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COP26最終コミュニケ、気候変動の食料安全保障への影響に触れず

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

温室効果ガスの約3分の1が農業や土地利用から出ているにも関わらず、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の最終コミュニケは、気候アクションと世界の食料システムとの関係について直接言及することをしなかった。世界食糧計画(WFP)が43カ国の最大4500万人が飢餓の危機にあると警告しているにも関わらず、である。

国連は、すでに30年近くにわたり(締約国会議を意味する)COPと呼ばれる年次気候サミットにほぼすべての国を招集してきた。グラスゴーで13日まで開催された今年の2週間に及ぶ会合はその26回目のもので、この21世紀の第一四半期の間に、気候変動は、環境保護派政党だけが懸念する些末な問題から、グローバル政治とメディアの注目の中心を占める問題となった。

国連食糧農業機関(FAO)はこの4月に発表された報告書で、6.8億世帯以上の家族農業が世界の農地の7~8割と世界の食料生産の約8割を占めていると推計した。しかし、少なくとも30億人の生存に関わり、持続可能な開発目標(SDGs)の第2目標で示された食料安全保障の達成に直接の影響を与えるこの問題は、COP26の最終コミュニケ全97節の中に直接は表記されなかった。

SDGs Goal No. 2
SDGs Goal No. 2

「持続可能な開発と貧困根絶の取り組みの文脈の下で気候アクションを強化するために、気候変動に対処し、地域的・国際的協力を促進する上での多国間主義の役割を認識し…」で始める今回のコミュニケでは、食料安全保障という貧困根絶の鍵を握る問題にスペースは割かれなかった。前文はまた「いくらかの気候正義の重要性」に言及しており、おそらくは市民団体からの批判をかわすために人権と社会的不平等の外観でまとわれていた。

たとえば第15節のようないくつかの節は「グローバルな取り組みの一環として、途上国のニーズに対応すべく、気候ファイナンスの提供や技術移転、適応のための能力開発などを緊急かつ大胆に加速すること」を先進国に促している。多くの途上国がCOP26でこのことを訴えたが、具体的な公約は得られなかった。

第27節は「緩和目標」(温室効果ガスの排出が大気に及ぼす影響を最小化する措置のこと)を緊急に拡大する作業プログラムを確立する決定について述べている。そして、第38節は、温室効果ガスを貯留するが、数多くの人々の命綱となっている農地や漁業地とはなっていない森林やその他の陸上の生態系と海洋生態系を保護し、保全し、回復させることの重要性を強調している。その次の節は「締約国中の途上国への支援の強化がそれらの国々が高い目標を立てることを可能にする」と述べている。

第44節は、(10年前に合意された)緩和アクションのために2020年までに毎年1000億ドルを拠出するとした目標を締約国中の先進国が達成できなかったことに触れている。第73節で、COP26は、気候変動の影響で回復不能な被害に苦しんでいるコミュニティーを資金的に支援するために「グラスゴー締約国間対話」を創設することを決定している。しかし、途上国がこの目的のために求めていたのは機関の創設であって、さらなる対話ではなかった。

コミュニケは、気候変動の緩和にあたって技術的解決策に重点を置いているようだ。これでは途上国は西側諸国の技術とその移転に与かるばかりの存在となる。富裕国が、メタンガスの排出を削減するために牛や羊を減らす犠牲を払う様子はない。オーストラリアがメタンガス削減協定への署名を拒絶したのはこのためだ。

『ガーディアン』紙は、COP26に出席した英国の4つの農業組合の誰にも家畜の数を減らす意思はなく、牛を減らすよりも新技術を通じてメタンガス削減には対処しうると同紙に語ったと報じしている。トーマス・ビルサック米農務長官は同紙に対して、米国市民がこれまでと同量の肉を消費しながら、同時に地球温暖化を安全な範囲にまで押しとどめることは可能だと考えていると語った。

「食料システムの問題は気候問題の交渉でほとんど取り上げられなかった」と語るのは「食料の将来に向けたグローバル連合」のルース・リチャードソン代表である。「食糧システムを全体として見てみれば、つまり、家畜生産のために森林を伐採するという現実を見てみれば、国を超え、長いサプライチェーンを超えて牛肉を輸送する現実を見てみるならば、そして、食料システムのすべての側面を見てみるならば、家畜の飼育が温室効果ガス排出の最大の原因であることは明らかだ。」「食料システムの問題に対処しない限り、気候問題の解決はおぼつかない。」と、リチャードソン氏は『Devex』紙の取材に対して語った。

COP26での提案は、片や再森林化、片や農業における技術革新という2つの異なる方向に引き裂かれているが、それらがあたかも相補的であるかのごとく喧伝されている。

米国際開発組織である「ウィンロック」のロドニー・ファーガソンCEOは、小規模農民を気候変動対応型農業に統合しようと思ったら、彼らにとって安価で家族を食べさせていくことのできるような技術を提供する必要があると論じている。

「小規模農家の年収が300ドル程度で、50ドルもかかるような方法や製品を使うよう彼らに要請したとしても、そんなやり方は成功しない。」とファーガソン氏は『Devex』紙の取材に対して語った。

しかし、11月10日という一日が「自然・土地利用デー」として持続可能な農業と土地利用に関する議論のために割り当てられた。この日、150カ国が署名した「農業の革新に関するグローバルアクション課題」など多くの構想が発表された。排出をゼロにし、自然に良い影響をあたえる革新をもって1億人の農民にアプローチしようという世界的な構想である。

COP 26 Logo

英国の団体「スローフード」のシェーン・ホランド氏は、「この提案はCOP26のコミュニケには入らなかったようだ。」としながらも、公約がなされたことは歓迎した。他方で、富裕国が2010年になした同様の誓約はいまだに実現されていないとも指摘した。また、再森林化する場合、誰の土地を対象にするのかとも疑問を呈した。そのことを指摘しつつ、ホランド氏は、(家畜に食べさせるための)大豆や、パーム油を求める世界的な飽くなき需要を終わらせることによって気候変動の問題に根本から対処することが必要であり、「そうするまでは、世界の食料は気候変動の原因となりつづけるだろう。」と指摘した。

「世界が作物不足に見舞われるだろうから、ある種の保険として農業を強化しなくてはならないと何度も聞かされてきた。しかし、この手の議論こそが問題を拡大させてきたことを認識する必要がある。」「化石燃料の使用を終わらせることから、運輸や電気供給のしくみを根本から変えることまで、世界にはやる必要があることがたくさんある。私たちの食料システムには二酸化炭素を吸収する可能性があるが、その機会は失われている。」とホランド氏は論じた。(原文へ

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【ボストンIDN=トーマス・クリカウアー/メグ・ヤング】

国内のテロ組織などを監視するドイツの諜報機関「連邦憲法擁護庁(LfV)」の機密文書の一部がリークされたことで真相の一端が明らかになった、ネオナチ組織「国家社会主義地下組織(NSU)」(トルコ・ギリシア移民や婦人警官など10人を射殺し銀行強盗や爆弾テロを繰り返したてきた)の実態と、LfV関係者が証拠隠蔽に関わっていたスキャンダルを報じた記事。被害者の家族をはじめNSUに関する機密文書の公開を求める署名はヘッセン州で134,000筆集まっているが、州政府は潜入捜査に関わる職員や協力者に危険が及ぶとして公開を拒否(ただし機密解除を2134年から2051年に短縮)している。(原文へ)

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年11月8日に「ハンギョレ」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン】

米国は中国に抱く恐怖を大袈裟に言い立てており、それが今度は中国をほとんどヒステリックなほど攻撃的な防御態勢に駆り立て、問題を悪化させている。

この2週間で五つの国際ウェビナーに参加した。くしくも、その五つ全てが米中対立に関するものだった。それはとりもなおさず、米中間の事態がいかに深刻化しているかを示している。両国の間には深い不信の溝があり、両国が妥協の道を見いだすことは極めて困難であるという印象を抱かざるを得なかった。(原文へ 

ウェビナーの米国人参加者は、バイデン政権がいかにトランプ政権とは違うかを強調していた。彼らは米国が中国に対して「三つのC」、すなわち協力(cooperation)、競争(competition)、対決(confrontation)を柔軟に適用していると述べた。バイデンは、気候変動、感染症、大量破壊兵器の不拡散、北朝鮮の核問題については中国と協力し、貿易および技術分野では競争し、地政学と価値観については譲歩せずに対決することにより、前任者より柔軟に対応するだろうと主張した。

そのような見立てに、ウェビナーの中国人参加者はただちに反論した。中国政府が核心的利益と見なす領土問題や国家主権といった地政学および価値観の問題について、ワシントンが対決姿勢を取るなら、建設的な競争関係を築いたり、他の問題に関して協力の余地を広げたりすることがどうしてできようかと問うた。そして、米国が台湾、南シナ海、香港、ウイグルに関する態度を変えない限り、協力は実現不可能であり、競争は必然的に紛争へとエスカレートすると予測した。

また、中国の将来計画に関する見方にも大きな隔たりがあった。焦点は、習近平国家主席が2035年までに達成することを望む「強軍の夢」と中華人民共和国建国100周年にあたる2049年までに実現することを目指す「中国の夢」に向けられた。ウェビナーの米国人参加者はこれを、中国が2035年までにアジア太平洋における覇権を目指し、2049年までに世界における覇権を目指すという意味と解釈した。実のところ、この解釈は目新しいものではなく、トランプ政権時代にも繰り返し提示された。問題は、バイデン政権がそれを是認していることである。

この解釈は、中国人参加者の激しい反論を引き起こした。周恩来が1954年に「平和五原則」を宣言して以来、中国は一貫して覇権に反対しており、現在、地域覇権にも世界覇権にも関心がないと彼らは主張した。その証拠に、中国は米国とは違って軍事同盟を持っていないと彼らは指摘した。二つの夢は、習主席の未来に向けたビジョンを表すにすぎず、覇権とは全く関係ないと主張した。「強軍の夢」は、2035年までに中国の後進的な軍隊の発展を図り、自ら向上する能力を与えるという構想を表し、「中国の夢」は、2049年までに社会主義中国を発展途上国から先進国へと高めたいという願望を伝えるものである、と。

最も論議を呼んだ点は、中国の自由化の問題である。ほとんどの米国人参加者の見方は、1979年以降のワシントンの対中関与政策は、経済開放が中国の政治的自由化をもたらすという予想を前提にしていたが、習近平のもとで中国が専制政治に後退しつつある今、失敗に帰したというものだった。したがって、米国はこれまでの対中関与・協力政策を根底から見直す必要があるというのである。

中国人参加者は、断固たる反応を見せた。中国はワシントンからの関与政策と引き換えに政治的自由化を約束したことなどないし、米国式の民主主義は14億人の人口を抱える中国の政治風土に合わないと、彼らは述べた。価値観の集約を目指す米国のストーリーは価値観の多様性や中国特有の状況を無視しているとして、意見の相違を表明した。そして、中国共産党の指導力を弱体化させ、中国に分断と退行をもたらそうとする米国の策略に、中国が引っかかることはないと強調した。また、米国の要求は、ほんの40年前に市場を開放し、10年前に経済成長が始まった中国にとって理不尽なものだとも指摘した。

なぜ両国は、これほど激しい対立に突き進んでいるのだろう? 米国の東アジア専門家ポール・ヒアは、これを「戦略的被害妄想」という概念で説明する。ヒアによると、米国は中国に抱く恐怖を大袈裟に言い立てており、それが今度は、中国をほとんどヒステリックなほど攻撃的な防御態勢に駆り立て、問題を悪化させている。それが、米国と中国のどちらにも非常によく見られる傲慢さ、不安感、無知、不信の行きつく先である。2国間の関係は、相互の国民の敵意と国内政治の厳しい情勢によってさらに複雑化している。

明らかなのは、このような争いに一方的な勝者は存在し得ないということである。米国による包囲と封じ込めに中国が屈するとは思われず、また、中国が何にでも反発することを考えると、米国が現在のやり方をやめることはまずないだろう。しかし、両国の対立が軍事衝突を引き起こした場合、あるいは新たな冷戦となって長期化した場合、その余波は中国と米国だけでなく、より広い地域、さらには世界全体にも影響を及ぼす。

慢性的な被害者意識を克服すること、戦略的コンセンサスを形成し、共生、共存、共進化の可能性を模索するための努力を行うことが、双方にとって有益な結果をもたらす理想的な選択肢であろう。

チャンイン・ムーン(文正仁)世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

ここ数カ月、「冷戦の再来が迫っている、今度の相手は中国だ」という声をよく聞く。その危険はどれほど大きいのか? 危険な対立を示唆する状況もあれば、ソ連やその同盟国との冷戦時代とは全く異なる状況もある。(原文へ 

インド太平洋地域における地政学的な動きを見ると、新たな冷戦、あるいは生存にかかわる軍事衝突を恐れることは現実的である。中国空軍は挑発的な飛行で台湾領空を侵犯し、この島を人民共和国に併合する意図を明確にしている。南シナ海では、領有権が争われている島々を中国海軍が占拠し、軍事基地として拡張している。軍事費は急激に増加しており、全ての大国が核兵器を含む武器の近代化を図っている。オーストラリアが中国の制裁を受けているのは、コロナウイルスの起源解明に関する中国政府の不透明な政策をあえて批判したからである。米国はこれに異を唱え、インド太平洋地域における軍事的プレゼンスを強化している。英国、フランス、さらにはドイツまでもが、インド太平洋地域に軍艦を派遣して旗を掲げている。米国、英国、オーストラリアは、明らかに中国への対抗策であるAUKUSによって軍事同盟を形成している。米国は、日本、韓国、インドで共通の反中政策を採るよう働きかけている。多くの兆候が、東西対立時代と似た切迫するエスカレーションと軍事的拮抗を示している。

特に問題なのは、敵対国の政府が少なくとも定期的に連絡を取り合えるような実効性のある軍備管理フォーラムがないことである。冷戦時代には、核兵器に関しては1960年代後半から、通常兵器に関しては1973年から、そのようなフォーラムがあった。しかし、当時は自国の軍拡努力を矮小化し、敵国のそれを誇張するという小手先の術が使われたため、このような交渉には極めて時間がかかった。とはいえ、軍拡競争をコントロールし、誤って戦争を始めることを防ぐために、少なくともさまざまなフォーラムがあり、ホットライン、いわゆる「赤電話」もあった。実際、1990年代には核兵器、ミサイル、通常兵器が順調かつ大幅に削減された。そのようなフォーラムは、海、空、宇宙におけるとどまるところのない軍拡競争にストップをかけるために、現在においても必要である。

東西対立と今日の中国との競争および対立は、イデオロギーの衝突と経済的な相互依存という二つの主要な分野で相違点がある。

米国とソ連およびそれぞれの同盟国の間の冷戦は、これまでずっと、体制の対立として的確に評されてきた。共産主義、社会主義、計画経済の体制と、自由主義、民主主義、資本主義の体制である。ソ連崩壊という形で決着がついたこの論争は、数十年間にわたって、当時「第三世界」と呼ばれた国々を従属国家にしようとする競争だけでなく、それはイデオロギー闘争でもあった。社会主義は西側諸国でも共感を呼び、資本主義に代わるものとして魅力的に感じられた。現在でも、政府や知識人は、中国共産党の権威主義体制に対して、民主主義、自由、人権といった西側の価値観を守る必要があると強調している。しかし、中国国内で非常に一貫して適用されているそのような中国の体制は、独裁者の興味を引くだけである。中国の社会システムを求めるデモや称賛は、毛沢東の教えとは異なり、今日の西側諸国で起こることはない。今日の中国の体制は、せいぜいのところ経済的効率性による一定の訴求力を持つ程度である。西側の大規模プロジェクトの計画期間に絶望している一部の人々は、中国の効率性を切望している。しかし結局のところ、高速鉄道建設のために地区全体を移転させるといった残酷な行為などの付随的な被害を考慮に入れれば、中国の経済的効率性はかなりの傷を負う。

中国と米国、EU、他の民主主義国との経済的関係は、冷戦時代の東西関係とは大きく異なる。中国は、全世界に君臨する経済大国になる道を突き進んでいる。ソ連は、決してそうではなかった。中国と他の国々との貿易関係は、今日きわめて緊密である。ソ連は、重要ではあるものの、常にエネルギー供給国でしかなかった。新たな冷戦の可能性という問題にとっては、これは良い材料でもあり、悪い材料でもある。1977年という早い段階から、米国の政治学者ロバート・O・コヘインとジョセフ・S・ナイは、共著『パワーと相互依存』(Power and Interdependence)の中で大国の力関係における相互依存性の重要性を強調していた。彼らの主張は、簡単に言えば、経済的に密接な関係がある国は紛争を軍事的に解決するより協力し合う傾向があるということである。しかし、中国との密接な経済的結びつきは、両刃の剣である。相互依存性はせいぜい軍事的冒険を回避する保険になる程度であり、なぜなら双方がダメージを負う可能性が高いからである。しかし、緊密な経済的相互依存は、依存性と脆弱性をも意味する。パンデミックにより、われわれはそれを嫌というほど体験したばかりである。

米国は、この危険な軍拡競争においてソ連に勝利した。東側の同盟国は、経済的荒廃のため軍拡競争をさらに加速できる状態ではなかった。このような崩壊は中国には期待できない。それどころか、中国は経済力を拡大し続けており、当面の間、軍事費を増やす余裕が十分にある。

では、中国とどのように向き合うべきか? これについては西側諸国にも意見の相違がある。米国では、ドナルド・トランプ大統領が中国との厳しい対決姿勢を打ち出し、言葉の上だけでなく、経済的にも中国への制裁を課し、軍事力を増強した。ジョー・バイデン大統領は、やり方はより融和的かもしれないが、彼も中国に対して対決的な姿勢を取っている。彼はもはや、中国を不愉快な競争相手としてだけでなく、敵として見ており、西側の統一戦略の策定を呼び掛けている。EUは、より柔軟な、EU委員会の言う「プラグマティック(現実的)」な路線を追求している。中国は、協調のパートナー(例えば気候変動に関して)とも、経済的条件を交渉しなければならない競争相手(例えば技術開発において)とも呼ばれている。それだけではなく、異なる社会モデル(例えば人権尊重に関して)を広めようとする体制的ライバルであり、それに対して明確な優位性示すことが重要であるとも見なされている。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRIの科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

英国の権威ある文学賞「ブッカ―賞」に『運のよい人たち (The Fortune Men)』が初ノミネートされたソマリア出身の作家、ナディファ・モハメド氏に焦点を当てた記事。幼少期に英国に移住した経験を持つモハメド氏は、17年前に偶然記事で目にしたマフムード・フセイン・マタンの冤罪事件(彼女と同じソマリア出身の水夫が、1952年にウェールズの首都カーディフで発生した商店主殺害事件に関連して、警察の杜撰な捜査と人種差別に満ちた法廷審理により絞首刑に処せられた事件。英国司法当局は1998年にこの事件が冤罪であったことを認めた)に関心を持ち、関連文献の調査や関係者への聞き込みに基づいて、冤罪の犠牲となったマタンの人生と彼をとりまく当時の英国社会の矛盾を等身大に描写している。(原文へFBポスト

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|フィリピン|パラワン島の先住民族の土地保護に立ちあがる若者達

【プエルト・プリンセサ(フィリピン・パラワン島)=ニーナ・パラギ】

現代の基準では考えられないような偉業である。この辺鄙なフィリピン・パラワン島出身の6人の若者が、土地所有をめぐって巨大な勢力と闘って勝ったのだ。先住民族からの支持を直接取り付けたうえで、彼らが暮らす4万ヘクタール以上の土地が自然保護区であることを政府に法的に認めさせたのである。

小規模な非営利団体「フィリピン持続可能センター」(CS)がこのキャンペーンを率いて、先住民バタク族を2014年から支援してきた。彼らはどうやってこの偉業を成し遂げたのだろうか。 CSの共同創設者で顧問のカリーナ・メイ(KM)・レイエス氏は、この点について、「この7年間に及ぶ気骨と、『日々の逆境に立ち向かう粘り強さ』によるものだと語った。CSのスタッフは、土地保全・森林再生・市民科学を通じてフィリピン最後の熱帯雨林を守るというミッションを遂行している。

この話は、国際自然保護連合(IUCN)を通じて世界に知られることとなった。次の舞台は10月31日から11月12日までグラスゴーで開催される世界的なフォーラムである国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)だ。レイエス氏がCSを代表して参加している。

COP 26 Logo
COP 26 Logo

COP26では、レイエス氏が世界的なNGO「一本の植樹(One Tree Planted)」とともに新たな役割へと踏み出す。今後、ASEAN(東南アジア)地域で気候変動の問題を訴えながら、この話は、フィリピン・パラワン島から世界へと広がっていくだろう。

CSの6人の若いメンバーは、パラワン島の熱帯雨林保護を求めて活動を始めた時、17歳から28歳までの年齢だった。そのほとんどが「世界で最高の島」(『旅行とレジャー』誌)と謳われるパラワン島の手つかずの自然の中で育った。

先住民族の人々から親しみを込めて「KM」と呼ばれているレイエス氏は、フィリピンの出自を持ち、オーストラリアで生まれた。10年前にパラワン島を訪れた際、彼女はこの島に惚れ込み、オーストラリアには戻らなかった。彼女は今、長期的かつ持続可能な島の環境開発と保護を誓い、少なくとも70カ国に展開している国際団体「自然と民衆のための高い意志の連合」(HAC)にこの問題を持ち込もうと決意している。

その準備のためにCSは、フィリピンで実に740人もの若者を集めたオンラインフォーラムを最近開催した。基調講演はザカリ・アブドゥル・ハミッド氏が行った。ハミッド氏は1992年のリオ地球サミットで採択された国連生物多様性条約における世界的な専門家「自然のためのキャンペーンに向けた大使・科学顧問」である。

クレオパトラの針(パラワン島の山の名称)・重要居住地」(CNCH)と名付けられたCSのパラワン島でのプロジェクトは、地元や各国政府、国際機関、営利企業からの支持を集め、現在のような状況がもたらされた。

重要な居住地として2016年に「クレオパトラの針」の保護を勝ち取ったことは、画期的な意義を持つと評価できる。消えつつあるパラワン島のバタク族が生活するフィリピン最大の重要な居住地であり、彼らが先祖代々守ってきた土地なのである。世界のどこにもいないパラワン固有の61種の動植物、31種の絶滅危惧種も生息している。

カラクワサン地区の元酋長であるテオドリコ・ヴィラーリカさんは、IDNの取材に対して、「森や土地は私たちの生活の源であり、生存の鍵を握っています。だから守られねばなりません。私たちバタク族は、伝統的に森のある場所から別の場所に移動しながら生活しています。儀式を行い聖なる集まりをもつのは、私たちの文化的慣習の一部なのです。」と指摘したうえで、「例えば、(聖なる木である)アルマシガの樹液と蜜を採取する際には、事前に儀式を執り行います。私たちの森では、私たちの生存に不可欠な聖なる動物や植物がたくさん生息しています。多くの先住民族の社会は食べ物や水源を森に依存しているのです。」と語った。カラクワサン地区は「クレオパトラの針」保護区域への入り口となる場所だ。

SDGs Goal No. 15

インドネシアやマレーシアと並んで、フィリピンはきわめて多様性に富んだ森や海洋、湿地帯をもつ世界の17カ国のうち、アジアに位置する国の1つである。CNCHの西の境界は「新・自然の七不思議」の1つとみなされるプエルト・プリンセサ地下川国立公園であり、ユネスコの世界遺産地区として登録されている。

「クレオパトラの針」の広大な保護区域4万1350ヘクタールでのCSの活動には、パラワン島の首都プエルト・プリンセサ近くに残されたフィリピン最後の原生林での活動が含まれる。ヴィラーリカ酋長の属する地域に加えて、CNCHはその他6つの重要地区で活動している。しかし、その森に住んでいる狩猟採集民であるバタク族の人口は急速に減少し、現在は200人ほどしかいない。パラワン島に遺された最後の熱帯雨林を保護しなくてはと、若者たちは焦りにも似た気持ちを持っている。

スペインによる植民地化以前、フィリピンの島々の90~95%は森林であった。現在、国全体で森林はわずか3%しか残されておらず、そのほとんどがパラワン島にある。露店坑や過剰な農地使用、密猟、違法伐採によって森林は大部分が失われてきた。

CSの活動を貫く根本的な価値観は、地域から始め、活動の成果を地域に返す、ということだ。レイエス氏は、地域社会なしには環境開発は持続可能にならないと考えている。

レイエス氏はIDNの取材に対して、「2030年までに、地球上の陸と海の少なくとも30%を保護するという目標を達成しようとすれば、先住民族や地域社会に肩入れしなくてはなりません。先住民族の土地の権利と先住民族の居留地や保護区域を承認し保護していく必要があります。また、先住民族が太古の昔から果たしてきた役割、つまり自然保護活動の先頭を切ることができるように、先住民族社会への現金移転を進める必要があります。」と語った。

レイエス氏は、先住民族が世界人口に占める割合は5%に過ぎないが、地球の生物多様性の80%を守っていると指摘する。また、その先住民族の土地は世界の自然の土地の37%を占め、世界の地上の炭素のうち25%を保留している。

「先住民族として、私たちは、アルマシーガの木の過剰伐採が自分たちの生活にどんな被害をもたらすかを直接見てきました。アルマシーガやラタン椰子、蜜のような私たちの聖なる資源を使い過ぎないように私たちバタン族は気を使っています。使い過ぎれば将来的には何もなくなってしまうと考えているからです。」と元酋長のヴィラーリカさんは語った。

The young members of the Centre for Sustainabilty (CS) team with co-founder and advisor K.M Reyes
in extreme left.資料:J.R Lapuz

ヴィラ―リカさんはまた、「自分たちの自然利用のやり方が将来の世代に利益を与える。」と指摘したうえで、「アルマシーガの木が伐採前に十分育っているように、植樹と伐採時期を適切に選んでいます。樹脂を取るのも適切な時期のみ行っています。」と説明した。彼はさらに、土地の劣化を防ぐためにCSとともに3000本の木を植え、「育てるのに一生を要する大事な木」のために1万本の苗を再生したと語った。

「先住民族の社会は、同じ成果を残すのに、世界の自然保護機関の予算の僅か16~23%分しか費用をかけていない」とレイエス氏は言う。彼女は、その弛みない努力が評価され、「ナショナル・ジオグラフィック・エクスプローラー」補助金を2018年以来受けている。またCSとの関連で、「フィリピンの若者組織トップ10」賞も受けている。

オーストラリアのニューイングランド大学で平和学・国際学の学位を持つレイエス氏は、自らの土地の持続可能な発展を最もよく実現できるのは先住民族であると考えている。先住民族の声に耳を傾けパートナーになろうという人であれば誰に対してであっても、彼女はこの訴えを続けている。

「先住民族のバタク族は初めて、土地の保護者として、『クレオパトラの針重要居住地宣言』を通じて、彼らが土地に対して第一次的な権利を持つと認める法的文書を手にした。」とレイエス氏は指摘する。「私たちは、かねてより先住民族が持ってきた知恵によって、私たちの最後の原生林を保護し続けることができると意思決定者たちに訴えることで、壁を打ち破ってきました。彼らは、先住民族の知恵に目を向け、そこに賭けるべきです。」

Map of the Philippines showing the location of Palawan./ English Wikipedia

ヴィラーリカさんは、「レイエス氏と、彼女のCSのチームは、私たち先住民族の文化を理解するために粘り強く協力してくれている。だから、彼らが私たちのためにしてくれていることに本当に感謝していいます。CSは(キャンペーンの)最初から私たちと共にあり、クレオパトラの針が重要な居住地だと法的にいよいよ宣言されたことは、一緒に勝ち取ってきた大きな成果だと思っています。」と語った。

CSはバタク族の多くの人々を野生生物の守り手として育て、パラワン島のその他の先住民族の土地を守るさらなる闘いに備えている。CSは、引き続き、野生生物の密猟や違法伐採、土地の強奪、大規模な採掘、そして今では開発業者による侵略に立ち向かっている。

「私たち多くの若者にとっては、本当に『時間との競争』という感じになっている。気候変動に影響を受けているパラワンの先住民族たちが、自分たちに直接影響を及ぼしている問題に関して世界の議論に参加することすらできないという事実を私たちは十分意識しています。私たちの土地であるパラワンは地政学的なホットスポットに位置しているのです。」とレイエス氏は語った。

パラワン島は領土紛争の対象になっている南シナ海に面し、フィリピン政府はこの南シナ海の海域に同国の排他的経済水域を設定している。「(このパラワン西方沖の海域の一部は現在、中国が領土権を主張する海域と重なっている。だからこそ、この愛すべき島に対する私たちの活動の緊急性がより増しているのです。」とレイエス氏は語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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AUKUS加盟国はフランスとの関係修復へ挽回努力が必要

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年11月16日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

スコット・モリソン豪首相は、エマニュエル・マクロン仏大統領とジョー・バイデン米大統領とのいざこざに巻き込まれている。そのため、パワーの不均衡を考えると、オーストラリアは身の丈に合わない大国間関係のなかで無防備かつ脆弱な状態に置かれる恐れがある。2頭のゾウが争うときも交尾するときも、草は踏みつけられるという民話は、アフリカとアジアの各地にさまざまな形で見られる。ペロポネソス戦争を記録したトゥキディデスの著作『戦史』の「メロス対談」で、メロス島はアテネ陣営により、正義や公正の問題はパワーが対等な者同士の関係においてのみ適用されるものだと、厳しく警告される。それ以外の関係では、「強い者はできることをやり、弱い者はしなければならないことをやる」のである。(原文へ 

そもそも契約を結ぶべきではなかった取引をキャンセルしたことは、正しい判断であった。先進的な原子力潜水艦をリバースエンジニアリングして、航続距離、海中耐久性、ステルス性、総合的攻撃力の低い技術的劣化版を設計し、オーストラリアの労働者と製造施設を用いるという要件により、コストが増大し、所要期間が長引いた。モリソンは、アタック級潜水艦の建造という不可解な要請を覆し、最も重要な防衛調達事業をオーストラリアの急変した戦略的状況に合わせて修正し、信頼できる同盟国の心地良い抱擁へと戻ったのである。

したがって、国家安全保障上の愚行と呼ぶべきは、最適とはいえない潜水艦契約の破棄ではなく、既存の契約がないという法的空白と、今後20年間新たな潜水艦がないという、運用上の空白である。外交的愚行としては、インド太平洋地域へのフランスの関与における最大の呼び物を台無しにしつつ、そもそもオーストラリアのミスによるコストと困惑の負担をすべてフランスに押し付けたことである。これは、中国がもたらす多面的な課題に対抗する民主主義同盟の集団的結束と団結を弱めずにはいられない。

AUKUS加盟国は、この外交的試練に失敗し、その損失を修復するために挽回の努力をしなければならない。オーストラリア海軍の能力を高めることによって、より効果的にインド太平洋における西側諸国の軍事力を取り戻すことができるだろう。しかしEUは、世界の金融、貿易、インフラ、保健、人工知能、グリーンテクノロジー分野で、配線をやり直したルールに基づくリベラルな国際秩序のなかで、はるかに大きな貢献をすることができる。その秩序の制御回路は、主に欧米の首都に所在している。米国にとっても英国にとってもフランスのほうが決定的に重要であるため、オーストラリアはマクロンをなだめるためのスケープゴートにされる可能性もある。

2021年11月3日の<オーストラリアン>紙印刷版1面に掲載されたポール・ケリーによる論説は、「マクロンが欺かれたのは明白、わが国首相に選択肢はなかった」という見出しをつけた。ケリーは、二つの「受け入れ難く」かつ両立し難い「現実」、すなわち「マクロンは欺かれ、モリソンにはそれを彼に伏せるだけのもっともな理由があった」という面から議論を展開した。しかし、カナダ人の歴史家マーガレット・マクミランは、第一次世界大戦の勃発に関する権威ある解説書『第一次世界大戦 平和に終止符を打った戦争』において、「常に選択肢は存在するのだ」と結論している。モリソンは「うそつきで有名」という、マルコム・ターンブル前首相の発言はターンブルの満たされない憤りを反映しているが、ジュリー・ビショップ前外相、ピーター・バーギーズ元外務貿易省次官、ジョン・マッカーシー元副次官による批判は、抑制的でありながらより痛烈である。「通常以上に国内政治のプリズムを通してなされた」(バーギーズの言)外交政策決定により、極めて重要な関係に深刻な亀裂が入る恐れがある。オーストラリアの信頼性と信用性に対する評判は、フランスだけでなく欧州で打撃を受けている

<オーストラリアン>紙の元ワシントン特派員キャメロン・スチュアートは、AUKUSの最高交渉担当者の間で交わされた議論の15ページにわたる機密記録を解析した。この記録には、新たな協定を世界に発表するに至るまでの詳細が正確に記されている。英国または米国から原子力潜水艦を購入するために、既存の900億豪ドルのアタック級潜水艦調達契約が反故にされるということは、同日、2021年9月16日にフランスに伝えられることになっていた。政府高官はフランスの驚きと怒りを予想していたが、AUKUS加盟国は、マクロン個人とフランス全国の憤りの深さを完全に甘く見ていた。10月31日に、モリソンが不誠実だったと思っているかと尋ねられたマクロンは、「思っているのではなく、そうだったと知っている」と答えた。

米国にとっては、オーストラリアよりフランスのほうがはるかに重要である。だからこそバイデンは、G20ローマ・サミットでマクロンにへつらうような発言をした。「米国にとってフランスほど長年にわたる、誠意ある、真っ当な同盟国はない」と、バイデンはマクロンに断言するとともに、潜水艦問題への無作法かつ不調法な対応を謝罪し、パリはキャンベラから話を聞いていると思っていたと述べた。

バイデンが最新情報を知らされていなかった、あるいは単に協定をまとめるまで秘密を守る必要があると把握していたことを忘れてしまったという可能性があるかもしれないが、まずないだろう。最もありそうな説明は、フランスが本気で怒っているという冷静な計算である。フランスは米国に依存していないが、極めて重要なパートナーであり、米国の欧州関与におけるかなめである。オーストラリアには、米国政府の言い分を無理やり飲み込み、受け入れる以外に選択肢はない。

米国、中国、フランスのような大国が追求するのは、帝国的外交政策であり、倫理的外交政策ではない。オーストラリアは、習近平にターゲットにされ、マクロンに嘲られ、バイデンに裏切られている。

オーストラリアがフランス解放のために命を投げ出した兵士たちのことを何度も蒸し返すのは、正直言ってうんざりさせるものだ。オーストラリアは、フランスを解放するために第一次世界大戦に参戦したのではなく、英国とともに戦うためである。それは、米国がオーストラリアを救うために第二次世界大戦に参戦したのではなく、日本に攻撃されたからであるのと同じである。よく知られているように、パーマストン卿は、国家には永遠の敵も永遠の味方もない、あるのは永遠の国益のみだと言った。それは、原子力潜水艦に関するオーストラリアの心変わりを正当化すると同時に、フランスをなだめようとする米国の姿勢を正当化する。それが世の中の仕組みであることを理解し、ふてくされる代わりにリアルポリティークに取り組む成熟度がオーストラリアには必要である。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を努め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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長年にわたる紛争と慢性的な貧困、気候変動由来の災害や新型コロナの蔓延、さらに今年8月の米軍撤退後のタリバン政権に対する経済制裁により、全人口の2人に1人(55%)が深刻な人道危機に直面しているアフガニスタンの現状を報告した国連人道問題調整事務所 (OCHA)報告書の内容を概説した記事。アフガニスタンでは冬の間に2280万人が深刻な飢餓に直面、その内870万人が緊急事態の飢餓に陥ると推定されており、OCHAは、政治的目的を追求するために人道支援を利用する「条件付人道主義」について深刻な懸念を表明している。(原文へ)

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