【ブラジリアIDN=イアラ・ピエトリコフスキー】
世界から450以上の公的開発銀行(PDBs)が参加してローマで開催された第2回開発銀行サミット(Finance in Common Summit:主要テーマ:農業とアグリビジネス)に際して、ブラジルの市民社会の代表らが、公共機関であるPDBsが、アグリビジネスによって引き起こされている先住民や地域住民の土地収奪や生態系の破壊を促進する、世界的な金融構造の一部を担っている現実を告発した記事。(原文へ)
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=デニス・ガルシア】
2021年5月、国連安全保障理事会は、人工知能(AI)などの新興技術が平和と安全保障において果たす役割を議論する初めての会合を開いた。翌月、安全保障理事会は、サイバースペースにおける平和維持の方法を議論し、新興技術が国連における最高レベルの外交の場で初めて取り上げられた。(原文へ 日・英)
国連憲章によれば、安全保障理事会は、平和、安全保障、文民保護、国際関係における武力行使に関する決定を管理する責任を負う。国際関係の新領域としての新興技術とサイバー空間に焦点を当てることは、もともと国連憲章の起草者が想定していなかったこれらの分野において、切実に必要とされている共通の行動規範を推進する国連の役割の特筆すべき進化を示している。侵入されたネットワークを復旧し、あるいは悪意ある利用に対処するため、2020年に国連加盟国が費やした金額は1兆ドルに上った。各国が自国の能力を伸ばし、能力不足の国を支援できる、サイバー空間に関する国際協調枠組みを構築することが極めて重要である。
アントニオ・グテーレス国連事務総長が果たしている役割は、際立っている。彼は「デジタル協力に関するハイレベル・パネル」を設置し、2018~2019年に会合を開いた。2019年3月、事務総長は、「人間の関与なしに殺傷する能力と裁量を持つ機械は、政治的に容認できず、道徳的にも嫌悪感を引き起こし、国際法によって禁止されるべきである」として、自律型兵器の禁止を強く訴えた。
パネルの提案に基づき、学術界、民間部門、政府、市民社会など、いくつかの異なるコミュニティーとの協議を経て、グテーレスは、国連75周年の節目に「デジタル協力のためのロードマップ」を提案した。ロードマップは、先進国と途上国のデジタル格差を埋め、誤った情報の拡散を食い止めることにより透明性を生み出し、重要なデジタルインフラを保護し、人々の尊厳を守ることを目的としている。さらに、新興技術全般の兵器化を規制し、代わりに人類の共通利益のためにのみ新興技術を利用することも模索している。
国連事務総長が積極的かつ予防的な行動志向の役割を果たすことにより、国連は新興技術に関するグローバルアクションの確かな土台となった。グテーレスにとって、今日の世界の安全保障に対する四つの重大な脅威は、人類の未来を危険にさらす恐れがあるものだ。すなわち、地政学的緊張の高まり、気候危機、世界に広がる不信感、そして、不正や犯罪を行い憎悪や誤情報を拡散し人々を抑圧するといった、ますます多くの国で見られるテクノロジーの負の側面である。技術の進歩は急速で、外交努力はそれに追いつくことができず、世界は第4次産業革命のインパクトを受け止める準備ができていない。
2021年9月に開かれた国連総会のハイレベル・セグメントで、グテーレスは、「共通の課題」を提示した。これは、国連「持続可能な開発目標」の既存のプラットフォームを活用し、人類に対する四つの主要な脅威に取り組むことを目指す包括的な道筋である。「共通の課題」は、クラウドソーシングにより2年間にわたって世界中の何千人もの人々と協議された結果であり、未来世代を守り若者の包摂に向かう転換軸をなすものである。確かに、「デジタル協力のためのロードマップ」を実現するには、特に誤情報、憎悪の拡散、富裕国と貧困国のデジタル格差の分野では多くの課題がある。しかし、新興技術のなかでも、過去5年間に大幅な進展が見られた分野がある。2017年11月13日から17日にかけて、自律型致死兵器システムの分野における新興技術に関する政府専門家会合(GGE)の第1回公式会合がジュネーブで開催された。
GGEは、 特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Conventional Weapons : CCW)の範囲内で設立された。同条約は戦争や紛争の際に何が合法で何が違法かの範囲を定めた国際人道法(IHL)と見なされている。過去には、CCWは、失明をもたらすレーザー兵器を予防的に禁止している。自律型兵器の道徳的、法的、倫理的影響に関する当初の議論は、2013年に人権理事会で行われた。1年後、フランスとドイツがCCWの枠内で議論を開始することを決定し、それがGGE設置へとつながった。以降、GGEは自律型兵器に関する10原則を策定した。全ての新規システムに国際人道法が適用されること、人間の責任が委譲されないことを認める原則である。
ほとんどの国は、この成果を、自律型兵器システムがもたらす課題に対応するために適しているとは言い難いと考えている。国連事務総長は、このようなシステムの使用は戦争を大きく変容させ、道徳的に許されない領域へと人類を駆り立てるという信念に基づいて、各国に対し、自律型兵器に制限を設けるよう訴えている。
2021年5月、国際人道法(IHL)の守護者である赤十字国際委員会(ICRC)はこの問題に対する見解を表明し、各国に対して自律型兵器に関する法的拘束力を有する新たな規則を取り決めるよう強く訴えた。この新たな見解が重要な転換点となることは間違いない。なぜなら、全ての国がジュネーブ条約と呼ばれるIHLの中心的な条約を批准しているため、ICRCは圧倒的な影響力を持つからである。兵器の使用とコントロールに関するいかなる議論においても、ICRCは権威ある役割を果たしている。ICRCの見解は、自律型兵器システムの使用は文民と戦闘員に重大なリスクをもたらし、さらに、IHLを遵守できない可能性のあるAI対応アルゴリズムによって生成されるアウトプットや結果の不規則かつ変動的な性質は、そのリスクを増幅するというものである。結局のところ誰が生き残って誰が死ぬかは、センサーデータや予測不能なソフトウェアプログラムに委ねられるべきではない。
したがって、3種類の制限からなる新たな国際条約を策定するべきである。第1に、飛来するミサイルといった軍事標的のみを対象とし、かつ文民がいない状況のみに攻撃を制限するべきである。第2に、たとえ機械学習のアルゴリズムによって標的が決まった場合でも、人間による監督を可能にするため、標的設定の期間と地理的範囲を制限するべきである。第3に、適時の介入を可能にするため、人間によるコントロールと監視が必要である。
自律型兵器の開発や配備のあらゆる側面を規制する新たな国際条約について、国連加盟国は賛成しているのか、そして条約成立の見込みはどうなのだろうか? 問いの前半への答えは有望なものである。ほとんどの加盟国はAI科学者と市民社会とともに、人と機械の相互作用に関して、禁止と規制の組み合わせを含む包括的な新しい国際条約の成立を望んでいる。それは、切迫する国際安全保障問題に対する、比較的新しい形のグローバルガバナンスとなるだろう。この新たな条約は革新的なものとなり、従来からの軍縮・軍備管理規制の型にははまらないだろう。この新条約は、いかにして人間が既存システムにおける新技術の配備を監督する立場に留まるかに関するものである。しかし、それはまた、将来にわたって有効でなければならず、新たな技術革新と直面しても意味を持つものでなければならない。
CCWには、新興技術の開発を牽引する国々、すなわちオーストラリア、インド、イスラエル、日本、韓国、トルコ、英国、米国が参加しているが、これらの国々は依然として前進を妨げる障害となっている。しかし国連での審議は大幅な進捗を遂げており、いまやこれらの国々は少数派になっているようだ。またAIという新たなテクノロジーを軍事化するという論理を続けることは、国連事務総長が強調したように、人類が直面する他の全ての喫緊の課題に取り組むうえで、完全なる裏切りであるとほとんどの国が考えている。
AIは、疾病対策を支援し、気候危機の解決に役立つ新興技術となる可能性がある。核技術のように武器化されるべきではない。つまり国連は、新興技術のあらゆる側面において、また少数の国々がテクノロジーの負の側面を増幅する方向に突き進むのを阻止するフォーラムとして、中心的な役割を担っていくべきである。
デニス・ガルシア は、ボストンのノースイースタン大学の教授。近日刊行される“When A.I. Kills: Ensuring the Common Good in the Age of Military Artificial Intelligencea” の執筆者であり、戸田記念国際平和研究所「国際研究諮問委員会」のメンバーである。また、ロボット兵器規制国際委員会副議長も務めている。
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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】
西アフリカサハラ砂漠の南側に位置するブルキナファソで80年代初頭に数々の改革を断行したトマ・サンカラ大統領(1983~87)が凶弾に斃れた事件について、元友人で後継大統領としてその後27年に亘って同国に君臨したブレーズ・コンパオレを含む殺害の容疑者らに対する裁判が、10月25日まで延期された。裁判は当初10月11日に首都ワガドゥグーで開かれる予定だったが、弁護団が裁判の準備にさらに時間がかかるとして延期を求めていた。
現在、サンカラの暗殺を巡って14人の男性が審理の対象となっている。トマ・サンカラ記念館付近では、多くの人々が、この裁判が事件の真相解明につながることを期待すると述べた。「アフリカのチェ・ゲバラ」とも呼ばれるサンカラは、ブルキナファソとアフリカで「人々の心を植民地主義から解放する」という理念のもと、独立前から続いてきた既得権益を否定し、社会的弱者の権利を拡大することでより平等な社会を実現しようとした。しかし彼が革命にかけた夢は、政権について僅か4年で潰えてしまった。享年37歳であった。
コンパオレは、2014年に多発した反政府デモの後亡命した隣国のコートジボワールに今も滞在している。コンパオレの不在にもかかわらず、世界各地から200人以上の記者らが裁判を取材するために登録するなど、今回の裁判は大いに注目を浴びている。「私たちにとって、「サンカラは愛国者でした。彼は、民衆と国とアフリカを愛しました。彼は私たちのために命を捧げたのです。」と、サンカラ記念委員会のリュック・ダミバ事務局長はBBCの取材に対して語った。
サンカラは大統領に就任した翌年、国名をそれまでのフランス語の「オートボルタ」から、現地の主要言語(モシ語とディウラ語)で「高潔な人々の国」を意味する「ブルキナファソ」に変更した。
サンカラは、汚職摘発を徹底的に進める一方で、不足する財源を特権層だった公務員の給与削減で捻出するために自らが率先して範を示し、国家元首であるにもかかわらず月給は僅か46CFAフラン(約18万円)に過ぎなかった。また経費削減のため、公務員向けの無料官舎や公用車の支給を廃止し、自らも大衆車や公共交通機関を利用して移動した。
ブルキナファソが位置するサヘル地域では男尊女卑の風潮が根強く、農村地域では女性器切除(FGM)が一般化していたが、サンカラは、一夫多妻婚や強制結婚と共にFGMを禁止した。また自らの政権に初めて女性の閣僚を登用し、政府の要職に次々と女性を就任させるなど、女性の地位向上に努めた。
とりわけ重視されたのが教育だった。サンカラの任期中、識字率は1983年の13%から87年には73%に上昇した。また、サヘル地域で最も深刻な感染症である脳髄膜炎、ポリオ、麻疹などの予防接種を90%の子供に実施し、世界保健機関(WHO)から称賛された。
また特権的な地主から土地を強制収用し、農地を小作農に再分配したうえで、農業技術の改良に予算を集中投下し、灌漑のための小規模ダムの建設や井戸の掘削などを進めた結果、ブルキナファソの1ha当たりの穀物収穫量は3年間で飛躍的に拡大した。これは、生産性の低さゆえに飢餓が慢性化しているサヘル地域としては、当時驚くべき成果であった。
サンカラは、アフリカ諸国に対して、国際通貨基金や世界銀行といった機関による彼が言うところの「新植民地主義」に団結して立ち向かうよう呼びかけた。「援助漬け」になってきたアフリカ人の自立を目指したサンカラは、「援助を受けるということは、援助をする国の言いなりになることだ」と述べたと言われる。
サンカラ暗殺の真相を巡っては、彼を危険人物とみなしていた旧宗主国フランスをはじめ、コートジボワール、リベリア、リビア等、外国が関与したとする憶測がある。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、2017年にサンカラの死にまつわるフランス政府の機密ファイルを解除すると約束したが、ブルキナファソ政府に3回に亘って送られた機密解除資料には、サンカラが暗殺された当時フランスの大統領であったフランソワ・ミッテランとジャック・シラク首相の事務所からの書類は含まれていなかった。
「私たちは、コンパオレ政権が続いた27年を含めて長年にわたって真相が解明される機会を待ってきました。コンパオレ政権下では、サンカラの暗殺を巡る裁判を開くなど、夢にも想像できませんでした。」と弟のポール・サンカラは語った。(原文へ)
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【Global Outlook=チャンイン・ムーン】
米国が主導するAUKUSは、地政学の復活による新冷戦の始まりを示唆する前兆と見なす必要がある
2021年9月15日、米国、英国、オーストラリアの首脳がワシントンで会談し、AUKUSと呼ばれる新たな安全保障協定の締結に合意した。3カ国はすでに長期にわたる同盟国であることを考えると、彼らが軍事技術を共有するさらなるパートナーシップを形成するのは驚くべきことである。それは、同盟の発展を表している。(原文へ 日・英)
協定に基づき、米国と英国はオーストラリアに少なくとも8隻の原子力潜水艦建造に必要な技術と核物質を提供することになっている。ミサイル(長距離誘導ミサイルなど)、人工知能、量子コンピューター、サイバー能力分野の技術的問題について共有および協力を行うことにより、3カ国は軍の相互運用性を向上させた。
大方の見る通り、AUKUSは、オーストラリアの防衛力を高めるだけでなく、中国の海洋進出に対抗する体制の構築を目的としている。原子力潜水艦を取得することで、オーストラリアは、自国防衛の能力だけでなく、米国の空母打撃群を守り、南シナ海、東南アジア、さらには北東アジアで中国の原子力潜水艦に対抗する能力をも獲得する。
また、英国は欧州にありながら、インド洋と太平洋における軍事的関与を計画していることを公式に表明している。
AUKUS結成が米国のインド太平洋戦略に大きく寄与するものであることは明らかだが、米国の同盟体制と地域の安全保障秩序にとって四つの大きな懸念をもたらしている。
第1の懸念は、同盟体制における序列の問題である。これは、AUKUS協定でフランスがいかに軽くあしらわれたかが示している。オーストラリアは、協定調印の直前に、フランスから640億米ドルのディーゼル電気方式の潜水艦を調達する交渉から手を引いた。
米国の同盟国については、英国とオーストラリアが集団のトップに位置し、カナダとニュージーランドがその次に来て、フランス、ドイツ、日本、韓国のような非アングロサクソン系の国が後尾につくという不満の声もある。AUKUSが引き起こした不信と反感は、米国の同盟体制に深刻な亀裂をもたらす恐れがある。
第2に、韓国は、米国政府のダブルスタンダードを嫌でも見つめ直すことになるだろう。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は就任以来、米国政府に対し、韓国が原子力潜水艦を取得できるよう技術的支援と核分裂性物質を提供することを求めていた。しかし、トランプ政権は、両国間の原子力協定は原子力の軍事利用を禁止しているという理由でその要請を拒絶した。
しかしAUKUSでは、米国はオーストラリアに例外を認めた。米国政府は、オーストラリアが拡散防止努力に関して透明性を維持してきたからこそ可能だったことであって、新たな例外は認めないと述べた。
韓国政府は、米国の二枚舌に動揺したに違いない。韓国の国民も同じように感じたのではないか。
第3の問題は、より大きな全体像に関連する。AUKUSは、アジア太平洋地域における軍拡競争の可能性を誘発し、拡散防止体制に関する疑念を引き起こしさえする。
確かに、この協定によってオーストラリアが取得できるようになるのは原子力潜水艦であって、核武装潜水艦ではない。核武装潜水艦であれば、話は全く違う。しかし、このような傾向は、韓国や日本のような国に、自前の原子力潜水艦を取得したいという強い誘因をもたらす可能性がある。
米国の決定への抵抗として、フランス政府は、原子力潜水艦に関して韓国との協力を積極的に模索する可能性が高い。韓国政府は、すでに国防中期計画に原子力潜水艦の建造を盛り込んでおり、フランスの動きを歓迎することはほぼ間違いない。
そのような動向は、当然ながら日本の行動にも影響を及ぼすだろう。また北京、モスクワ、ピョンヤンを苛立たせ、北東アジアにおける軍拡競争をさらに激化させる可能性もある。そのような潮流が主流になれば、北東アジアにおける拡散防止体制の深刻な弱体化を招くだろう。
最後に、AUKUSの結成は、多くの文脈において地域の安全保障秩序に大きな変化をもたらす。
AUKUSは、中国の興隆に対応して、勢力の均衡と脅威の均衡を図ろうとするバイデン政権による戦略的動きと見ることができる。これに先立つ同様の動きは、オバマ政権(アジア重視)とトランプ政権(インド太平洋戦略、4カ国戦略対話すなわちクアッド)にも見られた。
しかし、これは中国との新冷戦への道を塞ぐどころか、その方向にわれわれをいっそう押しやるばかりである。また、バイデン政権が表向きは国際的リベラリズムを支持しながらも、実際には現実主義者の構想に囚われている。
したがって、米国が主導するAUKUSは、地政学の復活による新冷戦の始まりを示唆する前兆と見なす必要がある。
このような動きを戦略的に望ましいと見ることができるだろうか? 反中感情を考えると、それは国内政治における短期的利益をワシントンにもたらすかもしれない。しかし、アジア太平洋地域の全体的秩序という観点から見ると、この動きは長期的には逆の結果をもたらす可能性がある。
だからこそわれわれは、ワシントンの発想の転換を必要としているのである。現在の彼らは、現行秩序に代わる選択肢よりも力の論理に目を向けているからである。
チャンイン・ムーン(文正仁)は世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。
この記事は、2021年10月11日に「ハンギョレ」に最初に掲載され、許可を得て再掲載されたものです
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【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】
北朝鮮は、長らく「隠者の王国」と呼ばれてきたが、依然として政治的にも、経済的にも、地理的にも、世界から孤立し続けている。
厳格な制裁措置や国際的な孤立化政策をもってしても、また、深刻な食料不足が発生しているにもかかわらず、この国(正式名称を「朝鮮民主主義人民共和国」)が、米国・英国・フランス・ロシア・中国・インド・パキスタン・イスラエルと並ぶ世界9カ国目の核保有国として、核開発を推進させることを妨げなかった。
『ニューヨーク・タイムズ』は、韓国の首都ソウルからの報道で、北朝鮮が10月11日、国防発展展覧会を開催し、弾道ミサイルを含む最新の軍備装備品を展示した、と報じた。
「今回の軍備装備品の展示は、北朝鮮が近年行ってきたものとしては最大級だ。」と同紙は評している。
会場に掲げられた巨大な横断幕には「我々は独立独歩の核保有国だ」、「我々は偉大なるミサイル保有国だ」等の愛国心に満ちたメッセージが記されていた。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)核軍縮・軍備管理・不拡散プログラムのマット・コルダ研究員はIDNの取材に対して、「北朝鮮の交渉担当への接触が何度か試みられたものの、米国のジョー・バイデン政権は、自身の対朝鮮半島政策が前任者のものとは異なっているというメッセージを、金正恩総書記に納得させることに失敗している。米国側からアプローチを変えない限り交渉のテーブルには復帰しないと金総書記が言明しているだけに、このことは深刻な問題だ。もしバイデン政権がこれを断れば、今後数年で北朝鮮は軍備を拡大することになろう。」と語った。
コルダ氏はまた、「核兵器を搭載した弾道ミサイルは1950年代の技術であり、北朝鮮が核開発の初期においてそうであったように、他国からの支援があれば、この概念を実行することはそれほど難しいことではない。」と指摘したうえで、「現時点では、北朝鮮の科学者や技術者は自国設計のシステムを開発することが可能になっており、北朝鮮核計画の動機となっている安全保障問題がすぐに解決されない限り、道路を移動できる固形燃料型大陸間弾道ミサイルなどの新しい能力を北朝鮮が入手することは時間の問題だと私は見ている。」と語った。
「平和・軍縮・共通の安全保障キャンペーン」のジョセフ・ガーソン代表はIDNの取材に対して、北朝鮮が、核兵器や、ますます進化し危険の度合いを強める運搬手段を開発しているのは、これまでに認識してきた(外国からの)攻撃の脅威に対する論理的/非論理的な対応であると語った。
「北朝鮮の核計画は、度重なる米国による核の威嚇や、米日韓同盟による軍事的威嚇への対応としては合理的なものだろう。誰かが自分に銃を向けていれば、自分の銃を相手に向ける。我々の核戦力を無力化するかもしれないミサイル防衛を誰かが開発していれば、我々としてはそのシステムを出し抜く核兵器を作ることになるだろう。」
「まともな米中政策を求める委員会」の共同創設者であり、『帝国と核兵器:世界を支配するためにいかにして米国は核兵器を使うか』の著者であるガーソン氏は、これは典型的な核軍拡競争のスパイラルであり、中国の「最小限抑止力」の開発に関しても事情は同様だと語った。中国の核戦力は強化され、「中規模抑止力」にアップグレードされつつあるようだ、とガーソン氏はみている。
米国や他の核保有国が核戦争に備えているように、北朝鮮もまた、C・ライト・ミルズが「狂気の現実主義」と呼んだものを実行しつつある。もしその核兵器が最小限であっても発射されることになれば数千万人が大虐殺の巻き添えを食うことになる。
「さらに悪いことに、それによって地球を滅ぼしかねない核戦争が起きる可能性がある。『核の冬』が引き起こされ、人類文明は終焉を迎え、私たちが知るあらゆる命がほぼ絶滅するだろう。」とガーソン氏は警告した。
CNNは10月13日、「北朝鮮の指導者は、一連のミサイル実験を念頭に、「敵対的」な米国から国を守るためには兵器が必要だと語った。」と報じた。
「米国は最近、わが国家に敵対的でないというシグナルを頻繁に発信しているが、敵対的ではないと信じられる行動的根拠は一つもない」と金総書記は語ったとされる。
国営メディア「朝鮮中央通信」が発表した展覧会の写真には、世界で最大の弾道ミサイルのひとつ「火星16号」が写っていると識者らはみている。
さらには、理論上音速の20倍で飛翔し、高い機動性故にミサイル防衛システムによる撃墜がほぼ不可能といわれる超音速滑空弾も写っているという。
CNNによれば、金総書記はこれらのミサイルについて「我々の貴重な(兵器)」と語り、どの国も平時にあっても強力な軍事力を維持しておくべきだと語ったという。
国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)は、8月30日に発表された声明で、朝鮮民主主義人民共和国が寧辺核施設の原子炉を再稼働したとみられることを「深く憂慮している」と述べた。
IAEAは、寧辺核施設の5メガワット原子炉は核兵器用のプルトニウムを生産し、北朝鮮の核計画の中心に位置しているとみられるとの見解を示した。
国連のステファン・ドゥジャリク報道官は会見で、「アントニオ・グテーレス国連事務総長はこれらの報道について認識しており、最新の情勢について憂慮している。」と指摘したうえで、「事務総長は北朝鮮に対して、核兵器に関連した活動をやめ、他の関連諸国との協議を再開するよう求めている。外交的関与こそが、引き続き朝鮮半島の持続的平和と完全かつ検証可能な非核化への唯一の道だ。」と語った。
北朝鮮との関係の現状について問われた米国務省のネッド・プライス報道官は10月15日、記者団に対して、「ご存じのように北朝鮮に関する我が国の戦略は、究極の目標である朝鮮半島の完全非核化に向けて同盟国やパートナー国と緊密に連携し足並みをそろえていくことだ。同盟国である日本や韓国との協議を特に重視しているのはそのためだ。」と語った。
プライス報道官は、アントニー・ブリンケン米国務長官が就任後初の外遊は日本と韓国の歴訪だったと指摘した。国防長官もこの外遊に同行しており、日本と韓国で「2+2」の枠組みで各々の外務大臣、防衛大臣と会談をもった。
「米国政府は、日米韓三カ国関係にもコミットしている。それがどれほど重要か認識しているからだ。例えば、ブリンケン国務長官は、9月にニューヨークで国連総会が開催された機会や先般の外遊の機会を利用して、この三カ国の枠組みで日本や韓国の関係者と会談を重ねてきた。北朝鮮核交渉の実務を総括するソン・キム北朝鮮特別代表も、同じく日本や韓国の関係者と会談を重ねている。」
また、「現段階で発表できる会談はないが、この究極の政策目標を前進させるために、二国間だけではなく、三国間でも緊密に協力し続けると言えば十分であろう。」と、プライス報道官は語った。
特別の提案はあるのかと問われたプライス報道官は、全体的な政策目標に向かって前進すべく、条件を付けずに北朝鮮と会談する用意があると語った。
「我々はメッセージを伝えているし、北朝鮮との討議について特定の提案も行っている。」
さらに、「そうしたメッセージや提案についてここで詳細に語るわけにはいかないが、以前も申し上げたように、インド太平洋地域や日本、韓国の同盟国を含めた、世界中の同盟国・パートナー国との関与を続けながら、北朝鮮との前向きな外交に関与し続ける用意や意志があるということだけは明確だ。」と語った。(原文へ)
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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=イリア・プヨサ】
カブールに向かって進攻している時、タリバンは、WhatsAppのボイスノート、TwitterやFacebookへの投稿を通して、自分たちの軍事的勝利を予想していた。タリバン反乱軍は、アフガン政府軍の兵士たちが大して戦いもせず投降しているというストーリーを、複数のメディアを駆使して作り上げた。カブール制圧の前日、タリバンが勝利に向かって前進する光景を携帯電話やドローンで撮影した映像が世界に配信された。タリバンによる電光石火のアフガニスタン制圧には、いくつかの政治的要因と軍事的要因があった。その中でも、ソーシャルメディアを使った戦争プロパガンダコンテンツが、アフガニスタン政権崩壊に役割を果たした。タリバンのソーシャルメディアを駆使したコミュニケーション戦略は、米国の「大国」イメージに楯突くタリバンの優位さという新たな物語を助長する手段となった。(原文へ 日・英)
タリバンは早くから、ソーシャルメディアを導入していた。彼らは、2009年にYouTubeチャンネルを立ち上げた。2011年からはFacebookとTwitter、2015年からはWhatsAppとTelegramを始めている。近頃では、Clubhouseのチャットルームを運営し、Twitterスペースを開催している。彼らのデジタルコミュニケーションは多言語で、英語、アラビア語、パシュトー語、ダリー語、ウルドゥー語に及び、公式アカウントと非公式アカウントのネットワークによって拡散を図っている。
ソーシャルメディアの武器化については近年多くのことがいわれており、政敵を犯罪者呼ばわりする、間接的に物理的な攻撃につながる嫌がらせをするといったことが指摘されている。しかし、本稿の関心は、武力作戦の展開を支援するためのソーシャルメディア利用を指摘することである。タリバンが2021年8月第1週にソーシャルメディアチャンネルを駆使して組織的に行ったことは、軍事情報支援作戦に近いものだった。軍事戦略学専門家ベンジャミン・ジェンセンが最近書いたように、8万人のタリバン兵は、AK47よりソーシャルメディアを使いこなすスキルのほうがはるかに高い。確かに、タリバンは地方を占領している間に作戦能力を構築し、アフガン政府軍の兵士は政権が弱いことを知っていた。それでも、今回のケースでは情報戦の能力を過小評価することはできない。
タリバンは、兵士の個人アカウントから発信された動画、音声、ソーシャルメディアの投稿を共有し武器にすることによって、それらが、準備不足の政府軍に直接影響を及ぼし、戦闘任務を放棄させた可能性がある。タリバンのメッセージ発信は、アフガン政府軍の戦闘意欲を効果的に低下させたのである。前哨基地の政府軍兵士たちは、タリバンが襲来する前からすでに恐怖に打ち負かされ、戦闘意欲を失っていたのである。彼らは、勝利を収めながらカブールを目指して進攻するタリバンに制圧された人々の姿を目にしたため、戦闘する前に投降したり、逃亡したりした。
よく知られている通り、タリバンは危険な組織に指定された後、Facebookから追放された。YouTubeの暴力犯罪組織に関するポリシーは、暴力犯罪組織が制作したコンテンツ、または暴力犯罪組織を称賛、正当化、勧誘することを目的としたコンテンツを禁止している。しかし、これらのプラットフォームから公式に追放するだけでは、タリバンがソーシャルメディアやWhatsAppでコンテンツを拡散するのを止めるには不十分であることが分かった。米国の外国資産管理局は、グローバルテロ制裁規則においてタリバンとつながりのある15の組織をリストアップしている。しかし、タリバンに参加している個人はリストに含まれておらず、したがって、テロの推定に基づいて自動的にソーシャルメディアプラットフォームから追放することはできない。そもそも、ソーシャルメディアプラットフォームは、アフガニスタンを発信元とするコンテンツをシェアした人全員を追放するべきではない。そのような広範囲にわたる措置を講じれば、自らの市民的・政治的権利を守るために団結する人々を含め、インターネット上で合法的なビジネスを行おうとしている人々全体に害を及ぼすことになる。
追放やコンテンツの調整だけでは、情報戦争を阻止するには不十分かもしれない。Twitterは、タリバンのソーシャルメディア作戦への対策として、暴力の美化およびプラットフォームの操作とスパムを禁止する規則に違反する可能性のあるコンテンツを積極的にチェックしていると表明した。にもかかわらず、Twitterはタリバン報道官のアカウントを凍結しておらず、アカウントのフォロワーは現時点で50万2千人に達している。
2021年8月、Facebookはアフガニスタンのタリバンの作戦に関連するコンテンツを綿密に監視するための特別オペレーションセンター(SOC)を設置した。Facebookは2021年前半にイスラエルとパレスチナの間で一連の衝突が起こった際にも、同様のSOCを設置したことがある。このような特別オペレーションセンターは、紛争地域における情報戦争に対処する有望な方向性かもしれない。しかし、SOCがその真価を発揮するためには、監視とコンテンツの調整以上のことをする必要がある。それは、被害を防ぐだけではなく、良い行いをするという倫理観に基づいた詳細な紛争分析もおこなうことである。
「テロリズムに対抗するためのグローバル・インターネット・フォーラム」(GIFCT)は、ソーシャルメディアプラットフォームが協働し、過激派またはテロリストと特定されたコンテンツを共有するデータベースを提供している。この種の技術的対策は、有害コンテンツのさらなる拡散とバイラル化を防ぐために役立つだろう。しかし、このようなアプローチは、企業による検閲や公共の問題に関する情報へのアクセス制限に関連する問題ももたらす。
タリバンの軍事行動に伴うソーシャルメディア戦争の利用は、新たな憂慮すべき傾向を示している。われわれはすでに、より小規模な紛争とはいえ、他にも武装主体が軍事作戦に伴ってソーシャルメディア戦争を利用するのを目撃してきた。今こそ、保護する責任に関する国連憲章の条項が適用されうる武力紛争や脆弱な国家という文脈で、ソーシャルメディア戦争に対抗する方法について議論を始めるべき時である。この問題に対処するには、ソーシャルメディアや情報戦争、武力紛争、平和構築、グローバルガバナンスなど、さまざまな分野の専門家の協働が必要である。国際機関、市民社会組織、ソーシャルメディア企業は、連携して危機対応タスクフォースを結成してもよいだろう。ソーシャルメディア戦争に対抗するには、複雑な紛争の体系的分析を実施し、影響を評価し、トレードオフを検討し、持続可能な安定と平和促進に寄与する方法を構想する必要があるだろう。
イリア・プヨサは、情報戦争および政治紛争分野を専門とする政治コミュニケーション学者であり、戸田記念国際平和研究所で「ソーシャルメディア、テクノロジーと平和構築」に関する国際研究諮問委員(TIRAC)を務めるほか、ベネズエラ中央大学のコミュニケーション研究所(ININCO)でアソシエートリサーチャーを務めている。コロンビア、エクアドル、ベネズエラ、米国の大学での勤務経験がある。ミシガン大学で博士号を取得。現在の研究テーマは、ネットワーク化された社会運動、権威主義体制下での市民抵抗、情報戦争、民主主義の崩壊である。近著は、Asymmetrical Information Warfare in the Venezuelan Contested Media Spaces。
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フィジー共和国のジョサイア・ボレンゲ・バイニマラマ首相は現在、太平洋諸島フォーラム(18カ国)の議長を務めている。オンラインで開催された国連総会で9月25日に演説した同首相は、国際社会に対して、人類のために、より良く、よりグリーン(環境にやさしく)で、よりブルー(海の保全と開発の両立)な、そしてより安全な未来をというフィジーのビジョンを共有するように求めた。
【スバIDN=ジョサイア・V・バイニマラマ】
今年の国連総会で発表された国連報告書は『我々の多国間の挑戦:国連2.0』である。つまり、より良く、よりグリーン(環境にやさしく)で、より安全な未来に向けた青写真を示したものだが、私はここに「よりブルー(海の保全と開発の両立)な(未来)」を付け加えたい。
私たちはフィジーのためのこのような未来を望んでいる。つまり、自然に抗うのではなく共生する市民たちが住む島々、そして、クリーンエネルギーによって気候変動の影響から守られた、持続可能な経済成長を望んでいる。
私たちは、強固で強靭な医療制度や、グリーン(環境にやさしい)でブルー(海の保全と開発が両立できる)経済によって支えられた働き甲斐のある仕事と収入を望んでいる。成功するためには、こうした私たちのビジョンが人類のビジョンとならねばならない。なぜなら、私たちの運命は世界の運命だからだ。
世界がたどっている現在のコースは、私たちが望む将来に全く近づくものではない。恐るべき病原体が人々の間で燎原の火のごとく広がり、不平等が事態を悪化させている。今年だけでも、気候変動を原因とする洪水や熱波、火事、サイクロンによって数多くの人々が亡くなり、持続不可能な経済的損害を与えた。私たち人間はこれらの原因であるにも関わらず、解決策を導くことを拒否している。
「私たちの共通の課題」における国連事務総長の勧告がここで注目される。新しい組織、新しい資源、国連が奉仕する人々との新しい信頼の紐帯、こうした新しい国連でもって、この時代に立ち向かわねばならない。
新しい国連は、社会の周縁にいる人々、とりわけ女性や女児に対するエンパワーメントを推進し、そうした人々をグローバルな意思決定の中心に据える。
昨年、私たちは新型コロナウィルス感染症がもたらした2つのパンデミック(1つはワクチン接種により裕福な国でのみ収まりつつあるもの、もう一つは途上国世界のほとんどにおいて一層悪化しつつある経済危機)に対峙していることが明確になった。こうした広がりつつある亀裂は、失われた命の数と、失われた経済的進歩の年数によって測ることができるであろう。
「南」の国々においては、かつて「持続可能な開発」と世界が呼んだものが私たちの目前で崩壊しつつある。数多くの雇用が失われ、数多くの人々が適切な食料を入手できなくなり、ある世代全体が教育を受けられなくなった。この危機がもたらした傷は、放置すれば、長年にわたって私たちを苦しめることになるだろう。
フィジーの経験は、平等な復興をいかにして始めることができるかを示している。まずは早期にワクチン接種を実施することから始まる。新型コロナウィルス感染症の発症事例がフィジーで見られなくなって丸一年経過した後、突然デルタ株が国内に入り込み、恐るべき第二波が起こった。ワクチン確保を急ぐ中、当初はややもたついたが、私たちはこの戦いに勝利しつつある。
フィジーの110の有人島全体で、成人の98%がワクチン接種の1回目を済ませ、67%以上が2回目まで済ませている。必要なワクチン確保に尽力してくれたインド・オーストラリア・ニュージーランド・米国に感謝したい。
現在の私たちの任務は、コロナ禍によって失われた10万以上の雇用を回復し、半減した政府の歳入を取り戻すことである。フィジーは間もなく、世界各地から観光客やビジネス客の入国を再開することになろう。経済を近代化し復興させる、デジタル化強化のような投資のトレンドを加速させることを目指している。
しかし、新型コロナウィルスに対するフィジーの勝利は、国際社会がワクチン投与を加速しなければ短命に終わるであろう。富裕国が市民への3回目のワクチン投与(ブースター接種)を検討している一方で、最前線の医療従事者も含め、途上国では依然として数多くの人々がワクチン接種を受けられないでいる。世界的に見れば、コロナによって毎日数千人の命が失われている。途上国にワクチンを供与できなかった私たち全ての責任だと言えよう。
ワクチンナショナリズムを終わらせるべきだ。G7、G20、そして多国間金融機関もこれを止めることに失敗してきた。国連だけがこのリーダーシップの不在を埋めることができる。私は、他の指導者らに加わって、途上国へのワクチン完全供与に向けた、期日目標をもち、費用が提供される詳細な計画について合意するための緊急特別会合を招集するよう国連に求めた。
ワクチンの不平等は、より大きな不公正の徴候であり、今の国際経済システムが本質的に抱える問題である。この不公正とは、復興を加速させることができる資金(あるいは資金へのアクセス)が不平等に分配されている、ということだ。
富裕国が、ほぼゼロ金利の中で多額のお金を刷りばら撒くことで経済を復活させようとしているのに対して、途上国、とりわけ小国は、ただ命を永らえさせ、食料を与え、健康を保つだけのために、懲罰的なレートでもって資金を借りねばならない。
コロナ禍を通じて、我が国の政府は史上最も多額の再分配を展開した。フィジーの成人人口の約3分の1に対する失業手当数億ドルを支給した。老齢年金や、障害者などの社会的弱者に対する金銭的給付などの社会的保護プログラムすら拡大した。
そうでなければ大規模な貧困が発生したはずだ。その選択肢はとても受け入れられるものではない。しかし、その財源としては、政府歳入が急速に減少していたために、起債に頼らざるを得なかった。
私たちには、小島嶼開発途上国(SIDS)独自のニーズを踏まえた開発金融の革新的な枠組みが必要だ。社会の強靭性強化の緊急性を踏まえ、20世紀の規範を打ち破るような債務の持続可能性を評価するより先進的な枠組みを採用しなくてはならない。
今回のコロナ禍は、単独行動が私たちを導いた方向、多国間機関がやりたくない方向について、痛みを伴う教訓を与えた。今後のパンデミックを回避し、あるいは最悪の気候変動を逃れるチャンスを得ようとするならば、協力の新たなフロンティアを見つけねばならない。小国が、よりグリーン(環境にやさしく)で、よりブルー(海の保全と開発の両立)で、より良い復興を目指すならば、私たちの将来を決める決定に対して、私たちが同等の発言権を持ち、同等の票を投じられるようにしなくてはならない。小国は、その利害について耳を傾けてもらい、理解してもらい、行動してもらう必要がある。
「地球を救え」ということがあちこちで言われているにも関わらず、世界全体で公約されたことは極めて少ない。それはあたかも、気候変動が引き起こした大嵐の風に向かって唾するようなものだ。
地球の気候は(産業革命前からの気温上昇)2.7度の気温上昇に向かいつつある。太平洋地域で海抜の低い国々や世界の海岸の大部分が失われることになるだろう。また、洪水・サイクロン・沿岸の浸食・山火事による災害が頻繁に起こるだろう。気候変動を原因とする紛争、大量移民、食料供給と生態系の崩壊を引き起こすだろう。これは想像を絶する恐るべきことだ。しかし、そこへと私たちは向かっている。
2020年3月以来、フィジーにはサイクロンが3回襲来した。そのうち2つは「強度5」であった。フィジー国民は忍耐強い。私たちは今後も耐えることになろう。しかし、人々の忍耐強さをいつまでも讃えているだけというわけにはいかない。本当の強さは国民の勇敢さだけではなく、金融資源に私たちがどれだけアクセスできるかによっても決まるだろう。
今日、小島嶼開発途上国には、気候変動関連の財源の2%以下しか割り当てられていない。真に強靭なフィジーを作るには、迅速に提供される補助金、供与条件を緩和した長期金融、官民協働・パートナーシップを通じて確立された金融ツールへのアクセスを必要とする。
フィジー経済は豊かな海に依存しており、現在の衰退を反転させる大胆な策を採りつつある。2030年までに、100%持続可能な排他的経済水域と、30%を海洋保護区域と指定することを目指している。持続可能な養殖、海草栽培、高価値の加工魚への投資を拡大している。
しかし、これをフィジー単独で行うことはできない。違法・無届け・無規制の漁業を止めるために、私たちはグローバルな仕組みに目を向けている。国家の管轄権を超えた水域における海洋を守るための新たな条約に合意するよう、国連加盟国に求めている。
1カ月後、極めて影響力の大きいCOPのために私たちはスコットランドに集う。グラスゴーにおける太平洋諸国の任務は明確だ。「1.5度目標」を保つということである。
そのためには、2050年までの排出ゼロへの道に大部分の国を乗せる、2030年までの大幅削減を私たちは求めている。
こうした公約と政策パッケージにCOP26の場で同意する用意のない指導者たちは、グラスゴーへの航空便を予約すべきではない。その代わり、彼ら、そして彼らが代表している利己的な利益は、彼らが地球に向けて解き放っているものの厳しさに見合うだけの結果に直面することになるだろう。
私たちは国家間の戦争を容認しない。とすれば、地球や、地球が支えている命、将来世代に対する戦争をなぜ容認できようか? それこそが、太平洋諸国がグラスゴーで譲れない一線だ。排出ゼロ、言い訳ゼロを私たちは要求する。
COP26では、「北」の先進国は、気候関連資金として年間1000億ドル提供するという目標を履行し、2025年以降は少なくとも7500億ドルまで増額する公約に合意すべきだ。
ミサイルやドローン、潜水艦に多額のお金をかけることができるのならば、気候アクションへの資金も出せるはずだ。脆弱な立場にある太平洋小島嶼開発途上国は、自分たちが原因を作り出したのではないにも関わらず、生存を脅かす危機から自らを守るために気候関連金融を利用しようとしても、僅か0.05%しか利用できないというのは犯罪的な現実だ。
それが、私たちが直面している難題であり、それに正面から立ち向かう勇気を持たねばならない。それを避けることの帰結は、考えもつかないことだ。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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【ニューヨークIDN=フランク・クウォヌ】
国連小型武器行動計画第7回隔年会合(7/26~30)の議長を務めたキマニ・ケニア国連常駐代表のインタビュー記事(INPSの提携メディアAfrica Renewal)今次会合では、採択から20年の節目を迎えた国連小型武器行動計画について、これまでの成果を振り返ると共に、小型武器の非合法取引や流用により引き続き深刻な被害が起きている現状や、新技術を駆使して製造される小型武器に関する取組の必要性が確認され、国際社会が、世界、地域、国家の各レベルにおいてこれらの課題に取り組んでいくとのコミットメントを含む成果文書が採択された。(原文へ)
INPS Japan
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】
バイデン政権による最近の外交・安全保障政策上の孤独な決定は、EUにとって何を意味するのか? パリでは当惑と苛立ち。ブリュッセルは狼狽し、ベルリンでは、山積みの疑問があり答えがない。
バイデン政権が数週間の間に一方的に下した外交・安全保障政策上の二つの決定に、欧州諸国は途方に暮れている。ドナルド・トランプが米大統領の座から退いて以来、欧米関係のトーンのみが変化し、「アメリカ・ファースト」政策の本質は変わっていないのだろうか?(原文へ 日・英)
バイデン米大統領は、突然のアフガニスタンからの米軍撤退に際し連合同盟国、特にNATOに対して既成事実を示した。「戦争を終わらせるべき時だった」と述べるのみで、ジョー・バイデンは同盟国と協議もせず、トランプとタリバンの取り決めを実行したのである。カブールに駐留していたフランス、英国、ドイツ、および他の多くの国は、この劇的かつ無計画な本国送還作戦によって、選択の余地なく急いで準備を行い、自国の兵士やその他の人員、数千人のアフガニスタン人従業員を本国に送ったが、決して全員というわけにはいかなかった。ポケットの中でこぶしを握りしめながら、欧州諸国は米国の政策を受け入れ、それに従うしかなかった。
2021年9月半ば、次の孤独な決定が下された。米国は、太平洋地域におけるオーストラリアおよび英国との新たな同盟(AUKUS、3カ国の名称の頭文字)を発表し、同時に、原子力潜水艦8隻をオーストラリアに輸出することも発表した。この大規模な武器輸出取引が、どれほどの驚きと怒りを引き起こしたことか。すでに5年前、フランスはディーゼル式の潜水艦12隻をオーストラリアに供給する契約上の合意を結んでいた。660億米ドルの確かな契約に基づいてすでに開始されていた生産プロセスは、いまや水泡に帰した。このAUKUS締結と武器の提供は、世界的な武器移転をめぐる激しい競争の表れであり、同時に中国に対し、インド太平洋地域で好き勝手にはさせないという明確なシグナルである。しかし、恐らく近いうちに中国の反応は見られるだろう。
フランスは、米国とオーストラリアの行動を「同盟国やパートナーの間では受け入れられない」と非難した。米国の決定に抗議して、フランス政府は協議のためワシントンとキャンベラから大使をパリに召還した。1778年から続く米国とフランスの同盟関係の歴史において、大使の召還は初めてのことであった。通常の外交慣行を無視し、パリは、米国の決定は「野蛮」であり、オーストラリアの行動は「背後から刺すようなもの」だと評した。フランスの大手日刊紙『ル・モンド』は、社説で「この点について、バイデン政権がトランプ政権と何ら変わらないことをまだ疑っている人へ。戦略であれ、経済であれ、財政であれ、衛生分野であれ、米国が最優先なのだ。『アメリカ・ファースト』が、ホワイトハウスの外交政策のガイドラインなのである」と論じた。
ブリュッセルでも警報ベルが鳴っている。EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は、フランスの苛立ちに理解を示し、「他国と同様に、われわれも自国の存続を重視しなければならない」と述べた。潜水艦の取り引きも、アフガニスタンからの急な撤退も、エマニュエル・マクロン仏大統領の米国への不信感という物語を増幅させている。マクロンは長年、欧州の戦略的自律を訴えているのだ。
事前にAUKUSについて知らされていなかったEUは、9月16日、米国がフランスとEUを冒涜したのとほぼ同時に、「インド太平洋戦略」を発表した。このEUの戦略は、太平洋地域の国々に対して、EUがこの地域における経済的および政治的利益を重要視していることを示すものである。また、中国と米国に対しては、EUは米国のような強硬な反中路線に追随するものではないが、かといって等距離路線を取りたいわけでもないということを示している。欧米関係は、依然として優先事項である。安全保障と防衛は、太平洋地域におけるEUの7つの優先事項の一つである。
EUとその加盟国は、米国の一方的な決定を受けて、また、欧州諸国の意見や利益をワシントンが明確に軽視するのを受けて、どのように対応するべきだろうか?
選択肢は三つある。第1は、フランスの立場である。欧州は「ハードパワー」への投資を強化し、軍事的にも安全保障政策においても自分の足で立つべきである。それには、多額の財務資源が必要になる。現行の防衛予算の水準でも、NATOの目標であるGDPの2%の防衛費でも、米国、ロシア、中国に対して欧州が戦略的自律を実際に達成するには不十分である。全ての欧州諸国の政府が防衛費を大幅に引き上げる用意があるかについては疑問がある。さらに、政治的にも多くのハードルを乗り越えなければならない。全てのEU加盟国、特に東欧諸国が欧州の戦略的自律を確信しているわけではない。彼らは依然として、米国が中心にいるNATOが何よりも自国の安全保障を守っていると考えている。
第2の選択肢は、過去と同じやり方を続けていく現状維持の道である。それは、フランスの論調を大幅にトーンダウンしたものといえる。何十年も前から、欧州軍によって安全保障を欧州化する必要性が叫ばれてきた。しかし、これまでのところ、個別の軍備計画や大袈裟な政治声明といった極めてわずかな進捗しか見られていない。また、それは不十分でもある。アフガニスタンでの大失態の後、EUの外交責任者ジョセップ・ボレルは、EUの即応部隊の設立を訴えた。これは、いわゆる「戦闘群」という形でかなり前からあることはあるが、EU内に政治的コンセンサスがないため、展開されたことはない。今後も恐らく、意思決定はこれまでの長々とした妥協のプロセスに沿ったものとなるだろう。つまり、フランスによる圧力やそれに呼応するEU委員会の野心にもかかわらず、一進一退を繰り返しながら軍事政策強化を目指す、骨の折れる道筋ということである。
第3の選択肢は、平和プロジェクトとしてのEUへの回帰である。2012年、EUは、欧州の平和維持における重要な要素であるという理由で、ノーベル平和賞を授与された。EUは、世界の他の紛争地域に対する啓発的な手本になろうとした。この気概は、今日もはや感じられない。むしろ、EUは地政学の復興、特に米中の競争に何とかついていこうとしているが、これまでのところうまくいっていない。例えば、近頃の事例として、ドイツのフリゲート艦をインド太平洋地域に派遣することに何の意味があるだろうか? 中国に対する武力の誇示として、旗の掲揚は完全に的外れである。中国政府は、確かに、それを友好の証とも協調の意志とも考えないだろう。
EUは、「ハードパワー」による軍事中心の地政学的競争を断念し、代わりに、その文民的特性、「ソフトパワー」を頼みとするほうが理にかなっているだろう。平和的な紛争解決を明確に志向した政策によって、EUは、冷戦を思い起こさせる現在の再軍備計画に代わる存在になり得るだろう。
ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。2002年から2007年まで国連開発計画(UNDP)平壌事務所の軍縮問題担当チーフ・テクニカル・アドバイザーを務め、数回にわたり北朝鮮を訪問した。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRIの科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。
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