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活動家が警告「NPT運用検討会議決裂で世界は核の大惨事に近づいた」

【国連INPS=タリフ・ディーン】

核不拡散条約(NPT)運用検討会議は、4週間の協議を経て、予想された結果に終わった。すなわち、会議終盤に議長が各国に提示した最終文書草案の内容は、核保有国と核兵器に依存するその同盟国の見方や利益をおおよそ反映したものだった。

婦人国際平和自由連盟(WILPF)のプロジェクト「リーチング・クリティカル・ウィル」のレイ・アチソン氏は「NPT運用検討会議の成果文書を策定するプロセスは、反民主的で不透明なものでした。」と指摘したうえで、「最終文書の草案には、核軍縮を前進させるような意味ある措置がなかったばかりでなく、従来からの約束を後退させるものでもありました。」と語った。

一方で一部の外交筋によれば、今回の会議で勝利を収めた国がひとつあったという-イスラエルである。イスラエルは、中東唯一の核保有国であり、長らく提案されている「中東非核・非大量破壊兵器地帯の創設に関する国際会議」の開催を拒絶しつづけている国でもある。

NPT運用検討会議が最終日の22日深夜まで長引くなか、(中東の非核化に関する)会議を来年3月1日までに招集することを盛り込んだ最終文書案に反対していたのは、米国、英国、カナダであった(現在のカナダ政府は「イスラエルよりも親イスラエル的」だと言われている)。

Ray Acheson
Ray Acheson

アチソン氏が語るように、「これら3カ国が、核保有国でありNPT加盟国ですらないイスラエルのために最終文書案の採択(NPT加盟国191カ国・地域の「全会一致」が原則)を妨げたことは、皮肉である。」

「NPT運用検討会議のタウス・フェルキ議長が『NPTはそのすべての加盟国のものだ』と主張していましたが、空しく響きました。」とアチソン氏は付け加えた。

アメリカ・フレンズ奉仕委員会(AFSC)全米軍縮コーディネーター.のジョセフ・ガーソン氏はIPSの取材に対して、「問題は米国とイスラエルでした。もっともイスラエルはNPTに署名すらしていない数少ない国の一つですが。」と指摘したうえで、「このきわめて重要な2015年NPT運用検討会議が失敗に終わった主な責任は、(同じく最終文書案が採択されず決裂した)2005年NPT運用検討会議の時と同じく、米国にあります。」と語った。

AFSCの平和・経済安全保障プログラムの責任者でもあるガーソン氏はさらに、「米国、英国、カナダは、イスラエルを非難するのではなく被害者側を非難したのです。つまり、中東非核・非大量破壊兵器地帯創設の呼びかけを会議の最終宣言で再確認すべきだと主張したエジプトを、最終文書案の採択を不可能にした首謀者だと非難したのです。しかし、この主張は本末転倒としか言いようがありません。」と語った。

ガーソン氏は、「ロイター通信が会議終了前日の21日に報じたところによると、米国は、運用検討会議最終文書の草案テキストについて、『妥協の余地があるかどうか話し合うため』に、イスラエルに「政府高官」を派遣しています。」と語った。

「しかしイスラエルは明らかに最終文書案を拒絶したわけです。こうして、バラク・オバマ大統領の核なき世界の実現に対する表面的なコミットメントは、イスラエルの頑強な抵抗を前に融解してしまったのです。」とガーソン氏は語った。

John Burroughs/ LCNP
John Burroughs/ LCNP

核政策法律家委員会のジョン・バローズ事務局長は、IPSの取材に対して、「この20年間にNPT運用検討会議でなされた軍縮に関する誓約の問題点は、内容が不十分であったというのではなく、むしろNPT上の核保有国がそれを実行してこなかったことに問題があるのです。」と語った。

またバローズ事務局長は、多くの非核保有国が2015年の運用検討会議に向けて、(過去の誓約を)履行するためのメカニズムとプロセスに焦点を当てていた、と指摘した。

この点に関して、採択に至らなかった最終文書の草案は、核兵器なき世界の達成と維持に向けた法的取り決めを含め、効果的な軍縮措置を「確定し検討する」公開作業部会を国連総会が設置するように勧奨していた。

国際反核法律家協会(IALANA)国連事務所の所長でもあるバローズ氏は、「NPT運用検討会議の決裂は別として、この秋に行われる予定の、軍縮と国際安全保障に関する次の国連総会セッションにおいて、この構想実現に向けた取り組みを追求することが可能だし、またそうすべきです。」と語った。

アチソン氏は、世界の国家(そしてNPT加盟国)の過半数である107か国が、核兵器の禁止と廃絶に向けた法的ギャップを埋めることを約束した(オーストリア政府主導の)「人道の誓約(=オーストリアの誓約を改称)」に賛同している点を指摘したうえで、「2015年運用検討会議の成果はこの『人道の誓約』に他なりません。」と語った。

"Panorama of the United Nations General Assembly, Oct 2012" by Spiff - Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikipedia
“Panorama of the United Nations General Assembly, Oct 2012” by Spiff – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikipedia

「人道の誓約」に現在およびNPT運用検討会議後に賛同した国々は、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書策定に向けた新たなプロセスの基礎として、このプラットフォームを活かしていくべきだ。

アチソン氏は「このプロセスを、たとえ核保有国の参加が得られなかったとしても速やかに開始しなくてはなりません。広島・長崎への原爆投下から70周年にあたる今年は、このプロセスを開始するにふさわしい年だとすでにみなされているのです。」と指摘したうえで、「核兵器を禁止する条約を目指すことが、引き続き軍縮に取り組む国々にとって、最も実行可能な行動です。」「今回のNPT運用検討会議は、核保有国や核に依存するその同盟国にリーダーシップや行動を求めることは無駄な努力であるということを明確に示した機会となりました。」と語った。

この文脈には、核兵器を絶対悪とみなし、禁止し、廃絶する断固とした行動が必要とされる。

「核兵器を拒絶する国々は、核兵器保有国抜きでも前進し、世界を牛耳ろうともくろむ暴力的な少数の国々から世界を取り戻し、人間の安全保障とグローバル正義の新たな現実を作り出すという信念を持たねばなりません。」とアチソン氏は訴えた。

ガーソン氏は、「大きな悲劇は、運用検討会議の失敗でNPTの信頼性が損なわれ、核拡散の危険が増していく事態、そして、核兵器国が自国の核戦力と運搬手段を21世紀仕様にするための「近代化」政策を急速に進める中、この新たな核軍拡競争に歯止めがかからないという事態です。」と語った。

ガーソン氏は、「NPT運用検討会議が失敗したことで、核の大惨事が引き起こされる危険性とその結果として「核の冬」が現出する可能性が高まりました。」と語った。

(今回のNPT運用検討会議での)米国の拒否権発動は、諸政府、とりわけ米国を動かすために必要な民衆の力を作り出そうとするならば、シングル・イッシュー型民衆運動の殻を打ち破ることが決定的に重要であることを示している。

ガーソン氏は、「ここ数十年の間に、米国の核軍縮運動と、公正なイスラエル・パレスチナ和平を求める運動がより一体化していたならば、NPT運用検討会議の流れは違ったものになっていたかもしれません。」と指摘したうえで、「もし私たちが勝利しようとするならば、核軍縮運動は、平和や正義、環境の持続性を求める諸運動と共通の訴えを持たねばなりません。」と語った。

「中東非核兵器地帯に向けた作業を進めるとの約束は、NPTが無期限に延長された1995年に合意され、その後の2000年と2010年に開催された運用検討会議の最終文書でも再確認されたにも関わらず、オバマ大統領はイスラエルに『ノー』を言うことを拒み、一方では、核戦争の危険を低減する重要なステップに『イエス』ということを拒んだのです。」

U.S. President Barack Obama / Official White House Photo by Pete Souza
U.S. President Barack Obama / Official White House Photo by Pete Souza

「ノルウェーとメキシコ、オーストリアで開催された、『核兵器の人道的影響に関する国際会議』で指摘されていたように、核保有国がこれまで行ってきた核の威嚇と、これらの国々が引き起こしてきた核兵器を巡る事故や誤算の歴史と振り返れば、今日私たちが生きているのは、政策決定の成果というよりも、単に幸運に恵まれただけなのです。」

「NPT運用検討会議の失敗は、単に好機を逸したというのみならず、これによって世界は核の大惨事に一歩近づいたのです。」とガーソン氏は力説した。

バローズ氏は、「NPT運用検討会議の議論は、核保有国が自国の核戦力の警戒態勢を解除し、削減し、全廃するとの誓約を果たしているかどうか、核戦力の近代化は核軍縮の達成と矛盾するものではないかどうかという点について、核保有国と非核保有国の間で根深い意見の対立を示すものでした。」と語った。

核保有国は、こうした問題に明確に答えようとしなかった。

核保有国が「いつものやり方」で事にあたろうとしていたとするならば、非核保有国のアプローチを特徴づけたものは「事態に対する切迫感」であった。このことは、オーストリアが提案した「人道の誓約」に、運用検討会議終盤までに100か国以上が賛同したという事実にもよく表れている。

「人道の誓約」は、「核兵器がもたらす受け入れがたい非人道的な影響に照らして、核兵器を絶対悪とみなし、禁止し、廃絶する」取組みを行うよう、署名国に求めている。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|視点|NPT運用検討の普遍化・強化を実質化せねばならない(A・L・A・アジズ・スリランカ軍縮大使)

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【ニューヨークIPS=A・L・A・アジズ】

核不拡散条約(NPT)の「運用検討プロセスの強化」と「普遍化」の問題は、それぞれの事情を考慮に入れながら検討すべき極めて重要なテーマである。

とはいえ、これらのテーマに関連した、明らかに両者を互いに関連付けるようないくつかの側面が存在する。今回のNPT運用検討会議(4月27日から5月22日まで約1か月に亘って開催)においてもこの点が見過ごされてはならない。

5年毎に開催されるNPT運用検討プロセスは実際のところ、実行されないスケジュールや基準、約束に関する単なる確認作業の場と化してしまっている。

運用検討プロセス強化の問題は、1995年のNPT運用検討・延長会議における決定事項としてでてきたもので、それ以降のNPT運用検討会議の各主要委員会において常に議題とされてきた。

1995年のNPT運用検討・延長会議の特徴は、その重要な付議事項であった(同年期限を迎える予定だった)NPTを無期限に延長した決定であるが、このプロセスの帰結としてとりわけ期待されていたことは、同条約の3本柱(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)を強化することであった。

Ambassador A. L. A. Azeez / IAEA
Ambassador A. L. A. Azeez / IAEA

3本柱の履行が完全かつ相互に補強し合うような形で達成されることが目指されたのである。

私たちは、NPTの無期限延長を成立させた当時の文脈がどういうものであったのかを忘れてはならない。核兵器を保有している国々(米国、ロシア、英国、フランス、中国)が、NPTの下で、核兵器の完全廃絶に向けて実際的措置を採ることが期待されていたのである。

当時、核兵器の完全廃絶に向けて期待された措置が、1995年運用検討・延長会議に先立つ25年の間にほとんど実施されてこなかったことが懸念をもって留意されていた。

この立場の基礎にあったのは、核保有国が、最優先事項として遅滞なく軍縮を追求するという約束であった。

このことは、複数の運用検討会議の成果に反映されている。とりわけ2010年の運用検討会議では、軍縮が「誠実に」かつ「早期に」進められるという明確な約束がなされた。

にもかかわらず、核兵器を保有する国々は、この約束を果たしていない。

元来NPTプロセスには(核兵器国による軍縮に向けた)積極的な行動を促す「前向き」な推進力が備わっているはずだが、残念ながら、戦略的利益の圧倒的な一致などの理由によって、分かりきったことを繰り返す場となってしまっている。

いま求められていることは、どのような行動計画が採択されるにしろ、(核廃絶に向けた)行程表と検証、その他の措置について明確にすることである。

NPT3本柱の内、「核軍縮」における進展は見られない。「核不拡散」は、いくつかの地域においてほんのわずかしか前進していない。一方、制限的で制御的な措置が「原子力の平和的利用」に与える影響は、あまりにも明らかだ。それは事実上、技術の否定と変わらなくなっている。

「原子力の平和的利用」の領域においては制限的あるいは制御的な措置が増え、他方で「核軍縮」の分野においては全く進展がなく、「核不拡散」の分野はその中間という状況は、人類全体にとっては退行に他ならない。

外交においては、前向きであり続けることが常に強調される。終盤に差し掛かったNPT運用検討プロセスでは、まさにそうした呼びかけが強まっていった。

しかし、NPTの他の2本の柱と互いに関連をもつ「核軍縮」の領域であまりにも多くの問題を抱えているかに見える現在のシナリオにおいて、そのような前向きな見方が取れるだろうか? 慎重な見方をしつつも、楽観主義が支配的なのだろうか?

悲観主義の兆しがすでに現れ、後戻りができないぐらい支配的なものになる可能性がある。私たちの政策やプログラムとともに私たちの思考を大きく変えようとする政治的意思が緊急に再結集されないかぎり、そうなってしまうであろう。

NPTの普遍化は、継続的に推進されねばならない目的である。しかし、この目的の背後には、1995年に達成されたNPTの無期限延長がある。

もし1995年に無期限延長の合意がなされていなかったならば、今日機能する条約は何も残されていなかったであろう。従って、NPT運用検討プロセスの強化は、NPTを普遍化するという目標を強め、またそれによって強められねばならない。

NPT延長に導いた論理は、運用検討プロセスの一環として、またそれに準じるものとして、普遍化への呼びかけに影響を与えるものでなければならない。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

NPTの延長は無期限であり、成果を生み出すべく意図されたものであった。NPTの3本柱が平等に推進され、核軍縮への前進が不可逆的なものになったとき、NPTはようやくその目的を達成したといえるのである。

強化されたNPT運用検討プロセスは、この意図された成果の実現に向けて大いに寄与することになるだろう。

しかし、普遍化という目標は、ある時限を視野に入れて推進されねばならないし、とりわけ、実質的なものでなければならない。

これはどういうことを意味するだろうか?

言うまでもなく、NPT加盟国の数が問題だし、それを増やす必要がある。しかしそれと同じように強調されねばならないのは、秘密裏に差別することなく、NPTの全ての条項を統合することの重要性だ。加盟国の国家政策とプログラムが、NPT3本柱の前進を可能にするような内容のものでなくてはならない。

NPTの運用検討プロセスは、この2つの目標を達成する取り組みを強化しなければならない。(原文へ

※A・L・A・アジズ大使は、スリランカの軍縮大使。

翻訳=IPS Japan

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国連要員の性犯罪予防キャンペーン、まずは非軍事職員をターゲットに

【国連IPS=リンダル・ローランズ】

「私たちはこの問題についていくらでも議論はできますが、犠牲者の立場になって考えれば、一刻も早くこの悪弊をやめさせるための行動をおこさなければなりません。」

これは、著名な人権活動家のグラサ・マシェル氏が、国連の平和維持活動(PKO)に従事する国連職員による性犯罪防止を目指す「コード・ブルー」キャンペーンを立ち上げた際に訴えた言葉である。

マシェル氏は、5月13日に開催されたこの問題に関するシンポジウムにおいて、国連調査報告書「戦争と子どもたち : 武力紛争が子どもにおよぼす影響」を作成する過程で自身が経験した失望感について次のように語った。

Madame_Graca_Machel.TIF. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

「私たちは、国連PKO要員から虐待をうけた女性や少女らと遭遇し、大きなショックを受けました。」「平和維持活動は、軍事的に戦闘がない状態を保つということだけではなく、地元の人々の心に平和をもたらすことなのです。」

マシェル氏の訴えに、当日登壇したパネリストら(ルワンダ虐殺の際に国連ミッションに参加したロメオ・ダレール中将、アンワルル・チョウドリ元国連事務次長、「アフリカ女性開発財団」のテオ・ソワ会長、そしてこのキャンペーンの先頭に立って活動している「エイズなき社会」のポーラ・ドノバン共同代表。)は一様に共感の意を示した。

パネリストらは、国連並びに世界の指導者に対して、国連の内部資料へのアクセスを容易にし、職員への聞き取りを認めることで、国連職員による性犯罪調査をスムーズに行う環境を整えるよう要求した。

マシェル氏は、会場のメディア関係者から質問が相次いだ(真相究明に際しての)複雑な手続きや制約に対処するよう求めた。

これまでPKO要員の関与が疑われた国連による調査は、実に複雑な問題を抱えてきた。それぞれの民間・軍事要員に適用される異なる管轄権や免責規定の問題に加えて、報告書が透明性と具体性に欠け真相が曖昧にされる傾向にあったからだ。

「コード・ブルー」の創設者らは、この全般的な問題に取り組むための重要な第一歩として、まずは非軍事要員をターゲットにするアプローチを打ち出した。

国連軍事要員による性搾取と性的人権侵害』の著者であるロイジン・バーク博士はIPSの取材に対して、「非軍事要員をめぐる『法的空白』の問題に対処する必要はありますが、『コード・ブルー』が軍事要員・非軍事要員両方の問題に同等に取り組むよう望みます。」と語った。

バーク博士は、「国連PKO要員の70%から80%は軍事部門に属しており、世界中に何十万人という軍事要員が展開しています。」と指摘したうえで、「一人あたりの性犯罪発生率は、民間要員の方が軍事要員よりも高いのはたしかです。しかし発生件数全体でみると、民間要員が関与した件数のほうが多いということにはなりません。」と語った。

シンポジウムでは、軍事要員の問題についても議論された。「コード・ブルー」では、民間要員に対する調査を阻害している免責を巡る国連の官僚的な遅延問題に取り組んだのちに、軍事要員の問題についても取り組んでいく予定だ。

ダレール中将は、母国の司法管轄権下にある軍事要員に対する犯罪容疑を捜査する難しさについて、「各々の国がそれぞれの判断基準に従って行動しています。大抵の場合、(自国が派遣した容疑者に対する)本格的な捜査は行わず、本国から航空機を手配して要員を乗せ、去っていきます。」「権限があまりにも中央に集中し過ぎているため、現場では時宜を得た捜査が困難なのです。」と語った。

パネリストらは、軍事要員による性犯罪に対する起訴の可能性が高まれば、各国がPKOに要員を派遣しなくなるのではないかという意見があることについて、「そうした危惧は当たらない」と主張した。

チョウドリ元国連事務次長は、「私は国連に最大の軍事要員を提供しているバングラデシュの出身者ですが、バングラデシュ政府は、派遣要員に求められる基準を高くすることを歓迎するでしょう。」と語った。

「コード・ブルー」はまず、民間要員に適用されている免責問題に取り組む予定だ。

ドノバン氏は、「これまでしばしば国連の官僚主義が立ちふさがり、PKOの民間要員にかけられた容疑の立証が不可能になることがありました。」と指摘したうえで、「この官僚主義の弊害を打破する第一歩は、免責問題への取組みです。」と語った。

UN Flag on opening day of the General Debate. UN Photo/Mark Garten
UN Flag on opening day of the General Debate. UN Photo/Mark Garten

国連職員が公務に従事している間は免責される規定があるからといって、この免責条項は、職員の性的搾取や虐待行為を隠ぺいことを意図して設けられたものではない。しかしドノバン氏によると、国連職員の性犯罪が疑われる個別の事例に関しては、事務総長自身による審査が必要と規定されており、犯罪が公務時のものかどうかを判断するのに相当の時間がかかるため、その間に証拠が逸散してしまったり証人がいなくなってしまったりすることがあるという。

チョウドリ元事務次長はIPSの取材に対して、「国連は、こうした状況について、これ以上法律の問題の陰に隠れるのではなく、高尚な立場をとるべきです。もし国連が今後平和維持活動に従事する女性要員の数を増やすことを真剣に考えるのであれば、性的搾取や虐待の問題に取り組むことは重要な課題のはずです。」と語った。

今年初めに「エイズなき社会」がリークした、国連内部の専門家報告書によると、明るみに出ていない(国連PKO要員の関与が疑われる)事案はかなりの数にのぼっている。

ソワ会長は「私は国連の存在意義を信じているので、国連が紛争地域の女性や少女たちを食い物にする者たちを訴追する存在ではなく、逆に彼らの擁護者になっている現状に大きなショックを受けていますし、この問題がこうして議論されなければならないことに、胸が張り裂けそうな思いです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【シットウェ(ミャンマー)IPS=ロブ・ジャービス、キム・ジョリッフ】

ミャンマー西部ラカイン州では、3年近く前に勃発した民族紛争で集落を追われた14万人を超える人々が、乾ききった平地や海岸沿いの湿地帯に設けられた収容所に抑留されたままになっており、必死に生き延びようとしている。

想像を絶する困難に直面して、多くの避難民が、知恵を絞り必死に働くなかで、状況に適応し自らの尊厳を守る術を見いだしてきた。

主流メディアが報じるセンセーショナルな、そして時折血なまぐさい報道の背後には、ラカイン州の首都シットウェから離れた各地に設けられた収容所で、食料を得るために必死で働く者や、燃料になる木片を探す者、商売を再び始める者、避難民コミュニティーを基盤とした社会奉仕に従事する者など、日々を生き抜くために逞しく逆境と闘っている多くの市井の人々のストーリーがある。

2012年、この地域で多数派のラカイン族(仏教徒)と少数派でその大半が自らをロヒンギャと呼ぶイスラム教徒の間で衝突が起こった。ロヒンギャ問題は依然としてミャンマーでは論争の争点であり、数十年に及ぶ民族紛争問題の核心部分を成している。

それから3年が経過し、14万人を超える国内避難民(その大部分がロヒンギャが占めている)が事実上各地の収容所に抑留・隔離されたままとなっており、ミャンマー政府は現在も、彼らが以前暮らしていた集落への帰還を認めていない。

国内避難民に対する援助活動は、国連機関や主流の援助団体が実施しているが、必然的にミャンマー政府を通じたものとなるため、避難民の自立には殆ど役立たないトップダウン式の介入になるほか、最悪の場合には避難民の自立を阻害する場合もある。

しかしこうした困難にもかかわらず、避難民らは、人間の精神の強靭さと、最も先の見通しが暗く絶望的な状況下でしばしば発揮される目覚ましい回復力を発揮している。彼らは決意と勇気、そして思いやりを持った小さな行動を通じて、自らの生存領域を確保しつつ、徐々に尊厳を復活しつつある。

アラファさんは6人のこどもと3人の孫とともにこのテントで暮らしている。燃えさかる自宅から着の身着のまま逃れたアラファさんは、少しでも栄養を確保しようとテントの屋根を利用してゴーヤの栽培を始めた。写真に写っている孫たちは全員、地元のムラー(イスラム教指導者)の祝福を受けた数珠を身に付けている。資料:Rob Jarvis

Arafa lives in this tent with her six children and three grandchildren. When she fled her burning home she had nothing but her longyi (traditional skirt) and one shirt so has begun growing gourds on the tent for extra sustenance. Her grandchildren photographed here all wear beads that were blessed by the local mullah. Credit: Courtesy Rob Jarvis

20代前半のチュ・マ・ウィンさん(ラカイン族の仏教徒)は、2012年7月にロヒンギャによって住んでいる家を焼かれ、国内避難民となった。収容所ではボランティアで子どもたちを教えている。彼女の収容所ではウィンさんがこの仕事をつづけられるよう、皆が少ずつ米や少量のお金を供出して支援している。資料:Rob Jarvis

Chu Mar Win, a Rakhine Buddhist IDP in her early twenties whose house was burned down by Rohingya Muslims in July 2012, volunteers as a teacher in her camp. To ensure the young children can stay in school, the community all donate some rice and small amounts of money so she can afford to keep teaching. Credit: Courtesy Rob Jarvis

ザディ・ベグンさんは5人の子どもを抱える25歳のシングルマザーで、自宅前で小さなヌードル店を切り盛りしている。2012年7月に村が襲撃された際、ベグンさんは母と子どもたちとともに村から逃れたが、荷物をとっていくるといって家に引き返した夫のイブラヒムさん(当時30歳)は、襲撃してきた仏教徒らによってマチェーテ(山刀)で惨殺された。Credit: Courtesy Rob Jarvis

Zadi Begum, a 25-year-old single mother of five, runs a small noodle shop out of the front of her hut. As she fled her village in July 2012 with her mother and children, her husband, 30-year-old Ibrahim, stayed behind to collect some things but was killed by Rakhine Buddhists with a machete. She struggled to raise the roughly 27 dollars needed to buy the basic tools and materials to start her noodle shop. Credit: Courtesy Rob Jarvis

3年までの2012年7月、ヌール・アハメッドさんは故郷のマヨ・トゥー・ジィ村で、自分が所有する船を仏教徒たちに盗まれた。国内避難民となった現在は、13歳になる息子とともに日払い賃金を稼ぐために、連日他人の船を建造している。建設をはじめて20日目の船の前に立つアハメッドさん。資料:Rob Jarvis

Three years ago, in July 2012, Noor Ahmed had his boat stolen by Rakhine Buddhists in his village of Myo Thu Gyi. Now, he and his 13-year-old son, both IDPs, work tirelessly on other people’s boats for daily wages. He stands before one such boat that the pair has been working on for 20 days. Credit: Courtesy Rob Jarvis

フマンマド・フサインくん(8歳)は、週末になると、友人たちとともに、燃料として使えそうな木の切れ端を探して泥を掘り起こしている。写真を撮影した時点でフサインくんは、3人の兄弟と2人の友人とともに既に4時間働いていた。手にしているのはこの日初めての収穫となった木片。フサインくんは、母に木片を持ち帰れることをとても喜んでいた。資料:Rob Jarvis

Mohammed Hussain, aged eight, spends his weekends in the mud with friends looking for buried pieces of wood that can be salvaged for fuel. Here, he has been at work with his three brothers and two friends for four hours, and they have found a single piece that he is excited to take home to his mother. Credit: Courtesy Rob Jarvis

ラ・ラ・メイさんは自宅の入口に設置したミシンで、日の入までの残り僅か数分間降り注ぐ日光を利用してブラウスを縫っていた。メイさんが服を仕立てて得ている一日当たりの収入は50セントから1ドルである。また彼女は、このミシンを使って、自宅で近所の4人の少女たちに無料で洋裁を教えいる。このミシンはその少女たちが、収容所付近の村の住民から購入したものだ。資料:Rob Jarvis

La La May is making a blouse, catching the last minutes of sunlight through her doorway. She provides training to other girls here and makes between fifty cents and one dollar per day by tailoring clothes. She currently has four female students who she teaches for free using this single sewing machine, which they bought from the ‘host community’, locals from the neighbouring village. Credit: Courtesy Rob Jarvis

ファリダさん(18歳)は、ビンロウの実を加工する家業の手伝いをしている。加工する実は地元ラカイン族の事業主が所有しており、ファリダさん一家は加工賃として1つの実あたり9セント以下を受け取っている。資料:Rob Jarvis

Farida, aged 18, works in her family’s betel nut processing business. The nuts belong to Rakhine business owners, who pay the family less than 0.09 dollars per nut. Credit: Courtesy Rob Jarvis

アブール・カシムさん(53歳)は、7人のこどもを持つ父親だが、食欲がなく、過去8カ月の間、腸に深刻な問題と内出血の症状に苦しんでおり、サイ・ター・マー・ジー収容所内の診療所で日中の大半を過ごしている。医者はカシムさんをシットウェの総合病院に照会したが、カシムさんは、「総合病院に行くつもりはないし、行く余裕もありません。」と語った。伝統療法に頼るしかないカシムさんだが、毎日体が激しく震える発作に苦しんでいる。

Abul Kasim, aged 53, a father of seven, finds it hard to explain what is wrong with him. He spends most of his days at the local clinic in Say Tha Ma Gee IDP camp, having not been able to eat properly, with severe bowel problems and internal bleeding for eight months. The clinic has referred him to Sittwe General Hospital but he says dares not go, and could not afford to in any case. Relying on traditional medicine, he has bouts of pain every day that leave him shaking uncontrollably. Credit: Courtesy Rob Jarvis

ダ・ナイン診療所は、国内避難民たちが直面している行政当局の怠慢を物語るよい例である。診療所は2012年に国際NGOによって建設されたが、援助資金の不正管理と政府の無関心により、以来今日に至るまで大半の期間にわたって稼働していない状態が続いている。ミャンマー政府は医者と薬を提供すると約束したが、その後中止になったままである。資料:Rob Jarvis

Da Naing clinic demonstrates the abject level of neglect faced by the IDP communities, as a result of aid mismanagement and the government’s lack of care. The clinic was built by an international NGO in 2012 and has lain dormant for much of the time since. Though the government promised doctors and medicine, such provisions have been discontinued. Credit: Courtesy Rob Jarvis

ヌール・ジャハンさんは、3人の子どもと義理の母、そして失業中の夫を支えるため、日中は唐辛子の天日に干し、粉にすりつぶす作業に従事している。夫は、都市部への移動が禁止される前は、肉体労働者として働いていた。ジャハンさんは、地元の市場で生の唐辛子を仕入れ、加工した唐辛子粉をスプーン1~2杯の分量毎に袋詰めして販売しているが、収入は3~4日働いて約2ドル程度である。資料:Rob Jarvis

Noor Jahan spends her days drying out and grinding chillies to help support her three children, mother-in-law, and out of work husband who used to be a labourer downtown where they are no longer allowed to travel. She buys the chillies fresh from the local market and then sells small affordable packets of 1-2 teaspoons worth, and is able to make just about two dollars in three or four days. Credit: Courtesy Rob Jarvis

ミ・ニ・ラさん(16歳)は、2012年の民族間抗争で焼き払われたナシ村の出身。腕の中に抱いている赤ちゃんは生後まだ16日目。シットウェ郊外のブー・メイ収容所の小屋で生まれた。資料:Rob Jarvis

Mi Ni Ra, 16, is from Nasi village, which was burned to the ground during the violence in 2012. Her baby, just 16 days old here, was born in a small hut in Bu May IDP camp, outside Sittwe. Her baby was delivered traditionally in a small hut nearby, with the help of a local traditional birth attendant, without modern medical support. Credit: Courtesy Rob Jarvis

この少年は、ビンロウの実を少量のライムの粉、タバコとともにキンマの葉で包む伝統的な加工をほどこしたものを売って歩いている。写真では、海から回収した2つに割れた浮きを入れ物に活用している。資料:Rob Jarvis

This boy spends his days selling betel nut in the traditional form, wrapped in a leaf with a bit of lime powder and tobacco. A salvaged halved buoy serves as his basket. Credit: Courtesy Rob Jarvis

このラカイン族の年配の女性はビルマの独立を経験し、その後は歴代の軍事政権下で抑圧される少数民族の一員として生き延びてきた。2012年に村をロヒンギャによって焼かれてからは、シットウェ郊外の避難民収容所で暮らしている。彼女はここで必死で資金をため、この小さな店を開いた。資料:Rob Jarvis

This elderly Rakhine woman has lived through independence and suffered as a member of a repressed minority under authoritarian rule by successive military regimes in Burma. After Rohingya Muslims burned her village in 2012, she has lived in an IDP camp outside Sittwe, where she struggled to save enough money to open this shop. Credit: Courtesy Rob Jarvis

困難に直面して、家を追われたイスラム教徒の多くが、ムラーの教えに従って、神に救いを求めた。このような住民の手による、手を洗う井戸を備えた竹製のモスクが、全ての難民収容所で建設されている。資料:Rob Jarvis

In the face of adversity, many of the displaced Muslims have turned to God, as instructed by their mullahs. These handmade bamboo mosques have been built in each IDP camp, with pump well washing facilities outside. Credit: Courtesy Rob Jarvis

アング・ミアさんはラカイン族の女性雇用主のために、鶏を料理している。その女性ビジネスオーナーは、ミアさんに一羽あたり40セントを支払い、調理済鶏肉を地元の内田で販売している。資料:Rob Jarvis

Angu Mia plucks and boils chickens for a female Rakhine business owner, who pays him 0.4 dollars per bird and then sells the meat at a local market. Credit: Courtesy Rob Jarvis

この男性は自身の声の屋根にソーラーパネルを設置し、携帯電話を持っている少数の国内避難民に携帯の充電サービスを提供している。収容所の避難民の小屋には電気が通っていない。資料:Rob Jarvis

This man has installed solar panels to the top of his hut to provide a phone charging service to the minority of IDPs who have phones, as their huts have no power. Credit: Courtesy Rob Jarvis

これらのフグは乾燥し裏返しにされたあと、中国に向かう商人に販売されている。この男性は2012年に自宅が焼き討ちされた際、数百ドル相当の干物の在庫を失った。収容所に移った今は、地元の漁師から干物を販売後に全額代金を支払う約束で、生のフグを仕入れている。資料:Rob Jarvis

These pufferfish are dried and turned inside out to be sold to traders who take them to China. This man lost stocks of the product worth hundreds of dollars when his house was burned down in June 2012. He now leases fish from local fishermen, promising to pay them in full once he has made a sale. Credit: Courtesy Rob Jarvis

これらの女性は浜辺で太陽が照りつける中、前日に水揚げされた魚を天日干しするために何時間もしゃがんだままの姿勢で作業している。この地域では干し魚が少量のご飯とともに何日もかけ食べる習慣があることから、生魚より好まれている。ラカイン州の他の地域で漁業を営んでいたロヒンギャコミュニティーは、紛争がはじまると村を捨て、長年に亘ってロヒンギャが漁業コミュニティーを形成していたこの地に移動してきた。資料:Rob Jarvis(原文へ

These women spend hours crouched in the sun on the seashore, drying out fish caught in previous days. Drying the fish preserves it for longer, making it more attractive locally, where a single fish will be eaten over days with small portions of rice. Large numbers of Rohingya Muslims from fishing communities in other parts of Rakhine State fled by boat when the violence began and came straight to this part of the coast, where the Rohingya Muslim communities have long run their fishing businesses. Credit: Courtesy Rob Jarvis

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【アウグスタIPS=シルヴィア・ジアネッリ】

イタリア沿岸を目指していた密航船がランペドゥーサ島沖で転覆し700人を超える移民が犠牲となった事件から一か月も経過していないが、ここシチリアではこの事件に関するマスコミの関心はすでに薄らいできている。シチリアはイタリア南部の州で、(アフリカ・中東からの)移民にとって主要な欧州への玄関口となっている。

しかしアフリカ大陸北岸から地中海を渡ってイタリアを目指す移民の流れが止まったわけではない。

5月3日、沖合で保護された3300人の移民がシチリア州シラクーサ県の港町アウグスタに到着した。記者は市内の救急・難民保護センターを訪ね、新規入所者のアハメッド(19歳)とムハンマド(22歳)に話を聞いた。

2人はソマリア出身だが、出会ったのは欧州への密入国を斡旋する業者に支払う費用を捻出するためにリビアで働いていた時だった。

2人とも現在は救急・難民保護センターに収容されているが、イタリアに長居するつもりはないという。アハメッドは、親戚が暮らしているベルギー行きを希望していると語った。一方、ムハンマドはこのまま旅を続けてドイツを目指したいと語った。

地中海を渡った経験は恐ろしいものだったが、未来への希望に満ちた彼らの眼差しは、あたかもこれまでの恐怖体験の全てをリビア側の沿岸に置いてきたかのようだった。

「リビア側から見た地中海の景色は、それは恐ろしいものでした。しかし今ここから再び見る地中海は美しいです。」と、このまま欧州にとどまって勉強し医者になりたいというアハメッドは語った。

ムハンマドは、「今回の航海は、これまでで最も困難な経験でした。しかし僕はこうして元気でここに到着できたのですから、これからはうまくいくと思います。」と語った。

アハメッドは、リビアを発つ前に700人が犠牲になった先般の転覆事故のことを耳にしていた。しかしそのことで密航の決意は揺るがなかったという。「密航船に乗るリスクよりもソマリアにとどまっていた場合のリスクの方が高いからです。」とアハメッドは語った。

「このところ悪天候が続いていたが、今日の海は穏やかだね。私たちはこれから到着する多くの移民に備えているところです。」と、救急・難民保護センターの前で警備にあたっている警察官は語った。

今年に入って既に25000人の移民がイタリアへの上陸をはたしているが、「移民が本格的に押し寄せる季節」はまだ始まったばかりだ。一方、欧州連合は、移民の急激な流入に悲鳴を上げている南欧諸国からの支援要請への対処に苦慮している。

現在地中海については、欧州連合による「トリトン(海神)」作戦のもと、移民の流入阻止を最重要課題とする欧州対外国境管理協力機関(Frontex)が巡回警備を実施している。この作戦は、昨年秋に終了したイタリアの海洋救出作戦「マーレ・ノストルム(我らの海)」を引き継いだものである。

欧州諸国は、4月23日に地中海の難民危機に関する緊急首脳会議を開き、地中海における難民や移民の捜索、救援活動の予算を従来の3倍に増額して年間約1億ユーロ(約130億円)にすることで合意した。しかしこれだけでは、現在の難民危機に対する「欧州の解決策」というには程遠いのが現状である。Frontexのエヴァ・モンコーレ広報担当官は、「もちろん、もっと人員や船舶を増やし、航空機による早期発見措置まで実施すれば、難民を救出できる可能性を高めることは可能です。」と指摘したうえで、「しかし私たちがいかに全力で取り組んだとしても、救難設備が整っていない船舶に、十分な水もなく人々が詰め込まれて海に送り出される状況では、彼らを手遅れになる前に発見し、全員を救出することなどとても保障できません。もし救難サービスで全ての人々を救えると保障したとするならば、それは偽りということになります。」とIPSの取材に対して語った。

欧州連合の首脳らが引き続きリビア領海を封鎖する可能性について協議し、南欧諸国が全てのEU加盟国の間で難民受入枠を設けるよう働きかけるなかで、シチリア州の地元自治体と市民らは、日々到着する移民に対する救援・受入対応を余儀なくされている。

人口4万人のアウグスタ市はシチリア島における主要なイタリア海軍基地の所在地で、昨年10月に作戦が終了するまでは、海洋救出作戦「マーレ・ノストルム(我らの海)」の作戦本部が置かれていた場所である。

またアウグスタ市には、2014年4月から保護者のいない子供たちのための緊急収容施設も運営されていたが、これを不満とする約2000人の人々が、施設を他の自治体に移転させ、移民を送出している(アフリカ大陸側の)港を封鎖するよう求める請願書を当局に提出したため、閉鎖に追い込まれた。

請願書の発起人の一人である右派政党「イタリア同胞・国民同盟」のピエトロ・フォレスティエーレ広報担当は、「この請願書は、移民の受入れ割り当てについて、アウグスタ市のように財政赤字と高い失業率に苦しんでいる自治体を免除するよう求めています。」「その主張の元になっている論理は、地元の市民に対する適切なサービスを提供することさえ苦労している自治体に移民の世話まで要請することは適切ではない、というものです。」と語った。

結局アウグスタ市では、(保護者のいない子供たちのための)緊急収容施設は10月に閉鎖された。しかし、同市が属するシチリア州が、イタリア最悪の貧困率と2番目に高い失業率に喘いでいる現状に鑑みれば、たとえ同施設が州内の他の自治体に移される話が浮上したとしても、同じことが繰り返される可能性は高い。

しかし、より厳しい移民政策を求める声がある一方で、アウグスタ市内の住民からは移民、とりわけ難民に対して同情する声もよく耳にする。

市内の鮮魚市場で店舗を経営しているアルフォンソは、IPSの取材に対して、「彼らも私たちと同じく生身の人間です。私たちは彼らが沖合で溺れているのを見て見ぬふりをしているわけにはいきません。」「彼らは戦争や貧困から逃れてきた人々です。もし当局が、彼らがイタリアに来るのを防ぐことができず、こちらの沿岸まで実際に来てしまった場合は、彼らを助けなければなりません。」と語った。

鮮魚市場に来ていた地元の顧客が次に指摘しているように、シチリア住民の大半は、将来における移民のさらなる流入を恐れているのではなく、むしろ、他の欧州諸国が移民受け入れを躊躇するなかで、彼らだけがこの状況に対処せざるを得ない現状に不公平感を募らせているようだ。

"Baia di augusta" di Davide Mauro - mia foto. Con licenza CC BY-SA 2.5 tramite Wikimedia Commons
“Baia di augusta” di Davide Mauro – mia foto. Con licenza CC BY-SA 2.5 tramite Wikimedia Commons

「ここは港町なので、私たちは外国人が周りにいる状況には慣れ親しんでいます。このこと自体は私たちの生活にあまり影響を及ぼすものではありません。重要なことは、地元住民の私たちに対してというよりは、ここにたどり着く移民たちのために、何かする必要があるということです。しかし私たち地元の人間だけでできることは限られています。これはグローバルな問題とまでは言えないまでも、欧州全体の問題なのです。従って、欧州連合は行動をおこさなければなりません。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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平和と自由の力としてのジャズ

古代ギリシャの哲学者プラトンは「音楽は、世界に魂を与え、精神に翼をあたえる。そして想像力に高揚を授け、生命とあらゆるものに魅力と快活さを授ける。」と語ったと言われている。平和と自由を志向する世界市民性を育むうえで、ジャスほど相応しいものがあるだろうか?

【パリIPS=A・D・マッケンジー】

米国東部のメリーランド州ボルチモアで暴動が起こる中、4回目となる「国際ジャズデー」を祝うイベントが世界各地で開かれ、平和や団結、対話を求める呼びかけがなされた。

「私たち一人一人が平等です。そして私たち皆が『故郷』と呼ぶこの場所(=地球)に住んでいるのです。」「私たちは数々の難題を解決する方策を見いだすために、あらゆる努力をしていかなくてはなりません。」とアメリカジャズ界のレジェンド、ハービー・ハンコック氏は語った。

4月30日に行われたイベントの主催者は、ボルチモア警察の留置場で亡くなったアフリカ系アメリカ人で地元住民のフレディー・グレイ氏の葬儀を機に暴動にまで発展した抗議行動について直接言及はしていないが、ハンコック氏はIPSによる独占インタビューのなかで、「(イベントに参加した)音楽家らは、ボルチモアの事件をはじめ様々な事件を意識しています。」と語った。

「被害者がアフリカ系アメリカ人やアフリカ系文化の伝統を引き継ぐ人々に限らず、女性が殺されたり、子どもが虐待されたり、あるいは特定の民族集団が抑圧される事件など、こうしたことが起きるたびに、私たちアーティストは現状を変えるために行動を起こさなければならないと考えています。こうした行動を通じて、音楽に価値と意味を持たせることができるのです。」とハンコック氏は語った。

「国際ジャズデー」はハンコック氏の発案によるもので、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が毎年、テロニオス・モンク・ジャズ研究所(米国)との協力の下、実施している。主催者は、「自由と創造性を生み出すジャズの力」を後押しし、それに焦点を当てることが目的である。」としている。

Cover of the programme for International Jazz day 2015. Credit: A.D.McKenzie

また、「尊重と理解を通じて文化間の対話を進め、世界のあらゆる場所の人びとを団結させる」ことも目指している、とユネスコは述べている。

ハンコック氏は、「2016年の国際ジャズデーでは、米国のバラク・オバマ大統領とミシェル夫人がホストを務め、ワシントンDCのホワイトハウスで『オールスター・グローバル・コンサート』という一大イベントを開催します。」と発表した。これは2012年に始まったこのイベントがいかに重要な意義を帯びてきているかを物語るものだ。

「1年ぐらい前に、あるイベントでオバマ大統領と話をしたときに、『ぜひ実現したいね』、と言ってくださいました。ただ少し話しただけですから、それが約束だとは思っていませんでした。しかしオバマ大統領は本当に実現してくださいました。来年のコンサートはホワイトハウスで開催します。」とハンコック氏はIPSの取材に対して語った。

3年前にパリで始まったグローバル・コンサートのホストとなった都市は、2013年はイスタンブール(トルコ)、昨年は大阪だった。

2015年はパリが再びホスト都市となり、ジャズ愛好家らは、このフランスの首都で1日中行われたパフォーマンスや教育プログラムを楽しんだ。ワークショップや音楽セミナー、討論、ジャムセッションなどが、コミュニティーセンターから無料食堂にいたるパリ市内の様々な場所で開催された。

「オールスター・グローバル・コンサート」は、ユネスコ創設70周年にあわせて同本部の満員のホールで開催された。会場には、国連の潘基文事務総長、長年差別と闘ってきたフランスのクリスチャーヌ・トビラ司法大臣など、国連やフランス政府の高官が足を運んでいた。

Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

「ジャズには教えられることが多くあります。」「私は事態が難しくなってくると、即興が大事だということを(ジャズから)学びました。」と潘事務総長は語った。

潘事務総長を初めとした、多様な文化的背景を持つ観客は、著名なアーティスト30人が登場するエンターテイメントをゆったりと楽しんだ。コンサートはまず、ボーカリストのアル・ジャロウ氏が登場して会場を盛り上げ、続いて南アフリカ共和国のアーティスト、ヒュー・マセケラ氏による感情を揺さぶる故ネルソン・マンデラ氏へのトリビュート・ソングへと移った。

このコンサートは、潘事務総長が述べたように、まるで「ミニ国連」のようであった。ハンコック氏や(今回のイベントの音楽監督も務めた)ジョン・ビーズリー氏のようなアメリカのピアニストに、ブラジルのボーカリスト、エリアネ・エリア氏、スコットランドの歌手アニー・レノックス氏、ウード[楽器の一種]の名手でチュニジア人のダファー・ヨセフ氏、フランスのパーカッショニスト、ミノ・シネル氏、中国の10代のピアノ奏者ア・ブ氏など多くのアーティストが加わり、ジャズとその影響力を称えた。

「音楽家は、寛容と相互の尊重、世界平和のために活動しています。」と語るハンコック氏は、「私は、対立する側に属する音楽家らが心を一つにして、最も美しい音楽を奏で、甘い物語を語るのを見てきました。」と会場の聴衆に語りかけた。

まるでジャズの「人名事典」のようなコンサートには、次のような音楽家も参加していた。ジャズミュージシャンに門戸を開き歓迎してくれたフランスに感謝の辞を述べた歌手のディー・ディー・ブリッジウォーター氏。ワシントンDC生れの若きベーシストベン・ウィリアムズ氏や、ウード奏者のヨセフ氏と世界初公開となる作品を演奏したサックス奏者のウェイン・ショーター氏。パワフルな音楽で会場からの喝采を受けたボーカリストのダイアン・リーブス氏と、(どちらかというとロック歌手として知られる)アニー・レノックス氏

Scottish-born Annie Lennox, more known for her rock singing, was one of the star performers at International Jazz Day’s ‘All-Star Global Concert’ 2015. Credit: A.D.McKenzie

開会にあたってユネスコのイリナ・ボコヴァ事務局長は、「ジャズとは対話を意味し、他者に手を差しのべ、全ての人々を仲間に引き入れるものです。ジャズとは、どのような出自を持つ者であれ、すべての人間の人権と尊厳を尊重することを意味します。ジャズとは、他者を理解し、他者に語らせ、尊重の精神をもって耳を傾けることを意味するのです。」と語った。

「私たちがここに集いジャズを称えるのは、まさにこのためなのです。この自由の音楽は平和への力であり、そのメッセージが激動の時期にある今日ほど求められている時はありません。」と、ボコヴァ事務局長は付け加えた。

他の国でも、「国際ジャズデー」を祝うイベントが開催された。南アフリカ共和国では、「変革を成し遂げる」というテーマでワークショップやセミナー、演奏会が開催されたほか、米国では、受賞歴のあるアーティストらがニューオーリンズなど各地でコンサートを開催した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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FBO連合が差し迫る核惨事に警告

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1か月に及ぶ核不拡散条約(NPT)運用検討会議が2週間目に入った5月1日、50の宗教を基盤とした組織(FBO)や反核平和運動家、市民社会組織(CSO)に難しい任務が与えられた。本会議で行われる市民社会プレゼンテーションにおいて、核攻撃が人間にもたらす壊滅的な結果についてわずか3分の発表で世界に警告せよ、というのである。

厳格な時間枠の中でこの任務をやり遂げた世界教会協議会(WCC)国際問題委員会のエミリー・ウェルティ副委員長は言葉を濁すことはなかった。

FBO連合を代表して共同声明の発表を行ったウェルティ博士は会場の政府代表にこう語りかけた。「私たちは、健全なる精神と人類が共有する価値観の名のもとに、声をあげます。おぞましい死の恐怖をもって、人類を人質にとるような非道は決して許されるものではありません。」

世界の政治家たちが勇気を奮い起こし、人間社会の存続を揺るがし共通の未来を脅かす、不信の負のスパイラルを断ち切るよう、ウェルティ博士は世界の指導者らに強く促した。

ウェルティ博士はさらに「核兵器は、安全と尊厳の中で人類が生きる権利、良心と正義の要請、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感といった、それぞれの宗教的伝統が掲げる価値観と相容れるものではありません。」と指摘したうえで、「核兵器は、こうした価値観や約束事を蔑ろにするものです。国家の安全保障や国家関係の安定、あるいは政治的な慣性といったいかなる理由をもってしても、核兵器の存在、ましてやその使用を正当化することはできません。」と警告した。

FBO連合によるこの共同声明文は、ピーター・プルーブ(WCC国際問題委員会委員長)、スージー・スナイダー(PAX核軍縮プログラム・マネージャー)、寺崎広嗣(創価学会インタナショナル[SGI]平和運動局長)の各氏が音頭をとり、グローバル安全保障研究所北米イスラム協会キリスト連合教会仏教徒平和フェローシップ米国パックス・クリスティ宗教連合イニシアチブが参加している。

核軍縮を長年にわたって推進してきたSGIは、2013年3月のオスロ会議(ノルウェー)、14年2月のナヤリット会議(メキシコ)、同年12月のウィーン会議(オーストリア)と3度の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)に関与し、この2年の間にワシントンDCとウィーンで開催された2度の宗教間シンポジウムにも参加してきた。

いずれの会合でも、諸宗教の指導者らがすべての核兵器の廃絶を共同で呼びかけた。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

4月27日に始まった現在のNPT運用検討会議は、もし全会一致で採択されれば、「成果文書」をもって5月22日に閉幕する予定である。

今年の運用検討会議は、第二次世界大戦末期に米国が広島・長崎に原爆を投下してから70年目にもあたる。

ウェルティ博士は各国代表に対して、「両都市が核攻撃にさらされた1945年8月以来、人類は核兵器による黙示録的な破壊の影のもとで暮らし続けることを余儀なくされています。」と語った。

「ひとたび核兵器が使用されれば、人類文明のこれまでの成果が破壊されるだけでなく、現代を破滅させ、その先の将来の世代をも悲惨な運命にさらされるのです。」

FBO連合は、こうした大量破壊兵器を削減する義務と責任を、NPT第6条が何十年にもわたって全ての締約国に課してきた、と指摘した。

しかし、この義務の履行は繰り返し確認されてきたにも関わらず、その歩みは著しく遅く、今日ではほとんどその動きを感じ取ることはできない。

一方で、財政がひっ迫し人間の安全保障に必要なニーズが満たされない状況下で、国の限られた予算が現在進行する核兵器近代化プログラムに向けられている。

「このような状況は受け入れがたく、そうした状況が続くことは許されません。」とFBO連合は訴えた。

ロンドンに本拠を置く『エコノミスト』誌は最近、すべての核保有国が「その核戦力の近代化をはかるために多額の」支出を行っている、と指摘している。

Nuclear threats from Israel and Iran have triggered a potential competitor in Saudi Arabia. Credit: U.S. Air Force
Nuclear threats from Israel and Iran have triggered a potential competitor in Saudi Arabia. Credit: U.S. Air Force

ロシアの国防予算は2007年以来5割以上も増えた。そのうち3分の1が核兵器向けであるが、これはフランスの割合の2倍にあたる。

中国は潜水艦や移動ミサイル部隊に投資し、米国は核戦力近代化のために3500億ドルの予算承認を議会に求めている。

世界には、5つの主要な核兵器国(米国・英国・フランス・中国・ロシア)と、核兵器国と宣言していないが事実上の核兵器国であるインド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮がある。

FBO連合は次のことを誓った。

①核兵器の廃絶に向け人々の道徳的機運を高めるべく共に協力し、それぞれの宗教コミュニティーにおいて、核兵器の非人道性や非道徳性を訴え、核兵器の存在が、受け入れがたい危険を伴っていることを伝える。

②人道的観点から核兵器の禁止を訴える国際的取り組みを引き続き強く支持し、核兵器を禁止する新たな法的枠組みに関する多国間交渉について、全ての国々に開かれた、いかなる国も阻止できない場における、これ以上の遅滞ない開始を訴える。

FBO連合はまた、世界各国の政府に次のように訴えた。

①人類に同じ経験を二度とさせてはならないと、核兵器廃絶を訴え続けている世界中のヒバクシャの声に耳を傾け心に刻むよう求める。

②これまでの核兵器の人道的影響に関する国際会議で確認された現実を重く受け止め、NPTによって全ての締約国に課された既存の義務と一致する、核兵器の完全なる禁止に向けた具体的な行動を求める。

③ウィーン会議で発表された「オーストリアの誓約」に呼応し、核兵器の禁止および廃絶に向けた法的なギャップを埋めるための効果的な措置を追求するよう求める。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|視点|核兵器のない世界へ 行動の連帯を」(池田大作創価学会インタナショナル会長)

反核兵器で連合する宗教

各宗派の指導者が共同で核廃絶を呼び掛け

核軍縮が成功する見込みはない「しかしそれが間違いであればよいのだが」(ジェニファー・サイモンズ・サイモンズ財団創設者・会長インタビュー)

【国連IPS=タリフ・ディーン】

相対性理論を構築したことで世界的に有名な物理学者のアルベルト・アインシュタイン博士がかつて発した有名な言葉がある。「第三次世界大戦がどんな兵器でもって戦われるのか私にはわからない。しかし、第四次世界大戦は、石と棍棒で戦われることになるだろう。」

おそらくアインシュタイン博士は、次の世界大戦では核兵器の使用で壊滅的な大殺戮が起き、その結果、人類は石器時代に後戻りすることを分かりやすい形で示したのだろう。

ほとんどの平和活動家によると、核兵器廃絶に向けた現在の動きは勢いを増しているとはいえず、大量殺戮兵器のない理想的な世界が実現する見通しは明るくない。

この数十年で、5つの主要な核兵器国(米国・英国・フランス・ロシア・中国)に、新たに4つの国(インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)が加わってきた。

そしてもし、遅かれ早かれイランが核武装化することになれば、エジプトやサウジアラビア、トルコもそれに続く可能性がある。

最も恐ろしい最悪シナリオは、ウクライナの政治的危機とロシアによるクリミア併合が主な引き金となった、米ロ間の新冷戦の登場であろう。

5月22日まで続く、1か月に及ぶ核不拡散条約(NPT)運用検討会議にあわせて出された提案のひとつは、すべての核兵器を世界的に廃絶する国際条約の締結に向けた交渉を開始するというものである。

核軍縮を弛みなく追求しつづけてきたサイモンズ財団の創設者・会長であるジェニファー・アレン・サイモンズ博士は、この提案の現実性についてIPSにこう語った。「この提案に成功の見込みはないと思います。しかし、この見方が間違いであればよいとも思っています。」

2000年のNPT運用検討会議と、2002年の同準備委員会会合でカナダ政府のアドバイザーを務めたサイモンズ博士は、「核保有国は、核戦力の性能向上と長期計画の策定を進める一方で、相変わらずのレトリックを使い続けています。」と指摘したうえで、「もし実現する可能性があるとすれば、核兵器が作戦上に占める役割を低減させることに関するコンセンサスぐらいでしょう。」と語った。

「警戒態勢の緩和に関するグローバル・ゼロ委員会の報告書は好意的に受け止められています。」と、NPT運用検討会議参加のため5月上旬に国連入りしたサイモンズ博士は語った。核廃絶を目指して設立されたサイモンズ財団は、今年で30周年を迎える。

以下は、インタビューの抜粋である。

Q:現在のNPT協議からして、5月22日までに全会一致での成果文書採択に運用検討会議が成功すると思われますか?

A:それを判断するのはまだ早いですが、今のところ、全会一致の文書を得る見通しはあります。その場合、核兵器禁止条約(あるいは核兵器禁止)、核使用の人道的側面の問題は盛り込まれないでしょう。一部の政府代表らが、かりにNPTがこの点での合意に失敗した場合、公開の作業部会を通じて、核軍縮条約(あるいは核兵器禁止)、もしくは合意の枠組みを推進する用意があると聞いています。

Q:米ロ間の新冷戦は運用検討会議の成果に影響があると思いますか?

A:核保有国は核戦力をなくすつもりがないですから、影響はないかもしれません。新しい戦略兵器削減条約(START)によって核兵器は削減されますが、さらなる削減を定めた二国間の取り決めは今後ありそうもありません。

Q:完全核軍縮に向けた主な障害は何だと思われますか?

A:主な障害は「恐怖」でしょうね! ロシアと西側との間の信頼の欠如、そして、30を超える核能力を持つ国家が核兵器取得能力を手にしようとするかもしれないという信頼の欠如。私が最も恐れるのは、偶然であれ、計算違いであれ、意図的であれ、あるいは、高度に自動化されたシステムを発動させるか偽の攻撃を仕掛けるサイバー攻撃の成功によってであれ、核兵器の爆発が核廃絶への触媒になってしまう事態です。

米国は、自国の核兵器システムは(サイバー攻撃によって)破られないと考えているようですが、米国防科学委員会の最近の報告書によれば、米国の指揮・管制システムの脆弱性は未だかつて正確に評価されたことはないとのことです。ロシアや中国のシステムが脆弱かどうかについても知られていません。また、インドやパキスタンのシステムが脆弱でないと想定する理由もありません。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領がロシアの核オプションを誇示したことは懸念材料であり、核兵器のもつ政治的意味合いを変えることにとっては障害となるでしょう。また、他の核保有国に対して、自国の核を保持し性能向上を図る口実を与えることにもなってしまいます。

Q:私たちが生きているうち、あるいは今後50年の間に、核軍縮は実現するでしょうか?

A:私の生きているうちに実現するかもしれません。ただし、恐らくそれはもう一度核爆発が起こった場合に限られると思います。核兵器が使用されれば、その結果はあまりにも悲惨なものであり、その行為は人道に対する犯罪になりますから、核兵器の禁止を促すことになるでしょう。

こうした状況において皮肉なのは、誰もが核兵器の使用を恐れ、軍も核兵器を好んでいないということです。しかしそれは、戦争犯罪を行なったり人道への罪を犯したりしたくないからということだけが理由ではなく、より悪いことに、核兵器の維持コストがあまりにも高く、むしろ他の兵器購入のために資金を取っておきたいという理由のためなのです。

率直に言えば、なぜ人々が殺戮に手を貸したいと思っているか、私には理解できません。(原文へ

IPS Japan

奴隷状態から自立へ:南インド、ダリット女性たちの物語

この記事は社会に潜む2つの悪弊(①ヒンドゥー寺院における性奴隷の慣行。②違法鉱山での強制労働による搾取)と闘った2人の女性の実体験を取材したものである。二重奴隷の軛(くびき)からようやく解き放たれた彼女たちは、いかに質素なものであっても、やっとの思いで勝ち取った今の生活を守り抜いていく覚悟だ。彼女たちの経験は、たとえ絶望的に思われる状況にあっても確固たる決意さえあれば出口は見いだせるという言葉を広める必要性を改めて浮き彫りにするものだ。

【ベラリー(インド)IPS=ステラ・ポール

40代になるダリット女性のフリジェ・アンマさんは、ミシン台で上半身を前に傾けながら注意深くシャツの縁を縫っていた。彼女の傍には、22歳になる娘のルーパさんが、携帯電話に送られてきたメールを読みながら楽しげに笑っていた。

インド南西部カルナタカ州ベラリー県で暮らす2人は、つつましいながらも現在の生活に満足している。1日50セントでやり繰りし、家族の衣服は自ら縫い、地域の住民に教育を提供するプログラムに参加している。

しかし、それほど遠くない昔、この親子は奴隷の境遇にあった。彼女たちは、鉱物資源が豊かなカルナタカ州ベラリー県(インドの鉄鉱石埋蔵量の4分の1を占める)に潜む2つの悪弊(①ヒンドゥー教の寺院における性奴隷の慣行。②県内に点在する違法鉱山での強制労働による搾取)に翻弄されながらも、厳しい試練を闘い抜いて今の生活にたどり着いたのだった。

二重奴隷の軛(くびき)からようやく解き放たれたアンマさん親子は、いかに質素なものであっても、やっとの思いで勝ち取った今の生活を守り抜いていく決意だ。

それでもなお、彼女たちは、かつて自分たちの生活を規定していた悲惨さや、彼女たちを極貧と奴隷の境遇へと追いやったインド社会に根深く存在する宗教的・経済的仕組みのことを、決して忘れることはないだろう。

ヒンドゥー寺院から露天掘りの鉱山へ

フリジェ・アンマさんは、IPSの取材に対して、「私は、両親によって(『堕ちた者たちの女神』としてヒンドゥー寺院で崇拝されている)女神イェラマに奉納された時は12歳でした。私は『デーヴァダーシー(神の召使い)』になった、と言われたのです。」と語った。

「当時私にはそれがどういうことか、わかりませんでした。わかっていたのは、私はもう女神のものになったのだから、男の人と結婚することはできなくなった、ということでした。」

彼女の最初の印象は真実とさほどかけ離れていなかったが、無垢な少女が、それから長年に亘って自分の身にふりかかる恐るべき隷属の日々を知る由もなかった。

デーヴァダーシー」とは、特定の神や寺院に奉仕するために、ほとんどの場合、低カーストに属する少女を捧げる慣行で、南インドで数百年に及ぶ歴史がある。

デーヴァダーシーの女性はかつてインド社会で高い地位を占めていたが、インドの諸王国が大英帝国の統治下に置かれるようになると、寺院は経済的に困窮し、多くのデーヴァダーシーたちは、かつて彼女たちを支えていた仕組みがない状況に放り出されることになった。

神々に結び付けられている身として、他の仕事を見つけることができず困窮したデーヴァダーシーらは、インド南部一帯の多くの州で売春婦となった。インド政府は1988年、こうしたヒンドゥー寺院による奴隷制全体を禁止する命令を下した。

しかし、その後もこの慣行がなくなることはなかった。フリジェ・アンマさんのような元デーヴァダーシーだった女性が証言しているように、今日におけるヒンドゥー寺院の奴隷慣行は、犠牲となっている少女らに対する侮辱的で残虐な性質において、80年代となんら変わるところがない。

アンマさんは続けて「成長すると、多くの男性が夜ごと私の元に押し寄せ、性的行為を求めてきました。拒否することができず、別々の男性による5人の子どもを身ごもりました。しかし、そのうち誰も、私や子どもに対する責任を取ろうとはしませんでした。」と語った。

5人目の赤ちゃんが生まれた後、飢えと絶望に正気を失いそうになったアンマさんは、寺院を後にし、カルナタカ州北部の世界遺産「ハンピ」近くにある町・ホスペットまで逃れた。

露天掘りの鉱山で仕事を見つけるまでにそれほど時間はかからなかった。そこは、2004年から11年までこの地区一帯で操業していた数多くの違法鉱山の一つだった。

アンマさんは、夜明けから夕暮れまで、鉄鉱石を「発破」によって取り出すために露天にハンマーで穴をあける作業に6年にわたって従事した。

当時の彼女は、この肉体的に骨の折れる仕事が、カルナタカ州における大規模な違法採鉱の中核をなしているということを知る由もなかった。この違法採鉱によって、2006年から11年の間に2920万トンの鉄鉱石が採掘・輸出されたのである。

彼女が知っていたのは、自分自身と、横で児童労働者として働いていた娘のルーパさんが、毎日50ルピー(約0.7ドル)しか稼ぐことができない、ということだった。

当時警察が、違法取引を取り締まるためとして、しばしば鉱山に捜査に入り、労働者を逮捕していた。釈放してもらおうとすると、警官に200~300ルピー(約4~6ドル)の賄賂を払わなければならなかった。

One of hundreds of illegal open-pit iron ore mines in the Bellary District in India that operated with impunity until a 2011 ban put a stop to the practice. Credit: Stella Paul/IPS

「デーヴァダーシー」のしくみとの奇妙な類似だが、この警察による取り締まりによって、労働者たちの鉱山操業者への借金が「永続化」する仕組みになっていたのである。

2009年、過酷な労働が続き、元デーヴァダーシーの彼女を「格好の標的」としか見ていない他の労働者や出入り業者、トラック運転手らからの絶え間ない性的な誘いかけに耐えきれなくなったアンマさんは、思いきって、地元の非政府組織「サキ・トラスト」に助けを求めた。この団体は、彼女と娘を貧苦のどん底から引き上げるために大いに役立ったのである。

今日、彼女の子どもたちは全員学校に通うことができるようになり、長女のルーパさんは「サキ・トラスト」のユースコーディネーターとして働いている。一家はナジェンハリというダリットの村に住み、フリジェ・アンマさんは針子として働くかたわら、地域の若い女性たちに服飾技術を教えている。

カースト:インドのもっとも持続不可能なしくみ

この物語は、フリジェ・アンマさんとルーパさん親子にとってはハッピーエンドなのかもしれないが、インドの約2億人のダリットの多くにとっては、依然としてトンネルの先に光明は見えていない。

インドのカースト制度でかつては「不可触民」と呼ばれていたダリット(文字通り言えば「壊れた者たち」という意味)は、多様かつ分割された集団であり、いわゆる「カーストなき」コミュニティーから他の社会的に無視されてきた人々までを包含している。

ダリットというこの大きな傘の下に、さらなるカーストがある。たとえばマディガ・ダリット(しばしば「ゴミをあさる人びと」と呼ばれる)のような階層は、他のダリットからもしばしば差別されている。

歴史的に見れば、マディガは靴を作ったり、溝を掃除したり、動物の皮をはいだりする仕事をしてきた。それらはヒンドゥー社会の他のすべての集団からは、自分たちの品位に相応しくないと見なされてきた仕事である。

社会活動家で「サキ・トラスト」のバギャ・ラクシュミ代表によれば、南インドのデーヴァダーシーの多くはこうした階層の出身であるという。カルナタカ州だけで2万3000人の寺院奴隷がいると推定されているが、そのうち9割以上がダリットの女性だ。

20年近くにわたってマディガの人々とともに活動してきたラクシュミさんはIPSの取材に対して、「マディガの女性は抑圧と差別以外にはほとんど何も知らないまま成長します。」と指摘したうえで、「デーヴァダーシー制度は、制度化された、カーストを基盤とした暴力以外の何ものでもなく、ダリットの女性を無償労働や不平等賃金などのさらなる搾取にほぼ確実に追いやる仕組みです。」と語った。

鉱山で7年にわたって働いたマディガの女性であるミニ・アンマさんによると、例えば、違法操業の鉱山ですら、ダリットでない女性は1日あたり350~400ルピー(5~6ドル)を手にする。一方でダリットの女性は100ルピー以上を受け取ることがない。

しかし、この大規模な鉄鉱石の違法採掘・取引に囚われた労働者の大部分は、ダリット女性なのである。

「この地域のダリットの家を訪ねてみるといいですよ。『クーリー(労働者)』として鉱山で働いた経験がない独身女性や子どもはいないはずです」と、ベラリー県のマリヤマナハリ村で奴隷労働撲滅に向けて活動している元鉱山労働者のマンジュラさんは語った。

マンジュラさん自身、デーヴァダーシーの娘かつ孫であり、鉱山で子ども時代を過ごした。彼女は、強制労働と寺院奴隷のしくみは、インド南部諸州に広がる搾取の制度につながっており、カースト制度によってさらにこのつながりは強化されていると確信している。

ほとんどの公式統計と同じように、鉄鉱石採掘の現場に送り込まれたダリットの正確な数を彼女も把握しているわけではないが、「数千人」に上るのは確実だという。

生命と暮らしの破壊

インドの年間の鉄鉱石生産量は世界の7%を占めており、ブラジル、中国、オーストラリアに次いで第4位である。2011年の最高裁の報告書によると、インドは毎年、約2億8100万トンの鉄鉱石を生産している。

カルナタカ州はインドの鉄鉱石推定埋蔵量252億トンのうち90億トンを埋蔵しており、同国の輸出産業で重要な役割を果たしている。

ベラリー県だけでも推定10億トンの埋蔵量がある。2006年4月から2010年7月の間に、228の未認可業者が2920万トンの鉄鉱石を採掘し、カルナタカ州に約1600万ドルの損害を与えた。

250万人の人口が主に農漁業や牧畜によって生計を立てているベラリー県では、鉄鉱石の違法採鉱によって環境被害を被ってきた。

鉄鉱石採鉱地帯の周辺では高濃度の鉄分、マンガン、フッ素が地下水に混入して土壌汚染を引き起こしている。これらの物質はいずれも、土地に依存して生活している農民にとっては大敵である。

調査によれば、鉄鉱石の採掘ブームによって6万8234ヘクタールの森林のうち9.93%が失われ、鉄鉱石の採掘・発破・分類作業の中で出てくる粉塵のために、粒子状物質が厚く堆積して周辺地帯の植物を覆い、光合成を阻害しているという。

最高裁は2011年、(違法採掘活動が)環境・経済・社会に及ぼす影響に関する詳細な報告書の提出を受けて、すべての未登録採掘活動を停止するよう命令を出した。しかし、富裕な実業家たちは法を無視しつづけている。

それでもなお、公的な禁止が出たことで取り締まりが容易になった面はある。今日、違法な採掘活動とヒンドゥー寺院公認の性的人権侵害という2つの崩壊しつつある仕組みの灰燼の中から、インドで最も貧しい女性たちが持続可能な未来に向けた道筋を示しつつある。

奴隷状態から自立へ

彼女たちがまず最優先で取り組むべきことは、自身と子どもたちを教育すること、別の生計手段を確保すること、そして基本的な公衆衛生の問題に対処することだ。現在、ベラリー県では、90人あたり1つのトイレしかない。

南インドのダリット社会における識字率は、ある地域では僅か10%にとどまっているが、マディガの女性達はこの流れを変えていこうと大変な努力をしている。「サキ・トラスト」の支援によって、2011年までに、学校教育を受ける機会のなかった600人のダリットの少女が入学することができた。

今日、ダナプラ村出身のラクシュミ・デビ・ハリジャナさんが大学で教鞭をとる初めてのマディガ女性となった。また、同村出身の25人の女性が大学の学位を取得している。

Dalit women and their children, including young boys, are working together to end the system of ‘temple slavery’ in the Southwest Indian state of Karnataka. Credit: Stella Paul/IPS

彼女たちにとって、このような変化はまさに画期的なものだった。

知的なキャリアを歩んでいくことを選んだ者もいれば、縫い物や畜産のような素朴な技術にあらためて目を向ける者もいる。

何年にもわたって違法鉱山で働かされていた元寺院奴隷のバギャ・アンマさん(上の写真の女性)は今日、100ドルで購入したヤギを2頭飼っている。

アンマさんはIPSの取材に対して、「子羊を解体し、家族や近所の人や、貧しい人たちとそれを共有する祭り「イード・アル=アドハー(=犠牲祭)」の期間中に、ヤギを一頭につき190ドルで売るつもりです。」と語った。

それはわずかな利益かもしれないが、彼女にとって自分の基本的なニーズを満たすには十分だという。

政府は、違法採掘の被害を補償するための生活再建プログラムのために約300億ルピー(約4億7500万ドル)をベラリー県の女性に提供すると約束したが、実際の財政は火の車だ。

当局からの支援をただ待ち続けていても埒があかないと考えたダリットの女性たちは、女性と子どもたちが性的に被害に遭わないように、コミュニティー内で出資しあい、各家庭が持ち回りで小さなトイレ(建設費用は1万5000ルピー〈約230ドル〉)を作っていく計画を進めている。

マンジュラさんは、「私たちは経済的に持続可能な小さなモデルを作りたいと考えています。相手が個人であれ、たとえ政府であっても、私たちは誰にも依存したくないのです。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【国連IPS=カニャ・ダルメイダ】

4週間にわたる核不拡散条約(NPT)運用検討会議が国連で開かれている最中であるが、人類への最大の脅威に関する拘束力のあるこの政治協定がきわどい状況にある中、希望と不満が同じように交錯している。

5つの核保有大国(米国・英国・フランス・ロシア・中国)の間の権力闘争に報道はもっぱら焦点を当てているが、地政学的な対立に巻き込まれることを拒否する多くの組織が、より安全な世界を創出するという難題に挑んでいる。

Lassina Zerbo/ CTBTO
Lassina Zerbo/ CTBTO

こうした組織の一つが、ウィーンを本拠とする包括的核兵器禁止条約機構準備委員会(CTBTO)である。包括的核実験禁止条約(CTBT)の履行状況を独立の立場から監視する機関として、CTBTが締結された1996年に創設された。

183の署名国と164の批准国を持つ同条約は、核実験禁止に向けた国際的取り組みの一里塚となっている。

しかし、CTBTが法的拘束力のあるものとなるためには、44か国から成る発効要件国(いわゆる「付属書2諸国」)の批准を必要とする。そのうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮、米国の8か国が条約批准を拒否している。

これらの未加盟国の存在により、核廃絶プロセスのもっとも基本的な目標に向けた動きでさえ阻害されてきた。

それでもなお、CTBTOは、完全批准に向けた環境を整えるために、この20年間、相当の努力を積み重ねてきた。

地震、水中音波、微気圧振動及び放射性核種の観測所が世界中に網の目のように張り巡らされ、諸国が条約に違反する行為を行うことはほぼ不可能になっている。また、CTBTOの多くの施設から集められた豊富なデータは、世界中で広範囲にわたる科学的な取組みに貢献している。

CTBTO事務局長のラッシーナ・ゼルボ博士は、IPSとのインタビューで、同機関の2015年NPT運用検討会議に対する期待と、核兵器なき世界への途上に立ちはだかる主な障害について考えを語った。

以下は、インタビューの抜粋である。

Q:CTBTOはNPT運用検討会議でどのような役割を果たすことになりますか?

A:軍縮と不拡散に関してよい結果がこの4週間の交渉で得られることを切に希望していますが、CTBTはその中で重要な役割を果たすと考えています。CTBTは、NPTの無期限延長を成立させた主要因の一つであり、すべての加盟国をまとめる要素にもなっています。それは比較的到達しやすい成果(=残り8か国の条約批准をとりつければ発効する)の一つであり、この運用検討会議でいかなる成果を得ようとするにせよ、CTBTの発効をその一里塚として機能させるようにしなくてはなりません。

例えば、核不拡散に関してまず取り組まねばならないと考える国々と、より迅速にとまでは言わないまでも、核不拡散と同等に核軍縮についても取り組まねばならないと考える国々との間に、妥協点を見つける必要があります。

また、核保有国がより近代的な兵器を開発することが許されているのに、その他の国々に関しては核兵器取得に繋がりかねない基本的な技術さえ開発を禁止されていることに疑問を持つ国々の懸念に対して、私たちは応える必要があります。

CTBTはすべての国家が同意できるようなものを表しているのです。それは、その他の、より難しい問題に関するコンセンサスの基盤として機能します。これこそが、私がこの会議で伝えたいメッセージです。

Q:CTBTOの最大の成果は何でしょうか? 将来に向けてゼルボ事務局長がもっとも火急の問題と考えることは何でしょうか?

A:CTBTOは、すべての水中・地下・空中の核爆発実験を禁止しています。私たちはこれまでに、放射性物質の放出を追跡するものを含め、核実験を探知するために約300の観測所ネットワークを構築してきました。

私たちの国際監視システムは水平的拡散(核兵器保有国の拡大)だけではなく、垂直的拡散(現有兵器庫の拡大及び精密化)も防止してきました。

CTBT批准に二の足を踏んでいる国がいるのはそのためです。自国の核兵器体系を維持ないしは近代化するには核実験が必要だと考えているからなのです。

今日の核兵器開発は、20年から25年前に実施された実験のデータを基礎としています。北朝鮮以外のどの国も、21世紀に入って1回も核実験を行っていません。

Q:北朝鮮のような国にどのように対処しますか?

A:北朝鮮と公的に接触があるわけではありません。世界の指導者から伝えられていることを基にして、判断するしかありません。(ロシアの外相である)セルゲイ・ラブロフ氏が北朝鮮をCTBTの議論に巻き込もうとし、北朝鮮は核実験モラトリアムを検討する意思があるかどうか尋ねたことがあります。昨日私は、北朝鮮と国交のあるカザフスタンのイェルツァン・アシバエフ副外相と面会しましたが、同国は北朝鮮に対してCTBT署名を検討するよう緊急に要請しているところです。

(北朝鮮と)二国間関係にあるこうした国によって、私たちは助けられています。

そうは言っても、もしCTBTOが北朝鮮に招かれ、北朝鮮がCTBTやその組織的枠組み、私たちが構築してきたインフラについて理解するための議論に関与する基盤となりうるような会談を持てるとしたら、どうでしょうか? もちろん、断る理由はありません。喜んで参ります。

私たちはまた、中東のような地域でCTBTに署名することでリーダーシップを取りうるイスラエルのような国とも接触しています。つい最近イスラエルを訪問した際、次のような問いかけをしてみました。「(イスラエルは)核実験をやるつもりですか?そうではありませんね。核実験が必要ですか? そうではありませんね。ならば、非核兵器地帯、あるいは非大量破壊兵器(WMD)地帯のさらなる批准・検討につながりうるような、(中東)地域における信頼醸成のために必要な枠組みを開くために、リーダーシップを発揮されてみてはいかがでしょう?」

イスラエルは今や、CTBT批准は「可能性」(if)の問題ではなく、「時期」(when)の問題であると述べています。その「時期」がそう遠くないことを望みます。

Q:核軍縮と核廃絶を求める数多くのデモが行われ、署名が提出されても、核保有大国は聞く耳を持っていません。運動の最前線にいる人々にとっては、きわめて残念な傾向です。世界の市民社会に対するメッセージは何かありますか?

A:あなたの国の政治指導者にプレッシャーをかけ続けてください。この問題を前進させるための政治のリーダーシップを私たちは必要としているのです。現在、世界の9割の国々が、核実験反対の意思を示しています。にもかかわらず、私たちは、(CTBTに批准していない)一部の国々によって人質に取られた状態になっているのです。

市民社会だけが、諸政府に対して、「あなたがたが依然として保有し、依然としてこだわっているもの(=核兵器)に対して、世界の大多数が『ノー』を突き付けているのだから、あなたがたには行動を起こす義務がある」と語りかけることができます。CTBTは、「核兵器なき世界」という、できれば私たちが生きている間に実現したい目標を達成するための重要な要素なのです。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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