世界では全ての人類に十分な食料が生産されているにも関わらず、慢性的な貧困や自然災害、先進国におけるフードロス等により、食料を満足に買えない(Food Insecure)状況に置かれている人が、世界で20億人にのぼっている現状を解説した記事。(原文へ)
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【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】
米国の「国際海洋法条約」未加盟問題に焦点を当てたジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。米国は当初、自国の海軍の機動性を確保するための航行の自由と、資源獲得競争における自国産業の自由を最大限に確保する観点から、海洋法秩序の構築に積極的に関与したが、レーガン政権時に海底資源開発を巡る取り決めが自国産業に不利であるとして脱退した(以来、米歴代政権による条約加盟を求める動きを上院がブロックしてきた)。その後国際海洋法は、米国未加盟のまま、168カ国・地域と欧州連合が加盟して運用に漕ぎつけ、別名「海の憲法」とも言われる存在になった。バイデン政権が誕生しても、米国は引き続き、南シナ海で国際海洋法を無視して岩礁の軍事要塞化を進める中国(条約加盟国)に対して、同法に基づく権利行使として「自由の航行作戦」を継続するとみられている。著者は、軍事的威嚇ではなく、平和的に中国を国際海洋法に従わせる手段として、米国が同条約に早期に加盟することが重要と指摘している。(原文へ)FBポスト
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=シーザー・ジャラミロ 】
2014年2月14日、核兵器の人道的影響に関する第2回国際会議が終了し、フアン・マヌエル・ゴメス・ロブレド議長(当時のメキシコ外務次官)は、閉会の辞において、会場にみなぎる空気を力強い言葉で表現した。核兵器廃絶に向けた国際努力において、この会議は「後戻りできない分岐点」となったと。彼の楽観的な結びの言葉は、拍手喝采を浴びた。(原文へ 日・英)
メキシコ政府が沿岸のナジャリット州で開催したこの会議は、核兵器の使用がもたらす破滅的な結果を特に重点的に取り上げた3回の会議の2回目に当たる。第1回と第3回は、それぞれノルウェー政府とオーストリア政府が開催した。一連の会議でまとまった重要な認識は、国際法のもとで、他のすべての種類の大量破壊兵器は明示的に禁止されているにもかかわらず、最も破壊的な核兵器だけが禁止されていないという異常な状況を是正するには、法的禁止が必要だということである。
ゴメス・ロブレド議長がナジャリット会議で述べたように、「これまで、兵器が非合法化された後に、それらの兵器が廃絶されてきたことを考える必要がある。我々は、これが核兵器なき世界を実現する道だと考える」。あらゆる困難を乗り越え、また、核兵器保有国やその同盟国による真っ向からの反対にもかかわらず、その道は現にたどられている。ナジャリット会議から3年半近くを経た2017年7月17日、ニューヨークの国連本部にて核兵器禁止条約が122カ国の賛成により採択され、そのプロセスと結果の両方にラテンアメリカ諸国が影響を及ぼした。
メキシコがTPNWの歴史的採択をもたらした土台作りに決定的な役割を果たしただけでなく、ラテンアメリカのすべての国が交渉に参加し、同条約の採択に賛成票を投じた。さらに、条約交渉会議はコスタリカのエレイン・ホワイト・ゴメス軍縮大使が議長を務めた。コスタリカは、TPNWを最も強力に支持する国の一つであり続けている。
より最近の2020年10月24日、ホンジュラスがTPNWを批准した50番目の加盟国となり、核軍縮の歴史に足跡を残した。ホンジュラスが批准書を国連に提出したことをもって、90日後の条約発効に向けたプロセスが開始された。2021年1月22日、TPNWは正式に国際法の一部となり、ラテンアメリカ諸国の不滅の足跡を残すものとなる。
TPNWに最初に加盟した50カ国のうち、ラテンアメリカ諸国の数は、ホンジュラスの批准によって12カ国に達した。他の11カ国は、パラグアイ、メキシコ、キューバ、ベネズエラ、コスタリカ、ニカラグア、ウルグアイ、エルサルバドル、パナマ、ボリビア、エクアドルである。このほかに、グアテマラ、チリ、ドミニカ共和国が署名を済ませ、批准に向けた国内の法整備を進めている。
念のために言うと、TPNWに対するラテンアメリカ諸国の強力な支持は、ほとんど驚くべきことではない。それはむしろ当然のステップであり、それ以前の条約に基づく核兵器廃棄の取り組みと完全に一致するものである。
ラテンアメリカ地域の国々はすでに、ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約、通称トラテロルコ条約に加盟している。ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止機関(OPANAL)の指揮の下、この条約は地域を非核兵器地帯(NWFZ)として確立した。これには、核兵器の保有、移譲、使用の禁止、ならびに核物質の使用を平和目的に限定する義務が含まれる。
1967年に署名開放されたトラテロルコ条約は、ラテンアメリカ地域の長期にわたる核廃絶の取り組みの説得力ある証となっている。同条約は、ほぼ普遍化している核不拡散条約(NPT)よりも前から存在しており、地域のすべての国がNPTにも加盟している。ラテンアメリカ諸国が決意をもって核軍縮に取り組んできたことは、核軍縮が共通の国際的責任であり、大小を問わずすべての国がこの大事業に積極的な貢献を行うことができるという事実を如実に示している。
核兵器は廃絶しなければならないし、廃絶することができるというラテンアメリカ諸国の強い信念は、国際関係に対するナイーブな、あるいは粗野な理解に基づくものとは思われない。核兵器保有国とその同盟国が、国家安全保障ドクトリンおよび戦略において、核兵器を明確に位置付けていることはきわめて明白である。しかし、核兵器保有の利点が認識されているとしても、それは誤った主張に基づくものであり、いかなる場合も、核兵器が人類文明そのものにもたらす脅威のほうがそれをはるかに上回るということは、繰り返し、説得力をもって論証されている。
近年、核兵器の人道的影響が改めて注目を集めており、それがラテンアメリカ諸国の核軍縮努力への関与に重要な役割を果たしている。また、2017年の核兵器禁止条約採択にも重要な役割を果たしている。また、多国間の軍備管理・軍縮プロセスを形成する伝統的な力の属性に変化が起きていることを示している。これは、軍事力や経済力が突如として的外れになるという意味ではない。しかし、軍縮の人道的必然性は、ラテンアメリカ諸国にとって有効な触媒として、また結集点としての役割を果たし得る。
TPNWは、NPTが核廃絶を実現できないといった、国際的な核軍縮・不拡散制度における多くの失敗や不足を踏まえたものである。NPTは、非核兵器保有国が核兵器を獲得することを防ぎ、核兵器保有国にそれらを廃絶させることを目的としていたが、核兵器保有国は、彼らの条約義務だけでなく、世界中に沸き起こる核兵器廃絶への支持に抵抗し、回避し、あるいは無視している。しかし、過去半世紀にわたる核廃絶努力の歴史が何らかの兆候を示すのであれば、ラテンアメリカ諸国は懸命の努力を決してやめることはない。
シーザー・ジャラミロは、カナダに本拠を置くNGOプロジェクト・プラウシェアーズ事務局長、SEHLAC(ラテンアメリカ・カリブ地域における人間の安全保障ネットワーク/Network on Human Security in Latin America and the Caribbean)会員、そして、核兵器廃絶国際キャンペーンのパートナーを務めている。また、核兵器の人道的影響に関する多国間会議やTPNW交渉会議に参加した。
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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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【シンガポールIDN=ジャヤスリ・プリヤラル】
人類は、目に見えない敵と闘う「いばらの道」を歩んでいる。新型コロナウィルス感染症の世界的大流行(パンデミック)が猛威を振るう中、多くの国々が、自国の状況をまるで戦争のようだと感じている。こうした中、パンデミックと闘うヒーローも、まさに戦場の最前線に立たされている。
こうしたヒーローたちの職業は、罹患患者を治療する医療従事者をはじめ、治安、運輸、郵便、金融、小売関係者など実に多岐にわたり、彼らはコミュニティーを機能させるために、病院や遺体安置所、墓場などで日夜必要不可欠なサービスを提供している。
しかし、自身や家族への感染リスクに直面しながら激務をこなしている医療従事者らの貢献は、しばしば過小評価されている。残念なことに、こうした無名のヒーローたちに与えられている労働環境は、社会ピラミッドの底辺にあり、他の人々が享受している基本的な人権さえ満たされていない。
世界で4470万人が新型コロナ感染症に罹患し、117万人が死亡している今日、事態はおおよそ制御困難な状況に陥っている。パンデミックの状況を制御することが、主要な指導者たちに求められていることだ。しかし多くの国では、それどころか、感染拡大が状況を支配してしまっているようだ。
困難な状況に対処するために、米国の退役軍人ジョージ・S・パットン将軍の言葉を引用しよう。パットン将軍は、「未知のものに備え、過去の人々が予見・予測不可能なものにいかに対処してきたかに学べ。」と述べている。現状で見えてくるものは、多くの政治指導者らが、「既知の未知」と「未知の未知」の領域を混同し、自分の都合のために喜んで科学や医学的な助言を無視している事態だ。多くの国々で、過去の経験に学ぶことはもとより、状況を抑え、危機を乗り越えるいかなるヒントも戦略的計画もないままに無責任にリーダーシップを振るう様子が見られる。
1918年から19年にかけて、今回と同じようなパンデミックが世界で猛威を振るった。H1N1インフルエンザが引き起こした通称「スペインかぜ」で、極めて致死率が高い(死者数5000万人~1億人)恐るべきパンデミックだった。公正を期して言うならば、このインフルエンザはスペインを発祥とするものではない。当時の世界人口の3分の1にあたる約5億人がこのインフルエンザに罹患した。欧州の列強諸国が帝国主義的な支配を巡って争った第一次世界大戦が世界に拡大する中で、このインフルエンザは各地に広まった。当時の科学はそれほど進歩しておらず、病原体がバクテリアであれウィルスであれ隔離することができなかった。
当時でさえ、インフルエンザは中国が起源だとする陰謀論があった。実際は、他の地域に比べると、パンデミックや、それによる死亡は中国ではほとんどなかったのである。中国各地での記録が入手困難であったことから、そうした統計は正確でないと考える者もいる。中国で当時感染が広がらなかった理由として考えられるのが、中国伝統医療の存在である。土着の治療方法が病気の拡大に対抗するために利用される伝統がこの地にはあった。
中国の湖南省武漢で新型コロナウィルス感染症の制御に成功した西洋医学の医師たちは、中国伝統医療の担い手による貢献が高かったことを強調している。
したがって、パンデミックを抑制する上で中国伝統医療にどんな影響力があるのか、どういう意義があるのかについて検討することは有益だろう。その起源は3000年前にさかのぼる。中国伝統医療の担い手たちは、伝統的な薬草の煎じ薬で患者を治療し、患者の症状を克明に観察した記録を代々継承してきた。
13世紀に中国を訪れたイタリア人探検家のマルコ・ポーロは、元王朝の皇帝の従者らが、皇帝が食事をする際には、絹の布で口と鼻を覆わなければならなかったことを記録している。中国の医療科学者である伍連徳氏は、清王朝(1644~1911)末期に中国東北部で発生した疫病対策として2層のガーゼから成る「伍マスク」を発明した。様々な国の専門家らが、入手が容易な材料で安価で製造でき、目的にかなうこのマスクを称賛した。
依然として多くの人々が、新型コロナウィルス感染症の起源解明に取り組んでいるが、歴史的記録から一つ確かなことは、私たちが現在使用しているマスクの起源は中国(=伍マスク)にあるということだ。したがって、中国に疑念を抱く人々が、たとえマスクが中国製でなくても、健康を守るために(中国起源のマスクで)口や鼻を覆う行為に抵抗を感じていたのは明らかだ。
筆者には中国伝統医療に関する基本的な知識がある。中国伝統医療の病因論においては、病気とその原因を把握するうえで適用される8つのカテゴリーと原則がある。症状と症候群が医学的に検証され、陰、陽、外、内、冷、熱、過剰、不足の不均衡の観点から診断される。そのため、中国伝統医療では、今日私たちが知っているようなバクテリアとかウィルスといった病原体を把握することはなかった。中国伝統医療で、新型コロナウィルス感染症のようなパンデミックが外部の病原体によって引き起こされたとみなされているのはそのためである。
これらの外部の病原体は、皮膚や鼻や口の粘膜を通じて人体に入り込んでくる。鼻は肺への入り口であり、口は脾臓への入り口、舌は心臓への入り口である。病気の拡大を予防するためにマスクが使われた理由は、中国伝統医療に従って、病原体が風によって外部から運ばれてくるという見方が採られたことによる。従って、マスクをすることによって、すでに感染していたとしても病原体の拡散を防ぎ、他人から伝染させられることも予防できるのである。
マスクをするということは、責任ある市民としてこうした価値観を尊重する日本や台湾などの東アジア文化圏ではとても一般的な習慣となっている。
中国伝統医療で用いられる治療法と(スリランカの伝統医術である)アーユルヴェーダやヘラウェダカムの間には多くの共通点がある。外部から風に乗って病原体が侵入してきた際、治療法は主に免疫の強化と、身体から病原体を追い出すことに焦点を当てている点である。
治療に使われる芳香性ハーブの多くには、身体から病原体を追い出し、(中国伝統医療ではある種の内部的なエネルギーとされる)「気」を充実させ、血行を促す作用がある。
スリランカや中国の伝統医療で使われているハーブの材料には多くの類似点があるが、その効能はさまざまだ。中国伝統医療は、これらの原則とは別に、さまざまな疾病を引き起こすパターンを認識するために、感情的な要素や気候条件などを考慮に入れている。
新型コロナウィルス感染症のパンデミックの到来で、SNS上では、こうした議論の正しさを確かめるように、免疫を強化し心身の幸福感を高めることの重要性を指摘する書き込みが増えている。たしかにこれらは意味のあることだが、最も重要なことはソーシャル・ディスタンスを保ち、マスクをすることだ。
パンデミックを抑えてきた方法と中国伝統医療の原則に関する歴史的事実は、新型コロナウィルス感染症対策が、中国以外の国々で失敗した事例を説明する際に有効だ。中国の場合、その権威主義的な統治スタイルと、国内各地を断固都市封鎖(ロックダウン)する習近平国家主席の指導により、ウィルスの拡大防止と状況を収拾することに成功した。また、中国の一般市民が規律を守って指導に従った背景には、中国社会に根付いた文化的な側面や信条が作用したものと考えられる。
この点を明らかにするために、改めてジョージ・S・パットン将軍の言葉を引用しておきたい。「(部下に)どうやるかを教えるな。何をするかを教えろ。そうすれば思いがけない工夫をしてくれるものだ。」こうしたやり方が、中国では機能したが、他の国々ではうまくいかなかったのではないか。
新型コロナウィルス感染症対策に失敗している国々では、中国の場合と異なり、民衆は何をなすべきかについて明確なメッセージを受け取っていない。優先順位はバラバラで、不明確なメッセージが民衆を混乱に陥れている。今日、一部の民主主義国の指導者らは、選挙で民衆のナショナリズムを煽り、その人気に乗じて権力の座に就いている。こうしたポピュリスト政治家らは、選挙で勝つための情報操作が巧みだ。しかし、何をなすべきかについて人々にメッセージを発することは不得手であり、過去に予見・予測不可能な事態にうまく対処した先人の経験から学ぶことはなかった。さらに、科学や専門医からの助言もあえて無視した。こうして、新型コロナウィルス感染症の問題を通じて、多くの政治家の指導力が試されることになった。
少なくともこれからは、こうした指導者らは、過去に類似した状況下で効果的に対処した解決法に難癖をつけるのではなく、問題の解決策を探る必要がある。この記事は、有権者である読者が、パンデミック対策に失敗している指導者たちに影響力を行使し、正しい道に導く参考とするために、史実や問題、別のオプションを提示したものである。(原文へ)
※著者は、世界150ヵ国・900の労働組合・2,000万人の技能労働者・サービス労働者で構成される国際組織「ユニ・グローバル・ユニオン」アジア太平洋支部(シンガポール)の財務部長。
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=ポール・マイヤー】
多くのNATO加盟国にとって、この数年間は、核政策の面で困難な時期だった。ジレンマの元は、核兵器禁止条約(TPNW)の登場である。この条約は、いわばホブソンの選択をNATO加盟国に突き付けた。2017年7月に採択された同条約は、(発効要件である50カ国の批准を(2020年)10月24日に達成したことを受けて)2021年1月22日に発効する。世界の核ガバナンスにおいて初めて、TPNWは、核兵器の使用または使用の威嚇に加えて、その保有を非合法化した。また、条約締約国の領内に核兵器や関連インフラを受け入れること、あるいは条約に違反するいかなる「支援」を提供することも、具体的に禁止している。(原文へ 日・英)
新条約のこれらの規定は、核不拡散条約(NPT)の原初的な多国間核ガバナンス合意を大きく超えるものである。1970年に発効したNPTは、190カ国が加盟し、現存する国際安全保障合意の中で最も広く支持されているものの一つである。NPTは、3本柱からなる「一括交渉」を明文化したものである。すなわち、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5核兵器国(NWS)は、核軍縮を実現するための交渉に全力を傾ける。非核兵器保有国(NNWS)は、核兵器の製造や取得をしないことを誓う。そして、全締約国が原子力の平和利用を支持する。NPT第6条に定める核軍縮の約束は、かなり一般的な言葉で表現されており(「核軍備競争の早期の停止および核軍備縮小のための効果的な措置、……について、誠実に交渉を行う」)、そのため、NWSは自国がこの義務を尊重していると主張することが可能になっている。その一方で、多くのNNWSは、この部分における本格的な進捗の証拠をほとんど見いだせていない。さらに、NPTは核兵器の保有を認めており(撤廃に向けた途上において。しかし、NWSは折に触れ、同条約は彼らの永続的な核兵器保有を正当化するものだと示唆している)、また、核兵器の使用については言及していない。NPTのこのような欠落があるからこそ、禁止条約の支持者は、国際法上の核兵器の地位と包括的な禁止条約(化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約など)の対象である大量破壊兵器に適用される地位に差をつける“法的ギャップ”を埋めることを主張しているのである。
TPNWは、明示的にNPTを支持しており、一部のNWSの主張にもかかわらず、NPTと完全に両立可能である(第6条は目標を規定しているが、それを達成するための手段は規定していない)。しかし、TPNWの登場は、核軍縮を目標として掲げる人々に、より高度な法的基準を盛り込んだ合意を紹介するものとなった。また、そのようなNATO加盟国や同盟を結ぶNNWSにとって、TPNWは特別なジレンマをもたらすものとなった。TPNWは核兵器の使用の威嚇を禁止しているため、ある種の不特定の不測事態において核兵器を使用すると威嚇する核抑止政策とは相いれないのである。さらに問題となるのは、NATOの5カ国のNNWS(ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコ)が米国の核兵器を領土内に受け入れているが、TPNWはそのような「核配備」を禁止しているという点である。また、オーストラリア、カナダ、日本、ドイツ、オランダなど、長年にわたり核軍縮を強力に提唱してきた“核の傘下”国は、いっそう居心地の悪い思いをしている。TPNWを前にして、これらの国は、長年の核軍縮支持に基づいて行動し、TPNWに署名するか、またはNATOの核抑止政策に忠実であり続けるかという選択を迫られている。これまでのところ、NATOのNNWSのすべてが後者の立場を取っている。
とはいえ、NATOの核抑止政策は、変更される可能性がある政策であることを念頭に置くことが重要である。1949年のNATO創設条約のどこにも核兵器に関する言及はなく、NATO加盟国が核抑止を支持しなければならない法的要件はない。事実、NATOは多様な核政策を経てきており、個別の加盟国はさまざまな場面において、同盟の核政策と自国の姿勢が異なる点を共同声明の脚注によって表明してきた。
同盟の核政策は、2010年に最新版が発行された包括的政策文書「Strategic Concept(戦略概念)」と、隔年で開催されるNATO首脳会議後に発表される共同声明に、きわめて厳然と記載されている。核問題に関するNATOの表明には、いくぶん矛盾した点が見受けられる。一方、NATOは、加盟30カ国すべてがNPTに加盟していることを強調しており、「核不拡散条約の完全実施に向けた加盟国の強い決意……」を定期的に言明している。オバマ大統領が2009年に行った名高いプラハ演説に呼応して、NATOも、「核兵器のない世界を実現する条件を創出する」ために尽力すると誓い、NPTが掲げるこの長期目標への支持を示した。とはいえ、その条件がどのようなものか、あるいはその創出にどのように貢献するつもりかについては、具体的な表明は行っていない。
一方、NATOは今なお、その防衛力を通常戦力と核戦力の組み合わせに依存しており、「戦略概念」において「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続ける」と宣言している。この表明から導かれる推論、すなわち“NATOが核同盟であり続ける限り、核兵器は存在し続ける”という点を、加盟国は懸念していないようである。
NATOの核政策の“両陣営に通じる”という性格に加盟国は満足していたかもしれないが、TPNWが登場して、核抑止を真っ向から攻撃し核兵器を不道徳かつ違法な兵器と表現したことから反応を余儀なくされた。2017年9月、NATOはTPNWを拒絶する声明を発表し、条約は「分断をもたらし」、「NPTを弱体化させ」、「国際安全保障環境がますます厳しくなっているという現実を無視している」と批判した。これらの異議はいずれも効果的に反論されうるものだが、NATO加盟国にとっては、この立場に加勢するほうが好都合なのである。というのも、懐疑的な国民に向けてTPNWの拒絶を正当化するために、同盟の結束の必要性を引き合いに出すことができるからである。
核に依存する同盟国にとって、このような立場が時を経てどの程度持続可能であるかは今後を見なければ分からない。NNWSの核軍縮を熱心に擁護してきた市民団体らは、TPNWに対して敵対的な姿勢はとれないという圧力を受けるだろう。例えば、パグウォッシュ会議カナダ支部は政府に対し、TPNWに署名して条約の目標への支援を示すとともにカナダの条約加盟を可能にする条件を整備するよう要請した。そのためには、NATO内での外交活動によって、核政策を修正してTPNWと両立させる、あるいはそのような修正を実現できない場合は、国レベルで核抑止を否認する必要がある。NNWS同盟国は、自国が困難な状況に陥っていることを認識しているが、TPNWに関して歴史(および道徳)の正しい側に回るための時間と選択肢は、まだある。
ポール・マイヤーは、元カナダ軍縮大使であり、現在はバンクーバーのサイモン・フレーザー大学で国際関係学の非常勤教授および国際安全保障の研究員を務めている。また、パグウォッシュ会議カナダ支部の現支部長を務めるほか、ICT4Peaceの上級顧問、OuterSpaceInstituteの創設メンバーでもある。
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【チャノンIDN=カリンガ・セネビラトネ】
西側諸国でヒッピー運動が盛り上がっていた1976年、風光明媚なこの昔ながらの農村は、伐採業者と環境活動家らとの激しい闘いの場であった。環境活動家たちは、近くにあるテラニア川沿いの熱帯雨林の伐採を阻止するために、オーストラリア全土から集まっていたのだった。これがこの国での初めての活動家らによる直接行動と言えるものであった。
環境活動家たちの多くは安価な農地を手に入れてその場に住みつく決意をした。「土地へ帰れ」という理念をもったコミュニティを立ち上げたのである。
「70年代に夫とこの場に移り住み、貧しい自給自足の生活をしてきました。ここに住み始めてまもなく、テラニア川周辺の熱帯雨林が間もなく伐採されると知りました。私たちは、その森を皮切りに長年にわたって熱帯雨林を守るために闘ってきました。」と語るのは、熱帯雨林植物学者であるナン・ニコルソン氏である。彼女はチャノンに40年以上も住み、熱帯雨林の植物やハーブに関する著作も多くてがけている。
職人や木工業者など、ニコルソン氏のような新たにこの村に移り住んできた者たちは、小さなホールで伝統的な村市場を始めた。ここでは物々交換がなされ、厳格な「作るか、焼くか、あるいは育てるか」といった理念が支配的だった。44年経っても依然として市場は盛んで、200以上の露店が軒を連ね、毎月2000~3000人が訪れている。
「この市場は私たち地元文化の一部です。人々はここで雇用の機会を得たり、芸術的な作品を含め、自分たちの作ったものを売ったりすることができます。」と、市場の管理組合のクリス・マクファデン事務局長はIDNの取材に対して語った。
毎月第2日曜日に開かれるチャノン手工芸市場は、100以上の地域のグループ、零細業者、個人を支えている。市場は40年前に環境活動家たちのミーティングの場として生まれ、今日に到っても同様の役割を果たしている。事実、IDNの取材を受けていたニコルソン氏は、近くで建設が予定されているダムに反対する新たな環境キャンペーンを広めるためのブースの番をしていたのだった。
市場は人気を博し、手狭になったチャノン・ホールから、屋外の市場で買い物が楽しめるコロネーション公園へと移転した。9人のボランティアと多くの有償スタッフから成る管理組合が運営している。
マクファデン事務局長は、「この土地は地元の地主から村に寄付されたもので、現在はクリケット場と市民の憩いの場として地元自治体が管理しています。私たち(月に1回開催する)市場の管理組合は行政とは別の非営利団体で、出展者から会費を募り、経費を差し引いた後、そこからスタッフの賃金を支払っています。先日、会費から2つ目のトイレを設置しました。」と語った。
チャノン市場は創設以来拡大を続けてきたが、その理念に変わりはなく、オーストラリアで最も活発な市場との評判を受けてきた。露店の多くで、地元農家が作った作物や植物、地元住民による美術作品や手工芸品が売られているほか、地域住民が出店した多くの屋台が軒を連ねている。中には、インドやタイからの服や、ニュージーランドのマオリ族やペルーで作られた手工芸品などの輸入品も売られている。
輸入品がどうして「作るか、焼くか、あるいは育てるか」の理念に合致するのかという点についてマクファデン事務局長は、「この場所に移転して、市場がどんどん大きくなってきたとき、人々は様々なものを売るようになりました。それでも、依然としてここは美術品や手工芸品の市場です。自分が作るものを売る。一部には輸入品もありますが、それを推奨しているわけではありません。」と答えた。
素晴らしい美術品や商品に加えて、メインステージでは「今日のバンド」による演奏も楽しむことができるし、公園のあちこちでは即席の音楽演奏が行われている。市場の最後までいれば、様々な楽器に合わせて参加者が踊る「ドラムダンス」を経験することも出来る。
しかし、今月はこうしたアトラクションを楽しむことはできない。新型コロナウィルス感染症の蔓延に伴う封鎖措置とソーシャル・ディスタンス規制で当面こうした娯楽活動が禁止されたからだ。
チャノン市場は、北部のニューサウスウェールズ海岸沿いのリゾート地区を含む「ノーザン・リバー」として知られる地域全体で日曜市場が拡がるきっかけを作った。こうした市場の多くは、日曜あるいは土曜に開催されている。そこで、ひと月を通じて生計を立てることができるように、こうした市場から市場を渡り歩く出店業者もいる。
そうした出店者の一人がチャノンから車で2時間のウルンガ村に住むアドリアネ・メルニツクさんである。彼女は、ガラス窓に張るとステンドグラスのような効果が得られる色とりどりのプラスチックを「サンライターズ」という名前を付けて売っている。自分のテントをカラフルに飾っているその商品を指さしながら、「私はアーティストでこれは全部手作りです。ここに来たのは4回目。ノーザン・リバーの市場はあちこちで出店しています。」と語った。メルニツクさんはまた、彼女の製品は無害な材料でできており、再利用が可能だ、と指摘した。
色のついた様々な石を切って宝石やネックレスを作っている地元のあるアーティストは、自分の商品を売るためにこの市場を利用している。「私は、天然の岩石を買って、それをカットして磨いてこれを作っています。車に住んでいるので家賃はかかりません。これを市場で売って生計を立てています。」サムと名乗ったこのアーティストは、ネックレスを50~150ドルの価格で売っている。
ジョン・アルクラン氏は、かつてバナナ生産者だったシーク系オーストラリア人の三世である。インド料理屋台の付いた車をウールグルガの自宅から3時間かけて運転してきて、バターチキンカレーやダールカレーに米やナンなどを付けて売っている。「ここは素晴らしい環境です。雰囲気がよく、食べ物もよく売れます。料理するものなら何でも受け入れられますし、人々の外見もいろいろです。」と、アルクラン氏は語った。
政府は、この市場が地域の人びとや文化にもたらした貢献について認識しており、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う封鎖措置で働けなくなった人々に賃金を支払う「ジョブ・キーパー」の仕組みにこの市場のスタッフを取り込んでいる。
「市場を閉鎖した時は、スタッフたちがレールやトイレの壁を塗るなど、施設の向上に協力してくれました。また、スタッフは地元の業者のためにオンラインマーケットの開発を始めましたが、商品の配送料が高くうまくいっていません。」とマクファデン事務局長は語った。
「ブリスベンのような遠い地域からも、毎月(11月に)多くの人々がやってきます。しかし、現在は出店業者をチャノンから100キロ以内の業者に制限しようとしています。できるだけ、地元の農民やアーティストに対して、直接商品を売るチャンスを与えたいからです。」と、マクファデン事務局長は語った。(原文へ)
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国連開発計画、新型コロナウィルス感染症の影響から最貧層を保護するため臨時ベーシック・インカム(最低所得保障)の導入を訴える
この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=ジョリーン・プレトリウス】
2021年1月に発効する核兵器禁止条約(TPNW)は、多くの活動を非合法化することにより核兵器を禁止するものである。これには、核兵器の保有、開発、実験、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇、奨励、配備などがある。なぜ核兵器の禁止が、核兵器に対する人々の考え方に心理的転換をもたらす歴史上重要な転換点であるかを理解するためには、何かを非合法化することが意味するものを理解する必要がある。(原文へ 日・英)
ある活動を非合法化するということは、それがコミュニティーにより受け入れられないものと見なされており、そのため、それを非合法化、非正当化することによりその活動を終わらせる(あるいは廃止する)法律が作られるということを意味する。それは、誰もその活動に二度と従事しないということを意味するわけではないが、従事すれば、彼らは法律の間違った側(あるいは法律の“外側”)にいるということになる。誰かが非合法化された場合、彼/彼女はもはや、コミュニティーの法律によって与えられる保護や便益を受けられなくなる。核兵器禁止の力はそこにある。核兵器(その延長でいえば、核戦争や原子力事故)を可能にする活動に従事する、あるいは従事することを考えるインセンティブが、これによって変化する。国の指導者だけでなく、核兵器に関する意思決定、支援、運用の過程に関与する個人の心理に影響を及ぼす。これには、核科学者、研究者、政治家、ビジネス関係者、技術者、軍司令官、その他、核兵器活動を支援する人々が含まれる。
第一に、ほとんどの個人、さらには個人を取り巻くコミュニティーである国家でさえ、法律の正しい側にいたい、道徳的に受け入れられることをしたいと望む。核兵器禁止が立脚する人道的アプローチの道徳的説得力は、核兵器を可能にする活動、そしてそのような活動に従事する人々に公式な非難を付す根拠となる。しかし、TPNWの影響は道徳的説得力にとどまらず、核兵器を可能にする活動に参加する人々に具体的な影響を及ぼす。非合法化された活動の結果として取得したものは、将来、押収され、破壊され、あるいは喪失する恐れがある。核兵器の製造や近代化のために巨額の投資をする国家は、国際社会から糾弾され、制裁を受け、最終的には核兵器を放棄せざるを得なくなるかもしれない。核兵器技術に投資する企業は、違法かつ不道徳な活動から利益を得ていることにより訴訟を起こされるかもしれない。核兵器技術者は、選んだキャリアと評判を失うかもしれない。
国家や個人へのインセンティブを変化させるTPNWの力は、物質的および評判上の傷がつくリスクだけにとどまらない。関係するすべての者にとって懲罰的影響も及ぼす。個人が核兵器活動に従事した場合、国際裁判所で裁判にかけられるかもしれない。核兵器禁止は、国際法制度に適合することを忘れてはならない。したがって、それが禁止する活動は、TPNWの文脈だけでなく、これを補完する国際法の文脈においても裁かれることになる。このような国際法の分野として、紛争における戦闘員と文民の区別、均衡のとれた戦力行使、不必要な苦痛の禁止を求める武力紛争法や、生存権と安全な環境への権利を保護する人権法がある。TPNWは、これらの国際法ですでに成文化された人道的根拠に基づいて兵器を禁止している。
人道的根拠に基づいて禁止されている他の二つの国際的行為、具体的には奴隷制と侵略戦争を禁止する国際法の影響力を見れば、禁止の力がよく分かる。かつては当たり前のように行われ、合法的だった奴隷制と侵略戦争は、逸脱とされるようになった。国際法の機能に関するより具体的な例は、この分野に存在する。1961年、アドルフ・アイヒマンは、アルゼンチンでイスラエルの特務員に捕らえられた後、ホロコーストで果たした役割によりイスラエルで裁判にかけられた。彼の捕捉と裁判は、奴隷制や海賊行為を廃止した法律により確立された主導原理、すなわち、人類の敵はいずれの国家でも捕捉して裁判にかけることができるという原理によって正当化された。アイヒマンは有罪とされ、処刑された。アウトロー(人類の敵)である彼は、いかなる法律によっても保護されることはできなかった。ニュルンベルク裁判と東京裁判のいずれにおいても、被告は、戦時中の残虐行為に加え、侵略戦争を非合法化した1928年のケロッグ・ブリアン条約を根拠とする平和に対する罪にも問われた。ロシアのクリミア併合は、ロシアに対する制裁と国際的な非難を引き起こした。また、重要な点として、クリミアに対するロシアの主権については不承認が示された。なぜなら、違法な行為、すなわち侵略戦争によってクリミアを獲得したからである。
このような法的前例は、TPNWが非合法化する活動に従事する個人や国、大国にとってさえも、意欲をそぐ強力な要因となるはずである。米国やロシアの指導者、あるいは核兵器を運用し、核戦略を策定する個人が、ハーグ裁判所で核兵器活動の罪により裁判にかけられることになるとは今は想像もできないかもしれない。しかし、第二次世界大戦終結前のドイツは大国だったことを忘れてはならない。ナチスが思い知った通り、きょう手出しができない大国も、あすは敗者として法に向き合わなければならないかもしれない。意図的であるか否かを問わず、核戦争とそれがもたらした想像を絶する人道的災害に責任がある国家とその指導者を思い浮かべて欲しい。そのような出来事の後で、核の抑止力はそのような惨事のリスクを正当化するものだったという弁明を世論は受け入れないだろうし、裁判所も受け入れないだろう。
確かに、現時点では、TPNWが拘束力を持つのは条約加盟国のみになる見込みである。しかし、核兵器禁止は徐々に力を拡大し、国際慣習法、つまり法律として認められる一般的慣行となり、どこでも、誰にでも拘束力を持つようになる可能性がある。それは、どのように機能するだろうか?国際慣習法は、慣行のパターンの実践にかかわるものであり、また、法的期待のパターン、つまり、あるものが法律としても受け入れられるとはいかなることであるのかという認識にもかかわる。核兵器保有国は、TPNWが核兵器に対抗する国際慣習法に寄与することを否定するために四苦八苦してきた。しかし、問題は、政府高官が何を言うかだけではなく、一般の人々が核兵器についてどう考えるかが、国際慣習法の形成にとって重要だということである。パウスト(Paust)は、こう論じている。「……特定の国家は、特定の規範が慣習法であることに同意せず、そのような規範を破りさえするかもしれない。しかし、一般に共有された法的期待のパターンとコミュニティーに現存する同調行動によってその規範が支持されているのなら、その国家はなおも拘束を受けるといえる」。
TPNWに加盟していない国に対して核兵器禁止に拘束力を持たせる根拠は、すでに構築されている。核兵器に反対する規範は、ほぼ普遍的な条約である1970年の核兵器不拡散条約(NPT)において明確になっている。残念ながら、NPTには法的抜け穴があり、核兵器保有国は核軍縮を無期延期することができる(1995年に同条約が無期限延長された時以来)。NPTは、第6条に核軍縮交渉を拘束力のある義務と定めているにも関わらず、1967年までに核実験を行った国家に対し、かかる交渉を行う期日を定めていない。核兵器保有国は、したがってNPTは彼らに核兵器を保有し、自国の思い通りに管理する国家主権を認めているのだと不誠実な解釈をしている。NPTに加盟していない4カ国は、核兵器保有国の例にならい、核兵器を獲得した。このような行為と解釈は、核兵器禁止とその慣習法としての地位に反するものである。私が考えるに、核廃絶に真剣に取り組む国々にとって、NPTに対するこのような解釈を無効化し、条約の本来の意図を改めて訴え、核兵器禁止の慣習法としての地位を強化する唯一の方法は、NPTを脱退してTPNWに加盟することである。脱退は、核兵器保有国が第6条に違反していることを正当な根拠とすることができる。
核兵器禁止の慣習法としての地位は、1986年のレイキャビク・サミットでレーガンとゴルバチョフが表明したように、幾度となく世界各国の首脳が公然と核兵器に遺憾の意を示していることによっても裏付けられる。国家首脳が核兵器を使用する可能性があったものの、その人道的影響(核のタブー)ゆえに、実際には使用しなかったという事例は、核兵器使用に反対する国家行動のパターンであることが明らかである。
TPNWは、積極的な国家や市民社会が、核兵器活動は人類全体にとって一般的に受け入れられないという法的事例を強化するために、必要な政治的取り組みを行うための手段である。近頃、NATO加盟20カ国と日本および韓国の元大統領、元首相、元外相、元防衛相、合わせて56人が公開書簡により、現職の首脳に対してTPNWに加盟するよう呼びかけたことは、このような取り組みの一例である。
ジョリーン・プレトリウスは、南アフリカのウェスタンケープ大学で国際関係学を教えている。1995年に核不拡散・核軍縮における業績によりノーベル平和賞を受賞した「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の南アフリカ支部会員。
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【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】
第一次世界大戦後に英仏が既存の民族、宗教分布を無視して国境を確定した(=今日の内戦の火種)モザイク国家シリアの歴史と、米歴代政権のシリア内戦への関与の系譜(CIAが後に敵になるISISやアルカイダ支持者を含む反アサド勢力を支援)を解説したジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。トランプ政権はシリアからの米軍全面撤退を打ち出したが、シリア担当の外交官らがサボタージュして依然として600人以上の米軍がシリアにとどまっていることが最近明らかになっている。シリアからの全面撤退は、従来米国と同盟してアサド政権・ISISと闘ってきたクルド勢力を見捨ててトルコの攻撃に晒すことになる、として反対を表明してきたバイデン氏が、大統領就任後に再びシリアへの関与を強めるのか否かに注目している。また、アサド政権を支援するイランとの核合意を破棄したトランプ政権に代わってバイデン政権は合意を復活される可能性があり、米国の中東外交の変化がシリア情勢に及ぼす影響についても考察している。(原文へ)FBポスト
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=タリク・ラウフ】
核兵器禁止条約(TPNW)は、必ずしも、条約を支持する非核兵器保有国(NNWS)と核兵器保有国の大半および米国の核の傘に守られた米同盟国との間に争いをもたらす種となっているわけではない。TPNWに反対する人々は、TPNWに関する多くの懸念や欠点を指摘している。この短い論稿は、そのいくつかに答えるものである。(原文へ 日・英)
批判的な人々は、TPNWには以下のような欠陥があると主張する。
このほかの批判には、次のようなものがある。
結論として、TPNWが発効し、賛成票を投じた122カ国のうち、さらに多くの国が批准手続きを完了し、それによって強行規範を確立して、すべてのNPT締約国だけでなく他の核兵器保有国にも対世的義務(訳者注=国際社会全体に対して負う義務)を生じさせたとき、慣習的国際法の下でTPNWが核兵器の禁止を生じさせる(create)ことはきわめて明白である。
タリク・ラウフは、国際原子力機関(IAEA)検証・安全保障政策課長(2002~2011年)、NPT運用検討会議へのIAEA代表団団長代理(2002~2010年)であった。日本の「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」委員(2017~2020年)、2015年NPT運用検討会議において主要委員会I(核軍縮)議長上級顧問を務めた。また、1987年よりすべてのNPT会合に公式代表者として出席している。
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|視点|広島・長崎への核攻撃75周年を振り返る(タリク・ラウフ元ストックホルム国際平和研究所軍縮・軍備管理・不拡散プログラム責任者)(前編)