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世界のトップテーブルで。2023年はインドの年か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ

2023年はまさにインドの世界政治の年となるかもしれない。それを後押しする三つの事情とは、インドがG20の議長国を務めること、ウクライナ戦争でインドが果たす興味深い役割、そして中国に対する批判的な見方がますます広がっていることである。

国際政治におけるインドの影響力は近年着実に拡大しており、インド政府はグローバルプレイヤーとしての責任を担うことに熱心である。それはとりわけ、多少の波はあるものの2000年代末から年7%を上回るペースで続いている目覚ましい経済成長を背景とした政治的野心によるものだ。2021年には8.7%の成長率を記録したインドは今や、米国、中国、日本、ドイツに次いで世界5位の経済大国となっている。グローバルプレイヤーになるというインド政府の野心的目標は、今に始まったことではない。この政治エリート国は常に、国際情勢における最上位のランクを思い描いてきた。しかし、過去にこの国はあまりにも頻繁に地域紛争の泥沼にはまり、インド人学者B.S.グプタが25年前に評したように「南アジアの息詰まるような閉鎖空間」であった。(

2023年にはインドはG20の議長国に就任し、G20の議題を形成する可能性がある。これを、デリーは歴史的好機と捉えている。もしかしたら、インドが数十年にわたって国連安全保障理事会の常任理事国になることを拒まれてきたことへの埋め合わせという面も少しはあるのかもしれない。インドの人口は14億人を超え、2023年には中国を追い越して人口世界一の国になろうとしている。インドは、ほぼ西側に支配された世界構造を改革したいと考えており、多くの政治的・経済的フォーラム(世界銀行、国際通貨基金、国連安全保障理事会など)の取り組みや構造に対する不満を臆することなく口にしている。これらの機関はいまだに、現在の世界情勢というより第2次世界大戦後の創設当初の状況を反映している。インド政府は、経済的不安の中で包括的な成長を成し遂げるために、グローバルサウスの「聞き届けられない声」が認識されることを望んでいる。

インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、自信をもって、はばかることなく、欧州諸国が自分たちの問題ばかりを優先して世界的問題を見落としていると非難している。例えばロシアに対する西側諸国の制裁は、エネルギー、食料、肥料の価格高騰を招き、より貧しい国々に深刻な経済問題を引き起こしている。インド政府は冷戦時代の古臭いブロック対立を再燃させることに関心はないが、それは現在、米中間の競争や確執に形を変えて姿を現している。デリーは、単純に西側(現在のロシアとの対立における“善玉”)の肩を持ちたいとは思っていない。

政府は、インドの非同盟の伝統にふさわしい多面的な同盟を構想している。インドは、米国、オーストラリア、日本、インドの4カ国安全保障対話「クアッド」に加盟しているが、単純に西側陣営に加わりたいとは思っていない。国連においてインドは、ロシアの侵攻を非難する決議案の採決で欧米諸国の圧力に屈することなく棄権した。デリーとモスクワは良好な交流を維持している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれを根拠として、ロシアは西側が思うような孤立状態には全くないと主張している。しかしその一方で、ナレンドラ・モディ首相は2022年9月に開催された上海協力機構(SCO)の会議で、プーチン大統領に向かって「今は戦争の時代ではない」と明確に述べた。

インドは、ロシアと良好な経済関係を維持していることを隠しもせず、悔いてもいない。インドは、長年にわたりロシアから武器を輸入しており、ロシアの協力に引き続き依存している。ウクライナ戦争が始まってからは、値引きされたロシア原油の輸入を増やしている。インド外相は、そのようなどっちつかずの政策に対する西側の非難に反論し、欧州の偽善をはね付けた。「1人あたり所得60,000ドルの社会が自分で自分の面倒を見るというなら、もっともなこととして受け入れよう。しかし彼らは、1人あたり所得2,000ドルの社会が損害を引き受けることを期待するべきではない」

このような多面的同盟、ワシントンともブリュッセルともモスクワとも良好な関係を維持するという考え方があるからこそ、デリーは仲介者としての役割を果たすことができる。現時点でロシア政府は、戦争を終わらせようとする、あるいは本格的な交渉を開始しようとするいかなる外交努力も拒絶している。これまでの紛争解決の経験から、中立的な仲介者による手助けが有益であることが分かっている。インド政府が世界情勢の中で建設的に自国を位置付ける機会がここにある。

最後に、現在、中国の政策に対して広がっている懐疑論は、インドにとって有利に働く。パンデミックはインドの影響力拡大に寄与した。パンデミックの中で、中国への経済的な依存度がいかに大きく、ほとんど不可避であるかが明白になった。中国の強引な政策、透明性を欠く北京のコロナ危機対応、主要経済分野におけるさまざまなサプライチェーンの途絶や技術依存度は、これまでの対中政策の見直しや一部撤回につながった。

多くの国の政府は、依存度を下げ、自国社会のレジリエンスを高めるために、サプライチェーンの分散化は避けられない措置であると考えている。これはインドにとって好機である。インドは、十分な訓練を受けた、英語を話す労働力が豊富である。そのような人的資源、そして中間層が拡大している大規模なインド市場は、多くの外国投資家にとって魅力的である。インドの現在の経済力と政治的決断を考えると、2023年はインドのグローバルイヤーとなる可能性がある。

しかし、障害もある。インドは、技術的に進んだ産業もあるが、依然として貧しい国でもある。インド経済は、貧困を大幅に削減し、毎年労働市場に流入する1,000万~1,200万人の若者に十分な雇用を提供するためには、7%を上回るペースの経済成長を必要とする。そのためには、かつての中国のように数十年にわたる好況期が必要である。それが気候変動をいかに悪化させ得るかは、想像に難くない。

政治的に、インドは岐路に立っている。インドの世俗主義的社会や多文化的民主主義は、もはや憲法に謳われているほど安定したものではなくなっている。ヒンドゥー・ルネサンス、均質的なヒンドゥー社会を目指すモディ首相の政策を考えると、国民の平等な待遇に疑義が生じる。インド社会の特徴であった自由主義や世俗主義は脅威にさらされており、司法の独立とメディアの独立も同様である。

モディ政権は、米国、日本、オーストラリア、そしてEUとの関係を強化することに成功した。また、紛争を抱えた周辺地域において必ずしも良好とはいえなかったイメージも改善した。しかし、東南アジアにおけるインドの役割と地位は、国の圧倒的な大きさゆえに複雑である。より小規模な周辺国との関係は、緊張と無縁ではいられない。

地域における複雑かつ困難な関係は、インドの長年にわたるパキスタンとの紛争や中国との対立的関係に反映されている。領土問題はいまだに解決されておらず、国境地帯では小競り合いが繰り返し起きている。両国とも軍隊に多額の投資を行っているが、その額は中国がインドを大きく上回る。中国の「一帯一路」構想とインド洋におけるプレゼンスの増大に、インドでは安全保障の懸念が高まっている。それと同時に、両国政府はBRICS、SCO、G20といった組織では協力を行っている。

ナレンドラ・モディと習近平はさまざまな形で顔を合わせているものの、両国間の対立は激化している。各時代のインド政府は、欧州各国の政府と同様、長年にわたり貿易がもたらす緩和の影響力を信じてきた。しかし、中国とインドの2国間貿易は大幅に増加したものの、緊張を解消するには至っていない。今やインド政府はデカップリング政策に乗り出している。とはいえ、インドは中国からの輸入に依存しているため、経済的離脱は容易ではない。

世界で最も人口が多い2カ国の世界的野心は、両国を熾烈な競争へと駆り立てた。どちらの政府も、世界的野心を抱くアジアの大国と自認している。インド政府は、その経済力に見合った政治的役割を明確にすることに関心を抱いている。しかしその一方で、新たな多国間主義へのロードマップを策定するために、イデオロギーの衝突を乗り越え、志を同じくする国々と協力することにも関心を抱いている。民主主義と専制主義の対立と競争において、インドは、民主主義とそのリベラルな価値観を後押しする形でバランスを傾けるために、重要な役割を果たす可能性がある。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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2.5億人が深刻な飢餓に直面

【ローマIPS=ポール・ヴィルゴ】

今月初め、英国ではチャールズ3世の戴冠式が国際メディアの注目を浴びていたが、少なくともそれと同等のスポットライトが当てられて然るべき別の話題はほとんど報じられなかった。

最新の「2023年版食料危機に関するグローバル報告書」(GRFC)によると、食料不安が深刻化し、急性食料不安(十分な食料を摂取できないことで、その人の生命や生活が差し迫った危険に晒されることを言う:INPSJを経験している人の数は、2022年に58の国と地域で約2億5800万人に上り、7カ国の人々が餓死の危険に晒されていると推計されている。

これは2021年の53の国と地域の1億9300万人からさらに増加したもので、緊急の食料、栄養、生活支援を必要とする人々の数が4年連続で増加したことを意味する。

WFP
WFP

ここで注目すべきは、これが世界中で飢餓の影響を受けている人々の数ではないという点だ。その数値は、はるかに大きなものとなる。国連は毎年7月、「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」報告書において、慢性的な飢餓状態にある人々の数を推定しており、昨年の報告書では、2021年の飢餓人口を最大8億2800万人と発表している。

一方、GRFC報告書は、最も深刻な形態の飢餓(IPC/CHフェーズ3-5)のみを統計の対象としている。(飢餓の「リヒタースケール」と呼ばれる食料不安を測る世界標準「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は5段階からなり、フェーズ1が「食料が十分にある状態」、フェーズ2が「食料不安」、フェーズ3が「急性食料不安」、フェーズ4が「人道的危機」、フェーズ5が「飢饉(=1万人のうち少なくとも2人が餓死或いは関連する原因で病死)」である。」

それによると、7カ国の人々が2022年のある時点で急性食料不安の最も深刻な段階である壊滅的な飢餓(飢饉)(IPC/CHフェーズ5)に直面していた。その半数以上がソマリア(57%)で、アフガニスタン、ブルキナファソ、ハイチ、ナイジェリア、南スーダン、イエメンでもそうした極限状況が発生していた。

同報告書によると、39カ国で約3500万人が次に深刻なレベルの緊急事態の飢餓(IPC/CHフェーズ4)に直面し、これらの人びとの約半数は、アフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国、スーダンのわずか4カ国で暮らしている。

2億5800万人という数字は報告書史上最も多く、今年はさらに状況が悪化している

「2022年、2.5億人以上の人々が深刻な食料不安に直面しました。この年は、食料危機に直面した人々の数が、僅か12ヶ月で33%増加した年でした。」と、国連世界食糧計画(WFP)のジェームズ・ベルグレーブ報道官はIPSの取材に対して語った。WFPはGRFCレポートを発行している「食料危機に対するグローバルネットワーク(GNAFC)」のメンバーである。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

「そして、2023年のこれまでの経過を見ると、WFPが活動する79カ国で、実に3億4500万人が高レベルの食糧不安に直面していることがわかります。これは、2020年初頭のパンデミック前の水準から2億人近く増加したことになり、状況がいかに急速に悪化しているかが浮き彫りになっています。2023年に世界食糧計画が創立60周年を迎えるにあたり、私たちは現代における最大かつ最も複雑な食糧安全保障の危機の真っ只中にいることに気づきました。」と、ベルグレーブ報道官は語った。

実際、GRFCの報告書は発行開始から7年しか経過していないが、その間に最悪の形態の飢餓に苦しむ人々の数が大きく増加したことが記録されている。フェーズ3以上の飢餓を経験している人々の数は、2016年には1億500万人と現在の半分以下であった。

報告書で分析された42の主な食糧危機国のうち30カ国で、3500万人以上の5歳未満の子どもが消耗症、つまり急性栄養不良の状態にある。このうち920万人以上の子どもが低栄養状態の中で最も危険な状態で、子どもの死亡リスクの高い重度の消耗症に苦しんでいる。

2022年は、紛争や異常気象が継続して深刻な食料不安や栄養不良を引き起こしている一方で、特に食料や肥料などの輸入依存度が高く、世界の食料価格の影響を非常に受けやすい最貧国では、新型コロナウイルスのパンデミックによる経済不安やウクライナでの戦争の影響も飢餓の主な原因となっている。

このような極端なショックに対して、世界の人口の多くが脆弱であることは、農村部の貧しい零細農家の回復力を強化し、食糧不安に立ち向かう努力が不十分であることが原因の一つである。

GRFCの最新レポートにおいて深刻な飢餓に直面している人々の数値が上昇したのは、分析対象国の人口増加を反映している部分もあるが、これらの国々で急性食料不安を経験している人々の割合が2021年の21.3%から22年には22.7に増加していることは、人口動態の要因にかかわらず状況が著しく悪化していることを示している。

報告書は、各国と国際社会は、事前対応や危機対応型セーフティネットなどの革新的なアプローチを含む、より効果的な人道支援に焦点を当て、食料危機と子どもの栄養不良の根本原因に取り組むための投資を拡大し、農業食料システムをより持続可能で包括的なものにすべきだと述べている。

According to the report, around 258 million people in 58 countries and territories faced acute food insecurity at crisis or worse levels in 2022, up from 193 million people in 53 countries and territories in 2021./ FAO
According to the report, around 258 million people in 58 countries and territories faced acute food insecurity at crisis or worse levels in 2022, up from 193 million people in 53 countries and territories in 2021./ FAO

ベルグレーブ報道官は、「世界の飢餓との戦いは後退しており、今日、世界は、近代史上最大規模の未曾有の食糧危機に直面しています。世界で最も弱い立場にある人々の生活は日々厳しくなり、苦労して勝ち取った開発の成果も損なわれつつあります。WFPは3つの課題に直面しています。それは、深刻な飢餓状態にある人々の数は、資金が追いつかないほどのペースで増え続け、食料と燃料の価格が上昇したため、食料援助の提供コストがかつてないほど高騰していることです。」と語った。

「ソマリアのように飢饉の危機に瀕している国では、国際社会が政府やパートナーと協力して、人々を死線から引き戻すために懸命な取り組みを行っています。しかし、人々を生かすだけでは不十分で、さらに前進する必要があります。命の危険に晒されている人々を救う一方で、地域社会がレジリエンスを高め、自分たちの食料需要を満たすための基盤を提供するという、2つの側面から取り組まなければなりません。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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【ニューヨークIDN=アリス・スレイター】

米国が、核兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイルを運用する3つのミサイル航空団を擁する地球規模攻撃軍団(3万3700人以上の軍人・軍属が所属)を誇る一方で、米国とその同盟国が北朝鮮の長距離ミサイル実験を非難するのは、欺瞞以外の何ものでもない。

実際、米国の大陸間弾道ミサイル「ミニットマン」の実験がこの2月に行われており、次は8月の予定だ。

Korean Peninsular/ By Gringer - Own work, CC0
Korean Peninsular/ By Gringer – Own work, CC0

1950年から53年にかけての朝鮮戦争は、米国が最も長期にわたって関与している紛争である。実際には戦争は終わっておらず、朝鮮人民軍と中国人民義勇軍を代表とする北朝鮮と、多国籍の国連軍司令部を代表とする米国との間の休戦協定によって一時中断されただけである。

この無期限の休戦協定の間、米軍は韓国に駐留している。北朝鮮国境付近に展開する米軍は、重武装した北朝鮮に対して長年にわたり継続的に脅威を与えるべく韓国軍と「軍事演習」を行っている。

さまざまな和平構想が取りざたされたが、米国はそのいずれからも撤退し、後追いの動きもなされなかった。この間、北朝鮮は長きにわたって和平条約を求めてきた。北朝鮮の人々に多大なる苦難と貧困をもたらしてきた制裁の解除と引き換えに、兵器級核物質を生産する「平和的」原子炉の稼働を停止することも北朝鮮は提案してきた。

ビル・クリントン政権との間で、核開発を停止する合意もなされたが、ジョージ・W・ブッシュ政権が2002年にこの合意を尊重せず北朝鮮を「悪の枢軸」と呼ぶに及んで、核開発は再開された。

2017年、韓国では、「太陽政策」と平和的な朝鮮半島統一を公約とした文在寅が新たに大統領に就任した。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

皮肉なことに、2017年に国連総会第一委員会(軍縮)では、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の10年にも及ぶ運動が功を奏して、核兵器禁止条約の採択に至った。しかし、米国・英国・フランス・ロシア・イスラエルはこれに反対票を投じた。

中国・パキスタン・インドは棄権したが、北朝鮮は核保有国として唯一、核兵器禁止条約案に賛成した。核禁条約は同年の国連の特別交渉会期において採択された。

北朝鮮が、核兵器禁止条約の交渉に前向きな唯一の核保有国として世界にあるシグナルを送ったことは明白だった。しかし、西側のメディアは、欧米の植民地大国とその同盟国によって北朝鮮が受けている挑発を認識することもしなかったし、北朝鮮がそのような驚きの投票行動をしたことも主流のメディアでは報じられなかった。

ドナルド・トランプ政権時、米朝交渉には一定程度の進展がみられ、韓国ではより平和的な大統領が誕生した。しかし、北朝鮮が核開発を放棄することと引き換えに和平協定を北朝鮮と結ぶパッケージの一環として、韓国から米軍部隊の一部を撤収するという金正恩に対するトランプの約束を、米議会は否定した。

米国では「非武装地帯を超える女性たち」の活動に刺激を受けた運動が始まっている。彼女らは、南北朝鮮を分ける非武装地帯を徒歩で超えるという前代未聞の取り組みを2015年に行った。ノーベル平和賞受賞者やフェミニストのリーダーである女性ら30人が、韓国女性1万人とともに国境の両側から非武装地帯を徒歩で超えたのである。

彼女らの努力を通じて、そして、依然として恒久的な交戦状態にある南北朝鮮間を家族訪問のために行き来することができずにいる推定10万人の朝鮮人のために、米国では法案1369号(朝鮮半島和平法案)が提出されている。法案は、朝鮮戦争を公式に終結させる和平条約の締結を呼びかけているが、同時に、北朝鮮国民に対する渡航制限の見直しと、両国間における連絡事務所の設置も求めている。

今こそ、北朝鮮に対する私たちの見方を見直し、北朝鮮を、核兵器によって私たちを攻撃しようとしている国としてではなく、76年間にわたって耐え忍んできた制裁と孤立からの脱却を求めている国として取り扱わねばならない。

Alice Slater
Alice Slater

帝国のありようがいかにして北朝鮮の「悪の行い」に寄与しているのかを理解すれば、本当の安全を私たちは手に入れることができるのである。1950年代の「赤の恐怖」の時代に私たちを楽しませたウォルト・ケリーの漫画のキャラクター「ポゴ・ポッサム」の懐かしい言葉を借りてこう言おう。「我々は敵に出会った、そしてそれは自分たちのことだった!」

※アリス・スレイター氏は、「ワールド・ビヨンド・ウォー」「宇宙の兵器利用と原子力に反対するグローバルネットワーク」の理事。「核時代平和財団」ニューヨーク支部長。(原文へ

INPS Japan

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ジンバブエ政府が政治的意識の高いアーティストを弾圧

【ハラレIDN=ファライ・ショーン・マティアシェ】

ジンバブエの重要な選挙が近づく中、エマーソン・ムナンガグワ政権は、有権者登録を促し政治腐敗に対して歌で対抗するよう呼びかけているミュージシャンらに対して、厳しい弾圧を進めている。

アフリカ南部に位置するジンバブエでは、この8月に総選挙が行われる予定だ。

与党「ジンバブエ・アフリカ国民同盟・愛国戦線」(ZANU-PF)を率いる現職のムナンガグワ氏が、野党「変化を求める市民連合」(CCC)のリーダーで、より若くカリスマ的人気を誇るネルソン・チャミサ氏を破って二期目の当選を狙っている。前回2018年選挙では、与党がCCCを辛うじて破った。

3月4日、ジンバブエで最も人気のあるレゲエ歌手、DJであるウィンキーDが首都ハラレから25キロ離れたチトゥングウィザで行ったパフォーマンスが、過剰反応を示した警察によって阻止された。

Map of Zimbabwe
Map of Zimbabwe

ワラス・チルミコを本名とするウィンキーDは、ショナ語で「呪い」を意味する「イボッツォ」という題名の曲を謳おうとした瞬間、警官によってステージから引きずり降ろされてしまった。昨年12月31日にリリースされ物議をかもしたアルバム「エウレカ」を共同制作した若いヒップホップ・アーティストのムクゼイ・チサマ(ホーリー・テンの名前で知られる)とコラボしてこの歌を歌おうとした瞬間の出来事だった。

この楽曲「イボッツォ」は、与党ZANU-PFの指導者らが政治腐敗を巡る問いを回避し、政治エリートによって民衆の資源が大量に簒奪されている状況を歌うものだ。

「ホーリー・テン」は3月に隣国南アフリカのライブで喜んでこの歌を歌っていた。

音楽批評家のマーシャル・ションハイ氏は、「ジンバブエのように立憲民主主義を規定し、人権が広範に認められた国において、ウィンキーDに起こったようなことが二度と起きてはなりません。と指摘した。

「表現の自由をはじめとする憲法上認められた権利の明確な侵害です。ウィンキーDはアーティストとして自分の考えを自由に、かつ検閲や差別なしに表明する権利があります。」とションハイ氏はIDNの取材に対して語った。

チトゥングウィザでのライブで大声を張り上げて歌っていた聴衆たちは、イボッツォを歌おうとした瞬間に警官がなだれ込んできたのを見て驚愕した。

アルバム「エウレカ」では、ウィンキーDが、エンゾー・イシャル、シンガイ、ハーマン、トッキー・バイブズ、フェイントフロー、アニタ・ジャクソン、キラーT、ムウェンジェ・マトレ、ナッティーOといった若いアーティストとコラボしている。

このアルバムには、政治腐敗から政府による権力の濫用、貧困問題など、さまざまな社会経済的問題を扱った歌が収録されている。

ウィンキーDの事務所はかつて、彼の歌は非政治的なものであり、ファンが勝手に解釈しているだけだと主張していた。

ブレイブマン・チズヴィノが本名である別のアーティスト、バーバ・ハラレが同じ時期にチトゥングウィザで行ったライブも警察によって禁止された。

現在の法では、秩序を保つためにイベントの主催者は事前に警察に公演の届け出をしなければならないことになっている。

バーバ・ハラレはソーシャルメディアで若者に有権者登録を呼びかけており、それが与党ZANU-PFによって目を付けられる原因になったのではないかというのが識者の見方だ。

与党は、失業率が高く経済不況の現状の中では多くの若者に有権者登録をしてほしくないと考えている。そうした状況にある若者たちは野党に投票する傾向があり、有権者登録を呼びかける者は必然的に野党CCCのシンパだとみなされることになる。

バーバ・ハラレは昨年、翌年の総選挙に向けた有権者登録をジンバブエ国民に呼びかけたことに関して、「私の最近のツイートは必ずしも明確な政治的意識に裏付けられたものではなかった。どちらかというと不満から出たものだ。もし状況に不満があるなら自ら動かないと、といつも言われていたからね。」と地元メディアに語っている。

ウィンキーDやその他のミュージシャンが、ジンバブエの貧困の状況を歌ったことで警察に弾圧されたのはこれが初めてではない。

昨年初め、クラブDJのリッキー・ファイヤー氏が、与党ZANU-PFの支持者とみられる人物にソーシャルメディア上で攻撃を受けた。2022年3月の地方選に向けて野党CCC候補者の集会で歌ったことが原因のようだ。

本名ツラニ・タカヴァダのリッキー・ファイヤー氏は野党のチャミサ候補を支持し、創設以来CCCを支援している。野党の象徴となる黄色の服を身にまとってすらいる。そのことがあって、殺害予告も絶えない。

オーストラリアを拠点に活動する歌手でプロデューサーのサニイ(本名ルンギサニ)・マクハリマ氏は、野党CCCを強烈に支持し、現職のムナンガグワ政権が公的な資源を大規模に収奪したと批判したことで、ネット上で何度も脅しを受けている。

マクハリマ氏は、次の大統領選・議会選において変革を起こすよう、若者の有権者に登録を呼びかけている。

ウィンキーDと彼のバンド「ビジランス」(注:「警戒」「監視」を意味する)のメンバー等は、与党ZANU-PFとの関係が疑われるなたで武装した集団によって、2018年のクリスマスイブに中部クウェクウェで襲撃された。ウィンキーDが、政治腐敗や悪化する医療部門、通貨危機について歌った「カソング・ケジェチャ」をリリースした直後のことだった。

与党ZANU-PFの指導者や支持者はその歌詞を気に入らず、国有ラジオは歌を放送することを拒否した。

2020年、警察はウィンキーDが首都ハラレで行おうとしたライブを中止させた。コロナ対策が名目とされたが、識者らによれば、同時期に別のアーティストがライブコンサートを許可されていることから、当局に標的となったとという。

2022年、ハラレ郊外の田園ボローデールで行われたウィンキーDのステージを警官らが妨害した。

ションハイ氏は、ウィンキーDへの攻撃は寛容のなさの表れだと考えている。「政党は、多様な見方に対して『寛容』な立場を取っているなどと、とりわけ選挙が近づいてくると主張しがちだが、それなのにそんなことが起こるとは驚きだ。異議申し立てをする者に冷たく当たるのが残念ながら今のジンバブエの状況です。」と語った。

ションハイ氏はまた、ウィンキーDの音楽はパワフルで、若者に力を与えているとみている。「彼の音楽のメッセージは、普通の人たちが日々格闘している日常の出来事に関係したものです。彼は人々がすでに経験していることを歌っているのです。」

「ジンバブエの危機連合」の広報オバート・マサローレ氏は、ウィンキーDの音楽はとりわけ若い市民の間の意識を高めたと指摘する。「ウィンキーは、若者を麻薬から引き離し、この国家的な危機の根本原因を真剣に考えさせるように仕向けているのです。」

「ケニアやナミビア、南アフリカにも同じような状況がありますが、これは、失業や貧困と闘う若者の運動を構築することにつながっていくと思います。この運動は現在の政権を引きずりおろし、大衆運動によって政権を倒す可能性を秘めています。」

メディア研究者のラザラス・サウティ氏は、「ジンバブエの選挙は数十年にわたって暴力にまみれてきました。野党支持で反政府的とみられるアーティストは標的にされてきたので、総選挙の数か月前という状況でウィンキーDに攻撃が仕掛けられたことは不思議ではありません。」とIDNの取材に対して語った。

「政府は、選挙結果に影響を及ぼすことを期待して有権者に脅しをかけようとしている。ウィンキーDのような社会問題に関わる音楽家を追放することでこれを成し遂げようとしているのです。」と、サウティ氏は付加えた。

ウィンキーDは、ハラレでアルバムを発表して間もなく、与党ZANU-PFに連なる音楽家や、「経済エンパワメント集団」のような若者運動からの批判に晒された。1月に会見を開いた彼らは、ウィンキーDの歌は「暴力を煽る」としてジンバブエ国内における彼のパフォーマンスを禁じるよう政府に要請した。

国営ジンバブエ放送は、ウィンキーDの音楽を禁止してはいないと明確にする声明を出さざるを得なかったほどだ。

ラッパーのアワ・キウェやクオンフューズド、バーバ・ハラレのようなその他のアーティストたちは、ソーシャルメディア上でウィンキーDを支持している。野党の指導者チャミサを含めた政治家の中にも、「アーティストの自由をはく奪するな」と政府に呼びかけている者もいる。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

ジンバブエ国民は、植民地時代からポスト植民地時代を通じて、音楽に政治的な意味を読み込んできた。植民地時代には、白人の少数派政府が、チムレンガ(解放)音楽の大物で政治的な意識が高かったトーマス・マプフーモ氏のような音楽家を弾圧する法律を用いてきた。

ジンバブエでは、ロバート・ムガベ期に独立を果たすと、レオナルド・ザカタ氏やマプフーモ氏、故オリバー・ムトゥクジ氏のようなジンバブエの伝説的な音楽家たちの音楽が、その政治的なメッセージゆえにラジオでの放送を禁じられてきた。

マプフーモ氏は2018年まで20年間にわたって米国で亡命生活を送ったが、ハラレでライブを行うために戻ってきた。

「(独立前の)ローデシア時代に存在したのと同じ抑圧的な検閲法が今日でもまだ存在します。多くのアーティストたちが検閲を受けていますが、現在のやり方は、公式に表立ってそれが行われるのではなく単に放送を禁じるという形になっていいます。」とションハイ氏は指摘した。(原文へ

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スーダンの紛争があなたのコカコーラに影響?

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

ニュース番組やラジオ放送で盛んに報道されているにもかかわらず、今世界中で起きている戦争は、ここニューヨークにいると、遠くかけ離れた出来事のように感じられる。音もなく戦争が続き、そうした紛争地では平和はほど遠いところにあるように思える。

Map of Sudan
Map of Sudan

このような状況の中で、戦争が私たちの身近に何かもたらす可能性はあるだろうか。

その答えは、意外にも “YES “である。

アフリカ北東部スーダンでの戦闘勃発を受け、国際的な消費財メーカーは、炭酸飲料からチューインガムや化粧品に至るまで、実にさまざまな商品の重要な原料であるアラビアガム(アカシア樹脂)の入手が先細りとなり緊急の対応に追われている。

アラビアガムの代替品はほとんどなく、世界的な供給の約70%は、アフリカ大陸で3番目に大きいスーダンに広がるサヘル地域のアカシアの木から産出する。だが、スーダンは現在分裂状態に陥り、4月中旬以降、国軍と準軍事組織の間で戦闘が発生している。

スーダンの政情不安を懸念して、アラビアガムに依存しているコカコーラやペプシコなどの飲料メーカーは、以前から供給難を避けるため、3~6カ月分相当の在庫を確保しているという。

An image of a Coca-Cola bottle, 0.2 L/ By Ralf Roletschek - Own work, Public Domain
An image of a Coca-Cola bottle, 0.2 L/ By Ralf Roletschek – Own work, Public Domain

スーダン内戦が今後どれほど続くかによるが、店頭に並ぶ完成品が不足する可能性は十分にある。現在の備蓄が5~6カ月で底をつく可能性さえある。

アラビアガムのグローバルな生産量は年間約12万トンで、11億ドル(約1510億円)に相当する。そしてその大半は、東アフリカから西アフリカへと500マイル(804キロメートル)に亘って広がる「ガムベルト」と呼ばれる地域のアカシアの木から産出し、スーダン産が最も良質なものとして取引されている。

ガム・アラビックUSAを経営するモハマド・アルノア氏は、現時点では、スーダンの農村地域からアラビアガムを追加調達することは、国内の混乱や道路封鎖のため「不可能」だと語った。同社はアラビアガムを健康サプリメント製品として消費者向けに販売している。

アラビアガムの輸出業者であるモハマド・ザラガ氏は、「アラビアガムと同じことができる原料は他に見当たりません。これまでにいろいろな人が代替原料を探しては試したが、成功していないのです。」と語った。(原文へ

解説:アラビアガムは、豆科アカシア属のアラビアゴムノキから採取した樹液を固形化したもので、優れた乳化特性や皮膜性をもつことから,増粘安定剤として古くから食品、霞薬品、工業製品等に利用されてきた。清涼飲料水メーカーにとって、アラビアガムが必須の原材料で、これがなければ、砂糖や香料、着色料などが分離・沈殿して透明な液体となり製品として成り立たなくなる。

INPS Japan

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宇宙空間における核軍拡競争の予防、ロシアの拒否権行使で頓挫か

【国連IPS=タリフ・ディーン】

日米両国が国連安全保障理事会(全15か国)に共同提出した宇宙空間に関する初の決議案が、ロシアの拒否権行使によって採択されなかった。これが宇宙空間における軍拡競争の先駆けになるのではないかとの観測が出てきている。

Randy Rydell/ UNODA
Randy Rydell/ UNODA

拒否権を行使された決議案は「核兵器やその他のあらゆる種類の大量破壊兵器を搭載した物体を宇宙空間に置くこと、天体にそのような兵器を設置すること、いかなる方法によってもそのような兵器を宇宙空間に配備することなど、1967年宇宙条約の規定を完全遵守する全ての国連加盟国の義務を確認するもの」であった。

平和首長会議」の顧問で、国連軍縮局の元幹部(政治問題担当)のランディ・ライデル氏はIPSの取材に対して、「国連安保理は軍縮問題に関して、ジュネーブ軍縮会議を苦しめたのと同種の問題、すなわち拒否権とジュネーブ軍縮会議の『全会一致原則』に悩まされてきました。残念なことに、宇宙空間に関する決議案に拒否権が発動されたのは驚くべきことではありません。」と語った。

「国際社会は軍縮に関して『法の支配』の危機に直面しています。主要な条約は普遍的な加入には程遠く、交渉に失敗して発効していません。また、加盟国による国内法制化の手続きも進まず、十分履行されず、中には脱退が相次ぐ条約もあります。」

「今回の投票結果に関わらず宇宙条約自体は存在し続けますが、すでに進行しつつある核軍拡競争が宇宙へと波及する恐れがあり、この懸念は、軍縮の将来だけでなく、私たちの脆弱な地球の平和と安全にも重大な影響を及ぼします。」とライデル氏は主張した。

UN Summit of the Future
UN Summit of the Future

「武力使用の威嚇を禁じ紛争を平和的に解決するという国連憲章の規範は、引き続き、私たちの目前で展開している危機に対する最も効果的な処方箋となりえます。これと、軍縮に『向けた』新たな方策のみならず、軍縮に『おける』方策を組み合わせることが重要です。9月に開催される国連総会の『未来サミット』が、これらの重大課題に対して新たな世界的コミットメントを再活性化させることを望みます。」とライデル氏は語った。

安保理は、賛成13・反対1(ロシア連邦)・棄権1(中国)で、先の決議案を否決した。常任理事国による反対票のための否決である。

米国・英国・フランスに加えて、非常任理事国全10か国(アルジェリア・エクアドル・ガイアナ・日本・マルタ・モザンビーク・韓国・シエラレオネ・スロベニア・スイス)が決議案に賛成した。

「西部諸州法律家財団」のジャクリーン・カバッソ事務局長は、「今回の決議案否決は、五大国の拒否権によって生まれた安保理の機能不全を示しているとしても、現在の地政学的な対立とプロバガンダの中では、評価するのが難しい。なぜなら、ロシアと中国はむしろ宇宙空間における軍拡競争の予防に関する包括的条約の協議入りを長らく支持してきており、2008年と14年には、今や機能不全に陥っているジュネーブ軍縮会議に条約案を提出しています。」と指摘した。

米国は、ブッシュ政権、オバマ政権のいずれの際にもこれらの決議案を否定している。こう語るカバッソ氏が事務局長を務める「西部諸州法律家財団」はカリフォルニア州に本部を置く非営利組織で、より公正で環境的に持続可能な世界を目指すための本質的なステップとして核兵器の廃絶が必要であると訴えている団体である。

ロシアは、4月24日のこの拒否権発動劇の翌週、日米提案より踏み込んだ内容の決議案を安保理に提出している。それは、宇宙空間に「常に」この種の兵器を配備することを禁止するだけではなく、「宇宙空間における武力の威嚇」すら禁止する内容であった。

この新決議案は、「宇宙から地上に対して、地上から宇宙空間の物体に対して」兵器の配備禁止を含んでいた。これは定義上、対衛星兵器も含まれることになる。

Jacqueline Cabasso, Executive Director, Western States Legal Foundation. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.
Jacqueline Cabasso, Executive Director, Western States Legal Foundation. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.

地上では新たな核軍拡競争が展開し、冷戦期の軍備管理枠組みが崩壊・解体しつつあり、核保有国間の戦争の危険性がおそらく史上最も高まっている現在、1981年の国連総会で認識されたように、「軍拡競争が宇宙空間に拡大する危険性が高まっている」と言えるだろう。

「私たちは世界的な緊急事態にあり、事態を鎮静化させ、核保有国間での外交的対話を開始するあらゆる努力がなされる必要があります。この目的のため、米国とその同盟国は、ロシアに(米国などが考えるところの)そのこけおどしを止めさせるように呼びかけ、むしろロシアが安保理に提出した新決議を歓迎すべきです。」と、カバッソ事務局長は訴えた。

米国代表は、投票後にコメントし、『国連ニュース』の報告によると、「ロシア連邦が世界的な不拡散体制を毀損するのは今回が初めてではない。ロシアは、危険な拡散者を擁護するのみならず、力づけてもきた。」と語った。さらに、投票を棄権した中国については、「世界の不拡散体制を守るのではなくロシアをジュニアパートナーとして擁護している。」と指摘した。また、「核兵器の宇宙軌道上への配備は前例がない。容認することができない、きわめて危険な行為だ。」と指摘したうえで、「今回の決議案にはさまざまな地域から65カ国の支持が得られており、全会一致を得るために日本が大いなる努力をしてくれた。」と語った。

日本代表は、「この歴史的な決議案の採択を阻むためにロシアが拒否権を行使したことはきわめて残念だ。」と語った。

UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri

決議案を支持した65カ国の共同提出国があったにも関わらず、わずか1つの常任理事国が「世界に私たちが送ろうとした重要なメッセージを打ち消してしまった。」と日本代表は強調し、「決議案は宇宙空間の平和的利用と探査に対する実践的な貢献となるはずだった。」と指摘した。

ロシア代表は、「安保理がまたしても『日米両国が仕掛けた汚らわしい見世物』になってしまった。これは皮肉な策略だ。私たちは罠にはめられた。」と主張した。

宇宙空間への大量破壊兵器配備禁止は既に1967年の宇宙条約で謳われていることだとロシア代表は述べ、米国や日本、その同盟国らは、その他すべての兵器の中から大量破壊兵器だけを「恣意的に取り上げ」、宇宙空間からすべての兵器を排除しようとの提案に「何の関心もないことをごまかそうとしている。」と語った。

ロシア連邦と中国が提出した決議案の本文に付記した部分では、大量破壊兵器の開発禁止と宇宙空間への配備禁止を削除していない、とロシア代表は強調した。

他方で、カバッソ事務局長は、国連総会が1967年に採択した宇宙条約の第4条では、「地球周辺の軌道に核兵器あるいはその他のあらゆる種類の大量破壊兵器を搭載した物体を置くこと、そうした兵器を天体に設置すること、そのような兵器をいかなる方法においても宇宙空間に配備すること」を禁止している、と説明した。

にもかかわらず、国連年鑑によれば、1981年までに一部の加盟国が「科学技術の急速な発展によって軍拡競争が宇宙空間に波及する危険性が迫っており、新たな種類の兵器開発が国際協定の存在にも関わらず続けられている」ことへの懸念を示していたという。

ジョン・プランブ米国防次官補(宇宙政策担当)は下院軍事小委員会で5月1日に開催された公聴会で「ロシアは開発を続けており、もしロシアを説得できないようであれば、軍事・民間・商業衛星を区別できない無差別的兵器である核兵器を宇宙で飛翔させることが最終的には可能になってしまう。」と証言した。

「2月、ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアは宇宙空間に核兵器を配備する意図はないと主張していました。従って、ロシアが宇宙空間における軍拡競争の禁止を呼びかけた安保理決議案に4月24日に拒否権を発動したことは困惑を招いています。」と、カバッソ事務局長は語った。

UNSC/ UN photo
UNSC/ UN photo

日米両国が提出した同決議案は、核兵器あるいはその他あらゆる種類の大量破壊兵器を宇宙空間に配備しない条項を含め、宇宙条約を完全遵守するようすべての国連加盟国に求めることを確認する内容だった。中国は採択を棄権した。

決議案が採択される前、ロシアと中国は、決議案の内容を強化する修正案を提示していた。すなわち、核兵器・生物兵器・化学兵器を禁止するだけではなく、「宇宙空間に兵器を配備することや、宇宙空間において武力使用の威嚇を行うことを常に予防する」ことを求めた。しかし、カバッソ事務局長によれば、この修正案は否決された。(原文へ

INPS Japan

This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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王室の戴冠式で鳴り響く新たなメッセージ: 「私の王ではない」

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

華やかな演出、トランペットのファンファーレ、銃礼で盛大に執り行なわれた英国王チャールズ3世とカミラ王妃の戴冠式には、ウエストミンスター寺院に参列した王室関係者や招待客のほか、ロンドン市民や世界各地から参集した観光客が会場周辺の沿道を埋め尽くした。

1760年に作られた金色に輝く王室専用馬車(ゴールド・ステート・コーチ)は、戴冠した王族をバッキンガム宮殿に運ぶために用意されたものだ。

Coronation Procession at the Coronation of Charles III and Camilla/ By Katie Chan - Own work, CC BY-SA 4.0
Coronation Procession at the Coronation of Charles III and Camilla/ By Katie Chan – Own work, CC BY-SA 4.0

しかし、今日の観衆は、70年前のエリザベス二世の戴冠式に参集した300万人を数えた往時の帝国の臣民とは様変わりしている。例えば、沿道の群衆の中に「私の王ではない」と書かれた垂幕を掲げる人々の姿に、どれだけ変わったかを見てとることができるだろう。

「英国社会は大きく変貌しました。王室は、今日私たちが暮らす社会を代表するものではありません。」と、記者のリズ・ステファンズは語った。

「多くの国民が経済的に苦しんでいるときに、豪華な戴冠式が行われています。これは、恥ずべきことだと思います。この国は混乱しているのに、戴冠式に何百万ドルも使うなんて……」と、ある抗議者は付け加えた。

王室の戴冠式では、国民は国王への忠誠を誓うよう求められる。しかし、王室が、かつての植民地主義や多くの旧植民地で未だに根強いLGBTQ+法が大英帝国時代に遡るイメージなどから、王政そのものに別れを告げたいと考えている人々も少なくない。

1952年、エリザベス女王の即位に伴い、イギリス軍はケニアに非常事態を宣言した。当時、ケニアを含む世界各地の植民地で独立運動が活発化しており、大英帝国は縮小傾向にあった。

当時ケニアでは、後のケニア独立に繋がる重要な要素となる通称「マウマウ団」と呼ばれるケニア土地自由軍が、過激な民族主義的独立運動を展開していた。

これに対し植民地政府は、イギリス本国から派遣された正規軍5万人、戦車、爆撃機などを投入してナイロビで2万7千人、農村で107万人の反乱支持者を逮捕した。また、この反乱によるマウマウ側の死者数は、11503人だった。また、ゲリラからの隔離政策で環境劣悪な収容所に送られて死亡したキクユ族は2万人程度に上ると見られている。

Troops of the King's African Rifles carry supplies while on watch for Mau Mau fighters./ By Ministry of Defence POST-1945 OFFICIAL COLLECTION, Public Domain
Troops of the King’s African Rifles carry supplies while on watch for Mau Mau fighters./ By Ministry of Defence POST-1945 OFFICIAL COLLECTION, Public Domain

多くの人々にとって、英国王室はこうした植民地支配の記憶と結びついている。彼らからすれば、王室は帝国を支配し、帝国から多大な利益を得ており、それに加担していたと見做されているのである。

チャールズ3世の戴冠式は、こうした歴史を直視し、王制の存続の是非を考える絶好の機会であると考えている人は少なくない。

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのジェレマイア・ガーシャ助教授は、「2023年は、新しい英国に王政の居場所はもうないと振り返る分岐点になると思います。」と語った。

南アフリカ大学(UNISA)のアフリカ政治学教授であるキャーレボーハ ・マフンイェ氏は、「私たち南ア人にとって、英王室の戴冠式は、特に興奮したり喜んだりするようなことではありません。むしろ、この国が今も、大英帝国の植民地時代の遺産を引きずっていることを考えれば悲しむべきことなのです。」

「今回の戴冠式でも、英国王が南アフリカから持ち去られた世界最大のダイヤモンド『アフリカの星』をはめ込んだ王笏を使用すると聞いています。とても、私たちが興奮したり喜んだりできるものではありません。」

南アフリカの活動家たちは、英国政府に対して、ロンドン塔に他の宝石とともに保管されている「アフリカの星」を返還するよう要求している。

ヨハネスブルグのモハメド・アリ氏は、「彼ら(=英国人や旧宗主国の人々)は今日私たちを第三世界の人間と言及します。しかしアフリカの大半の国々は、植民地主義者が略奪した鉱物資源のために貧しくなったのです。彼らは私たちのおかげで豊かになったのですから、略奪したものを返還すべきです。」と語った。

引退したジャーナリスト、ビクター・イゼコール氏は、ナイジェリア南部のベニン王国に英国が侵攻し、美術品を持ち去ったことを非難している。「英国人は自国の伝統を愛していますが、一方で、私たちの伝統を破壊するためにやってきたのです。」と語った。

かつて大英帝国が植民地支配した領域を中心に構成された国家群である英連邦諸国は、この戴冠式をせいぜい無関心で見ている。「国王チャールズ3世は、国民から奪われた富の返還を含めて植民地支配がもたらした被害の修復を始めるべきです。」と、オーストラリアのリディア・ソープ上院議員は語った。(原文へ

INPS Japan

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COP27におけるインド: 中心的役割を果たしたか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ロバート・ミゾ 

気候変動に関する国際交渉においてインドが重要なアクターであることは、近頃シャルム・エル・シェイクで開催された条約締約国会議(COP)27で如実に示された。2015年のパリ協定で約束したことを達成するため、締約国間の新たな連帯を追求するサミットで、インドは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国としてきっぱりと主張しつつも、協調的な姿勢を見せた。気候変動はすべての国の協調的努力によってのみ対処できるという普遍的合意はあるものの、平等、正義、公正にかかわる問題は依然として波乱含みである。シャルム・エル・シェイクにおけるインドの大きな貢献は、これらの問題への対処に関係する。(

インドは、同国がグローバルな正義や平等という根本的問題に引き続き取り組んでいくことを十分に明らかにしたうえで、サミットのカバーテキストにおいて「主要排出国」や「上位排出国」といった言葉を使用することには反対した。このような言葉は、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるために、歴史的に気候変動の原因となってきた富裕国だけでなく、インドと中国を含むすべての上位排出国が厳しい排出量削減を行わなければならないという含みを持つ。COP27でインド代表団を率いたブペンドラ・ヤーダブ環境・森林・気候変動大臣は、これを「共通だが差異のある責任と各国の能力(CBDR-RC)」という原則を損なおうとする試みと見た。インドは、歴史的に気候変動の原因を作った国々とひとくくりにされることなど到底受け入れられず、そのような試みに対しては、条約の衡平原則に基づいて抵抗することを明確に表明してきた。

さらにインドの交渉担当者らは、エネルギー使用量、排出量、所得の明らかな格差が各国間にあり、この世界が依然として不公平である遺憾な事実を強調した。そのためインドは、貧困国が気候変動の影響に対処するとともに、各国の能力に応じた排出量削減の実施に同意できるよう、気候資金の強化を強く求めた。インドは、国のゼロエミッション計画(達成目標は2070年まで)や国が決定する貢献(NDC)に基づく他の排出量削減プログラムとは別に、低排出開発経路に移行するための主な戦略を提示する長期低排出開発戦略(LT LEDS)を、国連気候変動枠組条約に提出した。インドの低炭素開発戦略は「世界の炭素収支の公平かつ公正な割り当てを受ける権利」という観点から考えなければならないと、ヤーダブ大臣は強調した。文書では、インドがその計画を実施するためには2050年までに何十兆ドルもの資金が必要であるという重要な点が指摘されている。また、「先進国による気候資金の提供は非常に重要な役割を果たすものであり、助成金や無利子融資の形で大幅に強化し、UNFCCCの原則に従って、主に公的資金を財源として、規模、範囲、スピードを確保する必要がある」と記載されている。

さらにインドは、気候資金に関するサミットでの議論を他国とともに主導した。これは、先進国が2020年までに年間1,000億米ドルを拠出するというパリ協定での約束が達成されなかったことを踏まえると、サミットの議題のきわめて重要な要素であった。インドは、気候資金の定義に関する多国間の合意を形成しようとするなかで、「融資」は貧困国や途上国にさらなる負債を負わせるため、気候資金と認めるわけにはいかず、「助成金または無利子の」資金提供が望ましいとした。そのためインドは、他の途上国とともに、富裕国が新たな世界規模の気候資金目標、すなわち気候資金に関する新規合同数値目標(NCQG)に同意するべきであり、それは気候変動の激化に対処し適応するためのコストとして何兆米ドル単位であるべきだと主張した。会議の最終文書にNCQGへの言及はなかったものの、シャルム・エル・シェイク実施計画では、「先進国や他の資金源による途上国への資金援助を加速することは、緩和策を強化し、資金調達の不平等を解消するために極めて重要である」と強調されている。

インドは、最も脆弱な国々に対して気候変動により被った損害を補償するための「損失と損害」基金(L&D)の設立を歓迎した。基金は、より貧しい国々、特に小島嶼国のニーズを明確に示し、当然ながらCOP27における歴史的進展として賞賛された。資金の管理、拠出者、拠出比率に関する重要な詳細は、今後「多国籍委員会」によって概略が策定され来年のCOP28で提出され、採択されることになっている。ただし、インドのブペンドラ・ヤーダブ環境大臣は、インドは提言される資金を拠出する責任はなく、むしろ気候変動の影響に対処するために資金提供を受ける権利を主張することを明確にした。そのような基金を設立する合意がなされたことは、気候正義の達成に向けた長い旅路における適切な一歩と見なされる。

セメント、肥料、鉄鋼といった炭素集約型の製品に2026年以降課税する、炭素国境調整メカニズムをEUが提案したのに対し、インドは他のBRICS諸国とともに反対した。インドとBRICS同盟国は、そのような税は市場の歪みをもたらし、当事国間の信頼の欠如を悪化させる恐れがあり、回避しなければならないと主張した。このグループは、先進国と途上国の貿易収支の問題をもたらすとして、差別的かつ不公平な市場の‘‘解決策”に反対している。彼らはむしろ、先進国が資金提供と排出量削減の公約を実行することによって、リーダーシップを示すべきだと主張している。これは、気候緩和の負担を不釣り合いに、また不当に負わされる国がないようにすることで、平衡性の原則を守ろうとする努力である。

化石燃料の使用を削減する努力について、インドは、石炭だけでなく「全ての化石燃料」の使用を段階的に廃止するという提案を繰り返した。このような立場の根拠は、石油や天然ガスのような石炭以外の燃料も温室効果ガスの原因となっており、したがって、2021年のグラスゴーCOPでEUが支持した石炭の段階的廃止案と同等に、段階的に廃止しなければならないというものである。しかし、インドは電力需要を満たすために石炭に大きく依存していることから、これはインドの外交的駆け引きと見なされた。そのため、「全ての化石燃料の段階的廃止」案は米国とサウジアラビアを中心とする石油・ガス産出国の抵抗にあい、文言は「石炭の段階的廃止」となったのである。

インドはCOP27において、積極的かつ影響力のある締約国として、解決策を見いだす責務を果たすとともに、途上国および低開発国の利益を守るために断固とした姿勢を見せた。インドは、気候危機の被害者であって加害者ではない世界の人口の「多く」の利益を代表した。気候変動に関する将来の国際交渉におけるインドの役割と貢献は、この国が大切にする価値観、すなわち、平等、公正、世界的正義に今後も基づくものとなるだろう。

ロバート・ミゾは、デリー大学政治学部助教授(政治学、国際関係論)。気候変動政策研究で博士号を取得した。研究テーマは、気候変動と安全保障、気候変動政治学、国際環境政治学などである。上記テーマについて、国内外の論壇で出版および発表を行っている。

INPS Japan

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カリブ海地域の観光業に脅威を与える気候変動

【ポートオブスペイン(トリニダード)IDN=リンダ・ハッチンソン=ジャファール】

太陽の降り注ぐ浜辺や静かな水辺、活気のある文化で知られる人気の観光地・カリブ海地域が、気候変動の破壊的な影響によって厳しい現実に直面している。

カリブ地域の島嶼諸国にとって観光業は経済上の命綱であるが、地球温暖化によって地域の繊細な生態系が崩れ、インフラや地域の生活に影響を与える中で、存続の危機に立たされている。

海面上昇、嵐の激化、サンゴ礁の劣化など、カリブ海観光の未来は危機に瀕しており、この愛された観光地を守るために、緊急の行動と対策が必要だ。

Map of the Caribbean
Map of the Caribbean

「カリブ海ホテル観光協会」のニコラ・マデン=クレイグ協会長は、IDNの取材に対して、「観光業はカリブ地域の主要な経済牽引役であり、この地域は世界からの観光客に依存しています。気候変動による観光業の衰退は経済全体を荒廃させ、農業、製造業、運輸業、クリエイティブ産業などの他の部門に直接の影響を与えます。」と語った。

2019年、世界で最も観光依存度の高い10カ国のうち、8カ国がカリブ海地域にあった。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、2010年から19年にかけて、地域経済全体の年成長率1.3%に対して観光業の成長率は3%と上回っていたが、世界全体の観光業の伸びである4.2%は下回っていた。

WTTCの現在の成長軌道では、今後10年間で、カリブ海地域の旅行・観光(T&T)GDPは平均で年5.5%伸び、経済全体の成長率2.4%の倍以上になると予測されている。業界の雇用は平均年3.3%増え、2032年までに91万6000人の雇用が創出されると予想されている。

国際労働機関(ILO)の推計によると、観光業は平均して国内総生産(GDP)の33%、輸出額の52%、間接・直接雇用の43%以上に直接寄与している。アンティグア・バーブーダのような観光依存度の高い国では、雇用の最大で9割に達することもある。2021年、観光業はカリブ地域に390億ドル以上をもたらし、「Statista」によるとドミニカ共和国とキューバが最も寄与度が高いという。

マデン=クレイグ協会長は、海水面が上昇し、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の2018年報告で警告的な予想がなされているとおり厳しい脅威が生じている、との見方を示した。IPCC報告は、地球温暖化が1.5度進行すれば、世界のサンゴ礁の7割から9割が消滅することになると予想している。「天然資源や食料供給に大きく依存するカリブ地域の観光業にとっては破滅的事態です。温暖効果ガスを削減する大胆な策がとられなければ、2030年代初頭までに世界のサンゴ礁の99%を熱波が襲って回復不可能になる。」とマデン=グレイグ協会長は警告した。

カリブ観光機関(CTO)のニール・ウォルターズ事務局長代理は、「気候変動が観光産業の質と安定性を脅かすため、観光産業の対応を管理し、気候変動の環境上の影響を緩和していく取り組みが求められています。しかし、観光産業だけで気候変動という難題に対処することはできず、より広範な国際的な持続可能な開発アジェンダの文脈の中で取り組む必要があることは明らかです。」と語った。

COP 26 Logo
COP 26 Logo

カリブのオランダ語圏、英語圏、フランス語圏、スペイン語圏の国や地域の諸政府や非政府の観光関係団体が加盟しているCTOは、CHTAや「持続可能な観光をめざすカリブ同盟」(CAST)と並んで、「観光業における気候関連アクションを求めるグラスゴー宣言」に署名している。2021年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で出されたこの宣言は、観光業における気候関連アクションを促進するためにすべての観光業関係者によってなされた公約である。

ウォルターズ事務局長代理は、「グラスゴー宣言は、観光産業に関連するステークホルダー間の連携と協力を強調しており、観光業の気候変動対策を管理し、影響の緩和と適応策の促進・教育・意識喚起にむけたパートナーシップを構築するCTO戦略との連携を目指したものです。」と語った。

クレイグ協会長は、「カリブ地域はパリ協定グラスゴー気候合意の策定・批准に重要な役割を果たしてきました。」と指摘した上で、「CHTAとCASTは支持を強化し、地域の20カ国以上が世界的に活動を促進するのを支援してきました。カリブ地域は気候変動に対して最も脆弱な地域の一つであり、世界の模範となって積極的に対策を訴えていかねばなりません。」と語った。

CTOは地域レベルで、気候変動(Climate Variability and Climate Change, CVC)に関する知識や意識を高めたり、その対応策をつくる能力を構築したり、政策決定の参考にしたり、気候変動の影響緩和の実践例を広めたりする様々なプロジェクトや取り組みを行ってきている。

セントルシアにある「フォンドゥー・エコリゾート」のオーナー兼CEOは、「観光業は、省エネルギーや水の節約、廃棄物の削減などの持続可能な取り組みを行うことによって気候変動に対処する上で重要な役割を果たすことができます。」と語った。そうした行動をとることで、経費節減や資源利用の効率化、市場競争力の強化につながるなどのメリットがある。

また、「再生可能エネルギーやエネルギー効率への投資、持続可能な観光の推進、気候変動に対する国民の意識の向上などへの政治的意志は強いといえるでしょう。しかし、この問題に包括的に取り組むには、より多くの資源が必要です。最も効果的な戦略は、環境の持続可能性と経済性のバランスをとり、ビジネスの競争力と収益性を確保することです。」と語った。

気候変動はすでにカリブ海地域の観光に大きな影響を及ぼしており、観光客が体験するために訪れるインフラやアトラクション、そして観光産業を支える天然資源の双方に影響を与えている。気候変動は、海水温の上昇に伴い、ハリケーンなどの気象現象がより頻繁に発生し、深刻な事態を引き起こす原因であるとされている。

Hurricane Maria near peak intensity, moving north towards Puerto Rico, on September 19, 2017./ The Naval Research Laboratory/ NOAA – Public Domain
Hurricane Maria near peak intensity, moving north towards Puerto Rico, on September 19, 2017./ The Naval Research Laboratory/ NOAA – Public Domain

「ネイチャーアイランド」の観光地として宣伝している東カリブ海の小さな島、ドミニカ国は、近年、強力なハリケーンの被害を受けてきた。2017年9月に襲来したハリケーン「マリア」は島の建造物の9割以上を破壊し、経済に深刻な影響を与えた。世界銀行がGDPの224%と推定したドミニカ国の損失には、熱帯雨林や観光業への被害も含まれており、損害全体の19%を占めていた。

ドミニカ国はこれに対処するために、部門横断的な取り組みを行う「ドミニカ気候強靭化庁」(CREAD)を設置して世界初の「ハリケーン耐久国家」作りを進めている。その一つが、零細・中小企業の活性化で、業績評価・改善のための分析ツールの提供、資金調達の促進、能力開発のための支援などを行っている。

2018年、カリブ海地域を干ばつが襲った。ジャマイカ、バルバドス、トリニダード・トバゴといった国々で農業や水供給が影響を受けたが、気候変動による気象パターンの変化が原因だと見られている。2019年、バハマをカテゴリー5のハリケーン「ドリアン」が襲い、広範な被害と人命の損失をもたらした。大西洋で記録されている最も大型のハリケーンの一つだとされている。

カリブ諸国とホテル業界は、気候変動がエネルギーの大量消費地である観光産業に与える影響に対処するための措置を講じている。この地域の主要な観光グループ企業であるサンダルズ・リゾート・インターナショナルは、リゾートでのソーラーパネルや太陽熱温水システムの使用など、持続可能な実践を通じて化石燃料への依存を減らす取り組みを行っている。

同グループ系の慈善団体であるサンダルズ財団は、保全の取り組みで10万人を訓練し、サンゴを3万本植える目標を2009年に立てた。2022年までに11万4000匹のウミガメの安全な孵化を監督し、28.6トンのごみを集め、海洋資源保全のために5万5000人を訓練した。財団のあらたな目標は、さらにウミガメ2万匹を安全に孵化させることと、最大で2000カ所のサンゴ礁復活のためにサンゴを植えることである。

カリブ海地域ではまた、気候変動に対して脆弱な単一の型の観光アトラクションへの依存をやめる方策も取りつつある。

「地域密着型観光の推進、自然・文化資源保護の取り組み、使い捨てプラスチックの禁止、省エネ・水の節約の推進、陸生・水生生物の保護など、地域の観光を多様化することで、観光産業による炭素排出の抑制に寄与し、これが単に気候にやさしいだけではなく、場合によっては利益を生むことも証明してきました。」とウォルターズ事務局長代理は語った。(原文へ

INPS Japan

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アゼルバイジャンのシュシャで「カリ・ブルブル」国際音楽祭が開幕

テュルク系民族の人口を持つ国々は国際文化組織を通じて毎年、「テュルク世界の文化的首都」を定め、都市を選ぶ。選ばれた都市は、テュルク文化を祝うために多くのイベントを主催している。今年の文化首都はアゼルバイジャンの古都シュシャ。ここにユーラシア各地のテュルク系共和国から芸術家が集まり平和と文化の祭典が催されている。(INPS Japan)

【バクーAzVision】

ヘイダル・アリエフ財団とアゼルバイジャン文化省が共催する「カリ・ブルブル」国際音楽祭が、アゼルバイジャンの文化首都シュシャで5月9日に開幕した。

フェスティバル初日には、カラバフホテルの屋外で、参加国の工芸品や民族料理の紹介や演奏が行われた。

同国の政府関係者、著名な文化人、芸術家、科学者たちは、そのパフォーマンスとプレゼンテーションに深い感銘を受けた。

発表に続いて、「カリ・ブルブル」国際音楽祭の一環としてシュシャ国立音楽劇団が準備した劇「デリ・ドムルル」の初演が、カラバフ最後のハーンの娘でアゼルバイジャンで最も著名な抒情詩人クルシュドバヌ・ナタバンの家の中庭で行われた。

3日間のフェスティバルでは、「国旗」「英雄」「カラバフのマジリス」「詩」「ダダ・ゴルグド」「ダルヴィーシュ」「モッラー・ナスレッディン」のテーマコーナーで様々な芸術パフォーマンスや演劇が開催される予定だ。

フェスティバルでは、ジディル・ドゥズ平原ウゼイル・ハジベヨフ像前、国民的歌手ブルブルの生家博物館をはじめ、シュシャ市内各所で様々なコンサートプログラム、展示、映画上映が行われる予定だ。

シュシャ市は、テュルク文化国際機関(TURKSOY)により「2023年テュルク世界の文化的首都」に認定されている。今年の「カリ・ブルブル」国際音楽祭では、TURKSOY加盟国、トルコ語圏の国々の舞台芸術家らが一堂に会す。

アゼルバイジャンのほか、カザフスタン、キルギス、ハンガリー、モルドバ共和国ガガウズ自治区、ウズベキスタン、カラカルパクスタン共和国アルタイ共和国ハカス共和国、サハ共和国、タタールスタン共和国トゥバ共和国北キプロス、トルクメニスタンの演奏家・演奏者が、このフェスティバルで演奏している。(原文へ

The “Kharibulbul” International Music Festival. Photo: AZVision.
The “Kharibulbul” International Music Festival. Photo: AZVision.
The “Kharibulbul” International Music Festival6
The “Kharibulbul” International Music Festival6
The “Kharibulbul” International Music Festival6
The “Kharibulbul” International Music Festival6

INPS Japan/AzVision

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