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東京オリンピックに合わせ、若者向け映像「核のゲーム」発表

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】

日本の首都で7月23日に始まった東京オリンピックが広くテレビで映し出されているが、東京で行われているイベントはそれだけではない。

五輪開会式に合わせて、非政府組織(NGO)や反核活動家、青年リーダーたちが、核の歴史と核兵器及び核エネルギーのリスクと影響に関する革新的な映像・オンラインプラットフォーム「核のゲーム」を発表した。

世界の9カ国(米国・英国・フランス・中国・ロシア・インド・パキスタン・北朝鮮・イスラエル)が核軍拡競争に再び興じて、平和と人道というオリンピックの原則にもとる騙し合いの戦いを長きにわたって行ってきたことが、このイニシアチブが立ち上げられた背景にあるのだろう。

Arms Control Association

このイニシアチブの主催団体は、「『核のゲーム』は、コロナ禍のために無観客でオリンピックを主催している日本を含む各国政府が、意図的に過小評価しようとしている核の問題に光を当てたものだ。」と述べた。

日本は1945年に原爆投下を経験し、2011年には世界でも未曽有の原発事故も体験した。今もその深刻な影響から立ち直っていない。

「核のゲーム」は、マンガ、歴史的映像、双方向のオンラインコンテンツを組み合わせた主に若い視聴者の取り込みを狙った構成で、キューバミサイル危機チェルノブイリ原発事故、ウラン採掘や核実験の被害者、北朝鮮の核計画といった核の問題を扱っている。

「核のゲーム」を見たタリク・ラウフ元国際原子力機関検証・安全保障政策局長はIDNの取材に対して、「若い女性のプレゼンターがプロジェクト立ち上げの際に語った言葉が印象的だった。」と語った。

ラウフ氏は、「核兵器の問題に関する多くの集まりでは、参加者はほとんどが若い人々よりも30歳以上年配者だった。」というこのプレゼンターの言葉を引用した。

「ニュース番組の報道や学術スタイルに比べて、マンガがより効果的に使われている。今日のビジュアル的な素材は、活字をかなりの程度まで上回っている。」とラウフ氏は指摘した。

核の危険が増し永続化する中で、冷戦期の核軍拡競争や核紛争があと一歩で起こりかねなかった現実を目の当たりにした人々の話を語ることは重要だ、とラウフ氏は語った。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

しかし、気候変動と森林破壊が続く中では、核兵器を核エネルギーと混同することは賢明ではない、とラウフ氏は警告した。

バンダ・プロスコワ氏はスター的な存在だ。昨年10月に『核軍縮に関する国連ハイレベル会合』の場で若者代表として発言した。インタビューする価値のある人物だ。」

プロジェクト立ち上げイベントで基調講演をしたケカシャン・バス氏にしてもそうだ。バス氏も(3年前の)「核軍縮に関する国連ハイレベル会合」で青年代表として発言している。

この時のスピーチは以下で聞くことができる。(映像

このNGO連合はプレスリリースで、核の危険と緊張は今日強まっていると述べた。米国防総省によると、核戦争のリスクは増している。『原子力科学者会報』の2021年の「世界終末時計」の針は、依然として「真夜中(=地球絶滅)まで100秒」を指している。前回真夜中に向けて時計の針が進められたのは2020年のことだ。

「しかし多くの若者はキューバミサイル危機なんて知らないし、まして、1962年当時よりも今の方が核の危険が増している事実は知られていない。」「だからこのような核をめぐる教育の取り組みが重要なのです。事実と歴史を知れば、多くの若者たちが行動に移りたいと思うでしょう。」とバンダ・プロスコワ氏は語った。彼女は「ユース・フュージョン」を主宰し、核問題について活動する国際法専攻の大学院生である。

「『核のゲーム』は核軍縮に若者を巻き込むための素晴らしいツールです。」とプロスコワ氏は語った。彼女は「持続可能な安全のためのプラハビジョン研究所」の副所長でもあり、「核不拡散・軍縮議員連盟」ジェンダー・平和・安全保障プログラムの共同責任者でもある。

「核のゲーム」は、双方向ビデオブック作りのパイオニアであるスイスのドクマイン社が制作し、「バーゼル平和事務所」「ユース・フュージョン」「会的責任を果たすための医師団スイス支部」「世界未来評議会」が後援した。

英語版とドイツ語版があり、普段は政治関連のドキュメンタリーを見たり反核運動に加わったりはしないような、通常とは違ったターゲットを念頭に置いている。

「若い人たちへの反響があることでしょう。若者の多くが、核の惨事やニアミス、現在も続いている脅威や影響など、『核のゲーム』が伝える歴史を知らないですから。」

この動画のダイジェストはここから見ることができる。

「平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン」の代表で、「国際平和ビューロー」副代表のジョセフ・ガーソン氏はIDNの取材に対して、「76回目の広島・長崎原爆記念日を迎えるにあたり、この動画が、現在も続く核兵器の危険性に焦点を当てていることを評価したい。また、この動画に関するプレスリリースが、パンデミックの最中で五輪を開く偽善について指摘していることも評価したい。」と語った。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

ガーソン氏は、日本政府はオリンピックのために数兆円を使い、大半の国民の意見に反して開催を強行したと語った。

「日本の人口のわずか4分の1しかコロナワクチンを接種していない。世界で最も進んだ軍隊の一つを構築するお金をワクチンの開発・購入に充てることができていたら、今日どれだけの人々が生き残ることができたかを考えてみなくてはならない。日本の有権者が、この秋の総選挙の時にこのことを念頭に置いてくれるといいのだが。」とガーソン氏は主張した。

7月23日のオリンピック開会式に向けたオリンピックの聖火リレーのルートは(復興への思いも込めて:INPSJ)福島県各地(原子炉があった町を抜け、原発事故によって放棄された近隣の町を含む)も通った。野球とソフトボールの競技は福島県内のスタジアムで行われている。

しかし「核のゲーム」プロジェクトの創始者でバーゼル平和事務所の所長でもあるアンドレアス・ニデッカー氏は、「これは、原発事故の影響を小さく見せ、福島で今も続く影響と、安全への脅威を無視するものだ。オリンピックを視聴している数十億人が、『福島は大丈夫。メルトダウンはすぐに抑え込まれた。』というメッセージを受け取っているが、将来的に核の惨事を起こさないために、核の危険に関する基本的なリテラシーを高める教育を世界的に展開すべきだ。」と語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ニューヨークIDN=アントニオ・グテーレス】

地球温暖化の科学的根拠をまとめたIPCCの作業部会報告書(第6次評価報告書)に関するグテーレス国連事務総長の声明を紹介した記事。同報告書は、現時点で地球の温度はすでに産業革命以前のレベルから1.1度上昇しており、今後二酸化炭素の排出量が大幅に減らなければ21世紀中に、地球温暖化は摂氏1.5度及び2度を超えるとの判断を示した。グテーレス事務総長は、「この報告書は、人類への赤信号」だと指摘したうえで、「私たちが今、力を結集すれば、気候変動による破局を回避できる。しかし今日の報告がはっきり示したように、対応を遅らせる余裕も、言い訳をしている余裕もない。各国政府のリーダーとすべての当事者が、11月にグラスゴーで開催予定のCOP26の成功を確実にしてくれるものと頼りにしている。」と語った。(原文へ

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

イスラエル企業のスパイウエア「ペガサス」を大統領の政敵監視に使用していたとする疑惑が浮上しているルワンダに焦点を当てた記事。政府報道官は当該スパイウェアの使用を否定しているが、アムネスティ・インターナショナル等が暴露したスパイウェアの標的になっていたとされる大量の電話番号には、映画「ホテルルワンダ」のモデルとなったポール・ルセサバギナ氏の娘をはじめ、カガメ大統領の政敵、ジヤーナリスト、人権活動家、外交官など約3,500人が含まれていた。ルセキバギナ氏は、ルワンダ虐殺の中で1268人の人々をホテルに匿い救った行動によって国際的に賞賛された人物だが、昨年カガメ政権によりテロ行為の容疑で亡命先で逮捕されルワンダに移送されている。(原文へ

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国連、サイバー犯罪撲滅と、平和と安全の確保を誓う

日本政府は、核抑止に代わる新しい安全保障政策を率先して考えていくべき(斉藤鉄夫公明党副代表インタビュー)

【東京IDN=浅霧勝浩

広島と長崎は、8月6日と9日に、核兵器禁止(核禁)条約が今年1月22日に発効してから初の「原爆の日」を迎える。国際法に初めて「核兵器は違法」の規範が確立した歴史的偉業の背景には、ヒバクシャをはじめ様々な市民社会による積極的な貢献があった。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

米国の核の傘に安全保障を依存している日本政府は、これまでのところ核禁条約に加盟しない立場をとっている。しかし、2020年中旬から21年1月の間に日本で実施された世論調査によると、明らかに大多数(最高値で72%)の国民が、日本政府は核禁条約に加盟すべきと回答していた。

こうした状況を背景に、連立与党を組む公明党からも、日本政府に対して、核抑止に代わる新しい考え方、安全保障の基盤を率先して考え、核禁条約の第一回締約国会合にも、少なくともオブザーバーとして当初から参加するよう求める声がでてきている。

インデプスニュースの浅霧勝浩アジア・太平洋総局長の電子メールによるインタビューに対して、斉藤鉄夫公明党副代表は、日本は唯一の戦争被爆国という立場であり、核禁条約参加への世界からの理解を得られるよう努力すべきだと語った。

インタビューの全文は次の通り:

浅霧:高校時代、そして公明党広島県本部代表として18年間を広島で過ごされていますね。広島の有権者からは「なぜ被爆国である日本が核禁約に参加できないのか」との声が続いていると伺っています。この重要な疑問に対して、どのように回答されてきたのでしょうか。

斉藤:個人的には「核禁条約に参加すべき。それがすぐできないのであれば少なくとも当初から締約国会議にオブザーバー参加すべき。」と考え、そのように国会で主張してきました。と、同時に核抑上論をベースとした日米安保条約に日本の安全保障を委ねている日本政府として条約への参加を躊躇していることは理解できないわけではない、とも感じているところです。

浅霧:公明党は連立与党の一員として、発効済みである同条約の締約国会議にオブザーバー参加をと政府に訴えています。その締約国会議は2022年1月に開催予定となっております。まさに公明党は、日本が被爆国としての役割を果たそうとするならば、同条約と真摯に向き合い受け入れるべきとの立場を取っているわけですが、その訴えに対する日本の行動を阻んでいるものは何であるとお考えでしょうか。

斉藤:上記に述べたように、隣国に価値観を共有しない核保有国を持つ極めて厳しい安全保障環境の中で日本の安全保障をアメリカの核の傘に全面的に依存しているという現実が、条約への参加を阻んでいる最大の障壁と考えています。しかし日本は唯一の戦争被爆国という立場であり、条約参加への世界からの理解を得られるよう努力すべきと考えます。

Tetsuo Saito/ Komeito
Tetsuo Saito/ Komeito

浅霧:中満泉国連事務次長も「日本は世界唯一の戦争被曝国として、核禁条約に関する対話に参加する機会を逃すべきではない」と述べています。連立与党のパートナーである自民党は、中満氏の言葉には心を動かされなかったのでしょうか。

斉藤:自民党の中にも中満氏の発言に賛同される方はいらっしゃいます。そういう方と連携していきたいと考えています。

浅霧:政府がこういった訴えに耳を傾けるよう働きかける計画はおありでしょうか。

斉藤:令和3年2月22日(月)の予算委員会での私の質問に対する茂木敏充外務大臣の答弁は画期的なものでした。即ち、核抑止論を越える新しい考え方について考えていかなければならない、というものでした。議論の糸口がつかめたと考えています。

核禁条約の締約国会議では、例えば「被爆者」の定義など、ヒロシマ、ナガサキの経験を持つ日本人だからこそ正確な議論に貢献できる分野がたくさんあります。これは核保有国にとっても知りたい議論だと考えます。少なくとも当初から日本はオブザーバー参加すべきです。(原文へ

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|視点|核禁条約:核軍縮におけるゲームチェンジャー(節子サーロー 被爆者、反核活動家)

ICAN、核兵器禁止条約発効を期待(ティム・ライトICAN条約コーディネーターインタビュー)

日本は被爆国として建設的な役割を果たす権利、責務がある(山口那津男公明党代表インタビュー)

洪水と旱魃ーそして銃器ーにより加速する広範な飢餓

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】

国連の食糧援助機関(FAOとWFP)が発表した世界の飢餓状況は国連をして「ホラー映画を見ているような状況だ」を言わしめた衝撃的な内容だった。極端な不平等、紛争・内戦、援助資金不足、気候変動等の影響により2020年に飢餓に直面した人口は、前年から1.6億人増えて7.2~8.1億人にのぼり、2021年は新型コロナ(それに続くデルタ株の蔓延)のパンデミックの影響で一層悪化している。なかでも気候変動の影響は確実に迫ってきており、国連の報告によると、マダガスカルは、極端な気候が原因で飢餓状態に陥った最初の国となった(同国南部では続く旱魃で食料が枯渇し、生き残った人々はイナゴやサボテンの葉、泥まですする事態に追い込まれている。)(文へFBポスト

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我々は同時に2つの敵と戦っている:死を招くウィルスとより致命的な飢餓だ

|視点|「国際民族紛争裁判所」の設立を求めて(ジョナサン・パワー コラムニスト)

【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

20世紀末に亡くなる直前、偉大なる思想家アイザイア・バーリンは、「欧州にとって最悪の世紀だった。フン族襲来の時代よりも悪かったのではないか。なぜか?ナショナリズムは現代に蘇ったものではない。それは元々死んではいないからだ。人種差別にしてもそうだ。多くの社会体制を超えて、これらは今日の世界において最も強力な運動となっている。」と語った。

バーバード大学教授だった故ダニエル・パトリック・モイニハンはその著書『パンデモニアム』の中で、「第一次世界大戦がはじまった1914年に存在し、それ以来暴力によって政府形態を変更していない国は、現在の世界では7つしか残っていない」と書いている。米国・英国・オーストラリア・カナダ・スイス・スウェーデン・ニュージーランドがそうである。

「来る時代における紛争形態で支配的になるのは民族紛争だ。それは野蛮なものになるだろう。今後50年間で50の国が新たに誕生するかもしれない。そのほとんどが、流血の事態の結果として生まれることになろう。」とモイニハンは記している。

この加速度的に力を増す民族自決をみて、ビル・クリントン米大統領期の国務長官だったウォーレン・クリストファーは、もう降参といった様子でこう嘆いた。「一つの国で異なる民族集団が共存する道を見出すことができないならば、いったいどれだけの国が必要になるのか? きっと5000は必要だ。」

Charter of the United Nations and Statute of the International Court of Justice.

しかし、何が問題なのだろうか。1000の花が咲けばいいのではないか。残念ながらそれは単純に過ぎる。そんなことが起きるのは阻止しなくてはならない。難しいのは、AからBへと戦争なしに移行するのが難しいという人間の心理である。困ったことは、1990年代の旧ユーゴスラビアや今日のソマリア、ミャンマー、シリア、イエメンがそうであるように、より大規模で支配的な民族集団は、国内の少数民族集団が自治を獲得したり独立して国が小さくなるのを好まないということだ。かりに分離に成功したところで、世界の他の国々がそれを承認するだろうか? コソボに関してそうであったように、承認は、今日の国際法において最も難しいトピックだと見なされている。

国連憲章は「人民の自決」を承認している。しかし、主権という長きにわたって保たれてきた原則を相当程度に損なうものでもあるため、この民族自決権を適用してその結果を受け入れることは、国際法学者を二分する問題になっているのである。

概して、ほとんどの場合において、諸国のコミュニティは国際連盟の意見を基に動いてきた。1920年、バルト海にあるオーランド諸島のスウェーデン系住民が、フィンランドからの「自決」を認めよと国際連盟に要請し、連盟はこの要請を検討した。連盟の顧問らは「それが彼らの望みであるとか大きな喜びであるとかいったことを理由に、言葉の問題にしても、宗教の問題にしても、あるいは人口の一部分に対して、自らの属している社会からの離脱の権利をマイノリティに対して認めることは、国家の中の秩序と安定を破壊し、国際社会に無政府状態を生み出すことになろう」と述べている。

安保理五大国の連帯

1960年代、分離・独立を求める東部州(自称ビアフラ共和国)の武力反抗をナイジェリアが鎮圧する権利を、本国での批判の強まりを受けて英国政府が支持したのはこのためだ。今日、安保理の五大国がイラクやシリア、ソマリアの領土の一体性を主張しているのもこのためである。安保理五大国によるこの立場は、民族自決の常識に反すると思われる、国を持たない最大の民族集団クルド人問題についてでさえ同じである。

Dr. Lyle Conrad – Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, Georgia, USAPublic Health Image Library (PHIL); ID: 6901,Public Domain

しかし、明らかに態度に変容がみられる。米国と欧州連合は、スペインやロシアの反対にも関わらず、コソボの独立を強く後押しした。スペイン政府は、独立をめざすバスク地方のテロリストと、カタルーニャ州の激しい独立運動に直面して、国の統一が脅かされることを恐れていた。かたや、コソボの独立に反対票を投じたロシアは、世界各地のマイノリティも同じことを主張するようになるかもしれないと論じていたが、その数年後には、クリミア半島に侵略してウクライナから分離併合した。ロシアが自らの行動を正当化するコソボの先例がなかったら侵略などしなかったのではないかと思う人もあるかもしれないが、そんなことはないだろう。

西側諸国は1920年の立場からどれだけ変わったのだろうか? いったん球が転がり始めたら、クリストファー国務長官が警告したように、その球はいったいどこで止まるのだろうか? 民族紛争が勃発するためには、フロイトが「ナルシスト的に小さな違い」と呼んだように、大きな違いは必要なく、ほんのわずかの違いでよいのである。

国連は、西サハラの統治を目指してモロッコと闘うポリサリオや、ロシアのチェチェンの抵抗勢力、ミャンマーにおけるシャン族の反乱、シリア軍に包囲されたイドリブの人々、あるいは、インド北東部の一部分の独立をめざして戦っている人々を承認するのだろうか。リストはどこまでも続く。

今後ますます大きな問題になるかもしれない民族紛争について、私がながく考えてきたことは、国際民族紛争裁判所の設置というアイディアである。

分裂しようとしている国、あるいは脅威にさらされている民族集団がこの裁判所に訴え、人権宣言の原則が順守されているかどうかを問う判決を求めるのである。行政の境界線は公正なものか? 多数を占める民族が少数民族に与えた言語や教育、政治的代表の権利は適正なものか? 状況をより公正なものにするために裁判所が提示することのできる、法律や行政の改善案はあるか?

実際のところ、1920年代のオーランド諸島紛争の際に仲介者が行ったことがこれなのである。当時、これはきわめて大きな問題だった。しかし今日ではそうでもない。当時は国際連盟の裁定(新渡戸裁定)により、オーランド諸島はフィンランド領のままだが、島民がスウェーデン語を使う権利は強められている。

UN Photo
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民族紛争裁判所は、21世紀を流血の事態から救うかもしれない。50の新たな紛争、あるいは、50の新たな国の誕生は必要なくなる。(原文へ

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国際法は民族紛争を減らす強力なツール

|エチオピア|「紛争に絡んだ性暴力に国際司法裁判所の裁きを」と訴え

国連、サイバー犯罪撲滅と、平和と安全の確保を誓う

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

デジタル技術の進化が人間の生活を革新しつづける中、国連が「将来世代の安全を危機に晒しかねない」悪意のある技術に「警戒し続ける」よう呼びかけている。現在、世界には46億人以上のインターネットユーザーがいる。

したがって、国連のミシェル・バチェレ人権高等弁務官が7月19日に次のように述べたことは驚くにあたらない。「さまざまな国でジャーナリストや人権活動家、政治家などを監視するためにスパイウェア『ペガサス』が広範に使用されていたことが明らかになったが、極めて懸念すべきことだ。人権を侵害する監視技術の濫用に対する最悪の懸念を確認した形だ。」

国連で軍縮を担当する中満泉事務次長は、平和と安全に関する国連安保理の最近の会合で「デジタル技術はますます、既存の法的・人道的・倫理的規範に制約を与え、不拡散、国際の安定、平和と安全に制約を与えるようになってきている」と述べたが、この発言のもつ重要性が際立ってきた。

Photo: Michelle Bachelet of Chile, newly-appointed as the next UN High Commissioner for Human Rights by Secretary-General António Guterres. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Michele Bachelet, Presidente of Chile speaks during Special Session of the Human Rights Council. 29 March 2017. UN Photo / Jean-Marc Ferré

中満氏はさらに、デジタル技術は、アクセスへの障壁を引下げ、国家や非国家主体に国境を越えた攻撃能力を与えることで、紛争の新たな領域を開きかねないと述べた。

2022年までに285億台のネットワークデバイスがインターネットに接続されると推測されているが、これは2017年の180億台よりも格段に増えていると中満氏は指摘する。

最近では、意図的に誤った情報を流したり、故意にネットワーク障害を引き起こす等、情報通信技術(ICT)を標的とした悪意のある事件が急増し、国家間の不信を増大させ、各国が依存する重要なインフラを危機に晒している。

中満氏は、新型コロナ感染症のパンデミック下で医療施設に対するサイバー攻撃が増えていることへのアントニオ・グテーレス国連事務総長の懸念を想起しつつ、こうした攻撃を予防し撲滅するよう、国際社会に一層の努力を訴えた。

「オンラインによる暴力的過激主義や人身取引きは、サイバー上のストーキング行為や親密なパートナーからの暴力、親密者の情報や画像を同意なしに拡散する行為といった他のICT関連の脅威と同様に、しばしば見過ごされがちな悪影響を、女性や男性、子どもに及ぼしている。」

デジタル領域の意思決定における男女の「平等で完全、かつ効果的な参加」が優先されるべきだと中満氏が述べるのはこのためだ。

サイバー犯罪との闘い

ICTの脅威が高まる中、それに対処するための取り組みも強化されている。10年以上にわたって、政府レベルの専門家グループが、国際安全保障に対するICTの既存および新規の危険性を研究し、それに対処する方法、例えば信頼醸成措置や能力開発、協力措置などを勧告してきている。いわゆる「公開作業グループ」は「具体的で行動指向の勧告」を採択していると国連当局は述べている。

他方で、地域機関も取り組みを進めている。国家が自発的で法的拘束力のない規範を採択することから、地域での信頼醸成措置の発展、ICTリスク軽減のための地域的ツールの採択などがここには含まれる。

国際安全保障を守る第一義的な責任主体は国家である。しかし、ICTは社会の統合的な部分であり、そこへの参加者もまた、安全なサイバースペースを守るための役割を担っていると国連人権高等弁務官は語った。

「民間部門や市民社会、学界からの視点が、国際社会が求めているサイバーセキュリティへの集団的な解決策に独自かつ重要な要素を与えることになるだろう。」

UN Secretary General’s Roadmap for Digital Cooperation

中満氏は、平和的なICT環境を促進するにあたって国連は「国家やその他の主体を支援する用意がある」と述べ、国連事務総長の「デジタル協力に関するハイレベルパネル」とその後の円卓会議について指摘した。

2020年6月11日、グテーレス事務総長は、あらゆる人々が接続でき、尊重され、保護されるデジタル社会を構築するために国際社会が取るべき行動について勧告した。国連事務総長の「デジタル協力へのロードマップ」は、インターネットや人工知能(AI)、その他のデジタル技術に関連した幅広い問題に対処する、多くの当事者による長年に亘るグローバルな取り組みの帰結である。

行動指向のこのロードマップは、次のような領域において、グローバルなデジタル協力を促進する多様な利害関係者による具体的な行動を勧告している。

・2030年までの普遍的な接続の確立:誰もがインターネットへの安全かつ安価な接続を可能とすること。

・より公正な世界を導くデジタル公共財の促進:インターネットのオープンソース化を促進し、公的な起源を取り込み支持すること。

・社会的弱者も含めてすべての人々にデジタル技術を提供する:開発を促進するために、現在はサービスを受けていない集団もデジタルツールに平等にアクセスする必要がある。

・デジタル能力開発の強化:スキル開発と訓練が世界中で必要。

・デジタル時代における人権の擁護:人権がオンライン・オフライン両方で適用されること。

・信頼でき、人権を基盤とし、安全で、持続可能で、平和を促進するような人工知能に関してグローバルレベルでの協力を支援する。

・デジタルの信頼と安全を促進:持続可能な開発目標を前進させるグローバルな対話を呼びかけ。

・デジタル協力へのより効果的な仕組みの構築:デジタルガバナンスを優先し、国連のアプローチに焦点を当てる。

国連事務総長の「ロードマップ」は、「デジタル協力に関するハイレベルパネル」の勧告と、加盟国・民間部門・市民社会・技術者・その他の利害関係者からの意見を基にしている。

中満氏は、国連事務総長の「軍縮アジェンダ」もまた、「既存の法的・人道的・倫理的規範や、不拡散、平和と安全」に対する挑戦となっている新世代の技術に対処するものであると指摘した。

Photo: Izumi Nakamitsu, the UN High Representative for Disarmament Affairs (UNODA). Credit: UNODA

軍縮アジェンダは、平和目的の技術革新に関して科学者や技術者、産業界と協力し、「サイバースペースにおける責任ある行動に関する新たな規範やルール、原則に関するアカウンタビリティと遵守の文化を生み出す」ために加盟国と関与することを呼びかけた。

デジタル空間が日常生活のほとんどの側面を支えるようになっているなか、ICTがサイバー攻撃された場合の被害の大きさ広がりは重大な懸念だ、と中満氏は語った。

中満氏は、「意図しない武力対応や事態のエスカレーションなど重大な帰結」を引き起こしかねないサイバー攻撃の責任国を追及する動きや、国々が敵対国の技術利用に対して「攻撃的な態勢」を採用する動き、さらには、非国家主体や犯罪集団が「責任を取ることから高度に逃れた状態で社会を不安定化する能力」を開発する動きに対して、強い警告を発した。(原文へ

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|視点|核兵器禁止条約の政治的重要性について(トーマス・ハイノツィ元欧州国際関係省軍縮・軍備管理・不拡散局長)

著名な仏教指導者が核兵器とキラーロボットの禁止を呼び掛ける(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー)

北大西洋条約機構、対ロ・対中対策にシフトへ

大手タバコ産業が世界的な禁煙の取り組みに立ちはだかる

【ワシントンDC IDN=マシュー・マイヤース】

大手タバコ産業が巧みに市場に投入している多様な味付電子タバコにより、青少年が深刻な心血管・呼吸器疾患や脳の発達障害を患っている現状に警鐘を鳴らした世界保健機関の報告書「Global Tobacco Control Report」を分析した記事。WHOは、青少年期における電子タバコ愛好者がたばこ喫煙者に移行する可能性はそうでない場合より2倍以上高いとしている。そのうえで、たばこ喫煙者が新型コロナウィルス感染症に罹患すると重症化しやすい点を指摘して、電子タバコに対するより厳格な規制を各国に訴えている。(原文へ

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途上国では疾病よりも死の原因となる公害

|米国|新天地で新たな人生を踏み出すソマリア難民

【ニューヨークIDN/UN News Feature=ムヒディン・リバア】

ケニアで国連が支援する難民キャンプで何年か過ごしたのち、約220人の元ソマリア難民が、米国メイン州の農場でビーツやスティックセニョール(ブロッコリーに似た緑黄色野菜)等の作物を育てている。

アフリカの角地域に位置するソマリアで続いている迫害や内戦から逃れた数千人のソマリア人が、米国などの第三国への再定住を支援するプログラムの恩恵を受けている。

ムヒディン・リバアさんもそうした難民の一人だ。リバアさんは取材に対して、メイン州のルイストンに設立したソマリ・バンツーコミュニティー協会について語った。同協会は、新たに到着した元難民がソマリアバンツー族の文化を保持しながら、アメリカの生活様式に適応できるよう支援する活動を行っている。

「私は1991年にソマリア南部ジュバ渓谷の村が襲撃された際に、家を後にしました。故郷は内戦の当事者らによって、多くの人々が殺害されたり餓死に追い込まれました。また女性は強姦され、土地や財産は略奪されました。」とリバアさんは当時を振り返った。

迫害

私はソマリアの少数民族であるバンツー族に属します。バンツー族はソマリアに数世代前に奴隷として連れてこられた人々の末裔です。そうした背景から、ソマリアでは私たちは常に迫害されてきました。

私は父と共に国境を越えてケニア東部のダダーブ難民キャンプに収容されました。当時私は15歳で、通学経験もなく、知っていることと言えば畑で耕作することぐらいでした。銃を持った少年達が至る所にいたので、もしあのままソマリアに留まっていたら、とっくに殺されていたと思います。

国連の子

私はダダーブ難民キャンプで10年暮らしましたが、現地の気候は冬でも緑豊かだった故郷のジュバ渓谷とは全く異なる乾燥して砂埃が舞う大変熱い気候で、そこでの生活は大変厳しいものでした。

ダダーブ難民キャンプは、いわば屋根のない広大な刑務所のようなところで、あまり活動ができませんでしたが、国連が学校を設立してくれたおかげで、初めて勉強をすることができました。故郷では同世代の子どもたちが銃を持たされている状況でしたから、難民キャンプで教育を受けることができたのには大変感謝しています。国連はまた、食料や水を配給してくれました。こうしたことから、私は国連の子だと思っています。ムヒディン・リバアさんは、ここダダーブ難民キャンプで10年を過ごした。

ケニアでは国連に頼りきりだったので、米国に再定住してからは、農家のための自給自足のコミュニティーを創りたいという夢を持つようになりました。ソマリ・バンツーコミュニティー協会は、大半の人が英語を話せないバンツー族の同胞たちをエンパワ―する一つの手段です。

農業生活

UN News/Daniel Dickinson
Muhidin Libah set up the Somali Bantu Community Association in Lewiston, Maine.

私たちは最近メイン州ルイストンで長期にわたる土地所有権を確保し、ここで将来を切り開いていけると確信できる新たな段階に入りました。私たちはこの新天地を、私たちに自由をもたらす地という意味合いを込めて自由農場(Liberation Farm)と呼んでいます。

220人からなる農業コミュニティーの4分の3は女性で、それぞれが10分の1エーカー(約120坪)の農地で様々な農作物(モロヘイヤ、茄子、アフリカトウモロコシ、アマランサス、各種豆等)を伝統的な手法で耕作している。また、点滴灌漑や列作といったアメリカの新しい農業技術も学んで、新たにビーツやフエンネル、スティックセニョール等を栽培している。多くの家庭は、こうした有機栽培の収穫からなんとか家庭内食料と収入を確保できているため、食料配給券に頼らず暮らせている。

バンツーの文化では一生を通じて、土地が私たちの生活に深いつながりをもっているので、農業はこの協会における活動の中心を占めています。私たちはまた、紛争の調整や健康アドバイス、青年団といったコミユニティー支援活動も行っています。

SDGs Goal NO.10
SDGs Goal NO.10

ルイストンとその双子の街オーバーンには7000人のソマリア人が暮らしており、その内3000人がソマリアバンツー族です。私たちのコミュニティーがアメリカの生活スタイルに適用するスピードは遅く、その理由として、英語が話せないことに加えて、外国から来た異質な人々に対する米国人の理解不足が挙げられると思います。しかし、食は世界共通ですので、元難民コミュニティーの人々の農業活動が、この地元住民との差異を埋めていく一助となると思います。農業は異なるコミュニティーを結びつける役割があり、既にその兆候は地元の生産者直売所で私たちの農作物が売れていることに表れていると思います。

今の子どもたちが米国の学校を卒業する次の世代になれば、この元難民コミュニティーも米国社会に完全に統合できるようになっていると思います。

私たちは従来の伝統を可能な限り保持したいとは思っていますが、この社会で多才にうまく立ちまわれる次世代の子ども達を育てていけるよう、ソマリバンツー族とアメリカ文化の最も良いところを身に着けながら米国社会にもうまく適応していきたい。(原文へ

INPS Japan

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米国は核先制不使用を約束すべきだ

【ウェリントン(ニュージーランド)IDN=ヴァン・ジャクソン】

核兵器は、他国による核兵器使用の抑止にはなるかもしれないがその他には使い道がない、というのが冷戦の最も重要な教訓の一つだ。突発的に大規模な暴力を引き起こすだけの能力しか持たない兵器は、ほとんどの場合において、強制力を伴う信頼できるツールとしてはあまりに粗雑なものだ。

もし米国が抑止だけを目指し、核兵器から政治的利益を引き出そうとするのでないのなら、核兵器先制不使用政策の採用は、単に低リスクであるというだけではなく、必要なことだ。

2020年の大統領選で民主党からの指名を争っていた主要候補のほとんどが核先制不使用政策を主張していた。この方針を採用させるための立法に対する支持も米議会では強くなってきている。実際、米国の通常戦力が世界中に展開しているなかで、敵方の核兵器使用の前に米国が核兵器を使用するシナリオを想定することは難しい。

核先制不使用政策はしたがって、当然の核政策なのである。まともな大統領であれば、悲劇的な誤解をしていない限り、敵方の前に核兵器を使うことなどしない。しかし、トランプ政権以来、核先制不使用政策採用の必要性はより緊急なものになっている。

トランプ時代の政策決定以降、米国の戦略的な能力を信じるのは愚か者だけであろう。トランプ現象はひとつの常態であって、今日の米国政治の例外ではない。トランプは共和党内に多くの追従者を産んだ。彼らは、陰謀論を信じ、国内政治でのポイントを稼ぐために、敵対的で軍事的、急進的な外交政策を推進するのである。

核兵器を発射する権限を与えられた極右の候補を誰が信用するだろうか。先制不使用は、核の領域において米大統領の権限を抑制するのに必要な多くの政策の中で、最も簡単にできるものだ。

米国のジョー・バイデン大統領は過去に先制不使用政策に前向きな発言をしているが、バイデン政権のこれまでの核政策はトランプ政権のそれとあまり区別できない。過去4年間で米国はほとんどの軍備管理協定から撤退し、極超音速滑空体への投資を拡大し、低出力の「戦術」核兵器の開発を進め、最も非合理な形で核使用の威嚇をかけ、1.5兆米ドルを核近代化計画にかけている。

では、現在の状況が、米国の抑制というよりも野放図な軍拡となっている時に、先制核使用のオプションを保持し続けることがなぜ望ましいのか? 核先制不使用への反対論は、3つの論拠を挙げている。

Image source: SIPRI

第一に、核の主唱者たちは、中国やロシア、北朝鮮は自らの核先制不使用方針を真面目に守ろうとしてはいないと主張している。しかし、国家行為において相手を欺くことが時として利益を生むからと言って、核先制不使用政策への反駁にはなるまい。もし敵方が米国の核計画について最悪を想定しているのなら、彼らが核兵器を使わない限り、米国の核兵器について心配するには及ばないと主張することに何の問題があるのだろうか?

もしこの約束の信頼性が問題だというのなら、米国政府はさらなる変化を通じてそれを強化することができよう。大統領の権限を抑制する立法は一つのメカニズムであり、したがって、核の三本柱のうちICMBを廃絶し、トランプ時代に廃された軍備管理協定を新たに結び、中距離地上発射ミサイルや「戦術」核弾頭への投資を抑制するということもあるだろう。複数のシグナルがつながってひとつの共通のメッセージを送る時、とりわけそのシグナルが、コストがかかり自らの手を縛るようなものであるとき、判断が変化や宣言を生み出す文脈は、信頼性のあるものとなろう。

第二に、曖昧な政策は、米国が核兵器を敵方に対して使用するかどうかについての不確実性を増し、敵方が米国やその同盟国に対して核兵器を使用するのを防ぐという。しかし、米国の通常戦力がグローバルな展開をしている時に、自らが先に核兵器を使ってしまおうと敵方が考えるシナリオとはどんなものだろうか?

もし、核の報復という現実味のある脅威が中国やロシア、北朝鮮を抑止できないとすれば、米国の核政策が大胆なものである必要があるだろうか? 米国の核の威嚇によっては、敵が土地を奪取したり、隣国の領土を侵略したりすることを防ぐことはできない。核戦略に関する米国の意図について敵に常に疑問を持たせておいた方がよいとする考え方は、戦場のロジックを平時に持ち込んだものだ。

もし米国が紛争において核の先制使用の脅しが適切だと本当に考えているのならば、先制不使用から宣言的な曖昧政策へと移行することが「敵に疑問を持たせ続ける」うえで有効であろう。戦争の霧でもって常に地政学を覆い続けることによっては、平時の抑止は得られない。

第3の議論は、米国の拡大核抑止に依存している同盟国が、彼らに代わって米国が敵国を抑止する能力あるいは意思について疑問を持つかもしれない、というものだ。だから、なんだというのだろう。どの同盟も、核だけを問題としているのではない。同盟国が抱く「見捨てられる恐怖」と「巻き込まれる恐怖」を完全に和らげることなどできないのだから、米国は彼らの意向に囚われすぎないように注意しておけばよいだけのことだ。

ICAN

極端に言えば、米国が日本や韓国、オーストラリアに拡大核抑止を提供しなくなったら、これらの国が核武装化するかもしれない。しかし、同盟国が軍拡しないように米国が代わりに軍拡するという古い型の取引きは、米国の政治が悲しいまでに無計画になってきている中では、意味をなさない。同盟国への核拡散はそれ自体リスクではあるが、米国による核の独占や、大統領が核の先制使用権限を持っている状態に比べれば、ましなのかもしれないのである。

核先制不使用に反対する議論には根拠が薄い。一方、理性的な人々はそのことをこれまでも論じてきた。しかし、状況は大きく変わってきた。抑制が効かず狂信的かもしれない大統領に対して、米国の敵方がそうする前に核兵器を発射する命令を発する権限を与えるべきかどうかについて、核政策は再考すべきなのだ。

もしその目的が、長期的に見て米国の外交政策の核兵器への依存度を下げる一方で核戦争のリスクを最小化することにあるというのならば、核先制不使用政策の採用は、より理性的な世界に向けた道を歩むうえで米国が最低限すべきことなのである。(原文へ) 

INPS Japan

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