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|視点|インドに外交政策の選択肢を見直すよう圧力をかける米国(ジョン・P. ルールStrategic Policy編集者)

【ワシントンDC/IDN=ジョン・P. ルール】

ウクライナ危機以降、米国のインドへのアプローチは、インドの米国に対する歴史的な不満を再燃させるものであった。しかし、ロシアや中国など他の大国がインドに働きかけていることは、国際情勢においてインドの影響力が増していることを物語っている。

2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻以来、米国は対ロシア制裁への支持を集め、外交的に孤立させようとしている。バイデン政権は、インドがこの制裁を順守することについてはほとんど期待していなかったが、インドは公然と制裁回避の方法を模索し、国連でロシアを非難することも控えている。

インドは注意深く行動し、ロシアの侵攻を支持する姿勢を見せず、代わりにロシアとウクライナの紛争解決のための対話を呼びかけている。インドと良好な関係にあるウクライナを怒らせたくないという思いに加えて、ロシアの行動を是認していると見られたくない、さらには、インドの伝統的な外交政策である非同盟政策から外れたくないという思いもあるのだろう。

しかし、このようなインドのバランス重視のアプローチは、米国の怒りを買っている。米国は、ウクライナ紛争を、孤立した権威主義的なロシアに対する民主主義国家の統一戦線という構図で捉えようとしている。中国のロシアへの外交支援やグローバル・サウスにおけるロシアの幅広い支援と並んで、インドによるロシアとの慎重かつ持続的な協力は、このような構図を崩すものであった。

The official State Department photo for Secretary of State Antony J. Blinken, taken at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on February 9, 2021. / Public Domain]By U.S. Department of State, Public Domain
The official State Department photo for Secretary of State Antony J. Blinken, taken at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on February 9, 2021. / Public Domain]By U.S. Department of State, Public Domain

4月11日、ブリンケン米国務長官は、オースチン米国防長官、シン国防相、ジャイシャンカール外相との共同記者会見で、一部当局者による人権侵害が増加していると指摘してインドを批判した。この発言は、インドの政界や社交界ですぐに批判を浴びた。特に、この問題が議論されるという警告が米政府高官から事前になかったからである。

ブリンケンの発言は、2014年に政権を握ったナレンドラ・モディ首相のもとで民主主義が後退したとされるインドを巡り、ここ数年欧米で批判が高まっていたことを受けたものだ。その結果、モディ首相の支持者の多くが、過去数世紀にわたってインドで西欧諸国が果たした歴史的役割に対する反感を強めている。

摩擦を察知した他の大国は、米国とインドの間の分裂を利用しようとしている。特にロシアは、ウクライナ紛争に対するインドの中立的な立場を受け入れ、ここ数ヶ月、インドへの石油輸出を大幅に割引いた価格で急拡大させている。これは、石油、天然ガス、石炭、原子力発電の協力を通じて、インドとロシアの間で長年にわたって高まってきたエネルギー関係をさらに補完するものであり、エネルギー分野以外の両国間の商品輸入も増加している。

また、インドは長年にわたりロシアにとって最大の武器輸出先であり、さらなる軍事協力に拍車をかけている。国連におけるロシアの伝統的なインド支援も、インド政府が貿易維持を堅持しているおかげで、今後も継続されるに違いない。

European Union Flag
European Union Flag

欧州連合(EU)は米国と同様、インドにロシアに対してより厳しい姿勢をとるよう説得を試みており、3月28日にはインドがウクライナへの侵攻を非難しないことを「好ましくない」と指摘した。しかし、EUは批判をほぼ制限し、代わりにインドとのより建設的な関係を追求する戦略に注力している。

2020年には、「EU-インド戦略的パートナーシップ:2025年へのロードマップ」を採択して関係をアップグレードし、21年4月には「インド太平洋における協力のためのEU戦略」を明らかにし、インドとの関与を高めることに大きな重点を置いている。その1カ月後、インドとEUは、自由貿易協定を結び、経済関係の強化に向けた取り組みを再開するために、オンラインによる会合を開催した。

そして今年5月上旬、モディ首相は3カ国にわたる欧州歴訪を実施した。2日にはベルリンで第6回独印政府間協議が開催され、世界の安全保障と二国間関係の拡大が議論された。4日にはコペンハーゲンで、デンマーク、アイスランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの首脳による第2回インド・北欧首脳会議が開催された。その日のうちにモディ首相はパリに飛び、再選されたフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談した。

二国間、多国間のフォーラムやEUとの幅広い取り組みを通じて欧州諸国と関係を構築することは、インドが現在直面している米国からの圧力の高まりとのバランスをとるのに役立ち、またロシアをめぐる意見の相違にもかかわらず、欧州がインドに関与する意欲を示している。

インドにとって最も大きなチャンスは、ウクライナでの紛争が中国との関係をどのように変えるかであろう。ここ数週間の米国のインド批判は、80年以上にわたってインドとさまざまな国境衝突を繰り返してきた中国にとって見逃せないものだった。2020年以降、中国軍とインド軍は係争中の国境の一部で、緊迫した命がけのにらみ合いを続けている。

India China Locator/ By Myself - Image:United Kingdom China Locator.png, CC BY-SA 3.0
India China Locator/ By Myself – Image:United Kingdom China Locator.png, CC BY-SA 3.0

また、中国はインドと領土問題を抱えるパキスタンを支援し、インドはチベットの精神的指導者であるダライ・ラマを保護している。中国は1951年にチベットを併合して以来、この地域を支配しており、中印間の摩擦の原因となってきた。今世紀に入り、中国とインドが力をつけるにつれ、アジアにおける両国の関心領域は重なり合うようになった。

しかし、両国とも外交の選択肢を残しており、国境で起きている対立は現状をより強固にするものでしかない。インドは、ここ数十年の中国のパワーと影響力の増大が世界的な規模であったとしても、中国軍には動じないことを証明している。

2020年から21年にかけての中印国境での膠着状態が最も激しかった時期から、緊張はやや和らいでいる。このため、中国の地域覇権をインドに受け入れさせるために、より強硬な手段を用いようとする競合する「大国外交」戦略よりも、経済的な取り組みを通じてインドを誘惑しようとする中国の「近隣外交」が優先されたと認識されるようになった。

Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons
Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons

インドとの緊張を緩和しようとする中国の政策は、インドが米国と正式な安全保障同盟を締結し、アジア太平洋地域における中国の野心が大きく損なわれることを中国政府が恐れていることに起因している。インドと米国以外に日本とオーストラリアも参加する日米豪印戦略対話(Quad)は、今のところそのようなものにはなっていない。しかし、2021年に比較的突然、米国、英国、オーストラリアの間でAUKUSという安全保障同盟が創設されたことは、この地域における中国の計画に対する挑戦がまだ可能であることを示した。

AUKUS発表の衝撃は、中国がインドとの友好関係を模索するきっかけとなったことは明らかである。パキスタンは依然としてインドの主要な関心事であり、中国はアジア太平洋地域における米国との対立に大きな関心を寄せている。中国とインドが休戦すれば、ウクライナ侵攻の余波から新しい世界秩序が形成される中で、両国の最も重要な関心事に対処するために外交政策を再編成することができるだろう。

インドと中国が意見の相違を解決するのは難しいが、両国の関係改善を促進する道はいくつか存在する。中国の「一帯一路構想(BRI)」においてインドがより大きな役割を果たすよう奨励することは、両国間のより積極的な関係を固めるための建設的な経済的インセンティブを生み出すことにつながるだろう。

インドと中国は、カザフスタン、キルギス、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンと共に、上海協力機構(SCO)という国際政治・経済・安全保障ブロックの加盟国でもある。インド、中国と良好な関係にあるロシアは、欧米が関与しない国際機関で中印間の紛争を調停することで、その外交力を誇示する機会を得ようと考えている。

インドが国際的に注目されるようになったことで、大国がインドへの関心を高めていることは明らかである。インドは2年連続で、世界で最も急速に成長している主要経済国になると予想されている。

China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes - Own work, CC BY-SA 4.0
China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes – Own work, CC BY-SA 4.0

しかし、ウクライナ危機へのインドの対応を巡る米国の圧力は、インドへの米国の熱しやすく冷めやすいアプローチの限界も示している。1971年の印パ戦争では米軍がインドを威嚇し、98年の核実験ではインドとパキスタン双方に制裁を加えた。さらに、アフガニスタン戦争やテロとの戦いにおけるパキスタンへの支援は、インドに大きな懸念を抱かせた。

しかし、インドと米国はこの30年間、民主化プロセスへの支持、中国のアジア戦略への警戒、地域のイスラム過激派への対抗努力などを背景に、二国間協力も強化してきた。インドは、安全保障、外交支援、エネルギー、貿易協力などを巡ってロシアと緊密な関係を築いており、インドが非同盟の姿勢を崩さない理由もここにある。このような現実を認識する代わりに、米国はインドが採用した政策への批判を強めている。

インドの外交政策は、他の全ての主要国からの協力を呼び込むことを可能にし続けるだろう。その中には米国との萌芽的な関係を維持することも含まれるが、インドに対する追加的なインセンティブがないため、インドの外交政策を変えようとするバイデン政権の努力は今後も徒労に終わるだろう。(原文

INPS Japan

INPSのパートナーメディアであるグローブトロッターによるコラム記事。筆者はワシントンD.C.在住のオーストラリア系米国人ジャーナリストで、Strategic Policy編集者。現在、今年出版予定のロシアに関する本を執筆中。

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助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(3)スタス・マネヴィッチ(イスラエル・フォー・ウクライナ設立メンバー)

【エルサレムNGE/INPS=ロマン・ヤヌシェフスキー】

*NEG=ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ

ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ
ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ

イスラエルはロシアとウクライナに対して中立を維持しようと懸命に努力してきたが、対ロシアの関係が急激に悪化したのは必然であった。それを助長したのは、「ヒトラーにもユダヤの血が流れていた」を主張したセルゲイ・ラブロフ外相のスキャンダラスなインタビューと、その後の鋭い言葉の応酬であり、最後はウラジーミル・プーチン大統領がイスラエルのナフタリ・ベネット首相に自ら謝罪することになった。

一方、一般のイスラエル人には、政府が直面していたような難しいジレンマはなかった。国民の大多数は、最初から一方的な軍事侵攻にさらされたウクライナを支持していた。

さらにロシアが主張する残忍な「特別軍事作戦」は、イスラエルに新しい現象を生み出した。ロシア語を話す人々だけでなく、多数のイスラエル人が、ウクライナ人の苦しみを目の当たりにして、彼らを助けなければならないと痛感したのである。その結果、多くの公的な取り組みやボランティアプロジェクト、人道的な支援金集めが自然発生的に始動することとなった。中には、それまでボランティア活動をしたことがなかった人々が組織したものも少なくない。ロマン・ヤヌシェフスキーが、こうした支援活動に参画した人々の内、8人に話を聞いた。(今回は3人目の取材内容を掲載します)

Israel4Ukraine

スタス・マネヴィッチ:ロシアによるウクライナ侵攻が始まって最初の1週間は、テレビから離れることができませんでした。そして2月末にはポーランドにウクライナ難民を支援するボランティアに行こうと一旦は決意しました。ところが友人から「たとえ一人で行ったところで、大勢のボランティアの一人に過ぎず、たぶん意味がない。それよりも、戦地から難民を5人でも救出する手配ができればもっと役に立てるのではないか。」と言われました。そこで妻のガルヤと相談して、ウクライナ国内でバスを手配することにしました。私の専門分野はIT関連ですが、以前イスラエルでエクストリーム・ツーリズムのオーガナイザーをやっていました。ウクライナの観光フェアに参加したり、ウクライナのパートナーと仕事をしたりしていたので、当時からウクライナの多くのツアーオペレーターや旅行代理店と知り合いになっていたのです。

Israel4Ukraine

彼らの協力で、まもなく信頼できるバス会社を見つけ、5千ドルでバスを手配できました。基本的に自分たちの費用は自ら賄いますが、運営費用の一部を補償するために、Facebookに投稿を公開しました

その日、友人のシモン・シュレヴィチがポーランドから帰国してきました。キエフから国境までウクライナ難民を脱出させるバスを手配したことを話すと、賛同してくれて、早速彼を入れた3人でキエフ入りし、難民家族を乗せた国境行きバスを運行しました。

まもなく、バス1台を手配するために必要な金額よりも、さらに多くの資金が集まるようになりました。そこで、もう1本、ハルキウからのバスを手配したほうが良いのではと考え、実行に移しました。こうしてこれまで(5/1現在)に、100台以上のバスを手配し、ウクライナ各地から4144人の難民をポーランド国境に避難させることができました。

ヤヌシェフスキー:本業の仕事についてはどうですか?

マネヴィッチ:昼夜を問わず避難作業に追われ、本業を休まざるを得ない状況でした。当初は2週間ほど休職して、それから更に1カ月半ほど仕事とボランティア活動を両立させようとしました。しかし、さすがに2カ月を終えて本業に完全復帰せざるを得ませんでした。その時点で、私が担当していた案件をボランティアチームの他のメンバーに引き継ぎました。私の勤め先は私のリクエストにとても寛大で、バスの手配費用に1万ドルも寄付してくれたうえに、2カ月間も自由に活動させてくれました。しかし、こうした好意に甘えるのもそろそろ潮時だと判断しました。さすがに、あのままボランティア活動を優先していたら、職を失っていたでしょう。この場合、自らを犠牲にして他人に十分な支援の手を差し伸べることはできません。

ヤヌシェフスキー:なぜ、このようなプロジェクトを始めたのですか?マネヴィッチさんはウクライナ出身の方ですか?

Image source: Sky News
Image source: Sky News

マネヴィッチ:ロシアのウクライナ侵攻に直面して、「これは何かが間違っている。自分にも何かができるはずだ。」と気づいたのです。私はモスクワ出身ですが、イスラエルに住んで35年になるイスラエル人です。ロシアの国籍は持っていません。

私にとって故郷であるモスクワはとても身近で、友人もいますが、「政権与党の方針」は今や完全に間違っています。しかし同時に、私はこの紛争について、軍隊を支援するという意味での軍事的な立場を取りたくなかったのです。

妻のガルヤ、シモン、私の3人は、空爆や砲撃から人々を助け、戦地から逃れられるよう救出の手を差し伸べることに専念しようとすぐに決心しました。そして、国境まで避難民を誘導して空席となったバスの復路では、食料や医薬品などの人道支援物資を詰め込んで、ウクライナ各地に届けています。私たちは、ウクライナ人、ロシア人、ユダヤ人、誰であろうと例外なく、助けを必要としている人を助けることにしています。

Israel4Ukraine
Israel4Ukraine

3月1日にプロジェクト「イスラエル・フォー・ウクライナ」を立ち上げました。当時、私たちは3人でした。3月10日には、すでに20人が集まっていました。今は30〜40人くらいです。ボランティアの登録フォームがあり、そこから400人ほどが登録しています。参加したい、手伝いたいという人はたくさんいるのですが、時間的に余裕がある人がいないとダメなんです。仕事を終えて夕方から1日2時間程度では不十分ですし、効果がありません。グラフィックアーティスト、ソーシャルネットワーク上の文章を書くコピーライター、コーディネーターなど、あらゆる職種の方を募集しています。そして、ボランティアスタッフには、指示待ちではなく、進取の気性と創造性に富んだ資質が求められます。自分たちで提案し、実行し、宣伝する方法を知っている人、そうした情報と自由な時間をセットで持っている人が必要なのです。そうした意味で、この団体は、クリエイティブなチームになっていると思います。(原文へ

INPS Japan

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ICAN、アフリカで核兵器禁止を成功裏に推進

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

2017年のノーベル平和賞受賞団体である「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)とそのパートナー団体が、核兵器禁止(核禁)条約批准を促進し、核兵器が人類全体に対してもたらす重大な脅威への意識を高める活動をアフリカ全土で展開している。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

核禁条約は、あらゆる核兵器関連活動への関与を包括的に禁止した文書で、核兵器の開発・実験・生産・取得・保有・貯蔵・使用及び使用の威嚇などの活動をいかなる場合も禁止している。

条約はまた、核兵器を領土内に配備したり、禁止行為を他国が行うのを支援したりすることも禁じている。

締約国は、その管轄下にある個人によって、あるいはその領土において行われる条約が禁止する行為を予防し取り締まる義務を負っている。

加えて、核禁条約は、核兵器の使用あるいは実験によって被害を受けた個人に対して適切な支援を提供すること、核兵器の実験あるいは使用に関連した活動の結果として汚染された、その管轄下にある土地の環境を回復するよう、締約国に義務づけている。

104カ国の非政府組織をネットワーク化しているICANは、2017年7月7日にニューヨークの国連本部で核禁条約が採択されるにあたって大きな役割を果たした。賛成122カ国、反対1カ国、棄権1カ国で、賛成国のうち42がアフリカ諸国であった。

Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN
Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN

2017年9月20日に、国連事務総長が核禁条約を署名開放した。2020年10月24日に国連事務総長に50カ国目の批准書が寄託されたことで条約第15条に基づき、翌21年1月22日に発効した。

それ以来、アフリカの全54カ国がこの画期的な条約への支持を国連総会で表明し、その多くが条約を実際に署名・批准した(リストはこちら)。また一部の国は現在、批准の手続きを進めているところである。

ICANが地域的に働きかけを強めているのは、アフリカ連合(AU)、アフリカ原子力委員会(AFCONE)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)である。

2019年4月、アフリカ連合の平和安全保障協議会は核禁条約に関する会合を持ち、15カ国から成るこの機関に対してICANが発表を行う機会が与えられた。2022年3月、アフリカ連合委員会は、ICANと組んで「アフリカにおけるTPNWの普遍化を促進する」会合を招集し、各国政府代表が意見を交わした。

各国代表らは、核禁条約の交渉・採択・推進にあたってアフリカ諸国の果たした主導的な役割、同条約が地域的な関心を持った他の条約、とりわけアフリカ非核兵器地帯条約(ペリンダバ条約)といかに連携効果を持っているかについて想起した。

ペリンダバ条約は、南アフリカ原子力公社の運営していた主要な原子力研究センターの名を由来としている。同地は、南アフリカが1970年代に原爆を開発・建造し、のちに貯蔵していた場所でもあった。ペリンダバ条約は1996年に採択され、28カ国目の批准をもって2009年7月15日に発効した。

Map of the countries ratifying the African Nuclear Weapons Free Zone Treaty./By Lokal_Profil, CC BY-SA 2.5
緑:署名・批准済。黄色:署名済・未批准。灰色:非署名 資料:Map of the countries ratifying the African Nuclear Weapons Free Zone Treaty./By Lokal_Profil, CC BY-SA 2.5

ペリンダバ条約は、条約締約国の領域内で核爆発装置を研究・開発・製造・備蓄・取得・実験・保有・管理・配備することを禁じ、また地帯内において放射性廃棄物を投棄することを禁止している。

また、締約国が地帯内において核施設に対して攻撃を行うことを禁止し、平和的目的に対してのみ使用される核物質・施設・機器について最大限の物理的防護を図るべきことが規定されている。

条約は、全ての締約国がその平和的核活動に関して国際原子力機関のフルスコープ保障措置を受けるべきことを義務づけている。アフリカ原子力委員会(AFCONE)の設立を含めた検証メカニズムが条約によって作られており、その事務所は南アフリカ国内に置かれる予定だ。

ICANはAFCONEと協力して核軍縮を進めてきた。2021年10月、ICANの代表が南アフリカ・ヨハネスブルクで開催されたアフリカ非核兵器地帯第5回締約国会議に出席した。

ICANと西アフリカのパートナー諸団体は、2019年以来、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)に関与している。2021年12月、ICANからの働きかけによって、ECOWAS議会は核禁条約への支持を表明し、ECOWAS加盟国に対して条約に加入するよう呼びかけた。

さらに、ICANは、アフリカ24カ国の国政レベルにおいて、核禁条約批准を促進し、人類全体に核兵器が与える重大な脅威について意識を高める活動を行ってきた。

その24カ国とは、アンゴラ・ブルキナファソ・ブルンジ・カメルーン・中央アフリカ共和国・チャド・コモロ・コンゴ民主共和国・エチオピア・ガーナ・ケニア・マラウィ・マリ・モーリシャス・モザンビーク・ナイジェリア・ルワンダ・セネガル・シエラレオネ・南アフリカ・南スーダン・トーゴ・ウガンダ・ジンバブエである。

2017年、アフリカ42カ国が核禁条約採択に賛成した。それ以降、29カ国が署名し、12カ国が批准した。中央アフリカ諸国で初めて条約を批准したのはコンゴ共和国である。

コンゴ共和国のジャン=クロード・ガコソ外務・仏語圏・在外自国民大臣 は、核禁条約が署名開放された2017年9月20日に、ニューヨークで行われたハイレベル式典にて同条約に署名した。

ICAN
ICAN

2022年5月12日のコンゴによる批准は、核軍縮に関する多国間行動がこれまでにもまして必要かつ緊急になっており、この恐るべき兵器の廃絶に向けて全ての国家が主導権を握る責任があるとのアフリカの確固たる立場を示したものであった。

「核禁条約の批准は、国際の平和と安全保障がこれだけの価値を持つものであることを再認識させるものであり、その価値は大きい」とコンゴ議会のイシドール・ムヴォウバ議長は2022年2月に語った。

たしかに、核兵器は、どこで使用されようとも、どのような形態の使用であろうとも壊滅的なものであり、死と破壊、気候変動、飢餓、それに続く難民危機をもたらすだろう。それは、アフリカ全土と世界全体に波及効果を持ち、人類の生存そのものを危機に晒すことになる。

コンゴ共和国におけるICANのバートナー団体である「コンゴ共和国公衆衛生・地域保健協会」(ACSPC)のジョージズ・バタラ=ムポンド氏は、「コンゴは、核禁条約を批准することによって、グローバルな公共保健に大きな貢献をしました。核兵器が使用されれば、長年にわたって壊滅的な健康上の影響をもたらすだろう。核禁条約をまだ署名・批准していない国は、コンゴの例に倣って、安全かつ健康な世界を目指すことが重要です。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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女子教育への投資はされるものの遅々として進まない経済的ジェンダー平等

【国連IDN=タリフ・ディーン

女子教育への投資が進んでいるにも関わらず、女性の経済的平等が進んでいない実態を新たな調査が明らかにした。

この調査では、こうした投資が女性とその家族の健康増進など多くの利益をもたらしている一方で、経済的な見返りは期待されたほどではなかったとの知見を明らかにしている。

Women in Bangladesh harvest vegetables as part of a livelihood programme to ensure their family’s food security. Credit: WFP/Sayed Asif Mahmud.

5月12日に発表されたこの研究は、ワシントンとロンドンを拠点とするシンクタンク「グローバル開発センター」の研究者らが執筆したもので、世界の最貧国において学校に通う少女の数が大幅に増加したものの、雇用や経済のジェンダー平等にはつながっていないことを明らかにした。

「女子教育への投資には意義があり、そのことに疑いはありません。しかし、女子生徒を学校に通わせるだけでは、その後の人生に平等な機会を与えることはできません。」と、本報告書の主執筆者の一人であるグローバル開発センター上級政策アナリストのシェルビー・カルバーリョ氏は語った。

126カ国を対象にした分析では、女子の教育水準が飛躍的に向上したにもかかわらず、女性の就労に関しては過去30年間ほとんど変化していないことが明らかになった。実際、女性は男性の2倍の割合で、雇用や教育を受けられていない。

また、女子教育と女性の平等:世界で最も有望な投資からより多くを得るには」と題された調査では、以下のことが明らかにされている。

  • 平均して、女子の就学率が上昇しても、働く女性の数は必ずしも増えておらず、働いたとしても、賃金や年功序列に大きな格差がある。
  • 世界的には、失業中の若者(15~24歳)の大多数は女性である。
  • インドでは、学校に行く女子の数が大幅に増えているにも関わらず、働く女性の数は1980年代以来増えていない。
  • エチオピア、マラウイ、パキスタン、ウガンダのデータは、女子教育の改善は労働市場の公平性に全く影響を及ぼさないことを示している。
  • ラテンアメリカでは、女子の学業成績が向上しているにもかかわらず、女性の社会進出が鈍化している。

こうした新しい知見は、国連の17項目の持続可能な開発目標(SDGs)、とりわけジェンダー・エンパワーメントと女性教育に関連した目標を棄損するのではないかという問いに対してカルバーリョ氏は「こうした制約は、SDGsの少なくとも3つの目標に影響します。」と答えた。

SDGs logo
SDGs logo

カルバーリョ氏は、「SDGsの第5目標では、すべての女性と女児のジェンダー平等とエンパワーメントの実現を呼びかけています。女子教育はジェンダー平等を実現するための重要な手段であり、各国は全ての女子に質の高い教育を提供するために絶対的に投資をしなくてはなりません。しかし、労働市場が男女平等でなければ、女性は教育の果実を享受することができません。」と語った。

「SDGsの第10目標は、国内および国家間の不平等の削減を求めています。ジェンダーの不平等は、国内における不平等の主な原因であり、政治的指導層から理科の先生の数に至るまで、女性が少ないことが進歩を遅らせることになります。」

さらに、「SDGsの第4目標は、すべての人に包摂的で公平な質の高い教育を求めています。しかし、パプアニューギニアやハイチでは高校を卒業できるのは女子の5人に1人、ベニンやギニアビサウに至っては女子の僅か5%しか高校を卒業できていません。このような状況ではSDGsの第4目標は達成できません。」と付け加えた。

カルバーリョ氏のインタビューの抜粋は以下の通り。

IDN: シャリーア法のあるアフガニスタンやサウジアラビアのような国々での女子教育やジェンダー・エンパワーメントの現状はどうでしょうか。

Image credit: United Nations Assistance Mission in Afghanistan (UNAMA).
Image credit: United Nations Assistance Mission in Afghanistan (UNAMA).

カルバーリョ:女子教育や女子の希望、労働市場で女子が得られる機会を制限するような厳格な法律や規範は、教育がエンパワーメントに果たす役割を制限し、たとえ教育の成果が同じであっても、人生の後半における経済機会の平等化に対する根強い障壁となる可能性があることが明らかになっています。

サウジアラビアやアフガニスタン、その他多くの国では、女子教育や女性の権利に関連するいくつかの分野で前進が見られる一方で、正式な法律や社会規範の両面で、女子教育が私たちの信じる大きな平等化の担い手となる可能性を制限し続けている分野もあります。

IDN:宗教、あるいは宗教の間違った解釈が、男女差別に影響があるとお考えですか。

カルバーリョ:社会規範は男女差別に大きな影響を持ちますが、それは宗教を含む多くの社会現象によってもたらされるものです。女性が働く能力、あるいは、特定の産業において女性が働く能力を制限する社会では、教育の恩恵を十分に受けられない女性がいます。

現在、3分の1以上の国で、女性が男性と同じ産業で働くことを制限しています。しばしば、男性中心の職場は給料レベルも高いものです。他にも、ローンの権利や労働時間の制限などの点で、女性は不利です。女子教育が実を結ぶには、女性が労働市場で平等な機会を得る以外にはないのです。

カルバーリョ氏はまた、「世界中の女性や女児にとっては、単に男性と同じ教育を受けるというだけでは、男性と同じ賃金を得る保証にならないのです。あるいは、未払いの家事労働や育児に時間を使うために、外で働けないということもあるでしょう。」

「また、男性からの暴力に遭う頻度が落ちるということでもありません。資産を手にするチャンスがより多くなるということでもありませんし、子どもたちが育つ社会がより平等になるという保証もありません。」と語った。

他方で、報告書の著者らは、教育制度がジェンダー平等を支援するために、学校を女子にとって安全な場所にし、女性差別を根絶し、卒業後の女子就労を一層支援するよう勧告している。

Photo: UNICEF's youngest Goodwill Ambassador Muzoon Almellehan in Chad. Credit: UNICEF UK.
(right) Syrian refugee and education activist Muzoon Almellehan meets Nigeria refugee girls at a sewing workshop in Daresalam refugee camp, Lake Region, Chad, Thursday 20 April 2017.

グローバル開発センターのシニアフェローで、本報告書のもう一人の主執筆者であるデビッド・エヴァンス氏は、「私たちは、女子を学校に通わせ学習を支援する方法については多くを知っています。しかし、学校がすべての女子にとって安全な場所にするためには、まだ学ぶべきことがたくさんあります。」と語った。

著者らは、こうした観点から、世界銀行や英国外務・英連邦・開発省(外務省)などの上位ドナーによるグローバル教育への投資について検証している。

ジェンダー平等や女子教育は、これらの機関が共通して焦点として掲げているものでる。2020年には、英外務省の教育関連資金の92%、世界銀行の資金の77%が、女子教育を優先事項とするプロジェクトに充てられていた。

「しかし、女子や、彼女らが抱えている特有の困難を対象とした事業は全体の半数以下しかない。教室でのジェンダー・バイアスの軽減に焦点を当てた事業は全体の5%に過ぎず、女子のエンパワーメント、アクセス、健康と安全、アドボカシーに焦点を当てたものは20%未満しかない。」と今回の報告書は指摘している。

この20年間における世界銀行の教育関連事業の中で、児童婚姻や若年層の妊娠、不十分な月経衛生管理など、女子特有の困難を取り上げた文書はほとんどなかった。

Shelby Carvalho, Senior Policy Analyst/ CGD

「教育制度における制度的なジェンダー・バイアスと、女子に対する学費を下げるなど、その多くが極めて単純で既に効力が証明された対応策に焦点が当たっていないことが、世界の中で最も貧しく、最も疎外された女子たちを苦しめている。コロナ禍によってその現状はさらに悪化している。」

都市部以外に住む貧しい女子たちは、学校に通えない可能性が最も高い。サハラ以南のアフリカでは、学校に入学していない人の半数以上が、農村環境で貧困ライン以下の生活をしていた、と報告書は指摘している。

「また、新型コロナウィルス感染症のパンデミックとそれに伴う景気後退、さらには親の失業や病気といったパンデミック以前の問題によって世帯収入が減少すると、女子は男子よりも学校に行けなくなる確率が高い。」

「ジェンダー平等や教育から得られる経済的利益を夢物語に終わらせないためには、私たちはもっと努力しなければなりませんし、おそらくこれまでのやり方とは違った考え方をする必要があります。」とカルバーリョ氏は語った。(原文へ

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核政策は「生命への権利」を侵害すると市民社会が警告

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

軍備管理・軍縮の取り組みが停滞する中、市民社会組織は、核政策は「生命への権利(=生きる権利)」に反すると主張している。「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない。」と、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第6条は宣言している。

この条約に規定されている「生命への権利」をもとに、英国とオランダの軍備管理・軍縮推進団体が、両国の核兵器政策に異議を唱えた。

これらの団体は、最近、国連人権理事会において、この政策が「生命への権利」に違反しており、核兵器の威嚇や使用は、この権利と相容れず、国際法上の犯罪にあたるという結論を出していることを宣言した。

これらの主張は、ICCPRを含む国際人権法の下での英国とオランダの義務に関する普遍的定期的レビュー(UPR)の一環として、団体から人権理事会に提出された文書においてなされている。

3月31日に提出された文書では、生命への権利に適合するために、各国政府が取りうる政策行動についていくつかの提言がなされている。その中には、先制不使用政策の採用、核兵器システムの更新計画の中止、安全保障政策における核兵器の役割を段階的に縮小する措置、2022年のNPT再検討会議でNPT75周年にあたる2045年までに世界的に核兵器を廃絶する目標を推進すること、などが含まれている。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

また、核兵器と気候変動との関連性(ネクサス)を強調する項目もあり、英国に対しては、核兵器の予算を再生可能エネルギー開発や気候変動対策資金に再配分すること、オランダに対しては、気候変動の問題を国際司法裁判所に提訴するイニシアティブを支持することなどが提言されている。

国連人権委員会は2018年10月に、「一般コメント36号」を採択し、核兵器の威嚇や使用は「生命に対する権利の尊重」と両立しないと断言し、ICCPR締約国は核兵器の開発、取得、備蓄、使用を控える義務があり、また既存の備蓄分を廃棄し、世界的な核軍縮を達成するために誠実に交渉を進める義務があるとした。提出された文書は、英国とオランダの核兵器政策がこれらの義務に違反していると論じている。

今回の文書は、ウクライナ戦争を巡ってロシアが核戦争の威嚇を行った中で提出されたものであり、核抑止政策のリスクへの対応が極めて重要であることを改めて認識させられる。ロシアは中国、フランス、英国、米国と共に5つの核兵器国の1つである。5カ国は核不拡散条約(NPT)により、核兵器の保有が公式に認められており、核戦争を起こす選択肢を保持している。

NPTに核兵器国として規定されていない4カ国、パキスタン(165)、インド(156)、イスラエル(90)、北朝鮮(40-50)は、NPT上の核兵器国と合わせて推定約1万3000発の核兵器を保有している。これらのほとんどは、広島に投下された核兵器の何倍もの殺傷力を持つ。さらに、核兵器の保有と使用を認めている他の31カ国もこの問題の一部である。

The World’s Nuclear Weapons/ ICAN

例えば、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコは自国領内に米国の核兵器をホストしている。米国はこれらの核兵器の運用管理を維持していると主張するが、実はこれらの国々に配置されていることが米国の核戦争計画に役立っているのである。

また上記5カ国以外にも、米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)やロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)など、防衛同盟の一環として自国に代わって核兵器の使用の可能性を認め、核兵器の保有と使用を「是認」する国は26カ国にのぼる。

Nuclear submarine HMS Vanguard arrives back at HM Naval Base Clyde, Faslane, Scotland following a patrol./ By CPOA(Phot) Tam McDonald – Defence Imagery, OGL v1.0

英国における核兵器の重要性は、化学および生物学的能力、またはそれに匹敵する影響を及ぼす可能性のある新技術からの脅威への対応を含め、幅広い状況下で核兵器を使用する可能性のある政策オプションのもと、いつでも発射可能な約160個の核弾頭(戦略原子力潜水艦4隻に各40個)を配備している事実にある。

オランダはフォルケル空軍基地に約20個の米国製核爆弾B61を保有し、戦時にはこれをオランダ空軍のF16戦闘機で潜在的目標に「運搬」する作戦手段を維持している。

国連人権理事会が提出書類の課題や提言を取り上げ、英国やオランダに指示することを決定した場合、両国はこれに応えることが義務付けられている。

ロシア、米国、フランス、カナダ、デンマーク、アイスランド、北朝鮮の核政策に関しても、2020年と21年に人権理事会や他の国連人権機関に同様の提出が行われたが、関連機関ではこの問題は本格的に取り上げられることはなかった。ロシアによるウクライナ侵攻に起因する核戦争の脅威が高まっている現在、人権理事会がこの問題を現在の審査サイクルでより高い優先順位とするよう、有識者たちは期待している。

英国に関する書類は、アボリション2000UK、平和を求めるアオテアロアの弁護士、スイス核軍縮法律家協会、バーゼル平和事務所、バートランド・ラッセル平和財団、クリスチャンCND、CNDウェールズ、国際反核法律家協会、 International Forum for UnderstandingLABRATS(核爆弾のレガシー/核実験の生存者を認知する会)、非核平和都市、パックス・クリスティ・スコットランド、地球的責任のための技術者・科学者国際ネットワーク、Sheffield Creative Action for Peace、平和のための結集決議、ウエストミンスターウエストロータリークラブ平和委員会、若者フュージョン、 世界未来評議会、その他80000人が提出した。

オランダに関する書類は、平和を求めるアオテアロアの弁護士、スイス核軍縮法律家協会、バーゼル平和事務所、オランダ教会協議会、国際反核法律家協会、パグウォッシュ・オランダ、平和法廷、世界未来評議会、気候正義のための世界青年の会、若者フュージョンが提出した。(原文へ

ICCPR締約国:2020年5月時点では、署名のみの国は74か国であり、そのうちまだ批准もしていないのは中華人民共和国、コモロ、キューバ、ナウル、パラオ、セントルシアの6か国である。サウジアラビアとミャンマーは署名もしていない。それを除く批准国と、加入国を合わせると、締約国は173か国である。出典:ICCPR-members: Dark Green – signed and ratified, Light Green – signed, but not ratified, Orange – signed, ratified but has stated it wishes to leave the covenant./ By Dudeman5685 – Own work, CC BY-SA 3.0

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC on 21 May 2022.

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ソ連の「人道に対する罪」から生まれた、核実験・核兵器廃絶の世界的な運動

この記事は、アメリカン・テレビジョン・ネットワーク(ATN)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【クルチャトフ/ ニューヨークATN=アハメド・ファティ、イラリア・マローニ】

1949年8月29日、カザフスタン東部のセミパラチンスクからわずか100マイル(約161キロ)に位置するクルチャトフ付近に設けられたこの広大で特徴のない土地(グラウンドゼロ)で、ソ連初の核実験が実施された。この実験場は、冷戦期を通じてソ連の核開発の中心であり続け、1989年までに456回の核実験が行われた。核爆発に伴う放射能を帯びた凄まじい破壊力は、がんや先天性異常など、実験場の周辺住民に暗い遺産を残し、今日に至るまで地域住民の苦しみは続いている。

アハメド・ファティ (グラウンドゼロでの映像

ここでは、地上では116回、地下では340回の核実験が行われ、実験場よりはるかに広い範囲に放射性降下物を撒き散らした。つまり、ベルギーや米国のメリーランド州とほぼ同じ面積の地域で毎月1回、核爆発が起きていたことになる。

ATN

セミパラチンスク核実験場は、1990年以前はソ連の数ある閉鎖都市の1つであった。クルチャトフやポリゴンのように、ソ連軍の特別許可が必要な秘密都市とされ、地図にも存在しない都市で、ソ連共産党政治局の高官だけがその内部事情を知っていた。

その土地に住む何千人もの人々は、しばしば非常に高いレベルの放射線に晒され、ソ連当局が住民への影響を測定するために、あえて窓を開けておくように言われた。実験場が閉鎖されて30年近くが経過した今でも、がん、流産、奇形、不妊など、多くの住民がその影響に苦しみながら生きている。現在、東カザフスタン州におけるがん罹患率は、全国平均の2~3倍に上っている。

核爆発の際、ソ連は住民に放射線の影響を調査するため、何の警告もなくその場にとどまるよう求めた。

ATN

ソ連の歴代指導者は、長年にわたってカザフスタンの人々に対して重大な人道に対する罪を犯したが、ソ連の崩壊によっていかなる結果に対しても責任を取ることはなかった。

ソ連崩壊後、セミパラチンスクは1991年8月29日(現在は「核実験に反対する国際デー」として記念されている)に閉鎖され、カザフスタン初代大統領ヌルスルタン・ナザルバエフは、核兵器を自主的に放棄するという歴史的な決断をした。

ATN

カザフスタンは今日、核軍縮と核実験禁止を求める闘いの世界的リーダーである。独立後の初代大統領ヌルスルタン・ナザルバエフは、2012年に「ATOM(Abolish Testing.Our mission)プロジェクト」を立ち上げた。

2016年には「核兵器の無い世界とグローバル・セキュリティのためのナザルバエフ賞」が創設された。第1回受賞者は、中東非核・非大量破壊兵器地帯創設に向けた努力と150万人のシリア難民の受け入れに貢献したヨルダンのアブドゥラ2世。「ナザルバエフ賞」の授賞式は、カザフスタン初代大統領がセミパラチンスク核実験場の閉鎖を決定した歴史的な日に合わせて実施されている。

セミパラチンスク核実験場の閉鎖日(8月29日)は、国際社会全体にとって特に重要であり、カザフスタンの主導により、この日は国連総会で「核実験に反対する国際デー」として宣言された。

今年の受賞者は、包括的核実験禁止条約(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長と、国際原子力機関(IAEA)の故天野之弥前事務局長の2名であった。

「ナザルバエフ賞」を受賞したラッシーナ・ゼルボ包括的核実験禁止条約事務局長、国連グローバル・コミュニケーション部のナルギズ・シェキンスカヤ氏と。/ATN

天野之弥氏は、2019年7月18日に逝去した。受賞のために、故天野事務局長の妻の幸加氏、弟で元ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部特命全権大使の天野万利氏がカザフスタンに到着した。

ナザルバエフ・センターで、今年の「ナザルバエフ賞」を受賞した故天野之弥IAEA事務局長の未亡人、天野幸加氏と。

ナザルバエフ初代大統領は、故天野之弥事務局長がIAEAの主要目標の達成に特別な貢献をしたこと、またIAEAとカザフスタンとの協力関係が高いレベルにあることに言及し、さらに検証体制の強化とCTBT国際監視ネットワークの構築に向けたラッシーナ・ゼルボ事務局長の貢献を強調した。

授賞式には、イタリアのフランコ・フラッティーニ元外務大臣、IAEAのメアリー・アリス・ヘイワード事務次長、OPCWのアフメット・ウズムク元事務局長、核脅威イニシアチブ財団のデズモンド・ブラウン元国防長官、国連経済社会局の沙祖康元事務次長、ライナー・ブラウン国際平和局共同代表といった著名人が出席し、授賞式は盛大に行われた。

参加者は、この賞の重要性と関連性、カザフスタンの初代大統領が軍縮と不拡散の分野で果たした重要な役割、自国の利益だけでなく世界全体の利益のために尽力した世界的な政治家としての活動、地域と国際社会のセキュリティ強化への貴重な貢献について言及した。(原文へ

ATN

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

Filmed by Katsuhiro Asagiri, INPS Japan

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|視点| 終わりなき戦争(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

国連憲章は国際法の重要な規範を確立した。その前文は「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う」とする決定を確認している。憲章が採択された当時は、欧州やその他の地域を直接巻き込んだ2度の戦争によって世界が大きな衝撃を受けていた時期であった。憲章が高邁な目的を掲げているにも関わらず、国連の設立から77年の間に、地球上のさまざまな場所で武力紛争が発生した。

1945年から今年の2月までの間、1990年代にバルカン半島で旧ユーゴスラビアを構成した共和国間での紛争があり、NATOが軍事作戦を遂行した以外は、欧州の領土で戦争は発生しなかった。しかし、いくつか例を挙げるならば、朝鮮やベトナム、中東、アフリカやラテンアメリカのいくつかの国や地域は、大国の政治的、経済的利害によってしばしば引き起こされた戦争の被害から免れることができなかった。

この77年の世界における武力紛争(その一部は現在進行形である)のリストは長く、悲劇的でもある。潤沢な資金を持った軍事産業が対立を煽り、戦闘を助長してきた。

Cold war europe military alliances map/ CC BY-SA 3.0

第二次世界大戦後の数十年間、欧州では、大規模な紛争がなくても、緊張した不安な時代が続いた。政治的、イデオロギー的に対立する2つの重武装した陣営が、スカンジナビア東部からバルカン半島へ、さらにはトルコや地中海の一部を北から南へと貫いた線に沿って分断された地域をそれぞれ抑えて対峙した。その片側には、米国が主導して1949年に創設された北大西洋条約機構(NATO)があり、もう片方にはソ連が率いたワルシャワ条約機構があった。

2つの軍事同盟は、いくらかの危機はあったものの、直接戦火をまみえることはなく、微妙な戦力バランスを保っていた。この時代は「冷戦」期と呼ばれ、ソ連の解体まで続いた。そのイデオロギー的な要素は、国際秩序における権力と影響力の追求へと次第に取って代わった。冷戦は消滅したのではなく、単にその形を変えただけだったのである。

ソ連崩壊後、ワルシャワ条約機構は1991年に終了した。それから30年、その構成国の大部分がNATOに引き寄せられ、西側諸国に近い原則を持った政治的・経済的仕組みを採るようになり、いまや加盟27カ国となった欧州連合に加入した。

「東」だとか「西」だとかいうのは、あくまで相対的な概念にしか過ぎない。それは見る者の立ち位置によるのである。政治的、経済的、軍事的に、欧州の西側諸国(戦後におけるその象徴的な境界線はベルリンの壁だったが)は、ソ連を継承したロシア連邦とほぼ境界線を接するまでに迫っている。

さらに最近では、NATO・ロシアの両陣営とも、他者を主要な敵だとみなすようになってきている。両者とも幻想の優勢を求めてあらたな軍拡競争に走っている。「核戦争に勝者はおらず、戦われてはならない」とする米ロ共同声明が2021年に改めて出されたにも関わらず、相互の不信感が募っている。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

ロシアは、NATOの東方拡大はロシアの安全への脅威であり、隣国であるウクライナがNATO加盟をめざすのではないかと警戒感を持っている。ロシアの懸念に根拠がないわけではないが、ロシアはそれを回避するために武力侵攻の道を選んでしまった。

理由はどうあれ、こうした態度は端的に国連憲章に完全に違反している。国連のすべての加盟国は、憲章に署名することによって、国際紛争を平和的手段によって解決し、他国の領土的一体性に対する武力の行使あるいは武力による威嚇を行わないとの約束をしているのである。

NATOの創設条約は、1つ以上の加盟国に対する武力攻撃を全体に対する攻撃とみなし、軍事的対応を行うとしている。ウクライナはNATO加盟国ではないため、NATOはこの紛争に直接介入する義務はないが、一部の加盟国はウクライナに対して武器供与を行っている。同時に、ロシアに対して個別的・集団的な厳しい制裁を課して、同国を経済的・軍事的に弱体化させ、ロシア政府に対する国内の反乱を誘発することを期待している。

紛争を外交によって解決する道は遠いようにも思える。しかし、戦争が人間に与える犠牲はきわめて大きく、戦場の状況は依然として不透明である。550万人以上がウクライナから避難し、双方で既に数千人の死者が出ている。

ロシアの当面の目的は、2014年に併合したクリミア半島への陸路の確保と、黒海のウクライナ沿岸の支配権の確立にあるようだ。ウクライナ軍は、ベラルーシ国境沿いの北部でロシア軍を押し返すことに成功し、首都キーウを含め、国土の中部・西部の支配権を維持している。

ウクライナ大統領はNATOの支援に依存しているが、既にNATO加盟の意向はないことを明らかにしており、自国領土の一部に対する主権を放棄する意向もないようである。現在までのところ、両国の外交的な接触は人道的な合意の問題に限定されており、一般市民の被害を予防・軽減するための措置は話し合われていない。

不安と緊張が再び欧州を捉え、紛争の行く末と、それが与える経済上・人道上の影響に対する世界の懸念が高まっている。最大の恐れは、核兵器使用につながるような形で紛争が軍事的にエスカレートしてしまうことだ。ロシアとNATOの核戦力にはそれぞれ「戦術」核兵器を含む。戦術核とは、戦場での作戦のために開発された比較的出力の弱い核兵器のことである。

それでもなお、それらの戦術核は広島・長崎を灼いた核兵器よりもはるかに強力である。核兵器を使用すれば、敵からの反応を引き起こし、予測不能な結果をもたらすエスカレーションの引き金となりかねない。

ICAN
ICAN

1987年に締結された条約によって欧州に配備されている中距離核ミサイルが撤去された。この決定は国民に安堵感を与え、両超大国間関係にデタント(緊張緩和)をもたらした。しかし、ロシア領内に現在展開されている部隊にしても、NATOが航空機あるいは潜水艦から使用できる核兵器にしても、直接対決した場合に壊滅的な被害を引き起こすのに十分なものである。

さらに、米ロ両国は、既存の防衛システムを回避しうる超音速の大陸間弾道ミサイルを保有する。それが使用されれば、互いを完全に破壊することになり、地球のその他の部分にも不可逆的な帰結がもたらされることになるかもしれない。事故や単なる過失によって人類が絶滅することがあるかもしれない。ロシアと西側との現在の対立はロシア・ウクライナ紛争という形で現れているが、これは通常兵器にのみ依存する形で進んでいる。ただし、NATOがさらに直接的に関与することになれば、核による報復の脅しが微妙な形でかけ続けられることになるだろう。

世界における永続可能な平和は、すべての当事者の正当な安全保障上の懸念を考慮に入れた誠実な理解を通じてのみ達成しうる。国際社会の手にある交渉手段は、戦争の惨禍を防ぐことを正に目的として創設されたものだ。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

過去と現在の血なまぐさい紛争がもたらした計り知れない人的・物的損失が再発する危険性は、人類が歴史から何も学んでいないという警告である。より破壊的な兵器を求める競争は、決して覇権をもたらすものではない。むしろ明白なように、それは際限のない戦争を生み出し、煽る要因となる対立と不信を永続させる最も直接的な道なのである。

私たちの歴史を、より殺傷力の高い無差別な兵器による絶え間ない紛争の連続たらしめることは、論理的あるいは道徳的に正当化できない。人類は、一部の人々の安全が、他の人々の安全を犠牲にして達成されるものではないことを、今一度、理解しなければならない。過去の教訓を踏まえ、知恵と自制心を持つことが、平和な未来を築き、未曾有の大災害の危機を回避する最善の方法なのである。(原文へ

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ウクライナ戦争の究極の勝者は、世界の武器商人である

助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(2)ダフネ・シャロン=マクシーモヴァ博士、「犬の抱き人形『ヒブッキー(=抱っこ)』を使った心のケアプロジェクト」

【エルサレムNGE/INPS=ロマン・ヤヌシェフスキー】

*NEG=ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ

ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ
ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ

イスラエルはロシアとウクライナに対して中立を維持しようと懸命に努力してきたが、対ロシアの関係が急激に悪化したのは必然であった。それを助長したのは、「ヒトラーにもユダヤの血が流れていた」を主張したセルゲイ・ラブロフ外相のスキャンダラスなインタビューと、その後の鋭い言葉の応酬であり、最後はウラジーミル・プーチン大統領がイスラエルのナフタリ・ベネット首相に自ら謝罪することになった。

一方、一般のイスラエル人には、政府が直面していたような難しいジレンマはなかった。国民の大多数は、最初から一方的な軍事侵攻にさらされたウクライナを支持していた。

さらにロシアが主張する残忍な「特別軍事作戦」は、イスラエルに新しい現象を生み出した。ロシア語を話す人々だけでなく、多数のイスラエル人が、ウクライナ人の苦しみを目の当たりにして、彼らを助けなければならないと痛感したのである。その結果、多くの公的な取り組みやボランティアプロジェクト、人道的な支援金集めが自然発生的に始動することとなった。中には、それまでボランティア活動をしたことがなかった人々が組織したものも少なくない。ロマン・ヤヌシェフスキーが、こうした支援活動に参画した人々の内、8人に話を聞いた。(今回は2人目の取材内容を掲載します)

ロマン・ヤヌシェフスキー:第2次レバノン戦争(2006年)では、イスラエル北部はレバノンから激しい砲撃を受け、北部住民のほとんどは、友人や親戚、あるいは見知らぬ人の家に泊まり込み、より安全な地域へと向かった記憶がある。当時アシュケロン地区には、企業家アルカディ・ガイダマクの資金提供により、心理療法士が常駐する臨時難民キャンプが設置された。隣町のアシュドッドに住むダフナ・シャロンさんもその一人である。ポーランドのヴィテプスク出身の彼女は、子どもや青年の心の傷やPTSD治療を専門としている。

シャロンさんは、イスラエルの子どもの心のケアを専門とするシャイ・ヘン・ガル博士とアヴィ・サデ博士のチームに参加し、犬の抱き人形「ヒブッキー」(2音節目を強調、ヘブライ語で「抱っこ」の意)を考案した。やがて、「ヒブッキー:抱擁プロジェクト」を展開。科学的な研究により、「ヒブッキー」を使用することで子供のストレス反応が大幅に減少することが明らかになっている。

ダフネ・シャロン:「(ヒブッキーは)とても柔らかい犬のぬいぐるみで、とても悲しい顔をしています。子供たちは容易にこの犬の感情を読み取ることができます。私たちは、子どもに『この犬はどうして悲しいの?』と聞きます。実は、子どもは大人のように自分が経験した痛みを直接語ることができないことが多いのです。でも、人形に周りの大人たちに話せない心のトラウマを明かし、また人形を世話することによって自信を取り戻す効果も期待でき、ヒブッキーはその機会を与えてくれるのです。」

そこで私たちは子どもに、「こんな友だちが欲しい?この犬を幸せにできるのはあなただけなのよ。」と伝えます。

ヒブッキーは非売品で、心理療法士からのプレゼントとしてのみ入手可能です。人形療法をベースにしたトラウマ治療ができる、魅力的な万能ツールです。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、私たちは参加しなければならないと思い、2月26日からは、大人と子どもへの支援も開始しました。文部省やユダヤ人庁等の協力を得て、あちこちから連絡先を集め、トラウマとの正しい付き合い方についてお話しする定期的なビデオリンク・セッションを始めました。残念ながら、(イスラエルに暮らす)私たちは戦争紛争によるトラウマに対処するために、多くの経験を積んできました。一方、ロシア侵攻前のウクライナにはこのようなシステムはなかったので、私は心理学者や教育者に、どのようにすればこのプロセスを適切に組織化できるかを伝えました。

最初はウクライナのユダヤ人学校やその子どもたちとの接触が多かったのですが、誰にでも活動を開放しました。ピーク時には600人が参加しましたが、紛争で電気やインターネットが遮断され、その数はどんどん減っていきました。ズームでの会話中に、空襲警報が出て、ウクライナ側の参加者が防空壕に逃げ込むということもありました。

その後徐々に幼い子どもたちも私たちのオンラインセッションに参加して、自分たちの体験を話し始めました。そこで、「ヒブッキー」のことを思い出し、緊急にプロジェクトを復活させ、ウクライナで開始することにしました。スピードアップのためには、現地で生産体制を整える必要があると考え、いくつかの工場を検討した結果、ドニプロ市のマシク社にたどり着きました。ヒブッキーの脚が外れないように、GOST(国際標準化機構)の規格をすべてクリアする必要があるのですが、彼らは私たちの高い要求基準をクリアしてくれました。

メインスポンサーであるユナイテッド・ヘルプ・ウクライナは、私たちを大いに助けてくれました。彼らの援助で1100個のヒブッキーを生産することができました。もちろん、もっとたくさん必要ですが。私たちは、3歳から13歳までの子どもたちを対象にしています。ウクライナだけでも270万人の子どもたちがいます。個人療法と集団療法を併用しています。同時に、ウクライナの専門家を育成しています。

ヒブッキー(Hibuki)by Embassy of Israel in Japan

今回はヒブッキーをさらに現代風にアレンジし、機能を追加しました。顔立ちが少し変わり、前足が長くなり、丈夫なスコッチテープとポケットが付きました。子どもたちはヒブッキーと一緒に暮らすようになると、怖いときには一緒に眠り、持ち歩くようになります。私たちは、このおもちゃをウクライナ風に改名することを提案しましたが、子どもたちはイスラエル風の名前を残したいと言いました。

また東日本大震災で地震や津波被害にあった日本のために、3000匹のヒブッキーを生産し支援の手を差し伸べました。また、ハリケーン・カトリーナの被害にあった米国や、9割の子どもがヒブッキーを持っているイスラエルでも、私たちの犬のぬいぐるみはよく知られています。

現在、私たちは特に、暴力に苦しむ難民の子どもたちが暮らす、ウクライナの首都キーウ近郊の特別なキャンプで活動しています。例えば、ブチャ出身の8歳の女の子がいます。彼女も母親も救出された時にはひどい状態で、私たちの専門家が心のケアにあたっています。

この少女はヒブッキーを与えられ、なぜそんなに悲しんでいるのかと尋ねると、ヒブッキーの両耳を結び始め、このように犬が耳を覆い隠していることを示しました。そして、ロシア兵による集団レイプから生還した経緯を詳しく話し始めました。

もう一つの事例を話すと、5歳のセリョーシャ君についてです。ロシア軍が侵攻してくる前、彼は学校に行く準備をし、よく話す活発な男の子でした。彼の一家は戦火を逃れて自宅を後にしました。途中、乗っていた車がロシア軍に砲撃され、両親が目の前で殺されてしまいました。祖母と二人でなんとかハンガリーまでたどり着いたのですが、セリョーシャ君はまったく話をしなくなりました。

Фото из соцсетей

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ヒブッキーは10代の青少年向けというよりは、どちらかというと幼児向けです。うちのスタッフがハンガリーの難民キャンプを訪れた際に、幼児を中心に、13歳のボグダン君ら年長児2人を含むグループがいました。子どもたちに「ヒブッキー」を渡したところ、最年長のボグダン君が、あたかも心の中で火山が爆発したかのように、突然泣きだしたのです。その隣には、4歳くらいの小さな女の子、ナディアちゃんがいました。彼女は抱きしめていたヒブッキーを自分の体から離し、「ほら、あなたの方がもっと必要でしょう」と言って、ボグダン君に手渡しました。これはナディアちゃんが象徴的にボグダンを抱きしめた瞬間で、スタッフは感動して鳥肌が立ちました。

マリウポリから来た4歳の男の子は、ドニプロの難民キャンプで、私たちの心理学者らが「ヒブッキー」を配布しているのを見たそうです。彼は自分の胸元を指差しながら彼らのもとに駆け寄って「それ僕に必要です。一匹譲ってください。」と大声で叫びました。そしてヒブッキーを受け取って満面の笑顔を浮べたのです。後で、この少年は、この戦争で愛犬を失っていたことが分かりました。

8歳の男の子は、レスリング教室に行った時の話を感動的に語ってくれました。しかし突然話を中断し、「あ、ヒブッキーにはレスリング教室はないんだ。」とつぶやいたのです。後で分かったことは、レスリング教室があったパイオニアハウスが爆撃を受けて消失していたことでした。

Dafna Sharon
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まだすべての人に手を差し伸べることはできないことを実感しています。スポンサーが増えれば、より多くの「ヒブッキー」を贈って子供たちの心のケアを行うことができます。1個のぬいぐるみ犬を生産するのに16ドルかかりますが、それに儲けはありません。今のところ1件のスポンサーのみで、みんな出資しながら私たち5人のボランティアスタッフでプロジェクトを運営しています。

また、イスラエルの経験をウクライナで実践するため、心理療法士やソーシャルワーカーだけでなく、幼稚園や学校、サークルなどの教師にも参加してもらい、より広い範囲での活動を試みています。

また、ウクライナの状況は特殊であることにも注意が必要です。長い歴史の中で初めて、被害者への心理的援助が被害者自身によって行われるようになったのです。結局のところ、心理療法士自身もトラウマを経験しているのです。この経験は、今後何年にもわたって研究されることになるでしょう。(原文へ

Dafna Sharon
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翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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北朝鮮は2022年に17回のミサイル実験を行い、国連に反抗し続けている

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連は、ウクライナに対して既に3カ月目に突入した破壊的な戦争を遂行している核保有国ロシアの抵抗に直面しているが、同じく厳しい状況にある北朝鮮との対立にも対処を迫られている。北朝鮮は、隣国に脅威を与える弾道ミサイル実験を繰り返し、複数回にわたって国連安保理が発した決議に公然と違反している。

5月11日に国連安保理で発言した米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使は、米国は、北朝鮮が4月16日、5月4日、5月7日に行った弾道ミサイル発射を強く非難すると語った。

Official Partrait, Ambassador Thomas-Greenfield/ By U.S. Mission to the United Nations, Public Domain
Official Partrait, Ambassador Thomas-Greenfield/ By U.S. Mission to the United Nations, Public Domain

「これらの発射は北朝鮮がこの数か月にわたって行っている一連の弾道ミサイル発射の一環であり、それぞれが複数の安保理決議に著しく違反しています。」「北朝鮮は実に17回も弾道ミサイル発射を行っています。そのうち少なくとも3回は大陸間弾道ミサイル(ICBM)、1回は中距離弾道ミサイル、2回はいわゆる超音速兵器、2回は新型の戦術核兵器用ミサイルです。また、北朝鮮は7回目の核実験に向け、核実験場を再建しています。」とグリーンフィールド大使は語った。

また、「これらの弾道ミサイル発射は、核実験と同じく、国連安保理決議違反であり、地域及び国際の安全への脅威に他なりません。また、世界の核不拡散体制を棄損しようとするものでもあります。安保理はこれを容認できません。しかし、安保理では2つの理事国が、安保理が自制することによって北朝鮮が事態のエスカレーションを止め、交渉のテーブルにつくのではないかと主張して、特に行動をとりませんでした。」と大使は付け加えた。

グリーンフィールド大使は名指しを避けたが、拒否権をもつその2つの常任理事国とは中国とロシアである。

国連は安保理決議2397号で、大陸間弾道ミサイルを北朝鮮が発射すれば、同国への石油輸出をさらに制限する行動を取るとしている。グリーンフィールド大使は、「北朝鮮は、この条項があることを知りながら、今年に入ってICBMを少なくとも3回発射しました。しかし残念ながら、過去4年間、2つの常任理事国が北朝鮮の制裁リストを実行し更新するあらゆる試みを妨害し、北朝鮮の不法行為を可能にしてきました。」と語った。

英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は安保理で、「本理事会は、北朝鮮による弾道ミサイル発射を非難するために開催されています。」と改めて指摘したうえで、「既に発言があったように、今年だけでも17回の弾道ミサイル発射がありました。それぞれが国連安保理決議に違反しています。なお、2021年全体では、北朝鮮は8回のミサイル実験を行っています。つまり、この17回の発射が意味するところの、テンポの速さとミサイル能力の向上について、誤りなき見方をしなくてはならなりません。」と語った。

北朝鮮が核実験を計画しているとの報道に対して、国連のファルハン・ハク副報道官は5月9日、記者団に対し「予断を持ちたくはありません。核実験があるかどうか、推測するつもりはありません。もちろん、すべてのミサイル実験について以前から懸念を表明してきたし、これからもそれを繰り返すでしょう。最終的には、朝鮮半島の平和的非核化を進めるために、朝鮮半島のすべての当事国が対話の席に戻るよう、もう一度呼びかけたい。」と語った。

Dr. Ben-Meir in Jerusalem, Israel. The Temple Mount sits in the background./ By MikeAbdullah - Own work, CC0
Dr. Ben-Meir in Jerusalem, Israel. The Temple Mount sits in the background./ By MikeAbdullah – Own work, CC0

ニューヨーク大学グローバル問題センターの元教授(国際関係学)で、20年以上にわたり国際交渉と中東研究について教鞭をとってきたアロン・ベン=メイア博士は、IDNの取材に対して、過去4カ月間の北朝鮮のミサイル発射が、過去の同時期に比べ圧倒的に頻繁であることは間違いないと語った。

「北朝鮮が弾道ミサイルを完成させ、核兵器をさらに拡大するのを止めるには、特に米国との間で新たな合意がなければ無理だろう。しかし、米国が北朝鮮に核兵器の完全放棄に同意するよう主張し続ける限り、まとまることはないでしょう。」

せいぜい「この10年間で北朝鮮に対して課されてきた経済制裁を撤回し、協議を再開させるとの条件付きで、弾道ミサイル及び核兵器の開発を北朝鮮が単に凍結するということによってしか、そのような協定は達成できないように思います。」とベン=メイア博士は語った。

「核兵器を保有している国は攻撃されたことがない」という北朝鮮外交官の発言についてベン=メイア博士は「確かにその通りだ」と語った。

ベン=メイア博士はさらに、「北朝鮮は合意に達するまで、米国に脅威を感じ続けており、それ故に両方のプログラムの開発を止めることはないだろう。一方、米国がこの地域の同盟国、特に韓国と日本の安全保障に改めてコミットすることが重要であり、それが北朝鮮の脅威を確実に抑止することになります。」と指摘した。

とはいえ、この現状をいつまでも続けていくわけにもいかない。運搬手段を伴った北朝鮮の核兵器開発は、この地域の不安と懸念を高め、地域を不安定にしている。

「中国は北朝鮮の核開発に一定の懸念を抱いているが、表立って批判はしていない。しかし、この件では定期的に北朝鮮との非公式協議を持っている。北朝鮮は中国の政治的・経済的支援に著しく依存しているので、中国を怒らせたくはないだろう。全体としてみれば、中国は北朝鮮の核開発が不安定要因であることに同意しているが、差し迫った脅威とは考えていない。」とベン=メイア博士は語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

軍縮外交の活動家であり、今年出版された報告書「核兵器は禁止された」の著者であるレベッカ・ジョンソン博士はIDNの取材に対して、「北朝鮮の指導者は、米国の核戦力と軍事的威圧を恐れる限り、核兵器を製造・配備し続けるだろう。」と語った。

「地球全体とは言わないにしても、北朝鮮全体を破壊せずに使用することが困難な核兵器と、軍事的な威嚇に依存することを北朝鮮の指導者にやめさせるには、相互に関連する3つのレベルで変化を起こす必要があります。」

「第一に、女性平和維持活動団体ウーマンクロスDMZなどが提唱するように、国連が支持し、南北朝鮮と米国が直接関与する平和協定が必要です。これは1953年の休戦協定以上のものである必要があり、朝鮮半島を分断した恐るべきあの戦争以来、多くの命を奪ってきた人道・和平・信頼構築問題に対処するものでなければなりません。」

「第二に、南北朝鮮・中国・ロシア・米国・日本による六者協議を緊急に再招集しなくてはなりません。これらの協議は北朝鮮非核化の問題を、北東アジア非核兵器地帯を創設することを通じて地域安全保障を構築する、より広範な枠組みの中に位置づける必要があります。」

「第三に、非核化の措置を2021年発効の核兵器禁止条約(TPNW)の批准と連携させることができれば、朝鮮半島の安全と安全保障に大いに貢献することだろう。」とジョンソン博士は語った。

United Nations Office at Vienna/ Wikimedia Commons
United Nations Office at Vienna/ Wikimedia Commons

「核兵器禁止条約の第1回締約国会合が6月にウィーンで開催され、その条項が国際的に履行されるようになります。その際、国連が背後にあるこの条約に従う措置を日本や韓国が取れば、朝鮮半島からの核兵器の脅威と技術の除去を支援・監視する無差別的なメカニズムを提供することで、北朝鮮を関与させやすくなります。これらの措置は、中国やロシア、米国が、この地域に核兵器を配備しない、あるいは使用しないという約束で裏付けることができれば、より効果的になるでしょう。」

「核兵器禁止条約の条項履行を待つ間、NPT上の義務と国連憲章に従って全ての国が北朝鮮を支援し、それらの国々の生存とグローバルな安全を危険にさらしている核兵器開発を終了させる必要があります。」とエコフェミストでもある平和活動家のジョンソン博士は語った。

米国務省のネッド・プライス報道官は北朝鮮のミサイル発射について、北朝鮮のミサイル開発や核兵器開発は北朝鮮の隣国に対する脅威を与えている事実を示している、と記者団に語った。

「米国に関しては、これは以前も申し上げたことで、最近の挑発行為の後にも申し上げたことだが、条約上の同盟国である韓国と日本の防衛に対する我々のコミットメントは鉄のように固いということだ。」

中国が北朝鮮を批判していないことについて問われたプライス報道官は、「もちろん中国は安全保障理事会の常任理事国だ。複数の安保理決議があり、安保理自体から複数の声明が出されているという事実は、中国を含めた世界中の国々が、北朝鮮のミサイル開発や核開発は不安定化の原因であり、安全を損ない、地域全体への脅威になっているという事実を認めたものだと私は認識している。」と語った。(原文へ

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【ニューデリーIDN=マニッシュ・アプレティ、ジャイネンドラ・カーン】

英国の差し迫った必然的な崩壊についてツィートしたピアーズ・モーガンの最近の投稿は、2022年2月に行われた 「英国の瀬戸際外交の結果、2023~24年にアルゼンチンがフォークランド(マルビナス)諸島を取り戻すことになるのだろうか?」 というタイトルのツイッター投稿を思い出させるものであった。

ツイッターの「フォークランド紛争:フォークランド諸島の歴史」とのやり取りは、とても充実したものだった。以前、メルコスール議会のアルゼンチン代表(当時)のマテオ・アベル・ブルネッティ氏が、アルゼンチンは2003年以来、フォークランド(マルビナス)問題について国連で英国と対話するのを待っていると述べていたことが思い出された。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

2月末からロシアのウクライナ侵攻が世界のメディアを賑わせているが、フォークランド(マルビナス)問題は国際社会の中で徐々に注目を集めつつあるようだ。

2022年4月にインドを公式訪問したアルゼンチンのサンティアゴ・カフィエロ外相は、両国関係を称賛し、防衛や原子力などの二国間問題を議論する一方で、フォークランド(マルビナス)問題を提起した。カフィエロ外相は、4月2日付の『ガーディアン』紙に掲載された記事の中で、英国との紛争は1982年の「敵対行為の停止」で解決されたわけではないと主張し、二国間対話の再開を強く求めていたのである。

アルゼンチン・英国間の武力衝突の結果だけでは、フォークランド(マルビナス)諸島のような領土問題を解決することはできないという彼の主張にも一理ある。

英国が世界を支配していた20世紀初頭、アルゼンチンは地球上で最も裕福な国の一つであった。1913年には、アルゼンチンはフランスやドイツよりも豊かで、スペインの2倍近く裕福であった。

しかし、20世紀に米国が台頭してくると、英国と同様、アルゼンチンも次第にその地位を失っていった。アルゼンチンは、その豊富な資源にもかかわらず、経済成長を支える制度を生み出すことができず、また、一連の外的ショックにより、かつて成功を収めた成長モデルが不利な状況に追い込まれていった。

Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons
Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons

かつて英国の植民地であった米国の台頭は、他の多くの国々に米国の独立闘争からインスピレーションを与えることになった。マハトマ・ガンジーは、英国の支配に抵抗するようインド人に呼びかける際、しばしばアメリカ独立戦争に言及し、そこからインスピレーションを得ていた。

実際、ガンジーの英国に対する非暴力・不服従活動は、結果的に米国によるインド独立運動への関心を高めることになった。米政権は、インドに対する英国の植民地支配を永久に支持する用意はなく、米議会、メディア、国民は、インドの大義を支持する姿勢を堅持していた。

1930年 7 月17 日、ウィスコンシン州選出のジョン・ブレイン上院議員は、国務省に対し、インド情勢の公正かつ平和的な解決を確保するよう指示する決議を行った。彼は、英国のインド政策は「最も残虐な弾圧と非人間的な行為」に責任があると非難した。

米国世論の圧力、ソ連の反帝国主義的立場、インドの自由という大義に対する中国(蒋介石総統時代の中華民国)の支持により、英国は第二次世界大戦の終戦時にインドへの権力移譲が「必須条件」であることを原則とすることに同意せざるを得なくなった。

2022年4月14日、ロシアはアルゼンチンと英国に対し、フォークランド(マルビナス)諸島の主権を巡る紛争を国連決議に従って解決するため、主権協議を再開するよう促した。また、中国はアルゼンチンの同諸島の領有権主張への支持を表明している。これに対して、英国は中国の支持表明に異議を唱え、リズ・トラス外相は同諸島の主権を巡るいかなる質問も真っ向から否定した。

2020年12月現在、英国の政府総債務残高は2兆2065億ポンドでGDPの104.5%である。今年中に英国のインフレ率が7%に達すると、50万人の子供たちが貧困に陥るリスクがある。生活費の危機は、英国で100万人以上を窮乏状態に追い込む可能性がある。英国では貧困層が確実に増えており、『UK Poverty Report 2022』だけでなく、『Institute of Development Studies』でも、そのことに言及している。新型コロナのパンデミック以前から英国人口の22%が貧困状態にあり、コロナ禍は困窮世帯をさらに貧困に追い込んでいる。

英国のEU離脱(ブレグジット)を導いた独立党のダイアナ・バトラー議員の最近のエピソードは、重要な国際戦略問題を巡って国と国民の間に大きな不協和があることを示している。英国はロシアに対する経済制裁を推し進める主要国の一つだが、ウクライナ紛争が3ヶ月目に突入する中、ロシア・ルーブルは米ドルに対して世界一の通貨高となり、ロシアはEUへの化石燃料の販売による収益を毎月ほぼ2倍にしている。バトラー議員は、ロシアのウクライナ攻撃はウクライナ政府の行動によって引き起こされたかもしれないと主張していたが、英国民はブレグジットによってウクライナ危機への英国の対応が弱まったというより強化されたと考えているようだ。

Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.
Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.

英国には過去における植民地化、奴隷制度、空前の規模の強奪、略奪、搾取の歴史があり、国連の安保理メンバーになっても無責任な行動を続けてきた汚点がある。例えば、最近のアフガニスタンでの大失態だけでなく、1971年のバングラデシュの大虐殺でパキスタンを支援し、バングラデシュを誕生させるなど、世界各地で英国の問題行動は少なくない。英国がイラク侵略を米国のせいにしたり、トニー・ブレア元首相が無辜の人々を死と破壊に追いやった罪を洗い流すためにカトリック教徒に改宗したりするのは非常に容易なことだが、果たしてこれらは責任ある国家、とりわけP5メンバーである国の証と言えるだろうか。

国連は1965年にフォークランド(マルビナス)諸島の領有権問題を明確に認め、決議2065号を定め、アルゼンチンと英国の間で緊急に交渉することを奨励した。フォークランド(マルビナス)諸島の主権について話し合うというアルゼンチンの要求を認めるよう、ラテンアメリカ・カリブ海議会など地域から新たな要求が出されているが、英国は何度も交渉を拒否しており、アルゼンチンは(英国が)「国際法の遵守」 に欠けると非難している。

また、これほど悪いタイミングもないだろう。予算責任局は、2022年には英国の実質世帯収入が2.2%減少し、英国人の生活水準は1956年の記録開始以来最大の落ち込みを経験すると予測している。インフレの高騰により、資金繰りに窮した英国人の中には、愛する人を段ボールで埋葬する前に(葬儀用に)棺桶をレンタルしなければならなくなった人々もいる。

平和は進歩と繁栄への唯一の道である。そして、平和と非暴力の使徒として、マハトマ・ガンジーに勝る人はいない。ガンジーの誕生日に、国連は毎年10月2日を「国際非暴力デー」と定めている。

英国でさえ、ガンジーの貢献を認め、2015年にウェストミンスターの国会広場で、ガンジーとインド人嫌いでよく知られるウィンストン・チャーチルの像の隣に、彼の像を除幕した。

ガンジーが示したような平和の道を歩む英国が、英国議会が正式に可決した1947年のインド独立法を通じて、英領インドがイスラム教徒のためにパキスタンを創設し、与えることに同意したように、フォークランド(マルビナス)諸島をアルゼンチンに与えることに同意するかもしれないとは誰が知りうるだろうか。あらゆる可能性が考えられる。

隣国アイルランドとの統一を掲げるシン・フェイン党が5月5日の英領北アイルランドの議会選挙で100年ぶりに最大の政治勢力となり、アイルランド再統一の問題がすでに浮上している。ピアーズ・モーガンのような英国人は、公然と英国の「必然的な崩壊」を予測している。

Falkland Islands, location of overseas territory xy (see filename) in the United Kingdom./ TUBS, CC 3.0
Falkland Islands, location of overseas territory xy (see filename) in the United Kingdom./ TUBS, CC 3.0

しかし、ウクライナ紛争の余波で、世界が再び一触即発の状態になることは許されない。1982年のように英国とアルゼンチンの間で78日間にわたるフォークランド(マルビナス)紛争が再び起こることは想像を絶するし、21世紀における大惨事となるであろう。

そして、英国のように急速に衰退し、かつての影響力がない国にとっては、国際紛争の解決は早ければ早いほどよい。時間が経てば経つほど、交渉力、駆け引き力は弱まり、先延ばしは成果を減らすだけだからである。

先日、アルゼンチンのカフィエロ外相がインドを訪問した際、アルゼンチン政府によって「フォークランド(マルビナス)諸島問題に関する対話のための委員会」が発足した。

委員会は、アルゼンチンと英国の間の交渉再開を求める、フォークランド(マルビナス)諸島問題に関する国連の決議や他の国際フォーラムの宣言の遵守を促進することを目指すものである。

Photo: Jainendra Karn & Manish Uprety F.R.A.S.

国際紛争の解決と平和および安全の維持は、国際社会にとって必要不可欠である。国連憲章は紛争の平和的解決を求めており、国連は常に紛争の平和的解決のために外交を推奨し、対話を提唱してきた。

平和の追求はかつてないほど重要であり、フォークランド(マルビナス)紛争を早期に解決することは、英国とアルゼンチンの両国、両国民、そして世界にとってより良いことである。(原文へ

*マニッシュ・アプレティは、元外交官でALCAPアジア・アフリカ担当特別顧問、ジャイネンドラ・カーンはインド人民党(BJP)上級幹部。記載されている見解や意見は、あくまで執筆者のものであり、必ずしもIDN-InDepth Newsの見解を示すものではない。

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