ホーム ブログ ページ 258

|米国-ロシア|友であり、敵であり

0

【ワシントンIPS=マリナ・リトヴィンスキ】

超党派で外交と安全保障の政策提言をする”The Partnership for a Secure America (PSA)”は、米ロ関係進展のための政策を発表した。大量殺人兵器の拡散防止、エネルギー問題、テロとの戦い、薬物取引などで協力をしていくというものである。 

『米ロ、機会の窓(US and Russia: A Window of Opportunity)』と題された声明は、30人の著名人が署名している。そこにはピカリング元大使、マクファーレン元補佐官など、元上院議員9人、元下院議員2人、元国防長官2人、元安全保障補佐官2人、元ロシア大使4人が、含まれる。内容はすでにオバマ政権の政策に反映され、7日バイデン副大統領は、関係の“リセット”を唱えている。

 しかし両国の関係は、順調とはいえない。スタンフォード大学のマクファール教授らは、冷戦以来最悪と評価する。例えばつい最近キルギスが、米空軍の基地を閉鎖した。ロシアが20億ドルの借款と引き換えに圧力を加えたと考えられており、同様の動きがウズベキスタンについて2005年にあった。 

ブルッキングス研究所のパイファー氏によると、「2002年のモスクワサミットが両国関係のピークだった。ブッシュとプーチンの間で、戦略攻撃能力削減に関する条約(Strategic Offensive Reductions Treaty)が取り交わされ、戦力にとどまらず、エネルギーや人的交流についてもより広い協力関係が展望された。両首脳は「新時代」「質的に新しい関係」を謳った。 

しかしその後、ブッシュはイラクに足をとられ、プーチンは欧州との関係構築に手を塞がれた。さらには、2003年グルジアにおけるバラ革命、2004年ウクライナにおけるオレンジ革命が、米国が後押ししたとしてロシアに脅威を感じさせたし、ロシアの強硬な東欧政策は米国を不安にさせた。 

PSAのロジャンスキー理事は、「歴史を戻すわけにいかない。」と述べる。同理事はモスクワで多くの政治家と会見したのち、ロシア側も外交関係の再構築に、「当方同様に前向き」であったと語る。 

PSAは、相互信頼を取り戻すステップとして、NATOロシア理事会(NATO-Russia Council)の重要性を強調する。アフガニスタンの平和と安定を図ることから、集団的な安全保障戦略にロシアを取り込む目論みである。さらにWTO(世界貿易機関)へのロシア加盟の後押し、北大西洋石油・ガス問題などエネルギーと気候変動についての対話推進、イランのウラン濃縮停止へのロシアの主導力などが提案された。 

「アフガニスタン、核不拡散からテロ対策、薬物取引まで、米国の抱える国際問題の多くを解決するのに、ロシアとの関係が重要となる。両国が競うのでなく協調することが肝要である。」とマクファーレン氏は述べている。 

米ロ関係再構築へむけたPSAの積極的な政策提言を報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

関連記事:
|ウクライナ|ロシアの圧力と苦しい立場

|南スーダン|勝ち取った平和を牛問題がおびやかす

【ジューバIPS=スカイ・ウィ-ラー】

南スーダン自治政府のサルバ・キール首相は「開放闘争は終わったのになぜわれわれは未だに殺し合いを続けているのか」と族長たちに問う。その答えの1つは牛である。2005年の南北包括和平合意以来、南スーダンでは別の部族どうしが牛を襲撃して奪い取るという悪循環の中で何千もの過疎地の住人が命を落としている。

Kook Mawein - 'Cows are wealth, social status, the source of food and are central in the culture.' Credit: Ellen S. Morgan
Kook Mawein – ‘Cows are wealth, social status, the source of food and are central in the culture.’ Credit: Ellen S. Morgan

 乾期には他の部族の牛を襲撃するニュースが南スーダンの首都ジューバに毎週のように流れる。1年に1回か2回は50人から100人が一回の銃撃戦で虐殺される。「もし死傷者の数を合計すれば多くの研究機関はこれを戦争と呼ぶだろう」とSmall Arms SurveyのJames Bevanは言う。 

こうした不安定な状態が過疎地の発展を妨害しており、子供は学校に行けず、NGOは病院を閉鎖する。国連によると牛の襲撃によって避難を余儀なくされた住人の数は何万にものぼり、それまで育ててきた穀物を失い、内戦中のように食糧配給に頼るしかなくなる。国連が2月中旬に出した報告によると25,613人がここ数ヶ月に起きた部族間での闘争により避難を余儀なくされた。 

南スーダンの人にとって牛は富と社会的地位の象徴であり、食料資源であり文化の中心でもある。牛はまた結婚の際に新郎から新婦への婚礼資金としても使われる。襲撃によって牛を奪われた村の若者は、牛がなくては正式に結婚をすることもできず、村を出て行くことも多い。 

和平合意の後に半自治政府を持つようになった南スーダンでは家畜の牛を他の部族に襲撃されるという恐怖が武装解除をいっそう困難にしており、最も心配されたことだが平和はまだ訪れていない。ある地域が武装解除をしても、周りの地域が武装解除をしていなければ、武装解除した地域の牛が危険にさらされることになる。銃は穴だらけの国境を越えてエチオピア、ケニア、ウガンダからすぐに入手することができる。 

2011年には南スーダンの人が待ち望んだスーダンから独立についての住民投票が行われる予定だ。それまでにあと2年もないが、部族間の争いの増加が南スーダンという国がいったいどんな国になるのかとういう不安を生み出しつつある。 

警察や、元反乱軍の兵士も問題を解決するのではなくむしろ権力を乱用しており、民間人に対する人権侵害の問題は責任を問われるべきだ、とヒューマンライツウォッチも報告の中で述べている。 

2005年の南北包括和平合意以降も、部族間で家畜を巡る武装闘争が絶えない南スーダンの現状を報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


関連記事: 
|東アフリカ|魚の頭さえ手に入らない

|ドイツ|戦争を生き延び、心を病む帰還兵

0

【ベルリンIPS=フリオ・ゴドイ】

のどかな田園風景が映し出された後で、その映画の物語は急展開した。帰国したたくましい若者たちが空港で家族や友人の華やかな出迎えを受ける中、『Willkommen zu hause おかえりなさい』というこの映画の主人公は、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)を患っていた。 

アフガニスタンでのタリバン民兵との戦闘から生還した主人公は、血なまぐさい戦闘の場面を忘れることができない。これは実話である。世界中で数千人の兵士が、そしてドイツでも多くのアフガニスタンからの帰還兵が、PTSDに悩んでいる。

 この映画がTV放映された2月3日、ドイツ国防相は海外派遣後、特にアフガニスタンでの任務後にPTSD になるドイツ兵の数が2006年以降増えていることを認めた。PTSDとなったドイツ兵の公式な数は、2006年は55人、07年は130人、そして08年は245人。 

だがこの数字には精神的疾患と診断されたものは含まれず、「臆病者とみられたくないと1人でPTSD を抱え込む兵士も数多い」とドイツ兵の組合Deutsche BundeswehrverbandのU.キルシュ氏は語った。除隊した後で精神的苦痛を訴える兵士も多く、実際のPTSD患者の数は公式の数字を大幅に上回るというのが大方の見方である。 

最近までドイツ国防省はPTSD を問題視していなかったが、ドイツ公共放送連盟(ARD)ネットワークが映画を放映した1週間後、ドイツ連邦議会はPTSDの兵士に対する新たな支援策について論議した。ユング国防相はPTSDのドイツ兵は全体の1%以下と国際的な平均値の4,5%に比べて少なく、カウンセリングなど対応策も講じられていると述べた。 

一方、連邦議会陸軍問題担当委員のR.ロベ氏は、軍の指導者が問題を卑小化していると非難し、PTSD治療センターの設立を求めた。陸軍病院のK.H.ビーゾルド精神分析医も米国のPTSDセンターについて言及し、問題の深刻性をDer Spiegel誌にコメントしている。ドイツ陸軍には42人の精神分析医のための予算があるが、半数は空席になっている。 

世論調査ではドイツ国民の3分の2がアフガニスタンからの撤退を望んでいる。海外派遣された約7,200人のドイツ兵のうちおよそ4,000人がアフガニスタンに駐留している。オバマ新大統領の呼びかけで、その数はさらに増えるものと予想されている。 

PTSDに悩むドイツのアフガニスタンからの帰還兵について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|ウクライナ|ロシアの圧力と苦しい立場

0

【ワシントンIPS=マリナ・リトヴィンスキ】

米外交問題評議会(CFR)は、ウクライナの国内情勢および同国と欧州のロシア天然ガス依存といった外交政策を分析する報告書を発表した。「ウクライナの危機回避」と題された同報告書は、米国はより大きな危機を回避するためウクライナとの対話を強化する必要があると結論している。 

同報告書の作者であるスティーブン・パイファー元駐ウクライナ大使は、「ウクライナの更なる分裂は、米国の包括外交政策実施の障害となる。また、ウクライナがよりモスクワ寄りの方向を辿る可能性もある」と述べている。

 ウクライナは、2009年後半あるいは2010年初めに大統領選を控えており、今年中には不況、金融危機を争点とする議会選挙も行われるだろう。ブルームバーグ通信によれば、ウクライナのインフレ率は欧州最高の22・3パーセントに達し、対ドル通貨は過去6か月間で50パーセントを切っている。 

ビクトル・ユシェンコ大統領ユリア・ティモシェンコ首相は激しく対立しており、経済復興に必要な決定ができずにいる。ローン返済の失敗から、IMFは164億ドルローンの第2次貸出を保留した。 

IMFの圧力だけではない。2008年8月のロシア/グルジア紛争以来、ウクライナはロシアの強硬外交に対処しなければならなくなっている。ロシア政府は、ウクライナのEUおよびNATO加盟に不快感を表明。反対の主張を強めることで、ウクライナ内の摩擦を煽ろうとしている。 

CFR報告は、1月に起こった様なロシア/ウクライナ天然ガス問題が再び発生し、欧州のエネルギー危機に発展するのではないかと予測している。ウクライナ政府のNATO加盟努力に反対し、ロシアがガス供給の停止やその他の報復、国境地帯への部隊配備を行うかもしれないというのだ。 

これに対し、米ウクライナ関係研究所のウォルター・ザリッキー所長は、「ロシア自体も経済危機の中にあり、グルジア戦争にも巨額を投じた。更には20億ドル強の融資を見返りにキルギスから米空軍基地閉鎖の合意を取りつけたところでもあり、ロシアがウクライナのNATO加盟を阻止することはできないだろう。従って、西側としてはロシアに対し強い態度で臨める良い機会である」と語っている。 

CFR報告は、米政府は1990年代初めからウクライナを重視し開発に数10億ドルの支援を行ってきたが、オバマ政権では優先順位が落ちていると指摘。新政権に対し定期的な高級レベル協議、ウクライナ・リーダーへの助言、技術支援強化といった戦略を打ち立てるよう求めている。 

CFRのウクライナ情勢分析レポートについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

関連記事: 
ロシア・ウクライナ間でガス紛争発生

新たなボートピープル、ビルマのイスラム少数民族ロヒンギャ

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール

1月半ばにビルマ(ミャンマー)のイスラム系少数民族ロヒンギャの難民1,000人あまりがタイ当

局によって洋上に連れ戻されて行方不明になっていると国際メディアに報じられて以来、ロヒンギャ族の窮状が注目されている。 

バングラデシュと国境を接するビルマ西部アラカン州を故郷とするロヒンギャ族がビルマ軍事政権の迫害から逃れて国外に脱出するようになったのは、今に始まったことではない。

2006年10月から2008年3月の間に裕福なマレーシアやタイでの生活を求めてバングラデシュから船で脱出したロヒンギャは8,000人以上を数える。さらに遡って1991年から92年には25万人の大量脱出があった他、軍による民族浄化作戦が行われた1978年には20万人がバングラデシュに逃れた。 

それ以前にもビルマを逃れたロヒンギャの人々は多く、今ではサウジアラビア、パキスタン、インド、マレーシア、バングラデシュと国外に離散した人は150万人を超え、ビルマに留まるおよそ75万人をはるかに上回るまでになっている。 

タイに亡命したひとりキャウ・ティンさんが「迫害はますますひどくなっている」と言うように、強制労働が科せられ、当局の許可なく隣村にすら移動が許されていない。また、バンコクに本拠を置く人権団体「ザ・アラカン・プロジェクト」の2008年10月の調査報告書が明らかにしているように、当局の許可なくして結婚も許されない。 

ロヒンギャの人々は、食糧の配給も農業や教育の機会も剥奪され、貧困と食糧不足で、5歳未満の子どもの60%は慢性栄養失調の状態にある。非識字率は80%に上る。 

ロヒンギャの政治運動を統轄する「アラカン・ロヒンギャ全国組織(ARNO)」のヌルル・イスラム会長は「ロヒンギャを先祖からの故郷アラカンから一掃するのが軍事政権の狙い。ロヒンギャは日々、強制立ち退き、土地の没収、恣意的逮捕、拷問、裁判なしの殺害、強奪などの犠牲となっている」と亡命先のロンドンから取材に応えて訴えた。 

市民権の否定をはじめ、制度化された人権侵害と人道犯罪の犠牲となっているビルマのロヒンギャ族について報告する。
 
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

関連記事:


|コロンビア|不法麻薬対策(アヘン対策)開始から100年

【ボゴタIPS=コンスタンツァ・ビエイラ】

不法アヘンの監視を目的に中国の上海で初めて『国際アヘン委員会(International Opium Commission)』が開催されて100年を迎える。そんな中、皮肉にも南米コロンビアのナリノ(Narino)県で今月、極左武装ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)が先住民のアワ族を殺害する事件が起きた。 

FARC幹部は軍の密告者であるとして8名を殺害したことを認めた。ナリノ地域一帯は現在も麻薬の栽培や麻薬取引の盛んな場所で、同地域に暮らすアワ族はこれまでにも頻繁に被害を受けてきた。

 ナリノ県に近いプテュマヨ(Putumayo)やカケタ(Caqueta)では、米国のイニシアチブで始められた麻薬撲滅支援対策『プラン・コロンビア(Plan Colombia)』により麻薬栽培が撲滅された。 

しかし、「ある地域で麻薬栽培を撲滅しても、栽培は別の場所へ移るだけ。まさに『いたちごっこ』である」と、同政策への効果に疑問を呈する専門家も多い。現在、ナリノ県のコカ栽培地は2万ヘクタールにも及ぶ。 

国際麻薬統制委員会(INCB)が19日発表した年次報告書によると、国際アヘン委員会の設立された1909年の麻薬乱用者の数は80万人だったが、現在は2億4,000万人で世界人口の4%にあたると言う。 

INCBのカミロ・ウリベ博士は最新の報告書で「世界有数の麻薬供給地コロンビアではコカ栽培が27%も増加。違法栽培を続けるため武装ゲリラは銃や対人地雷などを使用しており、政府の麻薬撲滅への取り組みを阻んでいる」と論じた。 

ラテンアメリカでは違法薬物取引に絡む暴力や犯罪が横行している。しかし、麻薬撲滅政策の『プラン・コロンビア』では、ゲリラ撲滅・麻薬対策強化・コカ栽培の根絶・国家経済の活性化・コカに代わる代替作物の提供など多くの目的を未だ達成していない。コロンビアの麻薬撲滅戦争について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|米国-キューバ|禁輸反対の機運をもたらすルーガー・レポート

0

【ワシントンIPS=ジム・ローブ

23日にR.ルーガー上院議員がキューバ政策の見直しを訴えたことで、米・キューバ関係がオバマ大統領の選挙戦での約束以上に変化する兆しが出てきた。元上院外交委員会議長のルーガー氏は外交政策に経験豊かな共和党議員で、キューバへの禁輸は「米国の国益にならない」と報告した。 

The Cuba Wars(キューバ戦争)」の著者でシンクタンク米州対話フォーラムのキューバ専門家であるD.エリクソン氏は、「ルーガー議員の発言はキューバ政策の変更に好意的な環境を作り上げた」といい、人権団体ラテン・アメリカ・ワシントン事務所(WOLA)のキューバ専門家G.テイル氏も「変化の機運をもたらした」とエリクソン氏に同意した。

  ルーガー氏は23日に提出した報告書の冒頭で、「米政府は現在の政策を効果がないと認め、米国の国益を強化するようにキューバに対応すべき」と述べた。 

『Changing Cuba Policy – In the United States National Interestキューバ政策の転換―米国の国益のために』と題された報告書は、47年を経て一方的な禁輸はキューバの人々に民主主義をもたらしていないと指摘している。 

フィデル・カストロから弟のラウルに政権が移って一周年に発表されたこの報告書は、先月の代表団のキューバ訪問に基づき、麻薬阻止と移住に関する二国間の対話の再開、代替エネルギー開発の協力強化、旅行と貿易の規制緩和を求めている。さらにキューバ政府が世界銀行や米州開発銀行等の国際機関に復帰すれば米国との関係改善に役立つとした。 

キューバ専門家の間では新政権の方針について憶測が高まっていた。オバマ氏は選挙戦では旅行や送金の規制解除を約束したが、民主的な改革を求めて禁輸は継続すると示唆していた。クリントン国務長官はキューバ政策を見直すと述べたが、その担当官が決まっていない。 

ルーガー氏を含む議員団は米国人のキューバ旅行に関する規制をすべて解除する法案を提出している。可決されれば禁輸解除への大きな一歩となり、その成否はオバマ大統領の思惑にかかっている。米国貿易振興会(NFTC)のJ.コルヴィン副会長は、産業界は大統領に転換を促すだろうと語った。 

報告書はキューバを孤立させる政策は民主化を妨げるだけでなく世界との不調和となり米国の利益にならないと主張し、中南米やEUとともに新たな多国間戦略を作る超党派委員会の設立を奨励した。 

見直しの機運が高まる米国のキューバ政策について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 
 
関連記事: 
|キューバ|孤立から中南米諸国仲間入りへ

|ガーナ|届きそうで届かない米農家の市場参入

【アクラIPS=フランシス・コクツェ】

去年ガーナの首都アクラで米農家たちは外国からの米の輸入を許可し国内農家の生計を壊している政府に抗議のデモを行った。デモに積極的に参加している1人であるガーナ労働組合会議のGeneral Agricultural Worker’s Union(GAWU)副書記長Edward Kareweh氏は、米の規制緩和政策をガーナ政府に取らせた結果、国内米農家への補助金を廃止につながったとして世界銀行と国際通貨基金を非難している。 

1980年代までは米農家だったKareweh氏はIPSのインタビューに応じ、政府が輸入米を許可した結果、米で生計を立ててきた北部地域の経済を圧迫している、と言う。

 農務省のデータによるとガーナ国内の米の消費量は1990年前半以降増加しており、2005年の米消費量は450,000トンから500,000トンの間にまで上った。 

日本の国際協力機構(JICA)の調査によると、ガーナ国内の米生産は2006年まで約290,000トンであったことから、米の供給不足は明らかである。 

米の輸入が増えた原因は国内供給不足を補うためであるという意見があるが、Kareweh氏は異議を唱える。「農家の生産量増加を支援する政策枠組みが存在しないことが供給不足の原因だ。国内の米の生産が伸びないのは、市場が海外からの安い輸入米で独占されており、ガーナ米農家が市場にアクセスできないためである」 

一方、主要な輸入業者であるFinetradeのJohn Awumi氏は「ガーナの場合、国内の米の生産量が人口に対して十分ではないから輸入米を使っているので、輸入することで国内農家をつぶすことにはならない」と反論する。Awumi氏は政府が今米の輸入を止めたところで解決にはならないと言う。社会基盤が整っていないガーナで米の生産方法を改善して継続的に十分な供給ができるようになるまでに10年はかかると見ているからである。 

ガーナの農家を元気づけるようなニュースもある。北部地域農務ディレクターであるSylvester Adongoは昨年のクリスマス直前に、米農家813人に農地と認定されたイネ種子と10,000ヘクタールを耕作するのに必要な肥料を供給し支援することを発表した。 

Adongo氏によると、1年に200,000トンの米を生産できる土地が低地の3地域に400,000ヘクタールある。これに加え政府はガーナ東部のAveyimeで放棄されていた灌漑設備を復活させようとしており、成功すれば米の生産量を上げることができる。 

ガーナの米生産の現状について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

│女性│女性農民を想う

【ローマIPS=サビーナ・ザッカロ】

世界中で増加している女性農民の発言権を確保するという使命を背負って、新しい国際農業開発基金(IFAD)の代表が就任した。IFADには世界165ヶ国が加盟している。 

代表に就いたのはナイジェリアのカナヨ・ヌワンゼ。パキスタン、ドイツ、イスラエル、ニジェール、インド出身の候補者を破って当選した。任期は4年。 

IFADの専門家によると、世界的な統計は不十分だが、この10年間で女性農業労働者は3分の1増えたという。また、アフリカでは、小規模農家の3割ほどが女性によって運営され、食料全体の6~8割が女性によって産出されている。

 にもかかわらず、女性たちにはまだ十分な権利が与えられていない。女性たちは、資金不足や市場開拓の困難といった男性と共通の問題を抱えているが、その上に、家事との両立を強いられたり、資産への権利を与えられなかったりという女性特有の問題が加わるのだ。 

「持続可能な農村開発のためのアジア農民連合」のエストレラ・ペヌニア事務局長は、職業訓練や意思決定において女性に少なくとも30%の席が与えられていなくてはならない、と話す。 

フィリピンや韓国では、女性が一般的な農業団体とは別に女性だけの団体を結成している。また、フィリピンでは、開発予算の5%がジェンダー関連に割り当てられる。同国では、農民に土地の権利が与えられるときに権利書に男性の名前のみが記載されるという差別的な慣行があったが、女性団体からの要求によって、女性の名も記されるようになってきたという。 

農業における女性差別の問題について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

関連記事: 
|人権|2つの法律の間で揺れる女性の権利

アフガニスタンは米国の次の窮地になるか

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「帝国の墓場」といわれているアフガニスタンに、1万7,000人の米兵増派を計画している米国は、英国、ソビエトに続くのだろうか。「バラク・オバマ大統領はマーティン・ルーサー・キング牧師のいう『軍国主義の狂乱』に道を譲ってしまった」と公共の正確性を求める研究所のN.ソロモン代表はIPSの取材に応じて語った。 

その増派によりNATO軍と合わせた兵力は今年末までに10万に達すると思われる。オバマ大統領が軍事力だけでは問題は解決しないとしながら増派を決定したことについて、「その不確かさはベトナム戦争を思い出させる」とニューヨーク大学のM.B.ヤング教授はいう。 

17日に国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMAが発表した報告書によると、2008年のアフガニスタンの民間人の犠牲者は2,118人で前年を40%上回った。55%はタリバンを含む反政府勢力によるが、39%は政府軍と国際治安部隊によるもので、報告書は民間人の死亡を避けるあらゆる手段が求められるとしている。

 大統領選挙戦ではイラクを誤った戦争とし、イラクから撤退して、イスラム原理主義の復活を抑えるためにアフガニスタンへの兵力増強が必要だとオバマ氏はいった。だが多くの専門家はアフガニスタンがさらに米軍を窮地に追い込むのではないかと指摘している。 

前出のソロモン氏は、オバマ大統領のアフガニスタン増派について、中期的には支持されなくなると予想している。UNAMAの元政務官でランド研究所のC.フェア博士は増派による治安回復に懐疑的で、「アフガニスタンをアルカイダの聖域にしないためにより必要とされているのは、和解のための国際社会からの支援だ」という。 

アフガニスタンの治安問題は多様な勢力が混在するため非常に複雑である。ソロモン氏は米国大統領がアフガニスタンでもっとも険しい道に足を踏みいれたという。「軍事力で解決できないと主張しながら軍事力で解決しようとする矛盾は長期的な理性を欠いている」 

「オバマ大統領はテロとの戦争という側面を論じながら、自身の政治的資本に投資し、国防省の使命を支持し始めたが、その代償となるのはおそらく失敗を運命づけられている戦争である。強大な米軍の最高司令官にとって武力への依存は恒常的な誘惑だが、そのもたらすものは苦しみだ」と同氏は語った。 

オバマ大統領のアフガニスタン増派について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩