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世界は危険な新冷戦2.0に陥りつつある

【ニューヨークIDN=ジョセフ・ガーソン】

ロシアによるウクライナ侵攻と、もし西側がウクライナ情勢に直接介入してきたら壊滅的な核攻撃に訴えるとウラジーミル・プーチン大統領が繰り返し脅していることは、無条件で非難されるべきであり、反対すべきことだ。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

プーチン氏はエマニュエル・マクロン大統領にウクライナ全土を奪取するつもりだと語っているが、各地で行われているデモ活動が要求しているように、即時の停戦とウクライナからの全外国軍の撤退、協議を要求しなくてはならない。

プーチン氏とロシア国民には、たしかに安全保障に関する正当な懸念がいくつもあった。つまり、北大西洋条約機構(NATO)が、欧州安全保障協力機構(OSCE)のいかなる加盟国も他国を犠牲にして自国の安全保障を強化しないことを約束したパリ憲章やNATO・ロシア基本議定書に違反したこと、米国・ドイツ・その他のNATO軍がロシアの国境に存在し、核の先制使用につながりかねないミサイル防衛網をルーマニアとポーランドに配備していることなどである。

しかし、プーチン氏の民族主義的、大国主義的野望が侵略に拍車をかけたことは明らかであり、それは正当化されるものではなかった。ロシア軍がウクライナの三方を取り囲んでいたため、プーチン氏には安全保障上の懸念の解消を確実にするための外交的な影響力があった。

また、ロシア、欧州、米国の元政府高官やアドバイザーが参加したトラック2協議では、迫りくる危機から抜け出すための外交的道筋が話し合われ、NATO拡大の凍結、ウクライナ国家を中立化・連邦化する「ミンスク2」合意の構築、中距離核戦力全廃条約の発展・更新、挑発的な軍事演習の制限、戦略的安定協議の再開、新戦略兵器削減条約(新START)延長に向けた協議などが、提案されていた。

プーチン氏への憎悪をかつて隠しもしなかった米国のマイケル・マクフォール元駐露大使ですら、ロシア政府との大きな交渉(グランド・バーゲン)、すなわち「ヘルシンキ2.0」を開始すべき時だと『フォーリン・アフェアーズ』誌で主張していた。

にもかかわらず、プーチン氏は野蛮な軍事侵攻を開始した。

スローモーションのキューバミサイル危機

米国とNATOはこの戦争を回避するためにもっと多くのことができたはずだ。ジョー・バイデン大統領とブリンケン国務長官は、フランスとドイツがウクライナのNATO加盟に反対し、NATO拡大への「新たな扉」を閉じることを求めていたのだから、15年間はNATO拡大の凍結を提案することもできたはずである。

Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.
Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.

ミンスク2合意の一部の履行をウクライナ政府に迫ることができなかった米国は、ウクライナの独立と民主主義を損なわない形でロシアの安全保障上の懸念に応えるようなウクライナの中立化・連邦化を交渉すべく同合意を利用する方向に自らを向かわせるべきであった。

今や、ウクライナとロシアの殺し合いが始まってしまった。ウクライナ各地の都市は荒廃している。少なくとも200万人のウクライナ市民が避難した。そして、世界は、新たな氷河期とも呼ばれる、危険な新冷戦2.0の時代に陥りつつある。

事故や計算違いから核戦争やサイバー戦争が起こるリスクが増し、人間の基本的なニーズや気候変動に対応する貴重な資源を新たな軍拡競争と社会の軍事化のために浪費する中で、人類はもっとも暗い時代に突入しつつある。

プーチン氏の核の脅しは極めて危険なものだ。彼はロシア経済を空洞化しつつある大規模かつ無差別的な経済制裁を非難しつつ、国家指導者と包囲された国家の下に集い戦争へと踏み出すように国民を先導している。

ウクライナ上空に飛行禁止区域の設定を求める高まる圧力にバイデン大統領が負けることがあれば、限りなくロシア・NATO間の戦争に近づく。米軍やNATO軍の航空機がロシアの航空機を撃墜すれば、大戦、おそらくは核戦争は不可避だ。そこまで行かなくとも、戦争が戦われている中で事故や衝突、計算違いなどがあれば、考えられないような事態が起こる可能性がある。

Address by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy to the US Congress., PDM-owner

ウクライナがブダペスト覚書により、領土と主権の保全の保証と引き換えに、ソ連から継承した核兵器を放棄していたことから、既に、米国による台湾への核配備や、日本や韓国の核保有を認めるよう求める声があがっており、ウクライナがふたたび核を保有するかもしれないというウォロディミル・ゼレンスキー大統領のミュンヘン安全保障会議での不用意な威嚇につながっている。

「スローモーションのキューバミサイル危機」と米ロ双方の識者が評した事態に直面して、世界は、無視しえない核兵器と核戦争に断固とした「ノー」を唱えるとともに、停戦を要求しなくてはならない。この危機の中に、たとえかすかではあっても一筋の光明があるとすれば、この核の威嚇と危険が、核兵器廃絶が緊急に必要であることについて人類を目覚めさせつつあるということである。

残忍な戦争と核の脅威の中にあって、皮肉なこともある。プーチン氏の武力侵攻と核の脅威が恥ずべき行為であるのと同様に、その行為は、数十年、或いは数世紀に及ぶ米国の帝国主義と核の脅威を模倣したものでもある。

外国からの介入に対する緩衝地帯と勢力圏を追求するロシアの行動は、数世紀の歴史を持つ米国の「モンロー主義」の合わせ鏡だ。米国はこれによって西半球は自らの勢力圏であると主張して、非協力的な政府を繰り返し転覆させ、キューバミサイル危機に際しては核戦争開始の威嚇をかけた。

ダニエル・エルズバーグ氏らが指摘してきたように、数多くの国際危機や戦争の間、米国の歴代の大統領は繰り返し、核戦争の準備をし、敵を威嚇する核戦争の脅しをかけ、米国が攻撃を仕掛けようとしている相手を誰も支援しないようにさせてきた。

例えば、1946年のイラン危機がそうであったし、朝鮮戦争時のハリー・トルーマン大統領とドワイト・アイゼンハワー大統領、ベトナム戦争時のリンドン・ジョンソン大統領とリチャード・ニクソン大統領、湾岸戦争とイラク戦争前夜のジョージ・ブッシュ大統領とジョージ・W・ブッシュ大統領、そして、北朝鮮に対するドナルド・トランプ大統領の「炎と怒り」の威嚇がそうであった。

Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB
Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB

漫画「ポゴ(Pogo)」の作者ウォルト・ケリーが我々に教えてくれるように、この危機が教えてくれるものは「我々が目にしている敵は、実は我々自身」だということだ。被爆者は我々に「人類と核兵器は共存できない」ということを長年に亘って教えてくれている。

そして、マルコムXが述べたように、核戦争を開始するとの再三の脅しと準備を含めた米国の傲慢さと帝国主義は、結局のところ自らに跳ね返ってくる。ちょうど、ロシアのウクライナ軍事侵攻と核使用の威嚇によって我々すべてが現在脅かされているように。

戦争の熱が高まる中、誰も核戦争の引き金を強く引くことがないようにするための知恵が緊急に求められている。これまでのすべての戦争の場合と同じく、我々がこの戦争を生き延びることができるとして、それは外交的協議によって終末を迎えることになるだろう。

また、我々は、その合意によってウクライナの独立と主権を確保し、破滅的な21世紀の氷河期への勢いを止めて、共通の安全保障という1990年代の約束を復活させねばならない。

部分的核実験禁止条約や核凍結、中距離核戦力全廃条約を勝ち取った際に我々がそうしたように、幻想から抜け出して、命を守る核軍縮や新たな軍備管理協定、これらの絶滅兵器の廃絶に向けた道筋へと野蛮な諸大国を導くためにできるすべてのことをなさねばならない。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|ウクライナ| 国連高官、安保理に民間人死者数の徹底調査を要請

人類が核時代を生き延びるには、核兵器がもたらす厳しい現実と人類の選択肢を報じるジャーナリズムの存在が不可欠(ダリル・G・キンボール軍備管理協会会長)

ウクライナ危機はパワーシフトの時代の地政学的な断層を映し出す

|ウクライナ| 国連高官、安保理に民間人死者数の徹底調査を要請

【国連IDN/ UN News】

「ウクライナにおける民間人の犠牲と民間インフラの破壊の規模は決して否めません。」3月17日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合において、国連政治局長がこのように指摘したうえで、徹底的な調査と説明責任を果たすよう要求した。

政治・平和構築担当のローズマリー・ディカルロ事務次長は、安保理でウクライナの諸都市が毎日のように攻撃されている実態について詳述し、その多くが無差別に行われたと報告した。さらに、「民間人は軍事作戦に伴う危険から保護される権利があります。国際人道法は極めて明確です。」と主張した。

UN Security Council adopting historic resolution on youth, peace and security. Credit: UN
UN Security Council adopting historic resolution on youth, peace and security. Credit: UN

2月24日から3月15日の間に、人権高等弁務官事務所(OHCHR)は1900人の民間人の犠牲者を記録し、52人の子どもを含む726人が死亡したと報告した。

ドネツクのOHCHRスタッフは、クラスター爆弾を含む可能性のあるソ連時代のトーチカ戦術弾道ミサイルによって20人の民間人が死亡したとされる3月14日の事件に関する進展を追っている。

マリウポリ: 路上の死体

ディカルロ事務次長は「一方、ウクライナ南東部の港町マリウポリでは、避難できない多くの住民(街は既に2週間に亘ってロシア軍に封鎖されていて、約3万人が脱出したものの、35万人以上の住民が地下室等に隠れて生活を続けている)の食料、水、電気、医療が不足している。また、街の通りには回収されない死体が転がっている。」と警告した。

3月16日にロシア軍の攻撃を受けたマリウポリ劇場は、避難民のための防空壕として機能していたとされ、攻撃を受けた民間の建造物リストに追加された。

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

国連の優先事項は、ウクライナ東部を含む、砲撃によって街に閉じ込められた人々に手を差し伸べることだという。

ディカルロ事務次長は、ロシア軍に包囲された地域から民間人が安全に退避できる通路の確保と、包囲された地域へ人道物資を搬入できるよう求めるとともに、難民を寛大に受け入れている近隣諸国への感謝を表明した。

「この無意味な紛争に勝者はいません。」とディカルロ事務次長は語った。

「驚異的な」難民のレジリエンス

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のラオフ・マズー運営担当高等弁務官補は、ロシア軍の軍事侵攻が開始されて3週間足らずでウクライナから近隣諸国へ逃れた人の数が52万人から310万人以上になったと指摘したうえで、「第2次世界大戦以降、欧州で最も急速に拡大している難民危機を目の当たりにしている。」と語った。

マズー高等弁務官補は、「私たちは、多くがビニール袋しか持たずに家を後にした難民のレジリエンスと、受け入れ当局やホストコミュニティの並外れたもてなしに、身の引き締まる思いです」と語った。

一方、ウクライナからの難民が200万人に迫るポーランドは、瞬く間に世界最大の難民受入国のひとつとなった。

さらに49万人がルーマニアに、35万人がモルドバに、28万人がハンガリーに、22万8千人がスロバキアに逃れており、その他にもロシアやベラルーシに移動している人々もいる。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

マズー高等弁務官補は、「現在の難民の流出ペースでは、近隣諸国の能力の限界が試されています。」と述べ、国際社会にさらなる支援を呼びかけた。

戦争が健康にもたらした悪影響は今後何年も続くだろう

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエス事務局長は、戦争による健康への壊滅的な影響は、今後数年から数十年にわたり波及するだろうと語った。

ウクライナの保健サービスは、ロシア軍が水と衛生設備、保健施設を広範に破壊していることから、深刻な混乱に陥っている。

WHOはこれまでに43件の医療機関への攻撃を確認し、12人が死亡、34人が負傷したことを指摘し、「医療機関への攻撃は、いつであれどこであれ、国際人道法違反である」ことを強調した。

医療サービスの途絶は極度の健康リスクをもたらす

テドロス事務局長は、医療サービスや物資の途絶が、ウクライナの主要な死亡原因である心血管疾患、がん、糖尿病、HIVの患者に「極度の」リスクを与えていると語った。同時に、移住、劣悪なシェルター、過密な生活環境は、はしか、肺炎、ポリオのリスクを高めるとみられている。

Tedros Adhanom Ghebreyesus, Director General, World Health Organization at the AI for Good Global Summit 2018/ By ITU Pictures from Geneva, Switzerland, CC BY 2.0
Tedros Adhanom Ghebreyesus, Director General, World Health Organization at the AI for Good Global Summit 2018/ By ITU Pictures from Geneva, Switzerland, CC BY 2.0

また、戦争は新型コロナウィルス感染症の影響を悪化させており、検査の減少が「重大な未検出感染」につながっていると思わる。

WHOは、ウクライナ西部のリヴィウにある倉庫から国内各地の都市に供給ラインを確立しているが、課題もある。

医療物資が必要な人々の手に届かない

テドロス事務局長は、「私たちは、国連の合同輸送隊が困難な地域に入るための重要な物資を準備していますが、今のところ成功していません」と述べ、医療物資を積んだWHOトラックを含むウクライナ北東部のスームイへの輸送隊が街に入れなかったことを指摘した。また、「マリウポリに送る荷物が準備区域に置かれたままであり、輸送を進めることができない。」と語った。

テドロス事務局長はまた、「これらの地域や他の地域へのアクセスは、現在、非常に重要です」と強調し、安保理理事会に対し、即時停戦と政治的解決のために努力するよう促した。

隣国ポーランド

これに先立つ17日、ロシア政府は、国連の最高司法機関である国際司法裁判所からの攻撃停止勧告を拒否した。

ポーランドのクシシュトフ・マリア・シュチェルスキー国連大使は、「ロシアの残忍な行動は100%自ら選んだ戦争である。』と指摘したうえで、「我が国は、戦争がもたらした悲惨な人道的結果を目の当たりにしており、国籍、人種、宗教信条に関係なく、連帯の精神で難民を受け入れていく。」と語った。

シュチェルスキ大使は、ロシアに対し、軍事的な手法を改めるよう強く促すとともに、即時停戦と民間人への人道的アクセスを求めた。(原文へ)

INPS Japan

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ウクライナ戦争が世界の貧困国への開発援助を脅かす

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ウクライナ戦争が世界の貧困国への開発援助を脅かす

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連アントニオ・グテーレス事務総長は、現在ウクライナで起きている壊滅的な戦争が、外の世界にも同様に破壊的な影響を及ぼしており、世界で最も脆弱な人々や国々を直撃していると警告している。

世界食糧計画(WFP)の小麦供給量の半分以上を供給していたウクライナがロシア軍の空爆を受ける中、食糧、燃料、肥料の価格が高騰し、最も大きな影響を受けるのは世界の貧困層である。

ウクライナ紛争は、欧米諸国が世界の最貧国に対して行っている開発援助にも悪影響を及ぼしている。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

ロンドンに本拠を置く人道支援団体オックスファムは、3月18日に発表した報告書の中で、ウクライナ危機の世界的な影響は、食料、商品、エネルギー価格の急上昇にすでに現れており、他の人道危機に直面している地域の人々を支援する公的支援活動を阻害することになりかねないと述べている。

オックスファムは、一部の援助供与国が既に、対ウクライナ支援と同国からの300万人以上の難民受け入れに援助予算をシフトしていることを懸念している。

また、欧米のドナー諸国は、他の人道危機に直面している地域に対する援助を控えるようになっている。オックスファムは、援助供与国に対し、新たな資金、特に政府開発援助(ODA)でウクライナのニーズに応えるよう求めている。

オックスファムは、欧州連合(EU)が東ティモールへの人道支援資金を半減させたこと、一部の援助国がブルキナファソへのODAを70%削減することを示唆していること、また、他の西アフリカ諸国に対しても援助削減について事前に警告を発していることを認識していると語った。

一方、ドイツは、ウクライナ支援が決まるまでは、保留中の資金提供案を決定できないと示唆しており、これは世界の他の地域での人道支援を危険にさらすことになると、オックスファムは語った。

経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)は、ODAを「開発途上国・地域に対し、経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的として公的機関によって供与される贈与および条件の緩やかな貸付等」と定義している。

DACは1969年にODAを対外援助の基準として採択し、現在も開発援助の主要な資金源となっているが、ウクライナ危機とその影響により危うい状況にあるのも事実である。

国連の長年の目標では、先進国は国民総所得の07%をODAに充てるべきとされている。

オックスファムによれば、北欧の援助供与国はウクライナに対して3億ユーロの拠出を約束しており、そのほとんどはノルウェーが拠出している。しかし、ノルウェーの拠出が新たに追加されるものでなければ、この金額はノルウェーの人道支援予算の40%近くに相当するため、他の地域への人道支援が大幅に削減を余儀なくされることとなる。

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

スウェーデンは新たな資金を割り当てたが、その援助予算は追加資金が見つかるよりも先に「調整」されてしまう恐れがある。

またオックスファムによると、デンマークは既存の援助予算から支援を行うとしており、開発協力大臣は「いくつかの厳しい選択と優先順位の再検討」、つまり他の危機対応プログラムの延期やキャンセルを行うと警告している。

「欧州をはじめ、世界中から惜しみない支援がウクライナに寄せられる中」、オックスファムはスペイン、オランダ、フランスがウクライナからの難民を支援するために新たな資金を提供したことを称賛し、これらの資金が他の人道支援予算枠に追加されることを公に確認するよう呼びかけている。

イタリアは、既存の支援予算から1億1000万ユーロをウクライナからの難民のために支給すると述べているが、まだ正式な確約はしていない。

英国は、一般からの呼びかけに応じて過去最大の2,500万ポンドを寄付し、ウクライナ難民を受け入れた家庭に月350ポンド(約5万4000円)の謝礼を支払う難民受け入れ制度を発表した。

オックスファムによると、欧州には難民支援について汚点となった過去の実績がある。2015年、約150万人の難民がシリアなどから欧州に流入したとき、援助国が難民支援に充てた金額は平均して援助約束額の僅か11%(154億ドル)に過ぎなかった。

オックスファムのEU事務所長であるエヴェリアン・ヴァン・ルンブルグ氏は、「一部の豊かな国々が援助予算を事実上国内で使ってしまうような事態は避けなければなりません。」と語った。

ルンブルグ氏はまた、「エチオピア、ケニア、ソマリア、南スーダンで今起きている広範な飢餓を救済するための国連の60億ドルのアピールに対して、今のところ資金の3%しか提供されていない。」と指摘したうえで、「ウクライナの人々に対して支援することは重要ですが、そのために、イエメンやシリアの人々、東・西アフリカで絶望的な飢餓に直面している数百万の人々、バングラデシュやその他の国々の難民キャンプにいる人々、コロナ禍や気候変動で最も大きな被害を受けた人々に向けた人道支援予算が削減されて、彼らにしわ寄せがいかないようにしなければなりません。」と語った。また、「しかし、人道危機に直面しているウクライナ以外の地域へのライフラインをカットするのではなく、創造性を発揮する必要があります。例えば、毎日、超高級ヨットや豪邸が差し押さえられるというニュースを耳にします。毎日、あらゆる国籍の億万長者が、投機、税金逃れ、企業利益と株価の高騰によって法外な利益を得ているのです。」と語った。

LLDC/ UNCTAD
LDCs/ UNCTAD

「新型コロナウィルス感染症の影響から自国の経済を救うために何兆円も使うのは当然として、ウクライナからの難民やソマリアの飢えた農民を助けることは選択肢にすぎないという主張には賛同できません。」とファン・ローエンバーグ氏は語った。

「正しいことをしているドナーは素晴らしいと思います。紛争や気候変動を止め、世界の食料システムを再構築するための努力を倍加させるように、余裕のある人たちが困っている人たちに手を差し伸べ、支援しましょう」と語った。

Wheat (Triticum aestivum) near Auvers-sur-Oise, France, June 2007/ Wikimedia Commons
Wheat (Triticum aestivum) near Auvers-sur-Oise, France, June 2007/ Wikimedia Commons

ウクライナからの小麦の供給不足について問われた国連のステファンドゥジャリク報道官は、3月17日、「WFPは小麦供給の約50%をウクライナから得ており、オープンマーケットで購入しています。問題は、商品価格が軒並み上昇していることです。それで、私の記憶違いでなければ、毎月の購入代金が7100万ドルほど加算されていると思います。」と記者団に語った。

一方、グテーレス事務総長は先週、ロシアとウクライナは世界のひまわり油の供給の半分以上と、世界の小麦の約30%を占めていると述べた。

穀物価格はすでに「アラブの春」開始時や2007年から2008年にかけての食糧暴動時の価格を超えているという。FAOの世界食料価格指数は過去最高水準にある。

アフリカと後発開発途上国の45カ国は、小麦の3分の1以上をウクライナ(または)ロシアから輸入しており、そのうち18カ国は50%以上を輸入している。

これには、ブルキナファソ、エジプト、コンゴ民主共和国、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンといった国々が含まれる。(原文へ

INPS Japan

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|ブルキナファソ|サンカラ殺人を巡る未解決事件を審理する裁判が始まる

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

アフリカのチェ・ゲバラと呼ばれたトマ・サンカラの殺害を巡っては、未だに全容が解明されていない。しかし、正義が否定されるようなことってはならない。

35年前の1987年、革命の象徴であり、西アフリカのブルキナファソの若き大統領であったサンカラは、その人気の絶頂期に射殺された。

長年、彼の友人であり同僚であったブレーズ・コンパオレが殺害を仕組んだと疑われていたが、調査は許されず、サンカラは自然死であるというフィクションが流布されることになった。

人権団体や犠牲者の家族は、そうではないと主張している。その後コンパオレは27年間にわたってブルキナファソに君臨したが、任期延長を狙った憲法改正案に反発した民衆の蜂起により2014年に失脚し、隣国コートジボワールに亡命したため、本格的な捜査が開始される可能性が出てきたのである。

昨年10月に始まったコンパオレの裁判は、ブルキナファソが1月起きた最新の軍事クーデターから立ち直ろうとする中で開かれた。経済の停滞、貧困の定着、執拗な襲撃を繰り返すイスラム過激派対策の不備に対する国民の怒りによってもたらされたものだ。

トマ・サンカラを覚えている多くの人々にとって、サンカラは熱烈なマルクス・レーニン主義者であり、帝国主義や植民地主義に反対する力強い声であった。アフリカ諸国に対して債務返済を拒否するよう呼びかけ始めたときなど、現状維持に利害関係を持つ国際社会は、サンカラの急進主義を快く思ってはいなかった。

サンカラ暗殺の真相を巡っては、彼を危険人物とみなしていた旧宗主国フランスをはじめ、コートジボワール、リベリア、リビア等、外国が関与したとする憶測がある。

「サンカラは、内閣の要請でルノー5(最も安価な大衆車)に買い換えるまでは、自転車で通勤していた。また、レンガ造りの小さな家に住み、国産の綿で織られた服だけを身に着けていました。」とナイジェリア出身のポーラ・アクギジブエは回想する。

ブルキナファソが位置するサヘル地域では男尊女卑の風潮が根強く、農村地域では女性器切除(FGM)が一般化していたが、サンカラは、一夫多妻婚や強制結婚と共にFGMを禁止した。また自らの政権に初めて女性の閣僚を登用し、政府の要職に次々と女性を就任させるなど、女性の地位向上に努めた。

とりわけ重視されたのが教育だった。サンカラの任期中、識字率は1983年の13%から87年には73%に上昇した。また、サヘル地域で最も深刻な感染症である脳髄膜炎、ポリオ、麻疹などの予防接種を90%の子供に実施し、世界保健機関(WHO)から称賛された。

また特権的な地主から土地を強制収用し、農地を小作農に再分配したうえで、農業技術の改良に予算を集中投下し、灌漑のための小規模ダムの建設や井戸の掘削などを進めた結果、ブルキナファソの1ha当たりの穀物収穫量は3年間で飛躍的に拡大した。これは、生産性の低さゆえに飢餓が慢性化しているサヘル地域としては、当時驚くべき成果であった。

もし有罪になれば、コンパオレはブルキナファソに戻った場合、30年の懲役刑に服することになる。しかし、たとえコンパオレの裁判が無罪、あるいは可能性が低いものの訴えの却下という結果に終わったとしても、軍民を問わず人権侵害者に対し、この地域(西アフリカ)ではもはやこれまでのようにはいかないというメッセージを送ることになるのだろう。(原文へFBポスト

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

アフリカの多くの国々でジハード主義者が市民や国の安全保障に脅威を与えているなか、新たな「アフリカ争奪戦(Scramble for Africa)」に参入してきたロシアと中国は、大陸各地で積極的に取引や融資、友好関係や同盟構築を進めている。

アフリカ争奪戦」とは、「アフリカ分割」や「アフリカ征服」とも呼ばれ、本来の意味は、1881年代から第一次世界大戦前の1914までの比較的短期間に、欧州の帝国主義列強7ヵ国がアフリカ大陸の大部分を侵略、併合、分割、植民地化した過程をさす用語である。

Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.
Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.

1870年時点で欧州列強の支配下にあったのはアフリカ大陸の10%だったが、1914年には90%近くまで拡大し、エチオピア(アビシニア)とリベリアだけが独立を保っていたが、エチオピアはその後1936年にイタリアに侵略され、占領されている。

その後、冷戦が始まり、共産主義者と反共産主義者が資源豊かなアフリカ大陸で影響力を争うようになった。ソ連に味方する国もあれば、米国に味方する国もあった。

アフリカを、固有の価値が備わった大陸としてではなく、超大国間の対立の場として扱かったため、米国の地域政策を歪めることになった。このことは、ある意味で現在も続いている。

新たな競争相手である中国は、鉱物資源の権利を確保するためにインフラ整備に何十億ドルも費やし、ロシアは政府と提携した傭兵を通じて安全保障を提供している。

「自由民主主義国家としてこの競争から手を引けば、他国が政治的空白を埋めることになるのは目に見えている。」と、ドイツ緑の党の党首で初の女性外相となったアナレーナ・ベアボック氏は、ロシアによる軍事侵攻が始まる数日前に欧米の外交官たちがウクライナ危機について集まっているときに語っている。

ワールド・ポリティクス・レビューのスティーブン・メッツは、「残念ながら、過去について知っていても、それを繰り返さないとは限らない。アフリカでは、再び外部勢力による競争が始まる兆しがある。もしそうなれば、今回もアフリカ大陸にとって悪い結果になるかもしれない。」と書いている。

ロシアがアフリカ大陸に進出しているのは、スーダン、マリ、中央アフリカ共和国、南アフリカ共和国などだ。先月、スーダンのモハメド・ハムダン・ダガロ将軍は、ロシアのウクライナ侵攻の前夜にモスクワで政府当局者と会談し、経済を中心とした新たな同盟関係について議論した。

帰国後、ダゴロ将軍は、紅海のポート・スーダンにロシアが念願の海軍基地を建設することを認めることに前向きであることを発表した。

Photo: Russian military expands in Africa by building bases in Africa. Credit: Russian Ministry of Defence.
Photo: Russian military expands in Africa by building bases in Africa. Credit: Russian Ministry of Defence.

12月には、ロシアの民間軍事企業「ワグネル・グループ」がマリ政府と月1000万ドルの警備契約を結んだとの報道に、欧米諸国が警戒感を表明した。観測筋は、フランス主導で数年間に亘って実施されてきた対過激派作戦の成果があがらず、地元で高まる不満をワグネル社が利用したとみている。地元は、ロシアの戦闘員により良い結果を期待しているという。

1月にマリの首都バマコにロシアの代表団が到着した際、詰めかけた群衆の一人が叫んだという。「ロシア万歳!」「マリ国民万歳!」

ワグネル・グループは、中央アフリカ共和国(CAR)のフォースタン=アルシャンジュ・トゥアデラ大統領を支援し、最近の政府の前進にもかかわらず、国内の多くの地域を依然として支配している反政府勢力との戦いにも協力している。2016年から政権を担っているトゥアデラは、フランス軍と国連軍の存在にもかかわらず、反政府勢力の撃退に苦戦していた。彼は、ロシアの傭兵の方が成功していると考えている。

国連の専門家は、ロシアがCARに派遣した教官は、ワグネルが活動しているシリアやリビアからの新兵を含め、2000人以上いる可能性があるとみている。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
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南アフリカでは、シリル・ラマポーザ大統領が、プーチン大統領と会談した後、ロシアとウクライナの和平調停に協力するよう要請されたと述べている。しかし、南アフリカとロシアとの結びつきが、中立性に影響を与えるのではないかと疑問視するアナリストもいる。最近国連特別総会で、隣国ウクライナへの軍事侵攻を巡るロシアへの譴責決議が行われた際、南アフリカは投票を棄権している。

ラマポーザ大統領によれば、「国連決議は有意義な関与を約束するものではなかった。政治的対話による平和的解決の呼びかけは、最終文の結末に近い一文に追いやられていた。」と述べた。しかし、南ア最大野党である民主同盟によると、ラマポーザ大統領は、与党アフリカ民族会議(ANC)に750万ランド(約50万米ドル)を寄付しているロシアのオリガルヒ、ヴィクター・ベクセルベルグの影響を受けている可能性があるという。(原文へ) FBポスト

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「フェミニスト国連キャンペーン」、国連事務総長に有言実行を求める

【ワシントンDC・IDN=J・C・スレシュ】

「話はいいから行動を…すべての言葉が羽のように空中に飛んでいく」―国連のアントニオ・グテーレス事務総長の第1期5年間のジェンダー平等への取り組みに関する「フェミニスト国連キャンペーン」の報告書に記録されている、ある聞き取り対象者の言葉である。

実際、主要な情報提供者は、国連職員は「国連のマッチョ文化が聖域になっていること」に辟易しており、国連の報告・是正メカニズムに不信感を抱き、報復を恐れている、と証言している。

ICRW

さらに、UNウィメンの新事務局長であるシマ・サミ・バホス氏の選考プロセスが非公開であったことは、事務総長がジェンダー平等を目指す変革に向けて大きく踏み外したものであると考えられている。

同キャンペーンは、事務総長は第2期(2022年~26年)にあたってより包括的で進歩的なアジェンダを推進することを期待している。それは、組織を横断的に巻き込み、人権を擁護し、構造的・制度的変革に向けた行動を起こし、国連システム全体を通じてジェンダー平等を前進させるアジェンダであるべきである。

1期目の5年目におけるグテーレス氏のジェンダー平等への取り組みに関する報告書で、2020年に一定の進展があったのち、2021年の評点が「B」から「Bマイナス」に下がったと指摘した。

「フェミニスト国連キャンペーン」は2016年に国連のフェミニスト・ビジョンを起草し、過去5年間、そのビジョンに向けた事務総長の進展度合いを採点してきた。2017年以降、この成績表は、よりジェンダーに公平な国連システムのための以下の6つの優先分野で、事務総長の取り組みにどの程度進捗があったのかを測定してきた。

1.女性を指導的地位に押し上げるための方針を策定・実施すること。

2.持続可能な開発目標(SDGs)に関して、ジェンダー平等的な観点からの履行と説明責任を果たすこと。

3.男女共同参画のための資金調達。

4.男女同等の取り扱いと人権の擁護。

5.「国連女性の地位委員会」とUNウィメンをジェンダー平等の観点から変革すること。

6.国連システムにおける情報公開を促進すること。

「ザ・ネイチャー・コンサーバンシー」のラテンアメリカ地区政策責任者で、報告書の作成に携わったサラ・ガマージュ氏は、「この『国連成績表』は、注意深い分析、そして集団的で思慮深い精査が、より男女平等的な国連への道筋を示せることを表している。報告書は、市民社会にとって重要な役割を果たし、彼女らの声を高め、国連組織とその指導者が、人事においても職務においても意味のあるジェンダー平等を実現させるようにするものだ。」と述べている。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

今年の国連事務総長の活動は、キャンペーンが定めた6つの優先項目中、4つ(1.2.4.5.)で大幅に低下した。他方で、2つの優先項目(3.6.)においては改善が見られた。

キャンペーン報告書の著者らは、包括的なテーマとして、説明責任の欠如、情報やアクセスに関する一貫しない透明性、ジェンダー関連における横断的活動への理解や推進力の欠如を、挙げている。

「女性を指導的地位に押し上げるための方針を策定・実施すること」について、事務総長は、ジェンダーの重要性を繰り返し強調した点では評価できる。しかし、彼の呼びかけには、男女平等な扱い以上の実行可能な取り組みや説明責任が欠けている。グテーレス氏は、解決策の策定や実施における女性の自律性・参加・積極的な協議とは対照的に、「女性の保護」を優先させる言葉を用いている。

また、2021年のグテーレス氏の発言を見ると、思春期の少女、「LGBTQIA+」の人権、障害、ハラスメントへの言及はほとんど出てこない。「フェミニスト国連キャンペーン」は事務総長に対して、組織横断的なジェンダー分析を先鋭化させ、国連の組織を横断した理解を促進して、ジェンダーを考慮に入れた政策や実施計画、幹部による決定を行うよう求めた。

国連総会が2015年に設定した持続可能な開発目標(SDGs)のすべてにわたってジェンダーの観点を取り込む上で達成されたものはせいぜい僅かであり、特にジェンダーを重視するSDGs第5目標に関する履行と説明責任は限られている、とキャンペーンは指摘した。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

第5目標に向けた国レベルの進捗に関するデータを収集するために使用される18の指標の内、進展度合いを検討するために全ての国において十分なデータを収集できたのはわずか2項目しかなかった。事務総長は加盟国に対し、SDGsの全ての指標を追跡するために必要なデータを収集するための進捗を加速させるよう働きかける必要がある、と報告書は述べている。

「『国連女性の地位委員会』とUNウィメンをジェンダー平等的に変革すること」という目標に関しては、2021年において説明責任と透明性の欠如が懸念された。国連での性的嫌がらせや搾取、虐待への対応は鈍かった。

「男女共同参画と情報の自由のための資金調達」の項目でグテーレス氏のスコアが上昇したのは、追加的な資金を調達するためのジェンダー平等指標制度の適用や、オンラインを通じてデータや資源、会合にアクセスできるよう促進したことが理由である。

「我々の2021年の分析は、グテーレス事務総長は進展を遂げたものの、真に変革的で、進歩的な、男女平等に基づく国連システムを育成するには、さらに多くのことを行う必要があることが分かった。2期目のグテーレス氏には、ジェンダー平等や組織横断的な取り組み、市民社会へのアクセスを求める政策を実施し、人権の明確な擁護者となることを期待する。」と述べている。(文へ

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世界最大の武器輸入国には核兵器保有国も含まれる

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

過去5年間に欧州、東アジア、オセアニアからの武器輸入が大幅に増加したことは、2年以上にわたるパンデミックや都市封鎖、世界的な経済不況にも関わらず、世界の武器売却が継続的に急増していることを再確認させるものであった。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が3月14日に発表した報告書によると、アジア・オセアニアは依然として主要武器の最大の輸入地域で、2017年から21年にかけて世界における武器取引の43%を占めている。

そして、この地域の6つの国家(インド、オーストラリア、中国、韓国、パキスタン、日本)は、世界の10大武器輸入国の中に入っている。

SIPRI Yearbook 2021

SIPRI武器支出計画・上級研究員のシモン・ウェズマン氏は、「中国とアジア・オセアニア地域の多くの国々との間の緊張が、この地域における武器輸入の主な原動力となっている。」と語った。

「このような緊張が、米国のこの地域への武器輸出の主要な要因にもなっている。武器輸出は中国を念頭に置いた米国の外交政策の重要な要素であるため、米国はアジア・オセアニアへの最大の武器供給国であり続けている。」

世界の9つの核保有国のうち、4カ国がアジアにある。インド、パキスタン、中国、北朝鮮の4カ国であり、残りの5カ国は英国、米国、フランス、ロシア、そしてイスラエル(中東)である。

逆説的だが、英米仏中露の5大核保有国は、国際の平和と安全の維持を主要任務とする国連安保理の常任理事国(P5)でもある。

しかし、この任務の遂行は、核兵器だけでなく、戦闘機、戦闘ヘリコプター、無人機、ミサイル、軍艦、戦車、装甲兵員輸送車、重砲など、大量の通常兵器で完全武装したP5メンバーの手に委ねられている。

SIPRIの最新の「武器の国際取引」に関するレポートは、軍備、軍縮、国際安全保障の現状を評価する「SIPRI 年鑑 2021」の調査結果から約半年後に発表された。重要な発見は、2020年に核弾頭の数が全体的に減少したにもかかわらず、より多くの核弾頭が実戦部隊に配備されたことである。

Hans Kristensen/ FAS
Hans Kristensen/ FAS

SIPRIの核軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの上級研究員で、米国科学者連盟(FAS)の核情報プロジェクトのディレクターであるハンス・M・クリステンセン氏は、「世界の軍事備蓄の弾頭数は現在増加しているようであり、冷戦終結後の世界の核兵器を特徴づける減少傾向が止まっているという懸念すべき兆候が見られる」と述べている。

「2月にロシアと米国が土壇場で新戦略兵器削減条約を延長したことは…救いとなったが、核超大国間の二国間核軍備管理の追加的な見通しは依然として低い。」

SIPRI年鑑2021によると、ロシアと米国は合わせて世界の核兵器の90%以上を保有している。両国とも核弾頭、ミサイルや航空機の運搬システム、生産施設を交換し近代化するための大規模で費用のかかるプログラムが進行中である。

「ロシアも米国も、国家安全保障戦略における核兵器の重要性を高めているように見える。」とクリステンセン氏は語った。

他の7つの核保有国もすべて、新しい兵器システムを開発または配備しているか、その意向を表明している。英国は2021年初めに発表した「安全保障・防衛・開発・外交政策の統合的見直し」で、同国の核兵器削減方針を転換し、核兵器の保有上限数を180発から260発に引き上げた。

中国は核兵器の大幅な近代化と拡大を進めている最中であり、インドとパキスタンも核戦力を拡充しているとみられている。

Global nuclear weapon stockpiles, 2018/ SIPRI
Global nuclear weapon stockpiles, 2018/ SIPRI

ウェズマン氏はIDNの取材に対し、アジアが最も武器輸入の多い地域であり、「もちろんこの地域の規模を考えれば、それほど驚くことではない。」と述べた。中東は、面積や人口がはるかに少ない地域であるにもかかわらず、2位にランクインしている。

この地域の多くの国で紛争が続いていること、あるいは定期的に起きていること、そして根深い脅威認識が武器に対する高い需要の背景にある、と指摘した。

「高度な軍需産業を持つイスラエルでさえ、この地域の他の国はおろか、自国の武器需要に応えることはできない。

この地域の富裕な産油国は、海外から大量の武器を購入する手段を持っており、他の国のいくつかは、武器輸入の一部に資金を提供してくれる国と良い関係を持っていると、ウェズマン氏は指摘した。

「トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアをはじめとするいくつかの国では、国の武器産業を発展させるための努力が続けられているが、この地域への武器輸出に大きな変化をもたらすまでには、まだ長い道のりがある。」

一方、世界的な武器輸出の減少幅が少ないことは、地域ごとの傾向の大きな違いを覆い隠している、とウェズマン氏は語った。

「南米の武器輸入が過去50年間で最低のレベルに達するなど、いくつかの前向きな動きがあった一方で、欧州、東アジア、オセアニア、中東といった地域への武器輸入の増加や高止まりが、懸念すべき武器蓄積の一因となっている。」

SIPRIの報告書によると、中東諸国は2017年から21年にかけて、2012年から16年にかけての武器輸入量を2.8%上回った。これは、2007~11年と2012~16年の間に、同地域への武器輸入が86%増加したことに続くものである。

イエメンでの紛争が続き、イランと地域の他の国々との緊張が高いままであったため、武器輸入は湾岸地域の安全保障の発展において重要な役割を果たした。

インドに次ぐ世界第2位の武器輸入国であるサウジアラビアの武器輸入は、2012-16年から2017-21年の間に27%増加した。

カタールの武器輸入は227%増加し、第22位の武器輸入国から第6位へと躍進した。一方、UAEの武器輸入は2012-16年から2017-21年の間に41%減少し、世界第3位から第9位の武器輸入国になった。

SIPRIによると、これら3カ国すべてとクウェートは、今後数年間に納入予定の主要な武器を大量に発注しているという。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

ロシアのウクライナ侵攻は原油価格に影響を与え続け、米国の平均レギュラーガソリン価格は昨年の約2.5ドルから1ガロン4.33ドル以上に上昇している。

米国がロシアからの石油輸入を禁止したことで、石油価格の驚異的な上昇が予想されるが、サウジアラビア、UAE、カタール、クウェートなどの国による武器購入はさらに増加するのか、というIDNの質問に対して、ウェズマン氏は、「これらの国々はそれぞれ、主要な武器について既に多額の発注をしており、今後数年のうちに納入される予定だ。」と語った。

「原油価格の上昇、つまり政府の歳入の増加は、さらなる武器調達の可能性を促進するだろう。」とウィズマン氏は語った。

しかし、「こうした注文が実現するかどうかを判断するのは時期尚早であり、もし実現したとしても、少なくとも欧州の武器需要が増加し、既存の武器生産ラインの生産量が限られている場合には、実際の納入までには何年かかかるだろう。」とも付け加えた。

一方、2月24日からウクライナと戦争状態にあるロシアは、2017年から21年にかけて、主要武器の全輸出額の19%を占めた。しかし、2012-16年と2017-21年の間にその輸出は26%縮小した。

ロシアの武器輸出の全体的な減少は、ほぼすべて2つの受領国(インドとベトナム)への武器納入の減少によるものである。しかし、今後数年間は、ロシアからインドへの複数の大型武器納入が予想される。(原文へ

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ノーベル平和賞受賞団体、軍事費を医療に回すことを提言

|ウクライナ危機|国連の3機関が、医療に対する攻撃を停止するよう求める

【ジュネーブ/ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

3つの国連機関が、支援を必要としているすべての民間人が制限のない人道支援を利用できるようウクライナにおける即時戦闘停止を求めた。「ウクライナで紛争を終わらせるための平和的解決は可能だ。」と、国連児童基金(ユニセフ)、国連人口基金(UNFPA)、世界保健機関(WHO)が発表した共同声明は述べている。

3月13日に発表された共同声明は、「恐ろしい攻撃によって、患者や保健・医療従事者が殺害され、重傷を負い、重要な保健インフラが破壊されている。膨大なニーズがあるにもかかわらず、数千人が保健・医療サービスの利用を諦めなければならない状況にある。」と指摘したうえで、「医療機関に対するあらゆる攻撃の即時停止」を訴えた。

声明は、ロシアを名指しすることは避けつつ、「乳幼児、子供、妊婦、病人、人々の命を守るために自らの命を危険に晒している医療従事者など、最も脆弱な立場にいる人々を攻撃することは、非情な残虐行為だ。」と述べている。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

ウクライナにおける紛争が激化して以来、WHOの医療への攻撃に関する監視システム(SSA)を通じて、31件の攻撃が報告されている。そのうち24件では保健・医療施設が破壊され、5件では救急車が被害を受けた。こうした攻撃により、少なくとも12人が死亡、34人が負傷し、必要不可欠な保健・医療サービスの提供とアクセスに影響が出た。WHOは、保健・医療施設に対する攻撃が続く中、確認作業を進めている。

「保健・医療や医療従事者に対する攻撃が人々、特に女性や子供、厳しい状況に置かれている人々が必要不可欠な保健サービスを利用できるかどうかに直接影響する。ウクライナでは、女性、妊産婦、幼い子供達、高齢者の医療ニーズが高まっているにもかかわらず、暴力行為により保健・医療サービスへのアクセスが著しく制限されている。」と声明は述べている。

例えば、ウクライナでは紛争の激化以降4,300人以上の赤ちゃんが生まれており、今後3カ月でさらに8万人の女性が出産すると予想されている。妊娠・出産時の合併症の対処等に必要な医療用酸素や医療物資が、危険なほど不足している。

声明はまた、「ウクライナの医療システムは明らかに逼迫しており、この医療崩壊は大惨事につながる恐れがある。あらゆる努力をしなければ、こうした事態は避けられないだろう。」と指摘したうえで、「国際人道法国際人権法は順守されなければならないし、民間人の保護が最優先である。」と述べている。

「人道支援パートナーや医療従事者が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やポリオの予防接種、ウクライナ難民の命を守る医薬品の供給など、必要不可欠な保健・医療サービスの提供を安全に維持し、強化しなければならない。また国境地域では、子供や妊婦のための迅速なケアや照会プロセスを含む保健サービスを、体系的に利用できるようにする必要がある。」

「人道支援者が、支援を必要としているすべての民間人に、どこにいようとも、安全かつ制限のない支援を届けられることが重要だ。ユニセフ、UNFPA、WHOはパートナーと協力し、命を守るサービスや緊急の保健ニーズに対応するための支援の規模を拡大している。産科や新生児ケアに必要なものを含む緊急医療物資を、保健センター、仮設の医療施設や地下シェルターに安全に届けられるようにしなければならない。」

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

保健・医療ケアとサービスは、あらゆる暴力行為や妨害行為から守られるべきである。現在も続くCOVID-19のパンデミックによって、保健・医療システムとその従事者に既に大きな負担がかかっている中、こうした攻撃が起こることで、民間人にさらに壊滅的な影響が出る恐れがある。保健員・医療従事者のために、そして彼らが提供する命を守るサービスを必要とするウクライナのすべての人々のために、すべての医療施設およびその他の民間インフラへの攻撃を停止しなければならない。」(原文へ

INPS Japan

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第三次世界大戦は核使用を伴う現実かそれとも口先だけの脅しか

【国連IDN=タリフ・ディーン

3月2日、ロシアの通信社はセルゲイ・ラブロフ外相が発した「第三次世界大戦が起こるとすれば、壊滅的な核戦争になるだろう」という緊急警告を引用して報じた。また、ジュネーブ国連軍縮会議にオンラインで参加したラブロフ外相は、ウクライナがロシアの侵攻に対抗するために核兵器の取得を画策してきたと示唆した。―ただしこれは現時点で未確認の噂に過ぎない。

一方、ウクライナのオレクシー・ホンチャルク首相も、ロシアによるウクライナ侵攻は第三次世界大戦の始まりになりかねないとの不安を繰り返し述べている。

こうした核戦争の警告や第三次世界大戦勃発の恐れは、はたして政治的な現実だろうか、それとも口先だけの脅しに過ぎないのだろうか。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)前共同代表で今年出版された報告書「核兵器は禁止された:これは英国にとって何を意味するか」の著者であるレベッカ・ジョンソン博士は、IDNの取材に対して、「ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナに軍事侵攻してから戦略的核抑止部隊を『特別警戒態勢』に移行させた。」と語った。

プーチンが発動した苛烈な軍事侵略は、核抑止論に付随する人類の存亡に関わる危険を示すものだ。つまり、「抑止論とは敵側とのコミュニケーションの手段であり、それがうまくいかなければ、核武装した国の指導者は、核兵器で威嚇或いは核兵器を使用して壊滅的な人道被害を引き起こす可能性が高い、と我々は長年にわたって警告してきた。」とジョンソン博士は語った。

ジョンソン博士はまた、「核兵器の使用や威嚇は、1950年代初頭に、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の防衛政策に組み込まれており、以来、両陣営は核の脅威と不安を世界に広げてきた。ウクライナに対する戦争は、核を保有する指導者と核抑止という幻想に間違いがあれば、いかなる想定外の事態が起こりうるかを思い起こさせる恐ろしい出来事だ。プーチンは、トランプや金正恩等他の核兵器国の指導者と同じく、核兵器を喧伝してきた。」と語った。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

「しかしプーチンの場合、他の指導者と異なるのは、ウクライナに侵攻し、同国の都市や民間人に対して燃料帰化爆弾を使用するという戦争犯罪を犯し、次第に追い詰められている点だ。」とジョンソン博士は付け加えた。

一方で、世界で9ヵ国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が核兵器を実戦配備している現実は、世界が今日直面している恐ろしい災いを思い起こさせるものだ。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、9カ国は2021年初頭の段階で保有していた核兵器の総数は推定13,080発であった。これは2020年初頭の推定値である13,400発より減少していた。

しかし、実戦配備されている核弾頭は3,720発から3,825発に増加しており、その内約2000発は米ロ両国が高度警戒態勢に置いている。その内訳は以下の表のとおりである。

婦人国際平和自由連盟(WILPF)のレイ・アチェソン代表はIDNの取材に対して、「プーチンが、核兵器の使用を示唆し軍の核抑止部隊に特別警戒を命じたことは、核兵器の存在が本質的に持っている危険性を裏付けるものだ。」と語った。

SIPRI Yearbook 2021

「この戦争で核兵器が使用されるかどうかについては、プーチンが核の使用を示唆しながら対ウクライナ戦争と軍事侵攻に踏み切ったという意味で、既に使用されている。しかしこれは、ロシアが核兵器を保有しているという問題にとどまらない。」とアチェソン代表は語った。

NATO加盟の3ヵ国(フランス、英国、米国)も核兵器を保有しており、他の5ヵ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)が米国の核兵器を領内に保管している。

「こうした核兵器の一つ一つが平和と安全保障に対する脅威である。核戦争は、地上のあらゆる生命を脅かす大惨事となるだろう。核兵器が存在する限り、核爆発がおこるリスクや他国を威嚇する手段に使われるリスクがある。また、本来ならば気候変動への対応や社会をよくするために切実に必要とされている資金から、核兵器の維持や近代化、配置のために数十億ドルもの莫大な費用が浪費されている。」とアチェソン代表は警告した。

Ray Acheson, Reaching Critical Will
Ray Acheson, Reaching Critical Will

核兵器禁止(核禁)条約は、核兵器の使用、開発、保有のみならず使用を威嚇することも禁止している。

アチェソン代表はまた、「あらゆる国々が核禁条約に加盟し核爆弾の世界的な禁止を支持すべき。核兵器保有国と核兵器をホストしている国々は、手遅れになる前に、いわゆる安全保障政策としての大量破壊を放棄し、保有する核兵器を廃絶しなければならない。」「今こそ世界中の人々が核兵器の脅威に目を覚ます時だ。これは歴史の問題ではない。私たちは日々、核戦争が勃発する可能性と隣り合わせで生きており、この脅威をきっぱりと排除する行動をおこさなければならない。」と語った。

プーチンが核使用を命ずるかという質問に対して、ジョンソン博士は、「残念ながら、誤算や慢心、或いはウクライナの抵抗に軍事侵攻が失敗するのではないかとの恐れ等の理由からプーチンが核兵器を使用する可能性は否めない。プーチンの言う『戦術核』という軍事用語に騙されてはならない。もしロシアの側近らがプーチンを止められなければ、そうした命令で、ウクライナの諸都市が核の劫火で焼き尽くされることとなり、人類存亡に関わる極めて深刻な戦争犯罪と人道に対する罪が犯されることとなる。」と語った。

「世界のほとんどの国々が核禁条約を支持したのは、核戦争を防止するには核兵器の使用と配備のみならず保有も禁止する必要があるという私たちの議論と証拠を理解していたからだ。プーチンの軍事侵攻は、過去30年におけるNATOの東方拡大や失敗に終わったイラクとアフガン戦争と相まって、今日のウクライナの苦難と悪化の一途をたどる危機につながっている。」とジョンソン博士は語った。

ジョンソン博士は、「ウクライナは、合計で12000発を保有するロシアとNATOの板挟みになっている。」と語った。

ICAN関連の諸研究は核兵器を保有する人物がその威力を振りかざせば、どのようなリスクがあるかを示している。

ICAN
ICAN

プーチン大統領のような略奪的で自己陶酔的な人々は、心理的に危険を冒し、誤算が生まれると、ますます攻撃的で向う見ずな行動に出て威嚇と失敗を犯す傾向にある。

「もしこのような人々が軍事力と核兵器を入手すれば、もはや抑止力は破綻し、『使わなければ敗北する』というパニックに陥って核戦争へと繋がっていく。現状に満足した軍部はこうした恐るべき大量破壊兵器を廃絶できたにもかかわらず、核戦争の勃発を防止することを拒否してきたのだ。」とジョンソン博士は語った。

プーチン大統領が、軍の核抑止部隊に特別警戒を命じたことを受けて、英国のボリス・ジョンソン首相は、英国も同様の措置をとると発表した。ジョン・アインスリー氏とグローバル責任のための科学者(SGR)等が発表した研究報告書によると、もし英国のトライデント核ミサイルが、モスクワとロシア国内5か所を標的に発射された場合、数百万人の民間人が殺害され、放射能を帯びた灰塵を含むきのこ雲が空高く舞い上がり、世界的な「核の冬」と大規模な飢饉を伴う大惨事を引き起こすと結論付けている。

「これはプーチンとNATOが繰り広げている理論上の駆け引きではなく、現実の世界で起きうることだ。」とジョンソン博士は語った。SIPRIによると、米ロ両国は2020年の間、退役した核弾頭を解体することで引き続き全体的な核弾頭数の削減に取り組む一方で、実戦配備された核弾頭については2020から21年初頭までの間に推定50発増加させていた。また、ロシアについては、主に多弾頭を装着した地上発射型大陸間弾道弾(ICBMs)及び海上発射型弾道弾(SLBMs)を配備したことで、備蓄核戦力を180発増加させている。

Hans Kristensen/ FAS
Hans Kristensen/ FAS

米ロ両国による配備済戦略核弾頭の数は、2010年に締結した新STARTの制限内にとどまっているが、同条約は未配備状態の保有核弾頭数については上限を設けていない。

「懸念すべき兆候は、冷戦後長らく世界で備蓄されている核弾頭数は減少傾向が続いていたにも関わらず、今日再び増加に転じつつある点だ。」と SIPRI核軍縮・軍備管理・核非拡散プログラムのハンス・クリステンセン氏は語った。

クリステンセン氏はまた、「米ロ間で、新STARTが今年2月に延長されたことは一安心だったが、核超大国である両国の間で、さらなる核軍備管理が合意される兆候はほとんどない。」と語った。(原文へ

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人類が核時代を生き延びるには、核兵器がもたらす厳しい現実と人類の選択肢を報じるジャーナリズムの存在が不可欠(ダリル・G・キンボール軍備管理協会会長)

【ニューヨークIDN=ダリル・G・キンボール】

人類が核時代を生き延びるためには、情報を熟知し、連帯して行動を起こす市民の存在が不可欠だ。そして、核兵器が人類に突き付けている厳しい現実と、その使用がもたらす帰結、そして人類に残されている選択肢を明らかにする効果的で独立したジャーナリズムの存在が不可欠である。

米国による最初の原爆が広島と長崎に投下されて以来、ジャーナリスト達は、世界で最も危険なこの兵器に関する事実を伝え、虚構を暴く重要な役割を果たしてきた。

米政府に安全保障政策を助言した物理学者で、核軍縮の主唱者でもあった故シドニー・ドレル博士は1983年に、核兵器と核政策に関する問題は「あまりに重要過ぎて専門家にのみ任せてはおけない…あらゆる人々がこの大量無差別兵器の標的となっているのだ。従って、私たちには、確かな情報に基づいて、軍備管理が絶対に必要だと政策責任者らに要求する市民になる以外に弁解の余地はない。」と記している。

ICAN
ICAN

核兵器の壊滅的なリスクに関する情報と、核兵器を削減し廃絶する常識的な戦略を身に着けた一般市民たちは、この問題に関心を寄せる科学者や医師、外交官らとともに組織化を進め、核軍拡競争をペースダウンし反転させるよう政治指導者に圧力をかけることに成功してきた。

核兵器に反対する大衆運動が展開された結果、核実験を禁止し、核兵器と核製造のノウハウの拡散を防ぎ、核戦力を制限し検証可能な形で廃棄するための多数の二国間・多国間協定が締結されてきた。そして今年初め、核兵器禁止条約が発効し、核兵器に対する禁止規範をさらに強化する軍縮の法的枠組みにおける新たなツールが生まれたのである。

しかしこうした成果も、何十年にもわたって、核兵器の危険性に光を当て、核兵器廃絶の是非やその方法など、核兵器を巡る激しい公論を取材・配信してきたジャーナリストや編集者たちの働きなしには、現実することはなかっただろう。

例えば、ジョン・ハーシー氏が1946年8月31日発行の『ザ・ニューヨーカー』誌に発表したパイオニア的な現地からのレポートがある。これによって、米占領当局が世界から隠そうとした爆風・熱線・放射線障害といった、核兵器が太陽のように明るい「無音の閃光」を放った後も、長いこと死をもたらし続けるという事実が世界に知られることとなった。

Hiroshima Book by John Hersey, 1st edition/ Wikimedia Commons

残念なことに、冷戦が始まって間もない当時、米国や欧州の多くの主要メディアが核兵器の危険性を軽視していた。そのため、核兵器を巡る秘密のベールをはがすことはできず、政府の公式見解に対する疑問が呈されることはほとんどなかった。

ましてや、メディアが本質的に政府の一部門を構成していたソ連では、核兵器の生産や実験が人間や環境に及ぼす壊滅的な影響について知ることや、危険な核政策に異議申し立てをすることは、普通の市民にとってはなおさら困難であった。

しかし、懸念をもつ核科学者や公衆衛生専門家らの働きによって、一部の専門誌や雑誌が公的議論の狭間を埋めた。例えば、1962年、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌は、ソ連の核攻撃が米国の都市にもたらす影響と、医療体制や緊急対応の仕組みがいかに壊滅的な被害を被るかについて論じた医師らによる画期的な一連の論文を掲載した。キューバミサイル危機に先立つこと数カ月、これらの記事は、核戦争において当事者の一方が「勝利を収める」という神話を打ち砕いた。

また別の事例を挙げると、穏健ながら重要な新聞報道が、軍縮を求める大規模な行動を刺激する出来事を生み出した。1979年2月、米フロリダ州の『セントピーターズバーグ・タイムズ』紙が、「軍備管理協会」のウィリアム・キンケード代表とフリージャーナリストのナン・ランダール氏の監修を得て、ソ連の核爆弾が都市上空で爆発したらという仮定の下で4日間にわたる記事を掲載した。

ランダール氏の解説が、米連邦政府の科学関連諮問機関である「技術評価室」(OTA)の関心を引き、彼女は結果としてOTAのために『核兵器の効果』という連載記事と類似した内容の報告書を同年執筆することになる。この報告書は次にABCテレビの制作陣に刺激を与えて、核紛争の帰結に関するドキュメンタリー風ドラマ「ザ・デイ・アフター」を生み出すことになる。

1983年11月20日に放送された「ザ・デイ・アフター」は実に約1億人の視聴者を獲得した。テレビ映画としては史上最大の視聴者数であった。この映画は米国で「核凍結」運動を生み出し、(ロナルド・レーガン大統領を含む)政府の政策決定者の注目を引き、核の危険を低減する行動を引き起こした。

そして現在も、依然としてマスメディアが、核兵器の危険と、核の脅威を取り除く試みに関する主要な公的情報源である。事実を虚構と切り分けることが難しく、政府によるゆがんだ情報提供が新たな形を取りつつある今日の超情報社会においては、世界で最も危険なこの兵器に関連した最新状況と理念に特に焦点を当てた独立の報道ネットワークの重要性が増しつつある。

1983年以来、インデプスニュースと、その寄稿者・特派員のネットワークは、核兵器の脅威に関心を持つ世界中の人々に対して、計り知れないほど重要な情報を提供してきた。今日、核兵器の脅威を廃絶するための長きにわたる闘いは、核軍拡競争が激しさを増し核戦争の危険が大きくなる中で、新たな緊急性を帯びるようになってきている。

核時代のこの新たな危険な局面において、核の大惨事に対する防護壁を強化し「核兵器なき世界」に向けた前進をもたらす効果的な解決策や理念、行動に関してインデプスニュースが提供する報道は、これまで以上にその重要性を増している。(原文へ

※著者は、軍備管理協会会長の代表。この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「Toward a Nuclear Free World」の最新レポートの序文として寄稿されたものである。

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