ホーム ブログ ページ 179

食料のための生物多様性の減少、危機的レベルに

【ローマIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

国連食糧農業機構(FAO)は、この種のものとしては初の報告書で、私たちの食料システムを支えている生物多様性が消滅しつつあり、世界の人びとの健康や生活、環境が厳しい脅威に晒されているという強力かつ不安な証拠を示した。

José Graziano in Itamaraty Palace press meeting/ Renato Araújo/ABr - Agência Brasil [1], CC BY 3.0 br
José Graziano in Itamaraty Palace press meeting/ Renato Araújo/ABr – Agência Brasil [1], CC BY 3.0 br

2月22日に発表されたFAOの『食料・農業のための世界の生物多様性の現況』は、食料と農業のための生物多様性は、ひとたび失われれば取り戻すことができないと警告した。

FAOのジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は、報告書の重要性を強調して、「生物多様性は世界の食料安全保障を守る上できわめて重要であり、健康的で栄養価に富んだ食生活の基盤となり、農村の生活を改善し、民衆や社会のレジリエンス(=リスク対応能力)を高めます。私たちは、気候変動という難題に対応し、環境を害さない形で食料を生産するためにも、生物多様性を持続可能な形で利用する必要があります。」と語った。

ダ・シルバ事務局長はさらに、「生物多様性が失われてると、動植物は害虫や疾病に対してより脆弱になります。食料と農業のための生物多様性が失われていけば、人類がより少ない種に食糧を依存することとなり、食料安全保障と栄養が危機に立たされることになります。」と語った。

食料と農業のための生物多様性は、野生か家畜化/栽培化されたものかに関わらず、食料や飼料、燃料、繊維を提供するすべての動植物に関連するものである。また、「関連する生物多様性」と呼ばれている、生態系を通じて食料生産を支える数多くの生命体に関するものでもある、と報告書は説明している。

たとえば、土壌の肥沃さを保ち、植物に受粉させ、水や空気を清浄化し、魚や木々を健康に保ち、作物や家畜を害虫や疾病から守るすべての植物や動物、微生物(昆虫、コウモリ、鳥、マングローブ、サンゴ礁、海藻、ミミズ、土壌中の菌類、バクテリア等)などがそれである。

食料と農業のための生物多様性の問題に対処する唯一の恒久的な政府間機関である「食料と農業のための遺伝資源に関する委員会」の指示によってFAOが作成した今回のレポートは、これらすべての要素を検討するものだ。報告書は、91カ国が特にこのために提供した情報と、最新のグローバル・データの分析を基にしている。

報告書の主要点は以下のとおりである。

・食料のために生産されている約6000種の植物のうち、グローバルな食料生産のために実質的に貢献しているのは200弱であり、わずか9つで作物生産全体の66%を占めている。

・世界の家畜生産は約40の動物種によるもので、そのうちほんのわずかな種によって、肉や乳、卵のほとんどが提供されている。世界で報告されている家畜の飼育で、一国内で育てられている7745種のうち、26%が絶滅の危機にある。

・魚類のうち3分の1が乱獲状態にあり、半分以上が持続不可能なラインに到達してしまっている。

FAOが91カ国から収集した情報で明らかになったことは、受粉を助ける動物や土壌生物、害虫の天敵など、食料と農業に不可欠な生態系に寄与する野生の食物種や多くの種が、急速に消滅しているということだ。

例えば、4000近い野生食物種(主として植物、魚、哺乳類)の24%が、その豊かさを失いつつあると報告書は述べている。しかし、既知の野生食物種の半分以上の実態はよく知られていないため、減少しつつある野生食物の割合は実際にはもっと大きいと思われる。

減少しつつある野生食物種は、ラテンアメリカ・カリブ海地域で最も多く、アジア・太平洋地域とアフリカ地域がこれに続く。しかし、これらの地域における野生食物種が他の地域のよりもよく研究されてきたことが理由であるかもしれない。

多くの関連する生物多様性種もまた、厳しい脅威にさらされている。たとえば、害虫や疾病を抑える鳥やコウモリ、昆虫、それに、土壌の生物多様性、受粉動物(ハチ、蝶、コウモリ、鳥など)がここには含まれる。

森や放牧地、マングローブ、海藻が生い茂る土地、サンゴ礁、湿地一般もまた、急速に失われつつある。これらは、食料や農業にとって不可欠な数多くの機能を提供し、無数の種の生息地となる主要な生態系である。

多くの報告国によれば、食料・農業のための生物多様性の喪失の原因は、公害に伴う土地や水の利用・管理の変化、土地の過剰利用と過剰収穫、気候変動、人口増と都市化である。

関連する生物多様性の場合、生物の生息地の変化と喪失が最大の脅威であるとすべての地域が報告する一方で、その他の要因については地域ごとの違いがみられると報告書は述べている。つまりアフリカでは、土地の過剰利用と狩猟、密猟。欧州と中央アジアでは、森林破壊や、土地利用の変化、集約農業。ラテンアメリカ・カリブ海地域では土地の過剰利用や害虫、疾病、侵略種の存在。そして、中東とアフリカ北部では、土地の過剰利用。アジアでは森林破壊となっている。

報告書は一方で、生物多様性に親和的な活動に関して、好ましいシナリオも提示している。報告を寄せた91カ国のうち80%が、生物多様性に親和的なさまざまな実践やアプローチを試している。例えば、有機農業、統合的害虫管理、コンサベーション・アグリカルチャー(環境を保全しつつ収益を得ることを目的とした低投入型の食糧生産)、持続可能な土壌管理、アグロエコロジー、持続可能な森林管理、アグロフォレストリー、養殖における多様性強化の実践、漁業に対する生態系アプローチ、生態系の回復が挙げられる。

SDGs Goal No. 2
SDGs Goal No. 2

現場における保全措置(例:保護地区の設定や農場管理)と外部からの保全措置(例:遺伝子バンク、動物園、文化財の収集、植物園)もまた世界的に強化されている。もっとも、これらの措置でカバーされる範囲と実際に保護される水準はまだ不十分なものにとどまっている。

生物多様性に親和的な実践が強化されるのは望ましいことだが、食料と農業のための植物多様性の喪失を食い止めるには、まだまだ多くのことがなされねばならない、と報告書は指摘している。「ほとんどの国が、生物多様性の持続可能な利用・保全のために法律・政策・制度的枠組みを整えつつあるが、それらはしばしば不適切であるか、不十分である。」

したがって、報告書は、諸政府と国際社会に対して、実施可能な枠組みを強化し、インセンティブと利益を分有するための措置を生み出し、生物多様性を強める取り組みを促進し、生物多様性喪失の主因に対応するために、より多くのことを行うよう求めている。

食料と農業のための生物多様性に関する知識の現状を改善するために、より強力な取り組みがなされねばならない。なぜなら、とりわけ「関連する生物多様性種」に関して、情報格差が激しいからだ。そうした種の多く、とりわけ無脊椎動物と微生物に関しては、明らかになっていないことが多い。バクテリアと原生生物の99%以上と、それが食料や農業に与える影響については、未だに実態が知られていない。

食料・農業・環境分野を横断して、政策決定者と生産者組織、消費者、民間部門、市民団体の連携を強化する必要がある。

報告書は、「生物多様性に親和的な製品の市場を広げる機会をもっと模索すべき」と指摘したうえで、食料・農業のための生物多様性に対する圧力を弱めるために一般の人々が果たせる役割を強調した。

報告書はまた、「消費者は、持続可能な形で育てられる製品を選択し、農産物直売所で直接購入し、持続不可能とみなされる食品を購入しない選択ができるようになるだろう。『市民科学者』が食料・農業のための生物多様性を監視する上で重要な役割を果たしている国もある。」と指摘している。

生物多様性の喪失がもたらす影響や、生物多様性に親和的な実践として、次のような例が挙げられる。

・ガンビアでは、野生の食物種が大規模に喪失した結果、食生活を補完するために、しばしば工業的に生産された食物に依存せざるをえなくなっている。

・エジプトでは、気温上昇のために魚類種の生存可能域の北限が上がってきており、漁業生産に悪影響が出てきている。

・ネパールでは、労働力不足や(出稼ぎ労働者からの)送金の流れ、さらに地元市場で安価な代替製品が次第に出回るようになったため、地元の作物が放棄されるようになってきている。

・ペルーのアマゾン川流域の熱帯雨林では、気候変動によって野生食物の供給に悪影響が出る「サバンナ化」が予想されている。

・米国カリフォルニア州の農民たちは、生育期後に田を焼くのではなく、水を溜めるようになってきている。これによって11万ヘクタールの湿地ができ、その多くが絶滅の危機にある230種の鳥の生息地ができた。結果として、多くの種がその個体数を増してきており、アヒルの数も2倍になった。

・フランスでは、約30万ヘクタールの土地がアグロエコロジーの原則によって利用されている。

・キリバスでは、複合養殖されているミルクフィッシュ(サバヒー)やサンドフィッシュ、ナマコ、海藻が、気候条件の変化にも関わらず、基本的な食物と収入の源になっている。これらの養殖対象のうち、少なくともひとつの要素が、つねに食物を生み出している。(原文へ)

INPS Japan

関連記事:

飢餓撲滅と食料安全保障のカギを握るアグロエコロジー

最新の報告書が地球を脅かす「ホットハウス(温室化)」現象について警告

|COP23|先住民の協議参加の基盤がついに示される

|バチカン会議|世界の諸宗教がSDGサミットに備える

【バチカンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の履行状況を各国首脳レベルでレビューする9月の「SDGサミット(4年に1度で今回初となる国連総会主催でのハイレベル政治フォーラム)」まであと半年、世界の諸宗教は、「SDGsの履行に対して宗教が成しえる貢献を繋げるようなロードマップや行動計画」を策定するという課題を自らに課している。

ガーナ出身でローマ教皇庁人間開発のための部署の長官を務めるピーター・タークソン枢機卿は、IDNの取材に対して、「これは、(SDGs達成に向けた)気運を高め、新たにグローバルな結束を図っていくために、この共同の『旅』に協力し合って踏み出そうという考え方に基づいています。」と語った。

ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会は、「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」を3日間にわたって開催した。

3月9日まで開催されたこの会議の参加者は、SDGsの履行に関わっているさまざまな宗教を代表する人々、外交官、国際組織の幹部、国際開発分野の学者や研究者らであった。

3月8日、フランシスコ教皇は会議参加者らにこう語りかけた。「持続可能な開発目標が採択されてから3年半が経過しました。私たちは、地球の叫びと貧者の叫びの両方に適切に応えられるような取り組みを行い、それを加速する重要性について、これまで以上にもっと敏感であらねばなりません。―これらの叫びは相互に繋がっているのです。」

「これらの難題は複雑であり、さまざまな原因があります。従って、その解決策もまた、複雑かつよく練られ民衆の多様な文化的豊かさを尊重したものでなくてはなりません。」とフランシスコ教皇は語った。

「人類がもたらしてきた損傷を修復する能力を持つ生態系の発展に私たちが本当に関心を持とうとするのなら、科学のいかなる分野も、あるいは、いかなる形態の知恵も無視されてはならないし、その中には宗教やそれに特有な言語も含まれます。…宗教は、平和の新たな名称ともいうべき『真の統合的な発展』を導くものになるでしょう。…」

「なぜなら、2015年9月に190カ国以上が承認した2030アジェンダと持続可能な開発目標は、グローバルな対話に向けた偉大なる一歩であり、活力に満ちた『新しく、普遍的な連帯』を示すものだからです。」と、フランシスコ教皇は説明した。

SDGs logo

フランシスコ教皇はまた、「カトリック教会をはじめ、旧来からのさまざまな宗教が、持続可能な開発目標(SDGs)を支持してきました。なぜならSDGsは、一方で民衆の多様な価値観を反映し、他方で開発の統合的なビジョンによって支えられてきたグローバルな参加プロセスの結果だからです。」と付け加えた。

タークソン枢機卿は、3月7日の開会あいさつで、「持続可能な未来に必要なエネルギーを提供してくれる3つのグループがあります。1つ目のグループは、変革を求め世代間の公正を訴える若者達。2つ目のグループは、地球上に残された生物多様性のうち推定80%の保護に寄与し、私たちの福祉と土地のつながりの重要性について常に思い起こさせてくれる先住民の人々。そして3つ目のグループは、私たちの意識を支配や破壊をもたらすものから、愛と尊重に満ちたものへと変換するインスピレーションを与えてくれる信仰心を持った人々です。」と語った。

タークソン枢機卿はさらに、「(今回の会議に代表を送った)これら3つのグループは、人類社会に対して、これまでの不平等と環境破壊を助長してきた構造を、包摂と環境への配慮を促進する構造へと変革するよう働きかけていくことができるのです。」と指摘したうえで、「これら3つのグループに耳を傾ければ、地球と貧者の叫びに適切に応えられる方法を見出すことができます。」と語った。

宗教が開発とどのような関係があるのかというIDNの問いに対してタークソン枢機卿は、「『国連環境開発世界委員会』(UNWCED)が定義するように、持続可能な開発とは、『将来の世代の経済発展の基盤を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような開発』のことです。はたして、宗教ほど、こうした社会的目標を追求できるものが他にあるでしょうか。」と語った。

International Conference on Religions and Sustainable Development Goals (SDGs) Credit: Katsuhiro Asagiri, IDN | INPS

さらに、世界の人口の約8割が信仰心を告白しているという状況があり、宗教は「国際開発における不可避の現実」となっている。タークソン枢機卿は、「宗教は人類発展の主要なプレーヤーである。」と指摘したうえで、「宗教は、世界各地の民衆の教育や医療ニーズに多大なる投資をしてきました。また、災害に際してしばしば真っ先に対応し、援助活動を組織してきたのも、宗教組織でした(カリタス・ネットワーク、諸宗教による救援機関、台湾の仏教慈済基金会など)。」と語った。

国連児童基金(ユニセフ)の報告書によると、宗教組織はサブサハラ地域で教育の64%を提供し、世界全体の医療機関の3分の1を運営しているという。

最後に、宗教は変化に向けた目的を設定し、それを鼓舞する。「私たちが持続可能な開発を着実に生み出そうとするならば、これまでのライフスタイルをはじめ、モノの生産や流通、消費、廃棄のやり方を、緊急かつ根本的に変革する必要があるかもしれません。そうした変化を引き起こすには深い動機付けが必要ですが、開発を技術的な用語に絡めて語るだけでは、それを生み出せません。」

「人生を変えるような力強いストーリーの中で、宗教に関する物語は抜きんでています。そうした物語は、世代から世代へと語り継がれ、世界中で数多くの民衆やコミュニティーの心を捉えてきました。宗教は、私たちが今日必要とする変革に向けたインセンティブを実際に与えることができるのです。」

タークソン枢機卿は、「『気候変動に関する政府間パネル』(IPCC)が2018年、地球温暖化による気温上昇を(産業革命前と比べて)1.5度の範囲内に収めるには、人類は今後10年以内にこれまでの生産・消費のあり方を抜本的に変えなくてはならないと警告しました。」と指摘したうえで、「だからこそ、地球の未来を形作る方法に関する議論を続けながらも、変化が緊急に求められているという感覚を決して失わないようにしようではありませんか。」と訴えた。(原文へ)

INPS Japan

関連記事:

バチカン会議、「持続可能な開発」と「核兵器禁止」のネクサス(関連性)を強調

第6回世界伝統宗教指導者会議:「多様性の中の調和」を謳う

|アジア防災閣僚会議|FBOが国連開発アジェンダへの協力を表明

米国への対抗を図る欧州

【ニューヨーク/ミュンヘンIDN=ソマール・ウィジャヤダサ】

「リベラルな世界秩序全体が崩壊しつつあるようだ。状況はまったく変わってしまった。」自身が議長を務める2019年ミュンヘン安全保障会議(MSC)を前に寄稿したオピニオン記事の中で、ドイツの元外交官ウォルフガング・イッシンガー氏はこう述べている。

「ウラジミール・プーチンがクリミア半島を併合し、2014年にウクライナ東部で血塗られた紛争を開始した時、多くの人々が、彼こそが世界の不安定化の主たる原因だと考えた。…その数年後に米大統領が現在の国際秩序を大きく揺るがすことになろうとは、誰も想像しえなかっただろう。ドナルド・トランプ大統領は、西側の価値観や北大西洋条約機構(NATO)に疑問を呈するがごとく、自由貿易にも疑問を呈している。このことは、我々欧州の人間にとってだけではなく、影響は極めて大きい。」

Vice President Michael Pence / Whilte House
Vice President Michael Pence / Whilte House

したがって、最大規模の代表団(超党派の50人からなる議員団)を率いて参加したマイク・ペンス米副大統領が、「トランプ主義」を拒絶する人々を激しく非難した長い演説を行った際に会場から拍手がなかったのは、不思議なことではない。ペンス副大統領は、この演説を「第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ氏からのご挨拶をお伝えします」という言葉で始めていた。

世界中から集まった約500人の参加者で埋められた会場は、水を打ったように静かであった。イッシンガー氏の寄稿文に表れた(米国への)反発と恐怖心の残響は、外交規範に大げさに従った会議参加者の態度によって明確に示された。

なぜなら、彼らの圧倒的大多数が、トランプ大統領は、多くの意味合いにおいて、変化の原因であるというよりもむしろ兆候であることに気付いているからだ。イッシンガー氏が記したように、世界の安全保障環境は「画期的な変化を経験しつつある。つまり、一つの時代が終わり、新しい政治的時代の輪郭が現れつつあるのだ。」

事態を修復する

「大きなパズル:誰がピースを拾う(=事態を修復する)のか?」というのが、今年のミュンヘン安全保障会議の大きなテーマである。ミュンヘン安全保障会議は1963年、分断された西ドイツと、そのもっとも重要な同盟国である米国、それに他のNATO諸国との間で外交政策に関する意見交換を行うために始められたものである。

ミュンヘン安全保障会議は、創設から55年、国際安全保障をめぐる主要な国際会議へと発展してきた。今回、国際秩序の中核的な要素をいかに保つかについて議論が行われる背景には、数多くの「不安定」要因がある。たとえば、欧州の防衛政策、シリア・イラク・アフガニスタンからの米国の撤退、欧州連合(EU)諸国のGDP2%をNATOに拠出すべきとのトランプ政権の要求、貿易・関税戦争、英国のEU離脱がもたらす混沌、世界中で跋扈する右翼ポピュリズム、ベネズエラで急速に力を増しつつある「体制変革」への動きなどを挙げることができるだろう。

国際安全保障は、イランとの核合意(JCPOA)や中距離核戦力(INF)全廃条約、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、パリ気候変動協定といった、慎重に策定された多国間合意からの離脱をトランプ大統領が次々に発表したことで、さらなる危機にさらされている。

さらに、イエメンで進行中の惨事、神聖なる国際法に違反して主権の壁を超える国々、英国で起こったスクリパリ親子への毒物攻撃、トルコでのジャーナリスト、ジャマル・カショギの惨殺もまた、世界の安全保障を悪化させている。

米国・中国・ロシア間の世界のトップの座をめぐる争いに現を抜かした、権力に目のない政治家たちが引き起こしたこれらの紛争は、世界を終わりなき紛争の淵に叩き込み、世界の平和と安全を脅威にさらしている。

この状況は、1939年に勃発した第二次世界大戦前夜の状況、そして、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が「平和がどこかで破られるとき、全ての国々の平和は危機に陥る」と語ったことを思い起こさせるものである。

対話か対立か

ミュンヘン安全保障会議で寄せられた多様なコメントは、何がいったい危機に晒されているかを明確に示している。

Angela Merkel, Chancellor of the Federal Republic of Germany, chairperson of the CDU/ By Armin Linnartz, CC BY-SA 3.0 de
Angela Merkel, Chancellor of the Federal Republic of Germany, chairperson of the CDU/ By Armin Linnartz, CC BY-SA 3.0 de

米国が主導したグローバル秩序が「多くの細かい部分に分裂してしまった」と嘆くドイツのアンゲラ・メルケル首相は、外交政策に対する自身のアプローチ、とりわけ、多国間主義やルールを基盤とした秩序、外交へのゆるぎなきコミットメントを力強く擁護した。

メルケル首相は「世界の危機のすべては結局のところひとつの問いに帰着します。つまり、『私たちは、たとえ困難でゆっくりとしたものであっても、多国間主義を信奉するのか否か?』という問いです。」と述べて(名指しは避けつつも)トランプ主義の精神を否定した。

トランプ大統領を「自由世界の指導者」と呼ぶペンス米副大統領は、「『アメリカ・ファースト』とはアメリカが単独で行動することを意味するのではなく、世界の指導者らや同盟国、国々に対して、アメリカはこれまでよりも強力になり、米国が世界の舞台で再び指導的立場に立つことをあらためて確認するためにここにやってきた。」と述べた。

このような傲慢な演説では拍手は生まれない。ペンス副大統領が「欧州のパートナーらはイラン核合意から手を引くべきだ」と述べ、ロシア・ドイツ間の石油パイプライン「ノルド・ストリーム2」を非難するに及んでは、なおさらだ。

ペンス副大統領は、トルコによるロシアのミサイル防衛システム「S-400」購入計画を念頭に、「NATOの同盟国が我々の敵から兵器を購入するのを手をこまねいてみていることはない。」さらに、「我々の同盟国が東側への依存を増すというのなら、西側の防衛を我々は保証できない。」と語った。

ペンス副大統領は、「中国による知的財産権の侵害や強制的な技術移転、その他の構造的諸問題が、米国経済や世界各国の経済の負担になっているという長期的な問題に、中国は対処しなければならない」ことを、トランプ大統領の指導の下で米国は明確にしてきた、と述べた。

ペンス副大統領はまた、ベネズエラ危機に言及して、トランプ大統領は「自由の擁護者」であり、欧州諸国に対して米国と共にベネズエラのニコラス・マドゥロ政権に対抗するよう訴えた。

英国のテレサ・メイ首相は、「(国民投票に従って)2019年にEUを離脱後速やかに、EUの共通外交・安全保障政策からも抜け出ることになろう。我々は、真に独立し、主権的な外交政策を持つことになる。」と述べた。

多くの発言者がロシアを標的にした。英国のギャビン・ウィリアムソン国防大臣は、世界をより危険な場所にしつつあるとしてロシアを非難し、ドイツのウルサラ・フォンデルレイエン国防相はロシアは欧州を分断しつつあると述べた。しかし、全体としてみると、過去よりも批判のトーンは弱まっている。

中国の楊 潔篪外交部長は「歴史は、多国間主義を擁護し、グローバルな協力を推進して初めて、より良き生活を求める人民の夢を実現できることを示している」と述べた。

Russian Foreign Minister Sergey Lavrov/ Photo by U.S. Department of State.
Russian Foreign Minister Sergey Lavrov/ Photo by U.S. Department of State.

ロシアのセルゲイ・ラフノフ外相は、NATOがロシア国境まで「拡大」し、双方が軍の展開と訓練を強化する中で空前の緊張を生み出していると厳しく批判した。ラブロフ外相は他国の外交指導者らと多くの二国間協議をもった。

ロシア外務省のマリア・ザカロワ報道官は、あらゆる問題に関して米国の一貫性のなさに苛立ちを示した。米国はその強大な軍事力と経済力にも関わらず「中東で失敗」し、「どの場所でもどの世界的な危機も解決できていない。」と指摘したうえで、「ミュンヘン安全保障会議の主な目的はロシアを悪者扱いすることにある。」と示唆した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、従来から会議での目標を劇的な形で示して自らの存在を誇示しようとする傾向があるが、今回はイラン製ドローン(無人攻撃機)の破片を振りかざし、同国を「中東最大の脅威」と呼んだ。

イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相はスピーチで米国を批判し、前日のペンス演説を激しく非難した。イランが「新たなホロコースト」の筋書きを立てているとのペンス副大統領の見方は「憎悪に満ちて」おり「無知」だと述べた。またザリーフ外相は、「病的に」イランを標的にする米国は「世界最大の脅威だ」と呼んだ。

生起しつつある新世界秩序

会議の閉会にあたって、議長のイッシンガー氏は「我々はたしかに問題を抱えている。」という残念な結論を出した。

そう、確かに問題はある。恐らくそれほど新しくもない問題が―。2007年ミュンヘン安全保障会議で、ロシアのプーチン大統領は、「一人の主人と一人の主権者がワシントンDCに鎮座している西側の同盟システムは『内から崩壊することになる』だろう。」と予想した。その予言は的中することになるだろうか。

今回のミュンヘン安全保障会では、侮蔑と当てこすりさえ交えた実に様々な発言と応答が飛び交った。これは、米国が、ロシアや中国、イランとだけではなく、同盟国とも対立の火種を抱えていることの証左だ。

米国は反対しているが、欧州諸国は東側に橋を架けつつある。ペンス副大統領は、欧州に対して、ロシアや中国と取引きすることは自らの安全保障を毀損することになると警告してきが、ロシアのパイプライン「ノルド・ストリーム2」のような大型プロジェクトや中国の「一帯一路」構想は、欧州で信頼を獲得してきている。

イッシンガー氏は、「暗い予想図は、何もないところから生まれるのではない。一部の西側諸国が自己中心的で対立的な心性を持つようになり、国際的な責任に関心を示さなくなれば、単独行動主義や孤立主義、保護貿易主義という悪果が生まれることになる。」と記している。

国際関係の専門家によれば、世界各地で起こっている紛争は、米国と欧州の影響力が低下しつつあり、ロシア・中国・米国といった大国が経済的・軍事的優勢を求めて競争していることの証であるという。

こうした「分裂」状況を背景に、世界の平和と繁栄をめざして、ルールを基盤とする国際秩序を模索しようとする願望が、今回のミュンヘン国際会議全体を覆っていたと言えるだろう。(原文へ)

※著者のソマール・ウィジャヤダサは国際弁護士。国連総会に対するユネスコ代表(1985~95)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)代表(1995~2000)を務める。

INPS Japan

関連記事:

一部の勢力を除き、世界の指導者らは多国間主義を支持

専門家らが米国のイラン核合意離脱がもたらす幅広い悪影響を予測

単独行動主義の傾向を強める米国政治

浮き沈みある女性の政界進出

【ニューヨークIDN=キャロライン・ムワンガ】

世界各国における女性の政界進出の現状をまとめたIPU-UN Women による調査報告書「Map of Women in Politics」(隔年出版)の内容を分析した記事。報告書は3月12日に国連本部で開催された「世界の女性地位委員会」会期中に記者発表された。(原文へ)FBポスト

INPS Japan

関連記事:

|UNウィメン|女性に対する暴力という予防可能な悲劇を終わらせる

ヴァンダナ・シヴァ氏インタビュー(Vatican Conference on SDGs)

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPSは、ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会が主催した「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」(3月7日~9日)を取材した。会議期間中、INPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターがラメシュ・ジャウラ編集長と共に、インドの学者・環境活動家で、食料主権の主唱者であり、アルテルモンディアリスム(もう一つの世界主義)に関する著作もあるヴァンダナ・シヴァ氏にインタビュー取材した。

シヴァ氏は、今回の会議で「ヒンドゥー教徒の観点」について発言したが、IDNの取材に対して、「ヒンドゥー教とキリスト教の深い精神的な観点には大きな違いはありません。両者とも、使っている言葉は違えど、被造物の保全(Integrity of Creation)について論じています。」

「(ヒンドゥー教では)ウパニシャッドのなかで『貪欲を避けよ』と説きます。一方、イエス・キリストは金貸しのところに行ってテーブルをひっくり返しました。つまり、基本的な原則は共通しているのです。ヴェーダとウパニシャッドは世界最古のスピリチュアルな文献であり、人類が地球上で生命を維持していくための生き方を示しています。したがって、主な違いは、アブラハムの伝統は約2000年であるのに対して、私たちのそれは1万年であるということだけです。つまり、前の時代を生きた女性たちは常に賢明だったということです。」と語った。

Vandana Shiva, who participated in the 'International Conference on Religions and Sustainable Development Goals (SDGs): Listening to the cry of the earth and of the poor', held in Vatican City, from March 7-9, 2019, talks about the Hindu perspective as far as the role of religion in achieving SDGs is concerned. She is of the view that there is no difference in the deep spiritual perspective of Hinduism and Christianity. Both talk about the integrity of creation, though they use different words.

INPS Japan

関連記事:

|バチカン会議|世界の諸宗教にSDGsへの協力求める

SDGsをテーマとしたバチカン会議を取材

ハンマド・アブ・ザイード議長インタビュー

第6回世界伝統宗教指導者会議:「多様性の中の調和」を謳う

ピーター・タークソン枢機卿インタビュー(Vaticn Conference on SDGs)

0
Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPSは、ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会が、2030アジェンダ採択から3年半を契機に開催した「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」(3月7日~9日)を取材した。INPS Japanからは浅霧勝浩マルチメディアディレクターがラメシュ・ジャウラ編集長とバチカンで合流し、主催したピーター・タークソン枢機卿(ローマ教皇庁人間開発のための部署長官)をはじめ、主な参加者とのインタビューや会議の様子を記事並びに映像に収録した。

INPS Japan

関連記事:

|バチカン会議|世界の諸宗教にSDGsへの協力求める

ヴァンダナ・シヴァ氏インタビュー

第6回世界伝統宗教指導者会議:「多様性の中の調和」を謳う

ハンマド・アブ・ザイード議長インタビュー(Vatican Conference on SDGs)

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPSは、ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会が主催した「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」(3月7日~9日)を取材した。会議期間中、INPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターがラメシュ・ジャウラ編集長と共に、レバノンの「スンニ・サイーダ法廷」のムハンマド・アブ・ザイード議長にインタビュー取材した。

ザイ―ド議長は、今回のバチカン会議の意義について、「この地球を守るという共通の目標に向けた宗教間パートナーシップこそが会議の肝であり、私たちが成しうる最も重要なことです。」と指摘するとともに、この会議が宗教間の対立を解消する一助となるかどうかという問いに対して、「ええ。対立の解消にきっと役立つことでしょう。しかし、会議だけでは十分ではありません。有言実行を積み重ねていかねばなりません。私たちは(地球を守るための)旅を共に歩みながら、それぞれの教えと理論をもっと実践的なものに変える行動計画を持つ必要があります。」と語った。

Shaikh Muhammed Abu Zaid Chairman of the Sunni Court of Saida in Lebanon talked about his expectation of the ‘International Conference on Religions and Sustainable Development Goals (SDGs): Listening to the cry of the earth and of the poor’, held in Vatican City, from March 7-9, 2019. He is of the view that the conference has brought together people of different faiths together, to talk to each other and work out an action plan to preserve the planet Earth, an important aim of the SDGs.

INPS Japan

関連記事:

|バチカン会議|世界の諸宗教にSDGsへの協力求める

SDGsをテーマとしたバチカン会議を取材

|バチカン会議|世界の諸宗教がSDGサミットに備える

第6回世界伝統宗教指導者会議:「多様性の中の調和」を謳う

混迷の度が深まるアフリカ東部・「アフリカの角」地域

【ニューヨークIDN/GIN=リサ・ヴィヴェス】

米国が、10年以上にわたるソマリア内戦を軍事的に解決しようと乗り出す一方で、スーダンと南スーダンは混迷の度を深めている。米アフリカ軍司令部によると、ソマリア中部のヒラーン州で、最近米軍が国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派組織「アル・シャバブ」に空爆を加え、35人の戦闘員を殺害している。

こうした空爆作戦には、武装した無人機(攻撃型ドローン)が投入されている。地元のオンラインメディア「ハルガン・メディア」によると、米軍によるドローン攻撃は、今月になって12回目となる。米国防総省は近年、ドナルド・トランプ大統領がテロ容疑者に対する米軍の行動の制限を緩和させたことなどから、ソマリアでの空爆の割合を拡大している。

An MQ-9 Reaper unmanned aerial vehicle flies a combat mission over southern Afghanistan/ By Lt. Col. Leslie Pratt - commons file, Public Domain
An MQ-9 Reaper unmanned aerial vehicle flies a combat mission over southern Afghanistan/ By Lt. Col. Leslie Pratt – commons file, Public Domain

まだ武装ドローンは使用されていないものの、スーダンではオマル・アル・バシール大統領が一連の非常事態宣言を発して、各地に広がる民衆の抗議活動を抑え込もうとしている。バシール大統領は、これまでの30年に亘る統治の中で、最も長い反政府抗議活動に直面している。

首都ハルツームでは、機動隊が催涙弾やスタングレネードを群衆に向かって発砲したが、数千人の群衆が街路を埋め尽くした。デモに参加しているエリジさん(本人の安全確保のため偽名)はアルジャジーラの取材に対して、「私たちは政権交代を成し遂げようとしています。非常事態宣言など怖くはありません。」「私たちの要求はただ一つ、大統領の退陣です。」と、語った。

機動隊は、学生たちが座り込みのデモを始めたアハファド女子大学の構内へも、催涙ガス弾を打ち込んだ。

スーダン当局は、これまでに抗議行動に関連した暴力沙汰で31人が死亡したとしているが、人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、犠牲者の数は51人にのぼると発表している。

一方、アフリカで最も若い南スーダンでは、政府と反政府勢力との間で4年に亘った内戦の末に昨年ようやく停戦合意がなされたが、国土は荒廃し、想像を絶する規模(シリア、アフガニスタンに次ぐ世界3番目)の難民危機が生じている。南スーダンに関する国連の報告書には、ありとあらゆる人権侵害の事例が報告されており、英国のガーディアン紙は、「200頁以上に及ぶこの報告書の内容は、読者を最も陰鬱な気持ちにするもの」と報じている。

Map of South Sudan/ Wikimedia Commons

南スーダン人権委員会のヤスミン・ソーカ委員長は、今回3回目となる報告書をナイロビで公表し、「戦闘員が村々を襲撃する際、家々を略奪し、女性を性奴隷として略奪したうえで、しばしば住民を中に閉じ込めたまま家屋に放火するという行動パターンが確認されています。」と語った。

「南スーダンでは、殺人のほか、住民の強姦、輪姦、性器切除、誘拐、性奴隷化が横行しています。これまで不処罰がまかり通ってきたため、あらゆる規範が崩壊し、このような犯罪が蔓延したことは、疑いの余地がありません。」

南スーダンの独立闘争時代の説明責任の欠如が、今日に続く内戦を助長してきたが、報告書は、持続可能な平和を実現するには、犯罪行為に対して具体的かつ信頼に値する説明責任と公正な裁きが確保されなければならない、と強調している。

「政府が著しい人権侵害や深刻な国際人道法違反を犯した者等の責任を問おうと努力している点は認めます。」「しかし、不処罰の風潮が依然として常態化している事実を指摘せざるを得ません。」と同委員会のアンドリュー・クラパム委員は語った。

国連人権委員会が2016年に設立した南スーダン人権委員会は、政府、地域、国際社会に対して、5か月前に復活させた新たな停戦合意の履行と「戦闘行為の完全停止」を実現すべく、「緊急の対策」を講じるよう強く要請している。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

南スーダンは世界で最も若い国の1つだが、7年前の独立から大半の期間を政情不安と紛争に見舞われてきた。

2018年9月、南スーダンのサルバ・キール大統領と長年の政敵で反政府勢力を率いるリヤク・マシャール氏は、エチオピアの首都アディスアベバで新たな和平協定に調印した。この合意は、最終的に危機を克服し、内戦によって住処を奪われ貧窮している数百万の人々に、安全でより良い環境を提供するとの高い期待が寄せられている。

南スーダン人権委員会が発表した今回の国連報告書は、戦争犯罪者の追訴へと至るプロセスの第一歩を踏み出したものとなっている。同人権委員会は、引き続き犯罪の責任者を訴追するための証拠収集を継続していくと発表している。(原文へ)

INPS Japan

関連記事:

|世界人権宣言70周年|青年フォーラム、人権の今日的意義を問う

エリトリアからリビアを通過して欧州に旅する危険

|国連|インドによる軍縮専門家育成プログラムを評価

専門家らが朝鮮半島の平和の見通しを討議

【東京IDN=浅霧勝浩】

朝鮮戦争(1950~53)における「戦闘行為と武力行使の完全停止」をもたらした休戦協定から66年が経過した。休戦協定の一年後、中国の周恩来首相兼外相は和平条約を提起したが、米国のジョン・フォスター・ダレス国務長官が拒否したため、朝鮮半島の最終的な平和解決は未だに成立していない。

休戦協定が署名されたことで、南北朝鮮の事実上の国境である非武装地帯(DMZ)が設定されて停戦が発効し、戦時捕虜の本国送還を終了した。非武装地帯は38度線に沿って置かれ、1953年の休戦協定発効以来、北朝鮮と韓国を分断している。

米国のドナルド・トランプ大統領と金正恩北朝鮮最高指導者がシンガポールで昨年6月に行った初の首脳会談では、和平協定の問題は重視されていなかった。このことは、ベトナムのハノイで2月27・28両日に開催予定の2度目の首脳会談でも同様であろう。

ハノイ会談を目前にして、「朝鮮半島における平和の構築――休戦協定から恒久的平和協定への転換」と題するシンポジウム(第3回東京会議)が開催された。

戸田記念国際平和研究所とニュージーランド・オタゴ大学国立平和紛争研究所が主催したこのシンポジウムでは、南北朝鮮間の平和宣言の是非や、停戦協定に代わる恒久的な平和協定への転換のあり方について、韓国・米国・中国・ロシア・日本の観点から議論がなされた。

しかし、5か国からの様々な観点が明らかにしたように、朝鮮半島に安定的な平和をもたらすのは困難な課題になるだろう。米朝両国は、朝鮮半島の非核化が実務的に意味するところについて合意を見ていない。また、韓国・米国・中国・ロシア・日本の5か国の国益や外交上の利益は互いに一致していない。

Photo: Chung-in Moon (South Korea) Credit: Yukie Asagiri
Photo: Chung-in Moon (South Korea) Credit: Yukie Asagiri

そのような中で、金正恩最高指導者は新年の辞の演説でとりわけ重要なことを述べている。金最高指導者は、休戦体制を平和体制に転換するための「多国間交渉」を呼びかけたのである。

これは、文正仁韓国大統領特別補佐官(外交・国家安全保障担当)が、核問題の当事国間が信頼を醸成し問題に対処していく必要性を強調したことに近い。文特別補佐官は、合意は「履行」されてこそ意義があるとし、アジアにおける全ての当事国と米国が参加するサミット開催を提案した。

ジョセフ・Y・ユン元米国国務省北朝鮮政策特別代表は、北朝鮮は自国の安全保障上の懸念について米国から特別な保証を得ない限り、自ら非核化することはないだろう、という見解を示した。ユン元特別代表は、「北朝鮮の核は(長年にわたる)苦労の末に作り上げたものだ」と指摘したうえで、平和協定を結び、核兵器の解体と検証を行う「体系的なアプローチ」の必要性を訴えた。

楊希雨中国国際問題研究院上級研究員(六者会合交渉官)は、朝鮮半島の動向を深読みしすぎることに対して警告を発した。楊上級研究員は、具体的な事例として、1991年から92年と1994年から2002年にかけて米朝が21のテーマについて協議し、うち17件に関して合意に達したが、結局その後危機が訪れた事例を挙げた。

Photo: Yang Xiyu (China) Credit: Yukie Asagiri
Photo: Yang Xiyu (China) Credit: Yukie Asagiri

にもかかわらず、2018年に行われた3回の南北朝鮮首脳会談、米朝会談と中朝会談を目の当たりにして、これらを「歴史的機会」だとみなす傾向がある。2019年には、米朝首脳会談が1回、中朝会談が1回以上、それに南北首脳会談も実施されるだろう。

楊上級研究員は、「事態を複雑にしているのは、北朝鮮にとっての関心事が和平協定にあるのに対し、米国の関心事が北朝鮮の非核化にある点です。」と指摘したうえで、「平和の基盤としての勢力均衡という構造を完全に」取り除く必要があると強調した。

ロシア科学アカデミー経済研究所・朝鮮問題研究室長であり、ロシアBRICS研究委員会の委員長でもあるゲオルギー・トロラヤ氏は、「利害のバランス」を取ることを求めた。

トロラヤ研究室長は、ロシアが2018年に2つの提案をしていることを指摘した。ひとつは「凍結には凍結を」の原則で、具体的には、米韓が合同軍事演習を停止する代わりに、北朝鮮は核実験を凍結するというもの。そしてもうひとつは、南北朝鮮間で「多くの合意と取り決め」につながるような二国間交渉を行うというものである。

Photo: Georgy Toloraya (Russia) Credit: Yukie Asagiri
Photo: Georgy Toloraya (Russia) Credit: Yukie Asagiri

トロラヤ研究室長はまた、国連軍を代表した米陸軍のウィリアム・K・ハリソン中将と、中国人民志願軍も代表した北朝鮮人民軍の南日(ナム・イル)大将との間で締結された1953年の休戦協定は、今回のシンポジウムのテーマが示唆するような平和体制の基盤にはなりえない、と主張した。なぜなら、韓国はこの休戦協定の当事者ではないからだ。休戦協定の唯一の目的は、戦闘行為の停止と捕虜の送還といった技術的な問題であった。休戦協定では、協定が署名され発効してから3ヶ月以内に政治的諸問題を清算するための会議を開くこととされていたが、この会議は失敗に終わった。

「私たちは、朝鮮半島の実情を前提とした平和を構築する必要があります。この問題がグローバルな性格を帯びていることを考えると、当然ながら、南北朝鮮のみならず、米国、中国、そして日本やロシア、さらには国際社会全体も巻き込まなくてはなりません。これは、二国間あるいは地域の問題ではなく、核拡散と平和愛好というグローバルな問題なのです。」とトロラヤ研究室長は語った。

トロラヤ研究室長はまた、「平和体制のためのある種の法的基盤を構築しなくてはなりません。たとえば、多国間宣言、あるいは、条約、北東アジア6カ国サミットのようなものが考えられます。9月に国連総会が開催される際に、6カ国外相が宣言をすることでこのプロセスを始めることができるかもしれない。」と語った。

トロラヤ研究室長の見方では、多国間合意、あるいは、交戦当事国間で締結される法的拘束力がある一連の二国間協定を通じた多国間プロセスが必須である。中でも重要なのは、それぞれの義務の履行を監視するメカニズムを作るべきだとしている点である。

結果的に、そのメカニズムは、朝鮮半島とその近隣諸国を包含する「地域協力と安全保障体制の核」になっていくかもしれない。「北朝鮮が、トランプ大統領の言うような経済的ロケットになるかどうか分からないが、この国には大きな可能性があります。」と、トロラヤ研究室長は語った。

元陸上自衛官(陸将)で国際大学教授の山口昇氏は、当事者間に見解の食い違いや優先順位の違いがあることを指摘した。しかし、北朝鮮が核兵器や核技術の拡散という手段に訴えることは、間違いなく危険なシナリオになると語った。

さらに、もし北朝鮮が核保有国として容認されることがあるならば、北朝鮮が2003年に脱退したNPT体制にも深刻な影響を及ぼすことになるだろう。北朝鮮の核武装は、他の国々がそれにつづくインセンティブを与えることになる。

一人あたりのGDPが韓国の20分の1しかない国が米国と対等の立場で交渉でき、米国に到達する核弾頭の取得したことで報奨を得ることができると「100余の」国々が気づいたならば、非核保有国が核武装に突き進む道が開けるだろう。「そのような事態は防がねばなりません。」と山口教授は語った。

山口教授はまた、脅威認識の違いについて、日本は中距離ミサイルを危険視しているのに対し、韓国では、短距離ミサイルや大砲すら十分脅威として認識されている、と指摘した。他方で、米国では大陸間弾道ミサイル(ICBM)が最重要問題とみなされるかもしれず、それが全面戦争の引き金になりかねない、と語った。

Photo: Q&A Session Credit: Yukie Asagiri
Photo: Q&A Session Credit: Yukie Asagiri

山口教授は、「しかし、多様な脅威認識のその先を見すえ、物事が正しい方向に進むかどうか準備をしておくことが必要です。たとえば、もし北朝鮮が平和的な方法で非核化する完璧なシナリオに乗ってくるのならば、日本をはじめ他の国々も、北朝鮮の経済成長に対する技術的・資金的インセンティブを準備しておかねばなりません。」と語った。(原文へ)

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

朝鮮半島の危機を北東アジアの安定的平和へ

|日本|拘束を解き放って核廃絶に向かう道とは

|視点|罵り合いはもういらない – 北朝鮮核危機からの出口

東京会議2019「朝鮮半島における平和の構築」