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|視点|なぜ民主主義国の中にはウクライナを支持せず、ロシアに近づく国さえあるのか(ホセ・キャバレロIMD世界競争力センターシニアエコノミスト)

【ローザンヌIDN=ホセ・カバレロ】

ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まって1年以上が経過したが、ロシアの侵略に反対する世界的な合意形成の努力は行き詰まり、多くの国が中立を選択したように見える。ロシアを非難する国の数は減少しているとの情報もある。ボツワナは当初の親ウクライナの姿勢からロシア寄りに、南アフリカ共和国は中立からロシア寄りに、コロンビアはロシア非難から中立姿勢に移行している。一方で、ウクライナへの支援に消極的な国も少なくない。

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

例えばアフリカでは、アフリカ連合がロシアに「即時停戦」を呼びかけたにもかかわらず、ほとんどの国が中立を保っている。これは、冷戦時代から続く左派政権の伝統の結果であるとする見解もある。また、アフリカ諸国の現在の不本意な態度は、西側諸国が内政に、時には秘密裏に、時にはあからさまに介入してきた歴史に由来するとの指摘もある。

しかし、ロシアを非難することに消極的なのは、アフリカ諸国にとどまらない。2023年2月、ほとんどのラテンアメリカ諸国は、ロシアの即時・無条件撤退を求める国連決議を支持した。しかし、ブラジルはウクライナに有利ないくつかの国連決議を支持したにもかかわらず、ロシアを真っ向から非難していない。国連では、ボリビア、キューバ、エルサルバドル、ベネズエラの姿勢により、ロシアは西側の制裁から逃れることができた。さらに、ブラジル、アルゼンチン、チリは、ウクライナに軍事物資を送るという呼びかけを拒否し、メキシコは、ドイツがウクライナに戦車を提供するという決定に疑問を呈した。

同じような分断はアジアでも見られる。日本と韓国はロシアを公然と糾弾しているが、東南アジア諸国連合(ASEAN)はグループとしては非難していない。中国は、ロシアとの戦略的パートナーシップと国連での自国の影響力増大によるバランスをとりながら、この紛争に取り組んでいる。インドは国連安全保障理事会のメンバーとして、ウクライナ紛争に関連する議決を棄権している。

中立の政治

Photo: South Africa President Cyril Ramaphosa. Source: Mail & Guardian
Photo: South Africa President Cyril Ramaphosa. Source: Mail & Guardian

このような慎重で中立的な立場は、冷戦時代の非同盟運動の影響を受けており、開発途上国が「自分たちの条件で」紛争を戦い、ソ連や西側の影響圏の外で、ある程度の外交政策の自律性を獲得する方法と認識されていたのである。欧州連合(EU)の制裁に関する研究は、他国がEUの立場を支持しようとしないのは、外交政策の独立を望む姿勢と近隣諸国と敵対することを望まない姿勢の両方が関係していると指摘している。

西側とロシアの間で高まる地政学的な緊張に巻き込まれることを回避できるのが非同盟である。南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領が指摘しているように、多くの民主主義国家が中立の立場を維持し、「両側と対話する」ことを好むのは、おそらくこのためである。

しかし、各国がロシアへの非難を控える場合、特定の経済的、政治的なインセンティブが影響している。

ブラジル

Map of Grazil
Map of Grazil

ウクライナ紛争の初期段階から、ブラジルは現実的だが曖昧な姿勢を維持してきた。この姿勢は、ブラジルが直面している農業とエネルギーに関するニーズにつながっている。世界トップクラスの農業生産・輸出国であるブラジルは、高い割合で肥料を使用する必要がある。2021年、ロシアからの輸入額は55億8000万米ドル(44億8000万ポンド)で、そのうち64%が肥料である。ロシアからの肥料の輸入量は、総輸入量4000万トンのうち23%にあたる。

2023年2月、ロシアのガス会社ガスプロムが、両国間のエネルギー関係拡大の一環として、ブラジルのエネルギー部門に投資することが発表された。これにより、石油やガスの生産・加工、原子力発電の開発において緊密な協力関係が築かれる可能性がある。このような協力関係は、世界トップクラスの輸出国になると予想されるブラジルの石油部門に利益をもたらすことになる。2023年3月までに、ロシアの石油製品に対するEUの全面禁輸と同時に、ロシアのブラジルへのディーゼル輸出は新記録を達成した。ディーゼルの供給レベルが高まれば、ブラジルの農業部門に影響を及ぼす可能性のある不足が緩和されるかもしれない。

インド

Map of India
Map of India

冷戦後のロシアとインドは、戦略的・政治的に類似した見解を持ち続けていると、専門家らは指摘している。2000年代初頭、戦略的パートナーシップの文脈で、ロシアの目的は多極的な世界システムの構築であり、パートナーとして米国を警戒するインドにアピールするものであった。また、ロシアはインドの核兵器開発計画や国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指すインドを支援してきた。ロシアはまた、1992年から2021年の間にインドの武器輸入の65%を供給し、インドの武器貿易における主要相手国であり続けている。ウクライナ戦争が始まって以来、ロシアは割引価格で石油を供給する重要なサプライヤーとなっており、インドの購入量は2021年の日量約5万バレルが、22年6月には日量約100万バレルに増加している。

南アフリカ共和国

ロシアのウクライナ侵攻一周年を前にして、南アフリカ共和国はロシア、中国と合同で海軍演習を行った。南アフリカ共和国にとってこの訓練は、資金不足で手薄になっている海軍の能力向上を通じて安全保障に貢献するものである。より広い意味では、南アフリカ共和国の中立的な姿勢には貿易上のインセンティブもある。ロシアはアフリカ大陸への最大の武器輸出国である。また、原子力発電も供給しており、重要なのは、小麦などアフリカ大陸に対する穀物供給の30%を供給していることで、ロシアのアフリカ大陸への輸出全体の70%は南アフリカ共和国を含む4カ国に集中している。

Map of South Africa
Map of South Africa

2023年1月、ロシアは南アフリカ共和国に対して、牧草や作物の成長に欠かせない窒素肥料を供給する最大の供給国である。さらに、ロシアからの主な輸入品の中には、食品加工を含むいくつかの産業で燃料として使用される練炭がる。南アフリカ共和国の食糧不安を考えると、これらの輸入は社会政治的、経済的に安定した生活を送る上で欠かせないものである。

ウクライナ戦争は、危機に瀕した他の民主主義国を支援するよう訴えたにもかかわらず、非同盟が引き続き人気のある選択肢であることを示した。この政策は、インドのような国の政治的アイデンティティの重要な要素であった。また、ブラジルのように、ジャイル・ボルソナロ大統領の下で明らな変化があったものの、非干渉主義が伝統的な政策の基本的要素であり続けているケースもある。

特に、西側諸国が非同盟諸国の多くに直接投資や開発・人道支援を提供している状況では、利害の対立がより鮮明になるにつれ、中立性を掲げる政策は「綱渡り的なもの」となる可能性が高い。(原文へ

INPS Japan

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「それはどこでも起こりうる」: 国連総会、ルワンダのツチ族に対するジェノサイドを振り返る

【国連ニュース/INPSJ】

国連総会は、「1994年のルワンダにおけるジェノサイドを考える国際デー(4月7日)」の記念行事を開催した。式典では、ルワンダ大虐殺当時、国際連合ルワンダ支援団が展開していたにもかかわらず、100日間に亘った恐怖の中で犠牲となった100万人以上の老若男女を追悼した。

国連総会は1948年に集団殺害を国際法上の犯罪と規定するジェノサイド条約を全会一致で採択していたが、1994年4月、ルワンダで長年に亘る部族間の緊張と対立が最悪の形で現実のものとなった。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、ヘイトスピーチは警鐘であり、それによる社会への影響が強まれば、ジェノサイドが発生する脅威も大きくなると警告した。

「私たちは生存者のレジリエンス(強靭さ)に敬意を表すと共に、ルワンダの人々が癒し、回復、和解に向けて歩んできたことを認めます。そして、国際社会が恥ずべくも、(ルワンダ大虐殺当時)耳を傾けず行動しなかったことを想起します。」

「殺害はかなり前から計画され、意図的かつ組織的に実行されたものであり、白昼堂々と行われた計画的な殺人でした。」

グテーレス事務総長はまた、ジェノサイドから1世代(約20年)が経過した今、「あらゆる社会における礼節の脆弱性がもたらす危険性を決して忘れてはなりません。それは暴力促進します。ルワンダでジェノサイドへの道を開いた憎悪とプロパガンダは、テレビで放送され、新聞に印刷され、ラジオで吹聴されました。そして今日、憎しみを煽る声はさらに大きくなっています。インターネット上では、暴力への扇動、悪質な嘘や陰謀、虐殺の否定や歪曲、『他者』の悪魔化が、ほとんどチェックされることなく拡散しています。」と指摘した。

また、「デジタル世界において、より強固な規制、明確な責任、そしてより大きな透明性を求める中、『ヘイトスピーチに関する国連戦略と行動計画』が始動したことにより、表現や意見の自由を尊重しつつ、この惨劇に対抗するための各国への支援の枠組みを提供しています。」と説明した。

そして、「まだジェノサイド条約の締約国となっていない国連加盟国に対し、条約に加入するよう呼びかけるとともに、すべての国に対し、その約束を行動で示すよう求めます。一緒に、高まる不寛容に断固として立ち向かいましょう。尊厳、安全、正義、そしてすべての人のための人権の未来を築くことによって、亡くなったすべてのルワンダ人に真の追悼の意を捧げましょう。」と語った。

ルワンダ虐殺は「偶然ではない」

UN Photo/Manuel Elías
UN Photo/Manuel Elías

チャバ・コロシ国連総会議長は、「ジェノサイドは偶然ではなく、人種差別的イデオロギーを煽り、特定の人口の組織的破壊を目的としたキャンペーンを長年にわたって行ってきたことに起因している。」と語った。それが実行されたとき、世界は沈黙していた。

「ジェノサイドの準備が進んでいるということについては初期の段階で紛れもない警告が繰り返しあったにもかかわらず、当時国際社会は沈黙していました。この良心にもとる不作為に対して、私たちは『二度と繰り返さない』と言わなければなりません。」

「ルワンダの人々は、強さと決意をもって、荒廃した灰の中から国を再建してきました。今日、これらの努力の成果は、下院における男女平等、イノベーションの活気、経済の回復力、医療システムの強さ等至る所で見られます。」と指摘した。

「重要なことは、ルワンダは、若者に投資し、ダイナミックな人口の半分を占める20歳未満の人々に機会を与えていることです。ルワンダの人々は、より良い未来を見据えた国家を築いてきました。私たち国連総会もそうでありたいと思います。」

「家族全員を殺された」

Photographs of Genocide Victims - Genocide Memorial Centre - Kigali – Rwanda/ By Adam Jones, Ph.D. - Own work, CC BY-SA 3.0
Photographs of Genocide Victims – Genocide Memorial Centre – Kigali – Rwanda/ By Adam Jones, Ph.D. – Own work, CC BY-SA 3.0

国連総会は、ジェノサイドの生存者からも話を聞き、悲惨な体験談を共有した。

イベントに先立ち、現在米国在住の生存者であるヘンリエット・ムテグワラバさん(50)は、国連ニュースの取材に対して、どのように虐殺を生き延び、その傷を克服したか、また、今日のヘイトスピーチがいかにルワンダでの大量虐殺の呪われた響きほうふつさせるかについて語った。

「この話をするたびに涙が出ます。彼らは女性を強姦し、妊婦の子宮をナイフで切り開きました。人々は生きたまま浄化槽に入れられ動物は屠殺されました。私たちの家も破壊され私の家族全員、母と4人の兄弟が殺されました。」

1994年のツチ族に対する大虐殺では、「世界中が見て見ぬふりをした」と彼女は言う。「犠牲者らは知っていました。誰も助けに来ないことを。実際に誰も私たちのところに来てくれませんでした。このようなことが、二度とこの世界の誰にも起こらないことを、そして国連が迅速に対応する方法を考えてくれることを願っています。」

「ジェノサイドはどこででも起こりうる」

「1994年にルワンダで起こったことは誰にでも起こり得ることです。今日米国では多くのプロパガンダが蔓延しているが、人々は注意を払わず、社会が分裂している。」と強調した。

ムテグワラバさんは、著書『By Any Means Necessary』の中で、この現在の問題について詳しく述べている。実際、彼女は2021年1月6日の米国国会議事堂襲撃事件が起きた際、1994年4月と同じ恐怖を感じたという。

「ジェノサイドはどこでも起こる可能性があります。私たちはその兆候を目の当たりにしているのに、あたかも自分や周りの世界には関係ないことと装っているのです。私のメッセージはこうです:みなさん、目を覚ましてください。何かが起きているのです。すべてはプロパガンダに関することです。」 (原文へ

INPS Japan/国連ニュース

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攻撃を受ける「法の支配」

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

4月1日からロシアが、アルファベット順の交代制により1カ月間の議長国として、国連安全保障理事会を主宰している。

しかし、戦争犯罪や国連憲章違反で告発された国が、国連で最も強力な政治機関のメンバーや議長になるのは、ロシアが最初でもなければ唯一の事例でもない。

サンフランシスコ大学の政治学教授で中東研究のコーディネーターを務めるスティーブン・ズーンズ氏は、安保理における政治駆け引きについて幅広く執筆しているが、IPSの取材に対して、「米国はベトナムとイラクで戦争犯罪を犯しながら安保理議長を務めたことがあります。」と語った。

「よって、ロシアが安保理議長に就任することは、この意味で前例がないとは言えません。確かに軍事力によって奪取した領土を違法に併合した国(=ロシア)が国連安保理の議長国になるのは初めてのことでしょう。しかし、米国がイスラエルとモロッコによる軍事力で奪った領土の違法な併合を公式に認めていることを考えると、こうした行動が問題ないと考えているのはロシアだけとは思えません。」とズーンズ氏は語った。

国際刑事裁判所(ICC)はこれまでにも、スーダンのオマル・ハサン・アル=バシール、ユーゴスラビアのスロボダン・ミロシェビッチ、リビアのムアンマール・カダフィなど、複数の政治指導者を戦争犯罪や大量虐殺で訴えてきた。

記者会見で、戦争犯罪を犯した加盟国が国連安保理を主宰するという異常事態について問われたファルハン・ハク事務総長副報道官は、記者団に「安保理議長国を安保理加盟国がアルファベット順で交代するという安保理の規則を含め、安保理創立以来行ってきた方針はよくご存じだと思います。」と語った。

ハク副報道官は、ICCの発表を前に、「これ以上何も言うことはありません。」と付け加えた。

しかし、驚くべき新展開として、ICCは3月17日先週、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を戦争犯罪で告発し、マリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)とともに、逮捕状を出した。

17日の発表によると、昨年ロシアに侵攻された戦禍のウクライナから、国連憲章に反して子供たちを不法に移送した罪で起訴された。

ICCを創設したローマ規程に加盟していないロシアは、この逮捕状を却下した。

先週発表された声明の中で、ICCのカリム・カーン主任検察官は、「独立した調査に従って私の事務所が収集・分析した証拠に基づき、予審室は、プーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ女史が、ローマ規程第8条(2)(a)(vii)と第8条(2)(b)(viii)に反する、ウクライナ占領地からロシア連邦への不法送還・移送の刑事責任を負うと考える合理的根拠があると確認している。」と語った。

ICC事務局が確認した事件には、孤児院や児童養護施設から連れ去られた少なくとも数百人の子どもたちが強制送還されたことが含まれている。「これらの子どもたちの多くは、その後、ロシア連邦で養子縁組に出されたと我々は申し立てている。ロシア連邦では、プーチン大統領が出した大統領令によって、ロシア国籍の付与を早めるための法改正が行われ、ロシア人家庭に養子に出されることが容易になっている。」

Karim Asad Ahmad Khan was elected on 12 February 2021 as the new chief prosecutor of the International Criminal Court (ICC). Credit: UN Photo/Loey Felipe
Karim Asad Ahmad Khan was elected on 12 February 2021 as the new chief prosecutor of the International Criminal Court (ICC). Credit: UN Photo/Loey Felipe

シカゴ世界問題評議会のトーマス・G・ワイス特別研究員(グローバル・ガバナンス担当)は、IPSの取材に対して、国連報道官の発言は完全に正確であると語った。

「安保理の持ち回り議長を阻止した前例はありません。このことは、安保理が構築された異常構図を示す最も新しい兆候に過ぎません。とはいえ、ICCによるウラジーミル・プーチンへの不名誉な逮捕状が出たことで、恐らく安保理の席はロシア大使にとって居心地がよくないものとなるだろう。」とワイス氏は指摘した。

「ブーチン氏がすぐにハーグの国際法廷に立つ可能性は極めて低いが、国際的な圧力は増すばかりである。スロボダン・ミロシェビッチの事例を想起すべきだろう。」

「昨年、国連総会で人権理事会から無情にも追放されたときと同様、ロシア政府はこの展開に非常に不満を抱いています。ロシアを追放したこと(或いは2011年に追放したリビアのケース)は、他の国連機関(安保理以外)にとって、重要な前例となりました。ロシア政府は孤立することを嫌い、そのために今回の決定に反対したのです。」とワイス氏は語った。

最大の「もしも」は、ソ連が崩壊した1991年12月まで遡る。それは、ロシアが自動的に国連におけるソ連の席に就くことが問題視された瞬間だった。

「ロシアは既に30年間の国家運営の実績があるのだから、(ウクライナのゼレンスキー大統領はそうだが)それを疑問視することはできません。移行がスムーズに行われたことに安堵するのではなく、あのとき疑問を呈していれば、と思うしかないのです。」と、ラルフ・バンチ国際研究所の名誉所長でもあるワイス氏は語った。

グローバル・ポリシー・フォーラムのジェームズ・ポール元専務理事は、IPSの取材に対し、「ウクライナにおけるロシアの軍事作戦は、国際の平和と安全保障について多くの疑問を投げかけています。必然的に、この議論は国連で激論を生むことになりました。」と指摘したうえで、「多くの西側諸国政府(および市民の中のリベラルな『理想主義者』ら)は、制裁や孤立化を通じてさまざまな方法でロシアを罰し、それによってロシアが軍を撤退させ、ウクライナにおける戦略的目標を放棄することを望んでいます。」と語った。

「ロシアは4月に国連安保理の議長として毎月の持ち回りの席に着くことができないはずだ、と提案する人もいます。」

UNSC/ UN photo
UNSC/ UN photo

「しかしこうした主張は、現在、ロシアの違反行為を糾弾している西側諸国による軍事史に対する無知と、国際問題や世界で最も強力な国家主体の働きについての知識不足を露呈するものにほかなりません。」と、「狐と鶏:国連安保理における寡頭制と世界権力」の著者でもあるポール氏は語った。

「もし国連安保理が、国際法を破り、他国を侵略し、主権国家の境界線を強制的に変更し、選挙で選ばれた政府の転覆を画策する理事国に対して、持ち回りの議長職を公平に拒否していたら、(少なくとも西側諸国を含む)すべての常任理事国は議長職を失っていただろう。」とポール氏は語った。

ICCの逮捕状に対する国連事務総長の反応を問われたステファン・デュジャリック国連報道官は3月17日、記者団に対し、「これまで何度もここで述べてきたように、国際刑事裁判所は国連事務局から独立しています。我々はICCの行動に対してコメントすることはありません。」と語った。

プーチン大統領がジュネーブ、ウィーン、ニューヨークのいずれかの国連施設に入ること、あるいはアントニオ・グテーレス事務総長と会うことが許可されるかどうかを問われ、デュジャリック報道官はこう答えた: 「なぜなら…ご存じのように、渡航の問題は他の人にも関わるからです。一般的なルールとして、事務総長は目の前の問題に対処するため、相手がだれであれ話す必要がある人物と話すことになります。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアソシエイト国際司法ディレクター、バルキーズ・ジャラー氏は、「ICCの発表は、2014年以来ウクライナでロシア軍が犯した犯罪の多くの犠牲者にとって重大な日となった。」と語った。

ICC
ICC

「これらの逮捕状により、ICCはプーチン氏を指名手配し、あまりにも長い間、ロシアによるウクライナ戦争の加害者を増長させてきた不処罰を終わらせるための第一歩を踏み出したのです。」

ジャラー氏は、「この逮捕状は、民間人に対して重大な犯罪を犯す命令を出したり、容認したりすると、国際刑事裁判所の監獄に入れられる可能性があるという明確なメッセージを送っています。」と指摘した。

「国際刑事裁判所の令状は、虐待を行ったり、それを隠蔽したりしている他の人々に対して、地位や階級に関係なく、法廷に立つ日が来るかもしれないという警鐘を鳴らすものです。」

ポール氏はさらに、「暴力的で強力な国家が存在する世界において、国連は、戦争当事国をまとめ、外交と紛争解決を促進することができるので、有用です。」「ロシアへの処罰を求める人々は、米国は自国の利益を追求するためにこれまでに何度も軍事力で他国の主権を侵害しているため、(公平なルールが施行されれば)通常の処罰を受けることになることを認識すべきです。」と、指摘した。

イラク戦争は、国連のルールや安全保障理事会の決定を無視する米国の典型的な例であるという。米国のベトナム戦争やアフガニスタン戦争も、このタイプの戦争としてさらに注目を浴びているなど、数十の事例がある。

「英国もフランスも、国際法に反して強力な軍隊を使い、脱植民地化に対する血なまぐさい戦争や、旧植民地の鉱山や石油資源などへのアクセスを確保するための軍事介入を行ってきました。」

イスラエルと共同でエジプトに対して仕掛けたスエズ戦争は、このジャンルの典型であった。ロシアや中国も、ロシアのアフガニスタンへの介入やコーカサス地域での数々の戦争など、軍事作戦や介入を繰り返してきた。

「領土保全の原則を訴えることで有名な中国は、チベットを併合し、隣国のベトナムと何度も戦争を繰り返してきました。つまり、安全保障理事会の常任理事国は、国際法の基準を作るということに関しては、非常に悪い実績しかないのです。(背後に大国の支持を得た)より小さな国でさえも、侵略行為を行ってきたのです。その例として、イスラエル、トルコ、モロッコがすぐに思い浮かびます。」とポール氏は語った。

チャバ・コロシ国連総会議長がプーチン大統領と会談する意思があるかという質問に対し、同議長のポーリーン・クビアク報道官は記者団に対し、「コロシ議長はロシアを含む総会全加盟国を代表しています。彼はプーチン大統領との会談について、これまでもそして現在も意欲的です。」と語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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ロシアによるベラルーシ核配備が第三次世界大戦の警告を引き起こす

【国連IDN=タリフ・ディーン】 

14ヶ月前のウクライナ侵攻以来、ロシアによる核の脅威がエスカレートする中、ウラジーミル・プーチン大統領は3月26日、政治・経済・軍事面でロシアと密接な関係にあるベラルーシに戦術核を配備する予定であるとの新たな警告を発した。

プーチン大統領は、この配備計画について、「米国が何十年も前から行っていることであり、同盟国に核兵器を配備する米国の慣行と何ら変わらない。」と主張した。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、この提案を支持する一方で、「核の炎をともなう第3次世界大戦が迫っている」と警告した。

Rebecca Johnson at the 2022 Vienna Conference on the Humanitarian Impact of Nuclear Weapons/ photo by Katsuhiro Asagiri
Rebecca Johnson at the 2022 Vienna Conference on the Humanitarian Impact of Nuclear Weapons/ photo by Katsuhiro Asagiri

核条約の専門家であり、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の初代会長であるレベッカ・ジョンソン博士は、「プーチンとルカシェンコによる核を用いた威嚇行動は危険で愚かだ。」とIDNの取材に対して語った。

ジョンソン博士は、「これは北大西洋条約機構(NATO)に挑戦するものだが、NATOがベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコと結んでいる挑発的な核共有協定を模倣しているに過ぎません。ベラルーシと核兵器を共有するという脅しが実際に実行されれば、意図的、事故、誤認の違いはあれども、この戦争で核兵器が使用される危険性が高まるだろう。」と指摘した上で、「ウクライナに対して行われている残酷な戦争を考えると、もしロシアが核兵器の一部をベラルーシに配備した場合、プーチンとルカシェンコは次に起こることに対してどう責任を取るのだろうか。」と疑問を呈した。

「プーチン大統領はこの戦争を開始した時点で、ウクライナの抵抗を過小評価したことが既に誤算でした。核抑止は既に失敗していますし、プーチン氏は既に戦争犯罪で起訴されています。彼が今やっていることは、ジェノサイド(大量殺戮)を引き起こす可能性があります。」と、ジョンソン博士は断言した。

Hans Kristensen/ FAS
Hans Kristensen/ FAS

 米国科学者連盟の核情報プロジェクトのディレクターでストックホルム国際平和研究所(SIPRI)上級研究員のハンス・M・クリステンセン氏はIDNの取材に対して、「米国は1950年代から少数の欧州諸国に核兵器を配備してきたが、プーチン大統領のベラルーシへの核配備発言は新しい取り決めとなります。」と語った。

クリステンセン氏はまた、「ベラルーシは昨年までは憲法の規定により核兵器の保持を禁止していましたが、憲法を改正して核保有を可能にしました。それでも、ロシアによるベラルーシへの核配備は、『すべての核保有国は核兵器の海外配備を控えるべき…』という2月の中ロ共同声明に反することになります。」と指摘した。

プーチン大統領によるベラルーシへの核配備の提案について問われた国連のステファン・デュジャリック報道官は、3月27日、記者団に対し、「さて、私たちはこれらの報道を見ましたが、明らかに、最近見られる核兵器を巡る緊張状態全般について懸念しています。そして、このことは、すべての加盟国が核不拡散条約(NPT)の下での責任を順守する重要性を想起させるものです。」と語った。

報道官また、「現在の核リスクは驚くほど高まっており、破滅的な結果をもたらす誤算やエスカレーションにつながりかねないあらゆる行動は避けなければならなりません。また、核兵器国も非核兵器国も、NPTの約束と義務を厳格に順守しなければなりません。」と指摘した。

さらにジョンソン博士は、「軍事専門家は『戦術核兵器』などという言葉を、さも悪いものでないかのように喧伝したがります。しかし、その実態は短距離で持ち運びができる核兵器という意味です。それは、より脆弱な核爆弾を意味するのであって、危険度の低い核爆弾を意味するのではありません。NATOの基地にある戦術核と称される爆弾は、1945年に広島と長崎を破壊した原子爆弾よりもはるかに大きな爆発力を持つように設計されています。」と指摘した。

「核兵器の戦術的使用というものは存在しません。核兵器を爆発させるというタブーが崩れれば、核戦争は解き放たれることになります。それは、考えるに堪えない悪夢だが、人類は今、その瀬戸際に立たされています。核兵器の使用は戦略的なものであり、住民を恐ろしい危険に晒すものです。赤十字は、都市や「戦場」(ウクライナ戦争では、プーチンの侵略に抵抗する町や村の集まりを意味するようだ)でのたった1回の核爆発による殺戮と放射能に対応できる人道支援活動は世界には存在しないことを何度も強調しています。」

Map of Beralus/ Eikimedai Commons
Map of Beralus/ Eikimedai Commons

「1990年代、ウクライナが自国に残されたソ連製(核)兵器を処分してNPTに加盟した判断は正しかった。また、ロシアがNATO対して核共有政策を止め、NPTと軍縮関連の諸条約を誠実に遵守するよう求めたのも正しい動きでした。ところが今のプーチン政権はこうしたロシアの政策を転換し、ロシアとウクライナ、そして欧州全体に暮らす人々を危険に晒しているのです。」

「核戦争と核兵器の使用を防ぐ唯一の方法は、すべての核兵器を廃絶することです。今日、手遅れになる前に、ロシア、NATO諸国、その他の核保有国は、国連の核兵器禁止条約(TPNW)に署名し、核戦争を防ぐための活動を始める必要があります。」とジョンソン博士は語った。

プーチン大統領がベラルーシに戦術核を配備すると発表したことについて、英国のジェームズ・カリウキ国連次席大使は3月31日、国連安全保障理事会で、ロシアの発表は「威嚇と強制を試みるまたもや無駄な試みだ。」と語った。

「ロシアの核のレトリックは無責任である。英国はベラルーシに対し、ロシアの無謀な行動を許さないよう要請します。英国は、ウクライナを支援し続けることを明確にしています。国連憲章に違反したのはロシアなのです。」

2022年1月、国連安保理の常任理事国で核兵器国である5大国の首脳は「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない。…核兵器の使用は広範に影響を及ぼすため、核兵器が存在し続ける限り、防衛、攻撃の抑止、戦争の予防を目的とするべきであることを確認する。」との共同声明を発表した。

「しかし、この約束にもかかわらず、ロシアの違法なウクライナ侵攻が始まって以来、プーチン大統領は無責任な核のレトリックを使用しています。」「一つ明確にしておきたい。この紛争において、核使用を示唆している国は他にないし、ロシアの主権を脅かしている国もありません。他の主権国家を侵略して国連憲章に違反いるのはロシアに他ならないのです。」とカリウキ次席大使は指摘した。

James Kariuki, UK Deputy Permanent Representative to the UN. /Photo: Government of UK.
James Kariuki, UK Deputy Permanent Representative to the UN. /Photo: Government of UK.

「プーチン大統領による3月25日の(戦術核配備の)発表は、威嚇と強要を試みる最新の動きである。これはうまくいっておらず、今後もうまくいかないだろう。私たちは、ウクライナの自衛努力を引き続き支援します。」

「ロシアによる今回の発表に至った動機は、国連憲章51条に基づき自国を防衛するため、英国がチャレンジャー戦車とともに劣化ウラン弾をウクライナに供給しているというプーチン大統領の主張にあると聞いています。」

「しかしロシアは、劣化ウラン弾が核弾頭ではなく通常弾薬であることをよく知っているはずです。これは、ロシアが意図的に誤解を与えようとしているもう一つの事例に他なりません。」とカリウキ次席大使は語った。

「私たちは、国際社会が『核兵器の使用やその脅威に共同で反対する』という習主席の呼びかけを歓迎し、今日、中国国連大使の話にしっかりと耳を傾けています。また、核兵器は海外に配備されるべきではないという中国とロシアの共同声明にも注目しています。」

「こうした意思表示にもかかわらず、ロシアは集団安全保障を支える軍備管理体制を着実に棄損してきました。また、ロシアの中距離核戦力(INF)条約への執拗な違反は、2019年に同条約を崩壊させる結果を招きました。また今年になってロシアは、新STARTへの参加も停止しました。」

「ルカシェンコ大統領は、ロシアがベラルーシに核兵器を配備することを望んでいることを公言しています。私たちは、ロシアの無謀でエスカレートした行動を可能にすることをやめるよう、ルカシェンコ大統領に強く求めます。私たちは、ウクライナの人々への支持を堅持し、ロシアに非エスカレーションを要求します。」と、カリウキ次席大使は語った。(原文へ

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韓国は危機安定性を真剣に考える時だ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン

この記事は、2022年11月28日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

危機安定性は抑止力に劣らず重要であり、戦争に勝つことと同じほど、戦争を防ぐことに注力すべきである。

韓国および米国と北朝鮮の対立関係は日々硬直化しており、いずれの側も出口を見つけられない状況となっている。

北朝鮮は11月18日、一連の短距離・中距離弾道ミサイル発射実験に続き、東海に向けて大陸間弾道ミサイルの発射実験を行った。韓米はB-1B戦略爆撃機を前方展開することで対抗した。(

今や残されているのは北朝鮮の7回目の核実験のみである。韓国と米国は、北朝鮮がそのような実験を強行するなら厳しい措置を取ると警告済みである。朝鮮半島での軍事的緊張と安全保障上の不安が高まる悪循環は極めて悩ましいものとなっている。

韓国政府はこれに対し通常兵器と拡大抑止力の強化によって対応し、その中で米国が定期的に戦略兵器を朝鮮半島に展開するのを認めて報復攻撃能力を増強し、共同軍事演習を拡大、戦闘即応態勢を強化し「3軸体系」を運用してきた。

これは北朝鮮に対して、その効力において前例のないレベルの抑止力を構築、また平壌を圧倒することが可能な軍事態勢を整備し、危機の際に勝利を保障するということである。

しかし、国家安全保障の極めて重要な目標は、国民の生命、安全および財産を守ることであるが、韓国の現在の安全保障戦略はその目標を達成することができるかどうかだ。

問題は、朝鮮半島における軍事的脅威には本質的な非対称性があることだ。

韓国は裕福な国であり北朝鮮はそうではない。北朝鮮の首都・平壌は要塞化され前線からは離れているが、韓国の人口の半分近くは首都圏に集中している。さらに、ソウルは北朝鮮の短距離弾道ミサイル、巡航ミサイルおよび前線で展開される多連装ロケット砲に対して脆弱である。

これが、裕福で開かれた社会に固有の脆弱性である。

もし北朝鮮が侵攻してきたとしたら、韓米の連合戦力が反撃し勝つことは明白に見える。しかし、その過程で多くの人命が失われることを防ぐのは困難だろうというのが事実だ。従って、危機を安定化させる予防志向の外交政策が重要なのだ。

さらに懸念されるのが、韓国の防衛システムがミサイルの脅威に対して脆弱だという事実である。

ミサイル防衛は、四つの要素からなるといわれる。アクティブ防衛(ミサイルの発射後に迎撃すること)、パッシブ防衛(迎撃が失敗した場合に備える民間人防衛訓練および爆撃防護シェルターの構築)、攻撃的防衛(敵の攻撃の意図が前もって確認された時の先制攻撃)、および戦闘管理(指揮、統制、通信、情報、偵察および監視の機能を効果的に連携させること)である。

しかし現時点において、韓国のミサイル対応では、迎撃と先制攻撃が重視されている。以前実施されていた民間人防衛訓練は中止され、市民は自分の住む地域に、地下鉄の駅以外にどのような爆撃防護シェルターがあるか、ほとんど知らない。

迎撃と先制攻撃に信頼を置きすぎ、それらをバックアップするパッシブ防衛を行わないということは、破滅的な結果を招き得る。

もう一つの深刻な懸念は、韓国の過剰な対米依存である。北朝鮮が軍事的脅迫を行う時はいつでも、韓国政府は米国との同盟を強化するという、予想通りのカードを切る。

韓国の安全保障にとって同盟が極めて重要な価値があることを否定する者はいない。しかし、同盟を盲目的に信奉することは自衛と外交努力をおろそかにすることに繋がりかねない。

さらに、米国の韓国に対する安全保障の約束は、米国国内の政治状況に直結している。2024年の大統領選挙でドナルド・トランプまたは同様な外交政策を掲げる共和党の候補が勝利した場合、あるいはバーニー・サンダースのようなラディカルな民主党候補が勝利した場合、韓米同盟は現在の状態のまま継続するだろうか?

ウクライナの戦争が激化した場合、または、台湾海峡における米国と中国の軍事衝突が現実のものとなった場合、米軍が朝鮮半島で大規模な介入を行うのは難しくなるだろう。それどころか、そのような情勢となれば在韓米軍が縮小される可能性さえある。

筆者が言いたいのは、韓米関係の可変性を軽視するべきでないということだ。

政治と外交の両方において、根本的なアプローチは敵対勢力を最小化し、友好勢力を最大化し、中立勢力を味方につけることである。しかし、与党のリーダーらの一部は、このアプローチに反する行動をとっている。

与党「国民の力」の暫定代表である鄭鎮碩(チョン・ジンソク)は最近、「韓国が四つの北朝鮮に包囲されているのを見て、気の毒に思うでしょう」と嘆いた。

「四つの北朝鮮」という言い方で、チョンは北朝鮮そのものに加え、中国、ロシア、そして、米国との共同軍事演習の凍結を求めている国内の革新的グループを指している。

しかし、ジョー・バイデン米大統領の見方通り、新たな冷戦はまだ到来しておらず、北朝鮮、中国、ロシアの同盟が復活するかは確かではない状況が継続している。

韓国には、中国とロシアによる北朝鮮政府との協力を後押ししかねない、早まった仮定を余儀なくするいかなる理由があるというのか?

確固とした安全保障政策の基礎には国民の同意がある。そのことを無視して、違いを強調し、分断を煽ることは、韓国の安全保障体制を砂上の楼閣にする自己破壊的行為になりかねない。

長い歴史の教訓であり、また現代の常識でもあるが、危機安定性は抑止力に劣らず重要であり、戦争に勝つことと同じほど、戦争を防ぐことに注力すべきである。

また、戦略的優位性が重要である一方、市民の生命が国家安全保障の中心にあるべきだという基本原則を忘れてはならない。

今こそ、われわれはそのようなパラダイムシフトを熟考する時だ。

チャンイン・ムーン(文正仁)は、世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

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【ニューヨークIDN=アナ・イケダ

現在のウクライナ危機は、核抑止には大きな欠点があることを示しています。核抑止の論理は当事者たちの理性的な判断と脅威の信憑性を前提としていますが、特に紛争時において、その想定が現実からほど遠いことは言うまでもありません。

核兵器は、その存在自体が私たちを脅かし続けています。例えば、核兵器に費やされる資源は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成やポストパンデミックの世界の構築に向けた前進を妨げています。つまり、G7サミットで取り組むべき他の優先分野にも影響を及ぼしているのです。

従って、今年のG7広島サミットは、私たちの国際的な安全保障と平和に対する理解を真剣に見直す機会であると主張したい。

池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長は2022年の記念提言「人類史の転換へ 平和と尊厳の大光」の中で、核に依存した安全保障のドクトリン(原則)の「解毒」を呼びかけています。それを踏まえ4点、提言させていただきます。

G7サミットに向けて創価大学(東京都八王子市)で開催されたG7政策提言国際会議(3月29日)の核兵器の管理を巡る分科会でプレゼンテーションを行うアナ・イケダ氏。資料:INPS Japan

1.先制不使用政策を採用する。

現在の緊張を緩和し、ウクライナ危機の解決に向けた道筋をつけるには、核保有国が核リスクの低減に向けた行動を開始する必要があります。特に、核兵器が警戒態勢に置かれ、意図せず使用される危険性が高まっている現在、何らかの措置を講じることが急務です。

SGIは核不拡散条約再検討会議の期間中に、国連本部において、他のNGO(非政府組織)と協力して、核兵器の先制不使用の誓約の緊要性を訴える関連行事を開催した。資料:INPS Japan

このことから、SGIは、核兵器を保有する全ての国と核依存国の安全保障政策として、先制不使用の原則を普遍化するよう改めて強く提唱しました。

核保有国が先制不使用の原則を確立することは、世界の安全保障環境を安定させ、紛争終結に向けた2国間、および多国間対話に必要な空間を作り出すことにつながります。

先制不使用の原則を確立することはまた、「核兵器の使用またはその威嚇は許されない」というG20首脳の最近の宣言や、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」という昨年1月の米国、ロシア、英国、フランス、中国の首脳の声明を実行に移すことになります。

当然、相互信頼を築くために全ての核戦力を一触即発の警戒態勢から外すなど、実際の姿勢や政策の変化を伴うものでなければならないでしょう。

全体として、先制不使用は、国家安全保障における核兵器の役割を減らすための重要なステップであり、核軍縮を進めるための原動力となり得ます。私たちは、G7の首脳がリスク削減、緊張緩和、軍縮の戦略について議論し、発表する機会を捉え、特に先制不使用政策を宣言することを強く求めます。

2.多国間の軍縮議論に生産的に関与し、大胆なリーダーシップを発揮する。

G7首脳が大胆なリーダーシップを発揮し、核不拡散条約(NPT)の第6条に規定されている軍縮義務を果たす約束を新たにすることが決定的に重要です。

同様に重要なことは、NPTと核兵器禁止条約(TPNW)の補完性について、さらなる探求に取り組むことです。特に日本が、アプローチの違いはあっても、核兵器の使用に対する重大な懸念をすべての国が共有していることを認識し、TPNWの議論に生産的に関与することによって、橋渡し役としての約束を果たすことを期待しています。

私たちは、G7諸国が核禁条約締約国会合への将来の出席を約束することにより、核禁条約締約国と協力的に働く意思を示すことを強く期待します。

3.核兵器廃絶に向けて努力することを約束する。

核兵器のない世界は「究極の目標」といわれます。しかし、核兵器が世界を破壊してしまう前に、この目標を絶対に達成しなければなりません。専門家の間では、2045年を核兵器廃絶の絶対的な期限とするべきだという声もあります。広島サミットでは、G7の首脳が期限を設定することに合意し、それに向けて交渉を開始することを決定できるのではないでしょうか。

4.軍縮・不拡散教育イニシアチブを支援する。

G7 Hiroshima Summit Logo
G7 Hiroshima Summit Logo

最後に、私たちはG7首脳に、あらゆるレベルでの教育イニシアチブへの支援を示すことを求めます。広島平和記念資料館を訪れ、被爆者に会い、核兵器の悲惨な影響や体験を直接聞くことを強く希望します。

核兵器に依存した現在の安全保障のパラダイムを転換するには、平和と安全保障に対する人々の考え方を変革し、核兵器が私たちの安全を守るというナラティブ(語り方)に立ち向かう必要があります。核戦争を回避する最も確実な方法は、核兵器を廃絶することという認識を高める必要があります。

SGI会長は2009年の記念提言「核兵器の廃絶へ 民衆の大連帯を」のなかで、核時代に終止符を打つためには、自己の欲望のためには相手の殲滅も辞さないという「核兵器を容認する思想」と対決しなければならない、と述べています。

私たちは、若者を中心とした全ての人が核兵器のもたらす人道的影響について学ぶ機会を設けるという、G7首脳のコミットメントを求めます。

私たちは、岸田首相が提唱する核軍縮に向けた行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」や、「ユース非核リーダー基金」の設立を歓迎します。また、日本がリーダーシップを発揮して、このようなイニシアチブの目的が、軍縮に関する教育だけでなく、軍縮のための教育を提供することであることを確認することを期待します。

結びに、世界の安全保障環境における現在の緊張と不確実性は、対話と外交の価値と役割を弱めるものではなく、高めるものであると主張したい。G7や国連のようなフォーラムの役割は、これまで以上に重要です。(原文へ

A Glimps of the Conference: “Advancing Security and Sustainability at the G7 Hiroshima Summit” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

*アナ・イケダは、SGI国連事務所の軍縮プログラム・コーディネーター。核廃絶とキラーロボット阻止を中心に活動している。この記事は、3月29日に創価大学(東京八王子市)で開催されたG7政策提言国際会議の「核兵器の管理を巡る分科会」に登壇した際の発表内容を要約したものである。

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American Press, All Africa, Chinese Wire, Global Security Institute, The Gender Security Project, Global Issues, Inter Press Service, Oxford Eagle, The Vicksburg Post, Washington City Paper 

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ケニアの環境保護活動家を追悼し、地球への投資を呼びかける

【ニューヨーク/ナイロビIDN=リサ・ヴィヴェス】

ワンガリ・マータイ財団は、4月1日にノーベル賞受賞者の故ワンガリ・マータイ女史の誕生日を迎え、地球への投資を呼びかけた。

同財団のンジェリ・カベベリCEOは、「マータイ女史は文字通り、若い頃から自分の人生をこの惑星に投資していました。」「神が彼女を世に送り出した日を祝い、国際マザーアースデー(4月22日)を前にして、私たち一人ひとりが地球に何を投資すべきかを考えよう。」と語った。

ワンガリ・ムタ・マータイ博士は、1977年にケニア全土に木を植え、貧困を緩和し、紛争をなくすことを目的とした「グリーンベルト運動」を創設した。彼女はケニア人、特に女性を動員し、30年間で3000万本以上の木を植え、国連が後に世界で110億本の木を植えることになるキャンペーンを開始するきっかけとなった。

90万人以上のケニア人女性が、彼女の植林キャンペーンから、森林再生のための苗木を販売することで恩恵を得た。

彼女は特に、多くの分野で第一人者となった女性でもあった。1971年にナイロビ大学で博士号を取得したマータイ女史は、中央・東アフリカ出身の女性として初めて博士号を取得し、2004年には黒人・アフリカ人女性として初めて「持続可能な開発、民主主義、平和への貢献」が評価されノーベル平和賞を受賞している。

卒業後、マータイ女史は、ケニア赤十字、環境リエゾンセンター、ケニア全国女性協議会など、多くの人道支援団体に関与し、こうした活動を通じて、ケニア農村部での食糧難や水不足の経験から、貧困と環境破壊の相関関係を観察するようになった。今日ケニアが直面している環境問題には、森林破壊、土壌浸食、砂漠化、水不足と水質の悪化、洪水、密猟、国内・産業汚染などがある。

アマゾン熱帯雨林に次ぐ世界の「第二の肺」とされるコンゴ盆地森林生態系の親善大使に任命されたマータイ教授。4冊の著書(『グリーンベルト運動』『へこたれない』『アフリカへの挑戦』『地球の補充』)とドキュメンタリー映画『テイキング・ルート』(原題:Taking Root)を通じて、マータイ女史のビジョンは、 グリーンベルト運動の活動やアプローチの背景にある重要な概念を拡大し、深化させた。

マータイ女史と今日も続くグリーンベルト運動の活動は、草の根運動が持つパワーと、「コミュニティが集まって木を植える」という一人のシンプルなアイデアが変革をもたらすことを証明するものである。

マータイ女史のレガシーは、現在もケニアにおける環境保全の最前線に立ち、森林の再生と復元に大きく貢献しているグリーンベルト運動を通して、生き続けている。

グリーンベルト運動は、他の多くのアフリカ諸国でも同様の運動に影響を与え、30カ国以上で農村部の飢餓、砂漠化、水危機との闘いを支援し続けている。

しかし、マータイ女史の活動は、女性の生活と環境に大きな変化をもたらし、持続的なインパクトを与えているにもかかわらず、彼女の物語とその功績は、グローバル・ノースではあまり語られていない。

マータイさんは2011年に71歳で亡くなった。

財団は今月、国際マザーアースデーの日に「Invest in our planet(地球に投資を)」をテーマに、第2次戦略計画を発表する予定だ。(原文へ

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原潜拡散の引き金となりかねない三国協定

【国連IDN=タリフ・ディーン】

オーストラリア(豪州)に対して原子力潜水艦(SSN)を供与するとの英国・米国との間の三国協定(3月13日発表)は、世界全体に悪影響を引き起こしかねないものだ。

三国(AUKUS)の共同声明は、この取り決めを、米国の最先端の潜水艦技術をはじめとする三国すべての技術を統合した英国の次世代設計を基礎にした共同開発のたまものと述べている。

豪州と英国は将来型の潜水艦としてSSN-AUKUSを運用し、2020年代末までに両国がそれぞれの国内の造船所で同型艦の建造を始めるという。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

国際原子力機関(IAEA)元検証・安全保障政策課長のタリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「米英が厳格な不拡散・検証の取り決めなしに原潜を非核兵器国である豪州に供与すると決めたことは、カナダ・イラン・日本・韓国などによる追随を引き起こしかねない原潜拡散のパンドラの箱を開けてしまった。」と語った。

ラウフ氏はまた、「AUKUSによる2021年9月の発表から18カ月、豪州やブラジルのような非核兵器国における海軍原子力推進に対する保証措置のアプローチを採り、技術的目標を設定することをIAEAが放棄しているように見えるのは驚きだ。」と指摘した上で、「もうひとつ懸念されることは、IAEA理事会が、いま述べた保障措置のアプローチや技術的目標を発展させるための作業を行ったり、あるいは保障措置問題に関して深刻な検討を加えたりするようにIAEA事務局に対して要請するのを躊躇しているように見えることだ。」と語った。

「さらに、一部の国々の代表は、技術的な議論を真摯に行うよりも、第三者であるコメンテーターの安っぽい批判に関心があるようだ。」

「現在においてもそうだし、(2003年3月の)イラクに対する違法な侵略を正当化するために一部の指導者が誤解を招くような情報を提供してから20年ということを考えても、これは驚くべきことではない。」

「海軍原子力推進をIAEAの検証・監視の枠から外すことで、1991年の第一次湾岸戦争時のような状況がもたらされるかもしれない。このときは、それまでは探知されていなかった核兵器開発計画と未申告の核計画が発見されて世界を驚かせた。」とラウフ氏は断言した。

三国の取り決めによれば、豪軍要員や民間人が2023年以降に米英両海軍に派遣され、両国の潜水艦産業で働いて豪州関係者の訓練を加速させることになるという。

米国は2023年以降、同国原潜の豪州への寄港回数を増やす予定だ。豪海軍の軍人が米国に加わって訓練を受けることになる。英国も2026年からは豪州への訪問を増やす。

米英両国は早ければ2027年にも、豪州が独自の原潜能力を獲得するために必要な海軍要員、労働力、インフラ、規制システムの向上を図るために、原潜のローテーション配備を開始する予定だ。

Photo: The Ohio-class ballistic missile submarine USS Louisiana transits the Hood Canal in Puget Sound, Wash., Oct. 15, 2017, as it returns to its homeport following a strategic deterrent patrol. Photo By: Navy Lt. Cmdr. Michael Smith | DOD
PUGET SOUND, Wash. (Oct. 15, 2017) The Ohio-class ballistic-missile submarine USS Louisiana (SSBN 743) transits the Hood Canal as it returns to its homeport following a strategic deterrent patrol. Louisiana is one of eight ballistic-missile submarines stationed at Naval Base Kitsap-Bangor providing the most survivable leg of the strategic deterrence triad for the United States. (U.S. Navy photo by Lt. Cmdr. Michael Smith/Released)

豪州軍の元諜報官であるクリントン・フェルナンデス教授は3月18日の『シドニー・モーニング・ヘラルド』紙で、AUKUSによる3680億ドルの原潜供与協定は、豪州をそこから離れることが非常に困難な軌道に乗せるものであると警告した。

「豪州が米英両国から潜水艦を購入するこの協定は、今後数十年にわたって、豪州を米英との運命共同体にすることを意味する。」

「その危険は、豪州軍が自前の軍隊というよりも米軍の一要素として組み込まれてしまう点にある。」

「ここでのキーワードは相互運用性だ。より大きな戦力を補強するために、よく選ばれた、ニッチな能力を提供することで、超大国の戦略の内部で作動する、ということだ。AUKUSは、豪州軍が米軍・英軍と総合運用性を持ち、さらには互換性すら持つことを意味する。」とフェルナンデス氏は主張した。

Map of Australia
Map of Australia

「相互運用性は豪州軍の戦争のやり方にとっては中心的な概念であり、その圧倒的な重要性は歴史に根差している。第一次世界大戦以前から、豪州は、相互運用性の観点から英国のリー・エンフィールド型ライフルを好み、カナダのロス型ライフルを採用しなかった。」

「1909年当時の国防相ジョージ・ピアースは豪州独立を熱心に主唱していたが、相互運用性の必要性は認識していた。当時はそれが意味を持った。当時の英国は主導的な帝国であり、豪州はその帝国内の自治領であったからだ。」とフェルナンデス氏は説明した。

ニューサウスウェールズ大学の「未来活動研究グループ」にも参画しているフェルナンデス氏は、「帝国下」の意識が豪州の安全保障やアイデンティティの本質であって現在のAUKUSの中心にも座っており、自主防衛やコスト感覚といった他の目標を凌駕している、という。このことが、軍が将来的に直面する脅威やリスク、機会となる。

三国政府は、今回の決定を正当化した3月13日の共同声明で、AUKUSパートナーシップの利益は、世界の人口の半分以上と世界経済の3分の2以上を擁するインド太平洋地域を超えて広がると述べた。

「(AUKUSは)大西洋とインド太平洋地域の同盟国・パートナー国を、これら目的の下支えとなる国際システムに緊密に結びつけることで、我々の集団的な強みは一層強化されることになろう。」

「豪州軍による潜水艦群の近代化は、我々が手を携えて機会を実現するにあたり、我々を緊密に結びつける数十年に及ぶ取り組みとなろう。」

声明はまた、豪州による非核兵器搭載型の原潜取得は、高度な不拡散基準を満たし、核不拡散体制を強化する形で行われることになろうと述べた。

「このパートナーシップは、豪州が核不拡散に長年にわたってコミットしてきた実績ゆえに可能になったものだ。」

「21世紀の歴史のほとんどはインド太平洋地域で書かれることになろう。我々は、経済的繁栄や自由、法の支配を強化し、それぞれの主権国家が強制によらず自由意思で物事を決定する権利を保持するために、この地域を超えてパートナーと協力することを誇りに思う。」

「AUKUSは、今後数世代にわたって、自由で開かれたインド太平洋地域という我々共通のビジョンの推進に寄与することになろう。」

アンソニー・ウィアー米国務次官補(国際安全保障不拡散局不拡散政策担当)は同省で3月15日に開いた記者会見で、「海軍原子力推進は核兵器ではないことを明確にしておくことが重要だ。それは単に潜水艦が原子炉によって動いているに過ぎない。それだけのことだ。これは安全な技術だ。米英両国は60年以上にわたって、原潜で2.4億キロを航行してきた。それは月旅行300回以上分の距離にあたり、その間、人間の健康や環境に悪影響を与えたことはない。」と語った。

「AUKUSは防衛のためのパートナーシップであるが、それ以上のものもある。それは、米国とそのパートナー国・同盟国が、我々の海軍人や科学者、産業をつなぎ合わせて、インド太平洋地域の平和・安全・繁栄を維持する能力を維持し高めることによって、平和かつ安定したインド太平洋を実現するための具体的なコミットメントの表れだ。」

「我々は、明確に、潜水艦群を強化するとの豪州の決定を支持する。しかし、それ以上に、AUKUSを通じて、米・英・豪三国は、幅広い安全保障・防衛能力に関して我々の長期的な協力関係を深化させる意図を持っている。そして、そうすることによって、AUKUSを通じた防衛装備品移転を最適化するプロセスを再検討・合理化するために積極的に協力していく。」

「明確にしておかねばならないことがある。豪州は核不拡散条約の下での非核兵器国であり、これまでも、そしてこれからも、核兵器を追求することはないということだ。豪州がこれまでに示してきた核不拡散へのコミットメントにおける実績は、今回のパートナーシップを可能にする本質的な条件であった。我々三国のパートナーは、それぞれの法的義務と核不拡散を遵守し義務を果たし続ける。」と、ウィアー次官補は語った。

2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

他方で、英国の『ガーディアン』紙によれば、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長が、AUKUS協定が核不拡散上の義務に抵触することのないように、IAEAとAUKUSはさらなる協議を続けると述べたと伝えている。

同紙によれば、AUKUS協定は、海軍による原子力の非軍事的利用(推進用の高濃縮ウラン)をIAEAの査察の対象外にした1968年核不拡散条約の抜け穴を利用しているという。

グロッシ事務局長は3月14日、ワシントンで記者団に対して「潜水艦が出航してしまう前に、さらには港に戻ってきたときにチェックを加えねばならない。」と語った。

ガーディアン紙の報道によると、「それには高度な技術的手法が必要となる。溶接された部分があるからだ。しかし、我々の査察官は、内部に何があるのか、潜水艦がどのようにして、いつ港に戻ってくるのか、すべて[核分裂物質]がそこに[申告通りに]あるのか、失われた物質はないのかを調べることになる。」とグロッシ事務局長は述べたという。

「彼らの計画に対して、我々は高い要求を出すことになろう。プロセスがいま始まった。現在、実情を把握しているところだ。」

グロッシ事務局長は、AUKUS協定に関連した不拡散協定の進展について、6月のIAEA理事会に報告する予定だ。

「すべての保証措置を確実にするために、厳格で水も漏らさぬ仕組みを作り上げるつもりだ。もしそれができないのなら、協定は認められない」とグロッシ事務局長は語った。(原文へ

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G7広島サミットで、核軍縮の原則を推進するよう求められる日本

【シドニー/東京IDN=カリンガ・セネビラトネ】

日本が主催する5月のG7サミットに向けて3月29日に創価大学(東京八王子市)で開催した政策提言国際会議(同時ライブ中継)で、G7広島サミット事務局の有吉孝史副事務局長が、「岸田文雄首相がサミットの議題に核軍縮を入れることを重要視していた。」と語った。

Takashi Ariyoshi, Deputy Secretary General, G7 Hiroshima Summit Secretariat; Director, Economic Policy Division, Ministry of Foreign Affairs, giving the keynote address. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
Takashi Ariyoshi, Deputy Secretary General, G7 Hiroshima Summit Secretariat; Director, Economic Policy Division, Ministry of Foreign Affairs, giving the keynote address. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

有吉副事務局長は、岸田総理の故郷である広島は、第二次世界大戦末期(1945年8月6日)に米国が原爆を投下し約14万人が亡くなった場所であり、核兵器が人類にもたらす未曾有の課題を象徴している都市としてサミット開催地に選ばれたと語った。

G7広島サミットでは議論を深め、厳しさを増す安全保障環境のなかで核兵器のない世界を実現するという考えに対して強いメッセージを送ることになるだろう。この問題に対処する方法はいくらでもあります。」と語った。

有吉副事務局長はG7で焦点が当てられる可能性がある3つの論点を挙げた。第一は核兵器の不使用に対する「共通認識」を持つこと。第二は核兵器政策における透明性の向上。そして第三は核兵器備蓄の削減と原子力平和利用の促進である。

会議の共催団体である「G7研究グループ」のジョン・カートン代表は、「世界がとりわけロシアによって核兵器使用の危機に晒されている今年、広島でG7サミットが開催されることは意義深い。広島はG7の指導者らに核戦争の恐ろしさを想起させる重要な場所です。私たちは自らの行いを見つめ直し、(軍縮政策がもたらす)すべての人々の利益に向けて努力していく必要があります。」と語った。

G7とは、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ(議長国順)の7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組である。

核兵器の管理に関するパネルディスカッションで発言した創価学会インタナショナル(SGI)国連事務所のアナ・イケダ氏は、「広島G7サミットは私たちの安全について真剣に考える機会となるだろう。」と指摘したうえで、「核兵器は国家の安全保障を達成するための手段にはなりえません。」「私たちは、核兵器に依存する安全保障政策からの脱却を図らなければなりません。」と語った。SGIもこの会議の共催団体である。

Anna Ikeda, Representative of Soka Gakkai International to the United Nations, giving a presentation from New York at a session titled “Controlling Nuclear Weapons”. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

イケダ氏は、すべての核保有国が「先制不使用」の原則を採用すれば、ウクライナ紛争を解決するための多国間対話の余地が生まれると主張した。そして、「そのような政策には、相互信頼を築くための政策が伴わなければなりません。」と付け加えた。

Audrey Kitagawa, President of the International Academy for Multicultural Cooperation (IAMC). Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

多文化共生のための国際アカデミー(IAMC)のオードリー・キタガワ会長は、「G7各国の現状は核不拡散条約(NPT)に違反している部分があります。」と指摘したうえで、「G7広島サミットでは核問題を議題の最高レベルに引き上げ、核兵器廃絶への関心を高める必要があります。そうでなければ核保有国が増える可能性があります。」と警告した。

「もしイランが核を保有すれば保有国数は10カ国になり、サウジアラビアもこれに続くことになるかもしれません。また韓国も、これに続くか、米国に核配備を要請することになるかもしれない。」と指摘し、「中国と米国は核兵器予算を増やしています。こうして核保有国は今日私たちが目のあたりにしている不安を大きくすることに寄与してしまっているのです。」とキタガワ会長は語った。

NPTは核兵器と兵器技術の拡散を予防することを目的とした画期的な国際条約である。5つの核兵器国を含む191カ国が署名している。

「核クラブのメンバーは安全保障にとって最大の障害となっています。核兵器の先制不使用は、(緊張を緩和するための)第一歩であり、それを公約にしているのは中国とインドだけです。」とキタガワ会長は語った。

アジア・ソサエティ政策研究所マネージングディレクターのローリー・ダニエルズ代表は、「中国の勃興に対する米国の反応は、アジアにおける緊張と軍拡競争を加速させています。この傾向を反転させるには、 『協力』の定義を見直して『共通の利益のために協力する』ものだと考える必要があります。」と指摘した上で、「中国と米国はかつて、がん治療のための原子力研究や濃縮ウランの危険性低減のために協力していたことがあります。」と語った。

Jonathan Granoff, President, Global Security Institute
Jonathan Granoff, President, Global Security Institute. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

グローバル安全保障研究所」のジョナサン・グラノフ所長は、「人類のあらゆる努力に終止符を打ってしまうような装置を私たちは作り出しています。」と語った。また、私たちは「『良き』国が(人類に対して)恐ろしいことをする事例を知っています。」と指摘し、イラクや広島、シリア、スーダン、ウクライナの例を挙げた。また、リビアやウクライナ、イラクのような核兵器を放棄した一部の国々がどうなったかについても注意を喚起した。

「私たちは天然痘ウィルスをを生物兵器として使用することをどの国に対しても許していませんが、9カ国にのみウィルスの使用を認めたとしたらこれはとんでもないことです。しかしこれと同様のことが核兵器には起きているのです。」とグラノフ所長は主張し、広島G7サミットが、核兵器の先行不使用を、おそらくは国連安保理を通じて採択される法的拘束力のある国際条約にする第一歩を踏み出すよう訴えた。

「米国では、私たち活動家が核軍縮を求めると、『同盟国がそれを望んでいない』と言われます。G7広島サミットでは、核兵器は安全保障のためには必要なく廃絶すべきだというメッセージが(あらゆる人々に対して)発信されるべきです。」とグラノフ所長は説明した。

イケダ氏は、「核兵器が私たちを滅ぼしてしまう前にそれを廃絶するには、核兵器が私たちの安全を守るとの観念を打ち捨てねばなりません。そのためには、核兵器を正当化する発想に対抗するとともに、核兵器を避けることが(平和への)道だと言い続ける必要があります。広島(G7サミット)はそこに向けた期限と道筋を明示すべきです。」と語った。(原文へ

A Glimps of the Conference: “Advancing Security and Sustainability at the G7 Hiroshima Summit” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

INPS Japan

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創価大学平和問題研究所

国際女性デー2023

【国連IPS】

コンピューターの黎明期から、バーチャルリアリティ(可能現実)や人工知能が普及した現代まで…女性達は、私たちがますます生活で依存するようになったデジタル世界に、計り知れない貢献をしてきた。

彼女たちの功績は、歴史的に歓迎されない分野で、あらゆる困難を乗り越えて成し遂げられてきたのだ。

今日、デジタルアクセスにおける根強いジェンダーギャップが、女性がテクノロジーの可能性を最大限に引き出すことを妨げている。

STEM(科学・技術・工学・数学)教育 や キャリア面における女性の割合の低さは、依然として技術設計やガバナンスへの参画を阻む大きな障壁となっている。

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2020」によると、テクノロジー分野での女性の割合は依然として低い。

女性は、中核となるテクノロジー分野の労働力の17%を占めているに過ぎない。

また、オンライン上のジェンダーに基づく暴力の脅威が蔓延しているため、女性らは自分が占めるデジタル空間から追い出されている。

125カ国の女性ジャーナリストを対象とした調査では、73%が仕事の過程でオンライン暴力を受けたことがあると回答している。

また女性の排除は、より微妙な形でも広がっている:

人工知能(AI)分野における労働人口に占める女性の割合はわずか22%に過ぎない。

また、業界を問わず133のAIシステムをグローバルに分析した結果、44.2%がジェンダーバイアスを示していることが判明した。

一方で、いくつかの進展もみられる。

テクノロジー分野への女性の参加は、2014年から10%増加した。

米国の女性・情報技術センター(NCWIT)によると、テクノロジー分野の幹部職に就く女性の数は、2012年の11%から19年には20%に増加した。

テクノロジー分野における男女平等の実現という点では、道のりは依然として長い。

国際女性デーは、女性の社会的、経済的、文化的、政治的功績を世界的に祝う日である。

それは、進歩のために努力し続けるための行動を呼びかけるものである。

今年は、国際女性デーのテーマである、「全てをデジタルに:ジェンダー平等のためのイノベーションとテクノロジー」を祝おう。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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