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最大の課題に取り組むカギを握る市民の関与

【カトマンズ(ネパール)IDN=シモネ・ガリンベルティ】

人類が直面する最も困難な課題に立ち向かうための最良の手段のひとつが、過小評価されたままであることに、どれほど驚かされることか。

私が言っているのは、対処を迫られている最も困難で緊急な問題に取り組む上で、市民参加が果たすべき役割についてである。 気候変動から社会の二極化まで、私たちはまさに岐路に立たされている。

地域社会の行動を通じて人々をひとつにすることは、私たちの地球、私たちの文明が、この先何十年、何百年と存続し、繁栄していくための最良の対策となりうる。

あまりに悲観的に聞こえるかもしれないが、これは私の本意ではない。その代わりに私が意図しているのは、世界の政治指導者たちと市民社会のメンバーが、「南」の開発途上国でも「北」の先進国でも、市民活動への投資がいかに不可欠であるかを理解するための警告としてこれを発しているのである。

しかし残念なことに、その重要性が理解されているとは言いがたい。

今年9月にニューヨークで開かれたSDGサミットはそのことを無視した。これはきわめて残念なことだ。なぜなら、市民の関与、それに関連して、活動の最も目に付く形態である市民のボランティア活動が、SDGを実行し、さらに重要なことには、それを地域に根付かせるうえで、最強のツールとなるからだ。

こうした無視はなぜ起こってしまったのだろう。おそらく、ボランティア活動があまりに当たり前のものと受け取られ、(あやまって)コストのかからないものとみなされ、その理念が実際には促進されていないからなのだろう。

おそらく、これはブランディングとマーケティングの問題でもあるのだろう。

ボランティア活動

ボランティア活動という言葉自体、発音しにくいし、人々、特に若者の間で「売り込む」のはさらに難しい。要するに、市民参加やボランティア活動が認知され、重要視されるのを妨げている要因が重なっているのだ。

このような 「衰退」 の最も深刻な帰結は、ボランティア活動が政策立案者にとっての優先事項とは程遠いことである。なんということか!

おそらく、この問題に世界的な注目を集めるための世界的に著名な人物が必要なのだろう。

この大義を受け入れる準備ができている現職の政府首脳はいるのだろうか?現役や引退したスポーツ界のスターはどうだろう?市民参加を再び活性化させる世界的なキャンペーンに、社会のあらゆる階層の元リーダーたちが参加したらどうだろう?

市民の関与の重要性が理解されれば、変革の主体について語ることができるようになる。

例えば、世界の相当数の若者たちが私たちの生活や消費のやり方を大きく変えようとしているが、あまりに多くの人々がそれを座視している。

積極行動主義(アクティビズム)

ボランティア活動を実践する方法であるアクティビズムは、あまりにも「急進的」であり、一般の人々が一歩踏み込んで役割を果たすことを要求していると見なされがちだ。

これは、ボランティア活動がどのようにして具体的な形を成すのかについて広範な誤解があるためだろう。実際は、それを実践し経験する唯一の方法などないのだが。

人間には多くの可能性と選択肢があり、その中の一部には自分に向いたものもある。しかし、このトピックに関しては、多くの混乱と無視があり、あるいは単にそこから目を背けようとする態度もある。

市民の関与とボランティア活動に関する誤解を解く努力が極めて重要なのはそのためだ。この数か月間、国際ボランティア協会(IAVE)はこの点で有益な貢献を成してきた。

「若者のボランティア活動と社会変革:課題と可能性」と題し、最近終了した連続ウェビナーは、若者の間でボランティア活動を強化する実践的な方法について議論する貴重な場となった。

このワークショップで得られた大きな成果の一つは、若者の人格的・職業的成長を促すリーダーシップのツールの一つとして、ボランティア活動の力を借りる重要性が示されたことだ。

このプロセスを促進する方法は、模範を示すことである。しかし、ボランティア活動を推進する世界的な組織は、若者を参加させてはいるが、形だけであることが少なくない。

市民の関与

ボランティア活動的な政策を背景とした意思決定における意味ある経験を若者たちに与えることが優先されるべきだ。そうすべき理由はきわめて単純明快だ。

SDGs logo
SDGs logo

広範な包括的概念としての市民参加と、先に述べたように、奉仕のさまざまな様式を展開する緩やかな概念としてのボランティア活動は、実際、行動を起こし、選択する力と関連づけられるべきである。

ボランティア活動は、ホームレスの世話をしたり、科学的根拠に基づく植樹を通じて地域の生物多様性を保全したりと、満たされない緊急事態に対応する現場での直接的な行動となり得る。

しかし、地方自治体に時間やエネルギー、ノウハウを与えて、社会的包摂や貧困撲滅、持続可能性の促進を図らせる手段でもある。

私たちは、SDGsを含むアジェンダ2030が、地域から始まる市民行動によって支援され、後押しされることを知っている。ある意味、社会レベルでの市民の関与は、その多様性において、意思決定のあり方に革命をもたらす直接的な道筋となりうる。

とりわけ、地方議会での予算決定において市民に力を与えることが念頭にある。

2020年、国連ボランティア計画(UNV)は、ボランティア活動を世界的な議論の中心に据えることで、ボランティア活動を再構築し、再始動させるための大規模な世界的活動を行った。いわゆるグローバル・テクニカル・ミーティング(GTM)は、ボランティア活動の力を活用するためにどうすればもっとうまくいくかを考え、考察するユニークな場を提供した。

この事業から生まれた「行動への呼びかけ」は、ボランティア活動を次のレベルに引き上げるための新しいアイデアや解決策を真に「加速」させる希望と約束を提供した。

残念なことに、GTMで沸き起こった盛り上がりから3年経った今も、大したことは起こっていない。ボランティア活動は、グローバル・アジェンダの形成という点で、あるべき姿にはまだほど遠い。

私たちの共通の課題

グローバルな多国間制度を再び強化しようとする国連のアントニオ・グテーレス事務総長の取り組みは希望をもたらすかもしれない。事務総長が世界ビジョン実現に向けた議論に道を開くために作成した『私たち共通の課題(Our Common Agenda)』は、意思決定における若者の意味ある参加に焦点を当てている。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

そこには、政府に対して「地方、国、地域、そして世界レベルで、意思決定への有意義な若者の参画に強くコミットし、基本原則に基づく有意義な若者の参画のための世界基準を承認する」ことも求めている。

2024年に開かれる「未来サミット」はこの改革の帰結とみなされるか、また、市民の関与とボランティア活動の役割と貢献を認知する大胆な方策を取れるだろうか、とグテーレス事務総長は疑問を呈している。

Summit of the Future

今週、市民セクターの主要な組織を代表する政策主唱団体であるIAVEとフォーラムIDSが新たな政策報告書を発表した。

報告書は、今月後半にクアラルンプールで開催予定の「国際ボランティア協力機構(IVCO)フォーラム」での議論に供するために、挑戦的な枠組みを提示している。

『変革主体としてのボランティア新世代』と適切にも題されたこの報告書は、ボランティア活動のもつ変革の力をめぐって議論を展開することの価値を高めている。

この本の著者が答えようとしている重要な問いの一つは、「若者のボランティア活動を促進するためには、どのような環境を整えればよいのだろうか?」というものだ。

この答えは、クアラルンプールでのわずか数日の議論で見つかるものでもないし、市民活動に関与し情熱を傾けている私のような「いつもの連中」の議論だけで見つかるものでもない。

そしてこれこそが真の難題なのだ。いかにして「パイ」を拡大し、市民の関与が社会で果たす役割について関心を持たない人びとをどうやって巻き込むのか、ということだ。

市民の関与をグローバルな論議の中心にまで持っていこうとするならば、ひとつの絶対的に重要な問題がある。すなわち、力を行使することのできる人々に接近するということだ。政策決定者と政治家は、あらたな市民ルネッサンスのエンジンとしての市民参画を促進する真にグローバルな取り組みの焦点とならねばならない。(原文へ

※著者は「エンゲージ」「よいリーダーシップ、あなたと社会にいいこと」の共同創設者。

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核実験被害者の声

【国連IDN=タリフ・ディーン】

1週間に及ぶ核兵器禁止条約締約国会議の間に開かれたあるサイドイベントで、創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長は、過去2カ月間、イスラエルとガザ地区との間で大規模な暴力が発生し、ウクライナでも紛争が続いていることから、「核兵器が実際に使用される危険性 」が高まっていると警告した。

こうした状況にもかかわらず、NPT再検討会議では最終声明が採択されず、2026年NPT再検討会議第1回準備委員会会合では「議長要旨」を出すことすら初めてできなかった。

Aigerim Yelgeldy, a third-generation survivor, speaks at the panel during the screening of "I Want To Live On". Credit: Naureen Hossain
Aigerim Yelgeldy, a third-generation survivor, speaks at the panel during the screening of “I Want To Live On”. Credit: Naureen Hossain

さらに11月には、ロシア政府が包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する決定を発表し、核軍縮の大義にとって深刻な後退となったと指摘した。

こうした現実が、12月1日に閉幕するTPNW第2回締約国会議の開催をより重要なものにしており、核軍縮・廃絶の機運を再び盛り上げる重要な機会となっている。

核禁条約の前文は「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)が受けた又はこれらの者に対してもたらされた容認し難い苦しみ及び害並びに核兵器の実験により影響を受けた者の容認し難い苦しみに留意し、」と述べている。

このサイドイベントでは、「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」と題するドキュメンタリーの先行上映会も開かれた。「国際安全保障政策センター」(CISP、カザフスタン)、創価学会インタナショナル(SGI、日本)、カザフスタン共和国国連代表部、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が共催した。

ドキュメンタリーは、セミパラチンスク核実験場の被害者第三世代であるアイゲリム・イェルゲルディに焦点を当てている。

サイドイベントでは、CISPのアリムジャン・アクメートフ代表とカザフスタン政府を代表してアルマン・バイスアノフ外務省国際安全保障局長が発言した。

寺崎総局長は、「カザフスタン政府を代表して登壇されたアルマン・バイスアノフ氏に感謝を申し上げる」とお礼の言葉を述べた。

「2026年NPT再検討会議第1回準備委員会会合に引き続き、カザフスタン政府と国際安全保障政策センターのご支援をいただき、核実験被害者に関するサイドイベントを開くことができた。全ての関係者に感謝を申し上げたい。」

寺崎総局長はまた、「今日は、CIPSが制作しSGIが支援したドキュメンタリー『私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク』の初上映となる。核実験被害者の声を記録し、核兵器の非人道性と愚かさを強力かつ効果的に伝えるものとなっている」と述べた。

「かつてセミパラチンスクとして知られていた核実験場の、荒涼とした広大さを見渡したことを覚えている。そこで引き起こされた恐るべき被害を直接に聞いた衝撃は、私自身ずっと忘れることがないだろう。」と寺崎総局長は語った。

核兵器をめぐる議論はえてして、核抑止論を初めとして、抽象的な政治的性格を帯びたものになりがちだ。

「このドキュメンタリーは、核兵器がもたらす脅威と被害の実相を伝えるものであり、人々の生きた現実と経験に焦点を戻すのに役立つと思います。そのため、私はこのドキュメンタリーが貴重な教育ツールになると確信している。」

I Want To Live On: The Untold Stories of the Polygon. Documentary film. Credit:CISP

「核兵器のない世界」への道はいばらの道であるからこそ、核兵器が人類社会に必要であるとか、安全で安心な社会を築くための基礎になるなどという現在の思い込みに異議を唱えるために、世界中の人々が声を上げることが重要だ、と寺崎総局長は主張した。

寺崎総局長は、SGIはグローバル・ヒバクシャの苦しみについて一般への啓蒙活動を続け、TPNW第6条と第7条で求められている被害者支援と環境修復を推進していく。今回の発表で伝えられた人々の真の声はこの取り組みにおいてきわめて重要な価値を持つ、と指摘した。

「核兵器の脅威と、それが引き起こす非人道的な被害について一般の人々に情報を提供し続け、核軍縮へと世界の流れを変えるよう、本日ご出席の皆様に呼びかけたいと思います。」(原文へ

INPS Japan

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核外交の歴史における画期、アイゼンハワー大統領の「平和のための原子力」演説から70年

【リオデジャネイロIDN=レオナム・ドスサントス・ギマラエス】

1953年12月8日、米国のドワイト・D・アイゼンハワー大統領が、後世に語り継がれることになる演説を国連総会で行った。この「平和のための原子力」演説は、原子力とその応用に対する世界の見方を決定的に変えた。アイゼンハワーは演説で原子力の平和利用へのビジョンと、原子力国際協力の促進について述べたのである。2023年、核科学の力を人類の利益のために利用する必要性を強調したこの象徴的な演説から70年を迎える。

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

この演説の歴史的な文脈は決定的だ。米国は第二次世界大戦末期に広島・長崎に原爆を投下し、核時代の始まりを画した。世界は原子力に伴う危険を明確に意識し、冷戦は激しくなっていた。核兵器は力の象徴となり、人類生存への脅威となっていた。欧州をナチスドイツから解放する作戦で連合国軍を指揮した第二次世界大戦期の著名な将軍であったアイゼンハワーは、原子力の破壊力について理解していたが、それが民生にもたらしうる潜在的力を見据えてもいた。彼の演説は、原子力の平和利用へのコミットメントを強調することで歴史の道筋を変えようとする試みであった。

「平和のための原子力」演説の中心的な考え方は、核に関する知識と技術を、それが非軍事的な目的である限りにおいて、他国と共有するというものだ。アイゼンハワーは、単に脅威としてだけではなく、世界を利する機会を与えるものとして、原子力の潜在能力を捉えていた。

アイゼンハワーはこの演説で、原子力が善への力となるような世界のビジョンを示した。原子力技術の平和利用を管理し、国際協力を推進する機関の創設を提案した。そして、諸国の経済的な発展と福祉を促進し、人類にあまねく進歩をもたらすために、核をめぐる知識が共有されねばならないことを強調した。

アイゼンハワーの演説はまた、核軍縮の重要性と核兵器拡散を制御する必要についても述べていた。核エネルギーが平和目的にのみ使用されるようにする取り組みに加わるように諸国に求め、これは10年少し経ってから核不拡散条約(NPT)の成立につながった。

IAEA
IAEA

アイゼンハワーの演説は1957年の国際原子力機関(IAEA)創設につながった。原子力の平和利用を促進し、それが軍事目的に使われないように監視する役割を与えられた機関である。IAEAはそれ以来、世界各地での核活動を監視・規制する上で重要な役割を果たし、NPT締約国の公約を検証することで核兵器の拡散を予防することに貢献してきた。

「平和のための原子力」演説から70年を迎える中、この70年における原子力の平和的応用の長足の進歩に着目することが重要だ。「原子力の平和利用」概念は、大気中に有害なガスを発生することなく、医療や産業、農業、クリーン発電、さらには、淡水化や現在「ブルー」を呼ばれる水素などのさまざまな生産プロセスにおける熱利用のための原子力利用に光を当てた。これは、現在のエネルギー移行や気候変動の緩和に決定的な意味を持つ。

原子力の応用は、例えば癌の放射線治療のような先進的な医療技術の発展につながったり、様々な疾病の診断や治療のための放射性同位体の生産を可能にしたりしてきた。食物への放射線照射技術は、食品物流網における損失を大幅に減らしてきた。これらの技術は、医療・手術用機材の殺菌や、美術品の保存にすら応用されてきた。

さらに、核エネルギーは多くの国で主要な電源となり、フランスやスロバキア、ウクライナのような国々では50%以上の電力を生産し、エネルギー源の多様化とエネルギー安全保障に寄与している。

小型モジュール炉(SMR)は、鉄鋼やアルミニウム、セメントなどの産業のための直接的な熱利用や、合成燃料の生産など、発電以外の利用と組み合わせたコジェネレーションへの道を開いた。さらに、海洋(海底への固定式、あるいは浮遊式)や宇宙空間(ロケット推進燃料や発電)といった遠隔地での発電ユニットとしても利用可能だ。

また、宇宙船に搭載したり、月や火星のような地球に近い天体に固定することもできる。加えて、非炭素型発電を伴ったデータセンターを必要とするデジタル化や人工知能の発展を加速させ、途中で阻害されることなくきわめて高い信頼性と継続性をもった電力使用が可能となっている。

Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons
Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons

アイゼンハワー演説70年を迎えたいま、彼の遺産と、それ以降にみられた進歩を振り返ることが重要だ。IAEAは、世界各地で核活動を監視する重要な役割を果たし続け、原子力安全と国際協力を促進している。核エネルギーの平和的応用は、生活の質を向上させ、科学の発展を促進することで、人類に利益を与え続けている。

しかし、核エネルギーの利用に伴う難題を忘れてはならない。原子力安全や放射性廃棄物管理の問題、核兵器の拡散は、依然として世界の重要問題だ。国際協力の必要性と核技術の責任ある応用を頭に置いておかねばならない。

アイゼンハワー大統領の1953年の演説は、我々の未来を形作る科学技術の力について強力な警告を与えたものだ。彼は我々に対して、核エネルギーを責任をもって利用し、核兵器の脅威をもって特徴づけられる世界において平和を求めることを促している。今日、我々はこのビジョンを尊重し、人類全体の利益のために核エネルギーの平和利用を促進するとの約束を再確認する。

70周年にあたって、我々は「平和のための原子力」演説の遺産をあらためて振り返り、核エネルギー平和利用へのコミットメントを再確認しなくてはならない。アイゼンハワー大統領の演説は、核エネルギーがエネルギー移行における役割を拡大しつづける中で、平和や安全、協力を促進するインスピレーションを与え続けている。

究極的には、アイゼンハワーの「平和のための原子力」は、責任と国際協力という原則にコミットして初めて、科学技術を人類の福祉のために利用しうることを思い起こさせる。この演説は、核外交の歴史における重要な画期でありつづけ、核をめぐる知識を平和と開発のために利用して、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成することの重要性を指し示していると言えよう。(原文へ

※著者は、ブラジル工学学士院の会員(原子力・海軍工学)であり、ブラジル海軍の原子力推進プログラムで「エレトロニュークリアSA」社の社長を務める。

INPS Japan

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戦争と核兵器: 本末転倒の論理

意図的であれ、事故であれ、核攻撃は絶対にあってはならない(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

【国連INPS Japan/IDN=タリフ・ディーン

世界の核保有国のうちの2つ、ロシアとイスラエルが2つの壊滅的な紛争に巻き込まれている今、両国を覆う軍事的緊張が、意図的あるいは偶然的に核攻撃を引き起こすのではないかという懸念が残る。

「それこそ、あってはならないシナリオです。」と警告するのは、創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長だ。SGIは、平和・文化・教育を促進する1200万人の仏教徒の多様なコミュニティーであり、国際連合の諮問資格を有するNGOである。

IDNとのインタビューの中で、寺崎総局長は、国連、国際機関、市民社会といったすべての関係者が、このようなことが決して現実にならないよう、多くの努力を払ってきたし、これからもそうしていかなければならない、と語った。

「いうまでもなく、それぞれの危機の背景や状況は異なり、一概に論ずることはできませんし、核兵器をめぐる言説は慎重かつ自制的であるべきでしょう。」と指摘した。

インタビューの全文は以下のとおり。

IDN:世界の核保有国の2つ、ロシアとイスラエルが、ウクライナとハマスという隣国と戦争状態にある。両国を覆う軍事的緊張が、ある段階で核攻撃を引き起こす可能性はあるのだろうか?

寺崎:それこそ、あってはならないシナリオです。絶対にそうならないために、関係者も、国連も、諸々の国際機関も、市民社会も、多くの努力を尽くしてきたし、今後もそれを続けなければなりません。

いうまでもなく、それぞれの危機の背景や状況は異なり、一概に論ずることはできませんし、核兵器をめぐる言説は慎重かつ自制的であるべきでしょう。

イスラエルは事実上の核兵器保有国といわれますが、その保有を宣言してはいません。先日も、同国の閣僚が核兵器について発言し、それに対してネタニヤフ首相が、現実からかけ離れていると述べ、その閣僚を当面、閣議に出席させないこととしたと報じられています。

ガザ地区をめぐる軍事衝突においては、すでにあまりにも多くの一般市民の命が犠牲になり、街は破壊され、日常生活は蹂躙されてしまいました。憎悪が憎悪を呼び、分断が深まっており、日々、深く憂慮しています。これ以上の悲劇を生まないよう、まず戦闘の人道的一時停止、人道・救命支援を強く求めます。

また、ウクライナ危機においては度重なる核兵器使用の威嚇がなされ、今年のG7広島サミットに先立ち池田大作SGI会長は、リスク低減のために、核兵器国が核兵器の先制不使用を誓約することで、各国が安全保障を巡る“厳しい現実”から同時に脱するための土台にすることができると訴えました。SGIは、これをテーマにしたサイドイベントを、NPT再検討会議第1回準備委員会においても他団体と共同で行いました。しかし、残念なことに、その後も、核軍縮のための国際規範がさらに崩される事態に直面しています。

人類は、破滅に向かう深淵を、まざまざと見ている。だからこそ、選択すべき未来へ、正しい一歩を踏み出し、持続可能な世界を築いていかねばなりません。

私たちは常に被爆の実相を想起し、グローバル・ヒバクシャの声を心に留め、核兵器がいかに非人道的で壊滅的な結末をもたらすかを直視しながら、危機に対処すべきでしょう。

私たちは、ラッセル・アインシュタイン宣言を今一度、心に刻みたい。「私たちは人類の一員として、同じ人類に対して訴えます。あなたが人間であること、それだけを心に留めて、他のことは忘れてください。それができれば、新たな楽園へと向かう道が開かれます。もしそれができなければ、あなたがたの前途にあるのは、全世界的な死の危険です」

国連は平和の担い手か?

IDN:ご存知のように、国連は主に、一方では中国とロシア、他方ではアメリカ、イギリス、フランスなどの西側諸国が新たな冷戦を繰り広げているため、この2つの紛争に決着をつけることに失敗している。その結果、国連も安全保障理事会も麻痺したままになっている。平和の担い手としての国連にまだ期待していますか?

寺崎:おっしゃる現状認識や懸念は、よくわかります。ただ私は、かつての東西冷戦のような二項対立というよりも、現在の世界は多極化しており、それぞれの国の思惑や立場が違うことも感じています。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

2年前にグテーレス国連事務総長が発表した『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』においても、マルチラテラリズム(多国間主義)の再活性化が取り上げられ、グローバルな連帯の再構築、政府と市民社会の協働が強調されています。ことしの国連総会に際して事務総長は「深い分断は存在していますが、私たちは前進を遂げています」と語り、来年の未来サミットに向け取り組みを強化していくと述べました。

主要国間の対立は深刻ですが、グローバルサウスや新興国の存在感も重みを増す中、多国間の対話の回路を確保することが、いやまして求められます。一方で、先住民や脆弱な立場の人々、周縁化された人や難民・避難民にも、もっと光を当てなければなりません。

要するに、多国間の合意形成の場として、国連は、より強化され、より活性化されなければなりません。そのためには、女性や青年、また市民社会による意思決定の過程への関与を高め、市民社会の声が届く国連、市民社会が支える国連になっていくことが、変革への推進力になるのではないでしょうか。

もとより、国連には安全保障理事会の機能不全など積年の課題があり、不断の改革が必要であることは事実です。そのうえで、世界の各地でさまざまな脅威に苦しむ人々がいる限り、国連が掲げた”言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う”(国連憲章前文)との崇高な使命は変わらないでしょう。

193カ国が加盟する最も普遍的な機関である国連を除いて、国際協力の礎となり、その活動に正当性を与えられる存在を他に求めることは、事実上、困難ではないでしょうか。

冷戦の影響

IDN:新たな冷戦は、遅かれ早かれ、国連の主要な役割である長年の核軍縮運動にも悪影響を及ぼすのでしょうか?

UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri

寺崎:現在の世界における対立を、新冷戦という言葉で定義すべきか否かは別として、混迷の度を増すそうした対立が、国連が進めるべき核軍縮に大きな悪影響をもたらしていることは、明らかです。

昨年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議では最終文書が採択できず、次の2026年の再検討会議に向けた、ことし7−8月の第1回準備委員会では、議長総括が公式記録として残らない異例の事態となりました。加えて、この11月頭にロシアが包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回を決定したことは、まさに核軍縮に逆行するものです。それだけに、11月末から12月にかけて行われる核兵器禁止条約(TPNW)の第2回締約国会議は核軍縮への流れを強める、極めて重要な機会といえましょう。

逆説的にいえば、核兵器の威嚇と核使用の恐れが一向に消えることのない危機が、かつてないほど長期化しているからこそ、核軍拡の流れを核軍縮へともどし、核廃絶へ向かうための、歴史の転換点にしていかなければなりません。

Hibakusha testimonies | Keiko Ogura | Hiroshima Credit: Soka Gakkai

核兵器禁止条約の前文には、「核兵器の使用の被害者(ヒバクシャ)及び核兵器の実験により影響を受ける者にもたらされる容認し難い苦しみと害に留意し」と明確に刻まれています。

私たちSGIは、ことし、G7広島サミットで首脳たちに直接、被爆の実相を語った小倉桂子さんの英語による被爆証言を収録・公開し、青年世代をはじめ世界に伝えました。

「原爆のキノコ雲の下では、誰一人、生き延びることはできない」(Under the mushroom cloud, nobody could live.)ーーとの実体験からの証言は非常に説得力のあるメッセージとなりました。

Credit: CISP

さらにカザフスタンの核実験被害者の証言映像「I want to live on」を、まもなく開催される核兵器禁止条約第2回締約国会議 のサイドイベントでローンチする予定です。(予告編のリンク

「核兵器の壊滅的な結末は、十分に対応することができず、国境を越え、人類の生存、環境、社会経済開発、世界経済、食糧安全保障並びに現在及び将来の世代の健康に重大な影響を及ぼし、及び電離放射線の結果によるものを含め女子に対し均衡を失した影響を与えることを認識し」と核兵器禁止条約の前文にあるとおり、とくに将来の世代のためにも、核軍縮、核廃絶の運動を、今こそ強化したいと決意しています。 

IDN: 1945年の広島と長崎への原爆投下は、世界のみならずアジアでも最悪の人的災害のひとつである。しかし今日、世界の核保有国9カ国のうち4カ国はアジアの国である–中国、インド、パキスタン、そして北朝鮮である。これは奇妙な偶然ではないだろうか。そして、インドとパキスタン、インドと中国の間の長年の領土問題や政治的紛争が、将来核戦争に発展する可能性はあるのだろうか?

寺崎:直近のデータでは、世界に約12500発あるとされる核弾頭のうち、約90%は米露が保有しています。その一方、推定によれば、過去10年で、中国は160発、インドは64発、パキスタンは60発、北朝鮮は少なくとも30発、核弾頭を増加させたと見られます(RECNA〈長崎大学核兵器廃絶研究センター〉調べ)。中国はNPTに加盟している核兵器国(NWS)ですが、インドとパキスタンはNPTに加盟しておらず、北朝鮮は一方的にNPTからの脱退を宣言しました。最近、北朝鮮は核兵器の先行使用も辞さない姿勢を示しており、国際社会は非難しています。

また、中国、インドは先制不使用の方針を示しており、これにパキスタンが加わり、その原則が確立されれば、南アジアの安定に寄与するとの研究もあります。

実際のところ、核戦争が起こる可能性は小さいと思われますが、偶発的な危機を避ける上でも、より戦略的安定性を築き、信頼醸成を推し進めていくことが重要です。その意味で、市民社会の多角的な交流や、意識啓発がその土台となると考えます。

戸田平和研究所が他の研究機関と共同発表した一連の政策提言の中で、中国・インド・パキスタンの核のトリレンマとリスク低減策の必要性を取り上げました。

信仰に基づく団体の役割

IDN:核軍縮を推進し、紛争地帯での核攻撃を防ぐために、SGIのような反核活動家や信仰に基づく団体は、現状においてどのような役割を果たすことができるのでしょうか?

寺崎:私は、この1年あまりの間に、カザフスタンでの世界伝統宗教指導者会議(2022年9月)、宗教者らが集うバーレーンでの対話フォーラム(2022年11月)に仏教者の一人として参加しました。地球的問題群をめぐり、率直に意見を交わし、知恵を分かち合う経験に、未来への希望の光を感じました。

そのいずれにも出席していたローマ教皇フランシスコ、イスラム教スンニ派の最高指導者であるアル=アズハルのグランド・イマーム、アフマド・アル・タイーブ両名の名で2019年に出された共同文書「世界平和と共生のための人類の兄弟愛」に、こうありました。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

「宗教は戦争をあおることも、憎しみ、敵意、過激主義を募らせることも、暴力や流血を招くこともないと、断固として宣言します。こうした惨事を招いたのは、宗教の教えからの逸脱、宗教の政治利用であり、歴史の一時期に一部の宗教グループ──宗教的感情が人々の心に与える影響を悪用して、宗教の真実とは無関係な行いへと誘導し、世俗的で近視眼的な政治的・経済的目的をかなえるようにした者たち──による解釈の結果なのです」

今、人類が直面している危機は、一部の人だけで解決することはできません。核兵器をめぐる問題も、気候正義への取り組みも、境界を超え、違いを超えた、同じ人間としての協働が、事態打開の鍵になると私は深く確信しています。

一般市民の人命が奪われる事態に、一刻も早く終止符を打つための道を見出す。

人間性の名において、壊滅的な非人道的な結末を回避する。

そして、人と人を結び、理解し合い、苦しんでいる人に寄り添って、誰一人、置き去りにしない。そして、誰もが自分らしく輝いて、多様な生を享受できる世界をつくる――そのために、信仰を基盤とする団体は、国連をはじめ国際社会において、また、市民社会の草の根の意識啓発において、協働して、多くの役割を果たせるに違いありません。

Photo: Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.
Photo: Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

11月15日に95歳で逝去した池田SGI会長が、最後に発した提言がG7広島サミットに寄せたものでした。その中で、次のように述べています。

――“闇が深ければ深いほど暁は近い”との言葉がありますが、冷戦の終結は、不屈の精神に立った人間の連帯がどれほどの力を生み出すかを示したものだったと言えましょう。

今再び、民衆の力で「歴史のコース」を変え、「核兵器のない世界」、そして「戦争のない世界」への道を切り開くことを、私は強く呼びかけたいのです――

この言葉を胸に、諦めない勇気を携えて、協働の道を進んでいきたいと思います。(原文へ

INPS Japan

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すべての子ども、すべての権利のために-危機的な影響を受けた子どもたちに心理社会的支援を届ける

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ

国際社会が「世界子どもの日」を迎えるにあたり、イスラエルによる激しい砲撃と軍事作戦によって1万1000人以上が死亡し、その40%が子どもであるガザ地区の子どもたちを含め、すべての子どもたちに権利が保障されるべきである。

「国際人道法と学校保護宣言に基づき、民間人、特に子どもたち、学校、学校関係者は保護されなければならない。この紛争で私たちが目にしているのは、地球上で最も人口密度の高い地域を襲う爆弾、攻撃される学校やその他の民間インフラ、そして全住民が安全な逃げ場がなく、最も悲惨な状況に追い込まれている現実です。生き残った子供たちは、傷ついたり、孤児になったり、親しい家族や親戚を失ったりしています。想像を絶する恐怖が目の前で繰り広げられているのです。」と、緊急事態や長期化する危機における教育のための国連グローバル基金である「教育を後回しにはできない基金(Education Cannot Wait)」のヤスミン・シェリフ事務局長はIPSの取材に対して語った。

Executive Director Yasmine Sherif. Education cannot wait
Executive Director Yasmine Sherif. Education cannot wait

「ガザで起きていることに、子どもたちが備えることはできないし、備える必要もありません。子どもたちや青少年は傷つき、トラウマを抱えています。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によると、10月の初期評価では、少なくとも91%の子どもたちが急性ストレスとトラウマの兆候を示しており、メンタルヘルスと心理社会的支援(MHPSS)を必要としています。」

国連によると、ガザ地区では人口の半分近くを子どもが占めている。攻撃が続く中、625,000人以上の生徒と22,564人の教員が影響を受けている。少なくとも86%の校舎は、避難民のためのシェルターとして使用され、収容人数の4倍にまで達しているか、或いは既に破壊されている。

ノルウェー難民評議会(NRC)のベター・ラーニング・プログラムのグローバル心理社会的支援責任者であるカミラ・ロディ氏は、IPSの取材に対し、戦争が子どもたちに与える影響は壊滅的であると語った。

「紛争、戦争、強制移住を経験すると、子どもたちは個人的、継続的な生命の危機にさらされ、暴力とその影響を常に目の当たりにすることになります。このようなトラウマ的出来事に長期間晒されると、トラウマの処理が複雑になるリスクが高まります。戦闘がなくなると、高レベルのストレスやトラウマを経験した子どもや大人にとって、回復へのプロセスが始まります。メンタルヘルスと心理社会的支援(MHPSS)は贅沢なものではなく必需不可欠なものです。平常心を取り戻すのに役立つのです。」とロディ氏は語った。

心理社会的支援プログラムに取り組んでいる。簡単に言えば、子どもたちは元気で安全でないと学ぶことができないのです。MHPSSは、すべての緊急教育プログラムに組み込まれるべき、必要かつ不可欠の介入です。ベター・ラーニング・プログラム(BLP)は、NRCを代表する教室ベースの心理社会的支援介入であり、トラウマや強いストレスを経験した子どもたちの学習能力の回復を支援します。」

このプログラムは、ウクライナ、スーダン、パレスチナなど33カ国で子どもたちの未来に投資し、10年以上にわたって緊急かつ長期的なクリティカルケアと心理社会的支援を提供する最前線に立ってきた。ロディ氏は、「MHPSSは危機や緊急事態において非常に重要です。」と強調した。

シェリフ事務局長は、「この高レベルのストレスサイクルの中で家庭や学校が荒廃し、生き残った子どもたちが生涯にわたって深刻な精神衛生上の問題を抱える危険性があります。」と強調した。衰弱し、慢性的な不安や鬱病、様々な程度のトラウマに悩まされる生活が、紛争や危機の渦中にいる2億2400万人以上の子どもたちや青少年に待ち受けている。

緊急事態や長期化する危機の影響を受けている40カ国以上の子どもたちの教育プログラムを支援している「教育を後回しにはできない基金」は、2020年以降、MHPSSをすべての国レベルの投資の中核的な要素に含めている。これには、NRCのベター・ラーニング・プログラムへの支援も含まれる。

「ECWは、生徒と教師の心の健康が学習の基盤であることから、生徒と教師の心の健康を守り、促進するために、MHPSSを優先してきました。私たちは、メンタル・ヘルスと心理社会的支援サービスのために、リソースの少なくとも10%を投資する目標を持っています。」とシェリフ事務局長は語った。

ECWはこのほど、UNRWAとユニセフを支援し、ガザ地区の子どもたちに命を救うメンタルヘルスと心理社会的支援を提供するため、1000万ドル(12カ月)の助成金を拠出すると発表した。

「ガザ地区は特に、執拗な暴力の連鎖によって定義される人道的大惨事に陥っています。ベター・ラーニング・プログラムの過去の調査によると、悪夢や睡眠障害で助けを求めた1093人の生徒(6~17歳)が、週平均4.57日、平均2.82年の期間、トラウマ性の悪夢を繰り返したと報告しています。」とロディ氏は語った。

「私たちは常に、不作為の代償について話しています。特に暴力とトラウマの連鎖の永続化についてです。紛争が終結すると、子どもたちへの苦痛と心理的影響が始まり、もしそのまま放置されれば、生涯にわたって続くことになります。このようなネグレクトは、教育や発達の歩みを遅らせる結果にもなり、精神衛生上の障害に罹りやすくなるのです。さらに、平和の安定剤である地域社会とのつながりの感覚も損なわれます。また、医療費の増加や長期的な生産性の低下により、経済的・財政的な影響も大きいのが現実です。」

A funeral procession for two children killed in the Israeli attacks on Gaza. Credit: Mohammed Omer/IPS
A funeral procession for two children killed in the Israeli attacks on Gaza. Credit: Mohammed Omer/IPS

ロディ氏は、大人の争いの代償を子供が払うべきでないと強調し、安全感と予測可能性を再確立し、子供たちが安全な環境でレクリエーション的な遊びや教育活動を再開し、「緊急事態、逃避モード」にある身体を安全に休めることができるようにするためには、停戦が急務であると強調した。

「ガザの壊滅的な人道的状況を放置することはできません。すべての当事者は、国連憲章、国際人道法、普遍的人権を尊重しなければならない。私は、国連の同僚たちとともに、即時人道的停戦を求めています。」とシェリフ事務局長は語った。

「魂を打ち砕くような人間の苦しみを止め、安全を取り戻さなければ、国際社会としての私たちの道徳的な立場は、今日、そしてこの先何世代にもわたって、若い世代から問われることになるだろう。『すべての子ども、すべての権利のために』をテーマとするこの『世界子どもの日』に、私たちは危機に瀕した子どもたちにどのような約束をすればいいのだろうか。2億2400万人以上の危機的状況にある子どもたちを含め、世界のあらゆる場所にいる子どもたちは、その苦難にもかかわらず、そして特に苦難だからこそ、あらゆる権利と約束が提供されるに値するのです。」とシェリフ事務局長は語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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国連人権理事会構成国選出:ロシアは落選、中国は辛勝

【国連IDN=タリフ・ディーン

国連の人権理事会(ジュネーブ、構成47カ国)は、193カ国から成る国連総会の選出した構成国の中に「抑圧的体制」や「権威主義国家」を含めているということで長らく批判されてきた。

10月10日に行われた秘密投票では、中国やブルンジ、キューバを含む15カ国が新たに選出された。しかし、ウクライナを侵攻したことで国連憲章違反の非難を受けているロシアは選ばれなかった。

中国とロシアは、英国・米国・フランスと並んで安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国である。

保護する責任に関するグローバルセンター」は、選挙直後に出した声明で、ブルンジや中国の選出は人権理事会の信頼性を貶めるものだと警告した。

「人権理事会に選出された国は、すべての国連機構への全面的な協力を含め、最高水準の人権へのコミットメントを示すことになっている。」

Photo: UN Geneva
Photo: UN Geneva

これらは国連総会決議60/251で提示された条件である。カメルーンやエリトリア、アラブ首長国連邦、スーダンをを含むいくつかの人権理事会構成国によって、国内外で潜在的な集団残虐犯罪が行われているという事実も深く憂慮される、とグローバル・センターは述べた。

「普遍的・定期的レビュー」など、人権理事会が義務づける調査メカニズム、特別手続、条約機関、人権高等弁務官事務所(OHCHR)が提供する事務的支援はすべて、人道に対する罪、民族浄化、戦争犯罪、ジェノサイドにつながる危険要因を早期に警告し、その再発を防止するための勧告を提供する上で不可欠な役割を果たしている。

「グローバル・センター」はまた、新たに選出された核人権理事国のプロフィールをまとめたと発表した。これによって、人権の擁護・促進によって大規模な加害の予防にこれらの国々がどれだけコミットしているのかが概観できるようになる。

『国連人権理事会構成国選挙(2024~26)と「保護する責任」』へのリンク

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの国連ディレクター、ルイシャルボノーは、「ロシアと中国は大規模な虐待を連日繰り返し、国連人権理事会の構成国としては不適格であることを見せつけてしまった。」と選挙の直前に語った。

「人権理事会に参加する国の中で、人権に関して問題のない国はないが、人権理事会の一員になるには基準があり、ロシアと中国はそれを無視している。」と指摘した。

人権侵害国に居場所はない

国連加盟国は、最悪の人権侵害国は人権擁護機関にふさわしくないことを世界に示すべきだ、と彼は主張した。

Farhan Haq, UN Deputy Spokesperson. Photo: UN
Farhan Haq, UN Deputy Spokesperson. Photo: UN

国連のファルハン・ハク副報道官は、中国の人権理事会理事国選出を巡る論争について問われ、「人権理事会に参加しているすべての国々は、自国の人権を評価するために自国の記録を公開する義務を負っている。完璧な人権状況の国など存在しないのは確かだが、それぞれの国で人権状況を向上させることができるこうした評価を経ることに前向きになってもらう必要がある。したがって、加盟国によって人権理事会に選出されたすべての国はそこにいる権利を得たということだ。人権理事会にいる間は人権を尊重する姿勢を示し、実証する必要がある。」と語った

「国際人権サービス」(ISHR)は10月10日の声明で「ロシアは、どのように努力をしたとしても、人権理事会での地位を停止されてから1年となる来年1月に理事会に戻ることはないだろう。国連総会の加盟国が、2024年から26年までの間に理事となる15カ国のうちのひとつにロシアを選ばなかったことを喜ばしく思う。」と述べた。

この投票によって、各国は総会決議60/251に沿った投票を行い、国際人権システムを弱体化させようとするロシアの大胆な試みを阻止した。」と、ISHRニューヨーク事務所の共同責任者であるマデリーン・シンクレアは語った。

「ロシアは、ウクライナにおける数々の犯罪と、国内での市民社会や個人の自由に対する冷酷で長期にわたる弾圧について説明する責任がある。国連の最高人権機関においてロシアに場所を与えないと国連加盟国が合意したことに安堵している。」とシンクレアは語った。

10月10日、国連総会は人権理事会の15の構成国を選出した。票数は以下のとおり。

4席あったアフリカでは、ブルンジ(168票)、コートジボワール(181票)、ガーナ(179票)、マラウィ(182票)が選出された。

アジア太平洋諸国では、中国が154票、他にインドネシア(186票)、日本(175票)、クウェート(183票)。

東欧諸国ではアルバニアが123票、ブルガリアが160票を獲得した。ロシア連邦は83票で、選出されなかった。

ラテンアメリカ・カリブ地域では、144票を得たブラジル、キューバ(146票)、ドミニカ共和国(137票)で3席が埋まった。ペルーは108票で選外となった。

西欧・その他の2席は、153票を集めたフランスと、169票を得たオランダとなった。

今回選出された15カ国は、2024年1月1日から26年12月までの3年間が任期となる。

「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のシャルボノーは、アジア地域では中国が最も少ない票数で選出された事実を指摘した。

「もしアジアでのみ競争が行われていたら、中国は勝てなかっただろう。それこそが起こるべきことだった。国連の選挙で競争が行われることの重要性を示している。」

一方、総会決議60/251の第7項に従い、理事会は47の加盟国で構成され、国連加盟国の過半数による無記名投票で直接かつ個別に選出される。

47の構成国は「平等な地理的配分」を基礎とし、議席は各地域に次のように配分されている。

アフリカ:13

ラテンアメリカ・カリブ地域:(8)

東欧:6

西欧・その他:7

任期は3年で、二期連続務めたら次期には立候補できない。

国連総会決議60/251及び65/281と決定75/402に従って、人権理事会構成国の任期は1月1日に始まることになっている。(原文へ

INPS Japan

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パキスタンのキリスト教徒 :闘争と差別の影にある少数派

【ロンドンINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

アスラム(60歳)は、パンジャブ州の州都ラホールに住むキリスト教徒の衛生職員である。彼はパキスタンの人口の2%にも満たないコミュニティーに属しているが、国内のゴミ収集人や清掃人の80%を占めていると推定されている。この職業は社会的に卑しいものとされ、この仕事に携わるキリスト教徒はしばしば「チュラ」と呼ばれる。このレッテルは社会的認識に根付いているため、より良い仕事に就いているキリスト教徒でさえ、未だに「チュラ」と見られている。

アスラムは正式な教育を受けたことがなく、両親も4人の子供たちもそうだった。これはパキスタンの多くの貧しい家庭に共通する状況で、彼らは生きていくために幼いうちから子供たちを働きに出さねばならない。正義と平和のための国家委員会の報告書によれば、パキスタンのキリスト教徒の識字率は、全国平均の45.56%に対し、僅か34%である。ラホールには、英国統治時代にキリスト教宣教師によって設立された教育機関が数多くあることを考えると、これは驚くべきことである。

これらの教育機関はパキスタン独立後も長年にわたって質の高い教育を提供し、現在もキリスト教コミュニティーによって運営されている。このような教育機関があれば、ラホールのキリスト教徒の識字率も向上しただろうと予想されるが、そうではないようだ。

苦難や差別に直面しているにもかかわらず、アスラムは謙虚で明るい人物だ。人生を前向きにとらえ、自分の仕事に誇りを持っている。アスラムがゴミを集めに家を訪れると、人々は敬意を持って接してくれるという。「コップ一杯の水を頼むと、甘い飲み物をくれるんだ」と彼は笑顔で語った。

しかし、社会におけるキリスト教徒に対する人々の一般的な態度について尋ねると、一転して慎重で深刻な面持ちとなった。アスラムは、国内でキリスト教徒に対する暴力が増加していることは認識しているという。特に今年8月、イスラム教徒の暴徒がキリスト教徒の教会や企業、家を襲撃したジャランワラ事件を懸念していた。暴徒は冒とく疑惑に激怒し、26の教会とキリスト教徒の所有する多くの家屋に放火した。アスラムはこの事件で幸運にも家族に被害はなかったが、暴徒がジャランワラの平和なキリスト教徒社会に与えた破壊と恐怖について語った。

この問題について別の視点を得るために、私は教育を受けたキリスト教徒の青年に取材した。彼は24歳で、医学の学位を取得したばかりで、現在は国際試験の勉強をしている。彼の両親はともに教育を受け、現役で働いている。

職場や社会団体、教育機関などで差別を受けたことがあるかという質問に対して、彼は「そういった場ではあまり差別を受けたことはない。」と答えた。

パキスタンにおけるキリスト教徒の苦悩は何かという質問には、かなり間を置いてから答えた。彼は厳粛な面持ちでパキスタンでキリスト教徒であることは厄介な問題だと続けた。この国ではキリスト教徒は常に誰かを怒らせないように注意する必要があり、宗教的な観点からだけでなく、とかく小さな意見の相違がエスカレートして危険なものになりかねないからだ。彼はまた、誰とも宗教の話をしないようにと両親から忠告を受けていることを打ち明けた。彼は、パキスタンのマイノリティは非常に賢く、誰と何を話すかを注意深く選ばなければならないという意見で、「経済的にも精神的にも満足するには海外に移住するしかない。」と強調した。

次の質問は、国内のキリスト教徒の全体的な地位について満足しているかというものだった。彼は、自分自身は医学生であり、懸命に努力してそこまで来たし、他の人々と同じような機会もあったと語った。彼は、キリスト教徒の現状を他人のせいにはしなかった。彼は、キリスト教コミュニティーの人々が、平等な機会と広大なミッションスクールのネットワークを持っているにもかかわらず、学校に行き学位を取得することに熱心でないことに失望しているようだった。

Map of Pakistan. Wikimedia Commons

この特定のコミュニティーに対する教会襲撃やその他の暴力行為についての質問に入る前に、問題をよりよく理解するために背景を知っておくことは有益だろう。冒涜法はイギリスによって導入され、1860年から存在している。パキスタンはこれらの法律を継承し、1980年から86年にかけて、国を根本的にイスラム化しようとする試みの中で、これらの法律をより厳しくした。預言者ムハンマドを冒涜した場合、死刑または無期懲役に処するという条項が上記の法律に挿入された。

この若い医師は、自分のコミュニティに対する暴力の高まりのせいで、パキスタンではとても安全だとは感じられないと認めた。彼はまた、2015年に彼の親族が爆撃されたユハナバードの教会にいたと語った。彼は、「教会への攻撃について議論したわけではないが、罪のない人々が公正な裁判を受けずに殺されるのは苦痛だ。」と主張した。「誰かがイスラム教に無礼を働けば罰則があるが、誰かが他の宗教に無礼を働いても罰則はない。彼はまた、親しいキリスト教徒の友人が神を冒涜した罪で不当に拘束されたが、幸運にも、彼を保証する教授と一緒にいたため無罪となった出来事についても話してくれた。

その若いキリスト教徒はまた、強制改宗が何度もあり、イスラム教徒になるよう迫られたこともあったが、それを断ったことも明かしてくれた。

キリスト教徒は、家や通りの清掃から新しい世代の教育まで、パキスタンの社会基盤に多くの貢献をしてきた。彼らの奉仕と権利は、社会と国家によって認められ、尊重されるべきである。もし彼らがますます脆弱で不安定になっていると感じるなら、それは緊急に対処すべき深刻な問題の兆候である。(原文へ

INPS Japan

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│パキスタン│紛争地の子どもたち

エジプトにおけるパレスチナ難民の複雑な力学: 微妙なバランス感覚

【ニューヨークINPS Japan/ATN=アハメド・ファティ】

難民の苦境が続くなか、エジプト政府がガザ地区からの難民受け入れに消極的な問題は慎重に検討すべき点である。表面的には、エジプトが躊躇するのは、①難民受け入れに伴う経済的な課題、②シナイ半島北部におけるハマスのテロ活動に対する懸念、③ムスリム同胞団との歴史的なつながりなどが複合的に絡み合っているためと考えられる。エジプトの姿勢をよりよく理解するためには、ヨルダン、レバノン、チュニジア、クウェートなど近隣諸国におけるパレスチナ難民の複雑な歴史を掘り下げ、彼らの行動がエジプトの立場にどのような影響を与えてきたかを知る必要がある。

エジプトの厳しい経済状況

エジプトが難民の受け入れに消極的であることを理解するためには、同国が現在も経済的に苦境にあることを認識する必要がある。多くの人口を抱え、限られた資源しかないエジプトは、高い失業率や広範な貧困といった多くの課題に直面している。ガザからのパレスチナ難民の流入は、間違いなくすでに限られた資源を圧迫し、エジプト政府にとって困難な課題となるだろう。そのため、特に経済が不安定な今、政府は自国民の安寧を優先せざるを得ない。

シナイ半島北部におけるハマスのテロ関与

パレスチナの政治・軍事組織ハマスがガザ地区で大きな存在感を示している。ガザ地区の正当な政府として国際的な承認を得ているが、テロとの関連から、依然として論争の的となっている。エジプトは政情不安が続くシナイ半島北部で長年テロと反乱に悩まされてきた。ハマスがこの地域の過激派グループを支援しているという指摘もあり、問題はさらに複雑になっている。この地域の治安と安定に対するエジプト政府の懸念は、この地の複雑な勢力図を考えれば本物である。

ムスリム同胞団との歴史的関係

エジプトでは、政治的・宗教的に大きな影響力を持つムスリム同胞団と長く複雑な歴史がある。ムスリム同胞団は、エジプト国内で勢力を拡大した時期もあれば、弾圧された時期もあった。ムスリム同胞団とイデオロギー的なルーツを共有するハマスが、問題をさらに複雑にしている。エジプト政府は、ハマスやムスリム同胞団との複雑な関係をうまく調整しながら、国内の治安を維持するという微妙なバランスをとらなければならない。

歴史的な前例

エジプトの消極的な姿勢をよりよく理解するためには、近隣諸国のパレスチナ難民の歴史も検証する必要がある。

ヨルダン:黒い九月事件(虐殺)

1970年代初頭、ヨルダンはパレスチナ解放機構(PLO)がヨルダン政府と衝突した「黒い9月」と呼ばれる激動の時代を経験した。この紛争は深刻な内紛を引き起こし、パレスチナ人戦闘員の国外追放を促した。ヨルダンの歴史におけるこの悲劇的な章は、パレスチナ難民の統合をめぐる複雑さを思い起こさせるものである。

レバノン:内戦へのパレスチナ人の関与

1975年に勃発したレバノン内戦では、パレスチナ難民キャンプが戦場となった。パレスチナ人諸派が紛争に深く関与し、彼らの存在がすでに不安定だった状況を悪化させた。レバノン内戦は、相当数の難民が内戦に巻き込まれた場合に起こりうる事態を端的に示す例となった。

チュニジア:治安リスクとアブ・ジハード暗殺事件

チュニジアにおけるパレスチナ難民の存在は、事件と無縁ではなかった。1988年、PLO幹部のアブ・ジハードがチュニスで暗殺された。この事件は、著名なパレスチナ人の受け入れに伴う潜在的な安全保障上のリスクを示した。この事件は、難民が国際紛争に巻き込まれた際に各国が直面する課題を浮き彫りにした。

クウェート:サダム・フセインの侵攻に対するパレスチナの支援

パレスチナとクウェートの関係で最も重要な出来事のひとつは、1990年のサダム・フセインのクウェート侵攻に対するPLOの支援である。この支持によって、40万人近いパレスチナ人がクウェートから追放された。このスタンスによる結果は、この地域におけるパレスチナ難民の認識に影響を与え続けている。

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

このような歴史的事例に照らせば、エジプトがパレスチナ難民に警戒心を示すのも理解できる。エジプトは、大規模なパレスチナ難民を受け入れる際に生じうる複雑な課題と潜在的な安全保障上のリスクを目の当たりにしてきた。

結論として、エジプトがガザ地区からの難民受け入れに消極的なのは、経済的な困難、シナイ半島北部における治安への懸念、近隣諸国におけるパレスチナ難民の歴史的背景など、多面的な問題が影響している。難民に対する思いやりと支援は不可欠な価値観であるが、パレスチナ難民を受け入れてきた国々の複雑な現実と過去の経験を考慮することも同様に極めて重要である。エジプトのアプローチは、人道的な懸念と自国の安全保障や経済的な課題との微妙なバランスを取りながら、このような広い文脈の中で見る必要がある。(原文へ

INPS Japan

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「報道の自由」は重要だが、ピークは過ぎたのだろうか?(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

【トロントIPS=ファルハナ・ハクラーマン】

石油の市場最高値(ピーク)が最初に取り上げられ、次いでガス、金などがピークに達した。まるで、監禁されたスーパーマーケットでトイレットロールをパニック買いするように、世界は天然資源を使い果たしているかのようだ。しかし、私たちは今、「報道の自由」についてもすでにピークを過ぎているのか心配すべきなのだろうか。

私たちは既に下り坂を滑り降り、「報道の自由」がピークに達した瞬間がバックミラーに映っているということはないのだろうか?

国連総会が制定した「世界報道の自由デー」は、今年5月3日に30回目の誕生日を迎えた。

Farhana Haque Rahman

この重要な機関(=報道組織)の状態を測定することは厳密には科学的なものとはいえないが、パリを拠点とする非営利のメディア監視団体「国境なき記者団」(RSF)は毎年、徹底的な調査報告書(原文では「報道の自由」抑圧を病気に例えて「診断書」と表現している)を作成している。

世界中の「報道の自由」を苦しめている「病気」には共通項があるが、それぞれの地域や大陸で特有の兆候があるようだ。

特にアジアは憂慮すべき状況であり、筋金入りの独裁者が情報の絶対的支配権を争い、「国境なき記者団」が「報道の自由の劇的な劣化」と呼ぶものを行使しているという共通の特徴がある。中国とクーデター後のミャンマー軍事政権は世界最大のジャーナリスト投獄国である。タリバン政権下のアフガニスタンは残酷なまでに抑圧的だ。北朝鮮はまたもやランキングの後塵を拝している。

香港は、中国が強権的な国家安全法を施行したため、「国境なき記者団」のランキングで68位に後退した。ベトナムとシンガポールもメディアへの締め付けを強めている。

ザ・カシミール・タイムズのエグゼクティブ・エディターであるアヌラダ・バシン氏は、最近ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した記事の中で、彼の新聞は「(インドの)ナレンドラ・モディ首相の政策で活動の継続が難しいかもしれない。」と指摘したうえで、「モディ首相の抑圧的なメディア政策は、カシミールのジャーナリズムを破壊し、メディアを威圧して政府の代弁者として機能させ、約1300万人の人口を抱えるこの地域に情報の空白を作り出している。」と記した。

パキスタンは今年、「国境なき記者団」の世界報道の自由度指数で180カ国中157位にランクされた。同国は、1947年以来75年にわたる独立国家としての歴史の半分以上を軍が統治してきた。昨年の報告書では、反対の声を抑圧した世界の指導者のリストとともに、「国境なき記者団」はイムラン・カーン元首相を「報道の自由の捕食者」の一人として挙げた。

2018年に可決され、ジャーナリストや活動家などに適用されたバングラデシュのデジタルセキュリティ法に見られるように、抑圧は法律の体裁を纏っている。日刊紙「プロトム・アロ」のジャーナリストが拘束された2日後、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官はバングラデシュに対し、デジタルセキュリティ法の適用を直ちに停止するよう求めた。

アジアが冷酷で非人道的でありうるのに対し、一部のラテンアメリカ諸国では、無法と社会の分断により、ジャーナリストにとって最も危険な場所となっている。メキシコとハイチがその先頭を走っている。ジャーナリスト保護委員会によれば、2022年には少なくとも67人のジャーナリストとメディア関係者が殺害され、2021年に比べて50%近く増加した。ロイター・ジャーナリズム研究所が発表した調査によると、ラテンアメリカでは30~42人のメディア関係者が殉職している。

メキシコのシウダー・ファレスにある調査報道機関「ラ・ベルダッド・ファレス」の共同設立者であるジャーナリストのロシオ・ガジェゴス氏は、状況は絶望的で複雑であり、暴力が起こりやすい状況が拡大しているだけでなく、ジャーナリストやジャーナリズムに対する社会からの支援が少なくなっている。」と語った。

ガジェゴス氏のような勇気ある記者や、ミャンマーの恐ろしい内戦を取材する地下市民ジャーナリストたちは、私たちを鼓舞し、「報道の自由」という理想の存続に希望を与えてくれている。

しかし、皮肉にも「報道の自由」の発祥の地である欧米で、自国の大企業やメディア王が率いるメディアの信頼性が恐ろしく毀損していることに、私たちは危機感を感じざるを得ない。

2020年の米国大統領選挙の結果をめぐり、フォックス・ニュース(その他)が意図的に陰謀説を垂れ流したことは、ドミニオン・ヴォーティング・システムズが起こした名誉毀損訴訟で明らかになった。フォックスは7億8700万ドルの損害賠償で和解した。周知のように、その嘘は些細なものではなかった。2021年1月、ドナルド・トランプ支持者の暴徒が連邦議会議事堂を襲撃した結果、5人が死亡した。

民主主義国家が繁栄するためには真実を伝えるメディアが必要だが、多くのメディアが92歳のルパート・マードック氏とその一族の後継者争いに焦点を当てたのは、そうでなかったことを物語っていた。

フォックス・ニュースは、事実が陰謀の邪魔をしない、パフォーマンス・メディアという劇場における究極のメインストリーム・プレイヤーであり、おそらく今後もそうあり続けるだろう。

最近のバズフィードのニュース部門(ピューリッツァー賞受賞)の消滅も、ひとつの時代の終わりを告げるものと見ることができる。 創設者のジョナ・ペレッティ氏が、質の高いオンラインニュースには持続可能なビジネスモデルが存在しないかもしれないと指摘したことは警鐘ととらえるべきだろう。

ソーシャルメディア・プラットフォームが陰謀論や国家による偽情報の曖昧な坩堝となっているこの潜在的に有害な組み合わせに加え、私たちは今、ChatGPTという破壊的な新時代と向き合わなければならない。

西側諸国における報道の分極化と、超大国間の紛争における報道の武器化は、非常に有害な傾向である。ロシアによるウォール・ストリート・ジャーナル紙のエヴァン・ガーシュコビッチ記者の逮捕や、中国による台湾の出版社李燕河の拘束は最近の例である。2024年の米国大統領選挙でバイデンとトランプが再戦する可能性があり、中米関係の危険な悪化は、メディアの分極化と武器化の両方を悪化させる恐れがある。

Press freedom watchdogs say the arrest of Wall Street Journal reporter Evan Gershkovich is a sign of the Kremlin’s greater intolerance of independent voices.
Press freedom watchdogs say the arrest of Wall Street Journal reporter Evan Gershkovich is a sign of the Kremlin’s greater intolerance of independent voices.

石油のピークについては、世界はすでにその時点を過ぎている可能性があり、経済学者たちは化石燃料の需要が頂点に達したのが2019年かどうかを議論している。この歴史的な転換には多くの理由があるが、とりわけ再生可能エネルギーなどの代替エネルギーが安価になってきていることが挙げられる。

しかし、自由で健全な社会の活力源である自由で健全な報道機関に代わるものは何だろうか。その代わりが私たちの周りにあることは明らかだが、それは良いものではなさそうだ。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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|ロシア|包括的核実験禁止条約批准取り消しに非難集まる

【国連IDN=タリフ・ディーン

包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を取り消すとの10月18日のロシア議会の決定に対する厳しい批判が集まっている。

潘基文元国連事務総長は、ロシア議会によるCTBT批准取り消しの決定直後に出した声明の中で、「これによって国際的な軍備管理枠組みはさらに損なわれ、核実験に対する世界的なタブーが破られる危険が高まった。困惑している。」と語った。

Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

「私は、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会の元委員長として、CTBTの締約国となっていないロシアやその他6つの核保有国に対して、核実験再開への措置を採ることのないように求める。」

「国際的な緊張が強まり、核紛争の脅威が高まっている時代にあって、核保有国のすべての指導者は対話と関与を促進しなくてはならない。」

「これこそが核のリスクを管理し、グローバル規範のさらなる劣化を防ぐ唯一の手段だ。」と潘氏は述べた。同氏は現在、故ネルソン・マンデラ氏が2007年に創設し、年長の政治家、平和活動家、人権擁護者であった公人の国際的な非政府組織である「ザ・エルダーズ」の副議長を務めている。

国際通信社ロイターは10月6日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核実験再開の可能性を示し、CTBT批准の取り消しへと速やかに向かうことを示唆したと報じた。

プーチン大統領は、それによって自身が核のボタンを押すことになる条件を示した核のドクトリンに変更の必要を認めないが、核実験再開の必要があるかどうかについて今のところコメントできないと述べたとされる。

プーチン大統領は、「米国はCTBTに署名しながら批准していないのだから、ロシアは同条約の批准を取り消すことになるかもしれない。」と語った。

ニューヨーク・タイムズの10月8日付紙面では、プーチン大統領が、ロシアは原子力推進巡航ミサイルの実験に成功したと述べる一方で、CTBT批准を取り消す可能性をちらつかせていると報じた。

他方、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、CTBT批准を取り消したロシア議会の法案は、条約の検証体制や履行機関との協力に関する条項を盛り込んでいる、と指摘した。

ICAN
ICAN

同法は、条約を批准した2000年の国内法の第1条を廃止した。2000年法は、CTBTを批准し、国際監視システムやCTBTOとの協力を規定したものだ。

1996年に採択されたCTBTはすべての核実験を禁止する初の国際法だ。条約は署名国187、批准国178を数えるが、その批准が条約発効の条件となっている国のうち8カ国(中国・北朝鮮・エジプト・インド・イラン・イスラエル・パキスタン・米国)が未批准のため、未だ発効していない。

ICANのメリッサ・パーク事務局長はロシアの動きを批判してこう述べた。「ロシアは今すぐに無責任な決定を取り消すべきだ。CTBTや核兵器禁止条約を含めた国際条約は、人々の健康を破壊し永続的な放射能汚染をまき散らしてきた核実験が再開されないためにきわめて重要な役割を果たしている。ロシアは、CTBTへのコミットメントを取り戻し、CTBTや核禁条約に参加していない国は緊急に参加すべきであると訴えたい。」

米国のやり方を模倣する

ICANは、ロシア議会の動きは、同国のウラジーミル・プーチン大統領がCTBT脱退を示唆した直後になされたと指摘した。プーチン大統領は10月6日、CTBTに関連して、「米国のやり方を模倣すること」が望ましいとの見解を示していた。米国は条約に署名しているが批准していない。こうしてロシアは条約批准を取り消した。

Vladimir Putin. Photo: ЕРА
Vladimir Putin. Photo: ЕРА

プーチン大統領はさらに「これはドゥーマ(ロシア下院)が決めることだ。理論的には批准取り消しもありえる。」と述べていた。

10月9日、ドゥーマの国際関係委員会は、外務省と連絡を取ってCTBT批准取り消しの問題を検討するよう要請されていた。

ICANによれば、ロシアには、ウィーン条約法条約第18条に従って、条約署名国としてCTBTの目標及び目的を損なうような行動を慎む責任が依然としてある。

「核実験は世界中で、人間や環境に壊滅的な影響をもたらしてきた。旧ソ連が北極圏や東欧、アジアで行ってきた数百回に及ぶ核実験は、医療・心理・社会経済的なトラウマを引き起こし、多くの先住民族を居住地から追い出し、放射能で環境を汚染し数世代に及ぶ悪影響を残してきた。」とICANは述べている。(原文へ

INPS Japan

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