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|視点|平和と調和は独立の基礎(アイダール・サディルバエフ アバイ州社会開発局長)

【セメイINPS Japan=アイダール・サディルバエフ】

昨年、中央アジアのカザフスタン共和国の首都アスタナで「第7回世界伝統宗教指導者会議」が開催されました。わが国がこのような国際的なイベントを主催することは光栄なことであると思います。カザフスタンがこのフォーラムを率先して開催したことは、決して無意味なことではありません。なぜなら、カザフの地は何世紀にもわたって西洋と東洋を結ぶ架け橋となってきたからです。かつてこの地には、いくつもの巨大な遊牧文明が繁栄しましたが、そのすべてに共通する特徴は諸宗教に対する寛容さでした。

Ethnic Diversity in Kazakhstan/ Astana Times
Ethnic Diversity in Kazakhstan/ The Astana Times

現在、カザフスタンには100を超える民族が相互理解と調和のもとで暮らし、18の宗派からなる約4000の宗教団体が、自由に活動しています。これらはすべて、わが国の平和と民族の団結の結果であると信じています。

このような広範な諸宗教対話の経験は、精神的指導者たちに、さまざまな平和への取り組みを積極的に推進する力を与えています。今日、世界各地で起こっている敵対行為や戦争を止めることは非常に重要です。

宗教指導者は、人々を平和に導き世界に慈悲と正義をもたらす存在です。今日、世界はこれまでにない創造的な活動を必要としています。私たちは皆、新しい国際安全保障システムを構築するために、平和のための新たな世界的な行動を必要としています。この問題においては、精神的な指導者の役割が非常に重要です。

デジタルテクノロジーの時代には、意見の対立が増大し、仮想世界が現実世界に取って代わり始めました。したがって、精神的価値観と道徳的資質の問題は議題に戻されるべきです。

Photo: Pope Francis delivering his inaugural keynote speech at the Seventh Congress of Leaders of World and Traditional Religions in the Kazakh capital on September 14. Credit: Katsuhiro Asagiri | INPS-IDN Multimedia Director
Photo: Pope Francis delivering his inaugural keynote speech at the Seventh Congress of Leaders of World and Traditional Religions in the Kazakh capital on September 14. Credit: Katsuhiro Asagiri | INPS-IDN Multimedia Director

宗教は、あらゆる時代において、主要な教育機能を果たしてきました。聖典は、ヒューマニズム、慈悲、慈愛の思想を促進します。また、寛容と自制を呼びかけています。現代では、宗教指導者の最高の使命は、人々に優しさと正義を呼び起こすことです。(原文へ

アイダール・サディルバエフはカザフスタン共和国アバイ州政府の社会開発局長。前セメイ副市長。

創価学会インタナショナル(SGI)がセメイを訪問した際に、サディルバエフ副市長がセメイ空港で出迎え、市長との面談や旧セミパラチンスク核実験場や平和公園等の視察をアレンジした。
第6回世界伝統宗教指導者会議

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ミッシングリンク – 太平洋先住民の気候知識

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タフエ・M・ルサマ】

世界における気候変動の論調は、主にヨーロッパ中心の哲学、枠組み、概念によって形成されている。ほとんどの場合、適応と緩和対策は太平洋地域の外で策定され、それらが太平洋島嶼国にとって最善の解決策であるという前提のもとに太平洋地域において試行され、そして実施される。草の根レベルで確かに存在する先住民の知識が考慮されることはない。

このようなアプローチの例として、キリバスやツバルのような国々に導入されたタイプの防波堤がある。これは失敗だった。というのも、ひとえに費用がかかり過ぎ、また材料が国外から持ち込まれるからである。(

支配的な欧州中心の視点とは対照的に、太平洋神学大学(PTC)は、気候変動を太平洋の文脈で理解するために、太平洋先住民コミュニティーの哲学、枠組み、概念を取り入れる試みとして、「気候に関する先住民知識研究所(Institute for Climate Indigenous Knowledge:ICIK)」を設立した。同時に、研究所は若い世代の人々に、気候変動の解決策を求めて外(外国の哲学や神学)に目を向けるより、内(自分たちの哲学、精神性、世界観)に目を向けるよう教育することを目的としている。

太平洋先住民は、世界中の他の先住民コミュニティーと同様、自分たちの哲学や精神性を生かしながら、外国の哲学に依存することなく、何世紀にもわたって持続し存続してきた。彼らは、土着の科学的知識を生かして、多くの環境問題を乗り越えてきた。先住民の知識は、狩猟、漁労、植物栽培、航海術、建築、芸術、治療など、多岐にわたる技術を生み出す。そこには通常、ホリスティックな価値観が包含されているため、環境に影響を及ぼす可能性のある行為に関し、長期的に見た費用と便益について比較検討する機会が生まれる。

このような太平洋の関係性の中に、ICIKは自らを次のように位置付けている。

  1. 「生命全体」(訳者注=人間も自然という大きな生命体の一部であるという世界観)という太平洋的な新しい気候意識の形成に重点を置く。
  2. 太平洋コミュニティーのレジリエンスと先住民の気候知識に関する「生命全体」的研究を開発する。
  3. 太平洋コミュニティーに今も息づく気候をめぐる先住民の精神的伝統を気候政策に反映することに影響力を発揮する。
  4. 生命を肯定する信仰と先住民の知識に基づく教育的訓練、刊行物、会議を開発する。
  5. 先住民の若い環境活動家が、コミュニティーを基盤とする気候正義のアプローチを策定できるよう手助けする。
  6. 国内、地域、世界の気候関係者との有意義なパートナーシップと関係構築に関与する。

これらの目標を追求することによって、ICIKは、気候移住と適応の取り組みや対策の枠組み策定に当たって先住民の気候知識や理解に対する認識を高めることに寄与する。ICIKは、コミュニティーに存在する先住民の気候知識に関する調査研究を行う。例えば、地元先住民の専門家による研究成果を検証するために重要なセミナーやワークショップの実施、研究成果を共有・公表する会議の開催、太平洋地域各国の政策立案者に向けた提案を行う資料を発表することである。

現在の主流をなす気候変動の論調に欠けているものは、気候に関する先住民の知識と理解である。それらが議論に組み込まれるだけでなく、国、地域、世界の気候政策に意味のある影響を与えることができるようなプロセスを開始することが不可欠である。ローカルな先住民コミュニティーは国際的な気候議論に参加し、さらには彼ら先住民の気候知識に根差した解決策を策定することである。

太平洋神学大学(PTC)の「生命全体」というビジョンは、変革的プログラムを生み出すことを目的としている。それはコミュニティーを基盤とし、コミュニティーの特徴を反映し、草の根の地元地域が持つ生態系に関する知識、信仰、精神性に根差したプログラムである。このビジョンは、「生命全体」を神学、教育、開発、教会の務めの中心に置いて、生命を肯定する哲学、価値観、ベストプラクティスに基づいた、持続可能な太平洋のやり方を構築する助けとなる。何世紀にもわたって太平洋のコミュニティーにおける開発を形作ってきた破壊的な植民地主義的価値体系による約束に対し、取って代わるものを提供することを目指すビジョンである。

現在、太平洋の視点で捉え直した開発戦略では、開発において「文化と人々」が持つ意義を認識することに重点が置かれているが、コミュニティーとその知識体系を中心に据えない限り、それだけでは不十分である。「生命全体」のアプローチに伴う変革は、太平洋的な「神の家族」とその「生命全体」的構造の破壊を促した既存のイデオロギー的、哲学的な開発原理を再考し、解体することによって、教会、政府、より広範な太平洋のコミュニティーが改革的な変化をもたらす一助となることを目指している。

この変革の一環として、太平洋の人々が環境をより良く管理し、共有する太平洋の伝統を保護するのに役立つ、安価で持続可能な実用的方法やアプローチをを確立する新たな意識の確立や解放の道筋の開くことが求められる。

タフエ・M・ルサマ牧師(博士)(Rev. Dr. Tafue M Lusama)は、フィジー共和国スバの太平洋神学大学で気候変動担当者(Climate Change Officer)を務めている。また、ツバル・キリスト教会の牧師である。

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崩壊の危機にあるスリランカの医療制度

【コロンボIDN=ヘマリ・ウィジェラスナ】

かつて南アジアで憧れの的であったスリランカの無償医療サービスが、現在の経済危機に直面して崩壊寸前にある。医薬品の不足、医師の流出、公務員の医師を60歳で引退させようとする政府の頑なな方針などが背景にある。

政府医療従事者協会(GMOA)によると、同国の公立病院のほとんどで90種以上の基本的な医薬品が不足しているという。

GMOAの事務局長であるハリサ・アルトゥゲ博士は、「この国の医療ネットワークが医薬品不足のために崩壊してしまう危険がある。」とIDNの取材に対して語った。「現在の医薬品不足は慢性的に生じている。コロンボの分院でも、パラセタモールやピリントン、サリヴェといった基本的な薬が足りない。」脳卒中を予防するアスピリンのような緊急の薬品も、同国最大の病院であるコロンボ総合病院においてすら不足している。

スリランカの医療サービスを脅かすもう一つの大きな要因は、専門医の不足である。経済危機により、医師の国外流出が相次いでいる。一方、公務員を60歳で定年退職させるという政府の政策も、この問題に拍車をかけている。

専門医やその他の医師の流出が相次いだことで、アヌラダプラ病院の児童病棟は最近閉鎖に追い込まれた。病院関係者によると、同病院には同時に60人の患者を収容する施設があるが、病院関係者によると、アヌラダプラ教育病院の医師9人(うち小児科医4人)が離職している。子供たちを治療する医師がいないため、当時そこにいた患者たちは他の病棟に移らざるを得なかった。

Various pills/ By MorgueFile : see [1], CC BY-SA 3.0
Various pills/ By MorgueFile : see [1], CC BY-SA 3.0

児童病棟の閉鎖に伴って、ラジャラサ大学の医学生たちが訓練を受ける機会も失われた。同病院のドゥラン・サマラウィーラ病院長は、「医師はいなくなったが何人かは言えない。」とIDNの取材に対して語った。しかし、児童病棟は、必要な専門家を政府が供給したことで再開した。別の病棟に移されていた子どもたちも戻ってきた。

1年前の金融危機の到来以来、専門医を含む500人近いスリランカ人医師が出国し、その多くが保健省に連絡さえしていない。GMOAによると、無届退去に加え、若い専門医を含む52人の医師が、保健省に連絡せずに出国したため、ここ2ヶ月の間にポスト明け渡しの通知を受けたという。

医師が辞めていく一方で、政府は特に重症の病気に対する薬剤不足の解決策を持ちあわせていないようだ。無力な患者とその家族は、この危機的状況に苦しんでいる。ここで最も深刻な「問題」は、ある病気が不治の病になる前に行うべき手術が、薬剤不足のために遅れていることである。

スリランカは経済危機に直面し、医薬品の輸入にドルを割り当てる体制が整っていなかったとみられている。政府はインドの融資枠組みの下で、1億1400万米ドル相当を国営製薬企業に割り当てたが、医薬品の購入に使われたのは6850万米ドルに過ぎなかった。最近、スリランカ医師協会(SLMA)は、緊急性の低い医薬品のためにその資金が使われていたことを明らかにした。

国立感染症研究所のアナンダ・ウィジェウィクラマ博士は、インドの信用機関からの融資を得て輸入した医薬品の8割が登録されておらず、患者の手に届いていないと語った。これにより腎臓移植手術が中止される恐れがあり、緊急性の低い手術も中止せざるを得なくなる。

スリランカ麻酔科学集中治療大学の学長であるアノマ・ペレラ博士は最近の記者会見で、医療システムが崩壊の危機に瀕していると警告した。最も深刻な問題は、公立・私立病院における麻酔薬の不足で、このために帝王切開を伴う手術が遅れることになるだろう。また、麻酔医や集中治療医による手術は、医薬品不足のために行えなくなる可能性がある。

現在、公立・私立病院で抗生物質が入手しにくくなっている。そのため医師らは、薬を無駄遣いせず、自分の健康状況に気を配って生活するよう市民に呼び掛けている。

多くの公立病院の医師らは、IDNの取材に匿名でしか応じなかった。ある公立病院の医師は、「鉗子が不足しているので自身の病院では腹腔鏡下手術を約3カ月行えていない。」と語った。そのため病院の腹腔鏡下機材は3か月間も使用されていない。しかし、民間の病院や診療所には鉗子があるという。

別の政府系病院に勤務する医師は、「心臓発作患者の検査に必要な試薬が不足しているため、現在公立病院では検査できない。このため公立病院を訪れる患者は検査のために民間部門の研究所に行かなければならない。」と語った。別の主要な公立病院の医師によると、ここ数ヶ月、数種類の抗生物質が不足しているとのことである。

無作為の調査で、コロンボ国立病院に来院した何人かの患者は、まだいくつかの医薬品が手に入らない、と語った。

コロンボから約30キロのパナドゥラから通院しているシャンタ・カルナラスナさんは、「診療所には皮膚病の治療のため月に一度来ています。前回は、種類の薬が手に入らないと言われ、外部で入手しました。今回も状況は同じでした。しかし、薬は高くなっています。毎日収入があるわけではない私のような人間には厳しい状況です。」と語った。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

最近蔓延しているウィルス性熱病のために治療に来ていた別の患者は、やはり処方された薬を入手できず、外部で手に入れたという。

他方で、GMOAのスポークスマンであるハリサ・アルスゲ博士は、「昨年既に500人の医師が出国しており、もし60歳定年がこのまま厳格に適用されたならば、今年末までに300人の専門医を含む800人の医師が職を離れることになります。」と指摘した上で、「厳しい状況が訪れることになる。」と警告した。

「(無許可で海外に行った)公務員の医師を無給休暇扱いにしたとしても、問題の解決策にはなりません。また奨学金で海外に渡った医師も、海外で研修を受けているインターンも帰ってきません。問題は、専門医の問題で悪影響を受ける臨床サービスだけではなく、医療分野の行政にもあります。」とアルスゲ博士は指摘した。(原文へ

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|視点|我々は原子力潜水艦拡散を恐れるべきなのか?(レオナム・ドスサントス・ギマランイスブラジル海軍退役大佐)

【リオデジャネイロIDN=レオナム・ドスサントス・ギマランイス】

オーストラリア・英国・米国が2021年9月15日にインド太平洋地域防衛のための三国協定(いわゆるAUKUS)を発表するまでは、攻撃型原子力潜水艦の開発と、核不拡散条約(NPT)上の非核兵器国による核兵器開発との間の因果関係は、ほとんど公の議論になってこなかった。

この問題はこのように言い換えることができる。コストや環境への影響、核兵器拡散につながる可能性を考慮に入れるならば、攻撃型原潜は、特定の非核兵器国の国家安全保障に対する現実的な脅威に対抗するための最も適切な海軍技術なのだろうか、と。

攻撃型原潜取得の提案をめぐる議論は、核兵器を持たない特定の開発途上国においてエネルギー源として原子力を利用することを是とすべきか、という長年にわたる論議の焼き直しのような面がある。

原子力開発と核拡散との関係は、インドが1974年に初の核爆発実験を行い、さらに、1973年の石油ショックによって今後は原子力利用が広がるのではないかとの見通しが出てきたことから、議論の俎上にのぼるようになった。

民生用の核利用は、核兵器製造のための核分裂性物質と関連技術を獲得するための便利な口実となり得るというのが、従来の常識であった。そのため、核不拡散条約(NPT)によって国際的な保障措置がとられ、国際原子力機関(IAEA)によって管理されている。

非核兵器国における原子炉や濃縮、再処理、その他の核活動は、兵器級核分裂性物質の生産や軍事転用を探知・抑止するために、国際的な保障措置の対象となってきた。

しかし、NPT上の核保有国である米国・英国・フランス・ロシア・中国は、この体制に対して懐疑的な目を向けてきた。この措置によって違法行為を適時に発見することに十分な自信がないのである。一般的には、核兵器を持たない国が、単に機微の物質を保有しているだけでも、非核保有国は事実上の核兵器国と同じような地位に至るものとみなされてきた。

核装置が今にも開発されてしまう可能性は、その相手方をして、さも核兵器の開発がすでに完了したかのような態度を取らせることがある。にもかかわらず、技術的な観点からすると、兵器級核分裂性物質の取得は、爆発装置製造の第一歩に過ぎない。例えばミサイル技術管理レジーム(MTCR)のようなその他の国際的な保障措置体制が、さらなる動きを抑制するものとなる。

今日、原子力発電の普及が核兵器の「水平」拡散につながるという懸念は、現実にはなっていない。原子炉の安全性への懸念、経済成長の鈍化、必要となるインフラや原子炉建設の高コスト化のために、原子力は2000年代に既に保有していた国以外にはほとんど普及していない。核拡散の懸念は、核兵器能力を開発しようとする一部の国々の活動に向けられてきた。

(1980年代に始まるブラジルの試みのような)一部の非核兵器国の攻撃型原潜取得の計画(とされるもの)は、核拡散を巡る議論を引き起こしてきた。

歴史的には、核兵器保有国の海軍推進用原子炉の開発は、民生利用に先行してきた。例えば、商用加圧水型原子炉は、米軍が1950年代初頭に開発した潜水艦用原子炉の直接の後継となるものである。米国の場合、原子力による推進は核兵器取得ののちに開発された。

原子力の平和利用?

IAEAと核不拡散条約の保障措置のアプローチには違いがあり、前者は原子力エネルギーを「よく定義されていない」軍事目的に使用してはならないとし、後者は「よく定義された」軍事用の爆発目的で使用してはならない、と主張している。このため、過去には曖昧な解釈がなされたこともあったが、現在では明確になっている。

IAEA規程によれば、IAEAによる支援、あるいは、その要請またはその監視・管理の下でなされる支援は、いかなる軍事目的も助長するような方法で使用されないことを、できる限り確保しなければならない[1]。この規定が意味するところは、民生用原子炉で使用するために供給された濃縮ウランが、たとえば核兵器、あるいは、艦船の推進や軍事衛星のような非爆発的な軍事用途に供されないようにするためのものが保障措置である、ということだ。

対照的に、NPTの規定は、核物質を「平和活動」から「兵器またはその他の爆発装置」に転用してはならない、としているが、「非爆発的軍事用途」を禁じているわけではない。これらの協定は、潜水艦推進用の原子炉に使う燃料としてなどの「非禁止軍事活動」のために使用される場合は、核物質を保障措置の対象外にすることを定めている[2]。

Treaty of Tlatelolco Credit: OPANAL
Treaty of Tlatelolco Credit: OPANAL

これらの元々は異なっているアプローチを調整するために、実際にIAEAの保障措置協定[3]では、原子力潜水艦の推進などの「非禁止軍事活動」で使用される物質を一般保障措置から除外する条項を含む、核不拡散条約の原則を組み込んでいる。

フォークランド紛争時に英国が攻撃型原潜を南大西洋に派遣したことからアルゼンチン政府代表がIAEA理事会に行った提起に対応してIAEAが出した公式見解が極めて重要である。

アルゼンチンの提起は、ラテンアメリカ・カリブ地域非核兵器地帯と、実際に適用されている保障措置協定、核物質の非爆発軍事用途の正当性に言及したIAEA規程との間の矛盾の程度について疑問を呈している。

IAEA報告は、諸協定間の違いはその矛盾を現したものではない、とする[4]。原潜推進は、ブラジルの計画のように、平和目的にのみ向けられた原子力計画と矛盾をきたすものではない、というのだ。

核兵器開発の隠れみの?

理論上、攻撃型原潜の開発過程で取得される技術力は、理論的には将来の核兵器保有を容易にするものである。しかし、これらの能力は社会・経済の成長も促進できる。明らかに、原潜計画がもたらす潜在的なスピンオフ効果は、単なる兵器への応用にとどまらない。

核分裂技術の開発が、その国の核兵器製造の潜在能力を高めることは間違いない。しかし、核兵器を製造するというのは政治的な決断だ。ブラジルは、連邦憲法で核兵器の持ち込みを明確に禁止しており、核兵器を製造しないとの強力な政治的意思を持っている事例だ。

1991年、ブラジルとアルゼンチンは、国産の核施設に対して保障措置をかけるいわゆる二国間条約に署名し、「ブラジル・アルゼンチン核物質計量管理機関(ABACC)」と呼ばれる独立の核物質検証機関を設けた。IAEAはこの特定の保障措置枠組みに招請され、いわゆる四者間協定が同年に署名されて現在も執行されている[5]。

この条約は、保障措置対象施設が製造した物質を原子力推進に使用する場合の具体的な規定を定めている。この場合、その「特別手続き」は、攻撃型原潜の設計・運用に関する技術的・軍事的機密情報を開示することなく、IAEAが課す保障措置以上の保障措置実施を保証している。

核兵器の拡散は、極めて政治的で非技術的な問題だ。核保有国も事実上の核兵器保有国も、その目的に特化したプログラムを通じて核分裂性物質を入手した。

結果として、これらの国々は、追求する目標に向かって最短かつ経済的な道を取った。核兵器取得を目指す国が、海軍用原子力推進の開発などといった間接的な道をあえて取ることは考えにくい。

特筆すべきは、NPT非加盟のインドが核兵器開発後に、原子力を動力とし核弾道ミサイルを積んだアリハント級潜水艦を開発したことである。これは、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国以外が建造した最初の原子力潜水艦であった。

同じくNPT非加盟のイスラエルは、ドイツと協力して通常型だが核兵器を搭載したドルフィン級原潜を開発した。北朝鮮も同じことをめざそうとしている。

「拡散的」な燃料サイクル?

海軍艦船推進用の原子力利用は核不拡散条約で禁止されてはいないが、疑いもなく、原子炉技術の軍事的応用ではある。とすると、原潜の燃料サイクルと、発電用原発あるいは研究炉の燃料サイクルには大きな違いがあり、国際的あるいは多国間の保障措置は潜水艦用の燃料サイクルからの核物質の転用を抑止することは難しいのではないか、と考える人もいるかもしれない。

核不拡散条約で禁止されていないとはいえ、海軍の推進力は間違いなく原子炉技術の軍事利用である。このため、原子力潜水艦の燃料サイクルと定置型発電炉や研究炉の燃料サイクルには大きな違いがあり、潜水艦の燃料サイクルからの核物質の転用を抑止することは、国際保障措置や多国間保障措置では困難であると考える人もいるだろう。

技術的にはこれは全くの間違いだ。潜水艦は空間上の制約が大きく、燃料装填を頻繁に行えないという作戦上の要請があるために、原潜の原子炉は定置型原子炉よりも高い濃縮度のウラン燃料を使用している(現在の米国の潜水艦原子炉は兵器級の高濃縮ウランを用いているとされる)。他方で、フランスは1970年に低濃縮ウラン燃料技術を開発し、ロシアも高濃縮ウランは使っていないかもしれない。

Left to right: Anthony Albanese, Joe Biden and Rishi Sunak during the AUKUS announcement at Naval Base Point Loma in San Diego on March 18. Credit: Alex Ellinghausen
Left to right: Anthony Albanese, Joe Biden and Rishi Sunak during the AUKUS announcement at Naval Base Point Loma in San Diego on March 18. Credit: Alex Ellinghausen

現在のところ、海軍艦船推進用の原子炉はコンパクトな加圧水型である。燃料濃縮は「兵器級」である必要はないし、このタイプの炉はプルトニウム生産にも適していない。海軍艦船推進用の炉は、世界中で稼働している研究炉・発電炉と何ら変わりはない。現行法に違反する可能性があるなどと誰も主張することはできないのである。

この側面に関連して、AUKUSの協定は別の問題を惹起している。AUKUSの潜水艦でどのような特定の型の燃料を新たに用いることになるのかは発表されていない。しかし、米英の潜水艦と同じく高濃縮ウランを用いることになるだろう。核兵器国としての米国と英国がもつNPT上の義務と、非核兵器国としてのオーストラリアがもつ義務がそれぞれどの程度果たされることになるかは見えてこない。

地域の核兵器開発競争を引き起こす?

攻撃型原潜が海軍力に占める価値を考えれば、非核兵器国がそれを取得すれば、地域の海軍バランスが崩れることを懸念する他の国々を核兵器取得に走らせる可能性がある。しかし、海軍艦船推進は通常兵器体系の一環であり、これに対するより適切な反応は、自らも原潜を開発する、というものであろう。これと同じ原理で、核兵器とは完全に関係のない兵器体系の導入でも、パワーバランスを変える可能性はある。

戦略家の間では、将来の海戦は水上艦艇よりも潜水艦、特に原子力攻撃型原潜に大きく依存することになるという見解が広く共有されている。この見解は、欧米やロシアでますます洗練された潜水艦が開発され続けていることからも裏付けられる。このことは、軍事的に重要な第三世界諸国が原子力潜水艦を取得する強い動機付けとなる。

攻撃型原潜が核兵器の代用品として機能する程度には、国際的な安定をもたらすものとなるかもしれない。つまり、「地下の原爆よりは水面下の潜水艦の方がまし」かもしれないのである。他方で、[ある国による]原潜の取得は、自国及び国際の安全保障上の利益がないと考える地域のライバル国による海軍の軍拡競争を引き起こす可能性もある。

核兵器国は二重基準によって、こうした傾向を抑えることはできない。むしろ、攻撃型原潜への依存を抑えることで、核兵器の「垂直的」拡散を抑制する模範を示すべきだ。

結論

攻撃型原潜に関連した拡散上のリスクを無視することはできないが、かといって大げさに捉えるのもよくない。核不拡散の強調は、1973年のオイルショック以降、原子力発電が急速に普及するとの予想に基づくところが大きかった。

しかしこの予測は現実のものとならなかった。同じように、研究・開発・建造・維持コストの高さ、技術上のリスク、核分裂性物質の供給をめぐる厳しい条件などの理由により、原潜を取得しようとする第三世界の国々は少なかった。ブラジル・韓国・オーストラリア、そしておそらくはイランが新たに取得を検討している国として挙げられる程度だ。結果として、原潜の取得に対して、核拡散に関する国際的に承認された方針を策定する時期にきている。

「原潜保有国」のあらたな登場によって、核不拡散条約の設けた核兵器国と非核兵器国との間の垣根は心理的にも軍事的にも低くなっている。

核兵器拡散の場合と同じく、原潜開発に対する反対の程度は、その原潜取得国がどこであるかに依存している。米国は、いかなる国についても原潜取得には強く反対している。なぜならそれが米海軍の地球上での行動の自由を制限することになるからだ。

他方で、英国もフランスもカナダの原潜取得を後押しした。しかし、両国はラテンアメリカ諸国がそうすることにはおそらく反対することだろう。ロシアはインドに対して核誘導ミサイル潜水艦を2度貸与し、そしておそらくは、米国からの強い反対にもかかわらず、インドの原潜開発を支援したものと思われる。

また、中国はオーストラリアのような東アジアあるいは東南アジアの国が原潜を取得することには強く反対するだろうが、別の国の場合はそうでもないだろう。

Leonam dos Santos Guimarães Capt. (ret.) Brazilian Navy/ Nuclear Summit 2022

第三世界にあるNPT上の非核兵器国が攻撃型原潜を自国開発することに対しては、核分裂性物質の供給に厳しい制限が課され、政治的圧力がかけられることになる。これは基本的に、地政学的、軍事戦略的な目的を基礎としたものだ。こうしたやり方は、核不拡散条約の精神にかなったものではない。実際のところ、核不拡散ではなく海洋の自由の問題なのである。(原文へ

※著者のレオナム・ドスサントス・ギマランイスは、原子力・海軍技師(博士)であり、全ブラジル工学アカデミーの会員。「エレクトロニュークリアーSA」の社長であり、サンパウロにある海軍技術センター「艦船原子力推進プログラム」のコーディネーター。現在は、原発「アングラ3」の建設・稼働をめぐる法定委員会のコーディネーター。

【注】

[1]IAEA規程第3条

[2]核不拡散条約第4条

[3]IAEA INFCIRC/153、第14パラグラフ

[4]IAEA報告 GOV/INF/433

[5]ブラジルは1998年にNPTを批准した。アルゼンチンはその数年前に批准した。

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|視点|平和のためにも、化石燃料に関する新条約を(相島智彦SGI平和運動局長、シャヒン・アシュラフ イスラミック・リリーフグローバル・アドボカシー部門責任者)

【東京IDN=相島智彦、シャヒン・アシュラフ】

主要国の首脳が一堂に会するに際しては、平和を維持する方法を見つけることが、最も重要な責務の1つである。しかし、広島で開催された主要国首脳会議(G7サミット)が閉幕した今、世界の主要国指導者たちは、平和を広げていくための2つの機会を逃した。1つ目は、核兵器禁止条約を支持する機運を高めるための実質的な措置が講じられなかったことであり、2つ目は気候変動の分野においてである。

Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.

多くの人は、気候変動を単なる環境問題と捉えており、それは一面では事実である。海の酸性化によりサンゴ礁が死滅し、季節サイクルの変化は、地球上のほぼすべての生物種の生息環境を変化させた。2020年にオーストラリアで発生した山火事では、10億匹の動物が犠牲になり、生態系の犠牲は深刻である。

しかし、気候変動が平和および安全保障に与える影響や、地域、国内、国際的なレベルで紛争の可能性を高めていることを認識する人が増えてきている。

気候変動は様々な形態で紛争を起こりやすくする。気候変動による干ばつ、洪水、その他の異常気象は、作物に被害を与え、水の入手を困難にし、食糧不安や貧困を増大させる。気候変動により人々は家を追われ、生存可能な生活環境を求めて他の場所へ移住せざるを得ない。これは、土地、水、食糧などの資源をめぐる紛争へとつながり、特に資源がすでに不足している場合はなおさらである。

例を挙げると、2021年、カメルーンの北部では、気候の変化に起因する水不足が原因で、漁業、農業、牧畜業などのコミュニティの間で激しい争いが発生した。これにより数百人が死亡し、5万人以上の難民が隣国チャドに避難したが、同国も干ばつによる極度の困難に直面していた。また、ニジェールやマリなどでも、水や牧草地の減少をめぐる激しい地域紛争が起きている。

UNHCR/S.Modola
UNHCR/S.Modola

女性は、温暖化により引き起こされる暴力に対して特に脆弱である。国連環境計画の推計によると、避難民の80%は女性と少女であり、難民として性的暴力や搾取のリスクが劇的に高い。

若者も同様である。国連児童基金(ユニセフ)の報告によると、5000万人以上の子どもが気候変動によって故郷を追われた。彼らが直面するトラウマや身体的な危険を考えると震え上がるものがある。

気候危機に対する答えは、何十年も前から明らかである。できる限り速やかに再生可能エネルギーの開発を加速させ、化石燃料の使用を段階的に廃止することだ。

労働者、地域社会、家族など、この危機の影響を受ける人々が公平にエネルギー転換できるようにしなければならない。

そして、私たちは富裕国の政府に対して、気候変動に関連した損失や損害に対する資金を提供するよう求める。なぜなら多くの貧しく脆弱な国々は既に苦しんでおり、将来も苦しむことになるからだ。こうした国々は、気候危機を引き起こすようなことはほとんどしていないにもかかわらず、影響を最も受けている。

世界で最も脆弱な国や地域社会が、気候変動によるコストの負担を負うべきというようなことが道徳にかなう世界は存在しない。

だからこそ、私たちは世界中の何百もの宗教団体とともに、「化石燃料不拡散条約」を求める呼びかけに参加した。このような条約は、都市や科学者、そして現在では多くの国家によって承認されており、相互に関連する3つの重要な約束、つまり持続可能な未来の柱となるものを確立する。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

第一に、気候危機を解決するための前提条件である新規の化石燃料プロジェクトの開発を直ちに中止する必要がある。

第二に、既存の石炭、石油、ガス生産の公正な段階的廃止の道筋を明らかにし、より脆弱な国々がエネルギー転換を行うための時間を確保する。

第三に、気候変動に関連する損失や損害への対応および公正な転換のための資金を必要とする。それによって、影響を受けた労働者やコミュニティがエネルギー転換に必要な職業訓練、コミュニティの再開発、その他関連する再開発が可能となる。

これらの条件はどれも簡単ではないが、取るべき正しいステップであることは明確である。

UN Photo
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G7サミットの閉会に伴い、私たちは世界中のさまざまな宗教や善意の人々に、この問題についてもっと学び、公の場で発言し、地域社会の中で変化を支援するよう呼びかける。私たちが何が問題になっているのかを理解していること、私たちが気にかけていること、そして行動しなければならないことを各国政府は知っていく必要がある。行動を起こさなければ、人類の文明が依存している生態系、および世界で最も気候変動に脆弱な何億もの家族に、取り返しのつかない損害を与えることになる。信念に基づく壮大で迅速な行動は、すべての人にとってより良い未来を創り出すことができる。

その選択は疑いようがない。(原文へ

相島智彦 創価学会インタナショナル(SGI)平和運動局長。創価学会は地域社会に根差したグローバルな仏教団体。生命尊厳を基調として平和・文化・教育を推進する。1200万人を越える会員がいる。SGIはその平和運動団体。

シャヒン・アシュラフMBE 国際NGOイスラミック・リリーフのグローバル・アドボカシー部門責任者。同団体は、紛争、自然災害、気候変動による影響を軽減し、貧困や脆弱性から抜け出す力を地域社会に与えるため、34カ国、1300万人の人々に支援を行う。

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【国連IDN=タリフ・ディーン】

5月19日から21日にかけて広島に主要7か国(G7)の首脳らが集ったが、議題の一つは核軍縮であった。

1945年の米国による原爆弾投下により広島・長崎合計で22万6000人以上が殺害されている(両都市では広島の方が被害が大きかった)ことから、今回のG7サミット開催地は象徴的な場所であった。

しかし、カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・英国・米国の7カ国に欧州連合を加えた首脳らは、「核兵器なき世界」に向けて取り立てて重要な進展を生み出すことができなった。

フランス・英国・米国の三国が(ロシア・中国と並んで)主要な核保有国であるだけではなく国連安保理の常任理事国でもあるだけに、進展の不在はなおさら残念なことだ。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

防衛目的の核兵器を暗に正当化した「核軍縮に関する広島ビジョン」について5月21日の記者会見で問われた国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「文書へのコメントはしません。(しかし)私は自分の信念に従って動くことが重要だと申し上げておきます。『核兵器なき世界』の実現という主要な目的に関して諦めることはしません。」と語った。

「20世紀最後の数十年間は、軍縮がかなり進展しましたが、それが完全に止まってしまったのです。そして、新たな軍拡競争を目の当たりにしています。」と指摘した。

「核兵器に関する軍縮論議を再開することが極めて重要です。核兵器を保有している国々が核兵器を先行使用しないと約束することも必要です。さらには、どのような状況にあっても核を使わないと約束することが重要です。」

グテーレス事務総長は、「核兵器のない世界を実現するためには、いつの日か、願わくは私が生きている間に、核兵器のない世界を実現するために、野心的になる必要があると考えています。」と宣言した。

5月19日に発表された声明で、G7首脳らは「核軍縮に関する広島ビジョン」を打ち出した。声明はこう述べている。

「歴史的な転換期の中、我々G7首脳は、1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。粛然として来し方を振り返るこの時において、我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。」

G7 Hiroshima Summit Logo
G7 Hiroshima Summit Logo

「我々は、77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調する。ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損及びベラルーシに核兵器を配備するという表明された意図は、危険であり、かつ受け入れられない。我々は、ロシアを含む全てのG20首脳によるバリにおける声明を想起する」。

「この関連で、我々は、ロシアのウクライナ侵略の文脈における、ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。」

「我々は、2022年1月3日に発出された核戦争の防止及び軍拡競争の回避に関する五核兵器国首脳の共同声明を想起し、核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならないことを確認する。」

「我々は、ロシアに対し、同声明に記載された諸原則に関して、言葉と行動で改めてコミットするよう求める。我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。」

ワールド・ビヨンド・ウォー」のアリス・スレイター理事は、「核軍縮に関するG7ビジョン」は盲目的な傲慢さの表れではないか。」と疑問を呈した。

Alice Slater
Alice Slater

スレイター氏はIDNの取材に対して、「被爆地広島で、核保有国や、自国に代わって米国に核使用を期待する『核依存国』が広島平和記念公園に集い、1945年8月6日の破滅的な日を生き延びた被爆者のつらい証言に耳を傾けました。」と指摘した上で、「にもかかわらず、G7首脳らは無神経な声明を出しました。偽善的にも、核兵器の恐るべき性格を主張し、ロシアが核の恫喝によっていかに世界を危険に陥れているかを語り、北朝鮮にも同じような非難の目を向け、単に透明化措置を前進させるよう呼びかけています。まるで、西側諸国の恐るべき核戦力と、その再建や改修、再設計、実験に関連した活動については、情報を開示しさえすれば、核の惨劇が予防できる、とでも言わんばかりです。」と語った。

新戦略兵器削減条約(新START)を棄損するロシアの決定を非難する一方で、米国がロシアとの弾道弾迎撃ミサイル制限条約中距離核戦力全廃条約からいかにして脱退したかという点は黙して語っていません。また、バラク・オバマ前米大統領がイランとの間で結んだ核合意への復帰についても触れていません。」と、スレイター氏は指摘した。

米国はまた、宇宙での兵器やサイバー戦争を禁止する条約交渉を、ロシアと中国から何度も要請されたが、拒否している。これらの条約交渉は、もし実現していれば、核兵器の廃絶に向けた協議において、「戦略的安定」もたらす条件作りに欠かせないとロシアが呼びかけていたものである。

「ドイツ・オランダ・ベルギー・イタリア・トルコの北大西洋条約機構(NATO)5カ国は米国の核兵器を自国領内に配備することを認めているし、日本は、皮肉なことに平和憲法があるにもかかわらず米国の『核の傘』の下で、G7諸国がこれまでボイコットし拒絶してきた核兵器禁止条約入りをこれら諸国に求めるのではなく、代わりにNATOとの連携強化に動いています。」

「米国は、核軍縮を『誠実に』追求するという核不拡散条約上の義務を率先して尊重しない道を辿っています。決して『誠実に』など行動していません。戦争の惨禍を防ぐために創設された国連の管理下に核兵器を置くべきだとのヨシフ・スターリン書記長の提案をハリー・トルーマン大統領が拒絶した時代から、核兵器製造施設や弾頭、それらを運搬するミサイル・航空機・潜水艦のための30年に及ぶ1兆ドル規模の予算をオバマ大統領が認可した時代に至るまで、米国は核に関する違反・拡散に関与してきました。」

核兵器廃絶に努力するという見せかけと裏腹に発せられている偽善的なメッセージは、「ステップ」を踏む、という言葉だ。「我々は『軍備管理』の名目で、どこまでも果てしないステップを踏んできました。今回のG7会合での議論も、結局何も生み出さない不毛なステップにすぎなかった。例えれば、暗い顔をした男たちが円になって階段を上ったり下ったりしているが結局頂上にはたどり着かないという、M・C・エッシャーの絵『上昇と下降』に似ています。」とスレイター氏は語った。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のダニエル・ホグスタ事務局長代行は、「単に機会を失ったというだけではありません。広島・長崎への原爆投下以来初めて核兵器が使用されてしまうかもしれないという厳しいリスクに世界が直面しているなか、リーダーシップが発揮されずじまいという重大な失敗にほかなりません。」と語った。

「ロシアや中国、北朝鮮を指弾するだけでは不十分です。核兵器を保有し、あるいは配備を許可し、その使用を容認しているG7諸国は、『核兵器なき世界』という目標を達成したいというのであれば、軍縮協議において他の核保有国を巻き込む努力をしなければなりません。」とホグスタ事務局長代行は指摘した。

広島で5月19日に行われた記者会見で、ノーベル平和賞の受賞団体であるICANは、「『核兵器なき世界』という自らの目標を前進させる具体的な提案を打ち出すことにG7首脳らは失敗した。」と述べた。

ロシアや北朝鮮による核使用の恫喝によって、冷戦後最も核紛争の危険が強まっている中、日本の岸田文雄首相は、核軍縮を重要な議題とするために、史上初めて核兵器で攻撃されたこの都市をG7サミットの会場に選んだ。

ICAN
ICAN

G7首脳らは広島平和記念公園と平和記念資料館訪問で日程をスタートさせ、ここで被爆者にも面会した。ICANは、この面会を歓迎する一方で、「もはや平均年齢85歳にもなる被爆者が求める、彼らが生きている間の核兵器廃絶と言う声に首脳らが耳を傾けたとは思えない。」「今日の首脳声明に書かれてあったことは、実質的な軍縮に繋がる新たな措置を含んだ、信頼性の高いビジョンを提示することができなかった。」と述べた

ICANはまた、「G7首脳らはすべての国家に対して『その責任を深刻に受け止める』よう求めたが、そのG7諸国自体が、現在の核兵器がすべての人々に対して与えている脅威に関して自らの責任を回避している。」と指摘したうえで、「G7首脳らは、核兵器は『防衛目的』にのみ使用されるべきというが、核兵器は無差別的かつ不均衡であり、大規模な殺傷を目的としているため、国際人道法の下では『防衛目的』だとみなすことはできない。」と述べた。

さらに、「G7の3つの核保有国は核能力強化のために多額の資金を投じている、と指摘した。今日の声明は、すべての核保有国に対して、核戦力に関するデータを公開し、核戦力を縮減しつづけるよう要請しているが、すべてのG7諸国が自らの核兵器に関して透明性を保っているわけではないし、自国領土に核を配備させている国もある。さらに一部の国は備蓄を増やしてもいる。」と指摘した。

G7は岸田首相の「ヒロシマ・アクション・プラン」を称賛しているが、目下の緊急性を反映していない、従来からの不拡散措置の焼き直しであり十分とは言い難い。

「世界が直面している安全保障上の問題にG7が対応するために必要なことは、核兵器禁止条約によって確立された国際法の枠組みの下で、すべての核保有国を巻き込んだ協議を行い、具体的かつ実行可能なプランを立てることだ。」とICANは指摘した。

ICANのパートナー団体である「ピースボート」の川崎哲氏は「日本国民、とりわけ被爆者は岸田首相に失望させられました。広島でG7サミットを開催することで期待感は高まりましたが、核兵器廃絶に向けた実質的な進展はありませんでした。」と語った。

ICANは以下のように補足している。

1.すべてのG7諸国は安全保障政策において核兵器の役割を認めている(核保有国:フランス・イギリス・アメリカ、核兵器配備容認国:ドイツ・イタリア、「核の傘」(核依存)国:カナダ・日本)。

2.日本の岸田文雄首相は広島を地盤とし、米国が1945年に核兵器を使用したことで自身の親戚も被害に遭っている。岸田首相は今年のG7を広島で開催し、核軍縮・不拡散を議題とすることを決定した。ロシアのウクライナへの全面侵攻と、北朝鮮による短距離・長距離ミサイル実験の継続という状況を受けて、1945年以来初めて核兵器が使用される危険性が高まっているためだ。

3.国連の核兵器禁止条約は現在、署名国92、批准国68である。

4.核不拡散条約第6条は、G7諸国の全てを含めた全ての締約国に対して、次の通り、核軍縮追求を義務付けている。「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」(原文へ

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広島G7への宗教者の見解:地球との平和には化石燃料条約が必要

主要な国際宗教団体は、広島で開催されたG7会議に対し、各国首脳が化石燃料の段階的廃止や気候関連の損失・損害への資金提供のための措置を講じなかったことに失望を表明しています。宗教団体は、化石燃料不拡散条約の締結を改めて求めています。

190カ国以上、6億人以上の会員を持つ6つの団体は、G7首脳に対して、失望を表明し、さらなる行動を求める公開書簡を表しました。グリーンアングリカン(Green Anglicans)、グリーンフェイス(GreenFaith)、イスラミック・リリーフ・ワールドワイド(Islamic Relief Worldwide)、ラウダ―ト・シ ムーブメント(Laudato Si’ Movement)、創価学会インタナショナル(Soka Gakkai International)、世界教会協議会(World Council of Churches)は、その多くの会員数に加え、世界中で幅広い人道支援や教育プログラムを支援しています。

“私たちは、あなたが気候変動に対処するために、より多くのことをしていることに感謝しています。「しかし、世界で最も裕福な国の多くであるあなた方の政府は、国内外において、依然として新たな化石燃料プロジェクトを支援しています」。そして、各団体はG7リーダーに対し、新たな石炭、石油、ガスプロジェクトの承認の停止と化石燃料補助金の廃止、COP28で設立された損失・損害基金への拠出、影響を受けた労働者とコミュニティのための公正なエネルギー移行への資金提供を要請しました。宗教指導者たちは、公開コミュニケの中で、G7首脳が化石燃料への公共投資を「適切」とし、ガス部門の拡大を求め、国内の石炭廃止時期を2030年とすることを約束する努力を阻止したことに重大な失望を表明しました。

 仏教の開祖である釈迦牟尼は、最も苦しんでいる人々のために生涯を捧げました」と、日本に拠点を置く世界的な仏教団体、創価学会インタナショナルの相島智彦氏は言います。「気候変動がもたらす最悪の影響を受けているのは、最も弱い立場にある人々です。信仰を持つ者として、私たちは彼らとともに立ち上がり、最も責任のない人々に大きな被害をもたらしている化石燃料へのさらなる投資に反対しなければなりません」。

 平和というテーマは、この団体が公開状を出すという決定において、非常に重要な意味を持ちました。「平和は私たちの信仰の本質的な側面です」と、世界教会協議会の公的証人とディアコニア担当ディレクターであるケネス・ムタタ牧師は述べています。「キリストの愛は、私たちに深い連帯と、この非常事態に最も貢献しなかった人々のための正義の探求を求めています。化石燃料は今日、気候変動に圧倒的に貢献しており、化石燃料経済は、最も脆弱な人々や次の世代のために、今すぐ止めなければなりません。”  

 また、グリーンアングリカンズのコーディネーターであるレイチェル・マッシュ牧師は、「気候変動は、毎秒5個の広島原爆が投下されるのと同じ速度で海を温暖化させています。これは海を温め、嵐やサイクロンを加速させ、世界中の何百万人もの人々に壊滅的な被害をもたらしています。化石燃料不拡散条約は、最も影響を受ける人々と連帯するための方法です」。

 COP27では、各国政府は、気候変動に脆弱な国に資源を提供するための損失・損害基金の創設を承認しました。宗教団体は、この基金への迅速な資金投入を求める各団体の要求を更新し、G7首脳がそれを行わなかったことに失望を表明しました。イスラミック・リリーフ・ワールドワイドのグローバル・アドボカシー責任者であるシャヒン・アシュラフ氏は、「各国が化石燃料条約を締結することは、道徳的、倫理的に必要なことである。この条約は、探査と投資を止め、石炭、石油、ガスの使用を段階的に停止させる取り組みに法的効力を与えるものです。これらの手段によってのみ、世界が気候変動への適応を管理し、損失と損害に対処できる可能性があるのです。」と語ります。

 宗教指導者たちは、気候が引き起こす干ばつ、洪水、異常気象が農作物に被害を与え、水の利用可能量を減らし、天然資源へのアクセスを制限することを指摘しました。その結果、土地、水、食料などの資源をめぐる地域間紛争が発生します。また、こうした変化は、女性や少女が性的暴力や搾取を受けるリスクも高めます。「気候変動によって避難する人々の多くは女性であり、特に難民として弱い立場に置かれています」と、グリーンフェイスのエグゼクティブディレクターであるフレッチャー・ハーパー司祭は述べています。”私たちの宗教は、社会が女性を尊重すべきであり、女性を侵害する条件を作ってはならないことを教えています。”

 各団体は、化石燃料不拡散条約を求める多宗教の呼びかけに賛同しており、このイニシアティブは、100人以上のノーベル賞受賞者、85の都市と小国政府、世界保健機関、15億人を超える宗教団体の賛同を得ました。この不拡散条約イニシアティブは、新規化石燃料プロジェクトの即時停止、既存の石炭、石油、ガス生産の公平な段階的廃止、気候変動に影響を受ける国、コミュニティ、労働者のための公正な移行への寛大なコミットメントを求めています。

 この不拡散条約イニシアチブのグローバル・エンゲージメント・ディレクターであるハージート・シン氏は、「多様な宗教・精神コミュニティが化石燃料不拡散条約の締結を各国政府に求め始めてから1年が経ちました。G7首脳への書簡は、彼らの要求と、現代の大量破壊兵器である石油、ガス、石炭を段階的に削減する倫理的要請を強化するものです。世界中の宗教指導者たちは、化石燃料条約、新しい世界的枠組みの要求に同意し、発展途上国が化石燃料から再生可能なエネルギーシステムに正しく移行することを支援する義務を果たすことによって、彼らの言葉を行動に移すようG7指導者に求めています。」と語ります。

 ラテンアメリカ・カリブ海司教協議会(CELAM)事務局長のホルヘ・エドゥアルド・ロサノ女史は、「各国政府が再生可能エネルギーの約束を増やしているのは良いことです。今こそ、核拡散防止条約と同様の条約を、化石燃料不拡散条約という形で受け入れるべき時です。石炭、石油、ガスへの依存に直結する差し迫った気候危機に立ち向かうために、この緊急行動が必要なのです。私たちは、化石燃料消費の時代を終わらせ、代わりに全人類家族のために持続可能で居住可能な未来を創造するために、化石燃料からの正当な移行を優先させるという道徳的責任を認めなければなりません。」と述べます。(英文へ

日本語版オープンレター(Japanese)

グリーンアングリカンズは、南部アフリカ聖公会の環境ネットワークで、アフリカ大陸の13カ国に広がっています。(南アフリカ、レソト、ナミビア、エスワティニ、モザンビーク、アンゴラ、ザンビア、ジンバブエ、ボツワナ、マラウイ、ケニア、ルワンダ、ガーナ)です。私たちは、アングリカン・コミュニオン環境ネットワークに参加しています。聖公会は、化石燃料不拡散条約を支持する決議をしました。
グリーンフェイスは、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸にスタッフを置き、40カ国以上にローカルメンバーを持つ、国際的な草の根の多宗教の気候正義団体です。GreenFaithは、新しい化石燃料プロジェクトと関連する資金調達に反対し、公正なエネルギー転換と気候変動に脆弱な国のための損失と損害の資金を支持するキャンペーンを行っています。
イスラミックリリーフは、人道的な開発機関であり、昨年は34カ国で1300万人以上の最も疎外された人々に手を差し伸べています。 イスラム教の信仰に触発され、偏見なくすべてのコミュニティに奉仕するという価値観に導かれ、紛争、自然災害、気候変動による影響を軽減し、コミュニティが貧困や脆弱性から抜け出すための力を与えるために活動しています。
ラウダ―ト・シ ムーブメントの使命は、善意のすべての人々と協力して、共通の家を大切にし、気候と生態系の正義を達成するために、カトリックのコミュニティを鼓舞し動員することです。この運動には、世界中から幅広いカトリック団体(900以上)と草の根のメンバーが集まっています。これらのメンバーは、ローマ・カトリック教会とのシノダリティと交わりの中で、"地球の叫びと貧しい人々の叫び "に応えるエコロジー的転換の旅路を共に歩んでいます。(Laudato Si', 49)。
創価学会インタナショナルは、生命の尊厳の尊重を中心とした平和、文化、教育を推進する、全世界に1200万人以上の会員を持つ、地域密着型のグローバルな仏教団体である。創価学会インタナショナル(SGI)は、非政府組織として、1983年以来、国連経済社会理事会(ECOSOC)の協議資格を有しています。
世界教会協議会(WCC)は、教会の親睦団体である。正教会の大部分、聖公会、バプテスト教会、ルーテル教会、メソジスト教会、改革派教会、そして多くの合同教会や独立教会を含む5億8千万人以上のキリスト教徒を代表する120以上の国と地域にWCCメンバーが存在します。
化石燃料不拡散条約イニシアティブは、化石燃料の新規開発を中止し、合意された気候変動限界である1.5℃以内に既存の生産を段階的に削減し、化石燃料に依存する労働者、コミュニティ、国が安全で健全な生計を立てることを支援する計画を策定する国際協力を促しています。

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世界のトップテーブルで。2023年はインドの年か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ

2023年はまさにインドの世界政治の年となるかもしれない。それを後押しする三つの事情とは、インドがG20の議長国を務めること、ウクライナ戦争でインドが果たす興味深い役割、そして中国に対する批判的な見方がますます広がっていることである。

国際政治におけるインドの影響力は近年着実に拡大しており、インド政府はグローバルプレイヤーとしての責任を担うことに熱心である。それはとりわけ、多少の波はあるものの2000年代末から年7%を上回るペースで続いている目覚ましい経済成長を背景とした政治的野心によるものだ。2021年には8.7%の成長率を記録したインドは今や、米国、中国、日本、ドイツに次いで世界5位の経済大国となっている。グローバルプレイヤーになるというインド政府の野心的目標は、今に始まったことではない。この政治エリート国は常に、国際情勢における最上位のランクを思い描いてきた。しかし、過去にこの国はあまりにも頻繁に地域紛争の泥沼にはまり、インド人学者B.S.グプタが25年前に評したように「南アジアの息詰まるような閉鎖空間」であった。(

2023年にはインドはG20の議長国に就任し、G20の議題を形成する可能性がある。これを、デリーは歴史的好機と捉えている。もしかしたら、インドが数十年にわたって国連安全保障理事会の常任理事国になることを拒まれてきたことへの埋め合わせという面も少しはあるのかもしれない。インドの人口は14億人を超え、2023年には中国を追い越して人口世界一の国になろうとしている。インドは、ほぼ西側に支配された世界構造を改革したいと考えており、多くの政治的・経済的フォーラム(世界銀行、国際通貨基金、国連安全保障理事会など)の取り組みや構造に対する不満を臆することなく口にしている。これらの機関はいまだに、現在の世界情勢というより第2次世界大戦後の創設当初の状況を反映している。インド政府は、経済的不安の中で包括的な成長を成し遂げるために、グローバルサウスの「聞き届けられない声」が認識されることを望んでいる。

インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、自信をもって、はばかることなく、欧州諸国が自分たちの問題ばかりを優先して世界的問題を見落としていると非難している。例えばロシアに対する西側諸国の制裁は、エネルギー、食料、肥料の価格高騰を招き、より貧しい国々に深刻な経済問題を引き起こしている。インド政府は冷戦時代の古臭いブロック対立を再燃させることに関心はないが、それは現在、米中間の競争や確執に形を変えて姿を現している。デリーは、単純に西側(現在のロシアとの対立における“善玉”)の肩を持ちたいとは思っていない。

政府は、インドの非同盟の伝統にふさわしい多面的な同盟を構想している。インドは、米国、オーストラリア、日本、インドの4カ国安全保障対話「クアッド」に加盟しているが、単純に西側陣営に加わりたいとは思っていない。国連においてインドは、ロシアの侵攻を非難する決議案の採決で欧米諸国の圧力に屈することなく棄権した。デリーとモスクワは良好な交流を維持している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれを根拠として、ロシアは西側が思うような孤立状態には全くないと主張している。しかしその一方で、ナレンドラ・モディ首相は2022年9月に開催された上海協力機構(SCO)の会議で、プーチン大統領に向かって「今は戦争の時代ではない」と明確に述べた。

インドは、ロシアと良好な経済関係を維持していることを隠しもせず、悔いてもいない。インドは、長年にわたりロシアから武器を輸入しており、ロシアの協力に引き続き依存している。ウクライナ戦争が始まってからは、値引きされたロシア原油の輸入を増やしている。インド外相は、そのようなどっちつかずの政策に対する西側の非難に反論し、欧州の偽善をはね付けた。「1人あたり所得60,000ドルの社会が自分で自分の面倒を見るというなら、もっともなこととして受け入れよう。しかし彼らは、1人あたり所得2,000ドルの社会が損害を引き受けることを期待するべきではない」

このような多面的同盟、ワシントンともブリュッセルともモスクワとも良好な関係を維持するという考え方があるからこそ、デリーは仲介者としての役割を果たすことができる。現時点でロシア政府は、戦争を終わらせようとする、あるいは本格的な交渉を開始しようとするいかなる外交努力も拒絶している。これまでの紛争解決の経験から、中立的な仲介者による手助けが有益であることが分かっている。インド政府が世界情勢の中で建設的に自国を位置付ける機会がここにある。

最後に、現在、中国の政策に対して広がっている懐疑論は、インドにとって有利に働く。パンデミックはインドの影響力拡大に寄与した。パンデミックの中で、中国への経済的な依存度がいかに大きく、ほとんど不可避であるかが明白になった。中国の強引な政策、透明性を欠く北京のコロナ危機対応、主要経済分野におけるさまざまなサプライチェーンの途絶や技術依存度は、これまでの対中政策の見直しや一部撤回につながった。

多くの国の政府は、依存度を下げ、自国社会のレジリエンスを高めるために、サプライチェーンの分散化は避けられない措置であると考えている。これはインドにとって好機である。インドは、十分な訓練を受けた、英語を話す労働力が豊富である。そのような人的資源、そして中間層が拡大している大規模なインド市場は、多くの外国投資家にとって魅力的である。インドの現在の経済力と政治的決断を考えると、2023年はインドのグローバルイヤーとなる可能性がある。

しかし、障害もある。インドは、技術的に進んだ産業もあるが、依然として貧しい国でもある。インド経済は、貧困を大幅に削減し、毎年労働市場に流入する1,000万~1,200万人の若者に十分な雇用を提供するためには、7%を上回るペースの経済成長を必要とする。そのためには、かつての中国のように数十年にわたる好況期が必要である。それが気候変動をいかに悪化させ得るかは、想像に難くない。

政治的に、インドは岐路に立っている。インドの世俗主義的社会や多文化的民主主義は、もはや憲法に謳われているほど安定したものではなくなっている。ヒンドゥー・ルネサンス、均質的なヒンドゥー社会を目指すモディ首相の政策を考えると、国民の平等な待遇に疑義が生じる。インド社会の特徴であった自由主義や世俗主義は脅威にさらされており、司法の独立とメディアの独立も同様である。

モディ政権は、米国、日本、オーストラリア、そしてEUとの関係を強化することに成功した。また、紛争を抱えた周辺地域において必ずしも良好とはいえなかったイメージも改善した。しかし、東南アジアにおけるインドの役割と地位は、国の圧倒的な大きさゆえに複雑である。より小規模な周辺国との関係は、緊張と無縁ではいられない。

地域における複雑かつ困難な関係は、インドの長年にわたるパキスタンとの紛争や中国との対立的関係に反映されている。領土問題はいまだに解決されておらず、国境地帯では小競り合いが繰り返し起きている。両国とも軍隊に多額の投資を行っているが、その額は中国がインドを大きく上回る。中国の「一帯一路」構想とインド洋におけるプレゼンスの増大に、インドでは安全保障の懸念が高まっている。それと同時に、両国政府はBRICS、SCO、G20といった組織では協力を行っている。

ナレンドラ・モディと習近平はさまざまな形で顔を合わせているものの、両国間の対立は激化している。各時代のインド政府は、欧州各国の政府と同様、長年にわたり貿易がもたらす緩和の影響力を信じてきた。しかし、中国とインドの2国間貿易は大幅に増加したものの、緊張を解消するには至っていない。今やインド政府はデカップリング政策に乗り出している。とはいえ、インドは中国からの輸入に依存しているため、経済的離脱は容易ではない。

世界で最も人口が多い2カ国の世界的野心は、両国を熾烈な競争へと駆り立てた。どちらの政府も、世界的野心を抱くアジアの大国と自認している。インド政府は、その経済力に見合った政治的役割を明確にすることに関心を抱いている。しかしその一方で、新たな多国間主義へのロードマップを策定するために、イデオロギーの衝突を乗り越え、志を同じくする国々と協力することにも関心を抱いている。民主主義と専制主義の対立と競争において、インドは、民主主義とそのリベラルな価値観を後押しする形でバランスを傾けるために、重要な役割を果たす可能性がある。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

INPS Japan

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2.5億人が深刻な飢餓に直面

【ローマIPS=ポール・ヴィルゴ】

今月初め、英国ではチャールズ3世の戴冠式が国際メディアの注目を浴びていたが、少なくともそれと同等のスポットライトが当てられて然るべき別の話題はほとんど報じられなかった。

最新の「2023年版食料危機に関するグローバル報告書」(GRFC)によると、食料不安が深刻化し、急性食料不安(十分な食料を摂取できないことで、その人の生命や生活が差し迫った危険に晒されることを言う:INPSJを経験している人の数は、2022年に58の国と地域で約2億5800万人に上り、7カ国の人々が餓死の危険に晒されていると推計されている。

これは2021年の53の国と地域の1億9300万人からさらに増加したもので、緊急の食料、栄養、生活支援を必要とする人々の数が4年連続で増加したことを意味する。

WFP
WFP

ここで注目すべきは、これが世界中で飢餓の影響を受けている人々の数ではないという点だ。その数値は、はるかに大きなものとなる。国連は毎年7月、「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」報告書において、慢性的な飢餓状態にある人々の数を推定しており、昨年の報告書では、2021年の飢餓人口を最大8億2800万人と発表している。

一方、GRFC報告書は、最も深刻な形態の飢餓(IPC/CHフェーズ3-5)のみを統計の対象としている。(飢餓の「リヒタースケール」と呼ばれる食料不安を測る世界標準「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は5段階からなり、フェーズ1が「食料が十分にある状態」、フェーズ2が「食料不安」、フェーズ3が「急性食料不安」、フェーズ4が「人道的危機」、フェーズ5が「飢饉(=1万人のうち少なくとも2人が餓死或いは関連する原因で病死)」である。」

それによると、7カ国の人々が2022年のある時点で急性食料不安の最も深刻な段階である壊滅的な飢餓(飢饉)(IPC/CHフェーズ5)に直面していた。その半数以上がソマリア(57%)で、アフガニスタン、ブルキナファソ、ハイチ、ナイジェリア、南スーダン、イエメンでもそうした極限状況が発生していた。

同報告書によると、39カ国で約3500万人が次に深刻なレベルの緊急事態の飢餓(IPC/CHフェーズ4)に直面し、これらの人びとの約半数は、アフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国、スーダンのわずか4カ国で暮らしている。

2億5800万人という数字は報告書史上最も多く、今年はさらに状況が悪化している

「2022年、2.5億人以上の人々が深刻な食料不安に直面しました。この年は、食料危機に直面した人々の数が、僅か12ヶ月で33%増加した年でした。」と、国連世界食糧計画(WFP)のジェームズ・ベルグレーブ報道官はIPSの取材に対して語った。WFPはGRFCレポートを発行している「食料危機に対するグローバルネットワーク(GNAFC)」のメンバーである。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

「そして、2023年のこれまでの経過を見ると、WFPが活動する79カ国で、実に3億4500万人が高レベルの食糧不安に直面していることがわかります。これは、2020年初頭のパンデミック前の水準から2億人近く増加したことになり、状況がいかに急速に悪化しているかが浮き彫りになっています。2023年に世界食糧計画が創立60周年を迎えるにあたり、私たちは現代における最大かつ最も複雑な食糧安全保障の危機の真っ只中にいることに気づきました。」と、ベルグレーブ報道官は語った。

実際、GRFCの報告書は発行開始から7年しか経過していないが、その間に最悪の形態の飢餓に苦しむ人々の数が大きく増加したことが記録されている。フェーズ3以上の飢餓を経験している人々の数は、2016年には1億500万人と現在の半分以下であった。

報告書で分析された42の主な食糧危機国のうち30カ国で、3500万人以上の5歳未満の子どもが消耗症、つまり急性栄養不良の状態にある。このうち920万人以上の子どもが低栄養状態の中で最も危険な状態で、子どもの死亡リスクの高い重度の消耗症に苦しんでいる。

2022年は、紛争や異常気象が継続して深刻な食料不安や栄養不良を引き起こしている一方で、特に食料や肥料などの輸入依存度が高く、世界の食料価格の影響を非常に受けやすい最貧国では、新型コロナウイルスのパンデミックによる経済不安やウクライナでの戦争の影響も飢餓の主な原因となっている。

このような極端なショックに対して、世界の人口の多くが脆弱であることは、農村部の貧しい零細農家の回復力を強化し、食糧不安に立ち向かう努力が不十分であることが原因の一つである。

GRFCの最新レポートにおいて深刻な飢餓に直面している人々の数値が上昇したのは、分析対象国の人口増加を反映している部分もあるが、これらの国々で急性食料不安を経験している人々の割合が2021年の21.3%から22年には22.7に増加していることは、人口動態の要因にかかわらず状況が著しく悪化していることを示している。

報告書は、各国と国際社会は、事前対応や危機対応型セーフティネットなどの革新的なアプローチを含む、より効果的な人道支援に焦点を当て、食料危機と子どもの栄養不良の根本原因に取り組むための投資を拡大し、農業食料システムをより持続可能で包括的なものにすべきだと述べている。

According to the report, around 258 million people in 58 countries and territories faced acute food insecurity at crisis or worse levels in 2022, up from 193 million people in 53 countries and territories in 2021./ FAO
According to the report, around 258 million people in 58 countries and territories faced acute food insecurity at crisis or worse levels in 2022, up from 193 million people in 53 countries and territories in 2021./ FAO

ベルグレーブ報道官は、「世界の飢餓との戦いは後退しており、今日、世界は、近代史上最大規模の未曾有の食糧危機に直面しています。世界で最も弱い立場にある人々の生活は日々厳しくなり、苦労して勝ち取った開発の成果も損なわれつつあります。WFPは3つの課題に直面しています。それは、深刻な飢餓状態にある人々の数は、資金が追いつかないほどのペースで増え続け、食料と燃料の価格が上昇したため、食料援助の提供コストがかつてないほど高騰していることです。」と語った。

「ソマリアのように飢饉の危機に瀕している国では、国際社会が政府やパートナーと協力して、人々を死線から引き戻すために懸命な取り組みを行っています。しかし、人々を生かすだけでは不十分で、さらに前進する必要があります。命の危険に晒されている人々を救う一方で、地域社会がレジリエンスを高め、自分たちの食料需要を満たすための基盤を提供するという、2つの側面から取り組まなければなりません。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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【ニューヨークIDN=アリス・スレイター】

米国が、核兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイルを運用する3つのミサイル航空団を擁する地球規模攻撃軍団(3万3700人以上の軍人・軍属が所属)を誇る一方で、米国とその同盟国が北朝鮮の長距離ミサイル実験を非難するのは、欺瞞以外の何ものでもない。

実際、米国の大陸間弾道ミサイル「ミニットマン」の実験がこの2月に行われており、次は8月の予定だ。

Korean Peninsular/ By Gringer - Own work, CC0
Korean Peninsular/ By Gringer – Own work, CC0

1950年から53年にかけての朝鮮戦争は、米国が最も長期にわたって関与している紛争である。実際には戦争は終わっておらず、朝鮮人民軍と中国人民義勇軍を代表とする北朝鮮と、多国籍の国連軍司令部を代表とする米国との間の休戦協定によって一時中断されただけである。

この無期限の休戦協定の間、米軍は韓国に駐留している。北朝鮮国境付近に展開する米軍は、重武装した北朝鮮に対して長年にわたり継続的に脅威を与えるべく韓国軍と「軍事演習」を行っている。

さまざまな和平構想が取りざたされたが、米国はそのいずれからも撤退し、後追いの動きもなされなかった。この間、北朝鮮は長きにわたって和平条約を求めてきた。北朝鮮の人々に多大なる苦難と貧困をもたらしてきた制裁の解除と引き換えに、兵器級核物質を生産する「平和的」原子炉の稼働を停止することも北朝鮮は提案してきた。

ビル・クリントン政権との間で、核開発を停止する合意もなされたが、ジョージ・W・ブッシュ政権が2002年にこの合意を尊重せず北朝鮮を「悪の枢軸」と呼ぶに及んで、核開発は再開された。

2017年、韓国では、「太陽政策」と平和的な朝鮮半島統一を公約とした文在寅が新たに大統領に就任した。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

皮肉なことに、2017年に国連総会第一委員会(軍縮)では、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の10年にも及ぶ運動が功を奏して、核兵器禁止条約の採択に至った。しかし、米国・英国・フランス・ロシア・イスラエルはこれに反対票を投じた。

中国・パキスタン・インドは棄権したが、北朝鮮は核保有国として唯一、核兵器禁止条約案に賛成した。核禁条約は同年の国連の特別交渉会期において採択された。

北朝鮮が、核兵器禁止条約の交渉に前向きな唯一の核保有国として世界にあるシグナルを送ったことは明白だった。しかし、西側のメディアは、欧米の植民地大国とその同盟国によって北朝鮮が受けている挑発を認識することもしなかったし、北朝鮮がそのような驚きの投票行動をしたことも主流のメディアでは報じられなかった。

ドナルド・トランプ政権時、米朝交渉には一定程度の進展がみられ、韓国ではより平和的な大統領が誕生した。しかし、北朝鮮が核開発を放棄することと引き換えに和平協定を北朝鮮と結ぶパッケージの一環として、韓国から米軍部隊の一部を撤収するという金正恩に対するトランプの約束を、米議会は否定した。

米国では「非武装地帯を超える女性たち」の活動に刺激を受けた運動が始まっている。彼女らは、南北朝鮮を分ける非武装地帯を徒歩で超えるという前代未聞の取り組みを2015年に行った。ノーベル平和賞受賞者やフェミニストのリーダーである女性ら30人が、韓国女性1万人とともに国境の両側から非武装地帯を徒歩で超えたのである。

彼女らの努力を通じて、そして、依然として恒久的な交戦状態にある南北朝鮮間を家族訪問のために行き来することができずにいる推定10万人の朝鮮人のために、米国では法案1369号(朝鮮半島和平法案)が提出されている。法案は、朝鮮戦争を公式に終結させる和平条約の締結を呼びかけているが、同時に、北朝鮮国民に対する渡航制限の見直しと、両国間における連絡事務所の設置も求めている。

今こそ、北朝鮮に対する私たちの見方を見直し、北朝鮮を、核兵器によって私たちを攻撃しようとしている国としてではなく、76年間にわたって耐え忍んできた制裁と孤立からの脱却を求めている国として取り扱わねばならない。

Alice Slater
Alice Slater

帝国のありようがいかにして北朝鮮の「悪の行い」に寄与しているのかを理解すれば、本当の安全を私たちは手に入れることができるのである。1950年代の「赤の恐怖」の時代に私たちを楽しませたウォルト・ケリーの漫画のキャラクター「ポゴ・ポッサム」の懐かしい言葉を借りてこう言おう。「我々は敵に出会った、そしてそれは自分たちのことだった!」

※アリス・スレイター氏は、「ワールド・ビヨンド・ウォー」「宇宙の兵器利用と原子力に反対するグローバルネットワーク」の理事。「核時代平和財団」ニューヨーク支部長。(原文へ

INPS Japan

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