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欧・米の“ダブルスタンダード”

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ 】

現在、ウクライナ戦争の賛否の理由を論じたり、あるいはこの戦争の惨状を歴史的な論拠で説明するために、歴史になぞらえたアナロジーが非常によく用いられている。そこには、アドルフ・ヒトラーとウラジーミル・プーチンを同一視するなど、まったく当てにならないものがある。また、ウクライナ東部の「ジェノサイド」を主張するプーチン大統領の言動のように荒唐無稽なもの、あるいは「ファシストとネオナチからなるキーウの政権」や非ナチ化の必要性といったプーチン発言のようにプロパガンダを目的とするものもある。また、この残虐な戦争への激しい怒りを考えれば無理もないが、場違いとも言える歴史的比較もある。例えばヴォロディミル・ゼレンスキー大統領がイスラエル国会で演説した際、ホロコーストを引き合いに出したことである。この比較は、ホロコーストの恐怖を矮小化するものだ。(原文へ 

歴史的アナロジーを用いることは方向付けの枠組みを提供することができる。しかし、歴史に基づく道徳的見解を用いて主張を行うのであれば、一貫性をもって用いるべきである。ロシアの攻撃による国際法違反は非難されて当然あり、爆撃され、包囲されたウクライナの都市で現在行われている戦争犯罪を正当化するものは何もない。そうではあるが、現在西側で主流となっている「諸悪の根源」はクレムリンにあるという言説は、一方的であるのも事実だ。たとえ、チェチェンやシリア内戦でのプーチンのやり方がウクライナ戦争の指針になっていると見なせるとしてもである。国際法違反は、プーチンのような独裁者だけに限ったものではない。1999年にNATOがコソボで行った戦争、2003年に米国が主導したイラク侵攻も、明らかな国際法違反であった。これらの戦争の前、最中、後に強調された理由は、信用できる弁明として認めることはできない。バルカン半島の戦争で、ジェノサイドは避けられるはずだった。イラクでは、大量破壊兵器の存在という虚偽の主張が意図的になされた。

プーチン大統領が現在、ウクライナにおける自身の犯罪を正当化するために、まさしくこれらの歴史的アナロジーを用いているのは驚くべきことではない。民主主義国家が、法の支配、自由、人権という価値観を強く主張し、力説し続けることは重要であり、必要である。しかし、単にプーチンの行動を特異かつ許しがたい国際法違反として批判するだけで、これら民主主義社会による過去の悪行、過ち、罪を無視することは傲慢であるだけでなく、ダブルスタンダードの利用である。長らく米国の「裏庭」と評されてきた南アメリカへの米国の干渉を、誰が国際法違反として数えただろうか? それは過去に限った話ではない。米国は20年間にわたり、そして今も、キューバのグアンタナモ収容所を維持している。現在でも、真っ当な法的手続きを経ることなく囚人たちは抑留されている。その多くは、テロ関与疑惑に関する自白を引き出すための拷問を受けた。

今回のウクライナ戦争では、悲惨な状況の一方でポジティブな面も見られる。例えば、苦しむウクライナ国民に西側諸国が積極的に支援を提供していることだ。しかし、ここにもダブルスタンダードが見られる。ウクライナ国民の約4分の1に相当する1000万人近い人々が国内避難し、あるいはEUとの国境を越えようとしてこれまでにほぼ400万人の難民が生まれているのを見るのは極めて辛いことだ。市民社会や欧州諸国政府の取り組みは、感動的で称賛に値する。難民の融合に関する官僚的手続きは、組織の署名ひとつで速やかに取り除かれた。最初の3カ月間、難民は登録する必要すらなかった。人々は、自宅に難民を迎え入れた。ウクライナ人の移動を円滑にするため、公共交通機関は無料で利用できる。外国の都市に到着してわずか数日後には、ウクライナ人の子どものために学校が開設された。欧州市民として、われわれは誇りを持ってよい。

しかし、EU諸国における難民の扱いというとダブルスタンダードがあることは、白日の下に明らかである。アフガニスタン、シリア、エチオピア、ソマリアからの難民たちにはどうしたのか? 彼らが欧州社会に溶け込むことは、長年にわたり制度的に阻まれてきた。これまでEUは協調的な難民収容政策について頻繁に議論してきたが、成果は出ていない。皮肉なことに、現在ウクライナからの大量の難民を受け入れている国々は、これまでEUの難民収容政策を断固として拒否し、阻止してきた。筆頭はポーランドであるが、バルト諸国、スロベニア、ハンガリー、オーストリア、ルーマニアもそうである。ブリュッセルでは、非常に短期間のうちにウクライナ危機に対応するための財源が用意されたが、ウクライナ戦争の前は、EUの政策は常に論争をもたらし、難民に犠牲を強いるものだった。EU諸国の内務相たちは、各国からの難民の受け入れ割り当てをめぐって押し問答をしていた。一部の国の政府は、一人の難民を受け入れることすら断固として拒んだ。

中東とアフリカ東部の戦闘地帯から逃れてきた難民たちは、冬の間中、ベラルーシとポーランドの国境の間で立ち往生していた。彼らは、いまなおそこで暮らしている。いや、何の展望もなくそこでじっと過ごすことを強いられている。進むことも退くこともない。欧州のわれわれが、ロシアの天然ガスが手に入らなくなったら次の冬は暖房の温度を下げないといけないだろうかと思案している間も、この国境地帯では子どもが凍死している。また、ポーランドが国境のフェンスを乗り越えられないように強化しても、欧州は見て見ぬふりをしている。できるだけ多くの難民を追い払う「要塞ヨーロッパ」が、ウクライナ戦争勃発まで欧州のモットーだったのである。

同様の運命が、ギリシャのレスボス島にも当てはまる。島では多くの難民が、変化を見通せないまま何年間も悲惨な状況に耐え続けている。ドイツの日刊紙「南ドイツ新聞」による最近の報告では、ギリシャの状況が次のように記されている。「カラテペ・ビーチにある現在の『暫定キャンプ』の状況は、2020年9月に焼失したかつてのモリア・キャンプほど非近代的というわけではないかもしれないが、相変わらず、食事は食べられるようなものではないし、シャワーの水は冷たく、仮設トイレは汚れており、ネズミは猫が逃げ出すほど大きい」

いまや世界中で称賛されている「歓迎する文化」(「ヴィルコメンスクルトゥーア」、なんと素晴らしいドイツ語だろう)は、これらの難民には適用されなかった。EUの国境警備機関であるFRONTEXによるいわゆる「押し戻し」は、これまでのところ罰せられていない。FRONTEXは、庇護を求める人々をゴムボートごと海に引きずり戻し、ボートに乗った人々の命を顧みず、運命のなすがままにすることによって、国際人道法に常に繰り返し違反し続けている。一方ではアフガニスタン人、エチオピア人、エリトリア人、シリア人と、他方でウクライナ人との間に、何の違いがあるのか? 宗教か? あるいは肌の色か? ウクライナから脱出したアフリカ人やアジア人の学生たちが国境を越えるのに苦労したという事実も欧州における人種差別の醜い一面を浮き彫りにしている。いまや欧州には、ファーストクラスの難民とセカンドクラスの難民がいるというわけなのである。

確かに、民主主義国はその価値を誇りにしてよい。人間性、自由、言論の自由、人権の重視は不可欠である。しかし、ダブルスタンダードを用いるのはやめにしよう。確かに、戦争犯罪は責任を問われなければならない。しかし、法の支配は普遍的である。そして、まさしく法に基づく国際秩序を力説する人々こそ、自らもそのルールを厳格に守るべきである。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。2002年から2007年まで国連開発計画(UNDP)平壌事務所の軍縮問題担当チーフ・テクニカル・アドバイザーを務め、数回にわたり北朝鮮を訪問した。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

古代ギリシャの偉大な学者プラトンは、貧富の差は1対4の比率を越えてはならないと語った。18世紀には、「社会契約」の概念を生み出した著名な作家ジャン=ジャック・ルソーが、私有財産の発明と過度の蓄財が民族間の大きな不和の起源であると主張した。

Portrait of Jean-Jacques Rousseau (1712–1778)/ Public Domain
Portrait of Jean-Jacques Rousseau (1712–1778)/ Public Domain

ルソーはまた、ギリシャ都市国家の衰退とともに失われた民主主義への回帰をいち早く提唱した。彼は、同時代のささやかな改革を「鉄の鎖に沿う花綱」のようにとらえていた。彼はフランス革命の10年前に亡くなったが、フランス革命の指導者たちからは称賛された。

この20年間、私たちは中国とインドを筆頭に、世界各地で貧困が大幅に減少しているのを目の当たりにしてきた。一方、ここ数十年の間に、歴史上類を見ない現象が起きている。上流階級の富裕層が驚くべきスピードで富を獲得し、世界の不平等をさらに拡大させている。今日、一部の億万長者は国家よりも裕福である。

オックスファムによると、世界の富豪のうち8人は、世界の最貧困層の半分と同じ富を所有している。最も裕福な22人の男性は、アフリカ大陸に暮らす全女性よりも多くの富を持っている。新型コロナウイルス感染症が出現して以来、世界の富豪の富は2倍になった。

資本主義システムの中で、強力な個人がこれまで以上に財政的、事業的に自立している今日、状況は不公平なだけでなく、完全に搾取されているように見える。ここ数カ月、ロシアのオリガルヒのメガヨットが差し押さえられるのを見るにつけ、その格差がいかに深刻であるかを思い知らされる。

しかし、彼らは、カリブ海の島々、パナマ、英国のマン島、米国のデラウェア州、スイスやルクセンブルグの銀行に口座を持ち、税務署から財産を隠して逃げているように見える西側諸国の人々を真似しているに過ぎないのだ。

米国の独立宣言は、「生命、自由および幸福」を追求することが私達の存在の自明の理である、と述べている。初期の草案では、富を幸福に置き換えていた。哲学者や心理学者は、「幸せとは何か」についていくらでも議論できるが、常識的に考えて、自分の大きなスーパーヨットを持つことが幸せなのではない。幸せとは、心の平和、やりがいのある仕事、適度な収入、健康で教育水準の高い家庭を持つことである。

多くの国の経済学者らが行った調査によると、一人当たりの所得が7万5千ドル程度までは、貧困から脱出するにつれて幸福度が着実に上昇することが説得力を持って示されている。(これは米国での話であり、欧州を含む他の社会ではもっと低い。また、生活費にも目を向けなければならない。つまり、インドやアフリカでは、ざっと考えても2万ドル程度だろう。)この金額に達すると、幸福感はそれほど速く上昇することはなくなり、むしろ減退する傾向にある。

Photo by Nischal Masand on Unsplash
Photo by Nischal Masand on Unsplash

人間は欲張らないようにつくられている。もし、この内蔵された衝動に逆らうなら、人は刹那を追い求めることになる。もし、この不必要な富の追求が、より貧しい人々を犠牲にして行われるなら、それは悪であり、私たちは大声でそれを糾弾すべきである。

表面的には、世界において平等はあまり進展してこなかったかのように見える。しかしこれは真実の半分に過ぎない。産業革命以来、先進国の貧困層は一歩一歩、十分な栄養、改善された医療、教育、失業手当や育児などの社会的支援を実現してきた。1914年から1980年の間に、西欧諸国では所得と富の不平等が顕著に減少した。この洪水のような潮流が弱まり、実際に逆転したのはここ40年のことである。

第三世界では、貧困層が大幅に減少している。識字率の向上、純度の高い飲料水やワクチンへのアクセスとともに、子供や女性の出産時の寿命は予想を超えて伸びている。これまでに国連の諸目標は何度も超えており、このことは、経済学者や統計学者が目標を低く設定しすぎたことを示唆しているのかもしれない。

第三世界の多くの地域では、一世代以内に幸福感を実感できる生活レベルに到達しそうな勢いである。しかし、厳しい現実として、彼らが裕福になるにつれて、社会の平等性が損なわれていくだろう。そうなれば、大多数の人々が幸福感を達成できるスピードは減速することとなる。

Photo: Poverty in America Documentary 2017 on YouTube
Photo: Poverty in America Documentary 2017 on YouTube

もし、富裕層がもっと責任感を持ち、思いやりのある人間であると信じられるなら、こんなことは問題ではないだろう。ビル&メリンダ・ゲイツやウォーレン・バフェットのように、貧しい人々の状況を改善するためにお金を使うなら、私達は彼らを歓迎するか、少なくとも容認するだろう。しかし、ほとんどの富裕層はそうではないことを私たちは知っている。実際、富裕層は一般的に、つまり大金持ちだけでなく中流階級や上流階級のほとんどが、自分たちが課税されていることに憤り、課税を減らす方法を模索しているのである。米国では、共和党がここ数十年、富裕層への課税を減らすための闘いを続けている。英国では、現在の保守党主導の政府は、貧しい人々への給付を削減し、非常に裕福な有権者をさらに裕福にするために、できる限りのことをしようとしている。

これを変えられるものは何だろうか。激しい社会的闘争か戦争という妨害だけが、産業革命の夜明けから2世紀にわたるメッセージのように思われる。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

ボルシェビキの革命家たちは貴族を打倒し、歴史上初の「プロレタリア国家」を作り上げた。ソビエト国家は、教育、土地分配、公衆衛生においてかなりの進歩を遂げたと、フランスの経済学者であるトマ・ピケティは書いている。しかし、ウラジーミル・レーニンの死後、国家は利己的なヨシフ・スターリンに取り込まれた。スターリンは絶対的な権力を求め、それを恐ろしいほどまでに振りかざした。中国でも彼を模倣した毛沢東が同じような影響を与えた。

ソ連時代と毛沢東時代にほとんどのロシア人と中国人が達成した幸福度の向上は、その価値があったのだろうか。市井の老若男女にとっては、おそらくイエスだろう(ソ連時代の医療サービスは、隣の人と同じ列に並んで同じような治療を受けていた方がどれだけ良かったか、というロシアの友人の話を今でも聞くことがある)。しかし、社会をどのように統治するかについて発言権を持ちたかった人々にとっては、ノーである。

ソビエト連邦崩壊後のロシアが、その短い民主主義の実験を捨て、ウラジーミル・プーチンの準独裁政権に取って代わった今、我々は同じ結論に達するかもしれない。同様に、中国でも習近平国家主席の支配力が強くなり、20年間開放を続けてきたこれまでの自由と表現の自由への動きが抑制されている。それでも、「中国は深刻な貧困を解消した」という習近平の主張は、おそらく事実だろう。

Photo: Women assembling tea. Credit: Kizito Makoye.
Photo: Women assembling tea. Credit: Kizito Makoye.

ボルシェビキ革命の良かった点は、西側民主主義国家に与えた影響である。共産主義が進み、広がることへの恐怖から、保守派も自国の貧困層の窮状を何とかしなければと思うようになった。そして、福祉国家へのゆっくりとした歩みが始まった。財産所有者層は少しずつ、社会保障と累進所得税(後に脱植民地化と黒人やその他の少数民族の市民権)を受け入れていったのである。

不平等への波及を食い止めるために、もう一つの革命や世界大戦が必要なのだろうか。世界大戦は核兵器によるホロコーストを引き起こすだろうから、それは忘れてほしい。革命は多くの流血を引き起こすだろうが、起こる可能性は十分にある。先週、フィナンシャル・タイムズ紙は、米国が保守派とリベラル派の間で新たな激しい内戦に突入していると真剣に主張する3冊の本を紹介した。

もし人々が、中でもプラトン、イエス・キリスト、ムハンマド、仏陀の教えをもっと真剣に受け止めていれば、このような事態は避けられたはずだ。しかし、それは大きな望みである。(原文へ

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助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(4)マリーナ・クリソフ(Studio 3/4共同経営者)

【エルサレムNGE/INPS=ロマン・ヤヌシェフスキー】

*NEG=ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ

ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ
ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ

イスラエルはロシアとウクライナに対して中立を維持しようと懸命に努力してきたが、対ロシアの関係が急激に悪化したのは必然であった。それを助長したのは、「ヒトラーにもユダヤの血が流れていた」を主張したセルゲイ・ラブロフ外相のスキャンダラスなインタビューと、その後の鋭い言葉の応酬であり、最後はウラジーミル・プーチン大統領がイスラエルのナフタリ・ベネット首相に自ら謝罪することになった。

一方、一般のイスラエル人には、政府が直面していたような難しいジレンマはなかった。国民の大多数は、最初から一方的な軍事侵攻にさらされたウクライナを支持していた。

さらにロシアが主張する残忍な「特別軍事作戦」は、イスラエルに新しい現象を生み出した。ロシア語を話す人々だけでなく、多数のイスラエル人が、ウクライナ人の苦しみを目の当たりにして、彼らを助けなければならないと痛感したのである。その結果、多くの公的な取り組みやボランティアプロジェクト、人道的な支援金集めが自然発生的に始動することとなった。中には、それまでボランティア活動をしたことがなかった人々が組織したものも少なくない。ロマン・ヤヌシェフスキーが、こうした支援活動に参画した人々の内、8人に話を聞いた。(今回は4人目の取材内容を掲載します)

ロマン・ヤヌコフスキー:マリーナ・クリソフさんはキーウ出身の38歳。1991年からイスラエルに暮らしており、現在はテルアビブに在住。ノンフォーマル教育の分野で、NGOのプロジェクトをはじめ、コミュニティや危険に晒されている子供達との活動に携わってきました。この12年間は、特別なニーズを持つ子ども達を対象としたインクルーシブ教育の分野で活動しています。テルアビブにある「特別な」子供とその両親のための包括的なクリエイティブスタジオ「Studio 3/4」の共同経営者でもあります。現在従事しているウクライナ人を支援する活動について聞かせてください。

マリーナ・クリソフ:ちょっと怖そうに聞こえますが、私にはこのままでは戦争が起きるという漠然とした予感がありました。進攻が始まる1カ月前にウクライナにいた私は、すべてが悪い方向に向かっているという不安を抱きながらイスラエルに戻りました。2月12日、私はキーウで特別なニーズを持つ子供を抱える知り合いの家族に、街を離れるよう働きかける活動を始めました。彼らに、イスラエルか、或いはツテがあるウクライナ西部のカルパチア山脈のある場所に招待したいと申し出たのです。しかし、反応は遅く18日になると、私はより強く脱出を勧めるようになりました。そして22日からは、連日深夜を過ぎてもウクライナ情勢を伝えるニュースを追いながら返事を待っていました。進攻が始まった日(2月24日)は、朝の4時に寝ましたが、6時半に「是非脱出したい」というキーウから電話で起こされました。

この電話を受けてその日の夜には空路現地入りすることにしました。彼らをキーウからウクライナ西部の国境まで避難させるために、何らかの体制を整えなければならない。私の知人には、特別なニーズを持つ子供を抱えた人たちがたくさんおり、こうした子供達には特別なサポートが必要になるだろうと考えていました。

特別なニーズを持つ子どもたち、特に自閉症の子どもたちについて語る場合、重要なニュアンスがあります。彼らは感覚的に特殊なところがあります。騒音や匂いや 動きに対して敏感すぎる子どもが多いのです。何時間もかけて移動し、キャンプ場では大勢の人と一緒に過ごさざるを得ないので、最初のうちはとりわけ大変です。全員がそれに対応できるわけではありません。またこうした 子供たちは様々な行動をとることがあります。みんなが同じ場所にいる必要があるとき、その子たちにとっては特に恐怖を感じるものです。なかには家から出られない子もいるし、ルートを変えられない子もいます。

戦火を逃れて移動することは誰にとっても大変なことですが、特別なニーズを持つ子供を連れての逃避行は、とりわけ様々な困難を伴うことが想像に難くありませんでした。

当初は明確な計画があったわけではありません。ところがイスラエルを出発する日、私のウクライナ行きを伝えていたイゴール・ベレゴフスキーから突然連絡があり、同じ飛行機で同行してくれると申し出てくれました。また、私の友人で、今では親友となった夫婦が、フェイスブックで「ワルシャワにいるから手伝うよ」と書き込んできたのです。こうして彼らと、避難する家族を支援する具体的なシステム作りを始めました。

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

その結果、個々の家族のニーズに応じて、まずは避難経路、給油地、移動経路の他にできるだけ安全で安心できるように、途中1・2泊できる中継地を確保、さらに国境を超える場合はどの国境を超えるのが最も適切か、越境後に最初に宿泊する場所をどこにするか、その次の具体的なステップはどうするかなど、具体的な避難システムを構築していきました。

一部の家族については知人の紹介でウクライナ国外に移住させました。20家族と共に徐々に西に移動し、ポーランドを経由して、今はドイツ東部のニースキーという街に受け入れて頂いています。ここには約60人が集まっています。現在、ここで特別なニーズを持つ子どもを持つ家族のためのコミュニティセンターを組織しています。全員をきちんとケアする必要があるため、ここには今のところ20家族(60人)しかいません。もちろん、もっと参加したいご家族もあるだろうから、受入体制を整えていきたいと思っています。

また、リモートで問い合わせてくる特別なニーズを持つ子どもがいるご家族に対しても、情報提供とアドバイスを積極的に行っています。

Russian bombing of Mariupol in March 2022/By Mvs.gov.ua, CC BY 4.0
Russian bombing of Mariupol in March 2022/By Mvs.gov.ua, CC BY 4.0

ニ―スキーではキャサリン・ウールマン町長には大変お世話になっています。彼女は、言葉だけでなく、町民と共にウクライナ難民を組織的に受入れるうえで、真摯な支援の手を差し伸べてくださっています。これには本当に助かっています。このプロジェクトはいつ終わるか分かりませんが、長くなることを覚悟する必要があります。例えば、マリウポリからの4家族とハルキウからの1家族はロシア軍に家を破壊されており、戦争が終わっても、帰る場所がない家族もいるのです。

このプロジェクトには、イスラエル人のみならず、イギリス人、ドイツ人、ロシア語を話す人々など、様々な国籍のボランティア、団体、個人の方々に協力をいただいています。

この戦争を見ていて思うことは、結局は人々の互いに対する態度が折り重なって様々な出来事が起こっているのだと思います。つまりは組織の問題ではなく、突き詰めれば人と人との関わりの問題だと思います。この活動に従事してきて、多くの素晴らしい人々に出会いました。こうした人々の善意と支援がこのボランティア活動を支える最も大きな強みになっていると確信しています。(原文へ

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イラン航空IR655便とマレーシア航空MH17便、2つの航空会社の物語とダブルスタンダード

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2022年3月21日に「Pearls and Irritations」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

1988年7月3日、イラン領海内に停泊中の米海軍艦「ヴィンセンス」が2発の地対空ミサイルを発射して、イランの旅客機を撃墜、290人の乗客乗員全員が死亡した。ヴィンセンスの艦長と乗組員は、後に勲章を授与された。ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領は、「アメリカを代表して謝罪することはない。事実がどうであれ構わない」と言い張った。(原文へ 

3月14日、ロシアがマレーシア航空MH17便撃墜に関与したとして、国際民間航空機関(ICAO)において、オーストラリアとオランダが法的措置に着手した。航空安全を担当する国連専門機関であるICAOは、国際法に違反した国に制裁を科し、犠牲者遺族への賠償金を支払うよう要求することができる。このタイミングは、当然ながらあえて狙ったものであり、それゆえに残念である。なぜならそれは、国際的な法的措置を地政学的思惑で汚すものだからである。その意味では、真実と正義の公正無私な追求というより、NATO対ロシアの長年にわたる紛争の延長戦といえる。そこには、その時々の強大国や同盟国によって国際機関が武器として使われることにより、公平な仲裁人、調停者、審判者としての信頼性が損なわれるというリスクがある。

2014年7月21日、国連安全保障理事会は、同年7月17日にウクライナのドネツク付近でMH17便が撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した事件を厳しく非難する、オーストラリアが提出した決議案を全会一致で採択した。決議第2166号は、事件に対する「完全かつ詳細な、独立した国際捜査」を呼びかけ、関与した者の責任を問うこと、全ての国が全面的に協力して責任を立証することを求めた。オーストラリアがこの厳しい決議を主導したのは、死亡者298人にオーストラリア国民28人、居住者9人が含まれていたからである。強い表現が用いられた決議は、非常に迅速に採択された。なぜなら、何百万人という一般旅行者も容易に共感できるこの悲劇に対して、悲しみと怒りで世界が団結したからである。われわれには、承認された航空路を飛行する民間航空機が撃墜されないことを期待する権利がある。

しかし、このような事件はこれが初めてではなく、従って、対応は1件の事件に関する1件の決議に留まらず、そのような悲劇が将来繰り返された場合に適応される一式の手順や合意へと発展させるべきであった。そのような悲劇に対し、同盟国、友好国、敵対国、敵国といったレンズを通して反応するのは、自由で開かれた空を支える、ルールに基づいた秩序を構築し強化することにはならない。

1983年9月1日、当時のソビエト連邦がサハリン付近で大韓航空007便を撃墜し、269人を死亡させた。米軍のスパイ機が警告信号を無視して軍事機密性の高いソ連領空に侵入したと誤認したためである。米国のロナルド・レーガン大統領は、これを「虐殺」と呼んだ。2001年10月4日、イスラエルからロシアに向けて黒海上空を飛行していたロシアの旅客機をウクライナ軍が撃墜し、78人を死亡させた。1980年代には、ソ連占領軍と戦うムジャヒディンが米国から供与されたミサイルで民間機を撃墜する事件も複数発生した。

米軍に直接非がある(撃墜した抵抗勢力にロシア軍が殺傷兵器を供与し、間接的に加担したとされるMH17便の事件とは異なり)同様の悲劇として最もよく知られているのは、テヘランからドバイに向かう毎日の定期航路を飛行中のイラン航空IR655便を撃墜した事件である。1988年7月3日、イラン領海内に停泊中の米海軍艦「ヴィンセンス」が2発の地対空ミサイルを発射して、イランの旅客機を撃墜、290人の乗客乗員全員が死亡した。ヴィンセンスの艦長と乗組員は、後に勲章を授与された。1996年に国際司法裁判所で和解に達した際、米国は「事件によって失われた人命に対する深い遺憾の意」を表明し、6,200万米ドル近い賠償金を支払うことに同意した。ワシントンは公式な謝罪を行うことを拒否し、法的責任を受け入れることはなかった。ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領は、「アメリカを代表して謝罪することはない。事実がどうであれ構わない」と言い張った。

これら全ての事件は、正真正銘の事故である。民間機と分かったうえで撃墜した故意の行為であることを示す証拠があった事例は1件もない。したがって、感情の吐露はさておき、それらをテロ行為であるとか、はては殺人である(それには意図がなければならない)とか言うのは間違っているし、何の役にも立たない。1985年6月23日にカナダ在住の「カリスタン」のテロリストが仕掛けた爆弾によってアイルランド上空で墜落したエア・インディア182便や、1988年12月21日にロッカビー上空でテロリストの爆弾によって墜落したパンアメリカン航空103便を考えれば、その違いは容易に理解できるはずだ。民間人を殺害する意図がなくても、それは犯罪であり、故殺であり、責任のある者は罪に問われなければならない。

これら早期の悲惨な事件については、独立した国際捜査が行われなかった。責任のある者が罪を問われたという話を聞くことはない。フレッド・カプランは、当時「ボストン・グローブ」紙の防衛担当記者としてIR655便を取り上げた。MH17便の悲劇が起こった後、彼は、「いくつかの点で二つの災難は類似している」と書いた。例えば、曖昧にし、ごまかし、隠そうとする傾向である。「先週の事件の後、ロシア当局者はさまざまな嘘をついて自分たちの責任をごまかそうとし、ウクライナ政府を非難した。1988年の事件の後、米国当局者は様々な嘘をつき、イラン人パイロットを非難した。」

イランは国連安全保障理事会に米国を非難するよう求めたが、却下された。しかし、2015年、安全保障理事会が「民間機を撃墜した者を罪に問うことから逃げる」とは「ありえない」とオーストラリアのジュリー・ビショップ外相は述べた。西側諸国によるものも含め、そのような全ての行為の犯罪責任を調査する独立した制度を設置することなく、決議案の提出者は何を根拠に、ロシアが自国や同盟国の犯罪行為になるかもしれない事案を審議する特別法廷に協力すると期待したのか理解に苦しむ。また、これに関連して、アムネスティ・インターナショナルがイスラエルに対する英国の武器売却をやめるよう求めたことも注目に値する。それらの武器は、MH17便の悲劇と同時期にガザ地区のパレスチナ人への攻撃に用いられたものである。国際人道法が求める均衡性と戦闘員・文民の区別は、普遍的に適用される。それは、親西側政府か反西側政府かにかかわらない。

(コロナ禍の制約を受ける前は)頻繁に空の旅をしていた者として、私の第1の重要事項は撃墜されないこと、第2は私が乗る民間機が撃墜された場合、願わくは関与した者が法的責任を問われることである。公表されている証拠の重みに応じて判断すると、MH17便を撃墜した人々は、交戦地帯において軍用機を攻撃していると信じていた。ウクライナ軍がロシア軍機と間違えて撃墜したという可能性もあることはあるが、最も可能性が高い説明はやはり、反政府勢力がウクライナ軍機と間違えてロシア製ミサイルで撃ったということになる。

また、その場所が既知の交戦地帯であった点に留意することも重要である。MH17便の悲劇が起こる前にも、高高度軍用機がミサイルにより撃墜されている。ウクライナ当局とマレーシア航空の監督者は、その空域に一切の民間機が入らないようにする注意義務を民間人の乗客に対して負っていた。実際、QANTASなど多くの航空会社は、ウクライナ東部上空を飛行して乗客の安全をリスクにさらすより、コストが高くつく迂回ルートを受け入れていた。その数カ月前に消息を絶ったMH370便の不可解な悲劇(機体はまだ発見されていない)からまだ完全に立ち直っていない時期だけに、マレーシア航空は、回避できるリスクは回避するためにことさら熱心であるべきだった。したがって、真に公平で、独立した、信頼できる国際捜査であれば、攻撃者とミサイル提供者だけでなく、マレーシア航空などの民間航空会社とウクライナ当局にも責任があったと判断するだろう。

最後に一言述べたい。全ての法と規範は、二つの中核的機能を果たす。許可と締め付けである。冷戦の勝利後の覇権の年月で米国が取ってきた行動の歴史は、グローバルな規範を他国に強制するために締め付けを実行する一方で、自身については既存の規範が許可する範囲を一方的に拡大し、どこであろうとお構いなしに介入することを正当化してきた歴史である。オーストラリアや他のアジア太平洋諸国は中国に対し、その覇権国家としての振る舞いについて同じことを気兼ねなく指摘できるだろうか? われわれのうちの無神論者であろうと、パワー移行の停止と反転を祈ったほうが身のためである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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SGIが自律型兵器の法規制を訴えるドキュメンタリー映画「インモラル・コード」を支援

兵器システムの自律性に関する新たな国際法を求める声

このプレスリリースは、創価学会インタナショナル(SGI)が2022年5月25日に発表したものであり、同団体の許可を得て再掲載しています。

【東京=共同通信JBN】

人間の生死の決断をどこまで機械に委ねる覚悟があるのか、この重要な問題を提起する23分間のドキュメンタリー映画「インモラル・コード」が、5月24日にオンライン視聴を開始した。

この映画は、人間の意思決定の複雑さと、誰を殺すかを「決定」しうる自律型兵器がもたらす危険性を巧みに問題提起している。

インモラルコードは、市民社会組織の国際ネットワーク「キラーロボット反対(SKR)」が製作したもので、視聴者に、兵器システムにおける自律性を規制する新しい国際法を求める署名活動に協力を要請している。

創価学会インタナショナル(SGI)は、2018年から「キラーロボット反対(SKR)」の国際メンバーになっている。SGI国連事務所ジュネーブ連絡所の所長で、「キラーロボット反対(SKR)」作業部会の代表であるヘイリー・ラムゼイ=ジョーンズ氏は、表現、人種、ジェンダーに関する問題について映画製作者に助言した。

ラムゼイ=ジョーンズ氏は、「AIは中立ではありません。人種差別は、設計プロセス、生産、実装のあらゆるレベルで作用し、これは有色人種のコミュニティー、特に黒人女性に関して驚くべき割合で誤認識をもたらすことが示されています。」と語った。

映画の発表会には、国会議員や学者、学生などが参加。上映後、専門家によるパネルディスカッションが行われた(ロンドン市内で)/ Soka Gakkai
映画の発表会には、国会議員や学者、学生などが参加。上映後、専門家によるパネルディスカッションが行われた(ロンドン市内で)/Seikyo Shimbun

映画「インモラル・コード」の発表会が5月19日にロンドンのレスタースクエアにあるプリンスチャールズシネマで開催され、上映後には専門家パネルが、私たちは誰もが脆弱であることと、国際的に拘束力を持つ法律が緊急に必要であることを強調した。SGIは、アムネスティ・インターナショナル、Article 36、婦人国際平和自由連盟(WILPF)と共に、この発表会を支援した。

専門家パネルに登壇した「キラーロボット反対(SKR)」自動化意思決定調査課長であるキャサリン・コノリー氏は、次のように促した。「この映画を観て、共有してください!各国は、他の兵器システムを禁止し、規制するための国際条約を締結しています。このケースでもできない理由はありません。必要なのは意志です。」

映画「インモラル・コード」は、国連において協議資格を有するNGOとしてのSGIの活動を紹介している最近開設されたウェブサイト「SGI Action for Peace」で紹介されている。

SGIはまた、核兵器を廃絶するための闘いにも取組んできており、新ウェブサイトの関連資料には、広島と長崎の原爆犠牲者自身による証言映像があり、オリジナルの日本語音声と中国語、英語、フランス語、スペイン語の字幕付きで視聴ができる。また、50人の証言を収録した書籍「Hiroshima and Nagasaki: That We Never Forget」も自由に閲覧できる

「キラーロボット反対(SKR)」は、180以上のNGOと学術パートナーからなる世界的なネットワークで、新しい国際法の開発を通じて、武力行使に対する人間の意味のあるコントロールを確保するために活動している。

創価学会インタナショナル(SGI)は、1983年以来、国連経済社会理事会(ECOSOC)において協議資格を有するNGO。創価学会は、平和、文化、教育を推進する1,200万人の多様かつ世界的な仏教コミュニティーである。(原文へ

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Immoral Code – A Film By Stop Killer Robots

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アフリカ南部でも実感されるロシア・ウクライナ戦争の影響

【ハラレ(ジンバブエ)IDN=ジェフリー・モヨ】

ジンバブエの首都ハラレに住む商店主リッチウェル・ムハシさん(34)の生活は、以前と同じようなものではなくなった。今年に入ってロシアによるウクライナ戦争が始まって以来、燃料の価格が上昇する中、自宅に車を置いて、自転車での通勤・通学に切り替えなければならなくなったのだ。

ジンバブエ国境に近い南アフリカ共和国(南ア)の街・ムシナでは、未亡人のラジウェ・ムレヤさん(43)が3人の子供と小屋で暮らしているが、調理用のガス代が払えなくなったため、薪の火に頼っているのが現状である。

南アのウィリアム・マディシャ議員は「この戦争のために失業が増え、2021~22年の国内総生産は予想よりも下がるだろう。」と語った。既に、ウクライナ紛争によって、ロシアに拠点を置く南ア企業の770億ランド(約48億ドル)相当が影響を受けている。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

ジンバブエのムハシさんや南アフリカのムレヤさんが直面している苦境も、いわば氷山の一角である。

ウクライナ紛争以前にはジンバブエで1リッターあたり約1.32ドルで売られていたガソリンは、1.64ドルにまで跳ね上がり、以前は1.29ドルだった軽油はさらに高く1.71ドルで売られている。

実際、ジンバブエ中央銀行のジョン・マングジャ総裁は、現在進行中のロシアとウクライナの武力衝突が、この国の商品やサービスの価格に影響を及ぼすと警告していた。

南アの独立系経済専門家ディングズールー・ズワネ氏は、多くのアフリカ人がさらなる苦境に備えなくてはならないと語った。

「私たち南部アフリカの国々はロシアやウクライナからの輸入にかなり依存しています。戦争のために、南アが両国から輸入する産品の生産は明らかに低下し、価格が急騰しています。」と、ズワネ氏はIDNの取材に対して語った。

「若者・地域開発プラットフォーム」(PYCD)と呼ばれる市民団体の代表を務めるジンバブエのクラリス・マドフク氏も同じ見方だ。「象どうしが戦い、草は踏みつぶされている。」

世界の小麦輸出の約4分の1をロシアとウクライナで占めており、小麦価格は戦争開始以来急騰している。ジンバブエでは3月初旬の1トン当たり595米ドルから682米ドルまで15%近く値上がりした。

ジンバブエは小麦の少なくとも半分をロシアから輸入している。

Intense Tropical Cyclone Gombe on March 10, 2022/ By NASA, Public Domain
Intense Tropical Cyclone Gombe on March 10, 2022/ By NASA, Public Domain

ロシアがウクライナに侵攻して間もない3月にサイクロン「ゴンベ」による深刻な被害を受けたモザンビークの状況はもっと深刻だ。彼らは同時に2つの難題に対処しなくてはならないのである。

「調理油がとても高価になっています。生産に必要な原料の一部がウクライナから輸入されており、戦争が輸入の動きを阻害しているからだそうです」と語るのはモザンビークのテーテ県で小売商を行っているエルナ・シノアさん(32)だ。

「モザンビークが、サイクロン『ゴンベ』が残した爪痕にあえいでいるなか、ロシアによるウクライナ戦争の影響で、このアフリカの貧しい国に物不足の危機が忍び寄っています。」と、CAREモザンビーク事務所のクリスティン・ビーズリー代表は嘆いた。

ビーズリー代表はさらに「欧州で大量に発生した難民のニーズに応えるために、支援物資がウクライナやポーランドに送られているため、ここでは布やテントといった一般的な支援物資を入手することも難しくなっています。」と語った。

CAREは、緊急支援と長期的な国際開発プロジェクトを提供する主要な国際人道支援機関である。

ザンビアやジンバブエでは、ムハシさんのように車を使わない決断をするドライバーが出てきているが、そもそもウクライナ紛争以前から経済は脆弱であり、燃料価格は両国でそれぞれ7%、13%値上がりしている。

ジンバブエの独立エコノミスト、デニス・ムンジャンジャ氏は、「わが国はロシアやウクライナからの輸入にかなり依存しており、二頭の巨象の戦いに自動的に巻き込まれることになってしまいます。」と語った。

ウクライナへの軍事侵攻に焦点が当たる中、ジンバブエにおけるロシアの人道支援活動も停止している。

ウクライナへの軍事侵攻を始めた直後の3月の時点で、ロシアは世界食糧計画に150万米ドルの寄付を行って、厳しい干ばつと食料不足に襲われていたジンバブエのムワンゲ・ヌカイ・ズビシャベーンなどの地区で10万人以上を支援していた。

マラウィでもパンの価格が高騰している。CAREマラウィ支部のアモス・ザインディ代表は、「マラウィの小麦消費の20%ちょっとが、ロシアからの輸入に依存しています。これらの価格高騰と潜在的な雇用の喪失は、より多くの人々が貧困に陥る危険性があるため、CAREは特に懸念しています。」と語った。

ナミビアもまた、パン不足と燃料価格上昇によって脆弱な状況になりつつある。ナミビアのエブソン・ウアングタ中央銀行総裁は、「たしかに、我が国の場合で言えば石油や小麦といった産品は国民生活に直接の影響があります。」と語った。

Map of Southern Africa/ Wikimedia Commons
Map of Southern Africa/ Wikimedia Commons

ジンバブエの北に位置するザンビアは、燃料の場合と同じく、肥料や機械などの生産に必要な資材も輸入に大きく依存しており、ロシアによるウクライナ戦争の影響から免れることができていない。

ザンビアの石油価格は以前の1.29ドルから値上がりして1.55ドルに、軽油は1.12ドルから1.53ドルに値上がりしている。

ロシアとウクライナの戦いが続く中、アンゴラのような他の南部アフリカ諸国でも紛争の悪影響を被っている。

米国農務省(USDA)の農業情報ネットワークの報告によると、アンゴラは全ての小麦を輸入に依存しており、昨年アンゴラが輸入した小麦の約30%をロシアとウクライナ産が占めていたが、いまやその全てが途絶してしまっている。(原文へ

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「憲政記念館・代替施設」が開館

【東京IDN=石田尊昭

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

尾崎行雄記念財団が寄付を募り、全国から寄せられた浄財で建設した「尾崎記念会館」。1960年の完成と同時に衆議院に寄贈されました。その後、新館が増築され、1972年に「衆議院 憲政記念館」として開館、現在に至ります。

その憲政記念館が建て替えのため今年(2022年)1月末から休館し、5月下旬から工事が始まりました。建物は全て解体され、今から約6年かけて現在の敷地に「新たな国立公文書館」とともに新・憲政記念館が建設されます。(2028年度中に開館予定)

この建替工事に伴い、「憲政記念館・代替施設」が国会参観バス駐車場横に造られ、ついに昨日(6月2日)開館しました。

代替施設は、あくまで一時的なもので、延床面積もこれまでより小さく、展示物も少なくなっていますが、その分、随所に工夫が施され、見やすく、分かりやすく、子供から大人まで楽しめるような作りになっています。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

オープンの前日、内覧会が開催され、衆議院議長・副議長、議院運営委員ほか多くの関係議員が出席しました。議長の挨拶、テープカットの後、憲政記念館(衆議院事務局)の皆さんによる丁寧な説明を受けながら、私も一緒に展示室や会議室などをまわりました。この代替施設の開館に向けて、憲政記念館の皆さんが大変苦労されていたのを知っている分、感慨もひとしおでした。

ところで、今年1月26日、「現憲政記念館に対する感謝の会」が、岡田憲治・衆議院事務総長のもと、関係者のみで開催され、現館長・元館長、私など6名ほどが出席しました。そこで、これからの新記念館建設に向けての思いを話すよう求められ、以下の通り述べました。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

「これからのことを申し上げますと、どんなに立派な建物ができても、そこに魂がこもらないとただのコンクリートですから。この憲政記念館が新しくなるに当たって、今までどういう思いでここが造られてきたのか、運営されてきたのか、どういう先人たちの知見や経験がここに埋まっているのか、そして尾崎行雄を始め当時の議会制民主主義の発展に尽くした数多くの政治家、思想家、研究者、こういった方々の思い、理念、そういったものを我々は受け継ぎ、語り継いでいく使命があるんだと思います。その意味では、憲政記念館にしっかりと魂を入れていく。令和10年度にここにどんな立派な建物ができても、そこに我々が魂を宿していかないと意味がないと思っています」
(「憲政だより・時計塔」令和4年春季 No.030 より抜粋)

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

ぜひ、この「憲政記念館・代替施設」にもお越し頂き、皆様の手で魂を宿し、先人の思いを受け継ぎ、語り継いでいってください。

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G7の圧力にもかかわらず、インドの小麦輸出禁止は維持される

【ニューデリーINPS/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

インドが小麦の輸出を禁止したことで、同国の農民や貿易業者は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の結果、主食である小麦が不足している世界市場で小麦を売って収入を得る機会を失ったと、アナリストらは分析している。

インドの2020-21年の小麦生産量は推定1億790万トンで、1億3430万トンの中国に次ぐ2位。第3位はロシアの8540万トンである。

India on a world map/ GIS

5月12日に政府が2022年から23年にかけて1000万トンの小麦を輸出する計画を発表し、アルジェリア、エジプト、インドネシア、レバノン、モロッコ、フィリピン、タイ、チュニジア、トルコ、ベトナムを輸出先候補に挙げられたことから、農家の期待は高まった。しかし、その2日後、商工省対外貿易総局は、政府ルートと民間業者が既に輸出契約を結んでいる場合を除き、小麦の輸出を制限する通達を出し、方針を撤回した。

「世界的な供給不足を補うという期待を持たせておいて、それを撤回するのは大きな問題です。貿易ルートが信頼できるサプライヤーを求めるのは、それなりの理由があるからで、今回の政府の決定によりインドの信用は失墜し、その結果、将来の輸出に影響が及ぶ可能性があります。」と、WTO研究センター(本部:ニューデリー)のビスワジット・ダール教授兼代表は語った。

B.V.R. スブラマニャム商務長官は、5月14日の記者会見で、輸出規制は国内の食糧安全保障と近隣の脆弱な国々を助けることになると説明した。インドから小麦を受け取っている近隣諸国には、アフガニスタン、バングラデシュ、スリランカがある。同商務長官は、「価格の高騰が落ち着けば」規制は解除される可能性があると語った。

インドが小麦の輸出を禁止したことについては、ドイツのジェム・オズデミル食糧農業大臣が5月20日のシュトゥットガルトでの記者会見で、「各国が輸出規制を開始すれば、小麦不足が悪化するだけだ。」と述べるなど、G7諸国からの批判を招いた。

インドの小麦生産の大部分は国内で消費されているが、世界市場での存在感は増している。2021-22会計年度、インドは785万トンの小麦を輸出し、前年度の210万トンの4倍以上となっていた。

ダール教授は、中国がインドの小麦輸出規制の動きを擁護していることは興味深いと述べた。中国国営メディアの環球時報は5月15日付で「インドの小麦輸出を止める動きが小麦価格を少し押し上げる可能性は否定できないが、インドを非難しても食糧問題は解決しない。なぜG7諸国は自ら輸出を増やすことで食糧市場の供給を安定させようとしないのか。」と報じている。

政府が小麦の輸出を制限したのには、他にもやむを得ない理由があった。「世界的な小麦価格の上昇を察知したトレーダーが、政府の最低支持価格を上回る価格で突然買い占めに動いたのです。」と、食料・政策アナリストで、65以上の農民グループの統括組織であるキサン=エクタ゠モルカの創設メンバー、デヴィンダー・シャルマ氏は語った。

シャルマ氏は、「過去の経験から、自由貿易を認めると、農民や消費者ではなく貿易業者に有利に働くことが分かっている。」と指摘したうえで、「商人が穀物を買い占め、政府が数ヶ月前に輸出された小麦を2倍の値段で輸入しなければならなくなったことも過去にはありました。」と語った。

「インドの農産物市場の性質や商人の支配力を考えると、輸出が直接農家の利益になるとは思えません。農家がもっと組織化され、交渉力をつけない限り、国際市場の有利な状況を利用することは難しいでしょう。」とダール教授は語った。

政府にとって最大の制約は、「国家食糧安全保障法」に基づいて約8億人のインド人に高額の補助金付き食糧を供給することを約束していることである。各受給者は、米は1キロあたり3ルピー(0.0039米ドル)、小麦は1キロあたり2ルピー(0.013米ドル)で、毎月5キロの穀物を受け取る権利がある。

シャルマ氏は、「モンスーン災害や最近の熱波による収穫への影響など、予測不可能な事態に備え、政府が大規模な緩衝在庫(公的備蓄)を維持することが重要です。過去5年間の豊作により、約5000万トンの余剰在庫ができたため、パンデミックの際、インドは補助金付き穀物を配布することができたのです。」と語った。

農民の権利と食糧安全保障を推進する全国ネットワーク「持続可能で全人的な農業のための同盟」のリーダー、カビタ・クルガンティ氏は、「私たちが実際に目の当たりにしているのは、信頼できるデータシステムがなく、異なる省庁が互いに連携できないことから生じる政策の失敗です。農家と取引業者は予測可能な政策環境を必要としています。また、種まき時期と販売時期の間に輸出入政策を中途半端に変更すべきではありません。」と語った。

Rnajit Devraj Photo by Katsuhiro Asagiri
Ranjit Devraj Photo by Katsuhiro Asagiri

クルガンティ氏はまた、「今すぐにでも、政府は最低支持価格を上回る金額を提示できるはずです。そうすれば、より高い価格で輸出しようと売り惜しみして、結局は政府の政策転換で損をした農家を罰することもなく、同時に、貧しい消費者のために十分な在庫を確保することができます。」と語った。

インド政府は近年にも、農民のストライキにより大きな政策転換を強いられた経験をしている。政府は農産物取引の自由化などを促す「農業新法」を国会で通過させ、従来国庫の負担となっていた農産物の最低買入れ価格(MSP)を撤廃しようとしたが、新法が大企業に有利に働き、農産品の値下げが強要される事態を恐れた農民の大規模な抗議運動に直面して、2021年11月に新法の一時停止を余儀なくされている。(原文へ

この記事は、提携メディアのSciDev.Netが配信したもので、著者の許可を得て転載しています。

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グーグル翻訳アプリにアフリカの10言語が追加される

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

ナイロビ大学教授時代、英語学科廃止の議論のきっかけを作ったのは、ケニア人作家のグギ・ワ・ジオンゴ氏だった。ジオンゴ氏は、植民地支配が終焉した後、アフリカの大学では口承文学を含むアフリカ文学を教えることが必須であり、それはアフリカの豊かな言語を使って行われるべきであると主張してきた。

Google Translate Logo
Google Translate Logo

今日、Google翻訳アプリに10言語が追加されたことで、アフリカの言語での執筆や読書がより身近なものになるだろう。翻訳は、ある言語から別の言語への意味の伝達と理解され、情報、知識、社会的革新を伝達するうえで極めて重要である。また翻訳は、知識を伝達するための「運び屋」であり、文化遺産の「保護者」であり、グローバル経済の発展にとって不可欠なものだ。

新たに加わったのは、中央アフリカのリンガラ語、ガーナのトウィ語、エリトリアのティグリニャ語、エチオピアのオロモ語、そしてシエラレオネのクリオ語だ。

クリオ語は英語をベースとしたクレオール言語で、約35万人が母語とし、400万人以上が共通語として使用している。シエラレオネの人口の87%がこの言語を話している。

「クリオ語が可視化されたことにより、クリオ語を読み、書き、理解できるシエラレオネ人は、シエラレオネ・オートグラフィを使用して、グーグル・プラットフォーム上でコミュニケーションできるようになることを意味しています。」と、シエラレオネ大学フーラカレッジ言語学科長のアブドゥライ・ワロン・ジャロー博士は語った。博士は、グーグルのためにシエラレオネ方言の翻訳を担当したチームの一員である。

「言語は私たちのアイデンティティであり、私たちが誰であるかを表し、あらゆる文化のDNAと呼ぶべきものだと言われています。私たちが自国語の一つを使ってグーグルに関わるということは、私たちの言語が技術的に適切であり、私たちの社会が文化を発信でき、私たちの考え方を翻訳できるということです。」

ジオンゴ氏は長年にわたって現地語の使用を提唱してきたが、1977年、現地の俳優がギクユ語で演じる劇を書いたために投獄された。当時は、母語で話したり書いたりするという単純な行為でさえ革命的な行為だった。

54カ国からなるアフリカにはさまざまな言語が存在し、その中には他の支配的な言語の拡散や西洋文化の影響により危機に瀕している言語もある。アフリカの希少な言語の中には、その文化や知識とともに絶滅の危機に瀕しているものさえある。

植民地時代以降、アフリカの人々は自分たちの言語的アイデンティティの価値をより強く認識するようになった。しかし、国家レベルで公用語とされているのはごく一部であり、植民地支配によって輸入された言語が依然として主流を占めている。

Map of African language families, subfamilies and major languages/ By Sting./compiled from various Ethnologue country maps, as also compiled in Muturzikin., CC BY-SA 4.0
Map of African language families, subfamilies and major languages/ By Sting./compiled from various Ethnologue country maps, as also compiled in Muturzikin., CC BY-SA 4.0

幸い、アフリカ諸国はより多くの言語継承を主張し、アフリカの希少言語を再生・保存するために多言語化を目指した言語政策を展開している。(原文へ

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【ロサンゼルスIDN=ソナリ・コルハトカル】

今年は5月22日から26日まで、スイスのダボスで世界経済フォーラム(WEF)が開催され、世界各国の議員や企業経営者が集まり、地球規模の問題に取り組んだ。この年次総会は、まず新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより2年遅れ、さらにロシアのウクライナ侵攻により5カ月遅れで開催された。

WEFは自らを 「世界の状況を改善することにコミットした独立した国際組織」と称しており、参加者は、政治・経済分野で影響力を持つ世界各地のエリートの代表であり、「大きな力には大きな責任が伴う」という人道主義的な立場をとっているように見える。

Professor Klaus Schwab attends the 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner on September 23, 2018 in New York, NY USA. /By Foundations World Economic Forum - 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner, CC BY 2.0
Professor Klaus Schwab attends the 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner on September 23, 2018 in New York, NY USA. /By Foundations World Economic Forum – 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner, CC BY 2.0

このエリート集団が前回会合を持ったのは、まさにパンデミックが始まったばかりの2020年1月で、WEFの創設者で執行委員長のクラウス・シュワブ氏は、「パンデミックは、私たちの世界を振り返り、再構築し、リセットするための貴重な、しかし限られた機会を提供しています。」と語った。

しかしこうした市民社会の深い懸念を反映した意見も、WEFに登壇する講演者の言葉と同様、世界の多くの問題(不当利得や社会の底辺から頂点に向かう過剰な富の再分配等)の根源を覆い隠す言い回しだった。

毎年WEFの会議に代表を送ることが許されているオックスファムは、こうした誤りに焦点を当てたレポートを定期的に発表し、政治家や企業経営者が日常的に世界から富を巻き上げようと共謀する中で不平等に対して負うべき責任を出席者に伝えている。

Oxfam Logo

オックスファムアメリカ民間部門ディレクターであるイリット・タミール氏は、インタビューの中で、今年のWEF関連報告書の結果を話してくれた。それによれば、富裕層のエリートたちは、シュワブ氏が2020年に主張したようなパンデミックを優先順位の再設定に利用するのではなく、むしろパンデミックを踏み台にして、想像を絶するレベルの富を蓄積したことが明らかになったとのことだった。

タミール氏は、「ダボス会議では不平等が解決すべき最重要問題の一つとされていますが、今日の不平等がある理由の多くは、まさにこうした人々の影響によるものなので、これはむしろ皮肉なことです。」と語った。

しかし、各メディアは、ダボス会議の雰囲気を、現状を憂慮するものであるかのように伝えている。AP通信は 「ダボス会議は世界経済の不安に覆われた」、ワシントンポストは 「経済不安と戦争がダボス会議に影を落としている」という見出しで報じている。しかし、タミール氏によれば、「今週、ダボス会議に集まっている人たちは、非常にうまくいっているので、祝うべきことがたくさんある」のだという。

オックスファムの報告書「痛みから利益を得ている(Profiting from Pain)」によると、パンデミックの期間中、33時間ごとに「新たな億万長者が誕生している」一方で、同じ時間で100万人が世界各地で「極貧」に追いやられているという。

「パンデミックは億万長者層にとって非常に都合が良いものです」とタミールは言う。オックスファムはこの報告書の中で、「世界の富豪10人が、世界の貧困層の40パーセントの人類よりも多くの富を所有している」と結論づけた。このような不合理な富の世界的配置は、現在の経済システムにとどめを刺すようなものであるべきだ。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

オックスファムが報告書で強調しているパンデミックによる不当利得の主な分野は、いずれも人間にっとって生活必需品である、食料、医療、エネルギー、テクノロジーである。

例えば、ジェームズ・カーギル2世とその家族を例にとると、彼らは家名を冠した世界的な食品取引ビジネスの主要株主であり、昨年だけで約50億ドルの純益を上げた。世界的に食糧価格が高騰し、カーギル家の富に貢献している。

今年のWEFの講演者リストにステファン・バンセル最高経営責任者が名を連ねた製薬会社モデルナは、オックスファムによれば、「公的資金を私的財産に変換することに絶大な成功を収めている」という。さらに、「同社は、合計100億ドルの価値を持つ4人の新しいワクチン億万長者を生み出した。」

Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe - Own work, CC BY-SA 4.0
Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe – Own work, CC BY-SA 4.0

エネルギー分野でも、オックスファムによれば、際限のない貪欲さが見てとれるという。エネルギー価格の上昇に伴い、「パンデミック期間中に大手石油会社の利潤は2倍に膨れ上がっている。」

そして最後に、テクノロジー部門が億万長者に大きな恩恵を与えている。オックスファムは、「世界で最も裕福な10人のうち7人がテクノロジー分野でお金を稼いだ」と報告している。その中には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏を抜いて世界一の大富豪になったイーロン・マスク氏も含まれている。

市場資本主義によって富が再編成され、人類の(所得で分類した場合の)下位半分からますます金持ちの手に渡るようになったとすれば、公平であるはずのシステムに決定的な設計上の欠陥があるか、システムが設計通りに正確に機能しているかのどちらかである。WEFの出席者は、前者であると確信している。また、米国バーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員のように、経済は金持ちに有利なように「操作されている」と主張し、後者であると考える人もいる。いずれにせよ、新しいシステムを導入する時期が来たというのは否定できない結論である。

WEFが開催するような、エリートが頭をかくふりをしながら、「危機のときに、社会の結束と市民の信頼を維持するために、リーダーはどのように倫理的な判断を下すことができるか。」「ジェンダー平等のための会話に、どうすればすべての人を含めることができるか。」といった、深い内省的パネルディスカッションも必要ないのである。

オックスファムは、複雑な分析やオピニオンリーダー同士の議論を必要としない、世界的な不平等を解決する最も簡単な方法は、次のようなものだと指摘している。つまり、上層部(=富裕層)にお金がありすぎるなら、そのお金を下層部(=貧困層)に再分配すればいいのだ。ただそれだけのことだ。

Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.
Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.

世界有数の富裕層や企業がある米国では、バイデン大統領が超富裕層を対象とした億万長者税や、「より良く再建法案(Build Back Better Act)」の税制規定など、既によく練られた法案があるが、いずれも議会を通過することはなかった。タミール氏は、危機的状況に際しての富裕層への税金に関して「これは新しい概念ではない」と指摘したうえで、「かつて戦時中に実施したことがありますし、他国でも実施して成功している事例があります。今こそ、危機から生じた過剰な利益から歳入を確保すべき時です。」と語った。

WEFの参加者は、ダボスで一週間肩を並べた政治指導者たちが、いかにして税制を現実のものにするかを議論するパネルも開かなかった。タミール氏によれば、不平等が世界にとって悪いことであることはほとんどの出席者が認めていたが、その解決策は課税ではなく、慈善事業であるという。

「慈善活動は個人の意志で行われるものですから、寄付をするかどうか、いつどのように寄付するかは、彼ら次第です。」言い換えれば、億万長者の慈善家たちは、私たちが想像もつかないほどの資金を持っているだけでなく、資金を受けるべきもの、受けるべきでないものを決定する力を持っているのです。

「ルールを変える必要があります。政府が介入し、すぐにでも実行する必要があります。」とタミール氏は語った。(原文へ

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