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カリブ諸国、「殺人ロボット」禁止へ

【ディエゴ・マーティン(トリニダード・トバゴ)IDN=ピーター・リチャーズ】

カリブ諸国が、「殺人ロボット」とも呼ばれる自律型致死兵器システム(AWS)の禁止に向けた意思を鮮明にしており、15カ国から構成されるカリブ共同体(CARICOM)で共通の方針を策定しようとしている。

AWSは、人工知能を使って人間の介入なしに標的を特定し、選択し、殺害する兵器システムである。カリブ海地域、特に殺人事件の急増に悩むジャマイカ、トリニダード・トバゴ、バハマにとって、AWSはきわめて大きな課題となっている。

メラニー・レジンバル国連軍縮部ジュネーブ事務所長は、この目的は、法律が検討され研究され始めている枠組みを理解することだと述べた。

「この場合、これは特定通常兵器に関する条約であり、条約未加盟のカリブ諸国を条約に加盟させることがここでの目的だ。」とレジンバル所長は語った。

トリニダード・トバゴのリージョナル・アーマー法務長官は、アルゴリズムによって駆動し増殖しつつある自律型兵器を規制する立法についてキース・ロウリー政権に勧告する予定であると示唆している。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca
Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

「もし私の勧告が受け入れられれば、まずは法改革委員会がこれに検討を加え、立法の参考に供されることになろう。」とアーマー長官は語った。

しかし、トリニダード・トバゴだけがこのような動きに出ているのではない。9月5・6両日にポート・オブ・スペインで開催された「特定通常兵器に関する条約の普遍化」に関する会議で、バルバドスやベリーズなどのカリブ諸国が、AWSは、多くの利害関係者による慎重な検討と討論を必要とする「複雑で物議を醸す問題」であると認識しているとの見解が示された。

たとえばバルバドスは、これらの兵器には軍事上の利点をもたらす可能性があるが、その採用には倫理的かつ実際的な重大な懸念も生じると指摘している。

カリブ海諸国の政府高官、国際機関、技術専門家、学界、市民社会組織のメンバーが一堂に会した会議で、バルバドス政府は、「自律型致死兵器をめぐる主要な問題のひとつは、戦闘における重大な意思決定において人間の関与が及ばなくなる可能性があるということだ。」と語った。

ベリーズはすべてのCARICOM加盟国に対して、AWS禁止条約の交渉プロセスを開始するよう求め、「人権を守り、人間の安全を確保し、国際の平和と安全に貢献する基本的責務が我々にはある。」と指摘した。

「ベリーズは、AWSに関して、カリブ地域や国際社会と人道・法律・安全保障面での懸念を共有している。したがって、我が国は、国際法の普遍的な原則と規範に則ったAWSに関する地域的立場に関する宣言を支持する用意がある。」

カリコム犯罪・安全保障問題実施機関創価学会インタナショナル(SGI)、英国の「ストップキラーロボット」が共催した会合での発表で、トリニダード・トバゴは、自律型兵器の無差別使用の可能性によって民間人の生命にもたらされる甚大な脅威を認識し、民間人を保護するために、人間による意味のある管理を維持する必要性を支持すると語った。

「トリニダード・トバゴは、これら兵器が恣意的かつ無差別的に重大な負傷や破壊、生命の喪失をもたらす危険性を強調し、したがって、自律型兵器システムを禁止・規制する新たな法的拘束力のある協定の採択を支持することをあらためて表明する。」

ストップキラーロボット」のキャンペーン・アウトリーチ・マネージャーであるイザベル・ジョーンズは記者団に対して、この10年間国際社会で議論が続いてきたが、「自律的な兵器システムがますます利用され開発されるようになってきており、これは政治指導者や諸政府、国際社会にとって本当に緊急で差し迫った問題だ。」と語った。

SGI国連事務所ジュネーブ連絡所のラムゼイ=ジョーンズ所長は、仏教の理念に基づいて平和、文化、教育の促進に取り組むNGOとして、「私たちは人間の尊厳を信じ、生と死の決定を決して機械に委ねるべきではないと考えている。」と語った。また、「規制がなければ、非国家主体を含め、自律型兵器が世界的に拡散し、地域的に犯罪を増加させ、社会的不平等を悪化させ、各国の資源やインフラを圧迫し、社会や国家の安全を毀損する可能性がある。」と指摘した。

今回のワークショップでは、法的拘束力のある文書を求める声が、90カ国以上、国連事務総長、テクノロジーと人工知能の専門家、宗教指導者、そして世界中の市民団体によって支持されていることが報告された。

討論を締めるにあたって、会議の参加者らは「自律型兵器システムに関するCARICOM宣言」を採択し、国際法を遵守するためにAWSに関する法的拘束力のある措置の合意をあらためて呼びかけ、AWSに関する国際協定とその後の国内立法を協議する際に人間や社会を考慮に入れる必要性を強調した。

宣言は、「戦力の使用に対する人間による意味のある規制が不可欠であるとの認識を支持し、それによってAWSの禁止・規制を盛り込んだ国際的なな法的拘束力のある文書の追求を奨励する」という決意に言及している。

また、AWSに関する法的拘束力のある国際協定創設を最優先し、「不拡散、非国家武装集団やテロリスト集団を含む非国家主体への転用リスク、法執行や国境警備を含む国内の安全保障に対するAWSの課題に関連する問題を考慮する」ことで、関連するすべての適切なプラットフォームを通じて統一した立場を維持することに合意した。

Map of Carribean. Credit: Wikimedia Commons.
Map of Carribean. Credit: Wikimedia Commons.

また、カリコム犯罪・安全保障問題実施機関などの関連主体が、AWSに関して合意された立場を促進すること、そして、人種や民族、国籍、階級、宗教、性別、年齢などの属性を基にしたデジタル差別の問題も含め、拡散の危険、意図しないエスカレーション、倫理的考慮、デジタルの非人間化、AWSに関連したその他の人間・社会的意味合いを諸国が認識すべきことを約束した。

宣言は、カリコム加盟国が「自律型兵器システムに関する多国間協議に有意義に関与し、カリコム諸国の脆弱性を増大させる可能性のある技術格差のギャップを埋める」ことができるようにするため、国際機関、開発パートナー、民間セクター、学界、その他関連する利害関係者に対し、財政的・技術的援助と能力構築のイニシアティブに貢献するよう求めている。(原文へ

※著者は、セントルシア生まれのカリブのジャーナリストであり、カリブメディア社(バルバドス)の上級編集者である。

INPS Japan

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|視点|カザフスタンの宗教間対話イニシアチブ:知恵とリーダーシップで世界の調和を育む(浅霧勝浩INPS Japan理事長)

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

中央アジアの中心部に位置し、豊かな文化的多様性と、多民族社会、精神的伝統で知られるこの国は、近年、世界的な宗教間の調和と相互理解を促進する道標として注目を浴びている。

The 20th anniversary Logo of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions.
The 20th anniversary Logo of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions.

過去20年にわたり、カザフスタンの世界伝統宗教指導者会議は、世界中の多様な宗教間の対話を促進し、団結を築き、平和を訴える中心的な役割を果たしてきた。同国の深い精神的遺産と知恵に根ざしたこのイニシアチブは、国際協力と寛容の象徴へと発展を遂げてきた。その目覚ましい歩みを振り返り、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップの下で進められているこのイニシアチブの未来を展望するとき、このイニシアチブが相互理解を醸成する対話プラットフォームとして、世界の調和と団結を育むために、さらに大きな前進を遂げる用意ができていることは明らかである。

レジリエンスと寛容の歴史

カザフスタンの歴史は、レジリエンス(困難で脅威を与える状況にもかかわらず,うまく適応する能力)、寛容さ、不屈の精神が織り成すタペストリーである。遊牧文明から近代的な多民族・多宗教社会へと移行したこの国は、その過程で数々の試練や苦難に直面した。しかし、カザフスタンの人々は、自らの精神的ルーツとの揺るぎないつながりを維持し、多様で包括的な社会の中で多民族が共に繁栄する道を選択した。

歴史的苦難と精神的レジリエンス

A side -event titled “Addressing victims assistance, environmental remediation, and international cooperation in accordance with the TPNW Article 6-7” was co-organized by The Ministry of Kazakhstan, Permanent Mission of Kiribati to the UN, Nuclear Age Peace Foundation and Soka Gakkai International on June 21, 2022 at Austria Center Vienna Hall D during the First Meeting of State Parties to the TPNW. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri,President of INPS Japan.

歴史を通じてカザフの人々が耐えてきた苦難は、彼らの深い精神性と独自の知恵を形成してきた。ロシア帝国の膨張からソビエト時代の圧政による国土の荒廃まで、カザフの人々は途方もない困難に直面してきた。強制移住政策、大飢饉、カザフの文化的・宗教的アイデンティティの抑圧政策は厳しい現実だった。しかし、これらの試練は、困難の中を耐え忍び、かつ伝統文化や信仰を守るというカザフの人々の集団精神に火をつけることとなった。

信教の自由と寛容

カザフスタンの独立への道のりは、信教の自由と寛容へのコミットメントをもたらした。1949年から89年まで、ソビエト連邦はカザフスタン東部のセミパラチンスク核実験場(日本の四国或いはベルギーにほぼ等しい面積)で456回の核実験を行った。これらの核実験の結果、約150万人が世代を超えた健康被害を被ったと推定されている。このような逆境の歴史にもかかわらず、ソビエト連邦が崩壊すると、カザフスタンはすべての民族の平等と信教の自由(ソビエト政権下では宗教は毒とみなされ弾圧されていた)を保障しただけでなく、セミパラチンスク核実験場の閉鎖と当時世界第4位の核兵器の完全放棄を実現し、ロシアだけでなく西側諸国からも安全保障をとりつけることに成功した。それ以来、カザフスタンは国連の枠組みに基づく、「核兵器のない世界」を提唱する最も積極的な国の一つであり、2024年には第3回核兵器禁止条約(TPNW)締約国会合の議長国を務めることになっている。

文化遺産の保護

遊牧文化の根絶と定住促進を目指したソビエト政府の政策にもかかわらず、カザフの人々はその豊かな文化遺産の保存に成功した。祖先から受け継がれてきた伝統を維持するだけでなく、カザフ人以外の人々の伝統、文化、宗教をカザフ文化と同等に扱う政策を独立国家カザフスタン共和国の憲法に明記した。この先進的なアプローチは、社会の調和を促進し、ソビエト時代のカザフ文化弾圧からの強力な教訓となっている。

世界伝統宗教指導者会議:輝く道標

pope Fransisco(Left)and Kassym-Jomart Kemeluly Tokayev, President of Kazakhstan (Right). Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

2003年にカザフスタンが開始した世界伝統宗教指導者会議は、カザフスタンの深い精神性と知恵の証左である。過去20年間、このイニシアチブは、宗教間の対話を促進し、相互理解を育み、世界平和を推進するための重要なプラットフォームへと成長した。その目覚ましい成功には、いくつかの重要な要因が寄与している:

宗教間の調和:カザフスタンの宗教間の調和と宗教的寛容に対する揺るぎない取り組みが、この会議の原動力となっている。それは、多様な宗教指導者が一堂に会し、それぞれの視点を共有し、より平和な世界を目指して協力し合うためのユニークなプラットフォームを提供している。

平和の促進:対話を通じて平和を推進し、世界的な課題に取り組むという会議のひたむきな姿勢は、宗教の枠を超えた思いやり、愛、非暴力という共通の価値観を強調している。

文化の多様性:カザフスタンの豊かな文化遺産は、イスラム、テュルク、遊牧民の伝統(祖先崇拝やテングリ信仰)の影響を受けており、多様な宗教指導者が集うのに理想的な環境を提供している。こうしで多文化と精神的遺産が融合したカザフスタンには、東洋と西洋、イスラム教とキリスト教、仏教、その他さまざまな信仰体系を橋渡しする議論を育む精神的土壌がある。

中立と外交:国際関係におけるカザフスタンの中立政策(マルチ・ベクトル外交)は、多様な国々から集う宗教指導者らが、政治的やイデオロギー的な圧力を受けることなく、議論に参加することができる中立的な対話の場を提供している。

信教の自由へのコミットメント:カザフスタンは一貫して、国内における信教の自由と寛容へのコミットメントを示しており、会議のミッションの核心にある原則と一致している。

世界の諸課題への取り組み:この会議は、宗教的過激主義、テロリズム、環境問題など、現代のグローバルな課題にも積極的に取り組んでいる。多様な背景を持つ宗教指導者を巻き込むことで、これらの差し迫った問題に対する共通の立場と解決策を模索している。

文化交流:公式の議論に加えて、この会議にはカザフスタンの伝統や芸術を紹介する文化交流、パフォーマンス、展示が行われる。このような豊かな文化的側面は、世界各地から宗教指導者をカザフスタンに惹きつけるイベントの魅力を高めている。

‘Peace Concert’ Presents a Feast of Harmony: The 6th Congress of the Leaders of World and Traditional Religions concluded with an appeal “to all people of faith and goodwill” to unite, and called for “ensuring peace and harmony on our planet”. The event was celebrated with a Peace Concert in which 500 choir singers from five continents of the world took part. Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

トカエフ大統領の未来へのビジョン

カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップのもと、世界伝統宗教指導者会議はさらなる進化を遂げようとしている。大統領は、世界が政治的な不確実性に晒される中、文化や文明間の架け橋がこれまで以上に求められていると認識している。

トカエフ大統領は、今回の事務局会合に先立って寄稿したオピニオン記事において、国際的な緊張の高まりと国連設立以来の世界秩序が毀損しつつある現状認識に言及したうえで、文明間の信頼と対話を強化することの重要性を強調した。その手段として外交が不可欠であると指摘しつつ、宗教指導者は国際安全保障の新しいシステムを構築する上で不可欠な変革の担い手であるという認識を表明している。

伝統宗教指導者の役割

世界人口の約85%が宗教を信仰しており、宗教指導者は世界情勢に大きな影響力を持つ。トカエフ大統領は、人命の神聖な価値、相互扶助、破壊的な対立や敵意の否定など、すべての宗教が共通する原則が、平和に焦点を当てた新しい世界システムの基礎を形成できると確信している。

実践的な貢献

トカエフ大統領は、宗教指導者が世界平和に貢献できる実践的な方法として、紛争後の社会の傷を癒すこと、寛容・相互尊重・平和共存の文化を損なう否定的な傾向を防ぐこと、デジタル技術が社会に与える影響に対処することなどを概説している。また、急速な技術進歩がもたらす諸課題を乗り越えるために、精神的な価値観や道徳的な指針を培う必要性を強調している。

団結と調和の未来

Press Briefing was held at Ministry of Foreign Affairs ahead of the XXI anniversary meeting of the Secretariat of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions on October 11, 2023. The agenda for the meeting includes an exchange of views on the outcomes of the VII Congress of Leaders of World and Traditional Religions. Discussions will also focus on the Concept of Development of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions for 2023-2033. Photo: Ministry of Foreign Affairs of Kazakhstan.
Press Briefing was held at Ministry of Foreign Affairs ahead of the XXI anniversary meeting of the Secretariat of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions on October 11, 2023. The agenda for the meeting includes an exchange of views on the outcomes of the VII Congress of Leaders of World and Traditional Religions. Discussions will also focus on the Concept of Development of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions for 2023-2033. Photo: Ministry of Foreign Affairs of Kazakhstan.

カザフスタンの世界伝統宗教指導者会議が進化を続ける中、分裂が進む世界における「希望の光」としての役割を果たしている。トカエフ大統領の先見的なリーダーシップと宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、多様な宗教間の団結、寛容、協力という明るい未来を約束している。不確実性が増す今日の世界において、カザフスタンの宗教間対話への揺るぎないコミットメントは、精神性と知恵がより平和で調和のとれた国際社会への道を開くことができることを私たちに思い起こさせてくれる。

カザフスタンが激動の過去から宗教間対話の「希望の光」となるまでの道のりは、国民の深い精神性と知恵の証しである。トカエフ大統領のリーダーシップの下、世界伝統宗教指導者会議は、対話の力、相互理解、そして不朽の人間精神を示しながら、世界の調和と団結への道を照らし続けている。(英文へ

INPS Japan

The Astana Times, London Post, Inter Press Service, 世界伝統宗教指導者会議ウェブサイト 

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カザフスタンは現実的かつ平和を志向した「マルチ・ベクトル外交」政策をとっている(ロマン・ヴァシレンコカザフスタン共和国外務副大臣)

第21回世界伝統宗教指導者会議事務局会合を取材するために世界11カ国からアスタナに来訪した国際記者団のメンバーであるロンドンポスト紙のラザ・サイード記者が、ロマン・ヴァシレンコ外務副大臣に、この世界的な宗教間対話イニシアチブの役割や成果、その背景にあるカザフスタン政府が推進する「マルチ・ベクトル外交」についてインタビューを行った。以下はその主な抜粋である。

【アスタナINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

ロンドンポスト(LP):近年、カザフスタンは建設的な平和外交を提唱している国として定評がありますが、貴国の外交政策についてお聞かせください。

ロマン・ヴァシレンコ:カザフスタンの対外政策は、平和を志向し、多方面にわたって現実的かつバランスの取れた外交政策(=全方位外交「マルチ・ベクトル外交」)を特徴としています。この戦略は(カザフスタンがソ連から独立した)1990年代初頭に策定され、以来30年以上にわたって一貫して成功裏に実施されてきました。

Central Downtown Astana with Bayterek tower/ Wikimedia Commons
Central Downtown Astana with Bayterek tower/ Wikimedia Commons

今日、カザフスタンは186カ国と外交関係を維持し、62の大使館と20以上の領事館を含む代表事務所を全大陸に開設しています。また、戦略的パートナーシップ関係は、世界の多くの主要国との間に結ばれています。

「敵ではなく友を得る」ことを目的とした外交戦略は、国の安全と安定を確保する上で重要な役割を果たしています。今日カザフスタンは、世界のどの国とも紛争や未解決の問題を抱えていません。

現実的かつ多方面にわたる外交政策により、カザフスタンは国際社会に溶け込み、可能な限り効果的に国益を促進し、国内の開発問題に取り組むための最適な対外条件を作り出すことに成功しています。これには経済発展も含まれます。カザフスタンは、外国直接投資の誘致という点では、中央アジアにおける紛れもないリーダーであり、この地域の外国直接投資総額の60%を占めています。

カザフスタンは、独立黎明期に策定された路線を堅持しています。カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップの下、カザフスタンは世界舞台での関与を維持・強化するため、外交政策の視野を常に広げる取り組みを進めています。

反核運動のリーダー

カザフスタンの独立は、当時の指導部による史上前例がないいくつかの大きな決断から始まりました。

ソ連が運営していた世界最大規模のセミパラチンスク核実験場は、1991年8月29日、大統領令によって閉鎖されました。この核実験場は数十年間機能し、カザフスタンの大地に深い傷跡を残し、150万人の市民の生活に世代を超えて深刻な影響を与えました。

Kazakh Foreign Ministry has co-organized a series of events focusing on the humanitarian consequences of the use of Nuclear Weapons to support TPNW at UN, Vienna and Astana together with Soka Gakkai International(SGI), a faith based organization from Japan which has participated in the 6th and the 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions. Credit: Jibek Joly (Silk Way) TV Channel

独立後、カザフスタンはもう一つの差し迫ったジレンマに直面しました。ソ連から受け継いだ世界第4位の膨大な核兵器をどうするかという問題です。指導部は、核保有国の地位を自主的に放棄するという現実的な決断を下しました。このことで、国際舞台におけるカザフスタンの権威が高まっただけではなく、特に投資家からの信頼も高まりました。

このような決断は、わが国の外交政策の中核をなす考え方のひとつを確固たるものにしました。今日、カザフスタンは核軍縮・不拡散の世界的な運動のリーダーとして認められています。セミパラチンスク核実験場の閉鎖を記念する8月29日は、国連総会の全会一致の決定により、「核実験に反対する国際デー」として国連カレンダーに刻まれました。また、2016年には、中央アジア非核兵器地帯が設立されました。さらに17年には我が国東部のオスメケンに低濃縮ウラン(LEU)備蓄バンクが開設されました。

カザフスタンは、すべての主要な国際核軍縮・不拡散条約に加盟しています。特に、核兵器禁止条約(TPNW)に最初に署名・批准した国の一つです。

多国間協力

カザフスタンは、国連(1992年3月2日以降)とその専門機関、世界貿易機関(WTO)、国際原子力機関(IAEA)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、上海協力機構(SCO)、イスラム協力機構(OIC)、独立国家共同体(CIS)、集団安全保障条約(CSTO)を含む40以上の国際機関に積極的に加盟しています。さらに、国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)、欧州復興開発銀行(EBRD)といった主要なグローバル金融機関にも加盟しています。

カザフスタン独自の「マルチ・ベクトル外交」の特徴の一つは、主要な国際機関の活動に積極的に参加するだけでなく、対話と協力のための新たな多国間プラットフォームを構築するというコミットメントにあります。

Organization of Turkic States Green (Member States), Pale Blue (Observer States). Credit: Jelican9 – Own work – Eurasia, CC BY-SA 3.0

このしたアプローチの好例として、独立間もない1992年にカザフスタンが国連総会で設立を提唱した「アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)」があります。今日、CICAには28カ国が加盟し、本格的な組織へと変貌を遂げつつあります。

カザフスタンは、旧ソ連邦構成国間の経済協力を大幅に強化した独立国家共同体とユーラシア経済同盟の創設において重要な役割を果たしました。

我が国はまた、実質的かつ影響力のある国家連合「上海協力機構」(中国、カザフスタン、キルギス、インド、イラン、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン)の創立メンバーでもあります。

カザフスタンは、他の国々とともにテュルク評議会の設立を主導し、同評議会は最近テュルク諸国機構へと発展させるなど、国際社会における積極的な姿勢をさらに強固なものにしています。

世界的認知

30数年にわたって、カザフスタンは独立以来一貫して堅持してきたこの外交政策の有効性を認められてきました。

2010年にカザフスタンが欧州安全保障協力機構の議長を務めたことは、我が国が国際社会における責任ある国家としての役割を大きく肯定するものでした。

カザフスタンは、旧ソ連構成国として、またアジアの国として初めて、加盟国が50カ国を超える国際組織の議長国を任されました。カザフスタン外交の最高の成果は、21世紀最初の、そして現在のところ唯一のOSCE首脳会議の開催に成功したことです。このサミットはアスタナ宣言の採択に結実しまし。また、2017年から18年にかけて、カザフスタンは国連安全保障理事会の非常任理事国としてデビューしました。この選挙で、中央アジアの国が初めて安全保障理事会の理事国となりました。この2年間、カザフスタンは、核兵器のない世界の実現、地域紛争と脅威の解決、地域安全保障分野における中央アジアの利益の促進、テロリズムへの対抗など、優先事項を熱心に追求しました。

Expo 2017. “The Sphere” left deep impression on our minds. All this was beyond what we have known from Science fiction. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

過去30年間、カザフスタンは、SCO、CIS、OIC、CICA、EAEU、テュルク評議会といった国際組織の首脳会議など、最高レベル参加者が集うイベントを数多く主催してきました。2017年には、カザフスタンの首都でアスタナ国際博覧会(Expo2017)も開催しました。

カザフスタンは「誠実な仲介者」として国際社会で高い評価を得ています。例えば、カザフスタンのマルチ・ベクトル外交の成果として、シリア内戦を解決するための和平交渉がカザフスタンの首都で始まりました。この「アスタナプロセス」を通じて、シリアの政府当局と武装反体制派の双方が、イラン、ロシア、トルコという3つの保証国の代表とともに、カザフスタンで初めて交渉のテーブルにつき、以後協議は20回に及びました。

カザフスタンの外交が評価されているさらなる証左は、我が国の代表が主要な国際機関や機構で重要な役割を担っていることです。例えば、2011年から13年にかけて、カシム・ジョマルト・トカエフ現大統領は、国連事務次長およびジュネーブ事務所長を務めました。18年から22年にかけて、バグダット・アムレーエフがチュルク諸国機構事務総長を務めました。現在、アスカル・ムシノフはOIC副事務総長、カイラト・サリバイはCICA事務総長、カイラト・アブドラフマノフはOSCE少数民族高等弁務官を務めています。

LP: 世界規模で宗教間対話を推進するうえでの、世界伝統宗教指導者会議の役割と意義について詳しくお話しください。

ヴァシレンコ:世界伝統宗教指導者会議は、2003年にカザフスタンの首都アスタナでカザフスタンのイニシアチブによる始まりました。その主な使命は、世界中のさまざまな宗教指導者間の対話、理解、協力を促進することにあります。

このイニシアチブでは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、道教、その他多くの伝統信仰を含む世界の宗教を代表する多様な宗教指導者が一堂に会します。この多様性が、豊かな議論のための宗教的信念と実践の包括的な表現を保証しているのです。

会議は3年ごとに開催され、宗教間対話のための一貫したプラットフォームを提供しています。これにより、平和と相互理解を促進するための議論を継続し、戦略を進化させることが可能となるのです。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

会議での議論は、神学的、教義的な問題に限定されるものではありません。この宗教間対話ではテロリズムや過激主義、暴力的な目的のための宗教の悪用など、今日の世界的な課題を取り上げることも少なくありません。そうすることで、宗教の教えを現代的な文脈の中に位置づけ、宗教的原則の歪曲に反対する集団的な姿勢を促しているのです。国際的に広範な参加を得ることにより、会議の決議、宣言、討議は世界的な広がりを持つことになります。会議は、他の地域や地方の宗教間イニシアティブの道標として機能し、複数のレベルでの宗教間対話の重要性を強調します。

この会議における極めて重要な成果のひとつは、異なる宗教的伝統間の相互尊重の醸成にあります。互いの違いを認めつつ、共通の利益のために超越されるプラットフォームを提供することで、会議は宗教的偏見や誤解を減らす役割も果たしています。

Photo: The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions was held in Astana on 14–15 September 2022 Credit: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Photo: The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions was held in Astana on 14–15 September 2022 Credit: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

この宗教観対話イニシアチブが目指す最終的な目標は世界平和の促進にあります。対話と相互理解を通じて、会議は宗教的対立と緊張を緩和し、宗教が団結、平和、建設的発展の力となるよう望んでいます。

2022年9月にアスタナで開催された第7回会議には、ローマ法王フランシスコ、カイロのアルアズハル大学の総長で同モスクのグラントイマームであるアフマド・アル・タイーブ師、イスラエルの首席ラビなど、著名な宗教指導者が参加しました。

会議は、世界規模で宗教間対話を推進する上で極めて重要な役割を果たしています。この取り組みは、相互の結びつきが強まる一方で、宗教的な誤解や誤った解釈という課題にも直面している今日の世界における、相互尊重と理解の重要性を強調しています。

LP:トカエフ大統領は、カザフスタンの豊かな文化的・宗教的多様性について言及しています。この多様性は、カザフスタンの宗教間対話や協力へのアプローチにどのような影響を与えていますか?

ヴァシレンコ:カザフスタンの豊かな文化的・宗教的背景が、この宗教間対話と協力に対するカザフスタンのアプローチを形成する上で、重要な役割を果たしてきた。

欧州とアジアの結節点に位置するカザフスタンは、歴史的に文化、民族、宗教の交差点でした。この地域を通るシルクロードは、貿易だけでなく、思想や信仰の交流も促進しました。この地域では、何世紀にもわたって、イスラム教、キリスト教から仏教、シャーマニズムまで、さまざまな宗教的伝統が共存してきました。

今日、カザフ人の多くはイスラム教徒(主にスンニ派)を自認していますが、ロシア正教徒、プロテスタント、カトリック、さらに仏教徒、ユダヤ教徒、その他の宗教の信奉者などのコミュニティーも存在します。このような多様性から、これらのグループ間の相互尊重と調和を促進する統治アプローチが必要とされてきました。

Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times
Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times

カザフスタン憲法は国家の世俗性を強調し、いかなる宗教も他の宗教を支配したり、他の宗教の権利を侵害したりすることができないようにしています。この世俗的な枠組みは、さまざまな宗教共同体が国家の干渉を受けずに共存し、信仰を実践する場を提供してきました。

カザフスタンは、その宗教的多様性の価値を認識し、国内外での宗教間対話の促進に積極的です。世界伝統宗教指導者会議は、この大義に対するカザフスタンのコミットメントの証です。この世界的なイベントを主催することで、カザフスタンは宗教間対話の仲介者、橋渡し役としての役割を強調しています。

カザフスタン国内のさまざまな教育プログラムやイベントは、我が国の宗教的多様性の歴史と価値を強調しています。国内に存在する様々な宗教的伝統について若い世代を教育することで、カザフスタンは相互尊重と相互理解の感覚を育むことを目指しています。

トカエフ大統領のリーダーシップの下、カザフスタンは一貫して宗教的寛容政策を強調してきました。このアプローチは、トップダウンの指示だけでなく、歴史的に多民族・多宗教社会で暮らしてきたカザフスタンの人々の文化的精神に根付いています。

カザフスタンの宗教間対話へのコミットメントは、その外交努力にも表れています。カザフスタンは、他国や国際機関との交流において、宗教的寛容と対話の重要性を頻繁に強調しています。

カザフスタンの豊かな文化的・宗教的多様性は、宗教間の対話と協力に対する積極的で包括的なアプローチの原動力となっていいます。カザフスタンは、多様性を課題と捉えるのではなく、むしろ強みとして受け入れ、その立場を活かして、国内だけでなくグローバルな舞台でも平和、理解、協力を促進しているのです。(原文へ

INPS Japan/ London Post

この記事は、London Postに初出掲載されたものです。

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2026年NPT再検討会議に向けた準備が続く

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

核不拡散条約(NPT)再検討会議の準備サイクルは、同条約の無期限延長を決めた要素の一つとして、再検討・延長会議において決められたものだ。

プロセスは、再検討会議に先立つ3年間に毎年開かれる準備委員会会合で成り立っており、続く再検討会議における合意形成を促進することを目的として、組織的な手続き及び実質的な議論を進めることが想定されている。

残念ながらこれまでの再検討会議の結果は芳しいものではなかった。2005年、2015年、2022年には最終文書に合意できず、2000年と2010年に達成された実際の進展のほとんどは否定され、事実上忘れ去られている。

The Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT) took place from 31 July to 11 August at the United Nations in Vienna. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
The Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT) took place from 31 July to 11 August at the United Nations in Vienna. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

第11回再検討会議第1回準備委員会会合(2023年)が今年8月にウィーンで開催されたが、この重要な条約の権威と意義に疑問が付されるような残念な結果に終わった。

すでに2022年の再検討会議で見られていた対立する立場が、激しい応酬の中で再現された。核軍縮の進展具合に関する核兵器国と非核兵器国との間の見解の相違が依然として主要な対立点ではあるが、核兵器国自身を直接に巻き込んだ新たな緊張関係が前面に表れてきた。

現在の準備サイクルは、ロシアとウクライナの戦争がNATOの関与のもとで進行している最中に行われている。これは、1962年のキューバ・ミサイル危機以来、最大の核兵器を保有する国同士の最も危険な危機であり、実際に核兵器が使用される危険性をはらんでいる。

現在の安全保障環境における別の重大な問題は、すべての核保有国による、より殺傷力の高い新兵器の開発、米ロ間の有意義な意思疎通の欠如、インド太平洋地域における安全保障枠組みの構築、戦闘における核兵器使用の可能性などである。

同時に、その他2つのカテゴリーの大量破壊兵器の規制と廃絶をめぐる既存の国際枠組みも困難に直面している。生物兵器禁止条約の最近の再検討会議は最終文書の実質的部分を採択できずに終わった。同時に、この5月に終わった化学兵器禁止条約第5回再検討会議も同様に残念な結果に終わった。

最終的に、国連安全保障理事会が、国際の平和と安全の維持に向けた主たる責任を持つ国際機関としての役割を果たす上できわめて重要になる。

核兵器拡散への懸念

核兵器拡散の懸念は、1945年に核爆発装置の爆発実験に初成功した78年前に始まっている。6か月後、国連総会は、原子兵器とその他すべての大量破壊兵器の廃絶に向けた提案を行う委員会を創設した。しかし、委員会は目標を達成しないまま1948年に解散された。生物兵器と化学兵器は国際法で禁止されているが、核兵器の脅威は依然として人類を悩ませている。

1965年、総会決議2028(XX)は、合意された5点の主要原則に則って、核兵器の拡散を予防する条約を交渉するよう「18カ国軍縮委員会」(ENDC)に呼びかけた。そのうち最初の2つの原則は、条約は「核兵器国や非核兵器国が、どのような形態であっても、核兵器を直接あるいは間接に拡散することを許すような抜け穴があってはならないこと」、次に、条約は核兵器国と非核兵器国との間で相互に合意された権利義務のバランスを保っていなければならない、というものだった。

1965年から68年にかけてENDCの条約草案の議論は妥結しなかったが、国連総会が1968年にNPTを採択し、同条約は核不拡散・軍縮体制の礎石とみなされている。その中心的な合意点は、核軍縮に向けた早期かつ効果的な措置を採ることと引き換えに、核兵器を持たない国々が核の取得を放棄するという形式だった。NPTはまた、条約第1条・第2条にしたがって、すべての加盟国による核エネルギーの平和的な開発・研究・生産・使用の不可侵の権利を謳っている。

これまでに開催された10回の再検討会議を悩ませてきた不和と意見の不一致の多くは、条約を最終的に採択した当事国の多くが、それぞれ別個の、かつ慎重にバランスが取られた義務に文面上も精神の上でも誠実に従っていない、という認識から生じている。時が経つにつれ、NPTは実際、権利と義務のバランスが大きく崩れ、締約国を2つのはっきりと分かれたグループに分断してきてしまった。

たとえば、非核兵器国の条約履行状況を検証する詳細かつ強制的な手続きが定められているのに対して、核兵器国には同様の条項が存在しない。条約上の核軍縮義務を果たそうとすらしない核兵器国側の政治的意思の欠如は、NPT再検討プロセスが直面している困難の主な原因だとみなされてきた。核兵器国は核軍縮義務そのものは否定していないが、自国の核兵器は安全確保のために肝要なものであり、現在の安全保障環境は、核兵器を最終的にゼロに導くような法的拘束力があり時限を定めた措置の採択を許すものではないと主張している。

他方、圧倒的大多数の国々は、核軍縮は核兵器国やその市民も含めた国際社会の安全を全体として向上させ、核兵器に付随した人間と環境に与えられるリスクは、核兵器が持っているとされるメリットを上回るものだと考えている。

NPT発効から53年

条約発効から53年、NPTははたして核兵器廃絶という目標を前進させたのだろうかという疑問は消えない。核兵器の数自体は冷戦最盛期の7万発から劇的に減少したが、今日の核兵器は、数の上でも、あるいはその秘匿性や破壊力の上でも急速に拡散している。核兵器使用の影響が及ぶ範囲は交戦当事者に限られないから、人類全体を脅威にさらしている。地球上の人間の生命が核交戦によって絶滅しかねない。

NPT再検討会議準備委員会会合の最初の2回の任務は、条約の原則及び目的、それに、条約の完全履行及び普遍性の促進を念頭に置いた特定の課題について検討するものであり、第3回会合の目的は、前2回の会合の結果を考慮に入れて、再検討会議そのものに対する全会一致の勧告案を形成することにある。

2022年の第10回再検討会議は、条約再検討プロセスのさらなる強化に関する作業部会を設置した。部会は第1回準備委員会会合に向けて会合を持ったが、報告書に合意することができなった。同様に、第1回準備会合そのものも、実質的な全会一致報告書を採択できずに終了した。

NPT再検討会議の準備段階はこれまでも常に対立含みではあったが、近年、さまざまな国やグループがとる立場は、以前と比べて著しく柔軟性を欠いているように感じる。

2010年再検討会議で合意された行動計画の「行動20」「行動21」の下で核兵器国が認めた公約を効果的かつ検証可能にするという目標をもって、上述の作業部会の議長は、自らの権限において、準備委員会に向けた26の勧告を含む作業文書案を提示した。核軍縮に向けた行動に関する締約国の各国報告の透明化などが勧告として盛り込まれている。

批判的検討

このような報告書を批判的に検討するとともに、核兵器の近代化計画に関する説明責任を向上させるための標準モデルの採用が提案された。この標準モデルには、核弾頭の数、種類、状態(配備されているか、配備されていないか)、偶発的または非自発的な使用のリスクを低減するために採用された措置、安全保障政策とドクトリンにおける核兵器の役割、兵器システムの運用上の警戒を低減するために採用された措置、解体された兵器の数と種類、そして最後に兵器目的で利用可能な核分裂性物質の量が含まれている。

The planary session of The Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT) held from 31 July to 11 August at the United Nations in Vienna. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

最終的に、準備委員会会合の閉幕にあたって、議長がその責任において「事実概要案」を提示した。しかし、それを作業文書に含めることにすら反対する意見が出て、議長はそれを単なる「勧告」に格下げせざるを得なかった。今回手続き的議論にあたって建設的態度を欠いていたことは、過去の準備委員会会合の悲惨な状況を考えても、異例のことだった。

核抑止が人間に与える影響やリスクの問題が初めて取り上げられたことは銘記すべきだ。核共有がNPT第1条と矛盾しないかについても、ロシアがベラルーシに核配備したことやNATOが一部諸国に核兵器を配備していることを念頭に取り上げる一部締約国があった。また、人間や環境に危険があるとして、原子力発電を段階的に廃止することに言及する国もあった。

Photo: Sergio Duarte speaks at the August 2017 Pugwash Conference on Science and World Affairs held in Astana, Kazakhstan. Credit: Pugwash.
Photo: Sergio Duarte speaks at the August 2017 Pugwash Conference on Science and World Affairs held in Astana, Kazakhstan. Credit: Pugwash.

2024年と25年にはさらなる準備委員会会合があり、2026年が第11回再検討会議である。終わったばかりの今回の準備委員会会合で唯一よかった点は、条約の目標に関して―その相対的な意味合いについては異論があるにしても―すべての締約国がコミットし続ける意思を示したことだ。再検討会議が2回連続で残念な結果に終わったことで、各締約国は、いつまでも対立しているのではなく、条約の強化につながる意義ある意見交換が可能になるように現在の再検討サイクルを継続させるべく、自らの態度や立場を見直すだろう。大量破壊兵器に関する現在の国際協定の構造が、下手をすると意義を失い、あるいは時代遅れになってしまう真のリスクがあるからだ。

NPTは、その履行に関する欠陥が指摘され様々な見解があるにも関わらず、国際社会の圧倒的多数の支持を依然として受けており、核軍拡競争の停止と核軍縮という目標に締約国を法的に縛り続ける唯一の取り決めであり続けている。来たる再検討会議に向けた準備段階での現在の混乱は、NPTが今後も意義を持ち続ける上で重大な悪影響を及ぼす。NPTの権威と意義をこれ以上損なわないようにすることが急務だ。(原文へ

※著者は国連軍縮局元上級代表で、現在は「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」議長。

INPS Japan

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ヒマラヤ山脈の氷河、融解速まる

【カトマンズNepali Times】

科学者らが、ヒマラヤ山脈の氷河の喪失を憂慮する報告書を発表した4年前より、この問題ははるかに深刻であると警告する新たな報告書を発表した。

この新しい研究は、ヒマラヤ山脈の雪、氷、永久凍土について、これまでで最も正確な評価を行ったものである。これによると、 ヒマラヤ山脈の氷河は、今世紀末までにその氷塊の80%を失う可能性があるとしている。また、ヒマラヤ山脈だけでなく、世界最高峰の山々から流れる水に依存する下流の国々(アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、中国、インド、ミャンマー、ネパール、パキスタン)に住む20億人近い人々にも深刻な影響を及ぼす可能性があるとしている。

Water, ice, society, and ecosystems in the Hindu Kush Himalaya /Credit: ICIMOD
Water, ice, society, and ecosystems in the Hindu Kush Himalaya /Credit: ICIMOD

インドや中国などヒマラヤ山脈周辺国8か国が参加する政府間組織「国際山岳総合開発センター(ICIMOD)(事務局:カトマンズ)」は、2019年に報告書「ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ・アセスメント」を発表していた。しかし今回発表された新報告書によると、「2011~20年の10年で、その前の10年よりも65%速く氷河が融解しており、このままでは、今後数十年で融解が加速するだろう。」と予測している。

新報告書『ヒンドゥークシュ山脈とヒマラヤ山脈の水、氷、社会、生態系(HI-WISE)』は、山々の雪、氷、永久凍土の融解が、ヒマラヤ流域の水、生態系、社会にどのような影響を及ぼすかについて、最近の科学的進歩をもとに描き出したものである。

報告書では、今世紀半ばまでに「水のピーク」が訪れ、その後は灌漑、家庭用水、工業用水、水力発電に利用できるヒマラヤ山脈を源流とする河川(揚子江、メコン川、インダス川、ガンジス川)の水がますます少なくなると予測している。同時に、気候変動による異常気象は、この地質学的にも生態学的にも脆弱な山岳地帯において、地滑りや洪水のリスクを増大させるとしている。

The south face of Saipal Himal in western Nepal, showing shrinking ice over the past 15 years. Image via Nepali Times. Used with permission.
The south face of Saipal Himal in western Nepal, showing shrinking ice over the past 15 years. Image via Nepali Times. Used with permission. (ネパール西部にあるサイパル・ヒマールの南面。過去15年間で氷河が縮小しているのがわかる。)

気候変動と開発のための国際センター(バングラデシュ)のサリーム・ウル・フック氏は、「この報告書は、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域が気候変動の影響に対して特に脆弱であることを示している。この地域と人々を守るために、私たちは今すぐ行動を起こさなければなりません。」と語った。

報告書によると、氷河の融解が脆弱な山岳地帯の生息地に与える影響は特に深刻で、生態系や生物多様性に連鎖的な影響を及ぼすという。

ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域の生態域(エコリージョン)の67%と、この地域の4つの世界的生物多様性ホットスポットの39%が保護地域外であるため、この地域の非常に豊かな生物多様性は気候の影響に対して特に脆弱である。」と報告書は警告している。

ヒマラヤ山脈の氷河は、山岳地域の住民約2億4000万人に加え、河川流域16カ国の約16億5000万人にとって重要な水源となっており、氷河の融解により水不足の影響を受けるだろう。ヒマラヤ地域の農民はすでに、異常気象による作物の損失、飼料不足、家畜の死に直面している。

Nepali Times

12カ国の35人の科学者によって作成されたこの報告書は、「災害はより複雑で壊滅的なものになっている。」と指摘している。

報告書は、この流域の人々(=世界人口の約4分の1)に影響を及ぼしている気候変動がもたらす連鎖的な影響に備えるよう、政策立案者に求めている。また、避けられない近い将来の損失と被害に対して緊急の国際的な支援と地域間の協力を求め、地域社会が適応するのを支援するよう呼びかけている。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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アフリカのクーデターと資源の権利

【ワシントンIPS=ソランジュ・バンディアキー=バジ

今年の9月、国連総会で全加盟国の首脳が演説を行った際、いくつかのアフリカの指導者は軍事クーデターで失脚しており、出席できなかった。

表面的には、これらの国々は地理と植民地支配の歴史以外にはあまり共通点がない。最近「政権交代」を経験したガボンとニジェールのケースを考えてみよう。ガボンは生物多様性に富んだ小さな国で、軟禁されている大統領とその前の父親が1967年から権力を握っていた。ニジェールはガボンよりはるかに大きく、ほとんどが砂漠の国である。軟禁中の大統領は2021年に選出された。

西アフリカと中央アフリカで起きているこの不安定な情勢は、地域的にも国際的にも注目を集めている。しかし、それぞれのクーデターの背後にどの国際勢力があるのか、あるいはクーデターを容認すべきかどうかという議論には、資源に関するはるかに基本的な問題が欠けている。

フランス、米国、ロシア、中国は、相次ぐクーデターを非難したり憂慮したりはしているが、「憲法秩序」と民主主義を回復する必要性に焦点を当てている。アフリカにおけるクーデターや紛争の根本的な原因は、貧困と人権侵害を引き起こす資源の採取に関連している。

現在、軍隊がクーデターで政権を排除したアフリカ諸国は7カ国あり、その経済はすべて資源採掘に大きく依存している。マリブルキナファソは世界有数の金産出国である。チャドスーダンは石油採掘に依存している。ニジェールは世界第4位のウラン生産国である。ギニアはアルミニウムの主原料であるボーキサイトの埋蔵量で世界の4分の1から半分を占める。ガボンはアフリカ第2位のマンガン生産国で、その経済も石油とガスの採掘に依存している。政府は、国土の90%近くを占める熱帯林の炭素クレジット市場を開拓する方法を模索していた。

African countries that have had successful coups between 2020 and 2023. Photo credit: Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

資源採掘に必要な土地、鉱山や掘削作業、精製に必要な労働力、こうした経済活動にはコストがかかる。農業や林業で生計を立てている家族は、より大きな利害関係者が現地に進出して、彼らの土地や資源を奪ってしまった場合、ほとんど手段を講じることができない。

これらの国々では、農村コミュニティーは何世代にもわたってその土地に住み、手入れをしてきた。土地と財産の所有権は、グローバルノースでは個人の富の基盤である。しかし、グローバルサウスコミュニティーーに含まれる資源を理由に、農村コミュニティの権利を奪う法制度が容認されている。

資源採掘セクターは、土地を奪われたコミュニティーの住民が失う生計の代わりとなる適切な手段を提供しない。例えば、鉱山労働者が適切に補償され、職場の危険から保護されている例はまだ見られない。

サヘル地域では、ニジェールが慣習的な土地所有権を認めていることがしばしば評価されている。ニジェールには1993年に採択された先進的な農村法があり、革新的な土地管理システム、法律、制度が定められている。

2021年には、権利の承認と土地紛争の防止を定めた農村土地政策が採択された。ニジェールには2010年に採択されたサヘル地域で最も先進的な牧畜法もあり、家畜に依存する遊牧民コミュニティの権利を認めている。ブルキナファソとマリにも、コミュニティーの権利を強力に保護する法律があるが、その施行は3カ国とも不十分だった。

外国人投資家は、これらの国の資源を開発することに常に関心を示しており、コミュニティーの権利の行使が優先されることはない。採掘セクターからの利益の公平な共有、地元の若者に有益な雇用や土地所有権を提供し、農村土地所有の取り決めを尊重することはほとんど議論されない。

私が生まれ育ったセネガルを見れば、この国がクーデターの連鎖に加わるための材料はすべて揃っている。政府の収入は資源採掘に依存しており、リン鉱山が経済の大部分を占めている。

沖合では天然ガスと石油が発見されており、政府の野心はセネガルを石油、ガス、炭化水素の資源大国にすることだ。セネガルはサヘル地域で最も安定した国であったが、野党の政治指導者や市民が逮捕され、大規模な街頭抗議行動が引き起こされるなど、民主主義の後退が見られる。

また、セネガルの法制度は農村コミュニティーの土地の権利を保護しておらず、農民らは富の基盤が保証されないまま放置されている。セネガルは、現在の政治的・経コミュニティーし、コミュニティーに所有権を与える新しい土地政策と法律を打ち出すのに苦労している。現在施行されている土地法は、1964年にフランスから独立した直後に採択された「国有地法」である。

結局のところ、これは誰が権力を握っているかという問題ではなく、旧フランス植民地に限ったことでもない。これは、資源採掘がどのように優先されるかということなのだ。アフリカに必要なのは、土地統治における抜本的な組織的変革である。コミュニティーは自分たちの土地の処分について決定権をもつ必要がある。住民が経済的不安定から抜け出せなければ、平和は決して実現しない。

「アフリカは金鉱の上に座っている乞食だ。」と、20世紀のセネガルの詩人であり語り部であったビラゴ・ディオップは述べている。自然が豊かであるにもかかわらず、この7カ国のうちマリ、ニジェール、スーダン、チャドの4カ国は、世界の「繁栄度指数」で下位10%、残りの3カ国は下位40%にランクされている。

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)アフリカ連合(AU)のようなアフリカの地域機関、そして国連のようなグローバル機関にとって、私たち全員が直面している課題は、このような時代遅れの経済モデルから脱却するかということである。今世紀に入り20年が経過したが、自然資源に対するより公平なアプローチの必要性を受け入れる必要がある。それを行わない限り、どの政府も安全ではない。(原文へ

ソランジュ・バンディアキー=バジ博士は、Rights and Resources Initiative(権利と資源イニシアティブ:RRI)のコーディネーター。マサチューセッツ州クラーク大学で女性学とジェンダー研究の博士号を、セネガルのチェイク・アンタ・ディオプ大学で環境科学と哲学の修士号を取得。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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米国と中国はウクライナ和平のパートナーとなり得るか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョン・マークス 

アントニー・ブリンケン国務長官は5月3日、ウクライナの平和を回復するために米国が中国と肩を並べて取り組むことに「何の問題もない」と述べ、称賛すべき一歩を踏み出した。彼は、「原則として、国家、特に中国のような大きな影響力を持った国が平和をもたらすために積極的な役割を果たすことに意欲的であるなら、それは良いことだ」と付け加えた。

国際問題に関するひときわ鋭いコメンテーターであるハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授は、さらに踏み込んで、米国と中国が何らかの形で協力して紛争の調停に当たることがもしできれば、ウクライナに平和への道筋ができるかもしれないとForeign Policy 誌に書いた。(

米中協力は、どちらの政府にとっても遠すぎる橋のように思えるかもしれない。どちらも、それぞれの思惑でこの戦争に関与しているが、互いに相手と直接的に関与することは紛れもなく好まないだろう。しかし、両国が国家のエゴを脇に置いて、パワーポリティクスをやめるなら、何万人もの命を救い、ウクライナのさらなる破壊を防ぐために、大きな一歩をともに踏み出すことができるだろう。

米国にとっては、中国と外交レベルで協力するためにウクライナへの武器や情報の供与をやめる必要はないだろう。戦争の道と平和の道は、必ずしも相互に排他的であるとは限らない。二面政策を採用することによって、バイデン政権は、ロシアの侵攻に引き続き立ち向かうと同時に、人命を救うことも優先度の高い事項であることをはっきり示すことができる。また、ウクライナは、米国が参加するのであれば外部調停者の支援を受ける可能性が高くなることはほぼ間違いない。

米国の政策立案者の第一希望はウクライナがロシアの侵攻軍を国から駆逐することであり、それを認識しないのはナイーブというものだ。しかし、Discord漏洩事件で明らかになったように、ペンタゴンの情報分析官らはウクライナが今後1年間に優勢になる見込みはないと結論付けている。このことから、いつであれ近い将来の完全勝利はまずあり得えないという印象を受ける。したがって、米国の選択肢は、武器供給を続けて血みどろの膠着状態を長引かせるか、ウクライナが戦闘停止をもたらす妥協に合意する余地を作るかどちらかのようである。

紛れもなく、妥協をするということはウクライナ人にとって、またロシア人にとって、極めて難しいことであろう。しかし、両国が戦闘を続けて引き分けになるよりは、交渉による和解の方が望ましい結果であることはほぼ間違いない。米国政府が武器提供者と調停者という二つの役割を果たすのであれば、ウクライナは、注意深く耳を傾ける以外の選択肢はほとんどないだろう。

ウクライナ紛争に関する独自の和平計画をすでに提案している中国は3月、サウジアラビアとイランの和解を仲介し、調停者としての有用性を証明した。中国がウクライナにおいても同様の成果を達成できるのであれば、たとえ米国と手を組んだ結果であっても、調停者としての評判は決定的に高まるだろう。そして、中国が成功を収める確率は、米国と協力すればはるかに高くなると思われる。

ロシアは、主たる敵国と目する米国による和平の働きかけを受け入れる可能性はまずないだろう。だからこそ、中国の関与が非常に重要なのである。ロシアが経済面でも政治面でも中国の支援への依存を深め、ウラジーミル・プーチンと習近平が「限界のない友情」に合意したことを考えると、ロシア側は中国の働きかけを真剣に受け止める必要があるだろう。

大国が、たとえ敵国同士であっても、共通の利害があるときには平和を促進するために力を合わせて行動するという冷戦時代の前例があると、ウォルトは述べている。例えば、イスラエルと周辺国との戦争を終結させるため、かつて米国とソ連が共同で努力した例を彼は挙げる。こういった事例では、「二つの超大国の両方が戦闘の停止を望み、それぞれの従属国に圧力をかけて同意させた」と彼は書いている。

戦争が1年以上続いている今、明らかに新たなアプローチが求められている。世界は間違いなく、無駄な紛争を許すような余地も回復能力も使い果たしつつある。ウクライナに平和をもたらすこと、米国と中国にとってはそれを達成するために最善を尽くすことが、実際的にも倫理的にも必須の責務である。

ジョン・マークスは、平和構築に関する国際的NGO団体Search for Common Groundの創設者であり、長年、会長を務めた。現在は、アムステルダムに拠点を置く平和構築グループConfluence Internationalの責任者である。

INPS Japan

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【アスタナINPS Japan/月刊「公明」=カシム-ジョマルト・トカエフ】

世界が国際的な緊張の高まりを目の当たりにし、国連設立以来の世界秩序が棄損しつつあることは周知の事実です。冷戦時代以来の分裂構造が、急速に復活しつつあります。その結果、私たちの地球は、新たな世界的軍拡競争、核兵器使用の脅威、熱い(=武力に訴える)戦争、ハイブリッド戦争、サイバー戦争、貿易戦争などあらゆる形態の戦争の拡散など、深刻な脅威に直面しています。

このような緊張と地政学的動揺が高まる中で、文明間の対話と信頼を強化するための新たなアプローチを打ち出すことは極めて重要です。

外交が国際協力を促進する鍵であることは間違いありません。カザフスタンは、国連憲章に基づく交渉の場においてのみ紛争を解決することを常に支持してきました。わが国は一貫して、世界全体で恒久的な平和、安全、持続可能な進歩を達成することを目的とした原則を推進してきました。

最善の努力にもかかわらず、紛争は世界の多くの地域で依然として多発しています。

新たな国際安全保障システムを構築するために、国際社会は平和のための新たな世界的運動を必要としています。ここで宗教指導者の役割が不可欠になると私は確信しています。世界の人口の約85%が宗教を信仰しており、宗教は私たちの生活に大きな影響を与えています。したがって、宗教指導者は世界情勢に大きな影響力を持っています。さらに、人命の神聖な価値、相互扶助、破壊的な対立や敵意の否定は、すべての宗教に共通する原則です。私はこれらの原則が新しい世界システムの基礎を形成することができると確信しています。

宗教指導者はどのようにして世界平和の推進に貢献できるだろうか。また、実際にどのように機能するだろうか。

まず第一に、宗教指導者は永続的な紛争後の憎しみの傷を癒すことに貢献できます。シリアがまさにその例で、カザフスタンは、同国で敵対行為がほぼ終結したことを歓迎しています。2017年以来、シリア政府、反体制派、トルコ、イラン、ロシアの代表者間の交渉を促進したアスタナプロセス和平交渉を通じて、これに貢献できたことをうれしく思っています。

しかし、紛争における戦闘局面が終わったとはいえ、国内の分裂は依然として残っています。スピリチュアル・リーダーたちは、宗教の力によってシリア社会を癒す重要な役割を果たすことができるのです。

第二に、人間の本性は矛盾に満ちており、挑発や憎悪は常に存在します。最近の北欧諸国で発生した聖典コーランを焼却する行為は、寛容、相互尊重、平和共存の文化を損なう否定的な傾向です。この点で、このような状況や傾向を防ぐための宗教指導者による、的を絞ったコミュニケーションは極めて重要です。

第三に、新しいテクノロジーは人間生活のあらゆる領域を根本的に変えつつあります。これらの変化は、ヘルスケアの向上、ネット上の無制限の情報、コミュニケーションや旅行のしやすさなど、ほとんどが良い方向に向かっています。同時に、デジタル技術の影響下で、社会がいかに分断され、二極化しているかを私たちは目の当たりにしています。

新たなデジタル世界の現実において、精神的な価値観や道徳的な指針を培うことも必要です。宗教はここでも重要な役割を担っています。なぜなら、すべての信仰は、人間主義的な理想、人間の生命の至高価値の認識、平和と創造への願望に基づいているからです。

これらの基本原則は、精神的な領域だけでなく、各国の社会経済的発展や国際政治においても体現されるべきです。

急速な科学技術革命は、人間主義的な理想と倫理に依拠したものでないならば、人類を迷走させかねません。私たちはすでに、一般的な人工知能の出現によって、そのような議論を目の当たりにしています。

結局のところ、道徳的権威と精神的指導者の言葉が、今日極めて重要です。

だからこそ私は、カザフスタンが20年もの間、3年に一度の世界伝統宗教指導者会議を主催してきたことを誇りに思っています。米国の同時多発テロ事件後、宗教間の対立や 過激主義が高まったことに対応して2003年に設立されたこの会議は、宗教指導者が一堂に会することで、宗教間の対話を強化してきました。

Photo: The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions was held in Astana on 14–15 September 2022 Credit: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Photo: The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions was held in Astana on 14–15 September 2022 Credit: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

異なる文化や宗教共同体の代表者たちがよりよい理解を促進するための努力を結集する方法について、有意義な対話を可能にしてきました。

2019年にカザフスタンの大統領に就任する前、私はこの議会の事務局長を務める栄誉に浴しました。

私は、会議が憎悪と過激主義とは対照的に、寛容と相互尊重をどのように促進するかをつぶさに見てきました。

昨年、わが国は第7回世界伝統宗教指導者会議を開催しました。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教、神道、仏教、ゾロアスター教、ヒンドゥー教、その他の宗教の代表を含む50カ国からの代表団が参加しました。2001年のローマ法王ヨハネ・パウロ二世の訪問に続き、カトリック教会のトップがカザフスタンを訪問するのは2度目であり、私はローマ法王フランシスコを歓迎できたことを光栄に思っています。

この20年間で、会議は世界レベルでの文明間対話のプラットフォームへと発展してきました。私は、このイニシアチブが、100を超える民族と18の教派から構成されるカザフスタン国民が安定した調和のとれた社会を形成し、今日平和に暮らしていることに大きく貢献したと確信しています。

宗教的寛容と人権へのコミットメントを通じて、カザフスタンは世界に模範を示し、より平和で調和のとれたグローバル社会を構築するための宗教間対話の重要性を提示しています。

The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo. Photo by Secretariate of the 7th Congress.
The 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo. Photo by Secretariate of the 7th Congress.

世界が政治的な不確実性に晒され続ける中、文化や文明間の和解の架け橋がこれまで以上に求められています。私は、カザフスタンが世界伝統宗教指導者会議の活動を含め、宗教と国家間の世界的な対話を促進し、社会の相互理解と尊重に貢献することを確信しています。(原文へ

INPS Japan/月刊「公明」

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「核兵器なき世界」を求める高らかな呼び声

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

マーク(仮名)は28歳。彼と同じように20代の若者たちは、米国が日本の広島と長崎に投下した原爆は遠い過去のものだと考えがちだ。しかし、ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に核兵器を使うと脅して以来、彼らは1989年のベルリンの壁崩壊後に統一したドイツが、なぜ 「核兵器を作ってはいけないのか」を考えるようになった。

マークは自身の考えを、大学外の人文学研究所としては最大であり300年以上の歴史を持つ「ベルリン=ブランデンブルク科学人文学アカデミー」で伝えた。アカデミーの講堂の壁には第二次世界大戦時の銃弾の跡が残っている。

核兵器を持つことで(それが抑止力となり)核の攻撃を受けずにすむという、明らかに一般に広がっている誤解に基づく、質疑応答の場でのマークの発言は、「核兵器なき世界は可能である」をテーマとした分科会でパネル討論に臨んでいた4人の懸念でもあった。パネリストらは、ウクライナ戦争は核兵器不拡散に明らかに悪影響を及ぼし、核戦力の近代化による危険が拡がっていると感じていた。

ローマに本部を置くカトリック系の聖エジディオ共同体が全世界に1200万人の会員を擁する仏教団体である創価学会(本部は東京)などと共催して9月11日に開催したこの分科会は、9月10~12日にベルリンで開かれた国際会議「平和への勇気の声をー宗教と文化の対話」における20の関連行事の一つであった。

寺崎広嗣副会長は創価学会派遣団を率いてこの国際会議に参加し、聖エジディオ共同体のマルコ・インパグリアッツォ会長やイタリア司教協議会会長のマッテオ・マリア・ズッピ枢機卿など様々な要人と交流した。

分科会「核兵器なき世界は可能である」のモデレーターを務めたアンドレア・バルトリ氏は、創価学会とその国際機構である創価学会インタナショナル(SGI)との協力の重要性について語った。彼は現在、平和と対話のための聖エディジオ財団の会長や大量破壊犯罪に反対するグローバルアクション(GAAMAC)の運営委員、アメリカ創価大学のグローバル問題研究所(SIGS)の顧問を務めている。

ベルリンの壁が崩壊しソ連が解体して、1991年に冷戦が終了して以降に生まれた20代の若者たちの懸念に対して、欧州SGIのロバート・ハラップ共同議長は、「課題は多いものの、市民社会組織の支援を受けた国連の努力により、核兵器に関連する2つ目の国際条約が発効している。」と語った

核不拡散条約と核兵器禁止条約

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

そのうちの一つが核不拡散条約(NPT)で、核軍縮・核不拡散体制の礎石として、国際の平和と安全保障の推進に不可欠なものである。もう一つが核兵器禁止条約(TPNW)で、2021年1月の発効以来、NPTを補強・補完・強化している。

世界教会協議会(WCC)国際局長のピーター・プローブ氏もこれに同意し、同協議会は「当然ながら、『人道イニシアチブ』と、最終的に核兵器禁止条約の起草と採択につながったアドボカシーの強力な支持組織でした。」と付け加えた。

プローブ氏はまた、「もちろん、核保有国が核禁条約に参加しない限り、そして参加するまでは、条約は事実上無意味だと言う人も多いだろう。しかし、私はそうは思いません。核禁条約は、核保有国が核兵器を保有し続けることを『当たり前』のものとしてとらえる傾向、これまで私たちが黙認してきてしまった傾向に挑戦し、国際法に新たな規範的原則を持ち込むことに成功しています。この新たな規範的原則の重要性は、条約の署名国・批准国が増えるごとに強化されます。とりわけ、国連加盟国の過半数というハードルに近づくにつれてそうなってくるでしょう。」との見通しを語った。

核兵器なき世界へのコミットメント

ハラップ共同議長は、「核兵器なき世界」に対するSGIのコミットメントを振り返って、66年前の1957年9月に創価学会の戸田城聖第2代会長がそれ以降の学会の活動を方向付けることになる「原水爆禁止宣言」を発表していることを指摘した。当時、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験が成功し、核軍拡競争が激化していた。

Opening ceremony of the exhibition ‘Everything You Treasure – For a World Free from Nuclear Weapons’ in Astana, Kazakhstan. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

近年、SGIはその国際キャンペーンとして、ノーベル平和賞受賞団体である核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と共同で企画した展示会「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」をはじめ、国内外を問わず、核兵器問題の啓発に取り組んできた。

創価学会は、生命の尊厳を尊重するという仏教の原則に基づいて活動している。その目的は、草の根の活動、啓蒙・教育活動、国連をはじめとする様々なレベルでのアドボカシー活動を通じて、平和の文化を涵養することにある。

池田大作SGI会長は、40年以上にわたり毎年、国連と核兵器廃絶などに一貫して焦点を当てた「平和提言」を執筆・発表してきた。

プルーブ局長は、核兵器なき世界は、単に実現可能であるというだけではなく、「もし私たちが、(この地球で神の唯一無二の生命創造物である)人類や環境に対する最大の人為的脅威の一つを回避するためには、必要なことでもあります。」と語った。

「核兵器が望ましくないものであることは間違いありません。しかし、国際社会は現在、核兵器の拡散という脅威と潜在的な核戦争の恐怖に直面しています。」と、タンザニアの国会議員でありベテラン外交官のリベラタ・ムラムラ氏は語った。

彼女は、タンザニアが建国の父であるムワリム・ジュリウス・カンバラゲ・ニエレレ初代大統領の指導の下、核兵器のない世界を提唱する非同盟運動で重要な役割を果たしたことを指摘した。

タンザニアは「6カ国・5大陸平和軍縮イニシアチブ」に参加し、非核世界という火急の必要性を支持してきた。ギリシャ・スウェーデン・アルゼンチン・メキシコ・インド・タンザニアの6カ国は、1984年5月22日の共同アピールで、「核兵器の予防は超大国だけの問題ではない。あらゆる生命を脅かす核兵器は、私たち全てに直接関わってくる問題だ。」と述べている。

こうしたことを背景に、「ペリンダバ条約」として知られる「アフリカ非核兵器地帯条約」が結ばれ、アフリカは非核兵器地帯となった。1996年4月12日にエジプトのカイロで署名開放され、2009年7月15日に発効した。

「多国間主義は、世界の平和と繁栄を脅かす脅威を抑える中心的な役割を担ってきた。今こそ私たちは、集団的解決のための古来からのメカニズムである多国間主義を復活させ、信頼する必要があります。」と、ムラムラ氏は語った。

The picture shows eminent participants in the International Interfaith Meeting in Germany, with Mr Hirotsugu Terasaki, second from left in the first row. Credit: Seikyo Shimbun
The picture shows eminent participants in the International Interfaith Meeting in Germany, with Mr Hirotsugu Terasaki, second from left in the first row. Credit: Seikyo Shimbun

アジア平和宗教者会議の篠原祥哲事務総長は、核兵器なき世界への呼びかけに加わって、同会議の創設の理由の一つが核兵器廃絶にあると説明した。「1960年代から70年代にかけての米ソ間の異常な核軍拡競争によって、人類滅亡の危機が迫っていることを危惧した世界の宗教指導者たらが、核戦争の予防と核兵器廃絶のために立ち上がり、人間愛と兄弟愛を訴えてきました。」

それから55年が経ったが、地球上にはいまだに核兵器が存在し、核戦争の脅威は近年高まっている。「米国の科学学術雑誌(原子科学者紀要)の『世界終末時計』は今年が最悪の時期であることを示し、私たちが大きな危機の中で生きていることを暗示しています。その主な理由のひとつは、ウクライナにおける核使用のリスクの高まりです。」と、篠原氏は語った。(原文へ

INPS Japan

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G20をリードするインド、グローバルサウスのSDGs実現に邁進

【シンガポールIDN=カリンガ・セネビラトネ】

ロシアと米国が、ロシアによるウクライナ侵攻を非難しなかった9月10日のG20ニューデリー首脳宣言を歓迎した。米ロと西側諸国の見解がこのように一致することは珍しいが、これら国々が注目したのは、国際社会が直面している開発の問題であった。

ロシアを代表してG20に参加したセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、政治的な声明に終始するよりも、グローバルな開発の果たす中心的な役割についてコンセンサスを導いたインドを称賛した。

G 20 India Logo

昨年、インドネシアのバリで開催されたG20サミットは、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領を招いて演説をさせた欧米諸国にハイジャックされた格好になった。G20バリ首脳宣言は、戦争を開始し世界を経済危機に陥れたロシアを明確に非難していた。しかし、今年はインドがゼレンスキー大統領の招待を拒み、西側諸国がウクライナ問題をサミットの主要議題にしてしまわないように説得した。

30ページ、83条にわたるニューデリー首脳宣言には、ウクライナに関するわずか3つの短い節が含まれているに過ぎない。また、その部分にしても、人間の苦しみを止め、戦争がもたらす負の経済的影響を緩和することの重要性を謳ったものだ。

9月10日にニューデリーで行われた記者会見でラブロフ外相は、西側諸国によるウクライナ問題のゴリ押しを止めるべくインドが「グローバル・サウス(世界の南側に偏っている途上国)」の国々を「覚醒」させたことを称賛した。「インドはG20内のグローバル・サウスの国々の結束を固めることに成功した。」と述べ、開発目標に向けたアジェンダの舵取りにおいて、ブラジル、中国、南アフリカが果たした役割を認めた。

Canada's Prime Minister Justin Trudeau./ Photo: European Parliament from EU, CC BY 2.0,
Canada’s Prime Minister Justin Trudeau./ Photo: European Parliament from EU, CC BY 2.0,

しかし、カナダのジャスティン・トルドー首相は、G20の「コンセンサス」を優先させたとも言われる首脳宣言対する失望を表明した。「今回の首脳宣言は、とりわけウクライナ問題に関してもっと強い言葉を盛り込むことができたはずだと思う。」とニューデリーでの記者会見でトルドー首相は語った。

一方、マクロン大統領はサミット終了後の記者会見で、「G20は国際的な経済問題を解決するために創設されたものであり、ウクライナ戦争に関する外交的進展を期待する場では必ずしもない。」と語った。しかし同時に、ロシアがインドで外交的勝利を収めたことは認めなかった。

インドのナレンドラ・モディ首相は、サミット前に「プレス・トラスト・オブ・インディア」とのインタビューで、「人間中心の開発モデル」に導く決意を語った。モディ首相は、このビジョンをG20が将来のロードマップとして採用する必要があると主張した。

「人間中心のアプローチへの転換は世界的に始まっており、われわれはその触媒の役割を果たしています。」とモディ首相は述べ、特にパンデミック中とポストパンデミック期にインドが達成した開発成果のいくつかを指摘した。

「グローバル・サウス、特にアフリカの世界情勢への参加拡大に向けた取り組みは勢いを増しています。インドのG20議長国就任は、いわゆる 『第三世界』の国々にも自信の種をまきました。これらの国々は、気候変動や世界的な制度改革など多くの問題に関して、今後数年間で世界の方向性を形作る自信を深めています。」

SDGs達成への道は、宣言のB項とC項において13ページにわたって詳述されている。モディ首相は、「SDGsに関する世界的な進展は、まだ目標の12%を達成したに過ぎない。」と述べてまだ道半ばであることを強調し、SDGsに向けた前進を加速するようG20諸国に呼びかけた。

そのための施策として、DX(デジタルトランスフォーメーション)や人工知能(AI)、データの進歩、デジタルデバイドへの対応の必要性を認識することが挙げられる。また、2030SDGsアジェンダの実施に向けたボトルネックに対処する途上国の国内努力を支援するため、あらゆる資金源から、手頃な価格で適切かつ利用しやすい資金を動員することへのコミットメントも呼びかけた。

首脳宣言はまた、持続可能な社会経済開発と経済繁栄の手段としての観光と文化の重要な役割を強調した。また、SDGs刺激策を通じてSDGsの資金ギャップに対処しようとするアントニオ・グテーレス事務総長の努力に留意し、9月末に開催される国連のSDGsサミットを全面的に支援することを約束した。

G20開幕に先立つ9月8日にニューデリーで会見した国連のグテーレス事務総長は、「グローバル社会は機能不全に陥っている。」と述べ、G20を通じて「我々の世界が必死に求めている変革」を加速するようインドに呼びかけた。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

グテーレス事務総長は、戦争や紛争が激化し、グローバルな金融システムが時代遅れで不公正であり、「抜本的な構造改革が必要」であるため、無駄にしている時間はないと警告した。貧困、飢餓、不平等が拡大する中、グテーレス事務総長は「このような世界の分断は、最良の時であれば深く憂慮すべきことだが、現在においては破局を意味します。」と述べ、G20の指導者たちに連帯を築くよう訴えた。

ニューデリー首脳宣言は、食料安全保障と飢餓撲滅の分野において、G20持続可能な金融ロードマップに沿って、持続可能な金融の規模を拡大するための行動をとるというG20の公約を再確認する一方で、雑穀や、キヌア、ソルガムのような気候変動に強く栄養価の高い穀物や、米や小麦、トウモロコシのような伝統的な作物に関して研究協力を強化する取り組みを促進することで、世界的な食料安全保障を強化することを約束している。

G20の首脳宣言は初めてグローバル・サウスの懸念を反映したものだったが、サミット後の行動は世界に変化をもたらし、グテーレス事務総長が警告したような惨事を避けることができるだろう。

サミット閉会にあたってモディ首相は、「各国からの提案を検討し、実施に向けてどう加速できるかを検討するのは我々の責任です。」と述べ、11月にG20サミットをオンラインで開催することを各国に提案した。

G20の議長国は、2024年がブラジル、2025年が南アフリカとなる。

インドの外交官を30年以上務めたM・K・バドゥラクマール氏は、「RTチャンネル」のコラムで、G20声明は「ウクライナ問題に焦点を当てることを避けた」欧米諸国の冷静な判断によって可能になったものだとの見解を述べた。

「デリーサミットへの準備中やサミット期間中に、ロシアバッシングや、西側諸国の首脳がその件で感情を爆発させるようなこともなかった。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長も米国政府の態度と足並みをそろえて自制を保った。」とバドゥラクマール氏は指摘した。

「バイデン政権は、グローバル・サウスを動かす望ましい指導者としてのモディ首相の立場を強化する『大きな成功』をこのサミットでもたらしたいと考えていました。米国は、グローバル・サウス、とりわけアフリカに対するアプローチにおいて大胆な軌道修正を図ったのです。というのも、地政学的な空間を独占しようとする中国とロシアからの挑戦が強まっており、そのような地政学的な現実が米政権の念頭にあったからです。」とバドゥラクマール氏は論じた。

サミットが開催された週末の2、3日の間に、(中国の一帯一路構想に似た)鉄道を建設してインド・中東・欧州回廊を造ろうとする構想をバイデン大統領が発表し、ハノイにおける米越首脳会談の翌日に持続可能な開発を目指した米・ベトナム包括的戦略パートナーシップが発表され、アフリカ連合をG20に加入させるモディ首相の試みが支持され、世界銀行による融資構造を強化するG20の新たな構想が発表された。バドゥラクマール氏は、「グローバル・サウスとの関与を強めたい西側の『危機感』がこの背景にあった。」と指摘している。

「これ以上強いメッセージもないだろう。米国はグローバル・サウスとの関与をリードしようと努めている。このパラダイムシフトの中で、バイデン大統領はモディ首相を主要な同盟相手とみなしている。もちろん、グローバルな同盟国としての米国との戦略的パートナーシップを加速し強化する意思を最近インドが明確に示していることが背景にあります。」とバドゥラクマール氏は語った。

G-20 India

シンガポールの元外交官で、「責任ある国家経営のためのクインジー研究所」のオンライン刊行物である『責任ある国家経営』の取材に応じたキショア・ムブバニ氏は、「米国はインドの取り込みに躍起です。逆説的だが、これと最もよく比較できるのは、ソ連に対抗して中国を取り込もうとした米国の1970年代の試みです。今日、中国と対抗するために米国はインドを取り込もうとしている。バイデン大統領がインドのG20に出席し、インドネシアで開催された東アジア首脳会議に欠席したのはそのためです。」と語った。

「インドは、G20議長国としてニューデリー首脳宣言に結実した巧みな外交と戦略によって、新しい世界秩序と意思決定の中心に自らをしっかりと位置づけました。」とNDTVの国際問題コラムニスト、バルティ・ミシュラ・ナス氏は主張した。

「交渉を通じて、インドは分断よりも結束を強調しました。今回のG20議長職就任はインドにとって歴史的な瞬間であり、新たなグローバル秩序におけるインドの存在感を高めるものでした。今日、世界はインドを信頼に足る強固な大国であり、恵まれない国々や疎外された国々の擁護者であると見ています。」(原文へ

INPS Japan

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|視点|なぜ民主主義国の中にはウクライナを支持せず、ロシアに近づく国さえあるのか(ホセ・キャバレロIMD世界競争力センターシニアエコノミスト)