【国連IDN=タリフ・ディーン 】
1960年代と70年代、116の加盟国からなる非同盟運動 (NAM:61年に旧ユーゴスラヴィアのベオグラードで設立)は、当初ユーゴスラビア、インド、エジプト、ガーナ、インドネシア、ザンビア、アルジェリア、キューバ、スリランカといった国々によって導かれた最大かつ最強の政治連合(現在の加盟国は120か国)であった。
「非同盟」という概念が国連で政治的に支持されるようになったのは、89年頃まで続いた冷戦の最盛期である。
Gamal Abdel Naser, Džavaharlal Nehru i Josip Broz Tito na Brionima/ By Tanja Kragujević – Stevan Kragujević, CC BY-SA 4.0
78年2月にNAMの議長に就任したスリランカのジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ大統領 (JRJ)は、冷戦を続ける米ソ両国のどちらとも強く与せず、政治的に独立しているとされるNAMに懐疑的であった。
米国の報道記者とのインタビューで、ジャヤワルダナ大統領は「非同盟」についての政治的な神話を格下げし、世界に「非同盟国」は米国とソ連の2カ国だけであり、「他のすべての国々は、恐らく懸命にも、政治的、経済的に米国かソ連と連携している。」と断言して、物議を醸した。
そして今、米国に次ぐ世界第二の経済大国となった第三の国、中華人民共和国が新たな超大国として台頭してきた。
特にアジアとアフリカのいくつかのNAM加盟諸国は、中国からの経済・軍事援助に大きく依存し、政治的に中国に同調しているため、中国の台頭は非同盟の概念を損なう恐れがある。
この新たな展開は、次のような問いを引き起こす。特に、国連で新たな冷戦が勃発し、拒否権を持つ常任理事国である中国とロシアが対米、英、仏で足並みを揃えている時、NAMはまだ生きているのか、それとも生まれ変わろうと努力しているのか、といった疑問が生じるのだ。
この分裂は、シリア、ミャンマー、アフガニスタン、イエメン、そして最近ではウクライナなどにおける軍事紛争や内戦を巡る行き詰まりをもたらし、国連加盟国を政治的に分裂させることにもなっている。
欧州連合(EU)のピーター・スタノ報道官は2月17日、最大の貿易相手国で1998年にNAMの議長国だった南アフリカ共和国が、非同盟の立場からさらに遠ざかり、急速にロシアとの政治・軍事同盟に傾斜していると指摘されている点を引用した。
しかし、南アフリカ当局者はこれを否定し、非同盟運動の原則に則り、現在も公式に「非同盟」であると主張している、と『ニューヨーク・タイムズ』紙は報じている。
Hewa Matara Gamage Siripala PALIHAKKARA/ APLN
元スリランカ国連大使のH.M.G.S. パリハッカラ氏は、IDNの取材に対して「私の知る限り、どの政府も昔の非同盟諸国の『運動』を復活させようとはしてはいません。しかし、非同盟の 『理念』と、インド太平洋に迫り来る対立/冷戦に対処するための改革については、よく議論されています。」と語った。
また、「非同盟運動(NAM)の『制度』と非同盟の『理念』を混同する傾向もあります。これは非同盟運動というダイナミックな概念に対してあまりにも単純な態度です。NAMという運動や制度は、冷戦の終結とともに内部の惰性で消えていきましたが、非同盟という考え方は生き続け、新興国が人間・領土の安全や経済的繁栄を追求する空間をダイナミックに作り出しました。」と指摘した。
「このような国々は、経済的な利益を『全方位』から得たいがために、ある勢力争いの『間違った側』にいるという認識から生じる不利益や制裁を受けることはできないし、受ける必要もありません。非同盟とは、距離を置いたりおとなしくしていたりする外交ではなく、むしろ積極的に関与する強固な外交を指す言葉です。」
スリランカ外務省の元外務次官であるパリハッカラ氏は、「この考え方の有用性は、『インド太平洋』での紛争につながりかねない、既に進行中の勢力争いと迫り来る対立の文脈において、より鮮明になるだろう。」と述べ、「アジアがこれまでに築いた豊かな繁栄が損なわれ、大陸が感じ始めている安全の欠如が深刻化する可能性があります。」と指摘した。
インド・アジア・ニュース・サービスの国連特派員で、ニューデリーに拠点を置くシンクタンク、政策研究協会の非駐在シニアフェローであるアルル・ルイス氏は、IDNの取材に対し、「インドは負債や低成長といった問題について話しているが、これは開発途上国の相当数の国々に影響を与えている課題です。しかしインドは負債の問題に直面していないし、先月の国連の発表では経済成長は6.7%、IMFでは6.1%と主要経済国の中で高成長を記録しています。」と語った。
「インドはこうして、開発途上国の間で自らの指導的立場を強化するために、これらの問題を強調しているのです。このことは、『グローバルサウスの声』構想において、自国の利益を代弁しているようには見えないので、一定の信頼性を与えることになります。」
ルイス氏はまた、「NAMは、キューバなどの国が主導的な役割を果たし、ロシアに偏った政治的なものになる傾向があります。」と指摘した。
最近では、2019年までベネズエラがNAMの議長国を務め、16年にサミットを主催したが、政府首脳や国家レベルの参加はあまり得られなかった。
ルイス氏は、「冷戦の終焉とともに、一極集中の世界では非同盟は意味を失ってしまいました。現在、議長国アゼルバイジャン の指導の下、非同盟運動は復活を目指す途上にありますが、12月にはウガンダがこれを試みる番であり、それは経済や開発の利益に基づくものになるでしょう。ここでもまた、旧来の極論が通用する可能性は低く、特に先進国自身が経済的なストレスに直面している現在では、非同盟運動の復活や極めて困難だろう。」と語った。
NAM創設国の一つであるインドは、「グローバルサウスの声」モデルを通じて、経済、健康、その他の開発問題に焦点を当てつつ、先進国に構造的問題の解決を期待するのと同様に、グローバルサウスの国々が協力して解決策を見出すことに重点を置いた取り組みを進めています。」とルイス氏は語った。
G77 plus China
1960年代から70年代にかけては、総会決議で116カ国が一斉に投票することは、ほとんどなかった。
イスラム協力機構(OIC)、77か国グループ(G-77) 、中南米・カリブ海諸国、アフリカ連合(AU)、西欧諸国など、様々な地域グループや連合は、ほとんどの場合、投票に先立って非公開で意思決定を行っている。
しかし、国連のほとんどの投票において「群集心理」が働いているとはいえ、予定外の投票が代表団を驚かせることは稀にある。
あるスリランカ大使は、本省から送信された、主に新たに着任した代表団に向けたメッセージについてこう語った。「もし予定外の採決に直面し、外務省からの指示がない場合は、右を見てユーゴスラビアの採決状況を確認し、左を見てインドの採決状況を確認しなさい。もし両大使が席を立つのが見えたら、トイレまでついていけばいい。」(「席を立つ」のは、厄介な記録投票から逃れるための政治的戦術である)
Panorama of the United Nations General Assembly, Oct 2012″ by Spiff – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikipedia
1979年9月、ハバナでの首脳会議でスリランカがNAMの議長国をキューバ に引き継いだ際、西側諸国と主要メディアは、ハバナのような親ソ同盟国が「非同盟」国になり得るという事実を決して受け入れなかった。
その結果、キューバがNAMの議長国を務めた1979年から83年まで、ニューヨーク・タイムズ紙は、その編集方針からか、NAMを「いわゆる非同盟運動」と表現し、紙面に掲載されるニュースのすべてにその表現を使った。83年、インドがNAMの議長国を引き継いでから、「いわゆる」のレッテルは外された。
一方、冷戦終結後も、核軍縮、自決権、国家主権の保護、さらには達成困難なパレスチナ国家の実現など、NAMの政治的使命の一部は有効であった。
Photo: UNON – United Nations Office at Nairobi
ブトロス・ブトロス=ガリ前国連事務総長は、1995年にコロンビアで開かれたNAM首脳会議で、「1955年のバンドンにおける非同盟の誕生 は、驚くべき、世界を変革する大胆な行動でした。国際政治は根本的に、そして永遠に変容したのです。」と語った。
ガリ事務総長が指摘したように、非同盟は新しい原理、すなわち連帯の原理からその政治的な力を得ていた。
しかし、米国の故リチャード・ホルブルック国連大使 (1999-2001)は、その連帯を崩すために、「分割統治」という古い戦術を試みた。
国連でのアフリカグループへのお別れの挨拶の中で、ホルブルック大使は、「私は、アフリカ諸国に対し、非同盟運動との結びつきを再考するよう謹んでお願いしたい。非同盟運動は、現時点では我が国にとってアフリカの友人ではありません。あなた方の目標とNAMの目標は同義ではありません。」と語った。
ホルブルック大使は、NAMに加盟しているためにアフリカの発言力が弱まっているとして、「NAMの立場が実際にアフリカグループのためになったことは一度もない。」と指摘した。さらに、国連で最大の単一政治グループであるNAMは、独立したコーカスとして存在しなくなるか、G-77と合併すべきであると述べた。G-77は134の加盟国で構成される国連最大の経済団体で、ほとんどの途上国がこの2つの団体に加盟している。
ホルブルック大使は、アフリカ諸国は「NAMから距離を置くことを検討すべきです。そうすれば、アフリカの利益を守ることができるし、10カ国以下の急進的な国々に押されて、必要ない立場に置かれることもないだろう。」と語った。
ホルブルック氏が国連大使を辞めた後も、米国国連代表部は、彼の演説を国連総会資料として回覧し、公式に信用を与えることにした。
しかし、NAMは反撃に出た。
偶然にも、当時の議長国がアフリカの加盟国だった。そこで、NAMの議長国である南アフリカ共和国の大使が反論することになった。
ホルブルック大使の提案は、NAM加盟国全体に対する侮辱である。「NAM加盟国でもない国が、この運動のアフリカのメンバーを規定しようとするこの試みは、よく言えば不勉強、悪く言えば見当違い、誤解を招くもので、NAM加盟国全体への侮辱を構成するものである。」
「米国代表部が総会の議題として声明を発表したことは、NAMの正統性に疑問を呈する試みとしか思えない。」と、南アフリカのドゥミサミ・シャドラック・クマロ大使は語った。
クマロ大使は、NAM加盟国への書簡の中で、「南アの国民にとって、NAMは、アパルトヘイトに対する私たちの闘いを支持し、NAM域外の多くの人々が、私たちの過去の人種差別的な政権に満足するか支持する一方で、不動の立場にあったことを常に記憶することになるでしょう」と宣言した。
Singaporean Minister Vivian Balakrishnan/ By Vivian Balakrishnan. – [1]Transferred from en.wikipedia by SreeBot., CC BY 3.0
一方、シンガポールのビビアン・バラクリシュナン外務大臣 は昨年11月の講演で、「私たちなし得る一つの方法は、よりオープンで包括的な、多国間の科学技術やサプライチェーンのネットワークを持つことができる世界を構想してみることだ。」と述べて、新しい展望を示した。
バラクリシュナン外務大臣はまた、「冷戦時代、世界の急速な二極化に対抗するために、非同盟運動が生まれたことを思い出してください。おそらく今日、私たちは歴史の中で同じような瞬間、同じような地政学的な力のダイナミズムに遭遇しており、全てのNAM加盟国にとって深く有害な結果をもたらす二極化への深淵を見つめているのです。」と指摘した。
さらに、「しかし、科学技術とサプライチェーンのための非同盟運動とはどのようなものだろうか。まだ議論は始まったばかりですが、それは多極化、オープン、ルールに基づくことが重要です。つまり、オープンサイエンス、知的財産の公正な共有と収穫、そして、単にどちらかの側に立ったということで判断されるのではなく、最も革新的で、信頼でき、信用できる存在であることを競うシステムへの取り組みが必要です。」と語った。
「特にアジアでは、今、欧州で起こっていることを見ると、分断の線がありました。かつては鉄のカーテンと呼ばれるものでした。今日のウクライナにおける戦争も、ある意味、その分断線がどこにあるかということです。私たちはアジアを二分する分断線に興味はありません。私たちが提供するパラダイムは、友好の輪を重ねることなのです。」
「どの国も-アジアには大きな多様性があります。米国と中国に対する経済的・政治的な距離感でアジアのNAM加盟国を並べると、それぞれ微妙に異なった立ち位置になります。」
Map of the current members (dark blue) and observers (light blue) of NAM (Non-Aligned Movement)/ By Ichwan Palongengi, CC BY-SA 3.0
「しかし、自尊心のあるアジアの国々は、罠にはめられたり、属国になったり、もっと悪いことに代理戦争の舞台になることを望んでいるとは思えません。したがって、私は、世界の他の国々が何を望んでいるかを主張しようとしているのです。実際にそれを実現できるかどうか?それは時間が解決してくれるでしょう。なぜなら、米国と中国が共存の道を歩むという理想的なシナリオはまだ残っているからです。」とバラクリシュナン外務大臣は明言した。(原文へ )
INPS Japan
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