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政治的奈落に落ちるネパール(シャストリ・ラマチャンダランIDN-InDepth News編集委員)

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンダラン】

ネパールで最初に死んだのは民主主義か、議会か、それとも憲法だろうか?憲法なしに選挙を行うことは可能だろうか?憲法が存在しないのに大統領が「憲法上の象徴元首」でいられるのだろうか?国会議員でなければならない首相が、議会(それが制憲議会と呼ばれていたとしても)がないのに首相職にとどまることができるのだろうか?

こららは、ネパールにおいて複数政党が行った民主主義に対する裏切りによって生み出された難問の一部である。ネパールの人々は、民主的な秩序を求めるこれまでの歩みの中で、何度も挫折や後退を経験しており、むしろこうした事態に慣れてきた経緯があるが、それでも、現在の政治空白は、ネパール史上最悪のものといってよいだろう。最初の失敗は60年前の王政復古であった(その後、国王がクーデターで議会を解散、政党を禁止し、国王に有利な間接民主制「パンチャヤット制」を施行した:IPSJ)。それから40年後の1990年、複数政党制が復活し、新憲法と初の暫定連立政権の下で、1991年には総選挙を実施された。

 
それ以来、多数の政党と首相が富と権力を巡って目まぐるしい闘争を繰り広げ、ネパール国民はこの偽りの民主主義の体裁を維持するための投票要員として扱われてきた。

当時ネパールでは、複数政党制民主主義とは、単に複数の政党が、経済発展も包括的な政治秩序も追求することなく、民衆を犠牲にして党利党略に終始することを意味していた。このように統治能力が欠如した政治体制の下では、開発資金は不正に流用され、貧困に喘ぐ大多数の国民が置かれている困難な状況を改善しようとする試みはなされなかった。国際社会は復活した民主政府に対して多額の支援を行ったが、結果は、新興の寄生的エリートを焼け太りさせたのみで、世界有数の最貧国であったネパールの状況が改善されることはなかった。こうしたことから、立憲君主制と複数政党制民主主義の二本柱は、必然的に、議会の共産党と袂を分かったネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)ゲリラの攻撃対象となった。

「人民戦争」

こうしてネパールは、1996年からインドの仲介でマオイストが政治復帰に合意した2006年までの10年間に亘って、史上最も凄惨な内戦の一つとされる「人民戦争」を経験した。戦火が止んだ時、マオイストは既に政治的に主流の地位を確保していた一方で、議会の諸政党は、実行力の欠如から国民の支持を大きく失っていた。その結果、暫定憲法の下で行われた2008年の総選挙では、マオイストが議会第1党となり、連立内閣を組織した。

同年に成立した暫定議会は、制憲議会と呼ばれ、新たに宣言されたネパール連邦民主共和国の憲法を2年以内に策定する使命を帯びていた。しかし、予想通り、党派対立が再燃し4年間に4人の首相(プラチャンダ→マダフ・クマル・ネパール→ジャラ・ナオ・カナル→バブラム・バッタライ)が目まぐるしく交代する一方で、制憲議会の会期は延期され続けた。この間、和平プロセスに関しては、マオイスト軍戦闘員の国軍編入問題などに前進(2万人の兵士のうち9000人を軍や警察に編入し、7000人余りは社会復帰させることで合意:IPSJ)が見られたが、主要任務である制憲合意に至ることはできなかった。

ネパールの政局がここまで混乱をきたすとは誰も予期していなかった。当然ながら、制憲議会が憲法制定に漕ぎ着けられずに会期を終えるという事態も全く想定されていなかった。マオイストのバブラム・バッタライ現首相には、ネパールが今日の政治的、法的、憲法上の混乱状態に陥った責任があるが、少なくとも2009年3月には、145条からなる新憲法草案を与党(ネパール共産党統一毛沢東主義派及びマデシ人権フォーラム)から提案している。しかし主要野党のネパール会議派(NC)及びネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(CPN-UML)は、この与党案の受け入れを拒否した。

連邦主義
 
与党連合の提案は、ネパールを、民族を基盤とした連邦国家に移行させるというものだった。しかしネパール会議派(NC)及びネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(CPN-UML)は、連邦案に真っ向から反対し、両者の合意が見られないまま今期制憲議会の期限である5月27日を迎えた。それに先立ち、ネパール最高裁は、すでに4回も会期を延長していた制憲議会のこれ以上の延長を認めず、憲法制定作業を完了せずに会期を終えた場合は、改めて総選挙を実施するべきとの判断を下していた。

結局、ネパール会議派(NC)及びネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(CPN-UML)は、マオイストが選挙を回避するために連邦案で妥協すると睨んで、攻勢に出たが、マオイストは妥協せず、すんなりと制憲議会の任期を終了させるとともに、あらたな制憲議会の形成を目指して11月に選挙を行うことを宣言した。

しかし宣言はしたものの、選挙の法的根拠となる憲法が存在しない状況下で、実際に実施するまでには様々な課題に直面することになるだろう。現実的に、選挙を実施するには、少なくとも与野党の主要4党全てが合意できる枠組みが構築されなければならない。しかし、そのような枠組みは、4党が協力して統一政府を樹立しない限り不可能である。

しかし今日の激しい党派対立の現状を見る限り、そのような協力体制は望めそうもない。今後事態が収まり、国民に信を問う以外に方法はないとこれらの主要政党が気づくとき、彼らは良識ある行動を取ることになるだろう。しかし、それとても希望的観測に過ぎない。それにしても、マオイストが選挙に訴えようとする一方で、「自由民主主義」をうたう諸政党がそれに反対しているのは奇妙な現象である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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アフリカ諸国の紛争が新たな難民数を今世紀最悪レベルに押し上げている

【ワシントンINPS=ジム・ローブ】

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が6月20の「世界難民デー」に合わせて発表した年次報告書によると、2011年には、アフリカの4カ国で発生した内戦等により、世界で新たに約80万人が安全な避難場所を求めて祖国から逃れ難民となっていた。

「危機の年:2011年世界の動向レポート」によると、2011年は難民となる人が今世紀になって最も多く発生した記録的な年となった。

同報告書によると、2011年は紛争や迫害により世界で430万人が新たに避難を強いられた。しかし、こうした新たに発生した膨大な数の避難民の大半は、国境を超えることなく自国内で避難先を探すことを強いられた国内避難民である。

この報告書をジュネーブのUNHCR本部で発表したアントニオ・グテーレス国難民高等弁務官は、「2011年、世界は大規模な悲劇に見舞われました。あまりにも短い期間にあまりのも多くの人々が混乱の渦中に巻き込まれ、大きな被害、甚大な被害を負担することになったのです。」と語った。

 
47頁からなる同報告書によると、昨年末時点で、世界で4250万人が、難民(1520万人)、国内避難民(2640万人)、外国への庇護申請者(89万5千人)として避難難を強いられていた。またこの報告書は、これら3つのカテゴリーについて、国別の統計も掲載している。

 なお難民・避難民の総数(4250万人)は、2010年の総数4370万人よりもわずかに減少した。報告書は、その主な理由として、2011年は大量の国内避難民の帰還(過去10年で最多の320万人)が実現した点を挙げている。そうした国内避難民の帰還数を国別にみると、コンゴ民主共和国(823,000人)、パキスタン(620,000人)、コートジボワール(467,000人)、リビア(458,000人)となっている。

紛争により祖国を逃れる

2011年に最も多くの難民を出した国は、コートジボワール、リビア、スーダン、ソマリアで、多数の人々が内戦を逃れて国境を越えた。また、深刻な旱魃から故郷を離れた数万人のソマリア人が、隣国のケニアやエチオピアに難民として逃れていった。

これらすべての国において、難民の本国帰還が進んでいるが、これほど大量の住民が移動したことに伴う波及効果は、依然として地域全体に様々な悪影響を及ぼしている。

また報道によれば、マリでは、故ムアンマール・カダフィのリビア軍に所属していた元トゥアレグ族傭兵が帰国し、北部の分離独立の動きを強めてから、数万人の北部住民が故郷を逃れている(反乱軍はマリ北部地域をアザワドとして、独立を宣言している)。

同様にスーダンの場合も、約1年前に南部が南スーダンとして独立し、その後散発的な国境紛争が続いたことから、両国への難民帰還が進められる一方で、新国境地帯では新たに数万人の避難民が発生している。

また2011年には世界で約100万人余りの難民が本国への帰還を果たした。こうした帰還難民の大半はシリアから帰国したイラク人とイラン及びパキスタンから帰国したアフガニスタン人であった。

難民生活の常態化?

こうした一部難民の本国帰還に進展がみられ、注目を集める一方で、全体的に長期的な傾向として、難民の外国滞在(多くの場合、難民キャンプや都市部で教育へのアクセスや就業機会が極めて限られた困難な状況におかれている)期間がますます長期化しているという、より深刻な側面については、実態が見えにくくなっている。

UNHCR年次報告書によると、同機関の保護対象となっている1040万人の難民のうち、約75%が、少なくとも5年以上の長期にわたる難民生活を送っていた。

しかしこの数字には、約500万人にのぼる、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が保護対象としているパレスチナ自治領、レバノン、シリア、ヨルダンに住むパレスチナ難民とその子孫は含まれていない。
 
2011年末現在、パレスチナを除けば、世界で最も難民を出している国は、引き続きアフガニスタンである。同年末までに270万人のアフガン難民が国外に逃れており、その大半が隣国のパキスタンとイランに滞在している。

はたして、パキスタンとイラン両国は、現在世界で最も難民を受け入れている国となっている(パキスタン:170万人、イラン:90万人)。

2番目に最も難民を出している国がイラク(140万人)で、以下、ソマリア(108万人)、スーダン(50万人)、コンゴ民主共和国(49万人)、ミャンマー人(41万5千人)、コロンビア(39万5千人)と続く。

前述のパキスタンとイランを除けば、最も多くの難民を受け入れている国々は、シリア(七十五万五千人)、ドイツ(五十七万千人)、ケニア(五十六万七千人)、ヨルダン(四十五万千人)、チャド(三十六万六千人)である。世界の難民の約80%が、欧米先進国などの遠く離れた国々ではなく、近隣諸国に安住の地を求めて逃れている。また同報告書は、南アフリカ共和国が、個人の難民庇護要請を受け入れた数としては、四年連続で世界一であると記している。

過度の負担

同レポートは、難民受け入れの負担を受けているのは、富裕国ではなく、難民の絶対数からも、また、ホスト国の経済規模から見ても、圧倒的に貧困国(全世界の難民の8割が居住)である実態を明らかにしている。

一人当たりの国内総生産に占める受入難民数でみると、パキスタンが1ドル当たり605人で、最も経済的に負担を負っていることが分かる。これにコンゴ民主共和国の399人、ケニアの321人、リベリアの290人、エチオピアの253人、チャドの211人が続いている。

UNHCRは、2011年末時点で、前年度と比較して80万人以上の国内避難民が新たな支援対象となっており、その原因として、アフガニスタン、コートジボワール、リビア、南スーダン、イエメンにおいて避難民が急増した点を指摘している。

2011年末時点でUNHCRに登録された国内避難民を最も多く抱えていた国は、コロンビアで、以下スーダン(240万人)、ソマリア(140万人)と続いていた。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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【ワシントンIPS=ジョン・フェファー】

その兵器はある国を例外として、世界中で忌み嫌われている。米国のピューリサーチセンターが行った世論調査によると、(ドローン:drone)無人機を使用した攻撃に関して、市民の過半数が支持している世界で唯一の国は、この最新の軍事技術を最も定期的に使用している国――アメリカ合衆国のみである。

無人機を使用した攻撃について、米国では賛成する声が62%を占めたのに対して、反対の声は僅か28%であった。この結果は、改めて米国は世界のルールに対して例外であるという現実を示している。

 ニック・タース氏とトム・エンゲルハルト氏が、最近出版した共著「ターミネーター・プラネット(ターミネーターの惑星)」の中で述べているように、無人機開発は、当初から米国が自認する例外主義という考えに基づいて進められてきたものである。無人機は1990年代末のコソボ紛争に際して偵察を目的に導入されたものであったが、間もなくして作戦空域における米軍の優位を確保するための主要な要素として重視されるようになった。

 ロバート・ゲーツ国防長官が2011年に行った演説の中で「米軍は、過去40年間において航空戦で1機の戦闘機も戦闘員も失っていない。」と豪語したが、著者たちが指摘しているように、米軍は無人機を導入する以前から圧倒的な制空権を確保してきた。

長引く経済不況から、国防予算削減に対する圧力が強まる中、無人機技術は、米軍の優勢と米国の世界唯一の超大国としての地位を低価格で保障する手段として、益々重要視されるようになった。エンゲルハルト氏が指摘しているように、無人機技術は、今や米国にとって「中央情報局(CIA)を通じて、安価にしかも隠密裏に帝国を防衛する」不可欠な要素となっているのである。

また無人機技術は、米国の例外主義の伝統を更に拡張する上で、もう一つの重要な役割を果たしてきた。ブッシュ政権から対テロ作戦を継承したバラク・オバマ政権は、無人機技術の使用範囲をさらに拡大し、アルカイダタリバンの指導者の暗殺に活用した。

「現在は、KGBがかつて作戦で行ったような毒針を先端に仕込んだ傘を使用したり、CIAが行った毒入り煙草を使う時代は過ぎ去り、今や暗殺の舞台は空に移り、しかも年中24時間行われる活動へと変化している。」とエンゲルハルト氏は記している。

米国は、国際世論や国連レポート、国際法を公然と無視して、戦闘地域以外でもこのような暗殺行為を行う権利があると主張している。

共著者であるニック・タース氏は、本書の中に、米国国防省(ペンタゴン)とCIAが作り出した最新かつ詳細な無人機による作戦マップを掲載している(その図は当初TomDispatch websiteに掲載された)。MQ-9 リーパー、RQ-1プレデター、RQ-4 グローバルホークは、カタールのアル・ウダイド空軍基地をはじめトルコのインシルリク空軍基地、イタリアのシゴネッラ空軍基地、さらにはジブチ、エチオピア、セイシェルに設けた新拠点から飛び立ち、アフガニスタン全域をはじめ、今ではアジア各地に作戦領域を広げている。

軍当局は、この最新鋭技術への依存度をますます深めてきており、現在では軍が所有する航空機の3機に1機はロボット化されている。2004年、MQ-9 リーパーの飛行任務従事期間は僅か71時間だったが、2006年には3,123時間に跳ね上がり、さらに2009年までには25,391時間に伸びている。

多くの人員をアフガニスタン作戦にとられ、大規模な米兵の海外駐留に異議を唱える反軍事基地運動に直面する一方、政府がさらなる予算削減の方策を追求する中、無人機の開発は、新たな魅力的な選択肢として浮上しているようだ。

「私たちは、(人間とは異なり)抗議も勝手な欠勤もできない、また、『市民生活』も家もないモノ(無人機)に、ますます戦争をアウトソーシングするようになっています。」とエンゲルハルト氏は語った。

無人機が世界的に嫌われている主な原因は、他の航空機と比べて無人機が誤爆による犠牲者を多く出してきた点にある。作戦区域から遠く離れた米国本土の軍事基地で無人機をモニター越しに操作しているスタッフたちは、事実これまでに多くのミスを犯しており、パキスタン一国だけでも、200人の子どもを含む数百人の民間人を誤って殺害している。

しかしこれまでのところ、米国の一般市民は無人機のこうした負の側面にあまり関心を寄せていない。その背景には、オバマ政権が、無人機の性能について、あたかも外科手術で健康な患部の周りを傷つけることなく癌細胞のみを除去できる精密兵器だと、繰り返し保障してきた広報戦略がある。

さらに米国政府は、無人機の研究開発において、技術面の優位性を維持し続けており、現時点で、米国本土に対する無人機による攻撃が行われるリスクは低い。しかし、ジョージ・W・ブッシュ政権は、イラク攻撃を正当化する根拠の一つに、サダム・フセインが無人機を使って米国本土を標的に大量破壊兵器を使用するリスクを挙げていた。

しかし、ピューリサーチセンターの世論調査結果が示しているように、無人機攻撃は各地に深刻な反米感情を引き起こしている。2010年にニューヨークのタイムズスクェアで発生した自動車爆弾テロ未遂事件の実行犯は、米軍がパキスタンで展開している無人機による攻撃を、犯行動機の一部として告白している

また、他の国々‐イスラエル、ロシア、中国、イラン-も無人機ビジネスに参入してきている現状を考えれば、米国が無人機市場における圧倒的な優位を失うのも時間の問題かもしれない。

タース、エンゲルハルト両氏は、無人機の歴史的な位置づけについて、それが革命的な転換をもたらした存在なのか、それとも従来の制空権の優位を競う流れの中で登場した過渡的なものなのかについて、意見が分かれている。

「もちろん、この機械は進化したサイボーグというわけではありません。ある意味では、そんなに先進的なものでもないのです。」とエンゲルハルト氏は記している。

まして、今日の先進的な防空システムをもってすれば、こうした無人機は、むしろ容易に撃墜が可能である。つまり、無人機の使用は、そのような防空システムが整っていない場所においてのみ効果的なのである。

一方で、急激なインターネットの普及がコミュニケーションのあり方を根本的に変化させるのみならず、人間の考え方さえも変えたように、無人機は、おそらく、戦争や国境に関して米国やその他の国々が抱いている概念を徐々に変化させていく存在となるだろう。両共同執筆者は、本書の中で、事前に標的を定めて戦うようプログラムされた自律無人機が互いに戦うといった様々な未来のシナリオを描いている。

その内、ペンタゴンが作成した「2011~2036年度における無人システム統合ロードマップ(Unmanned Systems Integrated Roadmap, FY 2011-2036)」と題した資料を基にしたあるシナリオでは、米国の無人機が西アフリカ沖の海底油送管を狙う無人機を捕捉・無力化(撃墜)する場面が描かれている。このことからも、米国が無人機技術分野において将来的にも優位性を確保し続ける意向であることが窺える。

またタース、エンゲルハルト両氏が、繰り返し言及しているもう一つのシナリオは、ハリウッド映画「ターミネーター」に描かれた「ロボット対人間」というシナリオである。この映画の中では、未来の地球はロボットに支配されており、アーノルド・シュワルツェネッガーが扮するロボットが、人間のレジスタンスを率いるジョン・コナーを抹殺すべく、後に彼を生むことになる母親を殺すために過去に送られる。

ペンタゴンは、将来は前者のシナリオ(ロボット対ロボットの戦い)になると踏んでいる。しかしタース、エンゲルハルト両氏は、今後も人類が技術を盲信し、米国が例外主義を貫き通して、世界中に無人機が急速かつ大量に拡散する事態になれば、将来の世界はペンタゴンの予測よりも、もしろハリウッド映画が描した悪夢に近づくのではないかと心配している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|リオ+20|政治的停滞を経済的現実に変える

【国連IPS=タリフ・ディーン

世界の指導者たちが「私たちの望む将来」と題する最終行動計画をブラジルの「リオ+20」サミットで今週採択する際、長く未解決であった問題、すなわち、いかにして国連は政治的停滞を経済的現実に変えるのかという問題には解答が与えられないままになっているかもしれない。

193ヶ国が先週リオデジャネイロの準備委員会で詰めの協議を行ったが、組織上の改変、あるいは新機構の設立に関していくつかの提案が既になされている。

Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UN Photo
Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UN Photo

 そうした提案の例としては、現在の国連環境計画(UNEP)を強化して本格的な専門機関に昇格させること、「地球経済調整評議会」の設立、「地球持続可能な開発評議会」の創設、さらには、それらすべてを包含する世界環境機構(WEO)の創設が挙げられている。

WEOについてはこの20年ほど国連において提案されてきた歴史をもつが、先日これをあらためて提案したのはフランスのフランソワ・オランド大統領であった。

オランド大統領は、WEOは「世界貿易機構(WTO)国際労働機関(ILO)のように」、「リオ+20」会議の成功に寄与することになろうと語った。

ナシル・アブドルアジズ・アルナセル国連総会議長は、「リオ+20」サミットは「強力な組織的枠組み」を作る必要があると述べている。

アルナセル議長は、「この枠組みは、経済、社会、環境保護という、持続可能な開発の3つの側面をうまく統合するものではなくてはなりません。また、新機構は、新しく生じつつある問題に対処し、これまでの成果が持続可能であるかどうかを評価し、公約の履行をモニターするものではなくてはなりません。」と語った。

先週、国連の潘基文事務総長は、「持続可能な開発目標(SDGs)という私たち共通の目標を支持する新しい組織的枠組み、すなわち進展を評価できる効果的な機構の必要性」にあらためて言及した。

潘事務総長は、「この機構は、高度な政治的関与を確保したものであり、市民社会や地方自治体、民間部門がその知識と専門的経験を提供できるような空間を与えるものでなくてはなりません。」と語った。

国連はすでに、2015年以降の課題と機会に向けた取り組みを開始している。これは、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成が目されている年であり、SDGs開始の年である。

「私はすでに、国連の開発部局の長たちや、経済社会問題局の理事会に対して、国連組織全体を活用してこの取り組みに向かうよう指示しています。」と潘事務総長は語った。

手始めとして、潘事務総長は先週、ナイジェリアのアミーナ・J・モハメッド氏を国連事務次長補の新ポストに指名し、2015年以後の開発計画に関して、同事務総長の特別顧問になるよう要請した。

コロンビア大学(ニューヨーク)の非常勤教授であるモハメド氏は、MDGsに関してナイジェリア大統領の特別顧問も務めている。

また潘事務総長は、2015年以降に向けた賢人ハイレベルパネルの設置を発表した。インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領、リベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領、イギリスのデイビッド・キャメロン首相が指名されており、今後続々と指名される予定である。
 
東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナル(SGI)池田大作会長は、持続可能な地球社会に関する提言において、国連の環境関連及び開発関連の機関を統合することで、新しい国際機構を創設することを呼びかけている。

池田会長は、「国連開発計画(UNDP)やUNEPを含む関連部門の統合などを柱とした、大胆な質的転換を伴う改革を果たし、『持続可能な地球機構(仮称)』を設立することを提案したい。」と述べている。

また池田会長は、「(関連組織の統合に際しては)苦しんでいる人々が何を求めているのかを出発点にして、尊厳ある生活と人生を送るための基盤づくりを総合的に進めることができる組織能力を高める必要があります。」と指摘している。

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

池田会長はさらに、「現在のところ、UNEPやUNDPでは、理事会のメンバー国でなければ最終的な意思決定の場に加わることができないという状況があります。」と指摘した上で、「しかし、持続可能な開発というテーマの重要性と対象範囲の広さを考えるとき、希望するすべての国の討議への参加を最優先に考えることが、何よりも欠かせない要件になってくるのではないでしょうか。」と述べている。

ニューヨークとジュネーブで国連を取材してきたベテラン・ジャーナリストであるチャクラバルティー・ラガバン氏は、IPSの取材に対して、「WEO構想、あるいはUNEPを国連とは別個の機関にするという構想は、1992年ごろから議論されてきました。」と語った。

「もちろん、新機関を作るということは、ポストが増えるということであり、仮にUNDPのような資金調達方式をとるならば、『北(=先進国)』からの支配が強まり、より支出が増えるということです。そして、どんな機関であっても、一旦作られれば、根本的な政治の法則が入り込んでくることになります。つまり、政策について決定するのは諸政府であり、それを実行する機構を作るのも諸政府であるということです。」とラガバン氏は語った。

リオデジャネイロの地球サミット(1992年)の取材経験もあるラガバン氏は、「ほどなくして、これら機構にいる人々は、自らの利益やニーズに見合うように政策を曲げていこうとするでしょう。」と語った。

「しかし、(新機構に)いったいどんな価値が付加されることになるか不透明です。つまり、国連憲章は、経済社会理事会が監督・調整の役割を果たすことを、そもそも想定しているのですから。しかし、経済社会理事会は、長年にわたって機能してきませんでした。会合には、単に諸機構の長がやってきて長たらしい演説を行うだけであり、フロアからの『質問』に対しては、概して何の解答も示されないという状況が続いてきたのです。」とラガバン氏は語った。

またラガバン氏は、「実は、地球サミットで採択された『アジェンダ21』も、フォローアップのための組織的枠組みについて言及しており、包括的な調整・組織的役割をもったWEOの構想は、その際にも浮上したことがあります。」と指摘した。

しかし、1992年の「地球サミット」に向けた準備委員会会合では、WEO構想に対して、先進国や様々な専門機関から反対論が噴出し、実現を見なかった。

「実際、国連憲章に照らせば、経済社会理事会にこの役割が付与されています(安全保障理事会に安全保障問題に関する役割が与えられているように)。しかし、経済社会理事会は、その後次第に単なる議論をする場と化してしまったのです。」とラガバン氏は語った。

他方、1992年「地球サミット」のフォローアップとして、環境・開発問題に対処するために、いくつかの機構や基金、委員会、会議が設立された。

そうした機関には、世界銀行・UNDP・UNEPが共同で運営する地球環境ファシリティ(GEF)持続可能な開発に関する国連委員会(CSD)気候変動に関する国連枠組み条約(UNFCCC)国連砂漠化対処条約(UNCCD)などが挙げられる。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|シリア|ハマ虐殺事件の背景に怨恨の影

【アブダビWAM】

シリア中部の町ハマの近郊にあるクベイル地区で6日に起こった虐殺事件は、改めて混沌と無秩序のどん底に陥ろうとしているシリアの現状を浮き彫りにした、とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

のどかな郊外の村で発生した今回の虐殺では、80人を超える住民が、ナイフで刺殺されたうえに死体が焼却されるという極めて残虐な手口から、民族、宗派、パワーポリティクスを動機にした殺害者による怨恨が背景にあるのではないかとの見方が強まっている。

「明らかに言えることは、バシャール・アサド政権のバース党が主導する治安部隊とは別に、独自の利害関係と目的をもった諸集団が跋扈しており、危機に陥っているシリアがこうした集団による攻撃の標的になっているということである(犠牲者の多くが反政府派が多数を占めるスンニ派ではなく、政権関係者に近い少数派のアラウィ派や同じく少数派のキリスト教徒であることから、実際の犯行は政府軍によるものではなく、反体制派を名乗るスンニ派原理主義グループによる犯行との見方もでてきている:IPSJ)」とドバイに本拠を置く英字日刊紙「カリージ・タイムズ」紙が9日付の論説の中で報じた。

 
この虐殺事件の少し前(5月25日)にも中部の町ホムス近郊にあるホウラ地区で、村人ら約100人が同様の手口で殺される虐殺事件が起きていた(右上写真)。こうした虐殺が頻発することに、アサド政権に対する国際社会からの非難(友好国ロシアからのものも含む)が高まっているが、暴力の連鎖はいっこうに収束する気配を見せていない。

「現在の状況は、まさにシリアが国家として崩壊の危機にあることを示唆している。現在のシリア社会は根深い宗派対立に沿って分裂状態にあり、従来それを抑え込んでいた政府による命令や法秩序が行き渡らなくなっている現状では、今後こうした虐殺がさらに頻発する可能性を誰も否定することはできない。」と同紙は報じた。

さらにカリージ・タイムズ紙は、「シリア情勢をさらに複雑・かつ悪化されているのが、自称反政府組織の一部と名乗っている多くの民兵組織に、武器支援の形で介入してきている外国諸勢力の問題である。こうした大小様々な「自称反政府勢力組織」の多くが、統一反政府連合の旗の下にアサド政権打倒に邁進するという目標とは別の政治的目標に向かって活動している可能性については、だれも否定することができない。」と報じた。

同紙は、今のシリア情勢は、政府の統治能力が弱体化して内戦状態になったところに諸外国が反政府諸団体に対する支援を通じて不当な介入をおこなっている構図から、泥沼状態に陥っているアフガニスタンの再現に他ならない、と報じた(国連では、住民保護を理由にアサド政権打倒を目指して軍事介入を主張する欧米アラブ諸国と、旧ユーゴスラヴィア紛争の際のデイトン合意の前例を踏まえた現政権と反対勢力による対等な話し合いで妥結をはかるべきとするロシア・中国の主張が対立している:IPSJ)

「重要な点は、国際社会は虐殺が繰り返されているシリアの現状を単に傍観して嘆いているのではいけないということである。ホウラやハマの虐殺事件が、責任の所在を巡る非難の応酬をエスカレートさせる一方で、(コフィ・アナン国連・アラブ連盟共同特使が提示した)6項目の和平提案から注意を逸らす結果となっているように、問題打開に向けた政治・外交イニシャチブは、機能不全状態に陥っている。」

カリージ・タイムズ紙は、「国際社会は、無関心の中でこうした緊急事態が頻発する現状は改められなければならない。シリアの人々がこうした攻撃の標的にされて空しく遺体を数え続ける事態が放置されてはならない。」と結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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数は減っても近代化される核兵器は将来の脅威

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「いかなる場所からも核の脅威を除去する最善の道は、あらゆる場所から核兵器を除去することである。」こう語るのは、最近ますます、最強の反核論者の一人とみられつつある潘基文国連事務総長である。

しかし、核の脅威を除去するという長きにわたる望みは、まだ叶えられそうもない。イランとの協議は暗礁に乗り上げ、北朝鮮は核実験を継続し、アラブ蜂起に伴う政治状況の変化によって、12月にフィンランドで予定されていた中東非核兵器地帯化に関する国際会議は開催が危ぶまれている。

しかし、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月4日に発表した世界の軍備動向に関する2012年の年次報告書によれば、核軍縮に関する世界の関心があらためて高まってはいるが、8つの核兵器国(米、英、仏、中、露、印、パキスタン、イスラエル)のいずれも、核戦力を放棄することに関してレトリック以上の意思を示していない。

SIPRIの軍備管理・軍縮・不拡散プログラム上席研究員のシャノン・カイル氏は、「核弾頭の全体数は減っているかもしれません。しかし、これらの国家において長期的な核近代化計画が進められていることは、核兵器が依然として国際的な地位と権力の源泉となっていることを示しています。」と述べている。

「核兵器なき世界」という長く失われた大義は追求する価値があるかという質問に対して、カイル研究員は、「私は基本的に楽観主義者ですが、核兵器なき世界を達成するのはかなり長期的な目標であることを現実的に理解する必要があります。」と語った。

またカイル氏は、「SIPRI年次報告書で述べているとおり、すべての核兵器保有国が核戦力の近代化あるいは拡張計画を進めており、無期限に核兵器を保持し続けようとしているかにみえます。」と指摘すると同時に、「政治指導者らが、これまでなら考えられなかったことを、少なくとも考えるようになり、単に核兵器の数を減らしたりその拡散を防いだりするだけではなく、究極的には完全廃絶するための長期的戦略を形成することを真剣に考え始めていることは、希望の持てる兆候です。」と語った。

さらにカイル氏は、「現在の戦力の傾向を別にすれば、『核兵器なき世界』という目標に最終的に到達するには、抑止論の呪縛とでも呼べるものをまず打破しなくてはなりません。」「そのためには、21世紀型の脅威からどうやって身を守るかということに関して、我々の発想を根本的に転換させる必要があります。」
「最終的には、そうした発想の転換こそが、『核兵器なき世界』に向けて前進していくにあたっての、もっとも難しい課題となるかもしれません。」と語った。

先月あるロンドンの日刊紙が、中東での蜂起と、イスラエルとイランの核兵器製造疑惑を巡る政治的綱引きが原因で、ヘルシンキで12月に予定されていた国際会議の開催が難しくなりつつある、と報じた。

この会議の第一目的は、中東を核兵器禁止地帯にすることである。しかし、米国とイスラエルを含む主要な数カ国が、未だに会議参加を確約していない。

米国のバラク・オバマ大統領は、昨年、この会議の隠れた目的がイスラエルを指弾することにあるのなら、米国は会議に参加しないと警告した。

チュニジア・リビア・エジプト・シリアで最近起こっている民衆蜂起は、中東の政治的環境を大きく塗り替えた。

SIPRI年次報告書は、世界の核戦力は、「数を減らしてはいるが、より近代的なものとなっている。」と分析している。

2012年の初めには、8つの核兵器国が計約4400発の核兵器を作戦配備していた。そのうち2000発は高度な警戒態勢下に置かれている。

すべての核弾頭をカウントすると、8ヶ国で合計約1万9000発になる。2011年初頭には2万530発であった。

SIPRIによれば、この減少は、米国とロシアが、「戦略的攻撃兵器のさらなる制限と削減のための措置に関する条約」(いわゆる新START)の条件に従って備蓄戦略核をさらに削減したことに加え、老朽化・陳腐化した核兵器を退役させたことによるものである。

同時に、法的に核兵器国と認められている中・仏・露・英・米は、新しい核兵器運搬システムを展開しているか、或いは、そのような計画を実施すると発表している。

これら核兵器5大国は、自らの核戦力を未来永劫保持し続けることに固執しているようだ。

他方、SIPRI年次報告書によれば、インドとパキスタンは核兵器を運搬可能な新システムの開発をつづけ、核分裂性物質を軍事目的で生産する能力も拡大させている。

これだけ大騒ぎしているにも関わらず、北朝鮮を今はともかく少なくとも将来的にも核の脅威とみなさないのはなぜか、という問いに対して、カイル氏は、「この数年のSIPRI年次報告書で指摘してきたように、作戦配備可能な核兵器(航空機あるいはミサイルで運搬可能な、軍事的に利用できる兵器)を開発し終えたという北朝鮮の主張を裏付けるような公知の情報が存在しないということです。」と語った。

カイル氏は、「したがって、(北朝鮮が主張している核兵器)それ自体は、軍事的脅威とはみなされない」としたが、同時に、北朝鮮が明確に核兵器開発に向かっていることも指摘した。

北朝鮮政府の数多くの論評や声明を読むと、米国による先制攻撃に対する最後の手段として、核兵器が安全を保証するのだと指導部が本当に考えているふしがある。

実際、北朝鮮は、核抑止力の開発を正当化するために、米国の北朝鮮敵視政策と同国を抑圧しようとする試みを非難し続けてきた。

「目下の問題は、北朝鮮が初歩的な核兵器能力を開発し、今後、小規模の核兵器開発に成功するかもしれないという現実に国際社会がどう対応するのかということです。」と、カイル氏は指摘する。

「私は、これに対するもっとも合理的な答えは、検証可能で透明性を確保した形で北朝鮮に核兵器開発を諦めさせることが現実的なオプションになりえない以上、国際社会は、北朝鮮の『核の既成事実』と共存していかざるを得ない、ということだと思います。」とカイル氏は語った。

この構図は、たとえ北朝鮮と米国との間で今後徐々に和解が進展したとしても、基本的に変わらないだろう。

カイル氏は、同時に、「国際社会は、北朝鮮の核兵器開発がもたらす不安定的な帰結を抑え込むか、少なくともそれを緩和する一貫した戦略を形成しなくてはなりません。」と語った。

こうした帰結の中でもっとも危険なものは、すでにシリアに対してそうしたと言われているように、核分裂性物質、あるいはそれを生産する能力を北朝鮮が他国に輸出する(いわゆる二次的拡散の)可能性であるという共通認識が、米政府や多くの独立の識者の間で形成されつつある。

このため、「北朝鮮の核能力を制限するための執行可能な措置や政策を実行することだけではなく、北朝鮮と国際社会全体の主要な安全保障上の懸念に対処するような、交渉を通じた解決に至るための公式を形成することへの関心も高まりつつあります。」とカイル氏は語った。

他方で、SIPRI年次報告書は、「2011年に中東と北アフリカで起こった動乱は、今日における武力紛争の性格が変化していることを浮きぼりにした」と警告するとともに、「2011年に実施された平和維持活動は、民間人保護という考え方がより受容されるようになったことを示す良い例となった。」と指摘している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|南スーダン|石油生産停止に伴う経済危機は国民生活を直撃している

【ジュバIPS=チャールトン・ドキ】

南スーダンが経済危機を打開するためとして緊縮財政に走る中、国連は、「財政状況悪化に伴い危機的な状況に追い詰められている貧困層の命を繋ぐためには、人道援助機関による支援を強化していかざるを得ないだろう」と警告している。

「家族が生き延びられるよう必要な支援を提供することこそ、人道主義と呼ぶべきでしょう。」と、国連の南スーダン人道問題担当ライズ・グランド氏は語った。

南スーダンの経済危機は、国家歳入の98%を占める石油生産を、政府が1月から停止する措置をとったことに起因するものである。南スーダン政府は、石油パイプラインや輸出港(いずれもスーダン側のインフラに依存している)の使用料を巡る協議をスーダン政府と行っていたが、折り合いがつかず、今年に入って石油生産停止という強硬措置に踏み切った。

 それから間もなく、南スーダン政府は、投資削減、政府支出半減、借入内容の見直し(インフラ開発や税収増に資する経済刺激策に限定)等からなる緊縮財政を実施した。政府はその一方で、海外の金融機関からの借款を財政危機緩和のひとつの手段とみなしており、積極的な借り入れ交渉の末、多額の融資を取り付けた。

しかしグランド氏はIPSの取材に対して、「もし政府の国庫が底をつき、医療、教育サービスが滞るようなことになれば、国内のコミュニティーは深刻な影響を被ることになるだろう。」と語った。

「緊縮財政による痛みは、ますます各家庭を苦境に追い詰めており、この状況が今後も続くようであれば、人道支援団体が支援活動を強化せざるを得ないだろうと、憂慮しています。」とグラント氏は語った。

世界銀行などは、今年中に南スーダンの経済が完全に崩壊してしまいかねないと警告しているが、南スーダン政府は、そのような予測をきっぱり否定している。(スーダントリビューンは、5月6日付の紙面の中で、南スーダンは「破綻局面」に遭遇しかねないとする世界銀行からリークされたとされるドキュメントについて報じた。)
 
「南スーダンは、現在の政策を堅持していく方針です。私たちには、我が国のことを良く思っていない勢力が望んでいるような経済崩壊のシナリオはありませんし、南スーダンが無くなるということはあり得ません。」と、コスティ・マニベ財務・経済計画大臣はIPSの取材に応じて語った。

しかし、国家収入の大半を占めてきた石油生産を停止した影響はかなり深刻で、外貨準備高の激減という形で顕在化してきている。公式レートは1ドル=2.95南スーダンポンドだが、闇市では、1月の3.5ポンドから現在は5ポンドにまで下落している。またグラント氏も以前のIPSによる取材の中で、国境地域のコミュニティーにおける生活必需品価格について、200%高騰したと述べている。

結果的に、燃料不足が深刻になっており、ディーゼル燃料、ガソリンともに、1リットル当たりの価格は、経済危機前には6ポンドだったものが、現在では30ポンド(約6ドル)にまで高騰している。

さらに、南スーダン統計局によれば、同国のインフレ率は、2月には21.3%だったが、3月には50.9%へと急激に悪化している。

「確かに今は厳しい時期です。しかし、私たちには対応策があるので、あの戦争の困難な時期を切り抜けたように、今回も乗りきっていきます…」とマニべ財務・経済計画大臣は強調した。昨年7月までスーダンの一部であった南スーダンは、1983年から2005年にかけて内戦(第二次スーダン内戦)を経験している。

しかし、環境経済学者で世界銀行コンサルタント(南スーダン民間セクター担当)のスペンサー・ケンイ氏は、こうした政府の見解について、「長年苦境を耐え忍んできた南スーダン国民の我慢強さを、政府による経済対策の失敗の言い訳に使うのは間違っています。」と批判した。

「戦争中、南スーダン国民は苦しみましたが、それは彼らが望んだものではありません。選択肢がなかったのです。政府は、単に政策を実行するというのではなく、民衆の生活を向上させるような正しい政策も実行に移していくことで、南スーダンにあるていどの社会秩序を作り出していく必要があります。」とケンイ氏は語った。

石油生産停止措置については、多くの人々が、「事前の熟慮もその結果に対する準備策もないまま、時期尚早に行われたもの」として、政府の決定を厳しく批判してきたが、ケンイ氏もその一人である。

一方政府は、現在のところ資金源は、過去7年間蓄積してきた政府資金に依存していることを明らかにしている。政府は、この政府資金の規模を公表していないが、これで今後18ヶ月は持ちこたえられるとしている。

「もしこの政府資金が底をつけば、国家経済が破綻するのは火を見るよりも明らかです。例えば、ガソリンスタンドから燃料が無くなるなど、既に破綻の兆候が表れてきています。燃料不足は、国民の生活のあらゆる側面に影響を及ぼすものですから、なにか抜本的な対策を講じない限り、経済破綻はまもなく現実のものとなるでしょう。」とケンイ氏は語った。

元財政経済計画相のアーサー・アクアイン・チョル氏は、「なぜ徴税先を石油以外の分野に多様化しておかなかったのか」と、現政府の従来の政策を批判している。チョル氏は、南スーダン政府が、向こう6カ月で非石油分門からの税収を3倍にするとして5月に開始した徴税強化キャンペーンについて、「大幅な税収増は見込めないだろう」と語った。

しかし、マニベ財務・経済計画大臣は、「政府の税収は過去3カ月で4倍になりました。」と語った。

さらにマニベ大臣は、「今後政府は、従来徴税対象としてこなかった部門へも課税を開始します。そうした分野には、各種許認可など、かつてスーダン政府の管轄下にあったが、現在では南スーダン政府が執行しているものがあります。例えば、通信事業や石油探査・開発、鉱山採掘に関する許認可に際して、課税するというものです。」と説明した。

5月には、南スーダン政府は、燃料、食料、医薬品を含む必需品・サービスの費用を賄う資金として、カタール国立銀行からの1億ドルの融資を受けた。さらに、スタンビック銀行から1億ドル、名前不詳の機関から5億ドル規模の融資をまとめつつある。

また4月には、中国が80億ドルの融資に合意している。南スーダン政府は、この資金をインフラ開発に充てるとしている。

これらの融資に関する詳細な内容は公表されていないが、南スーダン政府は将来における石油収入から支払いをおこなうこととなっている。

ケンイ氏は、「南スーダン政府は、こうした借款に走るのではなく、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった国際金融機関や、2国間無償資金協力が見込める援助国へのアプローチをすべきだったと思います。」と語った。

ケイン氏は、「せっかく復興しつつある経済も、このままでは大変なことになるでしょう。」と、独立まもない南スーダンが、民主主義が未発達な段階で諸外国からの借款に依存しようとしていることに警鐘を鳴らしている。

国際的企業の汚職、不正などの情報を集めている国際組織Global Witness(グローバルウィットネス)は5月17日に発表したレポートの中で、南スーダン政府に対して、石油を担保にした融資獲得を進めるにあたっては、慎重に透明性を確保するよう呼びかけている。

グローバルウィットネスは、南スーダン政府に対して、同国に対する直接的な利益を阻害しかねない搾取的な条項や、汚職、財務不正を防止する観点から、全ての借款協定について、詳細を公表するよう求めた。

一方、グランデ氏は、国連は食糧不足の影響を受けている人々の支援に最善をつくす、と語った。

グランド氏は、「これから作物が少なくなる時期を迎え、緊縮財政の痛みがますます家庭を直撃しますので、私たちは食糧援助が困窮した人々に届くよう活動を強化していきます。」「世界食糧計画(WFP)は、南スーダンで食糧支援を必要としている人口470万人のうち、270万人への食糧支援を予定しています。」と語った。

しかしケンイ氏は、「人道援助団体が、南スーダンの全ての人々に対して支援を行うということは到底不可能です。」と指摘したうえで、「国連やその他援助機関にできることはせいぜい難民や国内避難民に対する支援までです。国連機関が、(南スーダンという国の)全人口を対象に食糧、衣服、医療サービスを提供するということは考えられません。」と警告した。

しかし、南スーダンに対して多くの国が援助を申し出るという動きもみられない。ケイン氏はこの点について、「欧州も大きな経済問題を抱えており、南スーダンで住民を支援しているNGOに今後も十分な支援をし続けるとは考えにくい。」と指摘した。(原文へ

INPS Japan

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【国連IPS=沙祖康】

沙祖康
沙祖康

国連持続可能な開発会議、いわゆる「リオ+20」は、数十年に一度という貴重な機会です。

6月20日に開会するこの会議には、135以上の国々から、元首・政府首脳、産業界や市民社会の代表など5万人が参加予定で、潘基文国連事務総長は、「リオ+20」を「国連の歴史の中でもっとも重要な会議のひとつ」と呼んでいます。

リオ+20」には国際社会の熱い眼差しが注がれています。かつてないほど相互依存が進んだ70億の人類が暮らす今日の世界では、持続可能な開発のみが、複雑に絡み合いながら地球の存続を脅かしている経済・社会・環境問題に取り組む、唯一の方法なのです。

 持続可能な開発に関する前進とは、飢えに苦しむ数百万の人々の食卓に食事が並ぶことであり、適切な仕事の機会であり、清潔な水へのアクセスであり、きれいな空気を胸いっぱい吸い込むことであり、生命に満ちた森の中で歩くことができるようになるということです。

さらに、持続可能な開発とは、すべての女性が男性と平等な機会を得ることであり、すべての子どもが学校に行く機会を得ることであり、基本的衛生であり、社会的包摂の環境の中で生きることであり、前途ある将来を見据えることができる、ということなのです。

こうした「持続可能な開発」への基礎については、多くの人々が、当たり前のように感じているかもしれません。しかし、現実はどうでしょうか?そのように感じることができるのは、実は恵まれた一部の人々であって、現実には、負担過剰となった世界は、数多くの難題(世界的な経済不況の影響、エネルギー不安、水不足、食料価格の高騰、気候変動や益々頻繁且つ大規模になる自然災害に対する脆弱性等)に直面しているのです。

こうした深刻な現状から、私たちは互いが密接につながった世界に生きているという重要な真実に気づかされるのです。こうした難題は、特定の国や地域だけの問題ではなく、本質的に全ての人類に影響を及ぼすグローバルな問題なのです。

今日の世界では、ある場所で起こった出来事が容易に他の場所に波及します。人類は、あたかも地球が5つあるかのような勢いで資源を消費し、将来の世代のことを考えない生活を送ってきましたが、もはやこうした旧態依然とした生活スタイルを続けていく余裕はなくなっているのです。

「リオ+20」は、他の国連会議とは異なるものです。この会議は、人々の生活の質を犠牲にして新たな規則や法令を施行しようとしているものではありません。むしろ、個人、地域コミュニティー、産業界、政府が、より良い賢明な選択ができるよう、励まし手助けする機会なのです。

私たちの経済、地球、社会の繁栄は、そうした一つ一つの選択が組み合わさって実行されることで、はじめて確保することができるのです。「リオ+20」は、世界の指導者を持続可能な世界(経済・社会・環境面において)に向けてコミットさせつづけるとともに、彼らに人類や地球の福祉を第一義においた選択をさせる、重要な機会を提供しているのです。

多くの支持を集めつつある提案のひとつに、ミレニアム開発目標(MDGs)を補完・強化するものとして、持続可能な開発目標(SDGs)を策定しようという動きがあります。実施可能で計測可能なSDGsは、持続可能な開発に向けたハイレベルな政治的コミットメントを具体的に表現するものとなるでしょう。

私自身は、「リオ+20」では、持続可能な開発と貧困削減という文脈において、グリーン経済を前進させたいと考えています。今日、実に幅広い分野(まともな仕事―とりわけ毎年労働人口に加わる8000万人近くの若者の就労問題、社会保護政策、〈社会的弱者の〉社会への受入れ、エネルギー確保の問題、効率・持続可能性の問題、適切な水管理の問題、持続可能な都市問題対策、海洋の保護と管理の問題、自然災害への備え等)においてアクションが求められているのです。

各国政府は、この会議で、持続可能な開発という目標をもっとも前進させることができる制度的枠組みについて合意する必要があります。またその際、市民社会と営利部門についても役割を与えることが重要です。

まさに、社会の全ての分野が持続可能な開発に向けた実践をしていくことができますし、そうしなければなりません。例えば、ビジネス・産業界は、世界をより良い方向に変革する手助けとなる技術を開発し、環境に優しい職業を創出し、企業の社会的責任(CSR)を通じて、社会に前向きな影響を及ぼすことができます。

また市民社会は、最も弱い立場にある人々の声が政策に反映されるよう政府の責任を追及することができます。さらに科学者は、持続可能性に関わる難題に対して、革新的な解決策を生み出すことが可能です。そして私たち一人一人が、日々の生活の中で、そうした情報に基づいた選択肢を実践することで、持続可能な開発に参画することができるのです。

まさに「リオ+20」は、地球がみんなのものであるのと同様に、みんなの会議なのです。従って、この会議で掲げられる目標、大望やその結果は、全て私たち一人ひとりが共有すべきものなのです。

最後に、「リオ+20」は、将来世代のための会議でもある点を指摘しておきたい。アメリカ先住民の間には、「私たちの土地は、先祖から相続したものではなく、子孫から借りているものなのです。」という有名な格言が伝えられています。

私たちは、創造的な思考を働かせ、前向きなイニシャチブに参画し、自発的なコミットメントを行うことで、将来の世代が誇りに思うような世界の実現に向けたコンセンサスを形成し、共に努力していくことができるのです。そのような未来を創造するために、共に取り組んでいこうではありませんか。(原文へ

※沙祖康(Sha Zukang)氏は、国連事務次長(経済社会問題局長)で、持続可能な開発に関する国連会議(Rio+20)の事務局長。

翻訳=IPS Japan

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核の飢餓の脅威に焦点を当てる科学者

【ワシントンIDN=アーネスト・コレア】

核軍縮・不拡散の進展にとってマイナスとなる事態が発生した。米共和党のリチャード・ルーガー上院議員が5月8日にインディアナ州で行われた予備選挙で敗北したのである。ルーガー氏は、保守派運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を集める対抗候補に敗れ、11月の上院選で共和党候補として出馬することができなくなった。ルーガー氏は敗北後、無所属候補として出馬する予定もないことを明らかにした。

こうして、他の大半の議員が関与を避けがちな核軍縮関連問題に正面から取り組んだことで広く知られ、尊敬されていたルーガー議員が、連邦議会から去ることになった。こうした政治的に微妙な「核軍縮関連問題」といえば、ちょうど、核による飢餓の重大なリスクに関する警告が発せられたばかりであった。

安全保障や安定、生存に影響を及ぼす決定に焦点を当て、良識ある判断ができる人が少なくなってしまった。

 核の警告

国際的に問題になっていることと言えば、北大西洋条約機構(NATO)による抑止・防衛態勢見直しの議論や、米下院で、第四次戦略兵器削減条約(新START)合意の履行に制限をかける立法が試みられているということ等が挙げられる。

そのなかでもトップにくるであろうことは、地域的な核戦争でさえも(例として挙げられているのはインド-パキスタン間の紛争)、紛争地からかなり離れた国々で生産された農作物にも深刻な影響を与える可能性があるという科学的証拠を示し分析した新しい報告書であろう。

核戦争に直接的に巻き込まれた国では、核爆発の直接かつ広範に影響を受け、苦労して向上させてきた生産性は失われ、作物や農地は放射性物質の塵と化してしまう。今回の報告書が明らかにした警告は、戦闘当事国における帰結に加えて、その他の場所でも広範にわたって悪影響があり、農業の主要生産国も多大な影響を受けるという点である。
 
この報告書『核の飢餓:10億人が危機にさらされる―限定的核戦争が農業、食料供給、人類の栄養に与えるグローバルな影響』は、「核戦争防止国際医師の会(IPPNW)」とその米国支部である「社会的責任を求める医師の会(PSR)」によって作成された。

IPPNWは、核による絶滅の脅威のない平和で安全な世界を作るという共通の目標を持った、世界63ヶ国に支部を持つ無党派組織の連合体である。PSRは、核戦争・核拡散を予防し、地球温暖化を減速・停止・反転させることを目指した、医師を中心とする米国最大の組織である。報告書の著者であるアイラ・ヘルファンドは、IPPNWの北米副代表であり、PSRの元代表である。)

ヘルファンド氏は、「核による飢餓の暗い見通しは、核兵器に関する我々の見方に根本的な変化をもたらすものです。インドやパキスタンのような比較的小さな核戦力を有する国ですら、地球規模の生態系に長きにわたる悪影響を引き起こし、数億人を10年以上にわたって栄養不良に陥れるという新しい分析結果が出たのです。これは人類史の中でも、前例のない大惨事と言えるでしょう。」と語った。

報告書の著者と報告書作成に関与した機関の信頼性、そしてもちろん報告書の内容が、この報告書を説得力あるものにしている。では、世界の食料安全保障の現在、あるいは、国連食糧農業機関(FAO)が好んで使う言葉でいえば、「食料不安」の現在について考えてみよう。

食料不安

食料不安とは、通常、予測不可能な状況によって、ある特定の年にまとまって、世界の富裕国と貧困国との間で不均等に人間の健康や生命への脅威が広がることである。したがって、食料安全保障および食糧不安に影響を与えたり与えられたりする事柄へのアプローチはさまざまに異なっている。富裕国の人々が肥満が健康に及ぼす影響に取り組んでいる一方で、貧困国の人々は、飢えと、隠された飢え、すなわち栄養不良という難題に直面しているのである。

さらに、気候変動の初期的兆候を含めた気候のパターンや生産性、生産、インフラ、歪められた貿易慣行や投資、これらすべての要素が、直接的、間接的に食料不安に影響を及ぼしているのである。

完全な統計が利用できる最新の2011年には、2006年から08年にかけて経験されたような危機はなかった。しかし、ローマに本部を持つ3つの食料関連機関、すなわち、FAO、IFAD(国際農業開発基金)、世界食料計画(WFP)の長らは、その当時の経験の後遺症が、「2015年までに飢えに苦しむ人々の人数を半分にするというミレニアム開発目標(MDG)達成に向けた取り組みに影響を及ぼしている。」と述べている。

また、「かりにMDGが2015年までに達成されたとしても、途上国で普段から6億人が飢えているという状態は容認できない。」とも警告している。

もし、このように既に蔓延している食料不安が容認されないとしたら、核戦争によって引き起こされるより深刻な食糧危険に対して、国際社会はどのように対処すべきなのだろうか?

10億人が危険に

ヘルファンド医師と農業・栄養問題の専門家チームは、インド-パキスタン間の核戦争を仮定して、それが気候に及ぼす影響を分析した科学者によって作成されたデータを基に研究を行った。「社会的責任を求める医師の会(PSR)」によれば、研究チームは結論として「複数回の核爆発によって大気中に排出された煤(すす)や煙によって多大な影響を受ける農業地帯では、気温の低下や降水量の減少が見られ、それによって食物生産が阻害され、世界的に食料供給が減少、農産物価格に深刻な影響を及ぼすだろう。」と述べている。

より具体的にいうと、ヘルファンド医師らはRSP報告書の中で以下の知見を述べている。

・米国では、トウモロコシ生産が10年にわたって10%低下する。5年目で最大幅の20%減となる。大豆生産は7%低下し、5年目には最大の20%の損失となるだろう。

・中国は中期のコメ生産がかなり減少する。最初の4年間では平均して21%減、次の6年では平均10%減となるだろう。

・その結果として食料価格が高騰し、世界の貧困層数億人が食料を手に入れることができなくなるだろう。
 
中国と米国がこれらの農作物の生産を世界的にリードしていることを考えれば、この明確な判定において、これ以上の想像力を働かせる必要はないだろう。

報告書自体にはこう記されている。

「慢性的な栄養不良状態にある世界9億2500万人の1日あたりの食糧消費量は1750カロリー以下である。つまり、核が引き起こす飢餓により食料消費が10%減るだけでも、この人口集団全体が危機的な状況に陥ることとなる。」

「さらに、予想される穀物生産国からの輸出停止によって、現在は適切な栄養状態にあるが、食料輸入に過度に依存している国々に住む数億人への食料供給が危機に晒されることとなる。核戦争によって引き起こされる飢餓によって影響を受ける人の数は、10億人をはるかに超すことだろう。」

シンガポールの雄弁なる外相であり、先見の明を持った政治戦略家であった故S・ラジャラトナム氏なら、「人はパンのみで生きることはできないが、パンがなければまったく生きることはできない」と言うだろう。言葉としては軽く言われているが、その意味合いは実に重い。

農業は、工業国においてすら、開発と継続的な進歩の源泉となっている。それこそが、ヘルファンド医師らが示した次元において食料生産・流通が破壊されることが、想像を絶する人的被害につながると言って差し支えない理由なのである。つまり、この仮想的な地域紛争とは関係のない多くの国において、長期にわたって死が、そしてその帰結として、社会の崩壊がもたらされるということなのである。

こう考えたらどうか

打ち鳴らされた警告に対して手早く簡単に導き出せる反応は、こんなものだろう。「そう、たしかに危険は存在する。でもそれは、インドとパキスタンが本当に核戦争を行ったら、という話だ。不幸にも両国はインド亜大陸を核の隣国関係に変えてしまったが、これまでのところ、両国とも自制心と責任感を働かせて、核の破壊行為に地域を陥らせないようにしている。必要なのは、国際社会があらゆる手段を使って、両国間の平和を保つことだろう。」

そのとおり。しかし、将来いつか、いずれかに軍事政権が誕生しても、果たしてその政権が自制の絆を打ち棄てるのを思いとどまらせることができるだろうか?さらに、インドとパキスタンは、核能力を持った唯一の地域大国ではない。たとえば、イスラエルも核兵器国だと一般に考えられている。また、世界の紛争地域には、その他にも核を持とうと狙う国々があるのが現状である。

中東を核の危険から解放された地域にするために協議のテーブルにつかせようという試みがなされているが、中東諸国は聞き入れようとしていない。2012年12月に(フィンランドで)予定されている中東非核地帯創設のための国連会議は、延期されそうな情勢である。

核の飢餓から人類を守る真の防護策とは、耳に心地よい歌をキャンプファイヤーを囲んで歌うような、行き当たりばったりの「みんなで平和を守っていこう」式のプロセスではなく、核軍縮に対して世界があらためて正面から向き合うことであろう。

元国連事務次長(軍縮担当)でパグウォッシュ科学・世界問題会議の現議長であるスリランカの外交官ジャヤンタ・ダナパラ氏は、彼の外交生活のほとんどを、核軍縮のメッセージを世界に広めるために費やしてきた。彼は、今日の状況をこのように的確にまとめている。

「科学的証拠は、我々がすでに知っていることを実証的に示しています。つまり、核兵器はこれまでに発明された、遺伝的・生態学的にも無理の影響をもたらす史上最も破壊的な大量破壊兵器である。しかし核兵器は、生物兵器や化学兵器とは異なり、既得権ゆえに依然として違法化されていないのです。」

「9ヶ国が2万530発の核兵器を保有し、なかでも米国とロシアが全体の95%を占めている。この兵器が存在し続けるかぎり、テロリストも含め、核兵器の入手を企図する者は後を絶たないだろう。核兵器が存在するかぎり、意図的であろうと偶発的であろうと、あるいは国家によるものであろうと、非国家主体によるものであろうと、その使用は不可避である。従って、核兵器禁止条約(NWC)を通じて核兵器を完全廃絶することが、唯一の解決策なのである。」

この解決策を国際社会に売り込むのは難しいだろうか?確かに難しいだろう。しかし、こう考えたらどうだろうか?つまり、「もしこれが売れれば、人類にとってものすごい成果が待っている」と。(原文へ)

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
 

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

イランの核開発疑惑について、軍事攻撃オプションに対する支持はこの2年の間にいくつかの主要国において低下してきているものの、イランが核兵器を取得することには反対する世論が広がっていることが、5月18日にワシントンで発表されたピュー国際意識調査プロジェクト(Global Attitudes Project-GAP)の最新調査結果によって明らかになった。

21カ国で実施されたこの世論調査報告書は、イランが核開発プログラムの今後についてP5+1(米国、英国、フランス、中国、ロシア、ドイツ)と交渉に臨む5日前に発表された。ただし今回の調査に際しては、一部の質問項目について専門家から、内容が偏っているとの厳しい指摘がなされていた。

 イランとP5+1は、4月14日にトルコのイスタンブールで1年3か月ぶりとなる協議に臨み、(交渉決裂ではなく)バグダッドにおける継続協議に合意したことから、今回の協議では、イランによる20%高度濃縮ウランの停止の可能性など、両者の間である程度の信頼醸成措置が合意されるのではないかとの期待が高まってきている。

また5月20日に天野之弥事務局長がテヘランを訪問する(明らかに、核関連の実験施設があると疑われている軍の施設へのIAEA査察チームの立ち入りに向けた条件交渉が目的である)とした国際原子力機関(IAEA)の発表は、こうした期待感をさらに裏打ちするものとなった。

今年の3月中旬から4月中旬にかけて実施された調査は、ピュー・リサーチセンターが過去12年にわたって毎年実施している国際意識調査プロジェクトの一部である。

今回の調査は、21カ国の26,000人以上を対象に実施されたもので、質問内容はイランやイラン核問題に限らず、幅広いトピックを網羅したものであった。調査結果は数週間から数か月後の発表が見込まれているが、今回ピュー・リサーチセンターは、イランとP5+1によるバグダッド協議に対する国際社会の関心が高いことから、イラン関連部分の調査結果のみを先駆けて公開することとした。

今回の調査対象国はP5+1の6か国に加えて、欧州5カ国(スペイン、チェコ共和国、イタリア、ポーランド、ギリシャ)、イスラム教徒が大半の人口を占める6か国(トルコ、ヨルダン、エジプト、レバノン、チュニジア、パキスタン)、さらに日本、インド、ブラジル、メキシコである。
 
今回の調査内容について批判する人々は、「イランの核計画についてと、それにどう対処すべきかについて尋ねた項目に、証拠がないまま事実と決めつけている部分が含まれている。」と主張している。例えば、イランの核計画は核兵器の開発を意図している(この主張自体が疑わしいのだが)と決めつけている点である。

イラン政府(ごく最近ではイランの最高指導者ハメネイ師による発言も含む)は、同国の核プログラムは、民生使用のみを意図したものであると一貫して主張している。また、米国及びイスラエルの諜報コミュニティーも、もしイラン指導部が核兵器の製造を決断した場合、核開発プログラムの側面(とりわけウラン濃縮の程度)が問題となるが、現時点でイラン指導部は、核兵器の製造に関して判断をしていないとみている。

調査結果を見ると、21カ国中18カ国において、調査対象者の大半にあたる54%(中国、トルコ)から96%(ドイツ、フランス)が、イランの「核兵器入手」に反対していた。例外は3か国で、パキスタンでは、反対意見は僅か11%であった。インドでは、34%がイランの核武装に反対した一方で、51%が意見を明らかにしなかった。チュニジアでは賛否両論がちょうど半々に分かれた。

「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々に「それにどう対処すべきか」について尋ねたところ、回答はさらに賛否両論に分かれた。

さらに「核兵器開発を阻止するためにイランに対する国際的な経済制裁を強化する」という対処策について、18カ国において、調査対象者の大半にあたる56%(インド)から80%(米国、ドイツ)が、「賛成する」と回答している。しかし、チュニジア、トルコ、パキスタンにおいては大半が「反対する」と回答している。一方、中国は半数を少し上回る54%が経済制裁強化に賛成、対照的にロシアでは、半数を少し下回る回答者が「反対する」と回答している。

とりわけ注目すべきは、一昨年行った全く同じ質問に対する回答と比較すると、イランへの経済制裁に対する支持が全般的に低下している点である。中でも最も支持が低下したのがロシア(67%→46%)、中国(58%→38%)である。また、トルコはこの1年でイランとの二国間関係が悪化しているにも関わらず、中国に次ぐ3位(44%→34%)となっている。

また、予想通り、「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々の間で、「核兵器入手を阻止するための軍事攻撃」への支持率は、経済制裁支持率よりも低いことが明らかになった。

「軍事攻撃をしてでもイランの核兵器入手阻止を優先するか、或いは、イランの核武装というリスクを冒しても軍事衝突回避を優先するか」という選択肢に対して、メキシコ、エジプト、ヨルダン、さらにロシアを除く欧州諸国を含む14カ国において、調査対象者の総体多数或いは過半数にあたる46%(レバノン)から55%(ブラジル)が、軍事攻撃オプションを支持していた。この質問項目の回答については、米国の調査対象者が最も強硬で、他国より圧倒的に多い63%が軍事攻撃オプションを支持していた。

一方、チュニジアでは過半数の69%が、さらに、パキスタン(29%)、中国(39%)、トルコ(42%)、日本(49%)においても総体多数が「軍事衝突回避を重視すべき」と回答していた。

また驚くべきことに、2010年の調査で同じ質問を行った大半の国々において、軍事攻撃オプションに対する支持が低下していた。とりわけこの傾向は、P5+1の6カ国のうち、ロシア(32%→24%)、中国(35%→30%)、フランス(59%→51%)、米国(66%→63%)の4カ国において顕著に表れた。

しかしこの質問項目は、「イランの核武装を防止する軍事行動か核武装したイランと共存するか」という誤った二者択一を調査対象者に迫るものだとして、米国でも多くの専門家の非難を呼んだ。

「イランの核武装を防止する方策には、軍事攻撃オプションに依らないものもあります。」と、「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長は語った。

またキンボール氏は、「この質問は、軍事攻撃によってイランの核武装を阻止できるという推測に基づいて設けられているが、米国、欧州、イスラエルの軍事専門家の間では、たとえイランの核施設に対する軍事攻撃が行われたとしても、その効果はイランの核プログラムの進行をせいぜい数年遅らせるだけで、イランの核武装そのものを防ぐことはできないという見解で一致している。」点を指摘した。

同様に、メリーランド大学国際政策指向プログラム(PIPA)代表のスティーブン・カル氏は、問題の質問項目について、「外交、経済制裁事案を含む(イラン核開発プログラムに関して)選択肢を提示する世論調査(PIPAが実施したものを含む)の結果をみると、いずれも、軍事攻撃オプションを選択している回答者はごく少数派にすぎない」点を指摘して、批判した。

さらにカル氏は、「核兵器開発を阻止するために、イランに対する国際的な経済制裁を強化することを承認するか否か」と問いかけている対イラン経済制裁に関する質問項目について、「これでは、あたかもイランが実際に核兵器を開発していると示唆しているようなものです。事実、米国の諜報専門家の間で、イランによる核開発の証拠はないという結論が導きだされています。つまりこの質問項目は、そうした専門家の結論に反して、イランの意図を暗黙に示唆するような意見を述べてしまっているのです。」と語った。

こうした批判について、ピュー国際意識調査プロジェクト副ディレクターのリチャード・ワイク氏は、IPSの取材に応じ、「私たちが実施している他の世論調査の場合と同じく、この調査で採用した質問項目は、話題となっている諸問題についての人々の意見を調査することを目的としたものであり、質問の中身についても、世論の推移を把握し分析するために、過去の質問と似たものになっています。」と説明した。(原文へ

INPS Japan

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