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揺らぐ米国のリーダーシップが生み出す不安定な世界秩序

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン】

地政学において、覇権とは一つの国に権力が集中することを指す。覇権国が力によって世界を支配するとき、帝国が誕生する。しかし、国家がその地位を利用して新たな世界秩序を築き、共同の繁栄と平和を国際社会にもたらす場合には、その国家は覇権的リーダーシップを確立することができる。

第二次世界大戦以降、米国はその役割を果たしてきた唯一の国家である。世界秩序の構造的安定性は、国家安全保障と自由貿易という公共財を提供する巨大国家、米国によって成り立っていた。(原文へ 

冷戦後、世界はさらに多くのことを米国に期待した。それに対する米国の姿勢は、1991年9月23日の国連総会でジョージ・H・W・ブッシュが行った演説に適切に表現されている。

「米国が躍起になってパックス・アメリカーナを追求するつもりはないことを、皆さんに保証する。責任と願望の共有を基盤とするパックス・ユニベルサリス(万国による平和)を追求する」と、ブッシュは述べた。

自国の覇権ではなく国連を通して世界平和を追求するという米国の決意を、ブッシュは表明したのである。それは、国際社会との協力によって世界平和と共栄をもたらす「慈悲深い覇権国」であると同時に、一極的な年長者の覇権的優位を享受するという米国のビジョンであった。

しかし、2001年9月11日を境に米国の対応は変化した。米国の中心部に対するアルカイダのテロ攻撃と奪われた罪なき人々の命に、米国政府と米国民は激怒した。ネオコンの影響を受けたジョージ・W・ブッシュ大統領は、米国の価値観に基づいて世界を善悪に二分する道徳的絶対主義、国連と多国間主義的秩序を否定する覇権的一国主義、そして、テロの予兆が少しでもあれば先制攻撃を行うという攻撃的現実主義に固執した。

米国がアフガニスタンとイラクに侵攻した背景には、そのような状況がある。それは、米国が慈悲深い覇権国から専制的かつ報復的な覇権国へと変化したことの表れだった。

2009年1月にバラク・オバマが米国の大統領に就任したことは、新たな外交政策の始まりとなった。オバマは、道徳的絶対主義から共感と包摂の外交政策への移行、一国主義から多国間協力への移行、そして、友好国や同盟国と協力することで世界の主要課題を解決するというリベラルな姿勢への転換を表明した。

しかし、オバマの外交政策には覇権的リーダーシップを示す要素はほとんど見られなかった。彼は、イラクから米軍を撤退させた一方で、アフガニスタンでは駐留を維持した。また、「核なき世界」と「先制不使用」の核ドクトリンについて語った彼の言葉は、最終的には何にもならなかった。

それどころか、中国の勃興を受けて「アジア基軸戦略」を表明し、冷戦の緊張状態への逆戻りをほのめかしたのは、オバマである。リベラリズムを提唱しながらも同盟を操作して米国の優位を維持するというどっちつかずの姿勢は、「ヘッジ型覇権国」と言っても良いだろう。

オバマの後に就任したドナルド・トランプは、覇権的リーダーシップに微塵も関心を持っていなかった。「アメリカ・ファースト」のスローガンの下、トランプは多国間協力を拒否し、自身の取引観に基づいて米国の同盟国を「ただ乗り」していると非難した。米国はもはや「世界の警察官」としての役割を果たさないというトランプの言葉によって、それが明らかになった。

トランプは「米国の強さ」を提唱したが、それは世界秩序を安定化することではなく、米国の国益を一方的に支えることを目的としていた。米国はもはや覇権的リーダーではなく、自己中心的な超大国にすぎなかった。それは、米国の外交政策の歴史上最も大きな逸脱であった。

では、先週韓国を訪問したジョー・バイデン大統領はどうだろうか? バイデン政権は、ルールと規範に基づく世界秩序の回復と、同盟や多国間協力の強化を声高に提唱している。その目指すところは、米国の力の限界を認めつつ、友好国や同盟国との密接な協力を通して新たな地政学的・地経学的課題に対応することである。

米国は、中国やロシアのような専制主義国家の軸に対抗する自由民主主義国家の連合を形成しようとしている。同時に、友好国や同盟国にその連合への参加と関与を求め、米国の競争力の回復と経済安全保障の確保を狙っている。これが、バイデン政権の「包括的な戦略同盟」という概念の核心である。

その一方で、米国は、以前よりも国力が限られているために、国際社会における大仕事への対応を友好国や同盟国に頼る一種の「アウトソース型覇権国」になってしまったという印象をぬぐい切れない。

米国の覇権的リーダーシップは、世界の平和、繁栄、安定のために必要不可欠である。そのリーダーシップが目指すものは、国内外の変化や課題に応じて修正されることもあるだろう。

しかし、この40年にわたり、米国のリーダーシップは不規則な様相を呈している。そして、中枢部が不安定になる度に、世界は神経をすり減らしてきた。

ジョージ・H・W・ブッシュが掲げた「慈悲深い覇権国」という理想は、もはや実現可能ではないのだろうか? 偏狭な安全保障や差違の排斥ではなく、包摂、共感、共同の安全保障、平和という大戦略を夢見るのは愚かしいことだろうか?

米国に匹敵しうるライバル国がいまだないことを考えると、米国が協調的秩序と世界の未来を描く断固としたビジョンを策定することが、是が非でも必要である。

チャンイン・ムーン(文正仁)は、世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

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戦火が激しさを増す中、核不拡散条約再検討会議開催

【国連IDN=タリフ・ディーン】

核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議が8月1日から26日までの日程で開催されている。「核保有国ロシア 対 非核保有国ウクライナ」の戦争が進行し、さらには、「核保有国中国 対 非核保有地域台湾」、「核保有国北朝鮮 対 非核保有国韓国」、「核保有国イスラエル 対 非核保有国イラン」など、軍事紛争の可能性が取り沙汰される中で開かれる会合である。

同様に重要な動きとして、核大国である米国と英国が2021年のいわゆる「AUKUS」(オーカス)協定によってオーストラリアに原子力潜水艦を売却することになっている。中国やインドネシアがこれに対して示した懸念を受けて、米国の核不拡散問題の専門家らがジョー・バイデン米大統領に書簡を送っている。

Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons
Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons

かつてNPT代表団のトップを務め、国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)の検証・保安政策局長であったタリク・ラウフ氏は、第10回NPT再検討会議は「NPTの54年の歴史の中で最悪の国際環境の中で開かれています。」とIDNの取材に対して語った。ラウフ氏の挙げた点は以下のようなものである。

・ウクライナをめぐって全面的な代理戦争が起きていること。

・米ロ間の核軍備管理協議が完全にストップしていること。

・ロシアと米国の核兵器使用ドクトリンが核戦争の危険を増大させていること。

・中東における非核兵器・非大量破壊兵器地帯の創設に向けた協議が停滞していること。

・米トランプ大統領がハノイで北朝鮮が提示した寧辺核施設の解体提案を拒絶した影響により、米中間の緊張が高まっていること。

・包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効が1996年9月以来滞っており、北大西洋条約

機構(NATO)がその防衛の範囲をアジア太平洋の端まで広げつつあること。

・米ロ間の唯一の核軍備管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)が2026年2

月に失効する予定であり、極めて不安定な状態に置かれていること。

「これらすべての有害な動きが、NPT再検討会議の行く末に影を投げかけています。」と、ラウフ氏は語った。

Gustavo Zlauvinen/ UN Photo
Gustavo Zlauvinen/ UN Photo

「1987年以来すべてのNPT再検討会議に公の代表として参加した私としては、ささいな言葉遣いだったり非現実的な世界観を巡って角を突き合わせる各国代表をうまくなだめようとしているグスタボ・スラウビネンNPT運用検討会議議長の気持ちが良くわかります。スラウビネン議長は、再検討会議の最終日である8月26日まで、NPTの義務と既に合意された公約の履行に向けて行動計画を策定するために『人間の本性の善の部分』を探ろうとしているのです。」と、ラウフ氏は語った。

米国のバイデン大統領は、NPT再検討会議に先立つ声明の中で、「世界が第10回NPT再検討会議に集う中、米国は、核戦力の責任ある守り手となり、核兵器なき世界という究極の目標に向かって努力し続けるという世界に対する公約を改めて確認した。」

「この公約があるからこそ、我が国は今年1月、他の核保有国とともに『核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない』という私たち共通の信念を明確にした。私達の国家安全保障戦略において核兵器の役割を低減することを私の政権で優先してきたのはこのためです。」

Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.
Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.

バイデン大統領は、世界全体が不安定化し動乱に満ちているこの時にあって、「グローバルな不拡散体制の根本原則への私達の共通のコミットメントを再確認することが、今ほど必要とされている時はありません。」と指摘したうえで、「私の政権はNPTを引き続き支持し、あらゆる場所で人々を保護するこの不拡散の枠組みを強化し続けます。その点、ご安心いただきたい。」と語った。.

米国務省のネッド・プライス報道官は7月25日、米国はNPTを支持しつづけると記者団に語った。「NPTが核兵器国にも非核兵器国にも課す義務を強調することは、極めて重要なことだと考えています。」

「グローバルな不拡散体制が挑戦を受けている中、NPTが発効してからかなりの時が経つけれども、その意義や重要性は何十年経っても全く失われることはないことを明確にする点で、米国はNPTの加盟国と共にある、という点が重要だ。」

核拡散予防プロジェクト(NPPP)の広報は、7月27日の声明で、バイデン大統領は兵器級の高濃縮ウランを燃料とする潜水艦8隻の売却に進むべきではないと訴え、この計画は「核不拡散体制を損なう」と述べた。

この専門家らは、原潜は核兵器に使用不可能な低濃縮ウランを燃料とすべきだと述べている。

インドネシアもまた同様に、今回のNPT再検討会議に対して作業文書を提出し、「原子力潜水艦能力を持つことがグローバルな核不拡散体制に与えかねない帰結についての懸念」を示し、このような計画は「核物質、とりわけ艦船の燃料として作戦利用される高濃縮ウランが拡散し兵器用に転換されるリスクを増大させることになる」と強調した。

これと同様に、中国政府の関連組織は先週、「AUKUSの原子力潜水艦協力はNPTの目標及び目的の重大な侵犯であり、兵器級核物質が核兵器国から非核兵器国に違法に移転される危険な先例を作ることになり、明白に核拡散を促進する行為だ」と述べた。

テキサス大学オースティン校の教授でNPPPのコーディネーターであるアラン・J・クーパーマン氏は、「このように批判が集中するのは珍しく、それがAUKUSの急進的な性格を示しています。国際社会は半世紀にわたって、拡散のリスクを減らすために兵器級ウランから徐々に脱却してきました。しかし今や、米国はそれを潜水艦用燃料として大規模に売却し、他国が自らの高濃縮ウラン輸出入の権利を要求する先例を作ろうとしています。核不拡散体制は『終わってしまう』ことになりかねません。」と語った。

ラウフ氏は、2021年9月15日のAUKUS協定による米国のオーストラリアに対する原子力潜水艦提供は、バイデン政権による無責任な決定の一つだと語った。

AUKUSの構成国(オーストラリア・英国・米国)は、IAEA保障措置(検証)に関して「ゴールデン・スタンダード」を順守すると公約してはいるが、現実に設定される唯一のゴールデン・スタンダードは、2トンもの兵器級高濃縮ウランをIAEA保障措置の枠から外すことによって、IAEAのNPT検証体制に風穴をあけることになる。

私は1988年、「パンドラの函を開ける:原子力潜水艦と核兵器の拡散」というタイトルの報告書を書き、それは今でも最も権威のある調査だと思っているが、この報告書では、IAEAには原子力潜水艦の核燃料や原子炉を監視・査察する能力が欠けていることを明確に示した。

「私は第10回NPT再検討会議に対して、オーストラリアのような非核兵器国がIAEA保障措置の枠外で原子力潜水艦を運用することを拒絶するよう求めてきました。」

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は8月1日のNPT会議開会にあたっての演説で、「私たちは皆、条約の目的と役割を信じているからこそ、今日ここにいるのです。しかし、条約を未来に生かすには、現状を超えていく必要があります。そのためには、新たなコミットメントと真の意味で誠実な交渉が要求されます。さらに、すべての締約国が耳を傾け、歩み寄り、過去の教訓と未来の脆弱さを常に考慮することが求められます。」と語った。

グテーレス事務総長はまた、「人類は、広島と長崎の惨禍によって刻み込まれた教訓を忘れ去る危機に瀕しています。地勢学的緊張が、新たな段階に達しつつあります。競争が、協力と協調に勝りつつあります。」と指摘したうえで、「不信が対話に、分裂が軍備縮小に取って代わっています。」と語った。

ラウフ氏、NPTでのグテーレス事務総長の演説は「いくつかの点で極めて不十分なものであり、国際関係におけるこの重要な岐路にあってリーダーシップを発揮する機会を逃した。」と指摘したうえで、「とりわけ、国連が被寄託者となっている核兵器禁止条約(TPNW)に事務総長が言及しなかったのは衝撃的でした。」と語った。

核兵器禁止条約は2021年1月に発効し、その第1回締約国会合が今年6月にウィーンで開始された。その締約国会合では「核兵器のない世界へのコミットメントに関する宣言」と題する重要な宣言と行動計画が採択されている。(原文へ

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|NPT再検討会議|語り継がれるべき原爆の悲劇(和田征子日本原水爆被害者団体協議会事務次長)

【ニューヨークIDN=和田征子】

長崎の被爆者として発言の機会を与えて頂き感謝いたします。

長崎が原爆によって甚大な被害を受けたとき、私は1歳10か月でした。爆心地から2.9キロ離れたところに自宅はありました。市街地は山に囲まれた長崎の地形のおかげで、直撃を受けることなく、これまで生きながらえました。当時の記憶はありません。母は何度も繰り替えし体験を語っていました。

Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, IDN-INPS.

母は山肌に爆心地から火事を逃れて、山越えして市街地に降りてくる蟻の行列のような人々の姿を見ました。体中の火傷のため茶色になり、着けているものもほとんどない、

髪の毛は、血で角のように固まった人たちでした。

家の隣の空き地には、毎日集められた遺体がごみ車(箱形の大八車)で運ばれ、毎日そこで焼かれました。母は誰もがその数にも、臭いにも何も感じなくなっていった、と言っていました。人間の尊厳とは何でしょうか?人はこんな扱いを受けるために造られたのではありません。

アメリカによる初めての核兵器の使用から77年が経ちました。被爆者の平均年齢は85歳となりました。毎年約9000人の被爆者がなくなっています。そのうち、被爆者はいなくなるでしょう。しかし、その前に三度目の核兵器の使用によって、新たな被爆者が生まれるかもしれない、そしてその人たちは私たち被爆者が経験したと同じ苦しみを経験することになるのです。

被爆者の痛み、苦しみ、それは深く、今なお続くものです。愛する者の死、生き残ったという罪悪感、脳裏に焼き付いたままの光景、音、臭い、原因のわからない病気、生活苦、世間の偏見、差別、諦めた多くの夢。それはきのこ雲の下にいた者に被爆者として死に、また生きることを強いるものでした。

2017年に核兵器禁止条約(TPNW)が採択されたとき、被爆者は生きていてよかったと

心から喜びを分かちあいました。長年叩き続けてきた、重い錆びついた扉が、開きはじめ廃絶への道への一筋の光が差し込んできたと感じました。

しかし、その扉の内側に見えたのは、巨大化する軍事費、日々開発進化する大量の兵器でした。

NPT発効から52年となります。世界は何をしてきたでしょうか。非核兵器国と被爆者は核兵器国が、NPTの条項履行を無視していることにいら立ちを感じました。

Testimony as a Hibakusha by Ms Masako Wada at UN General Assembly during 2022 NPT Review Conference on August 5, 2022./ Photo by Akira Kawasaki

核保有国とその同盟国は、彼らの不誠実さと傲慢さのために、人類全体が核戦争の瀬戸際にあることを認識すべきです。

日本被団協は1956年の設立時の世界への挨拶で、「私たちは自らを救うとともに、私たちの体験をとおして人類の危機を救おう」と誓いました。核兵器は、非人道兵器です。無差別に広範囲に爆風、熱線、放射能の被害を、そして何年も続く後遺症をもたらすものです。

被爆者はほかの誰よりも知っています。もし三度、核兵器が使用されたらその結末を喜んで見届ける人は、誰一人残されないことを。

政治に携わる方で、どれだけが被爆者に直接会い、その証言を聞いたでしょうか。

核兵器使用の結末を、どうか知っていただきたい。国を代表してここに出席の皆さん、日本を含め、お一人お一人の良心と英知に訴えたいと思います。この再検討会議において2010年に再確認された核兵器廃絶の「明確な約束」の履行を、誠実に議論していただきたい。

核兵器は人が作り、そして人が使いました。そうであればなくすことができるのも、人の英知と公共の良心であり、そしてその責任にかかっております。

ノーモア 被爆者!     

有難うございました。(英文へ

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第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議

原爆投下を生き延びて(和田征子日本原水爆被害者団体協議会事務次長)

核のない世界への道は険しいが、あきらめるという選択肢はない。(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

ATNアハメド・ファティ:今日は、創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣総局長を迎えられて光栄に思います。SGIは核軍縮の分野に焦点を当てた活動をアジアのみならず世界中で展開している主要なNGOです。まずは、世界各地に多くのメンバーを擁するSGIの背景についてお話しいただけますでしょうか。

寺崎広嗣:創価学会インタナショナルというのは、略してSGIと呼んでいますが、日本における創価学会という仏教団体が設立した国際機構です。各国とのネットワークを活かし、様々な活動の連携を図っていますが、特にSGIは国連のNGO、ECOSOCとの協議資格を持つNGOとして、 国連が取り組むイシューに、一貫して国連支援の立場で、大きくコミットしてきました。

戦後日本において、私たちの団体が大きく発展していく時代は、世界は核軍拡の時代でもありました。核兵器は生存の権利を奪う、絶対悪ともいうべき存在。まさに私たちの倫理観、あるいは人間観、生命観からいって、この核兵器という存在は、何としても廃絶をしなければならない。これが戦後一貫した私たちの平和運動の原点となりました。

その根っこにある人類の生存の権利を守るというのは、今日ではもちろん人権やあるいは持続可能な開発目標(SDGs)はもちろん、人道等々、国連のさまざまな活動にも広がってきたというのが今日までの歴史だと思います。

世界中に1200万人ぐらいのメンバーがいますが、まさにこの平和を目指すSGIのネットワークに参加をして、各地でさまざまな活動を推進しています。

資料:ATN

ATN:非常に印象的です。一千万人を超えるメンバーを擁するNGOにお目にかかることはめったにありません。日本での活動目標は何でしょうか。とりわけ今は2022年核不拡散条約(NPT)再検討会議に参加されている訳ですが、国際社会へのメッセージは何でしょうか。

寺崎:冷戦後では、核兵器をめぐる、もっとも緊張した状況下に現在の世界はあります。そういう意味では今までの核軍縮、核のない世界を目指す取り決めであったこのNPTが、本来の目標に向かって各国が軍拡ではなくて軍縮に本来の道筋を見出せるか、そんな新しい一歩を始められるかどうか。これは本当に大事な局面に私達は立っていると思います。そういう意味で、私たちは各国の主張は尊重しながら学んでいますけれども、しかしもう一度この局面で各国の背中を押すために、核兵器という存在は人類の平和や安定を守るものではないという明らかなメッセージを、市民社会側として発信していきたい。そういう強い気持ちで私たちもこのNPTの再検討会議に参加をしています。

ATN:昨日国際安全保障・不拡散担当国務次官の記者会見に出席した際、私は、米国政府はなぜ、核不拡散・核軍縮の立役者である核兵器禁止条約(TPNW)に協力的ではないのかと質問しました。すると国務次官は技術的な問題があるだけだと答えたのです。つまり、中核的な原理原則には同意しているが、問題の大半は検証システムに関する法的なものだというのです。また国務次官は、米国は過去数十年で、自国の核兵器の80%を処分したと付け加えました。しかし現実には米国とロシアがそれぞれ6000発の核弾頭を保有しています。大国間の利害が対立するこの世界で、いつか本当に核兵器のない世界を見ることができると楽観的に考えておられますか。

寺崎:将来、それはやっぱり人類、あるいは各国の国民である私たち一人ひとりがやはり核兵器という存在がどういうものか。この本質を学んで共有するということがないと、どうしても政治の場で外交上の問題として扱ってしまうだけだと、それはなかなか軍縮への議論が進まないだろうと思います。

Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
Photo credit: Side event during the 1st Meeting of State Partieis to TPNW held in VIenna. Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

そういう意味ではTPNWが昨年発効しましたけども、そして6月に第1回目の締約国会議が開催されましたが、改めてやはり核兵器は禁止すべきものである、この理念を共有することは非常に重要なことだと思います。もちろん、現実からそこに至るまでのプロセスをどうやって進めていくのか。これはやはり我々も智恵を出し、声を出していかなければならないと思います。しかし、まず禁止すべきものである、そこを目指す。その強い意志がないとそのプロセスはやはり進まない。NPTが「核のない世界を目指す」のだとすれば、この禁止条約を通過しなければならないということは自明なことです。

NPTが礎石として大事なものだと、各国とも仰っていますが、であるならばそこへいたる一歩一歩を具体的な提案をして議論を深めるべきだと思います。

核兵器は、人類をまさに人質にしていると言っていい。この核兵器の威力が現状の世界を作っている。そのことに 普段、核兵器は我々の目の前にないので、そのリアリティを感じる人が少ない。であるがゆえに、私たちは市民社会における教育の活動を通して、この存在を明確に認識してもらう。それがプロセスを進めていくための最大のベースになると思っています。市民社会側の私たちは辛抱強く、また更に力を入れて進めていきたいと思います。

ATN:私はあなたの志に共感します。ここで、世界の民衆は団結して核廃絶を要求すべきだという主張について質問させてください。たしかに民主主義国である日本や韓国、欧州諸国の間では、核廃絶に向けた対話は可能でしょう。しかし、ロシアや中国、北朝鮮、そしてIAEAの事務局長が「核兵器を保有するために馬のように疾走している」と述べたイランのような新参者を含む全体主義体制を持つ国についてはどうでしょうか。私達は依然として民主主義国家と全体主義・権威主義政権の対立の中にいるという点について、ご認識は共有されていますでしょうか。このシナリオでは、もし民主主義国が核兵器を放棄すれば、核保有国は権威主義政権だけになりますが、こうした現実はあり得ると思われますか。

Photo: UN General Assembly Hall. Credit: UN
Photo: UN General Assembly Hall. Credit: UN

寺崎:もちろん、そのために全体がだんだん軍縮を確実に進めていく、そのためのスキーム、そのための考え方の共有というものがなければいけないと思います。

基本的に核兵器保有国というのはお互いの疑心感、猜疑心があるから、なかなか軍縮の方向に進まない。そのベースにやっぱりもっともっとお互いの安全保障のあり方を語り合うということが、外交の場でなされなければなりませんね。多分、核兵器を持ってる国でさえ(この維持だけでも大変な経費がまずかかりますが)、持ってるがゆえに、恐怖心がある、自分自身が怯える側になってしまいます。その悪循環なのですね。

私たちは今回NPTに来て、まずお互いに核兵器は相手が使わない限りは絶対私たちも使わない。すべての核兵器国がこの先制不使用の政策を採用するだけでも当面の話し合いのスペースができる、時間を確保できる。そこからまずスタートしてはどうかと主張しているところです。

ATN:最後にもう一つ質問させてください。SGIは今日ここ国連本部でサイドイベントを開催し、非常に多くの参加者がありました。このサイドイベントからのメッセージは何ですか。

NPT Review Conference side event "Avoiding Nuclear War: What Short-Term Steps Can be Taken?"/ Photo credit: Katsuhiro Asagiri. IDN-INPS Multimedia Director
NPT Review Conference side event “Avoiding Nuclear War: What Short-Term Steps Can be Taken?”Photo credit: Katsuhiro Asagiri. IDN-INPS Multimedia Director

寺崎:一般討論では、まずリスクをどうやって低減化させるか、このリスクをどのようにしたら低減できるか、多くの国が触れていましたが、今、このためのいろいろな考え方があると思います。皆、何かをやらなければ次にはいけない、これはたぶん共有感があるのだと思います。だからこの危機的状況の中で何かしらの方向に合意が成り立つということを通して、今後の展開に向かって学ぶことの多い一歩というものを、締約国みんなでぜひ作り上げて欲しい。

成功の経験を積み上げていくということの中でしかプロセスは進まないですね。

その執念というのは、核のない世界を目指さなければ、本当に自分たちの平和や安心はないのだと、そこにどれだけ多くの国々が強い自覚を持っているかにかかっています。これは私たち市民社会も同様に持ちながら、執念をもって語り合う側に私たちもいたいと思っています。

ATN:寺崎総局長。大変ご多忙ななか、インタビューに応じてくださり、心より感謝しています。世界の人々と共有される(核なき世界という)共通のビジョン実現に向けたSGIの取組みが成功することを祈っています。NPT再検討会議は始まったばかりで、今後数週間にわたる協議を経て最終文書の合意が、目指されるわけですが、ATNとしても今後のSGIの活動に注目してまいりたいと思います。

寺崎:有難うございます。私達のようなNGO/市民社会の方へ関心を持って頂いて、このようにインタビューをして頂いたことに、心から感謝申し上げます。また励みにして頑張ります。

ATN:光栄です。有難うございました。英文へ)(ATNサイトへ

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【国連IDN=タリフ・ディーン

今月初め、学者、反核平和活動家、市民社会組織(CSO)が国連本部に集まり、世界中で高まる核戦争の脅威について議論した際、その根底にあったテーマの一つが8月4日に開催されたサイドベントのタイトル「核戦争を回避するために、短期的に何ができるか。」に込められていた。

このサイドイベントでは、世界の5大核保有国(英国、米国、フランス、ロシア、中国、いずれも国連安保理の常任理事国)に対して、核兵器の「先制不使用」を約束するよう呼びかけるなど核戦争を回避する方途について多岐にわたる議論が行われた。その際、5大核保有国が先制不使用を約束すれば、その他の核保有4カ国(インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)もその例に倣うものと期待された。

国際平和と理解」(オスロ)の理事長であるアレクサンダー・ハラン教授は、3月以降、自身のほとんどの時間を核兵器の先制不使用政策の問題に費やしてきたと語った。

Alexander Harang/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Professor Alexander Harang, International Peace and Understanding, Peace Research Institute, Oslo/ Photo by Katsuhiro Asagiri

「(先制不使用は)古いテーマですが、現在起こっていることに鑑みれば、このテーマが今ほどに重要な時はありません。」とハラン教授は語った。

「今週のNPT再検討会議の一般討論を通じてほとんどの国が表明したように、私達は危険な局面に入っています。核兵器の実際の使用のハードルが著しく下がっているのです。」

「もしこの問題に効果的に対処することに失敗すれば、平和と軍縮をめぐる私達のその他のすべての努力が無駄になってしまうかもしれない。」とハラン教授は警告した。

ハラン教授はまた、「核保有国が『核兵器の先制不使用』を宣言することは、国連の軍縮機構の内部における信頼を再確立し、多国間軍縮への機運を取り戻すのに最も効果的な方法かもしれません。」と指摘した。

「また、核先制不使用は、現在にあって私達が実際に合意できるものだと理解しなくてはなりません。それは達成可能なものであり。そしてそれこそが、私達が核先制不使用に着目する必要がある主な理由なのです。」とハラン教授は訴えた。

8月26日まで4週間にわたって開催される核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議の「サイドイベント」として8月4日に開かれたこの会合は、カザフスタン共和国国連政府代表部、創価学会インタナショナル(SGI)、軍備管理協会(ACA)、戦略的リスク評議会(CSR)、世界政治経済研究所、「国際平和と理解」プロジェクトによって共催されたものである。

Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.
Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

仏教哲学者であるSGIの池田大作会長は今回のNPT再検討会議の開催を前に発表した緊急提案の中で、紛争において核兵器を最初に使用する国にならないこと(すなわち「核兵器の先制不使用」の原則)を宣言するよう核五大国に対して強く呼びかけた。

「核兵器が再び使用されかねないリスクが、冷戦後で最も危険なレベルにまで高まっている。」と池田会長は述べた。

60年以上にわたって核廃絶を熱心に追求してきた池田会長は、米国・ロシア・英国・フランス・中国に対して「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」とする今年1月3日の共同声明を、核兵器の先制不使用政策を宣言することによって具体化すべきだと訴えた。

「『核兵器の先制不使用』の方針転換が世界の安全保障環境の改善にもたらす効果には、極めて大きいものがあります。」と池田会長は論じた。

池田会長は、具体的な事例として、2020年6月に、中国とインドが係争地で武力衝突した時、数十名に上る犠牲者が出る状況に陥りながらも、両国が以前から「核兵器の先制不使用」の方針を示していたことが安定剤として機能し、危機のエスカレートが未然に防がれた例を挙げた。

「(核兵器の)先制不使用政策が核保有国の間で定着していけば、核兵器は『使用されることのない兵器』としての位置づけが強まり、核軍拡を続ける誘因が減るだけでなく、『核の脅威の高まりが新たに核保有を求める国を生む』という核拡散の解消にもつながる。」と池田会長は指摘した。池田会長は、平和・文化・教育を促進する1200万人の仏教徒の多様なコミュニティであり、NGOとして国連との協議資格を持つSGIを代表している。

世界に緊張と分断をもたらしてきた「核の脅威による対峙」の構造を取り除くことで、核軍拡競争に費やされている資金を人道目的に向けていくことが可能となり、新型コロナのパンデミックや気候変動問題をはじめ、さまざまな脅威にさらされている大勢の人々の生命と生活と尊厳を守るための道が大きく開かれるようになるだろう。

「私は8月のNPT再検討会議という絶好の機会を逃すことなく、核兵器国による『核兵器の先制不使用』の原則の確立と、その原則への全締約国による支持、非核兵器国に対して核兵器を使用しないという『消極的安全保障』を最終文書に盛り込むことで、安全保障のパラダイム転換を促す出発点としていくことを強く呼びかけたい。」と池田会長は述べた。

Photo: The Secretary-General António Guterres attends the Peace Memorial Ceremony in Hiroshima. Ichiro Mae/UN Photo
Photo: The Secretary-General António Guterres attends the Peace Memorial Ceremony in Hiroshima. Ichiro Mae/UN Photo

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は8月6日の広島での記者会見で、核保有国は「核兵器の先制不使用を約束すべきです。もし誰も先制使用しないならば、核による対立などというものはなくなるからです。」と同様の観点を主張している。

グテーレス事務総長は、「とりわけ今日、核のリスクが世界中で再び高まっています。核兵器の備蓄が強化されており、約1万3000発の破滅的な兵器が依然として存在しています。広島・長崎の教訓は明白です。」と指摘したうえで、「この地球上に核兵器のあるべき場所などありません。核という選択肢を永遠に取り下げてください。今こそ、平和を拡散させるべき時です。」と語った。

Ambassador Magzhan Ilyassov, the Permanent Representative of Kazakhstan to the United Nations/ Photo by Katsuhiro Asagiri

カザフスタンのマグジャン・イリヤソフ国連常駐代表は、このサイドイベントの開会挨拶で、「あらゆる惨禍の中で最も深刻な核兵器の脅威のために、1945年と同じく現在も世界は不安定な状態であり続けています。」と語った。国連は77年前、まさにこの核兵器の惨禍を回避するために設立された機関である。

しかし、国連や国際社会が核廃絶の取り組みを進めてきたにも関わらず、この恐るべき兵器は依然としてこの世に存在する。

イリヤソフ大使は、「経済体制の違いはあれ、この2年半全ての国々を襲ってきた混乱と破壊が、核戦争やそれがもたらす汚染のためにさらに悪化させられるようなことがあってはなりません。」と指摘したうえで、「平和や軍縮、正義、持続可能な開発、環境保護は、人類の生き残りと福祉のための前提条件にほかなりません。」と語った。

NPTは様々な課題に直面してきたが、依然として、国際的な安全保障の枠組み、グローバルな核不拡散体制の重要な礎石の1つであることに変わりはない。

「第10回NPT再検討会議は『前代未聞の大惨事に陥ることを回避するために、人間の安全保障と進歩に向けた重要な決定を迫られる』最も時宜を得た会議となります。」

イリヤソフ大使は、「カザフスタンは、すべての人々のための永続的な安定と安全を確保するため、他国と協力して一刻も早い安全な復興を追求していきます。核兵器のない世界を実現するための国際的な取り組みを提唱することは、独立以来一貫して守ってきた悲願です。」と語った。

「世界に核兵器というものがある限り、その不使用を絶対的に保証することは不可能であることを十分認識しています。しかし私たちが外交を再開した今、このNPT再検討会議の間にその可能性を最大限に生かすことが必要です。」

「私達は、一日も早くこの行き詰まりを打開し、人類にとっての新たな光と希望の地平を見ることができるように望んでいます。」とイリヤソフ大使は語った。

Christine Parthemore, Chief Executive Officer of the Council on Strategic Risks (CSR)/ Photo by Katsuhiro Asagiri

戦略的リスク評議会(CSR)のクリスティーン・パースモア会長は、核対立の可能性が高まっていると指摘した。

「この問題を動かしている要因は幾重にも存在します。地政学的な緊張が高まっていること、将来の軍備管理に関する取り決めを行う十分な推進力に欠けていること、世界は今、気候変動の危機やコロナ禍の影響に取り組んでいること、そして数え切れないほどの圧力がこの問題を引き起こしています。」

「そしてもうひとつの要因を見逃すべきではありません。その要因とは、いくつかの核保有国が、核兵器使用の閾値を下げ、誤算のリスクを増大させかねないような核能力の増強を推進或いは検討していることです。」とパースモア会長は語った。

「低出力」及び「準戦略」に分類されるような核兵器もそこには含まれている。また、核・非核いずれの武器も搭載することができ、危機にあっては区別することが難しい両用能力システムを保有している国々もそこには含まれる。

「私が国防総省にいた際にはその種の能力への関心が高まってきていて、そのことがCSRでの私たちの活動の動機になっています。多くの国々等と協力して、核兵器が使用されるリスクを低減する道を探り、核保有国に自制心と責任を持たせ、NPTの公約に向けて前進させようとしています。」

「私たちは、核保有国に対し、以下の3つの目標に向けた前進を示すあらゆる手段を検討するよう提言します:

1)今日の安全保障環境においては必要のない新型・新規の核兵器の取得への検討をやめること。

2)既に複雑な安全保障環境においてさらに曖昧さを増すような行動を回避し、そうした曖昧さを低減させ始 めること。

3)非核戦力と核戦力が一体のものにならないようにすること。

「そうした措置を実現する方法はたくさんあり、その多くが私の団体やその他のNGO、国連軍縮研究所などによって追求されてきました。」とパースモア会長は語った。

例えば次のようなものある。

・通常兵器と核兵器を搭載できる二重能力兵器システム(特定の兵器または巡航ミサイルのような広範なクラス)の追求を避けるための合意

・多くの国が通常型の中距離地上発射システムのみを維持することに関心を示していることから、中距離核戦力(INF)全廃条約の後継条約を検討すること。

・特定の地域に特定の種類の核能力の配備をしない、あるいは核兵器を全体として配備しないとの合意、或いは、それを一時的に取りやめる約束をすること。

NPT Review Conference side event "Avoiding Nuclear War: What Short-Term Steps Can be Taken?"Photo credit: Katsuhiro Asagiri. IDN-INPS Multimedia Director
NPT Review Conference side event “Avoiding Nuclear War: What Short-Term Steps Can be Taken?”Photo credit: Katsuhiro Asagiri. IDN-INPS Multimedia Director

軍備管理協会(米ワシントン)のダリル・G・キンボール会長と、世界経済政治研究所のイェルジャン・サルティバエフ所長もまたディスカッションに加わった。司会はSGI国連事務所のアナ・イケダ氏が務めた。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【広島IDN/ UNニュース】

核兵器保有国が、核戦争の可能性を認めることは、断じて許容できません。8月6日、広島への原爆投下77周年を記念する日本での式典で、アントニオ・グテーレス事務総長はこのように強調した。

「核兵器は愚かなものです。1945年から3四半世紀が経った今、この空に膨れ上がったきのこ雲から私たちは何を学んできたのか、問わなければなりません。」と、グテーレス事務総長は、被爆者、若き平和活動家、岸田文雄首相、地元関係者ら多数が参加した広島平和記念公園での厳粛な催しで、そう訴えた。

事務総長はさらに、「新たな軍拡競争が加速しており、世界の指導者たちは数千億ドルを費やして兵器の備蓄を強化しています。また、世界では約13000発の核兵器が保有されています。」と指摘したうえで、「深刻な核の脅威が、中東から、朝鮮半島へ、そしてロシアによるウクライナ侵攻へと、世界各地で急速に広がっています。…人類は、実弾が込められた銃で遊んでいるのです。」と警告した。

希望の光

UN Photo/Mitsugu Kishida | Hiroshima, shortly after a nuclear bomb was dropped on this city in August 1945.
UN Photo/Mitsugu Kishida | Hiroshima, shortly after a nuclear bomb was dropped on this city in August 1945.

グテーレス事務装置用は、現在ニューヨークで開催されている「核兵器不拡散条約の第10回運用検討会議」を「希望の光」に例え、「本日、私は、この神聖な場所から、この条約の締約国に対し、私たちの未来を脅かす兵器の備蓄を廃絶するために緊急に努力するよう呼びかけます。対話、外交および交渉を強化し、これら破壊兵器の廃絶によって私の軍縮アジェンダを支持するよう呼びかけます。」と強調した。

事務総長はまた、核兵器保有国は、核兵器の「先制不使用」を約束しなければならず、非核兵器保有国に対しては核兵器を使用しないこと、あるいは使用すると脅迫しないことを保証するべきだと強調した。

「私たちは、広島の恐怖を常に心に留め、核の脅威に対する唯一の解決策は核兵器を一切持たないことだと認識しなければなりません。」と事務総長は語った。

事務総長はまた、「指導者達は自らの責任から隠れることはできない。」と強調した。

事務総長は1945年の8月6日に最初の原子爆弾が広島に投下され9日に長崎に2発目が投下された事実を踏まえて、「(核保有国の指導者に対して)核という選択肢を取り下げてください。永遠に。今こそ、平和を拡散させるべき時です。被爆者の方々のメッセージを聞き入れてください。もう二度と、広島の悲劇を引き起こさないでください。もう二度と、長崎の惨禍を繰り返さないでください。」と訴えかけた。

グテーレス事務総長は若い世代に対して、「被爆者の方々が始められた任務を成し遂げてください。世界は、この地、広島で起こったことを決して忘れてはなりません。犠牲者の皆様の記憶、そして生き残った方々が残してくださった遺産は決して消滅することはありません。」と述べて演説を締めくくった。

世界は決しては忘れてはならない

その後、事務総長は広島と長崎の原爆で生き残った5人の被爆者と面談し、彼らの証言に耳を傾けた。

事務総長は、被爆者らが甚大な被害を受けながらも、「非常に大きな勇気と忍耐」を持ってトラウマを克服したことを認め、彼らへの賞賛を表明した。そして、被爆者を世界の模範と呼び、今回面会した女性3人と男性2人に対して、「あなたたちは『核兵器は愚かなものだ』と指導者に伝える道徳的権威を持っている」と語った。

「国連は、起こったことの記憶を絶やさず、皆さんの物語を永遠に響かせることに尽力してまいります。」と、事務総長は語った。

被爆者らは、例えば、ある方が反核兵器の意識を高めるために歌を作る、別の方が自分の体験を絵に描くなど、人生の大半を平和と軍縮の課題に取り組んできたことを国連事務総長に語った。

若い人たちにも核兵器の実相を理解してほしいというのが、被爆者全員の願いだった。

広島から発信する若者の力

UN Photos/Ichiro Mae | In Japan, Guterres had a meeting with the hibakusha.
UN Photos/Ichiro Mae | In Japan, Guterres had a meeting with the hibakusha.

グテーレス事務総長は、核軍縮や核不拡散など地球規模の課題に取り組む日本の若手活動家たちとの非公式対話セッションにも参加した。そこでは、3つの地球規模の危機、深刻化する不平等、蔓延する武力紛争など、世界の現状について触れたうえで、「私たちの世代は協力し合う必要があります。…いずれ、あなた方がその責任を負うことになるのですから、準備をしておくことが必要です。私の世代を代表して謝罪します。みなさんの世代に責任を渡してしまい申し訳ない。」と語った。

名誉市民

グテーレス事務総長は松井広島市長と武田長崎副市長とも面談し、広島市の特別名誉市民の称号を授与された。

「私は世界の平和のために日々尽力している全ての国連職員を代表して、また、核兵器の拡散を防止すべく、今現在ニューヨークの国連本部に集って交渉に参加している外交官たちを代表して、この栄誉ある称号を受け止めます。」と事務総長は語った。(原文へ

INPS Japan

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【国連ニュース/INPS=ナルギス・シェキンスカヤ】

「核戦争を回避するために、短期的に何ができるか。」核兵器不拡散条約(NPT)第10回締約国再検討会議が開催されている国連本部で、カザフスタン国連政府代表部と、核兵器なき世界を目指す日本の主要NGOである創価学会インタナショナル(SGI)が共催したサイドイベントのタイトルである。

撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

「第10回NPT再検討会議は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックのために延期されてきた非常に重要なイベントです。」と、カザフスタンのマグジャン・イリヤソフ国連常駐代表は国連ニュースサービスに語った。今回のNPT再検討会議は、これまでの会議と異なり、ロシアによるウクライナ軍事侵攻という現実を背景に、核兵器が実際に使用されるかもしれないというレトリックさえ耳にするなかで開催されている。このように、一部の国や政治家にとって後景に退いていた核軍縮の問題が、今再び注目を浴びている。

専門家、外交官、市民社会の代表、そして広島と長崎の原爆の犠牲者を指す日本名「ヒバクシャ」がNPT再検討会議に参加している。原爆による死者は、広島で9万から16万6千人、長崎で6万から8万人であった。今年は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、8月6日に広島で開催される原爆死没者慰霊式に出席している。

寺崎広嗣創価学会インタナショナル(SGI)平和運動総局長/ 写真:ナルギス・シェキンスカヤ国連ニュースサービス
寺崎広嗣創価学会インタナショナル(SGI)平和運動総局長/ 写真:ナルギス・シェキンスカヤ国連ニュースサービス

SGIを代表して参加した創価学会の寺崎広嗣副会長は、国連ニュースサービスに対し、「グテーレス事務総長の来日は、わが国にとって非常に重要な出来事であり、事務総長が広島から世界に向けて発する呼びかけは、日本の人々に希望をもたらすものです。」と語った。

事務総長報道官によると、グテーレス事務総長は世界の指導者たちに対して、遅滞なく核兵器の備蓄を撤廃するよう求める意向だという。また、被爆者との面会や若い世代の反核活動家たちとの対話も予定している。 寺崎副会長によると、SGIは核兵器を「絶対悪」と考え、それに対抗するために、被爆者の声を世界中に広く届ける取組みを行ってきた。

カザフスタンは、ソ連時代に繰り返し核実験が行われ、大きな被害を経験した国であり、ソ連からの独立後「核兵器のない世界」を目指す運動に積極的に参加している。イリヤソフ常任代表は、「そのような兵器(=核兵器)が存在するだけでも既に極めて危険なのです。一部のNPT会議参加者が核兵器を抑止力と考えていることは、遺憾です。」と語った。

ソ連が核実験を行ったカザフスタンのセミパラチンスク核実験場。/写真:CTBTO
ソ連が核実験を行ったカザフスタンのセミパラチンスク核実験場。/写真:CTBTO

イリヤソフ常駐代表は、核兵器のない世界を実現するためには、若者や著名人が積極的に参加することが必要だと考えています。そして、「こうすることで、この問題にもっと注意を向けることができる。」と付け加えた。(サイドイベントをINPSが収録した映像を参照ください。)(原文へ

翻訳=国連ニュース/INPS Japan

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|視点|核兵器禁止条約第1回締約国会議に寄せて(ラメッシュ・タクール戸田平和研究所上級研究員)

|視点|コンゴ、その鉱物と部族主義(ジョナサン・パワーINPSコラムニスト)

Dag Hammarskjöld. En minnesbok. Malmö 1961., Public Domain
Dag Hammarskjöld. En minnesbok. Malmö 1961., Public Domain

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

国連が1964年6月に西ヨーロッパの大きさのコンゴから国連平和維持軍を撤退させたとき、ウ・タント事務総長は「国連はコンゴが統一と国家化に向けて有機的に成長することによって生じる内部緊張と騒乱から永久に守ることはできない。」と報告した。

国連を分裂させ、ウ・タントの前任者でありコンゴ動乱の調停にあたっていたダグ・ハマーショルドが犠牲となった平和維持活動であっただけに、ウ・タントの撤退判断は、国連兵にとっては、ある種の安堵感があっただろう。ハマーショルド事務総長は、停戦調停に赴く途上で搭乗機が墜落し(原因は未解明)死亡した。

国連は、鉱物資源の豊富なカタンガ州の継承を巡る内戦を終結させ、東西の勢力争いがコンゴを冷戦の激戦地にする危険性があったことに代わるものを提供したという意味で、コンゴに一定の平和をもたらした。しかし、コンゴ動乱の背景にあった、部族主義と鉱物資源開発の問題は今日まで続いている。


現在、コンゴ東部は、再び何度目かの大混乱に陥っている。国連は、コンゴでは耕作可能地の僅か10%しか耕されていないにも関わらず、世界最大規模の食糧危機に陥っていると発表している。これまでに約500万人が国内避難民となっている。コンゴについて「もう一度・再び」と書くだけで、1990年代後半に起きた大規模な戦闘の記憶がよみがえる。

ジンバブエ、ナミビア、アンゴラ、チャドなどが苦境にあるローラン・カビラ大統領側につき、ルワンダとウガンダが反乱軍を支援したため、当時の米国のアフリカ担当国務次官補、スーザン・ライスは、この戦闘がアフリカ大陸における「最初の世界大戦」になるかもしれないと警告した。このときも国連がもう一度介入し、再び平和を回復させた。

しかし心配すべきは、コンゴがアフリカ初の世界大戦の舞台になることではない。国連の存在は、その可能性を鈍らせたし、その規模も実際の第一次世界大戦と比べれば小さいものであった。むしろアフリカは、何世紀にもわたって戦争を生み出してきた部族主義という古くからの問題にどのように対処すればよいのだろうか。欧州の旧宗主国によって部族や文化・言語の分布を一方的に無視して引かれた人工的な国境線は、現在も紛争のリスクを内包している。

1994年にルワンダで起こった大虐殺は、アフリカの部族主義が最も破壊的な形で現れたものであった。コンゴでは、数十年にわたる戦乱にもかかわらず、ルワンダのような事態には至らなかった。実際、コンゴを経済的に丸裸にした独裁者故モブツ・セセ・セコのもとでは、コンゴは適度に静穏であった。コンゴで再び、部族間の断層が浮き彫りとなり、権力の座を争う者たちによって巧みに利用されたのは、モブツ政権が崩壊する最終段階であった。


しかし、部族主義の問題点や落とし穴を論じるのであれば、まずその長所を理解しなければならない。部族主義が民族を吹き飛ばす火薬に例えられるとすれば、それは同時に、普通の社会をまとめる接着剤のような存在でもある。部族主義は、日常生活の中で息づいている。普通の村落(そして多くの都市)の生活では、部族主義はフリーメイソンや学閥のように機能している。仕事や紹介で互いに助け合い、収穫の負担を分担し、夫婦間や物質的な争いを解決し、とりわけ芸術や音楽を独特の形に作り上げている。

しかしこのような美徳が、伝染病のように悪質な変異を起こしたときに、部族の傷跡や鼻の形状の違いが迫害の対象になってしまう。これがコンゴで実際に起こったことである。

しかし、独立後の最初の指導者たちが、アフリカ統一機構の憲章にこれらの境界線の神聖さを認めたように、一度なされたことは簡単には元に戻せない。しかし、アフリカを800の部族に分割しないとしても、これらの境界線を何らかの形で改革することは明らかに必要である。


エチオピアが一時期示したように、円満に分離独立を実現することも可能である。独裁者メンギストゥ・ハイレ・マリアムが失脚した後、エリトリア人は最も洗練された移行と思われる方法で自らの道を歩み始めた。国民投票が行われ、反省のための休止期間が設けられ、その後、両者は分離のためのスケジュールに合意した。しかし、不幸なことに、6年経った今も国境紛争は続いている。私たち楽観主義者が間違っていたことが証明された。両国の間の戦争は何十年も断続的に続いている。

より積極的かつ永続的な例として、ナイジェリアのオルシェグン・オバサンジョ大統領が、石油資源の豊富なボカシ半島の帰属問題を国際司法裁判所に提訴することを受け入れた事例がある。この半島は、ナイジェリアと隣国のカメルーンのどちらに帰属するか、長年の論争があった。ナイジェリアは占領政府であったが、2002年に国際司法裁判所がカメルーンに有利な判決を下すと、国民の反対にもかかわらず、オバサンジョは領土を譲り渡した。国民と部族間の感情も高まり、解決は容易ではなかった。しかし、最終的には、国際法の遵守が勝利した。円満な領土の割譲が成立したのである。

ルワンダ(現在は平和)、ナイジェリア、スーダン、マリ、中央アフリカ共和国、アンゴラがそうであるように、アフリカの部族間紛争に包囲されている地域には、実に2つの選択肢がある。必要であれば、国際司法裁判所を含む中立的な外部機関の助けを借りて、文明的な国境の画定を始めること。あるいは、南アフリカが行ったように、多くの権力を地方に委譲した連邦民主主義国家を建設することである。

モブツのような悪人であれ、タンザニアの故ジュリウス・ニエレレ大統領のような善人であれ、強者が中央から影響力を行使できる日は、ほぼ終わりを告げた。だからといって、それが試されていないわけではない。試されている。しかし、独裁者とその側近自身を除いて、それが成功すると期待している者はほとんどいない。民主主義と人権という概念は、アフリカでは広く浸透している。

さらに、巨大で潤沢な資金を持つ石油・鉱物資源企業も含め、有力な外国人投資家は皆、法規則を守らなければ投資が失敗に終わることを知っており、大きな投資リスクを冒す前に必ず二の足を踏むようになるのだ。部族を基盤としたゲリラに資金を提供し、自分たちのために戦わせていた時代はとうに過ぎ去った。何十年にもわたり、彼らの極悪非道な活動はNGOやメディアによって暴露され、大きな効果を上げてきた。いわゆる「紛争ダイヤモンド・鉱物」を禁止する法律が制定された国もある。例えば、1年半前、欧州連合(EU)は、不法に産出された鉱物の購入を制限する法律を施行した。


携帯電話や電気自動車・飛行機用の高性能バッテリーに必要なコバルトやコルタンを巡る新たな争奪戦の結果にも対処する必要がある。この争奪戦は、1960年代の 「悪徳資本家」的な考え方を再現する危険性をはらんでいるようだが、今回は、部族や民兵の長たちが、日当1ドルの職人的労働力を使って、秘密のルートで製品を輸出するという、より小規模で取り締まりにくい規模で組織されている。

60年前にウ・タントが掲げたコンゴの「有機的成長」のコンセプトには、未だに到達していないのである。植民地時代のベルギーや、冷戦時代にモブツの忠誠心と引き換えに支援した米国のひどい政策のせいにすることは簡単にできる。現代の混乱を作り出したのは、明らかにベルギー人とアメリカ人であるが、それでは今日コンゴが直面している問題を整理することはできない。

その答えが何であるかは、南アフリカの誠実な政治と政治的安定をどう維持するかということを除けば、アフリカで最も難しい問題であろう。欧州連合(EU)アフリカ連合(AU)が協力して、答えを見つける責任を負わなければならない。コンゴはもっと注目されなければならない。(原文へ

INPS Japan

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太平洋諸国の指導者らが「2050年青い太平洋戦略」を採択―「説明責任を果たす」開発促進を謳う

【スバ(フィジー)IDN=セラ・ティコティコバトゥ=セフェティ】

3年ぶりに集まった太平洋諸国の指導者らが、7月11日から14日にかけて開かれた第51回「太平洋諸島フォーラム」で「青い太平洋戦略2050」を採択した。

今回の会合の議長を務めたフィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相は「この戦略の成功は2つのことにかかっている。第一に指導者が責任を取ること、第二に民衆もまた責任を負っているということだ。」と語った。

この戦略は、①政治的リーダーシップと地域主義、②民衆を中心に据えた開発、③平和と安全、④資源と経済開発、⑤気候変動と災害、⑥海洋と環境、⑦技術と接続性という7つの主要なテーマに焦点を当てている。

戦略の策定には3年の時がかかり、このプロセスに関わる各地の市民団体など様々な利害関係者の関与によって生まれた。この慎重に策定された戦略は、問題となっている領域や実行ガイドラインに焦点を当て、その効果が社会にあまねく広まるようにするものである。

「地域主義」という用語は、外国の地政学的なプレゼンスや、太平洋諸国の指導者らが地域全体で連帯して対処する必要のある緊急の問題に対応しなければならない時に、しばしば持ち出される用語である。

サモアのフィアメ・ナオミ・マタアファ首相は、対面で対話をすることの重要性に言及して、「いったん引いて考えてみることは、そうでなければなかなか公に議論することのないような緊急の課題について私達指導者が議論し、討論し、解決策を見つけていく完璧な機会を提供している。」と語った。

市民社会の関与

太平洋諸島非政府組織協会(PIANGO)のジョサイア・オズボーン副会長はIDNの取材に対して、「私達市民団体のメンバーらもこの3年間戦略の策定に関与してきました。私達がともに協力していけば、戦略を機能させることができると希望を持っています。」と語った。

Photo: French Polynesia Vice President - Jean Christophe Bouissou (left), Pacific Islands Forum Secretary General Henry Puna (centre) and New Zealand Prime Minister Jacinda Arden(right) enjoy a light moment after the presentation of the final communique of the PIF summit. Credit: Sera Tikotikovatu-Sefeti.
Photo: French Polynesia Vice President – Jean Christophe Bouissou (left), Pacific Islands Forum Secretary General Henry Puna (centre) and New Zealand Prime Minister Jacinda Arden(right) enjoy a light moment after the presentation of the final communique of the PIF summit. Credit: Sera Tikotikovatu-Sefeti.

オズボーン副会長は、今回の戦略について、人々が地域と関わるようになれば、自らの懸念や意見を議論の俎上に載せ、どのような計画であってもその利益を地域の人々に広めることができる余地が生まれる良い兆候だとみている。

「青い太平洋大陸戦略2050」の立ち上げにあたって、バイニマラマ首相は「これは前例の問題でもあるが、私達の未来の問題でもあります。」と述べた。地域として、国として、そしてひとつの「青い太平洋大陸」として、いかに協力できるかが問題となる。「この2050年戦略は、私達が共通に持っているもの、私達の課題や機会に関するものです。」とバイニマラマ首相は語った。

戦略的に民衆を中心に置くアプローチは、現地で進行している作業に、提案され(現在は承認されている)その戦略を関連付けるような形で包括的な計画をつくるということである。どんな構想や計画、問題、解決策が現在進行中であるのかを見ながら、テーマ領域をめぐる現在の状況を検討していく。これに続くのが、パートナーシップと協力、強靭性と福祉、教育、研究と技術、包摂性、平等とガバナンスという6つの戦略的道筋である。最後に、それぞれのテーマ領域毎に期待される目標レベルを検討する。

太平洋諸島フォーラムの地域主義に関する顧問であるジョエル・ニロン氏は、これらのテーマ領域の中心に座っているのは海洋であり、私達は青い太平洋に囲まれて生活しているのだと強調した。

「『青い太平洋大陸戦略2050』は、私達の環境における課題に対してより戦略的かつ長期的な対応をする必要性の中から生まれたものです。」とニロン氏はIDNの取材に対して語った。

「気候変動や既存の課題、それに、地域における地政学的な対立の高まりへの対応として、2019年に太平洋の指導者らが戦略策定を呼びかけた結果として生み出された。」

ニロン氏によると、市民社会や民間部門、太平洋地域組織協議会(CROP)のメンバーのような非政府の主体が、この戦略の策定に協力したという。

民衆を中心に据えたこの新たなアプローチは、この戦略の策定に関与した個々人が舵を取り、戦略が履行され監視されるようにするための答えとなりうるものだ。「太平洋教会会議」のジェイムズ・バグワン師の言葉を借りれば、「この戦略を機能させることが極めて重要です。私達がこのような動きに関与したのは初めてのことで、皆が協力しそれぞれの役割を果たして初めて成功することを私達は知っている。」のである。

ニロン氏も同様の見解を口にした。「私達は団結し、より緊密に協力することが重要です。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

また、私たちには多くの強みがあります。人々、若者、文化には自然な回復力と社会的保護を提供する能力が備わっておりますし、重要な天然資源にも恵まれています。」

地域の指導者らは「青い太平洋大陸戦略2050」を承認し、完全に支持しており、様々な地域の主体がその成功を確実にするために、既に実施を計画している。

「そして、この文脈において、どうやって手をつなぐか、国家としてどう協力するか、そしてもちろん外部の世界とどう相互作用を起こすかということについて、導きの糸となるような長期的な戦略的アプローチが必要です。」とニロン氏は語った。(原文へ

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ウクライナ後の核軍備管理・軍縮はどうなる? ある日本人の視点

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

これは、2022年6月24日(金)にウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)で開催された戸田記念国際平和研究所と同センター主催のワークショップで、阿部信泰大使が行ったプレゼンテーションのテキストである。

【Global Outlook=阿部信泰】

1.ロシアによるウクライナへの不法な侵攻

ロシアがウクライナ側からの攻撃や挑発がないにもかかわらず同国に侵攻したことは、紛争の平和的解決、国家主権と領土保全の尊重、内政不干渉という国連憲章の基本原則に反するとして非難された。日本では、ロシアと同じく独裁国家である中国が台湾に軍事行動を起こすことが強く懸念されていたためか、強い反発があった。これは、2014年にロシアがクリミアを併合した際の日本の控えめな反応とは明らかに対照的であった。当時、安倍晋三首相は日本とロシア間の領土問題を解決するための和解の可能性に依然として期待を抱いていた。中国は日本にとって安全保障上の最大の脅威と考えられている。最近日本で行われた世論調査では、回答者の61%が、中国が日本にとって最大の脅威であると答え、15%がロシア、6%が北朝鮮を挙げていた。(原文へ 

2.ロシアの侵攻が核軍縮・不拡散に与える負の影響

ウクライナはソ連崩壊後、核兵器を放棄し、核不拡散条約(NPT)の下で非核兵器国となった。その見返りとして、1994年のブダペスト覚書で、ロシアと欧州の主要国はウクライナに安全を保障した。そのような中で、ウクライナで展開している「特別軍事作戦」と呼ばれるものに欧米が干渉した場合のロシアによる核兵器使用の示唆や、非核兵器国のウクライナが核保有国であるロシアから攻撃を受けた事実から、このホッブズ的世界においては、核兵器保有国の攻撃から国を守るために、核兵器を保有しなければならないという反応が世界各地で起こっている。その結果、現在核兵器を保有している国々は、さらに核保有に固執し、安全保障に不安のある国々は、核兵器保有を考え始めている。東アジアでは、韓国や台湾でそのような意見が出されている。日本では、安倍晋三元首相が北大西洋条約機構(NATO)のように日米の核共有に賛成する考えを示した。このように、ウクライナ戦争は、核軍縮・不拡散に向けた取り組みを大きく後退させている。

3.核軍縮・不拡散を再構築する方法

 核軍縮、軍備管理、核不拡散を再構築する方法を考え始めなければならない。

第1に、米国(及びNATO)とロシアの間では、停滞している新戦略兵器削減条約(新START)の後継条約交渉を、非戦略核兵器も含めた形で再開する必要がある。ロシアがNATOへの加盟を申請しているフィンランドやスウェーデンの近くに核戦力などの配備を強化すると脅しているように、欧州への短・中距離核ミサイルの配備を何らかの形で相互に抑制することが急務となっている。この点については、ロシアは以前からいくつかのアイデアを提案している。ウクライナ戦争が始まって、ロシアとの軍備管理交渉の緊急性は高まった。

第2に、中国問題を緊急課題として取り上げる必要がある。中国は核軍備管理への関与に断固として抵抗している。しかし、中国の核戦力の急速な増強と近代化、そして、台湾を征服するための中国の軍事力行使が核兵器の使用にエスカレートすることへの懸念が高まっていることから、中国の核増強を緩和し、台湾への侵攻を避ける方法を見いださなければならない。台頭する中国にとって、中国を米国やロシアに劣る立場に縛り付けるような核軍備管理協定を受け入れることは困難であろう。1922年のワシントン海軍軍縮条約で、日本は米国に対して保有艦の総排水量比率を3対5に縛られたことを思い出す。一つのアイデアとして、米ロの後継条約に、中国の核兵器保有量が米ロの核兵器保有量の50%を超えた場合、もはやその制限に縛られないという条項を挿入することが考えられる。台湾に関しては、米中両国が台湾のみを対象とした独自の核兵器の先制不使用の約束に合意することが考えられる。これは、台湾が核武装の意図を放棄することを宣言することと組み合わせてもよい。もし中国が台湾を名指しすることを嫌うのであれば、このような相互の先制不使用宣言は、経度と緯度で区切られた地域に限定して行うとすることも可能であろう。また、米中両国は、不用意な核対立へのエスカレーションを避けるため、運搬手段の核・非核の相互識別に合意することも考えられる。

第3に、北朝鮮やイランなどの核拡散懸念国が、NPT再検討会議やTPNW締約国会議などを契機に、核戦力の獲得や強化に向かうことを阻止する努力をすること。また、核兵器の使用に対するタブーを強化するための努力も必要である。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始・締結は、こうした閾値国の核兵器取得に対する障壁を高めるのに役立つだろう。

第4に、核兵器の保有や使用の威嚇が、必ずしも政治的・軍事的立場を向上させるものではないことを示す学術的な研究を奨励することである。例えば、朝鮮戦争は膠着状態に陥ったし、米国はベトナム戦争で事実上敗北した。一方、ソ連もアフガニスタンで実質的に敗北した。通常戦力から、ほとんどの場合使用に適さない核戦力に資金を流用することは、通常戦力を弱体化し、核兵器を使用する機会を得る前に非核戦力による対決で敗退することになりかねない。現在進行中のウクライナ戦争でも、同じようなことが起こっている。

4. 最終的にはウクライナ戦争がどう終結するかにかかっている。

最後に、現状では結局のところ、ウクライナ戦争がどのように終結するかにかかっている。核兵器使用の威嚇がなされ、実際に使用される懸念が高まったとしても、ロシアが核兵器を使用せずにウクライナ戦争が終結すれば、核のタブーは辛うじて維持され、核兵器は非常に使いにくい、或いは実際は使えない兵器であることが証明されるかもしれない。そうなれば、核兵器保有を検討する国の意欲を削ぐことにもつながるだろう。一方、ロシアが何らかの形で核兵器を使用した場合、長崎への原爆投下以来、76年間維持されてきた核兵器の不使用が破られることになる。しかし、ロシアが実際に核兵器を使用する場合のハードルはかなり高いように思われる。その理由として一つには、ロシアが核兵器を使用した場合、ほぼ全世界から厳しい非難を浴び、プーチン大統領が極悪人として世界史に名を残す危険性がある。また第2に、ウクライナはロシアと国境を接しているため、ウクライナでの核兵器使用はロシアにも放射性降下物や電磁パルスが降り注ぐ波及効果をもたらすことになる。第3に、プーチン大統領は、核兵器発射を実際に命令するためには、主要な政治・軍事当局者の同意を得る必要があり、プーチン側近の崩壊を招く可能性がある。

阿部信泰は、軍縮担当の元国連事務次長(2003年~2006年)、内閣府原子力委員会元委員長(2014年~2017年)。
ハーバード大学ケネディスクールにてベルファー科学国際問題センターの原子管理のプロジェクトで上級研究員(2018年~2019年)、国連軍縮諮問委員(2008年)を務めた。また日本の大使として、ウィーン(1999年~2001年)、リヤド(2001年~2003年)、ベルン(2006年~2008年)に赴任した。

INPS Japan

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