ホーム ブログ ページ 42

先住民を脅かす気候変動―彼らの視点を取り入れよ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=カリン・ゲルハルト/ジョン・デイ/ラリッサ・ヘイル/スコット・F・ヘロン】

オーストラリアの先住民は気候変動による多くの脅威に直面しており、それは食料供給から健康問題にまで及ぶ。例えば、海面上昇によりすでにトレス海峡の島々では浸水が発生しており、壊滅的な被害が生じている。

気候変動に関する政府間パネルによる影響と適応に関する直近の報告書では、オーストラリアに関する章において、気候変動がアボリジナルの人々やトレス海峡諸島民、そして彼らの土地と文化に及ぼす影響は「広範、複雑、複合的」であると記されている。(原文へ 

これらの影響が記録されることは重要であるが、データの出典の大部分は西洋科学に基づく学術文献である。「伝統的所有者」たちが彼らの土地で経験し、対処している影響や困難は、彼ら独自の視点から評価し対処されなければならない。

「伝統的所有者」たちは、6千年以上にわたってオーストラリアで暮らしてきた間に気候の変化を乗り越え、適応してきた。それには、現在グレートバリアリーフとなっている一帯を水没させた海面上昇や、降雨量の極端な変動などがある。その結果、時間の経過に伴う自然の変動に対する繊細な感覚を彼らは発達させた

そこで、私たちは何をしたか?

Yuku Baja Muliku(YBM)の先住民の人々は、クイーンズランド州北部アーチャーポイント周辺に広がる彼らの「陸と海の国」に見られる変化を案じ、文化的価値への影響を評価する新たな方法を創出するため、ジェームズクック大学の研究者と協力を行った。

私たちはそのために、価値観に基づき、科学的根拠に主導され、コミュニティーに重点を置いた気候脆弱性指数のアプローチを用いた。この指数が、先住民の人々にとって重要な意味を持つ価値を評価するために使われたのは初めてである。

YBMの人々は次に挙げるような、彼らの価値観に生じた変化を評価するための主な質問に回答した。

その価値は、100年前はどのようなものでしたか? それは現在どのようなものですか? 2050年頃の将来の気候において、それはどのようなものになると予想しますか?その価値に関連してどのような管理方法がありますか、それは今後変化しますか?

そのうえで、これらの気候変動からどのような問題が生じたかを議論した。

このプロセスを用いて、YBMの人々の暮らしぶりに直接影響を及ぼしている問題を洗い出すことができた。例えば、伝統的な食料源は気候変動による影響を受ける可能性がある。アナン川ではかつて、カラス貝を簡単に見つけて採ることができた。しかし、ここ10年の極端な気温現象が大量死をもたらしている。今やカラス貝は以前よりはるかに小さくなり、数もはるかに少ない傾向がある。

また、この過程で、降雨量と気温の変化により一部の食用植物が出現する時期が変わっていることも記録された。これは特に、花が開き、あるいは芽が出るためには野焼きが必要な植物に当てはまる。これはひいては、採集・収穫のタイミングが変化したということを意味する。

このような気候に連動する変化は、既存の伝統的知識体系に試練を突きつけ、「陸と海の国」に広がるさまざまな種、生態系、気象パターンの間の結びつきを変化させる。

このプロセスの重要な部分は、伝統的な生態学的知識の持ち主と西洋科学の研究者との間に相互に有益なパートナーシップを築くことであった。それには、信頼と尊重に基づく関係を確立することが不可欠である。

まず彼らの国を歩くこと、すなわち川、マングローブ、浜辺、岬、森林、湿地を見て、「海の国」を眺め渡すことは、研究者らにとって、「伝統的所有者」たちの視点を理解する助けとなった。経験と知識(特に年配者や先住民レンジャーが持つもの)に敬意を払うることが重要であった。先住民の文化的・知的財産プロトコルが認識され、評価プロセスを通じて尊重された。

「伝統的所有者」を彼ら自身の知識体系における熟練の科学者として尊敬し、協力して働くことが、成功に不可欠であった。繊細な伝統的知識を守るために、伝統的な生態学的知識を気候変動評価に組み入れるあらゆる努力が必要である。

気候変動は今後も続き、加速すると思われることから、先住民族の人々の文化的遺産にもたらされる影響を最小限に抑えるため、私たちは力を合わせて取り組まなければならない。

カリン・ゲルハルトは現在、博士課程の一環としてYuku Baja Mulikuの伝統的所有者の人々との協働プロジェクトに携わっている。グレートバリアリーフ財団に勤めており、以前はグレートバリアリーフ海洋公園局で働いていた。
ジョン・デイは、1986年から2014年までグレートバリアリーフ海洋公園局に勤務し、1998年から2014年は同局のディレクターの1人であった。スコット・ヘロンとともに、世界遺産のための気候脆弱性指数(CVI)を開発した。CVIは、他の遺産地域における気候影響評価にも用いられている。
ラリッサ・ヘイルは、Yuku Baja MulikuのJalunji Warra民族の出身であり、現在、Yuku Baja Muliku Landowner & Reservers Ltd.の最高経営責任者を務めている。また、地元自治体クック・シャイアの議員として2期目を務めている。
スコット・F・ヘロンは、オーストラリア研究会議とNASA ROSES生態系予測プログラム(NASA ROSES Ecological Forecasting)より資金提供を受けている。ジョン・デイとともに、世界遺産のための気候脆弱性指数(CVI)を開発した。CVIは、他の遺産地域における気候影響評価にも用いられている。

INPS Japan

関連記事:

|フィリピン|パラワン島の先住民族の土地保護に立ちあがる若者達

時には一本の木の方が政府より助けになることもある

|COP26|政治指導者らが行動をためらう中、SGIが国連青年気候サミットを提案

宗教指導者が集い、傷ついた世界を癒す方法を探る

【ヌルスルタン(アスタナ)INPS Japan/IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

9月13日に開催された第7回「世界伝統宗教指導者会議」の事務局会合において、マウレン・アシムバエフ事務局長は、「世界全体が、コロナ禍、紛争、制裁、気候変動などの世界的問題の影響を経験しており、私たちは、世界全体で地政学的対立と紛争の激化を目の当たりにしています。」と語った。

「世界伝統宗教指導者会議」の事務局会合が開催された「平和と調和の宮殿」撮影:浅霧勝浩
「世界伝統宗教指導者会議」の事務局会合が開催された「平和と調和の宮殿」撮影:浅霧勝浩

カザフスタンの首都を会場として2日間開催され、ローマ法王フランシスコが基調講演を予定している今回の会議を前に、アシムバエフ事務局長は、「国家間の不信、戦争、テロ、国際機関による効果的対応の欠如が世界全体の状況にマイナスに作用しています。この状況の下、私たちの会議は、対話、矛盾の克服、紛争の終結、平和の達成を求め、国際社会に対して重要なメッセージを送ることができます。」と語った。

調和の中で人々が生きる多宗教・多文化社会を実現してきたことを誇るカザフスタンは、9・11同時多発テロ後に世界全体で宗教的対立が起こる中、2003年にこの会議を開始した。第1回会議には23カ国から17人の代表団が集まった。

世界伝統宗教指導者会議は3年毎に開催されている。

9月14日に開幕した第7回会議には50カ国・100以上の代表、国際メディア約230社、国内メディア500社が集まった。

今回の会議のハイライトはローマ法王フランシスコの参加であった。法王はカザフスタンに3日間の滞在の予定で9月13日に到着した。この20年でローマ法王が中央アジアの同国訪問するのは初めてのことである。イスラム教徒が大半を占める(人口の7割)このカザフスタンにおいて、人口1900万人のうちカトリックは約12.5万人しかいない。

到着した日の夜、ローマ法王は、約1000人の参加者で埋まったカザフスタン中央コンサートホールにおいて市民社会や各国外交官の代表らとの公式会見に臨んだ。

カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は、ローマ法王を迎えるにあたり、ソ連からの独立後30年間、同国は「多様性における統一」の概念に基づき、民族・宗教間の調和のための独自のモデルを構築してきたことに触れ、このような経験があるからこそ、カザフスタンでは「世界伝統宗教指導者会議」を開催しているのだと指摘した。

ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩
ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩

トカエフ大統領は、ローマ法王のカザフスタン訪問に謝意を示しつつ、「2003年に始めたこの会議は、各々の信仰が異なっていても一堂に集い協力し合うことができることを示す好例と言えます。私は、対話と人間の博愛、尊重のみが共存と寛容を可能にすると強く信じています。法王の訪問はこの会議の価値を高め、そのメッセージを世界に広く伝えるのに役立つだろう。」と語った。

トカエフ大統領はまた、「世界のほとんどの発展途上地域で食糧不足に直面しています。同時に、世界の最も脆弱な国々で地政学的対立が激化し、世界各地で緊張が高まっています。」と指摘した。

カザフスタンは「健全で世俗的な」社会を形成してきたとして称賛したローマ法王は、「現在の地政学的な緊張関係の中では、対話を促進する外交的な取り組みを強化することが肝要です。」「敵意を悪化させず、集団間の対立激化を鎮静化させる術を学ぶべき時です。私たちには、人々の間の相互理解と対話を国際レベルで促進できる指導者が必要であり、それによって、新たな世代の声を考慮に入れつつ、より安定的で平和的な世界を構築することが必要です。」と語った。

Map of Kazakhstan
Map of Kazakhstan

「そのためには、誰が相手であっても、理解や忍耐、そして全ての人との対話が必要です。繰り返しますが、たとえ『誰が相手であっても』です。」とローマ法王は強調した。

車椅子に乗って登壇したローマ法王フランシスコは「腐敗の害悪」を乗りこえる必要についても語った。そうすることで、人々のニーズに対して、言葉だけの注目を与えるのではなく、真に対処することが可能になるからだ。カザフスタンの豊富な天然資源について言及した法王は、そうした富は不平等を生じかねないと指摘した。「社会の繁栄は一部の者たちの手中にのみ納めてはならず、多くの人々が共有しなくてはならない。」と法王は指摘した。

カザフスタン外務省が9月13日に開いた記者ブリーフィングで、「ナザルバエフ宗教間・文明間対話発展センター」のブラート・サルセンバエフ・センター長は、今回のような会議が国家間紛争に対していかに建設的な解決策を与えうるかという記者からの質問に答えて、今回の会議を独自のものたらしめているものは、これまでの同種の集まりとは異なって、カザフスタンが、世界各地の宗教の単なる代表団ではなく、その指導者の参画を得ている点にある、と指摘した。

カザフスタン外務省に開催された、国際メディア代表に対するプレス・ブリーフィング。中央左が、ナザルバエフ宗教間・文明間対話発展センター」のブラート・サルセンバエフ・センター長、右がローマン・バシレンコ外務副大臣 撮影:浅霧勝浩

サルセンバエフ・センター長は同時に、この会議が、世界の紛争に関連した「全ての問題を解決できるわけではない」ことも認めており、「私たちは、(問題解決に向けた)適切な雰囲気を作り、イニシアチブを提案し、いくつかのステップを提供しようとしていますが、これは長い道のりです。」と語った。

記者ブリーフィングの司会を務めたカザフスタンのローマン・バシレンコ外務副大臣は、会議の最終文書は「きわめて影響力の強い精神的な指導者の声として」、世界の多くの国際機関や各国政府に送られ、メディア、特にSNS上を通じて拡散される予定だと語った。

会議の議長を務めたアシムバエフ事務局長は、精神的な指導者や宗教者らは、「もしこの会議が共通の建設的なアジェンダの下に国際社会を連帯させることができるならば、イデオロギー的、精神的な空白を新たな意味合いで満たすことができるだろう。」と語った。(原文へ

INPS Japan

第7回世界伝統宗教指導者会議(9/14-15)には世界各地から約230の主だったメディアが、カザフスタンに記者を派遣した。IDN/INPSを代表して日本から取材に当たった浅霧勝浩INPS Japan理事長/マルチメディアディレクターが、現地で同行した各国の記者たちの視点から一連の行事を映像にまとめた。撮影・編集:浅霧勝浩

関連記事:

世界伝統宗教指導者会議は希望の光

|第7回世界伝統宗教指導者会議|ローマ法王、多民族・多宗教が調和するカザフスタンのイニシアチブを祝福

教皇フランシスコ、カザフスタンを中央アジアの「信頼できるパートナー」と称える

|第7回世界伝統宗教指導者会議|ローマ法王、多民族・多宗教が調和するカザフスタンのイニシアチブを祝福

【ヌルスルタンINPS Japan=浅霧勝浩 (Katsuhiro Asagiri)】

「第7回世界伝統宗教指導者会議」(9月14日~15日)に出席するため13日に中央アジアのカザフスタンに来訪したローマ法王フランシスコは、首都ヌルスルタン市内の中央コンサートホールで、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領と共に登壇し、公式会見に臨んだ。ローマ法王のカザフスタン来訪は、2001年9月22日のヨハネ・パウロ二世以来21年ぶり。会場には各国から到着した伝統宗教指導者をはじめ、カザフスタンの各界代表や駐在外交団が出席した。

Abai Kunanbaev/ Public Domain
Abai Kunanbaev/ Public Domain

法王フランシスコはこの公式会見で、2003年以来「世界伝統宗教指導者会議」(2003年から3年毎に開催)を一貫してホストしてきたカザフスタンの多様性と調和を重んじる社会的風土について言及。同国の伝統楽器「ドンブラ」をモチーフに同国で深く尊敬される詩人・作曲家・哲学者・教育者で、しばしばドンブラと共に歌われる、アバイ・クナンバイウル(1845~1904)の言葉を巧みに引用しつつ、スピーチを行った。

法王フランシスコは、「ドンブラ」について「多様性の中で、過去と現在をつなぐ継続の印」「移り変わりの早い社会において、過去の遺産と記憶を大切に守るシンボル」と述べ、平行な二本の弦を弾くドンブラの奏法を「冬の厳寒と夏の猛暑、伝統と発展、アジア性とヨーロッパ性といった相対する特徴を調和」させる「東西が出会う国カザフスタン」の姿に重ね、ドンブラが他の弦楽器と共に演奏される特徴にも言及しつつ、「社会生活の調和は、共に育ち、成熟してこそ可能になるものです。」と語った。

また、多様な文化的・宗教的伝統が調和するカザフスタンは、「多民族・多文化・多宗教の実験室、『出会いの国』としての召命を帯びています」と指摘。「健全な政教分離のもとで宗教の自由が尊重されたこの国で、社会調和における宗教の貢献を示すために、第7回世界伝統宗教指導者会議に参加できることを嬉しく思います。」と語った。そして、「カザフスタンの名が調和と平和を表すものであり続けることを願いつつ、この国の平和と一致の召命を神が祝してくださるように。」と祈られた。

ドンブラ(前列向かって左端の2人がドンブラ奏者)を含むカザフスタンの伝統楽器による演奏 撮影:浅霧勝浩

歴史の悲劇を未来の希望につなげる知恵

多様性に寛容な多民族・多宗教国家の背景には、カザフ人が歩んできた苦難の歴史がある。

スターリンがカザフスタンで引き起こした飢餓(1932年~33年)により、多くのカザフ人が隣国に逃れた。研究により諸説あるが、この時期に150万人から230万人のカザフ人が犠牲になったと推定されている。出典:Wikimedia Commons

かつて東西交易の要衝をおさえる遊牧民の国家として繁栄したが、18世紀に入ると南下してきた帝政ロシアの圧迫をうけ、19世紀にロシア帝国の支配下に入った。さらに20世紀になるとロシアに代わったソ連の下で大規模な定住政策・集団農場が強制され、その結果引き起こされた飢饉で推定150万人から230万人のカザフ人が犠牲になった。また、カザフ人の独立を訴えた活動家や知識人・資産家は抑圧の対象となり、多くが各地に設けられた強制収容所で犠牲となった。言語もカザフ語よりもロシア語が優先され、文字表記もアラビア文字からラテン文字、さらにキリル(ロシア語で使われるアルファベット)文字が強制された。第二次世界大戦がはじまると、ドイツ人、ユダヤ人、ポーランド人、朝鮮人、日本人、ウクライナ人等、ヨシフ・スターリン政権によって敵視された各地の市民や捕虜がカザフの地にも建設されたソ連の強制収容所に連行されてきた。現在のカザフスタンに130以上の民族がいる背景にはこうしたソ連時代の政策も関係している。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

また、戦後は1949年から89年にかけて、ソ連がカザフスタン東部に建設したセミパラチンスク核実験場(大きさは日本の四国に相当する:INPS)で456回にわたって核実験が繰り返され、健康上の影響を受けた人は150万人におよぶとされる。

こうした苦難の歴史にもかかわらず、カザフ人はソ連が解体すると、新生カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領の強力な指導の下で、あらゆる民族平等と信教の自由(ソ連の体制下では宗教は毒とされ抑圧された)を保証するとともに、セミパラチンスク核実験場の閉鎖と当時世界第4位の核戦力の完全放棄を、ロシアのみならず欧米諸国の安全保障を巧みに取り付けて実現した。以来、カザフスタンは、国連を基軸に「核なき世界」の実現を訴える外交活動を最も活発に展開している国の一つである(2024年には核兵器禁止条約締約国会議をホストすることが決まっている)。

カザフスタンでは、ソ連による遊牧文化の否定・定住化政策にも関わらず、都市民・農耕民となってた今も、カザフ人のジュズ、部族、氏族に対する帰属意識はよく残っている。独立したカザフスタンは、苦難の時期を経ても祖先から受け継いできた伝統・文化を国造りの基本に据えるとともに、ソ連時代にカザフ文化が抑圧された教訓を生かすべく、カザフ文化以外のカザフ人(他民族系カザフ人)の伝統・文化・宗教をカザフ文化と対等に扱うことを憲法に明記し社会の調和を重視する政策を推進している。

ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩
ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩

法王フランシスコは、カザフの地に根付く寛容で強固な精神性について、アバイの言葉「いのちの美しさとは何であろう。もしその深きをさぐらぬならば。」「目覚めた魂、澄んだ精神が必要」等を引用しながら、「世界は私達から、目覚めた魂と澄んだ精神の模範、真の宗教性を待ち望んでいる。」と語った。そして、「『信教の自由』を人類の統合的発展に不可欠な条件、本質的で譲ることのできない権利として示し、他者に強制することなしに、自分の信仰を公に証しすることは、すべての人の権利にほかなりません。」と強調した。

法王フランシスコはさらに、今日国際社会が直面しているグローバルな課題として、「人間の脆さを知り、いたわるパンデミック対応」、「平和への挑戦」、「兄弟的な受け入れ」「環境保護」を挙げ、「諸宗教が各自のアイデンティティーを守りながら、友好と兄弟愛のうちに共に歩み、暗い現代を創造主の光で照らすことができるように。」と語った。

人口約1900万人のカザフスタンでは、イスラム教徒(スンニ派)が約70%を占めるが世俗的で、生活を制限する厳しい戒律はなく、女性の服装も自由。キリスト教(ロシア正教が大半、カソリック教徒は推定125,000人)は26%、その他ユダヤ教、仏教、バハイ教、ヒンズー教など、130の民族構成を反映して多様な宗教が共存している。

「第7回世界伝統宗教指導者会議」を報じる特集番組。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

核兵器廃絶展を通じて絆を深める日本とカザフスタン

|NPT再検討会議|核兵器は抑止力ではなく、絶対悪である

|核兵器禁止条約締約国会議|核兵器の被害者めぐる関連行事が開かれる

国連機関、ナイジェリアで最も汚染された地域の浄化計画を酷評

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

2019年に軌道に乗っていれば、世界で3番目に大きなマングローブの生態系を持つナイジェリアのニジェール・デルタ地域オゴニランドという、同国で最も汚染された地域の10億ドル規模の浄化に大きな期待が寄せられていた。386マイルに及ぶ湿地帯を覆う虹色の油膜、休止中の坑口や稼働中のパイプラインからの絶え間ない流出、かつて青々としていたマングローブが原油で覆われ、農地が焼け焦げて不毛になる一方でベンゼンの臭いが充満する、そんな状況に対処することが期待されていた。

国連環境計画(UNEP)の支援と、石油会社シェル社の資金提供の約束により、この最も野心的なプロジェクトから何らかの成功が得られると期待されていた。

しかし、ブルームバーグ・ニュースの暴露記事は、このプロジェクトを「模範的なものとは程遠い」と評している。それどころか、「地球上で最も汚染された地域の一つをさらに汚している」と言うのだ。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

「オゴニランドの浄化が、ニジェール・デルタ全体の浄化の標準となることを期待していました。しかし、何の影響も見られません。本来なら、(プロジェクトの実施により)土地や川が原油の影響を受けた人々の生活や人生に何らかの影響を与えるはずです。」と、Friends of the Earthグループのオゴニ族の弁護士、マイク・カリクポ氏は語った。

国連機関は、オゴニランドの浄化作業について厳しい評価を行い、管理不行き届き、無能、無駄、透明性の欠如が横行していること、具体的には、油にまみれた土の無計画な保管が、汚染されていない土地や小川に化学物質を浸透させていること、環境浄化の経験がほとんどない企業に契約が結ばれていること、何百万ドルもの不要な作業の提案があることなどが指摘された。

「石油会社は環境浄化に責任を持つべきです。石油会社は本来、環境浄化に責任を持つべきなのです。」と、シェル社に対する現在進行中の訴訟でオゴニ族のコミュニティを代表する英国の法律事務所リー・デイのパートナー、ダニエル・リーダー氏は語った。

2015年にはボド族のコミュニティに6646万ドル、昨年はエジャマ・エブブ族のコミュニティに1億900万ドルを支払い、ニジェール・デルタにおけるシェルの債務は膨らんでいる。同社は、ナイジェリアの裁判所が2020年に88人の原告に対して支払うよう命じた19億ドルの賠償金に関する決定を待つ間、同国の陸上資産を売却する取り組みを停止している。

シェルは、アフリカ最大の産油地域における最大の石油事業者であり、住民は高い貧困率と、毎年数百件の流出事故による環境の悪化に直面している。

Map of Nigeria
Map of Nigeria

ニジェール・デルタにおける活動家サータ・ヌバリ氏はCNNに、「地下水は世界保健機関(WHO)の基準値の900倍のベンゼンで汚染され、収穫量の少ない農地、ほとんど釣りができない川、毎年数千人にのぼる新生児の死亡に苛まれています。」と語った。

一方、少なくともあるナイジェリア人は、当局からの支援がほとんどないにもかかわらず、マングローブの育成と再植林の計画を進めている。

自宅の庭でマングローブを育てていたマーサ・アグバニ氏は、苗床を植える好機を考え行動を開始、2019年の終わり頃には、100人の女性マングローブの植林者が活動を展開している。

ニジェール・デルタにおける世界最大級のマングローブの生態系は、何世紀にもわたって人類と調和して存続してきた。汽水域をろ過し、海岸の浸食を防ぎ、水生生物の避難場所となり、それが人間が暮らす環境を支えてきたのである。

 KENULE B. SARO-WIWA THE OGONI HERO
KENULE B. SARO-WIWA THE OGONI HERO

アグバニ氏は母親と同様、多国籍石油企業による生態学的に繊細な地域の環境破壊に対抗して1990年に設立された「オゴニ民族存続運動」に参加してきた。

また、母親と同様、1995年に軍事独裁者サニ・アバチャ政権下のナイジェリア政府によって処刑されたオゴニランド最大の英雄、環境活動家ケン・サロ=ウィワ氏の活動に影響を受けている。

マングローブは、海草やサンゴ礁、漁業に害を及ぼす有害な栄養分や流出水から海洋の生息地を守っている。また、マングローブの根は、汚染物質、重金属、農薬、農業排水など、土地から流れ出る水のろ過を助けることが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の別の報告書で明らかにされている。そのため、マングローブは水質と透明度を維持することができる。また、海草藻場とサンゴ礁への栄養分の分配もコントロールしている。マングローブのような自然のフィルターがなければ、赤潮やサルガッスム藻類の繁殖など、危険な状況が発生する可能性がある。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

|国連|「プラスチック汚染は世界で最も深刻な人災の一つ」根絶に向けた国際条約策定に合意

プラスチックを舗装材に変えるタンザニアの環境活動家

世界で最も体に悪い場所

過激主義を特定の宗教と結び付けてはならない。固定観念の克服が平和共存のカギ(フィドン・ムウォンベキ全アフリカ教会協議会書記長)

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩

Q:世界伝統宗教指導者会議の目的である、対話を通じた平和と協力について、全体会議で固定観念の克服の重要性を訴えておられましたが、詳しくお話しください。

ムウォンベキ師:人は、会ったことがない人々について特定の固定観念(ステレオタイプ)を抱きがちです。しかし実際に会ってみると、それが間違っていたことに気づくのです。

Breakout Session at the 7th Congress. Photo by Katsuhiro Asagiri
Breakout Session at the 7th Congress. Photo by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

世界伝統宗教指導者会議では、例えば道教やバハイ教のように、今まで会ったことがない様々な宗教指導者と出会いました。実際に会って対話を重ねてみると、私が以前抱いていたイメージは違ったものでした。

またここカザフスタンでは、イスラム教徒の人々とも出会い、彼らがイスラム教についてどのように考え話しているかに耳を傾け、すべての人の人間の尊厳へのコミットメントを見て、彼らの人生に対する態度が、私が以前に抱いていたステレオタイプとは異なっていることを理解しました。

アフリカでは、イスラムの名のもとにソマリアやサブサハラ地域、ナイジェリア北部等で起こっていることから、イスラム教は暴力的というステレオタイプを抱いている人々が少なくありません。

しかし、それは真実ではありません。暴力をイスラム教と結びつけて考える人々に対して、「これはイスラム教ではなく、いかなる宗教にも一部に存在する狂信的な人間による仕業」であることを説いています。

つまり、こうした過激主義こそ、この会議に集ったあらゆる宗教指導者が協力して対処すべき問題なのです。

究極的には、あらゆる宗教が平和を説いており、人間を尊重しているからです。

Q:人種・民族間の融和に果たす宗教の役割は?

ムウォンベキ師:宗教は、人種・民族間の融和について常に最前線にあります。世界では今、人種差別のみならず、外国人嫌い(クセノフォビア)が深刻化しています。

The “Kazakhstan Way” of development is an integral part of statehood, while tolerance and responsibility have a deep meaning in a country of more than 100 ethnic groups living together in peace.資料:Astana Times

これに関して、人種・民族・宗教間の調和を実現したカザフスタンに敬意を表します。この国では、(130以上の民族からなる)多くの人々が諸外国に家族のルーツを持ちながら、同じカザフ人として社会に共存しています。だからこそ、この会議をホストできているのでしょう。

カザフスタンが、宗教指導者間の対話と協力を前進させるこのイニチアチブを支援しつづけていることは称賛に値しますし、私たち代表団も一層努力すべきだと思います。

いかなる国でも、良い人悪い人を含めてあらゆる性格の人々が暮らしており、(人種・民族・宗教の違いに関わらず)皆人間なのだという事実を知ることが重要だと思います。

Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

関連記事:

|第7回世界伝統宗教指導者会議|カザフスタンが世界的な関係強化の新たなセンターとなるか?

ヘイトクライムの背後にあるのは信仰ではなく信仰者の操作

「世界伝統的宗教指導者会議」青年平和コンサートを収録

共に心を開いて平和共存の道を探る(ジョジュ師 韓国仏教曹渓宗中央アジア支部/世界伝統宗教指導者会議運営委員)

ジョジュ師は学生時代に日本による中央アジアの仏教遺跡発掘事業に参加。そのままウズベキスタンに留まり、以来30数年間中央アジアを中心に活動をしている。世界伝統宗教指導者会議には第1回より参加。運営委員として、カザフスタンを毎年訪問し、この宗教間対話のイニシアチブを真の平和と協力のためのプラットフォームへと進化させるべく尽力してきた。

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩

Q:今回で7回目となる世界伝統宗教指導者会議の経緯についてお聞かせください。

ジョジュ師:17年前に私がこの会議に参加した当時は、宗教指導者らはお互いに理解できない場面も少なくありませんでした。しかし対話を重ねる中で、相互理解が深まっていったと実感しています。

Palace of peace and reconciliation, CC BY-SA 3.0
Palace of peace and reconciliation, CC BY-SA 3.0

人類は歴史を通じてなぜ戦争、殺戮を繰り返してきたのか、それはお互いに誤解しているからなのです。そしてその背景には、自らの宗派や政治体制や国のみが正しく、相手のものを否定するドグマの存在があります。

(議論の一例を紹介すると)仏教徒は、人間も自然界の万物も皆等しく尊いものと説きます。一方、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教では、この地球を含む万物は全能の神が創造したと説きます。それでは、そうして紛争や殺戮がやまないのでしょうか?神が私たちを創造したのならば人類は皆兄弟・姉妹であり、家族のはずです。どうして騙したり殺したいするのでしょうか?

Q:一神教の伝道に対して仏教界は消極的との批判がありますが。

ジョジュ師:確かに、仏教界もただ静かに耐えているのみではなく、時にはもっと声を大きくすべきだと思います。現実には、政治的にも敏感な領域で、ある宗教が「全能の神」を連呼しながら布教活動を行っているのを目にします。しかし、そのような一方的な教義の押し付けは、私に言わせれば、外の世界を知らない、「井の中の蛙」にほかなりません。このことは仏教界にも言えます。

Q:前回の会議より日本の仏教界を代表してSGIが参加しています。

ジョジュ師:池田大作SGI会長の書物を読ませていただいています。素晴らしい内容で、仏陀の言葉のように大変役に立つものです。共に心を開いて、同じ仏教徒として、同じ人間として、(世界伝統宗教指導者会議)で対話を深めていきたいと期待しています。

Q:中央アジアと仏教のつながりについて。

ジョジュ師:中央アジアには、数多の仏塔や仏像が発掘された遺跡があります。法華経をはじめ大乗仏教は、この地を経由して、中国、朝鮮、日本へと伝えられました。

Q:世界伝統宗教指導者会議が開催される意義についてお聞かせください。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

ジョジュ師:特定の宗教のみが正しいとして、押し付けられるのは人生にとって幸福なことではありません。様々な宗教指導者が集うこのイニシアチブは、人々に対して様々な情報を発信しています。そうすることで、人々は自分の目で確かめ研究し、何が自分の人生や幸福に必要なのかを考えることができるのです。

つまりこの会議の意義は、人々はいかにして幸福と自由を得ることができるか、選択肢を与えている点にあります。

Q:この会議をホストしているカザフスタンの多民族・多宗教文化について

ジョジュ師:ロシアのプーチン大統領は、「カザフスタンは新しい国だ。」と主張したことがあります。しかし、ナザルバエフ初代大統領は、「カザフスタンは新しい国ではない。私たちには独自の歴史がある。」と反論しました。この見解は、現在のカシム=ジョマルト・トカエフ大統領も明言しています。

Kazakh-Ethunic-Diversity credit: Astana Times
Kazakh-Ethunic-Diversity credit: Astana Times

ソ連共産党がカザフスタンを支配した時代、カザフスタンの自由と独立を主張する人々は地下に潜るしかありませんでした。しかし、30年前にソ連から独立してからは、カザフ人は自らの歴史を知ることができようになっています。

遊牧文化を背景にもつカザフ文化の特徴は、オープンマインド(開かれた)強固なマインド(精神)といえます。そうした意味では、自らの歴史と伝統、宗教・文化に強い誇りを持つカザフ人にとっても、この会議は重要な位置を占めていると思います。もちろん様々な宗教にとってもこの会議が重要であることは言うまでもありません。

INPS Japan

Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

関連記事:

過激主義を特定の宗教と結び付けてはならない。固定観念の克服が平和共存のカギ(フィドン・ムウォンベキ全アフリカ教会協議会書記長)

|第7回世界伝統宗教指導者会議|ローマ法王、多民族・多宗教が調和するカザフスタンのイニシアチブを祝福

宗教指導者が集い、傷ついた世界を癒す方法を探る

ウクライナをきっかけに北東アジアで核ドミノの懸念

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン】

韓国は、核武装を取るか、経済的繁栄と韓米同盟を取るかのいずれかを選ばなければならない。

冷戦時代とは、人類が核戦争という恐ろしい見通しに震えた時代であった。しかし、それは同時に、核抑止戦略や多岐にわたる核軍縮交渉から戦略的安定性が形成された時代でもある。これは、冷戦のパラドックスとして知られる。

しかし、ウクライナでの戦争が長引くにつれ、70年以上にわたって守られてきた「核のタブー」というパンドラの箱がカタカタと音を立て始めている。具体的には、低出力の戦術核兵器が使用される可能性が高まってきたことで、世界各国で懸念と論争が巻き起こっている。ウクライナでの戦争が北東アジアで核のドミノ倒しを引き起こすという懸念すらある。(原文へ 

その発端となったのはプーチンである。彼こそが、核兵器使用の可能性を公然とほのめかし、国際的な核体制を脅かしている人物である。西側の軍事的脅威を引き合いに出しつつ、プーチンは、ウクライナ侵攻から4日後にロシアの核戦力の準備態勢を引き上げた。その後4月9日に公の会合に姿を現した際には、「核のカバン」を持ち歩く政府要員を伴っていた。

プーチンや他のロシア指導者たちは、繰り返し西側に対し、国家の存立が脅かされた場合は核兵器を使用する可能性があるとシグナルを送っている。その意味は、戦況がプーチンにとって不利になった場合、あるいは西側が軍事介入した場合、彼は核兵器の使用に踏み切る可能性があるということだ。

CIAのウィリアム・バーンズ長官は、近頃行った講演で、ロシアが戦術核兵器や低出力の核兵器を使用する可能性を排除しないと述べた。

ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領による発言も、核ドミノのリスクを高めている。2月19日のミュンヘン安全保障会議に参加したゼレンスキーは、安全保障に関する1994年のブダペスト覚書で交わした、ウクライナがソ連崩壊時に自国内に残された核兵器を放棄すれば安全を保証するという約束を守っていないとして、西側諸国、具体的には米国と英国を批判した。彼はまた、自国の安全を守るために核兵器を保有したいという強い希望を表明した。

皮肉なことに、このような流れは、北朝鮮が長年にわたって追求してきた核武装を正当化し、戦術核兵器の有用性を強調することにほかならない。米国によるイラク侵攻とリビアのカダフィ政権転覆により、平壌の政権は、核武装が唯一の生き残りの道だという認識を強くした。ウクライナでの戦争は、実質的に、そのような考え方を決定的に裏付けるものとなっている。

このことは、近頃の軍事パレードで金正恩(キム・ジョンウン)が行った発言に如実に表れている。「わが国の核戦力の基本的使命は、戦争を抑止することだ」と金は言い、「わが国の基本的利益を侵害しようとする勢力があれば、わが国の核戦力は、想定外ながら第2の使命を断固として遂行せざるをえない」と付け加えた。

金の発言は、ロシアの暗示と同様に、平壌は核兵器を先制使用する可能性があるということを示唆している。さらに、北朝鮮の国営メディアは、4月16日の新型戦術誘導ミサイルの発射実験は、射撃能力の選択肢を多様化し、戦術核兵器の効率性を高めることを目的として計画されたと伝えた。これは、戦術核兵器を実戦使用のために配備するという核ドクトリンが朝鮮半島で具体化されつつあることを示唆している。

北朝鮮の核兵器と核ドクトリンが日増しに強化されるにつれ、韓国でも核武装を求める世論が高まっている。カーネギー国際平和基金とシカゴ・グローバル評議会が近頃実施した世論調査では、韓国人回答者の71%が、ソウルは北朝鮮だけでなく中国の脅威にも備えて自国の核兵器備蓄を進めるべきだと述べた。

広島と長崎への原爆投下という悲劇を経験した日本では、核兵器反対の声は依然として根強いが、韓国がロシア、中国、北朝鮮に追随して核武装すれば、日本も核武装するだろう。そうなれば、台湾も、自国の核兵器を保有する以外の道はない。このような核ドミノのシナリオは、地域のすべての国が互いに核兵器で恫喝し合うということであり、まさしく悪夢である。

ワシントンの評論家の一部が韓国の核武装という見通しを歓迎しているのは事実である。しかし、米国政府を含むワシントンの主流派は、この考えに断固反対する姿勢を崩さない。彼らの見解では、核武装した韓国は韓米同盟とは両立しない。

核兵器不拡散条約(NPT)に象徴される国際的な核不拡散体制は、依然として強固である。韓国が一線を越えれば、その途端に韓国は北朝鮮と同列の除け者国家となり、経済制裁と外交的孤立に直面する運命に陥る。

要するに、韓国は、核武装を取るか、経済的繁栄と韓米同盟を取るかのいずれかを選ばなければならない。前者を選べば、原則的にも実際的にも、後者を維持することはほぼ不可能になるだろう。

核拡散(北朝鮮の核問題に代表される)と核兵器の実戦使用の高まる可能性(ロシアの脅威に象徴される)が全ての国で不確実性を高めていることは否定できない。しかし、韓国にとってはそれでもなお、戦略的安定性を維持し、北東アジアで核のドミノ倒しが始まらないようにすることが国益にかなっている。

だからこそ、実際には、韓国の外交政策は、全ての国が先を争って核兵器を獲得しようとするような状況を防ぐことに重点を置くべきである。それはまた、韓米同盟の最重要課題であり、韓国と米国が共有しうる価値である。

韓国は手始めに、核拡散に向かって急激に高まりつつある圧力を下げるため、この地域における多国間協議体の発足を目指すことが考えられる。その場合、北朝鮮の核問題をめぐる膠着状態の交渉を早急に再開することがいっそう重要になる。

核兵器の暗い影が世界中を覆う今、誰にとっても時間は待ったなしである。

この記事は、2022年5月2日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。

チャンイン・ムーン(文正仁)は、世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

INPS Japan

関連記事:

政治的に孤立した北朝鮮が2つの核保有国から国連で支持を受ける

専門家らが朝鮮半島の平和の見通しを討議

韓国は米国との同盟について国益を慎重に検討すべき

世界伝統宗教指導者会議、女性の社会的地位について議論

【ヌルスルタンINPS Japan/Astana Times】

9月14日から15日にかけて開催される第7回世界伝統宗教指導者会議では、20年の歴史の中で初めて女性の社会的地位に関する特別セッションが開かれると、同会議のプレスサービスが9月8日に報じた。

Congress of the Leaders of World and Traditional Religions/ Photo by Katsuhiro Asagiri
6th Congress of the Leaders of World and Traditional Religions/ Photo by Katsuhiro Asagiri

この会議では、ポスト・パンデミック期における人類の精神的・社会的発展について、世界宗教・伝統宗教の指導者が果たす役割に焦点が当てられる。

このセッションでは、現代社会の持続可能な発展に対する女性の貢献に焦点を当てる。また、女性の社会的地位の向上を図るうえで宗教団体が果たす役割についても議論することになっている。

この会議の講演者には、アラブ諸国連盟のハイファ・アブ・ガザル社会問題担当事務次長、コプト正教会のロサンゼルス兼ハワイ司教、イスラム歴史研究センターのマフムード・エロル・キリッチ所長、アフラ・モハメド・アル・サブリUAE寛容・共存省事務局長、ヌリディン・ホリクナザロフ ウズベキスタン・イスラム教徒精神委員会会長、イシス・マリア・ボルゲス・デ・レセンデUniãoPlanetária会長、ジョナサン・エイトケン クリスチャン連帯ワールドワイド会長など、著名な宗教者や公人が含まれている。

Palace of peace and reconciliation, CC BY-SA 3.0
Palace of peace and reconciliation, CC BY-SA 3.0

パンデミック後の人類の精神的・社会的発展における世界宗教・伝統宗教の指導者の役割に焦点を当てたこの会議には、50カ国から100人以上の代表団が集まる予定だ。その中には、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教、神道、仏教、ゾロアスター教、ヒンズー教などの代表者が含まれ、カトリック教会のトップであるローマ法王フランシスコ、アルアズハルの大導師アハメド・モハメド・エルタイブ、エルサレム総主教テオフィロス3世も含まれている。

教皇フランシスコは、今回のカザフスタン訪問の一環として、9月14日に万博記念広場で、ローマカトリック教徒と他の宗教・宗派の代表者のための野外ミサを行う予定だ。(原文へ

Astana Expo site/ photo by Katsuhiro Asagiri
Astana Expo site/ photo by Katsuhiro Asagiri

INPS Japan

この記事は、Astana Timesに初出掲載されたものです。

関連記事:

第6回世界伝統宗教指導者会議:「多様性の中の調和」を謳う

教皇フランシスコ、カザフスタンを中央アジアの「信頼できるパートナー」と称える

バチカン会議、「持続可能な開発」と「核兵器禁止」のネクサス(関連性)を強調

世界伝統宗教指導者会議は希望の光

【ヌルスルタンINPS Japan=浅霧勝浩

9月14日・15日にカザフスタン共和国の首都ヌルスルタンで開催される「第7回世界伝統宗教指導者会議」(2001年以来3年毎にカザフスタンがホストして開催。今回は新型コロナの影響で4年ぶりに開催)を前に、世界各地から集まった記者に地元のテレビ局が取材した。(English)

Mr. Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai  making statement at a plenary session/ photo by Katsuhiro Asagiri
Mr. Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai making statement at a plenary session/ photo by Katsuhiro Asagiri

今年の会議のテーマは「ポストパンデミック期における人類の精神的および社会的発展への世界の宗教指導者の役割」。これは、テロとの戦いの名の下に、9・11同時多発テロ事件後に高まった特定の宗教を対象とした排他主義や過激主義に対して、世界の伝統宗教指導者自らが率先して対話を重ね、平和と協力関係を模索するイニシアチブとして、バチカンのヨハネ・パウロ2世やカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領らの呼びかけて始まった。20年目となる今回は、カソリック教会のローマ法王フランシスコをはじめ英国国教会、ロシア正教会、バハイ教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、ユダヤ教、ジャイナ教、神道等、世界50カ国から100以上の代表団が参加している。

Map of Kazakhstan
Map of Kazakhstan

カザフスタンは130以上の民族が共生する多民族・多宗教国家で、「世界伝統宗教指導者会議」のプラットホームを同国が提供してきた背景には、古来よりシルクロードの中継地として東西南北を行き交う様々な民族・思想・技術を寛容に受入れてきたカザフ民族の社会的背景と、ロシアと中国に挟まれた広大な国土を比較的少ない人口で安定的に発展させていく知恵として、両国のみならず欧米・日本等の西側諸国やイランや中東・アフリカ諸国等とも巧みに平和・善隣外交を推進してきた政治的な背景がある。

今回の会議は、既に3年に及ぶ新型コロナウィルス感染症のパンデミックと、ウクライナ侵攻と核兵器使用の恫喝がなされる、いわば「人類の存在そのもが崖っぷちに立たされている」事態の中で開催される。

カザフ国営テレビによる取材に対しては、「一つ間違えれば、全てが消滅しかねない危機的な状況の中で、人間性の本質と良心に深く訴えかけることができる世界の伝統宗教指導者による対話と協力の動きは『希望の光』だと思う。」とコメントした。

Quazaqustan TV(カザフスタン国営テレビ)

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

世界伝統宗教指導者会議、女性の社会的地位について議論

第6回世界伝統宗教指導者会議:「多様性の中の調和」を謳う

カザフ国営テレビによる取材映像

盛り上がるマニフェストと痛快な回顧録:ウガンダ人活動家の新書

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで講演をしようとしていたウガンダの若い気候変動活動家が、欧米のメディアから最後の屈辱を受けた。彼らは、白人の気候変動活動家の同僚と彼女を撮影する場面を演出し、最後のショットから彼女を切り取ってしまったのだ。

ヴァネッサ・ナカテは、「4人の白人活動家が写っている写真がウェブサイト上で使用され、自分は使用されていないのを見て、心を痛めました。人種差別という言葉の定義を理解したのは、生まれて初めてです。」と感情的なビデオ映像の中で言った。

AP通信はその後、ナカテに謝罪した。「今朝、ウガンダの気候変動活動家ヴァネッサ・ナカテを切り取った写真を掲載したことを遺憾に思います。」

しかし、この異様なスキャンダルはこれだけでは終わらなかった。

この事件により、ナカテはタイム誌の表紙を飾り、トレバー・ノアデモクラシーナウのエイミー・グッドマンなど多くの人々と共演し、幅広い注目を浴びるようになった。それから数日後、ナカテはTwitter、Facebook、Instagramのアカウントで10万人以上のフォロワーを獲得した。また、彼女のWikipediaのページを立ち上げた人も現れた。

グレタ・トゥーンベリをはじめとする3人の白人気候変動活動家が写った写真から切り取られたことは、ナカテにとって大きな痛手だったが、今ではこの経験が大きな原動力になっている。

Copyright: Amazon
Copyright: Amazon

彼女のメッセージは簡潔で的を射ている。「アフリカは世界の炭素排出量のわずか3パーセントにすぎないが、アフリカの人々はすでに、気候危機が引き起こす最も残酷な影響のいくつかに苦しんでいる。多くのアフリカ人が命を落としているのです。」とナカテは語った。

「グローバル・サウスの国々は、グローバル・ノースと比較して気候変動の原因となっている責任は軽いが、その影響から最も苦しんでいる国々である。」

2018年から活動家であるナカテは、スウェーデンの活動家グレタ・トゥ―ンベリに触発されてウガンダで独自の気候変動運動を始め、2019年1月に気候危機への無策に反対する単独ストライキを開始した。

今、カナテは作家として、初めての著作「気候危機に対するアフリカからの新たな提言」を出版。この本では、気候危機がアフリカにどのような影響を及ぼしているか、また彼女が発言する際に直面した差別について指摘している。

レイチェル・コンラッドは、ウェブサイト「Social Justice Books」で、「『気候危機に対するアフリカからの新たな提言』は盛り上がるマニフェストであり、痛烈な回想録でもある。それは、レジリエンス、持続可能性、そして真の公平性に基づいた気候変動運動のための新しいビジョンを提示している。」と記している。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

|COP26|政治指導者らが行動をためらう中、SGIが国連青年気候サミットを提案

気候変動対策の1000億ドル支援公約、果たされず

ロシアのウクライナ侵攻による環境・気候被害への深刻な懸念