ホーム ブログ ページ 49

2023年には、私たちはこれまで以上に平和を必要としています(アントニオ・グテーレス国連事務総長)

【ニューヨークIDN=アントニオ・グテーレス】

新年とは、再生の瞬間です。

私たちは旧年中の灰を一掃し、より明るい日に向けて備えます。

2022年に、世界中の何百万もの人々が、文字通り、灰を一掃しました。

ウクライナ、アフガニスタン、コンゴ民主共和国などの国々では、人々がより良い生活を求めて、灰となった住まいや暮らしを後にしました。

世界中で1億人が、戦火、山火事、干ばつ、貧困、飢餓を逃れようと移動しました。

2023年には、私たちはこれまで以上に平和を必要としています。 対話を通して紛争を終わらせるための、互いの間の平和。

より持続可能な世界を築くための、自然や気候との間の平和。 女性と女児が尊厳をもって安全に暮らせる、家庭の平和。

すべての人権が全面的に守られる、街やコミュニティーの平和。

互いの信仰を尊重し合う、礼拝の場の平和。

そして、ヘイトスピーチや虐待のない、オンラインの場の平和。

2023年は、平和を私たちの言動の中核に据えましょう。

共に、2023年を、私たちの暮らし、家庭、そして世界に、平和を取り戻す年にしようではありませんか。(原文へ

INPS Japan

関連記事:
|世界人権デー|アントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージ
|バーレーン対話フォーラム|宗教指導者らが平和共存のための内省と行動を訴える
2030年までの持続可能開発目標を支援する新たな統合的資金調達制度の構築へ

プーチンの脅しは核不拡散体制にどれほどのダメージを与えたか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

ロシアによるウクライナ侵攻は、核兵器をめぐる世界の言説にすでに重大な影響を及ぼしていると言ってよいだろう。6月にウィーンで開催された核兵器禁止条約第1回締約国会議の審議において、ウクライナにおける戦争は、抑止力としての、また強制外交の手段としての核兵器の有用性と限界、核兵器を放棄したことの見識、核兵器を獲得することまたは他国の核の傘下に入ることへのインセンティブ、そして何より、誰も望まず、誰もが恐れる全面核戦争という激烈なリスクに大きな影を投げかけた。

そのため、このことは第1の、そしてある意味では最も重要な教訓といえる。ロシアと米国が備蓄する11,405発の核兵器(全世界の合計の90%)の存在は、危機の安定化と緊張緩和に役立つどころではなく、ウクライナ戦争の危険と脅威を増大させている。(原文へ 

会議閉会の翌日にウィーンで開催されたイベントで私と同じ壇上に並び、会議のホストおよび議長を務めたアレクサンダー・クメントはいかにも誇らしげに、締約国によって採択されたウィーン宣言(および50項目の行動計画)は、多国間で取りまとめた文書としては並外れて強力なものとなったと述べた。それは、活動家的な文章でもなければ、陳腐な決まり文句を並べたつまらない声明でもなく、この新条約の重大さをはっきりと示す宣言だった。

一部の国々はウクライナにおけるロシアの行動を厳しく非難することを求めたが、ウィーン宣言はより中立的で偏りのない論調を採った。第4項および第5項において、締約国は、「核兵器を使用するという脅しと、ますます声高になる核のレトリック」に対する懸念と失望を表明した。そして、「明示的か暗示的かを問わず、また、いかなる状況であれ、あらゆる核の脅し」を、そして、平和と安全を守るのではなく「強制、威嚇、緊張増大につながる政策の手段として」の核兵器の利用を、明白に非難した。

ソ連崩壊後にウクライナが核兵器を放棄していなければ、ロシアはウクライナを攻撃して分断しようとはしなかっただろうという主張は、2014年のユーロマイダン革命やクリミア併合の頃から散々言われてきたことである。この主張は、本格的な吟味に耐えうるものではない。米国とNATOの一部同盟国(過去には韓国も)の核共有協定と同様、その核兵器の所有者はホスト国ではなくロシアであり、独占的な運用管理および発射の権限を保持していた。

国連安全保障理事会の5常任理事国は、核不拡散条約の下で認められた核兵器国であるが、そのうちの1カ国たりとも、戦略核兵器1,900発、戦術核兵器2,500発を備蓄する核兵器保有国の出現を許容しなかっただろう。これは、英国、中国、フランスの合計備蓄量の数倍にも上る。ウクライナは、国際的な除け者国家となり生き残りに苦闘したであろうし、地域の歴史全体も大きく異なるものとなっていただろう。従って、2014年と2022年の出来事を抑止できていたはずだという主張は、反事実的想定として信頼に足るものではないのである。

戦争が始まって5カ月、核兵器に関して私が最も目を見張ったことは、核兵器にはまったくと言っていいほど有用性がないということだ。ロシアには、1945年以降欧州最大の地上戦のなかで、6,000発近い核爆弾が備えとして存在しウクライナには皆無であるのに、そのことによってウクライナを威嚇し降伏させることには失敗したのである。キーウは、果敢に領土を防衛するという任務に邁進しており、強制外交の手段たりえなかった核兵器が軍事的に使用できるわけはないと確信している。ロシアの評判は、すでに違法な侵略により深刻なダメージを負っており、もし核兵器を使用すれば完全に失墜するだろう。また、ロシアは、放射性降下物から自国の軍隊も、ウクライナ国内のロシア語圏も、さらにはロシア本土の一部も守ることができないだろう。

確かにウラジーミル・プーチン大統領は、自国の恐るべき核兵器のことを繰り返しNATOに思い出させ、核兵器を公然と「特別警戒」態勢に置き、部外者があえて介入するなら「予測不能な結果」を招くだろうと警告した。そのいずれも、NATOによるウクライナへの武器供与を阻止することはできず、武器はますます殺傷力が高くなり、どうやら非常に効果が高いようで、ロシア軍に大きな犠牲をもたらしている。

もちろん、NATOは自らの地上軍を派遣することも、ウクライナ上空に飛行禁止区域を宣言することも控えている。しかし、このような警戒がどれだけロシアの核能力を考慮した結果であるのか、また、NATOが冷戦終結以降にアフリカ、中東、アジアで行った軍事活動の失敗という内面化された記憶にどれだけ起因するものなのかは、議論の余地がある。小規模な地域レベルの敵対国に対するこのような軍事行動は、大概の場合、変動性、暴力、地域全体の不安定性を劇的に悪化させている。たとえ戦地で軍事的勝利が得られても、広大なロシアの大地に大混乱を引き起こしたいと誰が思うだろうか? ナポレオンとヒトラーの破滅的な誤算も、核兵器があろうとなかろうと、ロシアとの直接的な軍事衝突に突入することをためらわせる役割を紛れもなく果たしているだろう。

しかし、ウクライナ危機は、核軍備管理と核軍縮を推進するすでに弱体化した努力にさらなるダメージを与える可能性がある。ロシアは、ウクライナが核兵器を放棄する見返りとしてウクライナの領土の保全と国境を尊重するという1994年ブダペスト覚書に基づく誓約を、明らかに破っている。

これでは、184カ国の非核兵器国は、自国の安全保障上の懸念について安心できないだろう。逆に、北朝鮮は、核武装の道を突き進んだのは戦略的に先見の明があったという思いを強くするだろうし、イランも同じ道を進む意欲を得るだろう。すでにNATOと太平洋地域の同盟国の間では、保険として核共有協定に加わることについて再び議論が行われている。領土内に米国の核兵器が存在すれば、たとえその管理統制権を米国が握っていても、現実的に新たな状況をもたらし、攻撃に対抗する仕掛けの役割を果たしてくれると考えるからである。

また、フィンランドとスウェーデン(後者は核軍縮を積極的に推進し、前者は過去に地域の非核兵器地帯を推進していた)がNATOに新たに加盟する国になることは、歴史の皮肉のさらなる証明である。なぜなら、別の記事で論じたように、NATOが東方拡大をやめなかったことがウクライナにおけるロシアの行動の大きな理由だからである。そして今度は、NATOのバルト諸国への北方拡大が、ロシアによるウクライナ侵攻の大きな結果となるわけである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

INPS Japan

関連記事:

|視点|プーチンのウクライナ侵攻と核不拡散体制(ダリル・キンボール軍備管理協会事務局長)

ロシア・米国が並走する核紛争への道

核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

|視点|中国―スリランカ、二千年にわたる互恵的な関係(パリサ・コホナ在中国スリランカ大使、元外務大臣)

【北京IDN=パリサ・コホナ

インド亜大陸南端の沖、インド洋の真ん中に位置するスリランカは、うらやましいほどの戦略的地位を占めている。スリランカは過去にその利点をうまく利用してきたが、このことは同時にインド洋地域を戦略的、経済的、文化的に支配しようとする世界的、地域的大国の強欲な関心を引き付け続けるという災いのもとでもある。

Austronesian maritime trade network in the Indian Ocean/ By Obsidian Soul - Own work, CC0
Austronesian maritime trade network in the Indian Ocean/ By Obsidian Soul – Own work, CC0

中国と歴代ランカ王国、そして現在のスリランカは、二千年にわたる緊密な関係を維持してきた。スリランカに戦略的魅力、自然の豊かさ、快適な住環境があることは古くから知られていたが、中国がスリランカに永住権を確立し、植民地化しようとした記録はない。

仏教が両国の架け橋となり、仏教徒間の交流が両国の文化交流の原点となり、今日まで続く信頼関係が築かれた。海のシルクロードの交流は、中国の前漢の時代、紀元前207年頃から盛んになったという記録が残っている。

5世紀、中国山西省出身の学僧法顕が、古都アヌラーダプラの有名なアバヤギリヤ僧院に2年間滞在した際の文章は、当時の複雑な国際外交・交易関係を物語るものである。

Portrait of Amoghavajra (不空金剛), 14 century, National Museum, Tokyo/ Public Domain

法顕は北インドで10年近く過ごした後、西暦410年にランカに来訪した。その帰途、船でシンハラ語で書かれた教典を中国に運び、後に中国語に翻訳した。その後、唐の高僧である不空金剛がスリランカに渡り、『宝篋印陀羅尼経法』を中国語に翻訳した。

中国の商人や少林寺の僧が、ランカにも中国の武術を伝えたのだろう。シンハラ語で武術を表す言葉の一つに「チーナ-アディ」がある。これはあまりに偶然の一致だと思う。

河南省にある嵩山少林寺は、現在でもスリランカの主要寺院と密接な宗教的つながりを保っている。先日、少林寺の30代目管長である永信老師にお茶をご馳走になり、最近スリランカを訪問した際のことを懐かしく話してくれた。6世紀に書かれた中国の『比丘尼伝』には、シンハラ人尼僧の一行が帝都・南京を訪れ、尼僧の修道会を紹介したことが詳しく書かれている。

尼僧の修道会は、今でも中国で存続している。西暦131年から西暦989年の間に、ランカの王たちは13の使節を中国の宮廷に送っている。428年には、マハーナマ王が中国の皇帝に仏陀の歯を祀る祠の模型を寄贈している。

また、ランカ王は貴重な仏像を携えて使節を孝武帝の宮廷に派遣している。10世紀にランカから持ち込まれたと思われる仏陀の頭頂骨(頭蓋骨)の一部は、現在、南京の仏頂宮に安置されている。

Mosaic of Marco Polo, Municipal Palace of Genoa: Palazzo Grimaldi Doria-Tursi/ By Salviati, Public Domain
Mosaic of Marco Polo, Municipal Palace of Genoa: Palazzo Grimaldi Doria-Tursi/ By Salviati, Public Domain

アラブの地理学者イドリーシは、パラークラマバーフ大王の時代にランカがどの程度国際貿易を行っていたかを詳述しており、大王は王女を中国の宮廷に派遣している。1284年、クブライ・ハーンがマルコ・ポーロを派遣し、シンハラ人が崇拝する仏陀の托鉢の鉢を求めたが、ランカ王はこれを丁重に断っている。

マルコ・ポーロはこの島を2度訪れ、ランカはこの規模の島としては世界で最も優れていると記した。13世紀のランカの首都ヤパウワの獅子像は、中国の影響を強く受けている。ラークラマバーフ 6 世(1412-67)は、シンハラ王としては最も多い6回の使節団を中国(明朝)に派遣している。

スリランカでは中国の貨幣や 陶磁器が各地から発見され、中国とランカの貿易が盛んであったことがうかがえる。また、領海の海底には荒天で沈没した多数の中国船が眠っている。河南省洛陽市の白馬寺は、中国で最初に建立された仏教寺院という伝承がある。

白馬寺の広大な敷地内には既に(インド廟、タイ廟など)アジア各地の仏教様式の寺院が建立されており、現在スリランカ式の寺院を建設する計画が進められている。

Zheng He wax statue in the Quanzhou Maritime Museum/ jonjanego, CC 表示 2.0
Zheng He wax statue in the Quanzhou Maritime Museum/ jonjanego, CC 表示 2.0

鄭和は、1405年から33年にかけて、明の永楽帝の代理として西方への航海中にランカを6回訪問した。2回目に訪れた際、鄭和はゴールに来訪を記念した石碑を建立したほか、デーヴンダラの「ウプルワン・デヴァラヤ」を訪れ、かなりの供物を捧げている。

明朝の歴史書には、鄭和提督がランカ訪問中に王家の内紛に巻き込まれたことが記録に残っている。鄭和が帰国した際にランカの王子が同行したが、その後中国に留まることを選んだ。今もその末裔が建省泉州に暮らしている。

スリランカが中国の歴代王朝と宗教、貿易、社会面で活発な関係を築いていたことは明らかであり、学者、船員、僧侶、旅行者、商人たちの文章は、古代からランカに対する中国の宗教的、文化的関心が強かったことを示唆している。

今年(2022年)は、中国との「米・ゴム協定」調印から70周年、国交樹立から65周年にあたる。

1950年、独立したセイロン(=当時のスリランカの呼称)は、主権国家として13番目の国として当時建国間もない中華人民共和国を承認し、それ以来、一つの中国政策を無条件に支持してきた。

その後1952年、当時国連に加盟していなかったセイロンは、欧米の反発を受ける危険を冒して、中国への戦略物資の輸出禁止を破り、戦略物資に指定されていたゴムを米と交換する「米・ゴム協定」を中国と締結した。当時、中国は朝鮮戦争に参戦していた。

セイロンは、中国に5万トンのゴムを市場より高い価格で輸出し、27万トンの米を一般的な市場価格で輸入することに合意した。この協定は1982年まで続いた。セイロンはまた、中華人民共和国の国連における正当な議席の復活を声高に擁護していた。

周恩来首相は1957年にスリランカを訪問し、緊密な二国間関係の基礎を築いた。特にシリマヴォ・バンダラナイケ首相の時代には、61年と72年に中国を訪問し、関係の深化をはかった。76年に毛沢東が死去した際には、スリランカは8日間の喪に服すことを宣言し、両国の密接な関係を強調した。

中国から寄贈されたバンダラナイケ記念国際会議場は、現在でもコロンボの主要なコンベンション会場として機能している。同会議場内にある中国文化センターは、2014年の習近平国家主席の訪問時に落成式が行われた。

February 1964 Chinese Premier Zhou Enlai and Ceylonese Prime Minister Sirimavo Bandaranaike signed the Sino-Ceylonese Joint Declaration/ Public Domain

スリランカにあるこのセンターは、海外初の中国文化センターである。スリランカの仏教寺院と、河南省の白馬寺、少林寺、観音寺、北京の霊光寺、永和寺といった中国の代表的な仏教寺院との間には、密接な関係が維持されている。(それまでの英連邦自治領セイロンから)1972年の共和国制への移行以来、スリランカのほぼすべての国家元首が中国を訪問している。

1978年12月から89年11月まで中国を率いた鄧小平は、中国の驚くべき経済復活の基調となった深圳経済特区の壮大な成功の前に、スリランカに代表団を送り、コロンボ首都圏経済委員会を研究したと多くの中国高官は語っている。

スリランカのテロ組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との紛争では、欧米諸国がLTTEへの軍事進攻を止めるよう政府に圧力をかけるために武器供給を控えたのに対し、中国は無条件で武器などの援助を行った。中国の揺るぎない支援は、LTTEを撃退し、テロリストの災禍をなくすことに大きく貢献した。

また、国連人権理事会やニューヨークの国連など、国際的な場でも中国はスリランカを無条件に支援した。その後、スリランカが懸命に復旧・復興に取組み、欧米からの援助が細々と続く中、経済的に復活した中国は、スリランカの復興に大きく貢献した。

Lotus Tower in 2018/ By Sarah Nichols, CC BY-SA 2.0
Lotus Tower in 2018/ By Sarah Nichols, CC BY-SA 2.0

ハンバントタ港、マッタラ空港、高速道路、コロンボ港湾都市、コロンボの蓮池舞台芸術センターなどがその成果である。ロータスタワーは、この時期に花開いた両国友好関係の証しだ。芸術センターの建築は12世紀にポロンナルワにあった蓮池から、ロータスタワーのデザインは法華経から着想を得たと言われている。

コロンボ大学には、主に中国語と中国文化の普及を目的とした孔子学院が設立されている。多くの中国人留学生がスリランカの大学で勉強を始めている。

中国の国家出版広電総局は、両国の古典を中国語とシンハラ語に翻訳して出版することを提案している。現在、二国間関係と観光促進に焦点をあてた長編映画の撮影案が検討されている。

コロンボと成都、および上海、キャンディと青島との間に姉妹都市提携が結ばれている。その他の都市間、省・県間の提携も現在検討中である。

スリランカを陥れている中国の債務の罠については、さまざまな憶測が飛び交っている。簡単に言えば、中国はスリランカの対外債務の10%未満しか保有しておらず、従来の資金源にアプローチしても拒否されたスリランカが、インフラ・プロジェクトのために中国に資金を求めたのである。

最近も、中国の科学船が寄港したことに懸念を表明する人がいて、スリランカは困難な状況に置かれた。スリランカは、訪港に関する長年の慣行と主権的権利に基づき、同船舶がハンバントタ港を使用することを許可した。

世界は、中国がその資源、医療施設、技術力、そして人口を総動員して、初期段階で新型コロナウイルス感染症に対抗したことに、神経質なまでに驚きをもって見守った。そして、武漢を皮切りに、この恐ろしいウイルスを制圧していった。

Photo: The Covid Vaccine Intelligence Network (CoWIN) system is emerging as the backbone of the vaccination programme in India. Photo: Manisha Mondal | Credit: ThePrint
Photo: The Covid Vaccine Intelligence Network (CoWIN) system is emerging as the backbone of the vaccination programme in India. Photo: Manisha Mondal | Credit: ThePrint

中国は、他国のパンデミック対策支援として約20億本のワクチン(約一割が寄贈)を送った。また、ワクチンを所有権の制約を受けない公共財とすることを提唱している。

スリランカには無償の300万人分を含む2600万人分が送られた。スリランカは、中国からの寛大な支援により、流行を大幅に抑え、再び観光客に国を開放することさえできた。

スリランカに従来ワクチンを供給してきた国々が、必要なワクチンを供給しない或いはできなかったり、中にはワクチンを買い占める国さえあった時に、中国はスリランカを援助してくれたのである。 これは、中国と中国国民による驚くべき連帯と協力の行為であった。

パンデミック期間中には、軍人を含む2000人以上のスリランカ人留学生が一時帰国を余儀なくされていたが、今ではほぼ全員が中国の高等教育機関での勉強を再開している。中国は今日、農業や製造業において、技術開発の最先端を走っている。

1970年代、80年代によく言われた懸念とは裏腹に、中国は農業の近代化によって、自国の食糧を十分に生産し、一部は輸出することにも成功している。中国の高速鉄道網は世界の羨望の的である。この広大な国土を縦横無尽に走る高速道路は圧巻だ。

中国は高度な製造業を発展させ、現在では世界の主要な製造品輸出国となっている。化石燃料の輸入に頼ってはいるが、太陽光発電や風力発電の技術も進んでおり、原子力発電や水素発電の開発でもトップランナーである。(中国は世界のソーラーパネルの70%を生産している。)中国では人工知能が日常生活の主要な部分を占めつつある。

スリランカの学生は、欧米の教育機関よりはるかに安価な中国の教育施設を利用することで、多くの利益を得ることができる。中国の多くの地方は、最先端の高等教育機関でより多くのスリランカ人が勉強できるようにすることに関心を示している。

これは、人と人との触れ合いや相互理解をさらに深めるための絶好の機会となることは間違いないであろう。中国は過去40年間に急速に発展したため、海外の多くの人々は現代の中国についてほとんど理解しておらず、学生の交流はこの認識を促すのに有効な方法であろう。

Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten
Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten

長らく観光のメッカとされてきたスリランカは、現在の金融危機から脱するために観光に大きく依存することが予想される。2019、1億6900万人の中国人が海外に旅行した。その一部でもスリランカを訪れれば、経済の好転に大きく貢献することだろう。

スリランカ大使館が中国で行っているソーシャルメディアを含めた集中プロモーションは、大きな成果を生むだろう。スリランカで最も観光客が訪れている観光・宗教施設は、キャンディの「佛歯寺」である。ここ以外で唯一仏陀の歯遺物が収められているのが、北京の霊光寺にあることが確認されている。

5世紀に建てられたシギリヤの城塞には、素晴らしい水庭と岩窟庭園、そして王によって建てられた岩の上の宮殿があり、可憐な乙女たちのフレスコ画が印象的で、今も大きな見所となっている。スリランカの自然の魅力は、野生のアジアゾウが最も多く生息していること(約7000頭が保護されている)、またクジラが多く生息していることである。

スリランカには世界有数の美しい砂浜や食欲をそそるさまざまなシーフード料理がある。またこの国では伝統医学が医療に大きな役割を担っている。スリランカの人々は、中国からの訪問者を歓迎し温かくもてなすことでしょう。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

|視点|新型コロナウィルス騒動に関連して、飽くなき中国叩きが再浮上する(パリサ・コホナ前国連スリランカ政府代表部大使、元外務大臣)

|国連創立70周年|グラス半分の水(パリサ・コホナ前国連スリランカ政府代表部大使)

世界の市民よ、団結しよう!

|視点|核のリスクと技術の拡散(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

キューバミサイル危機から60年、核兵器使用の危機が再び人類を脅かしている。当時の場合、ジョン・F・ケネディ米国大統領とニキータ・フルシチョフソ連書記長が直接交渉を通じて、ソ連の核兵器をキューバから撤去する代わりに米国が核兵器をトルコから撤去することに合意し、危機は13日で回避された。

PX 96-33:12  03 June 1961  President Kennedy meets with Chairman Khrushchev at the U. S. Embassy residence, Vienna. U. S. Dept. of State photograph in the John Fitzgerald Kennedy Library, Boston.
PX 96-33:12 03 June 1961 President Kennedy meets with Chairman Khrushchev at the U. S. Embassy residence, Vienna. U. S. Dept. of State photograph in the John Fitzgerald Kennedy Library, Boston.

当時、国連事務総長もこの危機を解決に導くうえで積極的な役割を果たした。しかし、核武装したソ連潜水艦の司令官が、米ソ超大国間の戦争開始を懸念して、モスクワとの連絡もないまま、核ミサイルを発射しないことを決定し、運良く核戦争は回避されたのである。

現在、核兵器の使用につながりかねない重大な対立が、平和的解決の兆しが見えないまま、何カ月も続いている。1962年の危機とは異なり、今日、主要国のトップ同士の迅速な意思疎通は図られていない。現代のメディアは交戦当事国間の敵意と不信感を増大させ、既存の政治的・法的な枠組みはこの状況に対処できないように思われる。

先日ポーランド領内にミサイルが着弾して2人の死者と若干の破壊をもたらしたことについて、ロシアではなくウクライナの責任が確認されるまで、全世界が数時間息を潜めた。この事件は、ロシア・ウクライナ間の戦争当事国のいずれかによる事故あるいは誤算によって予測できない結果をもたらすエスカレーションの引き金になるかもしれないという恐怖のレベルを高めることとなった。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

この戦争における核兵器使用のリスクは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国の安全保障に対する脅威と見なされるものに対してあらゆる手段を用いると宣言して以来、依然として高いままである。ロシアの間接的な敵である北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアほど強硬ではないが、同様に鋭い口調で反応した。

ロシアと核兵器を保有する西側諸国の核ドクトリンのいずれもが、必要とする状況で核兵器を先行使用することを想定している。現在の微妙な情勢では、火花が散るだけでも壊滅的な火が燃え上がるのに十分であり、紛争当事国に限定されない悲惨な結果を招きかねない。

核不拡散条約(NPT)が認める5つの核保有国のうち、核兵器の先制使用をしないと明らかにしているのは中国だけである。多くのアナリストや市民団体が、すべての核保有国がこの姿勢を採用するよう提唱している。通常、「先制不使用」(NFU)の原則は、核兵器の廃絶を予見していないため、核兵器やその他の潜在的侵略を抑止し、それに対抗する目的で核兵器を維持することを正当化するために使われることもある。

もし、現在のすべての核保有国が先制不使用を採用し、軍縮のための明確な約束と効果的なフォローアップ行動なしに国際社会が受け入れた場合、核兵器使用のリスクを減らすことはできても、完全になくすことはできないだろう。さらに、核兵器保有を永続させる根拠となり、その結果、核兵器がもたらすリスクも永続させることになる。

核兵器禁止条約(TPNW)の出現に対する核保有国の激しい否定的な反応は、核軍縮に具体的な進展をもたらすためにこの条約を利用することにこれらの国々が関心を持っていないことを明確にした。核保有国は、条約起草の準備作業や実際の交渉への参加を拒否したのみならず、同語反復的で利己的な理由とともに、この条約では軍縮をもたらすことはないと主張し、正式に拒否したのである。

明らかに、核保有国の参加がなければ、核兵器の廃絶につながるような効果的な措置を取ることは不可能だろう。だが、明確な反対があっても、国際人道法に根差したこの新条約は、核兵器を永久に保有し続けることに対する重要な法的・道徳的な障壁として、すでに重要な役割を果たすに至っている。

核保有国が核禁条約への署名や批准を阻止するために脅しをかけ強制しようとしたにも関わらず、国連加盟国のほぼ半数がすでに署名し、批准国の数も徐々に増えつつある。世論調査は、核兵器国やその同盟国の国民を含め、核禁条約に対する高い支持を示している。

Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna
Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna

世界の核兵器の総数は推定およそ1万3000発というレベルにまで削減されてきたにも関わらず、核兵器使用のリスクは増し、すべての人の安全保障が低下しているという逆説的な状況がある。冷戦時代のように、最大数の核弾頭や最大の爆発力を持つ核兵器が決定的な優位性を持つとは考えられなくなったのである。

今日、そのように困難な軍事的優勢を確保するために、絶え間ない技術改良が追求されている。核保有国、とりわけ全体の95%を保有する米露二大国は、極超音速ミサイル、衛星による発射・誘導システム、低出力の「戦術」核兵器、人工知能(AI)、無人機などの最先端の戦争技術を開発し続けている。

この種の技術革新は、既存の核兵器の殺傷力をより高める。場合によっては、そのような先進的な兵器がその使用効果を最小に抑えることができるがゆえにより「容認」できるという考え方が広まることさえある。

核保有国は、この終わりなき革新が自らの安全確保に役立つと信じているようだ。しかし、仮想敵が技術的革新を遂げれば、その敵手は新たな能力の開発によって不均衡を埋め合わせようとし、相互に与える脅威によるエスカレーションの繰り返しが導かれてしまう。この状況は、安全を生み出すことからは程遠く、この競争に関わる国々だけではなく、その他すべての国々の安全を損なう。

核兵器保有国の増加、いわゆる「水平」拡散は、世界をより不安定にする。それを防ぐために、NPTや多国間・地域間協定、国連安保理による制裁など、効果的な手段は多く存在する。

Image: South Korean commuters watch TV coverage of the North Korean missile launch from a Seoul railway station. (AFP: Jung Yeon-je)
Image: South Korean commuters watch TV coverage of the North Korean missile launch from a Seoul railway station. (AFP: Jung Yeon-je)

52年前のNPT発効以来、核保有に至った国は、条約で定められた5カ国のほかに4カ国しかない。この核クラブに新たに加わろうとする国があれば、国際社会からの激しい反発にあうことになる。これまでも核開発の試みは、外交的圧力や武力による威嚇、あるいは実際の行使によって阻止されてきた。

しかし最近になって、西側諸国の「核の傘」の下にある国を含む一部の技術先進国では、独自の核兵器保有を容認する世論が前面に出てきた。また、かつて保有していた核兵器を廃棄することを決めた国々では、現実の脅威、あるいは認識されている脅威に直面して、その時の判断を悔やむ意見が出てきている。国連や国際原子力機関(IAEA)、地域的取り決めなどの既存の国際的管理手段によって、警戒を怠りなくする必要がある。

核兵器の存在そのものがもたらすリスクに対する一般的な懸念が高まっているにもかかわらず、核保有国の努力は核兵器への依存を減らす方向には向けられていない。むしろ、これらの国々は、他の国々による民生用原子力開発に対して多くの公式・非公式の障壁を設けることで水平拡散(=核兵器を保有する国が増えること)を防ごうとする一方で、自らが望ましいと考える形で核兵器を排他的に保有することを正当化してきた。

核保有国とその同盟国には、核兵器を最終的に廃絶するための政府の計画や構造、機構といったものは存在しない。核保有国がもっぱら関心を寄せているのは拡散のリスクである。核保有国にとって核拡散という用語は、自国の核戦力の増加・増強は該当しないが、軍事利用される可能性のある核技術を他の国々(=非核兵器国)が追求したり、実際に取得したりすることのみを指すと理解している。核保有国は、膨大な人材と資金に支えられた致死的な核技術拡散に寄与する一方で、核軍縮は遠い将来の困難な目標であるとみなし、様々な環境条件と結びつけてその達成は困難である、としているのである。

50年以上前、ブラジルの外交官ジョアン・アウグスト・デアラウホ・カストロ氏は、核兵器国とその同盟国の間に支配的な態度を正確に表現していた。NPTが発効した1970年に国連総会で行った演説で彼はこう述べている。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

「権力への妄信と力への畏怖が尊重され、今や人間関係を律する一部の基本文書にまで影響を与えるに至っている。例えば、核不拡散条約という文書は、成熟した責任ある国家とそうでない国家との間を区別するという理論に基づいている。この文書の大前提は、歴史的な経験に反して、力こそが節度をもたらし、節度が責任をもたらすというものである。[…] つまり、危険は非武装の国々に由来するものであって、超大国の膨大で常に増加し続ける兵器庫に由来するのではない、という想定に基づいている。この条約は、核時代において成熟した国家に権力と特権を与えることによって、権力競争を阻止するのではなく、むしろ加速させるかもしれない。諸国から成る世界において、人間の世界と同じように、これからはあらゆる国が、あらゆる困難を排して、権力を持ち、力を備え、成功を収めようとするかもしれない。NPTは、権力に油を注ぎ、国家間の不平等を露骨に制度化したものである。」(原文へ

INPS Japan

関連記事:

宗教コミュニティーが「核兵器禁止条約第1回締約国会議」を歓迎

核のない世界への道は険しいが、あきらめるという選択肢はない。(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

ウクライナをきっかけに北東アジアで核ドミノの懸念

FIFAワールドカップカタール大会に影を落とす欧米の偽善

【アブジャIDN=アズ・イシクウェネ】

悪ふざけは常にあったが、国際サッカー連盟(FIFA)会長のジャンニ・インファンティーノ氏がカタールでの分別のある記者会見で欧米の偽善を非難するまでは、誰もが気づいてはいたが見て見ぬふりをしていた問題だった。

不穏な気配は12年前、カタールがオーストラリア、日本、韓国、米国を破ってワールドカップ招致を勝ち取ったときに遡る。あの結果は予想外だった。

2022 FIFA World Cup

ペルシャ湾の国というと、欧米諸国にとって石油やガスの供給元、神秘主義やアラビアの豪奢な物語といったポジティブなイメージが報じられるが、アラブの国でワールドカップが開催されるとなると話は全く別だった。

欧州の関係者は、このニュースにすぐさま飛びついた。冬開催では、欧州の主要リーグの日程が乱れ、選手が疲労困憊してシーズンを終えることができないのではないか、と不快感を示した。もちろん、アラブの資金が欧州のトップリーグを支えていることを、彼らは都合よく忘れているのだ。

しかし日程を巡る混乱という言い訳が通用しなくなると、彼らは憤りの矛先を広げ、移民労働者やLGBTの権利という厄介な問題を持ち出して展開するようになった。カタール側は、移民労働者の権利を改善するために可能な限りのことをしている、FIFAはカタールにさらなる圧力をかけている、と説明したが、マスコミの大部分は満足しなかったようで、中でも英国のメディアは最も反感を持っていたようだ。

Gianni Infantino 2018/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Gianni Infantino 2018/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

英国メディアは自国でのLGBT問題を無視したままカタールの問題を書き立てた。そうした記事の論調は、ホスト国の地域社会が持つ感性に関わりなく、あたかも欧州人には、サッカーが159年前にイングランドで始まった以来、ファンが共感し観戦できる文化的なルールを設定するだけでなくそれを主張する責任があるというような態度であった。

こうした欧州からの批判にインファンティーノ会長が「偽善だ」と喝を入れたのには正当な理由がある。インファンティーノ会長は開幕前日の記者会見で、「欧州は道徳的な教訓を説く以前に、過去3000年間に世界中で行ってきたことについて、今後3000年間謝るべきだ。」と発言した。

しかし、偽善は、搾取、奴隷、権利意識という西洋の歴史的関係に組み込まれた欠陥であるだけでなく、今日も世界の他の地域、特にアフリカとアラブ世界との関わりにおいて、今なおその特徴を色濃く残しているのである。

西側諸国で近年開催された数々のスポーツや社会イベントの背後にも、虐待や大規模な強制移転の経緯があるが、今回のワールドカップカタール大会に対して示した態度とは異なり、西側のマスコミは 自国の裏庭で起こっていることについては見て見ぬふりをした。

1996 Atlanta Olympics--Olympic flag at track and field venue. Olympic Stadium. Crowd scene./  Content Providers(s): CDC/Dr. Edwin P. Ewing, Jr., Public Domain
1996 Atlanta Olympics–Olympic flag at track and field venue. Olympic Stadium. Crowd scene./  Content Providers(s): CDC/Dr. Edwin P. Ewing, Jr., Public Domain

例えば1996年のアトランタ・オリンピックの際、オリンピック関連の取り壊しによって推定3万人が家を失い、少なくとも6千人の住民が公営住宅から退去させられた。

移転を余儀なくされた人々の多くは黒人で、家や地域社会を根こそぎ奪われ、二度と元の生活を取り戻すことはできなかった。彼らはカタールの移民労働者と同じように保護され、生活への尊厳を得る資格があった。

そして、世界中のメディアがこうした人々の声を取り上げてしかるべきであった。しかし、それは明らかに過剰な要求だっだのか、或いは、社会的弱者の権利は、オリンピックから期待される利益と比較して、取るに足らないものだったのだろうか。

この記事を読んでいる間にも、2024年のパリオリンピックの会場建設のために、多くの非正規移民労働者がフランス当局によって不法に利用されているという報道がなされている。業者の強力なネットワークが数百人の移民を安い労働力として使い、パリ郊外のサン・ドニにある陸上競技場の建設に、恥じることなく配備しているのだそうだ。

欧米のメディアやそこにいる人権運動家たちが、まだサン・ドニや、そうした虐待が横行している欧米の他の場所に行く道を見つけられるかどうかはわからない。おそらくワールドカップカタール大会の後、彼らはこれらの現場で働く主にアフリカ系の数多くの移民労働者に関心を抱くのではないだろうか?

しかし、この偽善はスポーツの分野に限ったことではない。9月のエリザベス女王の埋葬を前に、ロンドンでは何百人もの「ラフ・スリーパー」、つまりホームレスの人々が、ウェストミンスター周辺やロンドンの多くの地域から排除され、辺境の隔離キャンプに追いやられたのである。

女王のダイヤモンドとプラチナのジュビリーの時も、彼らの存在が祝典の華やかさを損なわないよう、強制的に排除されるという同じ運命をたどったのである。このような弱者には何の権利もないことは明らかなので、彼らのために立ち上がることは、英国のメディアにとってほとんど興味のないことであった。

はっきり言っておく。カタールであろうとなかろうと、弱者から搾取し、甘い汁を吸うような政府などあってはならない。しかし、米国の経済学者トーマス・ソウェルがその著書『移住と文化』で雄弁に語ったように、経済史の現実として、貧困にあえぐ移民労働者の中から、将来の起業家や革新者の世代が生まれることはよくあることである。

ところで、移民労働者は命をかけて地中海を渡るアフリカ人たちだけだと考えている人たちは、インファンティーノ会長の両親がより良い環境を求めてスイスに移住したイタリア人であることを念頭に置いておくとよいだろう。

Al Bayt Stadium, Al Khor, Qatar/  Kabhi2011 - Own work, CC BY-SA 4.0
Al Bayt Stadium, Al Khor, Qatar/  Kabhi2011 – Own work, CC BY-SA 4.0

面白いのは、マスコミが移民労働に関してカタール政府をスケープゴートにするのは簡単で好都合だと考える一方で、移民労働の主な雇用主であり受益者であるカタールの欧米企業に対しては偽善的な沈黙を保っていることだ。

ロンドン証券取引所に上場している大手請負業者から、ニューヨークを拠点とする裕福なコンサルタントまで、出稼ぎ労働者という魔物は、欧米の強欲が植え付けた種を、カタールが唯一無二のイベントを演出するために育んだものである。そして、出稼ぎ労働者、LGBTの腕章、禁酒への不満などという煽りをよそに、ワールドカップカタール大会は結果的にどんなイベントになったか。

ブラジルなどの人気チームはカメルーンに敗れ、アフリカで最も優れたチームであるモロッコはベルギー、スペイン、ポルトガルを破り準決勝に進出、チュニジアは前回優勝のフランスを開幕戦で打ちのめした。

そして、大会が進むにつれて、英国のメディアが悪意を持ってモロッコ人をアフリカ人と呼んだり、アラブ人と呼んだりして混乱したことにお気づきだろうか?

アルゼンチンは、サウジアラビアに2-0で敗れたショックから立ち直り、ワールドカップ史上最も劇的な決勝戦で優勝トロフィーを勝ち取った。しかし、2022年カタール大会では、さらに多くのことが思い出されることになる。

FIFAが発表した2022カタール大会収益高は75億ドルで、前回の2018ロシア大会の収益46億ドルを大きく上回り、新たなベンチマークを打ち立てたことになる。2018ロシア大会の組織委員会の報告書によると、この大会は2013年から18年の間に140億ドル(=GDPの約1.1%)と約31万5000人の雇用をロシア経済にもたらしたとされている。

Doha corniche/ Spetsnaz 1991, CC 2.0
Doha corniche/ Spetsnaz 1991, CC 2.0

この大会は、石油資源の豊富なカタールに、今後数年間で170億ドル(アルコール禁止が利益に影響したものの)、観光でさらに数十億ドルをもたらすと予測されている。最も重要なのは、この成功により、ランドマーク的なスポーツイベントに少なからず興味を抱いていたカタールが、近い将来、オリンピックの招致に乗り出すという位置づけになったことだ。

FIFAのゼップ・ブラッター前会長が「間違いだ」と考えていたカタールでの開催が、サッカー史上最高の大会になったというのは、なんともパラドックス的な話である。

出稼ぎ労働をめぐる論争に始まり、カタールの首長がリオネル・メッシにアラブの民族衣装である「ビシュト」と呼ばれる半透明の黒いローブを着させた騒動で終わったが、カタール人は胸を張って、メディア、とりわけ欧米のメディアに成功を認めさせたワールドカップだったと言うことができるだろう。(原文へ

INPS Japan

*アズ・イシエクウェネはINPSの提携メディアLEADERSHIP紙の編集長。

関連記事:

ソマリアの著名な陸上競技選手が英国で奴隷にされた過去を伝えるドキュメンタリー

|視点|新型コロナで浮き彫りになる搾取的労働へのグローバルな構造的依存(ランダール・ハンセン トロント大学ムンクグローバル問題・公共政策校所長)

立場の違いを乗り越え「移住に関するグローバル・コンパクト」が最終合意される

|2022年|地球の脆弱性に関する黙示録的な警告

【国連IPS=マルチメディア】

IPS

(映像の字幕を日本語に翻訳)

2022年は、地球の脆弱性に対する黙示録的な警告であった。

そして人類の悲劇的な欠点を警告してきた。

それは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻で始まった。

そして、アフリカの飢饉で幕を閉じようとしている。

780万人以上のウクライナ人が国外に逃亡した。

そして、この戦争の影響は世界中に及んでいる。

基本的な生活必需品の価格は急騰した。

ソマリアはかつて小麦の90パーセントをロシアとウクライナから輸入していた。

そして今、アフリカの角地域を襲った過去40年間で最悪の干ばつに耐えている。

被災したコミュニティーの中で、女性と女児が「受け入れがたいほど高い代償」を払っている。- 国連人口基金(UNFPA)

2022 年は記録上最も暑い5年間に入る勢いだ。

農業と食糧安全保障が第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)のアジェンダに加わった。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の耕地土壌の25%以上が劣化している。

今日世界ではサッカー場1面分の土壌が5秒毎に浸食されている。

その結果、地球の生物多様性は壊滅的な打撃を受けている。

しかし、どの国がどの国に資金を提供するかは、まだ未解決の問題である。

途上国の小規模生産者に届く気候変動資金は、全体のわずか1.7%にとどまっている。

また、海外援助のうち、男女共同参画に主眼を置いたプロジェクトに使われる割合は8%程度にとどまっている。

2022年後半に一つの激震的なマイルストーンとなる出来事があった。

11月15日に80億人目の人類の誕生が祝われたのだ。

「この地球上に80億人目の人類を迎えました。この新生児の誕生は素晴らしい出来事です。しかし、人が増えれば増えるほど、地球に重圧をかけることになることも理解する必要があります。」( 国連環境計画事務局長インガー・アンデルセン)(原文へ

INPS Japan

関連記事:

ウクライナ戦争で頭もたげる冷笑主義

アフリカの干ばつ被害者への資金が大幅に削減され、欧州に資金が流れる

COP27の中心に農産物システムの変革を据える

|視点|「スカイシールド」ミサイル防衛構想と米・NATOの軍拡競争の激化(ジョセフ・ガーソン平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン議長)

【ニューヨークIDN=ジョセフ・ガーソン

ジョセフ・バイデン政権の最近の国家安全保障戦略は、冷戦後の秩序はもはや歴史であり、まだ名付けられていない新しい時代は、新しい秩序を形成するための軍事、経済、技術の競争によって定義されると表明している。北大西洋条約機構(NATO)のロシア国境への拡大、ロシアによるウクライナ侵攻と米・NATOの対応、そして中国との貿易戦争はすべて、地域と世界の覇権を巡る消耗と、時には殺戮を伴う闘争の主要な要素である。

ドイツが安全保障戦略を大転換したのもこの流れに沿ったもので、ウラジーミル・プーチン率いるロシアからの「存亡の危機」からドイツと欧州を守るためとして、軍事費の大幅な増加、東欧やマリへの派兵、さらに最近では数十億ユーロ規模のミサイル防衛構想「スカイシールド」の推進を打ち出している。

Map of Germany
Map of Germany

ロイター通信は10月13日、「ドイツと十数カ国のNATO加盟国は、同盟国の領土をミサイルから守る防空システムの共同調達を目指しており、イスラエルの高高度ミサイル防衛システム「アロー3」、米国のパトリオットミサイル、ドイツのIRIS-Tユニットなどを選択肢に考えている。」と報じた。このシステムは「欧州スカイシールド・イニシアチブ」と命名されている。スカイシールドは、統合的かつ相互運用可能なシステムという米国とNATOの公約に基づき、すべての参加国の短距離、中距離、長距離ミサイル防衛システムを完全に統合するよう設計されている。

10月に同防空システム構築を目指すとする趣意書に署名したのは、ドイツの他に、ベルギー、英国、スロバキア、ノルウェー、リトアニア、ラトビア、ハンガリー、ブルガリア、チェコ、フィンランド、オランダ、ルーマニア、エストニア、スロベニアである。

ディフェンス・ニュースは以前、「同盟国の中には1層の防空シールドのみに関心を持つ国もあれば、完全な防御体制を選ぶ国もあるだろう。」と報じており、将来的には限定された防空システムを拡張する機会もあるとしていた。

フランス、イタリア、トルコ、スペイン、ポーランドは既に独自の防空システムを持っているため未だ署名していない。今後も、NATO加盟国と非加盟国がスカイシールドに参加する可能性についての交渉が続くと予想される。また、米国は東欧の弾道ミサイル基地の一部をNATOから独立して運用し続ける予定である。

米国は、米国製の終末高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を優先するため、まだ署名していない。一方、ドイツのクリスティーン・ランブレヒト国防相は、イスラエルの高高度ミサイル防衛システム「アロー3」を採用するよう働きかけている。この議論は、どの国が資金を獲得して技術を決定し、政策的・戦略的に優位に立つかという古典的なせめぎ合いの再現であり、イスラエルの「アロー3」システムを採用する可能性に対してワシントンがどのような見返りを受け入れるかという不確実性が根底にあるように思われる。「アロー3」は米国製部品を含むため、米国は販売先に対する拒否権を持っている。

The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense - Successful Mission, Public Domain
The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense – Successful Mission, Public Domain

北はノルウェーから南はギリシャまで、NATOの東側を守ることを表向きの目的としたシステムを構築するには、少なくとも数百億ユーロの投資が必要である。とはいえ、度重なるミサイル防衛実験の失敗や、イスラエルやウクライナのミサイル防衛が露呈した能力の限界から、絶対防御とはミサイル防衛が提供できる範囲をはるかに超えていることは周知の通りである。通常兵器のミサイルに対して80%の信頼性があれば、完全ではないにせよ、意味のある防御を提供することができる。

ICAN
ICAN

しかし、核武装したミサイルの撃墜に20%もの失敗率があれば、想像を絶する惨状となり、地球の寒冷化、最悪の場合、核の冬になるかもしれない。注目すべきは、米国はロシアの極超音速滑空体や他の特殊な核兵器運搬システムに対する真の防御手段を未だ持ち合わせていないことである。

Defense-Aerospace.com は、スカイシールド計画に関連するドイツの思惑に焦点を当てた記事の中で、スカイシールド構想には産業政策上の影響があると報じている。「もし欧州諸国がアロー3とパトリオットミサイルの新型を採用すれば、重要な防衛分野における技術的ノウハウを米国に明け渡すことになり、米国がF-35戦闘機で達成したのと同じように、この分野を支配することが可能になる。」

この記事はさらに、「ドイツ政府がアロー3の購入許可と引き換えに、米国製防空システムの新規顧客を15カ国連れてくるのか、それともアロー3を購入したいが単独ではカバーできない費用の一部を負担してくれるパートナーを探しているのか、疑問が生じる」と報じている。

軍産複合体の無駄遣いかもしれないが、スカイシールドはもちろんお金以上の価値がある。シュピーゲル誌によれば、ドイツ連邦軍はドイツがロシアからの「実存的」な脅威に直面していると考えている。ロシアがウクライナに侵攻し、ミサイルや大砲によってウクライナのインフラ、とりわけ経済網が壊滅的な打撃を受けたことを考えれば、これは不合理な恐怖ではないだろう。

欧州諸国が怯える中、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、この戦争を戦後の欧州の「転換点」と位置づけ、ドイツの外交・軍事政策の転換を迫った。ドイツの「スカイシールド」構想は、ドイツが非ロシア系欧州軍事大国として主導権を握ろうとする20世紀を彷彿とさせる動きの一つであるように見える。

欧州外交問題評議会は、NATO加盟国のほとんどが「スカイシールド」に署名した理由を説明している。ロシアがウクライナに対して行った4000発以上の壊滅的なミサイル攻撃(最近ではウクライナのインフラに対するものも含む)からの教訓として、「ロシアは今後もウクライナやおそらくそれ以外の地域でミサイルを使い続けるだろう。 」と報告している。(このような戦争のやり方は、包囲戦の長い伝統の中にあり、米国のイラク戦争からわかるように、ロシア特有のものではない。) それゆえ、評議会の記事はこう続く。

Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.
Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.

スカイシールドは、「欧州がウクライナの窮状をよく観察し、自国の領空に対する潜在的脅威に対して先制的に行動していることを示唆している。」スカイシールドは、「ウクライナが現在直面している、異なる防空システムを統合し、その運用を調整する方法と同じ課題に取り組む必要がある」と説明し、戦争が新しい兵器システムや戦略の実験場となる伝統から、「ウクライナは現在その課題の実験場となっている。」と述べている。

欧州理事会は、ドイツが既にIRIS-Tシステムをウクライナに提供していることに触れ、「中期的には、ウクライナは欧州スカイシールド構想に参加でき、そうすることで同構想を大幅に強化できるはずである。」と説明している。NATOが2008年のブカレスト首脳会議で、ウクライナの加盟に門戸を開いていると宣言したことと合わせると、安全で中立的なウクライナを実現するための交渉には暗い兆しが見える。

NATO.INT
NATO.INT

もちろん、過去は過去であり、行動は意図しない結果も含め、必然的にその結果をもたらす。ロシアが国連憲章を破ってウクライナに侵攻した原因が、米国主導によるNATOの東方拡大であったように、スカイシールド構想の根底には、モスクワの野望がウクライナ以外にも及ぶかもしれないという欧州諸国の懸念がある。

また、ジョージ・W・ブッシュ政権が2002年に弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約を破棄したことでも、その勢いは増している。この条約は、かつて米国の軍備管理協会が「戦略的安定の礎」と評し、核軍拡競争に歯止めをかける役割を果たしたが、核優位性と、過去に行われたような核脅迫と強要を継続する能力を追求するために、不毛で自殺行為の可能性もある形で破棄された(特にイラク戦争の前夜に米国が行った1991年と2003年の核脅迫を見てほしい)。

ミサイル防衛は防御一辺倒ではなく、先制攻撃の剣を補強する防御の盾にもなるため、一世代前に軍備管理協会が警告したように、ABM条約の破棄は、それぞれが 「防御を補強するために攻撃のための核戦力を増強する」軍拡競争のスパイラルに陥っている。これにより人類は、「それぞれが相手の行動と均衡を保とうとするため、際限のない攻撃的な防衛戦力競争への道を歩む」ことになった。この力学は、東欧に拠点を置く米国とNATOのミサイル防衛システムが、核武装した巡航ミサイルの発射に転用されるのではないかというロシアの懸念によって、さらに複雑なものとなっている。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

注目すべきは、最近行われた米国、NATO、ロシアの現職、元職を交えたトラック2協議において、米国の参加者がウクライナ戦争終結のための交渉要請では不十分であると主張したことだろう。NATOの拡大(フィンランド、スウェーデンも含む)とロシアのウクライナ侵攻は、大国間の核戦争の危険を大幅に減少させた欧州と大西洋の戦略的安定の基盤を揺るがした。パリ憲章に始まる1990年代の欧州の安全保障秩序は、今や歴史となり急速に崩壊しつつある。

しかし、希望がないわけではない。私たちが直面している実存的な課題は、21世紀の共通の安全保障秩序を構想し構築することである。私たちは、外交によってウクライナとロシアの穀物取引が延長され、また最近行われた米露の軍高官による会談によって、建設的な交渉が可能であり続けることを目の当たりにした。

ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナだけでなく、米国とNATOも必然的に参加する交渉によってある時点で終結するとの認識がある。このような交渉は、スカイシールドをはじめとするミサイル防衛システムの根拠となる先制核攻撃ドクトリンの放棄を含む新たな欧米安全保障秩序を構築する第一歩となりうるものである。原文へ

INPS Japan

関連記事:

軍拡競争を引き起こしかねないミサイル防衛

|視点|核兵器の先制不使用政策:リスク低減への道(相島智彦創価学会インタナショナル平和運動局長)

ウクライナをめぐる核戦争を回避するために

危険に晒される先住民族の言語に警鐘を鳴らす

【ニューヨークIDN=J.ナストラニス】

第77回国連総会議長のチャバ・コロシ(元ハンガリー国連大使)氏は、12月16日に「先住民言語の国際の10年」を開始するにあたり、「先住民は、世界に残る生物多様性の約8割の保護者である。」と語った。

Csaba Korosi, President of UN General Assembly/ By Palácio do Planalto, CC BY 2.0

カナダのモントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)から戻ったばかりのコロシ議長は、「このイベントの目的は、先住民の言語を保護し、促進することにあります。そして、次の10年がその保護をどのように形成していくかを考えることです。」と語った。

「自然保護を成功させるためには、先住民の声に耳を傾け、それを彼らの言語で行わなければなりません。しかし、2週間に1つのペースで先住民の言語が死滅しています。先住民の言語が消滅するたびに、その言語に付随する文化、伝統、知識も消滅してしまうのです。」と、コロシ議長は指摘した。

北極圏のコミュニティが自分たちの言語で公共サービスを受けることを望み、コロンビアのアルワコ族が今もイカ語を話すなど、世界各地の先住民が母国語を守り続けようと決意している。

このような背景から2007年、国連総会は「先住民族の権利に関する宣言」を採択し、「先住民族の歴史、言語、口承、哲学、文字体系および文学を再生し、使用し、発展させ、将来の世代に伝える」権利を認めた。

「国際の10年」の宣言は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が世界的な取り組みを主導する「2019年国際先住民族語年」の重要な成果である。

ユネスコは、国連経済社会局やその他の関連国連機関と協力し、引き続き「国際の10年」の実施に向けた主導的な国連機関としての役割を担う。

国連経済社会局によると、先住民は世界人口の6%未満を占めるが、世界の約6700の言語のうち4000以上を話している。

UNESCO

しかし、控えめに見積もっても、今世紀末には先住民の言語の半分以上が絶滅するといわれている。

コロシ議長は、各国に対し、先住民族コミュニティと協力して、彼らの母語による教育や資源へのアクセスといった権利を保護し、先住民自身や彼らの知識が搾取されないように促した。

「そして、おそらく最も重要なことは、先住民族と有意義な協議を行い、意思決定プロセスのあらゆる段階で彼らと関わることです。」と助言した。

文化的アイデンティティと知恵

UNニュースは、先住民族と各国の国連大使が、先住民族の言語の保護と保全の必要性を訴えたと報じた。

メキシコのフアン・ラモン・デ・ラ・フエンテ大使は、22のメンバーからなる「先住民族フレンズグループ」を代表して、「言語は単なる言葉以上のものです。」と述べた。

「言語は、話者のアイデンティティと、民族の集合的な精神の本質です。言語は、人々の歴史、文化、伝統を体現しており、驚くべき速さで消滅しています。」と警告した。

UN Photo/Eskinder DebebeAmbassador Leonor Zalabata Torres of Colombia addresses UN General Assembly members at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.
UN Photo/Eskinder DebebeAmbassador Leonor Zalabata Torres of Colombia addresses UN General Assembly members at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.

コロンビアの国連大使であるアルワコ族のレオノール・ザラバタ・トーレス氏は、彼女の故郷で話されている65の先住民言語の一つであるイカ語で演説し、喝采を浴びた。

「言語は知恵と文化的アイデンティティの表現であり、私たちが祖先から受け継いだ日々の現実に意味を与えてくれるツールです。」と、スペイン語に切り替えて語った。

「残念ながら、言語の多様性は危機に瀕しており、その原因は、先住民の言語が劇的に減少し、多数派社会の言語に取って代わられることが加速しているからです。」

トーレス氏は、コロンビア政府が、強化、承認、文書化、活性化を柱とする先住民言語の国際の10年の実施に取り組む姿勢を強調したことを報告した。

言語と自己決定

「北極圏の先住民族コミュニティにとって、言語は政治的、経済的、社会的、文化的、精神的権利に不可欠です。」と、代表のアルキ・コティエク氏は語った。

コティエク氏はまた、「実際、先住民が先住民族の言語で言葉を発するたびに、それは自己決定の行為なのです。」と語った。

「先住民の言語や方言には、様々なレベルの活力がある。」というコティエク氏は、北極圏の先住民が「尊厳を持って自分たちの故郷に堂々と立ち、生活のあらゆる面で、自らの言葉で、健康、司法、教育の分野で不可欠な公共サービスを受ける」時代が到来することを思い描いている。

言語的公正に向けて

アフリカ社会文化圏の先住民代表であるマリアム・ワレット・メド・アブバクリン女史もまた、「先住民言語の国際の10年」の開始にあたり、国連総会で演説を行った。

UN Photo/Eskinder Debebe Ms. Mariam Wallet Med Aboubakrine, Indigenous peoples' representative of the Socio-Cultural Region of Africa, addresses the UN General Assembly at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.
UN Photo/Eskinder Debebe Ms. Mariam Wallet Med Aboubakrine, Indigenous peoples’ representative of the Socio-Cultural Region of Africa, addresses the UN General Assembly at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.

マリ出身の医師であるアブバクリン女史は、アフリカの先住民族、特にトゥアレグ族を擁護している。彼女は、各国に「先住民に言語文化的な正義をもたらすこと」を促し、それこそが和解と永続的な平和に貢献することになると語った。

アブバクリン女史は、国際の10年が国連条約の採択へと繋がり、「すべての先住民族の女性が、自分の言語で揺りかごの幼児をあやすことができ、すべての先住民族の子供が自分の言語で遊ぶことができ、すべての若者と成人がデジタル空間を含めて自分の言語で自己表現し、安心して働くことができ、すべての高齢者が自分の経験を自分の言語で伝えることができるようになる。」という希望を表明した。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

北極圏会議で注目を浴びる先住民族

|米国|国内で使用される言語トップ10にアフリカの諸言語が占める

先住民族が全ての権利の平等を主張

西側が直面する専制政治と神権政治の新同盟

0

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・カイサル】

世界の政治は、分極化の不穏な局面に達している。この状況の根底には、おもに米国が主導する民主主義国家と、ロシアと中国が主導する専制主義国家との間の闘争がある。しかし、ほかにも危険な側面がある。専制主義の大国とアフガニスタンのタリバンのような過激な神権主義勢力との密接な関係が浮上してきたことである。

1991年のソ連崩壊は、まぎれもなく西側に楽観主義の新時代を引き起こした。多くの人々、特に重要なのは当時の米国指導者の見解では、それが世に知られていた冷戦を終結に導き、共産主義に対する民主主義の勝利、息が詰まるような中央集権的社会主義に対する自由主義的資本主義の勝利を印象付けたのである。これを受けて、フランシス・フクヤマのような思想家は「歴史の終わり」を主張した。非常に挑発的な共産党独裁主義の中国や高飛車なロシアの台頭とともに、パワーが西側から東側へと目立たぬところで移ると気付いた者はほとんどいなかった。(原文へ 

同様に、ジョセフ・ナイが説いた力の拡散を予見し得た者も多くはなかった。その典型的な例が、アルカイダやイスラミック・ステートのような多国籍の暴力的過激主義グループやネットワークである。また、米国とNATOおよび非NATOの同盟国がアフガニスタンから敗北のうちに撤退し、その結果、2001年9月11日の米国テロ攻撃を実行したアルカイダをかくまったタリバンが、再びアフガニスタンで政権を握ることになるとは、概して思いもよらないことだった。あるいは、その点で言えば、現代の独裁者ウラジーミル・プーチンの権力への野心を体現するものとして、ロシアがウクライナを侵攻するということも予想外だった。

一方で、それ以上に当惑をもたらすのは、対立する国家グループを率いる二つの大国が、利害のうえで自国側につくならどの国でもおかまいなしに仲間に引き込んでいることだ。米国のジョー・バイデン政権は、当初外交政策で重視していた人権と民主主義的価値の推進を放棄してしまった。中国とロシアは、米国に敵対している、あるいはその可能性がある勢力なら相手かまわずすり寄っている。例えば、バイデンはいまや、かつてパーリア国家と呼んだ国(サウジアラビア)に再び歩み寄ろうとしており、イスラエルにパレスチナ領の暴力的占領をやめるよう圧力をかけるふりさえもしなくなっている。中国とロシアの指導者は、タリバンに対して非常に友好的になっている。

北京とモスクワは、もはやタリバンを過激派勢力ではなく同盟国になりうる相手として見ている。アフガニスタンのタリバン政権を公式承認してはいないものの、両国は緊密な外交関係を確立し、貿易・経済関係を結んでいる。

北京はタリバン指導者を大いに歓迎し、2国間関係を促進するため中国外相がカブールを訪問した。いまや中国は、アフガニスタン、特にその鉱業部門に対する最大の投資国となる構えで、アフガニスタンからの輸入品に対する関税を撤廃した。北京は非常に影響力の大きいプレイヤーとして浮上しつつあり、タリバンから望ましい経済的パートナーという宣言を得ている。

中国の影響力、アフガニスタンの二つの隣国であるパキスタンおよびイランと中国の経済的・戦略的パートナーシップ、そしてパキスタンによる決定的なタリバン支援により、北京は非常に強固な地域グループを築いている。中国の「神なき」世俗的共産主義が、タリバンのイスラム過激主義ともイランの政治的多元性を持った神権秩序とも都合よく付き合っている様子は、驚くべきものである。

同じことは、タリバン政権をほぼ承認しているロシアにも言える。ロシアは、タリバンがモスクワでアフガニスタン大使館を運営することを認めており、パキスタン以外でそれを認める唯一の国である。プーチンのアフガニスタン特使、ザミル・カブロフは近頃、ロシアはあらゆる実用的目的のため、タリバン政権を承認された存在として見なして対応すると発表した。

ロシアは、アフガニスタンに対して天然ガスを割安な価格で販売することを申し出ている。ただし、いずれのパイプラインを経由するかは明確になっていない。タリバンは、ロシアのウクライナ侵攻を支持しているため、百戦錬磨のタリバン戦闘員がロシア軍の前線に配置されている可能性はある。ロシアは、タリバンのイスラム過激主義が裏庭である中央アジアに広まることへの懸念をほとんど捨てており、タリバンも、1980年代にソ連がアフガニスタンを占領していた時期のロシア人の残虐行為を忘れ、プーチンがその専制支配の裏付けとしてキリスト教への信仰を改めて強化していることも見逃しているようである。

米国とその同盟国は、長期に及ぶウクライナ支援の態勢を整えている。これらの国々は、プーチン率いるロシアが欧州秩序、ひいては世界秩序の変更を狙う敵国であり、中国はインド太平洋地域における脅威であると断じている。二つの東側の大国は、支援を得られるなら相手かまわず手を結ぼうとしてきた。その相手には、アルカイダとつながりのあるタリバンや、アジア、中東、特にアフリカなど、世界各地に広がるその関連組織のような神権主義的勢力さえ含まれる。

 現在展開されている戦線は、冷戦時代よりもさらに世界情勢を微妙に、そして危険にしている。

アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。

INPS Japan

関連記事:

ロシアと中国がアフリカで協力関係を構築、米国は遅れをとる

アフガン・パラドックス:カブール陥落後の 中国、インド、そしてユーラシアの未来

新アフガニスタンに地政学的な足場構築を決意する中国

医療従事者は私たちを守ってくれるが、誰が彼女らを守ってくれるのか?

【ワシントンDC/オックスフォードIDN=ローパ・ダット、ベッキー・コックス】

新型コロナウィルス感染症の世界的流行(パンデミック)では、9割を女性が占める最前線の医療従事者の活躍に称賛の声が広がったが、その陰では、こうした女性医療従事者を標的にした悪質な行為が横行している。私たちの2つの組織は、彼女たちの安全と保護に関する問題が増えているという報告を受けたが、その中には「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」に関連するものもあった。この問題の規模を確認するためにデータを探したところ、正式に収集されたものはほとんどなかった。

そこで私たちは、それぞれのオンラインプラットフォーム「#HealthToo」と「Surviving in Scrubs(手術着で生き延びる)」を開設し、女性達自身の言葉で話を聞くことにした。被害を受けた女性医療従事者が匿名で体験談を投稿できるサイトを開設することで、医療現場で横行している虐待の実態と、それを隠蔽する力学をよりよく理解することを目指した。

グローバルヘルスにおける女性(Women in Global Health)の報告書「#HealthToo: 女性医療従事者にとっての安全な職場環境」は、虐待の種類と原因を示し、実現すべき制度改革への提言を行うものだ。

多数の投稿から、女性医療従事者達が、性差別的な発言や習慣、不本意な誘い、身体的暴行に至るまで、職場に関連した「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」を経験していることが明らかになった。その証言は暗いものばかりだ。

ナイジェリアの女性歯科医は、「ある日、男性の医師がドアを閉めてキスを求めてきたので、拒否しました。すると顔をひっぱたかれました。」と証言した。

セネガルでは、ある女医が診察の後、祖父ほどの年齢の男性に診察室に閉じ込められた際の経験を証言した。「彼は医療界で尊敬されている人でした。彼は、私の服装(制服)が悪いのだと言って、無理やり壁に押し付けてキスをしようとしたのです。」

また、メキシコ人の研修医が、上司から高評価と引き換えに性行為を求められるなどの嫌がらせに遭った例もある。「この上司は楽な道を示してやる。だが、もし申し出を断れば、失格にする。」と脅迫されたという。

ある米国のコミュニティヘルスワーカーは、嫌がらせをした人について、「彼は職場の人に大声で『なぜこの女を雇ったのか理解できない。他のマネージャーが職場の『かわいい顔』として雇ったに違いないと主張した。」と証言した。

「#HealthTooプロジェクト」の報告書で強調された2つの大きな問題は、①被害の規模を示す公式な統計が存在しないこと、②虐待の被害者の多くが、恐怖や汚名、報復を恐れて報告しないこと、であった。証言では、女性が報告する際に支援を得られないと感じたいくつかの事例が強調されている。

#HealthToo
#HealthToo

ガーナの医師は、「報告しなかったのは、私がことを荒立てていると見られると思ったからです。また、誰も私の言っていることを信じてくれないだろうし、同僚や上司を敵に回したくないという気持ちもありました。」と証言した。

「証拠はないし諦めました。」と証言したルワンダの女性医療技師も、同様の心情から裁判所に訴え出なかった。

スペインの看護婦も、「その男性が私にしたことを証明することは不可能だし、訴え出ても誰も私を信じてくれないと思いました。」と証言した。一方、エチオピアの看護婦の場合、「口外すれば退職させる」と脅されたと証言している。

女性たちが職場で経験した「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」に関する生々しい証言は、身体的傷や長期に亘る精神的なトラウマなど、女性に及ぼす深刻で有害な悪影響を示している。

職場における「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)は人権侵害であり、被害女性に正義が求められる。共有された個人的な体験談は、女性の安全を守れなかった世界の保健システムの不十分さを露呈している。このセクターの大多数を占める女性医療従事者は、虐待にさらされる環境で働いているだけでなく、多くの場合、環境そのものが虐待の横行を助長しているのだ。

この報告書は、国や状況に関係なく、男性に有利な力の不均衡が加害者にとって有利な環境を作り出し、虐待の主な根本原因の一つになっていることを明らかにしている。保健医療従事者の70%、現場スタッフの90%が女性であるにもかかわらず、保健医療分野の指導的地位の4分の3が男性によって占められている現状が大きな壁となっている。

特に低・中所得国では、性差別やセクハラを禁止する法律など、職場における男女平等を支援する法的枠組みがないことも問題を深刻にしている。

また、適切なインフラの欠如(共有の当直室、更衣室、暗い廊下)や、女性に対する虐待を矮小化し常態化する文化など、女性の安全に対する優先順位が低いことも要因として挙げられる。

地域や国の法律が必要な一方で、個々の職場は、この問題を認識し、内部告発の仕組みから義務的な研修や被害者の救済措置まで、安全策を提供する政策や慣行を導入しなければならない。

国際労働機関(ILO)の調査によると、職場での暴力は実質的にすべての経済部門とすべてのカテゴリーの労働者に影響を与えるが、職場における暴力事件の4分の1は保健部門で起きていることが明らかになった。

私たちのデータや、エチオピア、英国、エジプト、パキスタン、米国における様々な国内調査の報告書からも、「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」が世界の医療現場で横行している問題であることが明らかになっている。

世界レベルでは、2019年に採択されたILO条約190号について、ジェンダーに基づく暴力やハラスメントを含む暴力やハラスメントのない労働環境に対するすべての人の権利を認める画期的な条約として、一定の進展が見られた。この種のものとしては初の国際条約で、2021年6月25日に発効した。しかしながら、この画期的な条約を批准した国はその後僅か22カ国にとどまっている。

Tedros Adhanom Ghebreyesus/ WHO
Tedros Adhanom Ghebreyesus/ WHO

今こそ、ILO条約をさらに前進させ、加盟国が保健医療従事者をキャリアのあらゆる段階で「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」から保護するための世界基準を追加し、署名する時である。女性の保健医療従事者は、研修生や移住労働者が特に弱い立場にあり、日々人権侵害に苦しんでいる。

このような違反は、女性にとって大きな個人的犠牲を伴うものであり、保健医療サービスに大きな影響を与えるにもかかわらず、常態化しているのが現状である。特に女性が大量に離職する現象が続く中、2030年までに1000万人の保健医療従事者が不足すると予測されていることから、警鐘が鳴らされている。今こそ、世界の保健医療界が緊急に対応し、すべての保健医療従事者に安全で尊厳のある労働環境を提供すべき時だ。

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、「医療従事者の安全を確保しない限り、いかなる国、病院、診療所も患者の安全を確保することはできない。」と述べている。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

世界が直面している緊急の保健課題

「フェミニスト国連キャンペーン」、国連事務総長に有言実行を求める

パプアニューギニアで暴力の矢面に立たされる女性たち