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アフガン政府軍があっけなく崩壊した真相を探る

【アブールIDN=マニッシュ・ラジ】

人員・装備の面で遥かに劣るタリバン(75,000人)による攻勢の前に、30万規模のアフガン政府軍は一部のエリート特殊部隊を除いて、あっというまに瓦解した。最大の外部要因は米軍の撤退にあるが、あまりにも早い崩壊を引き起こした内部要因(低い士気、腐敗、バランスを欠いた民族構成、明確な軍事戦略の欠如、諜報能力の低さ)を分析したマニッシュ・ライ政治アナリスト(中東・アフガン・パキスタン専門)による視点。(原文へ

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|国連|混乱が深まる中、カブールに取り残されたスタッフの国外退避を図る

「世界と議会」2021年春夏号(第587号)

特集:咢堂塾-学びと実践

◇「新型コロナ以降の地方再生をどう構想するか」/谷藤悦史
◇「頻発する大規模災害への対応に向けた予備自衛官制度に関する提言」
  /久我和也
◇「私の経験から思う、若者の政治への関心について」/木村圭花

■歴史資料から見た尾崎行雄
 第5回「尾崎記念会館記録(中)-尾崎行雄の銅像」」/高島笙

■連載『尾崎行雄伝』
 第十七章 政権たらい回し

■INPS JAPAN
 SDGs意識を高めるための学界・大学の役割

■「咢堂ブックオブザイヤー2020」選考結果

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

|国連|混乱が深まる中、カブールに取り残されたスタッフの国外退避を図る

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】

イスラム主義組織タリバンの侵攻で政権が崩壊したアフガニスタンでは、各国大使館の駐在職員が国外に退避する一方で、現地職員が取り残されるケースが多発している。現地に残り支援を継続するとしている国連も同様で、外国人職員一部(最大100人)をカザフスタンのアルマトイに一時的に移す措置を発表する一方で、3400人にのぼるアフガン人現地職員は国外退避ができないでいる。こうしたなか国際職員組合連絡委員会(CCISUA)等は、アフガン人現地職員とその家族がタリバンから報復を受けるリスクが極めて高いとして、アントニオ・グテーレス国連事務総長に対して、外国人職員同様の保護措置をとるよう強く求める書簡を提出した。(原文へ

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タリバン、鹵獲した米国製武器と自爆攻撃で、アフガニスタンの支配権を取り戻す

核軍縮における市民の役割と科学・外交の相互作用

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

2021年は、旧セミパラチンスク核実験場の閉鎖から30年、国連創設と広島・長崎への原爆投下、史上初の核(トリニティ)実験から76年、核不拡散条約(NPT)発効から51年、未発効の包括的核実験禁止条約(CTBT)採択から25年にあたり、中距離核戦力(INF)全廃条約が失効し、新戦略兵器削減条約(新START)が2026年2月まで延長された。

平和と安全保障問題に関する国連軍縮局/OSCEの学者であるマルジャン・ヌルジャンは、こうした年にあたり、『アトミック・リポーター』誌に「核軍縮における主要な市民社会アクターの役割―マルチトラック外交枠組みにおける認識共同体」と題する全2回の文章を寄せた。ヌルジャンはこの中で、市民と科学・外交の相互作用を通じたトラック2外交の事例を示した。

「消極的な平和への含意を保つなかでグローバルな核軍縮の追求を続け、市民社会のエンパワーメントや軍縮教育、平和構築活動、マルチトラック外交のチャンネルによる調停を通じた核軍備と国際安全保障のトピックにさらに関与していく必要性を強化する上で、今年は様々なことを想い起こさせてくれるだろう。」とヌルジャンは語った。

Marzhan_Nurzhan

ヌルジャンは、KAIST核不拡散教育研究センターの研究員であり、2019年から20年までは、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)青年グループの教育・アウトリーチコーディネーターを務めた。2017年には、国連総会議長によって、その年に開催された「核軍縮に関する国連ハイレベル会合」でスピーチする若者代表に選出されている。

「科学の二重性に対する社会的責任の原則に導かれて議論に参加していく科学者の役割と行動が、『市民科学者』という言葉の基礎にある。」とヌルジャンは語った。

市民科学者の行動の最も顕著な例の一つが、アルベルト・アインシュタインとバートランド・ラッセルが1955年に発した宣言である。両者は宣言で、核軍備の危険性を強調し、冷戦によって引き起こされた国際紛争の平和的解決を訴えた。

宣言は、マンハッタン計画の下で初めての原爆開発に携わった核物理学者ジョセフ・ロートブラットのイニシアチブによって作られた。科学と研究は平和目的でなくてはならないという強い信念のもと、ロートブラットは、「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の枠組みに東西両方のブロックから科学者たちを集めた。同会議は、軍縮とグローバルな安全保障の問題について対話の枠組みを提供するためにロートブラットが立ち上げたものだ。

彼は、市民科学者として認識される一方、「核兵器が国際政治において果たす役割を低減し、長期的には、核兵器を廃絶する取り組み」によって、パグウォッシュ会議とともに1995年のノーベル平和賞を受賞した。

Los Alamos wartime badge photo: Josef Rotblat.

米国の認識共同体が国際的に共通の知と核兵器規制のシステムの基礎をってきたが、核戦争を回避し戦略的安定性を保つためのソ連との協力が、敵対する勢力間の安全保障レジームを強化してきた、とヌルジャンは続ける。認識共同体の関与を基盤とした国際協議のアジェンダが打ち立てられたことによって、政策的提言が考慮に入れられ、様々な方法で実施されてきた。

トラック2外交は科学者の間で実践されただけではなく、平和を促進し人類を核紛争の惨禍から守る「市民外交官」を普通の市民の間に作り上げてきた。そのひとつの例が、米国の少女サマンサ・スミスだ。彼女は1982年、当時のソ連の指導者ユーリ・アンドロポフに手紙を書いて、2つの超大国間の核戦争の可能性を心配していると伝えたのである。彼女はソ連に招待されて、市民外交の成長をさらに促す米国との文化交流プログラムの設立につながる平和構築のイニシアチブとなった。

市民外交のもう一つの例は、1987年に開催された、レニングラードからモスクワへの5週間に及ぶ旅を通じた米ソ平和行進である。230人の米国民と200人のソ連国民が集って、両者の相互作用のあり方に影響を与え、2つの大国の人々の間の理解を促進した。

こうした市民外交のイニシアチブの中で、米国とソ連の医師たちが1980年に「核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)と呼ばれる組織を立ち上げ、1985年にはノーベル平和賞を与えられた。イデオロギーの分断があったにもかかわらず、IPPNWは、人類を核戦争から救うという共通の利益があることを示した。彼らは、世界の核実験を停止し、核兵器使用が健康や人間、環境に及ぼす影響に関する市民の意識を高めるために、反核抗議運動を組織した。

もう一つ市民外交の例としては、世界を核紛争から救ったソ連の軍人スタニスラフ・ペトロフが挙げられる。彼の任務は外部からのミサイル攻撃を記録することであった。1983年のある日、ソ連の早期警戒システムが核攻撃を探知した。それは本来通報されるべきものであったが、誤報であると考えたペトロフが通報しないことを選択したのである。

科学外交やトラック2外交に並んで、市民外交行動のこれらの事例すべてが、市民社会のもつ情報の豊かさにつながり、国際的な議論に参加し核軍縮を要求する非政府組織の興隆につながった、とヌルジャンは指摘する。例えば、NPT再検討会議とその準備委員会会合は、1994年以来、市民社会のアクターやNGOが参加する主要なフォーラムとなっており、彼らが公の会議に参加し、スピーチや声明を発し、サイドイベントを組織する集まりとなっている。

条約の無期限延長が決められた1995年のNPT再検討会議では、195のNGOがオブザーバーとして参加した。核軍縮をし、核兵器を廃絶するという点で一致したNGOの代表らは、核兵器禁止条約を求める11項目の共同声明を発した。軍縮の検証という側面や、核兵器の使用及び使用の威嚇の違法性、真に包括的な核実験禁止条約の完成、時限を区切った核兵器廃絶のための条約交渉の開始という側面を考慮に入れたものであった。

「それ以来、市民社会のアクターは国連で行われるすべてのNPT会合に積極的に参加し、決められた時間の中で代表に語り掛け、公的会議で発言をし、外交官にブリーフィングをし、政府代表との対話に参加し、自らが問題だと考えることを指摘する機会を持ってきた」とヌルジャンは語った。

しかし、軍備管理協議やNPTプロセスが機密を伴いながら進められるという性格ゆえに、安全保障上の懸念が出され、締約国間の会合は非公開のものとなって、NGOの参加には一定の制約が課されてきた。

しかし、軍縮・不拡散教育に関する国連の研究(2002年)での勧告に従って、ほとんどの場合において、市民社会のアクターや科学者・政治研究者、議員をアドバイザーとして政府代表団に参加させて交渉の場で政策協議に影響を与えることが、近年では行われている。

こうして、長年をかけて、各分野における市民社会の活動が、活動家・抗議者のそれから、認識共同体の代表としてのプロフェッショナルな活動へと変容し、多国間協議における彼らの役割が、圧力をかけ影響力を及ぼす上で重要になった。これは、1996年のCTBTや、1996年に国際司法裁判所(ICJ)が発した核兵器の使用及び使用の威嚇の合法性に関する勧告的意見など、いくつかの合意の採択にあたって、キャンペーン活動やアドボカシー、ロビー活動などがなされることによって行われたのである。

Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN
Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN

NPTでの政治的行き詰まりや、NPT締約国による条約第6条の義務履行の進展の不在という状況の中、「核兵器のどのような使用も人間に与える壊滅的な帰結」という認識が現れ、多国間核軍縮協議を前進させた2016年の国連公開作業部会という多国間フォーラムで、軍縮の認識共同体が効果的かつ民主的な参加を果たした。その結果、2017年に核兵器禁止条約が採択され、2021年1月の発効に至るのである。(原文へ) 

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|べラルーシ|非暴力抗議運動の方が暴力活動より成功する可能性が高い

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

独裁的な体制を敷くルカシェンコ大統領の6選に抗議する大規模な平和的デモ行進がベラルーシ各地に広がっている情勢を分析したジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。投降したナチスドイツの将校の尋問にあたったバジル・リデル=ハートへの自身の取材経験やマハトマ・ガンジー、マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が率いた非暴力・不服従運動の系譜を引用しながら、今日ベラルーシで広がっている変化を求める民衆の波も、もし非暴力運動を貫徹できれば、独裁政権の退陣を導けると予測している。著者はまた、同様の新たな兆しを、ロシアのハバロフスクで起こっている大規模平和デモにも見出している。(原文へ

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持続可能なエネルギー利用:カギを握る、安価でクリーンな調理方法

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

世界人口の約6割を擁するアジア太平洋地域では、約16億人が、日々の調理のために、焚火をするか、灯油、石炭、木材・こやし・農作物の残りかすなど生物由来のものを燃やしている。しかしそれは、気候変動を引き起こし、健康に悪影響を及ぼしている。

国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)のエネルギー利用コンサルタントであるオリビア・バルディ氏は、「このようにエネルギー効率が悪い調理コンロで燃やされた生物由来のものが、地球温暖化や森林破壊に繋がっていますし、煙を吸った人の健康を害しています。2016年には、屋内でこうした調理由来の汚れた空気のためにアジア太平洋地域で推定220万人が早死にしたと見られています。」と語った。

新型コロナウィルスによる経済状態の悪化から地域が回復する中で、クリーン(=空気を汚染しない)で安価な調理用燃料を低収入世帯に提供することは、エネルギー利用における重大な課題となっている。そしてこのことは、持続可能な開発目標の第7目標を達成する上で、重要な意義を持つ。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

農村の住民や都市の貧困層にとってますます電気が利用可能となり、太陽光発電技術で調理用のエネルギーが提供されるようになっている中で課題となっているのは、政府や非営利部門が、貧困層が調理用燃料のコストとCO2排出を減らすための資金援助をできるかどうかという点だ。

よりクリーンな調理方法は、社会・経済・環境に様々な利益をもたらす潜在能力を秘めるが、クリーン調理部門は著しい資金不足に悩まされている。

「気候政策イニシアチブ」(CPI)による報告書『エネルギー金融現況2020』は、コロナ禍は、安価で信頼でき持続可能で近代的なエネルギーを2030年までにすべての人にもたらすというSDGsの第7目標実現に向けた取り組みを加速する一つの警告とみなされるべきだと論じた。

「コロナ禍は、信頼できるエネルギー源の欠如が、医療システム、水や衛生、クリーンな調理コンロの普及、通信・ITサービスに及ぼす深刻な影響に光を当てた。」と報告書は述べ、この10年で大幅な技術進歩があったにも関わらず、アジア太平洋地域の7億8900万人が依然としてクリーンな調理用コンロや電気を利用できていないと指摘した。

CPI報告書は、バングラデシュを除くと、クリーンな調理技術を貧困層に提供するための投資がアジア太平洋地域では全体として不足していると指摘し、グリーンリカバリーが持続可能な経済回復モデルを発展させるうえで重要だと論じた。

国別のCO2市場に関する「パリ協定」の下での交渉が今後予定されているが、これが、太陽光などのグリーン電力を利用したクリーンな調理技術を貧困層に提供する資金源となるかもしれない。CPI報告書によると、2018年、この枠組みの下ではわずか2100万ドルの投資しかなされていない。

COP21 Logo
COP21 Logo

「世界未来評議会」と「ヒボス」が2019年に出した報告書によれば、小規模の電力網と家庭の太陽光システムに接続された農村家庭にとっては、電気で調理するコストは他の調理方法のコスト競争性の幅に収まっている。電気調理機器のコストが下がっていることに加え、電化とクリーンな調理のシナジー効果が重要になってきている。ただし、その方向性は完全に追求されているわけではない、と報告書は述べる。しかし例えば、ネパールのエネルギー・水資源・灌漑省は昨年、分配ネットワークの強化を通じた「すべての家庭に電熱器を」という目標を達成するとの政府計画を発表し、電気調理を優先した電気料金体系に変えていく可能性を示唆した。

バングラデシュは液化プロパンガス需要の約6割を輸入に頼り、ガス容器と燃料にかなりの補助金を与えている。CPIの報告書は、農村人口のおよそ74%が、ワラや穀物殻、フスマ、麻、木、竹などの生物由来の燃料を調理に用いていると指摘している。また、人口全体の95%以上と、農村人口の8割以上が電気を利用しており、ほとんどの遠隔地において電気を中心とした効率的な調理のための供給網を構築するために利用しうる。

2013年から17年にかけて、世界銀行からの資金を得て、バングラデシュ政府は100万の貧困世帯に改良された炊飯用ストーブ(ICS)を提供した。2021年末までに500万世帯への供給をめざしている。CPIは、もしバングラデシュが生物由来の燃料使用を2030年までにゼロにしようとするのならば、既存の政策や金融の枠組みを着実に再編成する必要があると考えている。

インドの「スーリヤプロジェクト」は、インドの農村で利用されている大気汚染を引き起こす調理器を、カーボン・オフセット事業からの資金を利用してクリーンエネルギーを利用した調理器に取り換えていくことを目指している。同プロジェクトではまず、ヒマラヤとヒンドゥスターン平野、南アジアのアーンドラ地域という3つの農村地帯を選び、それぞれの地域の5000地帯に対して、太陽光調理器やその他の効率的な加熱技術のようなクリーン燃焼技術へと変更していく。

Solar cooker or solar barbecue Alsol 1.4 made in Spain, Public Domain

一般には「SK14」と呼ばれている、直径1.4メートル、価格約100ドルのパラボラ型太陽光調理器が導入されつつある。約30分で家族10人分の米が炊けると宣伝されているものだ。また、CO2削減量と健康上の影響についての数値を携帯電話で確認することもできる。

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の「組み込みネットワークセンシングセンター」、米国の「ネックスリーフ・アナリシス」と協力して、気候科学者や疫学者、コンピューター科学の専門家、エネルギー技術者、経済学者、地域経済開発の専門家を集めて、アジアが今日直面している3つの緊急の課題、すなわち、気候変動・公衆衛生・経済開発の解決策を見つけようとしている。

UNESCAPのバルディ氏は月刊ニュースレターの中で、「より効率的な技術は多くの場合において調理のコストを引き下げるが、消費者は、クリーンではあるがたいがいは値段の高い代替手段に切り替えるための投資をできない。コロナ禍で多くの世帯が貧困に陥っている中では、価格の問題はますます重要になっている。」「つまり、資金面の支援がなければ、低収入世帯ではクリーンな調理は行えないということだ。」と記している。(原文へ

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毎年数百万人もの人々が飢える一方で、数億トンの食品が捨てられている。

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世界が直面している緊急の保健課題

タリバン、鹵獲した米国製武器と自爆攻撃で、アフガニスタンの支配権を取り戻す

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

アフガニスタンから米軍が撤退するなか、装備・人員面では圧倒的に優勢だったはずの政府軍(300,000人)をゲリラ戦術で各地で撃破し、急速に全土を掌握しつつあるイスラム原理主義組織タリバン(75,000人)の動向と国連の反応を分析した記事。「西側には時計があるが、われわれには時間がある」というアフガニスタンの格言どおり、20世紀の大英帝国、ソ連に続いて、米国も20年に及んだ介入を断念して同国を撤退することになった。(原文へFBポスト

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アフガンメディアフォーラムを取材

「言葉より行動」を促したIPCC報告書の警告にオーストラリアとニュージーランドが反応

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が出した最も包括的な報告書が、海水面と気温の上昇によって島々が水没し居住空間が失われかねない太平洋地域の国々に厳しい警告を発した。しかし、オーストラリアとニュージーランドというこの地域2大国の反応は、即座に地域を救う行動に移るというよりも、自己弁護に終始するものだった。

温暖効果ガス削減のための行動をとるように環境運動からプレッシャーを受けている豪州のスコット・モリソン首相は次のように反応した。「計画もなしに(温暖効果ガスを減らすための)目標に関して豪州が白紙委任することはない。豪州は新たな技術をもって問題に対処する。」しかしこの発言については、豪州が新たなグリーン技術を世界に売り込めるようになるまでの単なる時間稼ぎ戦略ではないかとの見方もある。

他方、ニュージーランドでは、温暖効果ガス削減に向けた今の政府の目標は「ふた政権も前」に決められた目標だと科学者は批判している。これに対してジャシンダ・アーダーン首相は、現在「排出削減と気候変動関連予算」を作成してIPCCの知見に対応しようとしている最中であり、そうした批判は当たらないと反論している。

New Zealand Prime Minister Jacinda Ardern, photographed in Tauranga, New Zealand, 29 August 2018./ By Newzild – Own work, CC BY-SA 4.0

アーダーン首相は「目標を大幅に引き上げ、削減を大幅に進める努力をしようとしている時に、暫く前に立てられた目標だからということでニュージーランドの取組みを判断するのは不公平だ。」と述べるとともに、同国は農業を排出権取引スキームに入れ込むことを決定しており、「これはまだどこの国でもやっていないことだ。」と指摘した。

排出権取引は、汚染物質の排出削減に向けた経済的なインセンティブを与えることで汚染を抑えようとする市場を基盤としたアプローチである。

ビクトリア大学ウェリントンの教授(雪氷学)で、今回のIPCC報告書のうち海洋に関する章の執筆を主に担当したニック・ゴリッジ氏は、「最悪のシナリオが訪れるかどうかは現時点では不透明だが、間違いないのは、地球の海水面の高さの平均は今後数世紀で上がり続けるということだ。」と指摘したうえで、「私たちが今すぐに温室効果ガスの排出を集団的に抑制できるかどうかに、このことの帰趨はかかっている。背後にあるメッセージは同じものだ。すなわち、待てば待つほど、悪い結果が訪れる。」と説明している。

この間、ツバルキリバスのような南太平洋の小島嶼国は、21世紀が終わる前に国が海面下に沈んでしまうことを懸念し、人口を移転させる計画を練っている。

2017年10月、アーダーン首相率いる労働党新政権は、太平洋の島嶼国からニュージーランドに毎年100人の環境難民を受け入れる人道ビザの発行を実験的に行うと発表した。しかし、島嶼国側がそのようなビザを望んでいないことが明らかとなりまもなく撤回している。島嶼国側は、そうしたビザ発行を考えるよりも、温室効果ガスの削減と、対応策実施への支援を行うこと、難民の地位を与えるのではなく法的な移住の道を探ることの方が重要だとニュージーランドに訴えている。

18カ国で構成される「太平洋諸島フォーラム」のヘンリー・プーナ事務局長は、世界は気候大惨事の瀬戸際にあり、太平洋を含めた世界全体で壊滅的な影響を引き起こすと予想される動向を反転させるための行動には、僅かな余地しか残されていないと警告している。太平洋島嶼国の人々は、100年に1度しか起きないような極端な海水面の上昇が、21世紀の末にかけて毎年起きるというIPCC報告書の知見を受けて、慄いている。

プーナ事務局長は、政府や大企業を含めた世界の主要な温室効果ガス排出者は、進行中の環境危機に既に直面している人々の声に耳を傾けるべきだと訴えた。同氏はラジオ・ニュージーランド(RNZ)の番組の中で、「口先ばかりで行動を伴わないのはもうたくさんだ。もはや言い逃れは許されない。今日の私たちの行動が直ちに帰結をもたらし、将来にあっては、人類すべてが背負わなければならない帰結をもたらす。」と指摘したうえで、「人々が行動すれば、気候変動をもたらしている要素を反転させることができる。」と語った。

IPCC最新報告書は、前回出された7年前以降に世界で起こった環境の変化を考慮に入れ、(産業革命前に比べて世界の平均気温が)「1.5度以上の上昇」に伴って起きる最悪の環境災害を避けるために今後急速に温室効果ガスを削減する必要性を強調した。豪州の現在の削減目標は、2~3度の気温上昇を引き起こしてしまうもので、IPCC報告書は自然災害の連鎖を引き起こすレベルだと警告している。

僅か1年前、豪州ではこの100年で最悪の山火事が発生し、推定34人が死亡、1860万ヘクタールが焼け、農地や地域コミュニティーに数十億ドルの損害を出した。今年初めには、豪州政府が世界遺産であるグレートバリアリーフを「危機遺産」に格下げする勧告をユネスコから受けたが、強力なロビー活動を展開してかろうじてその動きを阻止することに成功している。

Photo: Australian bushfires: Source: East Asia Forum

他方、豪州で「ブラバス鉱業資源」として運営されているインド企業「アダニ」社は、クイーンズランド州で地域社会からの激しい反対運動にあっている。同社は6月、カーマイケル炭鉱の操業を始めており、インドへの初めての海上輸送が今年末に開始されると発表した。年間1000万トンの石炭を輸出するだけの買い手はすでに確保されており、この石炭は「クリーンエネルギー」ミックスに資する高品質の石炭であると同社は主張している。「インドは必要なエネルギーを手にし、豪州はこの中で雇用と経済的な利益を手にする」とブラバス社のCEOデイビッド・ボショフ氏はウェブサイトで述べている。

IPCC報告書が発表される以前ですら、モリソン政権のスタンスは、世界を救うために豪州の納税者に負担を強いるようなことはしない、インドや中国のような国々がグローバルな温室効果ガス削減のためにより大きな役割を果たすべきだ、というものであった。

豪州石油生産探査協会のアンドリュー・マコンビル会長が『シドニー・モーニング・ヘラルド』に寄せた文章は、こうしたモリソン政権の立場を反映したのものだ。マコンビル会長は、豪州の石油産業は、彼が言うところの「クリーンエネルギーミックス」を提供するものであり、単純に炭化水素を禁止して楽観できるものではない、というのである。

「あまりにも長い間、気候変動をめぐる議論は単純な『善悪対立』のそれであった」「SUV車に乗るのを諦め、飛行機で世界を旅するのをやめ、働き方や料理・暖房の仕方を変える、―それに資源産業全体を参加させろ。さもなくば排出実質ゼロは達成できないというものであった。」とマコンビル会長は指摘した。

マコンビル会長はまた、石油産業がなくなれば、政府は「病院や警察署、道路、学校を建設する」ための同産業からの納税660億ドル、農村開発に必要な投資4.5億ドル、8万人の直接・間接雇用が失われると主張した。

マコンビル会長は、温室効果ガス削減技術に関する産業からの利益を得て操業を多様化することを示唆しながら、石油産業は排出削減技術に多くの投資を行っていると述べた。なぜなら、「もし排出を減らそうと思うのなら、中国やインドのような主要な排出国においてより多くの対処が求められる」からだ。

IPCC報告の主要な著者の一人であるカンタベリー大学のブロンウィン・ハーワード教授は、先進国には行動へのプレッシャーがかかっており、11月にグラスゴーで開かれる第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において耳障りのいい発言をするだけではもはや十分ではない、と述べた。同教授はまた、「もし世界が私たち(ニュージーランド)と同じ行動を取ったとしたら、地球の温度は3度上昇する。」と指摘したうえで、「必要なのは、都市での公共交通の無償提供、渋滞税の導入、カーボンニュートラルな雇用の創出などの行動をとることだ。」と語った。

「したがって、考えをつなぎ合わせ、社会開発省がやっていることを環境省とつなぎあわせ、人々のために意味のある新しい低炭素経済とはどんなものかを考え始めなくてはならない。」と、ハーワード教授は論じた。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

太平洋地域の科学機構である「パシフィック・コミュニティ」の上級顧問であるコーラル・パシシ氏は、「この地域にとってこれからの10年がカギを握る」と指摘したうえで、「今日までになされた研究の全てが、気温が1.5度以上上昇すれば大変なことになると示している。そして、つい最近まで、各国が公約を果たしたとしても、今後10年以内に2.5度以上上昇してしまうことが明らかになっている。」と警告した。

「もし2度以上上昇すれば、世界のサンゴ礁の99%が死滅することになるだろう。これに食料を依存している太平洋地域の人々の生態系全体に影響を及ぼすことになる。」パシシ氏は語った。(原文へ

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日本政府は、核抑止に代わる新しい考え方、安全保障の基盤を率先して考えていくべき(斉藤鉄夫公明党副代表インタビュー)

【東京IDN=浅霧勝浩】

広島と長崎は、8月6日と9日に、核兵器禁止条約が今年1月22日に発効してから初の「原爆の日」を迎える。国際法に初めて「核兵器は違法」の規範が確立した歴史的偉業の背景には、ヒバクシャをはじめ様々な市民社会による積極的な貢献があった。

米国の核の傘に安全保障を依存している日本政府は、これまでのところ核兵器禁止条約に加盟しない立場をとっている。しかし、2020年中旬から21年1月の間に日本で実施された世論調査によると、明らかに大多数(最高値で72%)の国民が、日本政府は核禁条約に加盟すべきと回答していた。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

こうした状況を背景に、連立与党を組む公明党からも、日本政府に対して、核抑止に代わる新しい考え方、安全保障の基盤を率先して考え、核兵器禁止条約の第一回締約国会合にも、少なくともオブザーバーとして当初から参加するよう求める声がでてきている。

インデプスニュースの浅霧勝浩アジア・太平洋総局長の電子メールによるインタビューに対して、斉藤鉄夫公明党副代表は、日本は唯一の戦争被爆国という立場であり、核禁条約参加への世界からの理解を得られるよう努力すべきだと語った。

インタビューの全文は次の通り:

浅霧:高校時代、そして公明党広島県本部代表として18年間を広島で過ごされていますね。広島の有権者からは「なぜ被爆国である日本が核禁約に参加できないのか」との声が続いていると伺っています。この重要な疑問に対して、どのように回答されてきたのでしょうか。

斉藤:個人的には「核禁条約に参加すべき。それがすぐできないのであれば少なくとも当初から締約国会議にオブザーバー参加すべき。」と考え、そのように国会で主張してきました。と、同時に核抑上論をベースとした日米安保条約に日本の安全保障を委ねている日本政府として条約への参加を躊躇していることは理解できないわけではない、とも感じているところです。

浅霧:公明党は連立与党の一員として、発効済みである同条約の締約国会議にオブザーバー参加をと政府に訴えています。その締約国会議は2022年1月に開催予定となっております。まさに公明党は、日本が被爆国としての役割を果たそうとするならば、同条約と真摯に向き合い受け入れるべきとの立場を取っているわけですが、その訴えに対する日本の行動を阻んでいるものは何であるとお考えでしょうか。

斉藤:上記に述べたように、隣国に価値観を共有しない核保有国を持つ極めて厳しい安全保障環境の中で日本の安全保障をアメリカの核の傘に全面的に依存しているという現実が、条約への参加を阻んでいる最大の障壁と考えています。しかし日本は唯一の戦争被爆国という立場であり、条約参加への世界からの理解を得られるよう努力すべきと考えます。

Tetsuo Saito, Vice Representative of Komei Party Credit: Tetsuo Saito

浅霧:中満泉国連事務次長も「日本は世界唯一の戦争被曝国として、核禁条約に関する対話に参加する機会を逃すべきではない」と述べています。連立与党のパートナーである自民党は、中満氏の言葉には心を動かされなかったのでしょうか。

斉藤:自民党の中にも中満氏の発言に賛同される方はいらっしゃいます。そういう方と連携していきたいと考えています。

浅霧:政府がこういった訴えに耳を傾けるよう働きかける計画はおありでしょうか。

斉藤:令和3年2月22日(月)の予算委員会での私の質問に対する茂木敏充外務大臣の答弁は画期的なものでした。即ち、核抑止論を越える新しい考え方について考えていかなければならない、というものでした。議論の糸口がつかめたと考えています。

核禁条約の締約国会議では、例えば「被爆者」の定義など、ヒロシマ、ナガサキの経験を持つ日本人だからこそ正確な議論に貢献できる分野がたくさんあります。これは核保有国にとっても知りたい議論だと考えます。少なくとも当初から日本はオブザーバー参加すべきです。(原文へ

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核兵器禁止条約に一刻も早く批准を(松井一實広島市長)

広島市は毎年8月6日に、原爆死没者への追悼とともに核兵器廃絶と世界恒久平和の実現を願って平和記念式典を行い、広島市長が「平和宣言」を世界に向けて発表している。これは、広島・長崎の悲惨な体験を再び世界の人々が経験することのないよう、核兵器をこの地球上からなくし、いつまでも続く平和な世界を確立しようとする広島の取組みの一環である。

【広島IDN=松井一實】

76年前の今日、我が故郷は、一発の原子爆弾によって一瞬で焦土と化し、罪のない多くの人々に惨たらしい死をもたらしただけでなく、辛うじて生き延びた人々も、放射線障害や健康不安、さらには生活苦など、その生涯に渡って心身に深い傷を残しました。

被爆後に女の子を生んだ被爆者は、「原爆の恐ろしさが分かってくると、その影響を思い、我が身よりも子どもへの思いがいっぱいで、悩み、心の苦しみへと変わっていく。娘の将来のことを考えると、一層苦しみが増し、夜も眠れない日が続いた。」と語ります。

「こんな思いは他の誰にもさせてはならない」、これは思い出したくもない辛く悲惨な体験をした被爆者が、放射線を浴びた自身の身体の今後や子どもの将来のことを考えざるを得ず、不安や葛藤、苦悩から逃れられなくなった挙句に発した願いの言葉です。被爆者は、自らの体験を語り、核兵器の恐ろしさや非人道性を伝えるとともに、他人を思いやる気持ちを持って、平和への願いを発信してきました。

こうした被爆者の願いや行動が、75年という歳月を経て、ついに国際社会を動かし、今年1月22日、核兵器禁止条約の発効という形で結実しました。これからは、各国為政者がこの条約を支持し、それに基づき、核の脅威のない持続可能な社会の実現を目指すべきではないでしょうか。

今、新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、人類への脅威となっており、世界各国は、それを早期に終息させる方向で一致し、対策を講じています。その世界各国が、戦争に勝利するために開発され、人類に凄惨な結末をもたらす脅威となってしまった核兵器を、一致協力して廃絶できないはずはありません。持続可能な社会の実現のためには、人々を無差別に殺害する核兵器との共存はあり得ず、完全なる撤廃に向けて人類の英知を結集する必要があります。

核兵器廃絶の道のりは決して平坦ではありませんが、被爆者の願いを引き継いだ若者が行動し始めていることは未来に向けた希望の光です。あの日、地獄を見たと語る被爆者は、「たとえ小さなことからでも、一人一人が平和のためにできることを行い、かけがえのない平和を守り続けてもらいたい。」と、未来を担う若者に願いを託します。これからの若い人にお願いしたいことは、身の回りの大切な人が豊かで健やかな人生を送るためには、核兵器はあってはならないという信念を持ち、それをしっかりと発信し続けることです。

若い人を中心とするこうした行動は、必ずや各国の為政者に核抑止政策の転換を決意させるための原動力になることを忘れてはいけません。被爆から3年後の広島を訪れ、復興を目指す市民を勇気づけたヘレン・ケラーさんは、「一人でできることは多くないが、皆一緒にやれば多くのことを成し遂げられる。」という言葉で、個々の力の結集が、世界を動かす原動力となり得ることを示しています。

為政者を選ぶ側の市民社会に平和を享受するための共通の価値観が生まれ、人間の暴力性を象徴する核兵器はいらないという声が市民社会の総意となれば、核のない世界に向けての歩みは確実なものになっていきます。

被爆地広島は、引き続き、被爆の実相を「守り」、国境を越えて「広め」、次世代に「伝える」ための活動を不断に行い、世界の165か国・地域の8000を超える平和首長会議の加盟都市と共に、世界中で平和への思いを共有するための文化、「平和文化」を振興し、為政者の政策転換を促す環境づくりを進めていきます。

核軍縮議論の停滞により、核兵器を巡る世界情勢が混迷の様相を呈する中で、各国の為政者に強く求めたいことがあります。それは、他国を脅すのではなく思いやり、長期的な友好関係を作り上げることが、自国の利益につながるという人類の経験を理解し、核により相手を威嚇し、自分を守る発想から、対話を通じた信頼関係をもとに安全を保障し合う発想へと転換するということです。

そのためにも、被爆地を訪れ、被爆の実相を深く理解していただいた上で、核兵器不拡散条約に義務づけられた核軍縮を誠実に履行するとともに、核兵器禁止条約を有効に機能させるための議論に加わっていただきたい。

日本政府には、被爆者の思いを誠実に受け止めて、一刻も早く核兵器禁止条約の締約国となるとともに、これから開催される第1回締約国会議に参加し、各国の信頼回復と核兵器に頼らない安全保障への道筋を描ける環境を生み出すなど、核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかりと果たしていただきたい。

また、平均年齢が84歳近くとなった被爆者を始め、心身に悪影響を及ぼす放射線により、生活面で様々な苦しみを抱える多くの人々の苦悩に寄り添い、黒い雨体験者を早急に救済するとともに、被爆者支援策の更なる充実を強く求めます。

本日、被爆76周年の平和記念式典に当たり、原爆犠牲者の御霊に心から哀悼の誠を捧げるとともに、核兵器廃絶とその先にある世界恒久平和の実現に向け、被爆地長崎、そして思いを同じくする世界の人々と手を取り合い、共に力を尽くすことを誓います。(原文へ

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「私たちの証言を聞き、私たちの警告を心に留めなさい。」(サーロー節子、反核活動家)