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|米国|摘発で移民家族バラバラ

【ニューヨークIPS=アリッサ・ジアチノ】
 
米移民局は6つの州で不正な身分証明で働く移民の一斉摘発を行い、精肉工場で1000人以上を逮捕してから1週間。残された家族は、いまだに愛する人の消息を求めて躍起になっている。

「逮捕された家族が、どこに行ったか分からない人が多い」とミネソタ州ワージントンで小さな食料品店を営むオリヴィア・フィゲオラはIPSの取材に応えて語った。移民税関執行局(ICEは拘留された者の家族のためにホットラインを設けているが、提供される情報は不正確なことが多いとフィゲオラは言う。

  フィゲオラの夫はワージントン所在のスイフト社の精肉工場で働いている。従業員が逮捕されたために生産ラインが滞っているという。また捜査が入ることを恐れて、出勤してこない従業員もいる。

ICEは12月12日、コロラド、ネブラスカ、テキサス、ユタ、アイオワ、ミネソタの6州でスイフト社の精肉工場を一斉捜査。何千人もの従業員に居住権あるいは市民権の法的書類の提示を求めたために、生産ラインが停止した。ICEによれば、この摘発は「何百人ものアメリカ市民を被害者とする大掛かりな身分証明の窃盗事件」捜査の一環である。

ICEは数時間のうちに、行政上の移民法違反で1282人を逮捕。これまでに144人を身分証明の偽造、違法再入国などの罪で刑事告発した。

今回の強制捜査は、2006年初期に政治問題となりながら、議会で結実しなかった移民法改正の論議を再燃させることとなった。

何百万人もの不法滞在労働者の合法化を擁護する人々と、移民法の厳格な適用を求める人々の間の断絶はこの強制捜査で際立つこととなった。

「連邦政府が暴徒鎮圧用のフル装備でラテン・コミュニティを脅かすというおろかな行為」と言うのはコロラド州グリーリーの支持団体ティノス・ユニドス(Latinos Unidos)のシルヴィア・マルチネス代表。

対極にあるのが不法移民の取り締まり強化を求めるコロラド移民改革同盟(Colorado Alliance for Immigration Reform)のマミク・マクガリー代表代理。強制捜査は連邦政府がやっと重い腰を上げたしるしと評価。
 
 「精肉産業は不法移民に甘い」と批判すると共に、政府機関が強制捜査を行ったことで影響が拡大する可能性も指摘。

「大規模でなくてもよいから、目立つような摘発を常時行うことは、象徴として重要。甘い考えを捨てさせる、帰国を促すといった効果が出ている」と述べた。

全国のスイフト社精肉工場の従業員が加盟する北米合同食品商業労働者組合(United Food and Commercial Workers Union:UFCW)は、ICE に逮捕された組合員のために食料と法的支援を組織。

230人が逮捕されたミネソタ州ワージントンのUFCW代表ダリン・レネルト氏は、組合会館が家族支援のグラウンドゼロになっていると語った。17日にはミネアポリスから7トンの食糧支援が届いたという。

地域社会においても、摘発への賛意も表明する人々がいる。一方、支援行動を起こす人も多いとレネルト氏は言う。
 
 「皆が善人というわけではない。多くの教会から、すばらしい支援を受けている」と語った。

各人の事情が異なるので、連邦判事が全ケースを審査するには何週間もかかるだろう。その一方で、UFCWはICEを公民権と憲法上の権利の侵害で訴えている。

UFCWの広報官ジル・ケイシン氏は「ICEは公民権を尊重せず、組合代表や弁護士との面会を認めていない」と指摘した。

ミネアポリスのジョン・ケラー弁護士はIPSの取材に応じ、「人的被害のトリアージを行っている状態だ」として、逮捕者への接見がかなわず、残された子どもたちが両親といつ再会できるか分からないと語った。

当初、およそ600人がアイオワ州のキャンプ・ドッジに収容され、弁護士が接見する前に別の場所に移送されたとケラー弁護士は語った。

「移送は驚くほど早く、政治的圧力と訴訟でようやく門が開いたときには、60人から90人しか残っていなかった」

ミネソタ州が本部のICEティム・カウンツ報道官は、勾留者の一部は移民担当判事の審判を受ける権利を留保する書類に自主的に署名し、即座に送還されたと語った。

擁護派によると、勾留者は署名前に弁護士に相談することが許されなかった。アイオワ州マーシャルタウンのスイフト社工場では90人が逮捕された。セントメリー教会のヒスパニック教区シスター・クリスティーナによれば、逮捕者は逮捕直後にメキシコに送還された。

「逮捕された人は、誰にも連絡することができなかった。私たちも接見が許されなかった。逮捕が火曜日で、私たちが面接に行って断られたのが水曜日。木曜日には逮捕者本人がメキシコから電話してくるようになった」とインタビューで語った。

コミュニティ活動家のシルヴィア・マルチネス氏は「もっと上手なやり方があったはず。移民の問題を超えて、市民権の問題になっている」と語る。

世界第2の牛豚肉加工業者であるスイフト社は、先週の強制捜査は驚きだとして、政府の行動は会社との合意に反するとするプレスリリースを発表した。スイフト社は減産に追い込まれ、供給元にも消費者にも被害が及んでいる。同社は、長期的に見れば回復可能と語っている。

1997年より、スイフト社は労働者の連邦政府による認可プログラム「ベーシック・パイロット」に参加している。これは雇用しようとする者の氏名と社会保障番号を連邦政府のデータベースで照合する就労許可プログラムである。

ICEのティム・カウンツ報道官は、スイフト社は何の罪も問われていないとする一方、「ベーシック・パイロットは不法移民を1人残らず取り締まる特効薬ではない」と言明した。

「ベーシック・パイロット」は、氏名と社会保障番号が合致するかどうか連邦政府のデータベースで照合するものだが、そのデータベースも絶対確実ではなく、齟齬があったとしても必ずしも違法行為を示すものではない。

拘留者の何人が身分証明偽造の罪に問われるか明らかではない。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

|ネパール|前進が見られぬ政府に市民社会が抗議

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】

王制打倒を主導し、現政府の政権奪取を支援した市民社会活動家が、投獄の危険を冒して現政府への抗議を展開している。

1月1日には首相官邸の前で座り込みデモの参加者少なくとも70人が逮捕され、内務大臣が3日、禁止区域での抗議活動には警察が引き続き介入すると警告した。

「ネパールNGO連盟」のアルジュン・カルキ会長は、IPSの取材に応え、政府が暫定憲法をまとめ、元マオイスト(ネパール共産党毛沢東主義派)反政府勢力を含む暫定政府を樹立するまで同連盟は抗議運動を組織し続けると述べている。

6月の憲法制定議会の選挙まで統治に当たる暫定政府の樹立を求めた包括的和平合意(CPA)が11月に政府・主要7政党(SPA)と毛派指導者の間で締結されたものの、和平プロセスは多難を極めている。毛派はまた、全国にある28のキャンプに兵士と武器を置いて管理することになっているが、国連の監視団の到着が遅れ、これも進んでいない。

コイララ首相は、国連の監視が始まるまで元反政府勢力は政権に加わることはできないと主張しているが、「ネパール農村復興」のカルキ会長は、「首相は時間稼ぎをしたいだけ」と言う。

カルキ会長は、「マオイストは都市におり、私たちは彼らが武器を所有していることを知っているが、彼らは首相と連携しており、意思決定プロセスに加わっている。私たちがいつまでも彼らを政府外に置き続けると、平和は脆弱になるばかりである」とIPSの取材に対し述べた。

会長は続けて、「マオイストが加われば、武器などの問題はすべて彼ら自身の問題となり、責任も増す。政府はこの点をわかっていないのか、あるいは内外の勢力からマオイスト排除の圧力を受けているかのいずれかだ」と語った。

各方面から政府への圧力が高まっているネパールの現況を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー:IPS Japan浅霧勝浩

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|ネパール|見えないところでの闘い
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米移民法改正に新たなはずみ

【シアトルIPS=ピーター・コンスタンチーニ】

1月4日、第110連邦議会が開会。民主党が両院を支配するなか、移民をめぐる議論で風向きが変化している。

議会開会を前にアリゾナ州の共和党ジョン・マケイン上院議員とマサチューセッツ州民主党エドワード・ケネディ上院議員をはじめとする超党派議員団が、新しい移民法案の策定を開始。不法滞在者が市民権を得るまでの滞在期間の短縮、臨時雇用制度などを策定中である。

 民主党指導部は包括的移民法改正を視野に入れ、最低賃金の引き上げを最初に実行するだろう。

米移民局弁護士協会は、米国土安全保障省傘下の移民税関執行局(ICE)が12月中旬にスイフト社の精肉工場で一斉捜査を行った見せしめ的摘発を批判。低賃金の未熟練労働者の需要は年間50万人であるのに、現行法では毎年5,000人にしか永住ビザを発給していないと指摘した。

IPSは2人の専門家に意見を聞いた。
 
 グアダラハラ大学のデュランド(Jorge Durand)博士は、プリンストン大学と共同でメキシコ移民プロジェクトを実施。過去20年間のメキシコ移民6,000人の追跡調査を行っている。

デュランド博士は、メキシコの労働者は従来アメリカとメキシコを頻繁に往来していたが、国境警備が厳しくなり、不法入国の金銭報酬と危険性が増し、アメリカに入国後は長く留まることになったと指摘。米政府は不法移民にビザを提供するなどの見返りを与えて帰国を促す策を講じたほうがよい。あと20年もすればメキシコ経済も堅調に転じ、人口増加に歯止めがかかって出国者が減少するだろう。アメリカの移民問題の中心は中国、バングラデシュ、アフリカ諸国に変わっていくだろうと述べた。

アメリカ唯一のナショナルセンター、 AFL-CIO (アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)の移民労働者プログラム担当のアヴェンダノ(Ana Avendaňo)氏は、労働者と地域社会に利する「フェアな移民」が必要と指摘。移民には賃金や保障を与えずに働かせるなど、不正なシステムから利益を上げる雇用者を厳格に取り締まるべきだと述べた。

AFL-CIOは、移民に米国人労働者と同一の権利を認めない臨時雇用制度には反対し、他の労組、NGOと協力して議会でロビー活動を行っている。しかし、移民法関係者の意識も足並みが揃っていないという。

議会多数派を民主党が占めるなかで、風向きが変わった移民法改正議論ついて報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan 

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|中国|歴史の教訓に学ぶ、ただし選択的に

【北京IPS=アントアネタ・ペツロヴァ】

世界の次の超大国になる準備を整えている中国が、歴史の教訓を学ぼうと他の大国の盛衰を検討し始め

た。ただし、省かれている1章がある。中国自身の歴史だ。

中国経済はこの20年にわたる市場改革を通じて急速に成熟し、今や世界4位を占めるまでに至った。しかし一方で、10億人を超す国民に教えられている中国の近代史の多くは訂正されぬまま、依然として共産主義の教義に支配されている。中国の世界における影響力が高まる中、専門家は、検閲された歴史を基盤に国を育てることの影響について深く考え始めている。

「文化大革命」の発生原因とその結末や、3,000万人の命を奪ったと言われている「大躍進運動」中の大飢饉をはじめ、中国の近代史の多くは、検閲されあるいは一般に知らされぬままである。研究者による精査は継続されているものの、彼らの研究の多くは香港や台湾で発表されるに留まり、中にはまったく公表されないものもある。

中国共産党は、政治的失敗を精査されることをおそれ、自国の過去の苦難よりは将来の偉大さについて国民の関心を呼ぼうとするばかりだ。12月中国中央テレビで放映されたドキュメンタリー新番組「諸大国の台頭」もまさにそうした意図であった。

番組は、15世紀の新興ポルトガル帝国から現在世界を支配する米国に至るまで世界の大国9カ国の台頭を検証して、こうした国を成功に導いた要因を明らかにしようという内容だった。中国はこの9カ国に含まれていなかったが、番組は、現在の中国指導者が国民に訴えたいと願っているソフトパワーの重要性を説くものであった。

ドキュメンタリー番組は、中国共産党の中央委員会の委託であったにもかかわらず、歴史の描写からはマルクス主義の視点がまったく排除されており、世界の諸大国がいかにしてソフトパワーを構築したかを重点的に描いている。

従来の中国の歴史本のように帝国の圧政を強調するのではなく、番組はそれら帝国が理念、制度、文化の魅力によって他に影響を及ぼすその力を掘り下げて検討している。

このシリーズ番組のチーフ・プロデューサーRen Xue’anは、中国日報の取材に応えて、「中国が世界に門戸を開く中、私たちは世界についてもっと合理的な理解を身につけることが必要です」と述べている。

ドキュメンタリーは、英国とその産業革命の紹介に当たっては、経済発展における同国の偉大な科学者ニュートンとワットならびに経済学の天才アダム・スミスの貢献に時間を割いている。米国を扱った部分では、台湾との再統一を目指すことを誓っている中国共産党自身の中核理念である国の結束に功績を上げたフランクリン・ルーズベルト大統領に焦点を当てている。

12部構成のドキュメンタリーは高視聴率を上げ、中国中央電視台(CCTV、中央テレビ)で2回連続して放映された後、現在では地方テレビネットワーク各局で放映されている。

「世界の大国の台頭にとって理念や哲学、文化がいかに大切であったかを見ることはすばらしい」とインターネット掲示板に匿名で書き込んだあるネチズンは、「しかしそれら大国が恐ろしい軍事力なしに大国になったと考えるのは間違いだ」と記している。

もうひとりのネチズンは、「従順に知識を深めることがすべてと考える上で儒教の伝統の影響を排除する必要がある。米国や日本の例から明らかなように、技術と科学を全面的に推進することによってのみ、国家は大きな権力を達成することができる」と書いている。

中国の将来の台頭を見据えたこの番組は、国のソフトパワーがいかに重要であり得るか、あるいは経済力ははたして軍事力なしに実現可能なのかどうかについて十分な議論を巻き起こした。ただし真正な歴史の欠如またはその重要性について意見の分かれる問題を提起することはなかった。

中国が最後に自らの自己分析をテレビで放映したのは、18年も前のことになる。1988年に放映された6部構成のテレビシリーズ「黄河哀歌」は、放送後直ちに中国全土にセンセーションを巻き起こし、その結果放送禁止となった。

論議を呼んだこのシリーズは、黄河の緩やかな不変の流れに形作られた中国文明が極度に安定した抑圧的な「封建的」政治文化を生み出したのだと示唆し、西側世界はこれと対照的に、科学と民主主義に教え導かれたものとして描き、そして変革を呼びかけた。

中国共産党の保守派の多くは、「黄河哀歌」放送禁止後の激しい議論が、学生の民主化運動に影響を及ぼし、後に天安門広場でのデモと政治改革の要求にまで至らしめたと考えている。中国共産党長老のひとりWang Zhenは、このドキュメンタリーを「文化的ニヒリズム」と呼び、全面的な西洋化を提唱したとして番組を非難したと言われている。

「諸大国の台頭」は、こうした公認されない領域にまでは踏み出していない。チーフ・プロデューサーRenの言葉を借りれば、ドキュメンタリーは、大国を構成する要素と大国に至った過程とを明らかにする「答探し」にすぎない。

過去の亡霊を追い払い、厄介な過去の説明を試みることは、ドキュメンタリーで推奨されていることではない。有識者は、共産党は依然、過去を問題にすることで古傷を開き、政治改革への要求を再び呼び起こす結果になることをおそれていると見ている。

中国の歴史書におけるナショナリズムを批判する論文を掲載したことで2006年初頭に週刊紙『氷点』の編集長を解任された李大同は、「物事に疑問を呈し始めれば、それがどのようなことに行き着くか誰もわからない。ひとつの疑問が別の疑問を生み、尽きることはない」と述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|エジプト|労働者の反乱、功を奏する

【マハラ・エル・コブラIPS=エマド・メカイ】

エジプト北西部にあるアル・マハラ繊維公社の労働者は、会長のボーナス支払い停止決定に抗議し5日間のストを決行した。ムバラク政権の度重なる圧力で弱体化していた労働組合にとって、ストライキは1988年以来初のことである。

労働者は、年額35ドルという小額ボーナスの支払いを停止するのは、世界銀行の民営化提案に従い入札企業の便を図るためだとして、直ちに抗議行動を開始。集会では、数千人の労働者が会長の名前が書かれた棺を担ぎ、会長退陣と役員/業績の調査を要求した。

 いつもは乱暴なエジプト警察も、デモ参加者の数に圧倒されたのか鎮圧行動に出ることなく、政府の介入もなかった。メディアも同事件を大きく取り上げ、反政府スローガンを叫び、棺を担いだ労働者の写真が新聞の一面を飾った。

同デモは、労働活動家/労働者にとって様々な問題を提起するまたとない機会となった。

マハラ工場で働くサイード・アブダラ氏は、「羊毛の屑で汚染された空気で喘息になった。我慢にも限界がある」と抗議。アイマン・タハ氏は、「政府は、ストはイスラム同胞団が指揮していると批判しているが、同胞団メンバーは組合選挙の前に逮捕され誰も残っていない。彼らは自らの行動を省みることなく、何でもイスラム同胞団のせいにする」と語った。

また別の労働者は、「経営側は厳しい労働により肝臓病になった同僚を首にしたが、本来なら保健または年金を給付すべきだ」と指摘。多くの労働者は、劣悪な労働条件、低賃金、管理者と労働者の給与格差に不満の声を上げた。

労働者が一様に批判するのが不正である。彼らは、「管理者は数百万ドルで会社の資産/土地を売却したが、労働者には何の保障もない。経営トップは、正規の手続き無しに親族/友人を経営に参加させている」と批判した。

ストの結果、政府は約束したボーナスの支払いを認めると共に提起された問題への対応を約束した。ある労働者は、最初からデモに参加すれば良かったと残念がっている。

政府に大幅な譲歩を認めさせたエジプト繊維公社のストライキについて報告する。(原文へ

INPS Japan

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|アフガニスタン|タリバン勢力の復活にNATOが苦戦

【カブールIPS=サイード・ザブリ(Pajhwork Afgan News)】

トニー・ブレア英首相は、北大西洋条約機構(NATO)軍によるイスラム原理主義勢力、タリバン掃討作戦の任務は着実に成功へ近づいてきていると主張。しかし、この驚くべき発言は実際のアフガニスタンの現場で実証する必要があるだろう。

ブレア首相はNATO首脳会議が閉幕した29日、ラトビアの首都リガで報道陣に対し「アフガンでのNATOの任務について(現在はまだ大きな成果は見られないが)今後必ず目に見える成果をもたらすだろう」と楽観的見方を示した。

 この記者会見のわずか数時間前、南カブールの道路で反政府勢力による待ち伏せ攻撃を受けたNATO軍兵士2名が負傷。会見ではこの銃撃戦に関する詳細は明らかにされなかったが、最近アフガニスタンの首都カブールやその周辺地域で連合軍の車列を狙った襲撃が多発している。

昨年12月、米軍が(イラクへの派兵増員により)アフガニスタンで活動を展開する4,000人の兵士を撤退させることを発表して以降、多国籍軍・アフガニスタン国軍とタリバンの間での攻撃は激化している。米軍から指揮権を移譲したカナダ・英国・オランダ、さらにNATO主導の国際治安支援部隊ISAF(International Security Assistance Force)は、南部ヘルマンド州やカンダハール州のタリバン拠点地域で戦闘を行っている。

月曜日(27日)、警備の厳しいカンダハール空港でNATO軍車列への自動車による自爆攻撃でカナダ兵2名が死亡した。これによりカナダ人の犠牲者数は今年に入って36人になった。

このような自爆テロ行為が行われたのは、アフガニスタンの30年にわたる紛争でも初めてのことである。今年は102件を超える自爆テロが発生したが、これによる死者のほとんどは民間人であった(このうち外国人兵士の死亡者数は17人)。

木曜日(30日)には、ヘルマンド州でタリバン兵との戦闘中にNATO軍兵士1名が負傷。軍のスポークスマンは1名のISAF兵士が(近接支援機と軍の支援を受けた)軍事行動の際に軽症を負ったことを確認した。

2001年に米国主導の連合軍によりカブールからの撤退を余儀なくされたタリバンは、アフガン政権の奪還と海外からの治安部隊の崩壊を目指して、僅か5年で勢力を回復させた。この戦闘により、今年は約4,000人もの死亡者が出たと見られている(死亡者数の4分の1は戦争による被害を最も多く受けている南部の民間人)。

アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は、同国全土に3万2,000人もISAF兵士を配備することでテコ入れを図った。主な派遣国の内訳は、米国が1万1,800人、英国が6,000人、ドイツが2,700人、カナダが2,500人、オランダが2,000人、イタリアが1,800人、フランスが975人である。

しかし、(域外活動として初めてとなる)NATOが指揮するアフガニスタンでの軍事任務は、NATO26の加盟国の立場を真っ二つに分けることになった。フランス・スペイン・イタリア・ドイツなどの加盟国はタリバン掃討作戦で自国の兵士を犠牲にすることを拒否した。タリバンによる外国人兵士の犠牲者は今年、英国人兵士36人を含めおよそ100人に上っている。

NATO加盟各国は、アフガニスタンの復興を目指した平和維持活動の役割においてそれぞれが異なる立場をとっている。このため治安の悪化する同国の各地域では復興支援がほとんど進んでいない状況である。この加盟各国が独自に決めた自国部隊の展開地域や行動規範が障害となり、首都カブールではNATOの機能が麻痺している。

この長い戦争を体験するなか、アフガニスタンの人々は同国の治安回復や資金面の援助などの実現に向けた西側諸国の復興支援活動に大きな期待を抱いた。しかし、部隊の配備や航空機の移動範囲の決定をめぐるNATO加盟国の間の論争は、アフガンの人々を落胆させる結果となった。

ジャーナリストで『タリバン~イスラム原理主義の戦士たち~』の著者であるアハメド・ラシッド氏は「カブール周辺の紛争多発地域で暮らす住民のNATOに対するイメージは決して良くない」と述べた。
 
 NATOは今回の首脳会議で、フランス・スペイン・イタリア・ドイツの首脳から、緊急時に限り南部の治安への関与を行うとする僅かな譲歩を得ることができた。しかし、この『緊急時』に関する詳細な定義も未だに不透明なままである。

比較的平和な西部地域を拠点としているスペイン軍がこれまで妥協することはなかったが、今回の会議でホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相は、緊急時における負傷したNATO軍兵士を避難させる手段として同国のヘリを用意することを申し出た(ただし激しい戦闘が続く南部での使用は認めていない)。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、現在アフガニスタンで展開する2,900の強力部隊の要員をさらに増やすことを求めたNATOの要請を拒否した。しかし同首相は、時限的なものとして(情勢の不安定な)南部への支援を確約した。

フランスのジャック・シラク大統領は、アフガン上空に多数の戦闘機やヘリを配備すること、さらに1つの大隊をカブールから派遣させることに同意した。一方イタリアのロマノ・プロディ首相は「兵士を西部から最も治安の悪い南部や西部に移動させるかどうかについては、臨機応変に決断していくつもりだ」と述べた。

アフガンに要員を派遣しているその他の国々も、大幅な増派を表明した。活動規制の緩和については、オランダ・ルーマニアの派遣部隊はすべての規制を解除するものと報じられている。一方、チェコ・デンマーク・ハンガリー・ギリシャも規制を緩める方向で同意している。

NATOは、各国に対して派遣中の部隊への活動制限の緩和と大規模な増員を求めるなかで、今回は僅かではあるが動きが見られたことを高く評価した。

NATO幹部のJaap de Hoof Scheffer氏は「アフガニスタンに駐留する3万2,000人の兵士のうち2万人が戦闘地域・非戦闘地域での軍事行動が可能である」と述べたものの、未だに軍の要求を満たしてはいないことを認めた。アフガンの現状を考えると、ブレア首相の『勝利予測』はあまりにも楽観的過ぎると言わざるを得ない。(この記事はPajhwork Afgan Newsの同意を得て発表されたものである)(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「世界と議会」2006年12月号

特集:地方分権のゆくえ

■論文
「第二次地方分権改革に何が問われているのか」

新藤宗幸(千葉大学法経学部教授)

■議員に聞く
逢坂誠二(衆議院議員)

■解説
地方交付税改革

■咢堂政経懇話会
「日本の課題と展望」
片山虎之助(参議院自由民主党幹事長)

■IPS特約
市場取引は森林破壊を防げるか?

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
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|チリ|ピノチェト元大統領、裁かれることなく91歳で死亡

【サンティアゴIPS=グスタヴォ・ゴンザレス】

20世紀のチリの独裁者ピノチェトは10日午後、裁きを受けることなく心不全のため陸軍病院で死去した。人々には人権侵害と汚職にまみれた政治家という記憶だけが残ることとなった。 

91歳で亡くなったピノチェトは人権侵害で4件、汚職裁判で2件の被告となっていた。選挙で選出された社会主義のアジェンデ政権を崩壊させた1973年9月11日のクーデターにおいて、ピノチェトは追従しながら、狡猾に立ち回った。

 その後17年間にわたり鉄拳で国を支配し、死亡・行方不明者は3,000人、拷問を受けたのは少なくとも3万5,000人、亡命者は80万人に上る。 

ピノチェトは決して罪を認めようとはしなかった。秘密警察最高幹部としてコンドル作戦を実行したマヌエル・コントレラスは、ピノチェトは人権侵害の罪をかぶった側近に不実であると非難している。 

権力掌握以来、ネオリベラルな自由主義経済を取り入れ、社会保障、医療、教育を民営化し、軍に保護された独裁政権を守る憲法体制を作り上げた。このメカニズムと健康の理由で訴追を免れ続けたピノチェトも、ようやく法廷に向き合わなければならないところであった。 

10日になくなったアウグスト・ピノチェト前大統領が国民に残した傷について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|アルゼンチン|司法がコンドルを捕らえる

|ソマリア|平和支援軍投入案に内戦激化の懸念

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

米ブッシュ政権が、内戦の進行するソマリアに「平和支援」軍を投入し、1992年以来実行されているソマリアへの武器禁輸措置をこの軍隊に対してのみ緩和するという内容の国連安保理決議案を成立させようとしている。

しかし、ソマリア暫定連邦政府(TFG)を実質的に支援することを目的としたこの軍隊派遣には、同国をほぼ実効支配しているイスラム法廷連合(ICU)が強く反対している。

 この決議案は、もともと2年前にアフリカ連合(AU)等が提案していたものであったが、昨夏にICUが諸軍閥を破って支配的な勢力になるにつれ、米国がこれに関心を示したものである。

だが、米議会調査局(CRS)の東アフリカ問題専門家Ted Dagne氏は、軍隊が派遣されれば戦闘はむしろ激化すると指摘する。また、TFGが暫定首都のバイドア以外を支配できていない状況の下では、ICUを巻き込んだ和平交渉をやらない限り意味がないと語る。

TFGはソマリア国民に反感を持たれている。なぜなら、TFGが、イスラム勢力を敵視する隣国エチオピアの代理人だと見られているからだ。一説には、エチオピアはすでに自国軍2,000~8,000人をソマリアに投入している。
 
 これに対抗して、エリトリアもICU支援のための軍隊を投入しており、ソマリア内戦は、エチオピア・エリトリアの代理戦争の様相も呈している。国連が11月頭に出したレポートによれば、92年に始まったソマリアへの武器禁輸のルールを、エチオピア・エリトリア両国を含む10カ国が破っているという。

昨夏にICUが勝利を収めて以来、ICUとTFGとの間で何度か和平交渉が持たれているが、ほとんど進展はない。次は12月15日に交渉が予定されている。

交渉がうまくいかないひとつの理由は、米国の強硬な姿勢である。とくに、国務省のアフリカ担当、ジェンデイ・フレイザー次官補が対ICU強硬論を主張している。ICUはアルカイダとつながりを持っている、というのが強硬派の主張のひとつだ。

ソマリア内戦への国際社会の対応について報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=IPS Japan
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ソマリアから脱出するジャーナリスト

ビルマに新たなHIV・結核・マラリア基金援助

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】 

長年にわたり軍事政権下で苦しむビルマの国民に、命にかかわる3大感染症対策のための新たな援助基金が供給されることとなった。この基金により、国際社会と秘密主義の軍事政府との関与が深まるとの期待が寄せられている。 

なによりもまず、エイズ、結核およびマラ3リア対策のための1億ドルのこの基金「3疾病基金」により、「ビルマへの人道援助は問題の多いこの東南アジアの国の政治とは切り離すべき」との一部西側諸国政府間で広がっている考えが試されることになる。

国連の監督の下、来年初頭から実施に移される基金には、欧州連合、オーストラリア、英国、オランダ、ノルウェーおよびスウェーデンが支援を寄せている。基金は、ビルマ政府が規制を課したことから2005年8月に9,840万ドル相当の活動が停止に追い込まれた世界エイズ・マラリア・結核対策基金(世界基金)の撤退後の空白を埋めることとなる。 

「人道上の理由から、国際社会はビルマ人民の窮状を無視できない」と欧州委員会のビルマ外交代表のフリードリッヒ・ハンブルガー氏はIPSの取材に応え電子メールで伝えてきた。「十分に計画を練れば人道支援も貧困者や恵まれない立場にある人々のもとに必ず届くと確信している」と述べた。 

欧州は、3疾病基金に対しては規制や妨害を受けないとの確約をビルマ(軍事政権はミャンマーと称する)から得ている、とハンブルガー氏は次のように言い添えた。「私たちは、政府の関連当局から、重要な資源がそれらをもっとも必要としている人々のもとに届くよう、また効率的に届けられるよう条件を整備するとの約束を取り付けている」 

3疾病基金は、また、先週ビルマのKyaw Myint保健相と国連プロジェクトサービス機関高官の間で交わされた覚書に盛り込まれた特別条項によって、世界基金よりも前進を図ることができると期待されている。 

「作業を進めるための全般的な政治的枠組みを整えた。大きな相違点のひとつとして、今回の取り組みでは『3疾病基金』を通じてプログラムを実施する事業者に対し郡区レベルでの医療制度との連携が義務付けられている」と国連のビルマ担当調整官のチャールズ・ペトリー氏はラングーンから電話で取材に応えて述べた。「実際に地元の医療当局と協力して活動しなければならない」 

報道によれば、覚書は、民族紛争下にある国境付近の地域も含め、基金の監視に当たる担当官にはビルマ全土へのアクセスも保証している。ジュネーブに本拠を置く世界基金の場合はこれほど恵まれた状況にはなかった。ビルマ政府は農村地域で世界基金の一部プログラムに取り組むNGOに対して厳しい移動制限を課していた。他の人道救援組織にも同様の規制が課せられ、フランスに本拠を置く国境なき医師団(MSF)など一部組織は今年初め撤退を余儀なくされた。 

エイズ、結核およびマラリアの感染率が地域の中でももっとも高い国のひとつであるビルマへの新たな基金供与に対しては、世界基金の撤退に大きな打撃を受けた地元コミュニティと協力する国際人道援助組織からも期待が寄せられている。 

ワールドビジョン・ビルマ事務所のHIVプログラム顧問キー・ミン博士はIPSの取材に応えて、「(3疾病基金)は抗HIV療法や必須医薬品で結核、マラリアの治療を受けている人々のニーズを満たすだろう。こうした病気に苦しむ人々にも生きる希望が出てきた」と述べた。 

実際、キリスト教精神に基づく国際救援機関であるワールド・ビジョンは、世界基金が抗議して撤退してから、HIVプログラムの財源削減に苦しんでいるNGOのひとつである。なかでも、ビルマ西部のエーヤワディ管区とチン州のHIV陽性者を対象とした在宅ケア・プログラムおよびカウンセリング・サービスが財政難にある。 

キー・ミン博士は、「ちょうどプログラムを開始したばかりのところで、資金の拠出が停止されてしまった。プログラムは潜在的移民と一般住民を対象とし、受益者は15万人にのぼるだろうと推定していた」と説明した。 

地元草の根の取り組みを強化するため無償資金協力の対象としている120カ国以上の開発途上国のひとつに世界基金がビルマを選んだことは、命に関わる3大感染症の蔓延を考えると時宜を得たものだった。世界基金が撤退という前例のない措置をとってから1年、ビルマの医療情勢に改善は見られていないとさまざまな報告は伝えている。 

国連エイズ合同計画(UNAIDS)その他保健機関によれば、人口5,000万のビルマのHIV感染率は東南アジアで一番高く、成人感染率は1.3~2.2%、HIV陽性者は36~61万人にのぼる。 

加えて、ニューヨークに本拠を置くシンクタンク、外交問題評議会は、2005年の調査報告書で、ビルマは、西はカザフスタンから東はベトナム南部までの広域におけるあらゆる変種のHIVの蔓延源になっていると明らかにしている。 

結核についても状況は同様に厳しい。ビルマの年間新規感染者数は9万7,000人にのぼり、世界保健機関(WHO)の統計では、結核罹患率がもっとも高い22カ国の中に入っている。ジュネーブに本拠を置くWHOが現在直面している厄介な問題は、多剤耐性結核(MDRTB)の流行である。ビルマでは、新規感染率が4%と、5.3%の中国に次ぐ東アジア第2位の深刻な状況となっている。 

マラリアも感染が広がっており、昨年WHOが実施した調査によれば、2003年に71万6,000症例と、アジアでもっとも深刻な国のひとつとなっている。2001年には66万1,463症例であった。 

しかしこうした深刻な状況にあっても軍事政権は強硬な姿勢を崩しておらず、ビルマの少数民族が暮らす地域の感染症の影響を受けやすいコミュニティに対する保健プログラムの提供を認めていない、と野党グループは述べている。彼らは、感染症に苦しむ人々に希望と救いを提供する保健活動の取り組みをビルマ政府がいかに阻害しているかを示すものとして、依然実施されている移動制限を指摘する。 

1991年に軍事政権によって禁止された政党「新社会のための民主党」の外交担当広報官ゾー・ミン氏は、「NGOや人道援助機関の国境地帯への移動を阻止するための移動制限が依然として実施されている」と語っている。

ミン氏は、「『3疾病基金』が自由に活動するには地元パートナーが必要だ。しかし軍事政権は、コミュニティに基盤を置く地域社会組織(CBO)は住民の政治意識を高めることになる懸念があるとして、CBOをおそれている」と取材に応えて説明した。「最近、(野党)NLD(国民民主連盟)との政治的提携関係を理由に、HVI/AIDS活動家が逮捕された」(原文へ

翻訳=IPS Japan