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大学は特権ではなく、誰もが行ける場所であるべき

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

コロナ禍後の世界をより良いものにしたければ、高等教育システムをより柔軟で利用しやすいものにする必要がある。また政府が、より平等で安定した社会を作りたければ、公立大学への資金拠出が不可欠であることを理解しなくてはならない―これが「世界高等教育アクセスデー」(WAHED)からの明白なメッセージである。11月17日、「2030年の大学はどこに行くのか」と題したオンライン会議がロンドンをホストに開催された。

高等教育部門はコロナ禍により大きな被害を受け、その構造はオンライン学習の登場によって大きく変わってしまった。しかし、このことは高等教育へのアクセスと平等にとって極めて大きな問題を残した。平等な教育へのアクセスは持続可能な開発目標(SDGs)第4目標に盛り込まれているが、主として念頭にあるのは、高等教育よりも初等・中等教育である。

「全国教育機会ネットワーク」(NEON)のグレーム・アサートン教授は会議の開会挨拶で、「WAHEDのアイディアは、高等教育システムのアクセスと平等の必要性を認識し、個々の大学や組織にこの問題に取り組ませようとしている人々が集うことにある」と述べた。NEONは英国の非営利組織でWAHED2021を主催している。

SDGs Goal No. 4

5つの分科会からなるこのイベントでは、欧州・北米・南米・アフリカ・アジアからのパネリストが並び、その多数は女性でもある。多くの発言者が、高等教育は先進国でも途上国でも依然として特権であり、既に学位を持っている人々の子が大学に行く割合が高いという。公立大学に対する政府の資金投入が活発でない中、社会経済状況が厳しい世帯にとっては、子を大学に進学させるなど及びもつかない。

エスタドゥアル・デカンピナス大学のマルセロ・ノーベル教授によれば、ブラジルでは現在の政権が公立大学への予算を削減し、若い人々は私立大学に行かざるを得なくなっているという。「平等の面から考えて大きな問題だ。学生の75%が営利的な私立大学に通っている。高等教育での成功を保証するには、(公立大学は)大幅に強化されねばならない。」

「高等教育はそのコストの面から批判に晒されており、不平等を加速している」と米「ルミナ財団戦略的インパクト」の副代表であるコートニー・ブラウン博士は語った。教育アナリストで「ユーリーダイス」(Eurydice)のデイビッド・コシエー氏は、「欧州のデータを見ると、大学生の68%の親は大学の学位を持っている。」と指摘したうえで、「不平等は欧州においても顕著な社会の特徴になっており、不平等は幼児期と学校制度において対処しなくてはならない。」と語った。

アジア欧州会合(ASEM)による第4回WEHED会合に先立って出された報告書は、コロナ禍によって不利に立たされている集団に関して高等教育へのアクセスと平等度は悪化しており、それに対応するための、焦点を絞った一貫性のある政策が必要だと警告している。

同報告書は、ASEM47カ国の政策の調査を基礎として、3分の1以下(30%)の国しか高等教育における平等政策を持たず、わずか34%しか高等教育への進学と卒業に関した特定の目標を設けていないという。

アジア欧州財団(ASEF、シンガポール)のアサートン教授が執筆したこの報告書によれば、「84%の国々では、コロナ禍によって平等な進学・卒業に関連した政策が大きな影響を被っている」という。

報告書が焦点を当てているのは、民族的・宗教的マイノリティを基礎にした伝統的な議論からの変容である。問題になっているのは、多数派の民族的・宗教的コミュニティの中にいるかもしれない、社会経済的に不利な世帯や経済的に周縁化されたコミュニティのことである。従ってこの問題は、社会における「不平等の是正」を謳ったSDGs第10目標に関連したものである。

SDGs No. 10

WAHEDで多くの発言者が強調したのは、高学年の高校生と大学生との間に連携を生み出すことで、入手できるはずの機会や入学の要件について知ることができる、ということだ。これは、教育関係省庁がその他の開発機関とともに戦略を策定しなくてはならない開発問題として見る必要がある。

「開発における高等教育の役割は、まだ決着を見ていない問題だ。」と指摘する英連邦大学連合のジョアンナ・ニューマン事務局長は、「高等教育への入学は依然として特権だ。大学に通った人々は稼ぎがいいだけではなく、自らが住む社会に貢献もできると信じるしかない。」と語った。

ニューマン事務局長は、「今日の大学はランキングや競争ばかりを気にしており、『象牙の塔』としての大学のイメージを強めてしまっている。一つの部門として大学がなぜ開発問題で意義を持つのかということについて、説得力のある議論を展開できていない。」と語った。

ビショップ・スチュアート大学のモード・カマテネシ・ムギシャ副学長によれば、ウガンダでの問題は、オンライン学習のための適切なカリキュラムと施設を確保することであるという。ムギシャ副学長は、「コロナ禍の中でオンライン学習を提供できたのは僅か3、4大学にしか過ぎない。ICTを使った教育のために新たな構造を模索する必要がある。資金に余裕がない人でも e-ラーニングを使えるようにならなくてはならない。」と語った。

またムギシャ副学長は、「(コロナ禍の中で)時として15人の学生が高等教育を受けるためにノートパソコンのある家に集まってクラスを受講するケースもあった。一方で、多くの学生が2年間も高等教育にアクセスできないでいる。」と述べ、ウガンダにはICTネットワークだけではなくシステムを動かす電力、とりわけ太陽光発電が必要と指摘した。

国際大学協会のヒリジェ・バントランド事務局長は、大学への平等なアクセスは開発の主要な要件であると考えている。同氏は、適切な公共教育に投資することは高等教育システム成功に不可欠だと指摘した。「よく教育を受けた市民は、社会的平等の基礎を作る要件の一つだ」と語り、2030年に大学に行けるかどうかは「(子どもの時から)どういう質の教育を利用できるか」にかかっているという。

ブルネイ・ブルガリア・マレーシアは、この問題の解決へのヒントを提供している。産油国でありスルタン国である東南アジアのブルネイでは高等教育熱が高いが、同様に退学率も高い。

退学の問題に対処するために、高等教育をめざす生徒を中等教育段階から準備させる新法を導入することで「啓蒙された選択」をさせようとしている。また、職業訓練を伴う高等教育のコースもより多く提供した。ブルネイ高等教育省のアニス・ファウズラニ・ジキフリー氏は「高校段階で対処できるように15歳で学生に選択をさせたい」と語った。

ブルガリアでは、教育科学省のイワナ・ラドノワ博士によると、学生と雇用者との間で契約を結ぶ仕組みがあるという。「企業は、企業の条件を分かっている卒業生を雇い、他方で大学は企業が何を求めているかを分かっている」とラドノワ博士は説明する。国家はまた、必要な学生に学資を提供し、卒業後に利子支払いが困難な場合は免除するという。

「我々の高等教育政策は、社会的責任を果たすべく行動するよう大学に求める」とラドノワ博士は述べ、大学の設置箇所に関する全国計画について説明した。「というのも、地域開発を支援するように大学を設置する必要があるからだ。」

マレーシアでは、高い割合の若年層が何らかの形で高等教育に進むが、政府の2030ビジョンでは大学部門に対する人的資源の開発を目指している。「我々は、非伝統的な(=25歳以上の)学習者に対する生涯学習と共に、学習の柔軟な道筋を導入しようとしている」と説明するのは、高等教育省研究強化局のワン・ズハイニス・ビンテサード局長である。

ビンテサード局長はまた、「オープンで遠隔学習を通じたこれらの戦略は一時的な措置ではなく、柔軟な学習のための『コースモデル』を提供する戦略の一部であり、『エクセル』と呼ばれるこのシステムは、『情熱を基盤とした学習における柔軟性』を提供するものだ。」と語った。

ブラウン博士は、コロナ禍で大学は変容し、学生に奉仕するために新たな機会と資金提供モデルを構築してきたと話す。「もし2019年当時の状況に戻ろうというのなら、楽観的ではいられません。(高等教育へのアクセスと平等を強化する)これらの新しいモデルに取り組まねばならない。」

北米においてすら、大学への資金提供は開発問題とみなされる必要があるかもしれない。ブラウン博士は、米国の大学では毎年3600万人の退学者を出していると指摘したうえで、「学生のニーズを把握し、学生に適合するコースを作らねばならない」と指摘する。たとえば、夜間コース、学資支援、成人学生への保育サービス、生涯教育といったものが形を取り始めている。ブラウン博士は、米国では約9000万人の労働世代が、高い学費が理由で高等教育に進むことなど考えたことがないと答えている事実を指摘した。

米国であれ、あるいは欧州、アフリカ、アジアであれ、パンデミックを乗り越えるために作られてきたオンライン学習のもたらす機会を、高等教育へのアクセスと平等を強化するために利用することができよう。同様に、生涯学習プロセスは、個々の国の開発上のニーズと統合することもできる。

高等教育のアクセスと平等の政策を強めるネットワークを確立することを目指して、WAHEDに関する30のイベントが同時並行して行われた。「これらの問題を前進させようとするならば、それをどのような枠組みで理解するかを考える必要がある」とアサートン教授は語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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気候変動でアフリカのベニスが沈没の危機

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

気候変動の影響で世界遺産の街の一部と周辺の村々が水没している大西洋に面したセネガル北部を取材した記事。セネガル川河口にフランス人が17世紀に建設したサン・ルイは、奴隷貿易の玄関口やフランス領西アフリカの首都として栄え、2000年にはUNECSO世界遺産にも登録された歴史的な街だが、今では海岸線が年に最大5メートル後退しており、このままでは最悪の場合2080年までに街の80%が水没し15万人が移転を余儀なくされるとみられている。(原文へ

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【ロンドンIDN=クルト・レイノルズ】

英スコットランド・グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が終わりに近づく中、世界の指導者らが行った長期的なスパンでの誓約と大言壮語的な約束は終わるところを知らないようだ。その一部は2070年を目標としているものもある。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、エネルギーへのアクセスを2030年までに根本的に転換し、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指すグローバル・ロードマップを発表した。

ロードマップは、2025年(今からわずか4年後)に5億人の人々が電気を利用できるようにし、さらに10億人がクリーンな調理法を利用できるようにするという、積極的なスケジュールを打ち出している。

インドのナレンドラ・モディ首相は、インドは2070年までのカーボンニュートラルを目指すとするゼロ排出目標を発表した。

カナダとドイツの政治指導者らは共同声明で、「2022年において(発展途上国の気候変動対策を支援するため先進国が表明した)年間1000億米ドルの拠出目標に向かって大きな前進が見込まれる」とし、23年に年間1000億ドルの目標に到達できることを確信していると述べた。

Antonio Guterres/ Public Domain
Antonio Guterres/ Public Domain

世界の主要な工業国で構成される20カ国・地域(G20)の首脳らは、今世紀末までの地球の平均気温の上昇を1.5度以内に抑える「努力を追求する」ことを約束した。

他方で、総計130兆ドルの資産を管理する銀行・投資家・保険会社の連合は、自らの投資に関して2050年までの排出ゼロを達成することを公約した。

2023年、2025年、2050年、2070年といった目標の期日は、将来を垣間見ただけのものであり、これまでも誓約が果たされてこなかったことを考えると、恐らく不確実な未来と言わざるを得ないだろう

しかし、ここで大きな疑問が残る。こうした世界の指導者らのうち何人が、公約を実行するまでの間、政治活動を続けているのか、目標実現まで生きているのか、という問題だ。

その可能性は低い。若い世代が気候変動との闘いを主導する重要な役割を持っているのはこのためだ。

平和・文化・教育を推進する、地域社会に根差したグローバルな仏教団体である創価学会インタナショナル(SGI、本部・東京)は、グラスゴーのCOP26関連行事に参加した主要な社会運動団体の一つで、いくつかのサイドイベントを主催したほか、より多くの若者が現在進行している気候の異常事態に対する解決策を主体的に選択するよう訴えている。

若者たちは、周縁化や偏見の壁をいかにして乗り越えることができるだろうか。そして、気候変動の影響に備えた将来や気候正義に関する若者のビジョンを実現するためにどのように支援することができるだろうか。

SGIによると、今後の希望は、世代間協力の強化をいかに心に描けるか、地球に関する共通の懸念を基盤として気候危機に対処するためにさまざまな世代がいかに協力して若者と大人の間の分断を乗りこえることができるか、という点にかかっている。

SGIの池田大作会長は、2030年に向けて国連ユース気候サミットを毎年開催することを提案し、気候変動の問題に関わる意思決定への青年の参画を主流化させるための安保理決議の採択を呼びかけている。

池田会長は、正しくも今日の世界はこれまで人類が経験したことがない切迫した危機に直面していると指摘している。

異常気象の増加に見られるような、年々悪化の一途をたどる気候変動の問題に加えて、新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)が襲いかかり、それに伴う社会的・経済的な混乱も続いている。

「未曽有であるというのは、危機が折り重なっていることだけに由来するのではありません。長い歴史の中で人類はさまざまな危機に遭ってきましたが、世界中がこれだけ一斉に打撃を受け、あらゆる国の人々が生命と尊厳と生活を急激に脅かされ、切実に助けを必要とする状態に陥ることはなかったからです。」と池田会長は述べている。

192の国・地域に1200万人の会員を擁するSGIの社会的使命は、社会の基礎としてあらゆる形での生命の尊重を打ち立てることだ。SGIはまた国連経済社会理事会との協議資格を有する国際NGOでもある。

2015年のパリ気候協定の採択に尽力したバラク・オバマ元米大統領が11月8日に発した声明にも、SGIの見方が織り込まれている。

Barack Obama 資料:Public Domain

オバマ元大統領は、COP26での演説で、「(温暖化に関する)運動の最も重要なエネルギーは若者から生まれています。そしてその理由はシンプルなものだ。彼らは誰よりもこの問題に深い利害関係を持っているからです。」と語りかけ、総立ちの拍手喝さいを受けた。

「私には20代前半の娘が2人います。今日、若者として生きることは必ずしも容易ではありません。もしあなた方が若者世代なら、気候変動に対して何もしなければ、将来がどのようなものになるのか様々な不安に苦しんでいることでしょう。」とオバマ元大統領は語りかけた。

SGIは、グラスゴーで「若者の関与とリーダーシップ」に焦点をあてた声明を発表した。

「若い世代の声に耳を傾けることは、1つの選択肢などではありません。本当に世界の未来を心配しているのならば、それが前進する唯一の論理的な道です。若者には、行き詰まりを打破し、精神をリフレッシュすることで変化の先頭をきる明確な洞察力、創造性、そして大胆さがあります。我々は、若者を力づけ支援することに全身全霊を注ぎ、彼らと協力していかなくてはなりません。」

SGIは、COP26の締約国と交渉担当者らに対して次のことの重要性を訴えた。

・COP準備会合に合わせて開かれた「Youth4Climate」イベントや第16回ユース会議(COPのユース版会議)の成果を含めた若者の声を記録し、共有し、広めること。

・気候問題に関連した真のリーダーシップの機会を若者に与えること。

またより広く、国連の観点から、以下を行うことが不可欠だと訴えた:

・誰もが共通に直面している、気候問題やその他のコロナ後の課題に焦点を当てた、地域レベル及び全国レベルのユースサミットを開催する。

・若者の関与とリーダーシップを定期的に維持する国連ユース評議会を設置する。

・平和と安全保障の問題において若者が果たす役割を強化するよう加盟国に求める国連安全保障理事会決議2250と同様に、気候関連の意思決定への若者の参加の主流化を奨励する決議を安保理が採択する。

イギリスSGIとセンター・フォー・アプライド・ブディズム(CfAB)は、COP26の第1週目にあたる11月1日から7日、グラスゴーのウェブスターズ劇場で、基調テーマ「希望の種を植える−気候正義への行動」のもと、「気候正義に関する宗教間対話集会:共に行動する宗教コミュニティーの力」など、一連のパネルディスカッションを開催した。

“Multi-faith dialogue Climate Justice—the power of faith communities acting together” held on November 2 at Websters Glasgow
資料:SGI-UK

その中で、若者の役割に関するパネルディスカッション「言葉を超えて―気候アクションに向けた若者のリーダーシップ」では、先進国と開発途上国の双方から集まった若い気候関連活動家たちが、気候アクションの最前線における若者の課題と可能性について議論し、世代間の協力を促進する方途などを議論した。(原文へ

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喫煙者は減少傾向にあるもののなお数百万人の命が脅かされている

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルーア】

11/16に発表された「タバコによる世界的大流行に関するWHO報告書2021年度版」の概要を解説した記事。4回目となる今回の報告書によると146ヶ国で少なくとも1つの効果的なたばこ需要削減策が実施されており150ヶ国でたばこ使用の減少が確認された。WHOテドロスのテドロス事務局長は、世界の喫煙者数は減少傾向(2015年の13.2億人→2020年の13億人→2025年には12.7億人になると推定)にあると指摘した一方で、こうした成果も、コロナ禍の状況を巧みに利用したたばこ産業の販売攻勢の前に「依然として脆弱なものだ」と語った。WHOによると、たばこ喫煙による年間死者数820万人のうち、喫煙が直接的な原因で亡くなった数は800万人、一方、受動喫煙による死者数は120万人にのぼっている。(原文へ)

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国際NGOアフリカ子供政策フォーラム(ACPF)が11/18の国連オンライン会議で発表した調査報告書「The Economic Case for Investing in Children in Africa: Investing in our Common Future」の概要を解説した記事。報告書は、子供を対象に国家財政を積極的に割当てることは長期的に大きな経済効果となって帰ってくる重要な「投資」であるにもかかからず、アフリカ大陸では多くの国々で依然として優先順位が低い「慈善活動」と考えられており、その代表的な事例が、10人中3人の子供(一部の国は40割を超える)が依然として児童労働の被害者となっている現状に表れていると指摘している。(原文へ

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【ニューデリーIDN=M.K.バドラクマール】

米軍撤退後、タリバン政権との建設的な関与を通じて、アフガニスタン及び周辺諸国を連結する鉄道網(ウズベキスタンーアフガニスタンーパキスタン〈アラビア海〉、中国ーキルギスーウズベキスタンートルクメニスタンーイラン〈ペルシャ湾〉)が中国の一帯一路構想を前進させる方向で整備されつつある現状を報じた記事。干ばつ、食糧危機、難民・避難民問題に加え、複合的人道危機が深刻化しているアフガニスタンの安定が周辺諸国の大きな関心事となっている。(原文へ

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【グラスゴーIDN=クルト・レイノルズ】

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の結果に対する元首脳、国連事務総長の評価と、COP26会期中サイドイベントを開催したSGIの池田大作会長による未来志向の提言を収録した記事。メアリー・ロビンソン氏(エルダーズ代表/元アイルランド大統領)は、「人々はこれを歴史的に恥ずべき職務怠慢と見なすだろう」とコメント。グテーレス国連事務総長は、「決して諦めないでください…前進し続けようではありませんか…私はこの道のりをずっと皆さんと共にあります。COP27は今始まったのです」との声明を出した。池田SGI会長は、2030年に向けて国連ユース気候サミットを毎年開催することを提案し、気候変動の問題に関わる意思決定への青年の参画を主流化させるための安保理決議の採択を呼びかけている。(原文へFBポスト

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

スコットランドのグラスゴーでCOP26(10/31-11/15)が開催される一方で、金採掘のために水銀で環境が汚染され、十分な説明や再定住地における住宅や就業の保証がないまま、地元住民が強制的に移住を強いられているDRC(コンゴ民主共和国)とリベリアの実態に焦点を当てた記事。COP26ではグテーレス国連事務総長が「我々は自然をトイレのように扱うのはもうたくさんだ。…採掘したりしてどんどん深みにはまるのはもうたくさんだ。我々は自分たちの墓穴を掘っているようなものだ」と述べたが、OXFAMなどの市民社会組織は、途上国の現場で今まさに進行している採掘産業と政府による人権侵害と自然破壊の実態に世界の市民がもっと注意を向けるよう警告している。(原文へ

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【シサケット(タイ)IDN=パッタマ・ビライラート】

新型コロナウィルス感染症対策としてのロックダウンが続く中、首都バンコクや、パタヤ・プーケット・チェンマイ・サムートプラカーンのような他の主要都市に住んでいた多くの労働者たちが、雪崩を打って故郷に帰り始めた。彼らは、自らの生計を立て、長期的に持続可能な生活を送る方法を合理化する道を探ることを余儀なくされている。

タイでは、一日の始まりの功徳として、普通の人々が僧侶たちに朝からお布施をするのが習わしである。しかし、コロナ禍の中で功徳における自らの役割を反転させる僧侶たちが出てきている。

Map of Thailand
Map of Thailand

ワットバンタコイナンでは、国際仏教研究大学(IBSC)のディレクターであるハンサ・ダーマハソ師が、時代を超えた仏陀の教えを、「平和の村」(コクノンナ)におけるコミュニティー開発事業で実践している。

ハンサ師はIDNの取材に対して、「平和の村は、身体・社会・精神・知性の発展に関する仏陀の4つの教えに由来します。私はこれらを、現在進行形の諸問題に取組むための戦略に活用しています。」と指摘したうえで、「村の第一の問題は貧困であり、(それに対処するために)持続可能な仕事を作らなくてはなりません。人々が貧しいままでは、村を平和にすることなどできません。そこで、私はラーマ9世の『足るを知る経済』の概念を、コクノンナ・モデルを発展させるために適用しています。」と語った。

故プミポン国王(ラーマ9世)は、タイが1997年にアジア金融危機に直面した際に「足るを知る経済」の概念を導入した。中庸(節度)、道理(妥当性)、自己免疫(ショックへの備え)という3つの柱で構成される経済モデルで、いずれも仏教哲学を基礎としている。国王の公的な哲学によると、自己免疫には、物質的環境の変化に対する免疫、社会変化に対する免疫、環境変化に対する免疫、文化の変化に対する免疫の4つの領域があり、皆がその達成に努力すべきとしている。

ハンサ師は、仏陀のこれらの教えを村に応用することについて、環境が重要だと説明した。「かつてはこの土地は多くの問題を抱えていました。そこで私は5つのパンチャシラ(原則)、とりわけ2つめの原則『盗むな、騙すな』に従うように諭したところ、うまくいくようになりました。また、村人たちの福祉が重要になります。なぜなら村の老人たちは多くの健康問題を抱えているからです。そこでバンコクから医学生を連れてきて、自分たちで養生する方法を訓練させたのです。また、コロナ禍に伴うロックダウンが厳しい時には、シサケット県やそれに隣接した県から戻ってきた人々に対して、故郷の村にうまく順応できるように面倒を見ました。」とハンサ師は嬉しそうに語った。

タイ銀行は、新型コロナ感染拡大の第一波(2020年2月~4月)以来、200万人の労働者が都市部に出入りしたとしている。2020年の後半には、1カ月あたり20万人の労働者が移動した。そのほとんどが21~60歳(80%)であり、半分以上が低所得層だった。

解雇された労働者たちは、バンコクや、その周辺にあるプーケットやチェンマイのような主要な観光都市から出て行った。労働者たちは大都市での生活コストを負担することができず、故郷に帰ることを決断したのだ。

シサケット県バンタコイナン出身の移住労働者であるバウチャイさんもこのような目に遭っている。コロナ禍以前、彼女はバンコク近郊に住み、30年以上、裁縫師として働いていた。「2020年2月の第一波の時、感染者が増えていって、4月にはさらに状況が悪化し、シサケット県に戻る計画を立て始めました。そして年末までには故郷のバンタコイナンに移り住みました。」とバウチャイさんはIDNの取材に対して語った。

感染第一波から第二波(2020年2月~21年1月)にかけては、患者に対処する病床数は十分にあった。しかし21年4月から6月にかけての第三波では、地方や都市部の病院でかろうじてコロナ患者に直接医療や看護を提供できる状態であった。

資料:www.hec.edu/en
資料:www.hec.edu/en

しかし、21年7月末から8月半ばにかけて、患者数は継続して1日あたり1万5000人から2万2000人という高いレベルにあった。「コロナ対応管理センター」(CCSA)によれば、バンコクや、サムートサコン、チョンブリ、サムートプラカーンのような主要な経済都市で過去最多のクラスターが発生したという。患者数が爆発的に増えた際、病床不足がバンコクなどの主要都市で起きた。患者は治療と隔離のために故郷に戻ることを余儀なくされた。

「シサケット県のバンタコイナンでは、2021年7月半ばから8月にかけて、県外に出ていた若者達が村に帰って来ることを希望するようになり、私は、森の寺院で自己隔離するよう求めました。また、病院の院長と一緒に現地に仮設病院を立ちあげました。最初の病院では35人、次の病院では100人を受け入れることができました。」とハンサ師は説明した。

「私の活動を知っているサムートサコンやアユタヤ、サムートプラカーンなどの県の人たちから、この村で自己隔離し治療を受けることは可能かという問い合わせがありました。もちろん受け入れることとし、迎えの車を出したこともあります。こうしてこれまで1400人近くを救済することができました。」

ハンサ師は、仮設病院を作る以外に、村人や感染者と、村当局や医療関係者をつなぐ役割も果たした。治療がどこで可能か、隔離のルールは何かといったことについて、フェイスブックを使って関連当局と連絡を取っている。

治療と隔離だけがハンサ師の貢献した領域ではない。「さらに、彼らに2カ月にわたって食料や水を与え、コクノンナで農業を教えて、有機野菜を育て自分で生活できるようにさせることで、長期的に彼らは持続可能な生活を送ることができるのです。」治療と隔離の時期が終わっても、コクノンナの農業は今でも続いている。

バンコクで働いていて将来的に帰還を考えている村人の子どもたちは、コクノンナで農業を学ぶことに関心を示している。ハンサ師は、フェイスブックやラインを使って、村人の子らを励まし続けている。今月から、その一部が村に戻り、長期的に持続可能な生活を送ることを学び始める。コロナ禍は彼らに仏教の根本的な考え方である生命の無常について教えたからだ。自己免疫の哲学はコロナ禍がもたらすショックへの備えとなる。

タコイナン村の元村長であるマリニーさんは、ハンサ師が始めたいくつかの活動に加わっている。「尊師の活動によって、村人や地区当局と深く関わり協力が得られるようになりました。ハンサ師は『足るを知る経済』の原則を適用することによって、村の問題の根本的な原因に対処してきました。コクノンナでは、支出が減る一方で世帯収入は増えました。師の『平和の公園』には毎日夕方5、6時になると瞑想のために村人達が集まり、彼らはそこで、調和をもって暮らしていくことを学んでいます。」とマリニーサンはIDNの取材に対して語った。

タイの地域開発財団によれば、故郷にUターン移住する人々がいたとしても、天然資源や農作物に頼れるため、食料不足が地域で起こることはめったにない、という。しかし、タイ農家の76%が非農業収入に依存している。都市の労働者がコロナ禍によって農村部に移動することになると、タイ経済とライフスタイルの根本である農業部門に変化がもたらされることになるかもしれない。

ハンサ師が実行しているコクノンナでの取り組みには、都市部から移住した労働者と村人たちが物理的なニーズを満たしつつ持続可能な生活を送れるようにするという目標と、仏教の教えであるダルマで心を満たすという目標の2つの基礎がある。彼のモデルは、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために精神的な教えを実践的に応用するものだ。

ハンサ師は、「ダルマが存在するのは田野であり、それ以外にどこにも存在しません。農業をやろうと決意すれば、ダルマはどこにでも現れ学びを提供してくれます。こうして私たちは自分たちの体が土や水、火、風の要素で成り立っていることを知るようになるのです。」「農業をしながら、(持続可能な)生活のために土地を維持する方法を探るなど、自分たちのやっていることに配慮し、集中しなくてはなりません。大変かもしれないが、忍耐が必要です。」と語った。

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英語を流暢なに操り、タイで著名な仏教学者でもあるこのエネルギッシュな僧は、村の農民たちはダルマの用語をよく知らないかもしれないことを認識している。「ダルマ(自然の法則)は(どこにでも)存在し、そこには忍従・配慮・英知・集中・努力といった(実践)が含まれています。」とハンサ・ダーマハソ師は語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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