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核外交の歴史における画期、アイゼンハワー大統領の「平和のための原子力」演説から70年

【リオデジャネイロIDN=レオナム・ドスサントス・ギマラエス】

1953年12月8日、米国のドワイト・D・アイゼンハワー大統領が、後世に語り継がれることになる演説を国連総会で行った。この「平和のための原子力」演説は、原子力とその応用に対する世界の見方を決定的に変えた。アイゼンハワーは演説で原子力の平和利用へのビジョンと、原子力国際協力の促進について述べたのである。2023年、核科学の力を人類の利益のために利用する必要性を強調したこの象徴的な演説から70年を迎える。

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

この演説の歴史的な文脈は決定的だ。米国は第二次世界大戦末期に広島・長崎に原爆を投下し、核時代の始まりを画した。世界は原子力に伴う危険を明確に意識し、冷戦は激しくなっていた。核兵器は力の象徴となり、人類生存への脅威となっていた。欧州をナチスドイツから解放する作戦で連合国軍を指揮した第二次世界大戦期の著名な将軍であったアイゼンハワーは、原子力の破壊力について理解していたが、それが民生にもたらしうる潜在的力を見据えてもいた。彼の演説は、原子力の平和利用へのコミットメントを強調することで歴史の道筋を変えようとする試みであった。

「平和のための原子力」演説の中心的な考え方は、核に関する知識と技術を、それが非軍事的な目的である限りにおいて、他国と共有するというものだ。アイゼンハワーは、単に脅威としてだけではなく、世界を利する機会を与えるものとして、原子力の潜在能力を捉えていた。

アイゼンハワーはこの演説で、原子力が善への力となるような世界のビジョンを示した。原子力技術の平和利用を管理し、国際協力を推進する機関の創設を提案した。そして、諸国の経済的な発展と福祉を促進し、人類にあまねく進歩をもたらすために、核をめぐる知識が共有されねばならないことを強調した。

アイゼンハワーの演説はまた、核軍縮の重要性と核兵器拡散を制御する必要についても述べていた。核エネルギーが平和目的にのみ使用されるようにする取り組みに加わるように諸国に求め、これは10年少し経ってから核不拡散条約(NPT)の成立につながった。

IAEA
IAEA

アイゼンハワーの演説は1957年の国際原子力機関(IAEA)創設につながった。原子力の平和利用を促進し、それが軍事目的に使われないように監視する役割を与えられた機関である。IAEAはそれ以来、世界各地での核活動を監視・規制する上で重要な役割を果たし、NPT締約国の公約を検証することで核兵器の拡散を予防することに貢献してきた。

「平和のための原子力」演説から70年を迎える中、この70年における原子力の平和的応用の長足の進歩に着目することが重要だ。「原子力の平和利用」概念は、大気中に有害なガスを発生することなく、医療や産業、農業、クリーン発電、さらには、淡水化や現在「ブルー」を呼ばれる水素などのさまざまな生産プロセスにおける熱利用のための原子力利用に光を当てた。これは、現在のエネルギー移行や気候変動の緩和に決定的な意味を持つ。

原子力の応用は、例えば癌の放射線治療のような先進的な医療技術の発展につながったり、様々な疾病の診断や治療のための放射性同位体の生産を可能にしたりしてきた。食物への放射線照射技術は、食品物流網における損失を大幅に減らしてきた。これらの技術は、医療・手術用機材の殺菌や、美術品の保存にすら応用されてきた。

さらに、核エネルギーは多くの国で主要な電源となり、フランスやスロバキア、ウクライナのような国々では50%以上の電力を生産し、エネルギー源の多様化とエネルギー安全保障に寄与している。

小型モジュール炉(SMR)は、鉄鋼やアルミニウム、セメントなどの産業のための直接的な熱利用や、合成燃料の生産など、発電以外の利用と組み合わせたコジェネレーションへの道を開いた。さらに、海洋(海底への固定式、あるいは浮遊式)や宇宙空間(ロケット推進燃料や発電)といった遠隔地での発電ユニットとしても利用可能だ。

また、宇宙船に搭載したり、月や火星のような地球に近い天体に固定することもできる。加えて、非炭素型発電を伴ったデータセンターを必要とするデジタル化や人工知能の発展を加速させ、途中で阻害されることなくきわめて高い信頼性と継続性をもった電力使用が可能となっている。

Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons
Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons

アイゼンハワー演説70年を迎えたいま、彼の遺産と、それ以降にみられた進歩を振り返ることが重要だ。IAEAは、世界各地で核活動を監視する重要な役割を果たし続け、原子力安全と国際協力を促進している。核エネルギーの平和的応用は、生活の質を向上させ、科学の発展を促進することで、人類に利益を与え続けている。

しかし、核エネルギーの利用に伴う難題を忘れてはならない。原子力安全や放射性廃棄物管理の問題、核兵器の拡散は、依然として世界の重要問題だ。国際協力の必要性と核技術の責任ある応用を頭に置いておかねばならない。

アイゼンハワー大統領の1953年の演説は、我々の未来を形作る科学技術の力について強力な警告を与えたものだ。彼は我々に対して、核エネルギーを責任をもって利用し、核兵器の脅威をもって特徴づけられる世界において平和を求めることを促している。今日、我々はこのビジョンを尊重し、人類全体の利益のために核エネルギーの平和利用を促進するとの約束を再確認する。

70周年にあたって、我々は「平和のための原子力」演説の遺産をあらためて振り返り、核エネルギー平和利用へのコミットメントを再確認しなくてはならない。アイゼンハワー大統領の演説は、核エネルギーがエネルギー移行における役割を拡大しつづける中で、平和や安全、協力を促進するインスピレーションを与え続けている。

究極的には、アイゼンハワーの「平和のための原子力」は、責任と国際協力という原則にコミットして初めて、科学技術を人類の福祉のために利用しうることを思い起こさせる。この演説は、核外交の歴史における重要な画期でありつづけ、核をめぐる知識を平和と開発のために利用して、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成することの重要性を指し示していると言えよう。(原文へ

※著者は、ブラジル工学学士院の会員(原子力・海軍工学)であり、ブラジル海軍の原子力推進プログラムで「エレトロニュークリアSA」社の社長を務める。

INPS Japan

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戦争と核兵器: 本末転倒の論理

意図的であれ、事故であれ、核攻撃は絶対にあってはならない(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

【国連INPS Japan/IDN=タリフ・ディーン

世界の核保有国のうちの2つ、ロシアとイスラエルが2つの壊滅的な紛争に巻き込まれている今、両国を覆う軍事的緊張が、意図的あるいは偶然的に核攻撃を引き起こすのではないかという懸念が残る。

「それこそ、あってはならないシナリオです。」と警告するのは、創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長だ。SGIは、平和・文化・教育を促進する1200万人の仏教徒の多様なコミュニティーであり、国際連合の諮問資格を有するNGOである。

IDNとのインタビューの中で、寺崎総局長は、国連、国際機関、市民社会といったすべての関係者が、このようなことが決して現実にならないよう、多くの努力を払ってきたし、これからもそうしていかなければならない、と語った。

「いうまでもなく、それぞれの危機の背景や状況は異なり、一概に論ずることはできませんし、核兵器をめぐる言説は慎重かつ自制的であるべきでしょう。」と指摘した。

インタビューの全文は以下のとおり。

IDN:世界の核保有国の2つ、ロシアとイスラエルが、ウクライナとハマスという隣国と戦争状態にある。両国を覆う軍事的緊張が、ある段階で核攻撃を引き起こす可能性はあるのだろうか?

寺崎:それこそ、あってはならないシナリオです。絶対にそうならないために、関係者も、国連も、諸々の国際機関も、市民社会も、多くの努力を尽くしてきたし、今後もそれを続けなければなりません。

いうまでもなく、それぞれの危機の背景や状況は異なり、一概に論ずることはできませんし、核兵器をめぐる言説は慎重かつ自制的であるべきでしょう。

イスラエルは事実上の核兵器保有国といわれますが、その保有を宣言してはいません。先日も、同国の閣僚が核兵器について発言し、それに対してネタニヤフ首相が、現実からかけ離れていると述べ、その閣僚を当面、閣議に出席させないこととしたと報じられています。

ガザ地区をめぐる軍事衝突においては、すでにあまりにも多くの一般市民の命が犠牲になり、街は破壊され、日常生活は蹂躙されてしまいました。憎悪が憎悪を呼び、分断が深まっており、日々、深く憂慮しています。これ以上の悲劇を生まないよう、まず戦闘の人道的一時停止、人道・救命支援を強く求めます。

また、ウクライナ危機においては度重なる核兵器使用の威嚇がなされ、今年のG7広島サミットに先立ち池田大作SGI会長は、リスク低減のために、核兵器国が核兵器の先制不使用を誓約することで、各国が安全保障を巡る“厳しい現実”から同時に脱するための土台にすることができると訴えました。SGIは、これをテーマにしたサイドイベントを、NPT再検討会議第1回準備委員会においても他団体と共同で行いました。しかし、残念なことに、その後も、核軍縮のための国際規範がさらに崩される事態に直面しています。

人類は、破滅に向かう深淵を、まざまざと見ている。だからこそ、選択すべき未来へ、正しい一歩を踏み出し、持続可能な世界を築いていかねばなりません。

私たちは常に被爆の実相を想起し、グローバル・ヒバクシャの声を心に留め、核兵器がいかに非人道的で壊滅的な結末をもたらすかを直視しながら、危機に対処すべきでしょう。

私たちは、ラッセル・アインシュタイン宣言を今一度、心に刻みたい。「私たちは人類の一員として、同じ人類に対して訴えます。あなたが人間であること、それだけを心に留めて、他のことは忘れてください。それができれば、新たな楽園へと向かう道が開かれます。もしそれができなければ、あなたがたの前途にあるのは、全世界的な死の危険です」

国連は平和の担い手か?

IDN:ご存知のように、国連は主に、一方では中国とロシア、他方ではアメリカ、イギリス、フランスなどの西側諸国が新たな冷戦を繰り広げているため、この2つの紛争に決着をつけることに失敗している。その結果、国連も安全保障理事会も麻痺したままになっている。平和の担い手としての国連にまだ期待していますか?

寺崎:おっしゃる現状認識や懸念は、よくわかります。ただ私は、かつての東西冷戦のような二項対立というよりも、現在の世界は多極化しており、それぞれの国の思惑や立場が違うことも感じています。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

2年前にグテーレス国連事務総長が発表した『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』においても、マルチラテラリズム(多国間主義)の再活性化が取り上げられ、グローバルな連帯の再構築、政府と市民社会の協働が強調されています。ことしの国連総会に際して事務総長は「深い分断は存在していますが、私たちは前進を遂げています」と語り、来年の未来サミットに向け取り組みを強化していくと述べました。

主要国間の対立は深刻ですが、グローバルサウスや新興国の存在感も重みを増す中、多国間の対話の回路を確保することが、いやまして求められます。一方で、先住民や脆弱な立場の人々、周縁化された人や難民・避難民にも、もっと光を当てなければなりません。

要するに、多国間の合意形成の場として、国連は、より強化され、より活性化されなければなりません。そのためには、女性や青年、また市民社会による意思決定の過程への関与を高め、市民社会の声が届く国連、市民社会が支える国連になっていくことが、変革への推進力になるのではないでしょうか。

もとより、国連には安全保障理事会の機能不全など積年の課題があり、不断の改革が必要であることは事実です。そのうえで、世界の各地でさまざまな脅威に苦しむ人々がいる限り、国連が掲げた”言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う”(国連憲章前文)との崇高な使命は変わらないでしょう。

193カ国が加盟する最も普遍的な機関である国連を除いて、国際協力の礎となり、その活動に正当性を与えられる存在を他に求めることは、事実上、困難ではないでしょうか。

冷戦の影響

IDN:新たな冷戦は、遅かれ早かれ、国連の主要な役割である長年の核軍縮運動にも悪影響を及ぼすのでしょうか?

UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri

寺崎:現在の世界における対立を、新冷戦という言葉で定義すべきか否かは別として、混迷の度を増すそうした対立が、国連が進めるべき核軍縮に大きな悪影響をもたらしていることは、明らかです。

昨年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議では最終文書が採択できず、次の2026年の再検討会議に向けた、ことし7−8月の第1回準備委員会では、議長総括が公式記録として残らない異例の事態となりました。加えて、この11月頭にロシアが包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回を決定したことは、まさに核軍縮に逆行するものです。それだけに、11月末から12月にかけて行われる核兵器禁止条約(TPNW)の第2回締約国会議は核軍縮への流れを強める、極めて重要な機会といえましょう。

逆説的にいえば、核兵器の威嚇と核使用の恐れが一向に消えることのない危機が、かつてないほど長期化しているからこそ、核軍拡の流れを核軍縮へともどし、核廃絶へ向かうための、歴史の転換点にしていかなければなりません。

Hibakusha testimonies | Keiko Ogura | Hiroshima Credit: Soka Gakkai

核兵器禁止条約の前文には、「核兵器の使用の被害者(ヒバクシャ)及び核兵器の実験により影響を受ける者にもたらされる容認し難い苦しみと害に留意し」と明確に刻まれています。

私たちSGIは、ことし、G7広島サミットで首脳たちに直接、被爆の実相を語った小倉桂子さんの英語による被爆証言を収録・公開し、青年世代をはじめ世界に伝えました。

「原爆のキノコ雲の下では、誰一人、生き延びることはできない」(Under the mushroom cloud, nobody could live.)ーーとの実体験からの証言は非常に説得力のあるメッセージとなりました。

Credit: CISP

さらにカザフスタンの核実験被害者の証言映像「I want to live on」を、まもなく開催される核兵器禁止条約第2回締約国会議 のサイドイベントでローンチする予定です。(予告編のリンク

「核兵器の壊滅的な結末は、十分に対応することができず、国境を越え、人類の生存、環境、社会経済開発、世界経済、食糧安全保障並びに現在及び将来の世代の健康に重大な影響を及ぼし、及び電離放射線の結果によるものを含め女子に対し均衡を失した影響を与えることを認識し」と核兵器禁止条約の前文にあるとおり、とくに将来の世代のためにも、核軍縮、核廃絶の運動を、今こそ強化したいと決意しています。 

IDN: 1945年の広島と長崎への原爆投下は、世界のみならずアジアでも最悪の人的災害のひとつである。しかし今日、世界の核保有国9カ国のうち4カ国はアジアの国である–中国、インド、パキスタン、そして北朝鮮である。これは奇妙な偶然ではないだろうか。そして、インドとパキスタン、インドと中国の間の長年の領土問題や政治的紛争が、将来核戦争に発展する可能性はあるのだろうか?

寺崎:直近のデータでは、世界に約12500発あるとされる核弾頭のうち、約90%は米露が保有しています。その一方、推定によれば、過去10年で、中国は160発、インドは64発、パキスタンは60発、北朝鮮は少なくとも30発、核弾頭を増加させたと見られます(RECNA〈長崎大学核兵器廃絶研究センター〉調べ)。中国はNPTに加盟している核兵器国(NWS)ですが、インドとパキスタンはNPTに加盟しておらず、北朝鮮は一方的にNPTからの脱退を宣言しました。最近、北朝鮮は核兵器の先行使用も辞さない姿勢を示しており、国際社会は非難しています。

また、中国、インドは先制不使用の方針を示しており、これにパキスタンが加わり、その原則が確立されれば、南アジアの安定に寄与するとの研究もあります。

実際のところ、核戦争が起こる可能性は小さいと思われますが、偶発的な危機を避ける上でも、より戦略的安定性を築き、信頼醸成を推し進めていくことが重要です。その意味で、市民社会の多角的な交流や、意識啓発がその土台となると考えます。

戸田平和研究所が他の研究機関と共同発表した一連の政策提言の中で、中国・インド・パキスタンの核のトリレンマとリスク低減策の必要性を取り上げました。

信仰に基づく団体の役割

IDN:核軍縮を推進し、紛争地帯での核攻撃を防ぐために、SGIのような反核活動家や信仰に基づく団体は、現状においてどのような役割を果たすことができるのでしょうか?

寺崎:私は、この1年あまりの間に、カザフスタンでの世界伝統宗教指導者会議(2022年9月)、宗教者らが集うバーレーンでの対話フォーラム(2022年11月)に仏教者の一人として参加しました。地球的問題群をめぐり、率直に意見を交わし、知恵を分かち合う経験に、未来への希望の光を感じました。

そのいずれにも出席していたローマ教皇フランシスコ、イスラム教スンニ派の最高指導者であるアル=アズハルのグランド・イマーム、アフマド・アル・タイーブ両名の名で2019年に出された共同文書「世界平和と共生のための人類の兄弟愛」に、こうありました。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

「宗教は戦争をあおることも、憎しみ、敵意、過激主義を募らせることも、暴力や流血を招くこともないと、断固として宣言します。こうした惨事を招いたのは、宗教の教えからの逸脱、宗教の政治利用であり、歴史の一時期に一部の宗教グループ──宗教的感情が人々の心に与える影響を悪用して、宗教の真実とは無関係な行いへと誘導し、世俗的で近視眼的な政治的・経済的目的をかなえるようにした者たち──による解釈の結果なのです」

今、人類が直面している危機は、一部の人だけで解決することはできません。核兵器をめぐる問題も、気候正義への取り組みも、境界を超え、違いを超えた、同じ人間としての協働が、事態打開の鍵になると私は深く確信しています。

一般市民の人命が奪われる事態に、一刻も早く終止符を打つための道を見出す。

人間性の名において、壊滅的な非人道的な結末を回避する。

そして、人と人を結び、理解し合い、苦しんでいる人に寄り添って、誰一人、置き去りにしない。そして、誰もが自分らしく輝いて、多様な生を享受できる世界をつくる――そのために、信仰を基盤とする団体は、国連をはじめ国際社会において、また、市民社会の草の根の意識啓発において、協働して、多くの役割を果たせるに違いありません。

Photo: Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.
Photo: Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

11月15日に95歳で逝去した池田SGI会長が、最後に発した提言がG7広島サミットに寄せたものでした。その中で、次のように述べています。

――“闇が深ければ深いほど暁は近い”との言葉がありますが、冷戦の終結は、不屈の精神に立った人間の連帯がどれほどの力を生み出すかを示したものだったと言えましょう。

今再び、民衆の力で「歴史のコース」を変え、「核兵器のない世界」、そして「戦争のない世界」への道を切り開くことを、私は強く呼びかけたいのです――

この言葉を胸に、諦めない勇気を携えて、協働の道を進んでいきたいと思います。(原文へ

INPS Japan

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すべての子ども、すべての権利のために-危機的な影響を受けた子どもたちに心理社会的支援を届ける

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ

国際社会が「世界子どもの日」を迎えるにあたり、イスラエルによる激しい砲撃と軍事作戦によって1万1000人以上が死亡し、その40%が子どもであるガザ地区の子どもたちを含め、すべての子どもたちに権利が保障されるべきである。

「国際人道法と学校保護宣言に基づき、民間人、特に子どもたち、学校、学校関係者は保護されなければならない。この紛争で私たちが目にしているのは、地球上で最も人口密度の高い地域を襲う爆弾、攻撃される学校やその他の民間インフラ、そして全住民が安全な逃げ場がなく、最も悲惨な状況に追い込まれている現実です。生き残った子供たちは、傷ついたり、孤児になったり、親しい家族や親戚を失ったりしています。想像を絶する恐怖が目の前で繰り広げられているのです。」と、緊急事態や長期化する危機における教育のための国連グローバル基金である「教育を後回しにはできない基金(Education Cannot Wait)」のヤスミン・シェリフ事務局長はIPSの取材に対して語った。

Executive Director Yasmine Sherif. Education cannot wait
Executive Director Yasmine Sherif. Education cannot wait

「ガザで起きていることに、子どもたちが備えることはできないし、備える必要もありません。子どもたちや青少年は傷つき、トラウマを抱えています。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によると、10月の初期評価では、少なくとも91%の子どもたちが急性ストレスとトラウマの兆候を示しており、メンタルヘルスと心理社会的支援(MHPSS)を必要としています。」

国連によると、ガザ地区では人口の半分近くを子どもが占めている。攻撃が続く中、625,000人以上の生徒と22,564人の教員が影響を受けている。少なくとも86%の校舎は、避難民のためのシェルターとして使用され、収容人数の4倍にまで達しているか、或いは既に破壊されている。

ノルウェー難民評議会(NRC)のベター・ラーニング・プログラムのグローバル心理社会的支援責任者であるカミラ・ロディ氏は、IPSの取材に対し、戦争が子どもたちに与える影響は壊滅的であると語った。

「紛争、戦争、強制移住を経験すると、子どもたちは個人的、継続的な生命の危機にさらされ、暴力とその影響を常に目の当たりにすることになります。このようなトラウマ的出来事に長期間晒されると、トラウマの処理が複雑になるリスクが高まります。戦闘がなくなると、高レベルのストレスやトラウマを経験した子どもや大人にとって、回復へのプロセスが始まります。メンタルヘルスと心理社会的支援(MHPSS)は贅沢なものではなく必需不可欠なものです。平常心を取り戻すのに役立つのです。」とロディ氏は語った。

心理社会的支援プログラムに取り組んでいる。簡単に言えば、子どもたちは元気で安全でないと学ぶことができないのです。MHPSSは、すべての緊急教育プログラムに組み込まれるべき、必要かつ不可欠の介入です。ベター・ラーニング・プログラム(BLP)は、NRCを代表する教室ベースの心理社会的支援介入であり、トラウマや強いストレスを経験した子どもたちの学習能力の回復を支援します。」

このプログラムは、ウクライナ、スーダン、パレスチナなど33カ国で子どもたちの未来に投資し、10年以上にわたって緊急かつ長期的なクリティカルケアと心理社会的支援を提供する最前線に立ってきた。ロディ氏は、「MHPSSは危機や緊急事態において非常に重要です。」と強調した。

シェリフ事務局長は、「この高レベルのストレスサイクルの中で家庭や学校が荒廃し、生き残った子どもたちが生涯にわたって深刻な精神衛生上の問題を抱える危険性があります。」と強調した。衰弱し、慢性的な不安や鬱病、様々な程度のトラウマに悩まされる生活が、紛争や危機の渦中にいる2億2400万人以上の子どもたちや青少年に待ち受けている。

緊急事態や長期化する危機の影響を受けている40カ国以上の子どもたちの教育プログラムを支援している「教育を後回しにはできない基金」は、2020年以降、MHPSSをすべての国レベルの投資の中核的な要素に含めている。これには、NRCのベター・ラーニング・プログラムへの支援も含まれる。

「ECWは、生徒と教師の心の健康が学習の基盤であることから、生徒と教師の心の健康を守り、促進するために、MHPSSを優先してきました。私たちは、メンタル・ヘルスと心理社会的支援サービスのために、リソースの少なくとも10%を投資する目標を持っています。」とシェリフ事務局長は語った。

ECWはこのほど、UNRWAとユニセフを支援し、ガザ地区の子どもたちに命を救うメンタルヘルスと心理社会的支援を提供するため、1000万ドル(12カ月)の助成金を拠出すると発表した。

「ガザ地区は特に、執拗な暴力の連鎖によって定義される人道的大惨事に陥っています。ベター・ラーニング・プログラムの過去の調査によると、悪夢や睡眠障害で助けを求めた1093人の生徒(6~17歳)が、週平均4.57日、平均2.82年の期間、トラウマ性の悪夢を繰り返したと報告しています。」とロディ氏は語った。

「私たちは常に、不作為の代償について話しています。特に暴力とトラウマの連鎖の永続化についてです。紛争が終結すると、子どもたちへの苦痛と心理的影響が始まり、もしそのまま放置されれば、生涯にわたって続くことになります。このようなネグレクトは、教育や発達の歩みを遅らせる結果にもなり、精神衛生上の障害に罹りやすくなるのです。さらに、平和の安定剤である地域社会とのつながりの感覚も損なわれます。また、医療費の増加や長期的な生産性の低下により、経済的・財政的な影響も大きいのが現実です。」

A funeral procession for two children killed in the Israeli attacks on Gaza. Credit: Mohammed Omer/IPS
A funeral procession for two children killed in the Israeli attacks on Gaza. Credit: Mohammed Omer/IPS

ロディ氏は、大人の争いの代償を子供が払うべきでないと強調し、安全感と予測可能性を再確立し、子供たちが安全な環境でレクリエーション的な遊びや教育活動を再開し、「緊急事態、逃避モード」にある身体を安全に休めることができるようにするためには、停戦が急務であると強調した。

「ガザの壊滅的な人道的状況を放置することはできません。すべての当事者は、国連憲章、国際人道法、普遍的人権を尊重しなければならない。私は、国連の同僚たちとともに、即時人道的停戦を求めています。」とシェリフ事務局長は語った。

「魂を打ち砕くような人間の苦しみを止め、安全を取り戻さなければ、国際社会としての私たちの道徳的な立場は、今日、そしてこの先何世代にもわたって、若い世代から問われることになるだろう。『すべての子ども、すべての権利のために』をテーマとするこの『世界子どもの日』に、私たちは危機に瀕した子どもたちにどのような約束をすればいいのだろうか。2億2400万人以上の危機的状況にある子どもたちを含め、世界のあらゆる場所にいる子どもたちは、その苦難にもかかわらず、そして特に苦難だからこそ、あらゆる権利と約束が提供されるに値するのです。」とシェリフ事務局長は語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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国連人権理事会構成国選出:ロシアは落選、中国は辛勝

【国連IDN=タリフ・ディーン

国連の人権理事会(ジュネーブ、構成47カ国)は、193カ国から成る国連総会の選出した構成国の中に「抑圧的体制」や「権威主義国家」を含めているということで長らく批判されてきた。

10月10日に行われた秘密投票では、中国やブルンジ、キューバを含む15カ国が新たに選出された。しかし、ウクライナを侵攻したことで国連憲章違反の非難を受けているロシアは選ばれなかった。

中国とロシアは、英国・米国・フランスと並んで安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国である。

保護する責任に関するグローバルセンター」は、選挙直後に出した声明で、ブルンジや中国の選出は人権理事会の信頼性を貶めるものだと警告した。

「人権理事会に選出された国は、すべての国連機構への全面的な協力を含め、最高水準の人権へのコミットメントを示すことになっている。」

Photo: UN Geneva
Photo: UN Geneva

これらは国連総会決議60/251で提示された条件である。カメルーンやエリトリア、アラブ首長国連邦、スーダンをを含むいくつかの人権理事会構成国によって、国内外で潜在的な集団残虐犯罪が行われているという事実も深く憂慮される、とグローバル・センターは述べた。

「普遍的・定期的レビュー」など、人権理事会が義務づける調査メカニズム、特別手続、条約機関、人権高等弁務官事務所(OHCHR)が提供する事務的支援はすべて、人道に対する罪、民族浄化、戦争犯罪、ジェノサイドにつながる危険要因を早期に警告し、その再発を防止するための勧告を提供する上で不可欠な役割を果たしている。

「グローバル・センター」はまた、新たに選出された核人権理事国のプロフィールをまとめたと発表した。これによって、人権の擁護・促進によって大規模な加害の予防にこれらの国々がどれだけコミットしているのかが概観できるようになる。

『国連人権理事会構成国選挙(2024~26)と「保護する責任」』へのリンク

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの国連ディレクター、ルイシャルボノーは、「ロシアと中国は大規模な虐待を連日繰り返し、国連人権理事会の構成国としては不適格であることを見せつけてしまった。」と選挙の直前に語った。

「人権理事会に参加する国の中で、人権に関して問題のない国はないが、人権理事会の一員になるには基準があり、ロシアと中国はそれを無視している。」と指摘した。

人権侵害国に居場所はない

国連加盟国は、最悪の人権侵害国は人権擁護機関にふさわしくないことを世界に示すべきだ、と彼は主張した。

Farhan Haq, UN Deputy Spokesperson. Photo: UN
Farhan Haq, UN Deputy Spokesperson. Photo: UN

国連のファルハン・ハク副報道官は、中国の人権理事会理事国選出を巡る論争について問われ、「人権理事会に参加しているすべての国々は、自国の人権を評価するために自国の記録を公開する義務を負っている。完璧な人権状況の国など存在しないのは確かだが、それぞれの国で人権状況を向上させることができるこうした評価を経ることに前向きになってもらう必要がある。したがって、加盟国によって人権理事会に選出されたすべての国はそこにいる権利を得たということだ。人権理事会にいる間は人権を尊重する姿勢を示し、実証する必要がある。」と語った

「国際人権サービス」(ISHR)は10月10日の声明で「ロシアは、どのように努力をしたとしても、人権理事会での地位を停止されてから1年となる来年1月に理事会に戻ることはないだろう。国連総会の加盟国が、2024年から26年までの間に理事となる15カ国のうちのひとつにロシアを選ばなかったことを喜ばしく思う。」と述べた。

この投票によって、各国は総会決議60/251に沿った投票を行い、国際人権システムを弱体化させようとするロシアの大胆な試みを阻止した。」と、ISHRニューヨーク事務所の共同責任者であるマデリーン・シンクレアは語った。

「ロシアは、ウクライナにおける数々の犯罪と、国内での市民社会や個人の自由に対する冷酷で長期にわたる弾圧について説明する責任がある。国連の最高人権機関においてロシアに場所を与えないと国連加盟国が合意したことに安堵している。」とシンクレアは語った。

10月10日、国連総会は人権理事会の15の構成国を選出した。票数は以下のとおり。

4席あったアフリカでは、ブルンジ(168票)、コートジボワール(181票)、ガーナ(179票)、マラウィ(182票)が選出された。

アジア太平洋諸国では、中国が154票、他にインドネシア(186票)、日本(175票)、クウェート(183票)。

東欧諸国ではアルバニアが123票、ブルガリアが160票を獲得した。ロシア連邦は83票で、選出されなかった。

ラテンアメリカ・カリブ地域では、144票を得たブラジル、キューバ(146票)、ドミニカ共和国(137票)で3席が埋まった。ペルーは108票で選外となった。

西欧・その他の2席は、153票を集めたフランスと、169票を得たオランダとなった。

今回選出された15カ国は、2024年1月1日から26年12月までの3年間が任期となる。

「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のシャルボノーは、アジア地域では中国が最も少ない票数で選出された事実を指摘した。

「もしアジアでのみ競争が行われていたら、中国は勝てなかっただろう。それこそが起こるべきことだった。国連の選挙で競争が行われることの重要性を示している。」

一方、総会決議60/251の第7項に従い、理事会は47の加盟国で構成され、国連加盟国の過半数による無記名投票で直接かつ個別に選出される。

47の構成国は「平等な地理的配分」を基礎とし、議席は各地域に次のように配分されている。

アフリカ:13

ラテンアメリカ・カリブ地域:(8)

東欧:6

西欧・その他:7

任期は3年で、二期連続務めたら次期には立候補できない。

国連総会決議60/251及び65/281と決定75/402に従って、人権理事会構成国の任期は1月1日に始まることになっている。(原文へ

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パキスタンのキリスト教徒 :闘争と差別の影にある少数派

【ロンドンINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

アスラム(60歳)は、パンジャブ州の州都ラホールに住むキリスト教徒の衛生職員である。彼はパキスタンの人口の2%にも満たないコミュニティーに属しているが、国内のゴミ収集人や清掃人の80%を占めていると推定されている。この職業は社会的に卑しいものとされ、この仕事に携わるキリスト教徒はしばしば「チュラ」と呼ばれる。このレッテルは社会的認識に根付いているため、より良い仕事に就いているキリスト教徒でさえ、未だに「チュラ」と見られている。

アスラムは正式な教育を受けたことがなく、両親も4人の子供たちもそうだった。これはパキスタンの多くの貧しい家庭に共通する状況で、彼らは生きていくために幼いうちから子供たちを働きに出さねばならない。正義と平和のための国家委員会の報告書によれば、パキスタンのキリスト教徒の識字率は、全国平均の45.56%に対し、僅か34%である。ラホールには、英国統治時代にキリスト教宣教師によって設立された教育機関が数多くあることを考えると、これは驚くべきことである。

これらの教育機関はパキスタン独立後も長年にわたって質の高い教育を提供し、現在もキリスト教コミュニティーによって運営されている。このような教育機関があれば、ラホールのキリスト教徒の識字率も向上しただろうと予想されるが、そうではないようだ。

苦難や差別に直面しているにもかかわらず、アスラムは謙虚で明るい人物だ。人生を前向きにとらえ、自分の仕事に誇りを持っている。アスラムがゴミを集めに家を訪れると、人々は敬意を持って接してくれるという。「コップ一杯の水を頼むと、甘い飲み物をくれるんだ」と彼は笑顔で語った。

しかし、社会におけるキリスト教徒に対する人々の一般的な態度について尋ねると、一転して慎重で深刻な面持ちとなった。アスラムは、国内でキリスト教徒に対する暴力が増加していることは認識しているという。特に今年8月、イスラム教徒の暴徒がキリスト教徒の教会や企業、家を襲撃したジャランワラ事件を懸念していた。暴徒は冒とく疑惑に激怒し、26の教会とキリスト教徒の所有する多くの家屋に放火した。アスラムはこの事件で幸運にも家族に被害はなかったが、暴徒がジャランワラの平和なキリスト教徒社会に与えた破壊と恐怖について語った。

この問題について別の視点を得るために、私は教育を受けたキリスト教徒の青年に取材した。彼は24歳で、医学の学位を取得したばかりで、現在は国際試験の勉強をしている。彼の両親はともに教育を受け、現役で働いている。

職場や社会団体、教育機関などで差別を受けたことがあるかという質問に対して、彼は「そういった場ではあまり差別を受けたことはない。」と答えた。

パキスタンにおけるキリスト教徒の苦悩は何かという質問には、かなり間を置いてから答えた。彼は厳粛な面持ちでパキスタンでキリスト教徒であることは厄介な問題だと続けた。この国ではキリスト教徒は常に誰かを怒らせないように注意する必要があり、宗教的な観点からだけでなく、とかく小さな意見の相違がエスカレートして危険なものになりかねないからだ。彼はまた、誰とも宗教の話をしないようにと両親から忠告を受けていることを打ち明けた。彼は、パキスタンのマイノリティは非常に賢く、誰と何を話すかを注意深く選ばなければならないという意見で、「経済的にも精神的にも満足するには海外に移住するしかない。」と強調した。

次の質問は、国内のキリスト教徒の全体的な地位について満足しているかというものだった。彼は、自分自身は医学生であり、懸命に努力してそこまで来たし、他の人々と同じような機会もあったと語った。彼は、キリスト教徒の現状を他人のせいにはしなかった。彼は、キリスト教コミュニティーの人々が、平等な機会と広大なミッションスクールのネットワークを持っているにもかかわらず、学校に行き学位を取得することに熱心でないことに失望しているようだった。

Map of Pakistan. Wikimedia Commons

この特定のコミュニティーに対する教会襲撃やその他の暴力行為についての質問に入る前に、問題をよりよく理解するために背景を知っておくことは有益だろう。冒涜法はイギリスによって導入され、1860年から存在している。パキスタンはこれらの法律を継承し、1980年から86年にかけて、国を根本的にイスラム化しようとする試みの中で、これらの法律をより厳しくした。預言者ムハンマドを冒涜した場合、死刑または無期懲役に処するという条項が上記の法律に挿入された。

この若い医師は、自分のコミュニティに対する暴力の高まりのせいで、パキスタンではとても安全だとは感じられないと認めた。彼はまた、2015年に彼の親族が爆撃されたユハナバードの教会にいたと語った。彼は、「教会への攻撃について議論したわけではないが、罪のない人々が公正な裁判を受けずに殺されるのは苦痛だ。」と主張した。「誰かがイスラム教に無礼を働けば罰則があるが、誰かが他の宗教に無礼を働いても罰則はない。彼はまた、親しいキリスト教徒の友人が神を冒涜した罪で不当に拘束されたが、幸運にも、彼を保証する教授と一緒にいたため無罪となった出来事についても話してくれた。

その若いキリスト教徒はまた、強制改宗が何度もあり、イスラム教徒になるよう迫られたこともあったが、それを断ったことも明かしてくれた。

キリスト教徒は、家や通りの清掃から新しい世代の教育まで、パキスタンの社会基盤に多くの貢献をしてきた。彼らの奉仕と権利は、社会と国家によって認められ、尊重されるべきである。もし彼らがますます脆弱で不安定になっていると感じるなら、それは緊急に対処すべき深刻な問題の兆候である。(原文へ

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エジプトにおけるパレスチナ難民の複雑な力学: 微妙なバランス感覚

【ニューヨークINPS Japan/ATN=アハメド・ファティ】

難民の苦境が続くなか、エジプト政府がガザ地区からの難民受け入れに消極的な問題は慎重に検討すべき点である。表面的には、エジプトが躊躇するのは、①難民受け入れに伴う経済的な課題、②シナイ半島北部におけるハマスのテロ活動に対する懸念、③ムスリム同胞団との歴史的なつながりなどが複合的に絡み合っているためと考えられる。エジプトの姿勢をよりよく理解するためには、ヨルダン、レバノン、チュニジア、クウェートなど近隣諸国におけるパレスチナ難民の複雑な歴史を掘り下げ、彼らの行動がエジプトの立場にどのような影響を与えてきたかを知る必要がある。

エジプトの厳しい経済状況

エジプトが難民の受け入れに消極的であることを理解するためには、同国が現在も経済的に苦境にあることを認識する必要がある。多くの人口を抱え、限られた資源しかないエジプトは、高い失業率や広範な貧困といった多くの課題に直面している。ガザからのパレスチナ難民の流入は、間違いなくすでに限られた資源を圧迫し、エジプト政府にとって困難な課題となるだろう。そのため、特に経済が不安定な今、政府は自国民の安寧を優先せざるを得ない。

シナイ半島北部におけるハマスのテロ関与

パレスチナの政治・軍事組織ハマスがガザ地区で大きな存在感を示している。ガザ地区の正当な政府として国際的な承認を得ているが、テロとの関連から、依然として論争の的となっている。エジプトは政情不安が続くシナイ半島北部で長年テロと反乱に悩まされてきた。ハマスがこの地域の過激派グループを支援しているという指摘もあり、問題はさらに複雑になっている。この地域の治安と安定に対するエジプト政府の懸念は、この地の複雑な勢力図を考えれば本物である。

ムスリム同胞団との歴史的関係

エジプトでは、政治的・宗教的に大きな影響力を持つムスリム同胞団と長く複雑な歴史がある。ムスリム同胞団は、エジプト国内で勢力を拡大した時期もあれば、弾圧された時期もあった。ムスリム同胞団とイデオロギー的なルーツを共有するハマスが、問題をさらに複雑にしている。エジプト政府は、ハマスやムスリム同胞団との複雑な関係をうまく調整しながら、国内の治安を維持するという微妙なバランスをとらなければならない。

歴史的な前例

エジプトの消極的な姿勢をよりよく理解するためには、近隣諸国のパレスチナ難民の歴史も検証する必要がある。

ヨルダン:黒い九月事件(虐殺)

1970年代初頭、ヨルダンはパレスチナ解放機構(PLO)がヨルダン政府と衝突した「黒い9月」と呼ばれる激動の時代を経験した。この紛争は深刻な内紛を引き起こし、パレスチナ人戦闘員の国外追放を促した。ヨルダンの歴史におけるこの悲劇的な章は、パレスチナ難民の統合をめぐる複雑さを思い起こさせるものである。

レバノン:内戦へのパレスチナ人の関与

1975年に勃発したレバノン内戦では、パレスチナ難民キャンプが戦場となった。パレスチナ人諸派が紛争に深く関与し、彼らの存在がすでに不安定だった状況を悪化させた。レバノン内戦は、相当数の難民が内戦に巻き込まれた場合に起こりうる事態を端的に示す例となった。

チュニジア:治安リスクとアブ・ジハード暗殺事件

チュニジアにおけるパレスチナ難民の存在は、事件と無縁ではなかった。1988年、PLO幹部のアブ・ジハードがチュニスで暗殺された。この事件は、著名なパレスチナ人の受け入れに伴う潜在的な安全保障上のリスクを示した。この事件は、難民が国際紛争に巻き込まれた際に各国が直面する課題を浮き彫りにした。

クウェート:サダム・フセインの侵攻に対するパレスチナの支援

パレスチナとクウェートの関係で最も重要な出来事のひとつは、1990年のサダム・フセインのクウェート侵攻に対するPLOの支援である。この支持によって、40万人近いパレスチナ人がクウェートから追放された。このスタンスによる結果は、この地域におけるパレスチナ難民の認識に影響を与え続けている。

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

このような歴史的事例に照らせば、エジプトがパレスチナ難民に警戒心を示すのも理解できる。エジプトは、大規模なパレスチナ難民を受け入れる際に生じうる複雑な課題と潜在的な安全保障上のリスクを目の当たりにしてきた。

結論として、エジプトがガザ地区からの難民受け入れに消極的なのは、経済的な困難、シナイ半島北部における治安への懸念、近隣諸国におけるパレスチナ難民の歴史的背景など、多面的な問題が影響している。難民に対する思いやりと支援は不可欠な価値観であるが、パレスチナ難民を受け入れてきた国々の複雑な現実と過去の経験を考慮することも同様に極めて重要である。エジプトのアプローチは、人道的な懸念と自国の安全保障や経済的な課題との微妙なバランスを取りながら、このような広い文脈の中で見る必要がある。(原文へ

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「報道の自由」は重要だが、ピークは過ぎたのだろうか?(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

【トロントIPS=ファルハナ・ハクラーマン】

石油の市場最高値(ピーク)が最初に取り上げられ、次いでガス、金などがピークに達した。まるで、監禁されたスーパーマーケットでトイレットロールをパニック買いするように、世界は天然資源を使い果たしているかのようだ。しかし、私たちは今、「報道の自由」についてもすでにピークを過ぎているのか心配すべきなのだろうか。

私たちは既に下り坂を滑り降り、「報道の自由」がピークに達した瞬間がバックミラーに映っているということはないのだろうか?

国連総会が制定した「世界報道の自由デー」は、今年5月3日に30回目の誕生日を迎えた。

Farhana Haque Rahman

この重要な機関(=報道組織)の状態を測定することは厳密には科学的なものとはいえないが、パリを拠点とする非営利のメディア監視団体「国境なき記者団」(RSF)は毎年、徹底的な調査報告書(原文では「報道の自由」抑圧を病気に例えて「診断書」と表現している)を作成している。

世界中の「報道の自由」を苦しめている「病気」には共通項があるが、それぞれの地域や大陸で特有の兆候があるようだ。

特にアジアは憂慮すべき状況であり、筋金入りの独裁者が情報の絶対的支配権を争い、「国境なき記者団」が「報道の自由の劇的な劣化」と呼ぶものを行使しているという共通の特徴がある。中国とクーデター後のミャンマー軍事政権は世界最大のジャーナリスト投獄国である。タリバン政権下のアフガニスタンは残酷なまでに抑圧的だ。北朝鮮はまたもやランキングの後塵を拝している。

香港は、中国が強権的な国家安全法を施行したため、「国境なき記者団」のランキングで68位に後退した。ベトナムとシンガポールもメディアへの締め付けを強めている。

ザ・カシミール・タイムズのエグゼクティブ・エディターであるアヌラダ・バシン氏は、最近ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した記事の中で、彼の新聞は「(インドの)ナレンドラ・モディ首相の政策で活動の継続が難しいかもしれない。」と指摘したうえで、「モディ首相の抑圧的なメディア政策は、カシミールのジャーナリズムを破壊し、メディアを威圧して政府の代弁者として機能させ、約1300万人の人口を抱えるこの地域に情報の空白を作り出している。」と記した。

パキスタンは今年、「国境なき記者団」の世界報道の自由度指数で180カ国中157位にランクされた。同国は、1947年以来75年にわたる独立国家としての歴史の半分以上を軍が統治してきた。昨年の報告書では、反対の声を抑圧した世界の指導者のリストとともに、「国境なき記者団」はイムラン・カーン元首相を「報道の自由の捕食者」の一人として挙げた。

2018年に可決され、ジャーナリストや活動家などに適用されたバングラデシュのデジタルセキュリティ法に見られるように、抑圧は法律の体裁を纏っている。日刊紙「プロトム・アロ」のジャーナリストが拘束された2日後、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官はバングラデシュに対し、デジタルセキュリティ法の適用を直ちに停止するよう求めた。

アジアが冷酷で非人道的でありうるのに対し、一部のラテンアメリカ諸国では、無法と社会の分断により、ジャーナリストにとって最も危険な場所となっている。メキシコとハイチがその先頭を走っている。ジャーナリスト保護委員会によれば、2022年には少なくとも67人のジャーナリストとメディア関係者が殺害され、2021年に比べて50%近く増加した。ロイター・ジャーナリズム研究所が発表した調査によると、ラテンアメリカでは30~42人のメディア関係者が殉職している。

メキシコのシウダー・ファレスにある調査報道機関「ラ・ベルダッド・ファレス」の共同設立者であるジャーナリストのロシオ・ガジェゴス氏は、状況は絶望的で複雑であり、暴力が起こりやすい状況が拡大しているだけでなく、ジャーナリストやジャーナリズムに対する社会からの支援が少なくなっている。」と語った。

ガジェゴス氏のような勇気ある記者や、ミャンマーの恐ろしい内戦を取材する地下市民ジャーナリストたちは、私たちを鼓舞し、「報道の自由」という理想の存続に希望を与えてくれている。

しかし、皮肉にも「報道の自由」の発祥の地である欧米で、自国の大企業やメディア王が率いるメディアの信頼性が恐ろしく毀損していることに、私たちは危機感を感じざるを得ない。

2020年の米国大統領選挙の結果をめぐり、フォックス・ニュース(その他)が意図的に陰謀説を垂れ流したことは、ドミニオン・ヴォーティング・システムズが起こした名誉毀損訴訟で明らかになった。フォックスは7億8700万ドルの損害賠償で和解した。周知のように、その嘘は些細なものではなかった。2021年1月、ドナルド・トランプ支持者の暴徒が連邦議会議事堂を襲撃した結果、5人が死亡した。

民主主義国家が繁栄するためには真実を伝えるメディアが必要だが、多くのメディアが92歳のルパート・マードック氏とその一族の後継者争いに焦点を当てたのは、そうでなかったことを物語っていた。

フォックス・ニュースは、事実が陰謀の邪魔をしない、パフォーマンス・メディアという劇場における究極のメインストリーム・プレイヤーであり、おそらく今後もそうあり続けるだろう。

最近のバズフィードのニュース部門(ピューリッツァー賞受賞)の消滅も、ひとつの時代の終わりを告げるものと見ることができる。 創設者のジョナ・ペレッティ氏が、質の高いオンラインニュースには持続可能なビジネスモデルが存在しないかもしれないと指摘したことは警鐘ととらえるべきだろう。

ソーシャルメディア・プラットフォームが陰謀論や国家による偽情報の曖昧な坩堝となっているこの潜在的に有害な組み合わせに加え、私たちは今、ChatGPTという破壊的な新時代と向き合わなければならない。

西側諸国における報道の分極化と、超大国間の紛争における報道の武器化は、非常に有害な傾向である。ロシアによるウォール・ストリート・ジャーナル紙のエヴァン・ガーシュコビッチ記者の逮捕や、中国による台湾の出版社李燕河の拘束は最近の例である。2024年の米国大統領選挙でバイデンとトランプが再戦する可能性があり、中米関係の危険な悪化は、メディアの分極化と武器化の両方を悪化させる恐れがある。

Press freedom watchdogs say the arrest of Wall Street Journal reporter Evan Gershkovich is a sign of the Kremlin’s greater intolerance of independent voices.
Press freedom watchdogs say the arrest of Wall Street Journal reporter Evan Gershkovich is a sign of the Kremlin’s greater intolerance of independent voices.

石油のピークについては、世界はすでにその時点を過ぎている可能性があり、経済学者たちは化石燃料の需要が頂点に達したのが2019年かどうかを議論している。この歴史的な転換には多くの理由があるが、とりわけ再生可能エネルギーなどの代替エネルギーが安価になってきていることが挙げられる。

しかし、自由で健全な社会の活力源である自由で健全な報道機関に代わるものは何だろうか。その代わりが私たちの周りにあることは明らかだが、それは良いものではなさそうだ。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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【国連IDN=タリフ・ディーン

包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を取り消すとの10月18日のロシア議会の決定に対する厳しい批判が集まっている。

潘基文元国連事務総長は、ロシア議会によるCTBT批准取り消しの決定直後に出した声明の中で、「これによって国際的な軍備管理枠組みはさらに損なわれ、核実験に対する世界的なタブーが破られる危険が高まった。困惑している。」と語った。

Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

「私は、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会の元委員長として、CTBTの締約国となっていないロシアやその他6つの核保有国に対して、核実験再開への措置を採ることのないように求める。」

「国際的な緊張が強まり、核紛争の脅威が高まっている時代にあって、核保有国のすべての指導者は対話と関与を促進しなくてはならない。」

「これこそが核のリスクを管理し、グローバル規範のさらなる劣化を防ぐ唯一の手段だ。」と潘氏は述べた。同氏は現在、故ネルソン・マンデラ氏が2007年に創設し、年長の政治家、平和活動家、人権擁護者であった公人の国際的な非政府組織である「ザ・エルダーズ」の副議長を務めている。

国際通信社ロイターは10月6日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核実験再開の可能性を示し、CTBT批准の取り消しへと速やかに向かうことを示唆したと報じた。

プーチン大統領は、それによって自身が核のボタンを押すことになる条件を示した核のドクトリンに変更の必要を認めないが、核実験再開の必要があるかどうかについて今のところコメントできないと述べたとされる。

プーチン大統領は、「米国はCTBTに署名しながら批准していないのだから、ロシアは同条約の批准を取り消すことになるかもしれない。」と語った。

ニューヨーク・タイムズの10月8日付紙面では、プーチン大統領が、ロシアは原子力推進巡航ミサイルの実験に成功したと述べる一方で、CTBT批准を取り消す可能性をちらつかせていると報じた。

他方、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、CTBT批准を取り消したロシア議会の法案は、条約の検証体制や履行機関との協力に関する条項を盛り込んでいる、と指摘した。

ICAN
ICAN

同法は、条約を批准した2000年の国内法の第1条を廃止した。2000年法は、CTBTを批准し、国際監視システムやCTBTOとの協力を規定したものだ。

1996年に採択されたCTBTはすべての核実験を禁止する初の国際法だ。条約は署名国187、批准国178を数えるが、その批准が条約発効の条件となっている国のうち8カ国(中国・北朝鮮・エジプト・インド・イラン・イスラエル・パキスタン・米国)が未批准のため、未だ発効していない。

ICANのメリッサ・パーク事務局長はロシアの動きを批判してこう述べた。「ロシアは今すぐに無責任な決定を取り消すべきだ。CTBTや核兵器禁止条約を含めた国際条約は、人々の健康を破壊し永続的な放射能汚染をまき散らしてきた核実験が再開されないためにきわめて重要な役割を果たしている。ロシアは、CTBTへのコミットメントを取り戻し、CTBTや核禁条約に参加していない国は緊急に参加すべきであると訴えたい。」

米国のやり方を模倣する

ICANは、ロシア議会の動きは、同国のウラジーミル・プーチン大統領がCTBT脱退を示唆した直後になされたと指摘した。プーチン大統領は10月6日、CTBTに関連して、「米国のやり方を模倣すること」が望ましいとの見解を示していた。米国は条約に署名しているが批准していない。こうしてロシアは条約批准を取り消した。

Vladimir Putin. Photo: ЕРА
Vladimir Putin. Photo: ЕРА

プーチン大統領はさらに「これはドゥーマ(ロシア下院)が決めることだ。理論的には批准取り消しもありえる。」と述べていた。

10月9日、ドゥーマの国際関係委員会は、外務省と連絡を取ってCTBT批准取り消しの問題を検討するよう要請されていた。

ICANによれば、ロシアには、ウィーン条約法条約第18条に従って、条約署名国としてCTBTの目標及び目的を損なうような行動を慎む責任が依然としてある。

「核実験は世界中で、人間や環境に壊滅的な影響をもたらしてきた。旧ソ連が北極圏や東欧、アジアで行ってきた数百回に及ぶ核実験は、医療・心理・社会経済的なトラウマを引き起こし、多くの先住民族を居住地から追い出し、放射能で環境を汚染し数世代に及ぶ悪影響を残してきた。」とICANは述べている。(原文へ

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国連人権理事会が任命した専門家グループは、イランで審議中の、公の場でスカーフ(ヒジャブ)を着用しない女性や少女に新たな処罰を科す新法案に重大な懸念を表明した。「この法案は、ジェンダー・アパルトヘイトの一形態と言える。当局は、女性と女児を完全に服従させるために抑圧することを意図し、体系的な差別によって統治しているように見えるからだ」と、独立専門家らは9月1日付の声明で語った。

【ニューヨークIPS=サナム・ナラギ・アンダーリニ】

9月16日、イランの悪名高い「道徳警察」によって殺害されたマフサ・アミニの1周忌を、イラン中の人々が記念した。ヒジャブを適切に被っていなかったという理由で逮捕された22歳のアミ二は、激しく殴打され、脳を損傷して死亡した。この暴力と、政権による犯罪の隠蔽に対して、イランの女性や少女たちの40年来の鬱積した怒りが爆発した。イラン全土の都市や町で抗議行動が起こった。これまで女性が直面する日常的な屈辱や制度的な差別に対して共感することが少なかった老若男女までが抗議行動に参加した。またアミニがクルド人であったことから、イランのクルド人、バルチ人、その他の少数民族の間でも抗議行動が広がっていった。抗議者たちの画像がソーシャルメディアに溢れ、#WomenLifeFreedom(WLF)運動が生まれた。政権が取り締まりを強化し、500人以上が殺害され、無数の人々がレイプされ、負傷し、脅迫されるなか、イランの若者たちの世界へのメッセージは「私はみんなの声になる。(be our voice)」というものだった。この運動は世界的な反響を呼んだ。

Guidance Patrol Credit: Fars Media Corporation, CC BY 4.0
Guidance Patrol Credit: Fars Media Corporation, CC BY 4.0

1年経った現在、その犠牲と命に見合うものはあるのだろうか?

イランにおける市民的不服従:灰の下の火種

この記念日に大規模なデモが行われることを予期して、政権は人々を一網打尽にし、さらに多くのデモ参加者を殺害し、主要都市に治安部隊を配備した。国会議員たちは、過酷なヒジャブ規則と刑罰をさらに強化する新たな法案を通過させると脅迫した。政治的には、政権内に強硬な保守派と穏健な改革派間の対立軸があったが、政権自体の存亡を揺るがす事態に直面して、両派は接近し団結を強めている。経済的には、経済制裁と内部腐敗が混在した結果、革命防衛隊が民間部門の多くを独占している。治安面では、旧来型の治安要員と最新の監視・顔認識技術を織り交ぜて、国家による監視体制を強化している。しかし、国内の民衆から自らの正統性が問われる危機に直面した指導部は、外部からの支援も求めた。

今回は、イランの長年の宿敵であるサウジアラビアが、救世主となった。中国が仲介したこの和解によって、イラン政権は面目を保ち、注意を東へと向けられるようになった。

しかし、これによってイランのZ世代が抑止されることはない。昨年の激しい弾圧は、結果的に大きな後退をもたらした。テヘランからマシュハド、そして様々な地域で、多くの女性がもはや強制的なヒジャブの着用をやめている。ペルシャの諺(ことわざ)にあるように、WLF運動は灰の下で燃える火種のようなものだ。灰の下にある 政権の手口を知っている若者たちは、新たな戦術を編み出した。最近テヘランを訪れた人は、この記念日の数週間前から、若い女性たちが人々に連帯のための服装を勧めるチラシを配っていたことを指摘した。女性は白いTシャツにジーンズ、男性はボタンダウンシャツにカーゴショーツ。このような無抵抗主義的な市民的不服従戦術はリスクが低く、参加者も多い。

音楽家、芸術家、学生、映画監督、作家、詩人、さらにはシェフまでもが政権によって逮捕されたことは、政権が実存的な恐怖を示していることをイラン人は知っている。10歳の少女がハメネイ師の写真を破り、小学生が抗議歌を歌うなど、イラン国内で起きている世代間の地殻変動は否定できない。それは、より大きな自由、近代化、男女平等へのシフトである。それは単なる「ボトムアップ」の革命ではない。イランで最も影響力のある保守的な人物の家庭に根を下ろした、急進的な社会進化なのだ。単刀直入に言えば、イランをイデオロギー的なイスラム主義社会に変えようとした彼らの試みが、自分たちの子どもや孫、少女、少年たちとともに失敗したことを、政権の指導者たちは知っているのだ。これは重要な政治的、社会的、そしてイデオロギー的に象徴的な勝利であり、誰も過小評価してはならない。

イラン人ディアスポラの良い点、悪い点、そして醜い点

「私はみんなの声になる。」という呼びかけは、世界各地のイラン人ディアスポラ(元の国家や民族の居住地を離れて暮らす国民や民族の集団ないしコミュニティー)の間にかつてない反響を呼び起こした。心に傷を負い、互いに不信感を抱き、政治的関与を嫌うという特徴を持つコミュニティーが、突然活気づき、声を上げ、ロサンゼルスの路上から欧州議会の廊下まで、政治的な力を発揮したのである。当然のことながら、亡命した一部の政治勢力は、この出来事を自分たちの政治的利益のために利用しようとした。また、政権に対抗するために連合を組もうとする勢力もあった。

感情的で認知的な不協和音があった。一般市民レベルでは、政権に対する鬱積した怒りが、異なる未来への希望と結びついて、ディアスポラがデモや政治活動に参加する原動力となった。しかし、希望と怒りだけでは十分ではない。イスラム政権への反対を共有することで団結した政治家たちは、この国に対する共通のビジョンや、それを達成するためのロードマップをめぐって意見が対立し、挫折した。君主主義者からムジャヘディン・エ・ハルク(MEK)に至るまで、これらの反対勢力は、イラン国内のWLF運動が持つZ世代的で本質的にフェミニスト的性質を受け入れるのではなく、古い戦術で1979年の革命を再現しているように見えることがあまりにも多かった。

事件から1年が経過したが、政治グループは分裂したままだ。しかし、より多くのディアスポラたちは、移住先で力を得て政界への影響力も増している。彼らの現在の課題は、国内のWLF運動を支援し、不用意に害を与えないような、慎重かつ責任ある選択をすることである。

世界は傍観者としての声援を送るが、主導権は私利私欲にある

Credit: Shervin Hajipour

世界はまた、「私はみんなの声になる。」という呼びかけに反応した。西側メディアは40年間にわたって、過激派、老いた怒れる聖職者、黒服の女性、核兵器といったステレオタイプに当てはめたイメージでイランを悪者扱いしてきた。インスタグラムにアップされた、スカーフを振り、歌い、踊る、笑顔で反抗的なイランの十代の若者たちの姿は、世界中の同世代の若者たちに酷似していた。彼女らが逮捕され、暗殺されたというニュースは、より大きな怒りを呼び起こした。大学生、アーティスト、ロックスター、映画スターたちは、髪を切り、声を上げることで連帯を示した。急成長する革命の応援歌である「バライエ(…のために)」が醸し出す感情的なパワーは、現代では稀なレベルの幅広い共感を生んだ。

しかし、国際社会からの注目は厳しい政治的現実を伴っていた。米国、カナダ、欧州のの政治家たちの「心からの支持」は、実態はほとんどが単なる美辞麗句にすぎなかった。西側諸国の優先事項は、イランの核開発を封じ込めることであり、この問題で介入する意思はなかったのである。その理由は理解できる: 一方では、核武装したイランの体制は永遠に存続し続ける。他方、イスラエルは一貫して、イランが核武装を果たすのを待つつもりはないと警告してきた。先制攻撃を行うだろう。つまり地政学的には、壊滅的な戦争の脅威と、それに伴う得体の知れない混乱と人間の苦しみが、イランの若者の運命と表裏一体なのである。

地域的にも、意見の相違はあるにせよ、アラブ諸国は、諺にある通り、「革命が引き起こしかねない権力の空白という不確実性よりも、自分たちが知っている悪魔を好む。」

サウジアラビア政権とその代理人たちは、今回の出来事において重要な役割を演じてきた。2015年にJCPOAに調印(=イラン核合意)し、2016年にサウジアラビアとイランの関係が断絶して以来、彼らは民族グループの武装蜂起を支援し、欧州と北米全域でムジャヘディン・エ・ハルク(MEK)への政治的アクセスを可能にしてきた。サウジアラビアの民間資金は、衛星テレビチャンネル「イラン・インターナショナル」を強化し、パーレヴィ国王へのノスタルジーと反JCPOAメッセージをイランの家庭に放送することを可能にした。イラン・インターナショナルは、WLFの抗議活動を伝える主要チャンネルでもあった。

しかしサウジアラビアは、イランの政権の崩壊や混乱にも、独立した強力なイランの民主主義、特に女性主導のフェミニズムにも関心がなかった。彼らの理想のシナリオは、サウジアラビアの支援を必要とする弱体化したイラン政権だった。これがまさに彼らが手に入れたものだ。

一方、イラン政権は、民主主義勢力の衰退と権威主義の台頭から利益を得ている。西側諸国から距離を置き、ロシアやBRICS諸国への忠誠を深めているのは、経済的な結びつきを強めて国内的な体制を強化することに賭けているのだ。この地域やBRICs諸国が女性の権利について懸念を表明する可能性は低い。

つまり、国際社会はイランの若者たちに同情はしても、彼らの側に立つことはないだろう。では、WLFはどうなるのか?

その答えはペルシャの詩にある。ひとつは「岩と泉」のたとえ話である。山から流れ落ちる雪解け水が岩にぶつかる。水滴は岩にどいてくれと頼む。岩は動こうとしない。やがて水はたまり、岩を侵食し、小川となり、やがて力強い「川」となる。イランの女性たち–祖母、母、そしていまや娘たち(そして息子たち)–は、何十年もの間、毎日、毎年、政権の女性差別と戦い、ヒジャブを少しずつ戻し、大学に通学者を増やし、法の下の平等を求めて戦ってきた。「私たちはイランにとどまり、イランを取り戻す」と彼女たちは叫び、亡命に追い込まれることを拒否している。

Credit: Page from a manuscript of Mantiq al-Tayr (Conference of the Birds)By Habiballah of Sava ca. 1610, Public Domain
Credit: Page from a manuscript of Mantiq al-Tayr (Conference of the Birds)By Habiballah of Sava ca. 1610, Public Domain

彼女たちには理想があるが、イデオロギーに流されることはない。内部から削り取ることで、革命や改革ではなく、進化と変革を促しているのだ。

WLFの指導権を主張しようとする亡命者たちについては、叙事詩の第10番『鳥の会議』を見直すべきだ。物語の通り、世界は争いに明け暮れていた。フーピー鳥はすべての鳥に呼びかけ、賢明な指導者である神話上の「シームルグ」を探す旅に出る。鳥たちは山や谷の上空を、吹雪や火の嵐や砂漠の中を飛び回る。ある者はあきらめ、ある者は挫折する。最終的に30羽が氷河湖のある最後の山頂にたどり着く。「シームルグはどこ?」と彼らは叫ぶ。「湖を覗き込めばわかる」とフーピーが答える。鳥たちは湖を覗き込み、自分たちが映った30羽の鳥(シームルグ)の顔を見る。リーダーシップは自分自身の中にあったのだ。

アミニの死から1年を経たイランでは、「川」が勢いを増している。厳しい時期が続くだろうが、数百万人がシームルグとして生まれつつある。(原文へ

サナム・ナラギ・アンダーリニは、MBE 国際市民社会行動ネットワーク(ICAN)創設者/CEO、コロンビア大学国際公共問題大学院非常勤教授。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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【コロンボIPS=ティサラネー・グナセカラ】

2013年にスリランカを訪問したナビ・ピレイ国連人権高等弁務官(当時)は、戦死者を追悼するために花輪を捧げたいと考えていた。「私は(どこの国であれ)訪問先の国で犠牲者を追悼したいと考えています。国軍兵士かタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)に関わらず、すべての犠牲者や家族を悼みたいのです。」とピレイ高等弁務官は説明した。

High Commissioner Navy Pillay at the 26th session of the Human Rights Council.
High Commissioner Navy Pillay at the 26th session of the Human Rights Council.

しかし、マヒンダ・ラジャパクサ政権(当時)はこれを拒否し、ピレイ高等弁務官に対する嘘のキャンペーンを開始した。「情報筋によれば、ピレイは当初、LTTEのテロリスト指導者ヴェルピライ・プラバカランに献花したいという希望を伝えていた。」とデイリーニュースが報じた。

ラジャパクサ兄弟は、LTTEを壊滅させた2009年の最後の攻勢は民間人の犠牲者を伴わない人道的なものであったとしている。政権側にとって民間人の犠牲を認めることは、LTTE側の論理に巻き込まれることに等しかった。従って「悼む」ことは犯罪であり、国軍を批判することは裏切り行為であり、この内戦の根本原因に言及することはLTTEの残虐行為を正当化することになりかねないという懸念があった。この「敵か味方か」の論理では、ピレイ女史がLTTEを「殺人組織」と非難したところで、政権側にとって何の意味もなさなかった。

ピレイ高等弁務官の要請は、国連機関や人道支援組織と同様、国際人道法(IHL)に基づいていた。IHLは、非戦闘員に対する攻撃の禁止や不必要な苦しみを与えることの禁止(比例性などの原則)を含む、正当な戦争遂行(jus in bello)の概念を前提としている。この内戦を主導したラジャパクサ兄弟はIHLの真逆を実践した。

ラジャン・フール教授が記しているように、「2006年以降、スリランカ政府は87年以降には考えられなかったようなことを始めた。激しい砲撃とタミル人住民の強制移住は、軍事戦略に不可欠なものとなった……(ヒマル-2009年2月)。最終的な攻撃を開始する前に、ラジャパクサ兄弟はすべての国連機関、国際NGO、メディアに戦闘区域からの退去を命じた。

Soundus, a young girl being treated in hospital for injuries from Israeli shelling of Gaza (August 2014). Credit: Khaled Alashqar/IPS
Soundus, a young girl being treated in hospital for injuries from Israeli shelling of Gaza (August 2014). Credit: Khaled Alashqar/IPS

2014年のガザ侵攻では、『エルサレム・ポスト』紙のベンヤミン・ネタニヤフ首相支持派のコラムニストが、イスラエルの首相に対し、スリランカの「断固とした軍事力行使」の前例に学び、ハマスに「ふさわしい大打撃」を与えるよう求めた。

今日、イスラエルはガザで全面戦争を展開している。この戦争では、これまでに3000人以上の子どもたちが殺害されている(15分に1人の割合で子どもが殺害されている)。セーブ・ザ・チルドレンによると、ガザで3週間に殺害された子どもの数は、過去4年間の世界的な紛争で殺害された子どもの数(2022年2985人、21年2515人、20年2674人)を上回っている。オックスファムは、イスラエルが飢餓を戦争の武器として使用していると非難している。国連は、ガザの飢餓と絶望が社会の崩壊につながると警告している。

イスラエルが安心するために、あるいは西側諸国がもう十分だと納得するために、パレスチナの子どもたちは何人死ななければならないのだろうか。ハマスによるイスラエル市民への攻撃は野蛮な行為だった。ガザの全住民に対するイスラエルの報復戦争も、それに劣らず野蛮である。国際刑事裁判所のカリム・カーン主任検察官が述べたように、「イスラエルでユダヤ人として生まれた子どもであろうと、ガザでキリスト教徒やイスラム教徒として生まれた子どもであろうと、彼らは子どもである。私たちは人道的な感覚を持つべきであり、彼らに対して正しく接する法的、倫理的、道徳的責任を負うべきなのだ。」

しかしハマスとその支持者にとってイスラエルの子どもたちが子どもでないように、イスラエルとその西側支援者にとって、パレスチナの子どもたちは子どもではないのだ。現実を見れば、ハマスもイスラエルも戦争犯罪を犯している。そして、国際人道法の守護者を自任する西側諸国は、イスラエルによる戦争犯罪を許容しているのだ。ガーディアン紙は、「アンソニー・ブリンケン米国務長官が、イスラエルのガザ空爆に関する『アルジャジーラの報道内容を穏便にするよう』カタール政府に要請するほど落ちぶれてた。」と報じている。

「正当な戦争遂行」の放棄がもたらす影響は、世界的かつ長期的なものになるだろう。世界は、戦争中であれば何でも許された時代に逆戻りしかねない。国連や国際人道組織はまったく無意味な存在になりかねない。法制度の信頼性は、その公正な適用にかかっている。法律が選択的に適用されれば、その正当性は失われる。ある法律は味方のために、別の法律は敵のために適用されるようになれば、世の中は弱肉強食の無法地帯(ジャングル)と化してしまう。

イスラエルが国際人道法(IHL)に違反することを黙認しつつ実際にそれを手助けすることによって、米国と西側諸国は完全な無法と不正の世界への扉を開いているのだ。彼らはテロリズムを終わらせるのではなく、より陰惨な形でテロリズムを産み出そうとしている。

第二次世界大戦中、連合国はホロコーストを阻止するために何もしなかった。軍事的価値のないドレスデンは爆撃されたが、アウシュビッツへの鉄道路線は爆撃されなかった。この文明の失敗から、「二度と繰り返すな(ネバー・アゲイン)」という叫びが生まれた。しかし、連邦議会議事堂近くの反戦デモに参加したユダヤ人参加者が言ったように、「ネバー・アゲインとは、誰にとっても二度と繰り返さないという意味だ。

世界はイスラエルとハマス、ロシアとウクライナに対して、国際人道法の公平な適用を必要としている。それができなければ、人類は、ほとんどの人間の生活が孤独で、厄介で、残忍だった時代に逆戻りすることになる。

地獄の連合

Map of the conflict area around the Gaza strip. Public Domain.
Map of the conflict area around the Gaza strip. Public Domain.

「コンセプション」とは、パレスチナ人を分断し弱体化させるためにハマスを利用するという、ネタニヤフ首相の数十年来の政策につけられた名称だ。2019年3月、リクード党のクネセット(国会)議員を前に、ハマスに好意を寄せカタールに資金提供を許可する根拠について、「パレスチナ国家に反対する者は誰でも、ガザへの資金提供を承認しなければならない。なぜなら、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府とガザのハマスを区別し続けることは、パレスチナ国家の樹立を妨げることになるからだ。」と説明した。

ハマスとは、ハラカト・アル・ムカワマ・アル・イスラミヤ(イスラム抵抗運動)の頭文字をとったもので、イスラエルの生存権を認めず、パレスチナの全土にイスラムのカリフ制を敷きたいと考えている。このような組織は、神権的で非多元主義的な大イスラエルというイスラエル右派自身の計画にとって、最高の口実となるだろう。

ヤイール・ゴラン退役将軍が指摘したように、ネタニヤフ首相は「パレスチナ自治政府が弱体である限り、ヨルダン川西岸地区を併合することが最善であるという全体的な認識を演出できる状況を作り出した。われわれは協力できるはずの組織を弱体化させ、ハマスの力を強めたのだ。」(『ニューヨーカー』誌2023年10月28日号)。これに基づき、武器がガザ国境から持ち去られ、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植者に渡されたと伝えられている。

ネタニヤフ首相の戦争がアラブ世界をハマスの温床に変えるのと同様に彼の構想は、ハマスの10月7日の攻撃につながる間接的な要因となった。パレスチナの哲学者サリ・ヌッセイベが言うように、「ハマスが異質な存在だと考えるのは間違いだ。他の要因によって大きくなったり小さくなったりする。ハマスを動かしている連中を排除することはできても、完全に排除することはできない。パレスチナとイスラエルの紛争がある限り、ハマスという存在はひとつの考え方、思想として残るだろう。」(同誌)。

オスロ合意がうまくいっていれば、独立した民主的なパレスチナ国家が存在していれば、ハマスが疎外されていたかもしれない。オスロ合意の大失敗と、その結果生じた平和的解決策への幻滅(西岸地区におけるファタハの無能で腐敗したやり方は言うまでもない)は、皮肉にもハマスへの支持を高める要因となった。ハマスの創設者であるシャイク・アフマド・ヤシンがかつて言ったように、「抑圧が強まると、人々は神を探し始める。」

イスラエル人入植者とイスラエル軍による低強度の暴力を用いて、ヨルダン川西岸を断片的に民族浄化する計画は、欧米の無関心を背景に続いている。人権弁護士ラジャ・シェハデが書いているように、オリーブ摘みのような日常的な活動でさえ、パレスチナ人のオリーブ摘み取りを攻撃し、彼らの土地に到達するのを妨げ、時には収穫物を盗むユダヤ人入植者によって政治化されている。

Israeli West Bank barrier near Mount Zion in 2009/ By Kyle Taylor from London, 84 Countries - Israel - Jerusalem - Mount Zion - 03, CC BY 2.0
Israeli West Bank barrier near Mount Zion in 2009/ By Kyle Taylor from London, 84 Countries – Israel – Jerusalem – Mount Zion – 03, CC BY 2.0

ヨルダン川西岸のデイル・イスティヤ村では、オリーブの収穫を終えて帰宅した人たちが、車のフロントガラスのワイパーの下に「ナクバ大祭を待て、さもなくば強制立ち退きだ」と書かれた通知を見つけたと、イスラエルのコラムニスト、ハガー・シェザフが10月27日付のハアレツ紙に寄稿している。

大イスラエルの追求は、パレスチナのキリスト教徒にとっても脅威である。ユダヤ入植者の中で拡大主義を信奉するものたちは、キリスト教徒がほとんど、あるいはまったく居場所のないユダヤ人国家の建設を望んでいる。2012年、過激派の入植者たちはラトルンのトラピスト修道院を襲撃し、ドアに火をつけ、壁にイエスは猿であるなどの反キリスト教的な落書きをした。エルサレムの十字架修道院も襲撃されている。

2012年にも、イスラエルの政治家マイケル・ベン・アリがクネセトで新約聖書を破り、忌まわしい書物だと非難した後、ゴミ箱に捨てた。もう一人の議員は聖書を燃やすことを望んだ。どちらも公式には承認されなかった。

聖地カストディアンのピエルバティスタ・ピザバラ神父が指摘したように、「イスラエル政府は、一部の超正統派ユダヤ人学校において、公衆の面前で出会った聖職者を罵倒することが教義上の義務であるとしている問題に対処していない。」

スリランカでも、政治僧、過激派政治家、退役軍人らが、民族的・宗教的緊張を煽るキャンペーンを激化させている。クルンディ寺院を巡る対立が政府によって無力化された今、これらの雑多な仏教徒右派勢力は、(イスラム教徒やヒンズー教徒が多い)バティカロアに焦点を移している。彼らは仏像さえも悪用し、紛争の武器や領土所有の目印として使っている。ドラマの端役で出演していたオマルペ・ソビタ・セローは、「バティカロアのような場所に仏像を置くことができないのなら、別の国が誕生したのだろうか。」と述べている。

ディウルパタナ・テレドラマの主役で悪名高いアンピティエ・スマナラタナ・テロは、明確な警告を発した。「国は憤り目覚めつつある……彼らはラニル・ウィクラマシンハ大統領やシャナキャム・ラサマンニカム議員、センティル・トンダマン知事に応える準備ができている。誰が大統領を選出したのか、タミル人がこのスリランカで伝統的な財産を持っているなど知ったことではない…これらの財産は2500年以上の歴史がありシンハラ人の伝統的な財産なのだ…。」

マヒンダ・ラジャパクサが大統領になり、タミル戦争が終結したとき、こうした過激勢力は権利を取り戻した……彼らはマイトリパラ・シリセナが大統領になったときに権利を失い、ゴタバヤ・ラジャパクサが大統領になったときに再び権利を取り戻し、ゴタバヤが追放されたときに再び権利を失った。ラサマンニカムのような政治家がこう叫ぶのは、ラニル・ウィクレマシンゲが政権を握ってからだ……」。政府が目をそらし、野党がこの問題を避けている間、こうした右派の僧侶や信徒たちは平然と過激な行動をしている。こうしたなか、穏健な人々は、過激な両勢力の板挟みになっている。

理性的な抵抗

 “Hands up! Don’t shoot!” signs displayed at Ferguson protests Photo: Jamelle Bouie, CC BY 2.0 Wikimedia Commons.

2014年、米国のファーガソンで警官が丸腰の10代の若者マイケル・ブラウンを射殺したとき、大規模な抗議デモが発生した。まるで戦場のように武装した警官に直面し、当時一部のデモ参加者は自分たちとガザの人々を比較した。多くのパレスチナ人は、実践的なアドバイスをツイートすることでこれに応えた(例えば、ヨルダン川西岸のマリアム・バルグーティは、「催涙ガスを浴びているときは、常に風に向かって走るように/冷静さを保つように、痛みは過ぎ去る、目をこすらないで」とツイートした)。アメリカのソーシャルメディアユーザーがファーガソンとガザを比較することに異議を唱えると、別のユーザーが「誰もファーガソンとガザを比較しようとはしていないと思う; 重要なのは連帯と正義だ。」とツイートした。

肝要なのは、ガザをはじめとするあらゆるパレスチナ人、人質、愛する人を失ったイスラエル人、イスラエルの爆撃で妻、娘、息子を殺されたパレスチナ人ジャーナリスト、ワエル・アル・ダフドゥー、ハマスに殺害されたドイツ系イスラエル人のタトゥー・アーティスト、シャニ・ルークの母親…立場に関わらずすべての犠牲者との連帯と正義だ。パレスチナ人との連帯が道徳的、政治的な力に成長するためには、ハマスに代表される暴力的で神権的なパラダイムから脱却する必要がある。その拠り所はイスラムでもアラブでもなく、グローバルなものであるべきだ。

問題なのは、暴力的抵抗をする権利ではなく、その有効性である。アラブやイスラムの指導者たちは、イスラエルを非難することはあっても、同国との国交を停止することはおろか、たとえガザ全土が廃墟と化しパレスチナ人が瓦礫の下で殲滅されたとしても、イスラエルに対して戦争を仕掛けることさえしないだろう。現状を脱する唯一の道は、ベトナムから南アフリカまで、かつての民族解放運動が実践してきたように、(非暴力的な手段で)国際社会において道徳的優位を獲得することだ。

イスラエルへの抵抗が、ハマスとその同じく忌むべき暴力によって支配されているのであれば、イスラエルの政策と行動に嫌悪感を示すことはできない。大イスラエル化計画を支持することなくイスラエルの生存権を支持することが可能であるように、野蛮の深みにはまることなくイスラエルの占領と拡張に抵抗することは可能である。その根本的に穏健な道を見つけるために、パレスチナがなすべきことは、自らの歴史を振り返ることだ。

ヨルダンと聖地のルーテル教会の名誉司教であるパレスチナ人の聖職者ムニブ・ユナンは先月、「私たちはずっとユダヤ人とともに生きてきた。ユダヤ人は欧州で迫害されたが、パレスチナでは迫害されなかった。反ユダヤ主義は欧州で作り上げられたものだ。」と指摘した。反ユダヤ主義を容認することは、イスラエルによる殺人的な攻撃を前にしても、道徳的に間違っており、戦略的にも逆効果である。スリランカにおけるタミル人の闘争が過激主義に屈していなかったら、LTTEがシンハラ人やイスラム教徒の市民やタミル人批評家を標的にしなかったら、完全な敗北を喫することはなかっただろう。

10月7日のテロが起きている間、ハマスはヨルダン川西岸のパレスチナ人に対し、イスラエルの入植者たちに対して暴力的に立ち上がるよう呼びかけた。ヨルダン川西岸のパレスチナ人は、その致命的な呼びかけに耳を傾けることを拒否した。イスラエル国外、そしてイスラエル国内においても、一部のユダヤ人はガザでの停戦を求める世界的な声の高まりに賛同している。

先週、「平和のためのユダヤの声」NYのメンバーである数百人のユダヤ人を中心としたデモ隊が、グランド・セントラル駅のメインホールを占拠し、ガザ空爆に抗議し、「パレスチナ人は自由になる」と叫んだ。若いデモ参加者の一人が語ったこの言葉は、迫りくる暴力的な無法のジャングルから抜け出す道を垣間見せてくれる: 死者を悼め。そして生者のために必死に戦え。原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

ティサラネー・グナセカラはコロンボを拠点とするスリランカの政治評論家。

*INPS Japanでは、ガザ紛争のように複雑な背景を持つ現在進行中の戦争を分析するにあたって、当事国を含む様々な国の記者や国際機関の専門家らによる視点を紹介しています。

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│パレスチナ│映画│ある街の「非武装の勇気」