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|国連防災世界会議|災害を理解することが防災への鍵

【仙台IPS=ラメシュ・ジャウラ

第3回国連防災世界会議が、長くかかった最終協議を経て、3月18日に閉幕した。187の国連加盟国代表が、今後15年(2015年~30年)という長期に亘る新しい防災対策の行動指針となる「仙台防災枠組」にようやく合意した。

国連の潘基文事務総長は会議の始まった14日、「持続可能性は仙台から始まるのです。」と述べた。「仙台防災枠組」が新たな時代の夜明けを告げるものだとしても、それが事務総長の期待に応えるようなものであるかはまだわからない。

国連事務総長特別代表(防災担当)で国連防災戦略事務局(UNISDR)長のマルガレータ・ワルストロム氏は、この新しい枠組みは「災害リスクと人命・暮らし・健康の損失の実質的な減少につながるような行動のための目標と優先行動を示したものだが、持続可能な開発における新たな時代を開くものとなるだろう。」と強調した。

UNISDR

しかし、ワルストロム氏は18日、仙台防災枠組みの実行には「強力なコミットメントと政治的なリーダーシップが必要であり、持続可能な開発目標(今年9月の国連総会で採択予定のポスト2015年開発アジェンダ)と気候変動に関する今後の合意(今年12月のパリ気候変動会議)を達成するうえで肝要なものである。」と警告した。

仙台防災枠組」は、7つのグローバルな減災目標と4つの優先事項を示している。

今後15年で達成すべきグローバルな減災目標とは、「①災害に伴う全世界の死亡率を大幅に削減する。②被災者数を大幅に削減する。③国内総生産(GDP)に占める災害の直接的な経済損失を大幅に削減する。④医療や教育施設など重要インフラを強靱化する。⑤2020年までに全国・地域レベルで防災戦略を策定する国の数を増やす。⑥途上国支援を強化する。⑦複数の危険に関する早期警戒システム及び災害情報・評価へのアクセスを強化する。」である。

4つの優先行動とは、①災害リスクへの理解向上。②災害リスク管理のための災害リスクガバナンスの強化。③強靭化に向けた防災への投資の強化。④効果的な応急対応に向けた準備の強化と「災害復興:よりよい復興(Build Back Better)」に焦点を当てている。最終的な優先行動は、より効果的な防災準備や、復旧・復興・再建において「よりよい復興」を埋め込むことを呼び掛けている。

以下は、UNISDRのマルガレータ・ワルストロム氏に対して3月16日に仙台会議の会場で行ったインタビューである。そこで同氏は防災の本質について語っている。

IPS:この仙台会議で防災への解決策が導き出されるとお考えですか?

マルガレータ・ワルストロム氏(以下MW):この会議と集合的な経験から解決策が導き出されてきました。それは実際、私たちにとって問題ではないのです。問題なのは、既に知っている知識を応用するためにいかに説得力のある議論をできるか、ということなのです。それは、個人や社会、企業などに関係のある話です。きわめて複雑な問題ですから、あまり単純化した問題だと捉えないことが重要です。

もし災害を相当程度に減らそうと考えるならば、個別にではなく数多くのセクターに対して目を向けなくてはなりません。しかし、複数のセクターには協働が必要なのです。この10年にかなりの進展があったことを、私は自分の目で見て、そして自分の耳で聞いてきました。

国際社会が今日超えるべき重要なハードルは、従来の災害を理解するという段階から、「(災害)リスクを理解する」という段階へと進むことです。災害というものを表面的に理解することはできますが、それだけでは将来的に(災害)リスクを減らすことにはつながりません。リスクを減らすことができるのは、個別のリスクではなく、本当に社会を壊してしまうような、複合して機能する複数のリスクを私たちが理解したときなのです。」

仙台会議がやろうとしているのは、まさにこのことなのです。今後数十年にわたる防災行動の基礎を築く文書に関する協議を行うことと同等に、人々がお互いから急速に学びあい、刺激を受け合うことがこの会議における極めて重要な目的なのです。

IPS:(レジリエンス)強靭性が重要な問題となっていますね。貧しく脆弱な立場に置かれている人々は常に強靭さを発揮してきました。しかし、こうした人々の強靭さを強化するために必要なのはお金(開発のための資金)と技術です。仙台会議の結果として、これら2つのことがもたらされるとお考えですか?

MW:この会議の結果、というだけではありません。なにかあるとすれば、会議は、優先行動を掲げ、必要とされる計画の統合に対する理解を高めるものになるでしょう。いかなる場合においても、歴史的経験が示しているものは、強靭性のための最も重要な基礎は社会開発と経済発展だということです。人間は健康であり、よい教育を受け、選択肢があり、仕事がなくてはなりません。知っての通り、それに続くのは、もちろんある意味では、新たなリスクです。つまり、ライフスタイルのリスクです。

そこにあるのは技術ではないでしょうか。技術の問題といえば、その利用可能性の問題、それであればお金の話になりますが、技術をどうやって使うかという能力の問題でもあります。多くの国や個人にとって、これは本当に問題です。自分自身を見つめてみなくてはなりません。技術の進歩は人々がそれを使いこなす能力よりも、早いペースで進んでいるのです。

技術を手に入れる金銭的資源は、間違いなく制約にはなりますが、多くの場合、より大きな制約は「能力」の問題です。政府自身の投資(それは最も肝要なものですが)という点でお金の問題を考えれば、資金は増えてくることになるでしょう。強靭性を作り出すために必要なものをどう理解するかと言えば、それはリスクに対応できるインフラであり、リスクに対応できる農業であり、水管理システムなのです。それらはいずれも単独の問題ではありません。

投資は今後増えることになるでしょう。個人に対する投資、強靭性の社会的側面に対する投資、とりわけ最も貧しい人々に対するそれには、政策の方向性に関する明確な決定を必要とします。それはおそらく、ポスト2015年の普遍的開発アジェンダに関して今年後半になされる合意において、浮かび上がってくるでしょう。それは(従来のMDGにおける)貧困削減重視の姿勢を今後も継続するために何がなされるべきかについて焦点をあてるものとなるでしょう。

IPS政府開発援助(ODA)の問題は、今日、何らかの関連性があるでしょうか。

MW:大きさと規模の上では、外国直接投資や民間部門の成長と比べれば、おそらく大きな関連性はないでしょう。しかしもちろん、ODAには、具体的な連帯の表現として、極めて重要な象徴的意味合いや、政治的な意味合いがあります。

UN WCDRR

持続可能な開発目標の議論やこの仙台会議の議論において、国際協力を含め、基盤となるような国家的資源が強調されている理由がこのあたりにあることが、おわかりなのではないかと思います。(原文へ

しかし公平を期すために申し上げておくと、現在でも、多額のODAに依存している開発途上国は多く存在します。GDPの3割~4割が何らかの形でODAに依存しているのです。このような状況は、最終的な政治的選択に関していえば決して好ましいものではありませんが、現在の経済的現実でもあるのです。経済発展のニーズ、その国の経済成長を刺激し人々の成長を促すような種類の投資といったものに優先順位を与え続けていく必要があります。

翻訳=IPS Japan

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震災・津波瓦礫と闘う日本

核兵器を禁止する法的拘束力のある条約(レイ・アチソン「リーチング・クリティカル・ウィル」代表)

【ニューヨークIPS=レイ・アチソン】

2010年に核不拡散条約(NPT)の「行動計画」が採択されてから5年、核軍縮に関連した約束への遵守は、核不拡散あるいは原子力平和利用の関連のそれに比べて、はるかに立ち遅れている。

しかし、その同じ5年の間に、あらたな証拠と国際的な議論が、核兵器使用の壊滅的な帰結と、意図的であれ偶発的であれ核の使用がもつ容認しがたいリスクに焦点をあててきた。

こうして、NPTの完全履行、とりわけ核軍縮に関する履行が、以前にもまして急を要する問題となってきた。核軍縮のもっとも効果的な手段のひとつは、核兵器を禁止しその廃絶の枠組みを確立する法的拘束力のある条約の交渉であろう。

Ray Acheson, Reaching Critical Will
Ray Acheson, Reaching Critical Will

しかし、そのことにコンセンサスがあるわけではない。

実際、4月27日から5月22日にかけてニューヨークで開催される予定の2015年NPT運用検討会議を前にして、NPT上の核保有国と核依存同盟国は、そうした交渉によってNPTは「損なわれ」ると論じ、「行動計画」は長期的なロードマップであって、少なくとも次の運用検討サイクルまで「延長」すべきであると主張している。

これは、意味ある行動に向けた機会となるはずのものに対する、きわめて退行的なアプローチだ。NPT第6条を履行するための法的枠組みについて交渉することが、条約を「損なう」はずがない。

逆に、それは最終的に核保有国にその法的義務を果たさせるものになるはずだ。

核兵器を保有しているかあるいはそれに依存している国家は、核拡散を防止し安全保障を高める上でのNPTの重要性を強調してきた。

しかし、その同じ国々が、その他の加盟国以上に、軍縮のために必要な具体的な行動を防止し、回避し、遅らせることによって、条約をおおいに損なっているのである。

NPT上の核保有国やその核依存同盟国は、その責任や誓約、義務を今こそ果たすべきだ。さもなくば、彼らが守らねばならないと訴えている条約体制そのものが損なわれてしまうだろう。

Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias
Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias

彼らがその約束を履行しないことは、NPTの将来に暗い影を投げかけている。こうした不履行が永久に続き、核兵器を保有し続けるだけではなく核兵器システムを改修・配備できると期待しているならば、それは誤っている。

2015年NPT運用検討会議は、他の諸政府がこうした行動に直面・挑戦し、協調的かつ即時の行動を要求する機会を提供することだろう。

加盟国は、この5年間の事態について真摯に評価を加えるだけではなく、NPTを今後も生き長らえさせ、核軍拡競争の停止、核兵器製造の停止、核兵器使用の防止、既存核戦力の廃絶といったNPTのすべての目標と目的を達成するためにどんな行動が必要かを決定しなくてはならないだろう。

核兵器の非人道的帰結に関してこのところあらためてなされた検討作業は、糸口を見つけるよい出発点である。2010年のNPT運用検討会議は、「核兵器のいかなる使用による破滅的な人道的帰結に対しても深い懸念」を表明した。

それ以降、とりわけ、ノルウェーやメキシコ、オーストリアが主催した一連の会議において、人道的帰結の問題がますます議論と行動提案の焦点を成してきた。

諸政府は、従来からの議論の場においても人道的影響の問題を取り上げるようになっている。たとえば、2014年の国連総会では155か国が共同声明に署名し、核兵器によって引き起こされる容認しがたい被害に焦点を当て、いかなる状況においても核兵器が二度と使われないようにするよう行動を求めた。

「人道的帰結」のアプローチは核軍縮に対するあらたな推進力の基礎を与えた。赤十字・赤新月運動国連人道問題調整事務所、新世代の市民活動家など、新しいタイプのアクターの登場を促した。

ICAN
ICAN

核兵器の非人道的影響をめぐる議論は、NPTのすべての加盟国によって完全に支持されるべきである。

「人道的帰結」のアプローチはまた「オーストリアの誓約」にも結び付いた。同政府(および、その誓約に賛同するいかなる国)が「核兵器の禁止と廃絶に向けた法的ギャップを埋める」ことを約束したものだ。

今年2月現在で、40か国が同誓約への支持を表明している。これらの国々は、変化を求めているのである。既存の国際法は核軍縮達成のためには不適切であり、核兵器を悪とみなし、禁止し、廃絶するような変化のプロセスが必要だと考えているのである。

このプロセスには、核兵器のもたらす容認しがたい結末を基礎にして、核を明確に禁止する法的拘束力のある法的文書が必要である。こうした条約は、特定の条約を通じてすでに禁止の対象となっている他の大量破壊兵器と核兵器とを同等の立場に置くことになる。

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

核兵器を禁止する条約は、既存の規範に則ったものであり、NPTなどの既存の法的枠組みを強化する。しかし同時に、核兵器活動に従事し、核廃絶を推進するフリをしながらも核兵器の永続化から利益を得ようとすることを諸国に可能とする現在の法的体制の抜け穴をふさぐことにもなろう。

NPT加盟国は、核軍縮達成までどのくらい待つことができるのかを考えてみなくてはならない。2010年運用検討会議以来の動向は、核兵器に関する現在の国際的議論を推し進めてきた。

諸国および他のアクターは、核兵器を禁止しその廃絶のための枠組みを打ち立てる法的拘束力のある文書を策定することによって、軍縮を本当に達成する行動をとるとの意志を今こそ示すべきだ。広島・長崎への原爆投下から70年の今年は、まさによい出発点である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【仙台IPS=ジャムシェッド・バルーア、浅霧勝浩】

国連や諸政府、市民社会の代表らが、災害リスクの低減と、災害中・災害後の計画と意思決定において女性は重要な役割を果たす、と口々に主張した。

実際、防災の取り組みは、女性のニーズと声を無視しては効果的でも持続可能でもないという意見で一致をみている。

UNWCDRR
UNWCDRR

「災害に見舞われた場合、女性は最も大きな影響を受ける一方で、膨大な障壁を克服して災害への対応を指導したり、自らの健康と安寧を危険に晒してまで、ケアや支援を提供したりする女性も多い…。」と、「第3回国連防災世界会議」初日の14日に開催された防災分野での女性のリーダーシップをテーマにした首脳級対話の参加者らは語った。

仙台市で3月14日から18日にかけて開催された「第3回国連防災世界会議」(仙台会議)における一連の首脳級対話の最初の会合である「防災における女性のリーダーシップ」に関するハイレベル会合には、世界食糧計画(WFP)国連人口基金(UNFPA)のトップらが参加した。

UNFPAのババトゥンデ・オショティメイン事務局長はIPSの取材に対して、「仙台会議は世界にとって、共通の災害リスク削減アジェンダのもとに結集し、女性をその中心に据える集団的行動を約束するための新たな機会を提供するものです。」と語った。

Babatunde Osotimehin/ UN photo

この分野において深刻な格差が残っているのは、ジェンダーに基づく妥当なアプローチとベストプラクティスに関する指針やツールが存在しないためではない。必要なのは、女性の発言力の強化と、参加を確保するための前提条件となる政治的な意志である。こうした全ての取り組みが、性と生殖に関する健康の権利を含む女性の権利を強化するものとせねばならない。

オショティメイン事務局長は、あらゆるレベルで講じうる重要な対策を提案するとともに、この目的に使える資金自体が不足している現状に鑑み、資金を災害リスク削減に回すとともに、女性がこの分野で実質的な役割を果たすためのエンパワーメントも行わねばならないと強調した。

オショティメイン事務局長は、持続的かつ持続可能な災害リスク削減のためには、進捗状況を測定し、各国と地方の主体による実施に向けた動きを確保するための指標と目標を伴う説明責任枠組みが必要である、と語った。

Ertharin Cousin/ UN photo

医師であり保健問題の専門家であるオショティメイン事務局長は、国連事務次長として2011年1月にUNFPAのトップに就任する以前は、人口1.8億人のナイジェリアでHIV・エイズ問題を管轄する「国家エイズ活動委員会」の委員長であった。

WFPのアーサリン・カズン事務局長は、仙台で3月14日に始まった「グローバル・リセット」は、女性を防災リスク削減努力の中心に据えるための措置を含めなければならないと強調した。

「他の発言者や諸政府の元首がその他のフォーラムで強調したように、仙台会議は、開発資金や持続可能な開発、気候変動のそれぞれに関し、すべての人々にとってより安全かつ豊かな世界を確保することを目的として、国連が2015年に後援する一連の重要な会議の先陣を切るものだからです。」とカズン事務局長は指摘した。

日本の安倍晋三首相も、基調講演のなかで、「日本が古くから、女性の発言力、視認性、参加を増大させることの重要性を理解してきた。」と述べ、こうした趣旨に賛同する立場を表明した。

例えば、もし日中に災害が起きた場合、家にいるのはほとんどが女性であるため、女性の視点こそが「被災地を復旧するうえで、絶対に欠かせない」ことを指摘した。

「どれほど大地が揺れようとも、私たちの心はいつも平静です。」安倍首相は、2011年3月11日の震災直後に訪れた被災地の女性の力強い言葉を引用し、すべての女性が防災でより大きな役割を果たせるよう、日本政府として本格的な取り組みを続けていくことを誓った。

Shinzo Abe at WCDRR/ Katsuhiro Asagiri of IPS Japan

安倍首相は、防災における女性のリーダーシップを拡大することが、日本による国際支援の新たな政策の重要な要素になると発表した。

また安倍首相は、「本日、私は日本の新しい防災協力イニシアチブを発表しました。今後4年間で4万人の防災・復興リーダーを育成するというものです。」と語った。

「このイニシアチブを通じてなされる主要なプロジェクトのひとつが、『防災における女性のリーダーシップ推進研修』の立ち上げであります。さらに、この夏に東京で開催される予定の『女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW! Tokyo 2015)』のテーマのひとつが『女性と防災』になる予定です。」

さらに安倍首相は、「世界中の国々において具体的なプロジェクトも開始しています。フィジーソロモン諸島など太平洋島嶼国は台風や火山噴火などの多くの自然災害に直面しています。毎年のように豪雨に見舞われ、河川の氾濫で多くの地域に浸水被害が起きています。私たちは、コミュニティ防災分野の専門家を派遣して、女性たちを対象とする研修を3年間にわたり行いました。今やこの女性たちがリーダーとなり、コミュニティの女性に対して防災の知識を広める活動を行っています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【仙台IPS=ジャムシェッド・バルーア、浅霧勝浩】

仙台における重要な国際会議(=第3回国連防災世界会議)に先立って、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)のマルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)が、「災害対処から災害リスクへの対処へと移行する」必要性について「一般的な合意」があると語った。こうした理解の背景についてワストロム氏は、「もし国際社会が、貧困や気候変動、生態系の衰退、制御不能な都市化・土地利用といったリスクの根本にある原因に対応することに成功すれば、結果として地球はもっと強靭なものになるだろう。この枠組みによって、既存のリスクレベルを低減し、新たなリスクの発生を防ぐことに役立つだろう。」と語った。

UNISDR

UNISDR代表の意見と同じく、列国議会同盟(IPU)のセイバー・ホサイン・チョウドリ議長も、国際社会が持続可能な開発の向けた歩みを進めている中、仙台会議を「よい出発点」にすることを誓った。

国連総会は今年9月、貧困の半減等を謳った「ミレニアム開発目標」(MDGs)に代わる、「持続可能開発目標」(SDGs)を採択する予定だ。東北地方の中心地であり、福島第一原発事故につながった2011年の地震・津波の被災地である仙台は、3月14日から18日にかけて開催された「第3回国連防災世界大会」の会場となった。186ヵ国の首脳ら延べ15万人以上が参加した。

UNISDRによれば、2005年に神戸で前回の世界会議が開催されて以来、災害によって世界全体で少なくとも70万人が命を失い、17億人が被災したという。2005年~14年の世界の災害による経済的損失の合計は1兆4000億ドルにのぼっている。防災に関する第1回会議は1994年に横浜で開催されていた。

3月13日に開催された列国議会同盟(IPU)とUNISDRによる議員会合「防災のためのガバナンスおよび立法」に登壇したチョウドリ氏は、「災害による損失のレベルが高くなる中では持続可能な開発は達成し得ません。」と指摘するとともに、仙台会議で「地域の力」が着目されていることを歓迎し、「地方自治体の役割は極めて重要です。(私たち)国会議員には、地方自治体への資源配分を増やすなど、重要な役割があります。」と語った。

IPU

チョウドリ氏は、国会議員らとUNISDRとの間のパートナーシップを称賛するとともに、地域レベル・全国レベルにおいて災害に対する強靭性(レジリエンス)を強化するために各国の議会が用いている実践的なツールをいかに両者が共同で発展させてきたかを指摘した。

識者らは、こうした動きに関連して、ネパール政府による地域の防災計画に対する自発的取り組みについて触れている。

国連防災世界会議のウェブサイトには、「ネパール連邦問題・地域開発省は130の自治体による地域防災計画の策定を支援する。NGOを含め、ネパールにおいて防災に関与しているすべての利害関係者との協力の下に実施される予定だ。この計画は、地域レベルにおける防災活動の指針となるだろう。」

パキスタン政府は、「障害者を包摂した災害リスク低減のためのマスター訓練者20人を育成し、草の根レベルの技術訓練を通じて100の人道支援プロジェクトに影響を与え、障害者を包摂した災害リスク低減に関して150人の主要な人道支援活動家を訓練する」ことを約束すると発表した。

仙台会議開始に先立って、政府代表らは13日、会議終了日の18日に採択される「2015年以降の減災枠組み」の文言について議論した。

草案では、仙台会議は、「人類とその資産、生態系をより効果的に守るために、少なくとも今後50年間に関するリスク・シナリオを想定し、それに向けた計画を立て、行動を始めることが緊急かつ肝要」であると宣言することになっている。

ポスト2015年枠組みの文言では、「災害リスクに対する、より広範かつ人間を中心においた予防アプローチ」を呼び掛け、全てのレベルにおいて「暴露と脆弱性の問題に対処し、リスクの発生に対する責任を確保するための強化された取組み」の重要性を強調した。

採択される予定の文章はこう述べている。「能力が違っていることに鑑みれば、途上国には、開発のための強化されたグローバル・パートナーシップや、実行のための全ての方法の適切な提供と動員、災害リスクを減らすための継続的な国際支援が必要である。」

草案には、強化された南北協力、それを補完する南南協力および三者協力が「災害リスクを減らすための鍵を握って」いることが証明されており、「それをさらに強化する必要がある」と述べている。

草案にはさらにこうある。「パートナーシップが、全てのレベルの諸政府や企業、市民社会、その他の幅広い利害関係者間の関与がもつ力を全面的に引き出すことによって、重要な役割を果たすであろう。また、人的資源・金銭的資源や専門能力、技術、知識を動員する効果的な手段であり、変化や革新、厚生を生み出す強力な力となりうる。」

資金移転・技術移転というしばしば問題含みの点について、草案はこう述べる。「途上国、特に後発開発途上国や島嶼途上国、内陸途上国、アフリカの場合は、金融支援や技術支援、相互に合意した条件に従っての技術移転を通じたものを含め、二国間及び多国間のチャンネルを通じた、それらの国々の能力を発展させ強化するための予測可能で適切、持続可能で協調的な国際支援を必要としている。」

また、国連やその他の関連機関を含め、二国間、地域、多国間の協調的取り決めのような既存のメカニズムを通じて、環境に優しい技術や科学、革新に加え、知識や情報へのアクセスを強化し、移転を促進することを謳っている。

さらに、諸国家や地域的機関、国連や国際金融機関などの国際機関に対しては、災害リスク低減の取り組みを、あらゆるレベルにおける持続可能な開発の政策や計画、プログラムに組み込むよう呼びかけている。

諸国や地域的機関、国際機関は、災害リスク低減に関与している国際金融機関や地域的機関、ドナー組織、非政府組織を含め、国連やその他の国際機関との間の戦略的な協調を強化するよう促されている。

草案の文章はまた、この枠組みに対するフォローアップの活動として適切な支援を確保する取り組みの一環で、国連防災トラスト基金に対して適切な資金拠出を行うよう求めている。

「この基金の現在の利用状況とその拡大の実現性について、とりわけ、災害に弱い途上国が災害リスク低減のための国家戦略を策定することができるように再検討されねばならない。」仙台会議で採択される予定の草案にはこう述べられている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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マルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)国連防災戦略事務局(UNISDR)長インタビュー

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IPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、第3回国連防災世界会議(WCDRR)を取材するため来日中のラメシュ・ジャウラIPS欧州局長と共に仙台を訪問。世界会議期間中に国連事務総長特別代表(防災担当)で国連防災戦略事務局(UNISDR)長のマルガレータ・ワルストロム氏をはじめ主な参加者とのインタビューを行った。

ワルストロム氏は、仙台枠組みは「災害リスクと人命・暮らし・健康の損失の実質的な減少につながるような行動のための目標と優先行動を示したものだが、持続可能な開発における新たな時代を開くものとなるだろう。」と指摘したうえで、その実行には「強力なコミットメントと政治的なリーダーシップが必要であり、持続可能な開発目標(今年9月の国連総会で採択予定のポスト2015年開発アジェンダ)と気候変動に関する今後の合意(今年12月のパリ気候変動会議)を達成するうえで肝要なものである。」と警告した。

“Key to Preventing Disasters Lies in Understanding Them” Interview with Margareta Wahlstrom, Special Representative to the UNSG for DRR final by Ramesh Jaura, Editor-in-Chief of Inter Press Service. Filmed by Katsuhiro Asagiri, President of IPS Japan.

翻訳=INPS Japan

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黄浩明「中国国際民間組織合作促進会(CANGO)」副理事長兼事務局長インタビュー

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director and President of IPS Japan

IPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、第3回国連防災世界会議(WCDRR)を取材するため来日中のラメシュ・ジャウラIPS欧州局長と共に仙台を訪問。世界会議期間中に開催された日中韓シンポジウム「北東アジアの連帯によるレジリエンスの強化」に参加し、中国からパネリストとして参加した「中国国際民間組織合作促進会」(CANGO)の副理事長兼事務局長の黄浩明氏とのインタビューを収録した。

日中韓シンポジウムは、WCDRRの期間中に、東京に本部を置く仏教組織・創価学会インタナショナル(SGI)が主催した公式関連行事(パブリックフォーラム)の一つで、防災のために北東アジア地域において、人間同士の協力を促進するための基盤を提供することを目的とするものだった。イデオロギーの障壁を打ち破り、歴史にまつわる敵対意識を乗り越えて、日本・中国・韓国の市民社会組織の代表がの期間中にに参加した。

Interview with Professor Huang Haoming, Vice Chairman & Executive Director of China Association for NGO Cooperation (CANGO), about interaction for people-to-people cooperation in Northeast Asia​ in Sendai, Japan, during the World Conference on Disaster Risk Reduction (WCDRR) from 14 to 18 March 2015.

翻訳=INPS Japan

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スポットライトを浴びる先住民族の語り

【ベルリンIPS=フランチェスカ・ジアデク】

近年、「ベルリナーレ」として知られるベルリン国際映画祭が、さまざまな場を横断して先住民族の声を発信する欧州のハブ機能を果たしつつある。さまざまな場とは例えば、「NATIVe:先住民族映画への旅」シリーズや、先住民族のアーティストが語りをし、次に参加者からの発言を求める「語りのスラム」などである。

ラテンアメリカを特集した今年のベルリナーレでは、グアラニーウィチョルシャヴァンテウィチクイクロマプチェツォツィルケチュアなどの先住民族からのさまざまな声や観点を盛り込んで、ベルリンが1年で最も曇りがちなこの時期を先住民族の天賦の才で彩った。

そして、グアテマラの先住民族のストーリーである『イクスカヌル火山』(監督:ジャイロ・ブスタマンテ[37]、パカヤ火山地帯におけるマヤの社会を描く)が、「映画芸術に新たな境地を開いた」映画として今年のベルリナーレの銀熊アルフレッド・バウアー賞を獲得した。

Berlinale 2015
Berlinale 2015

『イクスカヌル火山』は、グアテマラのイクスカヌル活火山の山麓でコーヒー豆を栽培して暮らすマヤ族の女性マリア(17)の物語である。彼女は、外の世界を見たいと思っていたが、しきたりに従い、間もなく両親が決めた地元の名士との結婚をしなければならなかった。そんなある日、火山地帯を出て北に向かい新しい生活を送ろうと夢を語って彼女を誘う地元の若者ペペに出会い苦悩する。

マリアは、ペペとの駆け落ちに失敗した後、10代で望まない妊娠をした過酷な現実に直面する。マリアと(マヤ社会の演劇俳優で活動家でもあるマリア・テロンさん演じる)彼女の母親は、まもなくドラマチックな状況の中で崖っぷちに立たされる…。

実話を基にした『イクスカヌル火山』は、ブスタマンテ監督が地元の女性を討論グループとマヤ地域の12の言語のひとつであるカクチケル語で脚本を書くワークショップに参加させるなど、地域コミュニティーとメディアによる物語プロジェクトの中から生まれたものである。従って、物語は必然的に、マヤ族の人々がこれまで直面してきた、人権侵害と貧困、無力感との間にある明白なつながりに焦点をあてるものとなった。

Jayro Bustamante/ Wikimedia Commons

「私は、人々が置かれている無力な状況、何の権限も認められていない先住民の女性が直面している現実の状況を、彼女たち自身の観点で、そして自らの言葉で語ってもらいたいと考えたのです。」と、自身もマヤ社会で育ち、カクチケル語を話すブスタマンテ監督は語った。

医療関係者と国家当局を巻き込んだ児童の人身売買をめぐる悲劇について最初にブスタマンテ監督に教えてくれたのは、地域医療に従事していた彼の母親であった。この事件はグアテマラ内戦期(1960~96)の最も暗い一面であった。

国連は、毎年400人もマヤ先住民の子どもや幼児が拉致されていたと報告している。グアテマラ軍事政権の下で罰せられることなく実行された人権侵害スキャンダルであった。

「最貧困層の人々を救うふりをしながら束縛し騙す、狡猾な社会的・法的枠組みが存在します。これが人々を無力で従順な状態に追いやっているのです。もっとも(このような状況下に直面すれば)他に選択肢がないのが現実ですが…。」とブスタマンテ監督は語った。

しかし、ベルリンでは、マリア・テロンさんと、主演のマリアを演じたメルセデス・コロイさんが、「物語を気に入って」くれたこと、耳を傾け賞賛してくれたことへの感謝の意を述べた。またテロンさんは、「先住民の女性や社会にとってこのような賞賛を受けることはめったにありません。」と語った。

グアテマラ内戦では、多数のマヤ先住民が虐殺され、その被害はこの内戦による犠牲者全体の85%を占めている。こうした残虐行為が引き起こした恐怖と人権侵害の実態については、フンボルト大学(ベルリン)の教授(公共国際法)でドイツの法律家クリスチャン・トムシャット氏ら3人の報告者が起草し、グアテマラの「歴史の真実究明委員会」がまとめた『沈黙の記憶』と題した報告書に詳述されている。

記憶は、水に関する先住民族の観点をつなぐ糸であった。水は地球において生命を維持するかけがえのない要素であり、ベルリナーレの銀熊賞(脚本賞)を獲得したチリの映画監督パトリシオ・グスマン氏のドキュメンタリー『真珠貝のボタン』の主題であった。

過去を否定する国は集団的健忘症に囚われているのであり、「ドキュメンタリー映画を持たない国は家族写真のない家族のようなもの」と語るグスマン監督は、こうした信念を、自国の植民地時代の歴史と先住民を絶滅に追いやった事実を否定するチリに適用したのであった。

この映画の題名は、真珠貝のボタン1つ分の値段で1830年に英国の海軍人に売られたヤガン族の若者ジェミー・ボタンの伝説から採られたものである。

このドキュメンタリーは、かつてパタゴニアの入江を拠点にした「海の民」であり今はほぼ絶滅したヤガン先住民3人と、かつてこの水域を自由に行き交い何世紀にもわたって人間の生活を支えた彼らの祖先たちの智恵に哀悼を捧げた作品である。

ピノチェトによる悪名高い「拷問競技場」(1973年)で15日間の拘束を経験し、ドキュメンタリー三部作『チリの闘い』(1975~78)で国際的に有名なグスマン監督によるインタビューに登場する(絶滅寸前のカウェスカル語を話す)先住民のガブリエラ・パテリトさんは、12才の時に母親と一緒に水を求めて600マイルも旅をしたことを回想した。

スペイン語の単語を自分の母語であるカウェスカル語に翻訳するよう言われたパテリトさんは、「水」「太陽」「ボタン」など多くの単語を思い出した。さらに「警察」を意味する言葉について問われた彼女は、頷きながらこう答えた。「いいえ、そんな単語は必要ありません。」また、神に関する彼女の見解は毅然としたものだった。「いいえ、神などいません。」

そう答えたパテリトさんが属する先住民族がたどってきた運命は、チリの植民地時代に決定づけられたが、その歴史はほとんど顧みられることなく忘れ去られようとしている。事実は、この海域に長年暮らしていた5つの先住民族は、この地に進出してきたカトリック教会の宣教師とスペイン人征服者らによって絶滅に追いやられたのである。

ユネスコは、「土着の智恵とは、ある文化あるいは社会に特有の局所的な知識のことであり」、自然界の知識は長年にわたって自然界との相互作用において人間社会を維持してきた蓄積された知識であることから、科学に限定することはできない、との認識を示している。

UNESCO
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『真珠のボタン』のもうひとりの主人公は、チリ政府が表向きは彼自身(=先住民)の「保護」を名目にして、いかにして自作のカヌーの使用を禁じたか、そしてその結果として、いかに彼らの伝統的な生活様式を禁じていったかについて語っている。…このドキュメンタリー作品は、土着の海の民を絶滅に追いやったことで、2670マイルにも及ぶ海岸線の持つ潜在力を自ら利用できなくした国の姿を浮き彫りにしている。

メキシコの映画配給会社「マンタラーヤ・ディストリビュシオン」のレオ・コルデロ氏は、「『イクスカヌル火山』は、ラテンアメリカ発の作品にとっては重要なステップです。上映作品の8割がアメリカ発の大ヒット映画であり、欧州発の作品や、ましてやラテンアメリカの作品にはごく僅かなニッチ(=隙間)しか残されていません。」と指摘したうえで、「逆説的ですが、映画が欧州や世界で受けて初めて、ここラテンアメリカで上映のチャンスが出てくるのです。」と語った。

グアテマラの和平プロセスとマヤ先住民の解放に強く関心を寄せた映画『イクスカヌル火山』は、地元民による歴史の語り直しと映画制作は「共有財」であるとする新たな理解によって先住民族のメディアが花開こうとする中で生み出された作品である。

ボリビアとエクアドルは、母なる地球への権利の法という聖なる概念を基盤とした先住民族の世界観への理解を示してきた。個人的な利得よりも集合的な善を優先した「パチャママ」という概念がそれである。

ベルリナーレのNATIVeや「語りのスラム」では、先住民族の観点が中心を占めた。ベネズエラの映像アーティストで、アマゾン流域の川を守る先住民族の運動についてのドキュメンタリー『水の所有者』のプロデューサーであるデイビッド・アルベルト・ヘルナンデス・パルマー氏は、「母なる大地は悲しんでいる」と語り、ペモン族の土地であるベネズエラのグラン・サバナ自然保護区に元々はあったクエカ・ストーンは、ベルリン中心部の広大な公園であるティーアガルテンから返還されるべきだと主張した。

ドイツ政府が先住民族の資産の返還に関与することになるかどうかはわからないが、先住民族の芸術やメディア、通信はますます(対話の)橋を架けつつある。

「映画という媒体は、理解に対する重要な道筋を提供することができます。なぜなら、(映画を通して)他者の観点に対して心を開くことが可能になるからです。」と、異なる文化や民族集団間の関係に対する関心を強調したブスタマンテ監督は語った。(原文へ

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時には一本の木の方が政府より助けになることもある

【バルディアIPS=マリカ・アルヤル】

ネパール中西部バルディア郡パドナハ村。ラジ・クマリ・チョウダリさんは、毎朝村を通り抜けたところに立っている一本のマンゴーの大木を訪れては、祈りを捧げている。

視界いっぱいに四方に枝を伸ばして聳え立つ巨木は壮観である。「この木には果樹はなりませんが、私たち家族の命を救ってくれたのです。」とチォウダリさんは言う。彼女の眼には、この木は、家族が困ったときにネパール政府よりも大きな救いをもたらしてくれたと映っているのである。

昨年8月14日からネパール中西部で断続的に続いた豪雨により、チョウダリさん一家が暮らすバルディア郡をはじめ、インド国境に近い5つの郡を巻き込む広い範囲で大規模な洪水が発生した。

チョウダリさん一家は、奔流を逃れて村を一気に駆け抜けたが、その先が行き止まりになっていることに気づいた。そこで一家は最寄りの木によじ登り辛うじて難を逃れたのである。その際、他にも11人の村人が同じ木によじ登って避難してきたのを覚えている。

「当時生後6か月の赤ちゃんが最年少でした。私はショールを脱いで赤ちゃんを木に縛りつけて落ちないようにしました。」とカルパナ・グルンさん(27歳)は語った。

バルディア郡はこの洪水で最も深刻な被害を受けた。同郡の災害救援委員会は、被災者数は93,000人を上回ったと推定している。

チョウダリさん一家が暮らすパドナハ村では約5000人の人々が被災した。奔流は32人の村人を呑み込み、今でも13人が行方不明のままとなっている。

2014年はネパールにとって自然災害による死者が史上最悪を記録する年となった。ネパール内務省によると、2014年4月から2015年2月の間に492人が災害に巻き込まれて死亡し、37,000を超える世帯が被災していた。

専門家らによると、ネパール政府はこのような状況にもかかわらず、依然としてチョウダリさん一家のようにこうした大惨事を生き延びた人々のための長期的な対策を策定していない。

Credit: Mallika Aryal/IPS

ラジ・クマール、ヒラ・ラル・チョウダリ夫妻、11歳になる長女(右)、双子の娘たち(中央)は、2014年8月にネパール中西部を洪水が襲った際、マンゴーの木によじ登り、水位が下がるまで避難することで難を逃れた。(資料:マリカ・アルヤル/IPS)

Credit: Mallika Aryal/IPS

パドナハ村の人々が以前の生活を取り戻すには約5か月を要した。「大洪水のあと、村一帯はあたかも砂漠のような状態でした。」と、災害を生き延びたラジ・クマリ・チョウダリさんは当時を振り返った。(資料:マリカ・アルヤル/IPS)

「(ネパール)政府には明確な方針がなく、被災者に対する支援計画すらありません。その結果、(災害で)土地を流された人々は、実質的に無国籍者のような状態におかれているのです。」と、流域・土砂管理の専門家であるマドゥカール・ウパダヤ氏は語った。

ネパール政府は2008年に東部を襲ったコシ川大洪水のあと、災害訓練センターを創設し、現在では警察に防災課、国軍にも防災局を設置している。しかし防災専門家らは、政府の焦点は被災者の復興や再定住支援ではなく、災害時の救出・救援活動のみに向けられている、と指摘している。

災害が多発するネパールで不安定な生活を余儀なくされる

チョウダリさんの家族を含む住民の大半はネパール西部山岳地帯の先住民タルー族出身者である。彼らはつい最近の2002年に政府が法律で禁止するまで「カマイヤ」と呼ばれる過酷な債務奴隷制度の下で数世代にわたって虐げられてきた人々である。

しかし彼らは法的には奴隷身分からは解放されたものの、かつての主人によって住み家から追い立てられ、その後何年にもわたって戸外で生き延びていくしかなかった。2年前になって政府はようやく対策に乗り出し、チョウダリさんたちはパドナハ村に家を構えることができたのだった。

「(そのような背景から)私たちが自身の家を持つには長い年月がかかりました。ここパドナハ村にきて、子どもたちもようやく落ち着きを感じてきたところでした。そこに昨年の大洪水が襲ってきて全てを押し流していったのです。」とチョウダリさんはIPSの取材に対して語った。

チョウダリさん一家は、濁流が渦巻くなか、大木の枝の上で24時間を過ごし、機を見て近くの学校に避難した。そして水が引いた後に彼らが見たものは、全てが押し流されたあとの、荒涼とした村の風景だった。

「大洪水で自宅と家財道具は流されてしまいましたが、洪水や崖崩れに遭遇した他の生存者とは異なり、私たち一家の場合、戻れる土地が残されていました。」と同じくマンゴーの木によじ登って助かったサンギタさん(18歳)は語った。

パドナハ村の住民は、セーブ・ザ・チルドレンからの復興物資支援と、「13日間キャッシュ・フォー・ワーク」(被災者自らが復旧・復興のために働き、1日当たり3.5ドルの対価が支払われるプログラム)の支援を得て、村の復興に着手した。

Credit: Mallika Aryal/IPS

裏庭の野菜園の様子を見るカルパナ・グルンさん。彼女はこの春に緑の葉物野菜が十分な量収穫できることを願っている。生後9か月の乳飲み子を抱えるグルンさんは、赤ちゃんに十分な栄養を与えられないのではないかと心配している。(資料:マリカ・アルヤル/IPS)

Credit: Mallika Aryal/IPS

学校に行く準備をする、11歳のサラスワティ・チョウダリさんと、双子の妹プジャちゃんとラクシミちゃん。活動家らは、ネパール政府は、災害多発地域で生活する家庭を保護するための包括的な防災計画を策定すべきだ、と訴えている。(資料:マリカ・アルヤル/IPS)

18歳のサンギタさんは、夜目が覚めると自分のベッドの周りが既に水浸しになっていた大洪水当日のことを良く覚えている。彼女はその際避難した木を指差して、「あの木のお蔭で私の命は助かりました。でもあの日の恐ろしい記憶は忘れてしまいたいです。」と語った。(資料:マリカ・アルヤル/IPS)

今日、チョウダリさんは庭の畑に、家族にとっての新たな栄養源となる野菜の種を蒔いた。彼女は、昨年経験した大洪水が再び起こるのではないかと危惧しており、それに向けた準備をしなければならないと気付いている。

気候問題の専門家らは、パドナハ村のような小さなモデル村落は立ちいかないだろうと見ている。なぜなら、天気傾向が変化し、ネパールの災害多発地帯では、全てのモンスーンが洪水と崖崩れを伴うと予想されているからだ。

気候開発知識ネットワーク(CDKN)が昨年発表した調査報告書によると、気候変動性と異常気象事象(=大雨、洪水等)がネパール経済に毎年及ぼしている被害規模は、国内総生産(GDP)の1.5%から2%にのぼっている。

過去40年にネパールを襲った12の大洪水が被災家族に及ぼした被害額は、一世帯当たり平均で約9000ドル(=約108万円)にのぼる。

Map of Nepal
Map of Nepal

2011年現在でネパールにおける一世帯当たりの平均年収が約2700ドル(=約324,000円)であることを考えれば、このことは、とりわけ災害が多発する地域に暮らすチョウダリさん一家のような貧困層には、途方もない負担がのしかかっている現実を示している。

ネパールでは1983年以降毎年、洪水により平均で283人が死亡し、8000軒以上が破壊され、30,000戸近くの被災家族が災害の副次的な影響に苦しんでいる。

チョウダリさんはあのマンゴーの大木を遠くに眺めながら、「私たちは生活を再建する術を経験から学びました。しかし、子どもたちには私たちのように、生活基盤を奪われては再建するという経験を何度も繰り返すようなことがないことを祈っています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「全ての人への尊重」を教える国連枠組みは差別と闘う

【パリIDN=A・D・マッケンジー

「今、世界が求めているのは愛、やさしい愛…」これは、バート・バカラック氏が1965年に作曲した「世界は愛を求めている」の歌詞である。しかし愛を教えることは、不可能とは言えないまでも困難である。そこで教育の専門家らは別の解決策を思いついた。つまり、「全ての人への尊重」を教えるということだ。

「『すべて』という言葉のとおり、(この教育イニシアチブの対象は)文字通り『すべて(の人々への尊重)』を意味しているのです。」と国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)保健・世界市民教育班の主席プロジェクト担当を務めるクリストフ・コルヌ氏は語った。

世界の多くの地域で憎悪と不寛容が広がりをみせる中、ユネスコは米国・ブラジル政府と協力して、教育を通じて、さらには教育の内部において差別や暴力と闘う特定のツールや資源を作成してきた。

例えば、300ページにのぼるプロジェクト実施要領、数多くの国連の関連文書、オンラインの双方向フォーラム、記事の執筆や演劇といった学生活動の提案などがそうだ。これらは、第2回「世界市民教育(GCED)に関するユネスコフォーラム」(1月28日~30日、パリで開催)で紹介された。

「全ての人への尊重を教えることは、相互的な寛容の基本を強化し、全ての人々への尊重を養うことで、差別や暴力と闘うための教育的な取組み促進する方法です。」とコルヌ氏はIDNの取材に対して語った。

ユネスコはそのマニュアルの中で、このプロジェクトは「普遍的な価値と人権の根本的な原則」に則ったものであり、8歳から16歳までの学習者を対象として、「他者を尊重する素養を涵養し、あらゆるレベルにおける差別を止める」ためのスキルを彼らに与えることを目的とするものであると、述べている。

教育機関は、「学校環境のすべての側面が非差別を確実なものにするような」「包括的な」アプローチを採用する必要がある、とユネスコは述べている。

また、「カリキュラムは、固定観念を議論し不正義を認識するといった、センシティブな問題に対して時間を割り当てるべきだ。」としている。教員養成もまたこのアプローチの主要な部分である。というのも、(差別の被害者になる可能性もある)教育者は、紛争解決を教え、「差別の問題に敏感に」対処するうえでスキルを獲得する必要があるからだ。

パリを本拠とするユネスコのこの任務は、特定の集団や個人を標的とした過激主義と不寛容がはびこる中、急を要するものとなっている。

Irina Bokova/ UNESCO/Michel Ravassard - UNESCO - with a permission for CC-BY-SA 3.0
Irina Bokova/ UNESCO/Michel Ravassard – UNESCO – with a permission for CC-BY-SA 3.0

ユネスコのイリナ・ボコヴァ事務局長によれば、同機関は差別の「世界的な拡大」に対処する取り組みを強化し、とりわけ世界市民教育を促進している。

「知識と情報を交換する機会が今日ほどは多くなった時代はかつてありませんが、一方で、不寛容がとりわけ暴力的で破壊的な過激主義の形をとって強まってきています。」とボコヴァ事務局長は会議で語った。

「変化を求めるのはしばしば若い人々ですが、最初の被害者になるのも若い人々です。」「全ての人々にとってより平和で持続可能な未来を創るには、どのような教育が必要なのでしょうか?」とボコヴァ事務局長は語った。

ユネスコによれば、「世界市民教育」の目的は、「人権や社会正義、多様性、ジェンダー平等、環境の持続可能性への尊重を基盤としそれらを浸透させ、学習者をして責任ある世界市民へと育てるような価値観や知識、スキルをすべての年齢層の学習者に与える」ことである。

他方、「全ての人への尊重を教える」プロジェクトは、親から生徒、そして政策決定者にいたる社会のステークホールダー(利害関係者)のすべてを巻き込むことを目指している。そして、メディアにもその中で果たすべき役割がある。

メディアの役割

ユネスコのプロジェクト実施要領には、「メディアには世論の喚起を図る責任がある。」「メディアの専門家には、否定的な固定観念と闘い、多様性の尊重を涵養し、一般市民の中に寛容を促進するうえで、特別の責任がある。」と記されている。

この実施要領は、ジャーナリストなど12人が殺害された1月7日の仏風刺週刊誌『シャルリ・エブド』襲撃事件以前に草案が出されたものである。「シャルリ・エブド」誌に対しては、イスラム恐怖症や民族差別を煽ったとして批判がある一方で、漫画家や支持者らは、表現の自由の権利や、宗教や政治を含めたテーマを風刺する自由を擁護した。

フランスやその他多くの国における現在の分断は、宗教や世俗的な価値の両方に対する理解不足を示したものであると一部の識者が論じる一方、今回の襲撃事件が契機となり、欧州社会の主流から取り残された若者の実態やこれまでの教育の失敗に注目が集まっている。

「全ての人への尊重を教える際、誰しも偏見を持っている事実を認め、偏見について話し合い、スティグマ(=汚名、烙印)を打ち消すような場を設けなくてはなりません。」とコルヌ氏はIDNに取材に対して語った。

こうした対話は、「平和の文化、人権、寛容、尊重といった価値を中心にして構築された」カリキュラムとともに、公式・非公式両方の教育機会において行うことができる、とこのプロジェクトに関わっている専門家らはいう。

Dr. Helen Bond/ UNESCO
Dr. Helen Bond/ UNESCO

こうした価値観は「普遍的なもの」として認識されるべきだが、同時に、地域の仕組みや文化に適応させ、そこから経験を引き出すようなものでなくてはならない、とユネスコは推奨している。

ハワード大学(ワシントンDC)の助教授で『全ての人への尊重を教える』プロジェクト実施要領の著者の一人でもあるヘレン・ボンド博士は、「『差別の兆候は』は多くの形をとって現れます。」と指摘した。

「こうした差別には、例えば、いじめ、罵倒、固定観念化した見方、スティグマ(=汚名、烙印)、反ユダヤ主義、イスラム恐怖症、ジェンダー(=性差)や貧困を根拠とした偏見などがあります。」と、ボンド博士はGCEDに関するユネスコフォーラムで語った。

また参加者からは、「差別は、対象を絞り込んだ法律、すなわち、特定の政府の施策の利用から特定の集団を排除する法律という形でも現れる。」「差別や非寛容はたいてい『ミクロな場面での攻撃』から始まり、政策決定者が必要な行動をとらなければ暴力が悪化する可能性がある。」等の指摘がなされた。

「全ての人への尊重」

フランスでは、シャルリ・エブド襲撃事件とそれに関連して起こったユダヤ食品専門スーパーマーケット襲撃事件ののち、政府が要請していた1分間の全国黙祷に一部の学校の生徒たちが参加を拒否した。彼らは、フランス社会の主流から排除されてきた人々の心情と、(彼らのような少数派市民に対して)シャルリ・エブド誌が固定観念とスティグマを助長してきた事実に注目を集めようとしたのである。

さらに、フランス南部のニースでは、「テロリスト」への「連帯」を表明した8歳の男子児童を学校が警察に通報するという事態が生じた。その児童は「テロリズム」の意味を分かっていない様子だったが、このニュースに多くの人々が衝撃を受けた。

GCEDに関するユネスコフォーラムがちょうどパリで開かれているころに起きたこの事件は、学校において「全ての人への尊重」を議論し、この領域で教員を養成することの重要性を浮き彫りにすることとなった。

「この悲劇は、従来の学校のカリキュラムに何が欠けているのかについて、人々の目を見開かせる契機となりました。」「私たちは、全ての学生に対して、いかに共存するか、そして一つの宗教にだけ注目することは正しいアプローチではないということを、教えていかなければなりません。」とコルヌ氏はIDNの取材に対して語った。

ユネスコの枠組みは、「全ての人への尊重」がいかにして学校のカリキュラムに「統合され」、「すべての科目と学校文化全体に組み込まれる」かについて検討してきた。

「全ての人への尊重」に関するパイロット・プロジェクトが、ブラジルやコートジボワール、グアテマラ、インドネシア、ケニアで実施され、この問題のさまざまな側面が検討されている。ケニア政府は平和教育の策定に力を入れ、コートジボワールは障害を持つ人々への差別を防ぐ手立てについて検討している。

「全ての人への尊重」プロジェクトを通じて提示された問いの中には、「教室における難しい議論や状況に如何にして対処するか」、「差別や偏見、いじめに立ち向かう」ためにどのように生徒をエンパワーし動機づけられるか、というものがあった。

プロジェクト実施要領の子どもや若者を対象にした章には、「たとえそれが『容易なことではない』としても勇気を出して『ノー』を言おう。…全ての人に、尊重を持った扱いを受ける権利がある。それがどのようなものであれ、差別されることは決して許されない。」と記されている。

翻訳=IPS Japan

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【ソウルIPS=アン・ミヨン】

二つの朝鮮は奇妙な符号を成している。両者ともに対話の可能性を口にしながら、その条件については異なった考えを持っている。この違いは、朝鮮戦争(1950年~53年)後の62年に及ぶ分断からきている。

この間、北朝鮮は核の脅威になった。プラウシェア財団の世界の核備蓄に関する報告書によれば、世界全体の核兵器1万6300発のうち、北朝鮮は最大10発の核を保有している(他方で、ロシアは8000発、米国は7300発)。一方で韓国は世界有数の経済的サクセス・ストーリーを体現する国へと成長した。

韓国の朴槿恵大統領は1月16日、国民に向けた演説の中で、韓国語の「daebak」(「大成功」を意味する)という言葉を使って、朝鮮半島統一へのビジョンを「もし二つの朝鮮が統一されることがあれば、統一朝鮮は朝鮮だけではなく、世界全体にとっての『daebak』になるであろう。」と語った。

朴大統領は、2013年に保守的な与党(セヌリ党)の党首になって以来、統一朝鮮から生まれる新しい世界について語ってきた。彼女の議論は、もし二つの朝鮮が統一されれば、北朝鮮の核の脅威がなくなって世界は政治的により安全な場所になり、韓国の経済力・文化力と北朝鮮の天然資源や規律を組み合わせることで統一朝鮮は経済的により繁栄できる、というものだ。

つまり朝鮮半島の非核化が「daebak」実現の主要な条件だとされてきた。2月9日に韓国政府高官と共にフォーラムに出席した朴大統領は、「北朝鮮は、もし進行中の経済プロジェクトを成功に導きたいというのならば、非核化について真摯な態度で臨むべきです。」と指摘したうえで、「北朝鮮を救うために韓国政府が用意している諸計画がいかに優れたものであったとしても、北朝鮮が核計画を放棄しないかぎり、事業の実施はあり得ません。」と語った。

しかし、北朝鮮がその政治的生き残りをかけて核能力を交渉のテコとして使おうとするかぎり、北朝鮮に核兵器を放棄する理由はないと識者らはいう。「核能力は、韓国の経済力と対峙している北朝鮮がその体制を維持するために唯一持っている軍事的テコだ」と語るのは、韓国戦略問題研究所(KRIS)のムン・スンムク氏である。

実際のところ、変化の兆しはほとんど見えない。北朝鮮は、武器貿易のチャンネルを部分的に干上がらせている米国による制裁に抵抗して、3回の核実験に加え、一連のミサイル発射実験を行っている。

追加制裁をめぐる米朝間の緊張が高まる中、核爆弾用の燃料を製造している寧辺原子炉(5メガワット)が再稼働されないかどうか、厳しい監視がなされている。

他方、韓国は、2008年以来の(ハンナラ党→セヌリ党)保守政権の下、北朝鮮に対する食料や肥料の提供を拒み続けている。

2004年から07年の盧武鉉ウリ党)リベラル政権の下では、韓国は北朝鮮への最大の食料・肥料提供国だった。

そうしたなか、北朝鮮の謎めいた若き指導者金正恩総書記が、朝鮮中央テレビが今年の元日に報じた新年の演説のなかで、韓国に対して異例の和解姿勢を見せたことから、一縷の希望が出てきたように思われた。

「北と南はこれ以上、無意味な口論とくだらない問題で時間と精力を無駄にせず北南関係の歴史を新たに書かねばならない。…二つの朝鮮の間で対話を行うことで、断ち切られた絆を取り戻し大きな変化をもたらすことができる。」と金総書記は語った。

この演説の中で金総書記は、韓国大統領との「最高レベルの会談」の可能性すら示唆している。「もし韓国が対話を通じて南北関係を改善しようとの立場ならば、ハイレベルの接触を再開するだろう。また、状況と雰囲気次第では、(韓国との)最高レベルの会合を持たない理由はない。」

しかし韓国では、南北協議の可能性への期待は既に萎んできている。「北朝鮮が韓国との対話によって望んでいることは、核問題や人権問題に関する協議ではなく、韓国から再び経済支援を如何にして引き出すかということです。」と語るのは、国営「北朝鮮戦略情報センター」(NKSIS)のイ・ユンゴル所長である。

韓国政府は北朝鮮政府による平和攻勢に慎重な姿勢を崩していない。「私たちは『daebak』のビジョンに向けた準備に取り組んでいるが、近い将来において南北関係にバラ色の未来が訪れることになるとは期待していません。」と柳吉在統一相は2月4日の記者会見で語っている。

北朝鮮の専門家らは、北朝鮮政府は経済的苦境のために農場私有に対する厳しい国家統制を緩和しつつあるとしている。北朝鮮の農民は生産物の一部を全国の市場で売ることができ、同国は市場の民営化に少しずつ動きつつある。

さらに、韓国の「聯合ニュース」が外交問題に関する中国の学術誌『Segye Jisik』を引用したところによると、北朝鮮経済は2012年に指導者が交替して以来、改善しているという。2011年、2000万人の北朝鮮国民を食べさせるために食料備蓄が108万トン不足していたが、現在では不足が34万トンにまで圧縮されている。

識者によれば、この報告が事実であれば、北朝鮮は経済状況が改善されれば、政治的にも韓国との交渉プロセスにおいて核カードへの依存度を引き下げる政治的効果があるかもしれないという。

米国による制裁は、北朝鮮の貿易を制限することで北朝鮮の非核化を図ろうとしてきた。さらに米政府は、今年1月2日、ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントを標的としたサイバー攻撃に対する報復措置として、北朝鮮に対して新たな制裁を課した。連邦捜査局(FBI)は、北朝鮮の指導者・金正恩総書記の暗殺を描いたコメディ映画「インタビュー」への報復として北朝鮮がサイバー攻撃を仕掛けたと非難している。

しかし、制裁は日々の食料を満たそうとする一般の北朝鮮国民を苦境に陥らせることはあっても、北朝鮮政府への影響はほとんどない。「北朝鮮の対中貿易はより盛んになっており、北朝鮮の外国パートナーとの取引のほとんどは水面下で行われている。」と世宗研究所のホン・ヒュンイク主任研究員は語った。

北朝鮮の人権状況に関する国連の知見を基にして、同国を国際刑事裁判所(ICC)に告発するかもしれないとの動きに対して、金正恩総書記は、「我々の思想と体制は揺るがない」と繰り返し表明している。

米国と国連がともに人権問題で北朝鮮に対して強硬な立場を採る中、韓国は北朝鮮にとっての唯一の希望であるかもしれない。韓国は、強硬な姿勢を強める同盟国である米国と、北朝鮮国民への同情の間で、「二面外交」を余儀なくされることになるかもしれない。

この数十年、北朝鮮は米国・韓国との間で熾烈な駆け引きを繰り広げてきた。「近年では米国が北朝鮮に対して『ムチの外交(強硬路線)』を推進しており、韓国としては『アメの外交(柔軟路線)』へと移行することを望むかもしれません。」と韓国戦略研究所のムン・スンムク氏は語った。

「韓国政府は、北朝鮮への接近の速度が国連と米国の動きに制約されることを理解しています。」とムン氏は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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