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新アフガニスタンに地政学的な足場構築を決意する中国

【ニューデリーIDN=M.B.ジェイン】

アフガニスタンの支配権を再び掌握したタリバンへの支援を通じて、米軍撤退後の「力の空白」を埋めようとする中国の地政学的狙いと動向・課題を分析したB.Mジェインによる視点。国際社会から孤立し、政府資産凍結、援助資金停止で財政危機に直面しているタリバン政権は、国連やG20を通じてアフガン支援を訴え、自らも援助・投資・インフラ開発支援に乗り出す構えの中国を「最重要のパートナー」「最も信頼できる友人」と称賛。中国にとって安定したアフガニスタンは、①イスラム原理主義の中国(新疆ウイグル自治区)への浸透阻止、②アフガニスタンの鉱物資源開発、③一帯一路(中パ経済回廊)の安定・拡大にとって不可欠だが、同時にこの地政学的要地に利害関係を持つロシア、イラン、インド等の国々との慎重な調整が課題となる。(原文へ

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太平洋の市民社会が気候関連の移住に関する地域協議会行う

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=サビラ・コエーリョ/クリストファー・イー】

2021年6月、太平洋気候変動移住と人間の安全保障(Pacific Climate Change Migration and Human Security: PCCMHS)プログラムは、気候関連の移住に関する地域市民社会協議会を開催した。このオンライン協議会は、国際移住機関(IOM)が計画したもので、太平洋全域の市民社会の代表者が気候変動に関連した移住、立ち退き、計画移転が人間の安全保障にもたらす影響を検討し、コミュニティーに及ぼす影響について経験を共有し、地域に根差した解決策の策定に向けて話し合う機会を提供した。(原文へ 

太平洋地域の8カ国から40名以上の出席者が、連帯感を持ってバーチャルで集い、気候関連の移住への対策を支援するプロセスについて議論した。協議会には、太平洋各地の地域団体、学識者、宗教組織、若き気候活動家、LGBTIQアドヴォケイト(擁護者)などが参加した。

PCCMHSプログラムの主要目標は、国主導の地域対策を策定する際に市民社会の視点を取り入れることであり、また、市民社会協議会は、太平洋地域における気候関連の移住傾向に対する共通の理解と、共通のアプローチを醸成することも目指している。

ソロモン・カンタIOMフィジー事務所長は、この協議会は「太平洋における気候関連の移住の傾向について詳しく検証し、法律や政策の主なギャップがどこにあるかを理解し、政策立案者と政府が何を考慮するべきかを話し合い、気候変動の影響により移住を余儀なくされる全ての太平洋諸島民の権利を守るために、地域レベルの今後の適切な保護の道筋を模索する機会」になるだろうと述べた。

協議会の1日目は、気候関連の移住の影響を受けているコミュニティーが共通して経験していることを取り上げた。太平洋の視点から明らかになったことは、移転したコミュニティーの社会的・文化的な基礎構造を守る必要があること、それとともに、今後移住を余儀なくされる家族のために先祖代々の土地、言語、権利を守る必要があることである。この点が改めて非常に強調され、多くの参加者が気候関連の移住という状況で生じる計り知れない「非経済的損失」について語った。

市民社会活動家のなかでも強力な太平洋的なリーダーシップを発揮したPacificWinのペフィ・キンギは、「安全な道筋を作り、人権を擁護し、将来世代のために文化的アイデンティティーの保全に重点を置く地域的枠組み」を策定する必要があることを、感情をあらわにして訴えた。

第2セッションでは、参加者は、気候関連の移住をめぐる状況において、どこに法律や政策の主なギャップがあるかの全体像を提示されたうえで、人権に基づく解決策について検討を行った。

最後に、2日目の協議では、市民社会のメンバーが政府職員や政策立案者に向けた主な提言やメッセージを策定する時間を設けた。その後、太平洋地域における気候関連の移住の問題を強く訴えるために用い得るさまざまな道筋を模索するうえで、市民社会組織(CSO)が果たす役割について議論を行った。

気候変動と戦う太平洋諸島の学生たち(Pacific Island Students Fighting Climate Change: PISFCC)で活動するソロモン・イェオとアティナ・シュッツは、政策策定に若者が関与する必要があることを力強く訴えた。なぜなら、現在、太平洋地域人口の大多数は若者であり、気候関連の移住に対応する共同の努力に付加価値をもたらす大きな可能性を持っているからである。

今回の協議で明らかになったことは、どのコミュニティーも置き去りにしないために、気候関連の移住に対する地域の連帯が必要だという点である。参加者が口々に訴えたもう一つのメッセージは、移住以外の選択肢がないコミュニティーに安全な移住経路を確保し、コミュニティーの人権を擁護し、文化的アイデンティティーを守り尊重することによって太平洋地域における気候関連の移住の問題に取り組むためには、地域的な枠組みが必要だということである。

また、PCCMHSプログラムは、ナウル、フィジー、トンガ、ツバル、バヌアツにおいて各国の協議も開催しており、気候関連の移住をめぐるもっかの力強い動きは続いている。これらの協議会には、主要な政府高官、市民社会の代表者、コミュニティーリーダー、利害関係者が出席した。

プログラムの重要な要素は、太平洋諸国の政府が気候変動により立ち退きや移住のリスクにさらされたり移転したりするコミュニティーに対する保護の欠落に対処するため、必要な地域的対応策を明らかにできるよう支援することである。したがって、今回の協議と13の太平洋諸国で開催された国家協議の成果は、気候関連の移住に対する国主導の地域対策の策定に有益となるだろう。

サビラ・コエーリョは現在、IOMフィジー事務所のプログラムマネージャーとして3年間にわたる共同プログラム「太平洋気候変動移住と人間の安全保障プログラム」に従事している。それ以前は、IOMアジア太平洋地域事務所の地域移民・環境・気候変動担当オフィサー(Regional Migration Environment and Climate Change Officer)を6年間務めた。その間に、モンゴル、バングラデシュ、ネパール、モルジブ、カンボジア、ベトナム、太平洋地域におけるIOMミッションに技術的な支援を提供した。

クリストファー・イーは現在、「太平洋気候変動移住と人間の安全保障プログラム」のプログラムスペシャリストを務めている。

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アフガニスタンの安定を望むカザフスタン

【アルマトイIDN= アカス・タズトフ 】

中央アジアのカザフスタンが、アフガニスタンへの国連人道支援拠点をアルマトイに提供しているほか、タリバンによる政権奪取後も引き続き同国への安定と経済復興に積極的に関与している背景を分析したアカス・タズトフ氏(政治アナリスト)による視点。アフガン情勢の安定と復興に重大な関心が向けられる理由には、難民・麻薬・イスラム過激派の中央アジアへの流入を抑えたいという利害関係のほかに、以下の要因がある。①アフガニスタンがカザフ産穀物の最大輸出先(全体の50%に当たる300~350万トン)であること。②ウズベキスタンをアフガニスタン経由でパキスタンに繋ぐ鉄道網建設計画。これにより、中央アジアと南アジア市場が連結するほか、アラビア海経由でカザフ製品を世界に輸出することが可能となる③トルクメニスタンからアフガニスタン経由でインドまで繋ぐ天然ガスパイプライン建設計画。(原文へ

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タイのマッサージ業界、コロナによる観光落ち込みで消滅の危機

【バンコクIDN=パッタマ・ビライラート】

タイの有名な観光産業は、伝統的なマッサージ店と治療センターのイメージと結びついている。しかし、新型コロナウィルス感染症の蔓延に伴う都市封鎖(ロックダウン)措置により、観光産業は深刻な打撃を受け、海外資本に乗っ取られるリスクが浮上している。長引くロックダウン措置で、スパやマッサージ業界は厳しい影響を受けている。

タイ・スパ協会」のクロッド・ロジャナスチャン会長は、現地紙『マネージャー』の取材に答えて、観光がほとんど止まってしまった昨年のコロナ第一波以来、80%以上のスパやタイ古式マッサージ店がロックダウン措置に伴って閉店し、20万人以上の職が失われたとしている。

ラチャニーさんは2人の娘を持つシングルマザーだ。バンコク中心部のプラトゥーナム地区にあるスパの店長である。コロナ禍以前は、固定月給1000ドルに加えて、外国人観光客需要にマッサージ師が足らないときは自らもマッサージを提供して収入を得ていた。

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ラチャニーさんはIDNの取材に対して、「店舗が閉鎖してしまい、人生がひっくり返ってしまいました。2020年初めから閉店状態が続いています。2波目の末期には地元住民相手のマッサージやスパ営業が許可されましたが、生活は好転しませんでした。」と語った。

彼女のスパの主な顧客は、マレーシア・シンガポール・インドからの観光客である。タイに海外からの観光客が来なくなって、彼女のスパは閉店になったままだ。彼女は自分のキャリアを変更し、大好きだった仕事を離れざるを得なくなった。バンコクの郊外に借りているアパート近くの歩道に設置した屋台で焼豚を売る生活を強いられている。政府の景気刺激による手当受給を待っているが、まだ受け取れていない。

タイ古式マッサージは世界各地で人気を集めている。タイでは2500~7000年もマッサージが行われてきたと考えられている。タイ古式マッサージはヨガとタイ伝統医療を組み合わせるという独自のもので、人間の体内におけるエネルギーの流れに作用する。タイ古式マッサージのもう一つの特徴は、マッサージの間に、客は診療台の上ではなく床に寝そべり、服を完全に着た状態で行う点だ。

タイ古式マッサージ(ヌアッド・タイ)は、タイの伝統的な医療の技芸・科学・文化の一部だと考えられており、2019年にはユネスコの「無形文化遺産」のリストに掲載された。

2019年、タイ観光業の収入は620億ドルに上った。そのうち、スパ・マッサージ業界は9億ドルを稼ぎ出し、年の成長率は8%を記録している。「グローバルウェルネス研究所」は、タイの保健・健康ツーリズムは毎年1250万人の観光客を招き寄せていると推計する。タイ政府は同国を「アジアのスパ首都」として推す政策を採っている。現在、タイ全土にスパ・マッサージ店が8600軒以上あるが、このうちどれだけがコロナ禍を生き延びることができるかが大きな課題になっている。

Thai Massage/ By Bhattharasinthorn Kosawan & Chot-Anan Kittiraweechot – Pai Spa www.pai-spa.com, CC BY 3.0

最初のロックダウンの間、一部のタイ国籍の小店主らに対して、3カ月間で5000バーツ(約150ドル)の補助金を支給された。しかし、タイのスパの多くは外国人経営だ。

スパ・マッサージ業界へのコロナ禍の影響を見るには、いつもは観光客でごった返しているバンコクの有名なショッピング街に隣接したプラトゥーナム地区に行ってみるとよい。2020年の第一四半期にタイを襲ったコロナ第一波によって、ほとんどの店がシャッターを閉めてしまった。

状況をまとめると次のような具合になる。

小規模店や地元民が経営するマッサージ店は、出張マッサージを行ったり、一時的に別業種に移って急場を凌いできた。長引くロックダウンにしびれを切らした一部のマッサージ・スパ店主らは、今年8月にタイ政府を提訴し、2億バーツ(590万ドル)の賠償を要求している。政府は業界の生き残りについて無策であったから、というのが彼らの訴えだ。

ロジャナスチャン会長は最近の『ビズニュース』誌のインタビューで、ほとんどの地元民の店主は現在の危機を生き延びることはできず、巨大な資本を抱えた中国人経営者にスパの経営を乗っ取られてしまうだろうと答えている。すでに、中国人がタイ式マッサージを習い始めている事例があるという。

スパ業界の生き残りをかけて、政府は9月1日からの営業再開を許可したが、顧客はタイ国民に限られている。プラトゥーナム近くのマッカサンでマッサージ師を務めるスカイさんは、自分の主要な顧客は、プラトゥーナム地区にインド・マレーシア・シンガポールから買い物に来る外国人観光客だと話す。「私は12年もマッサージ師をしていて、コロナの前には月500ドル稼いでいました。」

資料:www.hec.edu/en
資料:www.hec.edu/en

外国人観光客を途絶えたコロナ感染の第3波の間、彼女はタイ北東部の故郷に戻ることも、別の仕事に移ることもしなかった。タイ人経営者が住居と食事をスタッフに提供してくれていたため、店にとどまったのだ。コロナのために仕事を失った人々に支給される政府からの手当に依存してきた。時には、金融業者からお金を借りる必要もあった。「今月からマッサージができるようになったが、一日当たりの客数は少ない。タイ国民自身がコロナ禍で収入が減っているのだから、需要は低下している。故郷の村に戻らないといけないかもしれない。」と彼女は悲しげに語った。

ウェスダさんは、バンコクの主要なショッピング地区にあるインドラホテルの向かいに小さなマッサージ店を構えている。主な顧客は、韓国・日本・オーストラリア・シンガポール・マレーシア・ベトナム・インドからの観光客だ。コロナ禍以前、月収は約3000ドルだった。3度のロックダウンの間、初めは、プラトゥーナム地区に住むベトナム人のためのタイ語通訳をして凌いだ。しかし、2度目、3度目の時には、顧客のベトナム人たちは帰郷してしまっていた。

「私の店には以前、常勤7人、パート10人、計17人のマッサージ師がいましたが、コロナが発生してからは、ほとんどが故郷に帰ってしまいました。今はパートが3人しかいません。ビジネスはひどい影響をうけたが、家賃を月に2万5000バーツ(740ドル)も毎月支払わなくてはなりません。これでも、大家さんからは電気代・水道代とともに、家賃を5割減額してもらっているのですよ。」

Map of Thailand
Map of Thailand

ロックダウンが実施されてから、タイ政府は、経営者やタイ国民に金銭的支援を行うための景気刺激策を実行した。スパ・マッサージ店は、真っ先に閉店を命じられた業種のひとつである。残念ながら、彼らは政府から手当を受け取ることはなかった。ただ、社会保障法119号第39条・40条の下で登録されている労働者だけが、5000バーツ(150ドル)を受け取ることができた。

ウェスダさんは、生活費に貯蓄を使い果たし、高利貸しからも借りざるを得ないストレスから自暴自棄になりかけていた。幸運なことに、6月のある日、バンコクから70キロ離れたナコンパトム州に夫が車で連れて行ってくれた。そこで彼女は、トンネルの出口を見出したのだ。ナコンパトムでココナッツを買い入れて、マッサージ店の外で売り始めたのである。1日の利益は340バーツ(10ドル)だが、それでも「何もないよりはいい」と彼女は話す。

9月1日に営業再開してからは、地元の人々に足マッサージを提供することができるようになった。「これで生活費を賄えるだけの利益を得られるわけではありません。タイが再び外国人観光客に国境を開いて初めて、私たちは救われるのです。」と、ウェスダさんは期待を込めて語った。(文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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映画「ホテルルワンダ」のヒーローが懲役25年を宣告される

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

1994年のルワンダ大虐殺の際に避難した人々を救い映画「ホテル・ルワンダ」のモデルになった元ホテル支配人ポール・ルセサバギナ氏に対して、ルワンダ法廷は反政府テロ組織を支援してきたとして禁固25年の有罪判決を言い渡した。ルセサバギナ氏は従来からポール・カガメ大統領を独裁的と批判してきたことから、今回の一連の動き(UAEで拉致・ルワンダで逮捕→有罪判決)も、政敵を弾圧してきたカガメ政権による政治的な動きとして、米国務省をはじめ国際人権擁護団体から批判の声があがっている。(原文へ

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戸田記念国際平和研究所(Toda Peace Institute)によるオリジナル記事の掲載を開始。

【ウィーンIDN=タリク・ラウフ】

Image: PCU Virginia (SSN 774) | Wikipedia Commons
Image: PCU Virginia (SSN 774) | Wikipedia Commons

INPS/IDN-InDepthNewsではToda Peace Institute (https://toda.org/)によるオリジナル記事の掲載を開始しました。第一弾は米英豪3カ国の新たな安全保障枠組み”AUKUS”創設と米英によるオーストラリアへの原子力潜水艦導入支援決定が今後の核不拡散議論にもたらす影響について分析したラウフ・タリク(元IAEA検証・安全保障政策課長)氏による寄稿文「オーストラリアの原潜は核拡散というパンドラの箱を開けるリスクがある」。(原文FBポスト

国連が気候危機と核の脅威のネクサス(関連性)による差し迫った脅威を警告

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】

核軍縮に関する国連総会ハイレベル年次会合は9月28日に開催されたが、今年の特徴は気候問題に取組む若い活動家等が史上初めて参加し、気候危機と核の脅威のネクサス(関連性)による差し迫った脅威について警告を発した点だ。

世界未来評議会のユースプレゼントイニシアチブYOUNGOのメンバーでありスイス出身のマリー・クレア・グラフ氏は、会場の各国代表に向かって、「私たちは、過去と現在に決められた政策が招いた影響を経験しています。そうした決定は私たち青年が関与していないにもかかわらず、皆さんと等しく、人類の生存そのものを脅かす複数の危機に直面しているのです。中でも最たる危機が、気候危機と核兵器の脅威に他なりません。」と語った。

グラフ氏はまた、「これらの危機はいずれも国境や世代を超えて悪影響を及ぼすものであり、対処するには、各国の国益や軍事主義よりも、地球規模の国際協力と共通の安全保障が優先されなければなりません。」と語った。

グラフ氏はさらに、「気候危機と核の脅威のネクサスは、『核兵器からカネを動かせキャンペーン』や『人と地球を守る:核なき世界の実現を訴える』等の市民社会によるイニシアチブに組み込まれている。」と指摘した。

「核なき世界」の実現に向けて国連に焦点をあてたイニチアチブや行動のためのプラットフォームであるUNFOLD ZEROは、気候変動と核軍縮運動の双方において、成功を収めていくためには、青年が中心となった新しい考えや行動が重要だと述べている。

また今回の核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合は、核兵器廃絶のための国際デー(9月26日)を記念する行事を兼ねていた。

また、今回のハイレベル会合は、南太平洋の島国バヌアツ共和国が国連総会の演説で、現在と将来の世代が気候変動から守られるべきだという権利に関して、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見を求めると表明した4日後に開催された。

Flag of Vanuatu

バヌアツ共和国の行動は、環境保護団体「気候変動と戦う太平洋諸島の学生」と「気候正義を求める世界の若者たち」が始めたイニシアチブである。

このイニシアチブは、バヌアツ共和国も中心的な役割を果たした1996年の核兵器の威嚇または使用の合法性に関する国際司法裁判所勧告的意見から着想を得たものである。

今年の国連総会ハイレベル・ウィークでは、食糧不安(9月23日)、気候変動(9月20日)、核軍縮(9月28日)をテーマにした3つのハイレベル会合に、各国の元首、外務大臣、大使等60人から75人が登壇した。

これらの会合に対する、おそらく最も辛辣な反応は、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんによるものだった。彼女は、気候サミット(他の2つのハイレベルサミットにも当てはまるかもしれない)に言及して、「『排出ゼロ』だとかどうのこうの、『気候中立』とかどうのこうのと、指導者と呼ばれる人たちから発されるのはこうした言葉だけ。聞こえは良いが行動に結びついていない。私たちの希望や夢は、彼らの空約束の中に埋もれてしまう。」と、世界の首脳を口まねで嘲笑した。

John Loretz

核戦争防止国際医師会議」( IPPNW )のプログラム・ディレクターであるジョン・ロレツ氏は、IDNの取材に対して、「明らかに、核兵器の廃絶に焦点をあてるあらゆる政府間協議は重要であり、『核兵器の全面的廃絶のための国際デー』もそうですが、これまで以上にもっとメディアが取材してしかるべきだと思います。」「これから開催予定の会合の中でとりわけ重要なものがあります。来年3月中旬に予定されている核兵器禁止(核禁)条約第1回締約国会議です。核軍縮に関して、もしなにか前進が見られるとすれば、この会議の行方次第です。」と指摘したうえで、「これからこの会議が開催されるまでに会議の成果に前進が見られるとすれば、その指標として次の4点を提案したい。1)これから締約国会議までに、新たに何か国が締約国に加わるか。2)非締約国の中から、何か国が締約国会議にオブザーバー参加するか。そして、その中に核兵器保有国が含まれているかどうか。3)締約国会議の議題が、核廃絶の根拠として、核兵器と核戦争が引き起こす壊滅的な帰結に再び焦点をあてるものになるかどうか。4)締約国が、とりわけ核兵器と核抑止について烙印を押すべく、核兵器保有国とその同盟国に対して条約を駆使して圧力を加えるための現実的かつ効果的な計画を打ち出すことができるかどうか。」と語った。

「こうした指標はすべて、核禁条約を生み出した、政府と市民社会組織と国際機関という前例のない連合が団結して、核兵器禁止プロセスを推し進めた危機感を再び構築できるかという全体的な疑問に行き着くのです。第1回締約国会議は、おそらくこの疑問に答えるものとなるでしょう。」と、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のプログラム・ディレクターで、同平和と健康ブログの編集員でもあるロレツ氏は語った。

国連によると、世界的な核軍縮の実現は国連創設以来最も古くからの目標であり、1946年に採択された国連総会第1号決議のテーマであった。国連はその決議の中で、核エネルギーを管理するための詳細な提案を作成し、核兵器や大量破壊が可能なすべての兵器の廃絶を任務とした原子力エネルギー委員会(1953年に解散)を創設している。

「以来、国連は核軍縮を目指す数々の主要な外交的取り組みの最前線に立ってきた。1959年、国連総会は全面的かつ完全な軍縮という目標を承認した。1978年にはさらに進んで、第 1 回国連軍縮特別総会において、核軍縮を最優先目標とすべきことが確認された。歴代の全ての国連事務総長が、この目標を積極的に推進してきた。」

しかし今日、依然として約13,080発の核兵器が存在する。

「核兵器を保有する国々は、いずれも資金が豊富で核兵器を近代化する長期計画を持っている。世界人口の半数以上が、核保有国と核の傘に依存する国に暮らしている。冷戦の絶頂期と比べれば、実戦配備された核兵器の数は大幅に減っているものの、条約に従って物理的に破壊された核兵器は一つもない。さらに、目下のところ、核軍縮交渉は行われていない。」と国連は述べている。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、ハイレベル会合での演説で、「新戦略兵器削減条約(新START)の延長と戦略対話を開始することを決めた米ロ首脳の決断は歓迎すべき第一歩です。」と語った。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

その意味では、今年1月に発効した核禁条約も歓迎すべき第一歩である。「この条約の目標を支持し、世界規模の核軍縮アーキテクチャにおける核禁条約の位置づけを認めるよう、すべての政府に要請します。そして来年には、締結国がこれまでの成果をもとに前進する新たな機会が訪れることでしょう。」とグテーレス事務総長は語った。

そうした機会の一つが、長らく延期されてきた核不拡散条約再検討会議の開催である。次回の再検討会議は、各国がこれまでに公約してきた内容を再確認し軍縮を推し進める重要な局面となる。

「こうした協議の場は、核爆発のリスクを低減する新たな方策を採択する絶好の機会です。もちろん、核リスクの根絶は、核兵器の廃絶を意味します。私たちはこの目的に向かって、取り組みを続けていかなければなりません。」と、グテーレス事務総長は語った。

つまり、大量破壊兵器の廃絶とともに、通常兵器及び新戦闘技術の拡散防止にも取り組んでいくことが、軍縮事項の中核である。

「しかし核兵器が廃絶されるまでは、核兵器のいかなる使用も防止することが、すべての国の利益にかなうのです。来る会合を成功させ、新(=核禁)条約を稼働させるための取り組みを支持するよう、すべての締約国と協力していくのを楽しみにしています。」とグテーレス事務総長は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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アフガン・パラドックス:カブール陥落後の 中国、インド、そしてユーラシアの未来

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョージ・へイン】

近頃カブールの外交関係者の間でささやかれている一つのジョークがある。カブールにおけるガニ政権からタリバン政権への権力移行は、今年のより早い時期にワシントンで行われた政権移行より円滑だったというものだ。それは(いささか)言い過ぎかもしれないが、タリバンがアフガニスタンの首都に入った迅速さに、事態を見守っていたほとんどの人が驚いたのは間違いないだろう。(原文へ 

20年を経て、米国の最も長い戦争を終わらせる決定が当然であったという見解には、議論の余地がない。しかし、問題は、アフガニスタンだけなく中央アジアに次は何が起こるのか、現地の安全保障の欠如に対していかなる措置が取られるかである。“帝国の墓場”からの米国撤退により、誰が勝利し、誰が敗北するのか? 二つの“アジアの巨人”であり、2国関係が近頃悪化の一途をたどっている中国とインドに、どのような影響があるのか?

米国のアフガニスタン撤退の根拠として一般的に言われることは、「副次的戦域」における戦争の「散漫化」を終わらせ、米国政府がその主な関心事、すなわち中国に集中できるようにするために撤退したというものだ。これは、米国の重点がNATOから日米豪印戦略対話(「クアッド」)に移行していることと符合する。2021年3月に開催されたクアッドの初回サミットは、バイデン大統領が就任後初めて主催した国際会議となった。また、近頃のAUKUS協定で原子力潜水艦をオーストラリアに提供し、フランスとの深刻な外交的亀裂をもたらしたことも同じ路線といえる。

アフガニスタンが国際テロの温床となり、中国からの新疆分離を目指すウイグルの民兵組織である東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の基地を再び提供することになれば、中国にとっては頭痛のタネとなる。1996年から2001年までアフガニスタンを支配した前タリバン政権を中国が承認しなかったのも、それが一つの理由であった。しかし、すべての人が示唆するように、中国がタリバンとの合意に達した場合は、両サイドにとって得るものが大きい。アフガニスタンは鉱物資源が豊富である(その価値は最大1兆米ドル)。そのほとんどが銅とリチウムで(“リチウムのサウジアラビア”と言う人もいる)、いずれも中国の電気自動車産業の大きな需要がある。また、中国はアフガニスタンのインフラ建設の多くを受注することも可能になる。もしタリバン政権が安全と法と秩序を保証することができるなら(大きな「もし」だが)、中国の鉱業や建設の企業が続々と進出し、アフガニスタン経済を活性化する大きな役割を果たすことが想像できる。それはまさに、カブールの新体制が必要としていることである。

また、中国とパキスタンが長年にわたる協力関係にあることも、中国政府にとっては一定の利点となっている。パキスタンには、「一帯一路」関連の単一プロジェクトとしては最大となる460億米ドル規模の中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が存在しており、そもそもタリバンを結成したのはパキスタンの諜報機関だからである。一方、インドは貧乏くじを引いたと思っているかもしれない。まずハーミド・カルザイ政権に、次いでアシュラフ・ガニ政権にテコ入れしてきたインドは、タリバンとは最初から険悪な関係にあった。インドは、アフガニスタンの将来をめぐって近頃行われている多数当事者交渉の多くから外されており、インド政府が再び現地で外交の足掛かりを築くのは容易ではないだろう。

しかし、より大きな問題は、ケント・カルダーが「スーパー大陸」と呼ぶユーラシアが超高速鉄道や携帯電話通信といった新世紀の技術によって再連結され、構造が変化しつつあることである。タリバンの復活は、過去数十年間にわたって構造を作り変えようとしてきた二つの勢力、すなわちロシアと中国に新たな門戸を開くものである。不穏な前兆を読み取っていたロシア政府は、何年も前からタリバンと連絡を取り続けてきた。カブールのロシア大使館は業務を継続している。元ソ連構成共和国で、新たに独立した「中央アジア5カ国」(カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)が陽の当たる居場所を求めてもがくなか、ロシアと中国の政府は、アフガニスタンがまさに中心に位置するこの地域において自国の優位性を確立しようと競っている。中国の一帯一路は当初、世界で最も急速に成長する地域である東アジアと世界最大の市場であるEUを結び、その一方で、これらの天然資源が豊富な、今まで周縁化されていた新興国を取り込み、それによってシルクロードを再現するという構想だった。

ロシアは当初、一帯一路が自国の縄張りを侵害しているのを見て神経を尖らせていた。しかし、伝統的に世界の地政学的中心と見なされてきた地域において、中国とともに一種の共同統治を確立する手段として、最終的には協力するようになった。ロシアは中央アジアを「近い外国」と見なし、中国は新シルクロードに不可欠と考えているが、上海協力機構(SCO)、集団安全保障条約(CSTO)、ユーラシア経済連合(EAEU)といった多種多様な地域組織がこの地域を再定義しようとしている。

米国のアフガニスタン撤退と、それに先立つキルギスタンおよびウズベキスタンの米軍基地閉鎖は、いまや中国とロシアがより自由に事を進められるようになったということを意味する。インドは、アフガニスタンにすべての卵を入れ、一帯一路を早くから拒絶した結果、中央アジアにおける新たな地域安全保障と経済構造を形成するうえで、立場が弱くなってしまった。とはいえ、インドはSCO加盟国であり、ロシア政府とは昔からのつながりがあるため、完全に蚊帳の外に締め出されたわけではない。

人類の歴史の大部分において、ハルフォード・マッキンダーが「世界島」と呼んだユーラシアは、地政学的紛争や闘争の真ん中にあった。20世紀にはユーラシアという言葉はわれわれの語彙から消えていたが、いまや華々しい凱旋を遂げた。キショール・マブバニが「アジアの世紀」になると予想した未来に備えつつも、ユーラシアが視界から遠のくと考えるべき理由はない。その点で、カブール陥落は歴史の些細な事柄以上の出来事といえるだろう。

アフガニスタンの首都がかつて、マルコポーロが旅したシルクロードの主要なキャラバン停泊地であったことを思い出そう。とはいえ、現代のカブールは、中央アジアの広大な土地と険しい山々を越えてもっか構築されつつある新シルクロードのキャラバン停泊地としては、まだ復活していないようだ。

ジョージ・ヘインは元駐中国チリ大使(2014~2017年)および元駐印チリ大使(2003~2007年)であり、現在はボストン大学パーディー国際研究大学院(Pardee School of Global Studies)の研究教授および、ウィルソンセンターのグローバルフェローを務めている。

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AUKUSの原子力潜水艦協定 ―― 核不拡散の観点から

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

(この記事は、アジア太平洋核不拡散・軍縮リーダーシップネットワーク(APLN)の専門家や参加者が豪英米(AUKUS)協定の影響を評価するために行った分析シリーズの一環として、2021年9月17日にAPLNにより最初に発表されたものです。)

【Global Outlook=ジョン・カールソン】

以下は、オーストラリアのために原子力潜水艦を建造・運用する提案について、核不拡散および安全保障措置の観点から概要をまとめたものである。

この提案は原子力推進のみに関係しており、いかなる場合もオーストラリアは核兵器を追求することはない。それは、核不拡散条約(NPT)に基づくオーストラリアの義務に対する違反となる。NPTは、非核兵器国が核兵器を取得すること、核兵器国がそのような取得を支援することを禁じている。NPTのもとで非核兵器国は、自国の領土内または管理下にあるすべての核物質について、それが核兵器に転用されていないことを検認するため、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れなければならない。(原文へ 

NPTは、非核兵器国が核物質を非爆発的軍事用途に利用することを禁じていない。その主な例が、海軍推進力用原子炉の運用である。核物質をそのような非違法軍事用途に利用する計画がある場合、標準的なNPT保障措置協定では、当該物質が軍事利用されている期間は保障措置を一時停止することが定められている。しかし、非爆発的利用の義務は引き続き適用され、当該軍事利用が終了するとただちに保障措置の適用が再開する。当該国は、当該物質に関する最新情報をIAEAに報告し、最終的な保障措置再開を保証する協定をIAEAと結ぶことが求められる。

この一時停止規定が保障措置を回避し、核物質を核兵器に転用するための抜け穴として利用されないようにすることについては、明らかな懸念がある。IAEAはどのような取り決めを要求するべきか、多くの議論がなされているが、これまでのところ実例はない。今のところ、原子力海軍艦艇を取得した非核兵器国はない。カナダは1980年代に原子力潜水艦を検討したが、それ以上進まなかった。現在ブラジルが海軍用原子炉を計画しているが、まだ研究開発段階である。韓国は原子力潜水艦への関心を示しているが、具体的な行動はまだ起こしていない。オーストラリアが、核物質を使用した海軍の推進システムについてIAEAとの協定を策定する最初の実例となる可能性があるが、実現にかかる時間が長期にわたり、最初の潜水艦が運用開始するのは早くても2040年と予想されるため、確実とはいえない。

海軍推進システムの計画から核物質が転用される可能性は、その計画に関連する核活動の範囲による。ブラジルのように、国が原子炉燃料を濃縮・製造することを目的としている場合、その工程中の転用を防止することが関心事となる。IAEAは、保障措置が一時停止されるのは実際に軍事利用されている物質についてのみで、濃縮工程などの核工程には通常の保障措置が適用される、と示している。燃料設計は秘密である場合があるため、燃料製造については特別な取り決めが必要になる。しかし、機密情報を開示することなく、当該核物質に関する継続的知見を得られるようにする保障措置の方法がある。燃料の装荷と取り出しが監視され、潜水艦が運用可能状態であることが判明している場合は、燃料が転用されていないという十分な保証が確立され得る。

オーストラリアの場合、寿命が原子炉と同等以上の炉心を使用することが想定されている。つまり、オーストラリアは燃料の製造を行わず、原子炉への燃料補給も行わないということである。提供される原子炉にはすでに燃料が装荷されており、30年程度と予想される潜水艦の運用寿命が尽きたときには、潜水艦は原子炉とともに、サプライヤー(今回の場合は米国、あるいは英国かもしれない)に返却されることになる。

この方法を用いれば、海軍燃料の供給の安全保障を確保するために濃縮プラントを運用する必要があると主張する国々について、拡散の懸念を回避することができる。オーストラリアのプロジェクトについては、オーストラリアが燃料の取り出しや転用を行わないことをIAEAに立証することは簡単である。

完璧を期すために、南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)について言及がなされるべきである。この条約は、条約地帯内での核兵器の取得、保有、配備、実験を禁止しているが、原子力船は禁止していない。

AUKUS加盟国は、NPTに基づく各国の義務を全面的に遵守するとともに、「……グローバルな不拡散と厳格な検証基準における長年のリーダーシップを反映する形で、国際原子力機関と協力し協議しつつ、この努力を行うこと」を誓約している。

ジョン・カールソンは、ウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)の非滞在型シニアフェローである。

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【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】

米英両国が手を結んでオーストラリアに原子力潜水艦を提供する三国間協定(AUKUS)の締結を受けて、反核活動家らは、協定が地域における新たな核大国の登場につながるとの懸念を示した。

スコット・モリソン豪首相は、三国は「新たに強化された三国間安全保障パートナーシップ」に合意したと述べ、新協定は「国内で原子力を推進したり、核兵器を取得したりする動きにつながるものではない。」と断言した。

しかし、豪州自然保護財団(ACF)は、もし政府が核兵器禁止条約に署名・批准すれば、首相の言葉にも信用が置けるだろうと述べた。

「もしそうしなければ、核兵器保有へと将来的にこっそりと横滑りしていく扉は開けているということだ。」と同財団は警告した。

核禁条約はこれまでに50カ国以上が批准して発効済だが、豪州は未加盟のままである。

オーストラリア・コンサベーション財団のデイブ・スウィーニー氏は、「米英とのこの新防衛協定には依然として不明な点が多いが、原子力潜水艦は、環境や安全保障の面で(豪州の港や造船所、海洋に対して)懸念をもたらすものであり、オーストラリアにとって深刻な意味を持つ重大な動きだ。」と語った。

他方、12隻のディーゼル型潜水艦を総額660億ドルで豪州に供与する予定だったフランスは契約を反故にされて激怒している。フランスと英米との間に政治的な対立が起きる可能性もある。

Prime Minister of Australia Scott Morrison/By The White House, Public Domain

AUKUS取り決めはまた、中国が南シナ海におけるプレセンスを主張し、その領土主張を台湾にまで広げる中で、米国によって完全に武装され装備の提供を受けた豪州が太平洋における海軍バランスを均衡させようとする取り組みの一環だと見られている。

英国の「アクロニム軍縮外交研究所」のレベッカ・ジョンソン博士はIDNの取材に対して、(スコットランドのグラスゴーで10月31日から11月12日にかけて予定されている)国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が近づく中、「この原子力潜水艦協定は、地球が直面している本当の安全保障、環境上の問題から危険なまでに乖離しているものだ。」と語った。

ジョンソン博士は、原潜は本質的にまるで「かくれんぼ」のような軍事的ゲームのためのものであり、核戦争の危険を増すものだと語った。

「フランスとの契約を破棄した豪州の決定は対中防衛を念頭になされたものだが、地球温暖化が毎年深刻になる中、これはまるで12隻の原潜『タイタニック号』が海底に叩きつけられようとしているときに、椅子でのんびりと座って議論に明け暮れているようなものだ。」とジョンソン博士は警告した。

ブリティッシュ・コロンビア大学(バンクーバー)公共政策大学校リュー・グローバル問題研究所長で、「軍縮・グローバル・人間安全保障問題」の教授を務めるM・V・ラマナ教授はIDNの取材に対して、AUKUSパートナーシップと、原子力潜水艦への移行を図る今回の提案は、中国との緊張関係を悪化させ、すでに起こっている軍拡競争をさらに加速させることになろうと語った。

ラマナ教授はまた、「この決定によってより多くの国々が競争に引き込まれることになる。中国指導部は包囲網が強化されたと感じるだろう。という意味では、今すぐにというわけではないが、戦争がより近くなったと言えよう。」と指摘したうえで、「機微の軍事技術を共有するという今回の決定が与えるもう一つの影響は、既に弱体化している不拡散体制をさらに損なう点にある。」と語った。

「ブラジルの例にみられるように、非核兵器国が原潜を開発することには常に懸念があった。潜水艦の推進力となる原子炉の濃縮ウランやプルトニウムを追跡することは困難だからだ。これらの原潜が海洋に出た場合、その居場所はわからなくなり、例えば国際原子力機関が追跡することができなくなる。高濃縮ウランを燃料とする原潜を移転することは、その他の国々にとってのきわめて悪い前例になるだろう。」とラマナ博士は指摘した。

ジョンソン博士は、いっそう危険なウランを燃料とする潜水艦を取得するために英米と手を結んだことで、地域と国際の安全が危機にさらされ、外交的・協力的解決策を見つけることが困難になると語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

豪州は、核不拡散条約(NPT)や、ラロトンガ条約のような他の南太平洋諸国との安全保障取り決めに違反するという道を駆け下るのではなく、核兵器禁止条約に署名し履行することでその利益をよりよく実現することができるはずだ。英国やフランス、中国、米国に関しても同様であろう。

「私たちは目を覚まし、地球が焼け焦げている臭いをかぐべきだ。核戦争につながりかねない脅威をエスカレートするのではなく、集合的な人間の安全保障に重きを置いて、気候変動によるメルトダウンを防ぐべく地球温室効果ガスを大幅に削減することにより多くの資源を割くべきだ。」とジョンソン博士は主張した。

インドネシアのディノ・パティ・ディジャラル元駐米大使は「アングロサクソン系3か国の内の1か国が、インド太平洋地域で軍事的な騒ぎを起こしているというのが、現在の構図だ。」と語ったとされる。

ディジャラル元大使はまた、「『外部の者』は地域の国々の望み通りに行動することはないという中国が示している見方を補強することになってしまう。」と指摘したうえで、「心配なのは、このことが現在においても将来においても不必要な軍拡競争を引き起こしてしまうかもしれないということだ。」と語った。(原文へ) 

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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