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中東で米国を押しのけるロシアと中国

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・カイサル】

中東の戦略的情勢は急速に変化しているが、それは伝統的にこの地域で大きな影響力を発揮してきた米国にとって不利な変化である。米国とイランの敵対関係が続き、同盟国としてのワシントンの信頼性に対するアラブ諸国の懸念が増大しており、その結果、ロシアと中国がこの地域で戦略的足掛かりを拡大する機会が広がっている。

いくつかの状況が重なり、米国の立場を揺るがすものとなっている。最も重要なものとして、ロシアとイラン、そして中国とイランの戦略的パートナーシップの飛躍的な進展がある。イランとロシアの2国間貿易と軍事協力は、かつてないほど強化されている。両国の貿易高は2021年に40億米ドルだったが、翌年には400億米ドルに跳ね上がった。この背景には、2021年3月に両国が調印した20年間に及ぶ協力協定がある。(

それと同時に、さらに重要なことは、ロシアとイランの軍事パートナーシップが新たな高みに達していることである。ロシアは長年にわたりイランにとって最大の武器供給国だったが、2022年は転換点となった。イランがスホーイSu-35フランカーEジェット戦闘機24機を発注したのである。コストは20年間で100億米ドルと伝えられる。この戦闘機はロシア製兵器の中で最も先進的なもので、ウクライナへの爆撃に大々的に使用されている。これは、イランがロシアに何百機ものドローンを提供した取り引きの一環と見られ、それらのドローンはウクライナで致命的効果を挙げている。両国はまた、双方の人員に戦闘機とドローンの訓練を行っており、イランは占領下のクリミアでドローン製造の合弁事業を設立したと報じられている。

同時に、中国とイランの貿易関係と戦略的関係も大幅に強化されている。2国間の経済・貿易関係は着実に拡大する一方、軍事・情報協力は比較的控えめだったが、2021年に両国は25年間の協力協定に調印し、技術的、経済的、戦略的協力関係をかつてないレベルに引き上げた。協定は、イランの産業およびインフラ開発における中国の参加と投資を拡大する道を開いた。また、イランの中国製品市場を拡大し、軍事・情報協力のさらなる強化をもたらした。

その過程で、中国は米国が主導するイランへの制裁を無視している。イラン産原油の輸入を継続し、近頃ではイランとサウジアラビアが6年間断絶した国交を回復するために結んだ和平合意を仲介することによって、外交的影響力のさらなる拡大を図った。

中国はまた、ますます好意的になっているサウジアラビアとの関係を拡大している。その背景には特に、物議をかもす事実上の支配者ムハンマド・ビン・サルマンが、人権侵害の疑いとイエメンにおける軍事行動について過去にジョー・バイデン大統領から批判されたことで、米国に幻滅感を抱いているという事情がある。

イランは、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)に参加しようとしており、すでに中国の一帯一路構想の西に向かう流れにの重要なリンクとなっている。興味深いことに、これまで米国の同盟国だったサウジアラビアは、SCOにも対話パートナー国として参加することを決定している。これは、地域における北京の影響を強化するものにほかならない。

同時に、米国とその最も信頼できる同盟国であるはずのイスラエルとの関係は悪化している。イスラエルの有権者の分極化と国内の政治的不安定の増大は、主にベンジャミン・ネタニヤフ首相による、イスラエル史上最も右翼的な政権の樹立と司法の権限を覆そうとする動きがもたらしたものであり、バイデン政権はイスラエルの指導者に対して危惧を抱くほかないのである。

ワシントンは、ネタニヤフの行動は「イスラエルの民主主義」を脅かすものと見なす民主主義国の一団に加わっている。これに対し、ネタニヤフ(詐欺の罪で起訴もされている)は、イスラエルは主権国家であり、独自の決定を下すと主張している。ロシアと中国がイランと、そして憂慮すべきレベルまでサウジアラビアと結びつきを深めていることに腹を立てつつも、イスラエルは都合よくロシアと中国にすり寄ることをやめず、また、ユダヤ人国家にとっての「実存的脅威」があればいつでもイランの核施設を攻撃する権利を手放そうとしない。

中東において、米国は紛れもなくロシアと中国に場所を奪われている。この地域は戦略的転換の真っただ中にあるが、どの方向を取るかを予測することは困難である。より平和的な方向か、より対立的な方向か? いずれにせよ、米国の最大の関心事は、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の南シナ海および台湾に対する野心ではあるものの、当面の間、石油が豊富な中東は米国にとって外交上の頭痛の種であり続ける可能性が最も高い。

アミン・サイカルは、西オーストラリア大学で社会学の非常勤教授を務めている。著作に “Iran Rising: The Survival and Future of the Islamic Republic”があり、“Iran and the Arab world: a turbulent region in transition”の編者である。

INPS Japan

この記事は、2023年4月12日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

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|アフリカ|新報告書が示す資金調達と開発目標達成の道

【パリIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

アフリカは持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、2030年までに1兆6000億米ドル(毎年1940億米ドル)の資金が必要であるとする新しい報告書が発表された。2023年版「アフリカの開発ダイナミクス」は、アフリカ諸国の政府とそのパートナーに対し、投資家向けの情報を改善し、アフリカの開発金融機関の能力を高めるよう求めている。

また、地域プロジェクトを後押しすることで、アフリカ大陸はより多くの、より良い投資を呼び込み、既存のギャップを埋めることができる、と報告書は強調している。

アフリカの実質GDP成長率はコロナ以前のレベルの水準に戻り、2023年には3.7%に達すると予想されている。こうした前向きな経済見通しに加え、アフリカ大陸は投資家を惹きつける独自の人的資本(=人間の能力、スキル、知識、教育、健康などの要素)と自然資本(=地球上の自然環境や資源)を主張している。アフリカの人口の半数は19歳以下であり、高等・中等教育を修了した若者の割合は、2020年の23%から2040年には34%に達する可能性がある。

アフリカ大陸の総富(Total Wealth)の19%を占める自然資本は、持続可能な開発に投資する大きな機会を提供している。例えば、コンゴ盆地がアマゾンに次ぐ世界第二のカーボンシンク(二酸化炭素吸収源)となったことで、アフリカの森林は2011年から2020年までの間に、およそ1160万キロトンのCO2換算によるネット排出量を増加させた(=アフリカの森林が炭素吸収源となり、排出量よりも多くのCO2を吸収し、地球温暖化を緩和する上で良い影響をもたらした。)

Aerial view of the Lukenie River of central Democratic Republic of the Congo (DRC)/ By Valerius Tygart - Own work, CC BY-SA 3.0
Aerial view of the Lukenie River of central Democratic Republic of the Congo (DRC)/ By Valerius Tygart – Own work, CC BY-SA 3.0

そのような可能性があるにもかかわらず、世界的な危機により、アフリカへの投資は他の地域よりも悪影響を被っている。例えば、世界の新規投資(グリーンフィールド海外直接投資)に占めるアフリカのシェアは2020―21年には6%(過去17年間で最低)にまで落ち込んでいる。一方、他の高所得国は過去最高のシェア(61%)を記録しているのに対し、発展途上のアジアは17%、ラテンアメリカとカリブ海諸国は10%である。

アフリカにおける資本コストは、世界の他の地域よりも高くなっており(=アフリカの企業や政府が資金調達においてより高い利息や配当を支払わなければならない状況にあるため)、それにより一部のアフリカ諸国の政府は債券市場から排除される一方で、再生可能エネルギーなどの変革をもたらす分野への投資が阻害されている。

それにもかかわらず、持続可能な資金調達のギャップは埋められる可能性がある。それは、世界の金融資産の価値の0.2%未満、またはアフリカが保有する金融資産の10.5%に相当する。つまり、2030年までに世界の金融資産のわずか2.3%がアフリカに割り当てられれば、そのギャップを埋めることができるのである。ちなみに、この数値は世界GDPにおけるアフリカの割合を下回るものである。

What is the “Africa’s Development Dynamics” report? Credit: OECD Development

アフリカの資金源に関する包括的な評価に基づき、本報告書は、投資家の信頼を向上させ、アフリカ大陸における持続可能な投資を加速させるために、アフリカ諸国の政府とそのパートナーにいくつかの優先事項を提案している。その中には次のようなものがある:

  • アフリカの国家統計機関は、カントリーリスク評価のために、より多くの良質なデータを提供すべきである。同様に、投資促進機関や規制当局は、より詳細で最新の情報を、統一された使いやすい形式で提供すべきである。
  • 国際社会は、アフリカの102の開発金融機関(DFIs)の資本を増強し、国際金融と現地のプロジェクト、特に気候変動に適応するためのプロジェクトを仲介する能力を高めるために、より多くの資源を投入すべきである。
  • アフリカ諸国の政府と地域組織は、市場の分断を減らすために開発回廊やデジタルインフラストラクチャなどの国境を越えるイニシアティブの実施を加速させるべきである。さらに、中小企業に的を絞った支援を提供し、アフリカ大陸自由貿易地域(AfCFTA)の投資プロトコルの実施を積極的に監視すべきである。(原文へ

INPS Japan

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|視点|AIという魔人が瓶から解き放たれた―国連は人類のためにAIを活用する試練に挑むべき(アンワルル・チョウドリ元国連事務次長・高等代表)

【ニューヨークIPS=アンワルル・チョウドリ

最近、私は人工知能(AI)の驚異的な進歩と、そのグローバル・ガバナンスにおいて国連が果たす役割について意見を求められたとき、SF作家のアイザック・アシモフが考案し、1942年の短編小説で紹介された「ロボット工学の三法則」を思い出した。

私は、SFが現実と出会ったのだと自分に言い聞かせた。第一法則は、「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。」という最も基本的な原則を示している。この80年前の規範は、AIの世界にとって現代のシナリオに役立つだろう。

制御するAI

Ambassador Anwarul K. Chowdhury
Ambassador Anwarul K. Chowdhury

AIはエキサイティングであると同時に恐ろしい。AIの持つ意味合いと進化の可能性は、控えめに言っても非常に大きい。私たちは人類史の転換期を迎えており、現時点でもAIは人間よりもかなり賢いと言われている。

すでに「原始的な」AIでさえ、この地球上のどこに住んでいるかに関係なく、私たちの日常生活の多くの側面や活動を制御している。電子メール、カレンダー、ウーバーのような交通手段、GPS、ショッピング、その他多くの活動について、個人レベルでのグローバルな繋がりは、今やAIによって制御されている。

そして、ソーシャルメディアが私たちの思考や双方向性にどのような影響を与えるかを考えてみよう。ソーシャルメディアは明らかに危険な不確実性を注入しており、すでに社会秩序や精神的ストレスに大きな問題を引き起こしている。

AIに依存する人類:

人類はほぼ完全にAIに依存している。AIに影響されたスマートフォンが手元になければ、人類はどれほど無力になるか考えてみてほしい。AIは最も急成長しているハイテク分野であり、今後5年から7年で世界経済に15兆米ドルをもたらすと予想されている。

現在の開発段階でも、ここ数カ月でオープンAIやグーグルなどが主導する様々なAIチャットボットが登場し、良識ある専門家たちは警鐘を鳴らしている。AIの将来について尋ねられた専門家たちは、正直に 「わからない。」と答えている。

現時点では、今後5年間の発展しか予想できず、それ以上は何も予測できないというのが彼らの意見だ。世間ではChatGPT-4が次のレベルのAIとして語られているが、それはすでに到来しているのかもしれない。

AIの無限の可能性:

AIの可能性はあまりにも無限であるため、国家が数と効果の面でより多くの多様な軍備を入手することで安全保障とパワーを際限なく追求する軍拡競争に例えられてきた。

しかし、AIの場合、主役は莫大な資源を持ち、倫理的観点にとらわれない巨大ハイテク企業である。つまり利益と、それに付随して人間の活動を支配する説明のつかない力を求めてこのAI競争に参画している。

衝撃的なことに、AIの分野にはルールも規制も法律もない。すべてが自由であり、「ワイルド・ワイルド・ウェスト」に例えられる。

核とAI

ICAN
ICAN

専門家たちは、AIを核技術の出現になぞらえている。核技術は、人類の利益のために有効利用されることもあれば、滅亡のために使われることもある。彼らはAIを核兵器以上に強力な大量破壊兵器とまで呼んでいる。核兵器は、より強力な核兵器を生み出すことはできない。しかし、AIはより強力なAIを生み出すことができる。

心配なのは、AIがそれ自体でより強力になるにつれて制御不能になり、むしろ人間を制御する能力を持つようになることだ。原子力技術のように、AIもいまさら「発明しなかった」ことにはできない。そのため、このような最先端技術によるまだ十分に知られていないリスクは続いている。

存亡の危機

医療分野、気象予測、気候変動の影響緩和、その他多くの分野でAIが有益に利用される可能性があることを認識する一方で、専門家たちは、AIの超知能が「存亡の危機」、おそらくは現在進行中の気候危機よりもはるかに破滅的で差し迫ったものになるだろうと警鐘を鳴らしている。

主な懸念は、グローバル・ガバナンスと規制の取り決めがない場合、悪質な行為者が社会や、個人、或いは地球全体に資する以外の動機でAIに関与する可能性があることだ。よく知られている通り、巨大ハイテク企業はこのような前向きな目的によって動いているわけではない。

AIは深刻な破壊的効果をもたらす可能性がある。今年5月、米国の失業統計は史上初めてAIを失業理由に挙げた。

規制に縛られない悪質業者

規制に縛られない悪質な業者は、AIの力を悪用し、雪崩を打つように大量の偽情報を発信し、人類の多くの層の意見に悪影響を及ぼすことで、例えば選挙プロセスを混乱させ、民主主義や民主主義制度を破壊する可能性がある。AI技術は、例えば化学知識の分野では、規制制度なしに化学兵器を製造するために使われる可能性がある。

私たちは、AIがどのようなテーマについても説得力のある物語を作ることに長けていることを理解する必要がある。その種のものには誰でも騙される可能性がある。人間は常に理性的とは限らないので、AIの使用は理性的で肯定的なものとはなりえない。AIが人類に脅威を与えないよう、悪質な行為者を制御しなればならない。

国連がAIのグローバル・ガバナンスを主導すべき

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

これらの点はすべて、グローバル・ガバナンスに非常に有利に働く。誰がこの問題を主導すべきかと問われれば、私は「もちろん国連だ!」と力強く答えるだろう。

世界的な規範設定機関としての国連の専門性、信頼性、普遍性は、AIの規制規範設定とその進化において明らかに役割を担っている。

道徳的・倫理的な問題や、基本的な世界的原則(人権、特に第3世代の人権、平和の文化、平和構築、紛争解決、グッドガバナンス、民主的制度、自由で公正な選挙等)は、AIの猛攻から守る必要がある。

また、AIの世界的な利用が各国政府に及ぼす影響を検討し、対処することも同様に重要であり、国家の主権に影響を与える。AIが現在あるいは将来の政府間交渉プロセスに影響を及ぼしうるかどうかについても、検討する価値があるだろう。

国連機関とそのAI関連活動の意味合い

最近、2つの国連機関がAI関連の活動を発表した。ユネスコは、5月末に閣僚レベルのバーチャル会議を開催し、選ばれた参加者とともに、AIを利用している教育機関は10%未満であるという統計を共有したと伝えた。ユネスコはソフトウェアツールChatGPTを「大流行」していると説明した。国連の機関が、巨大ハイテク企業の製品をこのように推奨すべきではなかった。

国際電気通信連合(ITU)は、自らを「国連技術機関」と称し、7月初旬に「よりよき世界のためのAIグローバルサミット」を開催すると発表した。このサミットは、人工知能とロボット工学がどのように善の力となりうるかについての世界的対話の一環として、AIとロボット技術を紹介するものである。

いわゆる国連技術機関は、「AIと技術に関する業界幹部、政府高官、オピニオンリーダーたちとのイベント」と並んで、「国連初のロボット記者会見」を開催した功績を称えた。

ハイテク企業との交流や協力協定締結のガイドラインを示す国連システム全体の警告が必要だ。AI技術は急速に発展しているため、国連機関のひとつやふたつが誤った行動をとる可能性があることを認識する必要がある。

現在の開発水準でも、AIはChatGPTやロボット技術を大きく超越し、巨大ハイテク企業による利益追求が進められている。このことは、善意ある全ての人々にとって大きな懸念事項となっている。

これらの国連機関は、(AIについて)「…不適切または悪意を持って使用されると、それらは国内外の分裂を助長し、不安定を増大させ、人権を侵害し、不平等を悪化させる可能性がある。」と警告した「国連創設75周年記念宣言(国連総会決議75/1として2021年9月21日に採択)」の一部を見落としているか、あるいは無視している。これらの警告の言葉は、すべての人があらゆる真剣さをもって完全に遵守すべきである。

国連事務総長の「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」はAIに言及している:

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

グテーレス事務総長は、2021年9月に発表した報告書『私たちの共通の課題』の中で、「複雑な世界的危機に対応するため、加盟国と協力し、緊急プラットフォームを設立する。」ことを約束している。そしてそのプラットフォームは、「新たな常設または常置の機関ではなく、危機の規模や重要度に応じて自動的に活性化され、その種類や性質に関係なく対応する。」と説明している。

AIは間違いなくそのような「複雑な世界的危機」の一つであり、事務総長がこの課題にどのように対処するつもりなのか、その考えを正式に共有すべき時が来ている。

グテーレス事務総長が2024年9月に開催する「未来サミット」で、国連権限によるAIの世界的な規制体制について議論するのでは遅すぎる。その時間枠では、AI技術は進展し、どんな形でも国際的なガバナンスが不可能になるだろう。

AIという魔人は既に瓶から解き放たれている

AIという魔神はすでに瓶から解き放たれている。国連は、AIという魔神が人類と地球の最善の利益に役立つようにする必要がある。

AIの影響は非常に広範かつ包括的であり、OCAがカバーするすべての分野に関連し、的確に作用する。グテーレス事務総長は、来年の未来サミットを待たずに、何をすべきかについて独自の提言を出すべきだろう。

AIによって影響を受ける私たちの未来は、今すぐ対処する必要がある。AIは想像を絶するスピードで拡散している。国連を率いるグローバル・リーダーである事務総長は、この課題の深刻さを軽視すべきではない。事務総長は、加盟国間のコンセンサスを待つことなく、今すぐ行動を開始する必要がある。

国連はAIを規制し、効果的かつ効率的なグローバル・ガバナンスを確保する:

『私たちの共通の課題』は、12のコミットメントにまたがる主要な提案として、「AIを世界共通の価値観に沿うように規制・促進する」ことを挙げている。

『私たちの共通の課題』においてグテーレス事務総長は、「私たちが直面している連動した問題に対する解決策を見出すことができるかどうかは、来るべき大きなリスクを予測し、予防し、備えることができるかどうかにかかっている。」と主張している。

このため、私たちが行うすべての活動において、活性化された包括的な予防アジェンダが最重要課題となっている。グローバルな公共財が提供されないところでは、人間の福祉に対する深刻なリスクや脅威という形で、グローバルな公共「悪」が発生する。

これらのリスクは今やますますグローバル化し、潜在的な影響力も大きくなっている。なかには実存的なものさえある。このようなリスクを予防し、それに対応する準備をすることは、グローバル・コモンズとグローバル公共財をよりよく管理するために不可欠な対案である。

UN Photo
UN Photo

国際社会は、国連の指導部がすでに、この局面でとるべき措置を熟知していることを知り、安心すべきである。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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|カリブ海地域|気候変動が水危機を引き起こす

【ポートオブスペイン(トリニダード)IDN=リンダ・ハッチンソン=ジャファール】

世界全体で推定40億人が水不足に見舞われる中、6月初めに開催された地域会議では、カリブ海地域の小島嶼国が直面している特有の問題が取り上げられた。その中には、カリブ海の水循環に大きな影響を及ぼしている気候変動の問題も含まれている。

気候変動によって水不足が加速し、干ばつの頻度や厳しさが強まるなど、水を巡る環境は厳しさを増している。同時に、財源不足が水不足問題への対処を妨げている。

バルバドスで6月6・7両日に開催された「カリブ海地域水会議」では、同地域が直面している厳しい水危機に対処する行動が緊急に求められていることが強調された。

Barbados Prime Minister, Mia Mottley
Barbados Prime Minister, Mia Mottley

バルバドスのミア・モトリー首相(写真右)は会議冒頭の演説で、海水の浸入、降水量の減少、蒸発の加速といった状況の中で、基本的な水インフラの整備にかける資金調達においてすら、各国が法外な金額を高利で短期借り入れせざるを得ない理不尽さを強調した。

モトリー首相は、水危機は「現代における最大の課題」であって小島嶼国には深刻な問題であり、様々な面で早急な対策が必要であると主張した。また、気候変動の影響に加え、限られた資源と資金調達へのアクセスが、この地域の脆弱性を悪化させていると付け加えた。

The Caribbean Water Conference in Barbados Credit: BWA
SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

国連環境計画のクリス・コービン調整官は、「気候変動が水資源に及ぼす影響は多岐にわたり、既存の問題を悪化させ、この限りある資源を巡る競争が激しさを増しています。また、ラテンアメリカ・カリブ海地域の水資源の状況は深刻です。」と指摘した。現在、同地域の人口の25%の人々が安全な飲料水にアクセスできず、それによって水系感染症や他の健康リスクにさらされている。また、域内人口の60%が安全な衛生サービスを利用できておらず、公衆衛生と環境の維持に対するリスクとなっている。

「水利用を巡る競争は気候変動によって悪化しています。老朽化したインフラ、人間の健康、生態系の保全に対する水の需要について、どのようにバランスをとっていけるでしょう。」とコービン調整官は疑問を呈した。

カリブ共同体(CARICOM:構成20カ国)のアームストロング・アレクシス事務次長もまた、気温の上昇、降雨量の減少、干ばつの長期化、砂漠化、塩害、ハリケーンの大型化といった気候変動がもたらす問題が、カリブ海の水資源に深刻な影響を及ぼしていることを強調した。

このような問題は、国土が狭い小国や低平地国では、水資源を開発する際に利用できる選択肢が限られていることから、一層悪化している。アレクシス事務次長は、「このような国々では、淡水の供給を含む物質的な資源や、その資源を生み出す能力が限られていることを意味します。」と語った。

アレクシス事務次長はさらに、「私たちは重大な岐路に立たされており、時宜を得た今回の会議は、この地域で進行中の水管理上のニーズを(適切な文脈の中で)位置づけるのに役立つはずです。国際社会による対応は、資源に乏しい国々のニーズを満たすには不適切な規模でしかありません。」と指摘した。

Map of the Caribbean Sea and its islands./ By Kmusser - Own work, all data from Vector Map., CC BY-SA 3.0
Map of the Caribbean Sea and its islands./ By Kmusser – Own work, all data from Vector Map., CC BY-SA 3.0

パネルディスカッションに登壇した国立海洋大気機構(NOAA)物理科学研究所のロジャー・パルワーティ主任研究員は、カリブ海地域の小島嶼国が直面している水関連の問題の主な要因について、「ハリケーンでも、海抜面の上昇でもなく、飲み水の不足が主な要因です。そこで、大気中に拡散した水蒸気の動きに関する理解が、この地域における水利用を決定する上で不可欠です。水危機の進行状況に鑑みれば、調整と対策を講じる努力が不足していることは明らかです。」と語った。

「まるで異なるゲームをしているようで、そのために一連のパラドックスが発生しています。一滴の水を確保し環境を守ることに最大の経済的価値を置こうではありませんか。人びとが平等に飲み水を手に入れることができるよう協力しようではありませんか。」と、パルワーティ主任研究員は語った。彼は、トリニダード・トバゴの科学者で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にも協力した。この問題を解決するためなら水道の民営化もいとわない姿勢だ。

米国際開発庁の気候問題専門官で次官補代理のギリアン・キャドウェル氏は、「水は生命の本質です。そしてこの限られた資源は、今日人類が直面している最も緊急の課題を巡る闘争の場となっています。洪水や台風から、現在『アフリカの角』地域を襲っている干ばつに至るまで、気候関連災害の9割近くが水関連のものです。」と指摘した。

これらの問題は深刻度が増しており、国際連合児童基金(ユニセフ)は、世界のおよそ40億人が今日水不足に直面しており、2025年までには世界の人口の5割が、少なくとも年に1カ月は深刻な水不足に見舞われることになると予想している。

キャドウェル氏は、「この危機的状況の背景には、多面的な理由があります。世界は降雨量の劇的な増加と減少の両方を目の当たりにしており、水に関連した不規則な出来事を引き起こし、水の供給や廃棄物管理システムに必要な重要インフラに大きな損害を与えています。また、急速な都市化も問題の悪化に寄与しており、水不足の悪影響が社会に行き渡って、生活の様々な局面に影響を及ぼしています。生産性は低下し、物価は上昇し、栄養が不足して子どもに悪影響を及ぼしています。つまり知的にも身体的にも成長を阻害しているのです。水は生命そのものであり、死を意味することもありえるのです。」と語った。

カリブ共同体気候変動センター(CCCCC)のコリン・ヤング センター長は、バルバドスのモトリー首相が提起した問題に改めて触れた。とりわけ、気候変動に関連した水問題に対応するための融資を求めている小国が直面する課題を指摘し、脆弱な国々が緊急の気候変動問題に効果的に対処する能力を妨げている複雑で断片的なプロセスを強調した。

ヤングセンター長はまた、「適切な資金調達が困難が現状が、気候変動の影響に対応しようともがいているカリブ海諸国にとって高いハードルとなっています。国際的な気候変動関連の金融枠組みは世界の最も脆弱な国々のニーズを満たせていません。制度があまりに複雑で、実行があまりに遅く、私たちが直面している事態の緊急性に見合ったものが提供されていません。」と語った。

さらに、「気候変動資金を提供するために、『グリーン気候ファンド』や二国間取決めのような様々な資金調達メカニズムが設立されてきました。しかし、現実には様々なドナーがバラバラに、かつ異なった基準の下で動いており、協調的な金融の要件を各国が満たすことが難しくなっています。このような分断された金融状況が、水不足に対応するための資金調達を困難にしているのです。例えばカリブ海諸国向けの水プログラムを開発するためには、まとまった地域的枠組みではなく、国ごとのアプローチを進める必要があります。」と指摘した。

モトリー首相は会議冒頭の演説で「実際には、地球の人々と地球のバランスを保つために不可欠な要素である生物多様性に対して国際社会は適切に行動することが重要です。そのためには、諸国が市民を守る水インフラ構築のために利息が二桁にもなる短期融資に依存せざるを得ない状況を強いらないようにする必要があります。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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【フロリダIPS=ジャニーン・モーナ】

「私の人生は台無しにされました。」と、最近までシリア北東部の武装組織「イスラム国」(IS)支配下で暮らしていたアンワルは、記者にトラウマ的な体験について証言した。

アンワル(仮名)が14歳か15歳だった2018年頃、ISのメンバーである彼の父親は、ISの軍事訓練を強要した。また、ISの規則に違反した人々を残忍に罰する光景を強制的に見せたりもした。

苦しみは耐え難いものだった。アンワルは何度も父親やISの支配地域から逃げようとした。「みんなが憎かった。」とアンワルは回想する。

Recommendations for the Secretary-General’s 2023 Annual Report on Children and Armed Conflict
Recommendations for the Secretary-General’s 2023 Annual Report on Children and Armed Conflict

2011年、ISの活動が再びイラクで活発化し始めると、国連はいち早く、武装集団が子どもたちに対して犯した侵害行為を文書化した。その年、国連事務総長は、「子どもと武力紛争」に関する年次報告書にISを掲載した。国連は、将来における人権侵害の発生を防止する取り組みの一環として、この報告書に記載された当該団体と行動計画について交渉することを求められている。

年次報告書は多くの文脈で行動を促す強力なツールだが、ISのように国連との対話に応じそうにない加害団体にはほとんど影響を与えていない。

過去11年間、年次報告書に掲載された数多くの加害団体は、「永続的な加害団体(Persistent Perpetrators)」に分類することが可能だ。つまり、5年以上連続して報告書に掲載され、子どもたちに対する侵害行為について報告に応じなかった武装グループや勢力である。ISは過去13年間、連続して報告書に掲載されている。

国連安保理はこれまでも、こうした加害団体や集団による人権侵害に対処することの重要性を強調する決議を採択し、2021年に公開討論会を開催するなど、永続的な加害団体の問題に焦点を当ててきた。また、手に負えない加害団体に対する制裁を推進する努力も行ってきた。

A young refugee boy, pictured in a temporary displacement camp in Kalak, Iraq, in June 2014. Credit: Amnesty International
A young refugee boy, pictured in a temporary displacement camp in Kalak, Iraq, in June 2014. Credit: Amnesty International

こうした取り組みにもかかわらず、国連安全保障理事会とその下部組織である「子どもと武力紛争に関する安保理作業部会(WG)」は、有意義な説明責任を支援するために、さらにもっと多くのことができるはずだ。

子どもに対する犯罪の国内起訴

作業部会は、子どもと武力紛争に関する国連安保理のアジェンダを遂行する主要な機関として、国連とその援助国に対し、子どもに対する重大な人権侵害を犯罪とする国内法の整備と実施を支援するよう要請を強化すべきである。また、国際的な公正裁判の基準に沿って、説明責任を追求するために、各国の刑事司法制度を支援すべきである。

今日、イラクやシリアのIS、ナイジェリアのボコ・ハラムなど、非国家主体による重大な人権侵害に関わった加害者を訴追する事例の多くは、当該国の反テロ法廷で行われているが、多くの場合、子どもに対する犯罪はおろか、国際法上の犯罪すら裁けていない。

作業部会は、国際犯罪を裁くことのできる国内裁判所で、こうした集団の構成員を裁くよう奨励しなければならない。起訴は、犯罪が行われた国や、関連する場合には、普遍的管轄権(ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪など、深刻な国際犯罪の容疑者を逮捕した国が、発生場所や容疑者の国籍にかかわらず訴追できる権利)を行使する国でも行うことができる。

子どもに対する犯罪に関する裁判が反テロ法廷で行われる場合、関係当局は検察官と裁判官が国際法を活用できるようにし、訴追のために十分な資源を提供し、被告人が公正な裁判を受ける権利を十分に行使できるようにしなければならない。

武装集団や武装勢力に加担した子どもたちが関与する場合、国家は、国際基準に従って、加担中の罪に問われた子どもたちを、加害者としてだけでなく、主として国際法違反の被害者として扱うべきである。子どもたちは、武装集団や勢力に所属しているというだけで、決して訴追されるべきではない。

国際刑事裁判所やその他の国際的メカニズムへの協力

The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands
The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands

国内の法制度が、子どもに対する犯罪の訴追を追求できない、あるいは追求する意志がない状況においては、作業部会は、国際刑事裁判所(ICC)や、説明責任を果たすためにシリア国際公平独立メカニズム(IIIM)やミャンマーに関する独立調査メカニズムのような他の国際司法メカニズムと協力する機会を探るべきである。

この種の協力は、作業部会が子どもたちに対する重大な侵害に対応するために取り得る行動リストを最初に採択した際に想定されていたものである。国際司法メカニズム間の効果的な協力は、包括的な正義を実現するために不可欠である。

作業部会とICCとの関わりは、これまで限定的なものであったが、今こそ両機関間のつながりをさらに発展させる時である。ICC検事局は、「関連する主体との協力を強化する」機会を歓迎しており、今年初めには、「有意義な変化に影響を与えるために……(中略)新たなアプローチを基礎とする」子どもに関する方針を刷新するための公開協議を開始した。

過去に、一部の作業部会メンバーは、締約国がICCの管轄内で戦争犯罪やその他の犯罪を犯した可能性が高い場合、それを示すことを検討した。また、ICCと結論を共有し、ICCの検察官が作業部会とブリーフィングを共有する可能性も検討した。

10年前、作業部会の一部のメンバーは、国連安全保障理事会の付託がない場合、武装集団や勢力が子どもに対する重大な侵害を犯した状況をICCに付託するよう、ローマ規程の締約国に呼びかけることも検討した。残念ながら、当時ICCについては理事国間で意見の隔たりが大きく、こうした勧告の採択は制限されていた。

子供たちは保護されなければならない

7月5日、国連安保理は、「子どもと武力紛争」に関する年次公開討論会を開催する。この機会は、すべての国連加盟国に対し、子どもに対する権利侵害に対する説明責任を拡大・強化する努力を公に約束する機会を提供するものである。

その第一歩として、加盟国は国連事務総長に対し、2017年に中止された、子どもと武力紛争に関する年次報告書において「永続的な加害団体(Persistent Perpetrators)」を再び特定するよう求めるべきである。

国連安保理事会には、子どもに対する犯罪の加害者である世界有数の悪質な犯罪集団に対して、より積極的な行動を起こす権限がある。アンワルのような子どもたちが、正義と説明責任が果たされるまで、これほど長い間待たなければならない現状は容認できない。(原文へ

*ジャニーン・モーナはアムネスティ・インターナショナル危機対応プログラム、テーマ(子ども)研究員。

INPS Japan/ IPS UN Bureau

「子どもと武力紛争」に関する年次報告書2023:国連はこの報告書のウクライナ紛争に言及したセクションにおいて、「ロシア軍と親ロシア派武装勢力の爆弾などの攻撃によって136人の子どもが死亡、518人がけがをした」と認定した。また、「施設の周囲などに人を配置し、敵の攻撃を避けるいわゆる『人間の盾』として、ロシア軍などによって90人の子どもが使われた」と指摘。こうした行為の結果、ロシアを安保理の常任理事国としては初めて、子どもの人権を侵害した国の1つに指定した。

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先住民の知識は解決策をもたらすが、その利用は先住民コミュニティーとの有意義な協働に基づかなければならない

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タラ・マカリスター、ケイト・マキニス・ン、ダン・ヒクロア】

本記事は、2023年3月30日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいて再掲載されたものです。

地球環境問題が拡大する中、人々や地域社会は次第に先住民の知識に解決を求めるようになっている。

気候変動に取り組む上で、先住民の知識は特に魅力的である。なぜならそれは、長い歴史と、自然と共にその一部として生きるための指針を含んでいるからである。それはまた、環境における生物と無生物の相互作用に関する総合的な理解に基づいている。(

しかし、先住民社会との意味のある協働がなければ、彼らの知識の利用は見かけだけの、搾取的な、さらには有害なものとさえなり得る。

筆者らが新たに発表した研究は、「カイティアキタンガ(kaitiakitanga)」という概念についてである。この言葉は、保護、保全、あるいは「世代から世代への持続可能の原則と実践」と訳されることが多い。

西洋的教育を受けた科学者には、マオリのパートナーとして共同作業を行い、環境保全や資源管理の活動においてマオリの価値観や知識をしっかりと認識するよう勧めたい。

先住民の知識には、数千年にわたり世界中の先住民によって培われてきた工夫や観察、口承や文字による歴史などが含まれている。

このような知識は、生きており、動的で、進化している。アオテアロア(ニュージーランド)では、マオリによって培われた知識を特にマータウランガ・マオリ(mātauranga Māori)という。これには、彼らの文化、価値観、世界観などが込められている。

カイティアキタンガという概念は、アオテアロアにおける自然保護や資源管理に関連してしばしば(誤って)使用される。筆者らの研究では、カイティアキタンガと他の概念は本質的に結び付いていることを強調している。これらの概念をそのまま翻訳することは難しいが、ティカンガ(マオリの習慣)、ファカパパ(家系)、ランガティラタンガ(主権)、その他多くの概念を含んでいる。

「カイティアキタンガ」と「自然保護」の概念的相違の一つを挙げると、カイティアキタンガの場合、われわれは自分たちをテ・タイアオ(自然環境)の一部と見なしており、それに基づいて関係性を築いている。一方、自然保護は、人間があたかも自然環境から切り離されているかのように、環境を管理するという観点が特徴的である。

ジョー・ウィリアムズ判事は、カイティアキタンガを「自分自身を大切にする義務」と表現し、人間と環境の本質的な結び付きを示している。

カイティアキタンガを単純化して定義することには気をつけるべきである。その文化的背景から切り離して使われていることが多いからだ。単純化した定義付けによって概念の豊かさが損なわれ、カイティアキタンガがどのように概念化され実践されているかの違いが認識できなくなる。

それよりもむしろ、西洋的教育を受けた科学者には、カイティアキタンガを支える概念への理解を深め、マナフェヌア(土地の人々)と協力してさらに理解を発展させることを勧めたい。

マナフェヌアと研究者の共同作業が成功を収める事例が増えている。こういったプロジェクトを調査することで、研究者らは、有効かつ敬意ある形で貢献する方法について知見を得ることができるだろう。

例えば、マールボロ・サウンド地方で伝統的に行われているハイイロミズナギドリ(鳥)の狩猟と管理に関する研究から、種の保存管理に文化的収穫を織り込むことの重要性が分かる。

 同様に、希少種を移植する際に先住民の知識を中心に置くことによって、保全の成果を高めることができる。

ラフイ とは、特定の資源や土地への立ち入りを制限し、その回復を可能にするために、マナフェヌアが用いることがある慣習的なプロセスである。これには環境問題への総合的理解と、社会的・政治的コントロールが含まれている。

ラフイは、ワイタケレ山脈でカウリの木の立ち枯れ病が広がるのを防ぐために利用された。また、ワイヘケ島の海産物(カイモアナ=海から採れる食料、ホタテ貝、ムール貝、クレイフィッシュ、パウア貝など)を保護するためにも利用された。

このほか、森林、湖、海岸、海域を数日から数十年の期間にわたってカバーするラフイの例がある。ラフイは広く行われているが、地域の状況による特異性が高い。イウィ(マオリの同族集団)がラフイを実施するためには、ランガティラタンガ(首長権、権限行使権)を有している必要がある。なぜなら、カイティアキタンガはランガティラタンガの存在確認であり、具現化であるからだ。

マオリ族の研究者とコミュニティーに力を与えることが、価値ある協働を実現するために重要である。非マオリの研究者には、自身の訓練と知識の限界を認識したうえでパートナーシップに取り組むことを勧める。

知的謙虚さを持つことで、意味のある共同作業の条件が整う可能性が高まる。協働関係の構築と維持は時間がかかるが、筆者らの協働経験では、時間をかけて信頼と理解をはぐくむことは実りある成果を収めるために極めて重要である。

筆者らの研究が、実績ある実践者にとっても学生にとっても多少のインスピレーションや助言となれば幸いである。

マータウランガと生態系がどのように相互作用し得るかについては、このほかにも多くの事例がある。学術誌“The New Zealand Journal of Marine and Freshwater Research”は、マータウランガ・マオリとそれが海洋保全にどのように寄与しているかを特集した特別号を発行している。このほか、敬意ある協働が科学教育研究成果の向上にいかに有効であるかを検討した学術誌もある。

タラ・マカリスターは、「ビジョン・マータウランガ能力基金」の助成を受けている。
ケイト・マキニス・ンは、「テ・プナハ・ヒヒコ:ビジョン・マータウランガ能力基金」および、「テ・プナハ・マタティニ」の助成を受けている。
ダン・ヒクロアは、「マーズデン(Marsden)」「企業・革新技術・雇用省(MBIE)」「テ・プナハ・マタティニ、ナ・パエ・オ・テ・マラマタンガ」の助成を受けている。UNESCOニュージーランドの文化担当理事、環境保護機関「ナ・カイホトゥ・ティカンガ・タイアオ」のメンバーおよび暫定ポー・ヘレンガ(Pou Herenga=まとめ役)を務めている。

INPS Japan

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タイの「足るを知る経済」哲学がラオスで実を結ぶ

【ビエンチャンIDN=パッタマ・ビライラート】

「足るを知る経済」という言葉が有名になったのは、1997年のアジア金融危機の最中のことであった。タイの故プミポン・アドゥンヤデート国王が国民に対して、「もうひとつの『アジアの虎』になるために工場を建設するよりも、国民にとって重要なことは『足るを知る経済』を実現することだ。」と呼びかけたのだ。

Bhumibol Adulyadej/ By John Dominis, Public Domain
Bhumibol Adulyadej/ By John Dominis, Public Domain

「『足るを知る経済』とは、経済がほどよく持ち、ほどよく食する様であり、このようにほどよく持ち、ほどよく食することが自己の維持となり、自身にも十分と思わせることである。」とプミポン国王は述べた。それ以来、この経済発展の理論が2万3000以上のタイの村々で採用されてきた。そして今、隣国のラオスにも広がりつつある。

首都ビエンチャンの活気に満ちた「朝市」からわずか13キロのところにあるドンカムサン農業技術大学の校内に、「足るを知る経済哲学を基盤とした持続可能な農業開発学習センター」がある。この「学習センター」は、学生が有機農産物の栽培、魚の養殖、畜産の方法を学べる場所を提供している。

「ビエンチャンはきわめて近代的で、農業部門で働く人はどんどん少なくなっています。」と、タイ国際協力庁のヴィティダ・スバクア氏はIDNの取材に対して語った。

スバクア氏の言葉は、ラオス計画投資省全国統計局が行った調査によっても裏付けられている。同調査によると、ラオスの農業人口はこの10年で激減しており、「2010年の全人口(700万人)中の77%から、2020年には69%まで減っている。都市部で働くために農業を辞めているからだ。」という。

ラオス農業の推進力を維持し、農業社会を支える農学生を育てるべく、ドンカムサン農業技術大学校のチッタコーン・シサノン校長は、「足るを知る経済哲学を基盤とした持続可能な農業開発学習センター」を新設することとした。

シサノン校長は、自身が2003年から06年にかけてタイに留学し、同国の足るを知る経済の学習センターを訪問したことで、同じような学習センターをラオスにも設置する構想を固めていった、とIDNの取材に対して語った。ラオスとタイの自然資源には類似したところがあり、ラオスにもこのような農業学習センターを作ることは可能だと考えたという。

Map of Laos
Map of Laos

タイ国際協力庁が2007年にラオスのシサノン校長の大学を訪問したことで、この構想は実現することになった。「当大学の教育アプローチは『足るを知る経済』と親和的なものであったため、私はタイ国際協力庁に接触して、当校の教員や学生、近隣の住民がこの経済のアプローチによって農業を学ぶ場を得られる学習センターの設置を持ちかけたのです。」とシサノン校長は語った。

タイ国際協力庁のスバクア氏は、「『足るを知る経済』哲学は、1990年代の金融危機に対処する中で生まれてきたものであり、タイ政府はこの哲学を経済活性化のために応用し、結果としてそれ以降、タイの国家経済社会開発計画に盛り込まれるようになりました。」と指摘した上で、「タイはかつて援助受け入れ国でしたが、開発援助を受ける傍ら、他国からノウハウを学びタイの文脈に応用していきました。1963年以降は徐々に援助国に転じ、自らの経験を他国に与えることができるようになってきています。」と、目を輝かせながら語った。

「この経済哲学の中核的なテーマは、『理解し、アプローチし、発展させる』です。したがって、この経済哲学のアプローチを実際の開発プロジェクトに反映させる前に、援助対象国と会合を繰り返して、彼らがどんな支援を必要としているのかを理解することを心がけています。ひとたび援助受け入れ国のニーズを理解したら、タイの関係省庁と連携して、援助プロジェクトの調整・策定を進めていくのです。」とスバクア氏は付加えた。

足るを知る経済」には、中庸(節度)・道理(妥当性)・自己免疫力の三つの要素に加え、適切な知識と道徳という二つの条件がある。中庸とは、「多すぎず、少なすぎず」という意味で理性と共に応用されるもので、仏教的な中庸の道を基礎にした東洋的な概念である。合理性は、何らかの選択をするにあたって、学理や法的原則、道徳的価値、社会的規範によってそれが正当化される、という意味である。そして自己免疫力とは、優れたリスク管理を行うことで、内外の変化によって起きるリスクに対して、自己充足的に柔軟な対応をすることを強調するものである。

この学習センターで牛の世話をしているアヌソン・サヤボンさんは、「私はこの経済哲学が意味するところを十分理解していると思います。私の家族は、他の兄弟のように家の農地で働くのではなく、私がこの大学の農業開発学習センターで勉強することを望みました。ここでは生産管理や土壌を豊かにする方法を学べるので、入学した甲斐はあったと思います。気候変動で自然の生産力が不安定になっていることから、ここでの学習は今後ますます必要なことだと思います。」と語った。

「この学習センターは、畜産実習と植物栽培という農業の2大領域を網羅しています。私は畜産の方の責任者ですから、毎朝ここにきて牛の面倒をみています。牛が病気になっていたら、注射もします。一方クラスメート達は、大学の構内の反対側にある農地で農作物を育てています。」とサヤボンさんは語った。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

シサノン校長はサヤボンさんの説明を補足して、「実際、当校の学習センターには22の学習施設があり、創設以来、それぞれの施設が、コオロギやカエルの培養施設の例にみられるように地元の農業のやり方に合わせています。時間をかけて、一部の施設では市場で売れる製品を作るようになってきています。『足るを知る経済』哲学とは単に家族のニーズを満たすための農産品を作ることだけにあるのではなく、持続可能な生活の方法を見つけることでもあります。従って、より広域の市場で自分たちが育てた農産物を売れるようにするための努力をしているのです。」と付け加えた。

「例えば、有機メロンが最も売れ筋ですが、市場の需要を満たせていません。近隣の住民は当学習センター産のメロンには化学薬品を使っていないことを知っているので、メロン自体は簡単に売れます。そこでこの有機メロンをウェブサイトでも宣伝し、潜在的な顧客層を広げる取り組みをしています。そうすることで、当校の教員は販売利益を学習センターの運用費用に充てることができます。『足るを知る経済』哲学とはそういうものだと私は理解しています。」とシサノン校長は語った。

ラオスの「ビジョン2030」と「社会経済開発戦略10年計画(2016~2025)」には、2030年に向けた農業部門のビジョンとして、「食料安全保障を確保し、比較優位で競争力のある農産品を生産し、クリーンかつ安全で持続可能な農業を発展させ、強靭で生産性の高い農業経済の近代化に段階的に移行し、地域の発展を国家全体の経済基盤へと結び付けていく」ことを目指すと記されている。

このビジョンに基づき、ラオス政府は農業、大工、金属加工、建築を学ぶ者に月20万キップ(11米ドル)を支給しているが、これらの分野で学びたい10代の若者はわずかである。

ラオス国立大学の学者であるホマラ・フェンシサナポンさんは、大学生が減っているとの懸念を口にした。「2019年以来、ラオスの学生の数は小学校から大学レベルまで38%減少しました。コロナ禍もそうですが、親が子供を養うための十分なお金を持っていないことが主な理由です。」

シサノン校長も同じ見方だ。「現在、ラオスの生活費はインフレのために高騰しています。世界銀行やアジア開発銀行もラオス政府を通じて融資をしていますが、多くの人々は融資を受けられません。そこで私は、この学習センターの運営を持続可能なものにして長期的には教員と生徒に収入をもたらすことができるよう取り組んでいます。」

JICA Logo
JICA Logo

「毎年、さまざまな開発組織から多くの訪問客があります。現在は、日本の国際協力機構(JICA)の支援を得て教員達にマーケティングを学ばせています。研修後は、ここの農産物をオンラインで販売したいと考えています。また、センター前に店舗を開設する資金提供を世界銀行に働きかけており、2025年にはセンターを観光客に開放したいと考えています。こうした取り組みを通じてこの施設と関係者の生活はなんとか維持されるでしょう。」とシサノン校長は語った。

ドンカムサン農業技術大学が、「足るを知る経済」哲学を実践しているラオス唯一の機関ではない。今ではアッタプーボケオカムアンサイニャブリーの4か所にも「足るを知る経済哲学を基盤とした持続可能な農業開発学習センター」は展開している。

「ラオスは言語や文化面でタイと変わらないので、『足るを知る経済』アプローチが実りある結果をもたらすことができるのです。」とタイ国際協力庁のスバクア氏は語り、さらには、ラオスだけではなく東ティモールもこの経済哲学を応用しているという。「タイの農民が東ティモールの農民の指導者にこの経済哲学をどう農業分野に応用するかを教えています。今や彼らは自身を訓練できるようになってきています。このように国際協力を通じて開発コンセプトを具体化していくのがタイ国際開発庁の使命です。」(原文へ

[1]『タイ人間開発報告2007:充足経済と人間開発』(バンコク、国連開発計画)

INPS Japan

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年間50件以上の紛争による死者数の増加

【国連IDN=タリフ・ディーン

世界の武力紛争による死者数は、2022年だけで23万7000人を超え、そのほとんどがウクライナとエチオピアの戦争によるものである。

オスロ平和研究所(PRIO)が6月7日に発表した新たな調査報告書によると、2022年の戦闘関連死者数は、エチオピアのティグレ地方での戦争が10万人以上を占め、ロシアによるウクライナ侵攻(8万1000人以上)よりも多い。

Photo: Ethiopian federal government's "final offensive" against Tigray regional forces. Credit: Ethiopian News Agency
Photo: Ethiopian federal government’s “final offensive” against Tigray regional forces. Credit: Ethiopian News Agency

「オスロ平和研究所のシリ・アース・ルスタッド教授は、「2022年、エチオピア戦争は、ウクライナ、イエメン、ミャンマー、ナイジェリア、ソマリア、マリ、ブルキナファソにおける戦闘関連死者数の合計を上回る犠牲者を生んでいます。ロシアのウクライナ侵攻が世界的にニュースの見出しを飾った一方で、エチオピアではかつてない規模の残虐行為が横行していました。」と語った。

最新の統計によれば、2022年には1994年以来、どの年よりも多くの武力紛争、戦闘に関連した死者が出ている。ウクライナとエチオピアにおける戦争が、2022年の戦闘関連死者数(23万7000人超)の主な原因となっている。

オスロ平和研究所の調査報告書「紛争のトレンド:A Global Overview, 1946-2022」は、1946年から2022年までの世界の紛争動向を分析したもので、社会科学の研究者やジャーナリスト及び政治家によって利用されている。

この調査は、スウェーデンのウプサラ大学の紛争データ・プログラムが毎年収集しているデータを使用している。

Conflict Trends: A Global Overview, 1946–2022・Photo:PRIO
Conflict Trends: A Global Overview, 1946–2022・Photo:PRIO

一方、国際の平和と安全の維持を使命とする国連は、主に国連安保理における新冷戦(一方が中国とロシア、もう一方が米国、英国とフランス)を背景に、ウクライナ、イエメン、アフガニスタン、シリア、エチオピア、スーダンなど、現在進行中の紛争や内戦の解決に失敗している。

ウプサラ大学平和・紛争研究所ウプサラ紛争データ・プログラム(UCDP)のテレーズ・ペターソンプロジェクト・マネージャーは、IDNの取材に対して「今の国連安保理は、世界の現状に対処するには明らかに機能不全に陥っており、この行き詰まりがいくつかの紛争の解決を困難にしています。しかし、紛争解決を促進できる多国間機関は、例えばアフリカ連合や欧州連合等、国連安保理以外にもあります。さらに、ほとんどの紛争は国連が仲介する平和協定で終結するのではなく、むしろ戦闘が単に停止するなどの他の状況下で終わることも少なくありません。」と指摘した。

新報告書は、「2022年を通じて、武力紛争の数は依然として高いまま推移し、戦闘関連の死者数が増加した。武力紛争の影響を受けた38カ国で55の紛争が発生し、その内8つが戦争(年間1000人以上の戦闘関連死者数が記録される)に分類された。

ルスタッド教授は、「この10年で、武力紛争が憂慮すべきほど増加しており、過去8年間、毎年50件以上の紛争が起きています。これは部分的には、アフリカ、アジア、中東でイスラム国が拡大したためです。このテロリスト集団は2022年には15カ国で武力紛争に関与しています。」と語った。

武力紛争といえば従来内戦が主流だったが、この10年で、この種の紛争はますます国境を超える様相を見せており、このことが戦闘に関連した死者数を増やす原因にもなっている。内戦が国際化したとみなされるのは、1つまたは複数の外国の政府が、内戦当事者のいずれかの側に立って戦闘要員の提供または派遣などして関与している場合である。

ウプサラ紛争データ・プログラムのペターソンプロジェクト・マネージャーは、「外国の政府が、紛争国の反政府勢力に兵力を支援することがますます一般的になっており、これは本質的に国軍同士が戦っていることを意味します。」と説明した。

イスラム国や、ワグネル・グループのような民間軍事組織など、この10年で、武力紛争における、非国家武装集団の関与が増大した。こうした集団は、紛争の影響を受けている国内および国家間の紛争ダイナミクスを変化させる。例えば、サヘル地域でワグネル・グループの活動が活発化すれば、現地の反政府グループによるリクルート活動が増えるかもしれない。

非国家主体が関与する武力紛争に関しては、最新の数字では2022年に82件の武力紛争が発生し、2021年の76件から増加している。紛争件数が増加にもかかわらず、戦闘関連の死者数は20,000人強と、約4,000人減少した。これは、比較的小規模な武力紛争が増加したことを示唆している。

A breakaway of Boko Haram faction. Source: Institute for Security Studies.
A breakaway of Boko Haram faction. Source: Institute for Security Studies.

非国家主体が関与した武力紛争が最も多発しているのはアフリカで、次いでアメリカ大陸である。メキシコは依然として非国家主体が関与した武力紛争で最も暴力的な国のひとつであり、14,000人以上の戦闘関連死が記録された。

一方、国連総会は6月7日、本会議を開き、GUAM地域(=ジョージアGeorgia〉、ウクライナ〈Ukraine〉、アゼルバイジャン〈Azerbaijian〉、モルドバMoldova〉)において長期化する紛争」について協議した。つまり、グルジアのアブハジア及びツヒンヴァリ地方(南オセチア)からの国内避難民・難民の状況に焦点を当てた、グルジアが提出した決議案についてである。(原文へ

INPS Japan

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|視点|非核兵器地帯に関する包括的研究を行うべき(ジャルガルサイハン・エンクサイハンNGO「ブルーバナー」代表、元モンゴル国連大使)

【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン】

非核兵器地帯は、核不拡散の目標を推進し、国家間の信頼を強化する上で非核兵器国が採りうる重要かつ実践的な地域的措置として認識されているものである。

現在、海底と南極、宇宙空間は居住人口のない非核兵器地帯とされている。また、居住地域には、ラテンアメリカ及びカリブ地域、南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸全体、中央アジアの5カ所に非核兵器地帯がある。116の国と8400万平方キロメートルが含まれ、これは世界の人口の39%と国連加盟国の60%を占める。現在、中東非大量破壊兵器地帯の創設が議論されており、あわせて、北東アジアや北極にも非核地帯創設の非公式協議が進行中だ。これらの地域的地帯は「旧来型の非核兵器地帯」として知られ、諸国家の集団のみがこうした非核兵器地帯を設立できるという考え方に基づいている。

しかしこのことは言い換えれば、地理的位置や、政治的・法的理由から、個別の国家が旧来型の(非核兵器)地帯に加盟できないという問題がある。もしこうした国々が非核兵器地帯から除外されたまま放置されれば、国連創設時から我々が確立しようとしている「核兵器なき世界(NWFW)」に盲点やグレーゾーンを作り出し、非核兵器地帯体制のアキレス腱になりかねない。核兵器なき世界への歩みはゆっくりだが、核兵器禁止条約の発効に見られるように、少しづつ前進している。

非核兵器地帯という核のアキレス腱を守る時

Dr. J. Enkhsaikhan

非核兵器地帯が脆弱なままではどの国の利益にもならないが、維持可能なシステムは間違いなく核不拡散体制を強化することになる。結局のところ、強固な非核兵器地帯体制も、その最も脆弱な部分と同程度しか機能しない。したがって、(現在は認められていない)単一の国家による非核兵器地帯の役割と地位を認めることによって個々の国を非核兵器地帯に包摂していくことで、それらの国々の利益が守られるだけではなく、非核兵器地帯の目標を強化する政治的なツールともなる。

「ブルーバナー」[1]による最近の調査で、上記のような旧来型の非核兵器地帯が追加的に設定されたとしても、当該非核兵器地帯がカバーする一部の国や地域(例:モンゴル、ネパール、欧州の中立国やいくつかの非自治地域)が参加できないために包括的なものにはならないことが明らかになっている。その理由は、現在の非核兵器地帯が、関連する地域の国々が合意した取決めを基礎として設立されているからである。今日の相互に接続された世界では、個々の国々の役割はいずれにせよ過小評価されるべきではない。

太平洋西部など大国間の角逐が激しさを増し、個々の国々をその角逐の中での位置に応じて駒として使う傾向が強まっている今日、こうした個々の国々の利益を無視することは、戦略的安定に確実に影響することになるだろう。

他方で、一国単独による非核兵器地帯が国際法で認められ保護されていれば、非核兵器地帯設立に不可欠の要素として機能することができる。上記の調査では、中立国や、そのままでは旧来型非核兵器地帯の一部にはなれない非自治領域などを含め、20以上の国・領域があることが明かになっている。

国際法の観点からすれば、一部の非核兵器保有国を非核兵器地帯の体制から故意に除外することは、国連憲章の精神や、主権国家平等の原則、国家の主権平等の原則、万人のための平等かつ正当な安全保障、国家の個別的または集団的自衛権などに違反することになる。

国際法は、旧来型の非核兵器地帯のように、それらの国々の地位を規制し、保護する必要がある。公正を期すならば、そうした政治的あるいは法的保護を生かすのか、あるいは別の形で安全保障上の利益を図るのかは、個々の国の主権的な決定であると指摘しておかねばならない。

時間・空間・技術が重要な地政学的な要素となり、核軍拡競争が再び強まって不吉な技術的相貌を見せつつある今日、核兵器国は、宣言されている核抑止の役割を超えて、非核兵器国に対する恫喝と脅しの政治的手段として核兵器を使用すべきではない。

したがって、旧来型の非核兵器地帯に参加できない国々は、核兵器や核兵器使用支援施設を自国の領土に置くことを禁止する国内法を採択し、その見返りとして5大国から適切な安全保証を得る必要がある。ここでいう 「適切な」とは、特定の国の安全保障上の利益に対する信憑性のある脅威に対する保証を意味する。この保証は、冷戦中あるいは冷戦後の旧来型非核兵器地帯のケースがそうであったように、これらの国々に対する核兵器の不使用、あるいは使用の威嚇に関して法的拘束力があるものである必要はない。

五大国による保証は、核兵器の容認、あるいは、そのより効果的な使用のための支援施設の設置容認に向けて圧力を加えるようなものであってはならず、その国の法律に反映された地位を尊重し、その地位に反するような行為に寄与するようなものであってはならない。

これは旧来型の保証に比べれば、いくぶん温和な保障の形であろう。検証システムは、国際原子力機関(IAEA)の支援や、旧来型の非核兵器地帯を確立する際に学んだ教訓、あるいはこの分野における最新の技術的成果に基づき、相互に合意した検証メカニズムを確立することによって開発することができる。

上記で述べたことから、非核兵器地帯のあらゆる側面に関する「第二の」包括的研究が、1975年の最初の研究の際のように一部の指定された国だけでなく、すべての国の参加によってなされねばならない。

この研究はモンゴルが10年前に国連核軍縮ハイレベル会合に提案したもので、非核兵器地帯創設の半世紀に及ぶ世界の豊かな経験に加えて、変化する世界の政治的環境も考慮に入れねばならない。そうした研究は第二世代[3]の旧来型の非核兵器地帯を中東や北東アジア、あるいは北極に設立するにあたって有益であろう。

「第二の」包括的研究はまた、非核兵器地帯の概念と定義を拡大し、一国非核兵器地帯に提供される保証の内容と形式について合意することで一国非核兵器地帯を取り上げ、認識すべきである。従来型の非核兵器地帯に提供される5大国による安全保証の内容は、本来の目的を反映したものであるべきであり、核兵器使用の可能性を間接的に示唆するような留保や一方的な解釈の表明によって、本来の目的を歪めるようなものであってはならない。

また、既存の二重基準や、「核の傘」に依存した国々の役割、核保有国の地位や役割(もしあるならば)等、微妙な政治的問題やタブーにも対処すべきである。要するに、非核兵器地帯の可能性を最大限に引き出し、「核兵器なき世界」のアキレス腱を守ることが、世界の平和と安定を強化するために非核兵器国がなしうる実践的な貢献なのである。(原文へ

【注】

[1]2005年に設立されたモンゴルのNGOで、核不拡散・軍縮という共通の目標を追求している。

[2]国連総会公式記録、第10回特別会議、Supplement 4 (A/S-10/4)。ニューヨーク、1978年。

[3]第二世代の非核兵器地帯とは、地域の非核兵器地帯がそれ自体の問題を抱えているということ、あるいは、核兵器国の戦略的な利益が絡んで地帯の設立が複雑になっている状況を指す。

INPS Japan

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【ロンドンIPS=ネヴィル・デ・シルヴァ】

5月24日、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ大統領が3日間の日程で日本を公式訪問した。昨年9月に安倍晋三元首相の国葬に出席して以来、2度目の来日となる。

ウィクラマシンハ大統領にとって、岸田文雄首相との首脳会談は、安倍元首相の葬儀に合わせて行われたものに続いて2度目となるものであり、スリランカの外交政策の見直しや中国への過度の依存からの脱却における日本の重要性を示している。

また、今回のウィクラマシンハ大統領の訪問には、深刻な経済危機に陥っているスリランカ経済の立て直しに日本政府の一層の支援を求めるとともに、ここ数年、何度も嫌な思いをしてきた日本の投資家に対して、スリランカへの回帰を促す目的があった。

ゴタバヤ・ラジャパクサ前政権は、すでに着工していたコロンボの次世代型路面電車(LRT)整備計画など、日本と合意していた主要プロジェクトを事前通告なしに破棄した。また、コロンボ港の東ターミナル開発に関する日本、インド(およびスリランカ)との3者協定も反故にした。

岸田首相との会談で、ウィクラマシンハ大統領は、日本との過去の関係に遺憾の意を表明し、前政権により中止されたプロジェクトを再開する用意があると語った。

スリランカは昨年4月にデフォルト(=債務不履行状態)を宣言するなど深刻な経済苦境に陥っているが、今回の大統領訪問には、日本との経済協力復活を目指す以上のものが含まれている。スリランカは、凡庸な統治と無能なアドバイザーによって陥った、あるいは陥らされた経済の泥沼から抜け出すための救済策を国際通貨基金(IMF)に求めなければならなかった。

日本との新しい関係は、二国間関係を超えた広い範囲をカバーしている。しかし、高い税金、公共料金の引き上げ、国内物価の高騰に苦しむスリランカの人々にとっては、日々の暮らしが最優先事項である。

Anti-government protest in Sri Lanka on April 13, 2022 in front of the Presidential Secretariat/ Photo by AntanO – Own work, CC BY-SA 4.0

一方、小規模な産業や企業は、莫大な電気料金や水道料金の値上げなどの運営コストに耐えられず閉鎖され、人々は職を失っている。また、医師、エンジニア、測量士、IT・技術者などの専門職が、先進国、途上国を問わず、海外に就職したり、新たな機会を求めて国外に流出している。

日本は、IMFがスリランカに求めている債務再編について、インド・日本・先進国からなる主要債権国会議(パリクラブ)での協議を主導するなど、積極的に支援の手を差し伸べている。また日本は、ジュネーブの国連人権理事会でも、米国、英国、カナダ、一部の欧州諸国のように(タミル人に対する人権問題等を巡って)スリランカを非難する西側諸国とは一定の距離を置いた、より冷静で穏やかなアプローチをしてきた。

さらに、インド洋地域の国際政治が複雑化し、対立が激化する中で、デリケートな外交問題に巻き込まれているスリランカ政府は、インドや欧米とともに、この地域で海軍活動を拡大し存在感を増している中国に対抗する勢力として、日本を捉えている。

しかし、ウィクラマシンハ大統領が日本との関係強化を図ろうとする理由は、他にも2つある。ひとつは国家的なもの。もうひとつは、そうとは思わない人もいるかもしれないが、個人的な理由である。

国家的な動機は、ラジャパクサ政権(マヒンダとゴタバヤの両大統領)の下であまりにも近づきすぎていた中国との関係に距離を置くことである。スリランカはその地政学的位置故に、この地域への影響力拡大を企図する中国の関心を常に惹きつけており、地政学的な嵐の中に巻き込まれる可能性がある。

習近平国家主席と中国指導部は、親欧米、特に親米的とみなしているウィクラマシンハ氏よりも、ラジャパクサ兄弟が権力の座に戻ることを望んでいる。さらに、ウィクラマシンハ氏は、「スリランカにとって日本をより信頼できる友人であり、超大国の野心を持たない国だと考えている」と結論づけることもできる。

もうひとつの理由は、日本の指導者たちがスリランカに対して抱いてきた、または育んできた強い絆にある。その起源は1951年、敗戦国日本の戦後平和条約を作成するために48カ国が集まったサンフランシスコ講和会議まで遡る。

この会議でセイロン(当時)が果たした重要な役割、それはセイロン大蔵大臣(当時)のジュニアス・リチャード・ジャヤワルダナ(通称「JR」)氏の活躍によるものだったことは、今ではあまり知られていないかもしれない。

Junius Richard Jayawardana Photo: Public Domain

ジェヤワルダナ氏は、その親米的な傾向から「ヤンキー・ディッキー」と呼ばれ、1978年にスリランカ初の大統領となった人物で、ラニル・ウィクラマシンハ氏の叔父に当たる。

当時のセイロンは、英国から3年前に独立したばかりであり、日本との関係では第二次世界大戦中の1942年に首都コロンボと英海軍基地があった北部のトリンコマリーを日本軍に空襲された経験を持っていた。日本の将来を決めることになる議論がなされたサンフランシスコ講和会議で、はたして、このインド洋の小国を代表したジェヤワルダナ氏は何を語ったのだろうか。

同会議では、他の国々が日本への制裁を求め、戦時中の損害に対する補償を要求する中、ジェヤワルダナ氏は、日本が自由に未来を築けるよう独立支持を主張すると共に、「憎悪は憎悪によって止むことはなく、慈愛によって止む」との釈尊の言葉(法句経の一節)を引用して、日本に対する戦時賠償請求を放棄する演説を行った。興味深いことに、スリランカと日本はともに仏教国だが、二つの異なる流派(前者が小乗仏教、後者が大乗仏教)に属している。

バンドゥ・デ・シルヴァ元スリランカ大使は、8年前に講和会議を回想した手記の中で、「ジェヤワルダナ氏の演説は大きな拍手で迎えられた。」と述べている。また当時のニューヨーク・タイムズ紙は、「(ジェヤワルダナ氏の演説は)雄弁で哀愁があり、オックスフォード訛りが残る自由なアジアの声が、今日の対日講和会議を支配した」と記している。

2002年にコロンボで開催された外交関係樹立50周年記念式典で、日本大使が述べたことが、両国の友好関係の基礎を最もよく表しているのではないだろうか。

大塚清一郎大使は、サンフランシスコ講和会議でのジェヤワルダナ氏のスピーチを想起しながら、「戦後の厳しい状況の中、日本が灰の中から立ち上がり、国を再建し始めたとき、日本の人々に真の友好の手を差し伸べたのは、スリランカ(当時はセイロン)の政府と人々でした。日本と日本国民は、スリランカ政府と国民が困難な時に差し伸べてくれた友情と大らかさに、心から感謝してきました。この精神に基づき、日本は真の友人として、またスリランカの発展のための建設的なパートナーとして、スリランカとしっかりと肩を並べてきたのです。1951年9月8日、サンフランシスコでジェヤワルダナ氏が語ったこの精神、すなわち友情と信頼によって、50年に亘る両国の二国間関係は導かれてきたのです。」と語った。

しかし、ジェヤワルダナ氏が日本の独立を強く明確に支持したことが、その後のセイロンの立場にネガティブな影響をもたらすことになったかもしれないという見方が存在する。

当時は東西冷戦が激化し始めており、ソ連は日本との平和条約について日本の行動の自由を制限するような修正を提案した。これに対してセイロン代表(=ジェヤワルダナ氏)は、「平和条約は日本国民に言論、報道、出版、宗教的礼拝、政治的意見、公共集会等の基本的自由を与えるものでなければなりません。まさにソ連が修正案で求めているこれらの自由は、ソ連国民自身が持ちたいとあこがれているものである。」と皮肉交じりにソ連の提案に異議を唱えた。

ソ連は、ジェヤワルダ氏が公の場でソ連提案を非難したことへの報復として、セイロンが英国との防衛条約があるため独立国ではない等の理由を挙げて、セイロンの国連加盟をその後何年も阻止した、という説もあるくらいだ。*1)

Japanese Prime Minister Shigeru Yoshida (1878–1967, in office 1946–47 and 48–54) and members of the Japanese envoy sign the Treaty of San Francisco./ Public Domain
Japanese Prime Minister Shigeru Yoshida (1878–1967, in office 1946–47 and 48–54) and members of the Japanese envoy sign the Treaty of San Francisco./ Public Domain

その後セイロンが1956年に国連加盟を果たした経緯は、米ソ間の取引(互いに拒否権を行使して国連加盟を阻止していた国々を互いに承認する取引)の結果である。しかし、それはまた別の話である。(原文へ

*1) ジェイワルダネ氏は、ソ連の修正案に対する反論として、「言論の自由」問題を取り上げてソ連を皮肉ったほか、米国に対して琉球・小笠原両諸島を日本に返還するよう求めたソ連提案を逆手にとって、ソ連が保有する南樺太、千島列島も日本に返還すべきであると主張した。また、インドがサンフランシスコ講和会議に参加しなかったのは「一層寛大な講和を結ぼうとしているためである。」と解説し、ソ連の不興を買ったと言われている。

ネヴィル・デ・シルヴァはスリランカのジャーナリスト。香港の「ザ・スタンダード」で要職を務め、ロンドンの「ジェミニ・ニュース・サービス」に勤務した。ニューヨーク・タイムズやル・モンドなどの特派員を歴任。最近では、スリランカのロンドン副高等弁務官を務めた。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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