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映画「オッペンハイマー」で核のホロコーストは回避できるか?

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

ウィーンでの核不拡散条約(NPT)2026年再検討会議第1回準備委員会会合があと数週間に近づく中、クリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」がメディアで物議をかもしている。

広島と長崎を1945年8月6日と9日にそれぞれ消し去り、12万9000人から22万6000人の死者を出した原爆の「生みの父」オッペンハイマーの伝記映画である。

2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の政策・研究インターンであるマグリッテ・ゴーダニアーは『原子科学者紀要』誌で、ニューメキシコ州ロスアラモス研究所で原爆開発の主任科学者を務めたJ・ロバート・オッペンハイマーは、原爆投下から8日後、核兵器の開発継続によって平和を維持する可能性を疑う内容の手紙を陸軍長官に送ったと記述している。

それから8年後、彼は、「利益を引き出そうとする態度によって加速した軍拡競争を引き起こすこの新兵器の潜在能力や、『核の平和』をもたらすとする神話の不安定性、これらの兵器が文明にもたらす圧倒的で継続的な脅威について」警告した。

「70年後の今、オッペンハイマーが戦後に抱いた懸念は正しかったといえるようだ。オッペンハイマーが始めた原子時代しか知らない私たちは、そのリスクにはうんざりとしている。」とゴーダニアーは説明する。

「戦略的リスク評議会」の広報責任者アンドリュー・ファシーニは、『原子科学者紀要』のノーランの記事は、核兵器が開発されると、権力ブローカーが核兵器事業を引き継ぐスピードと粘り強さを示している」と称賛した。

ファシーニによると、「実質的に敗戦した」日本だけがターゲットになったとき、オッペンハイマーはソ連との軍拡競争始まることになるのではないかとより懸念するようになった。

結局のところ、軍備管理に対する彼のコミットメントと、そのために積極的に発言する姿勢は、原爆から権力を得ようとする人々とは相容れず、彼らは組織的かつ意図的に彼を破滅させたのである。

オッペンハイマーは後年このように振り返ったとされる。「我々は世界が同じものであり続けることはないと知っていた。一部の人間は鼻で笑い、一部の人間は叫び、ほとんどの人間は沈黙を保った」。オッペンハイマーは映画の中で、「バガバッド・ギータ」の一節を引いて、「いまや私は死となり、世界の破壊者となった」と語っている。バガバッド・ギータは700節から成るヒンズー教の聖典である。

ノーベル平和賞を受賞したICANに言わせれば、今回の映画「オッペンハイマー」は、核兵器の危険性にも関わらず、核兵器に関して人々を教育し、その廃絶運動に加わらせる機会を提供するものだという。核のリスクに関する意識を喚起することで、極めて重要である前向きな姿勢と核兵器に反対する態度が拡がることになろう。

映画『オッペンハイマー』は核兵器の起源に迫っているが、核兵器禁止条約は「その廃絶に向けた道を指し示している」とICANはいう。

同条約は2017年7月7日に採択され、同年9月20日に署名開放、2021年1月22日に発効した。核兵器を包括的に禁止する初の法的拘束力ある国際条約である。

核不拡散の問題は、国連での協議を通じて早くも1957年に取り組まれ、1960年代に推進力を得た。

国際的行動の規範として核不拡散を称揚する条約の構造が1960年代半ばまでに明らかになってきた。1968年までに条約に関する合意がなされた。核拡散は禁止され、原子力平和利用のための国際協力が可能となり、核軍縮の目標が前進させられることになった。

条約第10条によると、条約発効から25年後に会議が開かれて、条約を無期限延長するか、定められた年限の延長をするか決められることになっていた。

1995年5月のNPT再検討・延長会議では、条約締約国が条約の無期限延長を無投票で決めた。

2026年NPT再検討会議第1回準備委員会会合が今年7月31日から8月11日にかけてウィーンで開かれる前に、「核兵器廃絶を目指すグローバルネットワーク」(アボリション2000)は、偶然、計算違い、危機のエスカレーション、あるいは故意によって核戦争の起きる可能性がますます高まっていると警告した。

アボリション2000はその作業文書で、ウラジーミル・プーチン大統領が核兵器使用の威嚇をするなかでロシアがウクライナに侵攻する状況下でこの集まりを持つことが重要であり、軍縮が急務だと述べた。この文書によると、ロシアが核兵器を使用する意志は、核兵器搭載可能なミサイルの実験や、隣国ベラルーシへの核兵器の前進配備の中に見て取れるという。

アボリション2000によれば、ウクライナ戦争は、ミサイルやミサイル防衛、航空機、無人飛行機、ますます複雑化する探知・通信技術、妨害的な電波戦争、サイバー戦を組み合わせた21世紀の戦争の危険性を示しており、人知を超えた領域に戦争を押し上げつつあるという。

広範囲にわたった多極的な軍拡競争が、核保有国間の敵意の増大によって加速している。ウクライナ戦争はその一つの表れに過ぎないと「核兵器廃絶を目指すグローバルネットワーク」はいう。発展を加速させる技術は、戦略的な重要性を持った非核技術を生み出し、核兵器運搬や対核兵器防衛のための新型あるいは改修型システムに組み込まれつつある。

より多くの人々に関係のあるAI技術の競争の中で、AIを兵器システムに応用しようとの誘惑及び危険につながりかねない。

さらに言えば、欧州が核保有国間の緊張が高まりつつある唯一の戦域だというわけでもない。北東アジアや南シナ海、東南アジア、中東でもそれは起こっている。(原文へ)

INPS Japan

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危機に瀕する持続可能な開発目標

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた世界的な努力を倍加させなければ、政治的不安定を助長し、経済を根底から覆し、自然環境に取り返しのつかないダメージを与えることになりかねないと、「持続可能な開発目標レポート2023(特別版)」は指摘している。

世界の指導者たちは、2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とその17のSDGsに合意した際、健康で繁栄する地球上ですべての人の権利と幸福を確保するという歴史的な約束をした。しかし、気候危機、ウクライナ戦争、暗い世界経済の見通し、新型コロナウィルス感染症パンデミックの長引く影響などが複合的に影響し、制度的な弱点が明らかになり、開発目標に向けた進展が著しく妨げられている。

The Sustainable Development Goals Report 2023: Special Edition

目標達成期限まであと7年しかない。各国がSDGs達成のためにとっている具体的な行動をレビューする「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム (HLPF 2023)」(7月10日~19日)が開幕する中、報告書はSDGsの悲痛な姿を提示している。このフォーラムは、SDGsサミット(9月18日から19日)に先立ち開催されるもので、世界の指導者たちにとって、SDGsを緊急に軌道修正し、さらに加速させる決定的な機会となる。

評価された約140のターゲットの半数が、望ましい軌道から中程度または著しく逸脱している。さらに、これらのターゲットの30%以上は、まだ進展が見られないか、さらに悪いことに、2015年のベースラインよりも後退している。

報告書によると、新型コロナのパンデミックの影響により、極度の貧困を削減するための30年にわたる着実な進歩が停滞し、極度の貧困に苦しむ人々の数は、この世代で初めて増加した。

現在の傾向が続けば、2030年までに、5億7500万人という途方もない数の人々が極度の貧困に陥ったままとなり、8400万人の子どもたちや若者が学校に通えなくなると推定される。2022年に119カ国で収集されたデータによると、女性に対する直接的・間接的な差別を禁止する法律がない国が全体の56%を占めている。

世界の気温上昇は、産業革命以前のレベルをすでに1.1℃上回っており、2035年までに1.5℃の転換点に達するか、それを超える可能性がある。報告書はまた、進展のなさは世界共通であるが、世界で最も貧しく脆弱な人々が、こうした前例のないグローバルな課題による最悪の影響を経験していると警告している。

Air and chemical pollution are growing rapidly in the developing world with dire consequences for health, says Richard Fuller, president of the Pure Earth/Blacksmith Institute. Credit: Bigstock
Air and chemical pollution are growing rapidly in the developing world with dire consequences for health, says Richard Fuller, president of the Pure Earth/Blacksmith Institute. Credit: Bigstock

突破口の可能性

しかし、2015年以降のいくつかの分野での進展は、さらなる進歩の可能性を示している。世界人口のうち、電力にアクセスできる人の割合は、2015年の87%から21年には91%に増加した。

報告書はまた、2021年までに133カ国が5歳未満児死亡率に関するSDGs目標をすでに達成しており、2030年までにさらに13カ国が達成する見込みであることを示している。世界的な製造業の成長鈍化にもかかわらず、中・高・ハイテク産業は堅調な成長率を示した。発展途上国は2021年に、一人当たり268ワットという記録的な再生可能エネルギー発電能力を導入した。

さらに、インターネットを利用する人の数は2015年以降65%増加し、2022年には世界で53億人に達した。

これらの重要な開発成果は、集団行動、強力な政治的意志、そして利用可能な技術、資源、知識の効果的な活用の組み合わせによって、すべての人にとってより良い未来への突破口が開けることを示している。

この進歩により、何億人もの人々を貧困から救い、男女平等を改善し、2030年までに世界を低排出軌道に乗せることができる。また、データのエコシステムを強化することは、世界がどのような状況にあり、SDGsを達成するために何をなすべきかを理解するための鍵となる。

その他の重要な事実と数字

過去の傾向を踏まえると、2030年までに貧困率が2015年比で半減する国は3分の1に過ぎない。

2021年には、ほぼ3人に1人(23億人)が、中程度または深刻な食糧不安に陥っていた。

2015年から22年にかけて、安全に管理された飲料水安全に管理された衛生設備(トイレ)、基本的衛生(=石けんと水で手洗いができる施設など)へのアクセスが増加した結果、これらの必要不可欠なサービスを利用できるようになった人は、それぞれ6億8700万人、9億1100万人、6億3700万人に増加した。

効果的なHIV治療により、2010年以降、世界のエイズ関連死は52%に減少し、47カ国で少なくとも1つの顧みられない熱帯病がなくなった。

2020年の時点で、約11億人が都市部のスラムやスラムに類似した環境で暮らしている。

国や地域の災害リスク削減戦略を持つ国の数は、2015年以降倍増しており、災害を管理し、その影響を軽減するための意識と備えが高まっていることを示している。(原文へ

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対中国戦略: 環大西洋と欧州の不協和音

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

2023年4月半ばに日本で開催されたG7外相会合は、足並みを揃えた対中国政策の必要性を強調することを目指した。しかし、外交宣言は内部矛盾を取り繕うことしかできず、それらを取り除くことはできない。ロシアのウクライナ侵攻以来、中国への対処が環大西洋および欧州諸国の政策の焦点となっている。目的は、ロシアとの経験から教訓を学び、依存を避けること、あるいは少なくとも減らすことである。

コンセンサスは以上である。環大西洋グループ内の相違は、指導的政治家の海外訪問を見ればすでに明白である。米国の高位政治家らは現時点で中国を訪れていないが、ドイツのオラフ・ショルツ首相に続き、特にスペインのペドロ・サンチェス首相、最近ではフランスのエマニュエル・マクロン大統領が欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長とともに訪中している。現時点で米国とEUの協調政策も、一貫したEUの戦略も存在しない。それどころか、環大西洋諸国とアジアの同盟国の中国に対する姿勢は、おおむね非協調的で、一貫性がなく、矛盾し、不協和音的である。(

米国では、超党派の安全保障政策の主な焦点は、台湾の独立と、それを踏まえた中国からのデカップリングの試みにある。経済的結び付きを縮小し、重要な技術を北京に渡さないようにするべきである。米国の目標は、中国に軍事的に対抗し、中国が不可避の台頭を遂げて世界ナンバーワンの大国になるのを阻止する、あるいは少なくとも遅らせることであり、それを大々的な封じ込めによって実現することである。欧州および北米諸国は、「中華民族の使命感によって形成された世界観」を退けることで合意している。少なくともそれが、フォン・デア・ライエンが北京訪問の前に行った基調講演で示した姿勢である。グローバルサウスの多くの国々が西洋に支配された国際秩序の改革を望んで中国を支持しているという事実はしばしば無視される。欧州委員会委員長は、協調と競争を可能にする「制度とシステムを強化する必要がある」と述べた。

この基調講演で彼女は、EUの立場を次のように要約した。「中国との関係は極めて重要であり、健全な関わり合いの条件を明確に定めることなくこの関係を危うくすることはできない」。従って、「封じ込め」も「デカップリング」もない。EUは何年か前、政策分野に応じた三つの位置付けを定めた。中国は、パートナーであり、競争相手であり、ライバルである。しかし、近頃そのパートナーシップは疑わしくなっている。いわば、ゴルディアスの結び目を断ち切ろうとするようなものだ。

マクロンは、台湾やEU・米国関係に関する発言で同盟国を驚かせ、ぞっとさせた。北京から帰国する機内で欧州のニュースサイト「ポリティコ」のインタビューに応じ、欧州は「大きなリスク」に直面しており、それは「危機に発展しているが、それはわれわれには関係ない」と、フランスの大統領は述べた。彼は、台湾独立をめぐる米国と中国の対立に巻き込まれないようにするため、EUの米国への依存を低減したいと考えている。2017年に行った有名なソルボンヌ演説ですでに説明し、「ポリティコ」のインタビューでも繰り返したように、マクロンの最終目標は、「第3のスーパーパワー」としての地位を確立するための欧州の「戦略的自律」である。今日の状況に言及しつつ、彼は、「二つの大国間の緊張が激化すれば……われわれの戦略的自律のために財源を工面する時間も資源もなくなり、われわれは追随者になってしまう」と説明した。

マクロンの分析は、その核心において正確である。EUは、アジアで安全保障上の重要な役割を果たすための軍事的手段を持たず、EU・米国関係において経済的利益が争点となっていることは明らかである。しかし、マクロンのやり方は往々にして、正しいことを不適切なタイミングで言い、しかも無神経な伝え方をするというものだ。中国がプーチンを説得してウクライナ戦争から手を引かせるのではなく、ロシアとの関係を強化しようとしている状況で、米国と距離を置くよう呼びかけるマクロンのドゴール主義的な発言はかなりずれている。ウクライナにおける戦争は、ウクライナへの最大の軍事支援国である米国に、欧州がいかに安全保障面で依存しているかを示している。また、多くの欧州国では、欧州と米国との間にくさびを打ち込もうとする試みはフランスの国家利益のためだと批判されている。

2019年にすでにマクロンは欧州軍の創設を提案し、NATOの状況を「脳死」と評して厳しく批判した。ソルボンヌ演説ではより慎重で、欧州が安全保障政策において「NATOを補完し、独立して行動できる」ようにすることを望んだ。マクロンが求める欧州の「戦略的自律」はまだ遠い先の話だとしても、仮にそれに取り組むというのであれば、ウクライナ戦争は何よりも一つのことを実現したともいえる。つまり、全ての欧州諸国でかつてないほどに急激に軍事費が増加したのである。

しかし、中国に対するEUの関係は、米中間のような世界規模の安全保障上の紛争ではなく、経済関係や経済依存の問題である。欧州諸国と中国の間の極めて重要な経済的結び付きは、2022年11月初めのドイツ首相と同様、マクロンが大勢の財界トップらを引き連れて北京を訪問したことに表れている。このことは、欧州と米国では問題の優先順位が異なることも示している。より単刀直入にいえば、金の力が物を言うということだ。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、EUの対中国戦略においてリスク削減に注力することを望んでいる。「われわれは、デカップリングではなくデリスク(リスク低減)に焦点を当てる必要がある」。彼女はその基調講演で、「デリスク」という造語を9回口にした。訪中後、彼女は欧州議会でその言葉を数回にわたって繰り返した。中国との経済関係の見直しは、唐突に出てきたわけではない。ウクライナ戦争が勃発する前でさえ、欧州の人々は中国との関係にかかわる二つの出来事に警戒心を抱いていた。第1に、EU加盟国であるリトアニアが2021年、台湾に対して国内に代表機関を開設することを許可して以来、中国政府は苛立ちを見せ、リトアニアとの通商関係を制限している。リトアニアに対する中国の制裁は、EUの域内市場に影響を及ぼしている。第2に、EU議会が2021年3月に中国人4名について、ムスリムのウイグル族弾圧に加担したことを理由にEU入域を禁止する決定を下した際、北京は報復措置として欧州議会議員数名の中国入国を禁止した。

EUは現在、「デリスキング」の考え方を追求している。フォン・デア・ライエンは、これが意味するところを具体的な言葉で説明している。「われわれは、極めて憂慮すべき問題を提起することに決して及び腰ではない……しかし、より野心的なパートナーシップについて、また競争をより公正でより規律あるものにするために何ができるかについて議論する余地を残すべきだと私は考える」。

しかし、EU内には対中国戦略に関するいかなる合意もない。ドイツ政府の中でさえ、意見の相違がある。2022年11月の北京訪問後、ショルツ連邦首相は、ロシアが核兵器使用の可能性に繰り返し言及していることを中国の習近平主席が批判したと誇らしげに発表した。「それだけでも、今回の訪中自体が意義あるものとなった」と、帰国後にショルツは述べた。マクロンの少し後に北京を訪れたドイツのアナレーナ・ベアボック外相は、それより対立的な姿勢を選んだ。中国政府との会談の後、彼女は「時に極めて衝撃的なこともあった」と述べた。彼女は今や、これまで以上に中国を体制的ライバルと認識しており、「パートナー、競争相手、体制的ライバル」という欧州の三つの位置付けを訪中前よりも強調している。

「ポリティコ」によれば、彼女はこのような判断に基づいて、他の多くの欧州政治家と同様、「ワシントンで発生している強硬路線のコンセンサス」に近づいている。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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【東京INPS=砂田智映】

核兵器使用の可能性が、戦後最も高まっているとも言われるなか、本年5月、先進7カ国首脳会議(G7サミット) が広島で開催された。歴史上初めて核兵器が使用された広島の地でG7サミットが開催されG7に初めて核軍縮ワーキンググループ(WG)が設けられるなど、市民社会の間でも核軍縮に対し何らかの前進があるのではないかという期待が高まった。

A Glimps of the Conference: “Advancing Security and Sustainability at the G7 Hiroshima Summit” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

私共もトロント大学G7研究センターを中心とするG7研究グループとともに、G7政策提言国際会議を開催し、政策提言として、「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」とのG20バリ首脳宣言を強固なものとすること、核兵器の先制不使用の原則について誓約すること、核兵器禁止条約と核兵器不拡散条約の相互補完性を認識し、両者の間に討議の場を設け、核関連の被害者支援、環境修復、および効果的な検証システムの構築に協力することなどをまとめ、日本政府およびG7各国政府にも提出した。しかしながら、核軍縮に関するG7首脳広島ビジョンや首脳宣言に反映されなかったことについては、他の市民社会グループと同様に残念に思っている。

Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.

一方で、G7の主要な議題として核軍縮がとりあげられたこと、G7のリーダーが広島平和記念資料館で被爆の実相にふれ、そしてなにより被爆者から直接、話を聞いたことは象徴的な意味があったと思う。各国の評論家は、各国首脳が広島平和記念資料館を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花することが国内世論に与える潜在的な影響を指摘している。

G7各国をはじめ世界各地から若者が集った「広島G7ユースサミット」(東広島市の広島大学キャンパスで). SGI
G7各国をはじめ世界各地から若者が集った「広島G7ユースサミット」(東広島市の広島大学キャンパスで)Credit: SGI

また核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が主催した広島G7ユースサミットは、私どもも共催として参加した。G7各国や核実験被害国をはじめ世界各地から集った青年達が、核廃絶のために何ができるのかを真剣に議論する様子に、私は励まされるような思いがした。結局のところ、G7広島サミットの永続的な意義は、核軍縮の可能性について、特に日本だけでなく全世界の若者の間で認識を新たにしたことにあるのではないだろうか。

今年に入り2月、ロシアは新戦略兵器削減条約(新START)への参加停止を発表し、米国は戦略核兵器に関するデータ提供を停止した。この最後の二国間核軍備管理条約が効力を失う可能性が出てきたことで、新たな核軍拡競争への懸念が高まっている。

Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun

池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長はG7広島サミットへの提言「危機を打開する“希望への処方箋”を」の中で、核保有国に対し、核兵器を先制使用しないことを誓約するよう呼びかけた。そして最後に提言では「核兵器の先制不使用」について合意できれば、各国が安全保障を巡る“厳しい現実”から同時に脱するための土台にすることができる、また、先制不使用の誓約が「核兵器のない世界」を実現するための両輪ともいうべき核兵器不拡散条約(NPT)と核兵器禁止条約(TPNW)をつなぎ、力強く回転させる“車軸”となりうるものだからです」と述べた。

Chie Sunada. SGI
Chie Sunada. SGI

7月末には第11回NPT再検討会議第1回準備委員会、11月末にはTPNWの第2回締約国会議が予定されている。先制不使用の誓約およびTPNWへの署名、批准が進むよう私どもとしても尽力していきたいと考えている。INPSとのメディアプロジェクトによる意識啓発を追い風とし、多くの市民社会とも力を合わせ、「核兵器のない世界」「戦争のない世界」への道を開いて参りたい。(原文へ

この文はIDN/INPSが2009年来、創価学会インタナショナルと進めているメディアプロジェクトの2023年報告書「核なき世界に向けて」に寄せた寄稿文である。

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国連が歴史的な海洋条約を採択

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連が長年に及ぶ協議の末、世界の公海のうち3分の2以上を占める海洋で生物多様性の保全と維持をめざす世界海洋条約に合意した。

6月19日の採択を受けて、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「海洋は私たちの地球の生命線であり、今日皆様は、新たな命と希望を注ぎ込むことで、海洋に闘いの可能性を与えたのです。」と語った。

多国間主義の強さを示したものとして今回の条約を取り上げたグテーレス事務総長は、「私たちの地球に対する国境を越える脅威に対抗すべく行動することで、グローバルな脅威にはグローバルな行動を取ること、そして各国が公共の利益のために一致団結できることを、明確に示すことになります。」と語った。

Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten
Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten

国連のパリサ・コホナ元条約局長はIDNの取材に対して「2015年2月の寒く雪深い早朝3時に最終報告をまとめた『国家管轄権を超える生物多様性に関する国連臨時作業部会』の元共同議長として、国連海洋条約が正式採択されたことは喜びに堪えない」と語った。

「脅威にさらされているこの地球にあって生命を維持する上で海洋はきわめて中心的な役割を果たしている。」とコホナ氏は語った。生命は海洋から始まるのである。

 「今こそ、生命を維持するために海洋を保護することが必要だ。国内プロセスを早急に済ませ、署名開放された条約を早期に署名・批准するよう求める。」

 「2030年までに『持続可能な開発目標』の達成を目指すうえで、この条約は国連にとっての大きな成果となろう。海洋条約は、しばしば『海の憲法』に例えられる国連海洋法条約の下で発展してきた枠組みに新たに重要な柱を付け加えるものとなる。」と、コホナ氏は指摘した。

 国連のファルハン・ハク副報道官は6月19日、「2023年SDGサミット」開催の翌日にあたる9月20日から2年間、条約が国連本部において署名開放されると記者団に語った。この条約は60カ国の批准で発効する。

 グリーンピース「海洋を守れキャンペーン」のクリス・ソーン氏は、「条約はこの地球のすべての生命にとっての勝利を意味する。」と語った。今や、この条約に合意した各国政府は、公海上の広範な海洋保護区を設置しなければならない。

 「科学的に明らかなように、海洋に回復と繁栄のチャンスを与えるためには、2030年までに少なくとも海洋の3割が保護されなければならない。」

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

 「2030年が近づいており、我々の仕事はきわめて大きい。公海のわずか1%しか現状では保護されていない。世界中の多くの人々が変化を求めているからこそ、この歴史的な合意がなされたのだ。しかし、依然として先の道のりは長い。」

 「我々はいわゆる『30×30』の達成に全力を尽くす。この条約が2025年には批准され人間の破壊的な活動が及ばない海洋の聖域が海の30%を覆う状態が2030年までには現実のものとなるよう、昼夜を問わず努力していく。」

 他方、国連海洋法条約の遺産を基礎とするこの画期的な合意は、海洋の3分の2以上における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用のための法的枠組みを大幅に強化するものである。

 国連は、この条約は、海洋とその資源の持続可能な開発を促進し、海洋が直面する多面的な問題に対処するために、国家間およびその他の利害関係者間の分野横断的協力に不可欠な枠組みを提供すると述べた。

 効果的かつ時宜を得た合意の履行によって、2030年の「持続可能な開発アジェンダ」や「昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組」に盛り込まれた海洋関係の目標達成に大きな貢献がなされることになろう。

 国連によれば、この協定は4つの重要な問題に取り組んでいる。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

 まず、海洋遺伝資源に関する活動から生じる利益の公正かつ衡平な配分と、国家管轄権を超えた地域の海洋遺伝資源に関するデジタル配列情報の枠組みを設定し、そのような活動が全人類に利益をもたらすことを保証する。

 また、公海や国際海底域における重要な生息地や種を保全し、持続的に管理するために、海洋保護区を含む区域ベースの管理手段を確立することを可能にする。このような措置は、昆明・モントリオール生物多様性世界枠組みで合意された、2030年までに世界の陸域・内陸水域および海洋・沿岸域の少なくとも30%を効果的に保全・管理するという世界目標「30×30」を達成するために不可欠である。

 この枠組みは、国の管轄権を超えた地域での活動が環境に与える影響を評価し、意思決定において考慮することを保証するものである。

 また、これによってはじめて、各国の管轄権を超える領域において、気候変動や海洋の酸性化、それに関連した影響がどのような累積的な効果を持つのかを評価する国際的な法的枠組みが与えられることになる。

 合意の目標達成にあたって、条約の締約国、とくに途上国を支援する能力構築及び海洋技術移転の協力が促進され、各国の管轄権を超えた領域で海洋生物多様性を責任もって利用し利益を得るうえで、各国の平等化が図られることになろう。

 さらに、今回の合意によって、国連海洋法条約やその他の関連条約、それに関連する国際法の枠組み、資金提供や紛争解決などをめぐる世界・地域・地域以下・部門レベルでの機構との関係の整理など、領域横断的な問題に対処することができるようになる。

 また、締約国会議や科学技術関連機構、締約国会議の付属機関、情報センター、事務局など、組織の充実も図られる。

 グテーレス事務総長は、「海洋の直面する脅威への対処において、また、『2030アジェンダ』や『昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組』を含めた海洋関連の目標達成に向けて、今回の合意はきわめて重要だ。」と指摘したうえで、すべての国連加盟国に対し、この条約の早期発効を目指して遅滞なく行動し、できるだけ早く署名・批准するよう呼びかけた。

 また、この実現に向けて諸国への支援を惜しまない旨を表明した。(原文へ

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“Hopeful”: Historic U.N. High Seas Treaty Will Protect 30% of World’s Oceans from Biodiversity Loss./ Democracy Now.

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ベラルーシの戦術核兵器は「憂慮すべき事態」

【国連IDN=タリフ・ディーン】

ベラルーシへの戦術核兵器の第一弾の搬入を先月済ませたとロシアのウラジーミル・プーチン大統領が主張したことで、その意味合いと結末についてさまざまな憶測が拡がっている。しかし、この主張はどれだけ信憑性のあるものだろうか。それともプーチン大統領がまたぞろ核の恫喝に訴えたものだろうか。

Map of Belarus/ Wikimedia Commons
Map of Belarus/ Wikimedia Commons

ソ連が崩壊した1991年以降、ベラルーシには81発の単弾頭核ミサイルが配備されていた時期があった。92年5月、ベラルーシは核拡散防止条約(NPT)に加盟し、96年までにすべての核兵器をロシアに引き渡した。

「核政策法律家委員会」の会長で、国際反核法律家協会(IALANA)国連事務所長でもあるアリアナ・N・スミス氏は、IDNの取材に対して、「ロシアがベラルーシに戦術核兵器を配備したことは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が進行している中で、憂慮すべき事態だ。」と語った。

スミス氏は、「核共有協定は、通常、核兵器国の兵器を非核兵器国に配備し、戦時において非核兵器国がこれらの兵器を運搬・使用する手順を含むものであり、核不拡散条約(NPT)とは相容れない。今回のロシア・ベラルーシ間の取決めは、核のリスクを伴いつつすでに暴力的かつ違法な戦争をさらにエスカレートさせるもので、世界を危機に陥れかねない。」と指摘した。

ロシアもベラルーシも、それぞれ核兵器国、非核兵器国としてNPTに加盟しており、その条項に拘束されている。

条約第1条は、NPT上の核兵器国に対して「核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者に対しても直接又は間接に移譲しないこと。」さらに、「核兵器その他の核爆発装置の製造若しくはその他の方法による取得又は核兵器その他の核爆発装置の管理の取得につきいかなる非核兵器国に対しても何ら援助、奨励又は勧誘を行わないこと。」を義務づけている。

第2条は同じような義務を非核兵器国にも課し、核兵器の移転や支援を受けることを禁止している。

スミス氏は、「したがって、ロシアがベラルーシに核兵器を配備しベラルーシがそれを容認していることは国際法違反だ。今回の配備はすでに弱体化している世界の軍備管理に対する受け入れがたい脅威であり、紛争で核兵器が使用される可能性を高めるものだ。」と指摘したうえで、「ロシアと米国・北大西洋条約機構(NATO)は、いずれも自らの立場を正当化するために『抑止』に訴え、大量破壊兵器の使用をそれによって予防しうるという誤った主張をしている。」と語った。

例えば、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ベラルーシ領内にあるロシアの戦術核兵器を「潜在的な侵略者に対する抑止力」として明確に言及し、この文脈でロシアが使ってきたのと同様の言葉を使った。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

アントニオ・グテーレス国連事務総長は2022年8月、「これまで私たちが非常に幸運だっただけのことだ。しかし、運は戦略でもなければ、地政学的緊張が核紛争に波及することへの防護にもならない。」と指摘したうえで、「今日、人類はたったひとつの誤解、あるいはたったひとつの誤算で、核による滅亡に直面する瀬戸際にいます。」と語った。

6月16日付の『ヒル』紙の記事によると、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、ベラルーシに戦術核を配備したとのロシアの主張をバイデン政権は子細に検討しているが、米国の核態勢を「それに合わせる理由はない」と述べた。

ブリンケン発言は、ロシアがベラルーシへの核兵器の第一弾移送を終え残りは夏までに完了するとしたプーチン大統領の声明を受けたものだ。

3月にウクライナと国境を接する国(=ベラルーシ)に核兵器を配備する計画を初めて発表したプーチン大統領は、この動きは「抑止力」としての意味合いがあると述べていた。

プーチン大統領は6月17日、サンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」で演説を行った後、移送は「封じ込め」のためであり、「私たちを戦略的に敗北させようとする人々に対して」のメッセージであると話したことをBBCが報じている。

Vladimir Putin. Photo: ЕРА
Vladimir Putin. Photo: ЕРА

プーチン大統領は核兵器の使用可能性について問われると、「なぜ世界全体を恫喝する必要があるだろうか。 ロシア国家の存立が脅かされた場合には極端な措置を取ることもありうると、これまでも明言してきた。」と語った。

戦術核兵器は、戦場での使用や限定的な攻撃を目的とした小型の核弾頭と運搬システムである。広範囲に放射性降下物を撒き散らすことなく、特定の地域の敵目標を破壊するように設計されている。

最小規模の戦術核兵器は1キロトン以下(トリニトロトルエン爆弾相当量)であり、最大は100トン程度である。BBCによれば、これと比較すると1945年の広島型原爆は15キロトンであるという。

「しかし、この合意は不安定なものだ。広島G7サミットでの首脳らの態度はバリ宣言よりも後退したものだった。」(記事「広島G7サミット、核兵器をめぐる規範で後退」)

核兵器の使用やその威嚇に反対する規範を強化し、承認された国際法にそれを転換していくことの重要性がここには現れている。「核先制不使用グローバル」は、「規範から法へ:公的良心の宣言」でこのことを展開している。この宣言は4月に発表され、5月の広島G7サミットにも提出された。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri

また、7月31日から8月11日までウィーンで開催される核不拡散条約(NPT)第11回再検討会議に向けた第1準備委員会、9月にインド開催されるG20会合、10月の国連総会にも提示される予定だ。「公的良心の宣言」はアーロン・トビッシュ氏が起草したもので、8月のNPT準備会合ではジョン・ハラム氏が発表することになっている。

アリアナ・スミス氏はさらに説明して、グラハム、ブルーメンタール両米上院議員が最近、ロシアによるウクライナでの核兵器使用はNATOへの攻撃とみなすべきであるとの決議案を提出したと述べた。ロシアが核兵器を使用するか、あるいはザポリージャ原発で事故を起こした場合には、それが米国との戦争につながることを警告し、ロシア軍の「完全壊滅」を示唆したものだ。

「抑止力という言葉とそれに伴う行動は、私たちの生存を脅かすチキンゲームに等しい。これらすべてが、意図的な核攻撃だけでなく、誤算や誤った解釈による核兵器使用のリスクを高めている。」とスミス氏は指摘した。

ロシアによる今回のベラルーシとの防衛取決めは、米国がNATO諸国と行っている核共有の前例を念頭に置いたものだ。

「米国がNATO諸国と行っている核共有はNPT発効以前のものだが、米・NATOの核共有、ロシア・ベラルーシの核共有のいずれもが、核拡散につながりかねず、可能な限り早急に廃止されるべきだ。」と、スミス氏は主張した。

他方で、欧州安全協力機構(OSCE)は、7月4日にバンクーバーで開いた会合で、核リスク低減と核軍縮に関する次のような文章を「バンクーバー宣言」に盛り込んだ。

「OSCE(欧州安全保障協力機構)議員会合は、ロシアによるウクライナへの戦争によって煽られている核脅威エスカレーションを直ちに終わらせるよう求め、全ての参加国に対し、時間的枠組み内での核廃絶を達成するための国際的な取り組みを倍増させるよう奨励した。これには、包括的な核兵器禁止条約または協定の交渉(8回目のNPT再検討会議の最終文書で推奨されているもの)や、2017年の核兵器禁止条約の署名と批准が含まれる。」

この会議には、PNNDのメンバーも含め、北米・欧州・中央アジアから200人以上の議員が参加した。(原文へ

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ウクライナ戦争と核不拡散

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

2023年7月31日から8月11日までウィーンで開催される核兵器不拡散条約(NPT)2026年再検討会議準備委員会の第1回会合を前に、世界的な核兵器廃絶NGOネットワーク「アボリション2000」は、事故、誤算、危機の拡大、意図的な核戦争のリスクが高まっていると警告した。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri

今度の会議は、2026年の再検討会議までに予定されている3つの会合のうちの最初の会合となる。準備委員会は、条約の全締約国に開かれており、条約と来るべき再検討会議に関連する実質的および手続き的な問題に対処する責任を負っている。第1回会合の議長指名は、フィンランドのヤルモ・ヴィーナネン大使である。

アボリション2000の作業文書は、ロシアによるウクライナ侵略戦争(プーチン大統領による核兵器使用の威嚇)の余波を受け、軍縮の必要性が急浮上している今、来るべき会合の重要性を指摘している。核弾頭を搭載可能なミサイルの公開実験や隣国(ベラルーシ)への戦術核前方配備は、ロシアが核兵器を使用する意思を高いレベルで示している、という。

「ウクライナ戦争はまた、ミサイル、ミサイル防衛、航空機、無人機、かつてないほど複雑化した地上や宇宙空間を拠点とする感知・通信技術、破壊的な電子戦やサイバー戦が混在し、戦争のペースと複雑さを人間の理解の限界にまで押し上げている21世紀の戦争の危険性を実証した。」と作業文書では述べられている。

Pictured is the launching of two AeroVironment Switchblades which is an expendable miniature loitering munition UAV that can be used for reconnaissance and engaging targets with a warhead the equivalent of a 40mm grenade./ By U.S. Army AMRDEC Public Affairs, Public Domain
Pictured is the launching of two AeroVironment Switchblades which is an expendable miniature loitering munition UAV that can be used for reconnaissance and engaging targets with a warhead the equivalent of a 40mm grenade./ By U.S. Army AMRDEC Public Affairs, Public Domain

アボリション2000は、「ウクライナ戦争がその一例である核保有国間の対立の激化が、広範な多極的軍拡競争を加速させている。」と指摘している。急速に発展する軍事技術は、戦略的に重要な非核能力を生み出し、核兵器の運搬や核兵器からの防衛のための新しいシステムや近代化されたシステムに組み込まれている。

このことは、より一般的なAI技術競争が激化する中で、人工知能を兵器システムに応用することの誘惑と危険性にもつながっている。

さらに、核保有国間の緊張が高まっているのは欧州地域だけではない。北東アジア、南シナ海、南アジア、中東でも緊張が高まっている。

この陰鬱な状況の中で、核軍縮は現在の危険で要求の多い状況に比べてあまりにも遠い存在であり、注目する価値がないように見えるかもしれない。しかし、核兵器を管理し、核兵器廃絶への道筋を描くことは、常に困難な時代に実施される漸進的な措置と、核兵器のない世界のための要素を構築する長期的な努力の組み合わせであった。核兵器と関連技術を制限するための条約は、冷戦のさなかに、核保有国が活発な敵対行為を行っている間にも交渉された。

米国とソ連は、最初の戦略兵器制限条約と弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)を、ベトナム戦争中に締結した。ベトナム戦争では、ソ連はベトナム民主共和国に武器と援助を提供し、その中には米軍機を撃墜した対空システム(ソ連の乗組員によるものもあった)も含まれていた。

核不拡散条約は、その表面上、核保有国に核兵器廃絶のための交渉を義務付ける唯一の軍備管理条約であり、核保有国である米国、英国、ソ連を含む43の最初の締約国で発効したのは1970年で、ベトナム戦争の最中のことだった。

President Jimmy Carter and Soviet General Secretary Leonid Brezhnev sign the Strategic Arms Limitation Talks (SALT II) treaty, June 18, 1979, in Vienna./ By Photo Credit: Bill Fitz-Patrick - Original Uploaded by Thames to EN, Public Domain
President Jimmy Carter and Soviet General Secretary Leonid Brezhnev sign the Strategic Arms Limitation Talks (SALT II) treaty, June 18, 1979, in Vienna./ By Photo Credit: Bill Fitz-Patrick – Original Uploaded by Thames to EN, Public Domain

軍備管理の努力は冷戦期を通じて続けられ、追加の条約が締結され、各国政府と市民社会の一部によって幅広い準備作業が行われ、非政府組織の専門家や多くの市民が参加した大規模な軍縮運動が重要な役割を果たした。

これにより、「冷戦の終結」を構成する、ほとんど予期されなかった政治的展開が起こった際にも、より迅速な進展が期待できる土壌が整えられた。

交渉、審議、建設的思考

「現在の危機の中で同様に重要なことは、核軍縮の具体的な進展の見込みが乏しい場合であっても、核武装した敵対国間の交渉は、別の肯定的な結果をもたらす可能性があることを、冷戦時代に学んだことである。」と作業文書は指摘している。交渉によって、敵対国の軍事・政治指導部は、互いの意図や恐れをよりよく理解することができる。交渉によって、軍と政府の官僚の間により広範なコミュニケーション・チャネルが構築されるため緊張が高まったときに大きな価値を発揮する。

「NO NUKES. NO WAR(核兵器、戦争反対)」を掲げるアボリション2000は、「現在進行中の敵対行為の終結を交渉する機は熟していないと考えている戦争中の核保有国の政府関係者であっても、あらゆる機会を通じて、あらゆる兵器の中で最も危険な核兵器の制限と不使用を保証することについて、敵対国と話し合うことの価値を認識すべきである。」と指摘した。

Abolition 2000
Abolition 2000

いかなる政府も、その国民とそれを維持する手段が存続しなければ、実りある目標を達成することはできない。そして、単に政府の政治的存続を保証するためだけに、国民や他国の国民の存在を危険にさらす権利はない。この点は、ウクライナがロシアの侵略から「領土の一体性を守る」ことができるよう、より多くの武器をウクライナに提供するよう主張する人々によってしばしば無視されている。

「現在の核兵器の使用をいかに防ぐかを考えることと、核兵器をいかに廃絶するかを考えることは、相補的な取り組みである。核兵器が存在する限り、常に核兵器を永久に廃絶する方法について具体的かつ建設的に考えていかなければならない。

今度の再検討会議は重要である。NPTは1970年に発効し、1995年には無期限に延長されたことを背景にしている。この条約は、世界的な核不拡散体制の礎石であり、核軍縮を進める上で不可欠な基盤である。この条約は、核兵器の拡散を防止し、核軍縮と一般的かつ完全な軍縮の目標を推進し、原子力の平和利用における協力を促進するために設計された。

この条約の下で、核兵器国はいかなる受領国に対しても、核兵器やその他の核爆発装置の所有や管理を移譲しないこと、またいかなる形であれ、非核兵器国がそのような兵器や装置を製造、取得、管理することを援助、奨励、誘導しないことが義務づけられている。

非核兵器国は、核兵器または核爆発装置の譲渡を受けたり、その管理を受けたり、製造したり、あるいはそのような兵器や装置を取得したり、あるいはそのような援助を求めたり受けたりしてはならない。

非核兵器国はさらに、原子力エネルギーが平和利用から核兵器やその他の核爆発装置へ転用されるのを防ぐため、自国の領土内または管轄・管理下にあるすべての平和的原子力活動において、国際原子力機関(IAEA)が管理するすべての核分裂性物質に対する保障措置を受け入れることを約束する。

この条約は、すべての締約国が、差別なく、基本的な核不拡散義務に従って、平和目的のために原子力の研究、生産および利用を開発する権利を保証している。NPT第6条には、核軍縮に関連する効果的な措置を誠実に追求することを締約国に求める、条約に基づく唯一の法的拘束力のある約束が含まれている。(原文へ

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中東で米国を押しのけるロシアと中国

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・カイサル】

中東の戦略的情勢は急速に変化しているが、それは伝統的にこの地域で大きな影響力を発揮してきた米国にとって不利な変化である。米国とイランの敵対関係が続き、同盟国としてのワシントンの信頼性に対するアラブ諸国の懸念が増大しており、その結果、ロシアと中国がこの地域で戦略的足掛かりを拡大する機会が広がっている。

いくつかの状況が重なり、米国の立場を揺るがすものとなっている。最も重要なものとして、ロシアとイラン、そして中国とイランの戦略的パートナーシップの飛躍的な進展がある。イランとロシアの2国間貿易と軍事協力は、かつてないほど強化されている。両国の貿易高は2021年に40億米ドルだったが、翌年には400億米ドルに跳ね上がった。この背景には、2021年3月に両国が調印した20年間に及ぶ協力協定がある。(

それと同時に、さらに重要なことは、ロシアとイランの軍事パートナーシップが新たな高みに達していることである。ロシアは長年にわたりイランにとって最大の武器供給国だったが、2022年は転換点となった。イランがスホーイSu-35フランカーEジェット戦闘機24機を発注したのである。コストは20年間で100億米ドルと伝えられる。この戦闘機はロシア製兵器の中で最も先進的なもので、ウクライナへの爆撃に大々的に使用されている。これは、イランがロシアに何百機ものドローンを提供した取り引きの一環と見られ、それらのドローンはウクライナで致命的効果を挙げている。両国はまた、双方の人員に戦闘機とドローンの訓練を行っており、イランは占領下のクリミアでドローン製造の合弁事業を設立したと報じられている。

同時に、中国とイランの貿易関係と戦略的関係も大幅に強化されている。2国間の経済・貿易関係は着実に拡大する一方、軍事・情報協力は比較的控えめだったが、2021年に両国は25年間の協力協定に調印し、技術的、経済的、戦略的協力関係をかつてないレベルに引き上げた。協定は、イランの産業およびインフラ開発における中国の参加と投資を拡大する道を開いた。また、イランの中国製品市場を拡大し、軍事・情報協力のさらなる強化をもたらした。

その過程で、中国は米国が主導するイランへの制裁を無視している。イラン産原油の輸入を継続し、近頃ではイランとサウジアラビアが6年間断絶した国交を回復するために結んだ和平合意を仲介することによって、外交的影響力のさらなる拡大を図った。

中国はまた、ますます好意的になっているサウジアラビアとの関係を拡大している。その背景には特に、物議をかもす事実上の支配者ムハンマド・ビン・サルマンが、人権侵害の疑いとイエメンにおける軍事行動について過去にジョー・バイデン大統領から批判されたことで、米国に幻滅感を抱いているという事情がある。

イランは、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)に参加しようとしており、すでに中国の一帯一路構想の西に向かう流れにの重要なリンクとなっている。興味深いことに、これまで米国の同盟国だったサウジアラビアは、SCOにも対話パートナー国として参加することを決定している。これは、地域における北京の影響を強化するものにほかならない。

同時に、米国とその最も信頼できる同盟国であるはずのイスラエルとの関係は悪化している。イスラエルの有権者の分極化と国内の政治的不安定の増大は、主にベンジャミン・ネタニヤフ首相による、イスラエル史上最も右翼的な政権の樹立と司法の権限を覆そうとする動きがもたらしたものであり、バイデン政権はイスラエルの指導者に対して危惧を抱くほかないのである。

ワシントンは、ネタニヤフの行動は「イスラエルの民主主義」を脅かすものと見なす民主主義国の一団に加わっている。これに対し、ネタニヤフ(詐欺の罪で起訴もされている)は、イスラエルは主権国家であり、独自の決定を下すと主張している。ロシアと中国がイランと、そして憂慮すべきレベルまでサウジアラビアと結びつきを深めていることに腹を立てつつも、イスラエルは都合よくロシアと中国にすり寄ることをやめず、また、ユダヤ人国家にとっての「実存的脅威」があればいつでもイランの核施設を攻撃する権利を手放そうとしない。

中東において、米国は紛れもなくロシアと中国に場所を奪われている。この地域は戦略的転換の真っただ中にあるが、どの方向を取るかを予測することは困難である。より平和的な方向か、より対立的な方向か? いずれにせよ、米国の最大の関心事は、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の南シナ海および台湾に対する野心ではあるものの、当面の間、石油が豊富な中東は米国にとって外交上の頭痛の種であり続ける可能性が最も高い。

アミン・サイカルは、西オーストラリア大学で社会学の非常勤教授を務めている。著作に “Iran Rising: The Survival and Future of the Islamic Republic”があり、“Iran and the Arab world: a turbulent region in transition”の編者である。

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この記事は、2023年4月12日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

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|アフリカ|新報告書が示す資金調達と開発目標達成の道

【パリIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

アフリカは持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、2030年までに1兆6000億米ドル(毎年1940億米ドル)の資金が必要であるとする新しい報告書が発表された。2023年版「アフリカの開発ダイナミクス」は、アフリカ諸国の政府とそのパートナーに対し、投資家向けの情報を改善し、アフリカの開発金融機関の能力を高めるよう求めている。

また、地域プロジェクトを後押しすることで、アフリカ大陸はより多くの、より良い投資を呼び込み、既存のギャップを埋めることができる、と報告書は強調している。

アフリカの実質GDP成長率はコロナ以前のレベルの水準に戻り、2023年には3.7%に達すると予想されている。こうした前向きな経済見通しに加え、アフリカ大陸は投資家を惹きつける独自の人的資本(=人間の能力、スキル、知識、教育、健康などの要素)と自然資本(=地球上の自然環境や資源)を主張している。アフリカの人口の半数は19歳以下であり、高等・中等教育を修了した若者の割合は、2020年の23%から2040年には34%に達する可能性がある。

アフリカ大陸の総富(Total Wealth)の19%を占める自然資本は、持続可能な開発に投資する大きな機会を提供している。例えば、コンゴ盆地がアマゾンに次ぐ世界第二のカーボンシンク(二酸化炭素吸収源)となったことで、アフリカの森林は2011年から2020年までの間に、およそ1160万キロトンのCO2換算によるネット排出量を増加させた(=アフリカの森林が炭素吸収源となり、排出量よりも多くのCO2を吸収し、地球温暖化を緩和する上で良い影響をもたらした。)

Aerial view of the Lukenie River of central Democratic Republic of the Congo (DRC)/ By Valerius Tygart - Own work, CC BY-SA 3.0
Aerial view of the Lukenie River of central Democratic Republic of the Congo (DRC)/ By Valerius Tygart – Own work, CC BY-SA 3.0

そのような可能性があるにもかかわらず、世界的な危機により、アフリカへの投資は他の地域よりも悪影響を被っている。例えば、世界の新規投資(グリーンフィールド海外直接投資)に占めるアフリカのシェアは2020―21年には6%(過去17年間で最低)にまで落ち込んでいる。一方、他の高所得国は過去最高のシェア(61%)を記録しているのに対し、発展途上のアジアは17%、ラテンアメリカとカリブ海諸国は10%である。

アフリカにおける資本コストは、世界の他の地域よりも高くなっており(=アフリカの企業や政府が資金調達においてより高い利息や配当を支払わなければならない状況にあるため)、それにより一部のアフリカ諸国の政府は債券市場から排除される一方で、再生可能エネルギーなどの変革をもたらす分野への投資が阻害されている。

それにもかかわらず、持続可能な資金調達のギャップは埋められる可能性がある。それは、世界の金融資産の価値の0.2%未満、またはアフリカが保有する金融資産の10.5%に相当する。つまり、2030年までに世界の金融資産のわずか2.3%がアフリカに割り当てられれば、そのギャップを埋めることができるのである。ちなみに、この数値は世界GDPにおけるアフリカの割合を下回るものである。

What is the “Africa’s Development Dynamics” report? Credit: OECD Development

アフリカの資金源に関する包括的な評価に基づき、本報告書は、投資家の信頼を向上させ、アフリカ大陸における持続可能な投資を加速させるために、アフリカ諸国の政府とそのパートナーにいくつかの優先事項を提案している。その中には次のようなものがある:

  • アフリカの国家統計機関は、カントリーリスク評価のために、より多くの良質なデータを提供すべきである。同様に、投資促進機関や規制当局は、より詳細で最新の情報を、統一された使いやすい形式で提供すべきである。
  • 国際社会は、アフリカの102の開発金融機関(DFIs)の資本を増強し、国際金融と現地のプロジェクト、特に気候変動に適応するためのプロジェクトを仲介する能力を高めるために、より多くの資源を投入すべきである。
  • アフリカ諸国の政府と地域組織は、市場の分断を減らすために開発回廊やデジタルインフラストラクチャなどの国境を越えるイニシアティブの実施を加速させるべきである。さらに、中小企業に的を絞った支援を提供し、アフリカ大陸自由貿易地域(AfCFTA)の投資プロトコルの実施を積極的に監視すべきである。(原文へ

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|視点|AIという魔人が瓶から解き放たれた―国連は人類のためにAIを活用する試練に挑むべき(アンワルル・チョウドリ元国連事務次長・高等代表)

【ニューヨークIPS=アンワルル・チョウドリ

最近、私は人工知能(AI)の驚異的な進歩と、そのグローバル・ガバナンスにおいて国連が果たす役割について意見を求められたとき、SF作家のアイザック・アシモフが考案し、1942年の短編小説で紹介された「ロボット工学の三法則」を思い出した。

私は、SFが現実と出会ったのだと自分に言い聞かせた。第一法則は、「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。」という最も基本的な原則を示している。この80年前の規範は、AIの世界にとって現代のシナリオに役立つだろう。

制御するAI

Ambassador Anwarul K. Chowdhury
Ambassador Anwarul K. Chowdhury

AIはエキサイティングであると同時に恐ろしい。AIの持つ意味合いと進化の可能性は、控えめに言っても非常に大きい。私たちは人類史の転換期を迎えており、現時点でもAIは人間よりもかなり賢いと言われている。

すでに「原始的な」AIでさえ、この地球上のどこに住んでいるかに関係なく、私たちの日常生活の多くの側面や活動を制御している。電子メール、カレンダー、ウーバーのような交通手段、GPS、ショッピング、その他多くの活動について、個人レベルでのグローバルな繋がりは、今やAIによって制御されている。

そして、ソーシャルメディアが私たちの思考や双方向性にどのような影響を与えるかを考えてみよう。ソーシャルメディアは明らかに危険な不確実性を注入しており、すでに社会秩序や精神的ストレスに大きな問題を引き起こしている。

AIに依存する人類:

人類はほぼ完全にAIに依存している。AIに影響されたスマートフォンが手元になければ、人類はどれほど無力になるか考えてみてほしい。AIは最も急成長しているハイテク分野であり、今後5年から7年で世界経済に15兆米ドルをもたらすと予想されている。

現在の開発段階でも、ここ数カ月でオープンAIやグーグルなどが主導する様々なAIチャットボットが登場し、良識ある専門家たちは警鐘を鳴らしている。AIの将来について尋ねられた専門家たちは、正直に 「わからない。」と答えている。

現時点では、今後5年間の発展しか予想できず、それ以上は何も予測できないというのが彼らの意見だ。世間ではChatGPT-4が次のレベルのAIとして語られているが、それはすでに到来しているのかもしれない。

AIの無限の可能性:

AIの可能性はあまりにも無限であるため、国家が数と効果の面でより多くの多様な軍備を入手することで安全保障とパワーを際限なく追求する軍拡競争に例えられてきた。

しかし、AIの場合、主役は莫大な資源を持ち、倫理的観点にとらわれない巨大ハイテク企業である。つまり利益と、それに付随して人間の活動を支配する説明のつかない力を求めてこのAI競争に参画している。

衝撃的なことに、AIの分野にはルールも規制も法律もない。すべてが自由であり、「ワイルド・ワイルド・ウェスト」に例えられる。

核とAI

ICAN
ICAN

専門家たちは、AIを核技術の出現になぞらえている。核技術は、人類の利益のために有効利用されることもあれば、滅亡のために使われることもある。彼らはAIを核兵器以上に強力な大量破壊兵器とまで呼んでいる。核兵器は、より強力な核兵器を生み出すことはできない。しかし、AIはより強力なAIを生み出すことができる。

心配なのは、AIがそれ自体でより強力になるにつれて制御不能になり、むしろ人間を制御する能力を持つようになることだ。原子力技術のように、AIもいまさら「発明しなかった」ことにはできない。そのため、このような最先端技術によるまだ十分に知られていないリスクは続いている。

存亡の危機

医療分野、気象予測、気候変動の影響緩和、その他多くの分野でAIが有益に利用される可能性があることを認識する一方で、専門家たちは、AIの超知能が「存亡の危機」、おそらくは現在進行中の気候危機よりもはるかに破滅的で差し迫ったものになるだろうと警鐘を鳴らしている。

主な懸念は、グローバル・ガバナンスと規制の取り決めがない場合、悪質な行為者が社会や、個人、或いは地球全体に資する以外の動機でAIに関与する可能性があることだ。よく知られている通り、巨大ハイテク企業はこのような前向きな目的によって動いているわけではない。

AIは深刻な破壊的効果をもたらす可能性がある。今年5月、米国の失業統計は史上初めてAIを失業理由に挙げた。

規制に縛られない悪質業者

規制に縛られない悪質な業者は、AIの力を悪用し、雪崩を打つように大量の偽情報を発信し、人類の多くの層の意見に悪影響を及ぼすことで、例えば選挙プロセスを混乱させ、民主主義や民主主義制度を破壊する可能性がある。AI技術は、例えば化学知識の分野では、規制制度なしに化学兵器を製造するために使われる可能性がある。

私たちは、AIがどのようなテーマについても説得力のある物語を作ることに長けていることを理解する必要がある。その種のものには誰でも騙される可能性がある。人間は常に理性的とは限らないので、AIの使用は理性的で肯定的なものとはなりえない。AIが人類に脅威を与えないよう、悪質な行為者を制御しなればならない。

国連がAIのグローバル・ガバナンスを主導すべき

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

これらの点はすべて、グローバル・ガバナンスに非常に有利に働く。誰がこの問題を主導すべきかと問われれば、私は「もちろん国連だ!」と力強く答えるだろう。

世界的な規範設定機関としての国連の専門性、信頼性、普遍性は、AIの規制規範設定とその進化において明らかに役割を担っている。

道徳的・倫理的な問題や、基本的な世界的原則(人権、特に第3世代の人権、平和の文化、平和構築、紛争解決、グッドガバナンス、民主的制度、自由で公正な選挙等)は、AIの猛攻から守る必要がある。

また、AIの世界的な利用が各国政府に及ぼす影響を検討し、対処することも同様に重要であり、国家の主権に影響を与える。AIが現在あるいは将来の政府間交渉プロセスに影響を及ぼしうるかどうかについても、検討する価値があるだろう。

国連機関とそのAI関連活動の意味合い

最近、2つの国連機関がAI関連の活動を発表した。ユネスコは、5月末に閣僚レベルのバーチャル会議を開催し、選ばれた参加者とともに、AIを利用している教育機関は10%未満であるという統計を共有したと伝えた。ユネスコはソフトウェアツールChatGPTを「大流行」していると説明した。国連の機関が、巨大ハイテク企業の製品をこのように推奨すべきではなかった。

国際電気通信連合(ITU)は、自らを「国連技術機関」と称し、7月初旬に「よりよき世界のためのAIグローバルサミット」を開催すると発表した。このサミットは、人工知能とロボット工学がどのように善の力となりうるかについての世界的対話の一環として、AIとロボット技術を紹介するものである。

いわゆる国連技術機関は、「AIと技術に関する業界幹部、政府高官、オピニオンリーダーたちとのイベント」と並んで、「国連初のロボット記者会見」を開催した功績を称えた。

ハイテク企業との交流や協力協定締結のガイドラインを示す国連システム全体の警告が必要だ。AI技術は急速に発展しているため、国連機関のひとつやふたつが誤った行動をとる可能性があることを認識する必要がある。

現在の開発水準でも、AIはChatGPTやロボット技術を大きく超越し、巨大ハイテク企業による利益追求が進められている。このことは、善意ある全ての人々にとって大きな懸念事項となっている。

これらの国連機関は、(AIについて)「…不適切または悪意を持って使用されると、それらは国内外の分裂を助長し、不安定を増大させ、人権を侵害し、不平等を悪化させる可能性がある。」と警告した「国連創設75周年記念宣言(国連総会決議75/1として2021年9月21日に採択)」の一部を見落としているか、あるいは無視している。これらの警告の言葉は、すべての人があらゆる真剣さをもって完全に遵守すべきである。

国連事務総長の「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」はAIに言及している:

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

グテーレス事務総長は、2021年9月に発表した報告書『私たちの共通の課題』の中で、「複雑な世界的危機に対応するため、加盟国と協力し、緊急プラットフォームを設立する。」ことを約束している。そしてそのプラットフォームは、「新たな常設または常置の機関ではなく、危機の規模や重要度に応じて自動的に活性化され、その種類や性質に関係なく対応する。」と説明している。

AIは間違いなくそのような「複雑な世界的危機」の一つであり、事務総長がこの課題にどのように対処するつもりなのか、その考えを正式に共有すべき時が来ている。

グテーレス事務総長が2024年9月に開催する「未来サミット」で、国連権限によるAIの世界的な規制体制について議論するのでは遅すぎる。その時間枠では、AI技術は進展し、どんな形でも国際的なガバナンスが不可能になるだろう。

AIという魔人は既に瓶から解き放たれている

AIという魔神はすでに瓶から解き放たれている。国連は、AIという魔神が人類と地球の最善の利益に役立つようにする必要がある。

AIの影響は非常に広範かつ包括的であり、OCAがカバーするすべての分野に関連し、的確に作用する。グテーレス事務総長は、来年の未来サミットを待たずに、何をすべきかについて独自の提言を出すべきだろう。

AIによって影響を受ける私たちの未来は、今すぐ対処する必要がある。AIは想像を絶するスピードで拡散している。国連を率いるグローバル・リーダーである事務総長は、この課題の深刻さを軽視すべきではない。事務総長は、加盟国間のコンセンサスを待つことなく、今すぐ行動を開始する必要がある。

国連はAIを規制し、効果的かつ効率的なグローバル・ガバナンスを確保する:

『私たちの共通の課題』は、12のコミットメントにまたがる主要な提案として、「AIを世界共通の価値観に沿うように規制・促進する」ことを挙げている。

『私たちの共通の課題』においてグテーレス事務総長は、「私たちが直面している連動した問題に対する解決策を見出すことができるかどうかは、来るべき大きなリスクを予測し、予防し、備えることができるかどうかにかかっている。」と主張している。

このため、私たちが行うすべての活動において、活性化された包括的な予防アジェンダが最重要課題となっている。グローバルな公共財が提供されないところでは、人間の福祉に対する深刻なリスクや脅威という形で、グローバルな公共「悪」が発生する。

これらのリスクは今やますますグローバル化し、潜在的な影響力も大きくなっている。なかには実存的なものさえある。このようなリスクを予防し、それに対応する準備をすることは、グローバル・コモンズとグローバル公共財をよりよく管理するために不可欠な対案である。

UN Photo
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国際社会は、国連の指導部がすでに、この局面でとるべき措置を熟知していることを知り、安心すべきである。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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