【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス 】
新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより、ソーシャルネットワークやインターネットをプラットフォームとした人身売買が増加していると、国連薬物犯罪事務所(UNODA)「人身売買に関する世界報告」の主執筆者であるファブリッシオ・サリカ氏はIDNの取材に対して語った。
サリカ氏は、国連総会が2010年の人身売買と闘う世界行動計画を通じて義務付けた7番目の報告書である、2022年「人身売買に関する世界報告」 の顕著な側面を強調した。
2023年1月24日に発行されたこの報告書は、141カ国を対象とし、2018年から21年の間に検知された人身売買の事例を分析することにより、世界、地域、国レベルでの人身売買への対応を概観している。今回の報告書は、UNODCが2003年にデータの収集を開始して以来、過去の傾向と比較して重要な変化を示している事件と有罪判決の傾向に主な焦点を当てている。
Image: Enlarged and cropped image on Cover of 2016 UNODC Global Report on Trafficking in Persons.
「仮想世界で起こることはすべて、現実世界の出来事に反映されます。人身売買業者が被害者をリクルートするために使う新しい手段があるだけです。彼らは狩りのテクニックを使い、ソーシャルネットワーク上のプロフィールを次々と見て回り、潜在的に弱い立場の被害者を見つけます。若い世代は何でも公表する傾向があるので、ハンターはインターネットやソーシャルネットワークを利用して、被害者の身元やプロフィールを確認するのです。」とUNODCの人身売買の専門家は説明した。
「例えば、インターネットを利用して、若い女の子で、とても魅力的で、同時に彼女が人生で経験している段階を判断することが可能です。こうしてプロフィールチェックを行い、ターゲットになりそうな女性を特定し、被害者候補と親交を深め、勧誘を始めるのです。そうすると、「直接会おう、私の国に来ないか。」と勧誘がオフラインになる可能性があります。そして、実際に会うことでいろいろと搾取されるのです。しかし、インターネットのプラットフォームが、業者間による被害者の売買や、犯罪ネットワーク間のコミュニケーションに利用されるケースもあります。」とサリカ氏は指摘した。
また、ウェブカメラの前で子どもが直接性的搾取を受けるケースもある。研究者によると、これも人身売買の道具として使われることが多くなっている。人身売買業者の立場からすれば、こうしたIT機器は商業的に都合がよいものとなっている。
「ウェブカメラの前に被害者がいれば、世界各地の何百万人もの顧客が同時に一人の被害者を搾取することができるし、その画像を何度も再利用することができるので、犯罪者の立場からすれば、とても儲かる仕組みと言えるのです。」
女性や子どもはより暴力的な搾取に直面している
2020年に発見された被害者のうち、女性の被害者(女性・少女)は全体の60%を占めている。性的搾取の摘発が著しく減少したことにより、人口10万人あたりの女性被害者数が減少している(1年間で11%の減少)。
この減少にもかかわらず、女性や少女は、男性や少年よりも多くの人身売買の被害者を構成している。しかし、より多くの男性被害者が特定される傾向は2020年に加速したようだ。UNODCが収集したケースサマリーの分析によると、人身売買業者は女性や子どもの被害者、特に少女に対してより多くの暴力を行使することが示唆されている。
これらのケースに記載されているあらゆる年齢の女性被害者は、人身売買の際に身体的または極度の暴力(性的暴力を含む)を受ける可能性が男性の3倍も高い。同じデータセットによると、子ども(女の子と男の子)は大人(男性と女性)より1.7倍、女の子は大人の女性より1.5倍、身体的または極端な暴力に遭う可能性が高いことが示されている。これは、関与する犯罪の種類や搾取の形態にかかわらず、被害者のすべての出身地域のケースに共通して言えることである。
より多くの不処罰=より多くの犠牲者
有罪判決を受けた人身売買組織は、多くの場合、ビジネスタイプの取り決めによって緩やかにつながった小規模なグループで、個人またはペアで行動している。しかし、近年の有罪判決を分析すると、地域を支配する大規模な犯罪組織が人身売買に関与する場合、組織化されていない犯罪者と比較して、より暴力的で、長期間にわたり、より遠距離でより多くの被害者を売買していることが判明している。
本報告書の特筆すべき点は、裁かれた事件で確認された被害者のほとんどが「自己救済」であることだ。裁判例を検討した結果、大半の事件で、搾取から逃れ、自ら名乗り出た被害者によって当局に持ち込まれていることが判明している。
人身売買の多様な形態
このような人身売買の被害者のプロフィールは、複合的な搾取の種類に応じて変化するのが一般的である。多様な形態の他の例としては、強制労働で搾取される被害者が挙げられる。
この形態の人身売買の被害者は圧倒的に男性で、とりわけ少年が68パーセントを占めている。UNODCが分析した強制犯罪のための人身売買に関わるケースサマリーには、万引き、スリ、その他車やガソリン、宝飾品の窃盗、薬物売買、様々な形態の詐欺が含まれていた。その他の形態の搾取のうち、搾取的な物乞いは、2020年に世界で確認された被害者の約1%を占めた。
また、2020年に確認された人身売買の被害者の1%は、強制結婚の対象になっていた。この犯罪は、UNODCに報告された裁判例の概要に記載されているように、様々な形態をとっている。1つの形態は、外国人男性との偽装結婚で越境した女性を搾取するものである。このような人身売買は、欧州連合(EU)加盟国にも存在する。
Map of Europe
また強制結婚を伴う人身売買の形態には、有害な社会的慣習の中で結婚を強いられる少女に関するものがある。
その他の形態として、主に労働と性的搾取が混在する状況で被害者が発見されているケースがある。このような被害者の割合は、世界的に増加傾向にあり、2018年には全被害者の2%、2020年には10%を占めていた。
例えば、英国で発見された被害者全体の21%以上が強制労働と性的搾取の被害者で、その3分の2が女性、3分の1が男性であった。一方、米国で発見された被害者の8%以上がこの種の混合搾取を受けており、被害者のほとんどが女性であった。
UNODC と共有した、混合型人身売買の有罪判決に至った裁判例の概要の中には、女性が人身売買されて家事労働に従事し、その後、その後雇い主の男性に性的搾取を受けるというものがあった。また、バーで給仕をしていた女性が、客との性的関係を持つよう強要されたケースや、農場で強制労働させられ、労働時間後に雇用主や第三者と性交渉を持つことを強要される女性に関するものがあった。
「被害者の募集を専門に行うリクルート集団が存在し、彼らは通常女性を使い、『乳母として働ける。私の店で働いてもらう。教育を受けられる。』といった約束をして、若い女性を勧誘する。しかし、彼女たちが目的地に着くと、女性の搾取を専門とする他の犯罪集団に売り渡すのだ。このように、被害者を勧誘して、搾取集団に売り渡すリクルート集団による取引が横行している。」
「その瞬間、搾取グループは被害者を従わせ、引き留めるために暴力を行使し始める。騙して引き寄せ、暴力で搾取する。これは、小さなグループが国から国へと被害者を交換する、明らかな犯罪詐欺です。」とサリカ氏は強調した。
欧州内の人身売買の流れ
中・南東ヨーロッパで確認された人身売買被害者の80%近くは、自国内で人身売買された人々である。こうした国内人身売買被害者の割合は、半数に近かった2019年に比べ、2020年には大幅に増加していた。国内人身売買の被害者の多くは、性的搾取を受けた、若い女性または少女であった。これは、この地域で横行している国境を越えた人身売買の被害者にも当てはまり、こうした被害者らは、域内の近隣諸国や欧州全域に売買される傾向がある。
「欧州の数字を見ると、南東ヨーロッパは、イタリア、フランス、スペイン、英国、オランダといった西ヨーロッパの国々に売られる犠牲者の重要な供給地となっています。少女や女性は通常、性的搾取のために人身売買されている。」
「その他の搾取」のカテゴリーでは、南東ヨーロッパから西ヨーロッパおよびスカンジナビア諸国への強制犯罪のための人身売買も記録されている。また、違法な養子縁組も、明らかになった人身売買の犠牲者の2.5%を占めている。
戦争:人身売買の好機
Image source: Sky News
戦争は、紛争地域内外の人身売買に影響を及ぼす。人身売買組織は、避難を余儀なくされ、経済的に困窮している人々を効率的にターゲットにしている。分析によると、2014年と15年にウクライナ東部で発生していた紛争から脱出を余儀なくされた人々と、その後の数年間にウクライナから西・中央ヨーロッパへ売られた人身売買の犠牲者が増加したことの間に関連性があることが示されている。
しかし今回の紛争(ロシアによる軍事侵攻)では、欧州連合(EU)がウクライナ国民に提供する定期移住制度により、2014年当時と比較して、人身売買の犠牲になるリスクは軽減される可能性がある。
「紛争地域内外の人身売買」について取り上げるのは、今回が初めてではない。2019年にリビアの紛争に関する特別報告書でも取り上げた。紛争は常に人身売買と密接な関連を持っている。紛争地で戦闘に駆り出される子ども兵士の問題は、アフリカをはじめ世界各地で起きている。また、ウクライナから紛争を逃れてきた人々、難民、あるいは国境内で避難生活を送る人々は、仕事、家族、家、コミュニティを失い脆弱な立場にあり、搾取や人身売買に遭遇しやすい。そうした人々が増えていることを国際社会に警告する必要がある。サリカ氏は、「2015年と比較して、リスク軽減策の1つは、ウクライナ難民が欧州連合で正規の移民になれることです。」と強調した。
その他、例えば中東やサブサハラアフリカで進行中の紛争も、人身売買のリスクを高めている。サリカ氏は、「西バルカンルート を特別な監視下に置くべきだ。」と指摘した。また、アフガニスタンの難民や移民は、トランジットや目的地の人身売買ルートにおいて脆弱な立場にあり、危険に晒されていることを強調した。また、バングラデシュやパキスタンから逃れてきた南アジアからの移民は、現在、トルコ、ギリシャに向かい、西バルカンルートで北上している。
弱者が逃亡中に遭遇する人身売買には、さまざまな種類がある。加害者は日和見的に被害者を見出している。例えば、女性、少女、少年、男性など、困窮した人を見つけては、その人を強制労働や性的搾取、物乞いに利用するのだ。また、こうした難民は、犯罪集団にも狙われている。
例えば、2018年7月、スロベニアでは、東アジア出身の4人を人身売買していた国際犯罪集団が起訴され、同国各地で多くの被害者を搾取していたことが判明した。彼らは長期間、コールセンターに拘束された被害者に、スロベニアにいる東アジアの国民に対して詐欺行為を行わせていた。犯人は被害者をコールセンターに閉じ込め、移動の自由を制限して外界から隔離し、親族との接触を制限・管理し、個人文書、金銭、電話などを没収していた。各コールセンターの責任者は、さまざまな規則、指示、要求、脅し、罰則を駆使して、被害者に犯罪的詐欺行為を強要していた。その後、2020年には、このグループの別の5人の犯罪者も人身売買の罪で有罪になっている。
2020年にモンテネグロで起きた類似の事件では、女性12人、男性25人を含む東アジア出身の37人の特定された被害者に影響を及ぼした。すべての被害者は、これらの国に居住する東アジア国籍の人々に対するオンライン詐欺に利用されていた。
Photo Credit: climate.nasa.gov
気候変動の影響
気候変動は、一部の人々の人身売買に対する脆弱性を高めている。2021年には、2370万人が災害によって国内避難民となり、多くの人が気候による貧困から逃れるために国境を越えた。気候変動が人身売買に与える影響について、世界的な系統だった分析はないが、世界各地のコミュニティレベルの研究では、天候による災害が人身売買の根本原因であることが指摘されている。気温の上昇や天候の変化は、農業や天然資源の採取など、主要な経済部門に依存する貧しいコミュニティに深刻な悪影響を及ぼしている。
Aurora Weiss, UN Global Reporter
経済的苦難やその他の課題は、より多くの人々を人身売買の直接的な危険に晒すと同時に、他の人々が人身売買活動に従事する誘因を増大させている。
過去20年間で、気候関連の災害が発生する頻度は倍増しており、生計の喪失や避難民の増加につながっている。2021年だけでも、2370万人以上がこのような災害によって避難している。世界各地がますます居住不能になるにつれ、避難民は移動ルートで搾取される高いリスクに直面することになる。熱波、暴風雨、干ばつ、洪水、海面上昇などの「遅発性気候変動の影響」により、2050年までに推定2億1600万人が自国内での移住を余儀なくされる可能性がある。(原文へ )
INPS Japan
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