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国連経済社会理事会議長、貧困層のコロナとの闘いを支援するよう訴え

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

国連経済社会理事会のムニール・アクラム議長が、新型コロナウィルスの壊滅的な影響を被っている途上国に対して追加資金を提供する早期の行動について世界レベルでの合意を促進すべく「有志連合」の結成を呼びかけた。

アクラム議長はIDNによる電子メール取材に答えて、債務の包括的な一時停止、現在および将来に債務危機に陥る可能性のある国々に対する債務組み換え、5000億ドル相当の特別引出権の新規創設、未使用の特別引出権の途上国への割り当てなどの措置を速やかにとるべきだと語った。

特別引出権とは、国際通貨基金(IMF)が定義し維持している、補完的な外貨準備資産のことである。

Image: Are we really all in this together? ‘Vaccine nationalism’ must be addressed to ensure equitable distribution of a COVID-19 vaccine. Credit: Pixabay.

アクラム議長はまた、国際・地域・国家レベルにおける各種の開発銀行から構成される国際金融機関によるものも含めて、有利な条件での融資、政府開発援助の[対GDP比]0.7%目標の実行、途上国に対する低利融資を提供する流動性・持続可能ファシリティの創設、年間1000億ドル規模の気候関連融資の実施も呼びかけた。

パキスタンの国連大使でもあるアクラム議長は、この有志連合は、G7、G20、パリクラブ、IMF理事会を含むものになると述べた。

他方、世界経済の半分弱を占めるG7諸国は2月19日、新型コロナウィルス感染症のパンデミック対策として「協力を強化」し、世界の貧困国に対するワクチン支援のために75億ドルまで支出を増やすことに同意した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はG7会合後、ワクチンの公正な配分は「公正の根本的な問題」であると述べ、15億ドルの支援を発表した。

新たな報告書は、ワクチンを「持てる国」を捉えている「ワクチン・ナショナリズム」を強く批判した。この報告書は、国際商業会議所研究財団が委託したものである。

この研究によれば、ワクチンの半分が先進国に割り当てられて、途上国がワクチンを利用できないようなことがあれば、世界経済は最大9兆2000億ドルの損失を被る、としている。

同研究は、新型コロナウィルス感染症のワクチン・治療薬・診断の開発・生産・公平なアクセスを加速化させるための国際的な枠組み「ACTアクセラレーター」に投資することには経済的意義があることを明確に示した。

驚くべきことに同研究は、もし先進国が272億米ドル(ACTアクセラレーターとそのワクチン分野の柱を担う「COVAXファシリティ」を十分に機能させるための不足資金)の投資を行えば、投資額の166倍のリターンが得られるとしている。

COVAX Facility

アクラム議長自身もまた、官民パートナーシップによって途上国における持続可能なインフラへの投資を加速するよう訴えている。同氏によれば現在協議が進行しているという。

この枠組みは、世界130カ国以上で開発問題に取り組む機関の広範なネットワークである国連常駐調整官制度を利用するものでもある。

「これらは、実現可能なインフラ構築プロジェクトを把握し、そのプロジェクト実施に当たって事業開始前に実行可能性調査を行う途上国の能力を高めることを可能にする優れた枠組みだ。また、投資の世界においてこれらのプロジェクトへの望ましいパートナーを見つけるための手段でもある」とアクラム議長は語った。

アクラム議長は、「来たる経済社会理事会の会合で途上国の資金調達問題について討議がなされ、先に述べた緊急活動に関して合意が促進されることを期待している。」さらに、「経済社会理事会が今年中にいくつかの会合を招集して、新型コロナ感染拡大に対応し、気候変動に対処し、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための『大胆な決断』を各国が下すことを望んでいる。」と語った。

Franklin Delano Roosevelt, 1933/ Public Domain

そうした会合として、例えば、4月には「開発金融フォーラム」、翌5月に「科学技術イノベーションフォーラム」、そしてその仕上げとして7月に年次の「ハイレベル政治フォーラム」が予定されている。

こうした会合の重要性は、経済社会理事会が、国連システムの中心にあって、経済・社会・環境という持続可能な開発の3つの次元の前進に貢献するというところにある。

国連創設にあたって経済社会理事会を設置するという発想は、安全保障理事会が集団的安全保障を促進し世界の平和を執行する機関として考えられたことと対を成している。経済社会理事会は国際経済協力を通じて平和を促進する機関と目されたのである。

国連の枠組みを作った人物の一人として、フランクリン・デラノ・ルーズベルト米大統領(当時)がいる。当時彼が口にしていた考え方は、経済的不安定は病気のようなものであり、もしある国がその病にかかったならば、他国もその影響を受ける、というものであった。

したがって、国連憲章は明確に、経済社会理事会の目的は「より広範な自由において、生活の水準を向上させる」ことにあると謳っている。

その後経済社会理事会は、討論と革新的な発想を促進し、前に進むための合意と協力を固め、国際的に合意された目標を達成する取り組みを調整する中心的な枠組みとなった。

国連憲章の制定以来、経済・社会・保健・人道・開発問題に関する国際協力の全体的な枠組みは、経済社会理事会の傘の下に創設されることになった。

UNECOSOC chamber in New York City/ By MusikAnimal – Own work, CC BY-SA 4.0

今日、20の国際機関、地域委員会、自律的機関が、経済社会理事会に対して毎年報告をしている。(原文へ

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議会で女性が占める割合が史上最高に

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルアー】

世界各国の議会・政府で女性が占める割合をモニタリングしている列国議会同盟(IPU)が国際デーを前に発表した最新報告書「Women in Parliament」によると、議会に占める女性の割合は歴代最高の平均25・5%(前年比0.6増)を記録したが、このままのペースでは世界の議会で男女平等が実現するまでなお50年かかると警鐘を鳴らしている。上位3カ国は、大虐殺を経験し社会と法制度の再構築に取り組んできたルワンダ(61・3%)を筆頭に、キューバ(53・5%)、アラブ首長国連邦(50・0%)が占め、既に男女平等を達成している。ちなみに日本は9.9%で主要先進7カ国中最下位(166位)だった。(原文へ

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中国、キリバス、フィジー、そしてバヌアレブ島の村で: 気候変動の多重層的な影響の教科書的事例

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=パウロ・バレイナコロドワ】

2021年2月末、太平洋島嶼国キリバスの政府は、14年にフィジー共和国のバヌアレブ島ナトバツ(Natovatu)に購入した土地を、中国と共同で開発する計画を発表した。中華人民共和国が太平洋島嶼国における影響力拡大の動きを強めていることから、この発表は国際社会に若干の懸念をもって迎えられた。太平洋地域で激化している戦略地政学的パワー競争に関連付けて解釈されたのである。(原文へ 

それが妥当な懸念であることは間違いないが、この計画発表は、気候変動の多重層的な影響の教科書的事例ともなり得るものである。それは、世界の政治・戦略的課題、地域と国家の問題、植民地時代の遺産を、太平洋の島にあるナビアビア村の村人たちの日常生活や彼らの懸念、現地レベルの紛争と結び付ける。端的に言えば、われわれは、この数百万ドル規模の開発によって深刻化すると思われる、複雑で込み入った極めて“厄介な問題”に取り組もうとしているのである。

2014年、キリバス政府は、フィジー共和国で2番目に大きい島であるバヌアレブ島に約5,500エーカーの土地を購入した。当時のキリバス大統領アノテ・トンは、気候変動の最初の被害者である太平洋の諸国民の英雄として国際的に有名になった。キリバスは低地の島々からなる環礁国で、気候変動に起因する海面上昇によって深刻な影響を受けている。遠くない将来、これらの島々が居住不可能になる、あるいは水没さえしかねないという現実の危機がある。そのため、アノテ・トンは「尊厳ある移住」、つまり手遅れになる前に国民の移住を準備することを提唱した。キリバス政府が土地を購入したのは、そのような背景があってのことだった。

当初はその土地に「イ・キリバス」(キリバス人)を再定住させるという案が話し合われたが、その後、海面上昇により大打撃を受けたキリバスの食料安全保障を支えるために、まずは食料生産に活用すべきだと思われるようになった。移住は、後々の一つの選択肢となった。アノテ・トンの後を継いだ新たなキリバス政府は、さらに政策を変更した。レジリエンスの構築にいっそうの重点を置き、移住の選択肢はあまり重視しなくなった。バヌアレブ島に購入した土地を中国と共同開発するつもりであるという近頃の発表は、このような変化と一致する。

キリバス政府は、このバヌア・ナトバツの土地をアングリカン教会から購入した。今日でもフィジーの土地のほとんどは、先住民イ・タウケイのコミュニティーによる慣習的共同所有の下にあるが、問題の土地はいわゆる自由保有地で、植民地時代にフィジーに来た外国人によって占有されていた。元々はカイバラギ(欧州人)が、カカウドロベ州ワイレブ地区のナイカキ村の土地を、元の土地所有者であるナトバツ・ヤブサ(族)を代表する先住民の首長から購入したものである。カイバラギは、その土地をアングリカン教会に譲渡した。

1941年にアングリカン教会は、フィジー全土のソロモン諸島出身者がその土地に定住することを認めた。年季労働者としてフィジーで働くために、19世紀にソロモン諸島から連れてこられた人々の子孫がいたのである。最後にそのような労働者がソロモン諸島からフィジーに来たのは、1905年のことである。年季労働者の子孫はフィジー全土に定住し、最大の島ビチレブ島にある首都スバの周辺にいくつかの居住地を形成していた。そのいくつかがアングリカン教会によってバヌアレブ島の土地に移転させられ、アングリカン教会の信徒にされ、ナビアビア村を形成したのである。

入植者たちの理解では、1957年にアングリカン教会が300エーカーの土地を彼らに分け与えたのであり、彼らが土地の所有権を持っている。しかし、フィジーの原住民イ・タウケイの土地所有者の場合と同様、これは土地所有権を示す正式な書類を伴わない単なる口頭の契約だったようである。ナビアビアの入植者たちは数十年にわたり、この土地と周囲のバヌア・ナトバツの土地を居住地および生計手段として使用してきた。したがって、アングリカン教会がキリバス政府に土地を売却したと知って、彼らは非常に大きなショックを受けた。彼らには何の相談もなかった。事が済んだ後で初めて知らされたのである。

入植者たちがキリバスの移住計画を知ったとき、彼らは大変心配し、「自分たちはこの土地に残れるのか?」「自分たちの生計手段はどうなるのか?」「イ・キリバスが実際に来るのはいつか?」「よそから来る彼らの文化はどういうものか?」「彼らと一緒の生活はどういうものになるのか?」といった、非常に大きな疑問をもった。

ナビアビアの人々は、すでに大変に困難かつ複雑な状況の中で生きている。メラネシアの離散民として、フィジー国民とはなったものの、彼らはいまなお、概して自らをフィジーには帰属していない(メラネシアの)ソロモン諸島出身者と認識している。また、アングリカン教会と元々のイ・タウケイの土地所有者たちとの間には、長年にわたる未解決の問題がある。近隣の村に住むナトバツ族の人々も、その土地の所有権を主張している。これら多くの困難かつ複雑な課題に加えて、キリバス政府が新しい正式な土地所有者となり、さらにフィジー政府はキリバス政府による土地購入を支持した。なぜなら、フィジーの土地を新たな住まいとして提供し、フィジーが気候変動により深刻な影響を受けている太平洋の兄弟姉妹と連帯する国家であることを示したいと考えたからである。

この問題は、中国の関与が発表されたことによっていっそう複雑化している。中国とキリバス政府が“開発”を意図している土地は、すでにそこに住んでいる人々に治安と生計手段をもたらしている土地である。そこを“開発”することは、ナビアビアの人々がすでに経験している現在の困難をさらに悪化させるだろう。幾重にも重なる関係者や利害関係が存在するこの土地で、それが紛争を巻き起こす大きな要因となることは間違いない。

筆者が所属する団体トランセンド・オセアニアは、この2~3年、現地の状況に沿って関係者らと協力を行ってきた。農地としての利用をめぐる不安と緊張は明白かつ現実のものであり、コロナ禍の経済的影響によりいっそう悪化している。当団体がナビアビアの状況を分析し、主要な紛争促進要因と特定したものには、歴史的な強制移住、国をまたがる気候移住、土地の所有権と利用権、関係の緊張、現地政府の能力的限界、開発プロジェクト、コロナ禍や自然災害の経済的影響、度重なる自然災害に起因する食料安全保障の欠如と食料不足、多くの若者が抱えるメンタルヘルスの問題、学校からの早期ドロップアウトと薬物乱用、ソーシャルメディアの無責任な利用、文化的なジェンダー観体系などがある。

これらの紛争促進要因のいくつかに取り組む中で、トランセンド・オセアニアは、入植者たちと周囲のイ・タウケイ村落の代表者たち(首長や主要な権力者)を集め、第1回の対話集会とリーダーシップ・トレーニングを行った。このような環境において紛争変容と平和構築には時間がかかり、長期的な取り組みが必要であることは明白である。中国の関与の発表は懸念を引き起こし、問題をいっそう複雑化させる。

この事例が如実に示すのは、気候変動の多重層的な特性であり、ひいては、気候変動政策に対して多面的なアプローチを採用し、気候変動、安全保障、平和構築の間の関連性に取り組む必要性である。われわれは、各層間の関連性を認識しなければならない。つまり、フィジーの島の村が中国やキリバスの首都政府に及ぼす影響や、その逆の影響である。

パウロ・バレイナコロダワは、フィジーに拠点を置く平和構築と開発の地域機関である「トランセンド・オセアニア」のプログラム・ディレクターである。

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気候変動対策――太平洋諸島フォーラムに必要なのは一つの大きな声

自らの責任でない気候変動による「恐怖」の解決策を求める南太平洋の国々

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科学分野の男女平等については、一部の富裕国が開発途上国より大きく後れを取っている

【パリIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

SDGsと第4次産業革命に主眼を置いた最新のユネスコサイエンスレポート(4月に全編が公開予定)に収録されてる科学分野における男女差の現状(工学・科学系の学位取得者に占める女性の割合:世界平均33%)を解説した記事。科学分野の男女平等については、一部の富裕国が開発途上国より大きく後れを取っている(フランスとドイツが28%、韓国20%、日本がOECDで最悪の17%)一方、男女平等をほぼ達成している国々の特徴として、一部のアラブ諸国で女性研究者が急増傾向にあること(クウェート53%、アルジェリア47%、エジプト46%)、男女平等を重視した旧ソ連のレガシーがある国々で常に比率が高いこと(カザフスタン53%、アゼルバイジャン59%、キューバ49%)を指摘している。(原文へ

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未曽有の危機に直面する世界に希望の光:仏教指導者からの提言

【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

地域社会に根差したグローバルな仏教団体である創価学会インタナショナル(SGI)は、国際連合のように、未曽有の危機による暗雲に覆われている世界にとって希望の光である。創価学会の国際的機構であり、国連経済社会理事会との協議資格を持つNGOでもあるSGIは、世界192カ国・地域にメンバーを擁している。SGIの会長は、仏教哲学者で平和運動家、教育者でもある池田大作氏である。

池田会長は、1983年から毎年、平和と人間の安全保障を実現する取り組みとして、仏教の根本概念と国際社会が直面する諸問題の相互関係を探求する平和提言を発表している。また、これまでに教育改革、環境、国連、核廃絶に関する提言も行っている。

池田会長は、SGIの創設記念日(1月26日)に寄せた今年の平和提言「危機の時代に価値創造の光を」において、深刻化する気候変動の問題に加えて、社会的・経済的安定を世界で脅かし続けている新型コロナウィルスの感染拡大といった、現代の重要課題に対処するためにさらなるグローバルな協力を呼びかけている。

また、9つの核保有国が備蓄している1万3400発以上の核兵器と32の核兵器を是認する国々は、実存的な脅威となっている。原爆が日本の広島・長崎を破壊し尽くした1945年以来、核兵器の爆発力は飛躍的に増強されている。

SGI会長は、冷戦下で核開発競争が激化していた1957年9月に、戸田城聖創価学会第2代会長(1900~1958)が「原水爆禁止宣言」を発表したことを想起している。「この呼びかけを原点に、SGIは、核兵器を全面的に禁じる国際規範の確立を目指して取り組んできました。」と池田会長は述べている。

この目的のために、SGIは核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などの団体と行動を共にしてきた。この歴史に照らせば、ICANが2017年にノーベル平和賞を受賞し、その約3年後に核兵器禁止(核禁)条約が発効したことは、SGIにとっても何よりの喜びであった。

池田会長は、複合的な危機の状況が続いているにも関わらず、「『平和と人道の地球社会』を築く挑戦の歩みが、すべて止まったわけではありませんでした。」と述べている。2021年1月22日に核禁条約が発効したのは、そうした重要な前進がみられた一例である。

核禁条約は、国連創設の翌年(1946年)の総会の第1号決議で掲げられて以来、未完の課題となってきた核兵器の廃絶に対し、ついに条約として明確な道筋をつけた意義がある。

依然としてパンデミックによる深刻なショック状態にある世界

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

核禁条約という面では前進がみられたが、世界はパンデミックによる深刻なショック状態から依然として脱していない。2021年1月25日時点で新型コロナの感染者数は9900万人を越え、その内212万人以上が死亡した。わずか1年余の間に、その数は過去20年間に起きた大規模な自然災害の犠牲者の総数をはるかに上回っている。

「大切な存在を予期せぬ形で失った人たちの悲しみがどれだけ深いものか、計り知れません。とりわけ胸が痛むのは、感染防止のために最後の時間を共に過ごすこともかなわなかった家族が少なくないことです。」と池田会長は嘆いている。

そして、世界の労働者の約半数にあたる16億人の生活を脅かしたと推測されるパンデミックによってもたらされた経済状態の悪化と、世界的に社会的保護の取り組みを促進する必要性を強調している。

SGI会長は最新の平和提言のなかで、3つの主要項目に焦点を当てている。

グローバル・ガバナンス(地球社会の運営)の強化

第一の提案は、グローバル・ガバナンスを強化し、感染症対策をめぐる国際指針の制定に関するものだ。

今後も新たな感染症が生じる可能性を見据えて、SGI会長は、パンデミックに関する国際指針を採択するためのハイレベル会合の開催と、各国の連携強化を呼びかけている。

決定的な若者の役割

池田会長はまた、「ビヨンド・コロナに向けた青年サミット」を開催し、コロナ危機を乗り越えた先に築かれるべき世界について話し合うことを呼びかけている。「このサミットは、オンラインも活用することで参加形態を拡げながら、さまざまな環境で生きる若い世代が言葉を交わし合うことができます。」と池田会長は述べている。

2020年には、国連で「UN75」と題する取り組みが進められ、世界の人々の声を幅広く聞くための対話と意識調査が実施された。「UN75」の報告書の中で池田会長が特に注目したのは、青年の視点による提案などを国連の首脳に届ける役割を担う「国連ユース理事会」を創設するプランであった。

核兵器禁止条約―人類の歴史における転換点

SGI会長が行った第二の具体的な提案は、核兵器の禁止と廃絶に関するものだ。

TPNW Treaty
TPNW Treaty

核兵器のもたらす重大な危険を取り除くことが、(1970年に発効した)核不拡散条約(NPT)と、2021年1月22日に法的拘束力のある国際条約になった核禁条約の精神をつなぐもの、と池田会長は説明している。

「核禁条約の発効によって、核兵器は『地球上に存在し続けてはならない兵器』であることを法的拘束力のある文書で明確に規定する時代が、今まさに切り開かれたのです。」

池田会長の見方では、次の焦点は核禁条約の第1回締約国会合に移っている。すべての国に参加のドアが開かれていることから、大きな焦点は、少しでも多くの核兵器国や核依存国が議論の輪に加わることにある。

日本の特別な役割

Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB

「唯一の戦争被爆国である日本は、他の核依存国に先駆けて締約国会合への参加を表明し、議論に積極的に関与する意思を明確に示した上で、早期の批准を目指していくべき。」と池田会長は強調している。

「『同じ地球に生きるすべての民衆の生存の権利』を守り、『これから生まれてくる将来世代の生活基盤』を守り続けるという条約の精神に照らして、被爆国だからこそ発信できるメッセージがあるはずであり、その発信をもって締約国会合での議論を建設的な方向に導く貢献を果たすべきだと思うのです。」

SDGsと核兵器

SGI会長はさらに、第1回締約国会合で、議題の一つとして「核兵器と持続可能な開発目標(SDGs)」に関する討議の場を設けることを提言した。「核兵器SDGs」というテーマを、すべての国に関わる共通の土台に据えることで、核依存国と核保有国の議論への参加を幅広く働きかけることができるだろう。

気候変動とパンデミック危機が広がるなかでの安全保障の本当の意味

池田会長はまた、気候変動やパンデミックの危機が広がる中での安全保障の本当の意味について、8月に開催が予定されているNPT再検討会議で討論することを訴えている。さらに、最終文書の中に、次回の2025年の再検討会議まで、核兵器の不使用と核開発の凍結を誓約するとの文言を盛り込むようことを提案している。

SGI会長は、核禁条約では、核兵器を保有している状態でも核廃棄計画の提出を条件に、核保有国が条約に加わることのできる道が開かれている、と論じている。NPTの枠組みを通じて、「核兵器の不使用と核開発の凍結」の制約を基礎に「多国間の核軍縮交渉」の合意を期すことで、より多くの核依存国と核保有国が核禁条約に参加できる環境が整うであろう。池田会長は、この2つの条約の枠組みを連動させることで、核時代に終止符を打つための軌道を敷くべきだと訴えている。

アフターコロナ時代の生活再建

第三の提案は、コロナ危機からの経済と生活の立て直しに関するものである。

国連が繰り返し強調しているように、コロナ危機がもたらした経済的衝撃によって、多くの人々が突然の困窮にさらされた。このことは、社会的保護の仕組みを拡充する必要性に光を当てたが、その重要性は、37カ国で構成される経済協力開発機構(OECD)でも共通認識となってきている。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

「そこで私は、OECDの加盟国が、社会的保護に関するSDGsの目標を牽引する役割を担うとともに、コロナ危機で打撃を受けた経済と生活を再建するための政策について『世界標準』を共に導き出しながら、率先して実行していくことを期待したい。」と池田会長は述べている。

グリーン経済への転換

また、一つの方向性として、グリーン経済への積極的な移行による雇用機会の創出と産業の育成をはじめ、社会的保護制度の拡充のために軍事費を削減して転用することなどが考えられる、と述べている。

社会のレジリエンス

さらにSGI会長は、社会のレジリエンスを強める意欲的な政策を進めるうえでOECD加盟国は積極的な役割を果たせると指摘している。「現代における危機は、国連防災機関が強調するように、さまざまな脅威や課題に包括的かつ同時に対処していく『マルチハザード』の視座に立つことが欠かせなくなっている。」

池田会長は、SGIが仏教組織として今日まで志を同じくする人々や諸団体と深めてきた連携を礎としながら、「2030年に向けてSDGsの達成を市民社会の側から後押しし、『平和と人道の地球社会』を築くための挑戦を、さらに力強く展開していきたい。」と述べている。

2021年平和提言は、池田会長のこれまでの提言と同じく、日蓮仏法のみならず、平和の文化と池田会長の知性及び世界中の哲学者や政府・宗教指導者との長年にわたる様々な出会いを基礎とした、とりわけ包括的なものであった。(原文へ)(PDF版

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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INPS-IDNが加盟する「国連SDGsメディア・コンパクト」、新型コロナ危機の社会経済的影響を20億人超の視聴者・読者に向けて発信

ウイルスは爆撃できない! 共通利益のための新たな安全保障への期待

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=デニス・ガルシア】

各国は、国民を守るために現実に必要な投資を犠牲にして、高価な兵器システムを備蓄するために大切な資金を費やしている。国家安全保障の胸算用は、巨額の兵器備蓄がすなわちパワーと地位であることを前提としている。しかし、21世紀の各国に実存の危機をもたらしている課題のどれを取っても、兵器によって取り組むことも、一国の単独行動によって解決することも、さらには軍事手段によって戦うこともできない。世界規模のコロナ禍で、各国の国家安全保障への投資は現実の脅威に立ち向かうには無意味であることが露呈した。変革の機は熟している。各国は一斉に一つの危機に立ち向かっている。それは、国家防衛に対する人間中心のアプローチへの移行である。第二次世界大戦後最悪の危機をきっかけに現行の世界秩序を変革できないとしたら、いつできるというのだ? この問いに対する答えは、“世界秩序は準備ができていないかもしれないが、行動するべき時が来た”である。(原文へ 

ノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーンの推定によれば、米国は“国家防衛”の名において核兵器システムを維持するために年間351億ドルを支出している。この額は、集中治療病床30万床、人工呼吸器3万5千台、看護師15万人、および医師7万5千人の年間費用に相当する。安全保障に対する軍事中心のアプローチは、現在病床に就いている、あるいは今後新型コロナに感染する、あるいは気候変動のカオスによる損害に脆弱な世界中の市民を守るものではない。事実それに失敗していると気付くべき時である。結局のところ、ウイルスを爆撃することはできず、爆弾で気候変動を是正することもできないのだ。

ウイルスとの戦いにおいて、兵器や爆弾に何の価値があるだろうか? それらは、現実の危機と戦う資源を市民から奪っている。筆者は、武器の流れと国際(非)安全保障を関連付けるさきがけとなった書籍のうちの一冊を執筆して以来、なぜ全ての国が兵器備蓄や無益な軍事中心の安全保障態勢のために国家資源(財務的資源と知的資源)を流用するのかという問いを考え続けている。国は、備蓄した兵器でウイルスを攻撃することも、国民を守ることもできない。

世界の軍事費は、2019年にほぼ2兆ドルに達した。2015~2019年に武器輸入額が最も大きかった国々は、パンデミックへの備えが最も脆弱だった国でもある。サウジアラビア、インド、エジプト、アルジェリア、イラク、パキスタンである。これらの国々は、国民のために人間の安全保障に資金を費やして、パンデミックによる打撃に耐えることもできたはずである。

また、大国は、将来の戦争から自国を守るため(という想定で)、人工知能(AI)を使った新たな兵器システムの開発にも余念がない(国民による精査や監視をほとんど、あるいはまったく受けることなく)。筆者は、2017年より活動している学際的科学者団体、「自律型兵器の規制に関する国際パネル」のメンバーであり、この分野について国連での議論において証言を行ったことがある。大国は、AIに依存して目標達成を強化する未来の“アルゴリズム戦争”の準備を進めている。筆者は、アルゴリズム戦争の準備をしても、目の前の危険な脅威から人々を効果的に守ることはできないと考える。それどころか、将来待ち受ける非軍事的な実際の戦いにおいて、装備不十分な国々がどう戦うことになるかを(またしても)露わにするだろう。また、AIには、兵器化するのではなく、人類の共通の利益のために活用できる大きな可能性がある。戦争にAIは不要である。

世界的なコロナ禍を乗り切った後、各国は、人類の共通利益のために策定された新たな安全保障体制にいかにして移行できるだろうか? そのための実務的枠組みが、2015年に全ての国連加盟国が全会一致で合意した17の持続可能な開発目標(SDGs)である。SDGsは、全ての人々にとって人間の安全保障を実現する、歴史的かつ具体的な行動のロードマップを提供する。SDGsは、万人のための開発を促進する明示的かつ具体的な統一プラットフォームを提供する。目標の実施は、データに駆動され、エビデンスに基づき、科学を動力としている。コロナ禍により、問題を増幅し、複合化する動向に注目が集まっている。人口増加、気候破壊の影響、新技術の急速な開発である。これらの問題は全て、国家防衛に対する人間の安全保障中心のアプローチを必要としている。

筆者はこれまでの研究において、軍事的安全保障への執着から人間中心の国家安全保障へと移行する方法を模索してきた。オーストラリアのNGO、人類の未来委員会(Commission for the Human Future) が近頃発表した話題の報告書は、筆者の論点を裏付けている。何十億ドルもの資金を兵器システムにつぎ込む必要がある、時代遅れで従来的な安全保障上の脅威への対処をやめ、代わりにあらゆる国のあらゆる知的・経済的武力を動員してSDGsを実施する必要がある。フランシスコ教皇は、武器の製造をやめるよう求め、「他者をケアし、命を救うために使われるべき巨額の資金を費やす」ことをしないよう警告した。

2020年は壊滅的なコロナ禍で始まり、それに続いて第二次世界大戦以来最悪の経済危機に見舞われた。しかし、この2020年はアースデイ50周年でもあり、国際連合75周年、気候変動に関する国連パリ協定5周年、国連SDGs採択5周年でもある。記念すべきこれら全ての事柄は、人類の共通利益のために今一度力を合わせて人間の苦しみを止める新たな機会が訪れていることに気付かせてくれる。

デニス・ガルシアは、ボストンのノースイースタン大学教授である。著作 “When A.I. Kills: Ensuring the Common Good in the Age of Military Artificial Intelligencea” が刊行予定。また、戸田記念国際平和研究所「国際研究諮問委員会」のメンバーである。ロボット兵器規制国際委員会副議長も務めている。

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【ルンドIDN=マイケル・マクイクラン】

数世紀にわたったヨーロッパ諸国による植民地主義政策は、各国内および各国間の不平等の形成に多大な影響を及ぼしたが、その多くは未だに十分に対処されていない。これは平凡な発言に思われるかもしれないが、このことが欧州連合(EU)加盟国の間で認識されるようになったのは、ごく最近になってからである。

2019年、欧州議会はアフリカ系の人々の基本的権利に関する決議を可決した。この決議は、植民地主義政策と奴隷制の歴史を総合的に捉えるよう呼びかけるとともに、これらの歴史が今でもアフリカ系の人々に悪影響を及ぼしている点を認めている。

同じく、欧州委員会が昨年発表した人種差別反対行動計画(2020年~2025年)は、植民地主義は欧州の歴史の一部であり今日の社会に大きな影響を及ぼしている、と宣言している。

Map of Europe

にもかかわらずEUが、植民地主義政策に由来する構造的な遺産を十分に認識し、ましてや問題に取組むところまでたどり着くには、まだしばらく時間がかかるようだ。そうした構造的遺産の中に、EU域内で白人と有色人種の間に引かれている人種の分断線の問題がある。EU諸国の社会の全主要分野において、有色人種の人々が最も差別される傾向にある。しかし一方で、人種についてや、白人と有色人種の違いについて話すことは、EUにおける政治や法律分野における議論の一部にはなっていない。

スウェーデンの事例

ヨーロッパで植民地主義政策の歴史についてやっと認識しようとする動きがでている点を観察するには、スウェーデンが一つの好例になるだろう。スウェーデンは、第二次世界大戦後、自国に植民地主義や人種主義の問題がない「倫理的な超大国」として振る舞ってきた歴史がある。スウェーデンは、男女平等、グローバル正義と団結の擁護者であった。

スウェーデンは、1960年代初頭から国連において植民地主義に異を唱え、反植民地主義闘争を積極的に支援した。南アフリカ共和国のアパルトヘイト政府から非合法とされ、米国がテロ組織とみなしていたアフリカ民族会議(ANC)に対しても積極的に資金援助を行っている。

今日、スウェーデンは比較的小国にもかかわらず、(対GNI比で)世界最大級の開発援助国である。また、つい最近まで、スウェーデンは欧州で人口当たりで最も移民の受入れに寛容な国だった。もし、『良い国指数(Good Country Index)』のランキングを信じるとすれば、スウェーデンは、世界で最も人類の公益のために貢献している国ということになる。

しかしスウェーデンは、世界の人種を分断してきた植民地政策に参加し、そこから利益を得たのみならず、貢献さえしてきた歴史を持つ国である。第一次世界大戦と第二次大戦の戦間期、スウェーデン議会は国立の人種生物学研究所の設立を決議した。当時の一般観念は、スウェーデン人の民族的な分類は、人種的に優れたノルディックタイプのヨーロッパ白人種に属するというものだった。

またスウェーデンは、15世紀末以来欧州諸国が植民地を拡大していくなかで行った人種に基づく国際秩序の再編成を、ただ傍観しているだけではなかった。それどころか、海外植民地獲得競争に参画し、カリブ海のサン・バルテルミー島を100年近く支配している。当時スウェーデン支配下のこの島は自由港として重要な位置を占め、ここに連れてこられたアフリカ人奴隷の扱いは、近隣の(他の欧州植民地である)島々となんら変わるものではなかった。

Slave Trade (1650-1860)/ Slavery site

現在、スウェーデンの全人口に占める非ヨーロッパ系の子孫の割合は15%~20%となるが、彼らの失業率は白人と比較して突出している。スウェーデン生まれの白人市民の就労率はほぼ100%だが、アジアやアフリカ出身の市民の就業率は55%~60%にとどまっている。

アフリカ系スウェーデン人が高等教育を得れば得るほど、同程度の教育を受けた白人のスウェーデン人との所得格差が大きくなり、また、教養レベルに見合った就労機会を得るのが難しくなる傾向にある。例えば、大学を卒業したスウェーデン生まれのアフリカ系市民の就労率は、大学卒の他のスウェーデン国民の就労率より約49%低いものである。

こうしたスウェーデン社会における階層は、歴史的に植民地主義政策に関わった世界各地の国々に共通してみられるパターンの一つである。

植民地主義の遺産に取組む

スウェーデンと他の欧州諸国は、いくつかの点で努力が認められるものの、世界各地で今も見られる多くの不平等が植民地主義政策の遺産である事実を認めていない。アントニオ・グテーレス国連事務総長が述べているように、植民地主義は社会的不正、グローバル経済、さらには国際的な力関係の中に依然として影響している。

Photo: UN Secretary-General António Guterres delivers the annual Nelson Mandela Lecture. Credit: UN Photo/Eskinder Debebe

かつて植民地を支配した国々は、例えば国連や世界銀行、国際通貨基金といった組織における自国の優位を放棄することを拒み続けている。多くの欧州諸国が、国連総会や人権理事会で圧倒的多数の国々が賛成して採択した、民主的で公正な国際秩序の構築を呼びかける国連決議に、一貫して反対し無視してきた。

今年は、2001年に南アフリカ共和国で反人種主義・差別撤廃世界会議が開催され、人種差別に反対した世界で最も包括的な文書が採択されてから20周年にあたる。とりわけ、ダーバン宣言及び行動計画は、植民地主義政策により作られた人種構造に終止符を打ち、関連諸国に対して大西洋奴隷貿易の結果として今日まで根強く残る悪影響を食い止め、反転させるよう訴えている。

英国、フランスとその他の欧州諸国は、ダーバン宣言を履行することに反対してきており、スウェーデンも欧州諸国の立場を支持してきた。例えば、2020年末に国連総会が同宣言の包括的履行を求める決議を採択し、アフリカ系の人々に関する恒常的な協議機関を国連に設立する決定を支持したが、採決にかけられた際、106カ国が決議を支持したのに対して、英国、フランス、オランダを含む14カ国のみが反対票を投じた。この際、棄権票を投じた44カ国の中にスウェーデンが含まれている。

それでも欧州連合諸国は、ゆっくりではあるが植民地主義政策が世界にもたらした影響について認める方向に変化しつつあるようだ。2020年の12月、欧州議会は初の奴隷貿易とその廃止を記念する欧州デーを開催した。またスウェーデンでは、政府機関が、欧州による植民地主義政策が構築した人種秩序にスウェーデンがいかに参画したかについて、一般国民の理解を高める取組みを行っている。こうした取組みには、欧州で唯一先住民と認定されているサーミ人を植民地支配してきたスウェーデンの歴史も含まれている。

これまでのところ、過去の清算に向けた具体的な手続きがとられているわけではない。しかし、植民地時代の過去と現在への影響について誠実に向き合おうとする動きが始まっているのを目の当たりにしているのかもしれない。(原文へ

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

本論文は、核兵器禁止条約発効日に欧州の新聞数紙に、それぞれの言語で掲載されたものである<オランダのデ・フォルクスラント(De Volkskrant)、ベルギーのル・ソワール(Le Soir)(フランス語)およびデ・モルゲン(De Morgen)(オランダ語)、ドイツのシュピーゲル・オンライン(Spiegel Online)>。

【Global Outlook=モーリッツ・クット、ヤン・ホーケマ、トム・サウアー】

1月22日、核兵器禁止条約が発効した。核禁止条約とも呼ばれるこの新たな条約は、締約国が核兵器を開発、製造、実験、備蓄することを禁止する。同様に、核兵器の使用、使用の威嚇も禁止する。同条約の締約国は54カ国で、さらに32カ国が条約に署名している。今後さらに多くの国が参加すると予想される。同条約は、地球に対する大きな脅威、すなわち、人類と環境に壊滅的な影響を及ぼす核兵器の戦争使用を法律として禁止している。(原文へ 

著者らの国の政府(ベルギー、オランダ、ドイツ)は、禁止条約の署名も批准もしていない。オランダは交渉会議に出席したが、他の2カ国は傍観していた。3カ国とも、核不拡散条約(NPT)に定められた核兵器のない世界を支持することを公式に表明している。これが容易なことではないのは明らかだが、いつまでも目標を繰り返し表明するだけでは、実現に近づくことはできない。実質的な政府の措置や公共活動によってのみ達成することができる。

著者らは、ベルギー、オランダ、ドイツが核兵器禁止条約を支持し、適切な時期の条約参加を目指すことを願っている。そのような動きを取る十分な理由がある。第1に、これらの国の行動を、彼らが掲げる核兵器のない世界の実現という、政治的アジェンダに一致させることになる。第2に、これらの国が条約の今後の展開に影響を及ぼすことができるようになる。また、いずれの国も、世論調査で圧倒的多数が条約参加を支持していることが繰り返し示されていることから、それは国民の利益にもかなっている。最後に、それは禁止条約とNPTの相互補強にも寄与すると思われる。

また、3カ国は特殊な立場にもある。現在いずれの国も、核共有合意の一環として自国内に米国の核兵器を配備している。核兵器を使用する場合は、ベルギー、オランダ、ドイツのパイロットが自国の航空機を用いて行うことになっている。この運用はしばしば批判されており、3カ国全てにおいて核兵器の撤去を求める国会決議がなされている。禁止条約は、核兵器の国外配備を明示的に禁止している。現在3カ国に配備されている核兵器は冷戦時代の遺物であり、軍事的有用性はないと著者らは考える。3カ国の政府は、できるだけ早く米国に核兵器の撤去を要請し、国民が核戦争に巻き込まれる可能性を断つべきである。

NATOによる核兵器使用の威嚇に依存することで、3カ国の政府は、破滅的な影響を及ぼす非人道的兵器によって安全保障を確保しようとしている。そのような姿勢では、長期的に持続可能な安全保障を実現することはできない。NATOは、核兵器に頼らない効果的な抑止戦略について議論を始めるべきである。また、米国とロシアは、戦術核兵器を含む新STARTの後継条約について2国間交渉を開始するべきである。

残念ながら3カ国の政府は現在、禁止条約に対する厳しい批判を表明している。この条約は、単なる象徴的手段と評されることが多く、時には国際安全保障にとって危険なものと見なされることもある。著者らの見解では、このような主張は誤っている。禁止条約は現実の法文書であり、すべての締約国がそれにより拘束される。例えば、これは核実験を事実上禁止する初めての法文書である。それに対して包括的核実験禁止条約(CTBT)は、米国と中国が批准していないため発効できずにいる。また、禁止条約と不拡散条約との間に法的不一致はない。これは、ドイツ連邦議会調査委員会による最近の報告書によって裏付けられている。同報告書において、両条約は共同の軍縮体制を構成すると見なされている。

また、締約国だけにとどまらない大きな影響もある。年金運用基金(オランダなど)や銀行(ベルギーのKBC、ドイツのドイツ銀行など)のような金融アクターはすでに、禁止条約の直接的結果として核兵器製造関連企業からの投資撤退を検討および実行している。そして、反対派の行動を見れば、彼らが「象徴的手段」をいかに深刻に受け止めているかが分かる。2020年12月、NATOは条約に反対する声明を発表した。条約が象徴的価値しかないのであれば、なぜそうしたのだろうか?

条約にとって最初のイベントは、発効後1年目に開催される締約国会議となる。ベルギー、オランダ、ドイツは、この機会を捉え、オブザーバーとして参加することによって禁止条約締約国と交流するべきである。そのような関与を行っても、国はまだ何の義務も負わない。しかし、それだけでも、新たな条約とその締約国に対する現在の否定的な態度からの大きな決別となる。その点で、2020年9月にベルギーで連立政権樹立の合意がなされたことは幸先が良い。より建設的な基調があれば、国際外交にとって有利になるだろう。それはまた、8月に開催予定のNPT再検討会議で実りある成果を挙げるためにも役立つかもしれない。

結論として、西欧諸国は核兵器禁止条約を、核廃絶の約束にもっと真摯に向き合うべきだという世界の他の国々からの意思表示として受け止めるべきである。ベルギー、オランダ、ドイツは、力を合わせて国土から米国の核兵器を撤去し、政治的に可能な限り早く核兵器禁止条約に署名するべきである。

モーリッツ・クットは、ドイツのハンブルク大学平和研究・安全保障政策研究所の上級研究員である。ヤン・ホーケマは、オランダパグウォッシュ会議の議長であり、オランダの元大使、市長、国会議員である。トム・サウアーは、ベルギーのアントワープ大学の国際政治学教授である。全員が、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議との関わりを持っている。

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

ミュンヘン安全保障会議(MSC)は数十年間にわたり、論争を呼ぶ安全保障問題をめぐる対話を主に行う場所となっている。イランの核開発計画や、イスラエルとパレスチナ、アメリカとロシアのような不仲の国同士の協議など、複雑な問題が議題となり、公開または非公開で議論されてきた。MSCには、これまで多くの大統領、首相、外相、防衛相が出席している。2021年2月19日に開催された第57回会議は、過去56回の会議とはまったく異なるものだった。少なくとも二つの理由から、完全に違うものとなった。第1に、コロナ禍のため一日だけのオンライン会議となった。会議はライブ中継され、直接顔を合わせた機微のある対話や繊細な問題の考慮は不可能であった。第2に、驚くべきことに、大西洋地域の指導者と西側機関のリーダーのみが招待された。例外はアントニオ・グテーレス国連事務総長である(とはいえ、彼も西洋人である)。参加者の話題は、やや特異的に大西洋地域即ち西側の内政問題に集中した。(原文へ 

議題は幅広い問題にわたった。当然ながら、会議のほぼすべての発言が新型コロナウイルス対策に関係するものであり、可能なすべての手を打つという約束がなされた。しかし、豊かな国々が我先に十分な量のワクチンをかき集めようと激しい争奪戦を続ける一方で、西側のリーダーたちは会議で再び、世界の他の国々も忘れられてはいないという慈悲深い約束をした。

気候変動にも触れられた。安全保障への取り組みを拡大するということは、気候変動がもたらす安全保障上の影響にも対処するということであり、NATOの2030ビジョンにおいてもこれが論点となっている。イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長の言葉を借りれば、「気候変動は危機増幅要因であり、脅威を生み出す」ということである。しかし地球気候の破滅的変化を逆転させるための修復手段については、何の知見も提示されなかった。海面が上昇し続け、NATOの海軍基地が影響を受けるようになったら、対策が講じられるのかもしれないが。

MSCで中心的な話題となったのは、西側の復活、大西洋コミュニティーの再生ということである。発言者全員が、過去4年間に同盟が体験した政治的迷走から脱却できたことへの安堵を隠そうとしなかった。トランプのことは忘れよう! 「西側の消失を超えて」、西側の自ら招いた弱さを克服する。それが今年のモットーとなった。外交が可能になり、協調が復活し、大西洋同盟は再び世界的課題に取り組むことができるようになった。「アメリカ・イズ・バック」と、ジョー・バイデンは繰り返した。アンゲラ・メルケルは、アフガニスタン、リビア、あるいはマリへの軍事的関与に加え、NATOの防衛費をGDP比2%とする目標を達成するために引き続き懸命に取り組むと約束した。エマニュエル・マクロン仏大統領は、欧州の「戦略的自律」を達成し、EUが主要な役割を担い、欧州近隣国の地域紛争に対処する新たな安全保障体制の創出を望んでいる。EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、EUの国境を超えた防衛に関与する用意があることを示唆した。イェンス・ストルテンベルグは、NATOとEUがライバルではなく協調的パートナーであることを全員に保証した。そして、昨年EUを離脱した「グローバル・ブリテン」は、史上最大の防衛予算によって「われわれの価値」を守るために重要な役割を果たすだろうと、ボリス・ジョンソンは述べた。

ロシア、中国、インド、サウジアラビア、ブラジルといった他国のリーダーや、イエメンの反目し合う派閥、不仲の“アフリカの角”諸国、ミャンマーの抗議活動家などとの対話、会話、論争は、議題にならなかった。NATO史上唯一の実戦であるアフガニスタンでの戦争は失敗に終わった。20年が経った今、米国も他の同盟国も、どうしたら体面を失わずに手を引くことができるかの答えを見つけられずにいる。会議でこの話題がほぼ回避されたのも不思議ではない。それは、大西洋コミュニティーの新たな常態を見いだしたばかりの幸せと喜びに、水を差しかねないからである。

あからさまに欠如していた話題は、軍縮と軍備管理である。グテーレス国連事務総長は繰り返しグローバル・ガバナンスを呼びかけ、世界的停戦によって兵器を管理下に置き、仮想敵国と交渉することを提案したが、彼の短い発言を除き、誰も軍備管理に言及しなかった。それどころか、すべての発言者が軍事力を強化する必要性を強調した。NATO事務総長は、「中国の台頭、高度化するサイバー攻撃、破壊的技術、気候変動、ロシアの破壊的行動、継続するテロの脅威」と問題を数え上げることによって、基調を方向づけた。軍縮と軍備管理は現在、意味が通じない用語になっているようだ。軍備管理の惨憺たる状況については、米露政府間で微妙なシグナルがあった以外は、会議で話題とならなかった。人々が目にすることができたのは、仮想敵国同士の対話ではなく、たくさんの肩の叩き合い(もちろんバーチャルで)である。スクリーンに映るフレンドリーな表情や嬉しそうに立てた親指、心強いコメントは、西側にとってリセットボタンが押されたことを高らかに告げていた。もちろん、過去4年間の信頼性と一貫性に欠ける政策よりも、予測可能な政策と国際基準の受容のほうが好ましいことは間違いない。

しかし、防衛予算を大幅に増やし、地政学的競争に耐え得るようにすることが、西側の唯一の答えなのだろうか? どうやら、コロナ禍の打撃にもかかわらず、優先順位は変わっていないようだ。世界の軍事費は新たなピークに達している。世界所得に対する軍事費の割合は、2020年に2.3%に達した。1人あたりでは250米ドルに達し、かつてないほど高くなった。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによれば、世界の軍事費は2兆米ドル近くに達した。増加した理由の一つはコロナ禍である。世界所得は減少したが、その一方で、各国が経済復興策として軍備調達を拡大したためである。中国、インド、サウジアラビアといった国の軍事費が近年急速に増加しているものの、NATO加盟30カ国は、依然として世界の軍事費の約60%を占めている。フランス、ドイツ、イタリア、英国の欧州4カ国だけでも、世界の軍事費に占める割合はおよそ5分の1に達する。世界の武器移転は、再びスピードを上げている。

コロナ禍のまっただなかで、今は、さらなる軍事力のために投資するべき時だろうか? 致死率の高いウイルスは、特に米国と西欧諸国で猛威をふるっている。その状況で、これらの国のリーダーたちは、新たに見いだされた復古的な米国主導の欧州中心主義、すなわちポスト・トランプ体制をたたえている。彼らが物理的に一堂に会することができないという事実は、これがもっか最も差し迫った危機に対していかにちぐはぐであるかを物語っている。われわれは冷戦時代に戻ってしまったのだろうか? 西側と東側が武力や兵器に多額の資金を費やし、最終的にはソ連が経済的負担に耐えかねて崩壊したあの時代に? 一方が行動すると他方がそれに反応するという、歴史のあのような側面からわれわれは学ばなかったのだろうか? ミュンヘン安全保障会議が他の選択肢を何ら示さなかったことは間違いない。今必要なことは、国連とG20における防衛費削減の取り組みであろう。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRIの科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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気候変動対策――太平洋諸島フォーラムに必要なのは一つの大きな声

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=フォッカー・ベーゲ】

2月3日、太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国のリーダーたちが(オンラインで)集まり、「特別リーダーズリトリート会合(Special Leaders’ Retreat)」を開催した。目的はこの地域連合の新事務局長を指名するためで、パプアニューギニアのメグ・テイラー事務局長が2期目3年間の任期を4月に終了するのを受けて開催された。新事務局長には、クック諸島のヘンリー・プナ元首相が指名された。無記名投票の結果、プナ氏が9票、次点のマーシャル諸島の外交官ジェラルド・ザッキオス氏が8票を獲得した。これは、トップの地位がメラネシア出身者からポリネシア出身者に引き継がれるということを意味する。(原文へ 

しかし、会合に先立ってミクロネシア諸国のリーダーたちが、今回はミクロネシア出身者が事務局長になる番であるという見解を表明した。なぜなら、メグ・テイラー氏の直前の事務局長もポリネシア出身であり、ミクロネシア出身の事務局長は20年以上誕生していないからである。彼らは、事務局長のポストは地域を構成する三つの地理的グループの間で持ち回りにする(オーストラリアとニュージーランドもPIF加盟国であるが、通常の状況では事務局長の地位は求めない)という、非公式かつ暗黙の“紳士協定”について言及した。

ミクロネシア5カ国(ナウル、ミクロネシア連邦、キリバス、マーシャル諸島、パラオ)のリーダーたちは、“紳士協定”が守られなかったことに大変失望した。ミクロネシア出身の候補者が1票差で負けたのを受けて、彼らはきわめて不当な扱いを受けていると感じた。その後、ミクロネシア地域大統領サミットで、5人の首脳は彼らの国がPIFを脱退すると宣言した。

この宣言は衝撃をもたらした。他のPIF加盟国は、ミクロネシアのパートナーからこれほどの強い反応があるとは予想していなかった。ミクロネシア諸国がこの決意を貫いた場合、それはこの地域同盟の大きな断絶を意味し、PIFは加盟国の3分の1近くを失うことになる。これは、組織の50年の歴史において最も深刻な問題である。地域主義の精神は著しく弱体化し、国際社会における太平洋諸国の重要性は低下するだろう。

ミクロネシア諸国、特にマーシャル諸島とキリバスは、気候変動の影響に対してきわめて脆弱である。彼らにとって、地球温暖化は実存的脅威であり、これらの国は、太平洋諸国の気候変動対策の先頭に立ってきた。

しかし、彼らだけではない。メラネシア諸国とポリネシア諸国も脅かされている。例えばツバルは、気候変動に起因する海面上昇により居住不可能になる恐れがある、あるいは水没さえしかねない環礁国として、通常キリバスやマーシャル諸島とともに言及される。また、パプアニューギニア、バヌアツ、ソロモン諸島、あるいはフィジーの沿岸部または環礁部のコミュニティーは、海岸浸食、塩水侵入、洪水、浸水のために集落移転を余儀なくされている。

“太平洋の沈みゆく島々”は、人為的な地球温暖化の深刻かつ前例のない影響の象徴となっている。世界中で、太平洋諸国は気候変動に関連する政治的関心事であり、人々の注目の的となっている。また、これらの国々は、気候変動に関する国際政治の舞台で、国民を地球温暖化の“被害者”としてだけでなく、気候変動対策や気候正義のための戦いにおける強力で道義的な力としてアピールし、注目度の高さを巧みに利用する政治的才能を発揮した。国際的な気候会議でPIF加盟国の代表者が講演すれば、誰もが耳を傾けずにはいられない。これにより彼らは、普段の限定的な政治力をはるかに超える力を発揮することが可能になっている。

地域レベルでは、気候問題が太平洋における団結を促す最も重要な要因であることはほぼ間違いない。PIFが2018年9月に発表した「地域安全保障に係るボエ宣言」は、気候変動を「太平洋諸国の人々の生計、安全保障、福祉を脅かす最大の単独要因」と名指しし、「人間の安全保障」と「安全保障の拡大概念」を訴えている。

PIFは世界的にも、気候変動を平和と安全保障に結び付ける動きの先頭を走っている。PIF加盟国は、国連事務総長が気候変動と安全保障に関する特別顧問を任命すること、また、気候変動による安全保障上の脅威について、定期的に詳細な報告を行う特別報告者を国連安全保障理事会が任命することを要請している

端的に言えば、PIFは気候変動によって最も影響を受けている人々に発言の場を与えているのである。気候変動に関する議論において、PIFは道義的リーダーとして受け入れられている。気候変動に関するこのような国際的リーダーシップは、PIFが分裂すれば深刻な危機にさらされる。

とはいえ、まだ望みはある。ミクロネシア5カ国が実際に脱退の手続きをするには1年かかる。つまり、分裂を防ぐための猶予期間があるということである。ミクロネシアを除く数カ国のPIF加盟国のリーダーたち、例えばサモアやパプアニューギニアの首相らは、関係修復のために全力を尽くすと示唆しているパプアニューギニアのジェームズ・マラペ首相は、「ミクロネシア諸国がPIFに残ってくれるよう願う。それと同時に、すべての加盟国の権利が真の『パシフィック・ウェイ(Pacific Way)』で尊重され、保全されるよう、皆が協力してPIFの改革に取り組む」と訴えた。PIFの体制の意味ある改革が本当に必要とされている。リーダーズリトリート会合では、事務局長選出プロセスを再検討すべきであることが合意された。実際、選出プロセスを明快かつ透明なものにしなければならない。

2月3日の会合は対面ではなくZoomで開催されており、そのような形式はきわめて“非太平洋的”であった。直接的な人と人の交流は、太平洋文化において大きな重要性を持つ。リーダーたちが直接対面していれば、“パシフィック・ウェイ”の交流を行う余地がもっとあり、違った結果が出ていたかもしれない。太平洋文化の文脈では、“多数派”と“少数派”を対抗させる投票よりも、コンセンサスによる意思決定のほうが好ましいのは明らかである。

このような状況は是正することができる。太平洋地域では、市民社会は国境を超えて密接につながり合っており、特に教会は非常に影響力がある。このような市民社会も役割を果たすことができる。連帯を求めてロビー活動を行うことができる。気候変動対策や気候正義については、太平洋諸国の人々が一つの大きな声で訴え続けることが、太平洋諸国自身だけでなく他の国々にとっても、きわめて重要である。このような声が、気候変動に関する国際的議論と政治において大きな重要性を持つのである。われわれはそれを切実に必要としている。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、混成的な政治秩序と国家の形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。

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