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│ネパール│補償を待つ内戦の犠牲者たち


【カトマンズIPS=レニュー・クシェトリー】

Civil war victims demanding compensation at a rally. Credit: Renu Kshetry/IPS
Civil war victims demanding compensation at a rally. Credit: Renu Kshetry/IPS

カマラ・リンブの夫は毛派の活動家だったが、2001年に治安部隊によって拉致された。それ以来、彼の行方は知れない。しかも、拉致されたこと自体を証明できないために、本来なら受け取れるはずの救済金をもらうこともできずにいる。 

14ヶ月前、ネパール平和省は、内戦の被害を調査するタスクフォースを立ち上げた。それによれば、内地難民が4万5801人、殺害された者が約1万5000人であった。

政府はこれらの被害者に対して救済金を給付することを決めた。これまでに、内地難民のうち2万7135人が救済金を受け取って、元々住んでいた場所に戻った。他方で、殺害の場合については、わずか4遺族が補償を受け取ったに過ぎない。 

問題は、この救済金給付が、非毛派関係者に著しく偏っているということだ。ネパールではいまや毛派が政権に就いているが、状況はそれほど変わっていない。というのも、旧来からの行政メカニズムはいまだに存続しているからだ。 

ネパール西部のパルバット地区では、毛派関係者はまったく補償を受け取っていない。バンダリ知事は「毛派政党に被害者の名前を登録するよう呼びかけているが、それに全く応えていない」と語る。 

しかし、毛派がゴーサインを出せば、毛派関係者による補償申請が殺到し、逆に非毛派関係者が差別されることになるのではないか、と政治評論家のムマ・ラム・カナルさんは懸念する。また別の政治評論家、シュヤム・シュレスタさんは、いまだ和平プロセスが進行中の現在においてそうした差別が発生すれば、紛争が再燃しかねない、と指摘している。 

ネパールの毛派に対する紛争補償の問題を取り上げる。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan

|オーストラリア|先住民族の飲酒に関する固定観念に挑戦

【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】

オーストラリアでは、英国植民地時代から先住民族のアボリジニは遺伝子的にアルコールに弱いとされてきた。しかし、オーストラリア国立大学アボリジニ経済政策研究センターのマギー・ブラディ博士は、「オーストラリア先住民族のアルコール中毒は遺伝子要因に起因するとの考えを裏付ける調査証拠はない。もしあったとしても、その他の要因を排除した極端な論だと思う」と語る。


ブラディ氏は最近、アボリジニとアルコールの関係にまつわる通念を論破するため6巻本を出版した。その中で特に強調されるのは、アボリジニがアルコールを知ったのは1788年にヨーロッパ人がオーストラリアに入植した後で、それもアルコールをあてがわれたという点だ。同氏は、「遺伝説は18世紀に広がった植民地主義的見方の一環である。アフリカでも北米、太平洋でも先住民族はアルコールに溺れやすいと考えられていた」と語る。 

しかし、この考えが過去からのものだとしても、オーストラリア先住民族のアルコール中毒は今も続いている。 

国立薬物研究所(NDRI)が2007年2月に発表した報告書によると、2000年から2004年のアルコールを原因とする先住民族死亡者は非先住民の死亡の2倍に当たる50万人という。(オーストラリアの人口は2,100万人)千人当たりの死亡者は、先住民族で4.85人、非先住民民族で2.4人となる。他の健康指数でも同様の傾向が見られ、例えば先住民族の平均余命は非先住民民族より17年短い。 

ノーザン・テリトリー州の州都ダーウィンを拠とするアボリジニ・アルコール問題評議会(CAAPS)のジュディー・マケイ氏は、「最大の原因は社会/環境だと思う。彼らの困難な状況を思えば、そこから抜け出すために酒に頼るのも理解できる」と語る。 

西部オーストラリアの先住民族で国家先住民薬物アルコール委員会の委員長であるテッド・ウィルクス助教授も、「社会の貧困層は逃避の方法を探す。アルコールおよび薬物は、貧困あるいは抑圧から解放される手段である」と語っている。 

ブラディ氏は、「この通念は、先住民族を型にはめ、固定概念に閉じ込めようとするもの」と指摘。マケイ氏は、「先住民族の前進のためにも、この通念を覆すことが大切」と主張している。 

アボリジニのアルコール中毒問題について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

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|オーストラリア|アボリジニの女性・子供虐待に対する無関心 

女性による女性に関する報道を調査

【ロンドンIPS=サンジェイ・スリ】

来月、女性ジャーナリストと女性に関するニュース報道の実態について最新の調査報告書が発表される。その調査結果の内容は、報道ニュースの主題における男女不均衡と、それを報道する作り手側の男女不均衡という周知の事実であろうが、ただ今回は、調査に引き続き、具体的な行動が計画されている。 

調査ではさらに、地域や国別、またメディアの種類別に不均衡の程度が明らかにされる。 

調査結果は、世界キリスト教コミュニケーション協会(WACC: World Association for Christian Communication)によるグローバル・メディア・モニタリング・プロジェクトを通じて公表される予定である。この最新の2005年の調査は、ある特定の1日における世界各国での女性のメディアへのかかわり合いを調査したものである。

 WACC女性プログラム・コーディネーターのアンナ・ターリー氏は、IPSの取材に応え「2005年2月15日に実施された今回の調査は、1995年の第1回、2000年の第2回に次ぐ3回目のもので、世界76カ国で実施され、最大規模の調査となった」と説明した。 

5年毎に行なわれているこの調査は、ジャーナリズムを教える教授やその学生から、ジャーナリストの職業団体、コミュニケーション関連の草の根団体、オルタナティブ・メディア・ネットワークに至るまで何百という広範に及ぶボランティアのネットワークの手によるものである。 

これまでの調査では、データは報道や分析に活用されるまでであったが、今回は、行動への踏み台にされる計画である。「調査結果を変革の手段として活用するため、今回初めて一致協力した行動がとられることとなった」とターリー氏は説明する。 

調査では、ニュース報道における不均衡、ニュース編集室での不均等を調べ、「世界のニュースにおける男女の扱いの比率とニュース編集室に働く男女の比率を図表にする」 

世界各国のある1日の新聞、テレビおよびラジオにおけるニュース報道に焦点を当てて、世界のニュースメディアを調査し、ボランティアから収集した定性的および定量的データを分析して、これを基盤に5年毎の報告書が編纂されている。 

2月に発表される2005年の報告書では、2005年2月15日に報道されたおよそ13,000項目のニュースが分析の対象となった。 

今回は、最新調査結果から得られたメッセージを広めようというWACCの野心的な計画の下、次のような試みが計画されているとターリー氏は説明する。「今年の2月16日から3週間、世界50カ国以上で大々的なキャンペーンを繰り広げる。数々のイベントを通じて、メディアをはじめ、さまざまな人々と2005年の調査結果に基づき対話を重ねていく計画である」 

キャンペーンは「世界女性の日」に当たる3月8日に最終日を迎えるが、その日には、「メディアにおける男女平等の推進に向けた第一歩として」すべてのニュースメディアに編集責任を女性編集者や記者に任せるよう依頼する計画である。 

しかしこうした推進運動は、3週間のキャンペーン期間終了後も継続される、とターリー氏は次のように語っている。「3週間のキャンペーンをきっかけに、今後もパートナーシップを継続していきたい」 

ターリー氏は、2005年の調査の詳細は、3週間のアクション・プログラムの初日に公表される予定であるが、その概要からは、1995年と2000年の調査結果と比べて大きな変化は見られないと言う。相変わらず、ニュース記事においても女性の扱いは少なく、それを報道する側においても女性の人数は少ない。 

「唯一の例外は、テレビ司会者に女性が増えた点が認められたことだ」とターリー氏は言う。但し、女性司会者が仕事にとどまることができるのは、35歳前後までであるようだ。「テレビ司会者の場合には、年齢と職業に関連性が認められる」と指摘する。 

世界の状況は、まったく陰鬱なものであるが、「地域や国によって確かに一定の差異が見られる」とターリー氏は言う。しかしまた、パターンには著しく一致した点が見られることも事実だ。「英国の状況も、アゼルバイジャンやジンバブエの状況も大した変わりはない」 

このプロジェクトは、国連女性開発基金(ユニフェム)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)ならびにさまざまな提携団体の連合の支持を得ている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

|ネパール|現実主義的な毛沢東主義へ(クンダ・ディキシット)

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【IPSコラム=クンダ・ディキシット『ネパーリ・タイムズ』の編集長】

1996年にネパールの君主制打倒のためのゲリラ戦を始めたとき、プラチャンダ首相は頻繁に「米国の帝国主義とインドの拡張主義」を非難していた。1998年のインタビューで、彼は、ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)はインド軍の侵略と戦い、ネパールの革命を「インドへ、そして世界へ」と広げていく展望すら語っていた。

 9月18日、プラチャンダ首相はインドへの公式訪問を終えてカトマンズに帰り、一晩だけ休んだあとすぐに米国へと旅立った。いまやスーツとネクタイに身を包むようになった首相は、毛派は信頼に足る相手であり、ネパール国内に積極的に投資してほしいと売り込んでいるのである。 

毛派は1996年にゲリラ戦を開始し、2005年からは議会政党と連合を組んで、君主制を打倒することに成功した。今年4月の総選挙で勝利し、連立与党を率いることになった。2年前には考えられないことであった。 

ネパール政府は現在、予算策定の途中だ。来年度の40億ドルの予算案は前年比30%増という積極的なものだが、内戦によって破壊されたインフラの再建に多くを割り当てるなど、きわめて現実主義的な色彩が濃い。 

バッタライ財務大臣の狙いは、インフラ投資にネパール経済の成長を牽引させることだ。彼は、水力発電を10年間で10倍にし、年間成長率を7%、2011年までには二ケタ成長にまで持っていくという野心的な計画を持っている。 

しかし、毛派が本当に実現しなくてはならないのは、貧しい人びとを食わせることだ。人口2780万人のうち半分以上が貧困線以下の暮らしをしている。食料価格は20%も高騰している。労働市場に参入する毎年45万人に職を見つけなくてはならない。今は、このうち半分が、インドやペルシャ湾岸諸国、マレーシア、韓国などへ出稼ぎに出て行くいくのである。 

また、国内の政治的な安定も図らねばならない。 

これらはいずれも大きな課題だが、この2年間、比較的スムーズに君主制から毛派の主導する民主政体に変わってきたことを考えると、毛派政権が課題を達成しうる十分なチャンスがあるといえよう。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 

*クンダ・ディキシット氏は、『ネパーリ・タイムズ』の編集長・発行人で、元BBCラジオ国連特派員、元インタープレスサービスアジア・太平洋総局長。

|米国|超党派グループ、イスラム世界との外交強化を提案

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

9月24日、超党派の米リーダー30余名が、次期大統領に対し中東/イスラム政策においてイラン、シリアとの直接対話を始めとする高官レベル外交を重視するよう求める報告書「進路変更:米国とイスラム世界の関係のための新たな方向」を提出した。 

オルブライト元国務長官やブッシュ政権の前国務次官でマケイン候補のアドバイザーを務めるアーミテージ氏を始めとする同グループは、152ページの報告書の中で、新政権はイスラエル/パレスチナ紛争の早期鎮静化および2国家建設の実現へ向け努力すること、ハマス、ヒズボラを始めとする武装グループとの関係を国民支援、選挙結果、暴力闘争停止への意欲、米国との利益共有の有無といった明確な基準に従いケース・バイ・ケースで再評価することなどを提案している。 

また、非暴力、共存、改革の促進によりイスラム主要国のガバナンス向上を図ること、米国メディアにおける報道の質の向上や米国内のイスラム・コミュニティーを橋渡しとする交流によって相互理解の向上を目指すことなどを柱としている。

 同報告書は、Search for Common Ground and the Consensus Building Institute(共通土台およびコンセンサス構築研究所)主催による外交/産業/宗教/軍事分野およびNGO代表による一連の会議の結果をまとめたもので、マケイン/オバマ候補による最初のテレビ討論の前日に発表された。 

25日の討論では、外交政策、中東問題、対テロ戦争が主なテーマとなる模様だが、マケイン候補は、場合によってはイランの核施設攻撃も辞さずという強硬姿勢を打ち出し、イラン、シリアと前提条件なしの対話を主張するオバマ氏を甘いと批判している。 

マケイン陣営の代表は先週末、右派のワシントン近東政策研究所(WINEP)に対し、マケイン候補はイスラエル/パレスチナ和平努力に積極的関与はせず、イスラエルに対しゴラン高原の返還に繋がるシリアとの交渉を思いとどまらせるだろうと語った。 

この点では、同報告書は明らかにオバマ候補の立場に立つものである。特に目を引くのは、同報告書が右派の福音派キリスト教運動のリーダー、リチャード・ランド、元ダラス市長のスティーブ・バレット、国民民主主義基金(NED)の会長ヴィン・ウェバー、イスラエル・ロビーと呼ばれる米国イスラエル公共問題研究委員会(AIPAC)のトム・ダインを始めとする右派大物などのコンセンサスを得て作成されたという点である。 

先週も、オルブライト、キッシンジャー、ジェイムズ・ベイカー、コリン・パウウェエルの元国務長官4人がイランとの無条件交渉支持を表明している。 

各界リーダー30余名で構成される「米・イスラム関係リーダー・グループ」(Leadership Group on U.S.-Muslim Engagement)が発表した新中東政策提案について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー= IPS Japan 浅霧勝浩 

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│アフガニスタン│深刻な飢餓が発生

【カブールIPS=アナンド・ゴパル】

11才のザヤイヌラーは、もし家にたくさんのお金を持って返ることができなかったら、今日もまたお

ばさんから叩かれてしまう、と言った。 

いつものように彼は、人通りの多いカブールの街角で物乞いをする。上半身は裸で片腕はない。膨脹した腹からは、彼が栄養失調であることがうかがい知れる。「いつも食べ物がなくって、でも状況はどんどん悪くなってる」と彼は話す。 

ザヤイヌラーのように飢えた人々がアフガン全土にいる。干ばつや通常より厳しい冬といった気候条件に加えて、食料危機の高騰、さらに悪化する治安状況など、さまざまな原因が複合的に重なっている。

 イギリスのNGO「オックスファム」によると、状況はこの20年間で最悪であり、推定500万人が食料難に苦しんでいるという。アフガニスタン中央統計局によると、国民の42%が絶対的貧困(月10ドル以下)の状況下で暮らしている。 

北部バードギース州当局によれば、最大で州民の80%が食料難によって死亡する可能性があるという。州を逃れてイラクへと向かう者もいるが、途上で命を落とす者が後を絶たない。 

食料難は隣国のパキスタンによって引き起こされている側面もある。アフガン商工会議所のフセイン・アリ・マフラミ氏によれば、アフガンは小麦の7割をパキスタンに依存している。パキスタン当局は、自国内での食料価格の値上がりを理由にアフガンへの輸出を制限し始めたが、マフラミ氏は、アフガン政府を弱体化させようとする「政治的な策略」ではないかと考えている。 

食料難の状況を受けて、世界中の支援組織が奔走している。国連諸機関とアフガン政府は、7月、4.04億ドルの支援が必要であると国際社会に訴えた。世界食料計画(WFP)によれば、これまでにまだ目標の4分の1しか達成できていないという。 

もともとアフガニスタンにおいては、国際支援が不十分であった。他の紛争国に比べても支援額が圧倒的に少ない。また、援助額の4割は、ドナーの利益やスタッフの駐在費などに消えてしまうという。 

アフガニスタンの食糧難について考える。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 

実現には程遠いエイズ防止目標

【国連IPS=イダ・カールソン】

「目標の2015年まで半分を過ぎたが、とりわけアフリカに関して、目標を達成できそうにないことは明らかだ」―ミレニアム開発目標(MDGs)に関してこういうのは、国連の潘基文事務総長である。MDGsの第6目標では、HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病の蔓延を食い止めることが謳われている。

国連の統計では、2007年だけでも、サハラ以南地域において160万人がエイズのために死亡している。感染者も2250万人いる。

 アフリカのエイズ問題に関する元国連大使のスティーブン・ルイス氏は、国連によるエイズ対策がきわめて不十分だと批判する。メキシコシティで8月に開かれた国際エイズ会議のスピーチで、「薬の値段が高いとか、経済的な問題があるから先進国は十分に支援できないとか、そんなことをわめいている暇はない」とルイス氏は述べた。

問題はコストだけではない。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のジョセフ・アモン氏によると、薬へのアクセスを妨げる国内規制、国内で移住する感染者を十分支援できないことなどの問題があるという。

アモン氏は「目標を達成できていない国々に対して、国連はもっと注文を付けてほしい」と話す。たとえば、ガンビアでは、抗レトロウィルス薬を使わずに役に立たない治療法を政府が押し付けているという。当初、国連はこうしたやり方に抗議していたが、結局国内から追い出されてしまったという。

他方で、対策の進展が見られる国もある。ナミビアでは、治療を受けている患者は2003年にはわずか6%だったが、2007年には57%にまで拡大した。ルワンダでも、2007年には患者の60%以上が抗レトロウィルス薬を利用している。

9月25日には、国連事務総長が主催して、MDGsの実現に向けたハイレベルの会議が開かれる。約100ヶ国から元首が参加する予定だ。

世界のHIV/AIDS対策の現状を検討する。

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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|イラク|本|「マーク19で女性を粉々に吹き飛ばした」

【テキサス州マルファIPS=ダール・ジャマイル】

イラクで米軍が何をしているか、イラク人以外で一番よく知っている米兵自身がイラクに米軍がもたらした惨状について赤裸々に語った本が、16日にヘイマーケット・ブックスから出版された。「Winter Soldier Iraq and Afghanistan: Eyewitness Accounts of the Occupation(イラクとアフガニスタンの冬の兵士:占領の目撃証言)」というこの作品には米軍がイラクと米兵に何をしたかが、衝撃的、歴史的記録として記されている。

反戦するイラク帰還兵(IVAW)とジャーナリストのアーロン・グランツ氏による著作は、メリーランド州シルバースプリングで今年3月に開催されたIVAWの公聴会に基づいている。イラクに3度派遣された米海兵隊のジェイソン・ワッシュバーン伍長は、「大きな荷物を抱えて突進してきた女性をマーク19(自動擲弾発射筒)で粉々に吹き飛ばしたが、実は荷物の中身は我々への差し入れの食べ物だった」と証言した。

 「規則はひんぱんに変わった。危険が大きくなるほど、容赦のない対応を迫られた。誤って民間人を銃撃した時にはあたかも暴徒であったかのように偽装した」こうした証言をまとめた作品には、イラクでの痛ましい状況が次から次へと語られている。グランツ氏は「今回の戦争で何が起きているか、戦争とはどういうものかについて歴史的な記録を作成したい」とIPSの取材に応じて語った。

「敵がタクシーを利用するからすべてのタクシーを攻撃するよう命じられた」、「誰かれ構わず打ち殺し、写真を撮るように命じられた」などの証言に、IVAWのケリー・ドーティ事務局長は米国政府の中東政策に責任があると非難する。大手メディアが取り上げない冬の兵士の証言を掲載したこの作品は米国民にとって貴重である。

「取材記者が同行すると戦闘行為は激変した」とジョン・ターナー元海兵隊員はいっている。兵士の非人間化とともに、性差別、人種差別、復員軍人援護局に支援を求める帰還兵の窮状、さらにはイラクの人々の非人間化も明らかにされた。海兵隊のブライアン・キャスラー伍長は「排泄物を携行食の袋に詰めてイラクの子どもに投げつける兵士を見た」という。

「子どもにキャンディを与えるのは、子どもを盾に攻撃を避ける意味もあった」と証言する兵士もいた。グランツ氏は米国の一般市民には読むのがつらい内容かもしれないが、真実を語る帰還兵たちの勇気を讃えたいという。

イラク帰還兵の証言をまとめた本の出版について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー= IPS Japan 浅霧勝浩

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|キューバ|「ハリケーン被害の規模は死者数に関係なし」と国連常駐調査官

【ハバナIPS=パトリシア・グロッグ、ダリア・アコスタ】

先月キューバを襲ったハリケーン『アイク』は250万人を越える避難民を出した。幸いキューバ全土での死者は僅か7人であったが、100万人以上の人々が家屋の損壊、家を失うなど多大な被害を受けた(51万4,875棟が損壊、このうち9万1,254棟は全壊)。キューバ政府は今回の大型ハリケーンによる被害総額は50億米ドル相当になるとしている。

国連キューバ常駐調査官、Susan McDade氏はIPSとの取材に応じ、自然災害による開発の遅れを取り戻すには国際社会の迅速で適切な支援が不可欠であると強調した。

 「今のところ具体的な数値は報告されていないが、今後キューバ経済は何らかのダメージを受けるだろう。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)、汎アメリカ地域保健機構(PAHO)、食糧農業機関(FAO)など国連の諸機関がキューバ政府に働きかけを始めているが、いずれも成果が出るまで一定の期間にわたる中期的コミットメントが必要である」。

キューバを先に襲ったハリケーン『グスタフ』の通過後、同国政府は国連からの支援を受け入れた。キューバ外国投資・経済協力省の指示に従い、国連は住宅や電気復旧、教育・医療サービスの復興への資金を準備。さらに、10万ドルを投じ建設工具の調達を行うなど具体的な支援を行っている。

自然災害を受けやすい地域への災害予防や被害減殺について、同氏は「避難場所を設置する一方で、災害に強い家屋や屋根を用意することも重要である。キューバは常にハリケーン上陸の危険に晒されている」と語った。

また、McDade氏は今回のハリケーンによる農業への甚大な被害についても触れた。「近年の食糧価格の高騰の影響で、ハリケーンの上陸以前からキューバの農業は危機的な状況に陥っている。国際収支の悪化に苦しむキューバは開発計画や公共投資に必要な資金を必要としている。国際社会の支援を受け現在の難局から抜け出そうとしているキューバの今後に注目したい」。

「今回のハリケーンによる犠牲者は少なかった。だからといって被害が小さかったというわけではない。キューバは現在も被災地復興のため外部からの支援を必要としているのだ」と訴えた。キューバの国連常駐調査官とのインタビューを報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

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|キューバ|貴重な湿地が危機に

|スリランカ|民間人、国連に対し支援続行を要請

【コロンボIPS=フェイザル・サマス】

スリランカ政府軍の兵士数千人がキリノッチを含む北部ワンニ地方に集結。政府および軍アナリスト言うところの近年最大のLTTE(タミル・イーラム解放の虎)攻撃を準備している。

LTTEは25年に亘り、スリランカの北部および東部を領土とするタミル族国家建設のため戦いを続けているが、政府軍は昨年LTTEから東部地域を奪回。現在はワンニ地方、特にキリノッチおよびムッラティブの反乱軍要塞の攻撃に集中している。キリノッチにはLTTEの情報基地があり、リーダーのヴェルピラ・プラブハカランが同地およびその周辺から作戦を展開しているという。

政府軍はこれまで、空軍戦闘機によるLTTE基地への精密爆撃を行うと共に陸軍の特別部隊を敵地深く侵入させLTTE幹部の殺害を行ってきた。しかし、反乱軍は先週、政府軍が支配するキリノッチの南の町ヴァヴニヤの基地へ突如空陸攻撃を仕掛けてきたのであ

る。

 政府は、キリノッチ陥落はまじかと見ているが、軍アナリストは、「LTTEは最近の戦闘ではベテランを温存して若い兵士を使っている。時間稼ぎをし、一気に全面攻勢を仕掛けるつもりである」と述べている。

LTTE和平事務局は、「ワンニ地方の空爆により11万3千人の市民が家を追われた。政府軍の行動は大量虐殺に等しい」と述べているが、ジャーナリストの地域立ち入りが禁止されているため、客観的な状況確認は不可能である。

政府は、戦闘激化に伴う北部住民のコロンボ流入を憂慮。ラジャパクサ国防長官は、LTTE幹部が難民に交じりコロンボの中枢地域に侵入してくるのではないかと警戒している。

国防省は先週、安全を保障できないとして、国連を始めとする人道支援機関に対し戦闘地域からの撤退を指示した。9月9日には国連の潘事務総長が政府およびLTTEに対し、民間人の安全/自由確保を要請したが、コロンボの国連担当官は9月20日を目途に立ち退きを進めていると語っている。

キリノッチからの報告によると、住民は国連担当官に対し、戦闘地域の民間人保護という原則に反し撤退する旨を書面にして提出するよう迫っているという。一方、政府は、LTTEはこれまで通り非戦闘員を攻撃の盾とするため市民の同地立ち退きを禁止していると語っている。

スリランカの戦闘激化について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

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