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ルワンダの「ジェノサイド」、フランスの裁判所でついに有罪判決

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】 

ルワンダの元政府高官が、80万人にのぼったツチ族と穏健派フツ族の死と関連して、同国の大量虐殺に加担した罪で有罪判決を受けたが、この恐ろしい犯罪が発生してからすでに28年が経過している。

ローラン・ブチバルタ(78歳)は、100日間にわたって行われた1994年の大虐殺に関して、これまでフランスで裁判を受けたルワンダ人の中で最も高い地位にある人物だ。

フランスは、虐殺後にフランス国内に避難したルワンダ人加害容疑者に対して行動するよう、長い間国際社会から圧力にさらされてきた。

Map of France
Map of France

大量虐殺当時、フランス政府は政権を担っていたフツ族の政権を長年にわたって支援しており、そのためにツチ族主体のルワンダ政府とフランスの間には数十年にわたる緊張関係が生じていた。

大量虐殺の発端となったフツ族の大統領ジュベナール・ハビャリマナの飛行機を撃墜した事件に関するフランスの別の調査は、今年初めに終了した。

南部ギコンゴロ県の元知事に対する審理の焦点は、ブチバルタ被告が命じたり出席したとされるいくつかの「安全保障(セキュリティー)」会議についてで、検察はそれらが大量殺害を計画した会議であると主張した。とりわけ、ブチバルタ被告は、数千人のフツ族の人々に対して食料、水、保護を約束すると欺いて、ムランビ技術学校に避難するよう説得したことで告発された。

その数日後の4月21日未明、それまで学校を守っていたフランス軍が突然去り、残された65,000人のツチ族の人々は、銃や手榴弾で武装したフツ政権の軍や民兵、さらにはマチェット(山刀)を振って乗り込んできたフツ族の民衆によって襲撃され、未明から昼前までの間に約4.5万人から5万人が犠牲になった、ルワンダ大虐殺の中でも最も血生臭いエピソードの1つとして知られている場所だ。

裁判所は、1994年5月7日にキベホのマリー・メルシー校で約90人のツチ族の生徒が虐殺された事件と、ギコンゴロ刑務所でのツチ族囚人(3人の司祭を含む)の処刑についても、ブチバルタ被告の責任を検証した。

ブチバルタ被告は公判で、殺害への関与を否定し、「私は決して殺人者の側にはいなかった。当時、自分には勇気がなかったのだろうか、助けられたのだろうかといった疑問と後悔に28年間苛まれている。」と主張した。

ブチバルタ被告弁護団は、裁判所が「勇気ある決断」を下し、彼を無罪にするよう求めた。

Photographs of Genocide Victims - Genocide Memorial Centre - Kigali – Rwanda/ By Adam Jones, Ph.D. - Own work, CC BY-SA 3.0
Photographs of Genocide Victims – Genocide Memorial Centre – Kigali – Rwanda/ By Adam Jones, Ph.D. – Own work, CC BY-SA 3.0

この裁判では、ルワンダからの生存者を含む100人以上の証人が、直接またはビデオ会議を通じて証言した。

ブチバルタ被告は、1997年以来、無数の健康上の問題を抱えながらフランスに滞在している。裁判の間、彼は治療を受けるために自宅軟禁が許可された。

ルワンダのポール・カガメ政権が委託した報告書は、フランスが1994年4月と5月の虐殺を「止めるために何もしなかった」と主張し、虐殺後の数年間はその役割を隠蔽しようとし、一部の加害者に保護さえ提供したと断定している。

またこの報告書は、フランスの責任について、「ルワンダでの大量虐殺を可能にした『重大な責任がある』にもかかわらず、未だに1994年に起きた恐怖の事件における自らの真の役割を認めようとしない。」と結論付けている。

さらにこの報告書の著者らは、「フランス政府は、予見可能な大量虐殺に対して盲目でも無意識でもなかった」と強調し、フランス当局が大量虐殺の準備に対して「盲目」であり、その後あまりにも反応が遅かったと結論付けたエマニュエル・マクロン大統領による以前の報告書の結論に異論を唱えている。(原文へ

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|視点|核兵器禁止条約第1回締約国会議に寄せて(ラメッシュ・タクール戸田平和研究所上級研究員)

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

核兵器禁止条約の第1回締約国会議が、6月21日からオーストリアのウィーンで行われる。会議に合わせ、戸田記念国際平和研究所では、同条約に関するワークショップを開催する。同研究所の上級研究員でオーストラリア国立大学核不拡散・軍縮センター長のラメッシュ・タクール氏に、条約の意義と核兵器を巡る現状を聞いた(聞き手=南秀一)。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

――核禁条約が国連で採択されてから来月で5年を迎えます。まず同条約の意義をどう評価していますか。

多国間の枠組みによる軍備管理の成果としては、1970年に発効したNPT(核拡散防止条約)以来、この半世紀で最も大きなものと言えるでしょう。
NPTが50年にわたって世界の核体制の安定を支え、十分ではないにせよ、核の拡散に歯止めをかけてきたことは間違いありません。しかし、核軍縮については、失敗していると言っていい。これまで削減が実現したのは、基本的に米露の2国間または各国独自の決定によるものです。
また、NPTの第6条では「軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束」していますが、いまだ実現には至っていません。
核兵器禁止条約は、こうしたNPTが抱える課題を補う役割を果たしています。(原文へ 

――核禁条約は、批准していない国には効力を持ちません。そのため、“核兵器を持つ国が批准していないのだから意味がない”という批判があります。

確かに批准していない国に対する効力はありませんが、一方で、国連で議論され採択された条約が「何の力も持たない」とは言えないでしょう。122カ国の賛成で成立した倫理的、法的規範であり、核兵器の所有や核抑止の根拠を揺るがす力になります。
もう一つ、この条約には重要な意義があります。国際政治においても国連の仕組みとしても、地政学的な中心は米英仏中露の5カ国が常任理事国を務める安全保障理事会にあります。しかし核禁条約は、安保理ではなく、全加盟国からなる総会で採択されました。
国際安全保障政策における重要な民主的変化であり、核兵器に対する規範の確立という点からも特筆すべき進歩と言えるでしょう。

――ウクライナを巡る緊迫もあり、核兵器の役割を見直す議論も起きています。

ウクライナ情勢は、核兵器に関する、さまざまな議論を呼んでいます。その一つが、“ソ連から独立する際にウクライナが核兵器を手放したのは正しかったのか”というものです。
 私はこの議論は誤りだと思います。というのも、ソ連崩壊後に残された核兵器は、決してウクライナの支配下にあるものではなかったからです。例えば、米国が海外に配備した兵器は米国の支配下にあるのと同様です。
まして、もしウクライナが核兵器を放棄せず、NPT体制を外れて独立しようとしていたなら、米国やNATO(北大西洋条約機構)が独立を支持することはなかったでしょう。
何より憂慮すべきは、軍事的緊張の高まりによって今、核戦争の危険性が現実味を帯びていることです。核戦争が絶対に起きないとは誰も言い切れないでしょう。状況は複雑ですが、だからこそ大切なのは「もし核兵器がなければ危険性は高まるのか、低くなるのか」という根源的な問いではないでしょうか。
核禁条約がこれほどの成功を収めた大きな要因は、核兵器を人道上の問題であるとし、三つの論点に集約したからです。
すなわち、①どの国も国際的な仕組みも、核兵器が使用された場合の人道上の結末は手に負えない②いかなる状況でも核兵器を使用させないことが人類の存続につながる③核兵器の不使用を保障する唯一の方法は保持しないこと、つまり廃絶しかない――これが今、私たちが確認すべきことではないでしょうか。

――目下の課題と締約国会議に期待することは何でしょうか。

まず、核兵器の高度警戒態勢を解除することです。偶発的、人為的ミスによる核兵器使用の危険性を高める行為であり、この状態を一刻も早く脱する必要があります。
もう一つは、先制不使用の宣言です。2020年に中国とインドの間で緊張が高まった際、核戦争の危険性を訴える人はいませんでした。大きな理由の一つは、両国が核兵器の先制不使用を宣言していたからです。
この点、私は締約国会議が特にアジアにとって重要な場であると思います。アジアで核兵器を保有している、中国、北朝鮮、インド、パキスタンのうち、NPT加盟国は中国のみです(北朝鮮は2003年に脱退を宣言)。つまり、現時点でアジアの核問題をNPTの枠で解決することは難しい。どうすれば3カ国を交渉のテーブルにつかせられるか、締約国会議へのオブザーバー参加の道も含めて積極的に議論すべきでしょう。
同時に忘れてはならないのは、核禁条約の締約国は基本的にNPTの締約国であるということです。二つの条約は決して切り離されたものではありません。目指す内容も大半が共通しています。立場を超えて、具体的な議論が進んでいくことを期待しています。

――市民社会は、どのような役割を果たせるでしょうか。

どの国の政府も世論の影響を受けますし、市民社会が核兵器を喫緊の課題だと訴えれば政府は動きます。
しかし、ただ“条約に参加しないのは道徳的に間違っている”と抗議するだけでは、状況を変える力にはなり得ません。国の安全を保障するために必要だと判断すれば政府は動きます。その意味で、核兵器を持たなくとも安全が保障できる筋道を考え、皆で訴えていくことです。そのために、市民社会が皆の意識を喚起し、政府に注意を向けさせていく努力は重要でしょう。
戸田記念国際平和研究所としても、引き続き、“核兵器のない世界”実現に向けた研究に注力していきたいと思います。

このインタビューは、2022年6月19日に聖教新聞に掲載されたものを、許可を得て再掲載しています。

南秀一(みなみ しゅういち)は、聖教新聞社の記者。

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核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議

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核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、ウィーンで開催されていた核兵器禁止(核禁)条約の第1回締約国会議(6月21日~23日)にビデオメッセージを寄せたが、そのなかで行った警告はまさに的を射たものだった。

「核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。」―グテーレス事務総長はこう述べて、国際社会が対話と協調を通じた問題解決ができていない現実を、核兵器という致命的な存在が想起させている点を指摘した。また、「核兵器は安全と抑止という誤った約束を提供しますが、実際には、破壊と死、際限なき瀬戸際政策をもたらすだけです。」と語った。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri

グテーレス事務総長はさらに、核禁条約の履行の方向性を定めることになる「核兵器のない世界へのコミットメントに関する宣言」(「ウィーン政治宣言」)と「ウィーン行動計画」の採択を歓迎し、「核兵器のない世界という私たちの共通の目的に向かった重要なステップである。」と指摘した。

戦争を超える世界」「宇宙への兵器と原子力の配備に反対するグローバルネットワーク」の理事であるアリス・スレイター氏はIDNの取材に対して、「ウィーンでの核禁条約第1回締約国会議が前例にとらわれない形で開かれたのに対して、戦争と対立の暗雲が世界を覆い始めている。」と指摘したうえで、「私たちは、ウクライナでの暴力が続き、ベラルーシとの核共有の可能性も含めてロシアが新たに核の恫喝を繰り返す様子を目の当たりにしています。一方、米国はベルリンの壁が崩壊しワルシャワ条約機構が解体されたときに、北大西洋条約機構(NATO)をドイツの東側にまで拡大することはないとゴルバチョフ氏に約束したにも関わらず、ウクライナに対して数十億ドル規模の武器を送り込み、フィンランドとスウェーデンをNATOに取り込んでその境界を無思慮にも拡大しようとしています。そうした中でこの事態が進行しているのです。」と語った。

西側主要メディアはウラジーミル・プーチン大統領に厳しい論調の報道を継続する一方で、ウィーンで画期的な政治宣言が採択されたにも関わらず、ほとんど核禁条約に言及していません。」とスレーター氏は語った。

Alice Slater
Alice Slater

核時代平和財団のニューヨーク支部長でもあるスレーター氏は、「締約国は、核禁条約と核不拡散条約の相互補完関係を十分に認識したうえで、例えば、時間の期限を設けて核兵器の完全廃棄を監視・検証するステップを設定する等、核禁条約が規定している多くの約束を果たすための仕組みを確立すべく、思慮に富んだ行動計画を採択しています。締約国は、長年にわたって貧困層や先住民族コミュニティーで行われた核実験や兵器開発、廃棄物汚染などの被害に遭った犠牲者や環境汚染に対して、前例のない援助を展開する(「被害者援助と環境修復」第6、7条)ためのスキームに合意しました。」と語った。

ブリティッシュ・コロンビア大学(バンクーバー)公共政策大学校リュー・グローバル問題研究所長で、「軍縮・グローバル・人間安全保障問題」の教授を務めるM・V・ラマナ教授はIDNの取材に対して、「核禁条約の締約国会議は、今日の世界が直面している危険な核の状況から抜け出すための数少ない意義ある方法を提示しています。ロシアのウクライナ攻撃と核による威嚇は、核兵器が存在する限り、稀にではあっても使用されうるという事実を再認識させるものとなりました。」と語った。

「内部告発者」として有名なダニエル・エルズバーグ氏が数十年来指摘してきたように、核兵器は、(広島・長崎で起こったように)敵の標的の上で爆発するという意味と、核兵器の保有者にとっては容認できないことを敵方が行った場合に核兵器を使用すると脅すという意味の両方において、使用されえるのである。

「これは、通常の状況の下ではやりたくないことを、銃を突きつけることで無理やりやらせることに似ています。後者の意味においては、この大量破壊兵器を保有する国々によって、核兵器は繰り返し『使用』されてきたのです。」とエルズバーグ氏は語った。

従って、核禁条約の締約国が「最後の核弾頭が解体・破壊され、核兵器が地球上から完全廃絶されるその日」まで、弛まず行動すると公約したことは、歓迎すべきことだ。

「これは、すべての国が目指すべき目標であり、緊急に取り組むべきものです」と、ラマナ博士は語った。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn/ ICAN

2017年にノーベル平和賞を受賞した反核団体である「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、「今回の会議は、核兵器の壊滅的な人道的影響とその使用による受け入れがたいリスクに基づき、核兵器を廃絶するための断固とした行動という、TPNWの理想そのものを如実に反映したものとなりました。」と振りかえった。

フィン事務局長は、締約国会議の閉幕にあたって、「締約国は、被害者や影響を受けた地域社会、市民社会と協力して、この決定的に重要な条約の履行に向けたあらゆる側面を前進させる具体的かつ実践的な行動について幅広く合意するためにこの3日間多大なる努力を行ってきました。こうやって私たちは核兵器禁止の強力な規範を形成してきたのです。高邁な声明や空虚な約束を通じてではなく、諸政府や市民社会から成る真にグローバルなコミュニティーを巻き込んだ、実践的で具体的な行動を通じてです。」と語った。

締約国会議では、条約の履行に向けた実践的な側面に関する決定が6月23日になされた。

例えば:

・核兵器のリスクや核兵器が人間に与える被害、核軍縮などに関する研究を前進させ、条約の効果的な履行に関連した科学技術的問題に対処し、締約国に助言を与える「科学諮問グループ」の設置。

・条約に加盟する核保有国による核兵器廃棄期限を10年以内とすること(最大5年の延長可)。他国の核兵器の配備を認めている国は、[条約加盟後]90日以内に撤去させる。

・条約普遍化、被害者援助・環境修復、国際協力・支援に関する調整委員会や非公式作業部会の設置など、今回の会議のフォローとなる会期間作業プログラムの確立。核兵器廃棄を監視する「権限のある国際当局」の指名に関連した作業の実行。

締約国会議前夜、カーボベルデ・グレナダ・東ティモールが批准の寄託書を送付し、締約国数は65となった。また、ブラジル・コンゴ民主共和国・ドミニカ共和国・ガーナ・インドネシア・モザンビーク・ネパール・ニジェールの8カ国が批准の手続き中であると会議で表明した。

核禁条約は、条約で要件となっている50カ国目の批准/加盟があってから90日後の2021年1月22日に発効した。

さらにスレーター氏は、今回の締約国会議の成果について、「もしこうした公約を実現しようとするならば、もっと真実に向き合わねばなりません。「プーチンのウクライナへの『いわれのない』攻撃について主要メディアが常に一面のみを強調するのは不誠実だと言わざるを得ません。」と解説した。

Noam Chomsky speaks about humanity's prospects for survival in Amherst, Massachusetts, United States on 13 April 2017./ By Σ, retouched by Wugapodes - File:Noam_Chomsky_portrait_2017.jpg, CC BY-SA 4.0
Noam Chomsky speaks about humanity’s prospects for survival in Amherst, Massachusetts, United States on 13 April 2017./ By Σ, retouched by Wugapodes, CC BY-SA 4.0

スレーター氏は、米国の著名な言語学者・哲学者・科学者・批評家であるノーム・チョムスキー氏が「プーチンのウクライナへの犯罪的侵略を『いわれのないウクライナ侵攻』と呼ぶのが通例になってしまっている」と発言していることに言及した。

グーグルでこの表現を検索してみると243万件のヒットがあった。試みに「いわれのないイラク侵攻」を検索いてみたところ、わずか1万1700件で、そのほとんどが(主流メディアではなく)反戦団体のウェブサイトによるものだった。

スレーター氏は、「私たちは歴史の転換点に立っています。ここ米国では、この国が『例外的な』民主主義国家ではないことが、誰の目にも明らかになりつつあります。」と指摘したうえで、「2020年1月6日に起きた米議会に対する襲撃の与えた衝撃と、それに対する理解しがたい反応が米国政治をズタズタに引き裂いたことに加えて、黒人市民に対する継続的な抑圧、再生される人種主義的なステレオタイプ、オバマ政権以来の「ピボット(アジアへの軸足移動)政策」が進行する中でのアジア系市民に対する危害、嫌中国・嫌ロシア的な言説の展開など、私たち自身の歴史を振り返らねばなりません。」と語った。

「それに加えて、植民地主義的な家父長制による虐殺を生き延びた先住民族に対する不当な取り扱い、女性に対する市民権付与の拒絶など、再び家父長制が醜く頭をもたげ、私たちが手にしたと思っていた民主主義の幻想を奪うなか、私たちが勝ったと思っていた戦いを再びやりなおさなければならない事態にあります。」

NATO's Eastward Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

スレーター氏はまた、「腐敗した企業の略奪者たちに支配された米政府は司法制度やメディアの手によって守られており、政府は、永続的な戦争から抜け出て、核戦争や破滅的な気候変動という激変を回避するための協力的で有意義な行動に向かうビジョンも道を示さない。また、企業欲と誤った優先順位のために、私たちが対処できないように見える疫病を拡大させてしまっています。」と語った。

「ブッシュ政権とクリントン政権でCIAアナリストを務めたレイ・マクガバン氏は怒りに燃えて職を辞し、『正気を求める元諜報部員の会』(VIPS)を設立したが、彼は、軍隊(M)・産業界(I)・議会(C)・諜報部門(I)・メディア(M)・学界(A)・シンクタンク(TT)からなる複合体『MICIMATT』について語っている。米国は、そのMICIMATTとして現れた少数者による専制支配を実現するために、王を追放したようなものだと述べている。」

「この現在進行形の狂気がNATOの無謀な拡大を招いたのです。」とスレーター氏は指摘した。NATOは6月首脳会合開催した、今回初めて参加するオーストラリア・日本・ニュージーランド・韓国といったインド太平洋地域のパートナー国とともに、グローバルな課題について協議した。そして、テロとの闘いの継続、中東・アフリカ北部・サヘル地域からの脅威と挑戦に対処するとの公約がなされた。

他方で、草の根の行動の潮流も強まっている。6月、戦争終結の必要性を訴える平和の波が世界中に拡がった。多くの人々がスペインでのNATO首脳会合に反対するデモに参加し、活動は世界各地でも持たれた。

Photo: ICAN campaigners protest in Sydney, Australia on 22 January.
Photo: ICAN campaigners protest in Sydney, Australia on 22 January.

「核保有国は支持していないものの、核禁条約をますます多くの議員や地方自治体が支持するようになってきており、核保有国に対して、条約に参加して、核兵器廃絶の公約を履行するよう圧力が強まっている。」

米国の核の傘の下にある3つのNATO加盟国、すなわち、ノルウェー・ドイツ・オランダが核禁条約第1回締約国会議にオブザーバー参加した。米国と核共有するNATO諸国のドイツ・トルコ・オランダ・ベルギー・イタリアでも、これらの国々に配備されている核兵器の撤去を求める草の根の行動が起こっている。

これは、ベラルーシに核兵器を配備しようとしているロシアに対するよいメッセージとなるだろう。「平和にチャンスを与えよ。」と、スレーター氏は語った。(原文へ

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ウィーン反核ウィーク(6/18-23)撮影:浅霧勝浩

第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議

|核兵器禁止条約締約国会議|核兵器の被害者めぐる関連行事が開かれる

平和で持続可能な未来のために共に行動を(レベッカ・ジョンソンアクロニム軍縮外交研究所所長)

|視点|「人種差別・経済的搾取・戦争」という害悪根絶を訴えたキング牧師の呼びかけを実行に移すとき(アリス・スレイター「核時代平和財団」ニューヨーク事務所長)

フィジー政府の無関心でレブカの世界遺産が危機に

【レブカ(フィジー)IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

緑に覆われ、起伏の激しいこのオバラウ島は、南北わずか13キロ、東西10キロであり、フィジー最大のビティレブ島の東海岸側に位置している。島内唯一の港町であるレブカは人口1500人で、フィジー唯一の世界遺産の地でもある。しかし、地域の名士たちは、もしフィジー政府が世界遺産としての価値に十分関心を払わないならば、レブカが遺産のリストから外される可能性もあると話す。

元教師でレブカ町議会の元議長でもあるスリアナ・サンディーズ氏は、レブカの文化遺産と文化観光の発展に十分な優先順位を与えていないと批判している。

Luveka's exceptional architecture | Credit: Kalinga Seneviratne
Luveka’s exceptional architecture | Credit: Kalinga Seneviratne 

「今の政府は、文化遺産を重要視していません。面と向かってそう言われたこともあるし、自治体のやり方を見ていればそれは明らかです。」とサンディーズ氏は述べ、この地に建設中の新しい市場が、地元の建築物の要素をまったく取り入れていない点を指摘した。「政府は、もし空き地があり、ビジネスマンがお金を持っているなら、なぜそれを開発しないのかと言うのです。」

数年前、スバのビジネスマンが古い建物を壊して派手なナイトクラブを建てようとしたとき、彼の計画は地元の遺産協会に猛反対され、町議会でも却下されたことがある。しかし、サンディーズ氏は、「悪徳業者を呼び込むような観光はいらない」としているだけで、観光そのものに反対しているわけではないという。

レブカの天然の港と停泊所は、1830年代初頭にフィジーに初めて到着したヨーロッパの船乗りたちを魅了した。1874年に現地の酋長が英国に土地を割譲するまではここがフィジーの最初の首都であった。港に隣接する砂浜沿いに、店舗や家屋、サロン、バー、教会が立ち並ぶフィジー最初の都市が形成された。

19世紀の捕鯨、1860年代の綿ブームの時代が過ぎ、1950年代にコプラ貿易が終わりを告げて、この地区は海洋貿易の中心地ではなくなった。バーやサロンは今日姿を消している。

今日、フィジー政府が現在は保有する元々は日本が建設した水産加工場が、地元の人々、特に若い女性の雇用の大半を担っている。

Fiji on the globe/By TUBS - This vector image includes elements that have been taken or adapted from this file:, CC BY-SA 3.0
Fiji on the globe/By TUBS – This vector image includes elements that have been taken or adapted from this file:, CC BY-SA 3.0

島には崖が多く、町は砂浜沿いから外に向かっては発展できない。こうして、フィジーの首都はビティレブ島のスバに1881年に移転した。当時の商店街や教会、木造の窓が上に開く木造家屋が残っている。地元の人々は誇りをもってこれらを保存し、町の歴史的価値を守ってきた。

レブカの歴史的港町は2013年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に認定され、「2013年フィジー世界遺産法令」に基づいて保護されている。登録は、国内外の様々な関係者による少なくとも36年にわたる努力の結晶だった。今日に至るまでフィジーで唯一の世界遺産であり、ユネスコは「先住民コミュニティの影響を受けて発展した19世紀後半の植民地時代の港町の珍しい例」と表現している。

遺産保護そのものの価値に並んで、観光が盛んになるというのが世界遺産登録の主要な動機の一つであった。現在も発刊されている『フィジー・タイムズ』がこの町で創刊されたのは1869年のことである。この町には、フィジーで初めての銀行・郵便局・学校・役場もできた。

サンディーズ氏は、コロナ禍以前、日本の財団の協力を得て、地域社会とのワークショップを開催し、島の遺産や文化観光の計画を策定したと説明した。

「あらゆる村から人々がワークショップにやってきました。自分の体験を語り、観光客に何を見てもらいたいかを語りました。自らの歴史を語り、観光を促進するために、村の地元の人たちと一緒にリーフレットを作り、村の歴史などを伝えました。ツアーガイドを養成し、それぞれの村に人々を案内するようにしました。山に登り、地元の人たちの話を聞くためのコースも計画しました。しかし、文化財保護局は、それを棚上げにしたのです。彼らは観光振興を望んでいなかったのです。」

IDNは遺産・芸術省と接触して、レブカの遺産観光を支援しない理由について問いただそうとしたが、約束に相違して、回答を得ることができなかった。しかし、フィジー政府で海外観光客誘致を担当する部局のトップであるブレント・ヒル氏はIDNの取材に対して、文化観光の拠点としてレブカを振興することを政府も望んでおり、通商貿易観光省に問題を提起すると語った。

ヒル氏は、「現在、私たちはキャプテン・クック・クルーズ船の停泊地として、レブカ島への旅行をプロモーションしています。既にインフラやツアーが稼働している場所の方が、プロモーションしやすいのです。」また、「この歴史的で趣のある町に観光客を送るには、宿泊施設のような適切なサポートインフラが必要です。」と語った。

ここには3つの小さなホテルしかなく、太平洋地域で最も古くから営業しているホテルと言われるロイヤルホテルは、19世紀のインテリアがそのまま残り風情がある。ロイヤルホテルの共同経営者であるニコレット・ヨシタ氏は、IDNの取材に対して、「レブカは、その人々と歴史により、常に海外からの旅行者にとって特別な目的地となっています。レブカがコプラの取引を失ったとき、レブカを維持できたのはこのおかげです。団体観光客が訪れ始め、80、90年代には格安旅行を望む主にバックパッカーが来るようになりました。」と語った。.

ヨシタ氏は、「すべて込みのパッケージで、夜には地元のエンターテイメントを提供することもできます。レブカがコロナ下で閉鎖される前は、実際にそうしていたんですよ。ホテルや民家に宿泊しオブラウ・クラブで寛ぐ団体客が(旅行代理店を通じて)やってきました。このような団体客からの収入でレブカを存続させることができたのです。重要なのは、プロとして運営することであり、本来ならば、レブカにスタッフや事務所を持つ遺産・芸術省の出番であるべきなのです。」と語った。

レブカは、ユネスコの遺産登録もあり、本島からフェリーで1時間ということもあり、多くのフィジー人観光客も呼び込んできた。しかし、地元の店主によると、古い店舗を維持するには緊急の修理が必要だという。「英国式の建物を維持するのは困難で多額の費用がかります。なのに、遺産・芸術省からの支援はありません。」とある店主は語った。

地元のタクシー運転手ラジは、でこぼこ道を走って島中を案内してくれながら、「この場所には多くの水源があり、山からは5本の川が流れてきています。キャッサバ、ヤム、野菜、トウガラシ、カボチャ、パンノキ、ココナッツ、マンゴーなど多くの食べ物が育ちます。私たちはこうした地元の食材で生きていけます。」と話してくれた。

古い火山によって形成された谷にある内陸部の唯一の村であるロボニを訪問し、山々から流れてくる細い川の清冽な水を楽しむアクティビティも含めると、ツアーには4時間ほどかかる。「観光が発展するには地元の道路の修復が必要です。5年前のハリケーン『ウィンストン』によってひどく破損してしまいました。」とラジは言う。

Luveka's historic coast | Credit: Kalinga Seneviratne
Luveka’s historic coast | Credit: Kalinga Seneviratne

ラジは、英国がフィジーに連れてきたインド人労働者の末裔である。島の多くの村々は、住民の土地への権利を顧みることのなかった欧州人による植民地支配の興味深い歴史を有している。また、地域の生き残りをめぐる興味の尽きない多くの話題、彼らの文化的習俗、冒険を望む旅人たちが体験したいと思うかもしれない伝統に加え、山々、熱帯雨林、島を貫く原生の川のトレッキングなどもある。

SDGs Goal No. 11
SDGs Goal No. 11

サンディーズ氏は、政府が地元に適切な職員を送ってくれれば、持続可能な遺産観光ができるはずだと考えている。「この町を栄えさせてきたのは地元の観光です。みんなが一生懸命に維持してきた登録遺産の地位を失ってはなりません。一時的に来ては去っていく、文化遺産への情熱も何もない政府役人ではなく、文化遺産に関する知識を持った人たちを部局で雇ってもらいたい。」とサンディーズ氏は語った。

ヒル氏は、「フィジーの観光当局は、レブカへの海外観光客誘致の支援にやぶさかではない。」と指摘したうえで、「利害関係者や政府部局との対話をより緊密に進める必要があります。サンディーズ氏が観光当局とのタラノア(参加的な対話を意味する)望んでいるのなら、レブカ振興の支援のためのよりよい道を見つけるために協力できるだろう。」と語った。(原文へ

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第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議

【ウィーンINPS Japan=浅霧勝浩(Katsuhiro Asagiri)】

核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議の開幕を翌日に控えた6月20日、オーストリアの首都ウィーンで同国政府が主催する「第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)が開催された。被爆者、核被害者、外交官、学者、市民社会のメンバーなど80カ国以上から約800人が参加した。

第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議長/ Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

非人道性会議は、被爆者、核被害者の証言、専門家による科学的知見が共有され、核爆発が及ぼす破滅的影響について議論する会議。広範囲の放射線被害、負傷者救護が不可能になることなどの懸念が2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議で表明されて以降、核兵器の非人道性に焦点を当てた議論が活発化した。2013年の「第1回核兵器の人道的影響に関する国際会議」(オスロ会議:ノルウェー)、14年初めの第2回会議(ナヤリット会議:メキシコ)に続いて同年12月には第3回会議がウィーンで開催され、市民団体や国連、核軍縮推進派の非核保有国が主導したTPNW制定の原動力になった。経緯については、IDN/INPSがこれまでに「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道会議)を取材した記事を参照ください。

IDN/INPSでは、浅霧勝浩マルチメディアディレクターがウィーンでオーロラ・ワイス記者と合流し、ICAN市民社会フォーラム(6月18-19日)、第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議(20日)、TPNW第1回締約国会議(6月21日―23日)を取材した。

Thomas Hajnoczi at the closing session/ photo by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議では、議長国オーストリアのトーマス・ハイノツィ元欧州国際関係省軍縮・軍備管理・不拡散局長が、「具体的な成果につながる有意義な軍縮の議論には、被爆者や核実験の被害者の関与が必要」と総括したうえで、①核爆発直後の人道被害や長期にわたって継続する影響に十分対処することは不可能、②「核の冬」は地球全体に影響し食料不足や飢餓を招く、③偶発的事故やミスなどによる核爆発の危険がかつてなく高まっている、④(ロシアのウクライナ侵攻を念頭に)核兵器は大規模な戦争を防がず、むしろ核保有国をつけあがらせ、戦争に踏み切らせる事実を明確に示していることなどを挙げ、「核兵器の廃絶のみが効果的な予防策になる」と指摘した。

INPS Japan

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2022年5月3日にThe Strategistに初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

西洋人の中には、非西洋人に対して上から目線で意見するほど倫理的・知的に優位な立場にあると思い込む者がいるが、彼らがあそこまで著しく自己認識に欠けるのはどういうわけだろうか? トーマス・リッセとスティーブン・ロップは、1999年の書籍「The power of human rights(仮訳:人権の力)」 で担当した章において、「西側諸国や国際組織の圧力は、規約に違反した国の政府の外的影響に対する脆弱性を大幅に増大させることができる」と書いている。(原文へ 

いまでも覚えているが、この文を初めて読んだとき、非西側諸国の政府は誤った規範違反者、西側諸国の政府は高潔な規範設定者であり規範執行者という世界の分類にうかがえる無意識の傲慢さに驚愕した。私が国連で働いていた頃、西洋人が他の国々に対応する際に常に持ち続ける白人の責務について、どれほど多くのアフリカ人やアジア人の外交官が不満を漏らしたか、数えきれないほどだ。

エドワード・ルースは、2022年3月24日の「フィナンシャル・タイムズ」紙において、西側はロシアがウクライナをめぐって「世界的に孤立している」と言いながら、「自らの連帯を世界的なコンセンサスと勘違いしている」と指摘した。確かに、3月2日の国連総会決議で、193カ国の国連加盟国のうち141カ国がロシアの侵攻を非難することに賛成票を投じた。しかし、賛成しなかった52カ国の非西側諸国は、アフリカ諸国の半数を含み、世界の人口の半分以上を占めており、バングラデシュ、モンゴル、ナミビア、南アフリカ、スリランカのような民主主義国家も含んでいる。インドはその中で最も目立つ重要な国であるため、多くの評論家が「なぜインドは、ロシアを支持するフリーパスを持っているのか?」と絶えず問いかける。

それとは対照的に、オーストラリアのスコット・モリソン首相がウクライナ戦争に対するインドの公然とした中立性と中国のそれを慎重に区別したこと(ウクライナに関する国連の採決をインドと中国が棄権したことの間には、「これっぽっちも」道徳的な等価性がないとモリソンは述べた)にも通じるが、英国のボリス・ジョンソン首相は、近頃インドを訪問した際、インドのナレンドラ・モディ首相が「数回にわたって」ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に介入し、「こんなことをするとは、いったい何を考えているのかと尋ねた」と述べた。インドはウクライナにロシア人ではなく平和を望んでいると、ジョンソン首相は付け加えた。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長も彼に続き、欧州がロシアの石油とガスから「多様化によって脱却する」方法として、再生可能エネルギー分野でインドと提携することに強い関心を示した。

このような見解は、インド政府高官による主張の正当性を示し、それを西側の各国政府にも広く一般化するものである。そのため「米政権内部には、遅ればせながら、しかし嫌々ながら、インドの立場を受容する姿勢が見られるようになった」。インドの慎重なバランス外交と微妙な政策に対するこのような公式な理解は、一般の評論にはあまり見られない。

外交政策とは、美徳のシグナリングではなく、国民の最大利益のために行動することである。全ての国の政策は、地政学的計算や経済的計算(現実主義)と中核的な価値や原則(理想主義)の混ざり合いに基づいている。そのため、たとえ他国より頻繁かつ重大な政策上の過ちを犯す国があるとしても、どの国の政策も、矛盾のない首尾一貫したものとは言えず、誤り、偽善、ダブルスタンダードとも無縁ではない。したがって、長年にわたる残酷なイエメン紛争などで西側諸国が価値観を軽視すればリアルポリティークと言い、ウクライナにおける残虐行為に他国が沈黙すれば悪事の共犯だと言うのは、ありえないことだ。

インドのS・ジャイシャンカル外相は、4月11日にワシントンで、NATOがロシアに制裁を科して以降、インドがロシアから1カ月に輸入した石油の量は、欧州が1日の午後の間に輸入したエネルギーの量よりも恐らく少ないだろう辛辣に述べた。4月26日、ニューデリーで開催された権威ある年次会議「ライシナ対話」で、ジャイシャンカルは、ノルウェー外相とルクセンブルク外相の質問に対して同様の辛辣な回答をした。昨年西側諸国がアフガニスタンから慌ただしく立ち去った後、アジアではルールに基づく秩序が脅威にさらされ、アジア諸国がその後始末をすることになったと、ジャイシャンカルは彼らに思い出させた。ただ出て行くだけで何の戦略もない混乱に満ちた撤退により、インドの安全保障上の利益は深刻な影響を受けた。4月22日、英国の「デイリー・テレグラム」紙は、2014年のクリミア併合後にEUがロシアに武器禁輸措置を科して以降も、フランスとドイツが2億7300万ユーロ相当の武器をロシアに売却し、それがウクライナ戦争で使用されている可能性が高いと報道した。

4月24日、モリソン首相は、ソロモン諸島に中国の軍事基地が設置されることは許容できない一線であると述べた。ジョー・バイデン大統領の太平洋地域に関する最高顧問を務めるカート・キャンベルがソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相と会談した後に出されたホワイトハウスの声明には、「事実上の恒久的な軍事プレゼンス、戦力投射能力、あるいは軍事施設」が中国によって確立されることになったら、米国は「重大な懸念を持ち、相応の対応を取る」と記された。これは、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が述べたように、ロシアの譲れない一線をウクライナとNATOが越えたことに対するロシアの反応と何ら変わりはない。ソロモン諸島は、オーストラリア海岸から1,700 km沖にある。一方、ロシアとウクライナは陸で国境を接し、キーウはモスクワからわずか755 kmしかない(オタワ・ワシントン間に相当)。

現在、オーストラリア、英国、欧州、米国の政府の間には、インドがロシア製の兵器に依存しているのは過去の経緯によるもので、現在の軌道を反映してはいないということが、より完全に理解されている。ロシアへの依存が生じたのは、インドの選択であると同時に、米国の武器輸出が過去に制限されていたことにも起因する。ウクライナでロシア製兵器の欠陥が明らかになったことから、今後インドのロシア製兵器離れが加速するだろう。西側による制裁の影響でロシアの経済的重要性が低下したことも、パートナーとしてのロシアの魅力を減じるだろう。

ロシアによる侵攻と市民に対する残虐行為に対するインド政府の声明は、直接ロシアを名指しはしないものの、徐々に厳しいものになっている。インドは、西側諸国が中国の市場や工場への依存を低減し(近頃のオーストラリア・インド間の自由貿易協定)、また、ロシアのエネルギーへの依存を低減する可能性を提供する。また、西側諸国がインド太平洋地域で目指す一連の目標にとって、インドは不可欠の存在である。

4月11日にワシントンで開催された「2+2」閣僚会合の後、米国のロイド・オースティン国防長官は、米印関係を「インド太平洋地域における安全保障のかなめ」と描写した。アントニー・ブリンケン国務長官は、米国が「インドのパートナーになりえなかった」時代にインドとロシアの関係が形成されたことを認めた。しかし、今日では、「商業、技術、教育、安全保障など、実質的にすべての分野で、米国はインドの最高のパートナーになることができ、その意欲がある」。ほとんどのインド人は同じ気持ちだが、インドは、単なる米国の駒ではなく、他の国々に影響を及ぼす源として、あるいは世界の問題における明らかに独立した主体として、より効果的に西側諸国の目標達成を助けることができるだろう。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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【ウィーンIDN/INPS Japan=オーロラ・ワイス】

「今日は歴史的な瞬間だ」―オーストリア・ウィーンで6月21日に開幕した「核兵器禁止(核禁)条約」の第1回締約国会議はこのような言葉で始まった。国際社会や各国政府、市民社会、学界の代表らが、この歴史的な条約に効力を持たせ、核軍縮の未来を形づくっていくためにここに集った。

A side-event at the margin of the First State Parties to TPNW titled, “Addressing victim assistance, environmental remediation, and international cooperation in accordance with the TPNW Articls 6-7” held at Austria Center on June 21, 2022. Credit: Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.
Side-event at the margins of the 1st meeting of state Parties to the TPNW
Side-event at the margins of the 1st meeting of state Parties to the TPNW

国益や信条体系の違いはあれども、10年前には幻想であったものが今や厳然たる事実になったという認識では一致している。他方で、これまでに生み出された最も壊滅的な核兵器のほとんどを、一部の大国だけが保有しているという事実も変わらない。

従って、核禁条約第1回締約国会議中に開かれた関連行事が、核被害者への援助と核に汚染された地域の環境の修復(第6条)、そのための国際協力(第7条)をどのように進めるかに焦点を当てたことは適切なことであった。

この関連行事は、議長国オーストリアの要請を受けてこのテーマに関する共同作業文書を提出したカザフスタン共和国外務省とキリバス共和国の国連代表部が、核時代平和財団創価学会インタナショナル(SGI)との共催で開催した。

カザフスタン外務省国際安全保障局のカイラト・サルジャーノフ局長は、この作業文書を踏まえて第6条と第7条の重要性を強調するとともに、キリバス政府、核時代平和財団、SGIに対して、この意義ある関連行事を共催してくれたことに謝意を述べた。

SGIを代表したのは創価学会の寺崎広嗣副会長である。この関連行事には、核禁条約第1回締約国会議に参加するために日本から来訪していた戸田記念国際平和研究所の迫本秀樹事務局長と公明党核廃絶推進委員会の浜田昌良委員長の姿があった。

Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai (Left) meeting with  Mukhtar Tleuberdi, Foreign Minister of Kazakhstan (Left) just before the side-event./ Photo by Katsuhiro Asagiri
Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai (Left) meeting with Mukhtar Tleuberdi, Foreign Minister of Kazakhstan (Right) just before the side-event./ Photo by Katsuhiro Asagiri,Multimedia Director of INPS Japan

寺崎副会長は、第1回締約国会議におけるサイドイベントの共催団体に加わることができたのは大変光栄なことだと述べた上で、テーマとなっている第6条と第7条は、核禁条約の普遍的価値を象徴しているものだと強調した。この関連行事の直前、カザフスタンのムフタル・トレウベルディ副首相兼外相は、核なき世界に向けた平和運動におけるSGIの役割に感謝を述べていた。

人間の尊厳の尊重」を高く掲げるSGIは、核廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際パートナーとして核廃絶に向けた活動に積極的に取り組んできた。SGIの核廃絶運動の原点は、1958年に、戸田城聖創価学会第2代会長が横浜で5万人の若者の前で行った原水爆禁止宣言に遡る。戸田会長はこの宣言で、人類の生存権を脅かす核兵器は、人間の心の最も荒んだ部分を体現していると非難し、創価学会の青年達に核兵器廃絶への挑戦を呼び掛けた。

創価学会青年部会は2017年、『広島・長崎:私たちは決して忘れない』を出版した(PDF版はこちらからダウンロード可能)。1945年8月6日と9日に広島と長崎に投下された原爆被災を生き抜いたヒバクシャ50人以上が、投下直後に体験した悪夢のような日々と地獄のような惨状について語っている。

創価学会は世界に1200万人以上のメンバーを擁する地域社会に根差した仏教団体で、生命の尊厳の尊重を基盤とした平和・文化・教育を促進している。非政府組織としての創価学会インタナショナルは、1983年以来、国連経済社会理事会(ECOSOC)において協議資格を有している。また、国連におけるSGI活動拠点としてニューヨークとジュネーブに国連連絡事務所を運営している。

またこの関連行事では、核兵器実験による被害者らも痛烈な被爆体験を証言した。旧ソビエト連邦時代、モスクワの中央政府は、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場(四国の面積にほぼ等しい)で456回の核実験を1949年から89年の40年間に亘って繰り返した。今回、IDNの取材にも応じてくれた、芸術家であり核不拡散問題に関する活動家でもあるカリプベク・クユコフ氏も、核爆発実験がもたらした恐ろしい結果について、自らの経験を証言した。

Karipbek Kuyukov(2nd from left) and Dmitriy Vesselov(2nd from right)/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Karipbek Kuyukov(2nd from left) and Dmitriy Vesselov(2nd from right)/ Photo by Katsuhiro Asagiri,Multimedia Director of INPS Japan

クユコフ氏は両腕が欠損した状態で生まれたが、核実験場から遠くないカザフスタン中央部の彼の村で母親の胎内で被爆したことが原因だと考えている。「アトム〈ATOM(廃止する=Abolish、実験=Test、私たちの使命=Our Mission)プロジェクト」の名誉大使でもあるクユコフ氏は、当時キノコ雲型の爆発を頻繁に目撃したこと、その際家の中の家具が激しく揺れていたこと、地元の人たちは口の中で鉄のような味がしていたこと、頭痛があったこと、歯や髪が抜け落ちていたことなどについて語った。また、死んだ鳥が道端に落ちていたり、毛が抜け落ちた犬が歩き回っていたりしたこと、さらには、頭や足がない状態の動物が生まれ、奇形となって生まれた子供たちは1年にも満たずに亡くなってしまうことが多かったと証言した。

クユコフ氏は、「放射線の影響は一見しただけでは分かりませんが、体内に急速に侵入してきます。その破壊的な帰結は次の世代に受け継がれてしまうのです。」と述べ、遺伝的に新たな世代までも殺してしまう核兵器の致命的な影響について指摘した。

核実験の被曝二世であるカザフスタンのディミトリ・ヴェセロフ氏は、医師から自分の子供たちにまで被爆の影響があるかどうかは断定できないと告げられ、子供を作らない決断をしたことが、自身の人生における最もつらい体験だったと語った。

ハーバード大学ロースクール国際人権クリニック講師で、「武力紛争と民間人保護」研究の共同代表であるボニー・ドチャーテイ氏は、核禁条約第6条(被害者に対する援助及び環境の修復)と第7条(国際的な協力及び援助)に焦点をあてた。例えば、被害者援助の要素としては、医療や社会復帰、心理学的な支援、社会的・経済的包摂、被害の認知、被害者の人権の促進が含まれるが、それに限られるわけではない。現在被爆者らが提起している最大の問題は、無料の医療サービスがないことに加えて、一時的支援すら存在しないことである。

「各締約国は、核兵器の使用又は実験により影響を受けた自国の管轄の下にある個人について、適用可能な国際人道法及び国際人権法に従い、年齢及び性別に配慮した援助(医療、リハビリテーション及び心理的な支援を含む)を適切に提供し、並びにこれらの者が社会的及び経済的に包容されるようにする義務があります。」とドチャーテイ氏は語った。

「誤った兵器を取り扱える適切な手など存在しない。」

カザフスタンとキリバスは、核禁条約第1回締約国会議の議長国であるオーストリア政府からの要請に基づいて、専門家や市民社会と協力して核禁条約第6条・7条の履行と促進を提案する作業文書の起草し、この関連行事を経て提出した。締約国の取組みは、あらゆる種類の被害者援助、物質的・心理的・金銭的補償に対して振り向けられねばならないとしている。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri,Multimedia Director of INPS Japan

オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク外相は、核禁条約第1回締約国会議の開会式の辞で、「核のリスクがこの数十年で最も高まっており、だからこそ適切な教訓をここから導き出す責任があります。」と訴えた。

シャレンベルク外相はまた、「今は(核禁条約の発効を)祝っている時ではありません。欧州に再び戦争が戻ってきました。この侵略戦争の衝撃は世界中に伝わっています。しかし、それのみならず、ロシアによるウクライナへの残酷な侵略には、核兵器の使用という明確な脅迫も伴っているのです。これは露骨な核の脅迫です。国連憲章の明確な違反であり、完全に無責任であり、まったく容認できません。」とロシアを批判した上で、「ロシアの行為は一つの真実に光を当てることになりました。すなわち、この恐るべき兵器が存在しつづける限り、人類すべてにとって脅威であり続けるということです。」と警告した。

Side-event at the margins of the 1st meeting of state Parties to the TPNW/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Side-event at the margins of the 1st meeting of state Parties to the TPNW titled, “Addressing victim assistance, environmental remediation, and international cooperation in accordance with the TPNW”/ Photo by Katsuhiro Asagiri,Multimedia Director of INPS Japan

シャレンベルク外相は、コフィ・アナン元国連事務総長の言葉「誤った兵器を扱う正しい手など存在しない。」を引用したうえで、「核兵器の保有は正当化できるという主張に対抗しなければなりません。核兵器が人間にもたらすリスクや帰結を考えれば全く容認できるものではありません。」と語った。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長はビデオでの声明で、生命の問題は全ての人の問題なのだから、核軍縮はあらゆる人々の問題であると指摘した。「この連帯に加わることによってのみ、この凄惨な兵器を廃絶することができ、より平和で、信頼に満ちた世界を構築することができる。核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。」と呼びかけた。(原文へ

INPS Japan

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6月20日、核兵器禁止条約の第1回締約国会議(21~23日)を前に開催された「第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議」において、レベッカ・ジョンソン博士にインタビューした映像。18日~19日にかけて世界各地から活動家らが集まったICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)主催の市民社会フオーラムにおける協議内容を振り返り、締約国会議への期待と、核のない世界の実現に向けて、これから運動を継承していく若い世代に対するメッセージを語っていただいた。(INPS Japan 浅霧勝浩

【ウイーンIDN=レベッカ・ジョンソン

今回ウィーンで開催されたICAN市民社会フォーラムでは、広島と長崎の被爆者をはじめ、南太平洋や、カザフスタン、米国等核実験が行われてた様々な地域の被爆者の証言にまずは耳を傾けました。また、アフリカのコンゴにようにウラン採掘に伴って今も被爆が起こっている現地からの声にも耳を傾けました。

このように軍・産・核という軍事主義的な繋がりが進行しており、私たち人類にどのような被害をもたらすのかが明らかになりました。

今日の「核兵器の人道的影響に関する会議」で、祖母が被爆した日本の被曝三世からの証言にもあったように、女性や少女が男性と比較して、その生物的特性から放射線の影響を圧倒的に受けやすいことも分かっています。

Dr Rebecca Johnson, executive director of the Acronym Institute for Disarmament Diplomacy and founding president of the International Campaign to Abolish Nuclear Weapons (ICAN, 2017 Nobel Peace Laureate) Credit: Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS/President of INPS Japan.
2022 Vienna ICAN Civil Society Forum/  photo by Katsuhiro Asagiri
2022 Vienna ICAN Civil Society Forum/ photo by Katsuhiro Asagiri

私たちは核兵器に汚名を着せ、禁止し、廃絶することが不可欠であることを、核兵器禁止条約(TPNW)が発効した今、これを履行することが不可欠です。また、ICANフォーラムでは、気候変動による絶滅の危機をくいとめようと懸命に取り組んでいる若者達の話を聞きました。化石燃料による軍事的貢献と、工業化による気候破壊は、核兵器による破壊と密接に関係していることを理解しなければなりません。そしてこれらのことは、核の冬や気候温暖化と相互に関連しており、極端な気象現象として既に顕在化し、最も弱い立場の人々を破壊し、飢餓の原因となっています。こうした全ての事態が、ロシアがウクライナ侵攻後の数日後に核兵器の使用を威嚇する中で進行しているのです。

また、ICAN市民社会フォーラムでは、9つの核兵器国と、日本を含む一部の同盟国の問題について話し合いました。これらの国々は核兵器を保有すること、或いは同盟を通じて核兵器にアクセスできることが抑止力になるという幻想を抱いています。しかし、米国、英国、フランスが欧州で核兵器を保有するNATO加盟国であるという事実をもってしても、ウラジーミル・プーチン氏のウクライナ侵攻を阻止することができなかったことから明らかなように、核抑止理論は既に破綻しているのです。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

プーチン氏はロシアの核がNATOを抑止する能力があると考え、侵攻に踏み切った。しかし私たちは、これが世界の安全保障を確保する方法ではないことを示さねばありません。しかしそれ以上に、プーチン氏は英国のトニー・ブレア氏がかつてしたことと同じことをしたのです。ブレア氏は回想録のなかで触れていますが、プーチン氏や(イラクに侵攻した)2003年当時のブレア氏のような核武装国の指導者は、核兵器を持たない国に対しても、侵略的な戦争を行う行動の自由が得られると信じているのです。彼らは軍事侵攻は法的には何の影響もないと信じていたのです。

このようにICAN市民フォーラムでは、世界から集まった多様な背景を持つ老若男女が、様々な方法でこれらの問題について話し合いました。

異なる国、宗教、政治体制下で暮らす私たち一人一人が、「核兵器は国際法で禁止された」しかし「依然として多くの国々がこの条約に署名していない」現状を踏まえて、いかにして核なき世界の実現に向けて前進を図っていくかを協議したのです。

私は20代の頃、英国のグリーナムコモンズで、各巡航ミサイルの欧州配備を阻止する運動に加わって以来、長年反核運動に携わってきました。配備阻止は、1987年の中距離核戦力全廃条約(INF条約)で実現したのを皮切りに、その後市民社会は各国政府と協力して包括的核実験禁止条約の採択まで漕ぎつけました。その時私は、核兵器を禁止する多国間条約を締結するための第一歩として、核兵器自体を禁止することができれば、それを実現しようと考えました。TPNWは、全ての核兵器を廃絶し、廃絶を確認する方法・原則を打ち立てたものです。

Greenham Common women's protest 1982, gathering around the base, near to Greenham, West Berkshire, Great Britain./ By ceridwen, CC BY-SA 2.0
Greenham Common women’s protest 1982, gathering around the base, near to Greenham, West Berkshire, Great Britain./ By ceridwen, CC BY-SA 2.0

またTPNWは私にとってライフワークの結集でもあります。今回のフォーラムでこの条約を前進させるために多くの若者が世界から集まっているのを目の当たりにして、大変頼もしく思っています。

そこで皆さんにお伝えしたいことがあります。

核廃絶を希求する皆さんのお気持ちの根底には、各々が信じる信条や信仰があると思います。是非、各々の信仰に従って祈ってください。そして、それを行動に移してください。各々の信心の伝統や、信仰を行動や他者との協力に結びつけるスピリットの力(霊性)に相当する考え方には様々なものがありますが、方法は様々でも、核廃絶を実現するために、団結して共に行動することが重要です。

各々の国で、同じ人間として老若男女が、各々の信仰・信条に従って、TPNWが謳う核兵器の禁止のみならず、手遅れとなる前に、自国の政府をこの条約に加盟させて、条約を履行するために、全身全霊を傾けていくべきです。

そうでなければ、核兵器や気候変動によって、私たちの子どもたちは、私たちが望むような安全で持続可能な平和な未来を迎えられないからです。私たちの子どもたち、そしてその子供たちに、平和で持続可能な未来を与えるために、私と一緒に行動してください。

INPS Japan

Credit: Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS/ President of INPS Japan.

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【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン

8月の核不拡散条約第10回再検討会議を前にして、モンゴルの首都ウランバートルで非核兵器地帯の課題と今後に関して意見を交換するNGO会議が開かれた。非核兵器地帯は、不拡散と核軍縮に資する非核兵器国の重要な実践的、地域的措置として認識されているものである。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

核兵器の脅威とその拡散を予防する最も効果的な方法は核兵器の廃絶であるという意見で参加者らは一致した。核兵器禁止条約の発効は、核兵器をさらに非正当化し、核兵器廃絶に向けたグローバルな規範を強化する法的枠組みを提供するものであるという見解を参加者は強調した。しかし、それだけでは不十分だ。今日の急速に変化する地政学的な情勢の下で、非核兵器地帯はより大きく、より積極的な役割を果たす必要がある。非核兵器地帯の概念と実践は巨大かつ建設的な可能性を秘めているからだ。

現在、海底と南極、宇宙空間は居住人口のない非核兵器地帯とされている。また、居住地域には、ラテンアメリカ及びカリブ地域、南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸全体、中央アジアの5カ所に非核兵器地帯がある。116の国と8400万平方キロメートルが含まれ、これは世界の人口の39%と国連加盟国の60%を占める。これらの地域的地帯は旧来型の非核兵器地帯であり、これとは別に、モンゴルが一国で非核兵器地位を認められている。

旧来型の非核兵器地帯の数が増えれば、その集団的な存在感は重みを増し、核兵器なき世界を確立するという目的にさらに資するものとなるだろう。非核兵器地帯の信頼性を高めより効果的なものにするために、5つの法律上の核兵器国全てが非核兵器地帯の議定書に速やかに署名・批准し、非核兵器地帯の地位に影響を与える留保あるいは単独での解釈を取り下げる必要がある。従属的な領域に対する国際的責任を負っている国家は、その責任が非核兵器地帯やその領域の住民の正当な利益に影響を与えることのないようにする必要がある。

ウランバートル会議の参加者らは、非核兵器地帯の役割を検討するにあたって、現在の非核兵器地帯概念の主要な弱点の一つは、個別の国家が非核兵器地帯を確立することを排除しているNPT第7条の規定【1】と、このNPTのアプローチを反映して国連総会が1975年の決議3472(XXX)で提示している非核兵器地帯の定義に関連していると考えた。この定義によれば、非核兵器地帯は「関連する地域の諸国家間の自由意思による取決めを基礎として」確立される必要があるとされている【2】。

こうしたアプローチでは、こうした地域的地帯の一部に個別国家が加わることが排除されてしまう。もちろん、1975年の「非核兵器地帯のあらゆる側面に関する包括的研究」では、こうした地帯は一群の国家によってのみならず、大陸全体、さらには個別国家によって確立され得ることを確認しているのであるが。今日、このことは単に学術的な意味合いを持つだけではなく、より広範な実践的、地政学的な意味あいを持っている。総じて見るならば、これらの個別国家及びその主権の及ぶ領域は、中央アジア及び東南アジアの国々とその主権の及ぶ領域をはるかに凌駕しているのである。

さらに、集団的アプローチのみで事に当たることは、国連憲章に盛り込まれた主権国家平等の精神そのものや、安全保障への権利を含めた国際法の基本原則にも背くことになる。この問題については、国際司法裁判所の勧告的意見をこの件に関して求めることもできよう。非核兵器地帯の定義にあたって、先の国連総会決議は、「非核兵器地帯の特定の事例に関して採択された、あるいは今後採択されるかもしれない国連総会決議、あるいは、そうした決議から生じる国連加盟国の権利を損なうものではない」と認めているのである【3】。その決議が、一部の反対票と一部の棄権票を含む投票によって採択されたのも不思議ではない。

Nayarit Conference in Mexico/ICAN
Nayarit Conference in Mexico/ICAN

現在検討の対象になっているのは、中東において非核・非大量破壊兵器を創設することである。北東アジアや北極に非核兵器地帯を創設することに関する非公式な意見交換も進められている。しかし、地理的な位置の問題や、政治的あるいは法的理由のために、こうした集団、すなわち旧来型の地帯の一部とはなることができない数多くの小規模国家が存在する。こうした「弱い部分」が加われば、非核兵器世界が強力になることを我々はみな認識している。

こうして、時代遅れの非核兵器地帯の定義を見直し、これらの非核兵器国の非核世界への参加を排除しないようにしなくてはならない。そうでなければ、政治的な空白と国際法の抜け穴が作りだされ、対立する核兵器国家がそれを利用して地政学的なアドバンテージを得ようとすることになるだろう。その結果として、急速に変化するこの世界で、空間と時間という要素が決定的ではないにせよ重要な戦略的要素になりつつあるこの時代において、特定の地域だけではなくより広い世界が不安定化することになる。

地理的な位置を理由に一部の非核兵器国を排除すれば、多数の国々だけが国際法で守られ、その他がそこから弾かれるというかたちで、非核兵器国間に分断を生むだけの結果に終わるだろう。したがって、第二の研究、この場合は、非核兵器地帯のあらゆる側面における真に包括的な研究がなされる必要がある。これは、ウランバートル会議で採択された声明で指摘されているように、非核兵器地帯のさらなる拡大を容認するようなアプローチを採り、さらに包摂的なものでなければならない。

Map of Mongolia
Map of Mongolia

モンゴルが2013年に提案したこの第二の研究は、この40年で積み重ねられた国家実践、豊かな経験、教訓に依拠して、第二世代の地帯の協議において有益なものとすることができるだろう。そのことによって、非核兵器地帯制度を弱める法的・政治的空白や抜け穴を埋めることができる。

第二の研究は、関心を寄せるすべてに国家によってなされ、すでに述べたように、非核兵器地帯に関連を持つ核五大国によって無条件に提供される安全の保証や、事実上の核保有国[訳注:NPTの核兵器国ではないインド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮のこと]の役割を含むものでなくてはならない。また、一国非核兵器地帯の問題を取り上げ、旧来型の非核兵器地帯に入っていない非核兵器国に対して核五大国が一国非核地位を尊重し、その地位に違反するような行為に及ぶことがないとの保証(いわゆる安全の保証)を与えるべきであろう。

非核兵器地帯に関する第二の研究を行うとの合意がNPT再検討会議でなされれば、NPT体制へのさらなる強化に向けた非核兵器国の実践的な貢献となるだろう。次回のNPT再検討会議は、会議の議題に盛り込まれたその他の問題と並んで、この点の履行について再検討することもできよう。(原文へ

【注】

1.非核兵器地帯に関連したNPT第7条は「この条約のいかなる規定も(中略)地域的な条約を締結する権利に対し、影響を及ぼすものではない」と規定しており、これは現在の国際関係や国際法の規範を容認したものである。しかし、問題は、非核兵器世界への移行にあたってこれで十分なのかどうかということだ。

2.国連決議3472(XXX)号(1975年12月11日)

3.同上

INPS Japan

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【ウィーンIDN=ムフタル・トレウベルディ】

核兵器禁止条約第1回締約国会合は、完全な核軍縮という普遍的な目標を推進するための10年近くに及ぶ集団的な取り組みの結果、驚くべき歴史的な成果を収めたものであります。

私たちは、この会議が、一般的かつ完全な核軍縮の問題に関して共通の基盤を見出すという深いコミットメントと政治的意思に突き動かされて、望ましい成果を生むものと確信しています。

Mukhtar Tileuberdi, Deputy Prime Minister and Foreign Minister of Kazakhstan addressing High-level Session of the First Meeting of the States Parties (MSP) to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW). Credit: Katsuhiro Asagiri, IDN-INPS Multimedia Director

カザフスタンは、核兵器禁止(核禁)条約の起草及び採択プロセスの全ての段階に積極的に関与し、条約に初めて署名・批准した国の一つとなりました。核禁条約は、「核兵器なき世界」に向けたより具体的な行動を求める声がますます強くなっていることの証左であります。冷戦の最も暗い時期以来、核兵器による交戦のリスクが最大限に高まっている現在の危機的な状況にあって、こうした意志は特に重要性を帯びています。したがって、核禁条約は、こうした懸念を表明し、解決策を見出すための重要なプラットフォームとならなければなりません。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

カザフスタンがこの条約に参加することを決めたのは、政治的な理由だけでなく、核軍縮に対する長年のコミットメントによるものであります。カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は、「核兵器のない世界」を実現することは、カザフスタン国民のアイデンティティーの重要な一部であり、核兵器廃絶に向けた世界の運動の先頭に立つという道徳的権利を与えてくれていると述べています。私たちは、ソ連の核兵器開発計画の破壊的な遺産に苦しめられた過去の世代に負う人道的義務から力を得ているのです。

このような背景から、核兵器の影響を受けたコミュニティーの代表者たちが、何としても避けねばならない核の悪夢の証人として、カザフスタン共催のものを含むサイドイベントに参加していることを心から歓迎します。

核軍縮への強力な政治的障害が存在するこの時にあって、被害者支援と環境修復に関する条約の積極的な義務の履行に焦点を当てることが、核禁条約の目的を促進させる将来性のある道筋を提供していることに強く賛同するものであります。

Side-event at the margins of the 1st meeting of state Parties to the TPNW

核爆発による被害者支援と環境修復のための道徳的要請を促進し、このテーマについてより幅広い議論を確保するため、カザフスタンはこの会議に合わせて、キリバス共和国創価学会インタナショナル核時代平和財団と共に、核実験の被害者の二世、三世が参加するサイドイベントを開催します。また、カザフスタンの核の遺産に関する展示会への参加も歓迎いたします。

カザフスタンは、2つの核保有国(ロシアと中国)に挟まれた北半球に中央アジア非核兵器地帯を設定したセミパラチンスク(セメイ)条約の創設国の一つでもあります。核兵器のない地帯を地球上に押し広げるために、私たちは、国連事務総長の「軍縮アジェンダ」第5項にあるように、既存の非核兵器地帯間における協力を促進することが特に重要だと考えています。

カザフスタンは、来たる第77回国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障問題)の議長国として最大限の努力をしてまいります。軍縮の問題に並んで、世界の成長と発展に影響を与える、グローバルな問題と平和への脅威についても、重要な協議を促進してまいる所存です。

核禁条約の締約国及び署名国は、その準備プロセスでの議論において、非常に高いレベルの一致と連帯を示してまいりました。私は、この協力の精神が、今後条約の加盟国が増える中でも、強化されるであろうことに自信を持っております。このことは、全ての人々にとっての、公正かつ包摂的、透明なプロセスの構築への道を開くものでありましょう。

この点において、私は、今日の会合にオブザーバー参加があることを歓迎し、将来的にはそうした参加がさらに増えることを強く信じております。

私たちは、他の軍縮条約の経験に基づき、核兵器禁止条約の普遍化に向けて協働していかねばなりません。このプロセスにおいて、私たちは、積極的な役割と発想力をもった市民社会、学術界、若者の支援を求めることができます。このことは、今年8月の第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議、そしてその後に向けて、特に重要であります。

私たちはまた、核兵器計画の廃絶に向けた期限を決定する上で、核禁条約の規定を履行するという今会合の決定を歓迎いたします。この目的のために、私たちは、全ての核兵器計画の永遠かつ不可逆的な廃絶を検証することを任務とした適切な国際制度枠組みを確立する必要があります。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri

この会合の議題を成功裏に達成するための皆さま方の取り組みに対する我が国の完全なる支持をここで改めて表明させてください。

また、第2回締約国会合の議長国にメキシコが選出されたことをお喜び申し上げます。私は、メキシコが次のステップを導くにあたり、我が国の全面的な支援を約束し、第3回締約国会議の議長職を引き受ける用意があることを確認し、全ての義務を果たすために最善を尽くすことを誓います。

カザフスタンは、このフォーラムに対して、そして、我々が長らく求めてきた核兵器なき世界に向けて貢献することをここにお約束いたします。(原文へ

*カザフスタンのムフタル・トレウベルディ副首相・外相が2022年1月6月21日の核兵器禁止条約第1回締約国会合ハイレベル開会セッションにおいて行ったスピーチ内容。

INPS Japan

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