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小国が大きな影響力を持ち、大都市が国を上回る

ナシーム・ニコラス・タレブ氏が定義した「Antifragile」(=大きな衝撃や変化、混乱が起こった時に多大なる利益を上げられる)の概念を使って、グローバリゼーションが進展する今日の国際社会において、「Antifragile」な小さな国や都市が、いかにしてより大きな国々よりも大きな影響力を行使するようになったかを分かりやすく解説した記事。具体的な例として、スイス、ルクセンブルク、ケイマン諸島、或いは大国の中で独自の意思と影響力を持つニューヨークやモスクワ等の事例を挙げている。(原文へ)

INPS Japan

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Reconnecting with Tokyo

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Ramesh Jaura, Editor-in-Chief and Director-General of INPS and its flagship agency IDN-InDepthNews, spent five days (24-29 November 2019) to personally reconnect with long-term media partners in Tokyo, the Soka Gakkai International (SGI).

In warm-hearted meetings with Mr. Hirotsugu Terasaki, SGI Director-General, Peace and Global Issues, and Vice President and Chair of the Peace Committee of Soka Gakkai – with whom the first contact was established in 2009 – Ramesh Jaura was accompanied by Katsuhiro Asagiri, INPS Japan President, Multimedia Director of INPS.

We had equally warm-hearted meetings with Mr. Tamotsu Sugiyama, Vice President, Executive Director, International Office of Public Information, Soka Gakkai and his team headed by Ms. Yoshiko Matsumoto.

An additional highlight was Ramesh Jaura’s presentation on ‘The Role of Media in Contemporary Society’ at the Soka Gakkai World Seikyo Center in Tokyo, with about 100 professional journalists and communication experts in attendance, and another on ‘Disaster Risk Reduction and Climate Change: Turning Ambitious Goals into Action’ at the Soka Gakkai Kanagawa Peace Center in Yokohama to about 100 youth.

Ramesh Jaura wrapped up his weeklong visit by reconnecting with Mr. Keiji Endo, an expert on environmentally sustainable transport initiative known as ‘Green Eco Project’, and INPS Japan board members Mr. Shigekazu Kobayashi, a lawyer, and Mr. Takaaki Ishida, Secretary General of the Ozaki Yukio Memorial Foundation.

Watch the following videos:

Presentation by Ramesh Jaura, DG & Editor-in-Chief of INPS in Tokyo on 26 November 2019. > https://www.youtube.com/watch?v=abP980QN8d0

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

Presentation by Ramesh Jaura, DG & Editor-in-Chief of INPS in Yokohama, on 27 November 2019. > https://www.youtube.com/watch?v=Ojo4MTknY-Y&t=302s

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

Since his visit coincided with the Pope Francis’s visit to Japan and the conference on death penalty, IDN-INPS carried an in-depth report and a viewpoint.

Below are the links:
Papal Visit to Japan Revives Debate About Death Penalty
|日本|ローマ教皇の来訪を機会に死刑制度を巡る議論が再燃

and
Defeating Hatred: For a World Without Death Penalty, a viewpoint by Mr. Adama Dieng, the United Nations Under-Secretary-General and Special Adviser of the Secretary-General on the Prevention of Genocide. [IDN-InDepthNews – in December 2019] FBポスト

極度の貧困をなくすには年間780億ドルで十分

「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」というのが、国連の持続可能な開発目標(SDGs)17目標のうち第1目標となっている。最新のデータによれば、年間当たり、世界全体のGDPの0.1%弱に相当するわずか780億ドルがあれば、極度の貧困は根絶できるという。実際、地球温暖化対策よりも極度の貧困の根絶の方を優先すべきだという議論もあるぐらいだ。とりわけ再生可能エネルギーに焦点を当てたエネルギー問題に年間2.5兆ドルかかるという地球温暖化対策に比べれば、はるかに低額である。

【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

「(世の中には3種類の嘘がある)嘘、大嘘、そして統計だ」「統計でどんな事実でも捻じ曲げられる」―たしかにこうした言い分にも一片の真実がある。しかし、ある種の統計は必要なものであり、私たちの目を見開かせ、驚きを与えるものでもある。米国の貧困層が置かれている状況について聞かれたならば、多くの人々が、この200年間たいして進歩はなかったと答えるだろう。しかし、現実を直視するには統計やデータを確認すべきだ。

たしかに、今でも多くの人々がスラムやゲットーに住んでいる。しかし今日、彼らには、水道管や暖房システム、電気、天然痘や結核のない生活、適切な栄養状態、幼児・妊婦死亡率の低下、平均余命の倍増、ますます高度化する医療、避妊手段、中等教育、バスや電車・乗用車・自転車、人種的偏見の減少、退職年齢の上昇、購入する商品の質の向上、労働環境の向上、参政権といったものがある。

これらはかつて、富裕層だけが手に入れられる「贅沢品」であった

貧困がそれほど構造化されていない欧州やカナダ、日本でも状況は同じだ。近年では、依然として人口の20%が貧困下にあるラテンアメリカのほとんどの場所でも、同様の状況がある。(戦争前のイラクやシリアを含む)中東もそうだ。中国やインド、パキスタン、スリランカ、東南アジア、北アフリカでは、進展著しい。アフリカはそれほどではないものの、南アフリカ共和国・ナイジェリア・コートジボワール・ガーナ・セネガル・ルワンダ・ガボン・エチオピア・タンザニア・ウガンダ・ケニアなどいくつかの国では状況が改善しつつある。 

President Barack Obama and President Hu Jintao of China watch the United States Army Old Guard Fife and Drum Corps pass on the South Lawn of the White House, Jan. 19, 2011./ By Pete Souza, Public Domain

『ブルジョワの平等』の著者であるディアドラ・マクロスキー氏はこれを「大富裕化」と呼んでいる。

1日2ドル以下の収入で生活する最貧困層もこうした状況の一部を享受しているが、まだそれほどではない。しかし、貧困層は急速に減りつつある。1993年からの20年間で、最貧困層の数は10億人以上減った。1990年から2010年の間に、5歳になるまでに死亡した幼児の割合はほぼ半減した。とりわけ、マンモハン・シン首相時代のインドと、胡錦涛主席時代の中国で、最大の減少がみられる。

『エコノミスト』誌によると、最貧層に属する人々は1日平均1.33ドルで生活している。つまり、極度の貧困を解消するには1日わずか0.57ドルあればいい。世界全体のGDPの0.1%弱に相当する年間わずか780億ドルが必要だということだ。実際、地球温暖化対策よりも極度の貧困の根絶の方を優先すべきだという議論もあるぐらいだ。現在の推計では、とりわけ再生可能エネルギーに焦点を当てたエネルギー問題に関して年間2.5兆ドルが必要であるという。

人々はまさに今苦しんでいる。今後10年か20年後に厳しい影響が顕在化する気候変動問題と比べて、貧困問題はより緊急の課題だと言える。もちろん、どちらも対処すべき課題だ。そのための資源は手の届くところ、つまり、軍事費として確保している。軍事支出を正当化する理由が「防衛」ならば、「防衛」のなかで優先すべきは、最も貧しい人々の命と、地球の防衛ではないか。

通念とは異なり11年前に始まった世界的な金融危機以来、世界はより平等な場所になってきた。ブラジルやインド、中国の成長が、英国で産業革命が始まって以来最大規模の不平等の減少につながっている。

また、世界はより暴力的でない場所になりつつある。冷戦終結以降、戦争はほとんど起こっていない。心理学の世界的権威スティーブン・ピンカー氏が2011年に発表した「暴力の人類史」によると、戦争による死亡率を世界的に見た場合、第二次世界大戦時の10万人当たり300人が、1970年代・80年代には一桁、21世紀には1人以下に減ってきている。

世界の国々の6割は民主主義国家である(1940年には両手で数えられるくらいだった)。民主主義国家間では戦争になりにくい。

国連平和維持活動の件数は爆発的に増え、大成功をもたらしている。バラク・オバマとドナルド・トランプ両大統領の下で、シリアの場合で見せたように、世界の超大国である米国は戦争に対して臆病になってきている。この傾向は戦争からの退却において特にみられる。

殺人率や犯罪率は急激に低下している。貧しい人々は、特に犯罪被害に遭遇しやすい。欧州の殺人率は中世以来35分の1に低下した。1970年代から80年代にかけては、殺人発生率が19世紀末からの減少傾向から反転して一時的な上昇がみられたが、21世紀に入ると75カ国で急激に減少している。暴力的犯罪は、とりわけ先進国では急速に減っている。刑務所への収監が増えたためではなく、警察の戦術が顕著に向上したためである。DNA検査によって、犯罪者の追跡は容易になった。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

中絶はより広くみられるようになった。子育てに対応できず、結果として犯罪を染める可能性の高い麻薬中毒者やアルコール中毒者、シングルマザーを親として生まれてくる子どもの数はかなり少なくなった。また、とりわけ大きな要素は、有鉛ガソリンが175カ国で廃止されたことである。鉛は人間の脳に害を与える。鉛によって傷つけられる脳の部分は、人間の攻撃的衝動を抑える部分だ。20世紀の中盤から末期にかけて、乗用車や大型トラックが世界中に広まり、犯罪率は急上昇した。

貧困や環境破壊、不正義、好戦的なレトリック、犯罪への恐怖に依然として取り囲まれている私たちは、つい最悪の事態を想像してしまう。真相を知ろうとしても、災害にフォーカスするメディアはあてにはならない。しかし、統計や事実を直視すれば、また別の物語が浮かび上がってくる。私たちはこれによって、闘い続ける力と希望を得られるのである。世界を、もっとよい場所にすることは可能だ。(原文へ

INPS Japan

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INPS編集長講演「自然災害に備える地域のネットワーク」

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

2019年11月下旬、INPSのラメシュ・ジャウラ編集長が、核廃絶及び持続可能な開発(SDGs)をテーマとしたメディアプロジェクトを推進している創価学会インタナショナル(SGI)の招きで、横浜で「自然災害に備える地域のネットワーク」と題した講演を行った。FBポスト

Ramesh Jaura, DG & Editor-in-Chief of INPS made a presentation on ‘Disaster Risk Reduction and Climate Change: Turning Ambitious Goals into Action’ at the Soka Gakkai Kanagawa Peace Center in Yokohama to about 100 youth in late November 2019.

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[IDN-InDepthNews – in December 2019]

INPS編集長、東京で講演「現代社会におけるメディアの役割」

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

2019年11月26日、INPSのラメシュ・ジャウラ編集長が、2009年以来核廃絶をテーマとしたメディアプロジェクトを推進している創価学会インタナショナル(SGI)の招きで、東京で「現代社会におけるメディアの役割」と題した講演を行った。FBポスト

‘The Role of Media in Contemporary Society’ was the theme of the presentation by Ramesh Jaura, Director-General & Editor-in-Chief of INPS at the Soka Gakkai World Seikyo Center in Tokyo on 26 November 2019. Speaking to about 100 professional journalists and communication experts, he underlined in particular what distinguishes INPS – the International Press Syndicate Group – and its flagship IDN-InDepthNews from the other media. For example, INPS-IDN offer information based on facts and depth, providing context. Because informed public opinion is vital for peaceful co-existence in communities, nations and the world at large.

Since his visit coincided with the Pope Francis’s visit to Japan and the conference on death penalty, IDN-INPS carried an in-depth report and a viewpoint.

Below are the links:

沖縄を取材(世界に響く平和への想い)

世界政治フォーラムを取材
Papal Visit to Japan Revives Debate About Death Penalty
|日本|ローマ教皇の来訪を機会に死刑制度を巡る議論が再燃


武力紛争時における国際人道法の擁護(ルネ・ワドロー世界市民協会会長)

【ジュネーブIDN=レネ・ワドロー】

トルコ軍が「安全地帯(国境沿い東西約600km×幅30~40kmの地域)」と称するシリア東北部に越境侵攻し、とりわけ同軍の支援を得たシリア民兵組織による残虐行為が明らかになる中、国際人道法の尊重という問題が、急速に浮上している。名目上は、あらゆる国の正規軍が、1949年8月12日のジュネーブ諸条約と1977年に採択された同議定書の規則について周知されていることとなっている。

1949年にジュネーブ諸条約が起草・採択された際、戦時捕虜と民間人の保護に関する規則を相当に詳しく書き込むことが可能であった。とりわけ、ジュネーブ共通3条(4本の条約に共通する条文)は「各紛争当事者は、少なくとも次の規定を適用しなければならない:敵対行為に直接に参加しない者は、どのような状況下にあっても、人種、肌の色、宗教若しくは信条、性別、門地若しくは貧富又はその他類似の基準によるいかなる不利益を受けることなく、人道的に待遇しなければならない」と規定している。

Photo: German, French, and Spanish fighters of the People's Protection Units (YPG) in northern Syria call for people to join the Kurdish-Turkish conflict in Turkey. CC BY 3.0
Photo: German, French, and Spanish fighters of the People’s Protection Units (YPG) in northern Syria call for people to join the Kurdish-Turkish conflict in Turkey. CC BY 3.0

共通3条の重要性をおろそかにしてはならない。それは、あらゆる紛争当事者が尊重すべき重要な保護について、明確に規定したものだ。国際人道法は、さらなる保護の必要性を満たすために、国際的な武力紛争だけではなく、内戦をもカバーすべく発展してきた。今日、国際人権基準は国際人道法の一部を成し、女性や子ども、マイノリティといった脆弱な集団に対する更なる保護を提供するものとみなされている。

内戦状況が広がるにつれ、武装集団のような非国家主体による虐待行為がますます懸念されるようになってきている。国際人道法の根本的な標準は、あらゆる場面において人権を効果的に保護できるようなものとして意図されている。その基準は、明白なものだ。

国際人道法の効果については、2つの弱点がある。第一は、国際人道法というものが存在し、その規範に自分たちが拘束されていることを多くの人々が知らないという事実だ。したがって、啓発的な活動や、一般的な教育を通じた情報の拡散、軍人に対する特別訓練、武装集団への働きかけ、広範な非政府組織との協力には大きな役割がある。

第二の弱点は、国際人道法の違反がほとんど罰されることがない、ということだ。各国政府は、こうした違反行為をあまりにも野放しにしている。国際人道法違反のために、一般の裁判あるいは軍事裁判にかけられる軍人はほぼいない。政府に属しない民兵や武装集団に関しては、なおさらそうである。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

実際、国際人道法の違反事例の大半は、軍人や武装集団の構成員個人が、怒りや恐怖、復讐への欲望、あるいは女性をレイプしたいという突発的な性的欲求などの、急な衝動によって起きているのではない。国際人道法の規範を破る軍人や武装集団のそうした行為は、上官の命令で行われているのである。

こうして、唯一確実な対処法は、上官からの命令を拒否し、拷問や医療施設の爆撃、捕虜の射殺、子どもの虐待、女性への暴行を拒絶する良心に基づく行動しかないということになる。良心こそが善悪を識別し正しい行動を促す「内なる声」であり、国際人道法を順守する環境を築き上げる基礎となる価値観である。不公正な命令を拒絶する良心を擁護していくことは、法の支配による国際社会へと向かっていくうえで、困難だが決定的に重要な行動である。(原文へPDF

※国際人道法に関する有益なガイドとして、D・シンドラー、J・トーマン『武力紛争法』(マルティナス・ニジョフ出版社、1988年)、H・マコーブリー、N・D・ホワイト『国際法と武力紛争』(ダートマス出版、1992年)を参照。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ガンビアがミャンマーによるジェノサイド条約違反を訴えた重要性

西アフリカのイスラム教国ガンビアが国際刑事裁判所(ICJ)に提訴した「ロヒンギャ大量虐殺」疑惑を巡る問題点と、ミャンマーによる違反が指摘されている集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)の中身、さらには国際社会の対応を分析したルネ・ワドロー世界市民協会会長の視点。ルワンダ国際戦犯法廷に関与した経験があるガンビアのタンバドゥ法務大臣は、「(今回の提訴を通じて)われわれは周りで起こっている恐るべき残虐に対してミャンマーおよびそのほかの国際社会に明白なメッセージを送っている。ミャンマーで発生している大量虐殺を目の前にして何も行われていないことは恥ずべきことである。」と語った。(原文へ

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賠償がいかに貧困を根絶し、SDGs実現に寄与するか

【ニューデリーIDN=マニッシュ・アプレティ、ジャイネンドラ・カーン】

数字を扱うことにはマイナスもあり、他の領域での満足を得ようと考える者が出てくるかもしれない。20世紀で最も影響力のあった詩人(=後のノーベル文学賞作家T.S.エリオット)が、ロンドンの厳格なロイズ銀行の植民地外務部に勤めていた1922年に『荒地』を著したことは不思議ではない。

他に思い付く事例と言えば、ピーター・ボーン氏だ。彼は叩き上げの会計士であり、ウェリングバラ地区選出の保守党国会議員である。2018年11月、(かつての英国の植民地である)インドがどのように国家予算を使うべきかについて明け透けに語り、反発を招いた。ボーン議員の(時代錯誤的な)発言は、有名な格言の一つ「パル・アップデシュ・クシャル・バフテーレ(他者に教えを垂れる前に、自らそれを実践せよ)」を思い起こさせるものだ。

とりわけ途上国の場合、開発領域で大きな難題に立ち向かう上で、利用可能な多くの政策オプションや見解がある中で、より真摯に問題に取り組まざるをえないだろう。資源は有限であり、それを生み出す手段も限定的であるからだ。

2015年、世界の指導者らは、2030年までにより良い世界を目指す17の目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」に合意した。貧困を根絶し、不平等と闘い、気候変動の緊急事態に対処し、政府や企業、市民社会、一般市民の参加を促してより良い未来を構築することを目指すものだ。

これは「古いワインに新しいラベルを貼る」の典型に見えるかもしれない。2000年の国連ミレニアムサミットと、国連ミレニアム宣言の採択に続いて、当時の国連加盟191カ国すべてと、少なくとも22の国際機関が、2015年までに国連ミレニアム開発目標(MDGs)を達成することを誓った。各目標には特定の指標とその達成期限が付されていたが、残念ながら目標は達成されなかった。

批評家らはMDGsで選択された目標には十分な分析と正当な理由が欠けており、一部の目標に関しては測定が困難あるいは不在、なかには進展具合が不均衡なものもあると批判した。いずれにせよ、2015年9月25日には、「私たちの世界を変革する:2030持続可能な開発アジェンダ」と題された国連総会決議70/1によって、8つのMDGsが17のSDGsと169のターゲットに生まれ変わった。

しかし、MDGsの経験に学ぶことは、とりわけ開発援助の利用に関して、多くの意味において典型的であった。MDGs実現のために先進国が行った支援のうち半分以上が債務返済支援に回され、残りのほとんどが、開発支援ではなく災害救助と軍事支援に向かった。

人間開発の進展を測るために「脆弱性」と「強靭性」の概念を初めて検討した『人間開発報告書』を国連が2014年に発表した際、国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁は、あらゆる社会がリスクに対して脆弱ではあるが、困難な状況が起こった際に、より少ない害しか受けず、より早く復興に向かう社会があると指摘した。

Human Development Report 2014/ UNDP
Human Development Report 2014/ UNDP

社会で問題になるのは、その経験だ。欧州諸国による植民地化は、アフリカやアジアの社会に対して、拭いがたい影響を残した。その悪影響は現在でも見られ、開発の指標によって測定されうるものである。

SDGsが2015年に発表された際、極度の貧困の撲滅に関する目標1の成功は、アフリカの状況いかんにかかっていると理解された。しかし、国連や世界銀行の最近の予想では、アフリカがこれに成功する見通しはない。

なぜ、史上最高の経済成長を享受しているにも関わらず、アフリカの貧困はこれほどまでに執拗になくならないのだろうか。この点について、歴史的な経験はいかなる役割を果たしうるのだろうか。

世界銀行の報告書によると、アフリカの貧困には3つの主な理由がある。

①アフリカの成長のほとんどの部分が貧困撲滅に向かっていない。低いレベルの資産保有や、公的サービスへのアクセスが限定されているなど、当初からの高いレベルの貧困によって、機会をつかむことができないからだ。

②アフリカの収入増が、農業よりも天然資源に依存する傾向があること。農村開発は農村地帯の貧困層の85%を排除している。

③アフリカの高い出生率と、その結果として起こる高い人口成長率のために、高い経済成長があっても一人あたりの収入増は少なくなる。アフリカに関する議論の中で、米国ではしばしば忘れ去られている論点である。

当初からの高いレベルの貧困と天然資源への依存、農業開発の不在が、欧州による植民地化の歴史とつながっていることは、たやすく見て取れる。

アジアに関しては、1600年には、1990年時点の米ドルと購買力平価で換算したところ、世界のGDPの51.4%を中国とインドが占めていた(中国が29%、インドが22.4%)と、英国の著名な経済史家アンガス・マディソン氏が推計している。

その100年後、中国のGDPは低下したが、インドは世界全体の24.4%まで成長した。しかし、1820年までには、インドの割合は16.1%まで低下する。1870年までにはさらに下がって12.2%になった。

また、著名な経済学者ウトサ・パトナイク氏は、これまでの約200年で、東インド会社と英国領インド帝国が少なくとも9.2兆ポンドをインドから絞り出したと計算した(44.6兆米ドル相当。植民地期のほとんどにおいて、為替レートは1米ドル=4.8ポンド。)

植民地期には、インドの外国為替収入のほとんどはロンドンに直接向かい、インドが機械や技術を輸入して、明治期の日本(=1870年代)と同じような近代化への道をたどることを著しく阻害した。

ハーバード大学で学んだ統計学者でインドの国会議員でもあるサバルマニアン・スワミー博士は、ノーベル賞受賞者のサイモン・クズネッツ氏、ポール・サミュエルソン氏と共同で、英国がインドから強奪した総額は71兆米ドルに上ると推計している。

英国支配(東インド会社英国領インド帝国)の下で、インドでは数えきれないほどの飢饉が発生した。最悪のものはベンガル地方を1770年に襲った飢饉であり、これに、1783年、1866年、1873年、1892年、1897年、最後に1943~44年の飢饉が続いた。それ以前に飢饉が国を襲った際には、現地の為政者らが適切な対応を行い、大きな災害は避けられてきた。他方、ヨーロッパによる植民地化の顕著な特徴は、無謀な経済政策のみならず、現地住民に対する容赦ない態度であった。

Map, “Political Map of the Indian Empire, 1893” from Constable’s Hand Atlas of India, London: Archibald Constable and Sons, 1893. / Public Domain

1770年の飢饉だけでもおよそ1000万人が亡くなったが、これは、第二次世界大戦時のユダヤ人虐殺(ホロコースト)やコンゴでのベルギー国王による虐殺よりも数百万人多い。この飢饉によってベンガルの人口の3分の1が消滅してしまった。米国の歴史家ジョン・フィスク氏は『見たことのない世界』において、「ベンガルの1770年の飢饉は欧州を14世紀に襲った黒死病よりもずっとひどかった。」と書いている。

私達の誰もがこれに懸念を持つべきだが、しかし、何がなしうるだろうか? 世界銀行の最近の報告書『アフリカにおける貧困削減を加速する』では、各国政府や利害関係者に対して従来の方策に関する提案や勧告を行っている。しかし、報告書は、欧州の植民者による被植民地への賠償や、賠償が開発のプロセスを加速し、国連のグローバルな目標を達成する上で果たしうる役割についても、検討すべきであった。

2013年、カリブ海諸国の元首らは「カリブ共同体損害賠償委員会(CRC)」を立ち上げた。大量虐殺や奴隷、奴隷貿易、人種的アパルトヘイトといった「人道に対する罪」の犠牲になった先住民族やアフリカ出身者の子孫に対する賠償責任を果たす必要性を訴えることを任務としている。

CRCは、「人道に対する罪」の犠牲者とその子孫には、過去の不正に対して補償を求める法的権利があり、これらの罪を犯した者や、これらの罪を通じて利益を得た者には、被害者の要求に応じる賠償責任が生じると主張している。

現在、人間開発指標で世界130位に位置し、栄養不良に苦しむ4660万人の子どもをもつインドのような発展途上国が、英国から賠償として71兆米ドルを得ることができたならば……と想像するほかはない。

資金的な注入には、社会において好ましい経済的・開発的プロセスを起動させる能力がある。そのよい例が、1948年のマーシャル・プラン(欧州回復計画)だ。マーシャル・プランの下で、130億米ドル以上が欧州各国経済の回復を支援し、保護主義と自己利益の追求ではなく、開放的な市場と自由貿易を基盤とした政治経済をもつ「新しいヨーロッパ」の建設に寄与した。数多くの成果に結びついた出来事を連鎖的に引き起こす刺激となったのである。しかし、援助は常に、ドナーがその条件を設定するものであった。

したがって、CRCは、すべての元植民地宗主国政府とそれらの国々の関連機関による、植民地化された国々に対する賠償支払いの道徳的・倫理的・法的正当性を確立する素晴らしい前例を作ろうとしているのである。

実際、CRCは、アジアやアフリカ諸国の「貧しい人々のための資源を動員する」としてGDPの割合に対する税金を引き上げる呼びかけを高らかに行ったり、海外にひも付き支援を行ったりといった従来のやり方よりも、はるかに望ましい方策である。

時は2019年11月。ピーター・ボーン議員や、国際機関を含むその他の人々は、現存する歴史的な過ちを正し、貧困を根絶して国連のグローバルな目標を達成するために賠償に主たる役割を与え、より公正で人道的な世界への道を切り開くつもりがあるだろうか。(原文へ

※マニッシュ・アプレティ氏は元外交官。ジャイネンドラ・カーン氏はインド人民党の幹部。

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忘れられた感染症:肺炎が5歳未満児の死因第1位に

【ニューヨークIDN=ショーン・ブキャナン】

肺炎は予防可能な疾病であるにも関わらず、昨年は39秒に一人に相当する80万人以上の5歳未満の子どもが命を落とした。しかし、最新の分析によると、引き続き肺炎対策に割り当てられる資金不足から、子供たちの生存率は改善できていない。

国連児童基金(UNICEF)が、WHO(世界保健機関)および母子疫学推計グループ(MCEE)の中間推定値と2018年の子どもの死亡率推計に関する国連の機関間グループ推定値に基づいて9月に発表した分析報告によると、亡くなった子供の大半が2歳未満であり、約153,000人が生後1か月以内の新生児が命を落としている。

この忘れられた感染症について警鐘を鳴らすため、保健や子どもの専門機関6団体(ISGlobal、セーブ・ザ・チルドレン、ユニセフ、Every Breath Counts、ユニットエイド、GAVI)が、11月12日に、世界規模での行動を呼びかけた。

このグループは、肺炎の蔓延率が高い国々およびドナーによる具体的な行動を求めるため、ラ・カイシャ財団、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、米国国際開発庁(USAID)とともに、1月29日から31日にスペインで小児肺炎に関するグローバルフォーラムを開催する。

World pneumonia Day  Logo/ WHO
World pneumonia Day Logo/ WHO

ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は、「毎日、5歳未満の子ども約2,200人が、治癒可能でほとんどが予防可能な肺炎で亡くなっています。この病気と闘うためには、世界規模での積極的な取り組みと投資の増加が不可欠です。子どもたちの元へ、費用対効果の高い保護、予防、治療の支援を届けることによってのみ、何百万人もの命を真に救うことができます。」と語った。

肺炎は細菌やウィルスといった病原菌によって引き起こされる病気で、肺に膿や水分が溜り呼吸困難を引き起こす。

2018年の5歳未満児の死因第1位が肺炎だった。なお、5歳未満の子ども43万7,000人は下痢、27万2000人はマラリアにより命を落としている。

セーブ・ザ・チルドレンのケヴィン・ワトキンス代表は、「これは国際的に緊急の対応を要する世界的に蔓延しながら忘れ去られた感染症です。数百万人もの子供たちが、ワクチンや安価な抗生物質の不足、さらに、酸素吸入治療さえできない環境が原因で命を落としています。肺炎危機は、国際社会がこの疾病を軽視しヘルスケアへのアクセスが弁解の余地がないほど不平等な現実を映し出しています。」と語った。

2018年は、ナイジェリア(16万2000人)、インド(12万7000人)、パキスタン(5万8000人)、コンゴ民主共和国(4万人)、エチオピア(3万2000人)の僅か5か国が、世界で肺炎で亡くなった子供の半数以上を占めていた。

HIV/AIDSなどの感染症や栄養失調で免疫力が低下した子どもや、大気や水が汚染された地域に暮らしている子供は、はるかに大きなリスクに晒されている。しかし、肺炎は、ワクチンによる感染予防が可能だし、感染しても適切な診断を受けられれば安価な抗生物質で容易に治療できる疾病である。

UNICEF
UNICEF

しかし依然として数千万人に及ぶ子供がワクチンを接種できないでいるほか、発症しても3人に1人が最低限の医療さえ受けられないでいる。

2018年、7100万人の子どもが、3回にわたる接種が推奨されている肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)を受けられず、肺炎に感染する高いリスクに晒された。世界全体では、肺炎の疑いがある子どもの32%が、医療施設に連れて行ってもらえていない。中低所得国の場合に限定してみると、この割合は40%に跳ね上がる。

深刻な肺炎を患った子どもには、酸素吸入による治療が必要になることもあるが、最貧国ではそういった設備があるのは稀である。

ワクチンと予防接種のための世界的同盟(GAVI)のセス・バークレー事務局長は、「この予防可能で、治療可能で、診断が容易な病気が、依然として世界の幼児の死因の1位であることは、率直に言って衝撃的です。過去10年間で大きな進歩を遂げ、世界で最も貧しい国々の数百万人もの子どもたちが今、命を救う肺炎球菌ワクチンを接種しています。主にGAVIの支援のおかげで、低所得国における肺炎球菌ワクチンの接種率は世界平均を上回りましたが、すべての子どもがこのワクチンを接種できるようにするためにはさらなる取り組みが必要です。」と語った。

肺炎に対処するために運用できる資金は、他の病気よりもはるかに限られている。5歳未満の子どもの死亡の15%を引き起こす病気にもかかわらず、肺炎対策に割り当てられている感染症研究における世界の支出は僅か3%に留まっている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

Every Breath Countsのリース・グリーンスレード氏は、「数十年にわたって、この忘れられた感染症が子供たちの死因の首位を占めてきました。そして最も脆弱な立場にある子どもたちがその代償を払わされてきたのです。今こそ、各国政府、国連、国際機関、企業、NGOsが力を合わせて肺炎問題に取り組み、こうした子どもたちを助けることが求められています。」と語った。

6団体は共同声明の中で、「最も肺炎の影響を受けている国々の政府は、小児肺炎による死亡を減らすために肺炎を予防・治療する戦略を策定・実施するよう、そして、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の一環として、プライマリ・ヘルスケア(地域保健)へのアクセスを拡大するよう」呼びかけた。

共同声明はまた、「より所得の高い国々、世界のドナー、民間企業の力を借り、主要なワクチンの費用を削減し、GAVIによる予算の補充を確保することで予防接種率を高めるよう、また、肺炎の調査や革新的な取り組みのための資金を増やすよう」呼びかけた。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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重要な2020年再検討会議を前に、高まる不安

【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】

広島・長崎の被爆者や、核兵器の受け入れがたい残虐性を直接体験した人々が住む両市の市長、その他の市民団体の代表、国連は、核不拡散と核軍縮の行方について懸念を強めている。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

国連軍縮局によると、広島・長崎の原爆被爆者を代表する日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の藤森俊希事務次長らが10月11日、約1051万人分の「ヒバクシャ国際署名」を、サチャ・ヨレンティー第74回国連総会第一委員会議長と中満泉・国連事務次長・軍縮担当上級代表に提出した。

ボリビア国連大使でもあるロレンティ議長は、核兵器禁止(核禁)条約への支持を集めるために藤森氏や日本被団協が取組んできた活動に敬意を表した。

2020年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会会合の結果に困惑した広島の松井一實市長と長崎の田上富久市長(それぞれ、平和首長会議の議長と副議長を務める)は5月10日、NPTが具現化する国際的な利益は、全ての国家と人々の利益につながるものであるとの認識から、「NPTに係る共通基盤の形成」を求める共同アピールを発表した。

「我々は、NPTを第二次世界大戦後に結ばれた最も重要な条約の1つと考えています。締約国は国連の加盟国数には及ばないものの、本条約は、核兵器の存在や拡散から解放された世界においてのみ、国際平和・安全保障は強化されるという基本命題に対するグローバルな合意を具現化した条約です。」と共同アピールは述べている。

画期的な国際条約であるNPTの目的は、核兵器や核技術の拡散を予防し、核エネルギーの平和利用における協力を促進し、核軍縮および一般的かつ完全な軍縮の達成という目標を前進させることにある。

Ambassador Syed Mohamad Hasrin Aidid photo: Katsuhiro Asagiri/ INPS

NPTは、核兵器国が核軍縮を目標とした唯一の法的拘束力ある多国間条約である。1968年に署名開放され、1970年に発効した。1995年5月11日、条約は無期限延長された。米国・ロシア・中国・英国・フランスの5つの核兵器国を含め、191カ国が加盟している。軍備管理や軍縮に関する協定の中でNPTが最も加盟国が多く、NPTがいかに重要な条約であるかを示している。

来年4月から5月にかけてニューヨークの国連本部で開かれる再検討会議を前に、準備委員会は、2017年、18年、19年と会合を持ってきた。とりわけ今年の第3回準備委員会会合は、それ以前の会合での議論と結果を考慮に入れて、再検討会議に対する勧告を含んだ全会一致の報告書を作成する努力を行うよう求められていた。

第3回準備委員会会合の議長を務めたマレーシアのサイード・モハマド・ハスリン・アイディッド大使はサイドイベントで、広島・長崎両市長に対して「やるべきことがたくさん残っています。とりわけ、来年はNPT発効50周年です。」と語った。

「アクロニム軍縮外交研究所」の創設者であり、『終わりなき任務』の著者でもあるレベッカ・ジョンソン博士はIDNの取材に対して、「核兵器の使用・生産・配備を全面的に禁止する新たな国連条約(=核禁条約)を発効させ、私たちの目前に迫っている核と気候変動の惨事から人類を守る国際的な安全保障レジームのあらゆる側面を強化する必要があります。」と語った。

今年のNPT再検討会議準備委員会会合への期待は低いものだった。ジョセフ・ガーソン博士は、「核保有国がこの大量虐殺兵器に依存し、核拡散への圧力が高まっている現状を考えれば、期待を上回る結果は望めなかった。」と語った。ガーソン氏は、「平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン」の代表で、アメリカフレンズ奉仕委員会の平和・経済安全保障プログラムの責任者と、国際平和ビューローの副代表も務めている。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

さらにガーソン氏は「米ロ両国が中距離核戦力全廃条約(INF条約)を脱退し、新戦略兵器削減条約(新START)の将来が危ぶまれ、核兵器国が核兵器と運搬手段の更新のために多額の費用を使っている中、人類は、きわめて危険かつ野放図な核軍拡競争の瀬戸際に立たされています。」と語った。

国連は、2020年NPT再検討会議をきわめて重視している。ジェームス・マーチン不拡散研究センター(CNS)とマレーシア政府代表部が共催したNPT外交ワークショップにおいて、中満上級代表は、「NPTに関しては、二重のジレンマに直面しています。時間が足らないだけではなく、加盟各国の立場が歩み寄る兆しさえありません。国連総会第一委員会での事態は、実際にはその反対のことが起りつつあると言わざるを得ません。」と語った。

国連総会第一委員会は、軍縮やグローバルな諸問題、国際社会に影響を及ぼす平和の問題を扱い、国際安全保障レジームにおける問題への解決を求める場である。

中満上級代表はまた、「共通の基盤が最も必要とされているまさにこの時に、それを提供するものが不足しています。」「核兵器国間の関係悪化、核兵器の有用性に関する危険なレトリック、質的な意味での軍拡競争と言いうる核兵器の近代化、それに核の側面を伴った地域紛争があいまって、冷戦期の暗い時代よりも核兵器使用の可能性が高まるという危険な状況が作り出されていいます。」と語った。

Izumi Nakamitsu/ photo by Katsuhiro Asagiri
Izumi Nakamitsu/ photo by Katsuhiro Asagiri

従って、今こそ加盟国に対して、NPTこそが共通の基盤であると思い知らせねばならない。核禁条約の熱心な支持者から、核兵器国とその同盟国に至るまで、NPTは、私たち共通の安全保障における不可欠の要素であり、すべての加盟国が意義を見出し続けられる法的文書であると認識されてきた。

国際環境が悪化する中、NPTが提供する安全やその他の利益を守り続けることは、加盟国が最優先すべきことだ。とりわけ、NPT発効50周年を迎える2020年の再検討会議は「加盟国にとって象徴的かつ実践的な機会を提供するもの」だからだ。

中満上級代表はすべての加盟国に対して、NPTと「核兵器なき世界」へのコミットメントを再確認し、この目標を達成するために取るべきあらゆる義務を履行し、悪化する問題に対する不拡散措置を強化し、軍縮における実践的なステップを通じて核の危険を減じる道に世界を引き戻すために、この機会を利用すべきだと訴えた。

2020年NPT再検討会議に対する国連の懸念は、2015年再検討会議が実質的な成果を全会一致で合意することなしに終了したことに由来している。

2010年の再検討会議では、1995年中東決議の履行を含め、フォローアップの行動に関する結論と勧告を含む最終文書に加盟国が合意していたが、2015年の結果は、強化された再検討プロセスにとっての打撃であった。

1995年に無期限延長が合意された時のパッケージの一環として、不拡散・軍縮・原子力技術の平和的利用というNPTの三本柱の下での行動に関連した責任の履行が、2015年の成果とはならなかったという事実が、その打撃のありようを示している。

2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

次のNPT再検討会議に向けた不透明な状況と、NPTと核禁条約は両立可能か対立的かという論争の中、ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は、核禁条約の発効について楽観的な見通しを持っている。

核禁条約は、国連総会が2017年7月7日に採択し、9月20日に署名開放された。50カ国目が批准、受諾書、承認書または加盟書を寄託してから90日後に発効することになっている。

ICANによれば、「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」(9月26日)に合わせてニューヨーク国連本部で行われた特別ハイレベルセレモニーにおいて、新たに計12カ国が条約に署名または批准(またはその両方)し、発効にむけた重要な一歩を踏み出した。これにより、署名国は79、批准国は32となった。

ICANは、条約発効まで3分の2ぐらいに到達しており、この勢いは続くとみている。「まもなく条約が批准されそうだとICANに回答している国もいくつかあります。世界各地の活動家は、すべての国がこの条約に参加するまで、活動を継続していきます。」(原文へ

INPS Japan

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