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人工知能戦争

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=デニス・ガルシア】

21世紀3番目の十年紀は、消耗をもたらすパンデミックに祟られたスタートを切った。2020~21年の世界経済における損害は10兆ドルにのぼる。今は、軍事力をひけらかしたり、破綻した戦略を売り込んだりする時ではない。米国が先陣を切って推進している人類の共通利益のためのAI活用を目指す、真に画期的な21世紀の青写真は整っている。(原文へ 

人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)は、報告書を発行したが、変革的な道筋を描くチャンスを逃し、代わりに自身のプラットフォームを用いて時代遅れな筋立てを大々的に発表した。世界の軍事費ならびに軍事用知力は、世界の平和と安全保障を強化する協力の構造や枠組みをさらに構築するために用いられるべきである。しかし、NSCAIは、冷戦時代に採用され破綻した、おそろしく費用がかかる戦略の焼き直しを描いて見せた。

NSCAIは、「われわれはAI競争を受け入れるべき」であり、「ワクチン開発のように人類に利益をもたらす快挙を目指してAI競争が行われる場合、われわれはパートナーと切磋琢磨するべき」だと提言し、「AIは世界を再編する。米国は努力の先頭に立つべきだ」と述べる一方で、AI軍拡競争につながりかねない提言も行っている。過去において、競争や敵との闘争という考え方は人類の役に立たなかった。冷戦時代、この考え方に基づいて非常に高コストで使用不可能な7万発の核兵器が蓄積された。そのほとんどは後に解体・廃棄され、現在国際社会には13,410発の弾頭が残されている。

コロナ禍後の世界で再び軍拡競争、つまりAI軍拡競争を行うことは、正当性がなく、無益なことに思える。新しい武器システムの開発を絶えず追求することは、人類の安全保障に役立たない。むしろ、次なるパンデミックや一連の気候危機による災害を防ぐための投資や関心が減じられることになる。経済平和研究所の「生態系への脅威登録」によれば、1990年以降、米国はどの国よりも多くの気候被害を受けており、山火事、干ばつ、極端な気温、嵐、洪水が704件発生し、100万人近くが避難を余儀なくされた。このデータは、米国が気候変動に最も脆弱な国の一つであることを示している。気候危機に向き合うことは急務であり、費用がかかる。誰の安全保障にもならない途方もなく無益な軍拡競争に再び乗り出すのではなく、気候変動の最悪の影響を予防し、緩和するために投資を行うべきである。

AI軍拡競争を回避するために、米国の新大統領でありグローバルな視点を持つジョー・バイデンは、世界を代表して革新的な取り組みを行い、戦時における人間の判断を放棄して機械に委ねることがないようにするべきである。そのために、バイデンは科学界の助言に耳を傾けることができる。2015年に発表され、約4,500人のAI/ロボット工学研究者と26,000人以上の個人が署名した「AIおよびロボット工学研究者からの公開書簡(Open Letter from AI & Robotics Researchers)」において、研究者らは自分たちがAI兵器の開発に関心を持っておらず、それは化学者と生物学者のほとんどが化学兵器や生物兵器の製造に関心を持たないのと同様であると述べている。NSCAIの提言と対照的に、科学者たちは、「要約すれば、われわれは、AIが多くの形で人類に利益をもたらす膨大な可能性を持っており、その実現をこの分野の目標とするべきだと考えている。AI兵器の開発競争を始めるのは間違ったアイディアであり、人間が実効的にコントロールできない自律型攻撃兵器を禁止することによって防ぐべきである」と主張した。

その後、科学者たちは別の書簡も発表した。これは誓約の形を取り、その中で彼らは繰り返し、人命を奪う決定を決して機械に委ねるべきではないと訴えている。彼らは、倫理と実利の両方の立場を説明している。機械が人命を奪った場合、機械を罪に問うことはできない。そこで実際問題として、AI軍拡競争は国際安全保障を不安定化させ、その過程で迫害の強力な手段になると考えられる。したがって、そのような軍拡競争に烙印を押して阻止することは全ての国の利益になると、科学者たちは示唆している。これまでに247団体と3,253人が署名した誓約書は、自律型兵器に対抗する確固とした規範と規制手段の確立を求めている。

世界のほとんどの国は、戦争におけるAI利用を規制する新たな統制体制をもたらす国際規則を実現する意図がある。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「人間の関与なしに標的を選定して命を奪う能力と裁量を備えた自律型機械は、政治的に受け入れられず、道徳的に嫌悪感を引き起こすものであり、国際法により禁止されるべきである」と考えている。国連が持つ最も強力な能力は、国際法の規則のもとで法の支配を尊重する枠組みを構築し続けることである。それは1945年に始まり、世界の歴史上最も長期にわたる平和を導き、第三次世界大戦を防いできたのである。今は、そのような世界規模の対立につながる道を作り出す時ではない。

デニス・ガルシア は、ボストンのノースイースタン大学教授である。著作 “When A.I. Kills: Ensuring the Common Good in the Age of Military Artificial Intelligencea” が刊行予定。また、戸田記念国際平和研究所「国際研究諮問委員会」のメンバーである。ロボット兵器規制国際委員会副議長も務めている。

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

西アフリカのサハラ砂漠南部に広がる半乾燥地域(サヘル地域のマリやブルキナファソ、ニジェール)で、イスラム過激派による(子供を含む)民間人を標的にした襲撃、誘拐、虐殺が頻発している現状を取材した記事。この地域には国連、EU、フランス軍による平和維持部隊が展開しているにも関わらず、民間人や兵士を狙ったテロが増加する等、近年急速に治安が悪化している。(原文へ

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

タンザニアでは、港湾都市のダルエスサラームの病院に心疾患で入院していたジョン・ポンベ・ジョセフ・マグフリ大統領が3月17日にの逝去したのを受けて、半旗が掲げられている。マグフリ氏は享年61歳であった。

サミア・スルフ・ハッサン副大統領が、国営テレビで大統領の悲報を伝えた。ハッサン副大統領は憲法の規定に従い第6代大統領に就任し、マグフリ大統領の二期目(昨年11月~2025年)を努めることになる。サミア氏はタンザニアで初の女性大統領となる予定である。

Map of Tanzania
Map of Tanzania

「マグフリ氏は3月6日からジャカヤ・キクウェテ心臓病研究所に短期入院したが、3月14日に再び体調を崩して病院に緊急搬送された。」と、サミア副大統領は語った。

アフリカ各国の首脳から追悼のメッセージが寄せられる中、タンザニア国内の反応は、野党議員らがマグフリ大統領の下で民主主義が後退したと指摘する等、賛否入り混じったものとなっている。マグフリ氏は、頑強な新型コロナウィルス感染症否定論者で知られ、マスク着用やソーシャルディスタンスに反対する一方で、効果が証明されていない薬草療法を勧めたり、神の恩恵でタンザニアは新型コロナウィルス感染症を克服したと主張していた。

「ワクチンは機能しない」

マグフリ氏は、最後まで保健省に対して、新型コロナウィルスワクチンをタンザニアに確保しないよう働きかけていた。また1月下旬には、「ワクチンは機能しない。もし白人が本当に(新型コロナウィルス)ワクチンを開発できていると言うなら、エイズワクチンだって開発できていただろうし、結核のワクチンは既に過去のもので、マラリアワクチンや癌のワクチンも既に発見されていたはずだ。」と主張していた。

マグフリ氏の死因は心疾患とされているが、公に姿を現さなかった3週間と最後の状況から、新型コロナウィルス感染を疑う声も少なくない。

野党指導者のトゥンドゥ・リス氏は「マグフリ氏の死因は新型コロナウィルス感染症だ。」「彼は、新型コロナウィルス感染症と闘う国際社会を無視しました。…東アフリカコミュニティー、近隣諸国、科学を無視したのです。世界中の人々が新型コロナウィルス感染症と闘うために実践するように言われている基本的な注意事項を拒否しました。」と語った。

リス氏はさらに、「彼はマスクを着けず、着用している人を中傷しました。また、科学やワクチンの存在も信じませんでした。一方、信仰による治癒と医学的に疑わしい薬草の調合を信じていました。」と指摘したうえで、「その結果、何が起こりましたか。新型コロナに感染して倒れたのです。そして今になって、私たちは、マグフリ氏が新型コロナ感染症について理解していた事実を知るのです。」と語った。

マグフリ氏は亡くなる少し前、ザンジバル島の副大統領が新型コロナウィルス感染症で死亡したのを受けて、タンザニアに新型コロナウィルス感染症が依然として蔓延しているという事実を渋々と認めていた。

マグフリ氏は2015年に腐敗と闘い、インフラ開発を進めることを公約にタンザニア第5代大統領に当選した。

権威主義的な政治

しかしまもなく権威主義的な傾向を強め、メディア、市民社会、野党に対する弾圧を始めたため、同盟諸国や人権団体の間で、懸念が広がっていた。

昨年10月の大統領選挙では再選を果たしたが、野党や一部の外交官の間から、票の不正操作や外国メディアやオブザーバーチームに対する妨害行為、軍による威圧的な行動があったとして選挙の正当性を疑う指摘がなされていた。

なかには、マグフリ氏は、アフリカで最も安定した国の一つであるタンザニアの民主主義に深刻な打撃をもたらしたと分析している専門家もいる。

John Magufuli, President of Tanzania/ Issa Michuzi
John Magufuli, President of Tanzania/ Issa Michuzi

一方で、マグフリ氏は、無償教育と農村の電化を拡大したり、鉄道や、電力出力を倍増させた水力ダム建設に投資したこと、さらには国営航空を復活させた実績が称賛されている。

マグフリ政権はまた、タンザニアの鉱山資源への政府の関与を高める一連の法律を通過させ、諸外国が所有する鉱山会社に数百万ドル相当の税金不足分を支払うよう要求した。

マグフリ氏はタンザニア北西部のビクトリア湖に面したゲイタ州チャト地区で生まれ育った。彼の実家は草葺屋根の家で、家畜の世話をしながら、牛乳や魚を売って、家族を支えた。「貧しいということがどういうこと私はよく知っている。」としばしば語っていたという。

マグフリ氏はダルエスサラーム大学で化学の博士号を取得したほか、英国のアルフォード大学にも留学している。

マグフリ氏は1960年代初頭の英国からの独立以来、同国の政権を担い続けているタンザニア革命党(CCM)のメンバーであった。また、1995年に国会議員に選出されてからは、畜産漁業開発大臣や土地集落住宅大臣を歴任し、「ブルドーザー」の異名をとった。あとには、小学校の教師をしている妻のジャネットと2人の子息が残された。(原文へ

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インドで広がる「民主主義の赤字」

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年3月23日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが2月初めに発表した年次民主主義指数で、世界上位5カ国の民主主義国はノルウェー、アイスランド、スウェーデン、ニュージーランド、カナダとなった。北朝鮮は圧倒的な最下位を記録した。インドは、52の「欠陥のある民主主義国」のうちの一つに分類された。インドのスコアは、ナレンドラ・モディ首相が就任した2014年の7.92から2020年は6.61へと低下し、世界ランキングは、27位から2020年の調査対象167カ国中53位へと転落した。報告書では、「当局による民主主義の後退と市民の自由に対する弾圧」や「インドにおける市民権の概念に付きまとう宗教的要素」により、「インドの民主主義規範に対する圧力が高まっている」と論じられている。新型コロナ抑制の努力は、「市民的自由のさらなる侵食をもたらした」。(原文へ 

フリーダム・ハウスは、3月3日に発表した報告書「世界における自由2021」において、インドの評価を「自由」から「部分的に自由」に引き下げた。それによると、インドにおける市民的自由は2014年以降低下し続けており、ジャーナリストへの脅しの増加、人権団体に対する圧力の増大、ムスリムへの攻撃の増加が見られる。2019年のモディ首相再選以来、自由の低下は顕著に加速しており、「インドは民主主義の世界的リーダーとしての役割を担う可能性を放棄し、包摂と全ての人の平等な権利という価値観の構築を犠牲にして、偏ったヒンドゥー・ナショナリストの利益を推進しているようである」。

モディ政権は「選挙制独裁」へと移行したと、スウェーデンのイェーテボリに本拠を置くプロジェクト「バラエティーズ・オブ・デモクラシー(V-Dem)」は3月半ばに発表した世界の民主主義の健全性に関する年次調査において述べている。モディ政権には、治安妨害禁止法を乱用し、品位を低下させた罪もある。インドの国家犯罪記録局のデータによると、治安妨害事件は2016年から2019年までに165%も増加している。最近の例として、22歳の環境活動家ディーシャ・ラヴィの事件がある。彼女は、デリー周辺で行われた農民たちの抗議への関心を高めるため、大胆にも世界の有名人にTwitterで連絡を取ったのである。

「欠陥のある民主主義」「部分的に自由」「選挙制独裁」。三つの定評ある国際的な民主主義評価機関から与えられた、実に不名誉な三つの言葉である。インドの選挙はおおむね自由かつ公正であるが、選挙と選挙の間では民主的、非宗教的、連邦的な領域が縮小していることが懸念の原因となっている。インドの病んだ政治的身体、リベラルかつ多元的な国際ブランドの出血を裏付けるかのように、プラタープ・メータがデリー郊外のアショーカ大学の教授職を辞した。

国民に広く知られた知識人であり、高名な<インディアン・エクスプレス>紙に毎週コラムを執筆し、アショーカ大学の元副学長でもあるメータは、20年以上にわたって代々の政権に対して臆することなく真実を語ってきた、際立った実績を持っている。メータが辞表において説明したところによると、この私立大学の一部の創設者は、メータが大学にとって「政治的負債」になっており、大学の利益のために辞職することが最善であると伝えてきたという。米国および英国の名門大学に勤める約180人の研究者が、これに応じて公開書簡を発表し、臆病にも政治的圧力に屈したことへの悲嘆と落胆を表明した。

S.ジャイシャンカル外相はフリーダム・ハウスとV-Demの報告書に強く反発し3月15日に、「あなたがたは、民主主義か独裁主義かの二分法を用いている。誠実な回答を求めているというなら言おう。それは偽善だ」と述べた。さらに「自ら任じた世界の管理人」が「判断を下す」ための自分たちのルールとパラメーターを「でっち上げて」いるとけなし、彼らは「インドの誰かが彼らの承認を求めないことがどうにも我慢ならないようだ」と言った。腹立ちまぎれの憤怒に満ちた返答は、異論を概して見下すモディ政権の姿勢と一致するが、ジャイシャンカルのような血統、知性、そして外交官を勤め上げるほどの国際的経験を備えた人物にはふさわしくない。

また、それは明白な誤りでもある。国内にも同じような批判を口にする人々はいたし、多くの人はインドのメディアが、権力を持つサルカリ(政府が所有し統制するメディア)、権力にへつらうダルバリ(提灯持ちメディア)、そして、モディへの個人崇拝強化に異を唱えようとする、減少しつつある本物の独立系メディアやジャーナリストに大別できると考えている。いまや、彼らの不満を伝える外国メディアも増えている。1月29日、<ザ・タイムズ・オブ・インディア>紙の社説は、ジャーナリストを刑事告訴することによるメディアへの脅しをやめるよう訴えた。昨年デリーのシャヒーン・バーグ地区で行われた女性主導の抗議活動では、憲法で保障された権利という言葉を用いて包摂的な市民権の要求が明確にされた。

その一方で、インドは世界の、特に西側諸国の承認を切望しており、世界ランキングが上昇する度に(例えば、世界銀行のビジネス環境改善指数のスコア向上など) それを喧伝している。カラン・タパールは<ヒンドゥスタン・タイムズ>紙において、閣僚グループが西側のメディアと世論に影響を及ぼすための97ページにもわたるひな形集を作成したこと、情報省が世界報道自由度指数におけるインドのランキング向上を担当する部署を設立したことを指摘した。

これらの異なる指数にはそれぞれの短所と長所があるが、その手法、データセット、指標は透明性があり、専門家集団による審査を受け、世界中の研究者に広く利用されている。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの報告書は167カ国を対象とし、フリーダム・ハウスは195カ国と15地域を調査している。そして、V-Demは、1789年以降の202カ国を対象とする世界で最も大規模な、歴史的かつ多面的な、ニュアンスを捉え、再分類した民主主義データセットを作成していると主張している。これら三つが一緒になって、重要な役割を果たしている。特定の時点においてインドと他国を比較した横方向のスナップショットを提供するとともに、特定の国におけるトレンドラインの長期的分析を可能にする。また、包摂的な民主的市民権の枠組みの中で、ガバナンスの水準を向上させようとするインドの市民社会擁護者にとっては、外部の検証を受けた役に立つ手段となる。

世界ランキングに固執しているのはインド政府である。測定結果を収集する人々にとって、インドは重要な国とはいえ一つの国に過ぎない。したがって、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの調査結果が<エコノミスト>誌に完全掲載された際、報告書は、民主的権利と自由が世界的に低下し、全体として2006年の指数導入以来の低スコアを記録したことを嘆いたが、インドには一度も言及しなかった。同様にフリーダム・ハウスも、「自由がない」と評価された国の数が2006年以来最も多くなったと記している。

インドが活力ある民主主義国家であり、世界最大かつ最善の多文化共存の模範であり、多様性と異なる宗教への相互尊重を重視しているという根本的な資質は、国内外におけるインドのアイデンティティーにとって不可欠な要素であり、世界における正当性とソフトパワーの最も深い源泉である。例外的ともいえるインドの民主主義と多元主義への逆行が生じれば、国内では社会的結束が危機に瀕し、国外では国家の評判が損なわれるだろう。これは、公然とウルトラナショナリズムを掲げる政府にとって異様な成り行きといえるだろう。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、オーストラリア国際問題研究所研究員。R2Pに関わる委員会のメンバーを務め、他の2名と共に委員会の報告書を執筆した。近著に「Reviewing the Responsibility to Protect: Origins, Implementation and Controversies」(ルートレッジ社、2019年)がある。

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【ブリュッセルIDN=ラインハルド・ヤコブセン】

国連が「現在のコロナ禍の状況におけるデータ共有と再利用」に関する革新的なアプローチとして「VODANアフリカ」を推奨している。「ウィルス蔓延データネットワーク」(VODAN)は、新型コロナウィルス感染症に関する情報をその出所となる国から流出させて地元の医師や科学者が利用できない状態にしてしまうのではなく、データを共有することで情報がその国にとどまるようにすることを目指している。

ネットワークには、全ての参加国から、コンピューター科学や医療データ管理の専門家、医師、社会科学者が加わっている。現在、ウガンダ・ケニア・エチオピア・ナイジェリア・チュニジア・リベリア・ジンバブエが参加している。

UNESCO
UNESCO

国連の専門機関である教育科学文化機関(ユネスコ)は、3月3日に発表された報告書『持続可能な開発をつくる:持続可能な開発目標の実現へ』で、VODANアフリカは、新型コロナウィルス感染症のパンデミックデータに関する技術的な革新であると述べている。

「たとえば、ウガンダのカンパラ国際大学の研究の基礎にある原則は『文脈の下での協働』で、データ主権という原則の中で新型コロナウィルスの感染拡大に関するアフリカのデータを管理する多国間のVODANを主導している。」

VODANのグローバル・コーディネーターで、ライデン大学医療センターのプログラムで主任研究員を務めるミリアム・ヴァン・ライゼン 教授は、ユネスコによって認められたことを歓迎した。

「VODANアフリカは、新型コロナウィルス感染症による危機がパンデミック(世界的流行)であると認定された1年前に発足しました。背景にあったのは、リベリアで危機を起こしたエボラ出血熱のデータを扱った経験でした。今日、リベリア保健省はこれに関する完全なデータを保有していません。」

ヴァン・ライゼン 教授は、「これまでのアフリカの経験は、医療データがアフリカから流出したまま取り返せないというものでした。こうしたデータから利益が得られないことから、アフリカではデータ共有への志向は弱いものでした。しかし、VODANアフリカはこの問題を解決したのです。」と語った。

データは地元で保存される。どのようなアクセス形態が認められるのかに応じて、アクセスはあくまで外からなされる。最高度の「EU一般データ保護規則」(GDPR)に従って、データのプライバシーとセキュリティーが確保される。

データに関する問い合わせも可能であるため、このデータはアフリカ大陸における新型コロナウィルス感染症の理解に資するものとなる。

VODANアフリカは、データの蔵置場所でもある診療所内において、リアルタイムでデータ・ダッシュボード(データをまとめて一覧表示するツール)を提供する。リアルタイムダッシュボードは、データが機械読み取り可能になったことで実現したものだ。この技術は、医療の革新に資する新しいスマート技術によって提供される。加えて、集積データへの問い合わせに対しては、診療所が承認し、各国保健省のガイドラインに従っている限りにおいて、対応可能となる。

世界保健機関(WHO)は、2月18日、データが健康の質を向上させる利点に焦点を当てた「SMART」として採択される予定の、医療データの将来に関する提案を行った。

SMARTとは、標準ベースで(S)、コンピュータで読み取ることが可能で(M)、適応力が高く(A)、要件ベースで(R)、実験可能(T)であることを意味する。SMARTガイドラインのアプローチには、文書化、手続き、デジタル医療のツールが含まれ、『ランセット・デジタル・ヘルス』の新しい記事で紹介されている。

WHOは、世界のあらゆる人々が、臨床的で、公衆衛生に関連した、データを基礎とする勧告から完全かつ即時に利益を得られるという未来を思い描いている。SMARTガイドラインは、デジタル時代において、勧告を基礎にした、命を救う介入の継続的な実行を体系化し加速する新しいアプローチである。

WHO

その重要性は、国家のプログラムの中で採用される医療上の介入を行うにあたって、WHOガイドラインが、厳密に試験され勧告を明確化し承認している点にある。WHOでは「適切かつ継続的に適用されれば、ガイドラインによる勧告は命を救うことができる。」としている。

「今日、WHOガイドライン策定の厳密なプロセスは、世界中の人々の健康転帰(疾病の予防や治療の結果として生じる健康状態)を向上させるための一部分にしか過ぎません。」とWHOの主任科学者であるソウミャ・スワミナサン博士は語った。

「ガイドラインの勧告は、テキストからは離れ、具体的に参加国の現場で効果的に適用され、さらに進化し続けるエビデンスに基づ医療が実践されて初めて意味を持ちます。SMARTガイドラインは、デジタル時代の医療システム変革のパイオニアとなるアプローチです。」

VODANアフリカは、ウガンダのカンパラ国際大学が主導し、汎アフリカ学術会議の委員でもあるフランシスカ・オラディポ教授がコーディネーターを務める。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

オラディポ教授は、「新型コロナウィルス感染症が発生してから、Zoomを通じてアフリカ各地の専門家と簡単につながれることがわかり、現在では、アフリカ各地の12の大学と協力して、我々専門家や学生の能力強化に取組んでいます。毎週、Zoomで40人の専門家と会議をしています。このプログラムは、協力を通じて、アフリカに重要な革新をもたらせることを示しました。非常に満足しています。」と語った。

研究グループは、アフリカで進められているデジタル化のメリットをさらに活かすために、そして、イノベーションが十分な専門性に支えられ、アフリカにおいて雇用を生むように、オンラインによる学習カリキュラムの開発に力を入れている。オンラインカリキュラムは、「カンパラ国際大学デジタル学習プラットフォーム」で教員や学生が無料で使えるようにする予定だ。

「我々はアフリカでデジタルを利用した医療や教育への転換を図りつつあり、デジタル経済に組み込まれる若者が利益を得ることになります。このプログラムが非常に評価されていることは喜ばしく思っています。アフリカの民衆に役立つインパクトを生み出すよう、今後も努力していきたい。」と、オラディポ教授は語った。(原文へ

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

ちょうど1年前、コロナ禍初期の2020年3月23日に、アントニオ・グテーレス国連事務総長は世界的停戦を呼びかけた。彼は、「今こそ力を合わせ、平和と和解に向けた新たな努力を行うべき時だ。そこで私は、今年末までに世界的停戦を実現できるよう、安全保障理事会を中心に一段と強化した国際努力を求める。……世界は、全ての『ホットな』紛争を止めるために全世界的な停戦を必要としている。同時に私たちは、新たな冷戦を防ぐためにあらゆることをしなければならない」と述べた。彼の緊急アピールは、無視されたままである。イエメン、シリア、リビア、エチオピア、そのほか多くの場所で続いている紛争、その紛争への武器供給、かつてないほど膨れ上がった軍事費、にわかに景気づいている武器産業、ほぼ皆無の軍備管理交渉、激化する地政学的対立に目を向けると、「平和と和解に向けた新たな努力」の対極に見える。われわれは、新たな軍拡競争と、おそらくは新たな冷戦のとば口に立っている。(原文へ 

コロナ禍の勃発は実のところ、警鐘であり、世界的協調への要請である。この危機は、国レベルでは解決することができない。コロナ禍の経済的影響を受けて、多くの国々で景気が悪化し、公的予算の負債が増加した状況では、軍事費の戻し入れを期待してもおかしくない。コントラストは、これ以上ないほど明確である。

2021年3月の全国人民代表大会で、習近平中国国家主席は軍に対し、「安全保障がますます不安定化する状況」において常に準備を整えておくよう要請した。中国の軍事費は過去10年間で2倍以上に増加し、今後も増加し続けると思われる。その1週間後、イェンス・ストルテンベルグ NATO事務総長は、「2020年に防衛費は6年連続で増額となり……2020年は2019年と比較して実質3.9%の増加となった」と誇らしげに発表した。リストの圧倒的トップに位置する米国は、2020年に、ライバルと目する中国とロシアの防衛費を合わせた額の3倍近くを支出した。ロンドンの国際戦略研究所が2021年3月に行った調査は、コロナ禍にもかかわらず、軍事費が世界中で過去最高額を記録したことを裏付けた。ボリス・ジョンソン英国首相が言うところの、懐古主義的な「過去最高の防衛費による[……]グローバル・ブリテン」も、他の多くの国々と同様、軍事力を背景にした戦略地政学的外交政策に依存している。英国政府はトライデント用備蓄核弾頭数の上限を引き上げ、180発から260発に増やすことを計画している。これにより、30年かけて徐々に進められた核軍縮プロセスは終わる。1990年代初め以降、全世界の所得に対する軍事費の割合が今ほど高くなったことはない。現在の傾向を考えると、今後さらに軍事費の割合は高くなると予想される。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の新たな調査によれば、武器移転も高水準にとどまっている。米国が依然として最大の武器輸出国であり、全世界に占める割合を37%に拡大し、96カ国に輸出している。米国の武器輸出のほぼ半分が中東向けであり、イエメン内戦で中心的役割を果たしているサウジアラビアが米国からの輸出の4分の1を受け取っている。米国の武器輸出は前報告期間から増加し、その結果、米国と武器輸出額第2位のロシアとの差が広がった。ロシアはいささか気分を害したようで、国営防衛企業ロステックがSIPRIの統計の手法を批判した。世界の輸出額に占めるロシアの割合は、実際にはSIPRIの報告より高いとロステックは主張した。フランスとドイツはいずれも、報告期間中に主要な武器の輸出額を大幅に増やし、輸出額が減った中国を第5位に押しやった。

武器輸出の大部分が危機地域、特に中東に売られているのは驚くべきことではない。危機が世界の武器取引を促進している。世界最大の武器輸入国はサウジアラビアであるが、他の中東諸国も輸入大国である。エジプト、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、そして、イスラエルとNATO加盟国トルコもそうである。これには、中東の不安定さとともに、地域紛争や地政学的紛争、戦略的利害関係が反映されている。形式上は抑制的な武器輸出規制があるドイツでさえ、大量の武器をサウジアラビア、エジプト、UAE、カタール、さらにはアルジェリアに輸出している。いずれも、民主主義や人道主義の価値(ドイツの武器輸出における判断基準とされるもの)を重視しているとはいえない国々である。

大手武器製造企業は、主に米国、西欧、ロシア、中国に所在しているが、南の発展途上国においても武器産業は徐々にその存在を拡大している。武器製造企業の大躍進は、武力近代化を図る巨額投資の結果である。高所得国の政府は特に、人工知能、自動戦場管理システム、無人ドローン、軍用可能な宇宙技術などの最新技術に投資しているが、核兵器および運搬システムの近代化にも投資している。このような傾向は特に憂慮すべきことである。なぜなら、軍拡競争を阻止する本格的な軍備管理イニシアチブが存在していないからである。

われわれは、バイデン新政権に強力なイニシアチブを期待できるだろうか? 希望の兆しはいくつかある。イラン核合意への復帰や北朝鮮に対する慎重な働きかけであるが、今のところどちらも成果が得られていない。中国との関係は、貿易摩擦が大きな影を落としており、前途洋々とはいえない。雰囲気は対立的である。バイデン政権は「アメリカ・ファースト」から脱却し、欧州とアジアにおいてないがしろにされてきた同盟関係を再構築することに熱心である。そこには、中国の強引な、時に攻撃的な外交政策や、領土問題の解決に用いられる恐れもある強力かつ近代的な軍事力の開発に対する危惧がある。

暗澹とした傾向が見られるが、グテーレス国連事務総長は2020年3月の呼びかけを声高に繰り返すべきである。国連は交渉の場である。その一方で安全保障理事会そのものに問題が内在していることは明らかであり、したがって、国連はそれを解決するべき場である。安全保障理事会の五つの常任理事国は、13,400発の核弾頭のうちほぼ全てを保有し、武器取引の4分の3以上を占め、世界の軍事費の60%以上を占めている。それはたやすいことではない。しかし、東西冷戦時代、相互破壊の差し迫った脅威は今よりいっそう暗澹とした、危険なものだった。バイデン政権が安全保障政策における核兵器の役割縮小を検討している今こそ、そのような国連イニシアチブと「一段と強化した国際努力」を行うべきであろう。現在の傾向が逆転すれば、コロナ禍、気候変動、世界的貧困といった真の世界的問題に対処するために資源を使うことができるようになるだろう。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRIの科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

最新の調査報告書が、各国が自国民優先でワクチンを抱えこもうとする「ワクチン・ナショナリズム」に向けた流れが強まっていることに対して警鐘を鳴らしている。報告書は、新型コロナウィルスワクチンの供給を独占することで富裕国は経済的破壊をもたらそうとしているが、その被害は途上国にとどまらず、ほぼ同様に深刻な被害が富裕国も直撃することになると警告している。

富裕国で今年半ばまでにワクチンが行き渡り、途上国の大部分がそこから排除されていたとしても、世界経済は、日本とドイツの国内総生産(GDP)の合計を上回る年間9兆ドル超を失うことになるだろうと、同報告書は予想している。そしてこの経済損失の半分近くは、米国やカナダ、英国といった富裕国が吸収することになる。

また別の最新研究では、ワクチン・ナショナリズムによって、新型コロナウィルスワクチンの分配が不平等になり、GDP換算で年間最大1.2兆ドルの損失を世界経済にもたらすことになると推計されている。これは、たとえ一部の国が国民に免疫を与えることに成功したとしても、世界のあらゆる地域で新型コロナウィルスがコントロールされていない限り、コロナ禍に伴う世界経済への損失が増え続けていくからだ。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

ランド研究所によるこの報告書の著者らは、「新型コロナウィルス感染症とその経済的影響に伴う損失は世界全体で年間3.4兆ドルにも達する可能性がある。その内、欧州連合が被る損失は年間9830億ドル(GDPの約5.6%相当)、英国が被る損失は年間1450億ドル(GDPの4.3%相当)、そして、米国の損失は4800億ドル(GDPの約2.2%相当)になる。」と述べている。

自国中心主義的な行動が避けられないとしても、世界全体でワクチンを提供しようとの経済的インセンティブはある。報告書は、過去の推計に基づいて、低所得国にワクチンを提供するには250億ドルかかるとした。

米国、英国、欧州連合やその他の高所得国は、貧困国へのワクチン提供を拒んだ場合、年間合計で1190億ドルを失う可能性がある。「これらの高所得国がワクチン提供の資金を拠出すれば、ベネフィット(便益)対コスト(費用)の比率は4.8対1となる。つまり、高所得国は、1ドルの費用を負担するごとに4.8ドルのリターンがあるということだ。

こうした数字が意味するところは明白である。しかし、国連のアミナ・J・モハメド副事務総長は、「この1年間、会食をしたり、抱擁し合ったり、学校や仕事に行くという、私たちが人との関わりの中で好んでやってきたことができなくなってきている。」と語った。

Amina J. Mohammed/ UN Photo
Amina J. Mohammed/ UN Photo

同時に、数多くの人々が愛する誰かを失ったり、自らの生活を壊されたりしている。世界保健機関によると、世界で250万人以上が新型コロナウィルス感染症のために死亡した。新型コロナウィルスワクチンは、この死の連鎖に歯止めをかけ、変異株の登場を妨げ、経済を再活性化して、パンデミックを終焉させる希望をもたらすであろう。

「力を合わせて初めて、パンデミックを終わらせ、新しい希望の時代を切り開くことができます。」と、モハメド副事務総長は語った。国連は、こうしたことを背景に、世界中で新型コロナウィルスワクチンの公正かつ平等な利用を呼びかける「オンリー・トゥゲザー」という新たなグローバルキャンペーンを始めた。

このキャンペーンは、医療従事者や最も脆弱な立場にいる人々から始めて、全ての国において新型コロナウィルスワクチンの予防接種を行き渡らせるためのグローバルな協調行動の必要性を強調するものだ。

モハメド副事務総長は、ワクチン開発に向けた前例のない世界の科学界の努力によって、新型コロナウィルスに打ち勝つ希望が出てきたと指摘した。実際、公平にワクチンを分配するための国際的な枠組み「COVAXファシリティ」を通じて、史上最大規模のワクチン供与事業が進行中で、最貧国の一部も含めて世界全体で数多くのワクチンが提供されようとしている。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月11日、キャンペーン開始にあたって、「一部の先進国がワクチンの大多数を独占しようとしている。」ことへの懸念を示し、「新型コロナウィルスワクチンは世界の公共財とみなされるべきだ。」と強調した。

さらに、「新型コロナウィルスワクチンは『誰でも、どこでも』利用可能なものでなくてはなりません。今年の危機は、大波のような苦難をもたらしました。しかし私たちは、『オンリー・トゥゲザー』の取り組みによって、パンデミックに終止符を打ち、我々のよく知る日常へと戻ることができます。」と語った。

現在の新型コロナウィルスワクチン供給量では、医療従事者と社会的弱者など(途上国の)人口の一部をカバーできるに過ぎない。したがって、COVAXファシリティでは、2021年末までに、参加国の人口の3割近くにまでワクチンを投与できるように準備を進めている。しかし、このペースは新型コロナウィルスワクチンの8割近くを独占している富裕国10か国の現状と比較すれば、著しく見劣りする。こうした富裕国の中には、今後数カ月で全人口への予防接種を完了する見通しの国さえあるのだ。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

世界保健機関、GAVIアライアンス、国連児童基金(ユニセフ)、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が共同で主導するCOVAXファシリティには190の参加国がある。新型コロナウィルスワクチンを最も必要とする人々に今年末までに投与を完了するには20億ドル以上が必要だ。

国連は、COVAXファシリティに新たな資金を獲得することが極めて重要だが、余剰ワクチンの流用や技術移転、生産ライセンスの提供、知的財産権申し立ての一時停止などの手段によって、新型コロナウィルスワクチンの供与を大幅に増やすことも可能だと考えている。

「もし世界の科学者らが安全かつ効果的なワクチンをわずか7カ月で開発することができたのなら、世界の指導者らは、これと同じく、歴史的な速さでもって、地球上の全ての人々にワクチンを届けるために製造を加速する資金を提供することを目標とすべきです。」と国連のメリッサ・フレミング事務次長(グローバルコミュニケーション担当)は語った。(文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|アフガニスタン|国連の支援で女性たちの声なき声を届ける

【ニューデリー|クンドゥーズIDN=デヴィンダ・クマール】

国連安保理が3月14日の審議で、アフガニスタンで民間人を意図的に狙った襲撃が急増している事態を「最も強い言葉で非難」するなか、同国東北部のクンドゥーズ市では、女性活動家らが市内各地の親戚や隣人、住民の軒先を訪問して、2つの質問をして回っていた。それらの質問は、「あなたにとって和平プロセスはどのような意味を持ちますか?」「その中にあなた自身の役割があるとしたらどのようなものでしょうか?」というものだった。

国連安保理は、2020年9月にアフガニスタン和平協議が開始されてから数カ月の間に民間人を狙った襲撃が増加していることに深い懸念を示すとともに、「持続可能な平和は、永続的かつ包括的な停戦を目的とした、アフガン人主導のアフガン人自身による、誰もが参画できる平和プロセスを通じてのみ実現が可能だ。」と認めた。

国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、UNAMAの支援を得たアフガニスタン女性ネットワーク(AWN)がこの冬に3カ月に亘ってクンドューズ市で実施した個別訪問プログラムを通じて、約1500人のアフガン人女性が、平和に関する意見を表明した。彼女たちの多くが、メディアへのアクセスがなく、外の世界と隔絶された自宅に籠る生活を送っていた。

戸別訪問調査員が集めた女性たちの意見は、全国レベルに届けるとともに、アフガニスタン和平交渉チームの女性メンバーと共有すべく、まずは首都カブールのAWN本部とUNAMAに提出された。一方、AWNのクンドゥーズ支局は、女性達の意見を、同州の市民社会組織や人権擁護団体と共有した。

Map of Afghanistan
Map of Afghanistan

AWNクンドューズ支局長で活動家のマルザ・ルスタミさんは、「この調査の目的は、自宅に閉じこもる生活スタイルゆえに外の世界との繋がりが僅かか或いは皆無な環境に置かれている女性達を関与させていくことでした。」と説明した。そして、「私たちは、彼女たちが、現在行われているアフガニスタン和平交渉に対して抱いている期待や不安など様々な見解に耳を傾けました。この調査は、和平交渉の先にある最終合意は、全てのアフガン人の意見を反映したものであるべきという私たちの強い信念に突き動かされて実施しました。」と語った。

調査に応じた女性の多くが、国の重要な問題について自身の意見が求められるという経験は人生で初めてのことだった、と調査員に語っていた。

彼女たちには、回答用紙に名前を提供するか匿名にするかの選択肢が与えられていた。

クンドューズ市第二地区在住の専業主婦ナシマさんは、「私たちが望んでいるのは平和です。和平交渉の当事者は、私たちが平和に暮らせるように、戦闘を終わらせることに合意すべきです。」というシンプルなメッセージを伝えた。

シャリファさんは、「和平を語りながら殺し合う現状は何の解決にもなりません。暴力をやめ停戦が守られない限り、和平を語り合っても無益な試みだと思います。」と語った。

夫と子供たちをタリバンに殺害された未亡人のマリアムさんにとって、平和は復讐よりも重要だという。「もしタリバンが暴力を止め、平和を受入れるならば、私は彼らを赦し、夫と子供たちを奪った報いを求めない用意があります。」

他にも調査に応じた多くの女性たちが、永続的な平和とあらゆる人々を対象にした開発が実現するのであれば、マリアムさんのように進んで加害者を赦すつもりだという意見を述べている。

アフガニスタン全土を通じて、多くの人々が、和平交渉の妥結が最終的に数十年に亘った戦争の終結につながることを期待している。しかし一方で、和平交渉に多様で幅広い層からの参加が十分確保されていない現状を、引き続き懸念しているアフガン人も少なくない。とりわけ若者と女性は、和平交渉に十分関与できていないことが、最終的な合意がなされても、若者と女性の権利は顧みられず不利益を被るのではないかと懸念している。

Photo: The July 7-8 talks between the Taliban and Afghan delegates in Doha. Credit: MEMR

UMANAは、和平交渉を含む政治、社会、経済などあらゆる生活面における、女性の参画とリーダーシップを支援している。

クンドゥーズ市にあるUNAMAの現場事務所は、和平交渉と和平プロセスに多様な意見を取り込もうとするアフガン政府の取組みの一環として、AWNとの連携のもとにこの調査キャンペーンを計画した。とりわけ、調査対象として、自宅が街の中心地から遠く離れているとか、教育を十分受けていない、あるいは地元の社会規範等の理由から、従来から脇に追いやられてきた女性たちに注目した。

この調査キャンペーンは、メディアパートナーであるウラノステレビやクンドューズラジオが、各々のソーシャルメディアも活用しながら、番組で取り上げたことから、調査に応じた女性達の声は、20万人以上の視聴者に届けられた。(原文へ

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国連のYouth4Disarmamentが「10億の平和の行為」特別賞に選ばれる

【ニューデリーIDN=デヴィンダー・クマール】

軍縮は、「将来の世代を戦争の惨禍から救う」という目標をもって、国連憲章に規定された集団的安全保障システムの中心的な要素である。国連創設と広島・長崎への原爆投下から75年を迎えるにあたって、国連軍縮局は「軍縮を75単語で若者チャレンジ」キャンペーンを開始した。8月12日の「国際青少年デー」に始まって9月26日の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」まで続いた。

キャンペーンは、13~18歳の中高生、19~24歳の大学生・大学院生、25~29歳のキャリアの浅い若者と年齢層を3つに分け、13~29歳の若者の参加を求めた。

キャンペーンを通じて、世界の若者たちは、軍縮が自分や自分のコミュニティーにとって何を意味するのかを75の単語で表現するように求められた。62カ国から198件の応募があった。

国連軍縮局が2019年に立ち上げた別のキャンペーンである「#Youth4Disarmament」は、軍縮・不拡散分野において若者を関与させ、教育し、エンパワーすることを目的としたものだ。

国連軍縮担当事務次長・上級代表の中満泉氏は、「このキャンペーンは、若者のリーダーシップと行動が、人々を勇気づけ、集団的な平和と安全を守る上で肝要なものであることを大いに示しています。」と指摘したうえで、「史上最大規模の世代である現在の若者は、大量破壊兵器や通常兵器の拡散も含め、その脅威を削減する変化をもたらすための意識を喚起し、新しいアプローチを生み出すうえで、極めて重要な役割を担っています。」と語った。

「#Youth4Disarmament」は、「10億の平和の行為」によって、2020年の「ベスト連携構築プロジェクトに選ばれている。800万件以上の平和活動の中から選ばれた他の11のプロジェクトとともにノミネートされたものだ。

ピースジャム財団」が主催する世界市民のキャンペーンである「10億の平和の行為」は、「一つの平和の行為とは、地域や学校、職場、組織の中で平和を広げる思慮に富んだ活動であり、世界平和をもたらす上で肝要な『10億の活動領域』の一つ以上に影響を与えるべく行われているもの。」と説明している。2014年に開始したこのキャンペーンは、2021年までに10億の活動を達成するという大胆な計画を推進しており、これまでに171か国で8298万7610件の活動が生み出されている。

このキャンペーンは、一度にひとつの「平和の行為」という形で、一般の人々に世界を変える力を与えるものだ。ノミネートされた活動を選考できるのは、気候変動問題で活躍しているグレタ・トゥーベリ氏など、過去の受賞者だけである。

今年のイベントに関連して、インドの大学生らが、彼らのコミュニティーや個人レベルにおいて、ジェンダーが兵器の効果にどう影響を与えるかについて意見を出すよう、国連アジア太平洋平和軍縮地域センター(UNRCPD)から求められた。

UNRCPDは、アジア太平洋地域の43カ国で活動することを任務としている。実質的支援の提供や、サブリージョナルからグローバルレベルにわたる活動の調整、それらの活動に関する情報の共有などを通じ、アジア太平洋地域の平和、安全保障・軍縮の目標を達成できるよう、地域の各国を支援している。

大学生たちは、インドの市民団体「プラジュニャ財団」と「サンスリスティ」主催の「ジェンダーと平和」をテーマにした第4回講演会(ウェビナー)に参加していた。

UNRCPDの関係者らは、軍縮や不拡散、軍備管理のプロセスがジェンダーのような領域といかに関わっているのかについて、参加者の注意を促した。こうした認識が、より効果的な政策や事業、プロジェクトの遂行を促進するのである。

実際、国連安保理が約20年前に決議1325(2000)を採択した際に、ジェンダーと武力紛争の関連に焦点を当てた政策と活動が開始されている。

この画期的な決議は、紛争の予防や解決、平和交渉、平和構築、平和維持、人道支援、紛争後の構築における女性の重要な役割を再確認したもので、平和と安全の維持と促進のためのあらゆる努力における女性の平等な参加と完全なる関与の重要性を強調した。

国連安保理決議1540(2004)に関するUNRCPDのプロジェクト・コーディネーターであるスティーブン・ハンフリーズ氏は、核兵器などの大量破壊兵器は本質的に無差別的なものであるが、放射線は女性に特有の影響を与えることが知られていると説明した。

電離放射線は、細胞内で化学変化を起こしDNAを傷つける高エネルギーの放射線だ。原子力発電所の事故や核兵器によって高いレベルの電離放射線が発せられる。

核軍縮と核不拡散における進歩を追求するには、いわゆる「ジェンダー目線」でものを見て、多様な声に耳を傾け、権力関係のジェンダー編成を変えていくことが必要だとハンフリーズ氏はしめくくった。

決議1540の重要性は、全ての加盟国が、とりわけテロ行為に使用する目的をもって核兵器や化学兵器、生物兵器、及びその運搬手段を開発・取得・製造・所有・輸送・移転・利用しようとする非国家主体に対するいかなる形態の支援も差し控えるべきであると決定している点にある。

同決議は、とりわけテロ行為に使用する目的をもってこれらの兵器やその運搬手段を非国家主体に拡散させることを予防する効果的な措置を採るために、適切な法律を制定し実行することを全ての国家に義務づけている。

国連軍縮局によると、市民社会と民間部門は、決議1540の履行に重要な貢献を成すことができる。国連軍縮局は、市民社会や民間部門、産業部門との積極的なパートナーシップを促進して、この決議の目的を満たすための国別、国際的取り組みを支援している。

Izumi Nakamitsu/ UNODA
Izumi Nakamitsu/ UNODA

国連軍縮局は2012年、ドイツと協力して、「国連安保理1540に関する国際・地域・サブ地域産業組織会議」を開催した。核・化学・生物・金融・運輸・宇宙部門の産業団体や民間企業が参加した。

2013年1月、国連軍縮局はオーストリアと協力して、決議1540に関する初の市民社会フォーラムを開催した。フォーラムには、南北アメリカ、アジア、東欧、西欧、中東、北アフリカ、アフリカ南部と世界各地から45の市民団体が集まった。

また、効果的かつ協力的なパートナーシップの事例として、ジョージア大学の国際貿易・安全保障センター、同大の公共・国際問題大学校と国連軍縮局の間のものが挙げられる。同センターは「1540コンパス」と題する11番目の出版物を発行した。非国家主体への大量破壊兵器の拡散とテロリズムを予防する国連安保理決議1540の効果的な履行に関する見解・コメント・アイデアを披露する学術誌である。

ハンフリーズ氏の発言の後、2021年1月に発効し、この20年以上で初の多国間軍縮条約となった核兵器禁止条約の意義と履行に関して、学生らと実のある議論が交わされた。

軍事化の人的、経済的コストについてもまた、イベントの中で話し合われた。

国連の「軍縮に向けたユースチャンピオン」は、将来を見据えて、「#Youth4Disarmament」キャンペーンの立ち上げをイベントの参加者に宣言した。これは、現在の国際安全保障の課題、国連の機能、積極的な参加の仕方について専門家から学ぶために、世界各地の若者をつなぐためのプロジェクトである。(原文へ) 

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【トロントIDN= ジャスティン・ポドュール】

農作物取引を自由化する新法巡って農民らによる大規模な抗議デモに発展しているインド農業が抱える構造的な問題点を分析したジャスティン・ボデュール氏による視点。大英帝国による植民地支配以前のインド(清帝国治下の中国の場合も同じ)では、凶作に際して為政者が可能な限り国民に最低限の食料を無償で提供する仕組が存在していたが、英国がこれを廃し食料を国際市場と連動した商品として徴収したために、その後の大英帝国領インドでは、必ずしも食料不足が原因ではなく、「貧しいから餓死する」大規模な飢饉が頻発した。ポデュール氏は、独立後のインドは大英帝国時代のような大規模な飢饉は回避してきたが、1億9500万人の栄養不足人口(世界の25%)を抱え、過去5年間に364,000人の農民が自殺する状況のなかで導入されようとしている新法は、数百万人の農民を破滅させ、インドを空腹を抱えた国(Country of humger)から、再び飢餓の国(country of famine)に逆行させることになりかねないと警鐘を鳴らしている。(原文へ)FBポスト

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