立つところの、単独主義的でむしろ傲慢な方法によって達成すべきではない。核兵器の完全廃絶は、NPTに従って、核兵器保有国も含めたすべての国々にとって平等で不可分の安全保障が確保された一般的かつ完全な軍縮という文脈でのみ可能だ。」と語った。

ロシア諸民族友好大学法学部長でロシア外務省科学諮問委員会の委員でもあるアスラン・アバシゼ教授は、IDNの取材に対して、「米国は、ロシアや米国の西側パートナーが数年に及ぶ厳しい協議を経て締結したいくつかの条約から脱退する傾向にある。」と指摘した。また、「残っている戦略的多国間条約のなかで重要なものは、核兵器国間の信頼醸成を主目的とするオープンスカイズ条約だが、残念なことに、米国政府はこの協定からも一方的に離脱する意図をくり返し明らかにしている。」と語った。

同時に、米ロの戦略核兵器を制限している新戦略兵器削減条約(新START)が危機に瀕している。新STARTは2010年4月8日にプラハで締結され、米ロ両国の批准を経て2011年2月5日に発効した。この条約は2021年2月に失効する。

新STARTは、ジョージH.W.ブッシュ大統領とゴルバチョフ大統領が開始した両国の戦略核兵器を検証可能な形で削減するプロセスを継承したもので、重要なのは、1994年に発効した第一次START(1989年失効)以来、米ロ間で合意した初めての検証可能な核軍備管理条約であるという点である。

アバシゼ教授は、「米国政府は、新STARTの延長に関する実質的な協議を求めるロシアの呼びかけに応えていない。そして今日の西側諸国には、かつて1980年代に米ソ軍拡競争に反対した運動のような動きがみられない。」と嘆いた。

Sergey Lavrov, Minister of Foreign Affairs for the Russian Federation/ By The Official CTBTO Photostream - 2019 Comprehensive Test-Ban Treaty Article XIV Conference, CC BY 2.
Sergey Lavrov, Minister of Foreign Affairs for the Russian Federation/ By The Official CTBTO Photostream – 2019 Comprehensive Test-Ban Treaty Article XIV Conference, CC BY 2.

アバシゼ教授はまた、「制御を失った軍拡競争は、近い将来、米国とロシアを含むあらゆる国々に計り知れない苦しみをもたらすのみならず、大量破壊兵器の拡散に対する国際的な規制メカニズムを毀損させ、核使用の大惨事とまではいかないまでも、予測不能で回復不能な結果がもたらされることになる。」と警告した。

同じく深刻に懸念されるのは中距離核戦力(INF)全廃条約の停止である。2018年10月20日、ドナルド・トランプ大統領は、ロシアの条約違反と中国の中距離ミサイル戦力に対する懸念を表明しINF条約から脱退すると表明した。専門家らによると、INF条約に関しては依然として対話の扉は閉ざされていないという。「米国が半年前に条約から離脱の意図を正式に通告したことで、条約の残存有効期間が6か月になった。」と、CIS諸国研究所副代表で軍事評論家のウラジミール・イェフセエフ氏は「ネザビシマヤ・ガゼッタ」紙の取材に対して語った。

「条約はいったん有効期限が切れると、その効力を失う。離脱プロセスはこのように機能するものだ。通常は、国益や国家安全保障上の脅威を持ち出して、条約からの離脱が正当化される。しかし、米国の態度が当初から非建設的であったために、ロシアは米国と妥協点を見出すことができなかった。米国はまず脱退の決定ありきで、あとからその理由を探したのだ。」とイェフセエフ氏は語った。

「条約脱退の動きは、米国防省の専門家による評価に由来している。すなわち、米国は射程5500キロを超える地上発射型の極超音速兵器を開発できない、という評価だ。この評価が出てから、緊張が高められた。」とイェフセエフ氏は指摘した。

2019年5月、ロシアの『イズベスチア』紙は、プーチン大統領のINF履行停止法案が世界に対するシグナルとして発せられたと報じた。この中でロシア国会の議員らは同紙の取材に対して「ロシアは、INF全廃条約の履行を停止するという法案を出すが、いかなる時でも条約の履行を再開する権利を保留している。」と語っていた。

専門家によれば、プーチン大統領が5月30日に提出した法案は、ロシアは現状を維持する用意があるという国際社会に対するシグナルだったが、米国の動きに応じてやり返すことで自らの安全を完全に確保する心づもりでもあった。

ロシア下院国際問題委員会のアレクセイ・チェパ副委員長は、「これは米国の条約離脱に対する一つの報復措置だと述べた。もし米国が望むなら、ロシアは条約に復帰する権利を保留している。残念なことに、米国は欧州での緊張を煽り、NATOが軍事支出を増やすことに関心があるようだ。」と語った。

「加えて、米国には企業や政治家から成る強力なロビー集団がある。彼らは、条約の履行停止を利用して兵器生産に励み、より多くの資金を獲得しようとしている。これが国際社会で更なる緊張を生むかもしれない。」

「INF条約の履行が停止される中、NATO諸国間の深刻な対立が出てくるかもしれない。ポーランドやバルト三国のような米国の外交政策に忠実な支持国が、米国製核兵器の自国内配備を容認する可能性がある一方、他の欧州諸国はより慎重なアプローチを採り、米国の『足場』になることに同意しないだろう。」とチェパ副委員長は語った。

プリマコフ国際・世界経済研究所のセルゲイ・マラシェンコフ上級研究員はIDNの取材に対して、「かつてINF条約で禁止されていた米国のミサイルは、欧州ではNATO諸国に、アジアでは、米軍基地がある日本や韓国に配備可能だ。これらの中距離・短距離ミサイルは、米国から直接発射することもできる。例えば、ロシアをアラスカから隔てているベーリング海峡は、わずか幅86キロしかない。」と語った。

1987年12月にロナルド・レーガン大統領と共にINF条約に調印したミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領は、INF失効に伴って世界政治に混乱と予測不能性がもたらされたと強い警戒感を示した。ゴルバチョフ氏は経済紙「ベドモスティ」に寄稿した記事の中で、「米国のINF条約撤退が状況を反転させた結果、私たちが冷戦に終止符を打って以来成し遂げてきたあらゆるものが、危機に晒されている。」と記している。

Mikhail Gorbachev in 2010/ By veni markovski – Flickr, CC BY 2.0

「米国は、自らの立場を正当化するために、中国やイラン、北朝鮮などその他の国々が保有する中距離ミサイルに目を向けさせようとしている。しかし、米国とロシアが依然として世界の核兵器の9割を保有していることから、このアプローチは説得力を持たないようだ。核保有に関して、米ロ両国は依然として世界の超大国なのだ。」

「他国の核戦力は、米ロ両国の規模と比較すれば10分の1か15分の1に過ぎない。明らかに、核兵器削減のプロセスが続いていたならば、英国やフランス、中国といった他の国々もどこかの時点でそれに加わっていたことだろう。」とゴルバチョフ氏は結論付けた。

ゴルバチョフ氏の見方では、既存の軍備削減協定に関する米国政府の真意は異なったところにあるという。ゴルバチョフ氏は、「米国は軍備領域におけるあらゆる制約から自らを解き放ち、完全なる軍事的支配を達成しようとしている。しかし、一国による覇権は今日の世界では不可能だ。」と強調した。

ゴルバチョフ氏は、米議会の議員らに対して、核兵器問題についてロシアとの対話を始めるよう呼びかけた。「残念ながら、近年米国内で生じている敵対的な国内政治状況により、核兵器の問題を含むあらゆる領域の問題に関する米ロ両国間の対話が阻害されている。党派間の違いを乗り越えて、真剣な対話を始めるべき時だ。」とゴルバチョフ氏は語った。

「政治家は、現状を分析し、自らの行動が新たな軍拡競争を起こさないようにしなくてはならない。ロシアにはその準備があると、私は自信を持って言える。」とゴルバチョフ氏は断言した。(原文へ

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|視点|壊滅的な軍拡競争が依然猛威を振るう(ソマール・ウィジャヤダサ国際弁護士)

スリランカ出身の世界的外交官ジャヤンタ・ダナパラ

【コロンボIDN=HMGSパリハカラ】

スリランカ出身の外交官・国際公務員として、紛争調停・国際交渉の歴史に巨大な足跡を残したジャヤンタ・ダナパラ氏(INPSとSGIが推進している核廃絶メディアプロジェクトのアドバイザー、コラムニストでもある)の半世紀に及ぶ歩みをまとめた新書「Sri Lankan Son and Global Diplomat」の書評。(原文へ

INPS Japan

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再び非大量破壊兵器地帯への軌道に乗る中東諸国(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

中東地域における非核兵器地帯の確立は、国連の軍備管理・不拡散分野において最も困難な取り組みの一つである。この数十年間、他のいくつかの地域では、平和と安全を大いに高める非核兵器地帯を確立する条約の交渉・採択に成功してきた。

核兵器は、まずは、南極や宇宙、海底といった無居住地において禁止された。1967年、ラテンアメリカ・カリブ海地域は、人口居住地域における核兵器非核地帯確立のパイオニアとなり(トラテロルコ条約)、これに、南太平洋(ラロトンガ条約)、東南アジア(バンコク条約)、アフリカ(ペリンダバ条約)、中央アジア(セメイ条約)、さらにモンゴルが加わっている。

そのほとんどが南半球にある114カ国が、自らの領土において核兵器を認めず、その他関連義務を受け入れている。これらの国々は、背景の歴史・政治・経済・文化や直面する安全保障環境は異なるが、核兵器やその他の大量破壊兵器を保有していないという重要な一点では少なくとも共通している。

中東地域の状況は異なるが、域内の国々は長年にわたって、これを現実にすべく努力を続けてきた。

中東非核兵器地帯創設に関する最初の決議は、イランとエジプトが1974年に提案したもので、その後、昨年に至るまで、国連総会で無投票で毎年採択されている。安保理決議の中にはこの提案を認めたものもある。同様に、1991年以来、国際原子力機関(IAEA)総会が、中東のすべての核施設へのフルスコープ保障措置の適用は「非核兵器地帯確立への必要なステップ」であるとする決議を毎年採択している。

1988年、国連は中東非核兵器地帯の推進につながる措置に関する研究を行い、主に信頼醸成措置の形でこの件に関する勧告を出した。1989年、IAEAはこの目標に向けたステップとして、中東地域の核施設に適用可能な保障措置システムの形態に関する研究を行った。

核不拡散条約(NPT)寄託国であるロシア、英国及び米国が共同提案した決議が一つの突破口となった。中東地域に、効果的に検証可能な核兵器などの大量破壊兵器のない地帯(非大量破壊兵器地帯)の創設を目指す決議案が採択されたのである。

1995年のNPT再検討・延長会議においてこの「中東に関する決議」は、他の文書(「条約の運用検討プロセスの強化」「核不拡散と核軍縮の原則と目標」)とパッケージで、NPTの無期限延長が投票によらない無評決で決定された。しかし、中東諸国間の厳しい対立と、域外諸国も含めた脅威認識や安全保障上の懸念を巡る立場の相違から、これまで実質的な進展はみられていない。

2000年、NPT再検討会議は、中東非大量破壊兵器地帯によって、世界及び中東地域の平和と安全は高まり、不拡散レジームの強化につながり、核軍縮という目標の達成に向けて寄与するところが大きいとの認識を再確認した。同会議は、進展の少なさに遺憾の意を示し、1995年中東決議の完全履行を5つの核兵器国が改めて公約したことに留意した。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

国連事務総長と1995年中東決議の共同提出国が主催して、中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議を核兵器国からの全面的な支援と関与を得て2012年に開催するという了解を2010年NPT再検討会議が是認したことで、出口が開かれたかに見えた。

国連事務総長と1995年中東決議の共同提出国は、中東諸国の協力を得て、同決議の履行を支援する任務を与えられたファシリテーターを任命することになっていた。ファシリテーターは、2015年NPT再検討会議とその準備委員会会合に報告することになっていた。さらに、2012年会議のホスト国が指名されることになっていた。

これに従って、国連の潘基文事務総長は1995年中東決議の3つの共同提出国及びその他の関連各国と協議を行い、フィンランドの外交官ヤッコ・ヤーラバ氏をファシリテーターに指名した。その後数年にわたってヤーラバ氏は、イスラエルやその他の中東諸国と協議を行ったが、進展ははかばかしくなかった。

2015年NPT再検討会議では新たな努力がなされたが、2016年までに中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議を開くとの議長提案を米国・英国・カナダが受け入れなかった。これらの国々は、この提案は「コンセンサスと平等」の原則に則っておらず、「実現しえない条件」と「恣意的な期限」を含んでいると主張した。こうして2015年の再検討会議は実質的な最終文書の採択に失敗した。

中東諸国には失望が広がり、2018年会期の国連総会では別の戦略が採られた。国連総会では、NPT再検討会議のような全会一致原則とは異なり、多数決で決定がなされる。そこでエジプトが、中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議を、2019年と、同非大量破壊兵器地帯が達成されるまで毎年招集することを国連事務総長に義務づける決議を、国連総会第一委員会に提出したのである。

決議は、賛成88、反対4(イスラエル・リベリア・ミクロネシア・米国)、棄権75で採択された。

これに従って、アントニオ・グテーレス事務総長は中東非核・非大量破壊兵器地帯化に関する会議を招集した。この第一会期は、ヨルダンのシーマ・バホウス大使が議長を務める形で、今年11月18日から22日にかけてニューヨークの国連本部で開かれた。

中東地域からは23カ国が参加した。NPT上の5つの核兵器国はオブザーバーとして招待された。中国・フランス・ロシア・英国は招待を受諾した。参加者らは、手続規則に関する合意がなされるまでの間、手続き的・実質的内容について全会一致で議論をすすめることで合意した。手続規則は、会期の間に協議が継続することになっている。

Conference on the Establishment of a Middle East Zone Free of Nuclear Weapons and Other Weapons of Mass Destruction by UNODA
Conference on the Establishment of a Middle East Zone Free of Nuclear Weapons and Other Weapons of Mass Destruction by UNODA

テーマ別討論は、原則と目標、核兵器に関する一般的義務、他の大量破壊兵器に関する一般的義務、平和利用、国際協力、制度整備、その他の側面について話し合いがなされた。来年の第二会期に先立ち、既存の非核兵器地帯の加盟国の代表が招待され、これまでの経験と教訓を共有することになっている。

会議が採択した政治宣言は、核兵器とその他の大量破壊兵器のない地帯を検証可能な形で創設出来れば、中東地域及び国際の平和と安全に寄与する部分が大きいという参加各国の見解について述べ、中東諸国の自由意思による取り決めを基礎とした法的拘束力のある条約の策定を、オープンかつ包摂的に追求する意図を確認した。

そうした考えから、同会議は、この政治宣言を支持しプロセスに参加するよう、すべての国々に呼びかけた。参加諸国はまた、政治宣言と同会議の成果に対するフォローアップを行うことを公約した。次の会期は、ニューヨークの国連本部で2020年11月16日から20日にかけて開かれる。

中東非大量破壊兵器地帯の実現を目指した国際社会のこれまでの取り組みの歴史と、今日の中東地域の政治状況や緊張状態を考慮に入れるならば、今回の会議の最終成果は、まずまずの成功と言って差し支えないだろう。なぜなら、短期的な目標は、後に進展をもたらしうるプロセスを確立することにあると言えるからだ。

Sergio Duarte
Sergio Duarte

会議にイスラエルと米国が参加しなかったことは織り込み済みだが、会議が予定通り開かれることを妨げるものではなかった。両国が近い将来に立場を変えないことは明らかだろう。中東地域の国々がこの目的の下に団結し、落とし穴を避け得たことは特筆に値する。

しかし、安全保障環境に関する多様な見方を今後のプロセスのなかで調整していかなければならない。今後の会期のなかで、意思決定方法が引き続き主要な議論の対象になり続けることだろう。一部の国々が、他の方法よりも全会一致方式が望ましいとしているからだ。採られるべき次のステップに関する会期間の議論が重要になってくる。

中東諸国や関連主体、わけても核兵器国の強い意志と外交的スキル、創造性、とりわけ政治的意志が、中東を核兵器とその他の大量破壊兵器のない地帯にする道筋を進むうえで必要となる。国際社会は、この取り組みに対して全面的に支援すべきだ。(原文へ

INPS Japan

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オーストラリアの「核をやめろ」運動、年金基金を標的に

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

年金基金に対して投資先から核兵器製造企業を外すように要請する運動がオーストラリアで始まった。これは国連の核兵器禁止(核禁)条約の精神に沿ったものである。同条約は、50カ国目が批准してから90日で発効することになっているが、現在、批准を終えているのは33カ国で、あと17カ国が批准することで国際法として効力を持つようになる。

戦争防止医師会議(MAPW)と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の共同イニシアチブである「核をやめろ」キャンペーンは、オーストラリアのプロジェクトで、核兵器に対する投資の実態を記録する年次報告書『核兵器に投資するな』を発行している団体「パックス」と共同で実施している。

「核をやめろ」のマーガレット・ペリル代表は、「このキャンペーンは、投資額2兆ドル超と、世界最大規模の年金基金のひとつになっているオーストラリアの年金産業を標的にしたものです。」と語った。

Quit Nukes
Quit Nukes

世界規模の市場調査会社「イプソス」が今年8月に行った世論調査によると、オーストラリア国民の実に69%が、年金基金は核兵器の生産や配備を支援する企業に投資するべきではないと考えていることがわかった。しかし、「パックス」の評価によれば、約190の年金基金のうち、非核兵器の方針を貫いているのは「オーストラリアン・エシカル」と「フューチャー・スーパー」の2基金だけであった。

「フューチャー・スーパー」は、核エネルギーやウラン採掘、核兵器や核関連の産業から利益を得る企業に投資しないと公約している。その創設者であるサイモン・シェイク氏はIDNの取材に対して、「私たちは、壊滅的な核爆発による放射性降下物も含めて、社会や環境に対するリスクを抑えるための長期的な視点で考えています。自分のお金がどう投資されるのか、自分たちと次世代にとってどのような将来を作るのかということに関して、全てのオーストラリア人に選択肢が与えられるべきです。」と語った。

キャンペーンでは、核兵器のリスクについて年金基金に情報を提供し、核兵器から脱却した投資を促すとともに、核兵器生産に関連した企業をポートフォリオから外した投資を行うよう求めている。

核兵器への投資を拒絶していることで有名な「オーストラリアン・エシカル」の倫理研究部門長であるサイード・スチュアート・パルマー氏は、「核戦争は、地球上の生命の存在そのものを脅かす危険性を孕んでおり、核技術や核物質を核兵器製造のために悪用する危険は、私たちが原子力発電所に対しても投資しない理由の一つになっています。」と語った。

「核をやめろ」キャンペーンは、次の18企業を投資先から排除することを訴えている。

イーコム(米)、アエロジェット・ロケットダイン(米)、エアバス(オランダ)、BAEシステムズ(英)、ベクテル(米)、ボーイング(米)、BWXテクノロジーズ(米)、フルオール(米)、ジェネラル・ダイナミックス(米)、ハニウェル・インターナショナル(米)、ハンチントン・インガルス・インダストリーズ(米)、ヤコブズ・エンジニアリング(米)、ラーセン&トゥブロ(インド)、ロッキード・マーチン(米)、ノースロップ・グラマン(米)、サフラン(仏)、セルコ(英)、サルズ(仏)

ICAN豪州支部のジェム・ロムルド代表はIDNの取材に対して、「世界の圧倒的多数の人々が核兵器の廃絶を望んでおり、彼らの銀行口座やスーパーファンドをこの目的促進のために使えることを認識しています。」「毎年1000億ドルが核兵器産業に投資されているのだから、核兵器製造企業に対する資金を減らし、彼らに社会的認知を与えないことは、核禁条約を適用する強力な方法となります。」と語った。

国際的にみれば、金融機関は、核禁条約に参加していない国における核兵器製造企業を排除している。同条約は、ひとたび発効すれば、化学兵器や生物兵器、地雷、クラスター弾に関する条約がそうであったように、核兵器を違法化することになる。

「核禁条約はまた、金融も含め、核兵器生産の支援も禁じています。オランダの主要な年金基金『ABP』や、ノルウェーのソブリン・ファンドなどのいくつかの金融機関が核兵器製造企業から投資を引き上げる基礎と動機を同条約はすでに与えています。」とロムルド代表は付け加えた。

核兵器への投資はまた、国連が支持する「責任ある投資の原則」(UNPRI)にも反している。UNPRIの署名者になった投資家やアドバイザーに対しては「彼らは当然に国連の持続可能な開発目標(SDGs)に従うという期待があります。」SDGの第16目標は、とりわけ平和な社会について掲げています。従って、核兵器への投資はSDG第16目標に反することになるのです。」と、ペリル氏はIDNの取材に対して語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

2018年11月に「イプソス」が行った調査によると、オーストラリア国民の実に79%が核兵器禁止条約の署名・批准を望んでいることは注目に値する。オーストラリアは核兵器を保有していないが、米国との同盟の下で拡大核抑止に依存しており、これが同国の国家安全保障にとって鍵を握ると考えられている。

オーストラリア国立大学戦略・防衛研究センターのシュテファン・フリューリンク博士はIDNの取材に対して、「オーストラリアはインド・太平洋地域の安全保障秩序に米国の核兵器がもたらす安定化作用に価値を見出しています。米国の拡大抑止の合法性を認めず、ついては米国との同盟を非合法化することで、国際の安全の主要な柱を損なうような核禁条約に署名すべきではありません。」と語った。

「米国の他の同盟の場合とは異なり、米豪同盟において米国の核兵器はさほど大きな役割をもってこなかった。オーストラリアが米国のアジアにおける抑止力を支えるために政治面とともに戦略面で何ができるかという問題が、過去にもまして将来的に重要になってくるであろう。」

つまり、オーストラリアは、アジアの戦略的秩序における安定化要素だという理由で、米国の拡大核抑止に重要性を見出しているということになるのだろうか。「パシフィック・フォーラム」(本拠ホノルル)の副代表で核政策研究部門の責任者を務めるデイビッド・サントロ氏はIDNの取材に対して、「オーストラリアは、米国の拡大核抑止に対する貢献拡大も含めて、インド太平洋地域における抑止力と防衛力を強化する必要があると認識しています。中国の再勃興に見られるような、この地域の安全保障環境が急速に変化するなかで、そうした取り組みは安定化要因になると見ているのです。しかし、オーストラリアは、抑止や防衛の面でより大きな負担を負うことに伴うリスクもよく理解しています。こうした問題に関して、とりわけ核兵器の側面に関するアンザス条約(オーストラリア、ニュージーランド、米国による安全保障条約)内部での対話が必要です。」と語った。

前出のフリューリンク氏、サントロ氏に加え、アンドリュー・オニール教授は、11月15日にシドニー大学米国研究センターが発表した報告書「協力の強化:核抑止と米豪同盟」において、米国の拡大核抑止に対するオーストラリアの関心は「主に『見捨てられ』の懸念よりも『巻き込まれ』に関するもの」であり、「米豪同盟は、抑止力を核兵器に依存する程度を低下させるために、まずは通常兵器による長距離打撃能力の面での協力を検討し、万一オーストラリアの安全保障環境が悪化する場合は、極限の状態に限り核兵器を含む協力の拡大をはかる可能性があるというシグナルを送ることが必要だ」と論じている。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2019年初めの時点で、9カ国(米国・ロシア・英国・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)が合計で約1万3865発の核兵器を保有している。うち、3750発が作戦使用可能な状態にあり、約2000発が高度な警戒態勢下に置かれている。(原文へ

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「世界と議会」2019年秋冬号(第584号)

特集:平成から令和へ-日本政治の未来

理事長就任一周年記念講演
「平成から令和へ-日本政治の未来」/高村正彦

特別論文
 勇気ある政治家たち-戦時中の政治家たちは何を思い、どう動いたか
 /高橋大輔

■歴史資料から見た尾崎行雄
 第2回「尾崎記念会館記(上)開館当時のパンフレットから」/高島笙

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 カザフスタンが非核世界推進の立役者を表彰

■連載『尾崎行雄伝』
 第十四三章 政友会の結成

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
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|キルギス|10代で略奪婚による花嫁となった母親の告白

【ナリンIDN=アクイラ・ハッサンザダ】

マイラム・ビビさんは、「息子には決して父親の真似をしてほしくない。」と語った。「父親」とは、かつて10代の少女だったマイラムさんを誘拐して暴力的な婚姻生活を強いた夫のことである。

現在41歳になるマイラムさんは小さな藁葺屋根の自宅に座って記者に身の上話を聞かせてくれたが、略奪婚を強いられた経験を語れるキルギス女性は少なくない。

彼女が10代だったある朝、登校していると突然古い車が目の前で急停止した。2人の男たちが車から出てきてマイラムさんに向かって突進してきた。彼女は恐怖で立ち竦んだ。マイラムさんは、若い女性が自分が住む街で突然誘拐されて結婚を強いられる風習「アラ・カチュー」について耳にしたことはあったが、この時までまさか自分が「アラ・カチュー」の犠牲者になるとは想像だにしていなかった。マイラムさんは、人助けができるよう、医学系の学校に進学して医者になるのが夢だった。

Map of Kyrgistan
Map of Kyrgistan

2年前、マイラムさんは(今回の取材時と同じく)この藁葺屋根の自宅で、黒いスカーフを被って座っていた。一瞬物思いに耽ったマイラムさんは、2000年の夏のある日のことを考えていた。それは、(略奪婚に遭遇する以前)かつて常に夢見ていた学校を卒業する日のことだ。

しかし突然耳に入ってきた誰かが嘆き悲しむ甲高い声で、マイラムさんは現実に引き戻された。目を開けると、夫の葬儀に伴う会食が行われている最中で、弔問客に囲まれて黒の服と黒のスカーフを纏った自分自身の姿が目に入ってきた。

絶望に打ちひしがれ言葉に詰まったマイラムさんは、自分の人生を台無しにした男が今やこの世を去ったことを実感したのだった。

「私は、17年前に自分を誘拐した男、つまり私の夫が今や心臓発作でなくなったという現実を喜ぶべきなのか、それとも悲しむべきなのか、よくわかりません。」とマリアムさんは語った。

マイラムさんは、夫のことを思い出すと苦笑いし、「あの男は何年にもわたって私を虐待してきました。私は子供たちを守りたい一心で我慢するしかありませんでした。彼は建設現場の作業員で、その収入で自分と子供たちの生活を支えてきました。」と語った。

略奪婚「アラ・カチュー」については何年にもわたって警察に被害届が出されているにもかかわらず、キルギスでは未だに一部でこの風習が実践されている。人権問題の研究者らは、「キルギス政府は、略奪婚関連法を十分施行しておらず、高い確率で横行している女性や女児に対する家庭内暴力に対処できていない。」と語っている。

マイラムさんの夫が亡くなった翌年の2018年5月、当時大学生のブルライ・トゥルダーリ・クズさんが略奪婚を目的とする男に誘拐された。犯人は逮捕されたが、彼女が警察署で告訴手続きをしているときに、その犯人によって刺殺されてしまった。この事件を契機に、キルギスの女性たちは、既に非合法のはずの「アラ・カチュー」の問題をソーシャルメディアの各種プラットフォームにアップして国際機関にこの問題をとりあげるよう訴えた。しかし一方で、取材に応じたある匿名希望の女性は、「略奪婚の犠牲者の多くは、誘拐者らによって沈黙を守るよう強制されているか、家族の誇りを守るためとして声を封じられている。」と語った。

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのヒラリー・マルゴリス研究員は、「キルギス政府は、本来女性や女児らの命を守るべき法律を施行するために最善を尽くしているとは言えない。」と指摘したうえで、「キルギス政府は、女性や女児に対する保護責任を他に転嫁することはできません。今のままでは、法律はあってもその施行を待っている間に、ブルライさんのような女性がこれからも犠牲になっていくことを意味します。」と語った。

キルギス政府の統計によると、2019年の最初の3か月だけでも2000件以上の家庭内暴力が警察に通報されている。

人権擁護団体がラジオ・フリー・ヨーロッパとラジオ・リバティーに述べたところによると、こうした家庭内暴力案件の60%が、キルギスで横行している略奪婚に起因する身体的な暴力を含んでいた。

国連開発計画によると、キルギスでは毎年1000人近い少女らが略奪婚の犠牲になっており、政府は、この非合法化されているはずの慣習を防止する法律の適用や安全対策はなされていない。

国連の女子差別撤廃委員会は、9月に「略奪婚」に関する調査報告書を発表し、その中で「キルギスにおける誘拐、強姦、強制結婚を強いる文化により、女性たちの人権が阻害されている。」と指摘するとともに、キルギス政府に対して、「とりわけ、あらゆる誘拐を防止調査するとともに誘拐罪を罰し犠牲者に賠償金を支払うことで、法律と法執行体制を強化するよう」呼びかけた。

a woman and four men on horseback. May be an example of the tradition of capturing or "kidnapping" a bride./ Public Domain
a woman and four men on horseback. May be an example of the tradition of capturing or “kidnapping” a bride./ Public Domain

「アラ・カチュー」は2013年に違法とされたが、一部のキルギス人は伝統の名のもとに今でも行動に移している。キルギス当局は、この風習が夫婦間レイプやトラウマに発展する暴力行為であると認定している。しかし、一部の地域では「アラ・カチュー」をソ連による支配以前からある伝統と呼び、なかには、略奪婚を実行に移す背景には部族の威信があるとさえ言うものもいる。ナルンで略奪婚を経験したある女性に取材した際、その女性は、「略奪婚は、伝統の名のもとに行われる誇るべき慣行」と語った。

マイラムさんは現在、夫の遺族年金で4人の息子たちを育てている。また政府からは4人の子どもたちへの資金と、必需品の購入と公共料金の支払いを支援する援助を受けている。マイラムさんは、自分自身は略奪婚の犠牲となり誘拐者である「夫」から虐待を受けてきたが、自分の息子たちには教育を施し、より良い生活をさせたいと希望している。

マイラムさんは、一縷の望み託すかのように子供たちを見つめながら、「子供たちには父親の歩んだ道は行かせません。17歳になる長男のクバンは、父親が私にした仕打ちを知っていて、自分は女の子を傷つけたり力づくで迫ったりするようなことはしないと言っています。願わくば、彼には普通の結婚をして幸せな家庭を築くのを見届けたい。」と語った。(原文へ

INPS Japan

※筆者は、中央アジア大学(キルギス)でメディア研究を専攻する学生。キルギスの特派員としてIDN・インデプスニューズのインターンシップをしている。

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来年の第10回NPT再検討会議に向けて不安高まる(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

10月のニューヨーク、(軍縮を議論する)第74回国連総会第一委員会は波乱の幕開けを迎えた。核不拡散条約2020年再検討会議に向けて、そして、軍縮関連の国連多国間機関での困難を暗示させるものだ。

一部代表団に対するビザの発給拒否を巡る論争のために、委員会の会期が始まってから2週間で、一般討論を終了させ、作業計画を採択することしかできなかった。代表らは激しい非難の応酬に陥り、ある時点では、作業を無期限延期しなくてはならないかに思えた。

妥協的手続き案がようやく見いだされて、議題に関する実際の討議が再開され、通常通りの決議採択へと進んでいったが、決議は繰り返しが多かったり、互いに矛盾を含んでいたりした。

Sergio Duarte
Sergio Duarte

第一委員会の2021年会期を別の場所で行うという前例のない提案が出されたが、圧倒的な差で否決された。多数の棄権(72カ国)は、加盟国の大部分が、2つの超大国の関係悪化を反映した論争から距離を置いたことを示していた。

今年初めには、国連軍縮委員会が同じような事情から通常の会期をもつのではなく非公式に作業を行うことを余儀なくされ、2020年NPT再検討会議の第3回準備委員会会合で厳しいやり取りと対立が見られたことを想起しておかねばならない。一部の主要国間の敵対的な空気が、国際の安全と軍縮問題を扱う二国間・多国間機関の機能不全の固定化と悪化の主たる要因だと言えるかもしれない。

加盟国の間の激しい非難の応酬には、第一委員会とは関係のない問題に関するものも含まれていた。しかし、それに続く実質的議題に関する討論は、核兵器に依存する国々と世界のその他の国々との間のアプローチの違いが相も変わらず明白であることを示した。

軍縮分野における合意の多国間枠組みの将来に対して、全般的な懸念が高まっている。核兵器国の同盟国の一部を含めた多くの加盟国が、崩壊しつつある軍備管理・不拡散体制に関する懸念を表明している。とりわけ、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約中距離核戦力(INF)全廃条約の失効がそうであり、同じような運命がイランとの包括的共同行動計画新START条約にも降りかかるかもしれない。これらの加盟国は、規範を基盤とした国際プロセスへの信頼を取り戻す措置をとるよう訴えた。既存の国際法の効果と妥当性に対する疑いが強まれば、合意済みの原則や協議済みの合意が、大国による他を無視した一方的決定に取って変わられる傾向が益々強まる事態を招きかねない。

Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.
Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.

第一委員会で、「核戦争には勝者はなく、決して戦われてはならない」とするレーガン=ゴルバチョフ時代の格言を再確認する緊急の呼びかけがなされた。また、一部の国々は、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効の必要性を強調するとともに、核兵器禁止(核禁)条約の署名・批准プロセスの進展について言及した。他方、一部の国々は、核禁条約はNPTと矛盾しそれを毀損するものであるとの主張を繰り返して、同条約に対する反対を表明した。

2020年の第10回核不拡散条約再検討会議で全会一致の成果を得ることの重要性も討論で取り上げられた。再検討会議は、国際の平和と安全のための主要な多国間枠組みとして、NPTの目標の再確認を促進する場だと一般には見られている。数人の発言者が、「NPTはまだ約束を果たしていない。」としてきた。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

そのうちの一人は「NPTという文脈の下で核兵器なき世界を目指すという全般的な目標は数十年も達成されていない。」と述べ、また別の一人は「核兵器の完全廃絶というNPTの究極の目的は、核戦力を強化、近代化し、核兵器使用の敷居を下げる計画が発表されるなかで、かすんでしまった。」と語った。

実際、NPT採択以来、49年以上が経ち、9回の再検討会議で成果があがったりあがらなかったりしたことは、NPTがその約束を果たす能力への信頼感が広く欠如していることを示している。こうした状態が長引けば長引くほど、協定としてのNPTに対する疑問符が付されるようになり、それが持つ核不拡散上の利点にも関わらず、核兵器保有国がその核戦力を正当化し、その永久的な保有を正当化する手段だとみなされるようになってきている。一部の側面に関するものだけではなく、あらゆる条項が履行され効果的に尊重されるようにする措置が、緊急に求められている。再検討会議は、この任務を果たすのに適切な場である。

NPTは、冷戦期の米国とソ連との間の緊密な協力の結果として生まれたことを頭に入れて置かねばならない。相互の不信と敵対にも関わらず、核兵器の拡散をできるだけ少数の国にとどめることへの共通の利益が勝ったのである。両国は協議を行い、18カ国軍縮委員会にNPTの草案を提出した。両国は、委員会の共同議長として、草案が通過するよう会議を運営し、採択のために国連総会に送った。両国の継続的なリーダーシップが、NPTの強さと安定のために必要な要素となる。

この関連で、NPT上の5つの核兵器国が、NPTへの信頼性を強化しうる共通の提案を出すことができず、世界全体に影響を及ぼす安全保障問題の多国間での取り扱いを再活性化できてこなかったことは、非常に残念だ。非核兵器国はNPTをあきらめるべきだという望ましくない提案が、こうして一部の学者らから発せられることになる。

NPTは歴史を通じてその強靭さを証明してきた。たしかに、ジョン・F・ケネディ大統領が1961年に恐れたように、NPTの誕生が核兵器の拡散を防いできた唯一の理由とはいえない。しかしながら、核拡散をごく少数の国々に留めてきた点は称賛に値する。条約の採択を勧告した1968年の決議2373の採決にあたって国連加盟国の4分の1が反対あるいは棄権したという事実に現れているように、国際社会の多くの構成国がNPTに対して抱いていた初期の疑いやためらいは徐々に解消し、NPTは軍備管理分野において最も加盟国の多い条約になったのである。1995年には無期限延長という試練を乗り越えたが、今の時点からみてみると、非核兵器国は、条約第10条2項に規定されている25年間の延長という形で外交上のテコを得た方が賢明だったかもしれない。

核軍備管理と軍縮の分野における現在の悲観的な空気が2020年NPT再検討会議にどのような影響を与えるかについて、相当の不安がある。多くの当事者が、2回連続で会議が失敗に終わることの負の影響を案じている。幸いにも、第3回準備委員会会合は、必要な手続き的決定に合意し、次の再検討に向けた実質的な非公式協議が行えることになった。

2020年再検討会議の議長に就任する予定だったラファエル・グロッシ大使が天野之弥・国際原子力機関(IAEA)事務局長の逝去を受けて同職に選出されたため、その代わりを見つけるための協議が行われている最中だ。実質的な問題については、第3回準備委員会会合議長の要約的結論が、前進の基礎として有益なものを提供してくれている。

軍拡競争の再来と、それが宇宙やサイバー空間に広がりつつある現状、それに、新しくより脅迫的な戦争技術開発の見通しは、NPTの多くの加盟国にとって根底的な不安となっている。あらたな運搬手段が探知不能な場所から発射され、核兵器を搭載して、音速の数倍の速さで、わずか数秒で標的に到達するという状況に直面して、防衛システムが突如として機能不全に陥り無力化する状況を想像するのは困難なことではない。

そうしたシナリオにおいては、現在の核抑止ドクトリンの価値は消滅してしまうだろう。皮肉なことに、そうした技術の開発が近い将来、この問題に対する解決策を提供することになるかもしれない。すなわち、完全なる破壊と、攻撃を受けた国で反撃のボタンを押す人間が不在の状況の下で、人工知能が自動的に報復核戦力を発動し、敵と、そしておそらくは世界全体を絶滅させる、というシナリオである。

近代核兵器の巨大な破壊力を考えれば、「相互確証破壊」は「一般的確証破壊」と言い換えられるべきだろう。すなわち、私たちが知っているような人類文明は、地球上から一掃されうる、ということだ。人間の愚かさが、これまた別の人間の愚かさの産物である野放図な気候変動が数十年かけて成しうること(=人類の絶滅)を、わずか数分で成すことになるのだ。

ICAN
ICAN

こうした不吉な現状を反転させるのに、遅すぎることはない。先見の明を持ったリーダーシップ、とりわけ最も多くの核を保有する国からのそれが緊急に求められている。米国とロシアは対話と建設的な協力を再開して、冷戦期ですら可能であった核戦力の大規模な削減に取り組むべきだ。さらなる削減を交渉・合意し、核兵器そのものの廃絶を導くべきだ。他の核兵器国は、手をこまねいて見ているのではなく、世界の安全保障環境の改善に対する責任を果たすべきだ。国際社会全体は、軍縮の公約履行を促進し、現在の行きづまりを打開する解決策を見つけ、多国間の軍縮機関で協議を行うよう、積極的な取り組みを行うべきなのだ。この点で、市民社会と世論からの激励と支援が肝心である。

核軍縮の方向に向けた建設的なイニシアチブが、122カ国が核兵器禁止条約を交渉・採択するという形で2017年にやってきた。国際社会は、同条約とNPTが両立可能かという点に関して不毛な議論に興じるよりも、両者の相補的な側面を強化して、すべての大量破壊兵器のない世界という高い目標の達成に向かわねばならない。

Civil Society Applauds UN nuclear ban treaty adoption 7th July 2017. Credit: Clare Conboy | ICAN.
Civil Society Applauds UN nuclear ban treaty adoption 7th July 2017. Credit: Clare Conboy | ICAN.

すでに述べたように、「核戦争には勝者はなく、決して戦われてはならない」とNPT再検討会議が厳粛に宣言することの重要性が、2019年の国連総会第一委員会でも強調されていた。NPTに盛り込まれた核不拡散、原子力の平和利用、核軍縮という目標へのコミットメントを全ての加盟国が再確認することは、より具体的な合意に向けた望ましい出発点になるだろう。

たとえば、米国とロシアは新STARTの5年延長に合意して、核戦力のさらなる削減に向けたあらたな協議の土台を作ることも可能だ。また、NPT上の5つの核兵器国は、(a)核兵器やその他の戦争手段における技術的手段の凍結を約束する、(b)計画的であれ偶発的なものであれ、核紛争のリスクを減じることを目的としたあらたな信頼醸成措置を交渉し採択することに合意する、(c)既存の提案に関する実質的協議を始めることによって、とりわけジュネーブ軍縮会議などの国連の軍縮諸機関の再活性化を図る、といったことも可能だろう。加えて、NPT再検討会議は、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効の重要性を、NPTの目標実現の一部として取り上げることもできる。

NPTは多国間軍備管理枠組みとして重要な位置を占めている。欠陥はあるものの、現在の国際的な岐路にあって必要なものだ。NPTは、拡散を防ぎ、原子力の平和的利用に対するすべての国々の権利を認め、核兵器廃絶の約束を保つことに成功してきた。さらに、NPTは、核軍縮に向けて誠実に努力することを核保有国に法的に義務づけている唯一の法的文書である。すべての加盟国が、再検討会議において、NPTの能力を完全に活かし、核兵器なき世界への道を切り拓くとの国際社会全体の長年にわたる望みを前進させるべく、努力を傾けることが肝要だ。原文へ

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※セルジオ・ドゥアルテ氏は、パグウォッシュ会議議長で、元国連軍縮問題上級代表。

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|日本|ローマ教皇の来訪を機会に死刑制度を巡る議論が再燃

【東京IDN=浅霧勝浩

「いのちなきところ正義なし〜日本の死刑制度の今後について〜」と題した国際シンポジウム」が開かれ、日本政府に対してオリンピックが開催される2020年に一切の死刑執行を停止する呼びかけがなされた。日本は死刑制度を維持している56カ国の一つである。また先進国(=OECD加盟36カ国)の中では死刑制度を維持しているのは米国と日本と韓国のみである。

この国際シンポジウムは、23日から4日間にわたり日本滞在するローマ教皇フランシスコの到着を前に、来訪のテーマである「いかなる状況においてもすべての生命と人間の尊厳を守ることを中心に据える」を支持する意味合いを込めて、22日に開催された。

死刑廃止世界連盟共同設立者で聖エジディオ共同体のマリオ・マラッツィーティ氏は、フランシスコ教皇の訪日が、日本に死刑制度について再考する契機となることを希望すると語った。

Photo: Mario Marazziti, co-founder of the World Coalition Against the Death Penalty in 2002 and Member of the Italian Chamber of Deputies. Credit: Katsuhiro Asagiri | INPS-IDN Multimedia Director.

聖エジディオ共同体は、カトリック教会と現代社会の関係を協議した第二バチカン公会議直後の1968年、当時高校生だったアンドレア・リッカルディ氏とその仲間たちによってローマの高校で設立されたカトリックのコミュニティーである。その後共同体は大きく成長し、現在、70カ国以上にひろがっている。

聖エジディオ共同体は、社会の周辺に追いやられた人々に寄り添い、年齢や生活環境に関わらず、福音に耳を傾け貧しき人々と平和のために自主的で無償の支援を差し伸べる兄弟愛で団結した人々が集っている。

死刑制度に断固反対の立場のマラツィティ氏は、「罪を犯した人の命を奪っても、死がさらに増えるだけであり、新たな犠牲者を生みます。」と語った。「犠牲者の家族はしばしば、死刑が『正義』を施し『苦痛からの癒し』を約束するという『嘘』をつかれているのです。このようなものの見方が、日本人の大半は死刑制度の継続に好意的、という世論調査の結果に反映されています。」

「しかし現実には『恨みを固定し、復讐の時を窺う人生へと人々を置き去りにします。』と、死刑制度廃止に専念するイタリア人ジャーナリストでもあるマラッツィティ氏は語った。

オリンピックが開催される2020年に一切の死刑執行を停止するというマラツイッティ氏の提案は、駐日イタリア大使館、日本の死刑制度の今後を考える議員の会、日本弁護士連合会など幅広い支持を得た。この国際シンポジウムは、生命山シュバイツァー寺、創価学会平和委員会の協力を得て衆議院議員会館で開かれた。

「いのちなきところ正義なし」という国際シンポジウムのテーマは、死刑が確定している袴田巌(83歳)さんと姉の秀子(86歳)さんが参加したことで一層強調されることとなった。袴田氏は、日本で死刑制度に反対する運動の象徴的な存在となっている。

Iwao Hakamada/  Photo credit: Katsuhiro Asagiri| INPS
Iwao Hakamada/ Photo credit: Katsuhiro Asagiri| INPS

死刑囚として収監中にカトリック教徒に改宗した袴田氏は、姉とともにフランシスコ教皇が主宰するミサに参加した。2014年に、静岡地裁は、DNA鑑定により犯人の血液と一致しないとして袴田巌氏を釈放した。しかし昨年、東京高等裁判所はDNA型鑑定を信用できないとして 静岡地裁の決定を取り消した。現在、審議は最高裁に持ち込まれている。

袴田氏の支援者や弁護士らは、同氏は「人質司法」として知られるようになった自白強要を偏重する日本の刑事司法制度の被害者だと述べている。

袴田氏は、一旦は殺人を自白したが、初公判で全面否認に転じた後は一貫して無罪を主張し続けた。公文書によると、袴田氏は弁護士の立ち合いを許されないまま連日10時間以上にわたり警察の尋問、殴打、虐待に晒された。彼は味噌製造会社の上司と妻、2人の子どもが殺害された1966年の事件の犯人として起訴され、1968年に死刑判決を受けた。

AP通信の報道によると、当時袴田氏の死刑判決に関与した裁判官の一人は、後にこの事件について当初から疑念を拭いきれなかったと認めている。警察は証拠として味噌タンクの中で発見された血染めの衣類を提出したが、その味噌タンクは以前に警察が徹底的に捜索していたものだった。

この裁判官は(無実の心証を持ちながら死刑判決文を書いた)罪の意識から自殺未遂を図っている。のちにキリスト教に改宗し、袴田氏と同じ洗礼名パウロに日本人殉教者三木の名を加えたパウロ三木を名乗った。また、プロボクシング協会も(元プロボクサーの)袴田氏を支援する意向を表明している。

「毎晩9時から10時半までイエス・キリストに祈りを捧げ、無罪を訴えています。この祈りの時間、私は苦しみから解放されて自由になれます。神の愛と祝福のお陰で私はここに存在し真実を叫び明日に向かって歩くことができます。」と袴田氏は獄中で記している。

Hideko Hakamada/ Photo credit: Katsuhiro Asagiri| INPS

袴田氏の姉秀子さんは、シンポジウムの参加者らに向かって、「弟はあまりにも長い間、死刑囚として過ごしてきました。今も死刑囚のままです。」「よくぞ元気で出てきたと、私は喜んでいます。でも、拘留時のトラウマから妄想を引き起こす傾向があり、まだ全然まともではありません。」と声を詰まらせながら語った。

国際シンポジウムでは、袴田氏の再審請求などに携わる弁護士らからは、「人権上、国家が国民の命を奪うことは許されるのか。」「一旦死刑が執行されれば、取り返しがつかない。冤罪で処刑された人を生き返らせることはできない。」など、死刑制度への批判が次々と上がった。

日本の死刑制度の今後を考える議員の会会長の河村健夫元官房長官は、「死刑制度が維持されている背景には国民の根強い肯定論があるが、冤罪の可能性から廃止の声も上がっている。改めて国民的議論を喚起する必要がある。」と語った。

この国際シンポジウムが、フランシスコ教皇の訪日の前日に開催されたことは、教皇フランシスコが、昨年、死刑は「許容できない」と述べ、『カトリック教会のカテキズム』中の、死刑に関する記載変更を承認した事実を想起させる狙いがあった。

獄中でカトリックの洗礼を受けた袴田氏はフランシスコ教皇が執り行う東京ドームでのミサに招待され、姉とともに参列した。しかし教皇の謁見は叶わなかった。フランシスコ教皇は、「袴田氏の事件については後ほど知った。」と述べている。

International Symposium
International Symposium

しかしフランシスコ教皇は、東京からバチカンに戻る特別機の中で開いた記者会見で、25日に行った安倍晋三首相との会談で死刑問題についても(多くの議題の一部として)言及したと語った。

Pope Francis in a meeting with President Christina Fernandez de Kirchner of Argentina in the Casa Rosada./ By Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation), CC BY-SA 2.0
Pope Francis in a meeting with President Christina Fernandez de Kirchner of Argentina in the Casa Rosada./ By Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation), CC BY-SA 2.0

共同通信によると、フランシスコ教皇は、死刑問題について「(世界での死刑廃止へ)少しずつ取り組んでいかねばならない。」と述べ、進展には時間がかかるとの見方を示した。

フランシスコ教皇は世界で初めて原爆が投下された広島と長崎も訪問した。この点について、東京からバチカンに戻る特別機の中で開いた記者会見で、「広島での経験は心を動かされた。」と語った。広島では被爆者と言葉を交わし証言に耳を傾けた。そして、カトリックの教えの中で核兵器の使用と保有が倫理に反すると明記することを明らかにした。

NHKワールドの報道によると、フランシスコ教皇はまた、「(個人的な意見だが)完全に安全性が確認されるまでは原子力は利用しない」と語った。(原文へPDF

Opening keynote address by Mario Marazziti “No Justice Without Life”/ filmed by Katsuhiro Asagiri

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ナイロビIDN=ジャスタス・ワンザラ】

ケニアの首都ナイロビで11月12日~14日の日程で開催されたナイロビ・サミット(ICPD+25)は、1994年の初の国際人口開発会議(ICPD:カイロ会議)が開催されてから25周年の節目となるもので、女性・女児の人権擁護に向けた大胆な公約が採択されて、幕を閉じた。

世界各地から首脳や学者、人権活動家、宗教者ら6000人以上が集ったこの会議では、パートナーらが、2030年までに、妊婦の死亡をなくし、家族計画に関するニーズを満たし、ジェンダーを基礎とした暴力や女性・女児に対する有害な行為をなくすことを誓った。

国連人口基金がデンマーク、ケニア両政府とともに招集したナイロビ・サミットは、包摂的なプラットフォームを提示し、政府や国連機関、市民社会、民間部門、女性団体や若者のネットワークなど幅広いステークホールダーが参加した。

参加者らは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成は、女性や女児、若者が自らの体と命をコントロールでき、暴力のない生活を送れない限り難しいと主張した。

国連人口基金のナタリア・カネム事務局長は、「ナイロビ・サミットは、刷新され一層エネルギーを得たビジョンと、行動し成果をもたらす協働コミュニティーの有り様を映し出したものです。」と指摘したうえで、「共に手を携えていけば、今後の10年を、女性と女児のために具体的な行動を起こし結果を生み出せる10年にすることが可能です。」と語った。

サミットではまた、設定された目標を達成するために必要なコストに関する新たなデータも示された。国連人口基金とジョンズ・ホプキンズ大学がビクトリア大学、ワシントン大学、アヴェニール・ヘルスと協力して行った分析によると、これらの目標を達成するために世界が必要とする額は全体で2640億ドルであるという。

カネム事務局長は記者会見で、こうした投資は3つの目標達成に寄与すると語った。①妊娠するか、するとすればいつか、子どもを何人産むかということに関して女性や思春期の少女が決定するための避妊という、未だに満たされていない目標を満たすこと、②予防可能な妊婦の死亡を防いで、リプロダクティブヘルス/ライツ(女性個人やカップルが子どもを、いつ、何人産むかを主体的に選択する権利)の欠如のために女性が命を失わないようにすること、③ジェンダーを基盤とした暴力と、女性器切除、児童の婚姻及び強制的な婚姻を完全になくすこと。

Natalia Kanem/ UN PHOTO/ MARK GARTEN
Natalia Kanem/ UN PHOTO/ MARK GARTEN

カネム事務局長はまた、「2640億ドルを『コスト』とは呼びたくありません。むしろ、人類への投資と捉えるべきです。それは、人類が負担を避けられないコストなのです。」と語った。この額には、ナイロビ公約の達成に向けて、今後数年における新規の投資750万ドルと、イノベーションをもたらす投資、民間部門の活性化が含まれる。

カネム事務局長は、「ICPDは包摂的で、レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)などの社会の片隅に追いやられたいかなる集団も排除されていない。」と強調した。

今回の会議は、若者や草の根活動家といった社会に無視されてきた集団に対して、いかにしてすべての人々の権利と健康を実現するのかという点に関して国家元首や政策決定者と共に取り組む機会を提供した。

カネム事務局長は、これまでの足跡を振り返りつつ、将来も見据えて、「これからの道のりは長いが、カイロ会議以来25年の間に進歩はみられた。」「妊婦死亡率は世界全体で44%も下がりました。つまり、妊娠や出産時に亡くなっていたかもしれない400万人の女性が、現在生きているということです。」「しかし、前進は十分ではありません。女児や女性、あらゆる人々に対してなされた約束が、果たされなければなりません。」と語った。

拠出金については、様々な国々―たとえば、オーストリア・カナダ・デンマーク・フィンランド・フランス・ドイツ・アイスランド・イタリア・オランダ・ノルウェー・スウェーデン・英国に加え欧州委員会―が10億ドルの拠出を公約した。またフォード財団、ジョンソン&ジョンソン、フィリップス、ワールド・ビジョン等の民間部門も、合計で約80億ドルの支出を約束した。

ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領は会議で演説して、人口と開発の分野において世界は1994年以来大きく変わりました。」「国家内でも国家間でも不平等は増加し、人口学的には多様性が増しました。一部の国は急速な高齢化を経験しつつあり、また別の国では若者層が史上最大に膨らみつつあります。」と語った。

President Barack Obama and First Lady Michelle Obama greet His Excellency Uhuru Kenyatta, President of the Republic of Kenya, in the Blue Room during a U.S.-Africa Leaders Summit dinner at the White House, Aug. 5, 2014. (Official White House Photo by Amanda Lucidon)

性の人権を損なうような慣行や政策、法をなくすべきと呼びかけたケニヤッタ大統領は、女性・女児に対する最悪の人権侵害であり続けている女性性器切除をなくす必要性を訴えるとともに、「この4月、ケニア・ウガンダ・タンザニア・ソマリア・エチオピア政府間で、女性性器切除の問題に対して共同で対処する画期的な宣言を行いました。」と語った。

ケニヤッタ大統領は、ジェンダー暴力や差別、虐待の被害者を念頭に、この場にいることができない「最も重要な参加者」のことを心に留めるべきだと訴えた。「私が言っているのは、おそらく最も近しい人からのジェンダーに基づく暴力に苦しむ世界のあらゆる場所の女性の5人に1人のことだ。また、妊娠や出産の際に毎日800人の割合で亡くなっている女性のこと、そして女性器切除のトラウマに苦しんでいる400万人の女性のことだ。」と語った。また、「今回参加していないが重要な人々には、18歳を待たずして婚姻させられている、一日あたり3万3000人以上の女児や、将来に展望を持つことのできない数多くの失業した若者も含まれる。」と語った。

デンマークのICPD25特別大使であるイブ・ピーターセン氏は、「この先ICPD50周年会議などというものは開催されないだろう。といのも、世界の女性と女児は自らの権利と選択肢を与えられるのを十分待ったので、もう待ちきれないからだ。」と指摘したうえで、「2030年を見据えて、私たちは今、ナイロビ・サミットでの公約を、責任をもって実行すべき10年に足を踏み込んだのです。」と語った。

Amina J. Mohammed/ UN Photo
Amina J. Mohammed/ UN Photo

「女性と女児こそが自らの身体の真の所有者であるべきだ。」デンマークのラスマス・プレーン開発協力相は、女性・女児へのさらなる支援を呼びかけ、「彼女らは持続可能な開発の中心に立つ存在だ。」と述べた。

国連のアミナ・モハマド副事務総長も同じ見方を示した。「数多くの女性や女児が、約束が果たされるのを待っています。彼女たちはあまりにも長く待ち続けています。」そのうえで事務次長は、「SDGsは、女性や若者が自らの体や命をコントロールでき、暴力のない生活を送ることができなければ、達成できません。」と付け加えた。

ケニア外務省首席秘書官であるカマウ・マチャリア大使は、「途上国として、低開発がもたらす代償、つまり、若すぎる結婚や、望まない妊娠をしたあげく危険な方法で中絶し、母親が命を落とし、孤児が生まれる、また、ジェンダー暴力により家庭が崩壊する等の問題に対処するコストが2640億という膨大な額になっているのです。」

マチャリア大使は、「前進している国々は、自ら資金を動員してグローバル・アジェンダの枠組みの中で独自のプロジェクトを遂行しています。」と述べ、途上国はドナーからの支援を待っているのではなく、自ら資金を動員して問題に取り組むべきだと主張した。(原文へ

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