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温暖化が進む世界の海

【ロサンゼルスIDN=ロバート・フンツィカー】

世界の海洋の温度は過去6年間上昇し続け昨年は史上最高温度を記録した。地球表面の7割を覆う大洋は、産業革命以来、人類が作り出した熱の9割と二酸化炭素排出量の3分の1を吸収してきた。異常な海中温度の上昇は、海洋生物の食料連鎖を破壊しており、最新の調査によると、生物多様性が急激に失われてきている(1950年から70年間でサメやカジキ等の大型捕食動の90%が減少)傾向が指摘されている。(原文へ

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核不拡散条約再検討会議、新型コロナウィルス拡大で停滞

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

ニューヨーク市で新型コロナウィルスの感染拡大により活動が停滞している国連が、1月4日~28日の日程で予定され、長らく待ち望まれていた第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議の延期を余儀なくされた。

国連軍縮局NGO連絡室のダイアン・バーンズ氏は「いかなる形でも2022年1月に再検討会議は行われない」と明言した。

2021年1月と8月に続く3回目の延期である。国連は2020年3月よりロックダウン状態にある。

NPT再検討会議は5年に1度開かれることになっている。

再検討会議のグスタボ・ズラウビネン議長は各国宛の書簡で「締約国が再検討会議の重要な任務を実行できないのは極めて残念ではあるが、現在の状況では他に選択肢はない」と語った。

ある外交官は「コロナ禍と核兵器との戦いでは、コロナウィルスの連戦連勝だ」と冗談交じりに語った。ウィルスによって、2019年12月以来世界で540万人が亡くなっている。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

12月27日、国連事務総長室官房長は再検討会議議長に対して、コロナ禍の現状に鑑みて、2022年1月の第10回再検討会議を対面で行うことは不可能だと事務総長は考えていると伝えた。

その第一の理由は、9900人を越える国連事務職員のほとんどがテレワークをしていることにある。一時的な「在宅勤務解除」は先月に取り消され、自宅で勤務する「柔軟な方式」が1月9日まで、そして追って通知があるまで続けられるということになった。

2022年における国連施設と事務能力の提供に関する事務総長の見解が出されて以降、再検討会議議長は、8月1日~26日を暫定的な日程として、会議を延期することを呼びかけた。日程は締約国によって後に正式承認されることになる。

「平和・軍縮・共通の安全保障を求めるキャンペーン」の代表で、「国際平和ビューロー」の副代表でもあるジョセフ・ガーソン氏は、この4週間の会議の延期によって何らかの突破口が開かれそうかという質問に対して、NPT再検討会議への期待感は元々極めて低く、核廃絶や軍備管理を求める人々が今回の延期で期待を高めることはないだろうと語った。

 では、なぜ期待は低いのだろうか?

「核兵器国が第6条の義務を果たすことを拒絶していること、核兵器国が1995年・2000年・2010年の再検討会議の合意を履行していないこと、軍拡競争がその危険度を増していること、台湾・ウクライナ・カシミールをめぐる対立が激化して、偶然あるいは計算違いによる壊滅的な核戦争が起こりかねないことなどが挙げられる」とガーソン氏は語った。

ここ米国でバイデン政権が「核態勢見直し」において「核先制不使用」政策を採用しそうにない理由の一つは、そうした政策変化が中国による台湾再領有の誘因になりかねないと心配されていることにある、とガーソンは説明した。

それに加えて、核戦力の近代化のために米国が2兆ドル近くを費やそうとしていることが、重大な懸念の理由であり、米国の政策に変化を持たせるべきと主張する大衆行動が起こってくる理由であるとガーソンは指摘した。

ガーソン氏は、実際に再検討会議が開かれた場合、「突破口」というものではないが、再検討会議が「失敗」したというイメージを避けるために、中東非核・非大量破壊兵器地帯の創設に向けた進展をもたらす義務を果たす必要性について触れる文言が盛り込まれることになるかもしれない、と語った。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

また、「突破口」には程遠いが、過去の再検討会議の合意を実行するための意味ある措置を採る、信頼に足る公約のようなものが望まれている。

包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)は12月20日の声明で「世界的なコロナ禍、イラン核協議をめぐる不確実性、核戦力を各国が近代化或いは増強している現状を考えると、議論されることになる多くの論争的な問題に関してコンセンサスがもたらされる余地は小さいかもしれない」と語った。

多くのCTBT締約国が合意する領域は、CTBTや、いかなる国によるいかなる場所での核実験も的探知するCTBTOが構築した核爆発監視システムである。この最新のシステムは世界に唯一のものであり、普遍的で非差別的、検証可能な核軍縮を達成するために不可欠なものだとCTBTO声明は述べた。

2022年の来たる再検討会議においてコンセンサスを阻みかねない問題について問われたガーソン氏は、最大の問題は、第6条の核軍縮義務を果たすための信頼性のある措置を採るよう核兵器国に求める文言を巡るものになるのではないかと語った。

世界の多くの国々が、核兵器国が核兵器を廃絶するための交渉に真摯に臨もうとしていないのではないかと疑っていることが、核兵器禁止条約の協議へとつながったとガーソン氏は指摘した。

「『核のアパルトヘイトという無秩序』を核保有国が保持し続けようとする可能性が極めて高い。現存する核の脅威に緊急に対処すべきという国際的な理解を促進し、こうした政府の政策を変更させる強力な大衆運動を起こする方法を我々が見つけるまでは、現状は変わらないだろう。」とガーソン氏は語った。

中東非核・非大量破壊兵器地帯創設への進展を要求する文言を米国が認めることはありそうにない、とガーソン氏は警告する。

「バイデン大統領と民主党は、米国の非民主的な代表システムや、有色人種の有権者を排除しようとする右翼的な政治、右翼による州・地方政治の簒奪といった現状に直面して、ますます守勢に回っている。この状況で、バイデン政権は、イスラエルの政策に批判的でない有権者の気分を害するリスクを取らないだろう。」とガーソン氏は指摘した。

他方で、CTBTO声明は、いかなる国による何時いかなる場所でも、全ての核爆発をCTBTは禁じていると述べている。署名185カ国・批准170カ国と、条約の加盟状況はほぼ普遍的ではあるが、条約は依然として発効していない。発効のためには、条約の附属書2に記載されている44カ国の全てが条約を批准する必要があるが、うち8カ国が未批准だ。

CTBTOは、核爆発を探知するために国際監視制度(IMS)を構築している。現在、世界全体で、地震・水中音響・微気圧振動・放射性核種の4つの手法を用いた302カ所の認証施設が稼働している(制度が完成すれば337カ所となる)。

IMSが取得したデータは、地震の監視や津波の警告のような減災や、核事故で発生した放射性物質の捕捉、鯨の移動や気候変動、台風予測などの幅広い研究領域に利用することが可能である。(原文へ

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待ち望まれた中東非核兵器地帯、進展を見せる

国連事務総長は今こそ指導力を発揮すべき時

【コインブラIDN=ボアヴェントゥーラ・デ・シウサ・サントス】

任期5年を残したアントニオ・グテーレス氏の国連事務総長としてのレガシーと期待を記したボアベンチュラ・ジ・ソウザ・サントス教授(世界社会フォーラム創立者の一人)による批評。ワクチン外交と製薬会社の圧力で、貧しい国々でワクチン接種が進まない人類規模の危機にグテーレス氏が指導力を発揮して国連への信用を回復するよう提言している。(原文へFBポスト

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ストックホルム・イニシアチブ、核廃絶への決意を示す

【ベルリン/ストックホルムIDN=ラメシュ・ジャウラ

「核軍縮とNPTに関するストックホルム会合」(構成16カ国)が、2022年1月4~28日の日程で開催される第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議に対して、「人類を守るという利益のために、政治的リーダーシップを発揮し、条約の下でなされた公約や成果を尊重し、非核兵器世界に向けた決定的な道筋へと導くよう」求めた[訳注:再検討会議は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、再度の延期が決まった]。

2019年にスウェーデンで開始された「ストックホルム・イニシアチブ」は、核軍縮に実践的な推進力をもたらし、核兵器国と非核兵器国の架け橋となることを目的としている。

同グループがストックホルムで開催した5回目の関係閣僚会合ではさらに次のように決議した。「不可逆的で検証可能、透明な形で核兵器の廃絶を達成し、中間的措置として、核兵器のリスクを低減する決意で我々は一致している。」

Annalena Baerbock/By Bündnis 90/Die Grünen Nordrhein-Westfalen, CC BY-SA 2.0
Annalena Baerbock/By Bündnis 90/Die Grünen Nordrhein-Westfalen, CC BY-SA 2.0

会合の議長は、スウェーデンのアン・リンデ外相と、ドイツのアナレーナ・ベアボック外相が務めた。他の参加国は、アルゼンチン・カナダ・エチオピア・フィンランド・インドネシア・日本・ヨルダン・カザフスタン・オランダ・ニュージーランド・ノルウェー・韓国・スペイン・スイスである。

ベアボック氏は12月8日にドイツ外相に指名されたばかりである。同氏が第5回閣僚会合に初参加する以前、ドイツ外務省は「我が国は、国際軍縮イニシアチブを固めるうえで主導的な役割を果たすことを追求する」と述べていたが、これはまさに、ベアボック氏の前任者ハイコ・マース氏が行っていたことであった。

2020年にベルリンで開催された閣僚会合では、NPT創設50周年に合わせて全ての加盟国に参加を呼び掛けた共同宣言も採択されていた。その中には、核軍縮を前進させるための「飛び石」と呼ばれる提案も含まれていた。例えば、核戦力の完全なる透明性の確保、核ドクトリンにおけるより厳格な制約、エスカレーションのリスクを低減する措置、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長(2021年1月)、さらなる備蓄の削減、その他の広範な将来的措置である。

同グループは今回、NPT50周年から2年後に予定された第10回NPT再検討会議を3週間後に控えて、会合を持った。

第5回関係閣僚会合は次のように述べる。「来るNPT再検討会議は、核軍縮に向けた高いレベルのコミットメントを全ての国が示す重要な機会となる。『核軍縮とNPTに関するストックホルム・イニシアチブ』はこの点において実行可能な道を示してきた。我々は、条約が引き続き成功するように各国を導くうえで、再検討会議の議長であるグスタボ・ズラウビネン大使の取り組みを完全に支持する。」

閣僚会合は、同イニシアチブの文書にNPTの他の20カ国が新たに賛同したことを歓迎した。予想通り、ストックホルム平和イニシアチブは全ての加盟国に対して「とりわけ再検討会議の成果文書の起草において、これらの文書に盛り込まれた文言や実行可能なアイディアに引き付けた議論を行うよう」求めた。

閣僚会合は、米ロ間の新START延長に関する合意と、「戦略的安定対話」を発表した2021年6月の両国の大統領声明を歓迎した。同声明には「核戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならない」と再確認する文言が含まれていた。

Photo: US President Joe Biden and Russian President Vladimir Putin shake hands at the Villa la Grange on June 16 in Geneva, Switzerland. Credit: Visual China Group (VCG)
Photo: US President Joe Biden and Russian President Vladimir Putin shake hands at the Villa la Grange on June 16 in Geneva, Switzerland. Credit: Visual China Group (VCG)

これらは間違いなく、ストックホルム・イニシアチブの核軍縮に向けた2つの「飛び石」に対応した望ましい前進である。関係閣僚らはさらに、米中両国による2021年11月16日の首脳会談にも言及した。

しかし、いくらかの前進が見られたにも関わらず、残された作業は多い。NPT上の5つの核兵器国には条約の下での特別の責務があり、自らの核戦力を減らさねばならない。また、その他の核保有国の間にも、軍縮の意思は明確にみられない。

第5回閣僚会合は「核兵器国の間に信用と信頼を構築することで、世界の核軍縮の長期的な停滞にピリオドを打つのに役立つことであろう。」と述べた。

閣僚らは、全ての核兵器国に対して、次の世代の軍備管理取り決めに向けた基礎作業を行い、核戦力をさらに削減し、核爆発実験の完全停止に向けたリーダーシップを発揮し、核分裂物質生産禁止条約の交渉を開始し、多国間核軍縮検証能力構築に向けた取り組みを支援することを求めた。

閣僚らは、対話プラットフォーム、訓練、インターンシップ、フェローシップ、奨学金、モデルイベント、青年グループ活動など、若い世代と関与するための「核軍縮の前進に向けた飛び石的取組み」の呼びかけを改めて強調した。また、広島・長崎や、セミパラチンスクや太平洋などの元核実験場を含めた、核兵器によって影響を受けた地域への訪問やそれらの地域との交流を行うよう呼びかけた。

さらに閣僚らは、多様なジェンダーの観点を包含し、核軍縮の意思決定において女性を実効的に参加させる決意をあらためて述べた。(原文へ

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世界が核兵器の淵から動くにはまだ時間がかかる

|ドイツ|シリア人被告に人道に対する罪で歴史的裁定が下される

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルーア】

ドイツが普遍的管理権を行使して、シリアでの国家主導の拷問を審理してきた世界初の裁判で、被告の元シリア諜報機関の軍人が人道に対する罪(市民約4千人の拷問と数十人の拷問死に積極関与)で終身刑の判決を言い渡された。普遍的管轄権はジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪など、深刻な国際犯罪の容疑者を逮捕した国が、発生場所や容疑者の国籍にかかわらず訴追できる権利で、ドイツは、2002年から国内法に適用している。(原文へFBポスト

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中国とラオスを結ぶ新路線が貿易と観光に東南アジアの門戸を開く

【シンガポールIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

中国とラオス間を結ぶ全長414キロの新高速鉄道線が「陸の孤島」であったラオスを東南アジア地域に連結し、貿易と観光を促進することを可能にした。新線は中国からシンガポールへの鉄道の旅と陸上輸送を促進し、その結果、南シナ海経由の地域貿易の重要性は低下することになるかもしれない。

59億ドルをかけて建設された鉄道は、中国の習近平国家主席の「一帯一路」構想の支柱の一つであるが、同時にラオスにとっても、同国を内陸国(Land-Locked)から東南アジア大陸部の連結国(Land-Linked)経済に転換し、内陸・山岳国家ゆえの遅れを克服しようとする同国の戦略ビジョンの一環でもある。

ラオスのパンカム・ヴィパヴァン首相は8月、中国の新華社通信の取材に対して、一帯一路は「経済インフラや貿易、投資、人的な連結性を通じて、中国と『一帯一路』構想の諸国間の相互信頼と相互援助を深める機会だ」と述べ、鉄道はその重要な一部だとした。

The Ambassador of Timor-Leste, Mrs. Renata de Jesus participated in the historic Laos-China Train launch./ By Embassy of Timor-Leste in Vientiane - Embassy of Timor-Leste in Vientiane, Public Domain
The Ambassador of Timor-Leste, Mrs. Renata de Jesus participated in the historic Laos-China Train launch./ By Embassy of Timor-Leste in Vientiane – Embassy of Timor-Leste in Vientiane, Public Domain

新線はラオスの首都ビエンチャンを出発し、中国と国境を接する北部ボテンへとつながる。そこから、国境を超えてモハンから中国の鉄道網へと接続される。最初の2本の貨物鉄道は両サイドから国境を超え、既に300万ドル相当の商品を運んでいる。ただし、新型コロナウィルス蔓延のために国境を越えた人の往来は依然として禁じられている。

12月3日の新線開通式では仏僧がお経を唱え、中国製の鉄道車両のエンジンに聖水を振りかけた。ラオスのトンルン・シースリット国家主席は式で、「今日はラオスにとって新時代の幕開けであり、ラオスが内陸に孤立した山岳国家から陸で繋がる物流ハブへと転換する重要な一歩を踏み出した日だ。」と語った。

開通日、ビエンチャンの駅は、その多くにとって恐らくは初体験であろう鉄道旅行の切符を求める中産階級の市民達で早朝からごった返した。運行開始から1週間で5000人以上が切符を購入し、『ラオス・タイムズ』紙は、国境が1月に開放されることから、中国・昆明市の住民11万4000人以上が既にラオス行きの切符を購入している。

「中国ラオス鉄道有限公司」がラオス側の路線を運行する。会社自体は「中国鉄道グループ」とその他2社の中国国営企業の合弁であり、これらが株式の7割を保有する。ラオスの国営企業が残りの3割を保有している。このプロジェクトにおけるラオスの債務は15億4000万ドルであり、中国側の合弁企業の債務は24億ドルである。

これはラオス初の鉄道路線であり、中国は、運転士から保線係、鉄道維持労働者に至るまで、鉄道を管理する数百人のラオス人フタッフを訓練しなくてはならなかった。中国国境から100キロ離れた山間部の町ムアングゼイ出身のシダ・フェンフォンサワンは、中国が訓練した運転士の一人だ。

彼女の故郷の町では、長い間、国境を通じて中国との交易がなされていた。彼女は、「中国ラオス鉄道で安定した仕事、それも国家レベルの仕事に就けました。」と新華社通信に語り、これがラオスの全般的な発展を促し、故郷のムアングゼイも中国からの商品輸入によって栄えるだろうと予想した。

鉄道路線に沿った開発活動を適切に計画し適切な海外投資を行うことで、中国ラオス鉄道は、ラオスの観光や輸出入の振興を促し、債務を解消してラオス経済のいくつかの側面の改善につながるであろう。

アジア・パシフィック・パスウェイ・ツー・プログレス財団(マニラ)のルシオ・ブランコ・ピトロ研究員は『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙(香港)への12月の寄稿で、「これらのインフラ計画は、中国の巨大な一帯一路構想がコロナ禍の中でも道を切り開き、東南アジアに大きな影響をもたらしていることの証拠だ。東南アジアの接続性を強化し、経済復興を加速する死活的なパートナーとしての中国のアピール力をまちがいなく増すことになるだろう。」と語った。

今回の輸送ネットワークは、世界最大の自由貿易協定である「地域的包括的経済連携」(RCEP)が2022年に発効すると、その重要性を増すことになるだろうとピトロ研究員は指摘した。RCEPは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の全10カ国と中国を含めた5つの対話パートナー国によるものである。

2015年に起工し、中国の高速鉄道システムを国境を越えて延伸した中国ラオス鉄道は、中国による印象的な技術プロジェクトである。列車はベトナム戦争時に米国が投下した不発弾がまだ散らばっている土地を走る。標準軌道の単線であるこの鉄道は、険しい山間地を、総延長61キロの橋梁と198キロのトンネルを使って貫通している。ラオス国内には21の駅がある。うち10は旅客専用、その他は貨物用であり、このプロジェクトの二重の性格をよく示している。

他方、「ディプロマット」のセバスチャン・ストランジオ氏は、「どの程度までこの鉄道が地域の農村人口に利益を与えるかはまだ分からない。」と指摘した。「6年間の建設を通じて、鉄道建設のために立ち退きを余儀なくされた住民らは、受け取ったもの(補償)があまりに少ないと不平を述べている」とストランジオ氏は言う。また、ある米国の識者がこの鉄道について「たまたま他国内を走ることになった本質的に中国の公的インフラプロジェクト」にすぎないと述べていることを紹介した。

この鉄道路線が、中国がこの地域で後押しする唯一の運輸プロジェクトではない。2018年、複数の中国企業がラオス政府と協定を結び、総延長580キロの高速道路をビエンチャンからパクセまで建設することを決めた。パクセは、カンボジアとの国境に近いラオス南部の都市で、高速道路ができれば、鉄道と高速道路を国中で結んで、ラオス国内や近隣の国々との交易が促進され、経済成長の起爆剤になると期待されている。

タナレン・ドライポート(TDP)とビエンチャン物流団地(VLP)の建設、ベトナム中央ハティン県のブンアン港とVLPの接続、隣国カンボジアにおける総延長190キロのプノンペン=シハヌークビル高速道路という別のプロジェクトが、来年実現されると期待されている。中国企業はまたカンボジアの首都プノンペンと観光都市シエムレアプでの空港建設にも奔走している。しかし、TDPとVLPに投資しているのは中国ではない。

Overview map of the proposed connections for the Kunming-Singapore railway. / By Classical geographer - Own work, CC BY-SA 3.0
Overview map of the proposed connections for the Kunming-Singapore railway. / By Classical geographer – Own work, CC BY-SA 3.0

「2025ASEAN接続マスタープラン」と中国の「一帯一路」を連携させるアジア諸国の取り組みを具体化する建設計画が次々と実行されているが、これは中国・ASEANが11月に実施する記念サミットの主要な要素でもある。しかし「対中債務の罠」への解決策はまだ見出されていないとピトロ氏は指摘する。

「日本による『質のよいインフラ構築に向けたパートナーシップ』にせよ、米国の『よりよい世界再建』にせよ、欧州が最近発表した『グローバル・ゲートウェイ』にせよ、中国の攻勢がそのライバルたちを競争に走らせていることを示している。しかし、日本を除けば、これらの企図はまだ具体的なプロジェクトの形になっていない。それまでは中国の『一帯一路』が地域の諸国に強い影響力を及ぼし続けるだろう。」と、ピトロ研究員は語った。

ピトロ研究員は、例えばビエンチャン=ボテン線は、タイやベトナム、ミャンマーにおける類似の鉄道建設への推進力になるだろうと考えている。「こうした問題があるにもかかわらず、世界を接続する事業の契約が次々と結ばれ、それらに参加する地域の国々の間で中国の影響力は増している。中国の先手は実を結びつつある。」そのうえでピトロ研究員は、新線は「東南アジアの陸の孤島であったラオスにとってのゲーム・チェンジャーになるだろう。」と指摘した。(原文へ

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国連事務総長、エチオピア内戦の終結を強く訴える

【ニューヨークIDN=キャロライン・ムワンガ】

エチオピアでは、北部少数民族ティグレ人の勢力と連邦政府間の内戦で、難民キャンプや農業インフラ、民間施設(診療所や学校等)も攻撃の対象となり、これまでに200万人以上が家を追われるなど、深刻な人道危機が進行している。先月には双方の間で対話の機運が高まったが、政府軍は1/7に突然ティグレ州の難民キャンプを空爆して56人の民間人を殺害したため、情勢は再び不透明になっている。(原文へ

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殺人ロボット規制を妨害する米国とロシア

【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン

20年に及んだ戦争の後、8月31日に米軍が最後の兵をアフガニスタンから撤退させた。ワシントンがこれに込めたメッセージは明確だ。今後の全ての紛争における「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(地上軍派遣)を米国は抑制するというものだ。もっとも、現在でもまだ、中東全域に4万人以上の米兵が展開している。

しかし、将来の波は、特に世界中のテロ集団に対する「影の戦争」で使用される「殺人ロボット」がもたらすかもしれない。そのほとんどがドローンや無人航空機(UAV)である。

米軍は8月29日、誤ってISIS-Kのアジトとされた場所に対して、ドローンからヘルファイアミサイル1発を撃ちこんだ。児童7人を含む10人の民間人が殺害された。米国防総省は「悲劇的な過ち」と述べたが、この民間人殺害に関して処罰を受けた者はいない。

この攻撃は、イラク・リビア・ソマリア・イエメン・シリア・アフガニスタンの内戦や紛争地帯でしばしば起こっているように、人工知能(AI)といよりは、誤った諜報(Faulty Intelligence)によって誘導されたものだった。恐らくこのような悲劇は、今後も繰り返されることになるだろう。

他方、第6回特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)再検討会議が12月13日から17日までジュネーブで開かれた。自律型致死兵器システム(LAWS)の将来に関する重要な会合だと見られていたが、予想通り失敗に終わった。

国連協会(本拠は英国)のキャンペーン責任者であるベン・ドナルドソン氏は、12月18日の閉会時にIDNの取材に対して、「多数の政府、ハイテクコミュニティー、国連事務総長からの緊急行動の呼びかけにまったく応えられていない。」と語った。

「英国殺人ロボットストップ運動」の運営委員でもあるドナルドソン氏は、「自律型兵器と群ロボットへの軍事的な投資が爆発的に伸びる中で、8年にも及ぶ議論の末、今日の国連が何も成果をもたらしていないのは偶然ではない。これらの兵器を開発している影響力がある一部の国々は、法的拘束力のある新規則の導入によって進歩がもたらされることを妨げている国々と同じだからだ。」と語った。

「フォーラムとしてのCCWの限界が白日の下に晒された。しかし、その他の国々と市民社会、技術界のリーダーによる強力な連合は進歩をもたらす決意を固めている。」とドナルドソン氏は指摘した。

クラスター弾や対人地雷に関する禁止条約の成功は、国連の外でも進展をもたらすことが可能であり、進歩的な諸国が目標に向かう姿勢を見せていることを示している。

「2022年、殺人の決定を機械に委ねてはいけないと真剣に考えている多数の人々は、この兵器の禁止に向けた新条約を起草し始めるだろう。国連でこの動きを妨害している国々は、自分たちが歴史のどちらの側につこうとしているのかを考えてなくてはならない。」とドナルドソン氏は訴えた。

「ストップ・キラーロボット」キャンペーンを主導する団体の一つである「アムネスティ・インターナショナル」は12月17日、厳しい調子の声明を発表した。米国やロシアを含めた、既に自律型兵器の開発に多額の投資をしている少数の国々が、国連の特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の全会一致ルールを使って多数の国々の意思を人質に取り、兵器システムの自律化に対する世界的な法的対応への進展を妨げようとしていることは今や明白だ、というのである。

新条約を策定する協議へのステップに第6回CCW再検討会議が合意できなかったことで、対人地雷やクラスター弾に関する条約の策定に繋がった条件を反映した法的対応が緊急に必要だとの認識が高まってきた。

「この8年間、戦力の使用を人間が意味ある形でコントロールするための新たな国際法の交渉を大多数の国々が一貫して呼びかけてきたにも関わらず、第6回再検討会議は、世界が望む結果に遥かに及ばない任務しか採択することができなかった。各国は、特定の目標に向けた作業に合意することなく、来年のCCW会合を迎えることになる。」とアムネスティは述べた。

Ray Acheson, Reaching Critical Will
Ray Acheson, Reaching Critical Will

婦人国際平和自由連盟(WILPF)の「リーチング・クリティカル・ウィル」の代表であるレイ・アチソン氏はIDNの取材に対して、「米国が提案した行動規範は(ロシア・イスラエル・インドなど一部の国々のように)自律型兵器の開発・使用を予防する条約の交渉を妨害している米国などの国々の視点を基にしており、全会一致で採択された行動規範など効果的ではないだろう。」と語った。

これらの国々は、自律型兵器システムの価値を喧伝するためにこの8年間を費やしてきた。「兵器と戦力の使用を意味ある形で人間がコントロールし、人権と尊厳を守るための明確な禁止と制限を盛り込んだ法的拘束力のある取り決めが必要だ」とアチソン氏は語った。

「対照的に、米国の考えている行動規範は、自律型兵器の開発を当然のものとみなし、それを促進すらしており、自律的な暴力をますます正常化してしまう。私たちは既に、武器を搭載したドローンとその他の遠隔操作戦争技術によって、人間が行う暴力から人間を引き離してしまう道へと転落してきてしまった。」

「これらの兵器は、信じがたい人的被害を与え、民間人の被害を引き起こす。国際法は損なわれ、戦力使用のハードルは下がる。また、「南」の人びとに対して、不均衡に使用され実験されている。」と、アチソン氏は指摘した。

自律型兵器システムはこうした害悪を悪化させる。そうした兵器の開発は、その他の新しい自律的・人工知能(AI)技術開発という文脈で理解されねばならない。

顔・声・歩き方・心拍認証などバイオメトリックのデータ収集、人の行動を予想する治安維持ソフトウェア、監視技術、人間をカテゴリー化し分類するメカニズム―こうしたことのすべてが世界中で軍隊や警察によって利用されるようになってきている。

「政府や軍隊、警察が先進技術を暴力と監視のためにいかに利用しているかの例をここに再び見て取ることができる。こうした展開の軌跡と、それが積極的に構築している世界を見て取ることができる。アルゴリズムやセンサー、ソフトウェアを基盤にして機能する兵器の出現を防ぐために今こそ行動しなくてはいけない。」とアチソン氏は主張した。

アムネスティ・インターナショナルはその声明で、オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク外相とニュージーランドのフィル・トウィフォード軍縮・軍備管理担当大臣がいずれも自律型兵器を規制するあらたな国際法の策定を呼びかけていると指摘した。

ノルウェーとドイツの新連立政権もそれぞれ、この問題に関して行動をとることを約束している。国連では68カ国が国際法の策定を訴え、地域を横断したリーダーシップが発揮されている。

数多くのAI専門家や科学者、ストップ・キラーロボット・キャンペーン、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際赤十字委員会(ICRC)、26人のノーベル賞受賞者、広範な市民社会があらたな国際法を求めている。殺人ロボットに関する外部プロセスを起動する舞台は整った。

ICRC
ICRC

ICRCは政策ペーパーで、自律兵器システムは、最初に人間によって起動されたり発射されたりした後は、センサーを通じて受容した環境からの情報に反応して、一般化された「標的に関するプロファイル」を元に、自ら攻撃を遂行する。

つまり、兵器の使用者は、結果として武器が使用された場合の特定の標的や正確なタイミング、場所を自ら選べないし、それを知ることすらできないということなのだ。

自律型兵器システムを使用することは、その効果を予測し制限することが困難なことから、リスクが伴う。戦力や兵器の使用において人間によるコントロールや判断が不在であることは、人道的、法的、倫理的観点からして重大な疑問を投げかける。

自律型兵器システムが機能するプロセスは次のようなものだ。

・武力紛争に影響を受ける者(民間人・戦闘員の双方)に対して害をもたらすリスクがあり、紛争のエスカレーションの危険もある。

・国際人道法、とりわけ、民間人保護のための敵対行為に関する規則を含めた、国際法への遵守に対して問題を投げかける。

・生と死にかかわる人間の決定を、センサーやソフトウェア、機械のプロセスに委ねることによって、人間性を巡る根本的な倫理的懸念を生み出す。

2015年以来、ICRCは諸国に対して、民間人を保護し、国際人道法に従い、倫理的に受容できるような形で、自律型兵器システムに国際的制限をかけることを呼びかけている。

他方で、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨年9月、自律型致死兵器以上に不安定をもたらす発明は考えにくいと語った。さらに、2年以内に開催される予定の「将来のためのグローバルサミット」でこの問題について検討することが期待されると語った。

このサミットではまた、核兵器やサイバー戦争、自律型致死兵器システムのもたらす戦略的なリスクを減じる措置を、「平和のための新しいアジェンダ」に盛り込むことを検討することになるだろう。

新たに設置された「国連未来研究所」は、大きなトレンドやリスクに関する報告を定期的に発行する予定だ。こうした取り組みを支援するために「『国連2.0』を立ち上げて、21世紀の課題に対処するための、意義があり、国連システム全体にわたり、多国間で、多くの利害関係者を巻き込んだ解決策を提示することになる。」とグテーレス事務総長は語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ICBMの廃絶で核の大惨事の危険は大きく下がる

【サンフランシスコIDN=ノーマン・ソロモン】

核兵器は、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアが「軍事主義の狂気」と名付けたもののきわみである。もしあなたが核兵器のことなど考えたくもないとすれば、それも理解できる。しかし、そのような身の処し方は限られた意味しか持たない。地球の破滅を準備することから大きな利益を得ている者たちは、私たちが核兵器について思考を回避することでさらに力を得ることになるからだ。

国の政策レベルにおいては、核の狂気は正常なものとみなされ、再考に付されることはない。しかし「正常」が「正気」を意味するとは限らない。ダニエル・エルズバーグ氏は、その好著『世界を終わらせるマシーン』の中で、フリードリッヒ・ニーチェの次のような戦慄の言葉を引用している。「個人の狂気は異常とみなされるが、集団や政党、国家、時代の狂気は規範と見なされる。」

現在、米国の核戦力維持に携わる政策官僚と軍備管理の主唱者たちとの間で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の将来をめぐる熱い論議が戦われている。ICMBの「近代化」に固執する「国家安全保障」派と、現在のICBMをそのまま維持することを主張するさまざまな批判派と間の論争である。両者とも、ICBMを全廃する必要性を認識することは拒絶している。

ICBMの全廃によって、世界的な核のホロコーストの危険性は大幅に下がることになろう。ICBMは効果的な攻撃には特に脆弱で、抑止上の価値はない。「抑止力」であるというよりも、実際には、地上に配備された「カモ」のようなものであり、それがゆえに「高度警戒態勢」の下に置かれているのである。

結果として、他国から向かってくるミサイルに関する通報が正確なものであれ、あやまった警告であれ、司令官はICBMを「使用するか失うか」の決断を即座に下さねばならない。「もし我々のセンサーが敵のミサイルが米国に向かっていると示したならば、大統領は、敵のミサイルが我々のICBMを破壊するよりも前にそれを発射するかどうかを考えなくてはならない。しかし、ひとたび発射されてしまったら、取り消しはできない」とウィリアム・ペリー元国防長官は記している。「大統領はその恐ろしい決断を下すまでに30分も与えられていない」。

ペリー元長官のような専門家は、明確に「ICBM廃絶」の主張をしている。しかし、ICBMは「金の生る木」だ。メディアは、いかにしてこの戦力を維持し続けるべきかについて報道を続けている。

『ガーディアン』は12月9日、米国防総省がICBMのオプションをめぐる調査を外部委託したと報道した。問題は、検討課題となっている2つのオプション、すなわち、現在配備されている「ミニットマンIII」ミサイルの運用期間延長か新型ミサイルの導入かという選択によっては、核戦争の高まる危険の低減に資するところがない、ということだ。しかし、米国のICBMを全廃すればそうした危険が減ることは明らかなのだ。

だが、巨大なICBMロビー集団は気勢を上げている。莫大な利益がかかっているからだ。ノースロップ・グラマン社は、「地上配備戦略抑止力」と誤解を生むネーミングをされた新型ICBMシステム開発に向けて133億ドルの契約を締結した。議会と大統領府におけるICBMへの自動的な政治的信奉と協調した動きである。

「核の三本柱」を構成する海上発射(潜水艦)と空中発射(爆撃機)の部分に関しては、完全に脆弱なICBMとはちがって、相手方の攻撃に対して脆弱ではない。潜水艦と爆撃機は、標的とするすべての国を破壊することが可能であり、合理的に考えうるよりも遥かに強力な「抑止力」を提供する。

それとは対照的に、ICBMは抑止力の真逆をいく。ICBMは、実際には、その脆弱性ゆえに核の第一撃の標的となってしまい、まさにそれと同じ理由によって、報復攻撃を行う「抑止力」とはならないのである。ICBMは、核戦争の開始にあたって敵の攻撃を吸収する「スポンジ」のような役割を果たすに過ぎない。

「高度警戒態勢」のもとに武装された400発のICBMは、5つの州に分散された地下サイロ深くに配備されているだけではなく、米国の政治的既成勢力の発想にも深く埋め込まれている。その目標が、軍需産業から多額の選挙資金を獲得し、軍産複合体に莫大な利益を与え、営利化した支配的なメディアと協調し続けることにあるのならば、そうした発想は合理的なものと言えよう。一方、もしその目標が核戦争の予防にあるのならば、その発想はバランスを欠いている。

エルズバーグ氏と私は『ネイション』誌で次のように書いた。「サイロでICBMを運用し続ける最も安価な方法を探ろうとする議論に囚われてしまうなら、我々に勝ち目はない。この国の核兵器の歴史は、それが真に支払うに足るもので、自らの愛する人たちをより安全にしてくれるものならば、彼らは支出を惜しまないということを物語っている。しかし、ICBMが実際にもたらすものはその真逆であることを人びとに示さねばならない。」たとえロシアと中国が同等の対応を示さなかったとしても、米国のICBM全廃は、結果的に核戦争の可能性を大幅に減ずることになろう。

米議会では、そうした現実には程遠い。先行きが見えず、これまでの常識が支配している。議員にとっては、核兵器に対して数十億ドルもの予算を承認することは自然な行為であるようだ。ICBMに関する機械的な想定に対抗していくことが、核の終末への行進を妨げるうえで、絶対に必要になるだろう。(原文へ

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国連開発計画(UNDP)は、ミャンマー(人口5500万人)では総人口の約半数にあたる約2500万人が、2022年初頭には貧困ライン(1日の所得が1590チャット=約100円)以下の暮らしを余儀なくされることになるとする報告書を公表した。このことは、パンデミック以前の15年間にわたる経済成長の成果が消滅して貧困率が2005年以来最悪の水準に逆戻りすることを意味する。

「貧困率の増加からは、生活収入の不足という問題にとどまらず、次世代の人的資源にマイナスの影響を及ぼす栄養、健康、教育へのリスクも見てとれる。ミャンマーの都市部の貧困率は、コロナ禍と進行中の政治的危機による複合的影響により、3倍を超す水準となる。」と報告書は述べている。

UNDPでは、2月に発生した国軍によるクーデターに伴う国民の所得水準への影響を測るための家計調査を5月から6月にかけてミャンマー全土で実施した。

カニ・ヴィグナラジャ国連事務次長補・UNDPアジア太平洋局長は、「通常、中間層が経済回復の原動力となるが、これほど大規模に貧困層が拡大しているミャンマーでは、その中間層が消滅してしまいかねない状況だ。」と指摘し、急速に不安定化している現状について警鐘を鳴らした。

同調査によると、パンデミックと国軍のクーデター前から既に貧困の危機に見舞われていたチン州ラカイン州では、貧困率が高止まりとなる見通しだ。一方、マンダレーヤンゴンといった主要都市部では、貧困層が増加するとともに、既に貧困に喘いでいた層は一層厳しい状況に追いやられると見られている。

報告書はまた、貧しい人々の雇用と収入の大半を生み出す中小規模ビジネスの他、とりわけ縫製業、観光業、サービス業、建設業が大きな打撃を受けていると指摘している。これらの産業はミャンマーの都市部に集中しているが、過密でインフラが未整備なうえに、水道その他のサービスへのアクセスが限られている都市部の環境はウイルスの拡散を悪化させている。

報告書はまた、都市部の世帯の約3分の1が収入減を補うため貯蓄を切り崩し、このうち半数が「貯蓄を使い果たした」と回答するなど、家計の貯蓄が大幅に減少したと指摘している。また都市住民の約27%が、家計をやりくりするために、主な移動手段であるバイクを手放したと回答している。

現金はますます不足してきており、ミャンマーの大手民間銀行カンボーザ(KBZ)銀行は、一日当たりの現地通貨引き出し可能額を約120ドル相当に制限している。さらに、困窮した家庭が頼りとしている出稼ぎ労働者からの国際送金も10%減少している。

報告書は、貧困率の増加は、国の開発全体に深刻な波及効果を及ぼすことになりかねないと警告している。

「我々は、ミャンマー政府は、年間GDPの4%相当の予算を社会救済策に割当てる必要があると見積もっている。経済規模が急速に縮小し、所得崩壊が起こっている中で、もし救済を目的とした社会的投資がなされなければ、多くの世帯を長期にわたって恒常的な貧困状態に固定してしまう可能性がある。」(原文へ

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