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COP27の中心に農産物システムの変革を据える

【ローマIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

国連食糧農業機関(FAO)、国際農業研究協議グループ(CGIAR)、ロックフェラー財団は、11月6日から18日までエジプトのシャルムエルシェイクで開催される国連気候変動枠組条約第 27回締約国会議(COP27)で初めて食料・農業パビリオンを公式に主催する。

COP27は、世界的なパンデミック、気候危機による圧力の高まり、エネルギーや肥料の価格高騰、紛争の長期化といった複合的な影響に世界中のコミュニティが直面している時期に開催される。これらの影響により、生産とサプライチェーンは混乱し、特に最も脆弱な人々にとって世界規模の食糧不安は劇的に増加している。

2022 Global Report on Food Crises/ WFP

2022年の食料危機に関するグローバル報告書によると、2021年には53の国・地域で約1億9300万人が危機的またはそれ以上の深刻な食糧不安に直面し、数十年にわたる進展が損なわれている。

食料・農業パビリオンは、気候危機の解決策の重要な一部として、農業食料システムの変革を初めてCOPの議題の中心に据えることになる。

国連より承認されたパビリオンは、交渉が行われる会議場やオブザーバー団体主催の展示やサイドイベントが行われる「ブルーゾーン」に設置される。その目的は、人類と地球が直面している食糧と農業の最も差し迫った問題についての理解を深め、知識と革新的な解決策を共有することである。

様々なイベントが開催され、農業・食品システムを保護するために各国が効果的な気候変動対策を講じるための革新的なソリューションが紹介される予定だ。

Qu Dongyu、Director-General of FAO/ By World Trade Organization – World Cotton Day — 7 October 2019, CC BY-SA 2.0

FAOの屈冬玉事務局長は、「COP27では、気候変動と科学・イノベーションの2つのテーマ別FAO戦略を立ち上げ、相乗効果を発揮する予定であり、食糧と農業のパビリオンを設置することを誇りに思います。」と語った。

「このパビリオンは、農民や若者を含む地域、国、世界の関係者を招集し、農業食糧システムをより効率的、包括的、弾力的かつ持続可能に変革し、飢餓と栄養不良の撲滅に向けた努力から誰も置き去りにしないためのソリューションを模索します。」

CGIARのクラウディア・サドフ事務局長は、「気候危機における食糧、土地、水のシステム転換を支援することはCGIARの使命であり、そのリスクは今までになく高いものとなっています。何百万人もの人々が食糧不安の瀬戸際に立たされ、零細農家の生活への脅威が増しています。私たちは、FAOとロックフェラー財団と協力し、これらの重要な問題が今年のCOPの議題として確実に取り上げられることを光栄に思います。」と語った。

ロックフェラー財団のラジブ・J・シャー会長は、「気候変動は人類にとって唯一無二の脅威であり、人類と地球の両方に栄養を与える、公平で、弾力性のある、持続可能な食糧システムを構築しない限り、この問題に完全に対処することはできません。食料システムを変革するための優れたアイデアや行動は誰のものでれ歓迎すべきものであり、私たちはそうした知識を共有できるプラットフォームを支援できることを誇りに思います。」と語った。(原文へ

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|視点|「女性・命よ・自由を!」の叫びに圧倒されるイラン(ルネ・ワドロー世界市民協会会長)

【ジュネーブIDN=ルネ・ワドロー】

イラン・イスラム共和国の各地で「女性・命よ・自由を!」という叫び声が上がっている。この抗議運動がどの程度の規模で行われ、具体的にどのような改革が要求されているのか、事前に知ることはできない。しかし政府は不安を感じている。10月3日、最高指導者のアリ・ハメネイ師は、陸軍士官学校での講演で抗議運動に対する弾圧を正当化し、今回のデモは米国とイスラエルの仕業だと語った。

The beginning of the First vice squad of guidance patrol in Tehran – 22 April 2006/Fars Media Corporation, CC 4.0,

2022年9月13日、髪の毛を隠すために身につける布「ヒジャブ(ヘジャブ)」のつけ方をめぐって22歳のマフサ・アミニが「道徳警察」に逮捕された後に急死した事件を受け、抗議運動が始まった。彼女はクルド人であった。抗議は当初、イラン国内のクルド人地域で始まったが、まもなくすべての民族と多くの地域に広がった。

しかし、イラン政府はクルド人、特に隣国イラク国内のクルド人からのデモへの支持が拡大し、多民族間の緊張が高まることを懸念している。イランは9月28日にも、イラク北部のクルド人地域の武装勢力を標的にミサイルと無人機で攻撃を行ったばかりである。

イラン・イスラム共和国は社会政策として女性問題に焦点をあててきた。1979年に政権を取る前から、フランスに亡命中のホメイニ師は、パフラヴィ―朝イラン治世下で女性に認められた自由が大きすぎることが自分の政策の障害になっていると語っていた。ヒジャブ着用義務など、女性に対する抑圧的な政策はイラン・イスラム革命後すぐに実行に移された。

アフガニスタンのタリバンとは異なり、イランでは女性が高等教育を受けることは禁じられていない。現時点でイランの大学生の約65%が女性であると言われている。多くの女性が社会の中で重要な役割を担っているが、目立たないようにし、規則に沿った服装をし、少なくとも人前に出るときは男性の支配下に置かれなければならない。

今、多くの女性と一部の男性によって宣言された「女性・命よ・自由を!」の叫びは、変化の兆しを示している。明らかに、指導者のハメイネイ師と保守派のエブラヒム・ライシ大統領率いる政府はこの抗議運動を警戒しており、警察、革命防衛隊、その他の準軍事的な軍隊が動員されている。

デモ参加者の中には、推定100人が死亡し、負傷者も出ている。逮捕者の数は不明。ジャーナリストは取材を妨害され、インターネットサービスも遮断されたり、不規則になったりしている。したがって、イラン国内でデモを捉えた写真は限られている。

イランではこれまでにも抗議行動の波があったが、政策に大きな変化をもたらすことはなかった。しかし、今回の抗議行動には、主に若者が主導する新しい気運が見られるとみる向きもある。「女性・命よ・自由を!」は今後大きな波となる可能性があり、注視する必要がある。(原文へ

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途上国、2030年を前に持続可能な開発目標達成はすでに困難か

【国連IDN=タリフ・ディーン

米国の政治家である故エヴァレット・マッキンリー・ダークセンの有名な言葉がある。「こちらに何十億ドル、あちらに何十億ドルと、(国の予算要求などでは大きな金額を各省庁が出してくるが)、すぐに実際にお金を工面する段階になっててんやわんやすることになる。(= 「机上の空論」ではいくらでもお金を出せるが、実際の話になると大変なことだ。)

Everett Dirksen/ Public Domain

おそらくこのセリフは、国連の17項目の持続可能な開発目標(SDGs)に当てはめるべきものかもしれない。途上国は、2030年までにこれらの目標を達成すべく、数十億ドル―今やそれは数兆ドルに跳ね上がりつつあるのだが―の確保という厳しい闘いを続けている。

しかし、ただの口約束だけではなく本当のお金を求めたこの訴えは、世界中で昂進するインフレ、西側ドナーによる開発援助の大幅削減、ウクライナ戦争の余波、コロナ禍に伴う都市封鎖(ロックダウン)が引き起こした悪影響などを原因とした資金不足によって、実質的に損なわれている。

「持続可能な開発目標の達成に向けて軌道に乗れない理由は主に2つある」と語るのは、「人権と環境に関する国連特別報告官」のデイビッド・ボイド氏である。彼は10月21日、国連総会に対して自身の報告を発表した。

David R. Boyd/ UNOHCHR

「第一は、諸国はSDGsを、本来は国際人権法に明確な根拠を持っている内容であるにも関わらず、単なる政治的願望と誤解していることである。すべての目標と、169のターゲットのうちの93%以上が国際人権条約に直接関連したものだ。」

「第二の問題は、目標達成に必要な資金が著しく不足していることで、毎年4兆ドル以上が不足している。」とボイド特別報告官は指摘した。

彼の報告書は、持続可能な開発目標達成に向けて毎年最大7兆ドルを確保可能な資金源について指摘している。

カリフォルニアにある著名な政策シンクタンク「オークランド研究所」のアヌラダ・ミッタル氏はIDNの取材に対して、資金調達に関する特別報告官の勧告を迅速に実行に移すべきだと語った。

貧困層と環境を犠牲にして富を蓄えてきた富裕層に課税し富の再分配を図ることが唯一の解決策だ、とミッタル氏は指摘した。

「億万長者たちはロケットに乗って『最高の一日』を宇宙空間で満喫でき、税金を払わず、政府を通じて政策を取り込むことができる一方で、数十億人の人々は人間の尊厳を満たす基本要素である安全な飲み水や食料を手にすることすらできていない。」

Anuradha Mittal/ Aukland Institute

ミッタル氏は、「国が公的資金を必要とするのは、政府が統治し、国民のためになる制度、政策、プログラムを導入するためです。しかし現実には、いわゆる『開発機関』が、億万長者たちや企業が世界を支配し続けられるように『ビジネスに親和的』な環境を作り出して支援しています。」と語った。

ボイド特別報告官は、「2030年に向けて世界が折り返し地点を回る中、現在の状況は、ほぼすべての国がほぼあらゆるSDGsとターゲットを達成できないであろうことを示しています。その場合、何十億もの人々が悲惨な状態に留め置かれ、すべての人にとって地球の未来の住みやすさが損なわれてしまいます。」と語った。

「他方で、SDGsが達成できれば、数十億もの人々の生活の質を劇的に改善し、すべての形態の生命を維持するために必要なこの稀有な地球を守ることにもつながります。」と指摘した。

Pooja Rangaprasad/ UN Photo

「国際開発協会」政策ディレクター(開発金融問題)のプージャ・ランガパラサッド氏は、国際租税回避や持続不可能かつ非合法な債務のようなグローバル経済上の大きな問題に取り組まない限り、SDGsの公約が満たされることはないだろうと語った。

数兆ドルの公的収入が、多国籍企業や裕福なエリートによる大規模な国際的租税回避を止めることができないために失われている。

ランガパラサッド氏は、「私たちは、民間部門もSDGsに貢献すべきであり、そのことは各国政府が民間や企業の富に対してより効果的な課税を行うことから始まるという認識を持っています。」と指摘したうえで、「このことを迅速に始めるための解決策が不足しているわけではありません。」と付け加えた。

9月の国連総会では、「G77プラス中国」がアフリカグループと共に、この欠陥のある国際課税体系の問題に対処するために国連での交渉を求める決議案を提出した。

同決議案は、「私達は、これらの解決策を実行し、SDGsを実行する財政的裏付けを得るために、世界の富裕国こそが主導すべきだと考えている。」と述べている。

ボイド特別報告官は、「今日のグローバル経済は、人々の搾取と地球の搾取という2本の柱に基づいており、これらは根本的に不公正で持続不可能であり、人権の完全な享受とは相容れないものである。」と指摘した。

SDGsは、経済を転換し、不平等を緩和し、環境を保護することによってこれらの問題に対処することを目的としている。

例えば、裕福な個人や公害に対する新たな課税、低・中所得国に対する債務免除、課税の抜け穴解消、環境破壊的な活動から持続可能な活動への補助金の振り向け、海外援助及び気候関連金融に対する長期的な公約の実行といったことが挙げられる。

ボイド特別報告官は、「クリーンで健康で、持続可能な環境に対する人権を国連が近年認知したことが、持続可能な開発目標を達成するための行動を加速させる触媒となることだろう。」と指摘したうえで、各国に対して、「大気の質を向上させ、誰もが安全で十分な水を利用できるようにし、工業型農業を健康で持続可能な食糧生産に転換し、世界の気候・エネルギー危機への対処に必要な行動を加速し、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換え、生物多様性を保全・保護・回復するために人権基準に基づく(ライツ・ベースト)行動を直ちに取るよう訴えた。

また、ポスト2020生物多様性枠組の中心に人権に基づくアプローチ(RBA)を確保し、人々の身体と地球を無害化するよう各国に呼びかけた。

「持続可能な開発目標の17項目のそれぞれに人権に基づくアプローチを提供することは、効果的かつ平等なアクションを実施し、脆弱かつ周縁化された人々を優先し、『誰も置き去りにしない』SDGsの原則を実現する最善の方法です。」とボイド特別報告官は語った。

17項目からなるSDGsには、極度の貧困と飢餓の撲滅、経済的不平等と男女格差の解消、ヘルスケアの改善、持続可能なエネルギー、環境の保護、持続可能な開発のためのグローバルパートナーシップなどが盛り込まれている。

Frederic Mousseau/ Aukland Institute

「オークランド研究所」の政策責任者フレデリック・ムソー氏は、IDNの取材に対して、「各国政府が与信者や金融市場から経済成長という単一の目標を追求するように強要されているときに、世界がSDGsを達成できると期待するのは非現実的だ。」と語った。

ムソー氏は、経済成長が人間開発の引き金になるとの観念は、トリクルダウン理論が機能していない現実を無視していると指摘した。逆にこの観念は、富んでいる者をさらに富ませ、貧しい者と環境をさらに貧しくするという不平等を永続化させている。

「SDGsを推進するエンジンとして支持されている経済モデルは、自己利益と利潤を優先する既得権益によって動かされています。ボイド特別報告官は正しい診断を下し、合理的な勧告を行っています。」と、ムソー氏は指摘した。

ムソー氏はまた、工業型農業の段階的廃止は、問題を例証する賢明な提言の一つであると語った。アブラヤシ、アグロ燃料、飼料用のプランテーションを設立し、企業が商品を輸出できるようにするために、コミュニティーは移転を強いられ、生活は破壊され、水源は汚染され、森林は荒廃している。

ムソー氏は、「搾取的農業モデルは、経済発展を約束するものであるが、現実には、地域社会は破壊され、農民はプランテーション労働者にさせられ、『南』の豊かな生物多様性が富める者のために商品作物化され、『南』の経済は略奪され植民地化されている。」と主張した。(原文へ

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平和に貢献する女性への支援の遅さ

【ニューヨークIDN=キャロライン・マワンガ】

22年前に採択された画期的な国連決議で定められた年次報告をアントニオ・グテーレス事務総長が発表したことを受けて、「女性・平和・安全に関する安保理公開討論」が先ごろ開催された。この中でアミナ・モハマド国連副事務総長は、女性の人権擁護とさらなる包摂の促進は、平和と安全をもたらす戦略として既に証明されたものであると語った。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

グテーレス事務総長はその年次報告で「2000年以降の規範的な合意があり、ジェンダー平等が持続的な平和と紛争予防への道を提供するとの証拠があるにも関わらず、事態はその反対方向に向かっています。今日、世界では女性の人権に関してこの世代を通じて勝ち取られてきた成果がなきものにされようとする一方で、暴力的な紛争や軍事支出の増大を目の当たりにしています。」と語った。

グテーレス事務総長はさらに、「民主的で包摂的な政治に対する最近の挑戦は、女性嫌いと権威主義は相互に強化し合い、安定し繁栄する社会と相反するものであることを改めて示しています。一部の国では、暴力的な過激グループと軍関係者が力で権力を奪取し、ジェンダー平等に関する過去の公約を取り消し、女性が発言をしたり単に日常生活を送ろうとしたりするだけのことを理由に迫害しています。」と語った。

Amina J. Mohammed/ UN Photo
Amina J. Mohammed/ UN Photo

モハマド副事務総長は、「今日の世界において平和が危機的状況にあることは、家父長制の破壊的な影響と女性の声を圧殺する傾向と切り離すことができません。紛争の激化から人権侵害の悪化まで、私たちが直面している課題は、多くの点で女性の権利の踏みにじりと、世界中に深く根付いた女性差別と関係しています。従って、政治・経済・社会の構造やそれを維持する規範にも挑戦することが必要です。」と語った。また、「女性、平和、安全保障の課題は、歴史的な過ちや疎外に対する答えというだけでなく、これまでとは異なる方法で物事を進める機会でもあります。(女性に対して)包摂と参加への扉を開くとき、私たちは紛争予防と平和構築において大きな一歩を踏み出すことができるのです。」と指摘したうえで、選挙監視、治安部門改革、武装解除、動員解除、司法制度などの領域で、女性の包摂を促進するためのクォータ制の導入など、完全なるジェンダー平等を呼びかけた。

またモハマド副事務総長は、「あらゆるレベルにおける女性の参加が、この20年にわたる国際社会による平和と安全へのアプローチの方法を変えるにあたって中心的な役割を果たしてきた。」と述べる一方で、その進歩は、統計が示すように『あまりに遅い』と指摘した。

例えば、1995年から2019年の間で、ジェンダー平等の条項を含めた和平合意の割合は14%から22%まで増えたに過ぎなかった。すなわち、全体の8割の協定はジェンダーの問題を無視している。

さらにこの間、女性は平均して、交渉人の13%、仲介人の6%、主要な和平合意への署名者の6%を占めるに過ぎない。

「和平プロセスへの女性の参加と、女性の生活を左右する決定への影響力の行使は大幅に遅れた状態にあり、包摂的で耐久性があり、持続可能な平和への障壁となっています。私達は事態を改善できるはずだし、今やらねばなりません。」とモハメド副事務総長は語った。

UN Women Executive Director Sima Bahous.
Photo: UN Photo/Evan Schneider.
UN Women Executive Director Sima Bahous.
Photo: UN Photo/Evan Schneider.

UNウィメン」のシマ・サミ・バホス事務局長は挨拶で、地域や世界のために行動することで自らの命を危険に晒している女性人権活動家たちの窮状にも言及した。

バホス事務局長は、国連高等人権弁務官事務所は、過去1年間に国連への協力に対する脅迫や報復があった350件近い個別事例のうち、60%が女性に関するものだったと報告した。

UNウィメンの調査ではまた、国連安保理に対して情報提供した女性の市民団体関係者の約3分の1がやはり報復を受けたことを明らかにしている。

バホス事務局長は、女性の人権活動家やその団体に対して、物質的・政治的支援を行ったり、女性であることを理由とした弾圧に対する保護や一時的移転、一時的保護地位の付与などのための立法を行うことといった措置を呼びかけた。

さらに、「女性を疎外することで安全が保たれると考える人がいないように、はっきりさせておきましょう。安全への配慮から女性の居場所やアクセス、資金を奪うことは、加害者を増長させ、彼らの目には彼らの戦術を正当化するように映るのです。」と指摘した。

バホス事務局長は、包括的で持続可能な平和に不可欠な女性の参加の価値を支持し、平和プロセスや議会、コロナ対策のような別の文脈における女性の参加率の低さを嘆いた。

「私たちは何をすべきかをよく理解しています。クォータ制や一時的な特別措置は、こうした不均衡を是正し、意思決定における平等を促進する最良の手段であり続けています。」

またバホス事務局長は、言葉を現実にするための重要な手段の一つである資金について、「女性のリーダーシップ、女性の市民社会組織、そして紛争状況における女性の人権擁護者を支援することが火急の課題であり、以前にもまして意味を持つようになってきている。」と語った。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

女性・平和・安全保障に関する行動計画」を策定する国が、10年前の37か国と比較して103か国にまで伸びてきていることはよい傾向だが、課題の大きさに対応する資金によって支えられて初めて、その約束を果たすことができる。

2021年、人道危機下におけるジェンダーを基礎とした暴力を予防し対処するための資金には72%の不足が生じていた。ジェンダー平等に対処するために脆弱かつ紛争下の文脈に対して行う二国間援助の割合は、わずか5%である。

最も必要とされている、紛争下にある国々の女性団体への資金提供は、2019年の1億8100万ドルから2020年の1億5000万ドルへと減少してしまっている。アフガニスタンでは2022年、女性市民団体の77%に対して全く資金援助がなく、活動をもはや続けることができなくなっていた。ミャンマーでは、女性団体のおよそ半分が2021年のクーデター後に閉鎖を余儀なくされた。

こうした中、UNウィメンのバホス事務局長は、国際社会に対して、この傾向を逆転させるよう促した。「そうすることができる立場にあるすべての人々は、紛争下におけるジェンダー平等への資金提供を強化してほしい。もしそれができなければ、私達の公約は果たせないということになります。」(原文へ

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【ニューヨークIDN=アリエル・ゴールド、メディア・ベンジャミン】

ロシアへの厳しい非難と評された2022年のノーベル平和賞は、ベラルーシの人権擁護活動家のアレシ・ビャリャツキ氏、ロシアの人権団体メモリアルとともに、ウクライナの人権団体「市民自由センター」に授与された。一見すると、ウクライナの「市民自由センター」はこの栄誉にふさわしい団体のように思えるが、ウクライナの平和活動家ユーリイ・シェリアジェンコ氏は、刺々しい批判を書き込んでいる。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

「ウクライナ平和主義運動(UPM)」の事務局長で「良心的兵役拒否のための欧州事務局」の理事を務めるシェリアジェンコ氏は、「市民自由センター」が米国務省や全米民主主義基金といった問題のある国際的な援助団体の思惑を受け入れていると非難している。

全米民主主義基金は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持し、ロシアとの交渉は不可能と主張し、妥協を求める者を辱め、西側が危険な飛行禁止区域を設けることを望み、ウクライナで人権侵害をしているのはプーチンだけだと言い、親ロシアのメディア、政党、公人を弾圧するウクライナ政府を批判せず、ウクライナ軍による戦争犯罪と人権侵害を批判せず、国際法で認められた軍役拒否という人権の擁護には立ち上がろうとしない。

良心的兵役拒否者を支援するのが、シェリアジェンコ氏と彼の組織であるウクライナ平和主義運動の役割である。ロシアの戦争抵抗者のことはよく耳にするが、欧米のメディアではロシアとの戦争で完全に結束した国として描かれているウクライナ国内にも、戦いたくないと思う人々がいるとシェリアジェンコ氏は指摘する。

ウクライナ平和主義運動は、分離主義者が支配するドンバス地方での戦闘がピークに達し、ウクライナ政府が国民に内戦への参加を強いていた2019年に設立された。シェリアジェンコ氏によると、ウクライナの男性は 交通違反や公共の場での泥酔、警察官への何気ない無礼など、ちょっとした違反で路上やナイトクラブ、寮から軍召集をかけられたり、兵役にさらわれたりしていたという。

American social reformer, Jane Addams/ Public Domain
American social reformer, Jane Addams/ Public Domain

さらに悪いことに、2022年2月にロシアが侵攻したとき、ウクライナ政府は国民の良心的兵役拒否権を停止し、18歳から60歳までの男性の出国を禁じた。それでも2月以降、10万人以上のウクライナ人徴兵予定者が国外へ脱出し、さらに数千人が拘束されたと推定されている。国際人権法では、原則的な信念に基づいて軍事紛争に参加することを拒否する人々の権利を認めており、良心的兵役拒否には長い歴史がある。1914年、差し迫った戦争を回避するために、欧州のキリスト教徒が良心的兵役拒否者を支援するために「国際和解の会」を結成した。米国が第一次世界大戦に参戦した時、社会改革者で女性の権利活動家であるジェーン・アダムス氏は抗議した。アダムス氏は厳しい批判を浴びたが、1931年には米国人女性として初めてノーベル平和賞を受賞した。

ロシアでは、何十万人もの青年が戦いを拒否している。ロシア連邦保安庁の関係者によると、ロシアが30万人の「部分的動員」を発表してから3日以内に、26万1千人が国外に逃亡したという。

飛行機を予約できる者は飛行機で、それ以外の者は車や自転車、徒歩で国境を越えた。ベラルーシ人もまた、国外脱出に加わっている。良心的兵役拒否者や脱走兵を支援する欧州の団体「コネクションe.V.」の推計によると、戦争が始まって以来、徴兵資格を持つベラルーシ人2万2000人が国外に逃亡したという。

ロシアの組織「コフチェグ」(方舟)は、反戦の立場、ロシアのウクライナへの軍事侵攻への非難、ロシアでの迫害などを理由に逃亡するロシア人を支援している。ベラルーシでは、ナッシュ・ドムという団体が「NO means NO」キャンペーンを行い、徴兵資格のあるベラルーシ人に戦わないように勧めている。徴兵拒否の罰則は、ロシアでは最高10年の禁固刑、ウクライナでは最低でも3年、おそらくそれ以上で、審理や判決は非公開である。戦わないことは平和のための高貴で勇気ある行為であるにもかかわらず、コフチェグもナッシュ・ドムもウクライナ平和主義運動も、ノーベル平和賞受賞団体には選ばれなかった。

White House Principal Deputy Press Secretary Karine Jean-Pierre holds a press briefing on Thursday, July 29, 2021, in the James S. Brady Press Briefing Room of the White House/The White House - P20210729CS-0032, Public Domain
White House Principal Deputy Press Secretary Karine Jean-Pierre holds a press briefing on Thursday, July 29, 2021, in the James S. Brady Press Briefing Room of the White House/The White House – P20210729CS-0032, Public Domain

米国政府は名目上、ロシアの戦争抵抗者を支援している。9月27日、ホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は、プーチン大統領の徴兵から逃れたロシア人は米国で「歓迎」されると宣言し、亡命を申請するよう奨励した。しかし、ロシアがウクライナに侵攻する前の昨年10月の時点で、米露の緊張が高まる中、米国政府は今後、ロシア人へのビザはモスクワから750マイル離れたワルシャワの米国大使館を通じてのみ発給すると発表している。

さらに、ホワイトハウスは、ロシア人の米国亡命の希望に水を差すかのように、徴兵資格を持つロシア人に米国での亡命を勧めたのと同じ日に記者会見を開き、バイデン政権は、2022年度の世界からの難民受け入れ枠12万5000人を2023年度まで継続することを発表した。

この戦争に抵抗する人々は、ベトナム戦争から逃れた米国人がカナダに避難したように、欧州の国々に避難先を見つけることができると思うだろう。実際、ウクライナ戦争が初期段階にあったとき、シャルル・ミシェル欧州理事会議長は、ロシア兵に脱走を呼びかけ、EU難民法の下での保護を約束した。しかし、8月、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、欧米の同盟国に対し、すべてのロシア人移民を拒否するよう要請した。現在、ロシアからEU諸国へのビザなし渡航はすべて停止されている。

プーチン大統領による部分的動員令発表後、ロシア人男性の国外脱出が増加すると、ラトビアはロシアとの国境を閉鎖し、フィンランドはロシア人に対するビザ発給を厳格化する可能性が高いと発表した。

もしノーベル平和賞の受賞者が、戦争抵抗者や平和構築者を支援しているロシア、ウクライナ、ベラルーシの団体であったなら、この勇敢な若者たちに世界の注目が集まり、おそらく彼らが海外で亡命する道も開けたことだろう。

また、ジョー・バイデン大統領が「核のハルマゲドン」と警告するほど危険な戦争を終わらせるための交渉を進めず、米国がウクライナに際限なく武器を供給していることについて、必要な交渉を始めることができたかもしれない。それは確かに、アルフレッド・ノーベル氏の「国家間の友好と常備軍の廃止または削減を推進するために最も、あるいは最良のことをした人たち」に世界的な評価を与えたいという願いに沿ったものであっただろう。(原文へ)

アリエル・ゴールドは、米国で最も古い平和組織「和解のフェローシップ」の事務局長。以前はCODEPINKの国内共同ディレクターとして、Peace in Ukraine連合の運営に携わっていた。メディア・ベンジャミンは、米国の戦争と軍事主義の廃絶を目指して活動する女性主導の草の根組織反戦団体CODEPINKの共同創設者であり、「War in Ukraine Making Sense of a Senseless Conflict」など多数の著書を持つ。

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョリーン・プレトリウス】

本稿は、2022年6月24日(金)に戸田記念国際平和研究所とウイーン軍縮不拡散センター(VCDNP)が同センターにて開催した研究発表会において、ジョリーン・プレトリウス准教授が行った発表のテキストです。当日は、“The Nuclear Ban Treaty: A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order” (Routledge, 2022)の出版記念イベントも開催されました。

私が担当した章では、核兵器禁止条約が持つ力について考察した。章の着想源となったのは、オーナ・ハサウェイとスコット・シャピーロによる2017年の著作『逆転の大戦争史』』である。同書において彼らは、1928年のケロッグ・ブリアン条約、より正式には「国策の手段としての戦争の放棄に関する一般条約」がいかに国際システムを変えたかを示している。この本から私が得た教訓は、禁止とは抽象的道徳の発揮ではなく、権力の問題に関わるということだ。とりわけ重要な点は、人々がいかにして言説の力を集結して国際システムのルールや運用を変更し、それによって侵略戦争が“不可と見なされる”ようになったかである。“不可と見なされる”という表現が意味するところは、侵略戦争が二度と起こらないということではなく、その違法性が個人、組織、国家、国際レベルでのディスインセンティブとなり、戦争が1928年以前のような通常の慣行ではなく逸脱になったということである。また、戦争行使へのディスインセンティブは、紛争の平和的解決へのインセンティブによってさらに強化され、前記全てのレベルで平和のための仕組みが構築されるようになった。(原文へ 

私が担当した章では、このように、行為主体が核兵器の取得、開発、備蓄、使用、使用の脅しといった核兵器活動を“不可と見なす”ようになるために、核兵器禁止条約がいかなる役割を果たしているかを検討している。確かに、核武装国やそのほとんどの同盟国は核兵器禁止に加わっていない。それでも、人道イニシアチブが持つ言説の力に基づいた永続的変化に向けて、禁止条約がさらなる一歩となり得ること、そして、条約に加盟した全ての国において核兵器活動が違法となったことの実際的影響について説明する。禁止条約の力は、締約国の遵守を寄せ集めただけのものではない。国際慣習法としての地位が予期されており、そのため、核兵器禁止条約(TPNW)不参加国も準拠する既存の国際法制度に組み込まれるのである。この条約を中心として、核兵器のない世界の実現に必要な政治的努力がなされている。私が見る限り、このような政治的努力は、国家、個人、組織が核活動に従事することへのディスインセンティブをもたらすと同時に、非核化や核の自制を相互に保証するインセンティブ構造を構築している。

ロシアによるウクライナ侵攻以来、私は、この戦争が核秩序にどのような影響を及ぼすかに関するいくつかの議論に参加し、その都度、本末転倒の論理に私たちは陥っていると訴えている。問題は、核不拡散条約(NPT)の弱点、抜け穴、実行力の欠如、そして無期限延長後の核武装国の思い上がりが、いかにロシアによるウクライナ侵攻や他の侵略戦争(2003年の米国によるイラク侵攻、2006年のイスラエルによるレバノン侵攻、今後起こる戦争など)を許したか、ということであるべきだ。そのためには、国策の手段としての戦争の禁止と核兵器の禁止という、二つの禁止の相互作用を検討することが有益である。

侵略戦争に対する人類の考え方に生じた心理的変化は、1928年にケロッグ・ブリアン条約によって成文化され、1945年に国連憲章に盛り込まれた。しかし、それは、日本への原爆投下の後になされた核による平和という詭弁によって影が薄れ、力を奪われた。バーナード・ブローディが、核の時代において米国の軍事体制の主要な目的は、戦争に勝つことではなく戦争を避けることであると勧告し、それにより、核兵器には戦争抑止による軍事的有用性があるという考え方が生まれ、そこから、核兵器には平和維持と国際的安定性の維持による政治的有用性があるという考え方が生まれた。ハサウェイとシャピーロは、1945年以降戦争が減少した理由を国策としての戦争の違法化であるとしているが、ガディスとウォルトは核の膠着状態が理由だとしている。責任ある少数の国が保有する核兵器は、本質的に平和維持装置として位置づけられるようになった。そのため、TPNWあるいは核廃絶論全般に対する主な反論として、核兵器を禁止したら通常戦争が勃発する可能性が高まるという主張がある。これが詭弁であることは、核武装国による侵略戦争を見れば明らかである。1945年以降、戦争は、核兵器のおかげではなく、核兵器があるにもかかわらず減少したのである。2003年の米国、2006年のイスラエル、そして今日のロシアに対するほぼ全世界からの非難は、慣行としての戦争に対する人類の嫌悪感を証明するものである。

1960年代より非常に苦心して構築された核軍備管理体制と大いなる幸運のおかげで、今のところ地球はアルマゲドンを免れている。しかし、1995年以降、弾道弾迎撃ミサイル制限条約、オープンスカイズ条約、中距離核戦力全廃条約(INF)と、軍備管理体制は体系的に解体されている。核兵器およびその運搬システムは近代化され、より「使える」ものになっている。国連の集団安全保障体制は、一方的行為に取って代わられている。平和の基盤となる相互保証を構築する条約を各国が破棄している状況で、結果的に戦争が起こったからといって何を驚くことがあるだろうか? 核兵器が平和を維持してくれると信じているからだろうか?

ウクライナ戦争は、核兵器がいかに平和と安全保障を阻害するかを示す一つの事例であるが、唯一の例ではない。それは、1994年にウクライナに与えられた安全の保証を無力化しただけではない。核兵器は、両サイドのリスク認知を低減することによって関係国を増長させた。ロシアは、自国の核の脅威によって、ウクライナは侵攻に抵抗せず、NATOは介入しないだろうと計算している。米国は、ますます殺傷力の高い武器をウクライナに供与することによってロシアをウクライナで行き詰らせ、体制転換の瀬戸際に追い込むことが可能だと計算している。なぜなら、NATOの核抑止力がロシアの報復を阻止するからだ。これらの賭けでウクライナ国民が払う代償はどうでもいいということだ。その一方で、米国と中国は、台湾に関して同様の計算をめぐらせている。それは、第三次世界大戦のきっかけとなりかねないものだ。つまり、核兵器は、通常戦争に乗り出すことに対する核兵器国のリスク認知を低減させるため、侵略のインセンティブを提供しており、外交と戦争回避の相互保証による平和構築という骨の折れる努力のインセンティブとはなっていない。

では、何をするべきだろうか? 私が担当した章では、TPNWの慣習法としての地位をNPTが阻害すると主張している。なぜなら、NPTは、核兵器国が核兵器にしがみつく法的足掛かりを与え、しかも1995年から無期限にそれを認めているからである。また、NPTがもたらした体制を核兵器国は巧みに利用し、核による平和という詭弁を弄して核兵器を正当化しようとしている。核兵器国は、NPTに関する話し合いの場で定期的に軍縮を約束しているが、核兵器保有によって得られると彼らが認識する安全保障上の純便益は、NPTに定める軍縮義務への熱意に勝るようだ。

TPNW締約国にとって、NPTの枠の外に出て考えることに価値がある。差し当たっては、第6条がなし崩しにされて、核兵器が再び核兵器国の軍事政策と軍事費の中心になっていることに抗議するため、今年この後に開催されるNPT再検討会議でこれらの国々が退場するよう提言する。長期的には、NPTから集団で脱退することを勧める。これは、抵抗を象徴する行動となり、NPTに代わる核ガバナンスの手段としてTPNWを強力に推進するものとなるだろう。核兵器は非人道的な攻撃兵器であるという心理的変化を体現する手段であり、それ自体が、戦争に反対し、紛争の平和的解決に向かう心理的変化の延長である。

ジョリーン・プレトリウスは、南アフリカのウェスタンケープ大学政治学科准教授として、国際関係学および安全保障研究について教えている。英国のケンブリッジ大学より博士号を取得した。リバプール・ホープ大学デズモンド・ツツ大主教戦争・平和研究センター(Archbishop Desmond Tutu Centre for War and Peace Studies)で研究員を務めた。また、「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の南アフリカ支部会員である。

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【国連ニュース/INPSJ=ナルギス・シェキンスカヤ】

国際法上、どのようなプロパガンダが禁止され、何が許容されると考えられているのか、偽情報の危険性は何か、紛争当事者はどのように偽情報を利用するのか。国連ニュースサービスのナルギス・シェキンスカヤとの独占インタビューで、国際的に著名な人権専門家、表現の自由に関する国連特別報告者、アムネスティ・インターナショナルと国際開発機構の元代表であるアイリーン・カーンが、これらの質問に答えた。

シェキンスカヤ:報告書では、イエメン、マリ、シリア、ウクライナなど、世界各地の紛争地帯に言及されていますね。こうした地域でのプロパガンダ、偽情報の使用という点で、何か類似点がありますか?

カーン:今、ますます増えているのは、戦時中の情報操作です。それは今に始まったことではありません。ここで新しいのは、デジタル技術とソーシャルメディアによって、この偽情報を新しいレベルに引き上げ、より強力にし、ヘイトスピーチやプロパガンダ、偽情報を民間人に向け、暴力を煽り、最も脆弱な立場にある人々を攻撃することが可能になったことです。そして、これは非常に危険なことです。戦時下において、情報が大きな価値を持つからです。人々は自らの命を守るために情報を利用するわけですが、その情報が自分に向けられたとき、一般市民は非常に脆弱で危険な立場に立たされるのです。

シェキンスカヤ:類似点は理解しました。では、その違いについてお話ししましょう。今、欧州では大規模な戦争が起きています。デジタル技術とソーシャルネットワークの時代に起こった、欧州初の戦争です。この戦争の特徴は何だと思われますか。

カーン:この戦争で私たちが目の当たりにしているのは、情報操作と封殺です。これは、ロシア国内で起きていることですが、これまでにない特徴です。独立系メディアは様々な方法で完全に封殺され、今では国営メディア以外のニュースは存在しません。このようなことは、ごく稀にしか起こりません。さらに、戦争前夜に人々の感情を煽るために、ウクライナに関するプロパガンダ、「ナチス・ウクライナ政権」に関する喧伝が盛んに行われ、その結果、軍事侵攻が行われるようなシナリオができあがりました。つまり、まず、すべての独立系ニュースを封殺します。そして第二に、戦争を引き起こすために、唯一かつ偽の物語を作るのです。このようなことは、これまでほとんどなかったことであり、システムを操作できる世界各地の政治指導者に前例を作ってしまうことになるので、非常に危険です。

シェキンスカヤ: 報告書の中で、プロパガンダは国際法上、禁じられていないと指摘されていますが、しかし、例えばルワンダの大量虐殺においてラジオが果たした役割を私たちは知っています。この許されるかどうかの微妙なラインをどのように見られていますか。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

カーン:プロパガンダは、欧米の民主主義政府であろうと、発展途上国であろうと、どの政府も取り組んでいます。どうにかして、政権の正統性をアピールしなければならないからです。しかし、国際法で禁じられているのは、戦争プロパガンダです。戦争を促進するためにプロパガンダを使うことはできません。戦時には、それぞれの側が戦争を遂行する、あるいは自国を守るために国民を動員したいので、プロパガンダが使われます。

国際法は、実は戦時中の情報問題にはかなり寛容で、そこも問題です。プロパガンダそのものは禁止されていません。禁止されているのは、ヘイトスピーチであれ、戦争プロパガンダであれ、有害な情報です。それが禁止されているのです。

ルワンダのジェノサイドについてのお話はとても興味深いです。当時はソーシャルメディアがない時代です。扇動に使われたのは、地元のラジオでした。だから、伝統的なメディアも役割を果たしたのです。デジタル技術やソーシャルメディアが世界中に普及した今日でも、戦時中の多くの人々にとって、伝統的なメディアが主な情報源であることに変わりはない。そして、ここに、国家が統制するメディアが、しばしば紛争時に、偽情報やヘイトスピーチの主要な発信源となることが見てとれます。

シェキンスカヤ:お話を伺っていると、戦争につながるプロパガンダ、戦争を煽るプロパガンダは禁止されていると理解しました。しかし、戦時中のプロパガンダは大丈夫なのですか。

カーン:国際人道法の観点から見ると、これは興味深い点です。戦時中のプロパガンダは認められています。しかし、民間人を傷つけたり、戦争犯罪や人道に対する罪につながる可能性のある情報はダメなのです。もちろん、政府は重要な情報を明らかにするつもりはありません。一方が自国の軍隊の所在を相手側に教えることもないでしょう。敵が何台の戦車や砲弾を持っているか知ることはできません。

軍隊がお互いに真実を話すとは誰も思っていません。戦争ではそれは理解できるし、国際人道法もそれを認めています。しかし、やってはいけないのは、情報を使って民間人を騙したり、民間人を傷つけるような誤った情報を流したり、憎しみを煽ったり、民間人への攻撃を誘発することです。これはいかなる時も禁止されています。

シェキンスカヤ:報告書では、その例として、人々を援助関係者に敵対させることを目的としたプロパガンダを挙げていますね。

カーン:そのとおりです。そして、私たちは多くの国でこのような例を見てきました。例えば、シリアでは、人道支援団体が人道的な活動をしていないと非難されました。そのため、彼らにとってリスクが生じました。赤十字国際委員会が政府から攻撃されたこともありました。戦争当事者の一方が、赤十字の活動を快く思わないことから、それに関する噂を流していたのです。

人道的活動を妨害すれば、市民から必要な援助を奪うだけでなく、有害な環境を作り出すことになります。井戸の水に毒を入れるようなものです。つまり、人々はもはやどの情報を信じればいいのかわからなくなってしまうのです。事実を信じることができなければ、誰も信用することはできません。そして、信頼がなければ、世界について語り始めることはできません。

シェキンスカヤ:これだけの結果が出たにもかかわらず、メディアを閉鎖したり禁止したりすべきではないと述べていますね。しかし、あなたの報告書には、欧州委員会がロシアのメディアを禁止しているという一例があります。それについてはどうお感じですか。

Image credit: Pixabay
Image credit: Pixabay

カーン:私たちは、偽情報や情報操作による被害を目の当たりにしています。しかし、偽情報とは何かということについて、共通に合意された定義はありません。国連の特別報告者として、私は、私の報告を好まない、私の批判を好まない一部の政府から、フェイクニュースを作っていると非難されています。フェイクニュースは、信頼できる情報源にもレッテルを貼っているのです。国連の報告書の調査結果は中傷され、一方で政府のプロパガンダは事実として流布されています。これでは何もかもがひっくり返ってしまいます。

何が正しくて、何が間違っているのか。その問いに合意はありません。このような状況において、最善のアプローチ、最善の戦略は、情報の自由な流れ、検証可能で信頼できる情報源、そして人々のデジタル・リテラシー、メディア・リテラシーを高め、人々が自分自身で判断できるようにすることです。メディアを閉鎖して検閲しようとするのは非常に危険なことです。なぜなら、どの政府も好ましくないと考える情報の一部を検閲したがるからです。

だからこそ、欧州連合(EU)ではメディアが自由で、さまざまな視点があるのです。確かに、RT(ロシア・トゥデイ)は偽情報、つまり誤った情報に基づいたプロパガンダの発信源です。しかし、誰がRTを信じるのでしょうか?それが問題なのです。もしヨーロッパの民主主義が強く、幅広いメディアの自由を与えるものであり、これがヨーロッパの立場であるならば、なぜメディアを完全にシャットダウンするのでしょうか?人々に自分たちで決めさせればいいのです。規制当局、独立した規制当局に、何が言えるか、言えないかを決めさせればいいのです。例えば、スイスではそうしています。

シェキンスカヤ:報告書にあるもう一つの例は、フェイスブックを所有するメタ社のケースです。彼らは一般人や組織の投稿を検閲しています。しかし、彼らはウクライナ人がロシア軍に対する怒りを表現することを許しています。

facebook logo
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カーン:さて、私や私の前任者も、様々なプラットフォームが大きな役割を担っているという立場をとっています。TwitterやGoogleをはじめとする企業は、その事業活動において人権尊重の原則に従わなければならないのです。ウクライナを対ロシアで支援することでも、ロシアを対ウクライナで支援することでもないのです。それは、普遍的な人権基準を適用することです。もしメタ社がこれらの人権基準を適用し、人道的原則を尊重するならば、ロシアやウクライナからの偽情報を許さないでしょう。

そして、公平で強力な世界的組織としての立場を強化することになるのです。だからこそ、ソーシャルメディアは自社の方針だけでなく、人権基準によって導かれるべきなのです。そうしないと、どちらかに足を引っ張られることになる。

シェキンスカヤ:報告書では、戦時中の制限も正当化される場合があるとも書かれていますね。そうすると、ロシア政府はこの分野での自分たちの行動が正当であると主張することができます。

カーン:国際人権法、人道法には確固たる基盤があります。結局のところ、これらは政府によって作られたものです。また、戦時中は治安維持の必要性があり、公共秩序の維持などが求められるため、表現の自由がある程度損なわれる可能性があることも認識しています。表現の自由は絶対的な権利ではありません。つまり、制限を課すことはできますが、その制限は合理的で必要かつ正当なものでなければなりません。

私は、ロシアで課された規制を疑問視しています。政府筋からの情報でないニュースを犯罪とするのはまったく理不尽なことであり、これは、戦時中に必要な規制の範囲をはるかに超えています。

シェキンスカヤ:プロパガンダ、つまり戦争を呼びかける人々を罰する法的根拠はあるのでしょうか。

カーン:ええ、もちろんあります。市民的及び政治的権利に関する国際規約には、戦争プロパガンダが国際法によって禁止されていることが明記されています。私たちは、これらの人権協定が第二次世界大戦後に作られたことを忘れてはなりません。世界は戦争によってもたらされる惨禍を目の当たりにし、戦争プロパガンダは厳しく禁じられました。

Фото ООН Наргис Шекинская и Ирен Хан в студии Службы новостей ООН.
資料:Фото ООН Наргис Шекинская и Ирен Хан в студии Службы новостей ООН.

今日の世界において、ヘイトスピーチと同様、国家が戦争や侵略を呼びかける権利はありません。ヘイトスピーチとは、人種、宗教、国籍、性別を理由に、他者への差別、敵意、暴力行為を扇動する言論のことで、禁止されなければなりません。その際、私たちは表現の自由が極めて貴重な権利であることを確認します。独立した、多元的で多様なメディアは、民主主義と発展のための非常に強力なツールです。

シェキンスカヤ:ソーシャルネットワークの一般ユーザー、読者、リスナーに対して、どのようにすればこの誤った情報の流れから自分と自分の大切な人を守ることができるのか、アドバイスをお願いします。

カーン:私からのアドバイスは、ソーシャルメディアを使いこなすようにすることです。ソーシャルメディアにアクセスする前に、情報を確認する方法、ニュースが真実であることを確認する方法を理解することです。どの政治陣営に属していようと、見たものすべてを信じる必要はないのです。

質問すること。私はいつも質問をしています。政府から得られるすべてのニュースを当然だと思わず、熟考してください。もし私たちが皆、決断を下す前に批判的に考えるなら、より良い結果が得られると思います。しかし、私たちは受け取った情報を信じるだけでなく、質問する能力も保持しなければなりません。問題は、検閲によってその能力が奪われることがあることです。だからこそ、オープンで自由な情報源を持ち、人々がデータを確認し、質問する機会を持つことが重要なのです。原文へ

国連特別報告者は、特定の国や地域における人権状況や主題別の人権状況について調査・監視・報告・勧告を行う専門家。彼らは政府や組織から独立した個人の資格で任務に就くものであり、中立的に職務を遂行できるよう給与その他の金銭的報酬を受けない。

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「カザフスタン共和国の日」東京で祝賀行事が開催される

【東京INPS=浅霧勝浩

カザフスタンがソ連邦の時代だった末期にカザフスタンの国家主権に関する宣言を行い1991年の国家独立への第一歩となった「カザフスタン共和国の日」を祝うレセプションが、駐日カザフスタン大使館主催で開催された。

この日はソ連時代の歴史的背景から130以上の多民族が共存する同国国民の団結の象徴となっている祝日。 サーブル・エシンベコフ駐日カザフスタン大使は、多民族・他宗教国家として、9月にローマ教皇をはじめ世界の伝統宗教指導者(日本からは神社本庁、創価学会が参加)が集う会議をカザフスタンがホストして国際社会の注目を集めたことや、引き続き全方位平和外交を推進する観点から日本との関係を一層深化させていきたいと挨拶した。

日本からは吉川ゆうみ外務大臣政務官と黄川田仁志衆議院外務委員会委員長が登壇、ユーラシア大陸の中央に位置する安定したパートナーとして、共に今日の国際環境を取り巻く様々な課題を協力して乗り越えていきたいと挨拶した。

Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director/President of INPS Japan

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ナイジェリア南部で過去10年で最悪の洪水が発生し600人が死亡

【ニューヨーク/アブジャIDN=リサ・ヴィヴェス

ナイジェリア南部と沿岸部の州で発生した洪水により、600人以上の命が奪われ、140万人が避難し、道路や農地が甚大な被害を受けた。当局は、この状況が11月まで続く可能性があると警告している。

ナイジェリアの36州のうち31州が、この10年で最悪を報じられている洪水の被害を受け、インフラや約20万戸の家屋が一部または全部が破壊された。

Map of Nigeria
Map of Nigeria

この国独特の勾配のある塗装された金属屋根は、食糧や燃料を満載した車やトラックと同様に、ほぼ完全に浸水している。

ナイジェリアのサディヤ・ウマル・ファルーク人道問題担当大臣は、この災害の多くは政府の無策が原因であると非難した。

「2022年の洪水について十分な警告と情報があったのに、州、地方政府、地域コミュニティーは耳を貸さなかったようだ。」とツイッターに書き込んだ。

「氾濫原に住む人々を高台に避難させ、さらなる洪水に備えるよう、各州政府、地方自治体議会、地域コミュニティーに呼びかけている。」とファロウク大臣は語った。

ナイジェリア南部に位置するバイエルサ州では、終わりの見えない洪水が大惨事を引き起こしている。

ナイジェリアの通信社(NAN)によると、数千人の住民が避難したこの洪水は、同州を担当する電力会社に公共電源の停止を強い、ほとんどの変圧器が水没してしまったという。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

ナイジェリアでは毎年、特に沿岸部で洪水が発生している。当局は、隣国カメルーンのラグド・ダムからの余剰水の放出と、異常な降雨がこの災害の原因であるとしている。

「水位は憂慮すべきレベルまで上昇している。」と、ナイジェリア南部バイエルサ州の州都イエナゴアからレポートしたアルジャジーラのアーメッド・イドリス氏は語った。「水の流れの激しさも増しています。上流からの洪水がこちらに流れ続けています。」と語った。

環境保護論者によれば、ナイジェリアの温室効果ガス排出量は世界の1%未満だが、気候変動、暑さ、干ばつ、砂漠化の急激な増加、洪水の被害は不釣り合いなほど大きい。同国は、世界で最も気候変動の影響を受けやすい国のトップ10に入っている。


Adenike Oladosu presenting the opening speech at the 2020 Elevate Festival photo by Elevate Festival

12年以上前、世界の富裕国は、2020年から2025年まで毎年1000億ドルを気候変動ファイナンス(気候変動の影響を最も受ける低所得国の適応を支援する資金)として提供することを約束した。しかし、彼らはその約束を破り、現在約束した資金は2023年まで提供されない可能性が高い、と述べている。しかし、気候の危機は今、パキスタンからスーダンまでの国々を荒廃させている。

偶然にも、11月6日から18日まで、エジプトのリゾート地シャルムエルシェイクで、国連気候変動会議、通称COP27が開催される。この会議に先立ち、オラドス・アデニケさんなどの気候活動家は、ナイジェリアの気候危機に対処するための気候資金の提供を求める声を強めている。

「ナイジェリアで進行中の気候危機(洪水)は、何百万人もの人々の生活を破壊し被害総額は数十億ドルに相当します。これは国全体の食糧安全保障を脅かすものです。気候危機は、私たちが迅速に行動しなければ、次のパンデミックとなるのです。」と、オラドスさんは語った。(原文へ

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|ジンバブエ|ペットボトルでレタス栽培

【ムタレ(ジンバブエ)IDN=ファライ・ショーン・マティアシェ】

ジンバブエ中部の人口密度の高いグウェル市郊外の町ムタパ。ルース・ルゲジェさん(38)は、自宅の裏庭に置かれた空の2リットル入りペットボトルで栽培したキャベツを見つめていた。

この革新的な農民は、近くにある違法なゴミ捨て場からこのペットボトルを拾ってきて、水耕栽培に使っているのである。

彼女の庭には温度を管理する温室がある。

彼女の水耕栽培の仕組みでは、太陽光システムや国の電力供給網からの電気を使うのではなく、重力を用いてペットボトルの中の作物にパイプを通じて水や栄養を送っている。

カリバやフワンゲの主要な発電所では古い発電機を使っているために長時間の停電が生じている。そこで、24時間の電源を必要とする水耕栽培を行う多くの農民にとっては、太陽光発電が代替手段となっている。

しかし、ルゲジェさんのような多くの農民にとっては、太陽光発電は高くてなかなか手がでない。

重力を用いた水耕栽培は実現性が高く安価である、というわけだ。

「コロナ禍の衝撃緩和措置として現金支給を得ていました。小さな庭もありました。昨年10月に、水耕栽培を行う支援も得ることができました。」と、11歳の娘を持つシングルマザーでもあるルゲジェさんは語った。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

「自宅近くのゴミ捨て場からペットボトルを拾ってきて、レタスやほうれん草、キャベツなどの葉物野菜を育て始めました。」

ペットボトルを拾ってくることでコスト削減になる。

「買ったりはしません。コストはずいぶん減りましたね。しかも、簡単に取り替えられます。」とルゲジェさんは言う。

グウェルなどジンバブエ国内の町では違法なゴミ捨て場があちこちに見られ、プラスチックごみの投棄が住民の頭を悩ませている。

とくに人口密度の高い郊外であるグウェル市当局のゴミ収集方針に一貫性がないことが原因だ。

グウェルでは違法な廃棄物投棄に罰金を科すため、人々は深夜や早朝にゴミを投棄することになる。

なかでも、プラスチックは燃焼時に人間の健康に大きな害を与える。

分解されるのに数百年もかかるプラスチックの一部は、国内の川やダムに流れ込んでいる。

研究によると、プラスチックは、気候変動を悪化させる温暖効果ガスであるメタンやエチレンに変わるという。

ルゲジェさんは、ドイツの慈善団体「ヴェルトフンゲルヒルフェ」【訳注:2030年までの貧困根絶を目指す団体】によって、水耕栽培などの生活向上支援を受けているグウェルの多くの世帯のひとつである。

彼女が昨年水耕栽培を始めたとき、育てた野菜は自分自身の消費用だと考えていた。それを最終的に隣人に売ることになるとは考えも及ばなかった。

「今年初めに初めて野菜を育ててみて、余った野菜を売ることができたんです」と、失業状態にあり生活のために農業を続けるルゲジェさんは語った。

Lettuce grown in plastic bottles in Ruth Rugejo's backyard garden in Gweru. Credit: Kudzai Mpangi.
Lettuce grown in plastic bottles in Ruth Rugejo’s backyard garden in Gweru. Credit: Kudzai Mpangi.

「そのお金で娘を学校にやることもできたし、洋服などの必需品を買うこともできました。」

ヴェルトフンゲルヒルフェ」の都市レジリエンス構築プログラムの生産資産創出エンジニアであるタクドゥワ・ムヴィンディ氏は、リサイクルペットボトルを利用した水耕栽培システムは費用対効果に優れていると語る。

「65リットルのタンクの中で水に栄養が足されます。水と栄養の両方が、重力を利用して、管を通じてペットボトルの中に栽培されている作物の中に送られます。」と、この水耕栽培の仕組みを考え付いたムヴィンディ氏は説明した。

「最終的には水はタンクの中に回収されます。農民はそれを最初の65リットル入りタンクの中に注ぎ込みます。気象条件によって、これを一日3回繰り返すのです。」

乾燥地帯あるいは都市部において作物を育てることを可能にする農法である水耕栽培は、[土壌を使う通常の農法と比較して]水使用量が9割、土地使用が75%少ない。

Map of Zimbabwe
Map of Zimbabwe

水耕栽培法で育てられた野菜は通常の農法よりも2倍速く育つ。

水耕栽培は、土地や水を持たない農民にとってのオプションとなり、土壌が貧弱な土地で大いに機能する、と語るのは、国連食糧農業機関(FAO)のルイス・ムヒギルワ駐ジンバブエ副代表だ。

「都市や乾燥地帯、低地などの環境で水不足や気候変動、土地の劣化などに直面している従来からの農業が問題を乗り越えるには、水耕栽培は有益な手法だと言えます。」とムヒギルワ氏は語った。

ルゲジェさんは、農場を所有して商業規模で水耕栽培を展開することを夢見ている。

「大きな土地があったら、街のスーパーマーケットに野菜を届けてみたい。」ルゲジェさんはそう語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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