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|米国とロシア|共に戦争主導者であり平和構築者

【ニューヨークIDN=ソマー・ウィジャヤダサ】

核兵器の使用を明確に禁止した核兵器禁止条約が、人類の特筆すべき勝利として2021年1月22日に発効してから数日、米国とロシアが新戦略兵器削減条約(新START)の失効期日から僅か2日前というタイミングで、同条約を2026年まで延長することを決めた。

米ロ関係が厳しく敵対的なものになる中、両国が手を結んだということもまた、特筆すべきことである。

Antony J. Blinken/ By U.S. Department of State, Public Domain

元々は2010年にバラク・オバマ大統領とロシアのドミトリ・メドベージェフ大統領が署名した同条約は、両国が配備できる核弾頭と、それを運搬する地上発射ミサイル、潜水艦発射ミサイル、爆撃機数の上限を、過去数十年で最低のレベルに抑えることに合意したものである。最も重要なことは、米ロ両国が互いの核戦力や施設、活動を監視できるようにしたことだ。

米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、ロシアは新STARTをこれまで遵守してきたとして、「とりわけ緊張が高まっている時期には、ロシアの大陸間核兵器に検証可能な制限をかけることが決定的に重要だ。」と語った。

ブリンケン長官は、条約の延長により「世界はより安全になった。」とし、「野放図な核競争は我々すべてを危機に陥れる。」と語った。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は条約[延長]に署名して、新STARTは「ロシア・米国間の戦略的関係の透明性と予測可能性を維持し、グローバルな戦略的安定性を支持することに資する。」と指摘するとともに、「国際状況にも望ましい効果があり、核軍縮プロセスにも貢献することだろう。」と語った。

条約は両国が配備する大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機をそれぞれ700基(機)に、戦略核弾頭をそれぞれ1550発に、未配備分を含むICBM・SLBM・戦略爆撃機の保有数を800基(機)に制限することを義務付けている。

核軍拡競争

米国と旧ソ連との間の軍拡競争は、世界が1945年8月に米軍による広島と長崎への原爆攻撃(12万9000人~22万6000人が殺害された)を目の当たりにしてから開始された。

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

第二次世界大戦の激しい被害を引きずる当時のソ連はまだ超大国ではなかったが、このような強大な破壊力をもった核兵器が米国の手にのみ握られている状況は、ソ連にとって看過できるものではなかった。

ソ連は1949年に核開発に成功して米国に並んだだけではなく、破壊的な戦争への抑止力として、さらに、おそらくは平和を作る兵器としても、核を保有することになった。

これが、米国とソ連の間の核軍拡競争と超大国の競争の始まりであった。両国が二国間の軍備管理協定に同意するころには、両国でおよそ7万300発の核兵器を保有するまでになっていた。

それ以降は、世代全体が目前に迫る破滅の影に怯えながら生きてきた。1962年のキューバミサイル危機のようなときには、人類の生存は不可能なのではないかとの恐怖が蔓延した。

いくつかの兵器削減条約のために、核兵器の備蓄は合計1万3865発まで減少してきた。しかし、米国とロシアがそれぞれ保有する6185発と6500発の核弾頭は、地球を何回も焼き尽くすのに十分な量である。

軍備管理における転換点

President George H. W. Bush and President Mikhail Gorbachev sign United States/Soviet Union agreements to end chemical weapon production and begin destroying their respective stocks in the East Room of the White House, Washington, DC on the 1st of June 1990./ George Bush Presidential Library/ Public Domain

米国とソ連との間の軍備管理協議は1963年に始まった。この年、宇宙空間・水中・大気圏内での核実験を禁止する部分的核実験禁止条約に米国・ソ連・英国が署名したのである。

1969年以降、米ソ両国はいくつかの戦略的核兵器管理協定に合意してきた。

第一次戦略的兵器制限交渉(SALT I)は1969年に開始され、1972年には対弾道ミサイル(ABM)制限条約に合意した。交渉は同年、第二次戦略兵器制限交渉(SALT II)に引き継がれたが、ソ連がアフガン紛争に関与した1979年12月に打ち切られた。

1991年7月31日、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領が戦略兵器削減条約(START)に署名した。同条約は、条約の定めたルールに従ったカウントの方法で、配備済み戦略兵器に関して、運搬手段を1600基(機)、弾頭を6000発にまで制限することを両国に義務付けている。

ソ連の崩壊後もロシアは、困難な時にあっても推進力を維持し続けてきた。

1993年1月、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領とボリス・エリツィン大統領はSTART IIに署名した。配備済み戦略兵器の弾頭を3000~3500発に制限し、不安定化をもたらす複数弾頭の地上発射型ミサイルの配備を禁止したものだった。

しかし、批准手続きが遅れる中、米国が2002年にABM制限条約から脱退して、START IIも頓挫することになった。

2002年5月、ジョージ・W・ブッシュ大統領とウラジーミル・プーチン大統領が戦略攻撃兵器削減条約(SORT)に署名したが、のちに新STARTに取って代わられることになった。

2010年4月、米国とロシアは新STARTに署名した。両国が、戦略的核弾頭を1550発に、配備済みの戦略的運搬手段(ICBM・SLBM・重爆撃機)を700基(機)に、配備・非配備の運搬手段の合計を800にそれぞれ制限する、法的拘束があり検証可能な協定である。

第二次世界大戦以来、そして、両国が敵対していた冷戦期において、米国とソ連(のちのロシア)は、両国、そして世界全体に対して利益をもたらす多くの意義ある取り組みに関わってきた。

例えば、1963年の部分的核実験禁止条約、1975年に冷戦の敵手同士が軌道上で邂逅した宇宙でのアポロ=ソユーズ計画、1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約調印、1994年の初の米ロ共同スペースシャトル打ち上げといった共同の取り組みに両国は参加しており、1995年には、米国のスペースシャトル「アトランティス」がロシアの宇宙ステーション「ミール」と宇宙空間でドッキングして、軌道上で最大の宇宙船を形成している。

これらは、(しばしば、平和構築者ではなく戦争主導国として分類される)米国とロシアという2つの敵対する超大国による画期的な道標となっている。両国は、冷戦期の合計7万発から現在では1万4000発まで核弾頭を減らしてきている。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

国連は、1945年の創設以来、「来たる世代を戦争の惨禍から守る」という崇高な目標を達成するために核兵器を廃絶する努力を積み重ねてきた。

2021年1月22日に発効した核禁条約は、核兵器の使用、使用の威嚇、開発、生産、実験、備蓄を明確に禁止し、いかなる人々に対しても、またいかなる方法においても、条約が禁止している活動に対しての援助・奨励・勧誘をしないようすべての締約国に義務付けている。

国際赤十字委員会(ICRC)のペーター・マウラー総裁は核禁条約に言及して、「人類は今日、勝利を勝ち取りました。この条約は、75年以上にわたる努力の成果であり、核兵器が道徳的、人道的、そして今や法的にも容認できないことを明確に示します。この条約をきっかけに核弾頭にはさらなる烙印が押され、法的な障害が設けられます。条約によって、私たちは、このような非人道的な兵器から解放された世界を、実際に達成可能な目標として思い描けるようになるのです。」と語った。(原文へ

※ソマール・ウィジャヤダサは国際弁護士。スリランカ大学(1967~1973)、各種の国連機関(IAEA、FAO:1973~1985)に在籍、国連総会に対するユネスコ代表(1985~95)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)代表(1995~2000)を務めた。

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ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ女史のWTO事務局長選出は歴史的出来事

【アブジャIDN=アズ・イシクウェネ】

2月15日の臨時一般理事会で初のアフリカ出身者、かつ初の女性でWTO事務局長(任期:今年3月1日~2025年8月)に承認されたンゴジ・オコンジョ・イウェアラ女史に焦点を当てた記事。WTOが本部を置くスイスメディアに「アフリカのおばあちゃんがWTOのボスに就任」と書き立てられるなど組織内のジェンダーバイアスとも立ち向かっていくかなければならないが、新型コロナパンデミック対策、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の始動、対中圧力を念頭にWTO改革を迫る米国とWTOに力を広げる中国との対立等、難しい舵取りを迫られることになる。(原文へ

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世界の食料システムは民衆のサミットを通じてのみ真に変革ができる

Dr. Agnes Kalibata, President, AGRA/ Wikimedia Commons
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【ニューヨークIDN=アグネス・カリバタ】

SDGsを達成するための「行動の10年」の一環として9月にNYで開催予定の「国連食料システムサミット」の意義と開催に向けた取り組みを解説したアグネス・カリバタ国連事務総長特使によるコラム。新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的な流行)により大きく後退を強いられたSDGs17目標を軌道に戻すうえで、まずは全ての人々に食料を行き渡らせるための「食料システム(=食料の生産、加工、輸送及び消費に関わる一連の活動)」の再構築を実現することが緊急の課題となっている。(原文へ

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分極化したアジア太平洋において、民主主義はクラブではなく目標であるべき

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年2月14日に「East Asia Forum」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ダン・スレーター】

分極化が米国を分断している。ドナルド・トランプ前米国大統領のもとで、分極化は米国の民主主義をほとんどズタズタに引き裂いた。

しかし、米国の内部が分極化しただけではない。太平洋の分極化にも直面している。中国との関係は、トランプ政権の数年間の後、国交正常化以来最悪の状態に達している。その間、トランプと習近平中国国家主席は揃って、強力な国家指導者としての個人崇拝を広めようとしていた。(原文へ 

ジョー・バイデン米国大統領は、政権の成功を国内の分極化の緩和に結び付けているが、皮肉なことに、トランプの退任によって海外の分極化が悪化する恐れがある。

トランプの在任期間中、現政権ゆえの制約によって、共和党の強硬な対中姿勢が少なくともギリギリのところで抑えられていたことはほぼ間違いない。米中関係が完全崩壊すれば、共和党政権に大混乱を引き起こすリスクがあったからである。野党となった今、共和党はもはやそれを抑える責任はない。

バイデンは、国内の結束を重視するあまり、意図しないこととはいえ、中国との関係を急激に悪化させる状況に陥る恐れがある。民主党と共和党の合意がほとんど何もないなかで、中国の脅威については意見が一致しつつある。国外の共通の敵は、国内の分極化をやわらげる役割を果たす。

中国に対する共和党の敵意がピッチを上げれば、バイデンは後れを取ってはいけないというプレッシャーを感じるかもしれない。第1に、「中国に甘い」、あるいは習政権下で悪化が進む中国の人権状況に寛容すぎるという批判から脇を守るためである。第2に、民主党と共和党がなおも団結できる問題が少なくとも一つできるからである。

容赦なく世界に広がる新型コロナウィルス感染症や気候変動がはっきり提示していることは、米国や中国のような大国同士の協調的行動がかつてないほど重要になっているということである。しかし、それは、かつてないほど実現しにくくなっているようだ。

環太平洋政治のあらゆる複雑性は、エスカレートする米中対立へと平板化されつつある。国内の分極化がいずれの極にも共鳴しない人々を周縁化するのと同じように、太平洋の分極化は、北東アジアと東南アジアの主要国の利害さえ脇に追いやるような状況をもたらしている。

近頃ミャンマーで起きたクーデターのように看過できないほど重大な出来事が発生したときですら、この平板化は顕著である。ミャンマーの安定における米中の共通の利益やこの国の複雑な歴史を理解しようとするのではなく、議論はたちどころに、影響力を奪い合うゼロサム対立を示すものへと発展していく。

米中間の“新たな冷戦”を警告する者は、実はリスクを過小評価している。1930年代に悪化の一途をたどった日米関係は、1950年代の米ソ関係よりも今の状況に近い。当時も、現在と同じようにアジアの新興勢力が米国の覇権を試し、その支配に異議を唱えた。今回もまた、対抗する両陣営の対応は、時が経つにつれてますます不適切なものになっている。

日本の類似性がソ連の類似性を上回る理由として、よりダークな事情もある。この4年間は、米国の政治情勢において人種差別が中心的役割を果たしていることを思い起こさせるものだった。ジョン・ダワーが指摘したように、太平洋における第二次世界大戦は人種戦争でもあった。分極化が最悪の面を見せるのは、それが憎悪感情を掻き立てる時であり、人種差別ほど憎悪感情を激しく招くものはない。

米中関係が分極化するほど、反中感情は臭気漂う煙を吐く。米中対立がただちにもたらす最も大きなリスクは、アジア系アメリカ人や在米アジア人に対する攻撃の増加である。

また、国際政治も分極化して民主主義と専制主義の世界的対立へと発展し、米国と中国が両陣営の先頭に立つ可能性もある。

このような見方は、根拠のない対立を煽るだけでなく、世界の民主主義を牽引するリーダーとしての米国の資質を誇張するものである。米国民主主義のもっかの使命は、先導することではなく存続することである。米国の経験は、民主主義(民主主義例外論ではなく)を維持・拡大するための終わりなき戦いである。

また、専制政治は中国の変えられない運命でもない。習近平が退いた後、中国共産党がその統治課題を解決し、戦略的な民主主義改革によって党の活性化を図るかもしれないという希望を捨てる必要はない。それは、1980年代に台湾と韓国の権威主義的政党が成し遂げたことである。

しかし、米国率いる民主主義陣営が、中国率いる専制国家群に対して壮大な道徳的戦いを挑んでいるという風に国際政治を描けば、民主主義は中国の国民にとっていっそう不快なものとなるだろう。民主主義は、排他的なクラブに入会するステータスマーカーとしてではなく、普遍的な価値や実践として表現されるとき、その魅力を最も発揮するのである。

米国はアジアの同盟国に対し、疎遠だった4年間の後、再び注力しつつあり、それは適切なことである。しかしながら、これらの同盟国をライバルクラブ打倒に向けて頑張るクラブのように位置付けることは、代償をもたらす。それは、短期的には分極化を深刻化させ、長期的には中国を含むアジア全域を民主化するという目標の達成をいっそう困難にする。

ダン・スレーターは、ミシガン大学で政治学教授およびワイザー新興民主主義センター(Weiser Center for Emerging Democracies/WCED)所長を務める。また、カーネギー国際平和基金の非滞在型フェローでもある。

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核兵器禁止条約を推進するために

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ティルマン・ラフ】

核兵器禁止条約(TPNW)は、2021年1月22日に発効した。多国間核軍縮条約の交渉が行われたのは25年ぶり(包括的核実験禁止条約<CTBT>以来)であり、そのような条約が発効したのは49年ぶりである(核兵器などの大量破壊兵器を海底に設置することを禁止する海底条約以来)。(原文へ 

これからはTPNWがあり、ゲームチェンジャーとなる。TPNWは、最悪の大量破壊兵器、人類と地球の健康に深刻な実存的脅威をもたらす唯一の兵器を、初めて包括的かつ絶対的に禁止する条約である。この条約はいまや、核兵器に関する行為や無為を評価する基準となった。この条約に盛り込まれている核兵器および核計画を廃絶するための枠組みは、国際的に合意され、条約として成文化されたもののみであり、期限を定めた、検証済みの枠組みである。また、この条約は、核兵器の使用や核実験の被害者を援助し、実行可能な場合には核兵器の使用や核実験により汚染された環境の修復を支援することをすべての締約国に義務付けた最初の条約である。

この歴史的条約の法的、政治的、道徳的効力を構築し、参加と実施を拡大し、また、この条約を可能な限り効果的に用いて核兵器の廃絶を進め、そのかたわらで核兵器使用の可能性と規模を削減するためには、多くのことを成し遂げなくてはならない。世界終末時計の針が今年はかつてなく危険なほど進み、「残り100秒」となっている今、暗さを増す核の風景において一条の明るい前進の光であるTPNWが実施され、影響力を発揮することは、きわめて重要であると同時に至急に必要とされている。核の近代化が継続され、九つの国が世界を巻き込む自爆兵器を廃棄する義務の履行を拒否している状況を許容し手をこまねいている時間の余裕はない。

各締約国は、自国で条約が発効してから30日以内(最初に批准した50カ国にとっては2021年2月21日まで)に、核兵器に関する自国の状況を説明する申告書を国連事務総長に提出しなければならない。

各締約国は、発効から18カ月以内に国際原子力機関との包括的保障措置協定を発効させなければならない。現時点でそれを履行していない締約国はパレスチナのみで、同国は2019年に保障措置協定を締結したが、まだそれを発効させていない。

 TPNWの第1回締約国会議は、オーストリア政府の主催により2022年1月22日にウィーンで開催されることになっており、この会議で決議するべき多くの事項が条約に定められている。

  • 締約国会議の手続き規則
  • 条約に参加する核武装国は、「(核兵器を)廃棄した後に参加する」か「参加した後に廃棄する」ことができる。後者の道筋で当該国が核兵器を廃棄するまでの猶予期間を、第1回締約国会議で決定する必要がある

 大雑把に言えば、第1回締約国会議において、条約の促進と実施を大幅に推進できるほど良い。決意があり、同じ志を持つ国々が集まり、周到に準備・運営された会議では、多くのことが達成できるだろう。しかし、TPNW専用の事務局がない現状では特に、第2回会議までの2年間とそれ以降も条約の実施と促進を継続する組織と手続きを、第1回会議で設置することが重要になる。TPNWの交渉は、国連総会の委託に基づく国連プロセスによって行われた。条約の寄託者は国連事務総長である。したがって、この条約を推進することは国連の仕事であり、これには国連事務総長、国連軍縮部および法務部などが関係する。

 第1回締約国会議は、以下によって、これらの作業を効果的に補強できるだろう。

  • 明確な目標と期限を設定した会期間作業プログラムを決定し、場合によっては、さまざまな分野で主導権を持つ作業部会を設置する。
  • 準備会合および/または会期間会合を開催する。
  • 以下のような主要課題に取り組む、継続的または期間を定めた専門諮問機関を設置する。
    • 条約の規定に従い、核兵器計画の不可逆的な廃棄の交渉および検証を担当する適格な国際機関
    • 核兵器の人道的影響と核兵器使用のリスクに関する新たな証拠やその進展について、締約国に定期的に報告する
    • 被害者援助と環境修復の義務に関する措置の根拠について技術的助言を提供する
    • 強力な国内実施措置の策定を支援する(また、優良実践例を共有する)ために、締約国に法的・技術的な支援や助言を提供する
  • TPNWをもたらした「人道イニシアチブ」の過程で進展した、政府、国際機関、市民社会の間の有意義な協力や相乗効果的なパートナーシップを継続する。これには、条約交渉において非常に建設的な役割を果たし、条約にも明記された世界最大の人道組織である赤十字・赤新月運動、TPNWに関して各国政府のアドボカシーパートナーとなった中心的な市民社会団体である核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、そして核兵器の使用と核実験により直接被害を受けた世界中のヒバクシャが含まれる。

 こういったことすべてに資源、すなわち物資と資金の両方が必要である。締約国は、資金拠出に関してある程度の準備をしたうえで第1回締約国会議に出席するべきである。

核兵器の禁止は「核武装国の関与が得られなくても実現可能な、変革をもたらしうる唯一の手段であった」。今度は、この成果の力と価値を徐々に向上させていく必要がある。条約を支持するすべての者にとって重要な仕事は、条約調印国の数を増やし、さらにその調印国を批准国にすることである。一部の核武装国とその加担国によるネガティブな圧力(これは非難に値する)にも関わらず、159カ国が「人道の誓約」に賛同し、122カ国がTPNW採択に賛成票を投じたことを考えると、今後1~2年で批准国が100カ国に達することは可能なはずである。重要な瞬間が訪れるのは、歴史の流れに乗ってトラブルよりも解決に寄与することを選ぶ、最初の核武装国またはその加担国があらわれるときである。

締約国は、適時かつ有効な方法で自身の義務を履行し、その履行状況を定期的に報告するべきである。恐らく、核武装国とその加担国が参加する前に条約の影響力を拡大できる可能性が最も高い方法は、禁止された活動への援助、奨励、または勧誘を厳しく禁止することである。例えば、核兵器を製造する企業に事業売却を強制する、または奨励するなどである。また、条約を改定して適用範囲を拡大することも考えられる。例えば、条約を改定して批准国にCTBTの批准も義務付けるなどである。また、TPNWを用いて核分裂物質の管理と削減を進めることによって、より大きな影響を及ぼすことができるだろう。そのためには、締約国に対し、高濃縮ウランの製造を中止し、使用済み核燃料の再処理によるプルトニウム回収をやめ、分離プルトニウムを廃棄するか国際機関による厳重な管理下に置くよう義務付ければ良い。

TPNWは、最悪の兵器に対抗するためにわれわれが手に入れた最善のツールである。それを十分に活用しよう。

ティルマン・ラフ AO(Officer of the Order of Australia: オーストラリア勲章)は、医師、ICANおよびICANオーストラリアの共同創設者・初代議長、核戦争防止国際医師会議(IPPNW、1985年ノーベル平和賞受賞)の共同代表、メルボルン大学人口・グローバルヘルス学部(School of Population and Global Health)の名誉首席研究員である。また、オーストラリア戦争防止医療者協会(MAPW)の代表を務めた。MAPWは、IPPNWとともにICANを設立した。

INPS Japan

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【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

1月22日に発効した核兵器禁止条約(TPNW)について、積極的意味合いをもつ国際法に新たな条約が加わったことの重要性と意義に関して、さまざまな方面から多くのコメントが寄せられている。TPNWは、第15条1項に従って、50カ国目が批准書を寄託してから90日で発効する。これまでのところ、86カ国が署名、52カ国が批准している。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、この条約を「核兵器のない世界に向けた重要な一歩」と称賛し、「共通の安全保障と集団的安全のために、このビジョンを実現するために協力する」ようすべての国に呼びかけた。世界各地のメディアは、TPNWがすべての核兵器を禁止する初めての条約であることに着目し、核保有国に強い反対論があることを指摘している。

核保有国やその同盟国を含む多くの国の市民団体や世論は、 最後まで(禁止されずに)残った大量破壊兵器にあたる核兵器を世界からなくす歴史的な一歩として、条約発効を歓迎した。

ウィリアム・ペリー元米国防長官は、『原子科学者会報』誌に寄せた1月22日付の文章の中で、「禁止条約は、将来の不確定な目標としてではなく、すべての国が積極的に達成に向けて取り組むべき基準として核廃絶を正しく確立した。」と述べ、「アメリカは草分けの国であることに誇りを持っている。私たちは、核兵器のない山の頂上に向けて新たな道を切り開く最初の核保有国となろうではないか。」と力強く締めくくっている。

大量破壊兵器の他の2つのカテゴリーである細菌(生物)兵器と化学兵器を禁止する条約の交渉と採択を成功裏に支持し促進したものと同じ発想が、核兵器の禁止を支えている。核不拡散条約第2条にある核兵器の部分的禁止と、核兵器の保有・非保有に関わらずすべての締約国に適用されるTPNWの全面的禁止との間にはかなりの違いがある。

TPNWは、核実験被害者への支援義務を含む独自の人道的アプローチを採っていることに加え、非核保有国がNPTなどの過去の条約ですでに成した公約を強化し、諸国家間の文明的関係を支える基本的な発想の下では核兵器は受け入れられないという原則を打ち出している。この条約は、核兵器の開発、製造、備蓄に対抗する強力な規範的、道徳的な力となる。

TPNWは、特定の国に向けられたものでも、一方的な軍縮を主唱するものでもない。条約に加盟した核保有国は、条約の第1条・4条に従って行動を取ることになるが、その軍縮プロセスの中で相互の安全を確保するために、核保有国間で協調的取り決めを成すことが排除されているわけではない。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

核兵器国は実際、自らの安全を守る共通の方法を探ることをまさに目的とした一時的な取り決めについて、過去に協議したこともあった。敵意と不信に満ちた何十年の間に蓄積されてきた多くの経験は、不安定な軍事的・戦略的優位を際限なく、かつ何の成果もないままに追い続けるよりも、核兵器の廃絶と有機的に結びついた形で漸進的な削減を図っていくことに安全を求める方向にシフトさせることが可能だ。

自らが核兵器を持ちつづけることを正当化するために他国の核兵器保有の陰に隠れることは合理的ではない。文明を消し去ってしまう兵器を保有することは、端的に言って正当化できるものではない。もし正当化できるなら、どの国でも核兵器を取得する正当な理由があることになってしまう。「核兵器が存在しつづける限り、我々は(核兵器を)保有し続ける」というしばしば繰り返される言い回しは、「核兵器なき世界」という自らが口にしている目標を達成する現実的な方法を編み出す常識的なオプションを検討することすらしようとしない利己的な姿勢を表したものだ。

核軍縮は、国際関係における強引な手法や脅しにとって代わることになるだろう。核兵器国は、TPNWに対して鈍い感覚しか持たず怒りに満ちた敵意を向けているよりは、条約に建設的に関与した方が、望ましい結果を得られるだろう。

一部の識者らは、既存の核兵器国を巻き込まない核軍縮条約は効果的でないという事実を強調している。TPNWは、実際に核兵器を保有する国々の誠実な参加なくしては、その目的を完全に達成することができないのは明らかだ。しかしTPNWは、武力衝突から、人類の生存に関わる問題に対処する広範なコンセンサスを生み出す必要性へと、わたしたちの関心をシフトさせるものだ。

核兵器の価値を熱烈に称揚する国々は、潜在的な脅威に対してなされる完全なる破壊(=核兵器)に依存することで自らや地球の安全が保たれるという理屈を、自国民はもとより世界の世論を納得させることに失敗している。核保有国の同盟国も含め、全世界で行われた世論調査を見れば、核兵器を完全廃絶するための、効果的で、法的拘束力があり、検証可能で時限を区切った措置に対して市民からの強い支持があることがわかる。

核兵器国の一部には、核兵器の開発・研究・生産を可能にする国家や機関、既得権団体に対してTPNWの発効が与えるプレッシャーは、世論が政府やその他の主体の行動に影響を及ぼす民主主義が確立された国でのみ効力を発揮するという意見がある。しかし、これは事実の半面でしかない。あらゆる社会において、人びとは自らの望みを行動に変換する方法を見出してきたのだ。

Sergio Duarte
Sergio Duarte

世界の歴史が明確に示しているように、人びとの意見や態度、信条が、専制的で抑圧的な体制が打ち立てた壁を突き破ってきた。国際法は、政治体制に関わりなくあまねく適用される。対内的なプレッシャーは市民社会からのみ起こるのではなく、他国の発表や個人の行動、国際組織、有名人のとる立場、民衆の良心の一般的な強さからも起こるものだ。無意味な軍拡競争と、進展のなさに対する不満が募る中、核軍縮の効果的な措置を求める世論はますます強くなるだろう。

発効51年を迎える核不拡散条約(NPT)のすべての加盟国は、核軍縮の方向に向かって効果的な措置を早期に達成するとの意図を明らかにした前文と、とりわけ、「核軍拡競争の早期の停止と核軍縮に関連した効果的な措置に関する交渉を誠実に追求する」とした第6条を履行する義務を負っている。

核兵器禁止条約を交渉し採択した122カ国は、まさにそれを実行することで範を示したのである。これらの国々の努力は称賛されるべきであり、否定したりするのではなく追随されるべきものだ。そうすることによって、核兵器の完全廃絶は最終的に達成される。

「核軍縮・核不拡散体制の要石」とされるNPTの加盟国は、核軍縮義務のこれ以上の軽視を認めてはならない。来るNPT再検討会議の機会を利用して、核兵器の脅威を世界から除去しようという重要かつ緊急の任務に対するTPNWの貴重な貢献を認識し、その点に関する効果的な行動に合意しなくてはならない。発効したTPNWは今や、この取り組みの不可欠の一部になったのである。(文へ

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多国籍企業とマリの児童奴隷組織の共謀疑惑

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

コートジボワールのカカオ農園でマリから拉致された児童たちが奴隷労働を強いられたとして、カカオ供給先のチョコレート製造大手(カーギル、ネスレ、ハーシーとマーズ等)を相手取った訴訟に焦点を当てた記事。米連邦最高裁判所は、この件について、国外での残虐行為に起因する訴訟を連邦裁判所が審理できるかを判断することに同意したが、カーギルとネスレは、既に児童奴隷労働対策に取り組んでおり、本件を審理する場として米最高裁は相応しくないとして審理却下を訴えている。一方、カカオ豆のサプライチェーンにおける児童労働は過去10年間で悪化しており、コートジボワールとガーナでは今も危険な労働を余儀なくされる18歳未満の児童労働者は約156万人にのぼることが明らかになっている。(原文へFBポスト

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ドイツの新法は、グローバルサプライチェーンにおける人権侵害に対して企業の責任を求める

【ベルリンIDN=リタ・ヨシ】

ドイツ政府が義務化に踏み切った人権デューデリジェンスの内容に対するNGOの声を取り上げた記事。バングラデシュのラナプラザ繊維工場の崩壊事故等、サプライチェーンの末端で起こる人権侵害を防止し責任追及するメカニズムとして、人権デューデリジェンスの義務化を訴えてきた国際人権NGO『ビジネスと人権リソースセンター(BHRRC)』は、国連のガイドラインを前進させる重要な一里塚としてドイツの決定を歓迎しつつも、ハイリスク分野(縫製業等)の中小企業が規制対象に入っていない等、内容は改善の余地が大いにあると指摘している。(原文へFBポスト

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NATO同盟国よ、TPNWを退けるなかれ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

(この記事は、2021年1月21日にELN(European Leadership Network/欧州リーダーシップネットワーク)に初出掲載されたものです。ここに記載された意見は執筆者の見解であり、ELNまたはELNのいずれかのメンバーの立場を必ずしも反映するものではありません。)

【Global Outlook=トム・サウアー】

2021年1月22日の核兵器禁止条約(TPNW)発効は、深い感慨と複雑な感情を生み出す。支持者たちは、グローバル・ゼロの山頂を目指す歩みが加速することを期待している。反対者たちは、核武装国が条約に署名するわけがないと繰り返している。しかし、核武装国が核兵器を禁止する気がないのなら、核不拡散条約(NPT)の規定に基づいて核兵器の削減を約束した彼らの言葉を、他の国々はまず信用しないだろう。それは、核不拡散・軍縮体制の「礎石」であるNPTにとって幸先の悪いことである。(原文へ 

TPNWは、非核兵器国を代表してフラストレーションを表明したものである。核兵器国とその同盟国がNPTのもとで進める核軍縮は、削減のスピードが非常に遅く、過去20年間は特にはなはだしいからである。TPNWが発信するシグナルを核兵器国とその同盟国がキャッチしなければ、このフラストレーションはブーメランのように返ってくるだろう。その時に、また別の条約をフラストレーションのはけ口にするわけにはいかない。その手はもう使ってしまったのだから。考えられる次の手は、NPTから脱退することだ。イランはすでに、脱退も辞さない姿勢を見せている。それが実行されれば、サウジアラビア、ひょっとしたらトルコやエジプトも後に続くと思われる。2019年9月の国連総会で、トルコのエルドアン大統領は、NPTの差別的性質が好きではないと明言し、拍手喝采を浴びた。エジプトはすでに一度、NPT準備委員会を途中退場している。他の非核兵器国も、少なくとも彼らの認識では核兵器国がNPTの義務を遂行していないのに、なぜ自分たちが遂行しなければならないのかと自問している。NPT脱退の脅しは、非核兵器国が行使できる切り札である。核武装国とその同盟国は核兵器を手放すつもりはないと非核兵器国が本当に信じるならば、NPTを脱退することによって彼らが失うものは多くない。差別的なNPT体制は捨て置かれ、より公平な体制の構築を一から始めればよいのだ。

それは望ましいことだろうか? もちろん違う。それによって拡散がさらに進む恐れがある。幸いにもこのシナリオは、まだ阻止することができる。いまやボールは、核武装9カ国(公式な核兵器国である5カ国と、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮)の側にあり、次の段階ではそれ以上に彼らの同盟国の手にある。彼らはTPNWに対して否定的であり続け、今後の80年間も数兆ドルを費やして核兵器の近代化を続けるのだろうか、あるいはこのシグナルを理解するのだろうか?

そもそも、核兵器を持たない同盟国は自由に決断を下せるはずである。彼らは、このまま核武装国の後ろに隠れ続けるのか、あるいはNPTのもとで非核兵器国として行動し始めるのだろうか? さらに悪いことに、核同盟国は核武装国の後ろに隠れるだけでなく、核武装国が彼らの後ろに隠れる手助けもしており、おそらくそれを自覚すらしていない。米国、英国、フランスは、核兵器保有と核ドクトリンを正当化するために、外部の脅威を指摘するだけでなく、核同盟国の要請も引き合いに出している。これは、ロシアによるクリミア侵攻よりずっと前から、すでに長年にわたって行われてきた。ヨーロッパの核同盟国がなければ、米国で多額の費用がかかる核爆弾B61近代化計画(爆弾400発で100億米ドル以上)を提唱する人々は、議論に勝つことができなかったかもしれない。日本とヨーロッパの核同盟国がなければ、オバマ政権はほぼ間違いなく、先行不使用または唯一目的論をとっくに採用していただろう。NATOの核兵器政策が現在のような現状維持政策であることについて、核同盟国は、NATOの核武装3カ国と少なくとも同じぐらい責任がある。

核同盟国の世論は核軍縮とTPNWに対して非常に好意的であること、NPTが本質的に脆弱であることを考えると、今こそギアを切り替えるべきである。筆者の母国であるベルギーでは、米国の戦術核兵器の撤退に賛成する人が明らかに過半数を占め、77%の人がTPNWへの署名に賛成している。したがって、核同盟国は、今後策定するNATO戦略概念において核兵器を非合法化するべきである。TPNWのもとでは、他国の領土内に核兵器を配備することは違法と見なされる。米国の戦術核兵器がヨーロッパの領土内に1日長くとどまるごとに、ベルギー、オランダ、ドイツなどの国におけるNATOの合法性はさらに崩壊する。その一方で、ポーランドやバルト諸国(そしてプーチン)は、NATOがこれらの国を「守る」ために核兵器を使用することはないとわかっている。信頼できる(核兵器によらない)抑止力によって、彼らを安心させるべきである。それが双方の利益となる。

また、戦術核兵器を撤退すれば、結果的にNATOが先行不使用政策を宣言しやすくなる。もしそうでないなら、戦術核兵器(そして、おそらくミサイル防衛)は、新STARTをめぐる米露間のフォローアップ交渉に含めるべきである。

理想的には、核同盟国もできる限り早くTPNWに署名するべきである。いずれも核同盟国の元首相、元外相、元防衛相ら56名と元NATO事務総長2名も、それを薦めている。中間段階において核同盟国が取り得るいくつかのステップを以下に挙げる。

ベルギー政府が2020年9月30日に宣言したように、また、スペイン議会の外交委員会が12月に決議したように、TPNWに対する言葉遣いと論調を、否定的なものから少なくとも中立的な、あるいはポジティブなトーンへと変える。核同盟国の間で「TPNWを支持する有志グループ」を結成する。2022年1月に開かれる第1回締約国会議にオブザーバーとして出席し、まだ何も約束する必要なくTPNW締約国と交流する。核実験被害者を支援する(TPNWで求める通り)ために財政的貢献を行う。2021年秋の国連総会におけるTPNWに関する決議で賛成票を投じるか、棄権する。

TPNWの発効とともに、国際社会は、核兵器の未来にかかわる岐路に立たされている。核同盟国ではない非核兵器国は、その役割を果たした。いまや、米国、英国、フランスに限らず核武装国に圧力をかけるのは、核同盟国の役目である。さもなければ、核兵器のない世界はまさしくユートピア的目標と化し、核兵器はさらに広がるだろう。そのようなシナリオのもとで残る唯一の希望は、核兵器が決して使用されないことである。ちょうどわれわれが、コロナによる世界的パンデミックが二度と起こらないことを希望するように。

トム・サウアーは、ベルギーのアントワープ大学で国際政治学部教授として、国際関係、安全保障、軍備管理に関する講座を担当している。過去には、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院で研究員を務めた。2019年ロータリー学友世界奉仕賞を受賞した。‘The Nuclear Ban Treaty: A Sign of Global Impatience’ (Survival, 60 (2), 2018, pp.61-72) の共著者(ポール・メイヤー/Paul Meyerと)であり、また、Nuclear Terrorism: Countering the Threat (Routledge, 2016) の共編者(ブレヒト・フォルダーズ/Brecht Voldersと)でもある。

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【ナイロビIDN=フランシス・キニュア】

新型コロナウィルス感染拡大の影響でケニアの学校が休校になってから9カ月、学校が再開され、新学期が始まった。1月4日の朝、カラフルな制服を着て大喜びで学校へと向かう子供たちの姿が街角にあった。

学校に復帰した子供たちは興奮を隠しきれない。新プンワニ小学校に通う、ケイトの12歳の娘・チャーレーンは、家にずっといるのは退屈だったと言い、「勉強や友達、先生が恋しかった。学校に戻れてうれしい。」と語った。

若者たちが人生の難題に立ち向かえるよう支援しているカムクンジ準郡の地域団体「カムクンジ地域エンパワメント・イニシアチブ」(KCEI)は、複数の学校を訪問し、学校当局が、衛生器具を準備し、清潔な水を提供し、施設に立ち入る際はマスク着用を義務化していることを確認した。

学校関係者が熱を測ったり手に除菌スプレーをかけたりする順番を校門の外に並んで待つ子供達のほとんどはマスクをしていたが、実際に危険なのは校門をくぐってからだった。

親たちの心配

Francis Kinyua

子供たちに付き添う親たちには、嬉しさと心配が同居していた。ケニアでは依然として感染が広がっており、親たちは子供の安全を心配している。

保護者のイリーンは、「親としては、子供たちが学校に戻ることになって嬉しい。でも、同時に怖い面もある。どの子がウィルスを持っているかからないし、先生や支援員がウィルスを持っているかもしれない。心配はあるけれど、子供たちが安全でいてくれればと願っている。」と語った。

「政府は子供たちを学校に戻せと言うけれど、見たところ、子供は安全とは言えない。」と保護者の一人サイーダ(30)は言う。70人の子供が一つの教室にすし詰めにされ、どういう風にソーシャル・ディスタンスが取られているのかを見たうえでの判断だ。「教室も増設されていないし、机も増えていない。」コロナ禍以前と同じく、教室ではひとつの机あたり3人の児童が肩を寄せ合って座っていた。

「学校は混みすぎています。子供を学校に戻すにあたって、それが一番の心配だ。親の方だって苦しい。本を買うお金はないし、バス代も出せない。マスクや衛生用品を買うお金もない。子供たちの学校での安全を保証できない。心配だけど、政府の指示通り、子供たちを学校にやるしかない。」

不登校

2020年、世界保健機関国際連合児童基金は、新型コロナウィルスの影響で学校が長期休校になっていることに懸念を示し、休校によって、より貧しい国々において、若者の妊娠が増え、栄養不良が加速し、学校からのドロップアウトが増えるかもしれないとしている。

今週、1500万人の児童が学校に戻るものとみられるが、KCEIは、プンワニのスラムでは数百人単位の子供が学校には戻らず、その多くが少女であると考えている。子供が学校に戻らない理由は現時点では明らかではないが、妊娠や結婚を理由に戻らないというのが一つのありうる理由だ。「学校は、女子生徒が学業に集中し結婚を避けるうえで、一つの安全地帯となっていた」とKCEIのメンバーであるキニュアは語った。「しかし、コロナ禍によってセイフティーネットが破れ、少女が児童結婚のリスクに晒されやすくなっている。」

世帯の収入が減り、倦怠感が支配的になる中、一部の生徒たちは、学校閉鎖中の家計を補うために、売春や麻薬、酒、街での物売り、クズ金属・プラスチック集め、物乞いに走っている。これは、学校再開の際の不登校の原因になりやすい。

SDGs Goal No. 4
SDGs Goal No. 4

コロナ禍やそれに伴う行動制限のために仕事がなくなり、企業が倒産していることに多くの人々が不満を抱いている。多くの親たちはKCEIに対して、授業料等の支払い、新しい制服や教科書、マスクなどの購入が難しいとして、子供たちを新たに学校に送り出すのに前向きになれないと語っている。「もう1年も働けず、家に閉じこもりっきり。学校に行く子供たちをどう支えたらいいものやら。」とカムクンジ中学校の保護者の一人ジェーンは語った。

「学校は、手洗い場だけではなく、適切な水や石けん、手の除菌剤を教師や生徒のために準備しなくてはならない。教室や机も足りず、『生徒の間に1メートルの間隔を保つ』というルールも守れなくなっている」と、プンワニ小学校の校長は語った。

KCEIは、全体として7割の生徒が今週学校に戻ったとみている。高い数字に見えるかもしれないが、学校の教職員たちは、年間を通じて、さまざまな社会経済的理由によって子供たちが学校に来られなくなるかもしれないと懸念している。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)第4目標(すべての人に質の良い教育)を達成するには、社会経済的地位に関わりなくすべての子供たちが教育を受けられるようにしなくてはならない。この目標を現実にするためのすべての利害関係者による協力が必須だ。(原文へPDF

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※著者のフランシス・キニュアは、「カムクンジ地域エンパワメント・イニシアチブ」のメンバー。

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