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小さな団子「モモ」の冒険:ネパールの神話やキャラクターが、国際的な児童書の題材となる

The Nepali Times

この記事は、ネパーリ・タイムズ(The Nepali Times)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。主人公の「モモ」はネパールをはじめチベット圏で一般に食べられている小籠包に似た肉まんをモチーフにしたキャラクター。

【カトマンズNepali Times=サヒナ・シュレスタ】

ネパールの高地ヒマラヤで、小さな団子の子どもモモは、目を覚ますと雄大な山々を目にする。ある峰に登るために冒険をしていたモモは、家族からハガキで、ワクワクするような冒険を約束する異国への旅への招待状を受け取る。

Photos: MOMO AND UNCLE YETI
上記の写真をクリックして、絵本を閲覧できます。
Photos: MOMO AND UNCLE YETI

こうしてモモは、ニューヨークのさまざまな食べ物を食べに行ったイエティおじさんを探す旅が始まった。

ワシントンDC在住のネパール系アメリカ人作家シバニ・カルキさんは、モモのビッグアップルへの旅を新しい絵本『モモとイエティおじさん:ニューヨークの冒険』で表現している。彼女の詩的な文章に、アーティストオレグ・ゴンチャロフ氏の壮大なイラストが添えられ、子どもから大人まで楽しめる一冊に仕上がっている。

「この本は、ネパールから米国に渡った私自身の旅と、旅行、おいしい食べ物、文化、家族など、人生で好きなもののいくつかを表現しています。」と、11歳のときに渡米したカルキさんは語った。

新しい国というのは、新しい人々、新しい経験、そして2つの文化の間で暮らすことを意味します。それはまた、彼女自身のネパールらしさとつながり、共有する機会でもあった。そして、カルキさんがそれを実現する方法のひとつが、食を通じたものだ。

移民なら誰もが知っているように、食べ物は人を故郷に近づけてくれる。食べ物によって、人は新しい友人を作り、恋人を作り、新しい国を理解し、故郷の思い出に浸ることができる。

「ここニューヨークでは、モモ・パーティーは、ネパールよりも頻繁に開催しています。食べ物以上に、ネパール人はモモに思い入れがあります。モモ・パーティーは、友人や家族と一緒に集い、語らい、絆を深める機会なのです。」とカルキさんは語った。

Photos: MOMO AND UNCLE YETI
Photos: MOMO AND UNCLE YETI

神話が好きなカルキさんは、イエティを登場人物の一人として登場させなければならないと思っていた。しかし、カルキさんの描くイエティおじさんは、決して怖い存在ではない。陽気で、飽くなき探究心を持ち、新しい街で迷子になりながら、新しいおいしい食べ物を探すのが大好きなのだ。

Photos: MOMO AND UNCLE YETI
Photos: MOMO AND UNCLE YETI

多くのネパールの子どもたちと同じように、カルキさんも家庭で本の文化に育たず、読書の習慣が身についたのはアメリカに渡ってからである。書店の児童書コーナーで、色とりどりの絵本に目を通すのが日課だった。

しかし、そこに欠けていたのは、自分のような人間が共感できるような人生経験や文化を持った登場人物が描かれていないことだった。

カルキさんはコロンビア大学在学中の2016年、「モモとイエティおじさん」の物語を書き始めた。しかし、彼女がようやく腰を据えてそれを本にまとめる機会を得たのは、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが発生してからだった。

韻を踏むのは家族に任せるとして、イラストを描いてくれる画家を探すのに苦労したそうだ。イラストレーターとのいくつかのコラボは、作風が彼女の求めているものではなかったため、失敗に終わった。そんなとき、ファーマーズマーケットで出会ったデザイナーのラリー・イッサさんが、イラストレーターのオレグ・ゴンキャロフ氏に声をかけてくれた。

しかし、そこにはある問題があった。ゴンチャロフ氏は英語が話せず、ロシア占領下のクリミア半島に住んでいた。そこで、2人の会話はすべてGoogle翻訳を使って行われた。二人のコミュニケーションで苦労したことは、この本を読んでもわからない。

『イエティとモモ』の物語は、私にとってまったく新しい経験でした。私は12年以上、本の挿絵を描いていますが、おとぎ話のキャラクターが街の名所を旅するようなプロジェクトはまだ手がけていませんでした。そこで、モモやイエティおじさん以外にも、素敵な生きものを加えようというアイデアが生まれました。そして、ドラゴンや妖精などが本のページに登場することになったのです。このアイデアをシバニさんが支持してくれたことが、とても嬉しかった。」とゴンチャロフ氏は語った。

カトマンズやニューヨークの空港やランドマークをリアルに描き、動物と人間を同化させるなど、ゴンチャロフ氏の華麗なイメージは、カルキさんの言葉に新たな一面を加えている。

「姪のカイアとヤラとの経験から、子どもは本の中の小さな登場人物に惹かれることがあると知っています。大きな主人公よりも、小さなてんとう虫のほうに目がいくのです。児童書ですから、すべてが理にかなっている必要はありません。擬人化したのは、動物と人間の一体感を表現するためでもあります。」

仲の良い家族の出身なので、本の中には親戚の名前が散りばめられている。プラミラ・スーン・パシャルは母親、シャム・チア・パシャルは父親の名前から取ったものです。兄、義姉、夫、姪の名前も登場する。

カルキさんは現在、世界銀行でジェンダーの専門家として働いているが、この本には彼女が情熱を注いでいる他の側面も盛り込まれている。モモがイエティおじさんを探しに行くタイムズスクエアでは、通常の広告の中に、ジェンダー平等、包摂性、ポジティブといった社会的メッセージがちりばめられている。

Photos: MOMO AND UNCLE YETI
Photos: MOMO AND UNCLE YETI

ピンク色の頬に好奇心旺盛な大きな瞳を持つカルキさんの「モモ」は、新しい場所を発見すること、新しい食べ物を食べること、パズルを解くことが好きで、性別に関係なく楽しむことができる。「冒険というと、男の子というイメージがあります。でも私は、子どもたちがページの中に自分自身を見て、キャラクターとつながってほしいと思っています。だから、モモは彼でも彼女でもなく、ただのモモなんです。」と語った。

Photos: MOMO AND UNCLE YETI
Photos: MOMO AND UNCLE YETI

ニューヨーカーは無愛想だと言われますが、この街の多様性にはコミュニティーの感覚も備わっている。それは、モモがイエティおじさんを探して街を駆け回る姿からも伝わってくる。

冒険心や食欲、旅行意欲、家族への感謝、異文化への寛容さなどを織り込みながら、ヒマラヤとニューヨークの高層ビル群が、世界中のネパール人だけではなく、ネパールになじみのある人たちにも親しみやすい作品に仕上げている。

この本はAmazonやmomoandyeti.comで購入することができる。近日中にネパールで発売予定。(原文へ

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核戦争から世界を救った男

この記事は、Ground Zero Centerが配信したもので、同団体の許可を得て転載しています。

【ポールスボ/ワシントンIDN=グレン・ミルナー、レオナルド・アイガー】

核兵争の可能性がキューバミサイル危機のときと同じくらい高い今、私たちは1962年のまさにその危機の最中に、米軍の水上艦に対する核攻撃を阻止したソ連の潜水艦将校、ヴァシーリー・アルヒーポフの物語を思い出すことが重要である。

その時、ソ連の潜水艦がたった1発の核兵器でも使用していたならば、地球規模の核の応酬が引き起こされていただろう。

This U-2 reconnaissance photo showed concrete evidence of missile assembly in Cuba. Shown here are missile transporters and missile-ready tents where fueling and maintenance took place.・By CIA - ImageTransferred from en.wikipedia, Public Domain
This U-2 reconnaissance photo showed concrete evidence of missile assembly in Cuba. Shown here are missile transporters and missile-ready tents where fueling and maintenance took place.・By CIA – ImageTransferred from en.wikipedia, Public Domain

1962年秋、ソ連のニキータ・フルシチョフ首相は、キューバに中距離弾道核ミサイルの配備を秘密裏に開始した。1962年10月22日、ジョン・F・ケネディ大統領は、キューバに向かう敵性軍事貨物を海上で「検疫」するよう米海軍に命じた。同日、中央情報局(CIA)のジョン・マコーン長官は、4隻のソ連潜水艦が1週間以内にキューバに到達する位置にあるとケネディ大統領に報告した。

ソ連軍のフォックストロット級潜水艦4隻は、通常魚雷と15キロトンの核弾頭を搭載した「特殊魚雷」1本を装備していた。核魚雷の発射には、モスクワとの通信が不可能な状況下では、艦長と政治委員2名の同意が必要であるとされていた。しかし、B-59潜水艦では、アルヒーポフが小艦隊の司令官兼副艦長であったため、核魚雷発射を許可するためには、同乗士官3人(艦長、政治将校、副艦長)全員の合意が必要であった。

1962年10月27日、米国海軍の空母ランドルフおよび駆逐艦11隻からなる艦隊が、キューバ付近でソ連の潜水艦B-59を発見した。公海であるにも関わらず、米艦隊は信号弾(潜水艦を浮上させて識別するための演習用爆雷)の投下を開始した。

この時、ソ連の乗組員は数日前からモスクワと連絡が取れなくなっていたところに、米軍の爆雷から逃れるため深度を下げて航行した結果、米国の民間ラジオ放送さえ傍受できなくなり情報が完全に遮断された状態に陥った。さらに潜水艦のバッテリーが極度に低下し、エアコンが故障したため、艦内は猛暑と高濃度の二酸化炭素が発生していた。

この極限状態の中で、潜水艦の艦長であるヴァレンティン・サヴィツキーは、戦争はすでに始まっているかもしれないと判断した。サヴィツキー艦長は、自艦の周囲で米軍の爆雷が爆発すると、核魚雷の武装を命じ、発射まであと数分というところまで来た。

ソ連情報部の報告によると、B-59内で口論となり、アルヒーポフが一人で発射を阻止した。結局、アルヒーポフはサヴィツキー艦長を説得し、米海軍の艦隊の中で浮上し、モスクワからの命令を待つことになった。

当時、米側はソ連潜水艦が核武装していることを誰も知らなかった。潜水艦内の状況が物理的に厳しく不安定で、米軍からの攻撃を恐れた指揮官が核魚雷の武装・発射を検討する可能性があることも誰も知らなかった。

Chief of Staff of the 69th Submarine Brigade Captain Second Class Vasily Arkhipov.
Chief of Staff of the 69th Submarine Brigade Captain Second Class Vasily Arkhipov.

1962年11月2日、ケネディ大統領は、キューバにあったソ連の核ミサイル基地の撤去について演説を行った。その後、数カ月でソ連の核兵器はキューバからすべて撤去された。

奇しくもキューバ危機は、ソ連と米国の合理的なリーダーシップの勝利であったと多くの歴史家は見ている。しかし、ソ連と米国のリーダーシップによって、世界は滅亡の危機に瀕し、たった一人のソ連海軍将校によって阻止されたのである。

最終的にケネディとフルシチョフは、ソ連がキューバからミサイルを撤退させる代わりに、トルコから米国の核武装ミサイルを撤退させることに合意し、膠着状態を解消するために誠実に交渉した。しかし、アルヒーポフが米軍艦への核魚雷発射を防がなければ、両首脳が危機を平和的に解決するチャンスはなかっただろう。

今日、米国では、何百人もの個人が、政府の検証された権威者の命令で核兵器を発射するという重大な責任を担っている。オハイオ級弾道ミサイル潜水艦「トライデント」(最大10隻が常時巡回中)の場合、ロシア有事の際に1隻以上の潜水艦が通信を受信できない可能性が、わずかながらでもあるのだ。

そのような状況下で、20基のトライデントII D-5弾道ミサイルを発射するかどうか、不安な士官たちは悩むだろう。それぞれのミサイルには平均4-5個の核弾頭が搭載されており、その破壊力は広島原爆1200個分以上に相当する。

もしそのような事態に陥った場合、核戦争がまだ始まっていなければ、文明を終わらせる火種になるであろう発射の手続きを取る前に、アルキポフ氏の勇気ある行動に思いを馳せてほしいと願うばかりである。

現在のウクライナの危機―ロシアの継続的な核の暴言、北大西洋条約機構(NATO)のロシア包囲網と圧力、米国と同盟国がウクライナに提供する武器のますます危険なエスカレーション、戦術的誤算の高い可能性―を考慮すると、事故または故意による核使用の可能性は否定できないし、否定してはならない。

A Trident missile-armed Vanguard-class ballistic missile submarine leaving its base at HMNB Clyde./ Wikimedia Commons.
A Trident missile-armed Vanguard-class ballistic missile submarine leaving its base at HMNB Clyde./ Wikimedia Commons.

人類を滅亡から救うためには、冷静な判断が必要であり、そのためにアルヒーポフの行動の重要性はかつてないほど高まっている。

もしアルヒーポフが存命ならば今年の1月30日に97歳の誕生日を迎えていただろう。アルヒーポフは、1980年代半ばに副提督を退官し、1998年8月19日に死去した。

私たちは世界市民として、核保有国に対して人類滅亡の瀬戸際から引き下がるよう要求し、核兵器が記憶の彼方に消える日を目指して共に行動していけますように。未来の世代にこの世界を引き継げるよう、人的・経済的資本を投入してお互いに協力し合っていけますように。(原文へ

INPS Japan

*この記事は、キューバ危機のさなか、ソ連潜水艦B59に同乗し、核ミサイルの引き金を引くかどうかの究極の判断を迫られた3人の責任者の内、唯一反対したヴァシーリイ・アルヒーポフに関するものだが、アルヒーポフはその1年前に原子炉で火災を起こしたソ連海軍最初の潜水艦発射弾道ミサイルを装備した原子力潜水艦K-19にも副艦長として乗船していた。その時の経験が、キューバ危機に際して核ミサイルの発射に断固反対したアルヒーポフの判断に影響したと考えられている。ちなみに、この原子力潜水艦事故については、ノンフィクション作品『K-19:未亡人製造艦』(ハリソン・フォード、リーアム・ニーソン主演)が製作されている。https://www.youtube.com/watch?v=lZIFPBPxHzY

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ゴルバチョフは世界を変えた

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

多くの人は、家族の衣食住を確保し、教育を与え、子どもが社会階層のはしごを一段上がることを助け、人生のたそがれには快適な退職生活を送りたいという控えめな願望を持っている。しかし中には、もう少し上を望み、人類の活動の中で自分の選んだ分野に足跡を残したいと考える人もいる。さらにその中でも、「世界を変えた」と言える人はほんの一握りしかいない。

ミハイル・セルゲイビッチ・ゴルバチョフ(1931-2022)は、そのように称賛される一握りの一人だった。彼は、1989年から1990年にかけて、旧ワルシャワ条約機構加盟国が独立を回復し、ベルリンの壁が崩壊し、ドイツが再統一されたとき、一発の銃弾も伴わず冷戦を終わらせた人物として、海外では尊敬の念を集めた。ソビエト軍はアフガニスタンから撤退した。彼は軍拡競争を軍縮へと導き、何万もの核兵器を解体した。ヘンリー・キッシンジャーはBBCに対し、このように語った:「東欧の人々、ドイツの人々、そして結局ロシアの人々も、彼の先見の明に、自由の概念とともに前に進む勇気に、たいそう感謝しなければならない。彼は、人類に偉大な貢献を成した」。(原文へ 

しかし、ゴルバチョフは、本国ではグラスノスチおよびペレストロイカの政策のために非難された。それらは、全体主義的な抑圧のくびきから人々を解放し(彼の祖父は二人とも、スターリンの粛清のもとで投獄された)、構造的な経済改革を始めるために構想されたが、硬直化したソ連を破壊し、二つの大陸にまたがるその帝国を解体し、ロシア人の国を縮小させ、ロシア人たちをみじめにし、自信を失わせた。ロシアの情報機関の退役大佐であるイゴール・ガーキンは、ゴルバチョフを「永遠の恥辱」がふさわしい「裏切り者」と称した。

それでも、全てを勘案してみると、また、世界各国のリーダーによる、数多くの非常に好意的な追悼において認められているとおり、ゴルバチョフはソ連の最後のリーダーであった7年間足らずの短い任期(1985年~1991年)において、20世紀後半の最も影響力のある政治家だった。 我々の時代のもっとも残念な「たられば」の一つは、西側が、新しいヨーロッパの秩序、核秩序および世界の秩序を創造するための全面的なパートナーシップを求めた彼の申し出を受けなかったことだ。

新世界秩序(new world order)という言葉は、ゴルバチョフが1988年12月7日の国連総会における演説で最初に用いた。アメリカ大統領ジョージ・ブッシュより1年以上前のことである。それは、あらゆる人々にとって、かつてはポスト冷戦時代のよりよい世界への希望と願望を込めた楽観的な概念であったが、今では、技術、経営や金融を牛耳るグローバルエリートのルールを大衆に押し付け、中流階級を縮小させ、主権を空洞化させようとする信用されない試みとして、不遇の評価を受けている。ゴルバチョフの演説の衝撃は、ウォルター・アイザックソンによる、1988年12月19日付の『TIME』誌における長大な分析記事によく捉えられている。アイザックソンが「説得力があると同時に大胆」と評したゴルバチョフの先見の明とは、法の支配に基づく国家同士の国際的なコミュニティー、NATOやワルシャワ条約機構のような安全保障同盟の陳腐化、ロシア人と西欧人が共通の故郷とするヨーロッパを基盤とする汎ヨーロッパ的な安全保障の枠組み、そして、「剣を鋤の刃に」と言われるとおり軍備から国内需要へと、資源および優先順位をシフトすることだった。

ゴルバチョフは、1986年10月11日および12日にレイキャビクで行われた2度目の歴史的会談で、アメリカ大統領ロナルド・レーガンに会った。1984年1月の一般教書演説において、レーガンは直接ロシア国民に語りかけた :「われわれ二つの国が核兵器を保有していることの唯一の価値とは、それらが決して使われないようにすることです。しかしそれならば、核兵器を全部なくしてしまうほうが良いのではないでしょうか?」

レーガンは、1985年11月のゴルバチョフに宛てた手書きの書簡において、核兵器の最終的な撤廃に向けての決意を新たにしている。ゴルバチョフは、翌年1月、1999年末までに「核兵器を完全撤廃するための前例のない計画」という言葉でこれに応答し、その計画に次いで、「核兵器は二度と復活させてはならないという・・・全世界の合意」が得られるかもしれない、と述べている。

両首脳は、レイキャビクでの画期的な核兵器管理アジェンダについて、側近、官僚や軍幹部からの強い抵抗に遭った。それでも、彼らは事実上の「グローバル・ゼロ」プログラムに合意した。核廃絶の原則に対する共通の思いが見いだされたことは、歴史の転換点となった。しかし、レーガンは、あらゆる核兵器の廃絶に繋がる削減を進めるために極めて重要だと考えていた戦略防衛構想(「スターウォーズ計画」)に関して譲歩することはなかった。会談そのものの具体的な成果がなかったにもかかわらず、レイキャビク会談は、1987年の中距離核戦略全廃条約(INF)(ドナルド・トランプ大統領が2019年に破棄)、そして1991年の戦略核兵器削減条約(START I)へと「道筋」をつけたのである。

数年間の交渉を経て、1987年12月にレーガンとゴルバチョフが署名したINF条約は、射程が500~5,500㎞の核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の巡航ミサイルおよび弾道ミサイルの開発、実験および保有を禁止した。調印式において、レーガンとゴルバチョフは、共同声明で「核戦争は勝者のない戦争であり、決して戦ってはならない」と述べた。彼らは、INF条約は「アメリカとソ連のあらゆる種類の核軍備を完全撤廃するという目的においても、その検証の仕組みの革新的な性格と範囲においても、歴史的だ」とした。1991年半ばの実施期限までに、 アメリカとソ連合わせて2,692基のミサイルが破棄された。INF条約は、冷戦の分断の前線としてのヨーロッパの安全保障に大きく貢献しただけでなく、30年間にわたってより広く国際的な安全保障を下支えした。最初の核軍縮条約として、世界の二大核保有国による、核不拡散条約(NPT)第6条に基づく軍縮の義務の履行に対する目に見える貢献だった。

ソ連の崩壊と、それに伴なうベラルーシ、カザフスタンおよびウクライナの非核化があったにも関わらず、START Iの履行は2001年12月までに完了し、上限6,000個の核弾頭を搭載した運搬手段は1,600基にまで減少し、既存の戦略核兵器は80%削減された。START Iは2009年12月に満了し、2010年には10年間の新START条約に取って代わられ、さらに現在5年間延長されている。

農民の息子でノーベル平和賞を受賞した男は、クレムリンにいる西側の「便利な愚か者」だったのか、公的な世界から国という強制装置を外すために自分が始めたプロセスのコントロールを失った未熟な夢想家だったのか、あるいは、ただソビエト国家の病理の積み重ねによって避けられなかった出来事によって足をすくわれ、破壊された運命の囚人だったのか? 今となっては、ソ連がそれ自体の矛盾と弱点によって自滅するもととなった多くの問題、すなわち危機を阻止し、回避し、または是正することなど誰もできなかったという命題に、異論をはさむことは難しい。結局、彼の国と国民は、ソ連解体という混乱の時をゴルバチョフと共についていく用意ができていなかったのだ。その結果、彼が試みた自由への道のりは、ネルソン・マンデラのそれよりもはるかに孤独なものとなり、目的地にたどり着くことはできなかった。

終わりに、このことは興味をそそる知的な謎につながる。ロシアの精神的な再覚醒は、ロシア国民がゴルバチョフの本質的なヒューマニズムを認めるための前提条件なのか、それともその逆なのか?

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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世界政治フォーラムを取材

UNAOC、スウェーデンでのコーラン焼却に関するプレス声明を発表

この記事は、アメリカン・テレビジョン・ネットワーク(ATN)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【ニューヨークATN】

Mr. Miguel Ángel Moratinos/ UNAOC
Mr. Miguel Ángel Moratinos/ UNAOC

スウェーデンにおけるコーランの焼却を受け、国連文明の同盟(UNAOC)上級代表は以下の報道声明を発表した。

国連文明同盟(UNAOC)のミゲル・モラティノス上級代表は、極右政党「ハードライン(デンマーク語でStram Kurs)」の指導者が1月21日にスウェーデンで行ったイスラム教の聖典コーランを焼却するという卑劣な行為を明確に非難した。

モラティノス上級代表は、基本的人権として表現の自由を守ることの重要性を強調する一方で、コーランを焼却する行為はイスラム教徒に対する憎悪の表現に相当することを強調した。そうした行為は、イスラム教の信奉者を軽視し、侮辱するものであり、表現の自由と混同されるべきではない。

モラティノス上級代表は、市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条に基づき、表現の自由の行使が義務と責任を伴うことを再確認した2021年1月26日の国連総会決議A/Res/75/258(OP 6)を想起した。

また、イスラム恐怖症、反ユダヤ主義、キリスト教恐怖症、他の宗教または信念を持つ人に対する偏見に動機づけられた事例を含め、世界の様々な地域で多くの宗教その他の共同体の構成員に向けられた差別、不寛容、暴力の事例が、行為者を問わず全体的に増加していることに深い憂慮を表明した。

さらに、人権と万人の尊厳に根ざした公正で包摂的かつ平和な社会を構築し促進するためには、相互尊重が不可欠であることを強調した。

この文脈で、モラティノス上級代表は、宗教的多元主義の強化、文化間・宗教間対話、相互尊重と理解の促進を含む包括的な枠組みと一連の勧告を提供する国連文明の同盟が主導する「宗教的施設を保護するための国連行動計画」を想起した。(原文へ

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米国はイランが拒絶できない核協定を持ちかけるべき

【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

イラン政府の方針は、評論家がしきりに指摘するように固定されたものではない。12月初旬には、イランの検察総長が「道徳警察を解散させる」と発言したと報じられた。明らかに、2カ月にわたるデモは、主に女性が主導し、カタールで競技中のイランサッカーワールドカップチームが公然と支援したことで、イラン政府の一部の勢力が長期的な政策に対して根本的再考を加えたのだろう。

突き詰めていうなら、世界の爪弾き者にとどまりつづけるのか、それとも、隣人に並び立つべく、豊かで、健全で、抑圧のない社会の実現という任務に取りくんでいこうとするのか、自らに問うたということだ。とはいえ、最近逮捕されたデモ参加者が処刑されたように、依然として強硬派が優勢であることに変わりはない。

U.S. President Barack Obama / Official White House Photo by Pete Souza
U.S. President Barack Obama / Official White House Photo by Pete Souza

国内の社会的不満への対処と、米国への対処は別物である。これもまた、大きな再考が必要である。バラク・オバマ大統領と交渉した、ある程度の相互信頼に基づく核取引の条件に戻る覚悟があるのか、それともドナルド・トランプ大統領がそれを破棄したので、将来の米国大統領は信用できないと思い込んでいるのだろうか。

現在の米国の敵の中で、長期にわたって一貫してナンバーワンであり続けているのはイランである。イランは、1979年のイスラム革命で世俗的な国王を倒し、過激で時には戦争も辞さないイスラム神政を導入して以来、米国にとっての不倶戴天の敵となった。(しかし、欧州にとっては、どの国も米国政府と仲間割れをおこしてはいないものの、イランを米国人ほど脅威とはみなしていない。)

フォーリン・アフェアーズ誌の2019年11月号で、ダニエル・ベンジャミンとスティーブン・サイモンの2人の教授は、「『冷戦後期からの数十年、米国が最も恐れていた外国勢力はどこだったか』という問いに100年後の歴史家が取り組んでいたとしよう。ロシアは、当初は宿敵として、次に友人として、最後に挑戦する厄介者とみなすだろう。中国は大国のライバルと見るだろう。北朝鮮は脇役に過ぎない。そしてイラン一国だけが、執拗なまでの敵として描かれることになるだろう…。」と述べている。

初期のころと同じように、イランの体制は米国にとって根本的に頭痛の種であり続けている。イランがそう望めば、即時に核兵器を作りうるだけのレベルのウラン濃縮も再開している(もちろん、運搬手段は別の問題)。イランはまた、シリアのバシャール・アルアサド大統領を支持し、レバノンにおける代理勢力ヒズボラを通じてイスラエルを挑発し、イラクの反体制シーア派に支援を与えている。イエメンではフーシ派の反乱に小規模な支援を与えてきた。

世界の石油輸出の5分の1は、イランが長い海岸線を持つペルシャ湾を経由している。米国に輸出される石油は皆無だが、中断されれば石油価格に影響を与える。皮肉なことに、その多くはイランの支援国である中国へと送られている。しかし、米国政府内にパニックを引き起こしているにも関わらず、ホルムズ海峡は閉鎖することができない。そのぐらい海峡は広いのである。

Map of Strait of Hormuz with maritime political boundaries /Public Domain
Map of Strait of Hormuz with maritime political boundaries /Public Domain

彼我のパワーバランスを考えると、米国がイランにそこまでこだわるのは愚かなことだ。イラン経済は米国経済の2%程度しかない米国と中東の同盟国であるイスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦は、合わせてイランの50倍以上の経済規模を有している。イランはミサイルを保有しているが飛翔距離はそれほどでもない。イランは、レーダーをかいくぐって飛ぶドローンでサウジアラビアの石油貯蔵施設を攻撃したとされるが、その技術レベルは比較的初歩のものにとどまっている。

バラク・オバマ大統領は、この力の差を利用し、ロシアと欧州連合からの支援を得て、イランの核研究能力を制約し核兵器開発能力を除去する協定を締結した(しかし、おそらくイランはそもそも核兵器開発の意図などなかった。少なくとも、CIAは長らくそのような見解であった。)

イラン核合意として知られる2015年のこの協定は、中東でのイランによる挑発的な介入を抑えるためにイランと話し合いを持つための入り口になるはずであった。しかし、オバマ大統領もこの機会を逃した。オバマ政権の初期にイランはオバマ大統領にオリーブの枝を差し出した(=平和へのジェスチャー)のに、オバマ大統領はそれを折ってしまった。イラン核開発を抑える交渉をようやく始めようとしたが、遅すぎた。オバマ政権が達成したものなら何でも壊してやろうという動機に突き動かされていたトランプ大統領は、協定の実施が具体化する前に、そこから「電源」を取り去って(=同意から脱退して)しまった。

米国やその同盟国から40年にわたって疎外され懲罰を受けたのちにイランがそれに対抗しようとしたからと言って、なぜそれが驚きに値しようか。特に、米国などの介入はまさにイランの裏庭に損害を与えかねないのである。イスラエルをイランが常に敵視しているのは、イスラエルがイランの体制打倒に動いているのではないかと恐れているためだ。2003年の米国による対イラク戦争がなければ、イラクにおいてイランのプレゼンスは存在しなかったであろう。かつてサダム・フセイン大統領は、イラン・イラク戦争に際しては、米英によって支援されていたのである。

サウジアラビアは、一部には政治的、一部には宗教的な理由で、イランの体制を打倒したいという衝動を持っている。イランがフーシ派を通じてサウジアラビアの弱体化を図っているのはそのためだ。しかし、女性も子どもも病院も保護しないサウジアラビアの戦術を支援することで得する者は誰だろうか? イランの対シリア関係は、中東の多数派スンニ派からの脅威を受けている2つのシーア派国家による便宜上の結婚のようなものだ。米国の本質的な利益を侵すものではない。

Photo: A protester holds a portrait of Mahsa Amini during a demonstration in support of the young Iranian woman, who died after being arrested in Tehran by the Islamic Republic's morality police, on September 20, 2022. three days in a coma. Credit: Ozan KOSE / AFP via Getty Images. Source: WBUR.
Photo: A protester holds a portrait of Mahsa Amini during a demonstration in support of the young Iranian woman, who died after being arrested in Tehran by the Islamic Republic’s morality police, on September 20, 2022. three days in a coma. Credit: Ozan KOSE / AFP via Getty Images. Source: WBUR.

イランと米国の関係はこれほどまで悪化したことはない。EUは中間的な立場に立とうとしているが、米国の経済制裁によって及び腰になっている。それでも、もし米国がイランの経済・政治の不安定化を図ろうとするならば、それは自らに銃口を向けるようなものだ。中東はさらに不安定化し、ふたたび大規模な難民危機が訪れることになるだろう。

イランは好戦的であっても、常に対峙していても仕方がない。オバマ大統領は、EUやロシアの支持を得て、その道を提示した。米国がその方向に戻れば、中東はより平和になるであろう。

今年、テヘランの街をヒジャブをつけずに歩くイラン人女性を見ることができるかもしれない。言うまでもなく、このような前進は外交政策とはほとんど関係がない。しかし、政権の有力者が、選択すれば柔軟に対応できることを示すものである。米国は今を逃さず、イラン政府が無視できないような核協定案を持ちかけるべきだ。両者はすでに非常に接近している。その差を縮めることは、それほど難しいことではないはずだ。(原文へ

INPS Japan

※著者のジョナサン・パワーは、かつては『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』、現在は『ニューヨーク・タイムズ』に17年間にわたって外交時評を寄せてきた。『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ボストン・グローブ』『ロサンゼルス・タイムズ』にも論評を寄せ、これらの新聞の論評欄に最も多く登場した欧州人である。

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国連三機関が農村雇用への投資を要望

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

3つの国連機関による共同報告書が、気候変動や減災、水不足などの大きな問題に対処する自然の力をさらに強化することで2000万人の雇用が生み出せると主張している。

国際労働機関(ILO)国連環境計画(UNEP)国際自然保護連合(IUCN)の共同報告書によると、「自然を基盤とした解決策(NbS)」を支える政策に投資することで、特に農村地帯において大きな雇用創出効果が見込めるという。

国連環境会議決議5/5は、NbSを「社会、経済、環境の課題に効果的かつ適応的に対処し、同時に人間の福利・生態系サービス・回復力・生物多様性の利益をもたらす、自然または改変された陸上、淡水、沿岸、海洋生態系の保護・保全・回復・持続的利用・管理のための行動」と定義している。

「『自然を基盤とした解決策(NbS)』における『ディーセントワーク(公正な報酬を受け、自由・公平・安全・人間の尊厳に配慮した生産的な仕事と定義)』」と題されたこの共同報告書は、第15回国連生物多様性会議(COP15)にて発表された。国連生物多様性条約の第15回締約国会議は、カナダ・ケベック州最大の都市であるモントリオールで12月7日から19日まで開催された。同市には同条約の事務局が置かれている。

“Decent Work in Nature-based Solution 2022” Report/ ILO

報告書は、現在7500万人近くの人々がNbS関連の仕事に従事していると述べている。その大部分(96%)がアジア太平洋地域と低・中所得国にいるという。しかし、世界全体のNbS関連支出は高収入国で発生している。

その仕事の多くはパートタイムであり、雇用全体はフルタイム換算で1450万人分だと推定される。また報告書は、NbS関連雇用の測定には困難があると警告している。さらに、NbSの導入に伴って発生する可能性のある雇用の喪失や移動は、この数字には含まれていない。

報告書はまた、低・中所得国では、NbS関連雇用のほとんど(それぞれ98%と99%)が農業・林業部門であると述べている。高中所得の場合は42%、高所得の場合は25%となる。

農業の生産性が高い先進国では、NbS関連支出は生態系の回復や天然資源管理に集中している。高収入国では公共部門がNbS関連支出の最大部分を占め(37%)、建設部門もそれなりの比率を占める(14%)。

もしNbS関連予算を2030年までに3倍にすることができれば、世界全体で2000万人の雇用創出効果が見込める。これは、国連の「2021年自然のための金融状況」で提示された生物多様性や土地の回復、気候関連目標の達成に向けた大きな一歩になると考えられてきた。

報告書は同時に、現在のところ、NbS関連雇用がILOの「グリーン雇用」の基準を満たす保証はないと警告している。基準を満たすためには、雇用が環境部門にあり、国際的・国内的な「ディーセントワーク」の基準に従うなどの要件を満たす必要がある。

ILO起業部のビク・バンブーレン部長は「NbSの利用を拡大する中で、NbS関連の労働者が現在直面している非正規労働や低賃金、低生産性のような『ディーセントワーク』に反する要素が拡大しないようにしなければならない。ILOの『公正な移行ガイドライン』がそのための枠組みを提供している。」と語った。

COP 27
COP 27

「我々はシャルム・エルシェイクで開催されたCOP27で『自然を基盤とした解決策(NbS)』が強調されたことを歓迎する。NbSは緩和措置の不可欠の部分となるだけではない。気候変動の影響への緩衝材となるなど、複数の利益をもたらす。この報告書が着目したのは、NbSの労働をいかに人々と経済のためのものにするのかということであり、それが成功に向けた主要素となる。若者層を前面に立てた広範な連携がこの達成のために必要だ。」と国連環境計画(UNEP) 生態系局のスーザン・ガードナー局長は語った。

「NbSは、『自然を基盤とした解決策』のためのIUCNグローバル基準に従って計画・実行される際には、連関している気候・生物多様性両危機の問題に対処する大規模かつ効果的な方法を提供すると同時に、良質かつグリーンな雇用など、人間の福祉と生活にも重要な利益をもたらす。ポスト2020年の『グローバル生物多様性枠組』の履行において不可欠なツールとなるだろう。」と国際自然保護連合(IUCN)のスチュワート・マギニス副事務局長は語った。

報告書は、NbS関連活動を行う企業や協同組合の育成・支援、適切なスキル開発、NbS関連雇用の獲得に向けた労働者支援、NbSを大学のカリキュラムに盛り込むための支援、中核的な労働基準(最低賃金、労働安全・保健、結社の自由など)をNbSが順守できるような政策などの「公正な移行」政策の実行を求めている。

COP27でILOとUNEPが新たに立ち上げた「グリーン・ジョブズ・フォー・ユース・パクト」は、100万人分のグリーン雇用を創出し、この報告書の勧告が実地で実現されるよう努力することを目的としている。

特に、報告書が指摘するように、現在の雇用や労働慣行が自然を持続不可能な状態で搾取している場合、より持続可能な慣行への移行が短中期的に生み出す雇用や生活へのリスクを軽減する「正しい移行」政策も必要である。

そうした政策には、転職促進サービス、公共部門での雇用プログラム、再雇用訓練、失業者支援へのアクセス、早期退職、生態系サービスの利用及び支払い(PES)プログラムなどが含まれることになるかもしれない。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|2022年概観|停滞する核軍縮

【国連IDN=タリフ・ディーン

政治的にも軍事的にも緊張が高まった2022年が残念な終わりを迎える中、昨年は核による恫喝が淡々と新聞の一面に登場した一年であった。

緊張の高まりは、主にロシアからの恫喝、北朝鮮からの継続的な軍事的レトリック、核オプションを放棄しようとしないイラン、そして世界の主要な核保有国であるロシアと中国との間の関係緊密化によって引き起こされた。

President Biden speaks with the media at the conclusion of the U.S-Russia Summit in Geneva, June 2021. Image: U.S. Embassy Bern Switzerland / Flickr, Creative Commons
President Biden speaks with the media at the conclusion of the U.S-Russia Summit in Geneva, June 2021. Image: U.S. Embassy Bern Switzerland / Flickr, Creative Commons

米国のジョー・バイデン大統領は、おそらく無意識のうちにイランの核合意は「死んだ」と漏らし、さらなる恐怖を呼び起こした。しかし、より重要な問題は、それは死んだのか、あるいは死なされたのか、ということだろう。

さらに、政治的な問題が山積している。2023年は核の恫喝のない年になるのだろうか。それとも、核抑止力に希望が持てないまま、新年も緊張が高まるのだろうか。

しかし、昨年の核軍縮の状況は進歩よりも後退であり、そのほとんどがマイナス要素であった。

ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)公共政策グローバル問題大学校軍縮・グローバル・人間の安全保障研究部門の責任者であるM.V.ラマナ教授は、「2022年の核軍縮に関しては良い面を挙げるのが難しい。例外は核兵器禁止条約第1回締約国会合ぐらいです。同時に、世界各地で核の脅威が続いていることは、核兵器使用の危険性が依然として高いことを、世界中の人々が思い知らされる効果がありました。」と語った。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

「このようなリマインダーを必要としない人々もいるが、大多数の人々は、メディアが核兵器についてほとんど報じないので、このリマインダーを必要とするかもしれません。」

「核軍縮に関心を持つ人々にとっての課題は、核兵器に関して高まった意識をいかに核兵器への懸念へと変えていくか、そしてその懸念をいかにして具体的な行動へと変えていけるか、というところにあります。」とラマナ教授は指摘した。

オランダのNGO「PAX」と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が12月15日に発表した報告書は、昨年、核兵器産業における長期的投資は減少した、としている。

名指しされた24の核兵器製造企業への投資総額はその前年より増加したが、これは防衛分野の激動の1年を通じた株価の変動に起因するものであった。

しかし、この報告書『核兵器に投資するな』のデータを見ると、融資や証券の引受・売出しなどの長期投資は2022年に459億ドル減少した。

ICAN
ICAN

核兵器生産を持続的な成長市場だと見なくなった長期投資家の数が増えているということであり、そこに関わる企業をリスクとして避けるべきと考えている人が増えてきたということでもある。

報告書は、中国・フランス・インド・ロシア連邦・英国・米国の核兵器製造に深く関わる24企業への投資について概観したものである。

報告書は、全体として、306の金融機関が、融資、証券の引受・売出し、株式の購入、債券の購入などで核兵器製造企業に7460億ドルを資金提供したとしている。米国の「バンガード」が最大の投資企業であり、681億8000万ドルを投資した。

PAX「核はいらないプロジェクト」のアレハンドラ・ミュノス氏は、「核兵器製造企業に投資を続ける銀行や年金基金などの金融機関によって、この大量破壊兵器の開発・製造が可能となっています。金融部門は、社会における核兵器の役割を低減するための取り組みで役割を果たすことができるし、そうすべきです。」と語った。

ICANのベアトリス・フィン事務局長は、「2021年に発効した核兵器禁止条約によって、これらの大量破壊兵器が国際法上違法化された」点を指摘したうえで、「長期的な傾向を見ると、核兵器に押された『悪の烙印』効果が発揮されつつある。」と語った。

「核兵器製造への関与は企業にとって望ましいものではなく、こうした企業の活動が人権や環境に与える長期的影響の観点から、対核兵器投資はリスクの高いものになりつつあります。」とフィン事務局長は指摘した。

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の検証・保安政策局長だったタリク・ラウフ氏はIDNに対し、「2022年は核兵器使用の危機があり、原子力発電所が実際の戦闘行為のなかで砲撃され、核軍備の制限とリスク低減に関する冷静な議論が見られないなど、核の危険が高まった運命の年だった。」と語った。

昨年末の段階で、ロシアと米国の間で唯一効力を持っている新戦略兵器削減条約(新START)は2026年2月4日に失効する予定で、それまで約1100日しかない。

2011年2月5日に発効した新STARTの下では、米ロ双方が核弾頭を1550に、配備済みの大陸間弾道ミサイル、海上発射弾道ミサイル、長距離爆撃機の合計を700に制限することを約束している。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

「現地査察はコロナ禍によって止まってしまったが、幸いなことに米ロ両国はデータの交換は続けています。」とラウフ氏は指摘した。

最新のデータによると、米国は659の運搬手段に1420の核弾頭を搭載しており、ロシアは540の長距離ミサイル及び爆撃機に1549の核弾頭を載せている。

「2021年7月、バイデン、プーチン両大統領によるジュネーブ米ロ首脳会談を受けて戦略的安定対話(SSD)が開始されたが、3回終了したところでロシアによる昨年2月のウクライナ侵攻が始まり、協議がストップしています。」とラウフ氏は指摘した。

やや遅れてはいるが、米国は新START二国間協議委員会の会合実施をロシアに提案すると同時に、後継条約と現地査察についての協議再開を呼びかけている。他方で、ロシア側は、時期が適切でないとしてこうした呼びかけを批判している。

核政策法律家委員会(LCNP)が12月21日に新たに刊行した「気候保護と核廃絶」は、気候変動と核兵器による脅威がますます大きくなっていると警告している。

「核兵器保有国は核戦力を近代化し、ある場合には数も増やしている。米ロ間の核軍備協議は停滞し、多国間核軍縮協議は存在しない。」

「ロシアによるウクライナ侵攻とそれに対する国際的な強い反発によって、平和と軍縮に関連する主要国間の継続的な協力にすでに障害が現れている。」と報告書は指摘している。

「そして、気候変動も無視することができない存在になってきた。最近のIPCC報告書は、地球の気温が不可避的に上昇し、火災や大型ハリケーン、洪水など、私たちが既に目にしている異常気象を世界的に引き起こしている。」

ラウフ氏は、「ウクライナにおける代理戦争が継続していたとしても、米ロ両国は次の分野での対話再開を図らねばなりません。」と、IDNの取材に対して語った。

Image: The US-Russia arms race. Source: china.org.cn
Image: The US-Russia arms race. Source: china.org.cn
  1. 核兵器の削減をさらに進めて、新STARTが2026年2月に失効したのちも米上院とロシア議会の承認なしで実行できる行政協定を締結すること。
  2. 戦略的安定性の強化。
  3. 核ドクトリンや核兵器配備に関する情報交換を通じて核戦争のリスク低減を図ること。
  4. 核不拡散条約(NPT)、核兵器禁止条約(TPNW)、包括的核実験禁止条約(CTBT)の支持。
  5. イラン核協定(JCPOA)の復活。

「また、最大2トンまでの兵器級高濃縮ウランをIAEA/NPTの保証措置の対象から外すオーストラリアへの原子力潜水艦提供計画(AUKUS計画)を原因とする脅威も存在します。」と、ラウフは指摘した。

もしこの計画が実行されるようなことがあると、IAEAの保証措置体制は決定的に弱体化することになるだろう。

ラウフ氏は、2022年、世界を核の危険から救う上で次の3人の人物が大きな役割を果たしたと指摘した(アルファベット順)。

2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
  1. IAEAのラファエル・グロッシ事務局長:ウクライナの原発施設に対するリスクを低減するために大胆かつ弛みない努力を続けた。
  2. オーストリアのアレクサンダー・クメント大使:6月に「核兵器の非人道性に関する国際会議」とTPNW締約国会議を成功裏に開催した。
  3. アルゼンチンのグスタボ・ズラウビネン大使:8月にNPT再検討会議の議長として議論を牽引した。彼の努力にも関わらず、NPTの中核的な任務よりもウクライナ戦争の問題を優先した一部の国々の行動のために、最終合意に達することができなかった。

他方で、核不拡散軍縮議員連盟(PNND)によれば、この10カ月は、ロシア・ウクライナ戦争や北朝鮮による核ミサイル実験、中国と台湾・米国間の緊張、インド・パキスタン間の継続中の紛争があって、それらから生じる核使用の脅威が現実に存在した。

「したがって、核保有6カ国(中国・フランス・インド・ロシア・英国・米国)を含むG20の首脳が、「核兵器の使用及び使用の威嚇は容認できない」とする宣言を確認したことは

心強いことだった。」

11月16日に発表された宣言は、核リスク低減や核軍縮の突破口を示し、核兵器使用禁止の一般慣行を強化し、これを核兵器国が少なくとも文書の上では認めている規範へと昇華させたものであった。

ワシントンに本部を置く軍備管理協会(ACA)は先月、年末の声明で、米国とロシアの指導者は50年間にわたり、検証可能な核兵器削減が自国の安全保障と国際社会の利益につながることを理解してきたと述べた。

「しかし、2022年が終わりを迎える中、ウラジーミル・プーチンによるウクライナへの違法かつ破壊的な戦争が続き、核軍備管理を巡る協議は停滞している。」

世界の二大核保有国間の現存する最後の核規制条約である新STARTは、あと1140日で失効してしまう。

米ロ両国が新たな核軍備管理の枠組みに向けた協議を真剣に開始しない限り、両国の核戦力を制約するものが1972年以来初めてなくなってしまう。

ロシア(および中国)との全面的な核軍拡競争の危険が高まってしまうとACAは警告している。(原文へ

Collage: Thalif Deen
Collage: Thalif Deen

※タリフ・ディーンは、コロンビア大学(ニューヨーク州)修士課程でジャーナリズム学を修めたフルブライト奨学生。著書に『核の災害をどう生き延びるか』(1981年)、国連を題材にした『ノーコメント:私の言葉を引用するな』(2021年)等がある。

INPS Japan

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|レバノン|希望と夢を響かせる文化イベント

【トリポリINPS/ECCE=イマネ・デルナイカ・カマリ】

Photo credit: Elite Center of Culture and Education
Photo credit: Elite Center of Culture and Education

文化教育エリートセンター(Elite Center of Culture and Education:ECCE)は2023年1月14日、在レバノンインド大使館と日本大使館の後援のもと、ベイルート・アラブ大学(BAU)トリポリ校にて、「天響の夢(Sky Dream)」と題したレバノン・日本・インド関連の展示・舞踊・歌などで構成された大規模な文化イベントを開催し多くの観客で賑わった。

このイベントでは、セントジョセフ大学日本文化センターで日本語を教えている詠子氏が主宰するレバノンの舞台舞踊団「レバノンのドリーマーズ・ジャパン(Dreamers Japan in Lebanon)」が日本の時代劇をモチーフとした舞踊を、そして、在レバノンインド大使館でインド舞踊を教えているプロのアーティスト、ディペッシュ・ホスキリ氏と国連機関で社会開発を担当している杉田聖子氏がレバノンの学生たちと共にインドの古典舞踊バラタナティアムを披露した。バラタナティアムはインド四大古典舞踊のなかで最も古い伝統を持ち、6世紀から9世紀にかけての古文書や寺院彫刻は、それが当時すでに高度に洗練された舞台芸術であったことを示唆している

これらの作品は、インド、日本、レバノンという3つの古い文化が一体となって素晴らしい創造性を発揮し、芸術は時間と空間を越えて人々の魂をつなぐという出演者らの確固たる信念を体現したものとなった。

天響の夢 (Amane no Yume) – Sky Dream – /Performed by Dreamers Japan in Lebanon
Photo credit: Beirut Arab University

開会式典には、スハイル・アジャズ・カーン駐レバノンインド大使、馬越正之日本大使(南2等書記官が代理出席)、グレッタ・ヌーン日本大使館文化部長、朴韓国大使夫妻、イェリザン・カリキノフカザフスタン大使をはじめ、各国の外交官、レバノン政府の大臣、代理、大学や病院の学長、文化・科学・宗教団体や自治体の代表、そして多くの学生たちが出席した。

ベイルート・アラブ大学のアミール・ジャラル・アル・アダウィ学長が、ハーリド・バグダディ副学長、オマール・ホウリ事務局長、理事・事務局関係者、イマーネ・デルナイカ・カマリ博士(ECCE代表)、アメール・カマリ氏等と共に、出席者を歓迎した。

式典は国歌斉唱で始まり、アダウィ学長が「あらゆる文化に対してオープンであることは、人間文化を豊かにするために当大学が掲げているモットーの一つです。「このイベントは独自の創造性をもってコミュニティの問題に光を当てるものであり、文化・芸術シーンへの貴重な一ページを加えるものです。」と語った。

Imane Dernaika Kamali/ Photo credit: Elite Center of Culture and Education
Imane Dernaika Kamali/ Photo credit: Elite Center of Culture and Education

カマリ博士は、「天響の夢(Sky Dream)」というこのイベントのテーマについて、「相次ぐトラブルと危機を経験している現在のレバノンには、まさに暗黒の日々を光に転ずる『天響の夢』が必要であり、時宜を得たタイトルだと思います。レバノンの救済プロジェクトは、本質的に文化プロジェクトでなければなりません。レバノンには文化が牽引する政策が必要であり、文化は、異文化との間に総合的かつ双方向の関わりを持つことができなければ成熟の域に達することができません。ECCEは、こうした理念から、ここトリポリ市の文化的なインターフェースとなり、異なる文明や文化を結びつける存在になるべく活動に取り組んでいます。」と述べ、ベイルート・アラブ大学、インド大使館、日本大使館の協力に謝意を述べた。

続いて登壇したカーン博士(駐レバノンインド大使)は、「レバノンとインドは、1950年代初頭に外交関係を開始して以来、常に友好的な関係を保っており、この関係は相互尊重と、とりわけコミュニティの多文化と民主主義の伝統を含む共通項に基づいています。」と語った。

続いてカーン大使は、インド国外でマハトマ・ガンディーの価値観を広めた人物としてジャムナラル・バジャジ国際賞を受賞したウガリット・ユナン博士を表彰した。また、在レバノンインド大使館の友人で、以前からインド文化の普及やインドとレバノンの友好関係の強化に協力してきたカマリ博士も表彰された。

Photo credit: Elite Center of Culture and Education
Photo credit: Elite Center of Culture and Education

スピーチに続いて、17世紀にコレラが流行した際、天からのメッセージを運んで病気を治したという日本の神話「アマビコ」を再現した12コマの踊りと歌で構成したショー等が披露された。コロナ禍を経て、この題材から、この芸術的創造性を通じてレバノンと世界に希望とポジティブな気持ちを広めようと、演劇ショーのアイデアが生まれた。

ベイルート・アラブ大学のキャンパスでは、これらのショーが披露される傍ら、インドと日本大使館のパビリオンでは、両国のパンフレット、雑誌、ポスター、民族衣装などが展示され、レバノンの芸術パビリオンでは、同国の観光地に関する絵画やトリポリ市内の古い歴史遺産の装飾などが展示された。(原文へ

INPS Japan

Photo Credit: Beirut Arab University
Photo Credit: Beirut Arab University

*イマーネ・デルナイカ・カマリは、文化教育エリートセンター代表、政治評論家、セントジョセフ大学講師。

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偽情報: 信仰に基づく組織に対する脅威の高まり

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=プリトビ・イエル/ゾーイ・スコリック】

公衆衛生への取り組みの妨害や選挙戦の混乱など、世界中で偽情報が国民の信頼や民主主義の原則を脅かしている。しかし、国際社会において偽情報がますます大きな話題となりつつあるにもかかわらず、信仰に基づく非政府組織(NGO)の運営やその公共イメージに対する偽情報の影響は、余り取り上げられていない。米国で活動する海外支援組織の60%近くが信仰に基づく組織であることを考えると、これらの組織に対する偽情報の影響を把握するだけでなく、組織の人道的活動に悪影響が及ばないよう偽情報に対抗する戦略を検討することも重要である。

偽情報キャンペーンの背後には概して国家の存在があるが、それ以外のアクターが虚偽や不正確な情報を意図的に拡散するために大きな役割を果たしている場合もある。最新の調査では、民間の第三者機関、つまり「偽情報コンサルタント会社」を利用して偽情報キャンペーンを開始し、促進する事例が増えていることが示されている。そのようなキャンペーンは、政治的利益を得るために偽のナラティブを拡散している。政治家や政府は舞台裏に身を潜めたまま、これらの偽情報拡散機関の糸を引いており、そのような事例はインド、フランス、ドイツ、ホンジュラスのような国々で確認されている。(原文へ 

しかし、偽情報を広めているのは、これらのいわゆる「偽情報コンサルティング会社」だけではない。シンクタンクや報道機関も、同じことをしている。米国に本拠を置くイスラム教系NGOは、偽情報キャンペーンによる狙い撃ちの被害者となっている。近頃では、反イスラム右翼系シンクタンクのミドルイースト・フォーラム(MEF)が、信仰に基づく組織を中東や南アジアのテロリスト集団と結び付けようとする記事を発表した。関連性がある以上同罪である、つまり3次や4次の隔たりは仲間のうちといった理屈である。記事では、イスラム教とテロの繋がりに関する使い古されたステレオタイプを強化するという究極の目標に役立つような各種のデータベース、グラフ、数字を読者に示し、信憑性を粉飾するという手段を用いている。しかし、詳細に分析すれば、それらのデータは信仰に基づく組織とテロの間に関連性があることなど証明していないが、その代わりにNGOの収入や寄付金の流れをあやふやなままリストアップしており、無関係でありながらいかにも説得力がありそうな話を読者に提示しているということが分かる。さらに、記事は、「過激主義に対抗する有力な手段として、[イスラム系米国人の]マッピング」を強化するのが有効であると主張している。これこそ、この記事が、西側のイスラム恐怖症と米国人イスラム教徒に対する偏見を助長するステレオタイプを利用することによって、偽情報の魅力を強めようとしていることを示している。

米国の信仰に基づくNGOは、そのような偽情報戦術によって組織の評判が傷つけられ、救済・開発援助組織として運営する能力が損なわれたと抗議している。偽情報が流された結果、政府の助成金を打ち切ろうとする連邦議会での動き、銀行取引の困難、活動する人員の安全リスクが生じていると、これらの組織は報告している。例えば、バンク・オブ・アメリカは近頃、イスラミック・リリーフUSAが23年間保有していた銀行口座を何の説明もなく閉鎖した。これは、オンライン上の偽情報によって生み出されたネガティブな認識がいかに現実に影響を及ぼすかを、改めて示すものである。

イスラミック・リリーフUSAだけではない。調査に回答した、米国に本拠を置き海外で活動を行っているNGOの3分の2が、資金アクセスに関連する困難を抱えていると報告している。こういった問題は、銀行が「デ・リスキング」と呼ばれる取り扱いする結果として生じる場合が多い。これは、顧客との取引に関して認知されたリスクを管理するのではなく回避するため、金融機関が取引関係を断ち切るという慣行である。デ・リスキングは、人道援助活動を行っているNGOにとって特に打撃を与える。命を救う支援を行う海外プログラムを資金が支えているからである。その場合、NGOは、資金を海外に送る別の方法を見つけるか、米国の別の銀行に口座を開設するために、貴重なリソースを配分する必要が生じる。

そのような偽情報戦術に対抗するため、一部の組織はオンラインの検索エンジン最適化や政府関係担当者の設置に投資を行っている。しかし、多くの場合、このような対応戦略は費用がかかり、重要な人道的活動に配分できたはずの多くの時間や資源を必要とし、偽情報キャンペーンに対抗する効果はわずかなものに過ぎない。

 偽情報キャンペーンに対する力を生み出す一つの方法は、米国を拠点とする信仰に基づく組織や支持団体の間で強固な連帯と協働を構築することである。米国に本拠を置く組織のハブとして、NGOに対する差別や偏見に基づく政策に対抗する活動を行っているトゥギャザー・プロジェクト(The Together Project)は、偽情報に対抗し、ポジティブな変化を促すために、市民社会空間における連携がいかに有効であるかを着実に実証している。

2017年、ロン・デサンティス元下院議員がNGOイスラミック・リリーフUSA(IRUSA)への政府助成金の打ち切りを強く要求した。デサンティスが提案した助成金修正案に対抗するため、IRUSAはトゥギャザー・プロジェクトと連携し、同盟関係にあるカトリック・リリーフ・サービス(CRS)のような宗教的組織や非宗教的組織とともに対応戦略を策定した。この対応では、同盟するNGOの連合や、信仰に基づくNGOのミッションと活動を支持する連邦議会議員の影響力が発揮された。最終的にはデサンティス議員の修正案が取り下げられ、この努力は成功を収めた。

信仰に基づくNGOが偽情報によるネガティブな影響に対抗するために利用できるもう一つの有効な戦略は、情報のマッピングと共有を強化することである。情報のマッピングと共有により、NGOはベストプラクティスを学び、ツールを共有することができ、偽情報に対して後手に回るのではなく先手を打った対応を取る準備ができる。さらに、議員への啓蒙的な働きかけを重点的に行うべきである。信仰に基づくNGOは、定期的に訪問することによってポジティブなパブリックイメージを生み出し、偽情報の影響を受けやすいと思われる連邦議会議員を啓蒙することが可能になる。

信仰に基づくNGOは偽情報に直面した際、宗教の垣根を越えた協力とともに、情報のマッピング、国会議員への啓蒙的働きかけを行うことなどを対応戦略の核とするべきである。しかし、このような戦略だけでは、有効かつ持続的に偽情報を克服するには十分ではない。偽情報に対して永続的かつ有効に対処するためには、信仰に基づく組織同士だけでなく、データサイエンティスト、ITエンジニア、世界のメディア関係者、政策立案者、研究者、社会活動家との協力を強化する必要がある。信仰に基づく組織が偽情報に直面してもそれに負けないためには、多面的で事実の証拠に基づいたアプローチを取るほかない。今こそ、こうした革新的で変化をもたらす連携を構築し始めるときなのだ。

プリトビ・イエル(Prithvi Iyer)は、ノートルダム大学キーオスクールでガバナンスおよび政策の修士課程で学ぶ大学院生である。アショカ大学(インド)より心理学および国際関係学の学士号も取得している。また、大学院入学前はニューデリーに本拠を置く著名な公共政策シンクタンクであるオブザーバー研究財団で研究助手を務めた。
ゾーイ・スコリック(Zoe Skoric)は、ワイオミング大学を最優等で卒業し、国際関係学の学位を取得した。同大学で、米国難民再定住プログラム(U.S. Refugee Resettlement Program)をワイオミング州(プログラムがない唯一の州)に設置することを目指す組織を設立し、主導した。また、これまでにケニアの国内避難民の支援に従事し、米国国務省のほか、AMIDEAST、パートナーズ・グローバル(Partners Global)、米国シリア救済連合(American Relief Coalition for Syria)などのNGOで職務に就いた。現在は、インターアクション(InterAction)のグローバル開発政策・学習チーム(Global Development Policy and Learning team)で働いている。

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宗教が防災と出会うとき

ネパール産の日本紙幣

この記事は、ネパーリ・タイムズ(The Nepali Times)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【カトマンズNepali Times=マヘシュワル・アチャリヤ】

お金は木にならないが、ネパールの茂みには日本の紙幣を印刷するための灌木が生えている。

ネパールは、そのユニークな生態系の多様性と地形から、多くの換金作物を生み出しているが、実際に現金になっている作物が1つある。

近年、日本では紙幣、パスポート、封筒、切手、文房具等の印刷に珍重されているヒマラヤの潅木、エッジワシア・ガードネリ(アルゲリ)の樹皮の輸出が激増している。

ヒマラヤの標高1500〜3000mによく見られるこの植物は、俗にアルゲリと呼ばれ、その需要の高まりとともに、シンドゥ・パルチョーク郡ドラカ郡タプレジュン郡イラーム郡、バグルン郡、ミャグディ郡などの農家で商業的に栽培を始めている。

ドラカ郡で紙用の潅木(ペーパーブッシュ)を栽培しているラクパ・シェルパさんは、「アルゲリはこの地域の唯一の輸出品で、この自治体に200万ルピー(約204万円)以上の収入をもたらしてくれています。」と語った。

ナラヤン・マナンダール著『ネパールの植物と人々』によると、手漉き紙の技術は14世紀に中国からネパールに伝わったとされる。ラスワ郡やドラカ郡に住むタマン族のコミュニティーでは、ネパール固有の手漉き紙としてより有名なロクタ植物の樹皮を、少なくとも700年前から使っている。

ネパールは10年以上前にこの紙用の潅木を日本に輸出し始め、既に伝統的に和紙に使われていたミツマタ(三椏)の代用品として役立っている。「日本の紙は世界一と言われていますが、ネパールの紙は海外のほとんどの紙より丈夫で質が良いと見られており、高い需要につながっています。」と、ネパール手漉き紙協会のキラン・クマール・ダンゴルさんは語った。

現在、アルゲリはネパールの55地区で栽培されている。乾燥した日陰に生える常緑小低木で、茶色がかった赤色の茎と長い花茎、黄色の花を持ち、自家受粉が可能だ。アリリ、アルカレ、ティンハーンジ・ロクタ、グルン語でパーチャール、タマン語でワルパディ、シェルパ語でディヤパティとも呼ばれ、土壌条件によってはすぐに3mまで伸び、乾燥防止や緑を増やすのに重要な役割を担っている。

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「一般的な植物と違って病気に罹りにくく、虫や牛からも避けられる。しかし、栽培には細心の注意が必要です。寒い時期にきちんと乾燥させないと、植物が腐ってしまうのです。」とシェルパさんは語った。

植えてから5年後の10月から2月にかけて収穫されるが、この時期にははっきりとした白色を帯びている。水分の多いアルゲリは緑色を帯びており、手漉き紙に適さないとされている。

茎の内側の繊維状の覆いは紙の原料に、外側の樹皮はロープの原料に、また根を疥癬の治療に使う地域もある。アルゲリにはA、B、Cの3種類の等級があり、価格は1kgあたり100ルピーから575ルピーである。

シンドゥ・パルチョーク郡にあるジュガル・ネパール紙工場のベヌ・ダス・シュレスタ氏は、「アルゲリは、ヒマラヤ地方のコミュニティーにとって良い収入源です。この植物は灌漑を必要とせず、栽培が簡単です。」と語った。

ドラカ郡で40人を雇っているチェット・バハドウール・シェルパ氏によると、栽培と収穫に従事する農民は1日1000ルピーで2カ月間働き、加工に従事する女性労働者は1kgあたり20ルピーを受け取っている。

森林研究・研修センターは、国内の209万1000ヘクタールで、年間10万481トン以上のネパール産紙用の灌木が生産されていると推定している。新鮮で成熟した樹皮1kgで400gのネパール産紙漉き紙ができる。2015/16年のFAでは、6万kgのアルゲリ樹皮が3600万ルピー近くに相当し、日本に輸出された。昨年、輸出量は95000kgに増加し、年間の利益は1億ルピー以上になった。

トリブバン大学応用科学技術研究センターのバイオテクノロジスト、ヴィジェイ・スヴェディ氏は、特に東ネパールでは、持続的に利益を生むアルゲリ栽培の大きな可能性を秘めていると強調する。

Photo: LAKPA SHERPA
Photo: LAKPA SHERPA

「現在、すべての作業は手作業で行われており、大変な労力を費やしています。作付けと収穫を機械化し、体系的かつ経済的に実行できるようにする必要があります。」

ネパール産紙用の灌木は、パシュミナやカーペット、衣料品と並んで、ネパールで最も有名な輸出品の1つになるかもしれない。紙を作る以外にも、葉、茎、根は農家が商業的に販売することができる。

現在、ネパール・手漉き紙協会は、アルゲリ樹皮と手漉き紙の需要を拡大するために、地元の関係者やデザイナーを対象にトレーニングやワークショップを実施している。キラン・ダンゴルさんは、「私たちには、本当に優秀な次世代のデザイナーがいます。地元の雇用を活用することで、ネパール産手漉き紙への需要を国内のみならず世界的に拡大することができます。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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