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人類が核時代を生き延びるには、核兵器がもたらす厳しい現実と人類の選択肢を報じるジャーナリズムの存在が不可欠(ダリル・G・キンボール軍備管理協会会長)

【ニューヨークIDN=ダリル・G・キンボール】

人類が核時代を生き延びるためには、情報を熟知し、連帯して行動を起こす市民の存在が不可欠だ。そして、核兵器が人類に突き付けている厳しい現実と、その使用がもたらす帰結、そして人類に残されている選択肢を明らかにする効果的で独立したジャーナリズムの存在が不可欠である。

米国による最初の原爆が広島と長崎に投下されて以来、ジャーナリスト達は、世界で最も危険なこの兵器に関する事実を伝え、虚構を暴く重要な役割を果たしてきた。

米政府に安全保障政策を助言した物理学者で、核軍縮の主唱者でもあった故シドニー・ドレル博士は1983年に、核兵器と核政策に関する問題は「あまりに重要過ぎて専門家にのみ任せてはおけない…あらゆる人々がこの大量無差別兵器の標的となっているのだ。従って、私たちには、確かな情報に基づいて、軍備管理が絶対に必要だと政策責任者らに要求する市民になる以外に弁解の余地はない。」と記している。

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核兵器の壊滅的なリスクに関する情報と、核兵器を削減し廃絶する常識的な戦略を身に着けた一般市民たちは、この問題に関心を寄せる科学者や医師、外交官らとともに組織化を進め、核軍拡競争をペースダウンし反転させるよう政治指導者に圧力をかけることに成功してきた。

核兵器に反対する大衆運動が展開された結果、核実験を禁止し、核兵器と核製造のノウハウの拡散を防ぎ、核戦力を制限し検証可能な形で廃棄するための多数の二国間・多国間協定が締結されてきた。そして今年初め、核兵器禁止条約が発効し、核兵器に対する禁止規範をさらに強化する軍縮の法的枠組みにおける新たなツールが生まれたのである。

しかしこうした成果も、何十年にもわたって、核兵器の危険性に光を当て、核兵器廃絶の是非やその方法など、核兵器を巡る激しい公論を取材・配信してきたジャーナリストや編集者たちの働きなしには、現実することはなかっただろう。

例えば、ジョン・ハーシー氏が1946年8月31日発行の『ザ・ニューヨーカー』誌に発表したパイオニア的な現地からのレポートがある。これによって、米占領当局が世界から隠そうとした爆風・熱線・放射線障害といった、核兵器が太陽のように明るい「無音の閃光」を放った後も、長いこと死をもたらし続けるという事実が世界に知られることとなった。

Hiroshima Book by John Hersey, 1st edition/ Wikimedia Commons

残念なことに、冷戦が始まって間もない当時、米国や欧州の多くの主要メディアが核兵器の危険性を軽視していた。そのため、核兵器を巡る秘密のベールをはがすことはできず、政府の公式見解に対する疑問が呈されることはほとんどなかった。

ましてや、メディアが本質的に政府の一部門を構成していたソ連では、核兵器の生産や実験が人間や環境に及ぼす壊滅的な影響について知ることや、危険な核政策に異議申し立てをすることは、普通の市民にとってはなおさら困難であった。

しかし、懸念をもつ核科学者や公衆衛生専門家らの働きによって、一部の専門誌や雑誌が公的議論の狭間を埋めた。例えば、1962年、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌は、ソ連の核攻撃が米国の都市にもたらす影響と、医療体制や緊急対応の仕組みがいかに壊滅的な被害を被るかについて論じた医師らによる画期的な一連の論文を掲載した。キューバミサイル危機に先立つこと数カ月、これらの記事は、核戦争において当事者の一方が「勝利を収める」という神話を打ち砕いた。

また別の事例を挙げると、穏健ながら重要な新聞報道が、軍縮を求める大規模な行動を刺激する出来事を生み出した。1979年2月、米フロリダ州の『セントピーターズバーグ・タイムズ』紙が、「軍備管理協会」のウィリアム・キンケード代表とフリージャーナリストのナン・ランダール氏の監修を得て、ソ連の核爆弾が都市上空で爆発したらという仮定の下で4日間にわたる記事を掲載した。

ランダール氏の解説が、米連邦政府の科学関連諮問機関である「技術評価室」(OTA)の関心を引き、彼女は結果としてOTAのために『核兵器の効果』という連載記事と類似した内容の報告書を同年執筆することになる。この報告書は次にABCテレビの制作陣に刺激を与えて、核紛争の帰結に関するドキュメンタリー風ドラマ「ザ・デイ・アフター」を生み出すことになる。

1983年11月20日に放送された「ザ・デイ・アフター」は実に約1億人の視聴者を獲得した。テレビ映画としては史上最大の視聴者数であった。この映画は米国で「核凍結」運動を生み出し、(ロナルド・レーガン大統領を含む)政府の政策決定者の注目を引き、核の危険を低減する行動を引き起こした。

そして現在も、依然としてマスメディアが、核兵器の危険と、核の脅威を取り除く試みに関する主要な公的情報源である。事実を虚構と切り分けることが難しく、政府によるゆがんだ情報提供が新たな形を取りつつある今日の超情報社会においては、世界で最も危険なこの兵器に関連した最新状況と理念に特に焦点を当てた独立の報道ネットワークの重要性が増しつつある。

1983年以来、インデプスニュースと、その寄稿者・特派員のネットワークは、核兵器の脅威に関心を持つ世界中の人々に対して、計り知れないほど重要な情報を提供してきた。今日、核兵器の脅威を廃絶するための長きにわたる闘いは、核軍拡競争が激しさを増し核戦争の危険が大きくなる中で、新たな緊急性を帯びるようになってきている。

核時代のこの新たな危険な局面において、核の大惨事に対する防護壁を強化し「核兵器なき世界」に向けた前進をもたらす効果的な解決策や理念、行動に関してインデプスニュースが提供する報道は、これまで以上にその重要性を増している。(原文へ

※著者は、軍備管理協会会長の代表。この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「Toward a Nuclear Free World」の最新レポートの序文として寄稿されたものである。

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オーストラリア政府の場当たり的気候政策に思わぬところから批判

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=デニス・ガルシア】

現在のオーストラリア政府は、気候政策において他の先進国に大きく後れを取っている。政府の関与と努力が不足しているとして、国内外、とりわけ太平洋地域の近隣諸国から批判が出ている。太平洋島嶼国(PICs)は、特に気候変動の影響にさらされ、これに対して脆弱であり、気候変動に関する国際的な外交イニシアチブの最前線に立っている。これらの国の地域協力機構である太平洋諸島フォーラム(オーストラリアとニュージーランドも加盟)は、2018年の地域安全保障に関するボエ宣言において、気候変動は「太平洋諸国の人々の生計、安全保障、福祉を脅かす最大の単独要因」であると断言している。オーストラリアは再三にわたり、お粗末な気候政策に対して他のフォーラム加盟国から圧力をかけられている。(原文へ 

そして今やPICsや他の評論家たちは、思わぬところから加勢を得ている。オーストラリアの軍事・安全保障関係者たちが声を上げ、気候変動と安全保障の結びつきを強調することによってオーストラリアの気候政策に異議を唱えているのである。これは、2021年9月に発表された二つの報告書の焦点となっている。一つは、オーストラリアン・セキュリティー・リーダーズ気候グループ(Australian Security Leaders Climate Group)によるもの、もう一つはオーストラリア気候評議会によるものである。二つの報告書、「Missing in Action. Responding to Australia’s climate & security failure(作戦中行方不明。オーストラリアの気候と安全保障の失敗を受けて―邦題仮訳)」と「Rising to the Challenge: Addressing Climate and Security in Our Region(課題に立ち向かう: 地域の気候と安全保障への取り組み―邦題仮訳)」は、気候変動とその影響を国家および国際の安全保障の問題として捉えている。いずれも、オーストラリア政府が場当たり的な気候政策によって国家安全保障を危機にさらしていると非難している。

「Missing in Action」報告書は、オーストラリア国防軍(ADF)および国防省の元高官らによって作成されたもので、地球温暖化は「オーストラリアが直面する最大の安全保障上の脅威」であると断定している。この脅威に対処するには気候政策を強化しなければならないと、執筆者らは主張する。オーストラリアの気候対策を国連加盟国193カ国中最下位と位置づける国連の報告書を引き合いに出し、現行政府の政策は不十分であるとしている。そして、オーストラリアの安全保障上の利益のために「断固とした政策的措置」を求めている。報告書は、気候と安全保障の関連性を示す事例として、特にシリア内戦、アラブの春、マグレブ地域、中東、サヘル地域の紛争を挙げており、強制移住、国内および国際避難を安全保障問題としている。気候変動の結果として地政学的緊張と軍隊の負担増大が生じると指摘し、資源競争の激化、経済および貿易の混乱、それがもたらす国家間の対立という構図を描いている。こういったこと全てが、オーストラリアの安全保障に大きな影響を及ぼし、オーストラリア軍の負担をさらに増やすことになると、報告書は主張している。ADFは、気候変動に対するオーストラリア政府の無策による被害者として描かれている。軍は、「加速する気候変動の影響に直面して、なんとか事態を収拾しなければ」ならなくなり、その能力は地球温暖化によって深刻な影響を受けるとされている。

「Missing in Action」報告書は、その分析結果に基づいて、とりわけ「包括的な気候と安全保障のリスク評価」、「気候脅威情報収集機関」の設置、気候と安全保障の関連に対する「政府全体のアプローチ」を求めている。そのようなアプローチは「複合システム」であるため、「縦割り型」のアプローチではなく「全体的な視点と総合的な対応」が必要である。執筆者らはオーストラリア政府が「体系的かつ全体的に気候安全保障リスクに対処する、準備と予防の責任を負う政策」を採用することを提案している。

オーストラリア気候評議会による「Rising to the Challenge」報告書の論調も、これと非常に似通っている(オーストラリア国防省のシェリル・デュラント元準備動員担当ディレクター<Director Preparedness and Mobilisation>が両報告書の主執筆者であることを考えれば驚くべきことではない)。同報告書も、オーストラリアには「気候と安全保障の大きな」リスクがあり、「緊急の対策」を必要としていると警告している。オーストラリア近隣の太平洋諸国により明確な重点を置いており、海面上昇の影響、それに続く強制移住と避難を重大な安全保障リスクとして指摘している。同報告書はまた、太平洋地域における「オーストラリアの地政学的影響の喪失」とPICsとの関係悪化を嘆いている。PICsは、「オーストラリアに対し、より強力な排出目標を採用すること、より具体的には化石燃料からの移行を加速するよう促そうと何度も試みて」おり、PICsに直接的な脅威をもたらすオーストラリアのお粗末な気候政策を厳しく批判している。

オーストラリア政府への批判という点で、この報告書は「Missing in Action」報告書よりさらに歯に衣着せぬ物言いである。例えば、政府の「化石燃料産業への財政支援は、オーストラリアの国家安全保障を積極的に弱体化させている」と述べている。執筆者らは、化石燃料への助成を完全撤廃し、2030年までに温室効果ガス排出量を(2005年比)75%削減し、2035年までにネットゼロを達成するよう求めている。「オーストラリア経済の迅速な脱炭素化」を訴え、「気候に起因する安全保障危機の根本原因」に対処するべきだと強く提唱している。また、気候と安全保障の直接的関連についても、「Missing in Action」報告書と同様、「あらゆる安全保障分野にまたがる総合的な気候と安全保障のリスク評価」と「政府全体の意思決定プロセス」を求めている。

国家安全保障の議論を用いることは、オーストラリア政府に気候変動の分野で対策を強化するよう圧力をかける手段としては興味深い(おそらく有望ともいえる)が、そこには落とし穴や欠陥もある。議論は、オーストラリアの国益を何よりも重視する考え方の枠内のみにとどまっている(それ以外は、国益に悪影響を及ぼす可能性がある場合に限り考慮される)。それは、気候変動の分野を「安全保障問題化」し、さらには「軍事問題化」する契機となり、気候変動の問題に対する軍事的解決を正当化および最重要視し、その一方で安全保障に対する狭い理解を支持するというリスクを冒している。「Missing in Action」報告書では、「気候変動については、単に武力攻撃に対する防衛と見なすのではない、安全保障に対する従来と異なる考え方が必要である」としているものの、この「異なる考え方」は、政府全体でのアプローチ、関連産業分野や「より幅広い社会」を含めた対応の要請とほとんど変わらない。

しかし気候変動について議論する際、より幅広くとらえた別の安全保障の概念のほうが適切である。「Rising to the Challenge」報告書と異なり、「Missing in Action」報告書は少なくとも「人間の安全保障」に言及している。しかしその概念を十分に用いて論旨を補強してはいない。生態系の安全保障、あるいは真の太平洋地域の安全保障の理解といったより幅広い安全保障の概念は、人間の安全保障というアプローチをはるかに超えているが、これらの報告書では全く考慮されていない。全体性や関係性を重視する太平洋地域の世界観においては、人間の安全保障(あるいは、国民または国家の安全保障)は、人間以外の存在(実体的なもの、精霊的なものも含めて)、環境、自然(母なる地球、あるいはいわゆる創造物)と切り離して概念化し、実現することはできない。そのような世界観は、今日の経済システム、そして、そもそも現在の破滅的な気候変動をもたらしたライフスタイルや政治を根本から変革するための基盤となり得る。

「オーストラリアン・セキュリティー・リーダーズ」がそのようなアプローチに賛同することを期待するのは、無理な願いというものだろう。とはいえ、彼らが声を上げ、オーストラリアの不十分な気候政策をより良い方向に変えようとしていることに感謝するべきである。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、混成的な政治秩序と国家の形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。

|国連総会緊急特別会合|ロシアとの伝統的な繋がりから沈黙するアフリカ諸国

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

国連総会緊急特別会合のロシア非難決議(賛成141、反対5、棄権35)において、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を非難することを拒否(17ヵ国)或いは投票そのものを拒否(7ヵ国)したアフリカ諸国(いずれも権威主義的な政権)に焦点を当てた記事。プーチン政権は近年、旧ソ連時代に西側諸国からの独立闘争を支援したポジティブなイメージを背景にアフリカ諸国との軍事・経済協力を積極的に進めてきており、アフリカの半数以上の国々がロシアと軍事協力協定を締結している。しかし、国際社会のロシアに対する厳しい批判が高まる中、こうした国々も今後大っぴらにロシアとの協力関係を続けるのは困難になるだろう。国連総会緊急特別会合のロシア非難決議を棄権した南アフリカ共和国では、ロシアとの友好関係を見直すよう求めるインフルエンサーらが、最近逝去したデスモンド・ツツ枢機卿の言葉「不正義に直面して中立を保つことは、抑圧する側につく選択をしたに等しい」を引用して、国連総会における政府の行動を非難している。(原文へFBポスト

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国連で正当な地位を求めるアフリカ

【ハラレ/アジスアベバIDN=ジェフリー・モヨ

2月初めにエチオピアの首都アジスアベバのアフリカ連合(AU)本部で開催された第35回AU通常総会で、アフリカの指導者らが国連改革を強く求めた。なかでも、これを最も強く主張していたのは、主催国のアビィ・アハメド首相であった。

昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンライン総会だったが、規制が世界各地で緩和される中、今回は2年ぶりの対面での開催となった。

Abiy Ahmed during state visit of Reuven Rivlin to Ethiopia, May 2018/ Mark Neyman / Government Press Office (Israel), CC 表示-継承 3.0
Abiy Ahmed during state visit of Reuven Rivlin to Ethiopia, May 2018/ Mark Neyman / Government Press Office (Israel), CC 表示-継承 3.0

アハメド首相は、「世界の今の現実を反映するように国連を改革・再活性化し、国連がより代表性を高め平等な機関となるようにさせるのは今しかない」と語った。

アフリカの首脳たちは次々に国連改革の必要性を訴えた。南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領は、「発展途上にあるアフリカは、気候変動に対する闘いにおいて国連から不当な扱いを受けてきた」と指摘したうえで、「化石燃料からの移行のような複雑な問題に対する万能の解決策などというものは、アフリカが直面している現実を踏まえておらず、機能することはないし、公正でも平等でもない。」と訴えた。

アハメド首相は、さらに国連安保理改革について、「2005年のエズルウィニ・コンセンサスに基づき、我々は、国連安保理でアフリカ諸国が2つの常任理事国と5つの非常任理事国枠を得られるように要求すべきだ。」と語った。

エズルウィニ・コンセンサスとは、AUが15年以上前に合意した、国際関係や国連改革を巡るアフリカ共通の立場のことである。

アフリカの指導者らは「世界の舞台でアフリカの声にもっと耳を傾けてもらう必要がある」と妥協なき国連改革を呼びかけ、「重要な国際機関においてアフリカの代表をもっと受け入れるべきだ。」と訴えた。

AUの昨年の議長だったコンゴ民主共和国のフェリックス・チセケディ大統領から議長職を引き継いだセネガルのマッキー・サル大統領は、就任挨拶において、自身の1年間の任期の主要目標は「平和」であると語った。

「平和や安全保障の問題にしろ、憲法によらない政権交代の問題にしろ、環境保護や健康対策の問題にしろ、経済・社会開発の問題にしろ、我々の取り組むべきことはあまりに山積しており、いずれも緊急を要するものだ。」とサル大統領は語った。

Moussa Faki Mahamat / By Foreign and Commonwealth Office, OGL v1.0
Moussa Faki Mahamat / By Foreign and Commonwealth Office, OGL v1.0

国連改革を求める声が高まる中、ムーサ・ファキAU委員長はAU自身に対しても改革の必要性を訴えた。各地域やアフリカ全で重要性を持つ問題に関して、AU委員会の権限と統率力に影響を及ぼす法的・政治的限界の問題を指摘したのである。

ファキ委員長がAUの反省点を提起した一方で、アハメド首相は、「今日、国連創設から70年以上が経つが、アフリカはこの国際統治のシステムにおいて何ら意義のある参加もできず、役割も与えられないまま、単なるジュニア―パートナーに留まってきた。安保理に代表枠を持たず、さまざまな意味において過少代表となっている国連においてこのことは特に顕著だ。」と述べ、アフリカ大陸が国連と連携を取っているにも関わらず、あらゆる領域において長年に亘っていかに不当に扱われてきたか不満を口にした。

アハメド首相はまた、「アフリカはしばしば国際メディアによるネガティブ報道に晒されている。内戦や飢餓、腐敗、貪欲、病気、貧困に見舞われた大陸であると繰り返し報道されることは、人々から尊厳を奪い、非人間扱いするものだ。これは計算された戦略と意図によって掻き立てられているものだ。」と述べ、世界のメディアによるアフリカについての報道のあり方についても不満を述べた。

さらにアハメド首相は、「エチオピアがこの間学んできた最大の教訓は、アフリカの兄弟姉妹たちの連帯なしには、一つのまとまりとのしての我々の存在が大きな危機に立たされてしまうということだ。団結すれば立ち上がることができるが、分裂すれば共倒れになる。我々の固い連帯が、『アジェンダ2063』をつなぎとめ、その基礎となる。」と述べ、アフリカ諸国の連帯が必要だと訴えた。

アフリカの指導者らが国連における正当な立ち位置を求めるなか、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、アフリカは世界にとっての「希望の源」であると述べ、その例として、アフリカ大陸自由貿易圏や「アフリカ女性のための金融・経済的包摂の10年」を取り上げた。また、アフリカの指導者らが国連における不当な取り扱いに抗議しているにも関わらず、国連とAUの連携は「かつてないほど強くなっている」と語った。

Antonio Guterres/ Public Domain
Antonio Guterres/ Public Domain

しかし、国連安保理は77年前に構成されたままの状態であり、地政学的な現実が大きく変わってきたにも関わらず、安保理はわずかに変化してきたにすぎない。この場合、第二次世界大戦の戦勝国が自らの国益に沿って国連憲章を作り、自らに常任理事国の椅子と拒否権を与えたのだった。

この点については、今年のAU総会で発言したエチオピア首相と同じく、南アのメイテ・ヌコアナ=マシャバネ前国際関係相が2011年当時、ケープタウンの同国議会で「国連安保理は不平等な権力関係を修正するために緊急の改革を必要とする。」と述べていた。

2020年、世界全体がコロナ禍に見舞われる中、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が国連総会75周年にあたって「国連安保理改革は国連体制を再活性化するために必要なことだ。」「70億人の運命を5カ国の手に委ねてしまうことは、持続可能なやり方でもないし、公正でもない。民主的で、透明で、応答的で、効果的で、公正な代表性を基礎とした安保理が人類にとって必要なのは、疑問の余地がないところだ。」と述べている。

エルドアン発言もそうであるし、エチオピア首相が国連安保理でのアフリカの発言権の向上を求めたことにも表れているように、米国・ロシア・中国・英国・フランスは、安保理常任理事国の地位を独占しており、世界的な支持を得ている決議に対してでさえ、拒否権を発動することができる。

ジンバブエでは、強硬派として知られる与党「ジンバブエ・アフリカ国民同盟・愛国戦線」のタウヤリ・キャンディシャヤ氏も、「アフリカ諸国は国連においてまるで存在しないかのごとく、あるいは永遠のジュニアパートナーとして扱われており、アフリカの人間としてこの世界的な組織に属するということは、非人間的な取り扱いを受けているに等しい。」と述べ、国連におけるアフリカの地位の弱さに懸念を示した。

A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.
A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.

しかし、ジンバブエの政治アナリストであるデニス・ベベ氏は別の見方を示している。べべ氏はIDNの取材に対して、「アフリカには専制的な指導者が多く、国連安保理で彼らの権力を強化するようなことになれば、中国やロシアのような国々の影響力を強めることになるだろう。なぜなら中国やロシアは、専制権力を抑えるような動きが国連で出てきたときには、それに反対する側に回るからだ。」と語った。(原文へ

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40年以上にわたって平和研究に携わってきた者として、国境線の変更と主権の侵害を目的とした、20世紀型の時代遅れのこの侵攻のもつ意味を、2022年の今になって知ろうとしていることに愕然としている。この戦闘は、第二次世界大戦以降で私が見てきたなかで最も露骨な越境攻撃であり、重大な国連憲章違反である。(原文へ 

これは国家間の不干渉の原則に対する攻撃であり、国際侵略行為であることは明白である。これを開始したプーチン大統領は、作戦を始めた意図について変え続けており、その目的をロシア国民に隠している。彼は自国のメディアに対し、これを侵略と呼ばないよう指示し、反戦を訴えるロシアの抗議運動参加者や一部の有識者を弾圧している。この戦いは、ロシア帝国の失われた領土を取り戻そうと願い世界の注目を集めることに必死な人物が引き起こした理不尽な行為である。

私はまず、難民となった全ての人々、自国に留まることを選択した、或いはそうすることを余儀なくされた、恐怖と実存的絶望の中に生きている人々に思いを寄せ祈りを捧げたい。そして、愛する人を失い悲嘆にくれている何百万もの数多くの家族とともに祈っていきたい。

戦争は何の解決策にもならない。今回の戦闘行為は、プーチン大統領が抱くウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟の可能性に対する懸念や、より多くのさまざまな不安を解消することにはならない。それどころか、武力侵略により帝政ロシアを再興しようとするようなその試みは、苦痛と悲しみ、トラウマ、そして長期にわたる不安定を生み出すことだろう。それは、真に平和を望む人々のあらゆる基本原則に反するものなのである。

プーチン大統領は、ウクライナの指導者をナチスや腐敗者と呼んで悪者扱いしている。彼と彼の外相は、誠実な交渉には関心を示さず、協調的な解決策を模索することを拒絶して、力と強制の道を選んだ。目前の表向きの問題について、非暴力的な解決策を追求する意欲も意思も見られなかった。それどころか、ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツによるズデーテンラント進駐や第二次世界大戦当初のポーランド侵攻、そしてキエフに暮らす人々にとっては1942年のドイツ軍によるウクライナ侵攻という痛ましい記憶を呼び覚ましたのである。

この侵攻が、私たち個人や市民にとって何を意味するのかを考えるとき、危機に対しては「非暴力」の価値観をもって立ち向かうことが極めて重要である、との教訓を得る機会としなければならない。

第1に、ロシアの指導者たちがとった違法な行為への非難で国際社会は結束することが大事だ。あからさまな侵略行為に言い訳は許されない。

第2に、プーチン大統領とロシアの指導者らに対して、即時の停戦と、ウクライナ全土からの全ロシア軍の速やかな撤退を求め続けることが最も大事だ。驚いたことに、プーチンはミンスクでウクライナの指導者と会うことを歓迎し停戦を模索する用意があると述べたという。和平を構築しようとする人々は、紛争当事者を外交交渉のテーブルにつかせ、起きている問題の根本に迫る機会を常に求めなければならない。もしロシア側に誠実な交渉に入る意思がないならば、より機が熟すタイミングを探すべきだ。暴力の混沌の中にあっても、非暴力的な解決策へのコミットメントを決して見失ってはならない。

第3に、何が紛争をもたらしているかを理解しようと奮闘するのと同時に、紛争のあらゆる側にいる人間に焦点を当てることが大事であり、これによって人生が引き裂かれた全ての人々と連帯しなければならない。今この時、私たちの行動の原動力は、人命を守ることであり、苦しみの軽減であり、この流血の混乱のあらゆる当事者に人道支援を提供することでなければならない。

第4に、平和への唯一の道は平和的手段によるとのヨハン・ガルトゥングの原則を改めて思い起こす必要がある。すなわち、ロシアとウクライナで私たちが知る人々に連絡を取り、コミュニケーションを図ることである。彼らに寄り添い、彼らの人道上のニーズに応え、とりわけ、平和を求めることが逮捕につながってしまうロシアにおいて平和を構築する人々を育まなければならない。ロシアとウクライナの人々に、世界から見捨てられたと感じさせてはならない。現時点では指導者に注目が集まっているが、私たちと同様に戦闘に衝撃を受け、生活が一変し破壊されるなかで、支援を必要としている中央ヨーロッパの何百万人もの人々を無視してはならない。

政策決定レベルでは、深い分断と「鉄のカーテン」が再び欧州を覆ってしまうことがないよう、全ての紛争当事者間でハイレベルの意思疎通を維持することが不可欠である。西側諸国はロシアの指導者らに対して厳しい制裁を科しているが、ロシアの民衆を悪者扱いする罠に陥ってはならない。私たちの役割は、世界が分断されようという時にあって、人と人をつなげることにある。

Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute
Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute

最後に、私たちは周囲の人々に手を差し伸べ、協力して、戦争に替わる非暴力的な方法を探っていく必要がある。他の人々が非難している中でも、冷静さと集中力を保たなければならない。私たちは、自分の足元での個人と個人の関係、そして住んでいる国々の政治的関係について向上させるよう努力し続けなければならない。私たちは、尊敬の念を持ち、(敵を含めて)他者を尊厳をもって扱い、協力して解決策を模索し、分断が見受けられればいつでも橋渡しするという原則を守り抜くべきである。

何よりも私たちは、この新たな苦難に当たり気遣いと思いやり、愛をもって対応するとともに、勇気と希望を持ち続け、戦争が時代遅れとなる世界を思い描きながら対応する必要がある。私たちは、この災難が早く過ぎ去るよう、人間の本性にある良き天使の心を育んでいかなければならない。

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

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ポーランドが「ウクライナ人」を優先するなか、アフリカ留学生が助けを求める

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

ロシア軍の侵攻によりウクライナに取り残されたアフリカ出身留学生が直面している苦境に焦点を当てた記事。ウクライナには約8万人の留学生(アフリカからは薬学部・工学部を中心にガーナ、ナイジェリア、ザンビア、南アフリカの学生が多い)が在籍していたが、本国からの十分な支援がなく、自力で戦火の中を西の国境を目指して逃れている。しかしポーランド国境では、ウクライナ人優先という国境警備隊の指示で、アフリカ人が行列の後ろに回されたり越境を拒否されたりしたとのケースが相次いで報告されており、アフリカ各国から懸念の声が上がっている。(原文へ

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「尾崎行雄と三女・相馬雪香の信念と生き方」(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)


【IDN東京=石田尊昭

◆民主主義の厳しさ

尾崎行雄が最も問題にしたのは、国民一人一人の在り方。1917年、尾崎は当時の政党に対し「感情やしがらみで結びつき、国の利益よりも党の利益に走っている」と批判した。あれから100年経ち、皆さんも記憶に新しい2017年秋の総選挙。尾崎が100年前に言った、しがらみ、利害、自分の当落のためだけに動く政治家が、今の日本にいなければ問題はないし、尾崎財団も必要ない。しかし一昨年、我々はまざまざと(その姿を)見せつけられてしまった。ただ、そうしたのは誰か?誰がそんな政党を作ったのか?尾崎に言わせれば「そんな政治家を選んだ国民にこそ責任がある」。これが民主主義。民主主義は、それを守るための努力と覚悟を我々一人一人が持っていないと、あっという間に後戻りをしてしまう。この民主主義の危うさを分かっていた尾崎は、とにかく有権者一人一人の在り方を厳しく説き続けた。このことを忘れてはいけない。そしてこの有権者に対する厳しい目、厳しい言葉は、相馬雪香にそのまま受け継がれている。


◆誰が正しいかではなく何が正しいか

Ozaki Yukio Memroial Foundation
Ozaki Yukio Memroial Foundation

尾崎行雄は、政府の不当な圧力や権力行使を批判したが、一方で国民に対しても厳しい目を向けた。これは、相手がどうこうではなくて、何が正しいかを考えたから。「誰が正しいかではなく何が正しいか」これは非常に重要なキーワード。あの人が言うんだから正しい、政府が言うんだから全部正しい…そう思った時点で思考が停止する。あるいは、国民が言うんだからすべて正しい。「民主主義だから国民の言う通りに動くのが政治の正しいやり方だ」とも尾崎は言わない。国民でも間違うんだということをちゃんと言える。権力に対しても、民衆に対しても、また自分の仲間に対しても、間違いを間違いだと言える。「誰が正しいかではなく何が正しいか」という姿勢が尾崎と相馬の中にがっちりと入っている。

◆自分の頭で考え抜く

尾崎は「憲政の神」と呼ばれた一方で、「国賊・非国民」とも罵られた。暴漢に襲われたり、命を狙われたりしたこともある。それを間近で見ていた幼い雪香は父に尋ねたことがある。「お父さんの言ってること、やってることは間違ってるんですか?」と。尾崎はこう答えた。「間違ってるかどうかは雪香さん、あなたの頭でしっかりと考えなさい」と。これも非常に大事なこと。我々は尾崎が言うから何でも正しいと思ってはいけない。尾崎が言うから、相馬が言うからではなくて、じっくりと自分の頭で考えて答えを出していく。この大切さを尾崎は相馬に伝えている。

◆尾崎行雄と相馬雪香の共通点

尾崎と相馬には4つの共通点がある。1つは、何事もあきらめない「不屈の精神」。2つ目は「日本を世界から孤立させないという信念」。3つ目は「出来ることから始めるという行動力」。そして最後は「物事を公正・公平に見る判断力」。本当に正しいかどうかは、その人の言ってる中身を、我々がきちっと自分の頭で考えなければならない。それがあって初めて国民一人一人の力が成熟し、大きくなっていく。まさに尾崎が厳しく説いた姿勢であり、相馬が自ら実践していった姿勢。さらに相馬雪香には4つの心があった。「本気の心」「純粋な心」「利他の心」「感謝の心」。この気持ちを、我々はしっかりと受け止めて、一人一人がそれを自らの行動に生かしていくことが大事。

◆人生の本舞台は常に将来に在り

Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation

尾崎74歳の時、高熱で病床に伏す中で浮かんだ言葉「人生の本舞台は常に将来に在り」。昨日までは訓練で、今日以後が本舞台。過去の知識・経験、悔いや悩みでさえも、未来に向けた糧であるという考え方。尾崎は95歳で亡くなる前年まで国会議員を務め、相馬雪香も96歳で亡くなる前年まで講演で各地を回っていた。尾崎も相馬も生涯現役、まさに「人生の本舞台」の実践者だった。我々もその思いで行かなければならない。過去の経験を生かしながら、常に前を向いて進んでいく。かと言って、遠くの理想ばかりをただ見つめているだけでは意味がない。現実をしっかりと見据え、目の前の一歩一歩を大事にして地道に取り組んでいく。その一つ一つを積み上げていった先に成功がある。尾崎や相馬を大事に思ってくださる皆さんと一緒に、この2人の信念と生き方を一人でも多くの人に伝えていきたい。これからも一緒に頑張っていきましょう。

Ozaki Yukio Memroial Foundation

INPS Japan

* 本稿は、去る1月に都内で行なった講演の要旨(一部抜粋)です。

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中央アジア大学とのメディアプロジェクト

【IDN東京=浅霧勝浩

INPSグループはジャーナリストを目指す若者を支援する目的で中央アジア大学と協力してメディアプロジェクトを推進している。(記事リストへ) FBポスト

ラテンアメリカとカリブ海諸国が核実験禁止を支持

【ウィーンIDN=ラインハルト・ヤコブセン】

ドミニカ国は、2月上旬に包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を決定したと発表した。CTBTは、いかなる場所、いかなる人によっても、あらゆる空間(宇宙空間、大気圏内、水中、地下)における核実験の実施、核爆発を禁止している。この条約は26年前に署名解放されたが、未だに発効していない。

その理由は、CTBTには185ヵ国が署名、その内170ヵ国が批准を済ませているが、核保有国である仏、露、英を含む核技術を保有する特定の44ヵ国(=発効要件国)全ての批准が必要であり、未だに8カ国(中国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、米国)が批准を終えていない。中でもインド、北朝鮮、パキスタンは署名さえしていない。発効要件国で前回批准したのは2012年2月6日のインドネシアであった。

CTBTO
CTBTO

ウィーンに本拠を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO )準備委員会によると、ドミニカ国のCTBT署名は同条約が全中南米諸国(ラテンアメリカ・カリブ諸国)で普遍的なものと認められている証左であり、核不拡散と核軍縮分野でこの地域が果たしているリーダーシップを示すものである。

2021年2月のキューバによるCTBT署名・批准に続いて、ドミニカ国が署名することで、全中南米諸国33カ国がCTBT加盟国となる。

2月7日にドミニカ国のルーズベルト・スカーリット首相と会談したCTBTOのロバート・フロイド事務局長は、「これはドミニカ国との新たなパートナーシップ新時代を画するものであり、核実験に反対する規範強化に共に取り組んでいくことを楽しみにしている。」と語った。

フロイド氏は、昨年8月にブルキナファソのラッシーナ・ゼルボ氏の後を引き継いで以来、今回が初の中南米訪問であり、10日間の歴訪中、バルバドス、ドミニカ国、コスタリカ、メキシコで、主な地域パートナと協力関係の深化を協議した。

IMS/ CTBTO
IMS/ CTBTO

今回のフロイド事務局長による歴訪の背景には、中南米諸国がCTBTOの重要な技術パートナーとして、世界337か所を網羅して核実験を探知する国際監視制度(IMS)の内、43拠点をホストするなど、CTBTを支持し重要な取り組みを進めてきた経緯がある。

1967年に署名解放したトラテロルコ条約は、人が住む地域で結ばれた非核兵器地帯を創設する条約としては、史上初のものであった。

メキシコで開催されたトラテロルコ条約55周年記念行事で登壇したフロイド氏は、核兵器実験のない世界という共通のビジョンを実現する上で中南米諸国が果たす重要な役割を強調した。

「中南米地域には、核不拡散と核軍縮の分野で長年に亘ってリーダーシップを発揮してきた誇るべき歴史があります。そして間もなく、全ての中南米の国々がCTBTへの批准を終え、誇りと団結をもってこの偉業を記念する瞬間を迎えます。」

最初の訪問地バルバドスで、フロイド事務局長は、ジェローム・ウォルコット外相を含む政府高官と会見し、CTBTに対する同国の支持に謝意を述べた。また、東カリブ地域と小島嶼国(SIDS)を対象とした能力開発研修や、熱帯暴風雨やハリケーンで被災した国々における気候変動適応や災害リスク管理にCTBTOのデータを活用する協力を拡大することについて、様々な政府機関の技術担当者と協議した。

フロイド氏、バルバドスとドミニカ国に続いてコスタリカを訪問した。コスタリカは、ラス・フンタス・アバンガレスにコスタリカ地震火山観測所が管理するCTBTOの地震学的監視観測所補助観測所(AS25)をホストしている。

フロイド氏は、コスタリカの核不拡散分野における取組について、「この国の技術能力の高さと積極的な外交姿勢に感銘を受けた。」と称賛するとともに、「義務を国内で率先して果たしていこうとするコスタリカのビジョンを知り大いに励まされた。」と語った。また国連平和大学では、学生や教員との語いの後、次世代の若者を教育しエンパワーするCTBTOの活動を象徴する意味で、大学の伝統に従い、キャンパスに原生種のコルテザ・アマリリアを植樹した。

Latin America/ By Heraldry – Own work, CC BY-SA 3.0

そして最後の訪問地メキシコでは、ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止機関(OPANAL)がトラレロルコ条約55周年を記念して開催したイベントで講演し、「トラテロルコ条約について最も力強く感じるのは、中南米地域の国々が、核軍縮や核不拡散の問題について声を一つにし、集団安全保障や軍縮教育、訓練について協働できている点です。」と語った。

また、CTBTの長年の支持者であるマルセロ・エブラルド外相を訪ね、CTBTの普遍化と条約発効に向けたメキシコの関与について協議した。メキシコは、5つの国際監視制度(IMS)施設(地震学的監視観測所補助観測所3カ所、水中音波監視観測所1カ所、放射性核種監視観測所1カ所)のホスト国となっている。

フロイド事務局長は、メキシコ外交官向けの教育訓練機関であるマティアス・ロメロ協会において、CTBTと世界の核不拡散及び軍縮をとりまく現状について語った。(原文へ) 

INPS Japan

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ウクライナ危機はパワーシフトの時代の地政学的な断層を映し出す

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

あらゆる大国は、外交政策を貫く組織原則を必要とする。大国は歴史の潮流の中で盛衰するもので、繁栄が永遠に続く国もなければ、永遠に衰退し続ける国もない。ある大国の退潮が恒久的な衰退の始まりなのか、それとも単に一時的な後退なのかを確実に判断する方法はない。パワー移行期における地政学的な断層は、相対する大国の誤算に根差した戦争を引き起こす重大なリスクを孕んでいる。いま述べたことは、全て批判の余地のないことだが、この真理をいかなる出来事や領域にも適用することは、なかなか難しいことである。(原文へ 

今回の危機は、ウクライナを巡るロシアとNATO(北大西洋条約機構)間の緊張であり、これが中国と台湾問題に波及してくる可能性もある。西側諸国は、ウクライナや台湾の運命を、対ロシア・中国関係の組織原則としたいのだろうか。ウクライナ・台湾との政策を策定し、それに従ってロシア・中国との関係を構築していこうという感情的な思いに駆られることがあるかもしれない。しかし現実主義に立てば、まずロシア・中国との政策を策定し、その戦略的な枠組みの中で現在および潜在的な危機に対応していくべきである。

オーストラリアのギャレス・エバンス元外相は、政治回顧録『Incorrigible Optimist(仮訳:頑固な楽観主義者)』で、米国のビル・クリントン元大統領が2002年に私的な会合の中で、冷戦終結後に米国は厳しい選択に直面したと語った、と記している。米国は永遠に「最高権力者」の位置に留まろうと努力することもできるし、「もはや世界のブロックにおける最高権力者の地位にない状況でも安心して暮らせるような世界を作り出す」ために、その支配的なパワーを利用することもできる、というのである。1999年のコソボ介入でクリントン政権がそうしたように、米国の歴代政権が採ってきたのは第1の選択肢の方であった。

現在の危機の根原は、ロシアが2014年にクリミア半島を併合したことにある。ジョン・ケリーは2014年3月、「21世紀においては『完全に捏造した口実』で他国に侵攻することはできない」と宣言した。しかしそれは、同じく21世紀の出来事だった米国のイラク侵攻から11年後の事である。この米国務長官が自身の発言の持つ皮肉と偽善を自覚していなかったのは驚きだが、そのことはロシアだけではなく米国でも当時から指摘されていた。

米国の外交当局は、冷戦後のロシアが一時的に後退している大国なのか、それとも恒久的に衰退の一途をたどっているのかを判断しなくてはならなかった。コソボやその他で起こった出来事は、後者の見方への信念を裏切った。ウラジーミル・プーチン大統領の言動は、ロシアの後退を断固阻止するという信念に裏づけられているようだ。冷戦終結後に影響力を増した米国の外交エリートたちは、対等な相手として必ずしも受入れないまでも、ロシアの利害と感情を理解しようともしなかったために、ロシアに対処する経験や分析枠組みを喪失してしまったのである。そのために、親ロシアだが選挙で選ばれたウクライナの大統領を2014年に失脚させ、従順な反ロシア派を据える陰謀に積極的に関与するという、決定的な判断ミスを犯すことになったのである。

ビクトリア・ヌーランド米国務次官補による悪名高い「EUなんかクソ食らえ発言を覚えているだろうか。2014年1月28日、ヌーランドはジェフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使との同じ電話のなかで、ウクライナの反体制派指導者アルセニー・ヤツェニュクは「支援すべき男」であると発言しており、米国がウクライナ内政に「かなり深く食い込んでいることを白日の下に晒した」(「ワシントン・ポスト」の報道による)。ヤツェニュクは2014年から2016年まで正規にウクライナ首相を務めた。ヌーランドはジョー・バイデン政権の国務次官(政治問題担当)を務めている。米政府の誰も、彼女の指名をプーチンがどう受け止めるかを立ち止まって考えることをしなかったのだろうか。

ロシアがウクライナに対して強い関心を寄せるのには、言語・民族・歴史・ナショナルアイデンティティー・地政学に深く根差した理由がある。対照的に、米国側の関心は一時的で距離の遠いものであり、あくまで選択的に付け加えられたものにすぎない。クリミア半島にはここを本拠とするロシア黒海艦隊が常駐しており、海を通じて黒海沿岸諸国や中東へのアクセス拠点であることから、ロシアにとってクリミア半島を失うことは存亡の危機となる。クリミア住民投票の法的な正当性は疑わしいものだが、正しく住民投票を行ったところで、結果は同じようものであったであろうことは、疑いの余地はほとんどない。クリミアにおけるロシアの行動に対してコソボの前例のような事態が起きることをNATOは拒絶した。「われわれは1999年をよく覚えている」とプーチン大統領は2014年3月にロシア議会の両院合同会議で演説したが、NATOの拒絶はロシアには不誠実に映った。クリミア半島はエカテリーナ大帝の治世以来ロシアの一部であった。1990年代にNATOがバルカン半島で用いたロジックでいえば、ロシアとの再統合を望むクリミアに対してウクライナが抵抗するなら、NATOはキエフを爆撃して言うことを聞かせる必要があるということになるからだ。

バイデンのアフガン撤退をめぐる大失敗と、ロシアによるウクライナへの「小規模な侵攻」発言を巡る外交失策を目の当たりにして、私は、一瞬だけだが、引退を撤回して『ホワイトハウスの頂上に白旗がはためく』という仮題の本でも書こうかという誘惑に駆られた。しかし、ウクライナを巡る米国の無能は、米国の真の力を反映したものでも、死活的な利益が危機に晒された際に米国が行動を起こす意思やその真価を反映したものでもなかった。より深刻な問題は、アフガン撤退を巡るほぼ一致した厳しい批判と、「バイデンは与しやすい大統領だ」という評判がますます強まることで、彼が外交的妥協を取る余地が狭まって、厳しい軍事的反応を示さざるを得なくなっているのではないか、ということだ。

このため、自由な社会の価値観という、最後に残された核心的な利益が危機に瀕している。米国は「戦争疲れ」でハードパワーを展開する決意が弱まっていることに加えて、ソフトパワーもまた、その内部から損なわれつつある。どの国にも後ろ暗い過去はあるものだが、人類の福祉全体に対する西側社会の貢献には比類なきものがある。にもかかわらず、西側社会は、自己嫌悪と激しく分極化した文化戦争、政治の機能不全、漂流する道徳問題で揺れてきた。プーチンですら、西側の「キャンセル・カルチャー」や「ウオゥク(Woke=覚醒)・イデオロギー」――攻撃的に歴史を見直そうとする動きや、マイノリティの利益の特権化、ジェンダーアイデンティティーの曖昧化、伝統的な家族像の解体――などは、1917年のロシア革命以後のボルシェビキによる苛烈な抑圧と同調主義を彷彿とさせるものだ、と警告しているのである。

他方で、インド太平洋地域では、止めようもないグローバルなルール違反者としての中国が真の脅威なのではない。もしパワーシフトが順調に進むのなら(もちろんそれは確実ではないが)、より大きな脅威は、中国がルールを策定し、解釈し、執行する支配的な立場に立つかもしれないということである。これは、過去数世紀にわたって西側諸国が享受してきた役割である。中国当局は、一流の大国は、国際法を用いて他国にそれを順守するよう強いるが、自らの行動に対する法的規制は否定するという教訓を学んでいる。中国の行動を導いているものは、ロシアに対する米国の弱さというよりも、米国が最高権力者であった時代の行動ぶりに関する記憶なのである。西側は、中国的特徴を持ったルールに基づくグローバル秩序に心理的に適応することができるだろうか。

※本記事は、2022年1月28日に「The Strategist」に掲載されたものです。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を努め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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