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|視点|核兵器の脅威と闘うには「責任ある」メディアが必要(ジャルガルサイハン・エンクサイハン元モンゴル国連大使)

【ウランバートルIDN=J・エンクサイハン】

2020年の前半は、世界がますます緊密に繋がってきていること、そして、国境がない3つの生存上の脅威(①大量破壊兵器の存在、②気候変動、③新型コロナウィルス感染症のパンデミック)に対処するには、各国政府とあらゆるステークホールダーが協力し合うことが不可欠であるという現実を、私たちが改めて突き付けられた期間となった。

こうした脅威に対して何の対策も取らず、無視を決め込むことは、それ自体が第4の脅威となる。また、国際環境にマイナスの影響を及ぼす大国間の政治的・経済的角逐が強まりつつある。

パンデミック:上記の脅威の中で、とりわけ新型コロナウィルス感染症のパンデミックが、単独行動主義や保護主義、大国間の角逐ではなく、むしろ多国間主義と相互理解・協力こそが、共通の脅威と難題に実質的に対処するために必要であることを明示している。今日、「別々に行動するより団結する方が良い(死ぬも生きるも全員の意味)」という諺のとおり、狭隘なナショナリズムや大国間の角逐よりも広範な協力の重要性が増している。

パンデミックは、多くの国々における医療システムや公衆衛生を促進する国際協力が、今回の新型コロナウィルス感染症に対しては依然として脆弱なものであり、先進国ですら効果的な対応をとれなかったことを示した。適切な措置を取り、対応策に関する情報や経験を持ち寄る時間は失われた。効果的なワクチンの開発には、科学者や医者だけではなく、全世界の力が必要だ。願わくば、世界は、その他の生存上の脅威に対しても緊密に協力するようになってほしいものだ。

核兵器・生物・化学兵器を含む大量破壊兵器は、人類に対する明確な生存上の脅威である。新型コロナウィルスの感染拡大を念頭に置きつつ、パンデミックの兵器化を防ぐために、1972年の生物兵器禁止条約を再考する必要がある。

Image: Collage of images of biomasks and COVID-19 with graphics from Internet.

核兵器に関しては、その脅威は冷戦終結とともに除去されたわけではなかった。それどころか、核兵器保有国の数は増えてきた。冷戦終結後の30年、米国とロシアが保有する核兵器の数は減り続けているが、核兵器の脅威は低減されるどころか、むしろ増大している。

米ロ二国間の重要な核兵器全廃あるいは削減に関する協定は破棄され、その他の協定についても攻撃を受けている。超音速兵器、宇宙兵器、その他の先進兵器やシステムが開発される一方、核兵器が使用されるハードルは、核兵器低出力・小型化が進む中で下がってきている。

核実験の再開に関する議論さえ出てきているが、もし実施されれば広範囲な連鎖反応を生むことになるだろう。核不拡散体制は、「核軍備競争の停止および核軍縮に関する全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」という公約の履行をNPTの加盟国である核兵器国が拒んでいるために、弱体化している。

米国による、イラン核計画に関する多国間合意からの一方的な離脱は、合意を崩壊させるリスクを高めた。朝鮮半島における非核化協議は、重大な公約を実現しようという意思が当事国に欠けていたために停滞している。

こうした問題含みの動きが起こる一方で、核兵器が、故意、人間やシステム上のエラー、あるいは過失によって使用されることがあれば、その脅威は、現在の新型コロナウィルス感染症のパンデミックと違って、よく訓練を受けた献身的な医者でさえ実質的に役に立たなくなるぐらい大きな被害が瞬間的に生じるものとなる。

1945年に広島と長崎で核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の帰結と、被爆者の証言をよく知る各国の医師たちは1980年、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)を設立した。IPPNWは、核兵器が使用された環境下では、医師が犠牲者に適切な医療支援を行うことは不可能であり、最善の対応策は、そもそもそうした惨事を引き起こさないようにすることだと宣言した。

核兵器の使用がもたらす人道上の影響に関する最近の研究では、核兵器がわずか数発使用されるだけでも数十万人が即時に死亡し、その後にもっと多くの人々が苦しみながら亡くなったり、苦難を経験したりするとされている。また、いわゆる「核の飢餓」につながる、気候の壊滅的な崩壊を世界的に生み出すとされている。

メディアの役割:現在起こっているマスコミ革命は、一般の人々にとってメディアを最も直接的な情報源に押し上げた。今日、人々の意識を高め、その態度や意見を形成し、人々の行動を通じて、最終的な意思決定者、つまり各国の政府に影響を与えるうえで、メディアは重要な役割を果たすと期待されている。

しかし、メディアは、広範に利用できる情報の単なる伝達者であってはならない。なぜなら、そうした情報の中には、客観的な事実に基づいた情報もあるが、情報の利用者に影響を及ぼすような偏見を持ったものや、フェイクニュースも含まれるからだ。

Image credit: Pixabay

メディアは「良いニュースは悪いニュース」あるいは「悪いニュースは良いニュース」という論理に従ってはいけない。メディアがすべきことは、安全と平和、人々の相互理解を促進することだ。それは具体的には、客観的な情報を提供する、責任ある効果的な媒体として機能し、ニュースのより大きな背景や影響を示し、人びとが、問題の性格・課題・可能性がよく理解できるように問題の文脈を明確にし、人びとが直接、あるいは、同じような見方を共有する集団を通じて問題に積極的に関わっていけるようにすることを通じて、なされるべきだ。(原文へ

※著者は、モンゴルの元国連大使で、NGO「ブルーバナー」の代表。この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「Toward a Nuclear Free World」の最新レポートの序文として寄稿されたものである。

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【ナイロビIDN=シッダルタ・チャタジー】

17歳の女子高校生ダルネラ・フレイザーさんは、ジョージ・フロイド氏が白人警察官のデレク・チョービンに首を膝で押さえ付けられて死亡するまでの数分間を撮影した時、まさか自分の撮った映像が人種差別への世界的な抗議行動を再燃させ、警察改革を求める抗議の声が広がっていくとは、夢にも思わなかった。

この撮影行為は、メディアの力を世界的に実証することとなった。私たちは、同じようにアフリカにおいて緊急の行動を必要としている。持続可能な開発目標(SDGs)が達成され、全てのアフリカの人々に本来あるべき機会が与えられるよう、アフリカのメディアが貢献しなければならない。

Amina J. Mohammed/ UN Photo
Amina J. Mohammed/ UN Photo

「世界中で、SDGsの達成に成功することが、世界的な不安を和らげ、人々により良い生活を与え、あらゆる社会に安定と平和をもたらすための確固たる基盤を構築することになる。」とアミーナ・モハメッド国連副事務総長は述べている。

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)が引き起こされる前から、レバノンからチリ、イランからリベリアに至る世界各地で、民衆による抗議の波が広がっていた。これは、様々な進歩にもかかわらず、このグローバル化した社会は何かが壊れていることを明確に示している。

COVID-19のパンデミックは、あたかも根深い不平等の実態を白日の下に晒す稲妻のごとく、世界全体に広がった。メディアの報道が、密接に関連している不平等と健康の関係を解明する手助けとなった。つまり報道を通じて、貧困層ほど、圧倒的に多くがウィルスに感染・死亡し、深刻な被害を受けていることが明らかになったのである。

長年にわたる公民権の剥奪と人種差別に抗議する民衆の声が世界を席巻している現状は、あらゆる人々が平等に扱われるように世界が変わらなければならないことを示している。

メディアもまた、SDGsに関して同じことができる。SDGsを達成して数多くのアフリカの人々の生活を向上できるかどうかは、人々の意識向上と、そうした意識が加速させる焦点を絞った行動と資金調達にかかっている。

Photo: Woman on the streets of Minneapolis holds #BlackLivesMatter sign. Credit: Breakthrough News

開発の進展に関する大きな欠点のひとつは、SDGsと「2030アジェンダ」に関する知識が広範に広まっていないことだ。SDGsについて積極的に報道するメディアに関心を向けなくてはならない。何が報道され、どのように報道されるかは政策形成に影響を与え、生活に影響を受ける数多くの人々を左右することになるからだ。知識は力であり、市民が問題意識を持てるようになれば、国の対応を決める力を手にすることになる。

従来、開発の専門家らは、教育関係者や政治家、メディアといった影響力をもつ人々に対して、持続可能な開発という比較的新しい概念についてうまく説明することができていない。今後そうすることがカギを握る。なぜなら、SDGsを容易に理解できる工夫がなされれば、市民からの支持を集めることができるからだ。

私たちは、国連の193加盟国が公約した開発目標の期限である2030年に向けて既に3分の1程のところに来ている。しかし、COVID-19のパンデミックに関わらず、現在の変化のペースでは、保健・教育・雇用・エネルギー・インフラ・環境といった主要な領域において、アフリカは期限内に目標を達成できそうにない。

SDGsそのものや、その達成に必要な行動、そしてそうした行動に責任を持つ機関に関する市民の意識を高めることが肝要だ。メディアは、SDGsが示している社会正義と平等を実現するためのグローバルな取り組みに関する報道を強化することで、市民社会や経済界、国際機関、地域機関、諸個人に刺激を与えることができる。

知識を得た市民からの圧力が政治家らを行動に向かわせ、数多くの人々に希望を与えることになる。

アフリカでは、開発問題はメディアにとって決してかけ離れた問題ではない。従って、持続可能性に関する理解を構築する機会は既にそこにある。持続可能な開発に関する専門家は、なぜSDGsが重要であり、開発における「これまでのやり方」では、なぜ増大する人口や気候変動に対処できないのかを、説明しなくてはならない。そして、「持続可能な開発」の概念を誰もが理解できる説得力のある物語を制作できる報道機関は、人々のSDGsに関する注目を高め、それによって支持を獲得することができる。

私たちは「通説をひっくり返す」必要がある。

何がどのように報道され、そしてどのような媒体で報道されるかは、政策形成に役立つほか、生活が影響を受ける数多くの人々を左右することになる。

この目的のために、メディアは対話に参加し、大義に向かって自らが果たせる役割を理解するようにしなくてはならない。

SDGsは、「誰も置き去りにしない」、そして、「最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する」と約束している。これは実際には、極度の貧困を根絶し、不平等を緩和し、差別と対決し、最も放置された人々に進展をもたらす迅速な行動を取ることを意味している。

メディアは、例えば、SDG第3目標のテーマである「全ての人に健康と福祉を」という大きな問題を検討するために、COVID-19の例を持ち出しながら、最も放置されている人々に光を当てることができる。

SDGsfor All Media Project Annual Report

また、メディアは、2030アジェンダを各国政府に順守させる上で重要な役割を果たす。公約では、各国が報告や説明責任を果たすためのメカニズムを持たねばならないことになっているが、ほとんどの国が、特定の目標に向けた進展に関する信頼性のあるデータを提示していない。これが問題なのは、SDGsに向けた資金調達は、実際にどの開発領域で資金が必要とされるかを理解するためのデータを集積できて初めて可能となるからだ。国別の公約が十分な投資で裏付けられることがほとんどないアフリカの場合、この点は特に重要である。

携帯電話の急速な普及は、アフリカ大陸の人々に、フェイスブックやツイッター、ユーチューブ等のデジタルプラットフォームを通じてコンテンツを共有する比類のない絶好の機会を提供している。インターネットの接続環境や手頃な価格のプロバイダーが依然として不足している問題があるものの、モバイル技術は多くの部門で強力に可能性を押し広げている。

Siddharth Chatterjee
Siddharth Chatterjee

地球上の6人に1人がアフリカで暮らしている。つまり、アフリカの問題は世界の問題であり、これを解決することが世界の責任だということだ。もしアフリカがアジェンダ2030を達成することができなければ、その影響は、紛争や移民、人口増加、大きな気候災害という形で地球上を覆うことになる。

アフリカのメディアは、SDGsの達成に向けた責任を負っている。(原文へ

*この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「SDGs for All」の最新レポートの序文としてチャダジー氏から寄稿されたものである。

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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国連、新型コロナ関連の情報汚染と闘うためのグローバルイニシアチブを始動

|UAE|世界の子どもに安全で清潔な水を提供するイニシアチブが始動

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は、UAE副大統領でドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下が、世界の子ども500万人を対象に清潔な水を提供する「UAE水援助プログラム」構想を発表した、と報じた。

「粗末な下水設備や適切な浄化装置の不足等が原因で、21秒毎に1人のペースで子どもが命を落としている現状を考えれば、この支援プログラムは実に意欲的な試みである。」とガルフ・ニュース紙は6月30日付の論説の中で報じた。

実施を監督するのはエミレーツ赤新月社で、具体的には井戸の掘削、適切な水配給システムの構築、安全な水を提供するための効果的な浄水装置の設置等に対する支援を行う予定である。

UAE Water Aid/ Gulf News

これまでのところ、この支援構想に対する反応は上々で、発表から24時間が経過した時点で3200万ドゥルハム(約9億1600万円)の寄付金が寄せられた。

今回の発表はイスラム教徒が断食という修行を通じて貧しい人々の心情を身をもって経験・内省し、喜捨を通じて神への信仰を捧げるラマダン開始日(6月29日)に行われた。

子どもたちが最も病気や細菌、寄生虫に侵される危険性が高いことを考えれば、清潔で安全な飲料水は、かけがえのない(ラマダンの)贈り物となるだろう。これらの病原菌は、水が乏しく、飲料水の供給体制を向上させるための資金がないか、或いは他の問題に対処するために(飲料水対策に)資金を回す余裕がない地域で活発に繁殖する傾向にある。

「今後この支援プログラムは、ソマリアの平原地帯や、アフガニスタンの丘陵地帯、或いはスーダンの乾燥地帯にある村々、さらには紛争で分断されたパキスタンの部族地域において、村の井戸や水道の蛇口から清潔な水を常に確保できるよう支援の手を差し伸べていく予定である。」とドバイに拠点を置くガルフ・ニュース紙が報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|視点|新型コロナウィルス感染症がもたらす食料危機に立ち向かうアフリカの女性たち(リンダ・エッカーボム・コールAWR代表)

【サンタバーバラ(米カリフォルニア)IDN=リンダ・エッカーボム・コール】

立ち上がるアフリカの女性たち」(African Women Rising, AWR)が2000カ所にパーマガーデンを新たに作るキャンペーンを開始した。新型コロナウィルス感染症によって食料不足に直面している1万5000人に、食べ物の確保を支援しようとする試みである。パーマガーデンは、地域コミュニティーが自らの食料ニーズを満たすのを可能にし、飢餓に対する長期的な解決策となる。

マーガレットは、地元の市場でもう2カ月も魚を売ることができていない。ウガンダ北部で新型コロナウィルスの感染拡大予防のために実施されている制限は、彼女の世帯にも甚大な影響を及ぼしている。家族に他の収入源がなく、苦しんでいる。

高齢のマーガレットは農場に通って働くことができない。盲目の夫は健康を崩しており、8人の孫にとってはマーガレットが主な世話係であり、稼ぎ手だ。マーガレットの家庭では、これまでに食事を1日1回に減らしてきた。

SDGs Goal No. 2

これが、「立ち上がるアフリカの女性たち」が活動する地域における女性の多くが直面している現状である。

行動制限によって、この地域にいる140万人の南スーダンからの難民も影響を受けている。彼らには、市場や農場で働く道が閉ざされており、その他の収入減もない。さらに、世界食糧計画(WFP)が資金不足により食糧支援を減らしていることが、状況を悪化させている。難民は食料を月に1度しか受け取れないが、1回で半月分にしかならない。

「立ち上がるアフリカの女性たち」はこれに対応して、難民キャンプと(難民を受け入れている)地域コミュニティーの双方において、最も脆弱で最も食料に困っている人々を支援するパーマガーデン構築計画を急速に強化している。パーマガーデンは、食料の生産を2週間以内に可能にし、以後数年にわたって家族を支えることのできる、すでに実績のある再生可能なアプローチである。

「立ち上がるアフリカの女性たち」の「強化デザイン作物・パーマガーデン」事業は、単に技術を教えるだけではなく、水管理・土壌管理の背景にある原則を共有し、システムをできるだけ生産的・再生的にデザインするような背景理解を育てるためのものである。AWRのプログラムは農業生態学的な観点からの24の評価指標を持っている。

パーマガーデン計画の全体的目標は、多様な栄養源や適切な量の野菜・果物を、年間を通じて入手できるようにすることである。農民はこれを、家屋周辺の小規模なパーマガーデンの設計と構築を通じて行うことになる。

パーマガーデン法は、パーマカルチャー(自然のシステムを利用して生産に活かす設計原則である農業アプローチ)と生物集約的農業(生物多様性を強化する持続可能性のある取り組みによって作物生産を最大化する農業アプローチ)を組み合わせて、高度に生産的な庭と家庭菜園を作り上げるものだ。

雨季・乾季の両方で機能するように設計され、栄養のある作物を生産するために土壌の肥沃性と水管理を改善するような全体的なアプローチが特徴である。この方法は、小規模な土地しか持たない農民がいかにして年間を通じて食料を生産することができるかを証明している。それは、適切な庭の管理と資源運用の背景にある原則を学び、これらの原則を基本に忠実に実践することによってなされる。

このアプローチは、長期的な能力の強化を図りつつも、参加する農民の短期的な食料需要にも応える。農民たちは、家庭菜園の設計を通じて天然資源を管理することを学ぶ。農地の肥沃さと生産性を向上させるために、水を集め、廃棄物を再利用する。

既存の木々を管理し、果実や多目的樹木、生垣、その他のバイオマス植物を植樹することにより、建築資材や病害虫対策や医薬品の原料、そして乾季の栄養源が確保できる。またこれによって、薪集めや野生生物の採取、炭の燃焼などによってますます悪化している環境への負荷を削減できる。

最も脆弱な2000世帯(約1万5000人に相当)に対応するには20万ドルが必要だ。

一つの庭あたりの維持コストはわずか100ドル。これには次のものが含まれる。

・訓練3回分(1回の訓練期間は3日間)

・種と果実の木

・ひと月ごとの訪問と、1年間に及ぶ技術支援

多くの人々が2014年にパーマガーデンを始めている。土地なしの未亡人が4人の孫の面倒を見るのは大変なことだ。彼女のパーマガーデンは家のすぐ横にあり、年間を通じてかなり多くの作物が採れる。育てているのは、パパイヤ、トマト、カボチャ、4種類の葉物野菜、玉ねぎ、ヤム芋、コショウ、オクラ、パッションフルーツ、シトラスである。

15メートル四方の畑で、食べ物は十分に採れる。市場やご近所さんに売れるだけの余分の作物もある。その毎週の収入によって、塩や石けん、学用品といった基本的な品を買うことができる。菜園からの収益を元手に今では、鶏や山羊も飼っている。

メアリーの成功は例外的なものではない。こうした結果は、パーマガーデン事業では普通のことで、それを証明するデータもある。各世帯は、安全に食料と新たな収入を手に入れ、資産投資が可能になり、子どもを学校に通わせたり、医療にお金がかけられるようになる。パーマガーデンは不安定な時を支えてくれる。ただの応急措置ではなく、長期的な解決策を与えてくれるのである。

Map of Uganda

AWRではメアリーの成功を、それを最も必要とする人々に広めるために幅広く支援を求めている。有志の支援が、マーガレットのような女性が今そして将来にわたって家族を助けるのに必要な道具と技術を与えることになる。

新型コロナウィルスの感染拡大のために、ウガンダは事実上閉鎖状態にある。私たちは、対象を絞り込んだ、人々が食べ物を手に入れるのに必要な再生的農業を除いて、一時的に事業を停止している。

私たちのスタッフは、とりわけ難民キャンプにおける新型コロナウィルス対策に向かっている。ウガンダ北部には11カ所のキャンプに140万人の難民がいる。難民キャンプで爆発的感染が起これば、人道的な危機になる。AWRは、パーマガーデン事業以外に、石けんを配布し、手洗い場を提供し、ウィルスの感染拡大を防ぐ情報を拡散している。緊急を要する事態である。(原文へ

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第二次世界大戦終結75周年:大戦の起源を巡る諸議論

連合国による対独戦争終結75周年に際して、多角的な視点から第二次世界大戦の起源を振り返るシリーズの第4弾。英国の著名な歴史家や戦後まもなく米国総省のシンクタンクが分析を加えたレポート等をもとに、戦争に至るまでのナチス政権の経済政策と英独関係を中心とした外交関係の系譜を解説したジョナサン・パワー氏(INPコラムニスト)による視点。歴史家による学問的な研究も例外とは言えないが、特に戦争が関わる歴史認識は当事国の政治的な思惑等による様々な見方がある。そうした異なる見方が少なからず現在の国際関係に影響している観点から、時折、あえて多角的な視点から振り返る記事を取り上げている。(原文へ

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INPS-IDNが加盟する「国連SDGsメディア・コンパクト」、新型コロナ危機の社会経済的影響を20億人超の視聴者・読者に向けて発信

国連SDGsメディア・コンパクトは、「報道機関とエンターテインメント企業の拡大するアライアンスが、新型コロナ感染症(COVID-19)危機の社会経済的影響を20億人超の視聴者・読者に向けて発信している。」と指摘したうえで、メディアパートナーの好例として、生態系と人の健康がいかに交差しているかを報じたIDN(In-Depth News)を挙げている。

【UN Sustainable Development Blog】

2020年5月18日、 持続可能な開発目標(SDGs)に関する報道を充実させ、その達成に向けた行動を活性化させることを目的に、報道機関とエンターテインメント企業のアライアンスとして発足した「SDGメディア・コンパクト」の参加企業が100社に達した。

大手放送局から定評ある活字メディア、通信社(IDN-InDepthNews , Flagship Agency of the International Press Syndicate Groupを含む)やラジオ局、さらには台頭著しいデジタル出版社に至るまで、幅広い企業が参加するSDGメディア・コンパクトは、5大陸の160カ国をカバーし、参加企業の100を大きく上回る媒体を通じて、合計で約20億人にコンテンツを届けている。

Secretary-General Antonio Guterres swears in Ms. Melissa Fleming, Under-Secretary-General for Global Communications.

「科学と連帯、そして私たちに共通のロードマップであるSDGsに基づき、デマに対処するとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機からの持続可能な復興に向けた行動に勢いをつけるうえで、メディアは重要な役割を果たします。」「私たちは、全世界からのSDGメディア・コンパクト参加企業100社が、現代の重大な課題について報道し、より健全で平和な世界に向けた前進の原動力となる決意を示していることを誇りに思います。」と、グローバル・コミュニケーション担当のメリッサ・フレミング国連事務次長は語った。

SDGsは世界のリーダーたちが2015年に採択した世界共通目標で、2030年までに貧困に終止符を打ち、地球を守り、あらゆる人の生活と将来の見通しを改善するよう、全世界に行動を呼びかけている。国連の専門家による発言やデータ、報告書、ストーリーはSDGメディア・コンパクト参加企業と定期的に共有され、各社の編集の独立に干渉することなく、SDGsに関する記事に着想を与えています。コンパクト参加企業はまた、国連の新たな「Verified(ベリファイド/検証済み)」イニシアティブの一環として、デマに対抗し、インターネットや放送電波を科学や解決策、連帯に関するコンテンツで満たすため、 信頼できる正確な素材も受け取ることになっている。

メディアとエンターテインメントの業界で欧州最大の企業Sky Groupにとって、SDGメディア・コンパクトへの参加は、地球規模の大きな課題に取り組むことを意味している。「当社が戦略をSDGsと整合させているのは、私たちの世界をより良くするために欠かせない変革を企業が推進できるよう、SDGsが明確な目的を提示しているからです。」と、Sky GroupのCEOジェレミー・ダロック氏は語った。

SDGs logo
SDGs logo

最近の参加企業の一つShanghai Media Groupは、共通の目標に向けて取り組む地球規模のアライアンスの一員となる目的で、コンパクトに加わった。「グローバル・メディア組織と密接に連携し、人類が共有する未来のコミュニティーを共につくっていけることを真摯に望んでいます。」と、王建軍会長は語った。

また、米国に本社を置くデジタル出版社ATTNの上級ストラテジスト、チャーリー・ゴールデンソン氏は、「国連と連携し、その専門家の声やデータを活用できることは、私たちがストーリーで語る素材や情報を豊富にし、人間の感情に訴えるストーリーが実質的なインパクトを与えることに役立っています。」と語った。

「デマやフェイクニュースが多く飛び交うデジタルの世界では、信頼性が極めて重要です。SDGメディア・コンパクトとの連携と豊富な編集向けコンテンツの共有で、私たちは大きな信頼を獲得できました。COVID-19をはじめ、時事問題に関する自由な情報の流れは、コミュニティーが新型コロナウイルスへの対策をどう改善できるかに関するストーリー作りに役立ちました。」と、カメルーンのラジオ局Ndefcamのマイケム・エマヌエラ・マンジー氏は語った。

既に多くの参加企業がデマに対処し、科学に基づくウイルス対策情報を発信するとともに、さらに幅広い持続可能な開発アジェンダとの関連で、COVID-19の社会経済的影響を伝えるために、不可欠な役割を演じている。

SBS Australiaは、コロナウイルスをめぐる陰謀論が急速に広がっている様子と、その理由について検討した。Sky Newsは、5G無線アンテナとコロナウイルスの関連性をでっち上げた陰謀論の嘘を暴いた。Noticias Positivasは、今回のパンデミックに関連するフェイクニュースの問題について報道し。ATTN は、若者がCOVID-19関連コンテンツの事実と作り話を見分けられるよう、デジタル・リテラシー特集を立ち上げた。そして朝日新聞は、世界保健機関を悪者にしても、世界がウイルスを封じ込めるための役には立たない理由を説明した。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

社会経済分野では、Euronewsがアントニオ・グテーレス国連事務総長とのインタビューで、世界がこの危機からさらに強くなって立ち直るためには、グローバルな連帯が必要であることを訴えた。CGTNは、最貧国の債務救済を求める動画を多く発表した。日本経済新聞は、COVID-19対策に不可欠な要素として、メンタルヘルスのサービスの必要性に関する記事を掲載した。そしてPrensa Latinaは、子どもの福祉を守るよう訴える事務総長の要請を広く伝えている。

環境問題に関し、Jakarta Postは、パンデミック(世界的大流行)からの環境に優しい復興(グリーン・リカバリー)を求める事務総長の声を大きく伝え、SBSは、COVID-19が私たちの経済を「緑化」する可能性について報じ、In Depth Newsは、生態系と人間の健康がどのように絡み合っているのかを説明したほか、Scientific Americanは、コロナ危機のCO2排出量に対する影響と、そのグリーン・リカバリーに対する意味合いについて報じている。

ジェンダーの側面について、毎日新聞は、女性と女児に対するパンデミックの影響に取り組むよう求める国連事務総長の声を、大きく伝えた。DevexはUNウィメンとのインタビューで、危機が女性の仕事、健康、暮らしに与える不当に大きな影響を明らかにした。そしてSkyは、COVID-19対応計画で女性に対する暴力の予防と救済を優先するよう各国政府に強く訴える国連事務総長のメッセージを放映した。

Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
SDGs Media Compact

SDGメディア・コンパクトについて

2018年9月、国連事務総長が31社の創設メンバーとともに立ち上げた「SDGメディア・コンパクト」は、世界中の報道機関とエンターテインメント企業に対し、その資源と創造的才能をSDGs達成のために活用するよう促すことを目的としている。現時点でアフリカ、アジア、米州、オーストラリア、欧州、中東から100社がSDGメディア・コンパクトに加わっている。事実やヒューマンストーリー、解決策を発信することにより、同コンパクトはSDGsに関するアドボカシーと行動、説明責任の強力な原動力となっている。(原文へ

INPS Japan

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|国連|2020年の優先課題(アントニオ・グテーレス国連事務総長)

未来に向けて国連とその創造的進化を強化する(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー)

|第二次世界大戦|大戦勃発に至る経緯についてロシア、西側諸国双方にある無知と誤解

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

今年は、第二次世界大戦における連合軍の対独勝利75周年にあたるが、ロシアと当時の西側同盟国(英国・フランス・米国)において必ずしも一般に認識されていない第二次大戦勃発に至った経緯について、英国を代表する当時の戦略家と歴史家(リデル=ハート、A.J.Pテイラー)の文献をもとに改めて振り返った、ジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。(原文へ

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|新型コロナウィルス|感染リスク予防接種の中断で8000万人の乳児が危機に晒される

【ジュネーブ/ニューヨーク=ジャヤ・ラマチャンドラン】

6月4日にロンドンで開催される「世界ワクチンサミット」に先立ち、世界保健機関(WHO)、国連児童基金(ユニセフ)、そして、貧困国へのワクチン供与を行っている国際機関「GAVIワクチンアライアンス」は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、命を守る予防接種サービスが中断に追い込まれ、富裕国、貧困国を問わず世界の何百万人もの子どもたちがジフテリア、はしか、ポリオなどに罹るリスクに晒されている、と警鐘した。

WHO、ユニセフ、GAVI、サビン・ワクチン・インスティテュートが収集したデータによると、少なくとも68カ国において、定期的な予防接種が行えず、1歳未満の乳児8000万人に影響がでている。

Tedros Adhanom Ghebreyesus, Director General, World Health Organization at the AI for Good Global Summit 2018/ By ITU Pictures from Geneva, Switzerland, CC BY 2.0

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「予防接種は、公衆衛生の歴史で最も効果的かつ基本的な疾病予防の手段の一つです。」「COVID-19の感染拡大により予防接種プログラムが中断してしまえば、はしかのような予防接種で感染を防ぐことができる病気を封じ込めるためにこれまで数十年に亘って積み重ねてきた進歩を台無しにしてしまう恐れがあります。」と語った。

WHOによると、子どもの定期予防接種は、予防接種拡大計画が1970年代に開始されて以来、前例のない世界的規模で中断されている。データが利用可能な129カ国の半数以上(53%)において、中程度から大規模の中断、または2020年3月から4月の間の予防接種サービスの完全な停止が報告されている。

予防接種が中断される理由は様々である。移動制限、情報不足、またはCOVID-19への感染を恐れて、外出に消極的な保護者もいる。また、往来の制限やCOVID-19への対応、防護具がないといった理由から、医療従事者の人手が不足している。

Gaviワクチンアライアンスのセス・バークレー事務局長は、「今日、歴史上かつてないほど、ますます多くの国々で、ワクチンで感染予防が可能な病気からより多くの子どもたちを守れるようになりました。しかしこうした大きな進歩も、COVID-19の感染拡大により、予防接種の実施が危うくなっており、はしかやポリオといった感染症が再び流行するリスクが高まっています。」と語った。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

さらに、ワクチン輸送の遅延が状況を悪化させている。ユニセフは、都市封鎖の措置や、その後の民間航空便の減少と限られたチャーター便の運航のため、計画されていたワクチン供給が大幅に遅れていることを報告した。これを緩和するために、ユニセフは政府、企業、航空業界などに対し、命を守るワクチンのために良心的な価格で貨物スペースを解放するよう求めている。GAVIは先日、輸送に利用できる民間航空便の数が減ったことを考慮し、ワクチンの輸送にかかる費用の増加を補うための事前資金を提供すると、ユニセフと合意した。

ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は、「一つの感染症と闘うために、他の感染症との戦いで得た長期的な進展を犠牲にするわけにはいきません。ポリオ、コレラの感染予防に効果的なワクチンがあります。状況によっては予防接種を一時的に中断する必要があるかもしれませんが、これらの予防接種はできるだけ早く再開しなければなりません。そうでなければ、感染症を一つ防ぐ代わりに別の感染症を流行させてしまう恐れがあるからです。」と、語った。

大規模な予防接種キャンペーンが相次いで一時中断

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

一方、WHOは、多くの国は、COVID-19パンデミックの初期段階から感染リスクを低減させ物理的な距離を保つ必要性から、コレラ、はしか、髄膜炎、ポリオ、破傷風、腸チフス、黄熱病などの感染症における大規模な予防接種キャンペーンを中断した、と発表した。

とりわけ、はしかとポリオの予防接種キャンペーンは大きな影響を受けており、はしかキャンペーンは27カ国で、ポリオキャンペーンは38カ国で中断している。GAVIの支援する低所得国21カ国において少なくとも2400万人が、キャンペーンの延期により、ポリオ、はしか、腸チフス、黄熱病、コレラ、ロタウイルス、HPV(ヒトパピローマウイルス)、髄膜炎および風疹の予防接種を受けられないおそれがある。

WHOは3月下旬、予防接種キャンペーンで多くの人が集まることでCOVID-19の感染を助長すると懸念し、リスク評価と新型コロナウィルスの効果的な感染対策が確立されるまでの間、予防接種を一時中断することを各国に推奨した

その後、WHOは状況を監視し、各国が予防接種キャンペーンを再開する方法と時期を決定するために役立つガイドラインを発行した。ガイドラインでは、各国がCOVID-19感染のダイナミクス、医療体制のキャパシティ、および予防や流行への対応として予防接種キャンペーンを実施することによる公衆衛生上の利益に基づいて、特定のリスク評価を行う必要があると述べている。

このガイドラインに基づき、そしてポリオの感染拡大における懸念の高まりを受けて、世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)は、各国に向けて、とりわけポリオの感染リスクの高い国での予防接種キャンペーンの安全な再開を計画し始めるよう求めている。

このような課題があるにもかかわらず、予防接種を継続するために取り組んでいる国々もある。ウガンダでは、予防接種サービスが他の重要な医療サービスとともに継続できるよう取り組むとともに、アウトリーチ活動のための移動資金を確保している。また、ラオスでは3月の全国封鎖にもかかわらず、特定の場所での定期予防接種は物理的な距離をとる措置を講じた上で継続された。(原文へ

Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine

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|視点|「人種差別・経済的搾取・戦争」という害悪根絶を訴えたキング牧師の呼びかけを実行に移すとき(アリス・スレイター「核時代平和財団」ニューヨーク事務所長)

【ニューヨークIDN=アリス・スレイター】

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は先ごろ軍備や軍縮、国際安全保障の現状について報告した2020年版年鑑を発表した。覇権を競う主要核保有国間で高まる敵意に関する恐ろしいニュースが飛び交う中、SIPRIは軍備管理の暗い見通しについて述べている。核兵器の近代化や新型核兵器の開発、そして宇宙の兵器化が、何の制約や規制もない中で進められている。また、こうした軍備管理を巡る大国間の協力や相互監視の枠組みが急速に後退している中で、地政学的な緊張が高まっている。

Alice Slater/ Nuclear Age Peace Foundation

こうしたことが、100年に1度の疫病が世界的に猛威を振るい、人種差別に対する人々の怒り高まっている中で起こっている。アフリカから自らの意思に反して鎖に繋がれ連れこられた奴隷たちの子孫に対して人種差別と警察による暴力が横行してきた米国のみならず、世界中の人々が、警察による暴力的で人種差別的なやり方に対して抗議している。警察の本来の仕事は、民衆を守ることであり、決して暴力で脅し、傷つけ、殺すことではないのだ!

真実を語り、人種差別がもたらす被害からの回復への道を探るなかで、マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の1967年の演説を想起することが重要だ。ちょうど現在も、権力側は世界の活動家たちに対して、「活動を抑え」、不必要に挑発的だとして「警察の予算凍結」要求をしないよう要請しているが、キング牧師はこの演説の中で、まさにこのような旧態依然とした社会からの決別を訴えた。

キング牧師は、公民権に関して進展があったことを認めながらも、「人種差別、貧困、戦争」という3つの害悪に取り組むよう呼びかけ、権力者層を驚かせた。キング牧師は、公民権の分野で「人種差別の体系を揺るがし」進展がみられたからといって、このことで「表面的で危険な楽観主義に陥るわけにはいかない」と述べた。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

キング牧師は、米国で4000万人が直面していた「貧困の害悪」にも取り組まねばならないと強く訴えた。当時、「メキシコ系、インド系、プエルトリコ系、白人貧困層…そして大部分を占める黒人」が貧困の中にあった。今日、疫病が蔓延する時代にあって、この数カ月で亡くなった犠牲者の中に、黒人やヒスパニック系などの貧困層の数のあまりにも多いという暗い統計をみれば、キング牧師が当時指摘した論点がよく理解できる。

最後にキング牧師は、「戦争の害悪」に言及し、「これら3つの害悪は何らかの点で結びついている。人種差別、経済的搾取、軍事主義の3つの害悪は、人類が今日直面している最大の難題が、戦争の廃絶であることを示している。」と力説した。

今日、私たちは、地球が直面している最大の生存上の脅威は、核戦争あるいは壊滅的な気候変動であることを知っている。母なる地球は私たちに時間的な猶予を与え、キング牧師が警告した3つの害悪にどう立ち向かうかをじっくり考えるよう要求している。

ちょうど私たちが、キング牧師が始めた仕事をやり遂げる、つまり人種隔離の法的撤廃後も横行してきた恐ろしい慣行を終わらせ、最終的に人種差別主義を止めようとしているように、SIPRIが報告した、急速に強化されつつある軍拡競争を止めなくてはならない。戦争を終わらせるために、経済的搾取を含むさらなる害悪に取り組み、軍拡を煽っているのは誰か、 そしてそれはどのように報じられているのかといった、軍拡についての真実を語り始めなくてはならない。

たとえば、トーマス・グラハム元大使による次の問題記事をご覧いただきたい。

ICAN
ICAN

「米国はこの約束(包括的核実験禁止条約を交渉すること)を真剣に受け取った。米国はすでに、1992年には核実験の一時停止を実行に移しており、世界の国々にも同じような行動を取るように促した。その結果、1993年以降は、世界全体が非公式に核実験停止に移行した。翌年、ジュネーブ軍縮会議は地下核実験の禁止を含むCTBTの交渉に入った。」

ここでグラハム大使は、誤って米国を誉めそやしているが、実のところ、ミハイル・ゴルバチョフ時代の1989年に最初に核実験停止を実施したソ連の方が先なのである。この時、詩人オルジャス・スレイメノフ氏が率いたカザフの民衆たちがセミパラチンスク核実験場でデモを行って、大気に放射能を漏れ出させ、周辺住民に障害や突然変異、ガンなどを引き起こした地下核実験に抗議したのである。

Antinuclear testing in Kazakh republic/ E-history.kz

ソ連による核実験停止を受けて、「信頼できないロシアに歩調を合わせて核実験を止めることなどできない」と主張していた米議会も、最終的に米国の実験停止に合意した。「核軍備管理を求める法律家連盟」(LANAC)が、その創設者でニューヨーク市弁護士協会の会長だったエイドリアン・ビル・デウィンド氏の下で私的に募った数百万ドルで地震学者を雇い、ロシア政府の許可を受けてセミパラチンスク核実験場を調査したことを受けたものだった。地震学者をソ連の核実験場に訪問させたことで、議会の反対論を打ち破ったのである。

核実験停止の後、CTBTが交渉され、クリントン大統領が1992年に署名した。しかし、これはコンピューター・シミュレーションによる核実験や臨界前核実験が盛り込まれた「核兵器備蓄性能維持計画」に、年間60億ドルを超える資金を核兵器研究所に供与するという議会との取引を伴うものだった。米国政府は、ネバダ核実験場の地下1000フィートの地点で、高性能火薬を爆発させて生じた衝撃波をプルトニウムに当て、核分裂の連鎖反応で膨大なエネルギーが出る直前に終了するという未臨界実験を継続した。

当時クリントン大統領は、「この実験では核分裂の連鎖反応が起こらないから核実験にはあたらない」と説明していた。 時代は下って2020年、軍備「管理」業界の人々は、核実験ではなく、核「爆発」実験の禁止という言葉のすり替えを始めている。プルトニウムに爆発で生じた衝撃波を当てる臨界前実験が、まるで「爆発」を引き起こさないと言わんばかりである。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

もちろん、ロシアもノバヤゼムリャの核実験場で臨界前核実験を実施し、米国のやり方に続いた。そして、この先進的な実験と実験室での試験こそが、インドがCTBT批准を拒絶し、署名から数か月以内に核実験停止のモラトリアムを破った理由とされている。核兵器の設計・実験を継続し、技術面での競争に後れを取りたくなかったパキスタンがすぐさまこれに倣った。そしてこうした核実験の連鎖は、今も続いている。なるほど、SIPRIの統計が暗いものになるわけだ!

米ロ間の核軍拡競争と宇宙軍拡競争を止めようとするならば、核軍拡競争を駆り立てる米ロ関係と米国の共犯関係を暴かねばならない。おそらく、この3つの害悪に取り組むことによって、私たち自身がキング牧師の夢をかなえ、国連が思い描いた任務を果たし、戦争の惨禍を終わらせることができるだろう! 今日の世界が母なる地球に注意を払い、この殺人的な疫病に対処する一方で、私たちは少なくとも、国連のアントニオ・グテーレス事務総長によるグローバル停戦の呼びかけを促進する必要があろう。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|視点|トランプ・ドクトリンの背景にある人種差別主義と例外主義(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

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|視点|トランプ・ドクトリンの背景にある人種差別主義と例外主義(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

【コペンハーゲンIDN=ジョン・スケールズ・アベリー

最近発表されたある本(無料ダウンロード可)によれば、過度の経済的不平等を除去することで社会はより良く幸福になるという否定しようのない証拠があるという。

歴史を遡れば、「理性の時代」あるいは「啓蒙の時代」は、17世紀から19世紀にかけて世界の理念を支配した思想運動であった。アイザック・ニュートン卿はさまざまな物理現象(リンゴの落ち方も、惑星や彗星の運行)も同じ法則を用いて合理的に説明し、理性が迷信に勝ることを示した。

ディドロの『百科全書』とヴォルテールルソーの著書は、世界全体において、封建時代の終わり、王権神授説の終わり、農奴と奴隷の解放への道を開いた。

英国では、ジョン・ロックが次のように時代の精神を表現した。「人々が理性に従ってともに生活しながら、しかも、彼らの間を裁く権威を備えた共通の上位者を地上にもたない場合、これこそが、まさしく自然状態にほかならない。…それはまた平等な状態でもあり、そこでは権力と支配権はすべて互恵的であって、他人よりも多く持つ者は一人もいない。なぜなら、同じ種、同じ等級の被造物は、分けへだてなく生をうけ、自然の恵みを等しく享受し、同じ能力を行使するからである。すべての者が相互に平等であって、従属や服従はありえないということは何よりも明瞭だからである。」

「しかし、これは自由の状態ではあっても、思いのままに振る舞える状態ではない……自然状態には、これを支配する自然法があり、何人もそれに従わねばならぬ。この法たる理性は、それに聞こうとしさえするならば、すべての人類に、一切は平等かつ独立であるから、何人も他人の生命、健康、自由または財産を傷つけるべきではない、ということを教えるのである。」

ロックの考え方は、アメリカ独立宣言の文言にも反映されている。

「われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。こうした権利を確保するために、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。」

Photo: Woman on the streets of Minneapolis holds #BlackLivesMatter sign. Credit: Breakthrough News
Photo: Woman on the streets of Minneapolis holds #BlackLivesMatter sign. Credit: Breakthrough News

残念ながら、これらの理想は今日の米国において実現されていないし、おそらくこれまでも実現されたことはないだろう。南北戦争を経て奴隷制の時代は終わり、公民権運動の努力はあったものの、今日でも人種差別は広範にみられる。事実、ドナルド・トランプ大統領は、明白に人種差別主義的な公約によって当選している。トランプ大統領は、就任以来、言動共に人種差別的である。

最近では、黒人のジョージ・フロイド氏が警官によって無意味に殺害されたことへの抗議で、米国の多くの都市が揺れている。国は深く分断されている。

人種差別主義、植民地主義、例外主義

諸国やその市民の大多数が、虐待や殺人、虐殺などの考えうる限り最悪の罪を犯しながら、それが高潔かつ望ましいことだと感じることはありうる。それがいかにして可能かということは、英国放送協会(BBC)によるドキュメンタリー「人種差別の歴史3部作()()()」を見れば理解できよう。

この番組は「BBC4」が2007年3月に放映したもので、映像はインターネットでも視聴できる。この目を見開かせるような番組は、人種差別と植民地主義との関係についての洞察を示してくれている。また、人種差別と植民地主義がいかにして米国の例外主義と新植民地主義に結びついているかを見て取ることも可能だろう。

Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.
Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.

このBBCのドキュメンタリーを見ることで、経済的な貪欲と植民地主義的な搾取が、いかに人種差別的な理論によって正当化されてきたかを見ることができる。ドキュメンタリーは、ヨーロッパ人がアメリカの先住民たちとアフリカ人に対して行ってきた信じがたい虐待について描写している。

たとえば、ベルギー国王のレオポルド2世が広大な土地を自らの私有地と主張したコンゴにおいては、村々の女たちは人質に取られ、男たちは森で強制的にゴム採取に従事させられた。人びとはこうした状況下では食べ物を作ることができないため、当然の結果として飢餓が発生した。

レオポルド2世の9万人の私兵には武器と弾薬が支給され、適切に使用するよう命じられていた。犠牲者の手は叩き切られ、弾薬を無駄遣いしていないことを証明するために送り返されたという。人間の手が一種の通貨となり、ゴム採取の割当量が満たされないときは、男であれ女であれ子どもであれ、生きた人間の手が切り落とされた。時には、わずか1日で1000個以上の人間の手が集められた。レオポルド2世治世下において、およそ1000万人のコンゴ人が殺された。実に、この地域の人口の約半数であった。(下の写真は、ゴムの収穫量が少ないとして、兵士によって切り落とされた5歳の娘の手と足を見つめる父親)

寡頭制と戦争

Foot and hand of child dismembered by soldiers, brought to missionaries by dazed father/ Public Domain

今日、世界はおよそ2兆ドル(約215兆円)を毎年軍事支出に費やしている。この想像を絶するほどの多額のお金の流れは、戦争機構を駆動する「悪魔の発電機」である。政治家は、この莫大な額のほんの一部で買収できることで有名だ。こうして民主主義は腐敗する。軍備に浪費されているこのほとんど信じがたい額のお金を建設的に使うことができれば、人類が直面している緊急の課題のほとんどが解決しうることも明白だ。

世界が毎年約2兆ドルを軍備に費やしているということは、非常に多くの人々がそれによって生計を立てているということでもある。戦争は人類に多大な苦しみをもたらす原因であり、全てを破壊する核戦争の脅威の下に私たちが生きていることを理解しているにも関わらず、戦争が続くのはこうした理由からだ。だからこそ、戦争をひとつの機構として語ることが正しいと言える。

軍産複合体の富裕な少数者たちからのお金が、マスメディアのプロパガンダと政治家の票を買うために使われる。プロパガンダの量に圧倒された市民たちは、恥ずかしげもなく膨れ上がった軍事予算を政治家たちが支持するのを許し、少数者たちがさらに富み、カネの流れの円環が続くのである。行き過ぎた経済的不平等と、民主主義的機構の喪失が、戦争の問題の根源にある。

新型コロナウィルス感染拡大の最大の被害者である貧困層

貧困層が新型コロナウィルス感染症による被害を最も酷く受けている。富裕層は自らを快適に隔離することができるが、貯蓄のない労働者は危険な労働環境に身を晒すか、収入ゼロによる飢餓に直面するかを選択するしかない。ジェイク・ジョンソン氏は「グロテスク」(『コモン・ドリームズ』5月28日掲載)と題した寄稿で「4100万人が新型コロナウィルス感染症の影響で失業する中、米国の大金持ちたちは5000億ドルの富を積み増した。」と書いている。

「多くの人々が苦難や困難、生命の喪失に直面する中、億万長者の富は同時に増え続けている。これは、米国社会の抱える深い不平等をグロテスクに示したものだ。」

「木曜日(6月4日)に米労働省が発表した統計によると、先週、210万人が新たに失業届を提出し、新型コロナウィルスの感染拡大による大規模レイオフが続く中、実に4070万人もの米国民がこの10週間で職を失ったことになる。」

「『政策研究所』の新たな分析によれば、同じ10週間の間に、米国の億万長者の富の合計は5000億ドルも増え、計3.4兆ドルとなった。」

スカンジナビアにおける平等・幸福・再生可能エネルギー

グリーン・ニューディールならば、気候変動と過度な経済的不平等の問題に同時に対処することができる。この関連で、ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・デンマーク・アイスランドといったスカンジナビア諸国の社会・経済システムを見ることが有益だ。

UN Photo
UN Photo

これらの国々では、貧富の差がかなりの程度縮められた。これらの国々では、貧困は根絶されたとすらいってほぼ間違いない。同時に、スカンジナビア諸国には、気候変動に対応する強力な政策もある。従って、スカンジナビアの成功は、グリーン・ニューディールは実行不可能だと主張する人々への反論に使える。

スカンジナビア諸国は「世界幸福指数」や「人間開発指数」でもかなりの上位にランクされ、平等がもたらす利益を証明している。

幸福で持続可能な世界を実現するために、国家の内部においても、国家間においても、過度な経済的不平等を早急に減らさなくてはならないのである。(原文へ

※著者のジョン・スケールズ・アベリー(1933年、米国人の子としてレバノンにて出生)は、量子化学、熱力学、進化、科学史の分野において著作を残してきた理論化学者。1990年初頭以来、世界平和を目指す活動家。この間、「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」で活動してきた。

INPS Japan

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