ホーム ブログ ページ 49

|視点|核のリスクと技術の拡散(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

キューバミサイル危機から60年、核兵器使用の危機が再び人類を脅かしている。当時の場合、ジョン・F・ケネディ米国大統領とニキータ・フルシチョフソ連書記長が直接交渉を通じて、ソ連の核兵器をキューバから撤去する代わりに米国が核兵器をトルコから撤去することに合意し、危機は13日で回避された。

PX 96-33:12  03 June 1961  President Kennedy meets with Chairman Khrushchev at the U. S. Embassy residence, Vienna. U. S. Dept. of State photograph in the John Fitzgerald Kennedy Library, Boston.
PX 96-33:12 03 June 1961 President Kennedy meets with Chairman Khrushchev at the U. S. Embassy residence, Vienna. U. S. Dept. of State photograph in the John Fitzgerald Kennedy Library, Boston.

当時、国連事務総長もこの危機を解決に導くうえで積極的な役割を果たした。しかし、核武装したソ連潜水艦の司令官が、米ソ超大国間の戦争開始を懸念して、モスクワとの連絡もないまま、核ミサイルを発射しないことを決定し、運良く核戦争は回避されたのである。

現在、核兵器の使用につながりかねない重大な対立が、平和的解決の兆しが見えないまま、何カ月も続いている。1962年の危機とは異なり、今日、主要国のトップ同士の迅速な意思疎通は図られていない。現代のメディアは交戦当事国間の敵意と不信感を増大させ、既存の政治的・法的な枠組みはこの状況に対処できないように思われる。

先日ポーランド領内にミサイルが着弾して2人の死者と若干の破壊をもたらしたことについて、ロシアではなくウクライナの責任が確認されるまで、全世界が数時間息を潜めた。この事件は、ロシア・ウクライナ間の戦争当事国のいずれかによる事故あるいは誤算によって予測できない結果をもたらすエスカレーションの引き金になるかもしれないという恐怖のレベルを高めることとなった。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

この戦争における核兵器使用のリスクは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国の安全保障に対する脅威と見なされるものに対してあらゆる手段を用いると宣言して以来、依然として高いままである。ロシアの間接的な敵である北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアほど強硬ではないが、同様に鋭い口調で反応した。

ロシアと核兵器を保有する西側諸国の核ドクトリンのいずれもが、必要とする状況で核兵器を先行使用することを想定している。現在の微妙な情勢では、火花が散るだけでも壊滅的な火が燃え上がるのに十分であり、紛争当事国に限定されない悲惨な結果を招きかねない。

核不拡散条約(NPT)が認める5つの核保有国のうち、核兵器の先制使用をしないと明らかにしているのは中国だけである。多くのアナリストや市民団体が、すべての核保有国がこの姿勢を採用するよう提唱している。通常、「先制不使用」(NFU)の原則は、核兵器の廃絶を予見していないため、核兵器やその他の潜在的侵略を抑止し、それに対抗する目的で核兵器を維持することを正当化するために使われることもある。

もし、現在のすべての核保有国が先制不使用を採用し、軍縮のための明確な約束と効果的なフォローアップ行動なしに国際社会が受け入れた場合、核兵器使用のリスクを減らすことはできても、完全になくすことはできないだろう。さらに、核兵器保有を永続させる根拠となり、その結果、核兵器がもたらすリスクも永続させることになる。

核兵器禁止条約(TPNW)の出現に対する核保有国の激しい否定的な反応は、核軍縮に具体的な進展をもたらすためにこの条約を利用することにこれらの国々が関心を持っていないことを明確にした。核保有国は、条約起草の準備作業や実際の交渉への参加を拒否したのみならず、同語反復的で利己的な理由とともに、この条約では軍縮をもたらすことはないと主張し、正式に拒否したのである。

明らかに、核保有国の参加がなければ、核兵器の廃絶につながるような効果的な措置を取ることは不可能だろう。だが、明確な反対があっても、国際人道法に根差したこの新条約は、核兵器を永久に保有し続けることに対する重要な法的・道徳的な障壁として、すでに重要な役割を果たすに至っている。

核保有国が核禁条約への署名や批准を阻止するために脅しをかけ強制しようとしたにも関わらず、国連加盟国のほぼ半数がすでに署名し、批准国の数も徐々に増えつつある。世論調査は、核兵器国やその同盟国の国民を含め、核禁条約に対する高い支持を示している。

Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna
Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna

世界の核兵器の総数は推定およそ1万3000発というレベルにまで削減されてきたにも関わらず、核兵器使用のリスクは増し、すべての人の安全保障が低下しているという逆説的な状況がある。冷戦時代のように、最大数の核弾頭や最大の爆発力を持つ核兵器が決定的な優位性を持つとは考えられなくなったのである。

今日、そのように困難な軍事的優勢を確保するために、絶え間ない技術改良が追求されている。核保有国、とりわけ全体の95%を保有する米露二大国は、極超音速ミサイル、衛星による発射・誘導システム、低出力の「戦術」核兵器、人工知能(AI)、無人機などの最先端の戦争技術を開発し続けている。

この種の技術革新は、既存の核兵器の殺傷力をより高める。場合によっては、そのような先進的な兵器がその使用効果を最小に抑えることができるがゆえにより「容認」できるという考え方が広まることさえある。

核保有国は、この終わりなき革新が自らの安全確保に役立つと信じているようだ。しかし、仮想敵が技術的革新を遂げれば、その敵手は新たな能力の開発によって不均衡を埋め合わせようとし、相互に与える脅威によるエスカレーションの繰り返しが導かれてしまう。この状況は、安全を生み出すことからは程遠く、この競争に関わる国々だけではなく、その他すべての国々の安全を損なう。

核兵器保有国の増加、いわゆる「水平」拡散は、世界をより不安定にする。それを防ぐために、NPTや多国間・地域間協定、国連安保理による制裁など、効果的な手段は多く存在する。

Image: South Korean commuters watch TV coverage of the North Korean missile launch from a Seoul railway station. (AFP: Jung Yeon-je)
Image: South Korean commuters watch TV coverage of the North Korean missile launch from a Seoul railway station. (AFP: Jung Yeon-je)

52年前のNPT発効以来、核保有に至った国は、条約で定められた5カ国のほかに4カ国しかない。この核クラブに新たに加わろうとする国があれば、国際社会からの激しい反発にあうことになる。これまでも核開発の試みは、外交的圧力や武力による威嚇、あるいは実際の行使によって阻止されてきた。

しかし最近になって、西側諸国の「核の傘」の下にある国を含む一部の技術先進国では、独自の核兵器保有を容認する世論が前面に出てきた。また、かつて保有していた核兵器を廃棄することを決めた国々では、現実の脅威、あるいは認識されている脅威に直面して、その時の判断を悔やむ意見が出てきている。国連や国際原子力機関(IAEA)、地域的取り決めなどの既存の国際的管理手段によって、警戒を怠りなくする必要がある。

核兵器の存在そのものがもたらすリスクに対する一般的な懸念が高まっているにもかかわらず、核保有国の努力は核兵器への依存を減らす方向には向けられていない。むしろ、これらの国々は、他の国々による民生用原子力開発に対して多くの公式・非公式の障壁を設けることで水平拡散(=核兵器を保有する国が増えること)を防ごうとする一方で、自らが望ましいと考える形で核兵器を排他的に保有することを正当化してきた。

核保有国とその同盟国には、核兵器を最終的に廃絶するための政府の計画や構造、機構といったものは存在しない。核保有国がもっぱら関心を寄せているのは拡散のリスクである。核保有国にとって核拡散という用語は、自国の核戦力の増加・増強は該当しないが、軍事利用される可能性のある核技術を他の国々(=非核兵器国)が追求したり、実際に取得したりすることのみを指すと理解している。核保有国は、膨大な人材と資金に支えられた致死的な核技術拡散に寄与する一方で、核軍縮は遠い将来の困難な目標であるとみなし、様々な環境条件と結びつけてその達成は困難である、としているのである。

50年以上前、ブラジルの外交官ジョアン・アウグスト・デアラウホ・カストロ氏は、核兵器国とその同盟国の間に支配的な態度を正確に表現していた。NPTが発効した1970年に国連総会で行った演説で彼はこう述べている。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

「権力への妄信と力への畏怖が尊重され、今や人間関係を律する一部の基本文書にまで影響を与えるに至っている。例えば、核不拡散条約という文書は、成熟した責任ある国家とそうでない国家との間を区別するという理論に基づいている。この文書の大前提は、歴史的な経験に反して、力こそが節度をもたらし、節度が責任をもたらすというものである。[…] つまり、危険は非武装の国々に由来するものであって、超大国の膨大で常に増加し続ける兵器庫に由来するのではない、という想定に基づいている。この条約は、核時代において成熟した国家に権力と特権を与えることによって、権力競争を阻止するのではなく、むしろ加速させるかもしれない。諸国から成る世界において、人間の世界と同じように、これからはあらゆる国が、あらゆる困難を排して、権力を持ち、力を備え、成功を収めようとするかもしれない。NPTは、権力に油を注ぎ、国家間の不平等を露骨に制度化したものである。」(原文へ

INPS Japan

関連記事:

宗教コミュニティーが「核兵器禁止条約第1回締約国会議」を歓迎

核のない世界への道は険しいが、あきらめるという選択肢はない。(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

ウクライナをきっかけに北東アジアで核ドミノの懸念

FIFAワールドカップカタール大会に影を落とす欧米の偽善

【アブジャIDN=アズ・イシクウェネ】

悪ふざけは常にあったが、国際サッカー連盟(FIFA)会長のジャンニ・インファンティーノ氏がカタールでの分別のある記者会見で欧米の偽善を非難するまでは、誰もが気づいてはいたが見て見ぬふりをしていた問題だった。

不穏な気配は12年前、カタールがオーストラリア、日本、韓国、米国を破ってワールドカップ招致を勝ち取ったときに遡る。あの結果は予想外だった。

2022 FIFA World Cup

ペルシャ湾の国というと、欧米諸国にとって石油やガスの供給元、神秘主義やアラビアの豪奢な物語といったポジティブなイメージが報じられるが、アラブの国でワールドカップが開催されるとなると話は全く別だった。

欧州の関係者は、このニュースにすぐさま飛びついた。冬開催では、欧州の主要リーグの日程が乱れ、選手が疲労困憊してシーズンを終えることができないのではないか、と不快感を示した。もちろん、アラブの資金が欧州のトップリーグを支えていることを、彼らは都合よく忘れているのだ。

しかし日程を巡る混乱という言い訳が通用しなくなると、彼らは憤りの矛先を広げ、移民労働者やLGBTの権利という厄介な問題を持ち出して展開するようになった。カタール側は、移民労働者の権利を改善するために可能な限りのことをしている、FIFAはカタールにさらなる圧力をかけている、と説明したが、マスコミの大部分は満足しなかったようで、中でも英国のメディアは最も反感を持っていたようだ。

Gianni Infantino 2018/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Gianni Infantino 2018/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

英国メディアは自国でのLGBT問題を無視したままカタールの問題を書き立てた。そうした記事の論調は、ホスト国の地域社会が持つ感性に関わりなく、あたかも欧州人には、サッカーが159年前にイングランドで始まった以来、ファンが共感し観戦できる文化的なルールを設定するだけでなくそれを主張する責任があるというような態度であった。

こうした欧州からの批判にインファンティーノ会長が「偽善だ」と喝を入れたのには正当な理由がある。インファンティーノ会長は開幕前日の記者会見で、「欧州は道徳的な教訓を説く以前に、過去3000年間に世界中で行ってきたことについて、今後3000年間謝るべきだ。」と発言した。

しかし、偽善は、搾取、奴隷、権利意識という西洋の歴史的関係に組み込まれた欠陥であるだけでなく、今日も世界の他の地域、特にアフリカとアラブ世界との関わりにおいて、今なおその特徴を色濃く残しているのである。

西側諸国で近年開催された数々のスポーツや社会イベントの背後にも、虐待や大規模な強制移転の経緯があるが、今回のワールドカップカタール大会に対して示した態度とは異なり、西側のマスコミは 自国の裏庭で起こっていることについては見て見ぬふりをした。

1996 Atlanta Olympics--Olympic flag at track and field venue. Olympic Stadium. Crowd scene./  Content Providers(s): CDC/Dr. Edwin P. Ewing, Jr., Public Domain
1996 Atlanta Olympics–Olympic flag at track and field venue. Olympic Stadium. Crowd scene./  Content Providers(s): CDC/Dr. Edwin P. Ewing, Jr., Public Domain

例えば1996年のアトランタ・オリンピックの際、オリンピック関連の取り壊しによって推定3万人が家を失い、少なくとも6千人の住民が公営住宅から退去させられた。

移転を余儀なくされた人々の多くは黒人で、家や地域社会を根こそぎ奪われ、二度と元の生活を取り戻すことはできなかった。彼らはカタールの移民労働者と同じように保護され、生活への尊厳を得る資格があった。

そして、世界中のメディアがこうした人々の声を取り上げてしかるべきであった。しかし、それは明らかに過剰な要求だっだのか、或いは、社会的弱者の権利は、オリンピックから期待される利益と比較して、取るに足らないものだったのだろうか。

この記事を読んでいる間にも、2024年のパリオリンピックの会場建設のために、多くの非正規移民労働者がフランス当局によって不法に利用されているという報道がなされている。業者の強力なネットワークが数百人の移民を安い労働力として使い、パリ郊外のサン・ドニにある陸上競技場の建設に、恥じることなく配備しているのだそうだ。

欧米のメディアやそこにいる人権運動家たちが、まだサン・ドニや、そうした虐待が横行している欧米の他の場所に行く道を見つけられるかどうかはわからない。おそらくワールドカップカタール大会の後、彼らはこれらの現場で働く主にアフリカ系の数多くの移民労働者に関心を抱くのではないだろうか?

しかし、この偽善はスポーツの分野に限ったことではない。9月のエリザベス女王の埋葬を前に、ロンドンでは何百人もの「ラフ・スリーパー」、つまりホームレスの人々が、ウェストミンスター周辺やロンドンの多くの地域から排除され、辺境の隔離キャンプに追いやられたのである。

女王のダイヤモンドとプラチナのジュビリーの時も、彼らの存在が祝典の華やかさを損なわないよう、強制的に排除されるという同じ運命をたどったのである。このような弱者には何の権利もないことは明らかなので、彼らのために立ち上がることは、英国のメディアにとってほとんど興味のないことであった。

はっきり言っておく。カタールであろうとなかろうと、弱者から搾取し、甘い汁を吸うような政府などあってはならない。しかし、米国の経済学者トーマス・ソウェルがその著書『移住と文化』で雄弁に語ったように、経済史の現実として、貧困にあえぐ移民労働者の中から、将来の起業家や革新者の世代が生まれることはよくあることである。

ところで、移民労働者は命をかけて地中海を渡るアフリカ人たちだけだと考えている人たちは、インファンティーノ会長の両親がより良い環境を求めてスイスに移住したイタリア人であることを念頭に置いておくとよいだろう。

Al Bayt Stadium, Al Khor, Qatar/  Kabhi2011 - Own work, CC BY-SA 4.0
Al Bayt Stadium, Al Khor, Qatar/  Kabhi2011 – Own work, CC BY-SA 4.0

面白いのは、マスコミが移民労働に関してカタール政府をスケープゴートにするのは簡単で好都合だと考える一方で、移民労働の主な雇用主であり受益者であるカタールの欧米企業に対しては偽善的な沈黙を保っていることだ。

ロンドン証券取引所に上場している大手請負業者から、ニューヨークを拠点とする裕福なコンサルタントまで、出稼ぎ労働者という魔物は、欧米の強欲が植え付けた種を、カタールが唯一無二のイベントを演出するために育んだものである。そして、出稼ぎ労働者、LGBTの腕章、禁酒への不満などという煽りをよそに、ワールドカップカタール大会は結果的にどんなイベントになったか。

ブラジルなどの人気チームはカメルーンに敗れ、アフリカで最も優れたチームであるモロッコはベルギー、スペイン、ポルトガルを破り準決勝に進出、チュニジアは前回優勝のフランスを開幕戦で打ちのめした。

そして、大会が進むにつれて、英国のメディアが悪意を持ってモロッコ人をアフリカ人と呼んだり、アラブ人と呼んだりして混乱したことにお気づきだろうか?

アルゼンチンは、サウジアラビアに2-0で敗れたショックから立ち直り、ワールドカップ史上最も劇的な決勝戦で優勝トロフィーを勝ち取った。しかし、2022年カタール大会では、さらに多くのことが思い出されることになる。

FIFAが発表した2022カタール大会収益高は75億ドルで、前回の2018ロシア大会の収益46億ドルを大きく上回り、新たなベンチマークを打ち立てたことになる。2018ロシア大会の組織委員会の報告書によると、この大会は2013年から18年の間に140億ドル(=GDPの約1.1%)と約31万5000人の雇用をロシア経済にもたらしたとされている。

Doha corniche/ Spetsnaz 1991, CC 2.0
Doha corniche/ Spetsnaz 1991, CC 2.0

この大会は、石油資源の豊富なカタールに、今後数年間で170億ドル(アルコール禁止が利益に影響したものの)、観光でさらに数十億ドルをもたらすと予測されている。最も重要なのは、この成功により、ランドマーク的なスポーツイベントに少なからず興味を抱いていたカタールが、近い将来、オリンピックの招致に乗り出すという位置づけになったことだ。

FIFAのゼップ・ブラッター前会長が「間違いだ」と考えていたカタールでの開催が、サッカー史上最高の大会になったというのは、なんともパラドックス的な話である。

出稼ぎ労働をめぐる論争に始まり、カタールの首長がリオネル・メッシにアラブの民族衣装である「ビシュト」と呼ばれる半透明の黒いローブを着させた騒動で終わったが、カタール人は胸を張って、メディア、とりわけ欧米のメディアに成功を認めさせたワールドカップだったと言うことができるだろう。(原文へ

INPS Japan

*アズ・イシエクウェネはINPSの提携メディアLEADERSHIP紙の編集長。

関連記事:

ソマリアの著名な陸上競技選手が英国で奴隷にされた過去を伝えるドキュメンタリー

|視点|新型コロナで浮き彫りになる搾取的労働へのグローバルな構造的依存(ランダール・ハンセン トロント大学ムンクグローバル問題・公共政策校所長)

立場の違いを乗り越え「移住に関するグローバル・コンパクト」が最終合意される

|2022年|地球の脆弱性に関する黙示録的な警告

【国連IPS=マルチメディア】

IPS

(映像の字幕を日本語に翻訳)

2022年は、地球の脆弱性に対する黙示録的な警告であった。

そして人類の悲劇的な欠点を警告してきた。

それは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻で始まった。

そして、アフリカの飢饉で幕を閉じようとしている。

780万人以上のウクライナ人が国外に逃亡した。

そして、この戦争の影響は世界中に及んでいる。

基本的な生活必需品の価格は急騰した。

ソマリアはかつて小麦の90パーセントをロシアとウクライナから輸入していた。

そして今、アフリカの角地域を襲った過去40年間で最悪の干ばつに耐えている。

被災したコミュニティーの中で、女性と女児が「受け入れがたいほど高い代償」を払っている。- 国連人口基金(UNFPA)

2022 年は記録上最も暑い5年間に入る勢いだ。

農業と食糧安全保障が第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)のアジェンダに加わった。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の耕地土壌の25%以上が劣化している。

今日世界ではサッカー場1面分の土壌が5秒毎に浸食されている。

その結果、地球の生物多様性は壊滅的な打撃を受けている。

しかし、どの国がどの国に資金を提供するかは、まだ未解決の問題である。

途上国の小規模生産者に届く気候変動資金は、全体のわずか1.7%にとどまっている。

また、海外援助のうち、男女共同参画に主眼を置いたプロジェクトに使われる割合は8%程度にとどまっている。

2022年後半に一つの激震的なマイルストーンとなる出来事があった。

11月15日に80億人目の人類の誕生が祝われたのだ。

「この地球上に80億人目の人類を迎えました。この新生児の誕生は素晴らしい出来事です。しかし、人が増えれば増えるほど、地球に重圧をかけることになることも理解する必要があります。」( 国連環境計画事務局長インガー・アンデルセン)(原文へ

INPS Japan

関連記事:

ウクライナ戦争で頭もたげる冷笑主義

アフリカの干ばつ被害者への資金が大幅に削減され、欧州に資金が流れる

COP27の中心に農産物システムの変革を据える

|視点|「スカイシールド」ミサイル防衛構想と米・NATOの軍拡競争の激化(ジョセフ・ガーソン平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン議長)

【ニューヨークIDN=ジョセフ・ガーソン

ジョセフ・バイデン政権の最近の国家安全保障戦略は、冷戦後の秩序はもはや歴史であり、まだ名付けられていない新しい時代は、新しい秩序を形成するための軍事、経済、技術の競争によって定義されると表明している。北大西洋条約機構(NATO)のロシア国境への拡大、ロシアによるウクライナ侵攻と米・NATOの対応、そして中国との貿易戦争はすべて、地域と世界の覇権を巡る消耗と、時には殺戮を伴う闘争の主要な要素である。

ドイツが安全保障戦略を大転換したのもこの流れに沿ったもので、ウラジーミル・プーチン率いるロシアからの「存亡の危機」からドイツと欧州を守るためとして、軍事費の大幅な増加、東欧やマリへの派兵、さらに最近では数十億ユーロ規模のミサイル防衛構想「スカイシールド」の推進を打ち出している。

Map of Germany
Map of Germany

ロイター通信は10月13日、「ドイツと十数カ国のNATO加盟国は、同盟国の領土をミサイルから守る防空システムの共同調達を目指しており、イスラエルの高高度ミサイル防衛システム「アロー3」、米国のパトリオットミサイル、ドイツのIRIS-Tユニットなどを選択肢に考えている。」と報じた。このシステムは「欧州スカイシールド・イニシアチブ」と命名されている。スカイシールドは、統合的かつ相互運用可能なシステムという米国とNATOの公約に基づき、すべての参加国の短距離、中距離、長距離ミサイル防衛システムを完全に統合するよう設計されている。

10月に同防空システム構築を目指すとする趣意書に署名したのは、ドイツの他に、ベルギー、英国、スロバキア、ノルウェー、リトアニア、ラトビア、ハンガリー、ブルガリア、チェコ、フィンランド、オランダ、ルーマニア、エストニア、スロベニアである。

ディフェンス・ニュースは以前、「同盟国の中には1層の防空シールドのみに関心を持つ国もあれば、完全な防御体制を選ぶ国もあるだろう。」と報じており、将来的には限定された防空システムを拡張する機会もあるとしていた。

フランス、イタリア、トルコ、スペイン、ポーランドは既に独自の防空システムを持っているため未だ署名していない。今後も、NATO加盟国と非加盟国がスカイシールドに参加する可能性についての交渉が続くと予想される。また、米国は東欧の弾道ミサイル基地の一部をNATOから独立して運用し続ける予定である。

米国は、米国製の終末高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を優先するため、まだ署名していない。一方、ドイツのクリスティーン・ランブレヒト国防相は、イスラエルの高高度ミサイル防衛システム「アロー3」を採用するよう働きかけている。この議論は、どの国が資金を獲得して技術を決定し、政策的・戦略的に優位に立つかという古典的なせめぎ合いの再現であり、イスラエルの「アロー3」システムを採用する可能性に対してワシントンがどのような見返りを受け入れるかという不確実性が根底にあるように思われる。「アロー3」は米国製部品を含むため、米国は販売先に対する拒否権を持っている。

The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense - Successful Mission, Public Domain
The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense – Successful Mission, Public Domain

北はノルウェーから南はギリシャまで、NATOの東側を守ることを表向きの目的としたシステムを構築するには、少なくとも数百億ユーロの投資が必要である。とはいえ、度重なるミサイル防衛実験の失敗や、イスラエルやウクライナのミサイル防衛が露呈した能力の限界から、絶対防御とはミサイル防衛が提供できる範囲をはるかに超えていることは周知の通りである。通常兵器のミサイルに対して80%の信頼性があれば、完全ではないにせよ、意味のある防御を提供することができる。

ICAN
ICAN

しかし、核武装したミサイルの撃墜に20%もの失敗率があれば、想像を絶する惨状となり、地球の寒冷化、最悪の場合、核の冬になるかもしれない。注目すべきは、米国はロシアの極超音速滑空体や他の特殊な核兵器運搬システムに対する真の防御手段を未だ持ち合わせていないことである。

Defense-Aerospace.com は、スカイシールド計画に関連するドイツの思惑に焦点を当てた記事の中で、スカイシールド構想には産業政策上の影響があると報じている。「もし欧州諸国がアロー3とパトリオットミサイルの新型を採用すれば、重要な防衛分野における技術的ノウハウを米国に明け渡すことになり、米国がF-35戦闘機で達成したのと同じように、この分野を支配することが可能になる。」

この記事はさらに、「ドイツ政府がアロー3の購入許可と引き換えに、米国製防空システムの新規顧客を15カ国連れてくるのか、それともアロー3を購入したいが単独ではカバーできない費用の一部を負担してくれるパートナーを探しているのか、疑問が生じる」と報じている。

軍産複合体の無駄遣いかもしれないが、スカイシールドはもちろんお金以上の価値がある。シュピーゲル誌によれば、ドイツ連邦軍はドイツがロシアからの「実存的」な脅威に直面していると考えている。ロシアがウクライナに侵攻し、ミサイルや大砲によってウクライナのインフラ、とりわけ経済網が壊滅的な打撃を受けたことを考えれば、これは不合理な恐怖ではないだろう。

欧州諸国が怯える中、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、この戦争を戦後の欧州の「転換点」と位置づけ、ドイツの外交・軍事政策の転換を迫った。ドイツの「スカイシールド」構想は、ドイツが非ロシア系欧州軍事大国として主導権を握ろうとする20世紀を彷彿とさせる動きの一つであるように見える。

欧州外交問題評議会は、NATO加盟国のほとんどが「スカイシールド」に署名した理由を説明している。ロシアがウクライナに対して行った4000発以上の壊滅的なミサイル攻撃(最近ではウクライナのインフラに対するものも含む)からの教訓として、「ロシアは今後もウクライナやおそらくそれ以外の地域でミサイルを使い続けるだろう。 」と報告している。(このような戦争のやり方は、包囲戦の長い伝統の中にあり、米国のイラク戦争からわかるように、ロシア特有のものではない。) それゆえ、評議会の記事はこう続く。

Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.
Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.

スカイシールドは、「欧州がウクライナの窮状をよく観察し、自国の領空に対する潜在的脅威に対して先制的に行動していることを示唆している。」スカイシールドは、「ウクライナが現在直面している、異なる防空システムを統合し、その運用を調整する方法と同じ課題に取り組む必要がある」と説明し、戦争が新しい兵器システムや戦略の実験場となる伝統から、「ウクライナは現在その課題の実験場となっている。」と述べている。

欧州理事会は、ドイツが既にIRIS-Tシステムをウクライナに提供していることに触れ、「中期的には、ウクライナは欧州スカイシールド構想に参加でき、そうすることで同構想を大幅に強化できるはずである。」と説明している。NATOが2008年のブカレスト首脳会議で、ウクライナの加盟に門戸を開いていると宣言したことと合わせると、安全で中立的なウクライナを実現するための交渉には暗い兆しが見える。

NATO.INT
NATO.INT

もちろん、過去は過去であり、行動は意図しない結果も含め、必然的にその結果をもたらす。ロシアが国連憲章を破ってウクライナに侵攻した原因が、米国主導によるNATOの東方拡大であったように、スカイシールド構想の根底には、モスクワの野望がウクライナ以外にも及ぶかもしれないという欧州諸国の懸念がある。

また、ジョージ・W・ブッシュ政権が2002年に弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約を破棄したことでも、その勢いは増している。この条約は、かつて米国の軍備管理協会が「戦略的安定の礎」と評し、核軍拡競争に歯止めをかける役割を果たしたが、核優位性と、過去に行われたような核脅迫と強要を継続する能力を追求するために、不毛で自殺行為の可能性もある形で破棄された(特にイラク戦争の前夜に米国が行った1991年と2003年の核脅迫を見てほしい)。

ミサイル防衛は防御一辺倒ではなく、先制攻撃の剣を補強する防御の盾にもなるため、一世代前に軍備管理協会が警告したように、ABM条約の破棄は、それぞれが 「防御を補強するために攻撃のための核戦力を増強する」軍拡競争のスパイラルに陥っている。これにより人類は、「それぞれが相手の行動と均衡を保とうとするため、際限のない攻撃的な防衛戦力競争への道を歩む」ことになった。この力学は、東欧に拠点を置く米国とNATOのミサイル防衛システムが、核武装した巡航ミサイルの発射に転用されるのではないかというロシアの懸念によって、さらに複雑なものとなっている。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

注目すべきは、最近行われた米国、NATO、ロシアの現職、元職を交えたトラック2協議において、米国の参加者がウクライナ戦争終結のための交渉要請では不十分であると主張したことだろう。NATOの拡大(フィンランド、スウェーデンも含む)とロシアのウクライナ侵攻は、大国間の核戦争の危険を大幅に減少させた欧州と大西洋の戦略的安定の基盤を揺るがした。パリ憲章に始まる1990年代の欧州の安全保障秩序は、今や歴史となり急速に崩壊しつつある。

しかし、希望がないわけではない。私たちが直面している実存的な課題は、21世紀の共通の安全保障秩序を構想し構築することである。私たちは、外交によってウクライナとロシアの穀物取引が延長され、また最近行われた米露の軍高官による会談によって、建設的な交渉が可能であり続けることを目の当たりにした。

ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナだけでなく、米国とNATOも必然的に参加する交渉によってある時点で終結するとの認識がある。このような交渉は、スカイシールドをはじめとするミサイル防衛システムの根拠となる先制核攻撃ドクトリンの放棄を含む新たな欧米安全保障秩序を構築する第一歩となりうるものである。原文へ

INPS Japan

関連記事:

軍拡競争を引き起こしかねないミサイル防衛

|視点|核兵器の先制不使用政策:リスク低減への道(相島智彦創価学会インタナショナル平和運動局長)

ウクライナをめぐる核戦争を回避するために

危険に晒される先住民族の言語に警鐘を鳴らす

【ニューヨークIDN=J.ナストラニス】

第77回国連総会議長のチャバ・コロシ(元ハンガリー国連大使)氏は、12月16日に「先住民言語の国際の10年」を開始するにあたり、「先住民は、世界に残る生物多様性の約8割の保護者である。」と語った。

Csaba Korosi, President of UN General Assembly/ By Palácio do Planalto, CC BY 2.0

カナダのモントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)から戻ったばかりのコロシ議長は、「このイベントの目的は、先住民の言語を保護し、促進することにあります。そして、次の10年がその保護をどのように形成していくかを考えることです。」と語った。

「自然保護を成功させるためには、先住民の声に耳を傾け、それを彼らの言語で行わなければなりません。しかし、2週間に1つのペースで先住民の言語が死滅しています。先住民の言語が消滅するたびに、その言語に付随する文化、伝統、知識も消滅してしまうのです。」と、コロシ議長は指摘した。

北極圏のコミュニティが自分たちの言語で公共サービスを受けることを望み、コロンビアのアルワコ族が今もイカ語を話すなど、世界各地の先住民が母国語を守り続けようと決意している。

このような背景から2007年、国連総会は「先住民族の権利に関する宣言」を採択し、「先住民族の歴史、言語、口承、哲学、文字体系および文学を再生し、使用し、発展させ、将来の世代に伝える」権利を認めた。

「国際の10年」の宣言は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が世界的な取り組みを主導する「2019年国際先住民族語年」の重要な成果である。

ユネスコは、国連経済社会局やその他の関連国連機関と協力し、引き続き「国際の10年」の実施に向けた主導的な国連機関としての役割を担う。

国連経済社会局によると、先住民は世界人口の6%未満を占めるが、世界の約6700の言語のうち4000以上を話している。

UNESCO

しかし、控えめに見積もっても、今世紀末には先住民の言語の半分以上が絶滅するといわれている。

コロシ議長は、各国に対し、先住民族コミュニティと協力して、彼らの母語による教育や資源へのアクセスといった権利を保護し、先住民自身や彼らの知識が搾取されないように促した。

「そして、おそらく最も重要なことは、先住民族と有意義な協議を行い、意思決定プロセスのあらゆる段階で彼らと関わることです。」と助言した。

文化的アイデンティティと知恵

UNニュースは、先住民族と各国の国連大使が、先住民族の言語の保護と保全の必要性を訴えたと報じた。

メキシコのフアン・ラモン・デ・ラ・フエンテ大使は、22のメンバーからなる「先住民族フレンズグループ」を代表して、「言語は単なる言葉以上のものです。」と述べた。

「言語は、話者のアイデンティティと、民族の集合的な精神の本質です。言語は、人々の歴史、文化、伝統を体現しており、驚くべき速さで消滅しています。」と警告した。

UN Photo/Eskinder DebebeAmbassador Leonor Zalabata Torres of Colombia addresses UN General Assembly members at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.
UN Photo/Eskinder DebebeAmbassador Leonor Zalabata Torres of Colombia addresses UN General Assembly members at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.

コロンビアの国連大使であるアルワコ族のレオノール・ザラバタ・トーレス氏は、彼女の故郷で話されている65の先住民言語の一つであるイカ語で演説し、喝采を浴びた。

「言語は知恵と文化的アイデンティティの表現であり、私たちが祖先から受け継いだ日々の現実に意味を与えてくれるツールです。」と、スペイン語に切り替えて語った。

「残念ながら、言語の多様性は危機に瀕しており、その原因は、先住民の言語が劇的に減少し、多数派社会の言語に取って代わられることが加速しているからです。」

トーレス氏は、コロンビア政府が、強化、承認、文書化、活性化を柱とする先住民言語の国際の10年の実施に取り組む姿勢を強調したことを報告した。

言語と自己決定

「北極圏の先住民族コミュニティにとって、言語は政治的、経済的、社会的、文化的、精神的権利に不可欠です。」と、代表のアルキ・コティエク氏は語った。

コティエク氏はまた、「実際、先住民が先住民族の言語で言葉を発するたびに、それは自己決定の行為なのです。」と語った。

「先住民の言語や方言には、様々なレベルの活力がある。」というコティエク氏は、北極圏の先住民が「尊厳を持って自分たちの故郷に堂々と立ち、生活のあらゆる面で、自らの言葉で、健康、司法、教育の分野で不可欠な公共サービスを受ける」時代が到来することを思い描いている。

言語的公正に向けて

アフリカ社会文化圏の先住民代表であるマリアム・ワレット・メド・アブバクリン女史もまた、「先住民言語の国際の10年」の開始にあたり、国連総会で演説を行った。

UN Photo/Eskinder Debebe Ms. Mariam Wallet Med Aboubakrine, Indigenous peoples' representative of the Socio-Cultural Region of Africa, addresses the UN General Assembly at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.
UN Photo/Eskinder Debebe Ms. Mariam Wallet Med Aboubakrine, Indigenous peoples’ representative of the Socio-Cultural Region of Africa, addresses the UN General Assembly at the launch of the International Decade of Indigenous Languages.

マリ出身の医師であるアブバクリン女史は、アフリカの先住民族、特にトゥアレグ族を擁護している。彼女は、各国に「先住民に言語文化的な正義をもたらすこと」を促し、それこそが和解と永続的な平和に貢献することになると語った。

アブバクリン女史は、国際の10年が国連条約の採択へと繋がり、「すべての先住民族の女性が、自分の言語で揺りかごの幼児をあやすことができ、すべての先住民族の子供が自分の言語で遊ぶことができ、すべての若者と成人がデジタル空間を含めて自分の言語で自己表現し、安心して働くことができ、すべての高齢者が自分の経験を自分の言語で伝えることができるようになる。」という希望を表明した。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

北極圏会議で注目を浴びる先住民族

|米国|国内で使用される言語トップ10にアフリカの諸言語が占める

先住民族が全ての権利の平等を主張

西側が直面する専制政治と神権政治の新同盟

0

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・カイサル】

世界の政治は、分極化の不穏な局面に達している。この状況の根底には、おもに米国が主導する民主主義国家と、ロシアと中国が主導する専制主義国家との間の闘争がある。しかし、ほかにも危険な側面がある。専制主義の大国とアフガニスタンのタリバンのような過激な神権主義勢力との密接な関係が浮上してきたことである。

1991年のソ連崩壊は、まぎれもなく西側に楽観主義の新時代を引き起こした。多くの人々、特に重要なのは当時の米国指導者の見解では、それが世に知られていた冷戦を終結に導き、共産主義に対する民主主義の勝利、息が詰まるような中央集権的社会主義に対する自由主義的資本主義の勝利を印象付けたのである。これを受けて、フランシス・フクヤマのような思想家は「歴史の終わり」を主張した。非常に挑発的な共産党独裁主義の中国や高飛車なロシアの台頭とともに、パワーが西側から東側へと目立たぬところで移ると気付いた者はほとんどいなかった。(原文へ 

同様に、ジョセフ・ナイが説いた力の拡散を予見し得た者も多くはなかった。その典型的な例が、アルカイダやイスラミック・ステートのような多国籍の暴力的過激主義グループやネットワークである。また、米国とNATOおよび非NATOの同盟国がアフガニスタンから敗北のうちに撤退し、その結果、2001年9月11日の米国テロ攻撃を実行したアルカイダをかくまったタリバンが、再びアフガニスタンで政権を握ることになるとは、概して思いもよらないことだった。あるいは、その点で言えば、現代の独裁者ウラジーミル・プーチンの権力への野心を体現するものとして、ロシアがウクライナを侵攻するということも予想外だった。

一方で、それ以上に当惑をもたらすのは、対立する国家グループを率いる二つの大国が、利害のうえで自国側につくならどの国でもおかまいなしに仲間に引き込んでいることだ。米国のジョー・バイデン政権は、当初外交政策で重視していた人権と民主主義的価値の推進を放棄してしまった。中国とロシアは、米国に敵対している、あるいはその可能性がある勢力なら相手かまわずすり寄っている。例えば、バイデンはいまや、かつてパーリア国家と呼んだ国(サウジアラビア)に再び歩み寄ろうとしており、イスラエルにパレスチナ領の暴力的占領をやめるよう圧力をかけるふりさえもしなくなっている。中国とロシアの指導者は、タリバンに対して非常に友好的になっている。

北京とモスクワは、もはやタリバンを過激派勢力ではなく同盟国になりうる相手として見ている。アフガニスタンのタリバン政権を公式承認してはいないものの、両国は緊密な外交関係を確立し、貿易・経済関係を結んでいる。

北京はタリバン指導者を大いに歓迎し、2国間関係を促進するため中国外相がカブールを訪問した。いまや中国は、アフガニスタン、特にその鉱業部門に対する最大の投資国となる構えで、アフガニスタンからの輸入品に対する関税を撤廃した。北京は非常に影響力の大きいプレイヤーとして浮上しつつあり、タリバンから望ましい経済的パートナーという宣言を得ている。

中国の影響力、アフガニスタンの二つの隣国であるパキスタンおよびイランと中国の経済的・戦略的パートナーシップ、そしてパキスタンによる決定的なタリバン支援により、北京は非常に強固な地域グループを築いている。中国の「神なき」世俗的共産主義が、タリバンのイスラム過激主義ともイランの政治的多元性を持った神権秩序とも都合よく付き合っている様子は、驚くべきものである。

同じことは、タリバン政権をほぼ承認しているロシアにも言える。ロシアは、タリバンがモスクワでアフガニスタン大使館を運営することを認めており、パキスタン以外でそれを認める唯一の国である。プーチンのアフガニスタン特使、ザミル・カブロフは近頃、ロシアはあらゆる実用的目的のため、タリバン政権を承認された存在として見なして対応すると発表した。

ロシアは、アフガニスタンに対して天然ガスを割安な価格で販売することを申し出ている。ただし、いずれのパイプラインを経由するかは明確になっていない。タリバンは、ロシアのウクライナ侵攻を支持しているため、百戦錬磨のタリバン戦闘員がロシア軍の前線に配置されている可能性はある。ロシアは、タリバンのイスラム過激主義が裏庭である中央アジアに広まることへの懸念をほとんど捨てており、タリバンも、1980年代にソ連がアフガニスタンを占領していた時期のロシア人の残虐行為を忘れ、プーチンがその専制支配の裏付けとしてキリスト教への信仰を改めて強化していることも見逃しているようである。

米国とその同盟国は、長期に及ぶウクライナ支援の態勢を整えている。これらの国々は、プーチン率いるロシアが欧州秩序、ひいては世界秩序の変更を狙う敵国であり、中国はインド太平洋地域における脅威であると断じている。二つの東側の大国は、支援を得られるなら相手かまわず手を結ぼうとしてきた。その相手には、アルカイダとつながりのあるタリバンや、アジア、中東、特にアフリカなど、世界各地に広がるその関連組織のような神権主義的勢力さえ含まれる。

 現在展開されている戦線は、冷戦時代よりもさらに世界情勢を微妙に、そして危険にしている。

アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。

INPS Japan

関連記事:

ロシアと中国がアフリカで協力関係を構築、米国は遅れをとる

アフガン・パラドックス:カブール陥落後の 中国、インド、そしてユーラシアの未来

新アフガニスタンに地政学的な足場構築を決意する中国

医療従事者は私たちを守ってくれるが、誰が彼女らを守ってくれるのか?

【ワシントンDC/オックスフォードIDN=ローパ・ダット、ベッキー・コックス】

新型コロナウィルス感染症の世界的流行(パンデミック)では、9割を女性が占める最前線の医療従事者の活躍に称賛の声が広がったが、その陰では、こうした女性医療従事者を標的にした悪質な行為が横行している。私たちの2つの組織は、彼女たちの安全と保護に関する問題が増えているという報告を受けたが、その中には「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」に関連するものもあった。この問題の規模を確認するためにデータを探したところ、正式に収集されたものはほとんどなかった。

そこで私たちは、それぞれのオンラインプラットフォーム「#HealthToo」と「Surviving in Scrubs(手術着で生き延びる)」を開設し、女性達自身の言葉で話を聞くことにした。被害を受けた女性医療従事者が匿名で体験談を投稿できるサイトを開設することで、医療現場で横行している虐待の実態と、それを隠蔽する力学をよりよく理解することを目指した。

グローバルヘルスにおける女性(Women in Global Health)の報告書「#HealthToo: 女性医療従事者にとっての安全な職場環境」は、虐待の種類と原因を示し、実現すべき制度改革への提言を行うものだ。

多数の投稿から、女性医療従事者達が、性差別的な発言や習慣、不本意な誘い、身体的暴行に至るまで、職場に関連した「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」を経験していることが明らかになった。その証言は暗いものばかりだ。

ナイジェリアの女性歯科医は、「ある日、男性の医師がドアを閉めてキスを求めてきたので、拒否しました。すると顔をひっぱたかれました。」と証言した。

セネガルでは、ある女医が診察の後、祖父ほどの年齢の男性に診察室に閉じ込められた際の経験を証言した。「彼は医療界で尊敬されている人でした。彼は、私の服装(制服)が悪いのだと言って、無理やり壁に押し付けてキスをしようとしたのです。」

また、メキシコ人の研修医が、上司から高評価と引き換えに性行為を求められるなどの嫌がらせに遭った例もある。「この上司は楽な道を示してやる。だが、もし申し出を断れば、失格にする。」と脅迫されたという。

ある米国のコミュニティヘルスワーカーは、嫌がらせをした人について、「彼は職場の人に大声で『なぜこの女を雇ったのか理解できない。他のマネージャーが職場の『かわいい顔』として雇ったに違いないと主張した。」と証言した。

「#HealthTooプロジェクト」の報告書で強調された2つの大きな問題は、①被害の規模を示す公式な統計が存在しないこと、②虐待の被害者の多くが、恐怖や汚名、報復を恐れて報告しないこと、であった。証言では、女性が報告する際に支援を得られないと感じたいくつかの事例が強調されている。

#HealthToo
#HealthToo

ガーナの医師は、「報告しなかったのは、私がことを荒立てていると見られると思ったからです。また、誰も私の言っていることを信じてくれないだろうし、同僚や上司を敵に回したくないという気持ちもありました。」と証言した。

「証拠はないし諦めました。」と証言したルワンダの女性医療技師も、同様の心情から裁判所に訴え出なかった。

スペインの看護婦も、「その男性が私にしたことを証明することは不可能だし、訴え出ても誰も私を信じてくれないと思いました。」と証言した。一方、エチオピアの看護婦の場合、「口外すれば退職させる」と脅されたと証言している。

女性たちが職場で経験した「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」に関する生々しい証言は、身体的傷や長期に亘る精神的なトラウマなど、女性に及ぼす深刻で有害な悪影響を示している。

職場における「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)は人権侵害であり、被害女性に正義が求められる。共有された個人的な体験談は、女性の安全を守れなかった世界の保健システムの不十分さを露呈している。このセクターの大多数を占める女性医療従事者は、虐待にさらされる環境で働いているだけでなく、多くの場合、環境そのものが虐待の横行を助長しているのだ。

この報告書は、国や状況に関係なく、男性に有利な力の不均衡が加害者にとって有利な環境を作り出し、虐待の主な根本原因の一つになっていることを明らかにしている。保健医療従事者の70%、現場スタッフの90%が女性であるにもかかわらず、保健医療分野の指導的地位の4分の3が男性によって占められている現状が大きな壁となっている。

特に低・中所得国では、性差別やセクハラを禁止する法律など、職場における男女平等を支援する法的枠組みがないことも問題を深刻にしている。

また、適切なインフラの欠如(共有の当直室、更衣室、暗い廊下)や、女性に対する虐待を矮小化し常態化する文化など、女性の安全に対する優先順位が低いことも要因として挙げられる。

地域や国の法律が必要な一方で、個々の職場は、この問題を認識し、内部告発の仕組みから義務的な研修や被害者の救済措置まで、安全策を提供する政策や慣行を導入しなければならない。

国際労働機関(ILO)の調査によると、職場での暴力は実質的にすべての経済部門とすべてのカテゴリーの労働者に影響を与えるが、職場における暴力事件の4分の1は保健部門で起きていることが明らかになった。

私たちのデータや、エチオピア、英国、エジプト、パキスタン、米国における様々な国内調査の報告書からも、「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」が世界の医療現場で横行している問題であることが明らかになっている。

世界レベルでは、2019年に採択されたILO条約190号について、ジェンダーに基づく暴力やハラスメントを含む暴力やハラスメントのない労働環境に対するすべての人の権利を認める画期的な条約として、一定の進展が見られた。この種のものとしては初の国際条約で、2021年6月25日に発効した。しかしながら、この画期的な条約を批准した国はその後僅か22カ国にとどまっている。

Tedros Adhanom Ghebreyesus/ WHO
Tedros Adhanom Ghebreyesus/ WHO

今こそ、ILO条約をさらに前進させ、加盟国が保健医療従事者をキャリアのあらゆる段階で「性的搾取、虐待、嫌がらせ(SEAH)」から保護するための世界基準を追加し、署名する時である。女性の保健医療従事者は、研修生や移住労働者が特に弱い立場にあり、日々人権侵害に苦しんでいる。

このような違反は、女性にとって大きな個人的犠牲を伴うものであり、保健医療サービスに大きな影響を与えるにもかかわらず、常態化しているのが現状である。特に女性が大量に離職する現象が続く中、2030年までに1000万人の保健医療従事者が不足すると予測されていることから、警鐘が鳴らされている。今こそ、世界の保健医療界が緊急に対応し、すべての保健医療従事者に安全で尊厳のある労働環境を提供すべき時だ。

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、「医療従事者の安全を確保しない限り、いかなる国、病院、診療所も患者の安全を確保することはできない。」と述べている。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

世界が直面している緊急の保健課題

「フェミニスト国連キャンペーン」、国連事務総長に有言実行を求める

パプアニューギニアで暴力の矢面に立たされる女性たち

人身売買の境界とフロンティア―ウィーン会議報告

【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス】

人身売買との闘いは、政府と非政府主体の緊密な協力を要するグローバルな現象だ。一国・地域・国際の各レベルで分野を横断した協力や意識喚起、予防的な行動がこの点で必要だ。効果的な予防措置は、人身売買撲滅活動の実践者たちの間で経験をいかに専門的に持ち寄ることができるかにかかっている。

オーストリアにとって人身売買との闘いは、2004年に人身売買撲滅タスクフォースを立ち上げてから常に外交政策上の高い優先順位を与えられていた。タスクフォースは2007年以来、国際移住機関(IOM)や欧州安全保障協力機構(OSCE)、そしてこの数年はリヒテンシュタイン政府と協力して年次会議を開催している。

今年のウィーンでの会議は「人身売買の境界とフロンティア」をテーマとした。さまざまな差異や限界、可能性を検討しようというものだ。人身売買の分類論自体が、移民の密航やその他の非合法な行為などの関連する現象と区別されるものでもあり、それと重なるものでもある。これらの行為は人身売買と併存し、被害者の確定を困難にしている。

人身売買と、最近現れつつあるその他の形態の搾取との違いが重要な議論のテーマになった。国境という概念はあらゆるところに現れ、ウクライナに対する戦争だけではなく、人身売買や非正規移住、難民の流れの関係にも見られるものだ。(人身売買の加害者にとってもそうなのだが)可能なことの限界が、最近の通信技術やシステムの発展によって引き上げられている。同様に、他人の身分の窃取や詐欺のようなあらたな形態の犯罪が、複雑なITシステムが普遍化するにつれて広がっている。

つながりを断つ

欧州連合(欧州連合)のダイアン・シュミット人身売買撲滅担当は、連鎖を断つことは意識を喚起することだと強調した。

毎年、7000人以上の人身売買被害者がEUで見つかっている。しかしこれは「氷山の一角」だ。暗数が多く被害者の本当の数はわからない。これがすでに第一の壁となっている。すなわち、認知と身元の確認だ。被害者とコンタクトを取ろうとする者はそのサインを見逃し、被害者は時として助けを求めることを恐れるかもしれない。これが人身売買の加害者と被害者をつなぐ見えない鎖だ。

シュミット氏は、「この連鎖を断ち切る第一歩は意識を喚起することだ。被害者になりかねない人々を含む市民らの人身売買に対する意識を喚起することで、まずもって犯罪の発生を予防することができるし、次に被害者の存在を認知して支援したり、加害者の行為を止め訴追することができる。」とウィーン外交アカデミーで行われた今回の会議で強調した。

意識喚起は、人身売買被害者の支援者訓練や人身売買の需要抑制策とあいまって効果を生み出す、とシュミットは語った。その明確な例は、ウクライナへの軍事侵攻から逃げてきた人々を保護するために各国やEUのレベルでさまざまな主体が実施している予防策だ。これらの措置のおかげで人身売買はきわめて低いレベルにとどまっている。

人身売買の加害者と被害者をつなぐ連鎖は、デジタル空間ではさらに見えにくいものになる。オンライン上での出来事とオフラインでの出来事との間の境界線が消えつつある。今日では、ほぼすべての人身売買が何らかの形でオンライン上でなされる。ここで重要なのは、オフラインで違法なことはオンラインでも違法だということだ。

オンラインの側面に触れると、性的搾取のことを考えがちだ。しかし、その他の形態の搾取も無視することができない。搾取的な労働や犯罪行為への参加を強制するためにオンライン上でリクルートされてくる被害者がいるからだ。

オンラインという要素は、人身売買の各段階の一要素に過ぎない。

国連麻薬犯罪事務所(UNODC)のイリアス・チャツィス人身売買・密航移民局長は、人身売買の加害者はその活動のあらゆる局面にきわめて迅速に新技術を取り入れてきているとという。2003年にはサイバー空間を利用した人身売買はわずか1件だったが、今日の人身売買では、被害者の勧誘からサービスの「販売」、違法利益のロンダリングに到るまで、少なくともひとつの形態においてはインターネットが必ず利用される。インターネットは、すぐに利用できるツールの一つとなったのだ。

「UNODCでは、加害者がいかにして偽サイトを作り、正当な求人サイトに広告を投稿し、あるいはSNSやマッチングアプリなどをいかに活用しているかについて追ってきた。『ハンティング』や『フィッシング』といった手法を通じて、彼らは〔搾取できる人間を〕必要としている集団や個人を積極的にターゲットとするのだ」とチャツィス氏は強調した。

5、6件の事例において、被害者は身分を騙った者から接触を受け、別の国に連れてこられると搾取が始まる。たとえば、加害者はIT部門の仕事を探している若者をターゲットとし、アジアの国での仕事を好条件で持ちかける。しかし、被害者がその国に到着すると、使用者はパスポートを取り上げ、契約は変更になったと告げる。そして彼らを、オンライン上での偽仕事に従事させるのである。今日、被害者の6割以上がオンライン上でリクルートされた者だ。

「今日、オンライン技術を利用しない人身売買のケースを見つけるのは難しくなっている。人身売買を将来的に根絶するには、加害者の技術レベルに各国がどれだけ追いつけるかにかかっている」とチャツィスは説明する。

違法売春とコロナ危機

見逃せない事実は、加害者は、ナイトクラブのダンサー、ウェイトレス、モデルなどのいずれであろうとも、うその約束をして出身国から被害者を連れてきているということだ。人間がある国から別の国へ移動させられるため、交通費のために借金をさせられることがあり、そこから抜け出せなくなる。

しばしば、同じ組織犯罪集団がさまざまな犯罪の背後にいて、カネを生み出す。有能な当局であれば、違法密航や麻薬密輸の背後にある犯罪者に焦点を当てるが、捜査を進める中で、保護を必要としている人身売買の被害者に出会うことも忘れてはならない。

違法売春は特にコロナ禍の間に激しさを増し、現在でもはびこり続けている。売春女性が公的空間や売春宿から消え、民間のアパートで働き始めた時期でもあった。このやり方は今日でも続いている。自らオンライン上で売り出し、自宅を仕事場とすることもできる。ベトナム人身売買売春局のクラウディア・D氏は、売春に従事させられている児童は自動的に被害者と見なすべき時が来ていると指摘する。

EUでは、人身売買の大半のケースが性的搾取だ。同時に、労働搾取も他の形態の搾取とともに増えている。人身売買と、不法移住、麻薬密輸、臓器切除、詐欺、汚職、マネーロンダリングなどその他の形態の犯罪との結びつきも強まっている。

オーストリア犯罪情報局で人身売買売春対策中央サービスのトップを務めるジェラルド・タツェルン氏は、被害者の存在そのものを証拠とせざるを得ない人身売買捜査は困難を極めると指摘した。証拠品や足跡が残りにくいということでもある。タツェルンは、人身売買の被害者は保護されねばならないが、インターネットを通じて攻撃がなされるとき、それはきわめて難しいと語る。技術の進展にしたがって、犯罪環境はサイバー空間に広がっている。

これまでに紹介してきた専門家に加え、国連ウィーン本部のガーダ・ワリー事務局長、フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官、欧州評議会人身売買撲滅条約のペトヤ・ネストロバ事務局長もタスクフォースに加わっている。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

コロナ禍、気候変動、不処罰と人身売買を悪化させる紛争

国連、北朝鮮で横行している脱北女性達に対する人権侵害を告発

|視点|人間をカネで売るということ(フレッド・クウォルヌ放送作家・映画監督)

|インド|核兵器禁止条約加入への要求強まる

【ベルリン/ニューデリーIDN=ラメシュ・ジャウラ】

インドのナレンドラ・モディ首相に対して、核兵器禁止条約に加入するよう求める声が強まっている。同条約は国連総会にて2021年1月に122カ国という明確な賛成多数をもって採択され、50カ国以上の批准を経て発効した。以降、署名国の数は91に増えている。核禁条約は、核兵器の使用・保有・実験・移転を国際法によって禁じている。

モディ首相に対する呼びかけの重要性は、インドが世界の核保有9カ国の一つであるという事実による。現在、世界全体で推定1万3000発程度の核兵器が存在しており、そのほとんどが広島に77年前に投下された原子爆弾よりもはるかに強力である。

国連安全保障理事会の五大国であるロシア・米国・中国・フランス・英国がこの核兵器の大部分を保有している。だからと言って、パキスタン・インド・イスラエル・北朝鮮の核兵器もそれに劣らず危険である。

Global Nuclear Warhead Inventories 2021/ SIPRI
Global Nuclear Warhead Inventories 2021/ SIPRI

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2021年の年鑑によると、165発の核兵器を保有するパキスタンに、156発のインドが続く。さらに、イスラエル90発、北朝鮮40~50発と続く。これら9カ国の核兵器保有国はいずれも核禁条約には加入していない。

The Union Minister for Panchayati Raj and Development of North Eastern Region, Shri Mani Shankar Aiyar addressing the Press Conference on 4th NE Business Summit to be held in Guwahati on 15th & 16th September 2008, in New Delhi on September 11, 2008./ By Ministry for Development of North-East Region (GODL-India), GODL-India
Shri Mani Shankar Aiyar addressing the Press Conference on 4th NE Business Summit to be held in Guwahati on 15th & 16th September 2008, in New Delhi on September 11, 2008./ By Ministry for Development of North-East Region (GODL-India), GODL-India

元外交官として高く評価されているマニ・シャンカール・アイヤール氏は、「インドが、この恐ろしい兵器を世界からなくすという問題で、従来の先駆的な役割を再開するならば、事実上の核保有国として初めて、この非常に危険な兵器の廃絶を主張する国になるだろう。」と語った。

インディアン・エキスプレス紙への投稿で、インドの学者、ジャーナリストであり、外交政策の専門家であるC・ラジャ・モハン氏は、インドの戦略は「信頼性のある最小限抑止」という考え方を前提にしていると論じている。いったい何が「信頼」に足るものであり、何が「最小限」なのかを考える時が来た、とモハン氏は言う。

「インドは、新たな次元に入りつつある世界的な核の言説により大きな関心を払い、自らの民生用・軍事用核計画について再考すべきだ。」

ムンバイの「アジア協会インドセンター」の下部組織である「アジア協会政策研究所」の上級研究員も務めるモハン氏は、1998年の核実験後、インドの関心は世界的な経済制裁も含め、核実験遂行の決定がインドに及ぼす影響への対処に移っていった、と指摘する。

Dr. C. Raja Mohan (Director, Carnegie India, Neu Delhi)/ By Heinrich-Böll-Stiftung from Berlin, Deutschland - C. Raja Mohan, CC BY-SA 2.0
Dr. C. Raja Mohan (Director, Carnegie India, Neu Delhi)/ By Heinrich-Böll-Stiftung from Berlin, Deutschland – C. Raja Mohan, CC BY-SA 2.0

2005年7月の歴史的な米印原子力合意は、インドが署名していない核不拡散条約(NPT)体制との長年の対立にようやく終止符を打つ枠組みを生み出した。

合意の要旨は、インドの民生用核利用と軍事利用を分離することにある。米印核協定が数年後に締結されたことで、インドは、核戦力を充実させ、1974年5月の同国初の核実験以来停止してきた世界の他の国々との民生用核協力を再開する自由を得た。

インド政府内では、米国との核協定の条件を巡って、しばしば激しい政治論争があった、とモハン氏は言う。

「政府中では、インドの核開発と外交政策の自立性を犠牲にするものではないかとの意見が根強かった…。インドは米国から原子炉を一基も購入したことがないし、米国の『ジュニアパートナー』となったこともない。インドの独立した外交政策は、うまくいっているように見える。しかし皮肉なことに、インドの核の孤立が2008年に解けると、核を巡るインド国内の議論は緊急性を失っていった。」

「2022年8月の第10回NPT再検討会議が失敗に終わったことは、今日の世界の核秩序が直面している新たな課題とそのインドへの影響を明らかにしている。」と、モハン氏は付け加えた。

Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons
Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons

アイヤール氏は、インドは核禁条約を支持しなかっただけではなく、この8年間、「インドは普遍的な核軍縮を謳うことも止めてしまっていた。」と指摘する。

このことは、マハトマ・ガンジーやジャワハルラル・ネルー首相、インディラ・ガンジー首相が、核兵器の保有や使用に対して明確に反対していたのとは好対照だ。つづけて、ラジブ・ガンジー首相は1988年、22年以内、すなわち2010年までに核兵器に依存しない非暴力的な世界秩序を段階的に建設するための詳細な行動計画を国連に対して提示した。

この提案された行動計画を履行する試みがまったくなされないまま2010年の期限を迎えようとする中、2006年、インドのプラナブ・ムカルジー外相(当時)は、この行動計画の主要な目的をまとめた作業文書を国連に提出した。

「しかし、(モディ首相が率いる)インド人民党(BJP)主導の政権が2014年に成立すると、インドはこの行動計画も作業計画も捨て去ってしまったようだ。ムカルジー元外相の作業文書は、インドがその10年前に事実上の核兵器国になった後に発表されたものであり、それに先立つものではなかったことは重要だ。」とアイヤール氏は断言している。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

1988年のラジブ・ガンジー首相が提唱した行動計画と作業文書に対する支持者は少なかったが、今では大量破壊兵器のない世界を追求する多数の非核保有国が登場してきている。

アイヤール氏は、「化学兵器の使用、あるいは使用の威嚇を違法化する国連条約という先例が存在する。核禁条約は化学兵器禁止条約の主要な条項の多くを取り込んでいる。もし化学兵器が国連の決定によって禁止されたのならば、核兵器に関してそうしてはいけない理由はない。」と強調する。

モディ首相がそこに向けて必要な措置を採るかどうかは未知数である。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

勢いを増すインドの核抑止政策

核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

|視点|核兵器禁止条約は非核兵器世界への道を切り開く(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

「咢堂香風・日米交流の軌跡」

【東京IDN-INPS=尾崎行雄記念財団】

12月3日は 憲政記念館で尾崎行雄記念財団主催「米国桜寄贈110周年記念の集い・記念講演会」が開催されました。

土井孝子・NPO法人咢堂香風(がくどうこうふう)理事長による記念講演「桜とハナミズキ・日米交流の軌跡」では、長年にわたる米国との交流の歩みを披露いただき、日米両国の友好にも多大な貢献を果たされてきたことが改めて実感できました。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

激動の国際情勢において、もしも相手国が困ったとき、両国政府は良好な関係であり続けられるか。

その時に強力な後押しとなるのは、それぞれの国民感情です。国民感情が良好であれば、危機的状況に陥ることなく頼もしい味方となります。逆に国民感情が冷え切って、さらには敵意につながると最悪の事態にも繋がります。

そうした歴史を鑑みると、咢堂香風が担ってきた民間外交は間違いなく意義深いものであります。

全米桜まつりは同国でも春の風物詩となっていますが、桜の由来が尾崎行雄市長による東京からの友好の印であることは意外と知られていません。

咢堂香風の活動は、桜とハナミズキを通じての咢堂精神普及にも大きな役割を果たしています。(尾崎財団ウェブサイト

INPS Japan

Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri/ INPS Japan

関連記事:

世代を超えて受継がれる平和と友情の絆

尾崎咢堂の精神を今日に伝える日本のNGO

「憲政記念館・代替施設」が開館