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ケニアの環境保護活動家を追悼し、地球への投資を呼びかける

【ニューヨーク/ナイロビIDN=リサ・ヴィヴェス】

ワンガリ・マータイ財団は、4月1日にノーベル賞受賞者の故ワンガリ・マータイ女史の誕生日を迎え、地球への投資を呼びかけた。

同財団のンジェリ・カベベリCEOは、「マータイ女史は文字通り、若い頃から自分の人生をこの惑星に投資していました。」「神が彼女を世に送り出した日を祝い、国際マザーアースデー(4月22日)を前にして、私たち一人ひとりが地球に何を投資すべきかを考えよう。」と語った。

ワンガリ・ムタ・マータイ博士は、1977年にケニア全土に木を植え、貧困を緩和し、紛争をなくすことを目的とした「グリーンベルト運動」を創設した。彼女はケニア人、特に女性を動員し、30年間で3000万本以上の木を植え、国連が後に世界で110億本の木を植えることになるキャンペーンを開始するきっかけとなった。

90万人以上のケニア人女性が、彼女の植林キャンペーンから、森林再生のための苗木を販売することで恩恵を得た。

彼女は特に、多くの分野で第一人者となった女性でもあった。1971年にナイロビ大学で博士号を取得したマータイ女史は、中央・東アフリカ出身の女性として初めて博士号を取得し、2004年には黒人・アフリカ人女性として初めて「持続可能な開発、民主主義、平和への貢献」が評価されノーベル平和賞を受賞している。

卒業後、マータイ女史は、ケニア赤十字、環境リエゾンセンター、ケニア全国女性協議会など、多くの人道支援団体に関与し、こうした活動を通じて、ケニア農村部での食糧難や水不足の経験から、貧困と環境破壊の相関関係を観察するようになった。今日ケニアが直面している環境問題には、森林破壊、土壌浸食、砂漠化、水不足と水質の悪化、洪水、密猟、国内・産業汚染などがある。

アマゾン熱帯雨林に次ぐ世界の「第二の肺」とされるコンゴ盆地森林生態系の親善大使に任命されたマータイ教授。4冊の著書(『グリーンベルト運動』『へこたれない』『アフリカへの挑戦』『地球の補充』)とドキュメンタリー映画『テイキング・ルート』(原題:Taking Root)を通じて、マータイ女史のビジョンは、 グリーンベルト運動の活動やアプローチの背景にある重要な概念を拡大し、深化させた。

マータイ女史と今日も続くグリーンベルト運動の活動は、草の根運動が持つパワーと、「コミュニティが集まって木を植える」という一人のシンプルなアイデアが変革をもたらすことを証明するものである。

マータイ女史のレガシーは、現在もケニアにおける環境保全の最前線に立ち、森林の再生と復元に大きく貢献しているグリーンベルト運動を通して、生き続けている。

グリーンベルト運動は、他の多くのアフリカ諸国でも同様の運動に影響を与え、30カ国以上で農村部の飢餓、砂漠化、水危機との闘いを支援し続けている。

しかし、マータイ女史の活動は、女性の生活と環境に大きな変化をもたらし、持続的なインパクトを与えているにもかかわらず、彼女の物語とその功績は、グローバル・ノースではあまり語られていない。

マータイさんは2011年に71歳で亡くなった。

財団は今月、国際マザーアースデーの日に「Invest in our planet(地球に投資を)」をテーマに、第2次戦略計画を発表する予定だ。(原文へ

INPS Japan

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原潜拡散の引き金となりかねない三国協定

【国連IDN=タリフ・ディーン】

オーストラリア(豪州)に対して原子力潜水艦(SSN)を供与するとの英国・米国との間の三国協定(3月13日発表)は、世界全体に悪影響を引き起こしかねないものだ。

三国(AUKUS)の共同声明は、この取り決めを、米国の最先端の潜水艦技術をはじめとする三国すべての技術を統合した英国の次世代設計を基礎にした共同開発のたまものと述べている。

豪州と英国は将来型の潜水艦としてSSN-AUKUSを運用し、2020年代末までに両国がそれぞれの国内の造船所で同型艦の建造を始めるという。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

国際原子力機関(IAEA)元検証・安全保障政策課長のタリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「米英が厳格な不拡散・検証の取り決めなしに原潜を非核兵器国である豪州に供与すると決めたことは、カナダ・イラン・日本・韓国などによる追随を引き起こしかねない原潜拡散のパンドラの箱を開けてしまった。」と語った。

ラウフ氏はまた、「AUKUSによる2021年9月の発表から18カ月、豪州やブラジルのような非核兵器国における海軍原子力推進に対する保証措置のアプローチを採り、技術的目標を設定することをIAEAが放棄しているように見えるのは驚きだ。」と指摘した上で、「もうひとつ懸念されることは、IAEA理事会が、いま述べた保障措置のアプローチや技術的目標を発展させるための作業を行ったり、あるいは保障措置問題に関して深刻な検討を加えたりするようにIAEA事務局に対して要請するのを躊躇しているように見えることだ。」と語った。

「さらに、一部の国々の代表は、技術的な議論を真摯に行うよりも、第三者であるコメンテーターの安っぽい批判に関心があるようだ。」

「現在においてもそうだし、(2003年3月の)イラクに対する違法な侵略を正当化するために一部の指導者が誤解を招くような情報を提供してから20年ということを考えても、これは驚くべきことではない。」

「海軍原子力推進をIAEAの検証・監視の枠から外すことで、1991年の第一次湾岸戦争時のような状況がもたらされるかもしれない。このときは、それまでは探知されていなかった核兵器開発計画と未申告の核計画が発見されて世界を驚かせた。」とラウフ氏は断言した。

三国の取り決めによれば、豪軍要員や民間人が2023年以降に米英両海軍に派遣され、両国の潜水艦産業で働いて豪州関係者の訓練を加速させることになるという。

米国は2023年以降、同国原潜の豪州への寄港回数を増やす予定だ。豪海軍の軍人が米国に加わって訓練を受けることになる。英国も2026年からは豪州への訪問を増やす。

米英両国は早ければ2027年にも、豪州が独自の原潜能力を獲得するために必要な海軍要員、労働力、インフラ、規制システムの向上を図るために、原潜のローテーション配備を開始する予定だ。

Photo: The Ohio-class ballistic missile submarine USS Louisiana transits the Hood Canal in Puget Sound, Wash., Oct. 15, 2017, as it returns to its homeport following a strategic deterrent patrol. Photo By: Navy Lt. Cmdr. Michael Smith | DOD
PUGET SOUND, Wash. (Oct. 15, 2017) The Ohio-class ballistic-missile submarine USS Louisiana (SSBN 743) transits the Hood Canal as it returns to its homeport following a strategic deterrent patrol. Louisiana is one of eight ballistic-missile submarines stationed at Naval Base Kitsap-Bangor providing the most survivable leg of the strategic deterrence triad for the United States. (U.S. Navy photo by Lt. Cmdr. Michael Smith/Released)

豪州軍の元諜報官であるクリントン・フェルナンデス教授は3月18日の『シドニー・モーニング・ヘラルド』紙で、AUKUSによる3680億ドルの原潜供与協定は、豪州をそこから離れることが非常に困難な軌道に乗せるものであると警告した。

「豪州が米英両国から潜水艦を購入するこの協定は、今後数十年にわたって、豪州を米英との運命共同体にすることを意味する。」

「その危険は、豪州軍が自前の軍隊というよりも米軍の一要素として組み込まれてしまう点にある。」

「ここでのキーワードは相互運用性だ。より大きな戦力を補強するために、よく選ばれた、ニッチな能力を提供することで、超大国の戦略の内部で作動する、ということだ。AUKUSは、豪州軍が米軍・英軍と総合運用性を持ち、さらには互換性すら持つことを意味する。」とフェルナンデス氏は主張した。

Map of Australia
Map of Australia

「相互運用性は豪州軍の戦争のやり方にとっては中心的な概念であり、その圧倒的な重要性は歴史に根差している。第一次世界大戦以前から、豪州は、相互運用性の観点から英国のリー・エンフィールド型ライフルを好み、カナダのロス型ライフルを採用しなかった。」

「1909年当時の国防相ジョージ・ピアースは豪州独立を熱心に主唱していたが、相互運用性の必要性は認識していた。当時はそれが意味を持った。当時の英国は主導的な帝国であり、豪州はその帝国内の自治領であったからだ。」とフェルナンデス氏は説明した。

ニューサウスウェールズ大学の「未来活動研究グループ」にも参画しているフェルナンデス氏は、「帝国下」の意識が豪州の安全保障やアイデンティティの本質であって現在のAUKUSの中心にも座っており、自主防衛やコスト感覚といった他の目標を凌駕している、という。このことが、軍が将来的に直面する脅威やリスク、機会となる。

三国政府は、今回の決定を正当化した3月13日の共同声明で、AUKUSパートナーシップの利益は、世界の人口の半分以上と世界経済の3分の2以上を擁するインド太平洋地域を超えて広がると述べた。

「(AUKUSは)大西洋とインド太平洋地域の同盟国・パートナー国を、これら目的の下支えとなる国際システムに緊密に結びつけることで、我々の集団的な強みは一層強化されることになろう。」

「豪州軍による潜水艦群の近代化は、我々が手を携えて機会を実現するにあたり、我々を緊密に結びつける数十年に及ぶ取り組みとなろう。」

声明はまた、豪州による非核兵器搭載型の原潜取得は、高度な不拡散基準を満たし、核不拡散体制を強化する形で行われることになろうと述べた。

「このパートナーシップは、豪州が核不拡散に長年にわたってコミットしてきた実績ゆえに可能になったものだ。」

「21世紀の歴史のほとんどはインド太平洋地域で書かれることになろう。我々は、経済的繁栄や自由、法の支配を強化し、それぞれの主権国家が強制によらず自由意思で物事を決定する権利を保持するために、この地域を超えてパートナーと協力することを誇りに思う。」

「AUKUSは、今後数世代にわたって、自由で開かれたインド太平洋地域という我々共通のビジョンの推進に寄与することになろう。」

アンソニー・ウィアー米国務次官補(国際安全保障不拡散局不拡散政策担当)は同省で3月15日に開いた記者会見で、「海軍原子力推進は核兵器ではないことを明確にしておくことが重要だ。それは単に潜水艦が原子炉によって動いているに過ぎない。それだけのことだ。これは安全な技術だ。米英両国は60年以上にわたって、原潜で2.4億キロを航行してきた。それは月旅行300回以上分の距離にあたり、その間、人間の健康や環境に悪影響を与えたことはない。」と語った。

「AUKUSは防衛のためのパートナーシップであるが、それ以上のものもある。それは、米国とそのパートナー国・同盟国が、我々の海軍人や科学者、産業をつなぎ合わせて、インド太平洋地域の平和・安全・繁栄を維持する能力を維持し高めることによって、平和かつ安定したインド太平洋を実現するための具体的なコミットメントの表れだ。」

「我々は、明確に、潜水艦群を強化するとの豪州の決定を支持する。しかし、それ以上に、AUKUSを通じて、米・英・豪三国は、幅広い安全保障・防衛能力に関して我々の長期的な協力関係を深化させる意図を持っている。そして、そうすることによって、AUKUSを通じた防衛装備品移転を最適化するプロセスを再検討・合理化するために積極的に協力していく。」

「明確にしておかねばならないことがある。豪州は核不拡散条約の下での非核兵器国であり、これまでも、そしてこれからも、核兵器を追求することはないということだ。豪州がこれまでに示してきた核不拡散へのコミットメントにおける実績は、今回のパートナーシップを可能にする本質的な条件であった。我々三国のパートナーは、それぞれの法的義務と核不拡散を遵守し義務を果たし続ける。」と、ウィアー次官補は語った。

2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

他方で、英国の『ガーディアン』紙によれば、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長が、AUKUS協定が核不拡散上の義務に抵触することのないように、IAEAとAUKUSはさらなる協議を続けると述べたと伝えている。

同紙によれば、AUKUS協定は、海軍による原子力の非軍事的利用(推進用の高濃縮ウラン)をIAEAの査察の対象外にした1968年核不拡散条約の抜け穴を利用しているという。

グロッシ事務局長は3月14日、ワシントンで記者団に対して「潜水艦が出航してしまう前に、さらには港に戻ってきたときにチェックを加えねばならない。」と語った。

ガーディアン紙の報道によると、「それには高度な技術的手法が必要となる。溶接された部分があるからだ。しかし、我々の査察官は、内部に何があるのか、潜水艦がどのようにして、いつ港に戻ってくるのか、すべて[核分裂物質]がそこに[申告通りに]あるのか、失われた物質はないのかを調べることになる。」とグロッシ事務局長は述べたという。

「彼らの計画に対して、我々は高い要求を出すことになろう。プロセスがいま始まった。現在、実情を把握しているところだ。」

グロッシ事務局長は、AUKUS協定に関連した不拡散協定の進展について、6月のIAEA理事会に報告する予定だ。

「すべての保証措置を確実にするために、厳格で水も漏らさぬ仕組みを作り上げるつもりだ。もしそれができないのなら、協定は認められない」とグロッシ事務局長は語った。(原文へ

INPS Japan

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G7広島サミットで、核軍縮の原則を推進するよう求められる日本

【シドニー/東京IDN=カリンガ・セネビラトネ】

日本が主催する5月のG7サミットに向けて3月29日に創価大学(東京八王子市)で開催した政策提言国際会議(同時ライブ中継)で、G7広島サミット事務局の有吉孝史副事務局長が、「岸田文雄首相がサミットの議題に核軍縮を入れることを重要視していた。」と語った。

Takashi Ariyoshi, Deputy Secretary General, G7 Hiroshima Summit Secretariat; Director, Economic Policy Division, Ministry of Foreign Affairs, giving the keynote address. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
Takashi Ariyoshi, Deputy Secretary General, G7 Hiroshima Summit Secretariat; Director, Economic Policy Division, Ministry of Foreign Affairs, giving the keynote address. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

有吉副事務局長は、岸田総理の故郷である広島は、第二次世界大戦末期(1945年8月6日)に米国が原爆を投下し約14万人が亡くなった場所であり、核兵器が人類にもたらす未曾有の課題を象徴している都市としてサミット開催地に選ばれたと語った。

G7広島サミットでは議論を深め、厳しさを増す安全保障環境のなかで核兵器のない世界を実現するという考えに対して強いメッセージを送ることになるだろう。この問題に対処する方法はいくらでもあります。」と語った。

有吉副事務局長はG7で焦点が当てられる可能性がある3つの論点を挙げた。第一は核兵器の不使用に対する「共通認識」を持つこと。第二は核兵器政策における透明性の向上。そして第三は核兵器備蓄の削減と原子力平和利用の促進である。

会議の共催団体である「G7研究グループ」のジョン・カートン代表は、「世界がとりわけロシアによって核兵器使用の危機に晒されている今年、広島でG7サミットが開催されることは意義深い。広島はG7の指導者らに核戦争の恐ろしさを想起させる重要な場所です。私たちは自らの行いを見つめ直し、(軍縮政策がもたらす)すべての人々の利益に向けて努力していく必要があります。」と語った。

G7とは、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ(議長国順)の7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組である。

核兵器の管理に関するパネルディスカッションで発言した創価学会インタナショナル(SGI)国連事務所のアナ・イケダ氏は、「広島G7サミットは私たちの安全について真剣に考える機会となるだろう。」と指摘したうえで、「核兵器は国家の安全保障を達成するための手段にはなりえません。」「私たちは、核兵器に依存する安全保障政策からの脱却を図らなければなりません。」と語った。SGIもこの会議の共催団体である。

Anna Ikeda, Representative of Soka Gakkai International to the United Nations, giving a presentation from New York at a session titled “Controlling Nuclear Weapons”. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

イケダ氏は、すべての核保有国が「先制不使用」の原則を採用すれば、ウクライナ紛争を解決するための多国間対話の余地が生まれると主張した。そして、「そのような政策には、相互信頼を築くための政策が伴わなければなりません。」と付け加えた。

Audrey Kitagawa, President of the International Academy for Multicultural Cooperation (IAMC). Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

多文化共生のための国際アカデミー(IAMC)のオードリー・キタガワ会長は、「G7各国の現状は核不拡散条約(NPT)に違反している部分があります。」と指摘したうえで、「G7広島サミットでは核問題を議題の最高レベルに引き上げ、核兵器廃絶への関心を高める必要があります。そうでなければ核保有国が増える可能性があります。」と警告した。

「もしイランが核を保有すれば保有国数は10カ国になり、サウジアラビアもこれに続くことになるかもしれません。また韓国も、これに続くか、米国に核配備を要請することになるかもしれない。」と指摘し、「中国と米国は核兵器予算を増やしています。こうして核保有国は今日私たちが目のあたりにしている不安を大きくすることに寄与してしまっているのです。」とキタガワ会長は語った。

NPTは核兵器と兵器技術の拡散を予防することを目的とした画期的な国際条約である。5つの核兵器国を含む191カ国が署名している。

「核クラブのメンバーは安全保障にとって最大の障害となっています。核兵器の先制不使用は、(緊張を緩和するための)第一歩であり、それを公約にしているのは中国とインドだけです。」とキタガワ会長は語った。

アジア・ソサエティ政策研究所マネージングディレクターのローリー・ダニエルズ代表は、「中国の勃興に対する米国の反応は、アジアにおける緊張と軍拡競争を加速させています。この傾向を反転させるには、 『協力』の定義を見直して『共通の利益のために協力する』ものだと考える必要があります。」と指摘した上で、「中国と米国はかつて、がん治療のための原子力研究や濃縮ウランの危険性低減のために協力していたことがあります。」と語った。

Jonathan Granoff, President, Global Security Institute
Jonathan Granoff, President, Global Security Institute. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

グローバル安全保障研究所」のジョナサン・グラノフ所長は、「人類のあらゆる努力に終止符を打ってしまうような装置を私たちは作り出しています。」と語った。また、私たちは「『良き』国が(人類に対して)恐ろしいことをする事例を知っています。」と指摘し、イラクや広島、シリア、スーダン、ウクライナの例を挙げた。また、リビアやウクライナ、イラクのような核兵器を放棄した一部の国々がどうなったかについても注意を喚起した。

「私たちは天然痘ウィルスをを生物兵器として使用することをどの国に対しても許していませんが、9カ国にのみウィルスの使用を認めたとしたらこれはとんでもないことです。しかしこれと同様のことが核兵器には起きているのです。」とグラノフ所長は主張し、広島G7サミットが、核兵器の先行不使用を、おそらくは国連安保理を通じて採択される法的拘束力のある国際条約にする第一歩を踏み出すよう訴えた。

「米国では、私たち活動家が核軍縮を求めると、『同盟国がそれを望んでいない』と言われます。G7広島サミットでは、核兵器は安全保障のためには必要なく廃絶すべきだというメッセージが(あらゆる人々に対して)発信されるべきです。」とグラノフ所長は説明した。

イケダ氏は、「核兵器が私たちを滅ぼしてしまう前にそれを廃絶するには、核兵器が私たちの安全を守るとの観念を打ち捨てねばなりません。そのためには、核兵器を正当化する発想に対抗するとともに、核兵器を避けることが(平和への)道だと言い続ける必要があります。広島(G7サミット)はそこに向けた期限と道筋を明示すべきです。」と語った。(原文へ

A Glimps of the Conference: “Advancing Security and Sustainability at the G7 Hiroshima Summit” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

INPS Japan

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創価大学平和問題研究所

国際女性デー2023

【国連IPS】

コンピューターの黎明期から、バーチャルリアリティ(可能現実)や人工知能が普及した現代まで…女性達は、私たちがますます生活で依存するようになったデジタル世界に、計り知れない貢献をしてきた。

彼女たちの功績は、歴史的に歓迎されない分野で、あらゆる困難を乗り越えて成し遂げられてきたのだ。

今日、デジタルアクセスにおける根強いジェンダーギャップが、女性がテクノロジーの可能性を最大限に引き出すことを妨げている。

STEM(科学・技術・工学・数学)教育 や キャリア面における女性の割合の低さは、依然として技術設計やガバナンスへの参画を阻む大きな障壁となっている。

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2020」によると、テクノロジー分野での女性の割合は依然として低い。

女性は、中核となるテクノロジー分野の労働力の17%を占めているに過ぎない。

また、オンライン上のジェンダーに基づく暴力の脅威が蔓延しているため、女性らは自分が占めるデジタル空間から追い出されている。

125カ国の女性ジャーナリストを対象とした調査では、73%が仕事の過程でオンライン暴力を受けたことがあると回答している。

また女性の排除は、より微妙な形でも広がっている:

人工知能(AI)分野における労働人口に占める女性の割合はわずか22%に過ぎない。

また、業界を問わず133のAIシステムをグローバルに分析した結果、44.2%がジェンダーバイアスを示していることが判明した。

一方で、いくつかの進展もみられる。

テクノロジー分野への女性の参加は、2014年から10%増加した。

米国の女性・情報技術センター(NCWIT)によると、テクノロジー分野の幹部職に就く女性の数は、2012年の11%から19年には20%に増加した。

テクノロジー分野における男女平等の実現という点では、道のりは依然として長い。

国際女性デーは、女性の社会的、経済的、文化的、政治的功績を世界的に祝う日である。

それは、進歩のために努力し続けるための行動を呼びかけるものである。

今年は、国際女性デーのテーマである、「全てをデジタルに:ジェンダー平等のためのイノベーションとテクノロジー」を祝おう。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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欧州議会議員ら核軍縮促進を呼びかけ

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

欧州議会議員らが、核軍縮に向けた「具体的な措置」を取り、これを「2023年の優先事項」とする必要性を強調している。これは、核兵器を絶対悪のものとし、2021年1月22日に発効した国連核兵器禁止(核禁)条約のような軍縮諸条約を強化する取り組みへの補完になると議員らは考えている。

3月9・10両日にノルウェーのオスロで開催された「ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)市民社会フォーラム」では、ベルギー・デンマーク・ドイツ・アイスランド・ノルウェー・スコットランド・スロベニア・スウェーデンの欧州8カ国から17人の欧州議会議員が参加し、核軍縮を進める上で議員の重要な役割が強調された。

ICAN
ICAN

会議は、ノルウェーのキリスト教民主党と自由党、社会主義左翼党が共催した。

参加議員らは総括声明で、「安全保障戦略における核兵器の役割を減らし、核の脅威を継続的に非難し、G7の同盟パートナーに対し、象徴的な都市である広島で(5月に開催される)2023年G7サミットを核軍縮協議の出発点とすべきことを各国政府に」呼びかけた。

総括声明にはさらに、核軍縮と核禁条約の推進、そして「核兵器のない世界の実現」に向けた議員としての役割について議論するためにここに集ったと記されている。議員らは、各国の状況や立場を説明し、核軍縮に向けたさらに大胆かつ具体的な行動を促すための意見交換を行った。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

まとめ声明はさらに、ノルウェーが「第1回核兵器の人道的影響に関する国際会議」を主催してから10年が経過したと指摘した。こうした動きを受けて成立した核禁条約は、現在署名国92、締約国68を数え、国際法によって核兵器を禁止している。

「核禁条約は、核使用のリスクが高まり、核使用のタブーが損なわれつつある現在、核軍縮・不拡散体制の強化に資する重要なツールである。ロシア政府による核使用の威嚇によってウクライナに仕掛けられた違法かつ残虐な戦争は、核兵器に伴う容認不可能なリスクを白日の下に晒した。私たちは、あらゆる核使用の脅威を明確に非難し、世界の完全な核軍縮を通じて、核兵器が二度と使用されないようにすることを指導者や政治家に強く求める。」

議員らは、核シェアリングの取り決めを含め、核政策において透明性が欠けていることを議論した。また、核不拡散条約(NPT)の補完となる核禁条約は、この目的を達成するための最も包括的な法的ツールであると指摘したうえで、各国政府に対して、核禁条約の普遍化を図り、早期に同条約に参加するよう呼びかけた。

Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna
Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna

議員らは、核禁条約の発効と、2022年6月にウィーンで開催された同条約に関する第1回締約国会議の成功を歓迎した。この会議において締約国は、NPT締約国としての取り組みを補完する形で、軍縮レジームを強化する大胆な計画に踏み出すことに合意した。

核禁条約は、核兵器使用の威嚇を禁止する唯一の条約として、また、あらゆる核の脅威に対する締約国の強い非難を通じて、数十年に及ぶ核使用のタブーを強化する方法について国際社会に模範を示した、と議員らは主張した。

議員らは、核禁条約の第一回締約国会合にオブザーバーとして参加した国々の建設的な関与を称賛し、他のすべての非締約国に対して、条約の署名・批准に向けた中間的なステップとして今年11月~12月の第2回締約国会合にオブザーバー参加するよう訴えた。

「私たちは、各々の政府に対して、とりわけ核禁条約の第6条・7条に定めた被害者支援と環境修復の分野において締約国と協働するオプションを探るよう求めます。」

ICANがオスロで開いた「市民社会フォーラム」には、専門家や活動家、パートナーが世界各国から2日間にわたって集い、「核兵器に加担している国々」に対して核軍縮と核禁条約の重要性を訴えるために利用できる説得材料やツールについて意見交換を行った。

「核兵器に加担している国々」は自前の核兵器を持っているとは限らない。それでもなお、核軍縮に賛同するふりをしながら、自国の国家安全保障政策において核兵器の役割を積極的に是認することで、現状維持に一役買っているのである。実際には、これらの国々が軍縮運動の支援することはほとんどない。

ICAN

ベルギー・ドイツ・イタリア・オランダ・トルコの5カ国はいずれも領内における米国の核配備を認めている。さらに、(この5カ国に加え)29カ国が、北大西洋条約機構(NATO)や集団安全保障条約機構(CSTO)などの防衛同盟の一環として、自国のための核兵器使用の可能性を認めることによって、核兵器の保有と使用を「是認」している。

これら合計で34の「核兵器に加担している国々」は、アルバニア・アルメニア・オーストラリア・ベラルーシ・ベルギー・ブルガリア・カナダ・クロアチア・チェコ・デンマーク・エストニア・フィンランド・ドイツ・ギリシャ・ハンガリー・アイスランド・イタリア・日本・ラトビア・リトアニア・ルクセンブルク・モンテネグロ・オランダ・北マケドニア・ノルウェー・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スロバキア・スロベニア・韓国・スペイン・スウェーデン・トルコである。

この暗澹たる状況を背景に、核禁条約締約国や都市、市民社会、議会、[核被害の]生存者、その他専門家、活動家の代表が、2017年にノーベル平和賞を受賞したICANが組織した今回のフォーラムで、「核兵器に加担している国々」をその時代遅れで警戒すべき姿勢から遠ざける方法と手段に関して議論した。

彼らには、核兵器がこれまでの兵器の中で最も破壊的で、最も非人道的かつ非差別的であるという信念がある。人間がこれにまともに対応することなどできない。「容認できないリスクがあるからこそ、私たちは行動をおこさねばなりません。」と議員らは訴えた。(原文へ

INPS Japan

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戦略的ジレンマ:効果的な対中国戦略を探るドイツ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

現在、ドイツでは中国との関係が再考されている。これは、EUでも起こった、より長い経緯の結果である。ロシアのガス、石炭および石油の供給にドイツが依存していたことのショックが、中国との関係を特にセンシティブなものにしている。ドイツは、ロシアの原材料と化石燃料への依存度が高いだけでなく、中国とも、経済的により緊密な相互関係がある。というのも、中国は、ドイツの輸出相手国第2位であり、輸入相手国としては第1位なのだ。この議論は、経済的依存度およびアジア内外における中国の強気な外交・安全保障政策の両方が理由で加速している。(

ロシアの経験を経た今、中国への経済的依存について嘆く声は多い。産業、貿易、メディアおよび政治の各分野の専門家らは、正しい対応を巡り、「従来通り」や、抜本的な「デカップリング」、あるいは「封じ込め」に至るまで、様々な主張を述べている。パンデミックの間、経済的にセンシティブなサプライチェーンが一時的に崩壊したことが、自立度を高めようという思いを著しく強めた。しかし、経済的依存度をまったく減らすことなどできるのだろうか?また、デカップリングを行うなら、どの程度とするべきなのだろうか?

確信を持てるような戦略は見えてこない。数週間前、中国との関係に関するある議論がドイツ政府内でヒートアップしていることが明らかとなった。問題の案件とは、中国系の物流グループCoscoの、ハンブルク港における投資の計画であった。Coscoは、ターミナルの持分の35%の購入を希望していた。六つの省と秘密情報機関が、ドイツのインフラのきわめて重要な部分が中国の影響を受けることになりかねないとして、この取引に強く反対した。元ハンブルク市長で、今日でもハンブルクとの関係が深いオラフ・ショルツ首相は、中国の関与を求めた。ショルツは、ハンブルク港がヨーロッパの他の港との競争に負けるかもしれないことを恐れた。同首相は、全ての反対派との(恥ずべき)妥協を得て、25%未満の投資を承認した。

次の争点は、11月初めに、ショルツが経済界の代表団とともに、11時間のフライトで中国の習近平国家主席を訪問したことである。これは、過去にアンゲラ・メルケルが中国との経済関係を強化するために何十回と実践してきたこととほぼ同じである。ショルツは厳しいロックダウンの後で中国を訪問した初めての西側の首脳である。ヨーロッパ諸国の多くは、ドイツの単独行動主義に憤慨した。実際のところ、ショルツとエマニュエル・マクロン仏大統領は一緒に中国を訪問しようと考えていた。マクロンが時期尚早と考えたため、ショルツのみが、ドイツ政府内でもEUでも戦略的協調を図ることなく訪問してしまった。

緑の党のアンナレーナ・べアボック外相が率いる連邦外務省は、現在、対中国戦略を検討中である。59頁の草稿が、政府内およびEU諸国との調整が行われる前にメディアにリークされた。この草稿だけでなく、同じく緑の党所属で、責任者であるロバート・ハベック経済相の声明も、経済依存度を下げ、人権の優先順位を高めるという願望を明確にしていた。こうした立場は、「民主主義的統治か、権威主義的統治か」というアメリカ的な二極化におおむね呼応する。しかし、このナラティブは論争を呼ぶものだ。

中国政府は、ドイツ外務大臣の戦略草稿に対し「過激な反中国勢力」と反発した。ベアボックの見解の一部は、中国を「パートナー、競争相手、体制的ライバル」とする2019年に公表されたEU・中国戦略に一語一句対応している。「ライバル」という語は、中国の解釈によれば、「冷戦時代の考え方の名残」だという。中国国営メディアは、ドイツ・中国関係が「大口叩き」や「親米勢力」によって乱されてはならないと厳しい口調で述べた。中国政府がハンブルク港におけるCosco の契約の件でショルツ首相に非常に感謝している一方、ショルツは、核兵器に関する習主席との共同声明を、北京への短い訪問の最も重要な成果と見なしている。この共同声明で両国は、ロシアを名指しすることなく、国際社会に対し「ユーラシア大陸の危機を防ぐため、核兵器の脅威を拒み、核戦争に反対を唱える」ことを呼びかけている。

ドイツ外務省は、中国の首脳は「自らの政治体制は優れており、自国の『核心的利益」を疑問の余地がないものと見なしている」と書いている。中国は、より強気の外国政策を追求しており、経済的な依存関係を政治的目標の達成のために利用している。グローバルな観点からいえば、これは新しい知見では全くない。しかし、結論は広範囲なものとなるかもしれない。なぜなら、新しい戦略は、「中国は変化している。中国に対する我々の対応も変わらなければならない」と主張しているのである。EU加盟国であるリトアニアは、最近、中国の強気な外交を直接経験した。台湾貿易センターの開設を受け、中国政府はリトアニアとの貿易関係を断絶したのである。オーストラリアなど他国でも、過去に似たような脅迫を経験してきた。インドもまた、慎重に「デカップリング」戦略を用いて、アジアにおける自国の立場の強化を図っている。

「Wandel durch Handel(貿易を通じた変化)」、すなわち、経済的な関係を通じて社会の中の動きにポジティブな影響をもたらす、という概念は、ロシアによって完全に失墜させられた。したがって、中国との関係についても問われなければならない。「中国との貿易は自由を促進する」という2000年5月のジョージ・W・ブッシュ大統領の声明は米国では長年棚上げにされている。EUでは、これも今やコンセンサスである。

中国との戦略的ライバル関係が、米国の外交・安全保障政策策定上の決定的な原則となった一方、ヨーロッパ諸国の首脳らは中国に対する封じ込め戦略を提唱することをためらっている。もっとも、米中関係は、経済的には「市場主義」対「国家資本主義」、政治モデルとしては「民主主義」対「権威主義」という、イデオロギー対立の様相が色濃くなってきている。

しかし、EUあるいはNATOは、米国の提案を一致して支持する姿からは程遠い。このライバル関係におけるNATOの役割については加盟国の間でも異論があり、EUは中国に対して矛盾したシグナルを送っている。しかしそれでも欧州委員会は、「今日の米中競争の中で負け組になることを避けるには、我々はパワーの言語を学びなおし、ヨーロッパを第一級の戦略地政学的アクターとして捉えなければならない」と、EUの強い役割を構想している。この声明が出されてから3年近くになる。この「パワーの言語」が具体的に何を意味するのかは今でも確かではなく、何より、物議を醸すものだ。また、EUのインド太平洋戦略は、現時点では非常に初期段階にあり、まだおおむね文書上のものである。これと対照的に、中国政府は「関係を非政治化する」ことを飽くことなく主張している。

「関与」か「封じ込め」の両極端の間で適切なポジションを見つけることは容易ではない。完全な「デカップリング」には、経済的依存度が高すぎる。加えて、ドイツおよびEUは中国を気候交渉の重要なプレイヤーと見なしている。COP 27における中国の期待外れな行動の後でもこれが通用するかは、まだ分からない。だが問題は、西側諸国もEUも、ドイツ政府さえも、中国の強硬度を増す政策にどう対処するかについて、一致した戦略を追求していないことだ。オラフ・ショルツが北京訪問の前に表明したように、「スマートな多様化のために一方的な依存関係をやめる」ことを目指すのが確かに望ましい道だが、現時点でドイツとEUの大半は、経済的な必要性と政治的な独立性との間で身動きがとれないままである。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。2002年から2007年まで国連開発計画(UNDP)平壌事務所の軍縮問題担当チーフ・テクニカル・アドバイザーを務め、数回にわたり北朝鮮を訪問した。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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|日本|広島G7サミットに向けてグリーン開発を提起

【シドニー/東京IDN=カリンガ・セネビラトネ】

3月29日、創価大学(東京八王子市)で「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」をテーマとした政策提言国際会議が開催され、参加者らは5月に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向けて、政策課題の焦点をウクライナ戦争からグリーン開発や食料・エネルギー問題へと振り向けるという複雑な問題について議論した。G7サミットは、仏、米、英、独、日、伊、加(議長国順)の7か国並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して、毎年開催される国際会議である。

Professor Miranda Schreurs delivering her presentation online from Munich, Germany. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

来日して会議に参加することができずやむを得ずオンラインでミュンヘンから発表をしたスピーカーがいたことに、このジレンマは象徴的に表れている。彼女は、会場の聴衆(とオンライン参加した聴衆)に向かって、ドイツで発生した労働争議のために来日することができなかったと語った。

自宅から参加したミュンヘン工科大学のミランダ・シュラーズ教授は、「運輸産業の労組による大規模ストライキのために公共交通が止まり、空港が閉鎖されてフライトがキャンセルになったために、空港に行くことができませんでした。ストライキは、ウクライナ戦争によるドイツ国内のエネルギー価格の高騰が原因です。」と語った。

G7諸国によるウクライナ軍への武器供与と(エネルギーや食料価格の高騰など)長引く世界的な苦難の関連性について、あえて問題提起するスピーカーはいなかったが、この日の会議ではしばしばウクライナ戦争への言及がなされた。ドイツとフランスでは生活費の高騰に対して暴力的な抗議行動も発生している。

シュラーズ教授は、「G7はかつて民主主義をリードしていました。」と指摘しつつも、「私の国ドイツでは状況は危うくなってきています。はたしてG7は民主主義を支えるために何ができるでしょうか。」と警告した。

Takashi Ariyoshi, Deputy Secretary General, G7 Hiroshima Summit Secretariat; Director, Economic Policy Division, Ministry of Foreign Affairs, giving the keynote address. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
Takashi Ariyoshi, Deputy Secretary General, G7 Hiroshima Summit Secretariat; Director, Economic Policy Division, Ministry of Foreign Affairs, giving the keynote address. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

G7広島サミット事務局の有吉孝史副事務局長は、「核兵器使用の威嚇も取りざたされるような前代未聞の難題に世界が直面する中」で、(被爆経験がある)広島がこの状況を象徴している都市としてサミット会場に選ばれた、と語った。

有吉副事務局長は、国際秩序の基本原則が問われている今日、G7諸国は、昨年3月の国連総会緊急特別会合の投票で、「(ロシア軍による)露骨な侵略に直面しながら」35カ国がロシアに反対票を投じなかった理由を理解する必要があると語った。

G7は今日の問題を(自分たちで)すべて解決することはできず、グローバル・パートナーと協力する必要があります。」と有吉副事務局長は述べ、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)やウクライナ戦争に伴う悪影響を受けているという意味でも、「(世界秩序における)重要なプレイヤーであるという意味においても」、グローバル・サウスが重要になってきていると指摘した。

有吉副事務局長は、日本がインドやブラジル、クック諸島(太平洋諸島フォーラム議長国)、コモロ(アフリカ連合議長国)、インドネシア(東南アジア諸国連合議長)、ベトナムを広島G7サミットに招聘したのはこのためであると指摘したうえで、「国際秩序を守るうえで積極的な役割を果たす意思を持つ国々を招聘しました。」と語った。

G7 Hiroshima Summit Logo
G7 Hiroshima Summit Logo

また、G7の中で日本は唯一のアジアの国であり、中国とロシアがインド太平洋地域の重要性を理解していることに触れ、「中国にどう対処するかは重要な課題です。」と指摘した。「したがって、広島サミットは、自由で開かれたインド太平洋について、この地域の協力を発展させるための重要な会合となるだろう。」と語った。

有吉副事務局長は、経済安全保障について取り組むことが広島サミットの重要議題になるだろうと述べ、日本はその実現に向けて、サプライチェーンとインフラの強靭化、、経済的な威圧や非市場的慣行を用いない、デジタル空間における「悪意のある行為」をコントロールするなど、7つの道筋を提案していると語った。

また、日本には保健医療分野で優れた実績があるとし、サミットの重要課題の一つとして、コロナ禍からの教訓を念頭に置いた「グローバルヘルス・アーキテクチャー」を挙げるとともに、「健康安全保障という概念は非常に重要であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは重要なアジェンダである。」と語った。

Hirotsugu Terasaki, Director General, Peace and Global Issues, SGI, making the welcome speech at the opening session.Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

会議の共催団体である創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長は開会の挨拶で、「今日、私達が直面する世界を楽観視することは難しいかもしれない」との見解を示した上で、「私達の共通の願いは、どの国も他国の犠牲の上に自国の幸福と繁栄を追い求めない、という考えです。そのためには、まず私たち一人ひとりが、他人の不幸の上に自分の幸福を築くことはできないという価値観を共有していくことが、その基盤になります」と主張した。

「G7研究グループ」アカウンタビリティ問題責任者のエラ・ココシス氏は、化石燃料への補助金を削減する必要性や、気候変動対策資金を貧困地域の支援に充てる年間1千億ドルの公約など、広島サミットにおける8項目の勧告を提示した。また、途上国がグリーンテクノロジーをより早いペースで適応できるよう、グリーンインフラや技術移転の支援にもっと力を入れるようG7諸国に対して求めた。

ココシス氏は、「(これらの行動に関する)透明性とアカウンタビリティを確保することが重要です。」と指摘したうえで、「広島サミットは、気候アクションに対する(G7の)影響を強化するきわめて重要な機会となります。」と語った。

At this hybrid, live streamed event, experts from the educational, academic, civil society and government communities gathered in person and virtually to share their perspectives and offer their best analysis and advice on what Japan’s Hiroshima Summit should do to control nuclear, climate, and global health risks.This photo shows a session titled, "Streangthening Climate, Energy and Health Security" Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
At this hybrid, live streamed event, experts from the educational, academic, civil society and government communities gathered in person and virtually to share their perspectives and offer their best analysis and advice on what Japan’s Hiroshima Summit should do to control nuclear, climate, and global health risks.This photo shows a session titled, “Streangthening Climate, Energy and Health Security” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

シュラーズ教授は、「ドイツではウクライナ戦争の影響により、化石燃料への補助金が増加しています。民主主義の機能に影響を与えないような工夫が必要です。」と述べ、ドイツのようなG7諸国が2040年代半ばまでに炭素排出ゼロを達成することは、現在の政治状況では困難であると警告した。

シュラーズ教授はまた、日本の農地に設置されたソーラーパネルの画像を示しながら、「これを設置するために木が伐採されたかもしれません。太陽光のような再生可能エネルギーを導入する際には、政策決定者は環境への影響に配慮する必要があります。」と指摘した。

Mark Elder, Director of Research, IGES delivering his presentation at a session titled, “Strengthening CLimate, Energy and Health Security. Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

地球環境戦略研究機関(IGES)のマーク・エルダー研究部長は、「ウクライナ戦争のせいだけでなく、人類の生存を支える地球の能力は危機に瀕しているのです。」と述べ、ウクライナ戦争のために気候危機の問題を軽く見てはならないと警告した。

エルダー研究部長は、「省エネを強化するとともに、電気自動車を導入するよりも、むしろ公共交通機関を増やす必要があります。電気自動車の生産には、特定の重要な鉱物の採掘が必要であり、環境や労働者の権利という面で問題含みだからです。」と指摘した。

「ウクライナ戦争よりも気候安全保障に目を向ける必要があります。」とエルダー研究部長は聴衆に語りかけた。

有吉副事務局長は、「事務局では広島サミットに向けて、コロナ禍と戦争という二重の危機が取り残してきた人びとをいかにして支援するかという問題に取り組んできた。」と指摘したうえで、「開発金融がここで重要になってきます。持続可能な開発目標(SDGs)が脆弱な人々に焦点を当てる支援をしたい。一部の国々は最近、きわめて不透明な援助を受け苦しんでいます。開発支援を持続可能にする国際規範を打ち立てる必要があるのです。」と語った。(原文へ

A Glimps of the Conference: “Advancing Security and Sustainability at the G7 Hiroshima Summit” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

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|1923-2023|ネパール・イギリス友好条約100周年は、かつてネパールの指導者が戦略的思考を持っていた時代を想起させる。

この記事は、ネパーリ・タイムズ(The Nepali Times)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【カトマンズNepali Times=クンダ・ディキシット

1816年のスガウリ条約で英・ネパール戦争が終結した後、ネパールは名目上は独立していたが、大英帝国からは単なるインドの藩王国の一つとして扱われていた。

1847年、王宮大虐殺事件で政権を握ったジャンガ・バハドゥル・ラナは、1816年に失った領土を取り戻すために英国と戦争することが賢明かどうかを判断するため、ヴィクトリア女王の招きに応じ、1850年にインド亜大陸の王族としては初めて英国を訪問した。

MoD description (from source): “5th Royal Gurkha Rifles North-West Frontier 1923″/ Public Domain

大砲の工場や軍事施設を視察したジャンは、大英帝国の強大さに目を見張った。その後100年に亘りネパールを支配した彼とラナ家の子孫らは英国に傾倒し、1857年のセポイの乱の鎮圧をはじめ、その後大英帝国が推進したアフガン戦争やその他の帝国主義戦争にグルカ兵を提供した。第一次世界大戦のフランダースの野原やガリポリなどの戦場では、推定2万人のグルカ兵が戦死した。

チャンドラ・シャムシェル・ラナ首相は、巧みな外交術と2年間にわたるデリーとロンドンでのロビー活動を通じて、グルカ兵らの貢献と犠牲を英国政府に巧みに訴え、1923年にはネパールを主権国家として認めさせる友好条約の署名に漕ぎつけた。

チャンドラ・シャムシェル自身、1908年にロンドンを訪問している。彼は、英軍や王族を軟化させて条約に署名させるため、ホレイショ・ハーバート・キッチナー卿をもてなし、チトワンではジョージ6世とエドワード王子を招いて手の込んだトラ狩り外交を展開した。

A contemporary portrait of Chandra Shamsher Jang Bahadur Rana (1863-1929), former Prime Minister of Nepal and Maharaja of Kaski and Lamjung/Public Domain

プリトヴィ・ナラヤン・シャーはネパール建国の王であったかもしれないが、ネパールに初めて世界での地位を与えたのはチャンドラ・シャムシェル首相であった。1937年、ネパールはケンジントン・パレス・ガーデンズ12Aに大使館を設立し、現在に至っている。当時、ネパールはロンドンに公館を持つ4つのアジア諸国のうちの1つであった。

1947年のインド独立後、状況は一変し、ラナ家の世襲独裁はまもなく終焉を迎えた。

今年は、1923年12月21日にネパール・イギリス友好条約がシンガ・ダルバール宮殿で締結されてから100周年にあたる。この条約は、スガウリ条約によるネパールの歴史的屈辱に対処するためのものであった。

英国のネパール特使ウィリアム・オコナーは、調印式のためにラジンパットからシンガ・ダルバールまで20頭の馬で護衛されたが、これは当時国王だけに許された栄誉だった。

ラナ政権は2日間の祝日を宣言し、夜間の建物のライトアップを命じ、賭博の禁止を一時的に解除し、囚人を解放した。カトマンズの英国使節は、それまで「駐在員」と呼ばれていたのが、正式な大使になった。

ネパールが植民地化されることはなかったが、この条約によって、ネパールはついに独立国として世界に認められるようになった。条約文書はシンハ・ダルバール宮殿に保管されており、オコナーとチャンドラ・シュムシェルの署名がある。

British envoy to Nepal William O’Connor and Prime Minister Chandra Shamsher after signing the treaty on 21 December 1923.
British envoy to Nepal William O’Connor and Prime Minister Chandra Shamsher after signing the treaty on 21 December 1923.

この条約は、ネパールの主権を保証し、スガウリ条約を再確認し、安全保障に取り組み、ネパール軍による武器輸入の道を開き、英国・ネパール間の貿易に関する関税障壁を取り除くという7つの条項で構成されている。

しかし、この条約はすべてのネパール人に歓迎されたわけではない。反ラナ派の反体制派やグルカの徴兵に反対する人たちは、この条約に反対した。チャンドラ・シュムシェルは条約調印の6年後に亡くなり、後継者たちはこの条約を十分に活用することなく、例えば国際連盟に加盟してネパールの存在をより強力にアピールすることはできなかった。

チャンドラ・シャムシェルは、条約の安全保障条項を利用して、英領インドにおける反ラナ、反グルカ兵の徴兵活動に従事する活動家らを、インドに駐在する英軍に弾圧させたほどである。

ネパールは英連邦のメンバーではないが、8000人ほどのネパール国民が英軍に所属していたことで、ネパールと英国の関係はより緊密になり、政治、経済、貿易分野における協力関係をより活用できるはずだった。

ネパールはグルカの徴兵という「ソフトパワー」を十分に生かしきれていない。摂政でネパール好きのブライアン・ホートン・ホジソン、植物学者のフランシス・ブキャナン=ハミルトン、博物学者のジョセフ・ダルトン・フッカー、ヒマラヤ探検家のA Wティルマンやエリック・シプトン、ポカラを故郷としたマイク・チェニーやジミー・ロバートなど、過去2世紀にわたってネパールについて研究し探索した冒険家も英国ではほぼ知られていない。

その多くは、ネパール自身の長年にわたる外交の不手際に起因している。しかし、1961年のエリザベス女王の初訪問を皮切りに、英国王室のメンバーが何度もネパールを訪れている一方で、これまで英国の現役首相がわざわざカトマンズに来訪したことはない。

1923年のネパール・イギリス友好は、英国やインドでもあまり注目されず、ネパールでも政治的な論議ではスガウリ条約や1950年のインド・ネパール通称・通過条約の陰に隠れている。また、ネパール国境を越えて周辺国に在住する人々の中には、1950年のインドとの条約が1923年のネパール・イギリス友好条約よりも優先されると主張する人々も少なくない。

歴史は巡り、帝国は興亡を繰り返す。英国の栄光は、今や歴史書の中だけのものとなってしまった。ネパールの隣には、台頭する中国がある。ネパール人は、1923年の条約で門戸が開かれた、当時世界的な大国であった大英帝国とのビジネス機会に、自分たちが応えてきたかどうかを熟考する必要がある。

その答えは否(=応えることができていない。)である。最近、2つの大きな隣国(インドと中国)と米国は、ネパールの指導者を不信と軽蔑の目で見ている。つまり、ネパールの政治家は約束を守らず、自分を最高額を提示する者に売り渡そうとする、よって、ネパールの安定と存続のために必要な地政学的な綱渡りをすることができないと見られているのだ。

Kunda Dixit
Kunda Dixit/ Nepali TImes

ネパールの指導者たちの外交的な振る舞いは、被害者面して跪くか、無謀にも隣国同士を対立させるかのどちらかだ。彼らは権力の座に就くために、空虚なナショナリズムに頼ったり、ポピュリズムを煽ったりする。

ネパールは、世界最大の新興経済国2カ国(インド・中国)と国境を接している。この2つの経済大国が常に我が国(ネパール)を巡って争っているわけではないことに早く気づくことができれば、私たちはネパールの発展のためにこの地の利を生かすことができるようになるだろう。(原文へ

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世界的な水危機-いくつかの事実

【コペンハーゲンIDN=ジョン・スケールズ・アベリー

国連は2021年の「世界水の日」のホームページで、次のような事実を指摘している。 現在、3人に1人が安全な飲み水なしで暮らしている。2050年には、最大57億人が1年に1カ月以上、水が不足している地域で生活する可能性がある。

気候変動に強い水供給と衛生設備があれば、毎年36万人以上の乳児の命を救うことができる。世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて、1.5度に抑えることができれば、気候に起因する水ストレスを最大50%削減することができる。

異常気象は、過去10年間に発生した大災害の90%以上を引き起こしている。2040年までに、世界のエネルギー需要は25%以上、水需要は50%以上増加すると予測されている。

水が極めて重要な資源であることは明らかであり、人類社会の未来の幸福は、世界に存在する淡水の供給をいかにうまく管理するかにかかっている。そのためには、高いレベルの国際協力と社会正義が必要である。

モード・バーロウ:人権としての水

Maude Barlow,CC BY-SA 3.0
Maude Barlow,CC BY-SA 3.0

多くの国で、大企業が水の供給をコントロールし、貧しい市民にとって手の届かない価格で販売している。1947年カナダ生まれのモード・バーロウ氏は、20年以上に亘って水の商品化に反対する運動を牽引してきた。国連はこうした運動の盛り上がりを受けて、2002年11月、「水は人権である」と宣言した。真水がますます不足している現在、この宣言はとりわけ重要な意味合いを持つようになっている。

モード・バーロウ氏の言葉をいくつか引用する:

「この時代に起こっている非常に現実的で大きな社会問題や環境問題に対して、自分にできることは何もないと言う人たちの言葉に耳を傾けてはいけない。」

「今や、健康や教育、食べ物や水、空気、種や遺伝子、伝統など、かつては神聖視されていた生活領域でさえも、あらゆるものが売りに出されている。」

「今日の地球の水危機についてはいくら強調してもしすぎることはない。」

「私たちは、人類、地球、そして他の生物種のために、異なるモデルと異なる未来を構築することに命をかけている。私たちは、経済のグローバル化に代わる道徳的な選択肢を構想しており、それが実現されるまで歩みをとめない。」

「断片的な解決策では、社会全体や生態系の崩壊を防ぐことはできない…価値観や優先順位、政治システムを根本的に考え直すことが急務である。」

中国で水位が低下し続ければアフリカに飢饉が起こるかもしれない。

Lester Brown
Lester Brown

コペンハーゲン大学での講演後、アースポリシー研究所のレスター・R・ブラウン博士は、「最初に決定的に不足する資源は何か」という質問をされた。聴衆の誰もが「石油」と答えるだろうと予想していたが、ブラウン博士は「淡水」と答えた。

博士は、「このまま中国で水位が下がりつづければまもなく人口を養えなくなる。しかし今の中国の経済力では、世界市場で穀物を購入できるため、国内で飢饉が起こることはないだろう。しかし、中国で淡水が不足すれば、アフリカなどで飢饉が発生することになる。なぜなら、中国の穀物需要は、世界市場の価格を引き上げ、貧しい国々の支払い能力を超えてしまうからだ。」と説明した。

世界的な大規模飢饉の脅威

世界人口を安定化させ、最終的には減少させる努力をしなければ、気候変動、人口増加、化石燃料時代の終焉が重なり、21世紀半ばには大規模な飢饉が発生するという深刻な脅威がある。

ヒマラヤやアンデス山脈の氷河が溶け、インドや中国、南米の夏の水源が奪われ、海面が上昇して東南アジアの肥沃な米作地帯が浸水し、干ばつで北米や欧州南部の食糧生産が減少し、中国、インド、中東、米国で地下水位が下がり、化石燃料投入量が不足して高収量農業が困難になれば、数百万人ではなく、数十億人を巻き込む飢餓状態になる危険がある。(原文へ

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