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イラン航空IR655便とマレーシア航空MH17便、2つの航空会社の物語とダブルスタンダード

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2022年3月21日に「Pearls and Irritations」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

1988年7月3日、イラン領海内に停泊中の米海軍艦「ヴィンセンス」が2発の地対空ミサイルを発射して、イランの旅客機を撃墜、290人の乗客乗員全員が死亡した。ヴィンセンスの艦長と乗組員は、後に勲章を授与された。ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領は、「アメリカを代表して謝罪することはない。事実がどうであれ構わない」と言い張った。(原文へ 

3月14日、ロシアがマレーシア航空MH17便撃墜に関与したとして、国際民間航空機関(ICAO)において、オーストラリアとオランダが法的措置に着手した。航空安全を担当する国連専門機関であるICAOは、国際法に違反した国に制裁を科し、犠牲者遺族への賠償金を支払うよう要求することができる。このタイミングは、当然ながらあえて狙ったものであり、それゆえに残念である。なぜならそれは、国際的な法的措置を地政学的思惑で汚すものだからである。その意味では、真実と正義の公正無私な追求というより、NATO対ロシアの長年にわたる紛争の延長戦といえる。そこには、その時々の強大国や同盟国によって国際機関が武器として使われることにより、公平な仲裁人、調停者、審判者としての信頼性が損なわれるというリスクがある。

2014年7月21日、国連安全保障理事会は、同年7月17日にウクライナのドネツク付近でMH17便が撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した事件を厳しく非難する、オーストラリアが提出した決議案を全会一致で採択した。決議第2166号は、事件に対する「完全かつ詳細な、独立した国際捜査」を呼びかけ、関与した者の責任を問うこと、全ての国が全面的に協力して責任を立証することを求めた。オーストラリアがこの厳しい決議を主導したのは、死亡者298人にオーストラリア国民28人、居住者9人が含まれていたからである。強い表現が用いられた決議は、非常に迅速に採択された。なぜなら、何百万人という一般旅行者も容易に共感できるこの悲劇に対して、悲しみと怒りで世界が団結したからである。われわれには、承認された航空路を飛行する民間航空機が撃墜されないことを期待する権利がある。

しかし、このような事件はこれが初めてではなく、従って、対応は1件の事件に関する1件の決議に留まらず、そのような悲劇が将来繰り返された場合に適応される一式の手順や合意へと発展させるべきであった。そのような悲劇に対し、同盟国、友好国、敵対国、敵国といったレンズを通して反応するのは、自由で開かれた空を支える、ルールに基づいた秩序を構築し強化することにはならない。

1983年9月1日、当時のソビエト連邦がサハリン付近で大韓航空007便を撃墜し、269人を死亡させた。米軍のスパイ機が警告信号を無視して軍事機密性の高いソ連領空に侵入したと誤認したためである。米国のロナルド・レーガン大統領は、これを「虐殺」と呼んだ。2001年10月4日、イスラエルからロシアに向けて黒海上空を飛行していたロシアの旅客機をウクライナ軍が撃墜し、78人を死亡させた。1980年代には、ソ連占領軍と戦うムジャヒディンが米国から供与されたミサイルで民間機を撃墜する事件も複数発生した。

米軍に直接非がある(撃墜した抵抗勢力にロシア軍が殺傷兵器を供与し、間接的に加担したとされるMH17便の事件とは異なり)同様の悲劇として最もよく知られているのは、テヘランからドバイに向かう毎日の定期航路を飛行中のイラン航空IR655便を撃墜した事件である。1988年7月3日、イラン領海内に停泊中の米海軍艦「ヴィンセンス」が2発の地対空ミサイルを発射して、イランの旅客機を撃墜、290人の乗客乗員全員が死亡した。ヴィンセンスの艦長と乗組員は、後に勲章を授与された。1996年に国際司法裁判所で和解に達した際、米国は「事件によって失われた人命に対する深い遺憾の意」を表明し、6,200万米ドル近い賠償金を支払うことに同意した。ワシントンは公式な謝罪を行うことを拒否し、法的責任を受け入れることはなかった。ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領は、「アメリカを代表して謝罪することはない。事実がどうであれ構わない」と言い張った。

これら全ての事件は、正真正銘の事故である。民間機と分かったうえで撃墜した故意の行為であることを示す証拠があった事例は1件もない。したがって、感情の吐露はさておき、それらをテロ行為であるとか、はては殺人である(それには意図がなければならない)とか言うのは間違っているし、何の役にも立たない。1985年6月23日にカナダ在住の「カリスタン」のテロリストが仕掛けた爆弾によってアイルランド上空で墜落したエア・インディア182便や、1988年12月21日にロッカビー上空でテロリストの爆弾によって墜落したパンアメリカン航空103便を考えれば、その違いは容易に理解できるはずだ。民間人を殺害する意図がなくても、それは犯罪であり、故殺であり、責任のある者は罪に問われなければならない。

これら早期の悲惨な事件については、独立した国際捜査が行われなかった。責任のある者が罪を問われたという話を聞くことはない。フレッド・カプランは、当時「ボストン・グローブ」紙の防衛担当記者としてIR655便を取り上げた。MH17便の悲劇が起こった後、彼は、「いくつかの点で二つの災難は類似している」と書いた。例えば、曖昧にし、ごまかし、隠そうとする傾向である。「先週の事件の後、ロシア当局者はさまざまな嘘をついて自分たちの責任をごまかそうとし、ウクライナ政府を非難した。1988年の事件の後、米国当局者は様々な嘘をつき、イラン人パイロットを非難した。」

イランは国連安全保障理事会に米国を非難するよう求めたが、却下された。しかし、2015年、安全保障理事会が「民間機を撃墜した者を罪に問うことから逃げる」とは「ありえない」とオーストラリアのジュリー・ビショップ外相は述べた。西側諸国によるものも含め、そのような全ての行為の犯罪責任を調査する独立した制度を設置することなく、決議案の提出者は何を根拠に、ロシアが自国や同盟国の犯罪行為になるかもしれない事案を審議する特別法廷に協力すると期待したのか理解に苦しむ。また、これに関連して、アムネスティ・インターナショナルがイスラエルに対する英国の武器売却をやめるよう求めたことも注目に値する。それらの武器は、MH17便の悲劇と同時期にガザ地区のパレスチナ人への攻撃に用いられたものである。国際人道法が求める均衡性と戦闘員・文民の区別は、普遍的に適用される。それは、親西側政府か反西側政府かにかかわらない。

(コロナ禍の制約を受ける前は)頻繁に空の旅をしていた者として、私の第1の重要事項は撃墜されないこと、第2は私が乗る民間機が撃墜された場合、願わくは関与した者が法的責任を問われることである。公表されている証拠の重みに応じて判断すると、MH17便を撃墜した人々は、交戦地帯において軍用機を攻撃していると信じていた。ウクライナ軍がロシア軍機と間違えて撃墜したという可能性もあることはあるが、最も可能性が高い説明はやはり、反政府勢力がウクライナ軍機と間違えてロシア製ミサイルで撃ったということになる。

また、その場所が既知の交戦地帯であった点に留意することも重要である。MH17便の悲劇が起こる前にも、高高度軍用機がミサイルにより撃墜されている。ウクライナ当局とマレーシア航空の監督者は、その空域に一切の民間機が入らないようにする注意義務を民間人の乗客に対して負っていた。実際、QANTASなど多くの航空会社は、ウクライナ東部上空を飛行して乗客の安全をリスクにさらすより、コストが高くつく迂回ルートを受け入れていた。その数カ月前に消息を絶ったMH370便の不可解な悲劇(機体はまだ発見されていない)からまだ完全に立ち直っていない時期だけに、マレーシア航空は、回避できるリスクは回避するためにことさら熱心であるべきだった。したがって、真に公平で、独立した、信頼できる国際捜査であれば、攻撃者とミサイル提供者だけでなく、マレーシア航空などの民間航空会社とウクライナ当局にも責任があったと判断するだろう。

最後に一言述べたい。全ての法と規範は、二つの中核的機能を果たす。許可と締め付けである。冷戦の勝利後の覇権の年月で米国が取ってきた行動の歴史は、グローバルな規範を他国に強制するために締め付けを実行する一方で、自身については既存の規範が許可する範囲を一方的に拡大し、どこであろうとお構いなしに介入することを正当化してきた歴史である。オーストラリアや他のアジア太平洋諸国は中国に対し、その覇権国家としての振る舞いについて同じことを気兼ねなく指摘できるだろうか? われわれのうちの無神論者であろうと、パワー移行の停止と反転を祈ったほうが身のためである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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SGIが自律型兵器の法規制を訴えるドキュメンタリー映画「インモラル・コード」を支援

兵器システムの自律性に関する新たな国際法を求める声

このプレスリリースは、創価学会インタナショナル(SGI)が2022年5月25日に発表したものであり、同団体の許可を得て再掲載しています。

【東京=共同通信JBN】

人間の生死の決断をどこまで機械に委ねる覚悟があるのか、この重要な問題を提起する23分間のドキュメンタリー映画「インモラル・コード」が、5月24日にオンライン視聴を開始した。

この映画は、人間の意思決定の複雑さと、誰を殺すかを「決定」しうる自律型兵器がもたらす危険性を巧みに問題提起している。

インモラルコードは、市民社会組織の国際ネットワーク「キラーロボット反対(SKR)」が製作したもので、視聴者に、兵器システムにおける自律性を規制する新しい国際法を求める署名活動に協力を要請している。

創価学会インタナショナル(SGI)は、2018年から「キラーロボット反対(SKR)」の国際メンバーになっている。SGI国連事務所ジュネーブ連絡所の所長で、「キラーロボット反対(SKR)」作業部会の代表であるヘイリー・ラムゼイ=ジョーンズ氏は、表現、人種、ジェンダーに関する問題について映画製作者に助言した。

ラムゼイ=ジョーンズ氏は、「AIは中立ではありません。人種差別は、設計プロセス、生産、実装のあらゆるレベルで作用し、これは有色人種のコミュニティー、特に黒人女性に関して驚くべき割合で誤認識をもたらすことが示されています。」と語った。

映画の発表会には、国会議員や学者、学生などが参加。上映後、専門家によるパネルディスカッションが行われた(ロンドン市内で)/ Soka Gakkai
映画の発表会には、国会議員や学者、学生などが参加。上映後、専門家によるパネルディスカッションが行われた(ロンドン市内で)/Seikyo Shimbun

映画「インモラル・コード」の発表会が5月19日にロンドンのレスタースクエアにあるプリンスチャールズシネマで開催され、上映後には専門家パネルが、私たちは誰もが脆弱であることと、国際的に拘束力を持つ法律が緊急に必要であることを強調した。SGIは、アムネスティ・インターナショナル、Article 36、婦人国際平和自由連盟(WILPF)と共に、この発表会を支援した。

専門家パネルに登壇した「キラーロボット反対(SKR)」自動化意思決定調査課長であるキャサリン・コノリー氏は、次のように促した。「この映画を観て、共有してください!各国は、他の兵器システムを禁止し、規制するための国際条約を締結しています。このケースでもできない理由はありません。必要なのは意志です。」

映画「インモラル・コード」は、国連において協議資格を有するNGOとしてのSGIの活動を紹介している最近開設されたウェブサイト「SGI Action for Peace」で紹介されている。

SGIはまた、核兵器を廃絶するための闘いにも取組んできており、新ウェブサイトの関連資料には、広島と長崎の原爆犠牲者自身による証言映像があり、オリジナルの日本語音声と中国語、英語、フランス語、スペイン語の字幕付きで視聴ができる。また、50人の証言を収録した書籍「Hiroshima and Nagasaki: That We Never Forget」も自由に閲覧できる

「キラーロボット反対(SKR)」は、180以上のNGOと学術パートナーからなる世界的なネットワークで、新しい国際法の開発を通じて、武力行使に対する人間の意味のあるコントロールを確保するために活動している。

創価学会インタナショナル(SGI)は、1983年以来、国連経済社会理事会(ECOSOC)において協議資格を有するNGO。創価学会は、平和、文化、教育を推進する1,200万人の多様かつ世界的な仏教コミュニティーである。(原文へ

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Immoral Code – A Film By Stop Killer Robots

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アフリカ南部でも実感されるロシア・ウクライナ戦争の影響

【ハラレ(ジンバブエ)IDN=ジェフリー・モヨ】

ジンバブエの首都ハラレに住む商店主リッチウェル・ムハシさん(34)の生活は、以前と同じようなものではなくなった。今年に入ってロシアによるウクライナ戦争が始まって以来、燃料の価格が上昇する中、自宅に車を置いて、自転車での通勤・通学に切り替えなければならなくなったのだ。

ジンバブエ国境に近い南アフリカ共和国(南ア)の街・ムシナでは、未亡人のラジウェ・ムレヤさん(43)が3人の子供と小屋で暮らしているが、調理用のガス代が払えなくなったため、薪の火に頼っているのが現状である。

南アのウィリアム・マディシャ議員は「この戦争のために失業が増え、2021~22年の国内総生産は予想よりも下がるだろう。」と語った。既に、ウクライナ紛争によって、ロシアに拠点を置く南ア企業の770億ランド(約48億ドル)相当が影響を受けている。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

ジンバブエのムハシさんや南アフリカのムレヤさんが直面している苦境も、いわば氷山の一角である。

ウクライナ紛争以前にはジンバブエで1リッターあたり約1.32ドルで売られていたガソリンは、1.64ドルにまで跳ね上がり、以前は1.29ドルだった軽油はさらに高く1.71ドルで売られている。

実際、ジンバブエ中央銀行のジョン・マングジャ総裁は、現在進行中のロシアとウクライナの武力衝突が、この国の商品やサービスの価格に影響を及ぼすと警告していた。

南アの独立系経済専門家ディングズールー・ズワネ氏は、多くのアフリカ人がさらなる苦境に備えなくてはならないと語った。

「私たち南部アフリカの国々はロシアやウクライナからの輸入にかなり依存しています。戦争のために、南アが両国から輸入する産品の生産は明らかに低下し、価格が急騰しています。」と、ズワネ氏はIDNの取材に対して語った。

「若者・地域開発プラットフォーム」(PYCD)と呼ばれる市民団体の代表を務めるジンバブエのクラリス・マドフク氏も同じ見方だ。「象どうしが戦い、草は踏みつぶされている。」

世界の小麦輸出の約4分の1をロシアとウクライナで占めており、小麦価格は戦争開始以来急騰している。ジンバブエでは3月初旬の1トン当たり595米ドルから682米ドルまで15%近く値上がりした。

ジンバブエは小麦の少なくとも半分をロシアから輸入している。

Intense Tropical Cyclone Gombe on March 10, 2022/ By NASA, Public Domain
Intense Tropical Cyclone Gombe on March 10, 2022/ By NASA, Public Domain

ロシアがウクライナに侵攻して間もない3月にサイクロン「ゴンベ」による深刻な被害を受けたモザンビークの状況はもっと深刻だ。彼らは同時に2つの難題に対処しなくてはならないのである。

「調理油がとても高価になっています。生産に必要な原料の一部がウクライナから輸入されており、戦争が輸入の動きを阻害しているからだそうです」と語るのはモザンビークのテーテ県で小売商を行っているエルナ・シノアさん(32)だ。

「モザンビークが、サイクロン『ゴンベ』が残した爪痕にあえいでいるなか、ロシアによるウクライナ戦争の影響で、このアフリカの貧しい国に物不足の危機が忍び寄っています。」と、CAREモザンビーク事務所のクリスティン・ビーズリー代表は嘆いた。

ビーズリー代表はさらに「欧州で大量に発生した難民のニーズに応えるために、支援物資がウクライナやポーランドに送られているため、ここでは布やテントといった一般的な支援物資を入手することも難しくなっています。」と語った。

CAREは、緊急支援と長期的な国際開発プロジェクトを提供する主要な国際人道支援機関である。

ザンビアやジンバブエでは、ムハシさんのように車を使わない決断をするドライバーが出てきているが、そもそもウクライナ紛争以前から経済は脆弱であり、燃料価格は両国でそれぞれ7%、13%値上がりしている。

ジンバブエの独立エコノミスト、デニス・ムンジャンジャ氏は、「わが国はロシアやウクライナからの輸入にかなり依存しており、二頭の巨象の戦いに自動的に巻き込まれることになってしまいます。」と語った。

ウクライナへの軍事侵攻に焦点が当たる中、ジンバブエにおけるロシアの人道支援活動も停止している。

ウクライナへの軍事侵攻を始めた直後の3月の時点で、ロシアは世界食糧計画に150万米ドルの寄付を行って、厳しい干ばつと食料不足に襲われていたジンバブエのムワンゲ・ヌカイ・ズビシャベーンなどの地区で10万人以上を支援していた。

マラウィでもパンの価格が高騰している。CAREマラウィ支部のアモス・ザインディ代表は、「マラウィの小麦消費の20%ちょっとが、ロシアからの輸入に依存しています。これらの価格高騰と潜在的な雇用の喪失は、より多くの人々が貧困に陥る危険性があるため、CAREは特に懸念しています。」と語った。

ナミビアもまた、パン不足と燃料価格上昇によって脆弱な状況になりつつある。ナミビアのエブソン・ウアングタ中央銀行総裁は、「たしかに、我が国の場合で言えば石油や小麦といった産品は国民生活に直接の影響があります。」と語った。

Map of Southern Africa/ Wikimedia Commons
Map of Southern Africa/ Wikimedia Commons

ジンバブエの北に位置するザンビアは、燃料の場合と同じく、肥料や機械などの生産に必要な資材も輸入に大きく依存しており、ロシアによるウクライナ戦争の影響から免れることができていない。

ザンビアの石油価格は以前の1.29ドルから値上がりして1.55ドルに、軽油は1.12ドルから1.53ドルに値上がりしている。

ロシアとウクライナの戦いが続く中、アンゴラのような他の南部アフリカ諸国でも紛争の悪影響を被っている。

米国農務省(USDA)の農業情報ネットワークの報告によると、アンゴラは全ての小麦を輸入に依存しており、昨年アンゴラが輸入した小麦の約30%をロシアとウクライナ産が占めていたが、いまやその全てが途絶してしまっている。(原文へ

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「憲政記念館・代替施設」が開館

【東京IDN=石田尊昭

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

尾崎行雄記念財団が寄付を募り、全国から寄せられた浄財で建設した「尾崎記念会館」。1960年の完成と同時に衆議院に寄贈されました。その後、新館が増築され、1972年に「衆議院 憲政記念館」として開館、現在に至ります。

その憲政記念館が建て替えのため今年(2022年)1月末から休館し、5月下旬から工事が始まりました。建物は全て解体され、今から約6年かけて現在の敷地に「新たな国立公文書館」とともに新・憲政記念館が建設されます。(2028年度中に開館予定)

この建替工事に伴い、「憲政記念館・代替施設」が国会参観バス駐車場横に造られ、ついに昨日(6月2日)開館しました。

代替施設は、あくまで一時的なもので、延床面積もこれまでより小さく、展示物も少なくなっていますが、その分、随所に工夫が施され、見やすく、分かりやすく、子供から大人まで楽しめるような作りになっています。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

オープンの前日、内覧会が開催され、衆議院議長・副議長、議院運営委員ほか多くの関係議員が出席しました。議長の挨拶、テープカットの後、憲政記念館(衆議院事務局)の皆さんによる丁寧な説明を受けながら、私も一緒に展示室や会議室などをまわりました。この代替施設の開館に向けて、憲政記念館の皆さんが大変苦労されていたのを知っている分、感慨もひとしおでした。

ところで、今年1月26日、「現憲政記念館に対する感謝の会」が、岡田憲治・衆議院事務総長のもと、関係者のみで開催され、現館長・元館長、私など6名ほどが出席しました。そこで、これからの新記念館建設に向けての思いを話すよう求められ、以下の通り述べました。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

「これからのことを申し上げますと、どんなに立派な建物ができても、そこに魂がこもらないとただのコンクリートですから。この憲政記念館が新しくなるに当たって、今までどういう思いでここが造られてきたのか、運営されてきたのか、どういう先人たちの知見や経験がここに埋まっているのか、そして尾崎行雄を始め当時の議会制民主主義の発展に尽くした数多くの政治家、思想家、研究者、こういった方々の思い、理念、そういったものを我々は受け継ぎ、語り継いでいく使命があるんだと思います。その意味では、憲政記念館にしっかりと魂を入れていく。令和10年度にここにどんな立派な建物ができても、そこに我々が魂を宿していかないと意味がないと思っています」
(「憲政だより・時計塔」令和4年春季 No.030 より抜粋)

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

ぜひ、この「憲政記念館・代替施設」にもお越し頂き、皆様の手で魂を宿し、先人の思いを受け継ぎ、語り継いでいってください。

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G7の圧力にもかかわらず、インドの小麦輸出禁止は維持される

【ニューデリーINPS/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

インドが小麦の輸出を禁止したことで、同国の農民や貿易業者は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の結果、主食である小麦が不足している世界市場で小麦を売って収入を得る機会を失ったと、アナリストらは分析している。

インドの2020-21年の小麦生産量は推定1億790万トンで、1億3430万トンの中国に次ぐ2位。第3位はロシアの8540万トンである。

India on a world map/ GIS

5月12日に政府が2022年から23年にかけて1000万トンの小麦を輸出する計画を発表し、アルジェリア、エジプト、インドネシア、レバノン、モロッコ、フィリピン、タイ、チュニジア、トルコ、ベトナムを輸出先候補に挙げられたことから、農家の期待は高まった。しかし、その2日後、商工省対外貿易総局は、政府ルートと民間業者が既に輸出契約を結んでいる場合を除き、小麦の輸出を制限する通達を出し、方針を撤回した。

「世界的な供給不足を補うという期待を持たせておいて、それを撤回するのは大きな問題です。貿易ルートが信頼できるサプライヤーを求めるのは、それなりの理由があるからで、今回の政府の決定によりインドの信用は失墜し、その結果、将来の輸出に影響が及ぶ可能性があります。」と、WTO研究センター(本部:ニューデリー)のビスワジット・ダール教授兼代表は語った。

B.V.R. スブラマニャム商務長官は、5月14日の記者会見で、輸出規制は国内の食糧安全保障と近隣の脆弱な国々を助けることになると説明した。インドから小麦を受け取っている近隣諸国には、アフガニスタン、バングラデシュ、スリランカがある。同商務長官は、「価格の高騰が落ち着けば」規制は解除される可能性があると語った。

インドが小麦の輸出を禁止したことについては、ドイツのジェム・オズデミル食糧農業大臣が5月20日のシュトゥットガルトでの記者会見で、「各国が輸出規制を開始すれば、小麦不足が悪化するだけだ。」と述べるなど、G7諸国からの批判を招いた。

インドの小麦生産の大部分は国内で消費されているが、世界市場での存在感は増している。2021-22会計年度、インドは785万トンの小麦を輸出し、前年度の210万トンの4倍以上となっていた。

ダール教授は、中国がインドの小麦輸出規制の動きを擁護していることは興味深いと述べた。中国国営メディアの環球時報は5月15日付で「インドの小麦輸出を止める動きが小麦価格を少し押し上げる可能性は否定できないが、インドを非難しても食糧問題は解決しない。なぜG7諸国は自ら輸出を増やすことで食糧市場の供給を安定させようとしないのか。」と報じている。

政府が小麦の輸出を制限したのには、他にもやむを得ない理由があった。「世界的な小麦価格の上昇を察知したトレーダーが、政府の最低支持価格を上回る価格で突然買い占めに動いたのです。」と、食料・政策アナリストで、65以上の農民グループの統括組織であるキサン=エクタ゠モルカの創設メンバー、デヴィンダー・シャルマ氏は語った。

シャルマ氏は、「過去の経験から、自由貿易を認めると、農民や消費者ではなく貿易業者に有利に働くことが分かっている。」と指摘したうえで、「商人が穀物を買い占め、政府が数ヶ月前に輸出された小麦を2倍の値段で輸入しなければならなくなったことも過去にはありました。」と語った。

「インドの農産物市場の性質や商人の支配力を考えると、輸出が直接農家の利益になるとは思えません。農家がもっと組織化され、交渉力をつけない限り、国際市場の有利な状況を利用することは難しいでしょう。」とダール教授は語った。

政府にとって最大の制約は、「国家食糧安全保障法」に基づいて約8億人のインド人に高額の補助金付き食糧を供給することを約束していることである。各受給者は、米は1キロあたり3ルピー(0.0039米ドル)、小麦は1キロあたり2ルピー(0.013米ドル)で、毎月5キロの穀物を受け取る権利がある。

シャルマ氏は、「モンスーン災害や最近の熱波による収穫への影響など、予測不可能な事態に備え、政府が大規模な緩衝在庫(公的備蓄)を維持することが重要です。過去5年間の豊作により、約5000万トンの余剰在庫ができたため、パンデミックの際、インドは補助金付き穀物を配布することができたのです。」と語った。

農民の権利と食糧安全保障を推進する全国ネットワーク「持続可能で全人的な農業のための同盟」のリーダー、カビタ・クルガンティ氏は、「私たちが実際に目の当たりにしているのは、信頼できるデータシステムがなく、異なる省庁が互いに連携できないことから生じる政策の失敗です。農家と取引業者は予測可能な政策環境を必要としています。また、種まき時期と販売時期の間に輸出入政策を中途半端に変更すべきではありません。」と語った。

Rnajit Devraj Photo by Katsuhiro Asagiri
Ranjit Devraj Photo by Katsuhiro Asagiri

クルガンティ氏はまた、「今すぐにでも、政府は最低支持価格を上回る金額を提示できるはずです。そうすれば、より高い価格で輸出しようと売り惜しみして、結局は政府の政策転換で損をした農家を罰することもなく、同時に、貧しい消費者のために十分な在庫を確保することができます。」と語った。

インド政府は近年にも、農民のストライキにより大きな政策転換を強いられた経験をしている。政府は農産物取引の自由化などを促す「農業新法」を国会で通過させ、従来国庫の負担となっていた農産物の最低買入れ価格(MSP)を撤廃しようとしたが、新法が大企業に有利に働き、農産品の値下げが強要される事態を恐れた農民の大規模な抗議運動に直面して、2021年11月に新法の一時停止を余儀なくされている。(原文へ

この記事は、提携メディアのSciDev.Netが配信したもので、著者の許可を得て転載しています。

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グーグル翻訳アプリにアフリカの10言語が追加される

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

ナイロビ大学教授時代、英語学科廃止の議論のきっかけを作ったのは、ケニア人作家のグギ・ワ・ジオンゴ氏だった。ジオンゴ氏は、植民地支配が終焉した後、アフリカの大学では口承文学を含むアフリカ文学を教えることが必須であり、それはアフリカの豊かな言語を使って行われるべきであると主張してきた。

Google Translate Logo
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今日、Google翻訳アプリに10言語が追加されたことで、アフリカの言語での執筆や読書がより身近なものになるだろう。翻訳は、ある言語から別の言語への意味の伝達と理解され、情報、知識、社会的革新を伝達するうえで極めて重要である。また翻訳は、知識を伝達するための「運び屋」であり、文化遺産の「保護者」であり、グローバル経済の発展にとって不可欠なものだ。

新たに加わったのは、中央アフリカのリンガラ語、ガーナのトウィ語、エリトリアのティグリニャ語、エチオピアのオロモ語、そしてシエラレオネのクリオ語だ。

クリオ語は英語をベースとしたクレオール言語で、約35万人が母語とし、400万人以上が共通語として使用している。シエラレオネの人口の87%がこの言語を話している。

「クリオ語が可視化されたことにより、クリオ語を読み、書き、理解できるシエラレオネ人は、シエラレオネ・オートグラフィを使用して、グーグル・プラットフォーム上でコミュニケーションできるようになることを意味しています。」と、シエラレオネ大学フーラカレッジ言語学科長のアブドゥライ・ワロン・ジャロー博士は語った。博士は、グーグルのためにシエラレオネ方言の翻訳を担当したチームの一員である。

「言語は私たちのアイデンティティであり、私たちが誰であるかを表し、あらゆる文化のDNAと呼ぶべきものだと言われています。私たちが自国語の一つを使ってグーグルに関わるということは、私たちの言語が技術的に適切であり、私たちの社会が文化を発信でき、私たちの考え方を翻訳できるということです。」

ジオンゴ氏は長年にわたって現地語の使用を提唱してきたが、1977年、現地の俳優がギクユ語で演じる劇を書いたために投獄された。当時は、母語で話したり書いたりするという単純な行為でさえ革命的な行為だった。

54カ国からなるアフリカにはさまざまな言語が存在し、その中には他の支配的な言語の拡散や西洋文化の影響により危機に瀕している言語もある。アフリカの希少な言語の中には、その文化や知識とともに絶滅の危機に瀕しているものさえある。

植民地時代以降、アフリカの人々は自分たちの言語的アイデンティティの価値をより強く認識するようになった。しかし、国家レベルで公用語とされているのはごく一部であり、植民地支配によって輸入された言語が依然として主流を占めている。

Map of African language families, subfamilies and major languages/ By Sting./compiled from various Ethnologue country maps, as also compiled in Muturzikin., CC BY-SA 4.0
Map of African language families, subfamilies and major languages/ By Sting./compiled from various Ethnologue country maps, as also compiled in Muturzikin., CC BY-SA 4.0

幸い、アフリカ諸国はより多くの言語継承を主張し、アフリカの希少言語を再生・保存するために多言語化を目指した言語政策を展開している。(原文へ

INPS Japan

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|ダボス会議|不平等が蔓延する中、「痛みから利益を得る」(ソナリ・コルハトカル テレビ・ラジオ番組「Rising up with Sonali」ホスト)

【ロサンゼルスIDN=ソナリ・コルハトカル】

今年は5月22日から26日まで、スイスのダボスで世界経済フォーラム(WEF)が開催され、世界各国の議員や企業経営者が集まり、地球規模の問題に取り組んだ。この年次総会は、まず新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより2年遅れ、さらにロシアのウクライナ侵攻により5カ月遅れで開催された。

WEFは自らを 「世界の状況を改善することにコミットした独立した国際組織」と称しており、参加者は、政治・経済分野で影響力を持つ世界各地のエリートの代表であり、「大きな力には大きな責任が伴う」という人道主義的な立場をとっているように見える。

Professor Klaus Schwab attends the 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner on September 23, 2018 in New York, NY USA. /By Foundations World Economic Forum - 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner, CC BY 2.0
Professor Klaus Schwab attends the 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner on September 23, 2018 in New York, NY USA. /By Foundations World Economic Forum – 20th Anniversary Schwab Foundation Gala Dinner, CC BY 2.0

このエリート集団が前回会合を持ったのは、まさにパンデミックが始まったばかりの2020年1月で、WEFの創設者で執行委員長のクラウス・シュワブ氏は、「パンデミックは、私たちの世界を振り返り、再構築し、リセットするための貴重な、しかし限られた機会を提供しています。」と語った。

しかしこうした市民社会の深い懸念を反映した意見も、WEFに登壇する講演者の言葉と同様、世界の多くの問題(不当利得や社会の底辺から頂点に向かう過剰な富の再分配等)の根源を覆い隠す言い回しだった。

毎年WEFの会議に代表を送ることが許されているオックスファムは、こうした誤りに焦点を当てたレポートを定期的に発表し、政治家や企業経営者が日常的に世界から富を巻き上げようと共謀する中で不平等に対して負うべき責任を出席者に伝えている。

Oxfam Logo

オックスファムアメリカ民間部門ディレクターであるイリット・タミール氏は、インタビューの中で、今年のWEF関連報告書の結果を話してくれた。それによれば、富裕層のエリートたちは、シュワブ氏が2020年に主張したようなパンデミックを優先順位の再設定に利用するのではなく、むしろパンデミックを踏み台にして、想像を絶するレベルの富を蓄積したことが明らかになったとのことだった。

タミール氏は、「ダボス会議では不平等が解決すべき最重要問題の一つとされていますが、今日の不平等がある理由の多くは、まさにこうした人々の影響によるものなので、これはむしろ皮肉なことです。」と語った。

しかし、各メディアは、ダボス会議の雰囲気を、現状を憂慮するものであるかのように伝えている。AP通信は 「ダボス会議は世界経済の不安に覆われた」、ワシントンポストは 「経済不安と戦争がダボス会議に影を落としている」という見出しで報じている。しかし、タミール氏によれば、「今週、ダボス会議に集まっている人たちは、非常にうまくいっているので、祝うべきことがたくさんある」のだという。

オックスファムの報告書「痛みから利益を得ている(Profiting from Pain)」によると、パンデミックの期間中、33時間ごとに「新たな億万長者が誕生している」一方で、同じ時間で100万人が世界各地で「極貧」に追いやられているという。

「パンデミックは億万長者層にとって非常に都合が良いものです」とタミールは言う。オックスファムはこの報告書の中で、「世界の富豪10人が、世界の貧困層の40パーセントの人類よりも多くの富を所有している」と結論づけた。このような不合理な富の世界的配置は、現在の経済システムにとどめを刺すようなものであるべきだ。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

オックスファムが報告書で強調しているパンデミックによる不当利得の主な分野は、いずれも人間にっとって生活必需品である、食料、医療、エネルギー、テクノロジーである。

例えば、ジェームズ・カーギル2世とその家族を例にとると、彼らは家名を冠した世界的な食品取引ビジネスの主要株主であり、昨年だけで約50億ドルの純益を上げた。世界的に食糧価格が高騰し、カーギル家の富に貢献している。

今年のWEFの講演者リストにステファン・バンセル最高経営責任者が名を連ねた製薬会社モデルナは、オックスファムによれば、「公的資金を私的財産に変換することに絶大な成功を収めている」という。さらに、「同社は、合計100億ドルの価値を持つ4人の新しいワクチン億万長者を生み出した。」

Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe - Own work, CC BY-SA 4.0
Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe – Own work, CC BY-SA 4.0

エネルギー分野でも、オックスファムによれば、際限のない貪欲さが見てとれるという。エネルギー価格の上昇に伴い、「パンデミック期間中に大手石油会社の利潤は2倍に膨れ上がっている。」

そして最後に、テクノロジー部門が億万長者に大きな恩恵を与えている。オックスファムは、「世界で最も裕福な10人のうち7人がテクノロジー分野でお金を稼いだ」と報告している。その中には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏を抜いて世界一の大富豪になったイーロン・マスク氏も含まれている。

市場資本主義によって富が再編成され、人類の(所得で分類した場合の)下位半分からますます金持ちの手に渡るようになったとすれば、公平であるはずのシステムに決定的な設計上の欠陥があるか、システムが設計通りに正確に機能しているかのどちらかである。WEFの出席者は、前者であると確信している。また、米国バーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員のように、経済は金持ちに有利なように「操作されている」と主張し、後者であると考える人もいる。いずれにせよ、新しいシステムを導入する時期が来たというのは否定できない結論である。

WEFが開催するような、エリートが頭をかくふりをしながら、「危機のときに、社会の結束と市民の信頼を維持するために、リーダーはどのように倫理的な判断を下すことができるか。」「ジェンダー平等のための会話に、どうすればすべての人を含めることができるか。」といった、深い内省的パネルディスカッションも必要ないのである。

オックスファムは、複雑な分析やオピニオンリーダー同士の議論を必要としない、世界的な不平等を解決する最も簡単な方法は、次のようなものだと指摘している。つまり、上層部(=富裕層)にお金がありすぎるなら、そのお金を下層部(=貧困層)に再分配すればいいのだ。ただそれだけのことだ。

Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.
Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.

世界有数の富裕層や企業がある米国では、バイデン大統領が超富裕層を対象とした億万長者税や、「より良く再建法案(Build Back Better Act)」の税制規定など、既によく練られた法案があるが、いずれも議会を通過することはなかった。タミール氏は、危機的状況に際しての富裕層への税金に関して「これは新しい概念ではない」と指摘したうえで、「かつて戦時中に実施したことがありますし、他国でも実施して成功している事例があります。今こそ、危機から生じた過剰な利益から歳入を確保すべき時です。」と語った。

WEFの参加者は、ダボスで一週間肩を並べた政治指導者たちが、いかにして税制を現実のものにするかを議論するパネルも開かなかった。タミール氏によれば、不平等が世界にとって悪いことであることはほとんどの出席者が認めていたが、その解決策は課税ではなく、慈善事業であるという。

「慈善活動は個人の意志で行われるものですから、寄付をするかどうか、いつどのように寄付するかは、彼ら次第です。」言い換えれば、億万長者の慈善家たちは、私たちが想像もつかないほどの資金を持っているだけでなく、資金を受けるべきもの、受けるべきでないものを決定する力を持っているのです。

「ルールを変える必要があります。政府が介入し、すぐにでも実行する必要があります。」とタミール氏は語った。(原文へ

INPS Japan

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最良の時代、最悪の時代

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョセフ・カミレリ】

それは、最良の時代であり、最悪の時代でもあった…
それは光の季節でもあれば、暗闇の季節でもあったし 
希望の春でもあれば、絶望の冬でもあった 
二都物語 1859年

フランス革命の激動を背景にしたチャールズ・ディケンズの有名な歴史小説のこの冒頭の一節は、人類が現在置かれている窮状を見事に言い当てている。

あらゆる側面から重大な問題が私たちに押し寄せている。ある日は新型コロナウィルス感染症、次の日はウクライナ危機、その翌日は気候変動の惨状、そして人種差別の様々な醜い顔…。数え上げればきりがない。(原文へ 

フランス革命の激動を背景にしたチャールズ・ディケンズの有名な歴史小説のこの冒頭の一節は、人類が現在置かれている窮状を見事に言い当てている。

あらゆる側面から重大な問題が私たちに押し寄せている。ある日は新型コロナウィルス感染症、次の日はウクライナ危機、その翌日は気候変動の惨状、そして人種差別の様々な醜い顔…。数え上げればきりがない。

これらは、単につながりのない苦悩なのか、それとももっと深刻な病の症状なのだろうか。私たちはどのようにこれらの状況を理解すれば良いのだろうか。政治的駆け引きやプロパガンダ、ありきたりの決まり文句を超えることはできるだろうか。このようなことについて、どのように他者とコミュニケーションをとればよいのだろうか。どのように対応すればよいのだろうか。

この原稿を書いている間にも、私たちはロシアによるウクライナへの軍事侵攻と、その恐ろしい結末を目の当たりにしており、紛争解決への道はまだ見えてこない。このことは、私たちの時代の混迷ぶりを如実に物語っている。

戦闘が始まってから4週間が経過した時点で、国連は民間人約1200人が死亡、2000人近くが負傷したと推定しているが、言うまでもなく、この中に両軍の兵士数千の被害は含まれていない。

さらに、広範囲にわたるインフラの破壊、約650万人の国内避難民、約400万人の国外避難を余儀なくされた人々も、この恐るべき統計に加えなければならない。

ロシアには確かに、米国が先導する軍事同盟をロシアの玄関先にまで近づけた一連の北大西洋条約機構(NATO)拡大に対して、正当な不満があるのは間違いない。隣国ウクライナでNATOへの加盟を目指す政権が誕生し、火に油を注ぐことになった。

プーチンに限らず多くのロシア人は、自分たちは執拗な挑発と屈辱を受け、ウクライナの少数派ロシア人は脅迫と嫌がらせを受けてきたと感じている。しかし、だからといって武力の使用やウクライナの人々が受けている酷い苦しみが正当化されるわけでは決してない。

また、戦争の犠牲となるのは、現在繰り広げられている人間の悲劇だけではない。

米国と同盟国による厳しい制裁措置は、オリガルヒ(新興財閥)よりも一般のロシア人を苦しめる可能性が高い。ロシアの中央銀行や政府系ファンドの資産凍結、SWIFTからのロシアの排除、ガスパイプライン「ノルドストリーム2」事業の停止、拙速に進められたその他の措置は、別の国々や、既にして脆弱な世界の金融システムにマイナスの影響を与えることになろう。

米国や、一部のより声高な同盟国がプーチンに対して投げつけている非難によって、交渉を通じた紛争解決が促進されることはないだろう。「戦争犯罪」との非難は、イラクやアフガンの民衆に対してなされた破壊行為に責任を持つ西側諸国の指導者に対しても同様に投げかけられたのであれば、より大きな道徳的権威をもてただろう。

このような状況において、西側の主要メディアが役に立ってきているとは思えない。ウクライナの軍事・政治エリートが提供した「事実」なるものや解釈が見出しを飾っているが、他方で、政府から独立した立場を持つ学者を含めたロシアの人々の声はあまり聞かれることがない。(たいていは匿名である)米国の軍事・諜報筋や、シンクタンクでその侍従のようにふるまう者たちの声は大きくなり、彼らの見解はまるで福音のように受け取られている。

一部のみ真実を含む情報や、偽情報、そして完全な欺瞞がもたらす政治的、文化的、心理的悪影響は、今後何年にもわたって続くだろう。

しかし、間違いなく最も悲惨な犠牲は、全面的な冷戦へと回帰する可能性、蓋然性があるということだろう。飛行禁止区域設定についての無思慮な議論や、ウクライナへの軍事支援供与の拡大、原子炉に対してなされた無謀な攻撃、愚かな核兵器使用の威嚇は、第二次世界大戦以来最大の危機をもたらしている。

どうすれば、この混乱から抜け出せるだろうか。端的に言えば、「非常に困難である」ということだ。この疑問に答えるために、私は6段階からなるプロセスを提案したい。それは、?まずは銃を置くことが決定的に重要だがそれでは不十分であること、?主要な問題は常に互いに連関があるから全体的なアプローチが必要であること、という二つの原則に則っている。

ここでは、そのステップの概要を述べるにとどめる。

  1. 双方が何かを獲得し、何かを譲歩する時にのみ維持できるような即時停戦(理想的には国連が監視する停戦)。すなわち、モスクワは武力行使を止め、キーウはロシアの正当な不満についての実質的な協議入りに同意する。
  2. ウクライナへの殺傷能力のある武器供与を止め、人道危機に対処する大規模な国際的支援を実施する。
  3. ロシアの長年の懸案事項に関する交渉が実質的に進展すれば、ウクライナ領内からロシア軍を段階的に撤退させる。
  4. 第三者の活用:国連事務総長や、中国・フランス・トルコ・南アフリカ・インドなど、ロシア・ウクライナ双方に効果的に接触できる複数の国の政府を、協議プロセスの中でさまざまな形、さまざまな段階で利用できるようにしておくこと。
  5. ロシア軍撤退後、大規模な国連平和維持軍を創設すること。そうした平和維持活動は長期にわたって必要となるかもしれない(米・ロおよびその同盟国の軍はこれに関与すべきではない)。
  6. これらの取り決めは、ロシア、米国、また欧州におけるその同盟国の間で核軍縮協議を進め、非軍事化に向けた重要な措置をとることを目指した一連の長期的な協議への道を開くものでなければならない。これらの取り決めは、気候変動や他の重要な環境問題を包む共通で協力的、包括的な安全保障に関する欧州全体の新たな枠組みの一部を形成することになるであろう。

これらのどれも一夜にして成るものではないし、人間の英知やエネルギーを世界的に呼び覚まさずに実行できるものでもない。しかし、再生への可能性はある。

さまざまな領域で活動している世界中の知識人や芸術家、科学者、宗教指導者、小規模なメディア関係者、無数の活動家、積極的な市民が、現状に代わる刺激的な代替策を提供してくれている。

同時に、他者と意思を通わせつながる能力は、個人的なネットワークを通じてだけではなく、国内外を問わず爆発的に加速している。

しかし、こうした可能性はまだ単に萌芽の段階にすぎない。人間の現状を苦しませる多面的な病理に対する認識が高まりつつある。しかし、それだけでは不十分だ。

もし、人々が対話によってこの課題に取り組み、より洞察力に富みエネルギッシュな関与を生み出そうとするのであれば、表面的な症状を越えて、病理の背後にあるものを追究しなければならない。

また、そこにとどまることもできない。より健全な、より好ましい状態がどのようなものであるべきか、考えをめぐらすべきだ。

もし実質的な変化(例えば、現在の安全保障政策の大幅な転換、効果的なメディア規制、気候に配慮したエネルギー政策など)を想定するなら、前途は多難であるということは明らかだ。

多くの人は、近視眼的で無能な、あるいは腐敗した指導者を指弾することだけで満足している。そんな単純なことであればよいのだが。強力な利害関係はしばしば一般の人たちの目からは隠されている。深いところに根差した集団的な発想はなかなか変わらないものだ。私たちの現在の仕組みの中には、もはや目的に適ったものではなくなっているものもあるだろう。こうした障害をいかにして乗り越えることができるのか。

これらの問題は、国内および国家間で、持続的かつ広範な対話を必要とする問題だ。そして、そうした熱心な探究は、少数の人々の知識や洞察だけに頼るわけにはいかない。

私たちの時代が倫理的に必要とするものは、変化をもたらすための集団的な能力を高めることだ。

近々、7週間にわたるシリーズ「最良の時代、最悪の時代:岐路に立つ人生をナビゲートする 」では、この記事で提起された疑問について、第一線の思想家や実務家の協力を得て、考察していく予定である。登録方法などの詳細は、https://crossroadsconversation.com.au/?page_id=1229 を参照。このシリーズは、4月26日からオンラインと会場にて開始する予定。

ジョセフ・カミレリは、ラ・トローブ大学名誉教授、オーストラリア社会科学アカデミー会員、「岐路の対話」の呼びかけ人。安全保障、対話、紛争解決、国際関係理論、現代世界における宗教・文化の役割、アジア太平洋地域の政治などに関する30冊以上の著作、120本以上の章・論文を著してきた。また、これまでに多くの国際的な対話や会議を呼びかけてきた実績があり、最近では「公正で環境的に持続可能な平和」を2019年に呼びかけている。

INPS Japan

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教皇フランシスコ、カザフスタンを中央アジアの「信頼できるパートナー」と称える

【バチカンKAZINFORM】

バチカン市国を公式訪問中のカザフスタン共和国のムフタール・ティレウベルディ副首相兼外務大臣が、教皇フランシスコに謁見する栄誉に浴したと、カザフスタン外務省の報道担当が明らかにした。

謁見中、カトリック教会のトップでありバチカン市国の元首である教皇フランシスコは、カザフスタンが中央アジアにおけるバチカンの信頼できるパートナーであることを強調した。教皇はまた、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領が「新カザフスタン構想」の一環として打ち出した政治・経済改革と、来る憲法改正を問う国民投票を高く評価した。

両者はさらに、今年9月にカザフスタンの首都ヌルスルタンで開催予定の第7回世界伝統宗教指導者会議の議題について議論した。教皇フランシスコは、カザフスタンの宗教間合意や宗教間対話の促進に関する取り組みを賞賛した。

KAZINFORM

ティレウベルディ外相は、教皇フランシスコがカザフスタンを公式訪問し、第7回世界伝統宗教指導者会議に参加する歴史的な決定について、これはカザフスタンと中央アジアのカトリック教徒の間で非常に期待されていることだと語った。

バチカン訪問の一環として、ティレウベルディ外相は、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿および宗教間対話評議会議長のミゲル・アユソ・ギショット司教とも個別に会談を持った。

両者は、調和と相互尊重の精神に基づき、カザフスタンとローマ教皇庁の間の協力関係をさらに発展させることに焦点を当てた。国務大臣を代表して、ティレウベルディ外相は、宗教間対話の発展と世界伝統宗教指導者会議の理念の普及に貢献したギクソット司教にドスティック勲章(勲2等)を授与した。(原文へ

KAZINFORM
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翻訳:INPS Japan

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【ワシントンDC/IDN=ジョン・P. ルール】

ウクライナ危機以降、米国のインドへのアプローチは、インドの米国に対する歴史的な不満を再燃させるものであった。しかし、ロシアや中国など他の大国がインドに働きかけていることは、国際情勢においてインドの影響力が増していることを物語っている。

2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻以来、米国は対ロシア制裁への支持を集め、外交的に孤立させようとしている。バイデン政権は、インドがこの制裁を順守することについてはほとんど期待していなかったが、インドは公然と制裁回避の方法を模索し、国連でロシアを非難することも控えている。

インドは注意深く行動し、ロシアの侵攻を支持する姿勢を見せず、代わりにロシアとウクライナの紛争解決のための対話を呼びかけている。インドと良好な関係にあるウクライナを怒らせたくないという思いに加えて、ロシアの行動を是認していると見られたくない、さらには、インドの伝統的な外交政策である非同盟政策から外れたくないという思いもあるのだろう。

しかし、このようなインドのバランス重視のアプローチは、米国の怒りを買っている。米国は、ウクライナ紛争を、孤立した権威主義的なロシアに対する民主主義国家の統一戦線という構図で捉えようとしている。中国のロシアへの外交支援やグローバル・サウスにおけるロシアの幅広い支援と並んで、インドによるロシアとの慎重かつ持続的な協力は、このような構図を崩すものであった。

The official State Department photo for Secretary of State Antony J. Blinken, taken at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on February 9, 2021. / Public Domain]By U.S. Department of State, Public Domain
The official State Department photo for Secretary of State Antony J. Blinken, taken at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on February 9, 2021. / Public Domain]By U.S. Department of State, Public Domain

4月11日、ブリンケン米国務長官は、オースチン米国防長官、シン国防相、ジャイシャンカール外相との共同記者会見で、一部当局者による人権侵害が増加していると指摘してインドを批判した。この発言は、インドの政界や社交界ですぐに批判を浴びた。特に、この問題が議論されるという警告が米政府高官から事前になかったからである。

ブリンケンの発言は、2014年に政権を握ったナレンドラ・モディ首相のもとで民主主義が後退したとされるインドを巡り、ここ数年欧米で批判が高まっていたことを受けたものだ。その結果、モディ首相の支持者の多くが、過去数世紀にわたってインドで西欧諸国が果たした歴史的役割に対する反感を強めている。

摩擦を察知した他の大国は、米国とインドの間の分裂を利用しようとしている。特にロシアは、ウクライナ紛争に対するインドの中立的な立場を受け入れ、ここ数ヶ月、インドへの石油輸出を大幅に割引いた価格で急拡大させている。これは、石油、天然ガス、石炭、原子力発電の協力を通じて、インドとロシアの間で長年にわたって高まってきたエネルギー関係をさらに補完するものであり、エネルギー分野以外の両国間の商品輸入も増加している。

また、インドは長年にわたりロシアにとって最大の武器輸出先であり、さらなる軍事協力に拍車をかけている。国連におけるロシアの伝統的なインド支援も、インド政府が貿易維持を堅持しているおかげで、今後も継続されるに違いない。

European Union Flag
European Union Flag

欧州連合(EU)は米国と同様、インドにロシアに対してより厳しい姿勢をとるよう説得を試みており、3月28日にはインドがウクライナへの侵攻を非難しないことを「好ましくない」と指摘した。しかし、EUは批判をほぼ制限し、代わりにインドとのより建設的な関係を追求する戦略に注力している。

2020年には、「EU-インド戦略的パートナーシップ:2025年へのロードマップ」を採択して関係をアップグレードし、21年4月には「インド太平洋における協力のためのEU戦略」を明らかにし、インドとの関与を高めることに大きな重点を置いている。その1カ月後、インドとEUは、自由貿易協定を結び、経済関係の強化に向けた取り組みを再開するために、オンラインによる会合を開催した。

そして今年5月上旬、モディ首相は3カ国にわたる欧州歴訪を実施した。2日にはベルリンで第6回独印政府間協議が開催され、世界の安全保障と二国間関係の拡大が議論された。4日にはコペンハーゲンで、デンマーク、アイスランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの首脳による第2回インド・北欧首脳会議が開催された。その日のうちにモディ首相はパリに飛び、再選されたフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談した。

二国間、多国間のフォーラムやEUとの幅広い取り組みを通じて欧州諸国と関係を構築することは、インドが現在直面している米国からの圧力の高まりとのバランスをとるのに役立ち、またロシアをめぐる意見の相違にもかかわらず、欧州がインドに関与する意欲を示している。

インドにとって最も大きなチャンスは、ウクライナでの紛争が中国との関係をどのように変えるかであろう。ここ数週間の米国のインド批判は、80年以上にわたってインドとさまざまな国境衝突を繰り返してきた中国にとって見逃せないものだった。2020年以降、中国軍とインド軍は係争中の国境の一部で、緊迫した命がけのにらみ合いを続けている。

India China Locator/ By Myself - Image:United Kingdom China Locator.png, CC BY-SA 3.0
India China Locator/ By Myself – Image:United Kingdom China Locator.png, CC BY-SA 3.0

また、中国はインドと領土問題を抱えるパキスタンを支援し、インドはチベットの精神的指導者であるダライ・ラマを保護している。中国は1951年にチベットを併合して以来、この地域を支配しており、中印間の摩擦の原因となってきた。今世紀に入り、中国とインドが力をつけるにつれ、アジアにおける両国の関心領域は重なり合うようになった。

しかし、両国とも外交の選択肢を残しており、国境で起きている対立は現状をより強固にするものでしかない。インドは、ここ数十年の中国のパワーと影響力の増大が世界的な規模であったとしても、中国軍には動じないことを証明している。

2020年から21年にかけての中印国境での膠着状態が最も激しかった時期から、緊張はやや和らいでいる。このため、中国の地域覇権をインドに受け入れさせるために、より強硬な手段を用いようとする競合する「大国外交」戦略よりも、経済的な取り組みを通じてインドを誘惑しようとする中国の「近隣外交」が優先されたと認識されるようになった。

Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons
Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons

インドとの緊張を緩和しようとする中国の政策は、インドが米国と正式な安全保障同盟を締結し、アジア太平洋地域における中国の野心が大きく損なわれることを中国政府が恐れていることに起因している。インドと米国以外に日本とオーストラリアも参加する日米豪印戦略対話(Quad)は、今のところそのようなものにはなっていない。しかし、2021年に比較的突然、米国、英国、オーストラリアの間でAUKUSという安全保障同盟が創設されたことは、この地域における中国の計画に対する挑戦がまだ可能であることを示した。

AUKUS発表の衝撃は、中国がインドとの友好関係を模索するきっかけとなったことは明らかである。パキスタンは依然としてインドの主要な関心事であり、中国はアジア太平洋地域における米国との対立に大きな関心を寄せている。中国とインドが休戦すれば、ウクライナ侵攻の余波から新しい世界秩序が形成される中で、両国の最も重要な関心事に対処するために外交政策を再編成することができるだろう。

インドと中国が意見の相違を解決するのは難しいが、両国の関係改善を促進する道はいくつか存在する。中国の「一帯一路構想(BRI)」においてインドがより大きな役割を果たすよう奨励することは、両国間のより積極的な関係を固めるための建設的な経済的インセンティブを生み出すことにつながるだろう。

インドと中国は、カザフスタン、キルギス、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンと共に、上海協力機構(SCO)という国際政治・経済・安全保障ブロックの加盟国でもある。インド、中国と良好な関係にあるロシアは、欧米が関与しない国際機関で中印間の紛争を調停することで、その外交力を誇示する機会を得ようと考えている。

インドが国際的に注目されるようになったことで、大国がインドへの関心を高めていることは明らかである。インドは2年連続で、世界で最も急速に成長している主要経済国になると予想されている。

China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes - Own work, CC BY-SA 4.0
China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes – Own work, CC BY-SA 4.0

しかし、ウクライナ危機へのインドの対応を巡る米国の圧力は、インドへの米国の熱しやすく冷めやすいアプローチの限界も示している。1971年の印パ戦争では米軍がインドを威嚇し、98年の核実験ではインドとパキスタン双方に制裁を加えた。さらに、アフガニスタン戦争やテロとの戦いにおけるパキスタンへの支援は、インドに大きな懸念を抱かせた。

しかし、インドと米国はこの30年間、民主化プロセスへの支持、中国のアジア戦略への警戒、地域のイスラム過激派への対抗努力などを背景に、二国間協力も強化してきた。インドは、安全保障、外交支援、エネルギー、貿易協力などを巡ってロシアと緊密な関係を築いており、インドが非同盟の姿勢を崩さない理由もここにある。このような現実を認識する代わりに、米国はインドが採用した政策への批判を強めている。

インドの外交政策は、他の全ての主要国からの協力を呼び込むことを可能にし続けるだろう。その中には米国との萌芽的な関係を維持することも含まれるが、インドに対する追加的なインセンティブがないため、インドの外交政策を変えようとするバイデン政権の努力は今後も徒労に終わるだろう。(原文

INPS Japan

INPSのパートナーメディアであるグローブトロッターによるコラム記事。筆者はワシントンD.C.在住のオーストラリア系米国人ジャーナリストで、Strategic Policy編集者。現在、今年出版予定のロシアに関する本を執筆中。

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