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|国連生誕78周年| 国連の運営上の信頼性を再考する

【ニューヨークIPS=アンワルル・チョウドリ】

国連アジア多様性とインクルージョンのためのネットワーク(UN-ANDI)より、国連デーの特別な機会に基調講演のお招きをいただいたことに感謝いたします。

私は、UN-ANDIとその献身的なチームの活動、とりわけここ数年の新型コロナウィルス感染症のパンデミックの制約にもかかわらず、最近出版された「人種主義と人種差別に関する調査報告書」を心から称賛いたします。思い返せば、2019年にUN-ANDIの構想に関われたことを誇りに思っております。

国連システムにおけるアジア・太平洋地域の多様な人材が一堂に会する史上初の取り組みとして、UN-ANDIは私たちのあらゆる支援と励ましを必要としています。

自国の代表として、また国連の代表として、数十年にわたり国連に携わってきた私は、国連の活動の中で、前向きなもの、そうでないもの、精神を高揚させるもの、挫折させるもの、集中し決意するもの、混乱し政治化するものなど、様々な側面を見てきました。

しかし、創設から78年を経た国連の活動で私が最も強く感じたのは、地球上の何百万という人々の生活に前向きな変化をもたらすという国連の貢献です。

A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.
A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.

長年にわたり、国連は紛争や人道危機、貧困や困窮といった試練に幾度となく晒されされてきましたが、常に断固とした姿勢で、そして包括的な方法で、その試練に立ち向かってきました。国連は 「全人類家族のかけがえのない共同住宅」と呼ばれてきました。尊敬する世界的な平和指導者であり哲学者でもある池田大作氏は、これを 「世界の議会 」と表現しています。

注目されなくとも、国連とその諸機関や諸団体が、世界中の人々の生活のあらゆる側面を改善するために、途方もない困難を乗り越えて努力を続けていることを想起する価値はあると思います。また、国連がなす規範設定の役割は、非常に幅広い分野に及んでいることも忘れてはなりません。

私自身、1972年に母国バングラデシュが国連加盟を申請し、以来51年にわたり国連と協力してきた中で、バングラデシュの開発アーキテクチャーのあらゆる主要な側面が国連の関与を反映していることを、誇りをもって断言することができます。

10月26日の国連デーを記念して、私は多くの「国連デー」を祝うメールを受け取りました。しかし、私はそれを共に祝う気分にはなれず、現在の現実を踏まえて「国連が無力であることが明白な紛争多発の世界では、あまり嬉しくない国連デーです。」と返信しました。その無力さに今も愕然としています。

「しかし、10年前なら、イスラエル大使が『教訓を与える時が来た』として国連事務総長のビザ発給を拒否するなどという侮蔑行為を想像することさえ難しかっただろう。」と、先のガーディアン紙の社説は記しています。これは国連の地位低下を雄弁に物語っています。

Missile strikes continue through the night in Gaza. Credit: UNICEF/Eyad El Baba
Missile strikes continue through the night in Gaza. Credit: UNICEF/Eyad El Baba

英国の進歩的な新聞『ガーディアン』紙は10月26日付の社説で、「国連は火曜日に78回目の誕生日を迎えたが、祝うべきことはほとんどなかった。さらに、「同日、イスラエルは同国とハマスの戦争に関する発言をめぐり、アントニオ・グテーレス事務総長に辞任を求め、彼を『血の名誉毀損』で非難しました。

世界の良識ある人々は、私たちが今置かれている現実を認識し理解することなく、殻に閉じこもっている時ではありません。イスラエルの国連常駐代表が、安保理の公開会合で事務総長に矛先を向けたことは、外交的な礼儀を無視した、最も不躾なやり方です。

保守的な『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、前日の10月25日付の社説でさらに踏み込んで、「こうして国連は、世界的な無秩序が進行する中で、自らを位置づけてしまっている。」と述べています。

私たちは、この大切な世界機構の運営上の信頼性を再検討する必要があります。1945年に国連憲章に明記される必要があったことは、現在の現実に照らして判断されるべきだと思います。複雑化する世界と政府間の政治的麻痺という課題に対応するために、国連憲章を改正する必要があるのであれば、そうすべきだと思います。その方向に焦点を当てるべき時が来ているのではないでしょうか。現在の国連憲章の言葉を盲目的に神聖視することは、自滅的で無責任なことかもしれません。国連は、今、家を整えなければ、瓦礫の下に埋もれてしまうかもしれないのです。

私はよく、講演後の質疑応答で、国連のパフォーマンスを向上させるために何か一つ勧めるとしたら何か、とよく聞かれます。私の答えは明確で、いつも「拒否権を廃止するべき!」と答えることにしています。拒否権は非民主的で非合理的であり、国連の主権平等の原則という精神に反するものだからです。

私は2022年3月にIPSに寄稿したオピニオン記事の中で、「拒否権は安全保障理事会の決定だけでなく、国連事務総長の人選を含む国連のあらゆる業務に影響を及ぼす。」と指摘しました。

またその中で、「拒否権の廃止は、国連改革のプロセスにおいて、常任理事国を増やす安保理理事国拡大よりも優先的に注目されるべきだと思う。」と主張しました。拒否権を伴う常任理事国化は非民主的だからです。また、拒否権は 「国連の礎石」ではなく、現実には「墓石」であると指摘しました。

拒否権を廃止すれば、事務総長の選出も、拒否権を行使する常任理事国による操作から解放されます。

私はまた、事務総長の業績を評価することなく、自動的に2期目5年の任期を更新する現在の慣行とは対照的に、将来的には事務総長の任期を1期7年のみとすることを提案したいと考えています。

世界最高峰の外交官(=国連事務総長)に9 人の男性を選び続けてきた国連には、次期事務総長に女性を選出する正気と聡明さが求められると、私は強く思っています。

Ambassador Anwarul Chowdhury
Ambassador Anwarul Chowdhury

また、市民社会の正式な関与と真の協議が義務化されれば、国連の信頼性が高まるというのが私の持論です。国連指導部と加盟国は、現在開催中の総会での決定に向けて、必ずやその実現に向けて真摯に取り組むべきだと思います。

国連の予算プロセスやあらゆるレベルの人事採用には、透明性と説明責任が不可欠です。さらに精査が必要な分野は、加盟国から受け取る予算外資金と、国連による予算配分を含むコンサルタント業務です。国連の信頼性を回復し、人類全体のために有効性と効率性を高めるためには、これらの分野に特別な注意を払う必要があります。

国際社会は分かれ道にさしかかっています。一つは、効果的な多国間体制は私たちの手の届かないところにあり、それを改善するために設立された国連が危険で無秩序な世界秩序に逆戻りする可能性がある、と諦める道です。一方もう一つの道は、険しい道ではあるが、はるかに希望に満ちた道です。つまり、共有された原則、目的、コミットメントに基づく世界的連帯、人類の一体性、そして、すべての国々が真の尊敬を寄せるとともに、真に受け入れ、支持する可能性を秘めたグローバルな安全保障体制です。

最後に、私は引き続き多国間主義に対する深い信頼を堅持し、国民と地球のための最も普遍的な組織である国連に対する信念と信頼を新たにし、再確認することを申し上げて、結びとさせていただきます。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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核による集団殺戮、将来を拘束する現実

【国連IDN=タリフ・ディーン

国連が10回目の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」を迎える中、デニス・フランシス国連総会議長は目標達成に必死の姿勢を見せた。核による集団殺戮のリスクは「過去の歴史の1ページではなく、現在進行形でつきまとっている現実だ。」と警告したのである。

フランシス議長は9月26日、「核のアルマゲドンを回避する道は一つしかありません。すなわち、核兵器の完全かつ全面的な廃絶です。」と各国代表らに語った。

国連によれば、世界には1万2500発以上の核兵器があり、その数は増えているという。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

米国の平和活動家で「平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン」の議長を務めるジョセフ・ガーソン氏は、「『核兵器の全面的廃絶のための国際デー』の制定は、核兵器が人類と文明に対して脅威を与え続けている存亡の危機に対する人類の認識を反映したものである。」と語った。

原爆・水爆被害者を意味する日本語の「ヒバクシャ」は、彼らの経験がいかに恐怖と苦しみに満ちたものであるかを教えてくれる。「人類と核兵器は共存できない」のだ。

「核兵器の指揮・管制の仕組みを見ればわかるように、核兵器と民主主義もまた共存はできません。」とガーソン氏は語った。

「国際平和ビューロー」の元副代表でもあるガーソン氏はまた、「今日、核兵器禁止条約と、核軍縮に対する民衆からの継続的な要求が、黙示録的な核戦争を行おうという9つの核兵器国の態勢に対する最も強力な対抗力となっているが、まだ不十分ではある。」と語った。

実際、「原子科学者紀要の『世界終末時計』が真夜中まで90秒に設定されていることからもわかるように、核戦争の危険は、国際デーが設定された2013年当時よりもはるかに高まっている。

「この原稿を書いている今も、私はロシアの国家安全保障エリートが、ジョン・F・ケネディ大統領の顧問が核戦争の可能性は3分の1から2分の1だと考えていた1962年のキューバ危機以来、国際関係において最も危険な瞬間だと述べているのを聞いたところです。私たちが今日生きているのは、偶然と力強い外交のお陰だが、後者については今日、危険なまでにその姿が見えなくなっています。」とガーソン氏は語った。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は9月26日の加盟国代表団に対する演説で「これは緊急の事態です。憂慮すべき新たな軍拡競争が発生しつつあります。核兵器の数も、この数十年で初めて増加基調に転じる可能性があります。」と語った。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

グテーレス事務総長は、核兵器の使用、拡散、実験を防ぐために苦労して勝ち取った規範が損なわれていると指摘した。世界的な軍縮・不拡散の枠組みは侵食されつつある。核兵器は近代化され、より速く、より正確に、よりステルスになりつつある。核使用の脅威が再び顕在化しつつある。

「これは狂気です。事態を反転させねばならなりません。」とグテーレス事務総長は語った。

そして第一に、「核保有国が先頭を切るべきだ。」と指摘したうえで、「核兵器国に対して、核軍縮義務を守り、いかなる状況下においても核兵器を使わないことを約束するよう求めます。」と語った。

また第二に、「数十年にわたって構築されてきた核軍縮・不拡散体制を強化し、改めにその体制に従うよう求めなければなりません。」と語った。ちなみにここで言う体制とは、核不拡散条約(NPT)や核兵器禁止条約のことである。

また、包括的核実験禁止条約(CTBT)もここに含まれる。同条約は未発効だが、核兵器による集団殺戮の影をこの世界から抹消しようとする人類の意志の強い表現となっている。

「私は、核実験のすべての被害者の名において、CTBT未批准国に対して条約を速やかに批准するように呼びかけ、核兵器保有国に対して、すべての核実験の一時停止(モラトリアム)を継続するよう呼びかけます。」と語った。

そして第三に、「私たちは、緊張を緩和し、核の脅威に終止符を打つためには、対話や外交、交渉というツールを弛みなく用い続けねばなりません。この対話はすべてのカテゴリーの核兵器に及ぶものでなければならず、また、戦略兵器と通常兵器との相互作用の増大や、核兵器と人工知能のような新興技術との結びつきにも対処しなければなりません。」と語った。

「人間は核兵器使用のいかなる決定も制御し、それに責任を持たねばなりません。」とグテーレス事務総長は主張した。

ガーソン氏はこの議論をさらに広げて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やその顧問らは、ほとんどの米国大統領が実践してきたように、核兵器先行使用の威嚇をしており、とりわけ、ロシアによるクリミア半島支配が脅威にさらされた場合に核兵器を使用するとしている。

ウクライナ戦争や西側・ロシア間の緊張関係の高まりのなかで、核不拡散条約に違反して、米国の新型核兵器が北大西洋条約機構(NATO)の同盟国に配備され、ロシアはベラルーシに核兵器を配備する途上にある。

Nuclear threats from Israel and Iran have triggered a potential competitor in Saudi Arabia. Credit: U.S. Air Force
Nuclear threats from Israel and Iran have triggered a potential competitor in Saudi Arabia. Credit: U.S. Air Force

東アジアでは、米国が再び核兵器搭載艦船を韓国の海域や港湾に展開し、台湾をめぐる緊張が、バイデン政権が国家安全保障戦略において核兵器先行不使用政策の採用を拒絶する主な原因となっている。

ガーソン氏は、「台湾をめぐる戦争で戦術核兵器を使用する計画は、米政府の政策関係者の間では当たり前のこととなっています。」と語った。米ロ間および米中間で戦略的安定と軍備管理を巡る外交が存在しないことで、事故や事件、計算違いが核戦争へのエスカレーションの引き金となる危険が極めて大きくなっている。

「すべての核大国が核戦力を拡大あるいは『近代化』しています。イランと日本は核保有に近づき、韓国とサウジアラビアでは、核の恐怖に対する公正を欠く不均衡と彼らが見る状況を是正するよう、国内外からの圧力に直面しています。」

「『核兵器の全面的廃絶のための国際デー』は、核兵器の完全廃絶に向けた交渉を誠実に行うことを呼びかけた核不拡散条約第6条の中心的な役割を強調し、我々に警告を与える機会を提供するだろう。最も重要なことは、この国際デーが、私たちは将来世代が手にするに値する非核兵器世界に向けた私たちのコミットメントや組織、運動を強化するよう促す機会になるということです。」とガーソン氏は語った。

他方、反核活動家の連合である「UNFOLD ZERO」は、核の脅威を終わらせ、核兵器を廃絶し、核兵器予算と投資を市民の健康やコロナ対策、気候や持続可能な開発といった分野に回すよう求める世界的なアピール文を発表した。

「9カ国が保有する核兵器は私たちすべてを脅かしている。事故や計算違い、あるいは悪意によって使用された核兵器は、人間や経済、環境にいずれにせよ重大な被害を与えることになる。」

SDGs logo
SDGs logo

「世界で備蓄されている1万4000発の核兵器のごく一部でも使用されれば、私たちが知る文明は終末を迎えることになるだろう。加えて、核兵器に投じられている年間1000億ドルの予算は、コロナ対策や気候の保護、持続可能な開発目標実施など、環境や経済、人間のニーズに応えるために切実に望まれている。」

「私たち署名者は、都市や議会、政府に対して次のことを呼びかける。」

1.核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならないと認めること。したがって、核保有国は核戦力を取り下げ、核戦争を決して自ら起こさない(すなわち核先行不使用政策)と確認すること。

2.国連創設100周年にあたる2045年までに核兵器を廃棄すると約束すること。

3.(核保有国の場合)核兵器関連予算を削減し、(すべての国家に関して)核兵器産業への投資をやめ、それらの投資や予算を、国連やコロナ感染拡大の抑制と復興、炭素排出の大幅削減による気候の保護、持続可能な開発目標の達成といった分野に振り向けること。」(原文へ

INPS Japan

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文化と歴史が日本とカザフスタンの距離を縮めると日本大使が語る

【アスタナINPS Japan/アスタナタイムズ=アイバルシン・アクメトカリ】

「日本とカザフスタンのパートナーシップには多くの柱があるが、共通の歴史的背景と文化交流は、両国の関係を次のチャプター(段階)へと進化させつつあります。」と、山田淳駐カザフスタン日本国大使はアスタナタイムズ紙の独占インタビューに応じて語った。

Ambassador Jun Yamada. Photo credit: Japanese embassy.
Ambassador Jun Yamada. Photo credit: Japanese embassy.

豊かな経済・文化交流の歴史から1992年の国交樹立まで、カザフスタンと日本は30年以上にわたってパートナーシップを構築してきた。

極東の島嶼国である日本国とユーラシア大陸の中心に位置する陸封国カザフスタン共和国は、一見隔世の感があるが、実は両国の間には多くのつながりがある。

「1991年の独立回復直後から、日本はカザフスタンと緊密な協力関係を築き、国家建設の最も重要な分野で貢献してきました。実際、その最初の時期を通じて、日本はカザフスタンに対する最大の援助国(トップドナー)であり続けました。」と山田大使は語った。

カザフスタンは、日本を含む主要パートナーとの二国間関係を改善・拡大することで、自国の経済とより広域な経済圏を強化するための大胆な措置を講じている。

「カザフスタンは、海外からの援助を受ける立場から見事に卒業し、独自の援助機関であるカザフスタン国際開発庁(KazAID)を設立することによって、中央アジア地域だけでなく、世界に開かれた援助国としての新たな責任ある役割を担っています。」と山田大使は語った。

山田大使はカザフスタンとの二国間関係を「化学反応」と表現し、「言葉で説明するのはあまり簡単ではないが、両国民の驚くほどよく似た外見や、出会った最初の瞬間から感じるほとんど自然な共感から始まり、その特別な化学反応は常に目に見えるものです。」と語った。     

歴史によって結ばれた日本とカザフスタン

カザフスタンと日本は、歴史的な出来事を共有しており、中には悲劇的なものもあるが、常に両国の友好の礎石となっている。実際、二国間関係の始まりは外交関係よりも古く、日本では第二次大戦末期の(米国による)広島と長崎への原爆投下、カザフスタンでは北東部のセミパラチンスク核実験場で(ソ連によって)繰り返された核実験という、核兵器によって夥しい数の人々が壊滅的な影響を被った被爆の歴史がある。

“Stronger than death” monument to the memory of nuclear test victims in Semei. Photo credit: Japanese embassy.
“Stronger than death” monument to the memory of nuclear test victims in Semei. Photo credit: Japanese embassy.

「このような災厄をもたらした(ソビエト)政権が崩壊した直後に、日本の医師たちがカザフスタンの被災地を訪れて、必要な治療や、住民の状況を改善するための長期的な治療法を提供しようと最善を尽くしたことは、誠に象徴的であり理解できることだった。日本人にとって、放射能による悲劇は決して遠い国や民族の問題ではなく、まさに自分たち自身の、今日に続く深刻な課題だったのです。」と山田大使は語った。

一方、核兵器による被害は、日本とカザフスタン両国民が共有する深い歴史的ルーツの一部でしかない。

人為的な大飢饉を引き起こし、何百万人ものカザフスタン人を死に至らしめたヨシフ・スターリンのソビエト政権は、日本人にも影響を与えた。6万人以上の日本人がカザフスタンの強制収容所に抑留され、やがてカザフの地を故郷とすることになった。

「スターリン独裁政治の犠牲となっていたカザフの人々は、日本人捕虜に驚くべき同情と憐れみの情を示し、最大限の援助と励ましを与えました。このおかげで、カザフスタンにおける日本人抑留者の死亡率は、シベリアの多くの地域など、他のどの強制収容所と比べても非常に低かったのです。私たち日本国民は、カザフスタンの兄弟姉妹が、人類の歴史上最も暗黒の時代に、真の人間性を表現してくれたことに、永遠に感謝し続けるでしょう。」と山田大使は語った。

二国間の文化交流

文化交流は、日本とカザフスタンの二国間関係を深めるためのソフト面のツールであり、市民間の人と人とのつながりを促進するものである。

Flag of Kazakhstan and Japan Photo: The Astana Times

先日首都アスタナの国立学術図書館で開催されたカザフスタン日本センター主催の日本文化デーは、日本の豊かな文化遺産を垣間見ることができ、地元の来場者で賑わった。

「たった1日のイベントでしたが、首都圏から驚くほど多くの市民が参加しました。私はそれをこの目で見ることができました。これは、国民がこのような機会を切望していたことの証であり、同時に、将来への非常に心強い示唆だと思いました。」

「生け花や茶道といった日本の伝統芸能や、アニメや漫画といった最近のポップカルチャーは、カザフ人の興味をかき立てています。日本のポップカルチャーは世界中で支持されていますが、その意味でカザフスタンは 他のどの国よりも日本文化への関心が高い国だと思います。古典的なものから最新のものまで、日本のアニメーションの最良の例を紹介する必要性と無限の可能性を感じています。」と山田大使は語った。

音楽はまた、両国に共通するものを人々に発見させ、二国間の絆を深める上で極めて重要である。

山田大使は、「私は、カザフスタンの人々が皆、心の奥底では優れた音楽家や歌手であることを知っています。ここでもまた、私たち両国民は音楽を通じてひとつになれるし、切っても切れない友人になれるのです。」と指摘したうえで、「日本の三味線をプロ並みに弾きこなすカザフの天才や、ドンブラ(カザフの2弦楽器)の演奏に打ち込む日本人愛好家を見てきました。彼らの中には、通常はカザフ出身者しか出場できないコンクールに出場する者もいます。」と付け加えた。

A Kazakh master playing the shamisen, a traditional Japanese three-stringed instrument. Photo credit: Japanese embassy.
A Kazakh master playing the shamisen, a traditional Japanese three-stringed instrument. Photo credit: Japanese embassy.

「カザフスタンの人気歌手ディマシュ(クダイベルゲン)が日本で享受している人気と名声については、多くを語る必要はないだろう。彼はすでに日本国民の心を掴んでいます。」と山田大使は語った。

スポーツ

パートナーシップはスポーツの分野でも発展している。

カザフスタンで最も有名なボクサー、ゲンナジー・ゴロフキンは、日本のチャンピオンである村田諒太と戦い、打ち負かした。

Gennadiy Golovkin gifted his robe to Ryota Murata after their fight. Photo credit: Golovkin’s Twitter
Gennadiy Golovkin gifted his robe to Ryota Murata after their fight. Photo credit: Golovkin’s Twitter

「試合後、ゴロフキン選手が村田選手に自前のシャパン(カザフスタンの民族衣装)をプレゼントしたときは、まさに真のスポーツマンシップを最高の形で表現したとして、日本中が感動しました。」

「相撲も日本の伝統競技ですが、驚くべきことに、今ではここにもカザフスタンのヒーローがいるのです。金鳳山晴樹はカザフ名をイェルシン・バルタグルといい、3月の春場所で11勝を挙げた相撲界の新星です。」と山田大使は語った。

「新入幕初参戦にして、敢闘賞という特別な賞を受賞することができました。彼の今後のさらなる活躍と、いつか横綱になることを祈っています。」と山田大使は語った。

観光

両国の関係は文化やスポーツにとどまらない。観光交流はカザフ・日本間の重要な柱であり続けており、新型コロナのパンデミックが終息に向かい、世界が再び観光客に門戸を開いていくことから、今後の発展が期待されている。

世界的な観光業の再開に伴い、カザフ国民は日本が提供するものを楽しみたいと考えており、また、カザフスタンへの日本人観光客の再来を熱望している。

「カザフスタンに赴任して最初の2年間で、さまざまな地域を訪れましたが、そのたびに、この偉大な国の驚くべき美しさと多様性に深い感銘を受けました。」と山田大使。

「同じように、日本にも北から南まで数え切れないほどの美しい観光地があり、その中から好きな組み合わせを選ぶのは訪問者次第です。我が国はカザフスタンに比べて非常にコンパクトですが、気候や地理的な多様性のおかげで、多くの島々を通して非常に豊かな多様性を提供することができます。」と語った。

山田大使は、二国間の観光が今後も成長し続けることを楽観視している。

「両国にとって最も望ましいのは、近い将来に日本とカザフスタンをつなぐ直行便が就航することでしょう。」

「一般的な認識とは裏腹に、日本とカザフスタンはそれほど離れていません。もし直行便が飛ぶようになれば、7時間ほどで到着するはずです。パンデミックという頭痛の種が収束しつつある今、私たちは皆、(直行便就航という)夢がすぐにでも実現することを祈っています。」と山田大使は語った。

グリーンテクノロジーにおける協力の新たな地平

カザフスタンと日本の間には、グリーン技術における協力の新たな地平が生まれつつある。日本は、再生可能なグリーン・エネルギー源の立ち上げにおいて進んでいる。日本の脱炭素技術は、生産と消費の両面でエネルギー効率を改善するために利用されている。

日本は2022年までに、温室効果ガス排出削減への投資を強化する一方で、低炭素の未来に向けたエネルギー転換を加速させるという共同の野望を実現することを目指す国々と、25の共同クレジットメカニズム(JCM)に署名している。カザフスタンもまた、2060年までにカーボンニュートラルを達成することを公約している。

「カザフスタンとのJCMの早期締結は、日本企業によるカザフスタン市場へのさらなる投資のための、新たな理想的な触媒となることは間違いありません。」と山田大使は語った。

山田大使はまた、日本の投資は物理的なインフラだけでなく、最終的には「成長の質」を高める「人々への投資」を目指していることにも言及した。

この点について山田大使は、「最新の脱炭素技術の応用は、わが国の理念を最もよく体現するものになるだろう。」と付け加えた。(原文へ

INPS Japan

この記事は、The Astana Timesに初出掲載されたものです。

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気候変動、災害、武力紛争

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トビアス・イデ 】

人類は、地球温暖化を摂氏2度(産業革命前の気温に対し)に抑えることはまずできなさそうだ。つまり、人類は21世紀中に地球の重要な一線を越え、今よりはるかに気候が不安定な未来へ足を踏み入れるということだ。このような未来の一つの特徴として、干ばつ、嵐、洪水、熱波といった気候関連災害のリスクが高くなる。(

専門家も政策立案者も、以前から、気候変動を安全保障リスクと捉えて懸念を表明しており、こういった議論において災害は重要な役割を果たしている。バラク・オバマ米国元大統領、チャールズ皇太子(現チャールズ国王)、G7外相をはじめとする政治指導者たちは、気候関連の災害は武力紛争の可能性を高めると主張してきた。これと足並みを揃えるように幾人かの著名な専門家らは、干ばつがシリア内戦の勃発を促し、スーダンの人権侵害を助長し、ナイジェリアでは貧困層の若者をボコ・ハラムのもとに走らせたと訴えている。片や別の学者らは、そのような主張に異議を唱え、武力紛争に対する災害の影響は証明されておらず、せいぜい弱いものだと論じている。二つの派閥のどちらが正しいのだろうか?

筆者の新たな著書は、災害が武力紛争リスクを高めるか否かという問いに対する包括的な答えを提供している。著書では、1990年から2015年の間に22カ国の紛争地帯を大規模災害が襲った36件の事例を検討した。これらの災害のうち20件が気候関連のものだった(手短な概要は、こちら)。研究の主な目的は、災害が紛争の強度や紛争当事者の行動をどのように決定付けるかを追跡することである。

気候関連の災害に関する結果から、少なくとも四つの知見が明らかになった(これらは、地震などの気候変動に関係ない災害を含むより大きな実例においても、一般的に当てはまっている)。

第1に、ほとんどのケースで、災害が紛争のダイナミクスに及ぼす影響は全くないかごく軽微である。例えばネパールにおける1996年の洪水やパキスタンにおける2015年の熱波は、非常に短期間であり、紛争の中心的な地帯からは非常に遠く、(および/または)紛争当事者に顕著な影響を及ぼしてはいなかった。気候と紛争の関連性について懐疑的な人々に1ポイントである。

第2に、全ケースの3分の1近くにおいて、気候関連災害が災害の翌年に戦闘のエスカレーションを引き起こすことが分かった。例えばウガンダでは1999~2001年の干ばつの後、「神の抵抗軍(LRA)」が民間人を襲撃して寄付を強要し、援助食料を強奪する事例が増えた。その理由は、干ばつによる影響の中でも特に、自発的寄付やLRAが入手できる食料が減ったことである。同様に、アッサム統一解放戦線(ULFA)は、1998年の洪水の後、より多くの同調者を集めることができた。洪水に関連する政府への不満や生計への不安が広まったためである。そして今度は、これらの新兵が、反政府勢力の軍事力を強化した。従って、気候と災害と紛争のつながりの提唱者にも1ポイント進呈する。ただし、そのようなつながりは主に、高い貧困率や極めて経済の多様化が乏しいような脆弱性の高い国々で生じることに留意するべきである。経験的に、貧困率が低く経済が多様化している国々では、災害関連の武力紛争の勃発や激化が起こる可能性は非常に低い。

第3に、全ケースの残り3分の1近くでは、気候関連災害は武力紛争の緩和を促進した。例えばパキスタンでは2010年の洪水の後、政府軍もパキスタン・タリバン運動(TTP)の反乱軍も災害救援活動を行わざるを得ず、国土の約20%が水没した状況では兵士を動かすこともほとんどできなかった。TTPは、パキスタン北西部の被災者からの志願者流入や(強制または自発的)寄付が減ったことにも対処しなければならなかった。最近の2022年にも、パキスタン南部のバルチスタン州の反乱軍は同様の課題に直面した。紛争当事者の資源と人員が大洪水の損害をこうむったため、戦闘活動を少なくとも一時的に縮小する必要があった。このような災害と武力紛争リスク低下の関連性は、気候安全保障をめぐる議論において今のところほとんど認められていない。災害外交環境平和構築の提唱者らは、環境の脅威を共有することで、紛争を削減し、紛争による分断を超えて協力する絶好の機会がもたらされると主張する。2対1で懐疑論者の優勢である。

第4に、紛争の激化と緩和のどちらの事例でも、武力紛争の当事者は通常、日和見主義的な行動を取る。確かに、気候に関連する極端な事象の後には、行政の準備不足や対応の不手際への大きな不満が渦巻く一方、多くのケースで地域の連帯や相互支援が高まった。しかし、こういった連帯や不満はほとんどの場合、地域の社会運動にはつながったが、より大規模な紛争のダイナミクスには影響を及ぼさなかった。むしろ、紛争当事者は災害がもたらした機会(リクルート機会の拡大、政府の混乱)や制約(資源の利用可能性の減少、軍の機動性の制限)を戦略的に利用して行動した。

人類が地球の安全な活動域を越え、気候非常事態へと向かっていくなか、今後数十年の間に気候関連の災害は増加する可能性が高い。このような状況に伴う安全保障リスクは非常に現実的であるが、決して決定付けられたものではない。第1に、意思決定者は、根強い不平等や管理が行き届かない都市化といった災害リスクを促進する他の要因に取り組むことができる。第2に、災害によって紛争の強度に変化がなかったか、緩和された場合すらあるため、災害は援助提供と紛争当事者間の交渉を実現する絶好の機会も提供する。災害も紛争も、気候変動の不可避の帰結ではない。未来を決めるのは、われわれである。

トビアス・イデは、マードック大学(パース)で政治・政策学講師、ブラウンシュヴァイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。

INPS Japan

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|視点|長崎の原爆投下は日本とカトリック教会への攻撃だった(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

【ワシントンDC INPS Japan=ヴィクトル・ガエタン

1945年の8月9日、日本に対して2発目の原爆を投下するという決断について詳しく調べれば調べるほど、その戦術は道徳的に身勝手なものであったように思える。「無条件降伏を強要するために軍事施設を爆撃した」という米国政府の公式見解から一歩離れて現実に起こったことを観察すれば、米国政府は明らかに民間人を標的にし、国際法と軍事行動規範に違反したことがわかる。

バチカンの外交官と公文書館員らは、長崎への核攻撃は、日本とカトリック教会への攻撃であったと確信しており、この悲劇の不可解な側面に対する一般的な困惑をよそに、めったに議論されることがない理論的根拠を提供している。

爆心地:カトリック教会の精神的中心地

2回目の原爆攻撃は、長崎の商業地区と三菱造船所の北に位置する長崎の有名なカトリック集落である浦上地区最大の大聖堂をほぼ直撃した。

Urakami Tenshudo (Catholic Church) Jan.7, 1946./ Photo by AIHARA,Hidetsugu. / Public Domain
Urakami Tenshudo (Catholic Church) Jan.7, 1946./ Photo by AIHARA,Hidetsugu. / Public Domain

長崎とカトリック教会の結びつきは古い:1580年、ある領主(大村純忠)がポルトガルから来たイエズス会の宣教師たちに土地を寄進した。新宗教は瞬く間に広まり、地元の支配者に対する脅威として非合法化された。1597年、26人の殉教者が長崎の丘で磔にされた。幕府が鎖国政策をとった期間も唯一外国貿易が継続的に行われた港が長崎であり、長く続いたキリスト教弾圧(1614年~1873年)の間、隠れキリシタンによる信仰の拠点となった。

浦上地区上空で爆発した爆縮型のプルトニウム原爆「ファットマン」は、即時に約4万人、年末までにさらに3〜4万人の犠牲者を出した。この原爆は、神道や仏教に隠れて信仰を守っていた「隠れキリシタン」の子孫であるカトリック教徒の71パーセント(信徒 1万2千人のうち 8千5百人)を壊滅させた。

米軍の軍事計画担当者がこの地域の歴史とカトリック的意義を知らないはずがない。1930年、カリスマ的なポーランド人のフランシスコ会士、聖マクシミリアン・コルベがこの地に修道院を開いたほど、この地域は精神的な中心地として有名だった。(その11年後、彼はアウシュビッツ強制収容所で殺害された)。

米軍は当時レーダーではなく、目視による爆撃を行っていた。8月9日の朝、爆撃手のカーミット・ビーハンは、雲が開けていくのを見た。その際、原爆投下任務の標的として地図に記されていた眼前に光景はどのようなものだったのだろうか。…それは国立公文書館から消えている。

謎の人物が「長崎」を標的に追加していた

ハリー・トルーマン大統領は、大統領に就任した後に初めて原爆計画について知った。その頃には、政策決定者の間で、ウラン爆弾と爆縮型のプルトニウム爆弾の両方を実験的に使用しようという機運が高まっていた。

Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945., Public Domain
Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945., Public Domain

軍によって任命された将校と核科学者で構成される 目標検討委員会は、最も人道的でない選択肢、すなわち、少なくとも直径3マイルの都市全体に最大限の被害を与えるように爆弾を爆発させるという選択肢を選んだ。

しかし、ドワイト・デイヴィッド・アイゼンハワー陸軍大将やオマール・ブラッドリー大将のような経験豊富な軍人は、核兵器の使用に反対した。アイゼンハワーは後に、「日本はすでに敗北しており、原爆投下はまったく不必要だった。」と説明している。

機密解除された文書によると、ヘンリー・スティムソン陸軍長官は態度を決めかねていた。彼は焼夷弾爆撃による民間人の犠牲を非難し、6月6日にはトルーマン大統領に「残虐行為においてヒトラーを凌ぐという汚名を米国に与えたくない」と語った。ポツダム滞在中には、文化的価値に基づいて古都京都の保護を要請するために大統領に直談判した。スティムソンが日記で報告したところによると、大統領は同意した。

長崎は5月と6月に作成された標的リストには載らなかった。山がちで不規則な地形が、標的委員会の選考にそぐわなかったのだ。その代わり、長崎は5回にわたって残忍な焼夷弾攻撃を受けた。原爆攻撃の主な標的となった都市は焼夷弾攻撃を免れたので、都市の破壊は原爆投下に伴う壊滅的な爆発と衝撃によるものだったと言えるだろう。また、長崎に連合軍捕虜の収容所があったことも、長崎を原爆攻撃で消滅させることに対する反対議論があった理由の一つだ。

土壇場になって、7月24日付の攻撃命令案に長崎が標的候補として登場した。この日はスティムソン陸軍長官とトルーマン大統領が攻撃目標について議論した日と重なっており、手書きの追記であった。

タイプされた極秘文書は、「広島、小倉、新潟を優先的に攻撃する」と命じている。そしてそこには誰かがペンで「そして」と「記載された優先順位で」を取り消し、矢印で「そして長崎 」を「新潟 」の後に挿入した。長崎が追加されたこの修正文は、翌日正式に回覧された。この文書に最初に注目した歴史家アレックス・ウェラーステインによると、長崎を追加した人物は不明だという。

一連の不幸な出来事

第2次原爆投下作戦に関する米側の証言は、不幸な出来事の連続を措定している:

原爆を搭載したB-29は燃料ポンプに問題があり、一向に現れないカメラ搭載機を待つために飛行時間を浪費した。 小倉に3度にわたって核爆弾の投下を試みたが、標的を目視できなかった。そこで次の標的である長崎に向かったが、到着時はまだ上空が雲に覆われていた。

日本の論者は様々な説を唱えているが、米軍が誤って浦上地区を消滅させたと考える人はほとんどいない。この歴史的な場所が破壊されたのは、浦上天主堂が帝国陸軍の米や食糧を貯蔵するために使われていたからだと考える人もいる。

原爆投下からまもなく、カソリック信者でない長崎の被爆者の一部の間では、街が破滅されたのは異国の神を崇拝する冒涜的な行為が招いたものだとしてカソリック信者をスケープゴートにする反応が見られた。

最近のいくつかの研究では、浦上地区のカトリック被爆者たちが殉教と赦しの思想によって、この不可解な出来事とどのように折り合いをつけていったかを探っている。グウィン・マクレランドは『長崎の原爆を生き延びたカトリック教徒の物語』で、チャド・ディールは『長崎の復活』で、カトリック信徒指導者であり被爆者であり、『長崎の鐘』の著者でもある永井隆博士が果たした重要な役割を指摘している。

永井は、浦上天主堂の廃墟の前で行われた死者への弔辞の中で、原爆投下を神の摂理(犠牲者の死が天罰ではなく神の前での意味ある「潔き」死であったとする説明)によるものだと述べた。この言説はキリスト教徒の犠牲者たちを安堵させたが、その反面、彼らが250年間実践してきた自己抑制を強化し、沈黙させる効果もあった。連合国最高司令官総司令部は、「浦上の聖人」をベストセラー作家にする手助けをした: 永井は国際的な出版を許された唯一の被爆者だった。

その後何十年もの間、日米両国政府は永井の言説を利用し続けた。昭和天皇は永井を直々に訪問さえした。それは永井の説明によって両国の責任が免責されたからである。

バチカンでの見方

バチカンは、1945年8月9日に米国が日本におけるカトリック信仰の中枢部を襲った背後にある偏見について、公の場で議論したことはない。ローマの公文書館関係者や専門家は、米国政府とバチカンが日本を巡って激しい外交論争を繰り広げ、それが戦争中ずっと両者の関係を悪化させたことを私に教えてくれた。

Pius XII with tabard, by Michael Pitcairn, 1951/ Public Domain
Pius XII with tabard, by Michael Pitcairn, 1951/ Public Domain

真珠湾攻撃の3ヵ月後、教皇ピウス12世は大日本帝国と外交関係を樹立した。バチカンがそのことを連合国政府高官に伝えると、彼らは憤慨した。サムナー・ウェルズ国務次官は教皇の決定を「嘆かわしい」と呼んだ。フランクリン・ルーズベルト大統領は「信じられない」という反応を示した。バチカン在住の米国特使によれば、ピウス12世の米国政府に対する答えは明確で、 「外交関係とは、相手国のすべての行動を承認することではない。」というものだった。

国家間外交は、カトリック教会が信者を守り、その使命を推進するための不可欠な手段である。1942年、昭和天皇の特使がバチカンに対して長らく求めていた提案を持ちかけたとき、教会は現実的な観点から同意した。というのも、当時は大日本帝国の軍事進出により、より多くのカトリック信者が日本軍の支配下に置かれようとしていたからである。日本軍の占領下にある約2000万人のカトリック信者の精神的な利益を擁護することは、バチカンの基本的な責任であった。

「悪魔との直接対決」への対処

教皇ピウス11世はかつてこう述べている:「魂を救済、或いは魂へのより大きな害を防ぐことが問題になるとき、私たちは悪魔ともでも直接対話する勇気を感じる。」と。壊れかけた世界に対する宣教の場としてのバチカンの外交観は、教会が不道徳な行為者と関わることで妥協すべきではないとする世俗系と宗教系双方の論者によって、しばしば評価されないことが少なくない。しかし、ピウス11世の見解では、それ以前と以後の教皇が結論づけたように、悪意ある政権に対しても影響を与える唯一の方法は、対話を通じて直接関与することである。

浦上天主堂が核爆弾の直撃を受け、日本で最も歴史あるカトリック共同体が消滅したとき、バチカンはそれを、「米国の敵」を外交と対話を通じて「人扱いしたこと」に対する同国の仕返しと考えた。(原文へ

ビクター・ガエタンはナショナル・カトリック・レジスター紙のシニア国際特派員であり、フォーリン・アフェアーズ誌の寄稿者でもある。著書『God’s Diplomats: Pope Francis, Vatican Diplomacy, and America’s Armageddon』はローマン&リトルフィールド社より出版された。

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|視点|ハマスとイスラエルの紛争(ケビン・クレメンツ戸田記念国際平和研究所所長)

【東京INPS Japan=ケビン・クレメンツ

「真実と平和を愛しなさい」 旧約聖書ゼカリヤ書8章19節

世界と中東はもう暴力的な紛争を必要としていない。この地域は、長年にわたって余りにも多くの暴力を経験してきた。ハマスによる罪のない市民への絶望的な攻撃は、イスラエルの過剰反応を誘発し、とりわけ湾岸諸国やサウジアラビアとのイスラエルの外交交渉を危うくし、イスラエル国内に全般的な不安を生じさせることを意図していた。それはまた、ハマスの軍事力を誇示し、長年にわたる屈辱的なガザ封鎖への復讐を示す目的もあった。イスラエル市民の誘拐は冷酷で残忍なものだったが、イスラエルにおけるパレスチナ人囚人の解放をめぐる交渉の切り札として人質を使う計画の一部だった。(原文へ 

罪のないイスラエル人に対するハマスの暴力のどう猛さは恐ろしいものであり、侵攻から24時間の間に多くの戦争犯罪が行われた。最初の衝撃の後、イスラエル軍の報復は直ちに実行された。

週末10月7日(土)の出来事以来、ガザの内部でも、大規模な人道的大惨事やその他多くの戦争犯罪が発生している。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「復讐」を約束した。彼は、「軍の自制」はないと述べ、新たに樹立された連立政権が、「野獣」や「野蛮人」と彼が呼ぶハマスの戦闘員を粉砕すると述べた。

「われわれは残忍な敵と戦っている。ISIS(イスラム国)よりもひどい敵とだ」と彼は言い、「世界がISISを粉砕し排除したように、われわれはハマスを粉砕し排除する」と付言した。迅速な軍事的対応は理解できるが、イスラエルがガザを「包囲」し、水、エネルギー、電気、食糧の供給を遮断している以上、殺された1,200人のイスラエル人の復讐を果たそうとするために、イスラエルがなにも制約を設けない軍事作戦を展開することは、さらに多くの犠牲者と新たな殉教者を生む可能性が高い。医療・保健施設は手一杯で、物資は不足している。

現在、二つの戦争が行われている。一つは、地上での戦闘である。当初はハマスの抑制のない民兵組織が優勢だったが、今やイスラエルの恐るべき軍事機構が行動を開始し、ハマス支持者ばかりではない230万人のガザ住民に恐るべき結果をもたらしている。そのうち100万人が19歳未満である。イスラエル空軍は、昼夜問わずの空爆で数百発の爆弾をガザに投下している。空、陸、海からの激しい砲撃がパレスチナ居住区を襲い続ける中、ガザ地区では263,000人以上が自宅からの避難を余儀なくされている。これらの避難民が行く場所はない。ガザの封鎖と空爆が始まって以来、2,000人以上のパレスチナ人が殺されている。

エジプトへの出口はなく、もちろんイスラエルへの出口もない。ガザ周辺全域には、戦車や歩兵の数千人のイスラエル軍が展開しており、230万人のパレスチナ人がイスラエルの「復讐」から逃れられない状況にあり、ガザ地区侵攻の可能性が非常に高いと見られる。

二つ目の戦いは、ストーリーの主導権をめぐるものである。イスラエルはすぐに、ハマスの攻撃を9.11アメリカ同時多発テロ事件、真珠湾攻撃、ホロコーストになぞらえ、被害者の立場のストーリーへと移行した。バイデン大統領はハマスの攻撃を「純然たる悪」と呼んだ。これらの対比は全て、迅速で「正当な」軍事行動と「復讐」の記憶を呼び起こすことを意図している。一方、ハマスは、長年の封鎖、抑圧、屈辱によって自らの行動は正当化されると主張している。例えば、ガザはしばしば世界最大の野外刑務所と呼ばれる。世界のメディア(米国主導)は第1の物語を推進し、親パレスチナ諸国や自由なアラブメディアは第2の物語を推進する。しかし、どちらのストーリーも、他方を悪者扱いし、それに対する無制限な流血を正当化するために使うことはできない。

イスラエルによる長年の占領と屈辱にもかかわらず、ハマスがイスラエルの民間人を殺害・誘拐し、イスラエル住民を無差別に恐怖に陥れることによって得るものは何もない。

他方、イスラエルがハマスへの「復讐」を宣言し、民間人を爆撃し、今やガザを封鎖しても何も得られない。

全ての犠牲者は、友人や家族によって悲しまれ、追悼されるだろうし、そうしなければならない。この戦争に勝者はいない。誰にとっても災難である。

国連事務総長はこう述べた。この最近の暴力は、「単独で発生したものではなく」、「56年にわたる占領と政治的終わりが見えない長年の紛争から生じている」。

アントニオ・グテーレス事務総長は、「流血、憎悪、対立の悪循環」に終止符を打つよう訴えた。

イスラエルは、安全保障に対する正当なニーズが具体化されるのを目撃しなければならないし、パレスチナ人は、自らの国家建設が実現されるという明確な展望を目撃しなければならない。パレスチナ人とイスラエル人の合法的な民族的願望を、彼らの安全保障とともに満たす交渉による和平(国連決議、国際法、過去の合意に沿った、2国家間解決という長年のビジョン)だけが、この土地とさらには中東地域の人々に長期的な安定をもたらすことができる。

Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute
Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute

その一方で、われわれは目の前で人道的大惨事が繰り広げられているのを目の当たりにしている。双方の暴力に直面して、われわれは黙っているわけにはいかない。パレスチナ紛争に軍事的解決はあり得ないのである。ガザからの脱出を望む人々がそうできるようにする人道的回廊を確保し、国連やその他の人道支援組織が、包囲された住民のニーズに応えて水、エネルギー、食糧、医療物資を搬入できるようにするためには、迅速な交渉が不可欠である。また、(イスラエル軍が侵攻の準備をしているとしても)双方が、長い間に確立されてきた戦争のルールを思い出し、それに従って戦う意思を持っていることも重要である。イスラエルが「無制限に」戦うと企てることは、ハマスがすでに犯している人権侵害に対抗して、さらに多数の人権侵害を引き起こすことになる。

人質の帰還を望み、そのために努力し、停戦と戦争終結のための交渉に向けたトルコと国連の動きの全てを強化しよう。想像力と勇気を持たなければ、パレスチナ人の絶望、屈辱、死、破壊に終わりはない。イスラエル側に想像力と創造性がなければ、真の安全保障はなく、復讐と暴力の連鎖は深まり、常態化するだろう。課題は、ハマスの恐ろしい虐殺への対応を相応かつ抑制的なものにするために、赦しと和解というユダヤ人の豊かな伝統の全てを活用することである。ガザは、イスラエルが復讐に燃える死と破壊に対して責任を負う、もう一つのワルシャワ・ゲットーになる余地はない。

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

INPS Japan

ケビン・クレメンツは戸田記念国際平和研究所の所長。

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世界伝統宗教指導者会議、アスタナで新たな10年ビジョンに着手

【東京/アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

ユーラシア大陸の中心地カザフスタンで、10月11日、世界伝統宗教指導者会議第21回事務局会議が開催され、次の10年のビジョンが採択された。

この会議は、9・11同時多発テロ事件後に高まった特定の宗教に対する排他主義や過激主義に対して、世界の伝統宗教指導者自らが率先して対話を重ね、平和と協力関係を模索するイニシアチブとしてカザフスタンの呼びかけて2003年に始まったイニシアチブである。以来、3年に一度開かれる会議は、130もの多民族・多宗教が平和に共存するカザフスタンの首都アスタナが開催され、回を重ねるごとに参加する宗教指導者が増え、議題も急速に変化する国際情勢を反映しつつ、多様な宗教間の対話を促進し、団結を築き、平和を訴える中心的なフォーラムへと進化してきた。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

発足20年目となった2022年に開催された第7回会議のテーマは「ポストパンデミック期における人類の精神的および社会的発展への世界の宗教指導者の役割」で、カソリック教会のローマ法王フランシスコや、イスラム教スンニ派の最高権威アフマド・アル・タイーブ師をはじめ、英国国教会、ロシア正教会、バハイ教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、ユダヤ教、ジャイナ教、神道等、世界50カ国から100以上の代表団が参加した。ちなみに日本からは、8万社の神社を包括する神社本庁と世界100カ国以上に1200万人の会員を擁する創価学会インタナショナル(SGI)が参加した。SGIはまた、カザフスタン外務省と緊密に協力し、核兵器のない世界を実現するために、核兵器使用がもたらす人道的影響に焦点を当ててきた。

A group photo of the international press team at Astana Grand Mosque. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.
A group photo of the international press team at Astana Grand Mosque. Photo: Katsuhiro Asagiri, President and Multimedia Director of INPS Japan.

INPS Japanは、パキスタン、アラブ首長国連邦、バチカン、英国、イラン、タイ、イタリア、米国、韓国、タジキスタン、アゼルバイジャン、モンゴルからの国際プレスチームとともに、この重要な平和イニシアチブの節目を記録するためにアスタナに滞在した。記者たちは、世界各地から参集した宗教指導者への取材を行うとともに、20年にわたって世界から宗教指導者を惹きつけてきたカザフスタンの歴史や社会についても、触れる機会を得た。

古代シルクロード以来東西交易の中心地として多様な文化と宗教を受け入れてきたカザフの寛容な文化については知られているが、ソ連時代に繰り返された核実験で150万人もの被爆者を出した歴史や、強制移住や大飢饉、カザフの遊牧・宗教・文化が抑圧された歴史はあまり知られていない。こうした中で特筆すべきは、1991年にソ連から独立したカザフスタンが、国内のあらゆる少数民族・文化・宗教をカザフ人と平等に扱うことを憲法に明記し、教育や関連行事を通じて、自国の多様性を国の誇るべき強みとし、積極的な文化・宗教の共生を重視している点である。

Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times
Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times

世界中で宗教的、民族的な分裂や紛争が拡大する中、カザフスタンの先見的な政策は、将来の国際社会のモデルとして、世界中の宗教指導者から称賛されている。カザフスタンの先見的なリーダーシップと宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、多様な宗教間の団結、寛容、協力という明るい未来を約束している。

2003年から23年までの会議の初期のビジョンは、多国間の宗教間対話の強化と普及に重点を置いていた。「今日、私たちはこの使命が達成されたことを確信をもって表明することができます。」と、事務局議長であり、カザフ国会の上院議長でもあるマウレン・アシンバエフ氏は語った。

INPS Japan joined distinguished journalists from from Pakistan, the United Arab Emirates, the Vatican, the United Kingdom, Iran, Thailand, Italy, the United States, South Korea, Tajikistan, Azerbaijan, and Mongolia, stayed in Astana to document this important milestone in the peace initiative. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, President and Multimedia Director of INPS Japan.

今回の事務局会合で示された次のステップは、この成功をさらに発展させることである。会議は、宗教間対話を発展させ、確固たるものにするための努力を強化する態勢を整えており、スピリチュアル外交に無限の可能性を見出している。

Kairat Umarov, First Deputy Foreign Minister and Deputy Secretary General. Photo: Kazakh Foreign Ministry.
Kairat Umarov, First Deputy Foreign Minister and Deputy Secretary General. Photo: Kazakh Foreign Ministry.

カザフスタンのカイラト・ウマロフ第一外務副大臣兼事務局次長は、新たに打ち出された開発コンセプトの包括的な性質について説明し、「文書の大部分は、これまで7回にわたる会議の成果の実施に焦点を当てています。私たちの願いは、このの対話プラットフォームを、世界レベルで宗教間の結びつきを強化するための真のメカニズムに発展させることです。特に、スピリチュアル外交の能力開発という問題に注意を払っています。」と語った。

今後10年間の開発コンセプトは、英知の結集であり、急速に変化する世界においてその進化を促進するために考案された野心的なロードマップである。それは、各々の教義を超越し、精神的・道徳的価値が単に保存されるだけでなく、国際関係の礎となる世界を育むという世界的なコミットメントを表している。

INPS Japanを含む国際記者団がアスタナでのこの歴史的な会合を記録したように、世界は、より包括的で調和のとれた世界への旅路における重大な前進の証人となった。カザフスタンの穏やかな多文化モザイクを背景に開催された第21回世界伝統宗教指導者会議事務局会議は、単なる歴史の一章にとどまらず、多様性が称賛され、スピリチュアリティが無数の色彩を持つ人類を結びつける架け橋となる時代への明確な呼びかけである。(英文へLondon Post

INPS Japan

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カリブ諸国、「殺人ロボット」禁止へ

【ディエゴ・マーティン(トリニダード・トバゴ)IDN=ピーター・リチャーズ】

カリブ諸国が、「殺人ロボット」とも呼ばれる自律型致死兵器システム(AWS)の禁止に向けた意思を鮮明にしており、15カ国から構成されるカリブ共同体(CARICOM)で共通の方針を策定しようとしている。

AWSは、人工知能を使って人間の介入なしに標的を特定し、選択し、殺害する兵器システムである。カリブ海地域、特に殺人事件の急増に悩むジャマイカ、トリニダード・トバゴ、バハマにとって、AWSはきわめて大きな課題となっている。

メラニー・レジンバル国連軍縮部ジュネーブ事務所長は、この目的は、法律が検討され研究され始めている枠組みを理解することだと述べた。

「この場合、これは特定通常兵器に関する条約であり、条約未加盟のカリブ諸国を条約に加盟させることがここでの目的だ。」とレジンバル所長は語った。

トリニダード・トバゴのリージョナル・アーマー法務長官は、アルゴリズムによって駆動し増殖しつつある自律型兵器を規制する立法についてキース・ロウリー政権に勧告する予定であると示唆している。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca
Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

「もし私の勧告が受け入れられれば、まずは法改革委員会がこれに検討を加え、立法の参考に供されることになろう。」とアーマー長官は語った。

しかし、トリニダード・トバゴだけがこのような動きに出ているのではない。9月5・6両日にポート・オブ・スペインで開催された「特定通常兵器に関する条約の普遍化」に関する会議で、バルバドスやベリーズなどのカリブ諸国が、AWSは、多くの利害関係者による慎重な検討と討論を必要とする「複雑で物議を醸す問題」であると認識しているとの見解が示された。

たとえばバルバドスは、これらの兵器には軍事上の利点をもたらす可能性があるが、その採用には倫理的かつ実際的な重大な懸念も生じると指摘している。

カリブ海諸国の政府高官、国際機関、技術専門家、学界、市民社会組織のメンバーが一堂に会した会議で、バルバドス政府は、「自律型致死兵器をめぐる主要な問題のひとつは、戦闘における重大な意思決定において人間の関与が及ばなくなる可能性があるということだ。」と語った。

ベリーズはすべてのCARICOM加盟国に対して、AWS禁止条約の交渉プロセスを開始するよう求め、「人権を守り、人間の安全を確保し、国際の平和と安全に貢献する基本的責務が我々にはある。」と指摘した。

「ベリーズは、AWSに関して、カリブ地域や国際社会と人道・法律・安全保障面での懸念を共有している。したがって、我が国は、国際法の普遍的な原則と規範に則ったAWSに関する地域的立場に関する宣言を支持する用意がある。」

カリコム犯罪・安全保障問題実施機関創価学会インタナショナル(SGI)、英国の「ストップキラーロボット」が共催した会合での発表で、トリニダード・トバゴは、自律型兵器の無差別使用の可能性によって民間人の生命にもたらされる甚大な脅威を認識し、民間人を保護するために、人間による意味のある管理を維持する必要性を支持すると語った。

「トリニダード・トバゴは、これら兵器が恣意的かつ無差別的に重大な負傷や破壊、生命の喪失をもたらす危険性を強調し、したがって、自律型兵器システムを禁止・規制する新たな法的拘束力のある協定の採択を支持することをあらためて表明する。」

ストップキラーロボット」のキャンペーン・アウトリーチ・マネージャーであるイザベル・ジョーンズは記者団に対して、この10年間国際社会で議論が続いてきたが、「自律的な兵器システムがますます利用され開発されるようになってきており、これは政治指導者や諸政府、国際社会にとって本当に緊急で差し迫った問題だ。」と語った。

SGI国連事務所ジュネーブ連絡所のラムゼイ=ジョーンズ所長は、仏教の理念に基づいて平和、文化、教育の促進に取り組むNGOとして、「私たちは人間の尊厳を信じ、生と死の決定を決して機械に委ねるべきではないと考えている。」と語った。また、「規制がなければ、非国家主体を含め、自律型兵器が世界的に拡散し、地域的に犯罪を増加させ、社会的不平等を悪化させ、各国の資源やインフラを圧迫し、社会や国家の安全を毀損する可能性がある。」と指摘した。

今回のワークショップでは、法的拘束力のある文書を求める声が、90カ国以上、国連事務総長、テクノロジーと人工知能の専門家、宗教指導者、そして世界中の市民団体によって支持されていることが報告された。

討論を締めるにあたって、会議の参加者らは「自律型兵器システムに関するCARICOM宣言」を採択し、国際法を遵守するためにAWSに関する法的拘束力のある措置の合意をあらためて呼びかけ、AWSに関する国際協定とその後の国内立法を協議する際に人間や社会を考慮に入れる必要性を強調した。

宣言は、「戦力の使用に対する人間による意味のある規制が不可欠であるとの認識を支持し、それによってAWSの禁止・規制を盛り込んだ国際的なな法的拘束力のある文書の追求を奨励する」という決意に言及している。

また、AWSに関する法的拘束力のある国際協定創設を最優先し、「不拡散、非国家武装集団やテロリスト集団を含む非国家主体への転用リスク、法執行や国境警備を含む国内の安全保障に対するAWSの課題に関連する問題を考慮する」ことで、関連するすべての適切なプラットフォームを通じて統一した立場を維持することに合意した。

Map of Carribean. Credit: Wikimedia Commons.
Map of Carribean. Credit: Wikimedia Commons.

また、カリコム犯罪・安全保障問題実施機関などの関連主体が、AWSに関して合意された立場を促進すること、そして、人種や民族、国籍、階級、宗教、性別、年齢などの属性を基にしたデジタル差別の問題も含め、拡散の危険、意図しないエスカレーション、倫理的考慮、デジタルの非人間化、AWSに関連したその他の人間・社会的意味合いを諸国が認識すべきことを約束した。

宣言は、カリコム加盟国が「自律型兵器システムに関する多国間協議に有意義に関与し、カリコム諸国の脆弱性を増大させる可能性のある技術格差のギャップを埋める」ことができるようにするため、国際機関、開発パートナー、民間セクター、学界、その他関連する利害関係者に対し、財政的・技術的援助と能力構築のイニシアティブに貢献するよう求めている。(原文へ

※著者は、セントルシア生まれのカリブのジャーナリストであり、カリブメディア社(バルバドス)の上級編集者である。

INPS Japan

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|視点|カザフスタンの宗教間対話イニシアチブ:知恵とリーダーシップで世界の調和を育む(浅霧勝浩INPS Japan理事長)

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

中央アジアの中心部に位置し、豊かな文化的多様性と、多民族社会、精神的伝統で知られるこの国は、近年、世界的な宗教間の調和と相互理解を促進する道標として注目を浴びている。

The 20th anniversary Logo of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions.
The 20th anniversary Logo of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions.

過去20年にわたり、カザフスタンの世界伝統宗教指導者会議は、世界中の多様な宗教間の対話を促進し、団結を築き、平和を訴える中心的な役割を果たしてきた。同国の深い精神的遺産と知恵に根ざしたこのイニシアチブは、国際協力と寛容の象徴へと発展を遂げてきた。その目覚ましい歩みを振り返り、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップの下で進められているこのイニシアチブの未来を展望するとき、このイニシアチブが相互理解を醸成する対話プラットフォームとして、世界の調和と団結を育むために、さらに大きな前進を遂げる用意ができていることは明らかである。

レジリエンスと寛容の歴史

カザフスタンの歴史は、レジリエンス(困難で脅威を与える状況にもかかわらず,うまく適応する能力)、寛容さ、不屈の精神が織り成すタペストリーである。遊牧文明から近代的な多民族・多宗教社会へと移行したこの国は、その過程で数々の試練や苦難に直面した。しかし、カザフスタンの人々は、自らの精神的ルーツとの揺るぎないつながりを維持し、多様で包括的な社会の中で多民族が共に繁栄する道を選択した。

歴史的苦難と精神的レジリエンス

A side -event titled “Addressing victims assistance, environmental remediation, and international cooperation in accordance with the TPNW Article 6-7” was co-organized by The Ministry of Kazakhstan, Permanent Mission of Kiribati to the UN, Nuclear Age Peace Foundation and Soka Gakkai International on June 21, 2022 at Austria Center Vienna Hall D during the First Meeting of State Parties to the TPNW. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri,President of INPS Japan.

歴史を通じてカザフの人々が耐えてきた苦難は、彼らの深い精神性と独自の知恵を形成してきた。ロシア帝国の膨張からソビエト時代の圧政による国土の荒廃まで、カザフの人々は途方もない困難に直面してきた。強制移住政策、大飢饉、カザフの文化的・宗教的アイデンティティの抑圧政策は厳しい現実だった。しかし、これらの試練は、困難の中を耐え忍び、かつ伝統文化や信仰を守るというカザフの人々の集団精神に火をつけることとなった。

信教の自由と寛容

カザフスタンの独立への道のりは、信教の自由と寛容へのコミットメントをもたらした。1949年から89年まで、ソビエト連邦はカザフスタン東部のセミパラチンスク核実験場(日本の四国或いはベルギーにほぼ等しい面積)で456回の核実験を行った。これらの核実験の結果、約150万人が世代を超えた健康被害を被ったと推定されている。このような逆境の歴史にもかかわらず、ソビエト連邦が崩壊すると、カザフスタンはすべての民族の平等と信教の自由(ソビエト政権下では宗教は毒とみなされ弾圧されていた)を保障しただけでなく、セミパラチンスク核実験場の閉鎖と当時世界第4位の核兵器の完全放棄を実現し、ロシアだけでなく西側諸国からも安全保障をとりつけることに成功した。それ以来、カザフスタンは国連の枠組みに基づく、「核兵器のない世界」を提唱する最も積極的な国の一つであり、2024年には第3回核兵器禁止条約(TPNW)締約国会合の議長国を務めることになっている。

文化遺産の保護

遊牧文化の根絶と定住促進を目指したソビエト政府の政策にもかかわらず、カザフの人々はその豊かな文化遺産の保存に成功した。祖先から受け継がれてきた伝統を維持するだけでなく、カザフ人以外の人々の伝統、文化、宗教をカザフ文化と同等に扱う政策を独立国家カザフスタン共和国の憲法に明記した。この先進的なアプローチは、社会の調和を促進し、ソビエト時代のカザフ文化弾圧からの強力な教訓となっている。

世界伝統宗教指導者会議:輝く道標

pope Fransisco(Left)and Kassym-Jomart Kemeluly Tokayev, President of Kazakhstan (Right). Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

2003年にカザフスタンが開始した世界伝統宗教指導者会議は、カザフスタンの深い精神性と知恵の証左である。過去20年間、このイニシアチブは、宗教間の対話を促進し、相互理解を育み、世界平和を推進するための重要なプラットフォームへと成長した。その目覚ましい成功には、いくつかの重要な要因が寄与している:

宗教間の調和:カザフスタンの宗教間の調和と宗教的寛容に対する揺るぎない取り組みが、この会議の原動力となっている。それは、多様な宗教指導者が一堂に会し、それぞれの視点を共有し、より平和な世界を目指して協力し合うためのユニークなプラットフォームを提供している。

平和の促進:対話を通じて平和を推進し、世界的な課題に取り組むという会議のひたむきな姿勢は、宗教の枠を超えた思いやり、愛、非暴力という共通の価値観を強調している。

文化の多様性:カザフスタンの豊かな文化遺産は、イスラム、テュルク、遊牧民の伝統(祖先崇拝やテングリ信仰)の影響を受けており、多様な宗教指導者が集うのに理想的な環境を提供している。こうしで多文化と精神的遺産が融合したカザフスタンには、東洋と西洋、イスラム教とキリスト教、仏教、その他さまざまな信仰体系を橋渡しする議論を育む精神的土壌がある。

中立と外交:国際関係におけるカザフスタンの中立政策(マルチ・ベクトル外交)は、多様な国々から集う宗教指導者らが、政治的やイデオロギー的な圧力を受けることなく、議論に参加することができる中立的な対話の場を提供している。

信教の自由へのコミットメント:カザフスタンは一貫して、国内における信教の自由と寛容へのコミットメントを示しており、会議のミッションの核心にある原則と一致している。

世界の諸課題への取り組み:この会議は、宗教的過激主義、テロリズム、環境問題など、現代のグローバルな課題にも積極的に取り組んでいる。多様な背景を持つ宗教指導者を巻き込むことで、これらの差し迫った問題に対する共通の立場と解決策を模索している。

文化交流:公式の議論に加えて、この会議にはカザフスタンの伝統や芸術を紹介する文化交流、パフォーマンス、展示が行われる。このような豊かな文化的側面は、世界各地から宗教指導者をカザフスタンに惹きつけるイベントの魅力を高めている。

‘Peace Concert’ Presents a Feast of Harmony: The 6th Congress of the Leaders of World and Traditional Religions concluded with an appeal “to all people of faith and goodwill” to unite, and called for “ensuring peace and harmony on our planet”. The event was celebrated with a Peace Concert in which 500 choir singers from five continents of the world took part. Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

トカエフ大統領の未来へのビジョン

カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップのもと、世界伝統宗教指導者会議はさらなる進化を遂げようとしている。大統領は、世界が政治的な不確実性に晒される中、文化や文明間の架け橋がこれまで以上に求められていると認識している。

トカエフ大統領は、今回の事務局会合に先立って寄稿したオピニオン記事において、国際的な緊張の高まりと国連設立以来の世界秩序が毀損しつつある現状認識に言及したうえで、文明間の信頼と対話を強化することの重要性を強調した。その手段として外交が不可欠であると指摘しつつ、宗教指導者は国際安全保障の新しいシステムを構築する上で不可欠な変革の担い手であるという認識を表明している。

伝統宗教指導者の役割

世界人口の約85%が宗教を信仰しており、宗教指導者は世界情勢に大きな影響力を持つ。トカエフ大統領は、人命の神聖な価値、相互扶助、破壊的な対立や敵意の否定など、すべての宗教が共通する原則が、平和に焦点を当てた新しい世界システムの基礎を形成できると確信している。

実践的な貢献

トカエフ大統領は、宗教指導者が世界平和に貢献できる実践的な方法として、紛争後の社会の傷を癒すこと、寛容・相互尊重・平和共存の文化を損なう否定的な傾向を防ぐこと、デジタル技術が社会に与える影響に対処することなどを概説している。また、急速な技術進歩がもたらす諸課題を乗り越えるために、精神的な価値観や道徳的な指針を培う必要性を強調している。

団結と調和の未来

Press Briefing was held at Ministry of Foreign Affairs ahead of the XXI anniversary meeting of the Secretariat of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions on October 11, 2023. The agenda for the meeting includes an exchange of views on the outcomes of the VII Congress of Leaders of World and Traditional Religions. Discussions will also focus on the Concept of Development of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions for 2023-2033. Photo: Ministry of Foreign Affairs of Kazakhstan.
Press Briefing was held at Ministry of Foreign Affairs ahead of the XXI anniversary meeting of the Secretariat of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions on October 11, 2023. The agenda for the meeting includes an exchange of views on the outcomes of the VII Congress of Leaders of World and Traditional Religions. Discussions will also focus on the Concept of Development of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions for 2023-2033. Photo: Ministry of Foreign Affairs of Kazakhstan.

カザフスタンの世界伝統宗教指導者会議が進化を続ける中、分裂が進む世界における「希望の光」としての役割を果たしている。トカエフ大統領の先見的なリーダーシップと宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、多様な宗教間の団結、寛容、協力という明るい未来を約束している。不確実性が増す今日の世界において、カザフスタンの宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、精神性と知恵がより平和で調和のとれた国際社会への道を開くことができることを私たちに思い起こさせてくれる。

カザフスタンが激動の過去から宗教間対話の「希望の光」となるまでの道のりは、国民の深い精神性と知恵の証しである。トカエフ大統領のリーダーシップの下、世界伝統宗教指導者会議は、対話の力、相互理解、そして不朽の人間精神を示しながら、世界の調和と団結への道を照らし続けている。(英文へ

INPS Japan

The Astana Times, London Post, Inter Press Service, 世界伝統宗教指導者会議ウェブサイト 

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カザフスタンは現実的かつ平和を志向した「マルチ・ベクトル外交」政策をとっている(ロマン・ヴァシレンコカザフスタン共和国外務副大臣)

第21回世界伝統宗教指導者会議事務局会合を取材するために世界11カ国からアスタナに来訪した国際記者団のメンバーであるロンドンポスト紙のラザ・サイード記者が、ロマン・ヴァシレンコ外務副大臣に、この世界的な宗教間対話イニシアチブの役割や成果、その背景にあるカザフスタン政府が推進する「マルチ・ベクトル外交」についてインタビューを行った。以下はその主な抜粋である。

【アスタナINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

ロンドンポスト(LP):近年、カザフスタンは建設的な平和外交を提唱している国として定評がありますが、貴国の外交政策についてお聞かせください。

ロマン・ヴァシレンコ:カザフスタンの対外政策は、平和を志向し、多方面にわたって現実的かつバランスの取れた外交政策(=全方位外交「マルチ・ベクトル外交」)を特徴としています。この戦略は(カザフスタンがソ連から独立した)1990年代初頭に策定され、以来30年以上にわたって一貫して成功裏に実施されてきました。

Central Downtown Astana with Bayterek tower/ Wikimedia Commons
Central Downtown Astana with Bayterek tower/ Wikimedia Commons

今日、カザフスタンは186カ国と外交関係を維持し、62の大使館と20以上の領事館を含む代表事務所を全大陸に開設しています。また、戦略的パートナーシップ関係は、世界の多くの主要国との間に結ばれています。

「敵ではなく友を得る」ことを目的とした外交戦略は、国の安全と安定を確保する上で重要な役割を果たしています。今日カザフスタンは、世界のどの国とも紛争や未解決の問題を抱えていません。

現実的かつ多方面にわたる外交政策により、カザフスタンは国際社会に溶け込み、可能な限り効果的に国益を促進し、国内の開発問題に取り組むための最適な対外条件を作り出すことに成功しています。これには経済発展も含まれます。カザフスタンは、外国直接投資の誘致という点では、中央アジアにおける紛れもないリーダーであり、この地域の外国直接投資総額の60%を占めています。

カザフスタンは、独立黎明期に策定された路線を堅持しています。カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップの下、カザフスタンは世界舞台での関与を維持・強化するため、外交政策の視野を常に広げる取り組みを進めています。

反核運動のリーダー

カザフスタンの独立は、当時の指導部による史上前例がないいくつかの大きな決断から始まりました。

ソ連が運営していた世界最大規模のセミパラチンスク核実験場は、1991年8月29日、大統領令によって閉鎖されました。この核実験場は数十年間機能し、カザフスタンの大地に深い傷跡を残し、150万人の市民の生活に世代を超えて深刻な影響を与えました。

Kazakh Foreign Ministry has co-organized a series of events focusing on the humanitarian consequences of the use of Nuclear Weapons to support TPNW at UN, Vienna and Astana together with Soka Gakkai International(SGI), a faith based organization from Japan which has participated in the 6th and the 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions. Credit: Jibek Joly (Silk Way) TV Channel

独立後、カザフスタンはもう一つの差し迫ったジレンマに直面しました。ソ連から受け継いだ世界第4位の膨大な核兵器をどうするかという問題です。指導部は、核保有国の地位を自主的に放棄するという現実的な決断を下しました。このことで、国際舞台におけるカザフスタンの権威が高まっただけではなく、特に投資家からの信頼も高まりました。

このような決断は、わが国の外交政策の中核をなす考え方のひとつを確固たるものにしました。今日、カザフスタンは核軍縮・不拡散の世界的な運動のリーダーとして認められています。セミパラチンスク核実験場の閉鎖を記念する8月29日は、国連総会の全会一致の決定により、「核実験に反対する国際デー」として国連カレンダーに刻まれました。また、2016年には、中央アジア非核兵器地帯が設立されました。さらに17年には我が国東部のオスメケンに低濃縮ウラン(LEU)備蓄バンクが開設されました。

カザフスタンは、すべての主要な国際核軍縮・不拡散条約に加盟しています。特に、核兵器禁止条約(TPNW)に最初に署名・批准した国の一つです。

多国間協力

カザフスタンは、国連(1992年3月2日以降)とその専門機関、世界貿易機関(WTO)、国際原子力機関(IAEA)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、上海協力機構(SCO)、イスラム協力機構(OIC)、独立国家共同体(CIS)、集団安全保障条約(CSTO)を含む40以上の国際機関に積極的に加盟しています。さらに、国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)、欧州復興開発銀行(EBRD)といった主要なグローバル金融機関にも加盟しています。

カザフスタン独自の「マルチ・ベクトル外交」の特徴の一つは、主要な国際機関の活動に積極的に参加するだけでなく、対話と協力のための新たな多国間プラットフォームを構築するというコミットメントにあります。

Organization of Turkic States Green (Member States), Pale Blue (Observer States). Credit: Jelican9 – Own work – Eurasia, CC BY-SA 3.0

このしたアプローチの好例として、独立間もない1992年にカザフスタンが国連総会で設立を提唱した「アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)」があります。今日、CICAには28カ国が加盟し、本格的な組織へと変貌を遂げつつあります。

カザフスタンは、旧ソ連邦構成国間の経済協力を大幅に強化した独立国家共同体とユーラシア経済同盟の創設において重要な役割を果たしました。

我が国はまた、実質的かつ影響力のある国家連合「上海協力機構」(中国、カザフスタン、キルギス、インド、イラン、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン)の創立メンバーでもあります。

カザフスタンは、他の国々とともにテュルク評議会の設立を主導し、同評議会は最近テュルク諸国機構へと発展させるなど、国際社会における積極的な姿勢をさらに強固なものにしています。

世界的認知

30数年にわたって、カザフスタンは独立以来一貫して堅持してきたこの外交政策の有効性を認められてきました。

2010年にカザフスタンが欧州安全保障協力機構の議長を務めたことは、我が国が国際社会における責任ある国家としての役割を大きく肯定するものでした。

カザフスタンは、旧ソ連構成国として、またアジアの国として初めて、加盟国が50カ国を超える国際組織の議長国を任されました。カザフスタン外交の最高の成果は、21世紀最初の、そして現在のところ唯一のOSCE首脳会議の開催に成功したことです。このサミットはアスタナ宣言の採択に結実しまし。また、2017年から18年にかけて、カザフスタンは国連安全保障理事会の非常任理事国としてデビューしました。この選挙で、中央アジアの国が初めて安全保障理事会の理事国となりました。この2年間、カザフスタンは、核兵器のない世界の実現、地域紛争と脅威の解決、地域安全保障分野における中央アジアの利益の促進、テロリズムへの対抗など、優先事項を熱心に追求しました。

Expo 2017. “The Sphere” left deep impression on our minds. All this was beyond what we have known from Science fiction. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

過去30年間、カザフスタンは、SCO、CIS、OIC、CICA、EAEU、テュルク評議会といった国際組織の首脳会議など、最高レベル参加者が集うイベントを数多く主催してきました。2017年には、カザフスタンの首都でアスタナ国際博覧会(Expo2017)も開催しました。

カザフスタンは「誠実な仲介者」として国際社会で高い評価を得ています。例えば、カザフスタンのマルチ・ベクトル外交の成果として、シリア内戦を解決するための和平交渉がカザフスタンの首都で始まりました。この「アスタナプロセス」を通じて、シリアの政府当局と武装反体制派の双方が、イラン、ロシア、トルコという3つの保証国の代表とともに、カザフスタンで初めて交渉のテーブルにつき、以後協議は20回に及びました。

カザフスタンの外交が評価されているさらなる証左は、我が国の代表が主要な国際機関や機構で重要な役割を担っていることです。例えば、2011年から13年にかけて、カシム・ジョマルト・トカエフ現大統領は、国連事務次長およびジュネーブ事務所長を務めました。18年から22年にかけて、バグダット・アムレーエフがチュルク諸国機構事務総長を務めました。現在、アスカル・ムシノフはOIC副事務総長、カイラト・サリバイはCICA事務総長、カイラト・アブドラフマノフはOSCE少数民族高等弁務官を務めています。

LP: 世界規模で宗教間対話を推進するうえでの、世界伝統宗教指導者会議の役割と意義について詳しくお話しください。

ヴァシレンコ:世界伝統宗教指導者会議は、2003年にカザフスタンの首都アスタナでカザフスタンのイニシアチブによる始まりました。その主な使命は、世界中のさまざまな宗教指導者間の対話、理解、協力を促進することにあります。

このイニシアチブでは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、道教、その他多くの伝統信仰を含む世界の宗教を代表する多様な宗教指導者が一堂に会します。この多様性が、豊かな議論のための宗教的信念と実践の包括的な表現を保証しているのです。

会議は3年ごとに開催され、宗教間対話のための一貫したプラットフォームを提供しています。これにより、平和と相互理解を促進するための議論を継続し、戦略を進化させることが可能となるのです。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

会議での議論は、神学的、教義的な問題に限定されるものではありません。この宗教間対話ではテロリズムや過激主義、暴力的な目的のための宗教の悪用など、今日の世界的な課題を取り上げることも少なくありません。そうすることで、宗教の教えを現代的な文脈の中に位置づけ、宗教的原則の歪曲に反対する集団的な姿勢を促しているのです。国際的に広範な参加を得ることにより、会議の決議、宣言、討議は世界的な広がりを持つことになります。会議は、他の地域や地方の宗教間イニシアティブの道標として機能し、複数のレベルでの宗教間対話の重要性を強調します。

この会議における極めて重要な成果のひとつは、異なる宗教的伝統間の相互尊重の醸成にあります。互いの違いを認めつつ、共通の利益のために超越されるプラットフォームを提供することで、会議は宗教的偏見や誤解を減らす役割も果たしています。

Photo: The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions was held in Astana on 14–15 September 2022 Credit: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Photo: The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions was held in Astana on 14–15 September 2022 Credit: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

この宗教観対話イニシアチブが目指す最終的な目標は世界平和の促進にあります。対話と相互理解を通じて、会議は宗教的対立と緊張を緩和し、宗教が団結、平和、建設的発展の力となるよう望んでいます。

2022年9月にアスタナで開催された第7回会議には、ローマ法王フランシスコ、カイロのアルアズハル大学の総長で同モスクのグラントイマームであるアフマド・アル・タイーブ師、イスラエルの首席ラビなど、著名な宗教指導者が参加しました。

会議は、世界規模で宗教間対話を推進する上で極めて重要な役割を果たしています。この取り組みは、相互の結びつきが強まる一方で、宗教的な誤解や誤った解釈という課題にも直面している今日の世界における、相互尊重と理解の重要性を強調しています。

LP:トカエフ大統領は、カザフスタンの豊かな文化的・宗教的多様性について言及しています。この多様性は、カザフスタンの宗教間対話や協力へのアプローチにどのような影響を与えていますか?

ヴァシレンコ:カザフスタンの豊かな文化的・宗教的背景が、この宗教間対話と協力に対するカザフスタンのアプローチを形成する上で、重要な役割を果たしてきた。

欧州とアジアの結節点に位置するカザフスタンは、歴史的に文化、民族、宗教の交差点でした。この地域を通るシルクロードは、貿易だけでなく、思想や信仰の交流も促進しました。この地域では、何世紀にもわたって、イスラム教、キリスト教から仏教、シャーマニズムまで、さまざまな宗教的伝統が共存してきました。

今日、カザフ人の多くはイスラム教徒(主にスンニ派)を自認していますが、ロシア正教徒、プロテスタント、カトリック、さらに仏教徒、ユダヤ教徒、その他の宗教の信奉者などのコミュニティーも存在します。このような多様性から、これらのグループ間の相互尊重と調和を促進する統治アプローチが必要とされてきました。

Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times
Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times

カザフスタン憲法は国家の世俗性を強調し、いかなる宗教も他の宗教を支配したり、他の宗教の権利を侵害したりすることができないようにしています。この世俗的な枠組みは、さまざまな宗教共同体が国家の干渉を受けずに共存し、信仰を実践する場を提供してきました。

カザフスタンは、その宗教的多様性の価値を認識し、国内外での宗教間対話の促進に積極的です。世界伝統宗教指導者会議は、この大義に対するカザフスタンのコミットメントの証です。この世界的なイベントを主催することで、カザフスタンは宗教間対話の仲介者、橋渡し役としての役割を強調しています。

カザフスタン国内のさまざまな教育プログラムやイベントは、我が国の宗教的多様性の歴史と価値を強調しています。国内に存在する様々な宗教的伝統について若い世代を教育することで、カザフスタンは相互尊重と相互理解の感覚を育むことを目指しています。

トカエフ大統領のリーダーシップの下、カザフスタンは一貫して宗教的寛容政策を強調してきました。このアプローチは、トップダウンの指示だけでなく、歴史的に多民族・多宗教社会で暮らしてきたカザフスタンの人々の文化的精神に根付いています。

カザフスタンの宗教間対話へのコミットメントは、その外交努力にも表れています。カザフスタンは、他国や国際機関との交流において、宗教的寛容と対話の重要性を頻繁に強調しています。

カザフスタンの豊かな文化的・宗教的多様性は、宗教間の対話と協力に対する積極的で包括的なアプローチの原動力となっていいます。カザフスタンは、多様性を課題と捉えるのではなく、むしろ強みとして受け入れ、その立場を活かして、国内だけでなくグローバルな舞台でも平和、理解、協力を促進しているのです。(原文へ

INPS Japan/ London Post

この記事は、London Postに初出掲載されたものです。

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