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ポーランドが「ウクライナ人」を優先するなか、アフリカ留学生が助けを求める

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

ロシア軍の侵攻によりウクライナに取り残されたアフリカ出身留学生が直面している苦境に焦点を当てた記事。ウクライナには約8万人の留学生(アフリカからは薬学部・工学部を中心にガーナ、ナイジェリア、ザンビア、南アフリカの学生が多い)が在籍していたが、本国からの十分な支援がなく、自力で戦火の中を西の国境を目指して逃れている。しかしポーランド国境では、ウクライナ人優先という国境警備隊の指示で、アフリカ人が行列の後ろに回されたり越境を拒否されたりしたとのケースが相次いで報告されており、アフリカ各国から懸念の声が上がっている。(原文へ

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「尾崎行雄と三女・相馬雪香の信念と生き方」(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)


【IDN東京=石田尊昭

◆民主主義の厳しさ

尾崎行雄が最も問題にしたのは、国民一人一人の在り方。1917年、尾崎は当時の政党に対し「感情やしがらみで結びつき、国の利益よりも党の利益に走っている」と批判した。あれから100年経ち、皆さんも記憶に新しい2017年秋の総選挙。尾崎が100年前に言った、しがらみ、利害、自分の当落のためだけに動く政治家が、今の日本にいなければ問題はないし、尾崎財団も必要ない。しかし一昨年、我々はまざまざと(その姿を)見せつけられてしまった。ただ、そうしたのは誰か?誰がそんな政党を作ったのか?尾崎に言わせれば「そんな政治家を選んだ国民にこそ責任がある」。これが民主主義。民主主義は、それを守るための努力と覚悟を我々一人一人が持っていないと、あっという間に後戻りをしてしまう。この民主主義の危うさを分かっていた尾崎は、とにかく有権者一人一人の在り方を厳しく説き続けた。このことを忘れてはいけない。そしてこの有権者に対する厳しい目、厳しい言葉は、相馬雪香にそのまま受け継がれている。


◆誰が正しいかではなく何が正しいか

Ozaki Yukio Memroial Foundation
Ozaki Yukio Memroial Foundation

尾崎行雄は、政府の不当な圧力や権力行使を批判したが、一方で国民に対しても厳しい目を向けた。これは、相手がどうこうではなくて、何が正しいかを考えたから。「誰が正しいかではなく何が正しいか」これは非常に重要なキーワード。あの人が言うんだから正しい、政府が言うんだから全部正しい…そう思った時点で思考が停止する。あるいは、国民が言うんだからすべて正しい。「民主主義だから国民の言う通りに動くのが政治の正しいやり方だ」とも尾崎は言わない。国民でも間違うんだということをちゃんと言える。権力に対しても、民衆に対しても、また自分の仲間に対しても、間違いを間違いだと言える。「誰が正しいかではなく何が正しいか」という姿勢が尾崎と相馬の中にがっちりと入っている。

◆自分の頭で考え抜く

尾崎は「憲政の神」と呼ばれた一方で、「国賊・非国民」とも罵られた。暴漢に襲われたり、命を狙われたりしたこともある。それを間近で見ていた幼い雪香は父に尋ねたことがある。「お父さんの言ってること、やってることは間違ってるんですか?」と。尾崎はこう答えた。「間違ってるかどうかは雪香さん、あなたの頭でしっかりと考えなさい」と。これも非常に大事なこと。我々は尾崎が言うから何でも正しいと思ってはいけない。尾崎が言うから、相馬が言うからではなくて、じっくりと自分の頭で考えて答えを出していく。この大切さを尾崎は相馬に伝えている。

◆尾崎行雄と相馬雪香の共通点

尾崎と相馬には4つの共通点がある。1つは、何事もあきらめない「不屈の精神」。2つ目は「日本を世界から孤立させないという信念」。3つ目は「出来ることから始めるという行動力」。そして最後は「物事を公正・公平に見る判断力」。本当に正しいかどうかは、その人の言ってる中身を、我々がきちっと自分の頭で考えなければならない。それがあって初めて国民一人一人の力が成熟し、大きくなっていく。まさに尾崎が厳しく説いた姿勢であり、相馬が自ら実践していった姿勢。さらに相馬雪香には4つの心があった。「本気の心」「純粋な心」「利他の心」「感謝の心」。この気持ちを、我々はしっかりと受け止めて、一人一人がそれを自らの行動に生かしていくことが大事。

◆人生の本舞台は常に将来に在り

Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation

尾崎74歳の時、高熱で病床に伏す中で浮かんだ言葉「人生の本舞台は常に将来に在り」。昨日までは訓練で、今日以後が本舞台。過去の知識・経験、悔いや悩みでさえも、未来に向けた糧であるという考え方。尾崎は95歳で亡くなる前年まで国会議員を務め、相馬雪香も96歳で亡くなる前年まで講演で各地を回っていた。尾崎も相馬も生涯現役、まさに「人生の本舞台」の実践者だった。我々もその思いで行かなければならない。過去の経験を生かしながら、常に前を向いて進んでいく。かと言って、遠くの理想ばかりをただ見つめているだけでは意味がない。現実をしっかりと見据え、目の前の一歩一歩を大事にして地道に取り組んでいく。その一つ一つを積み上げていった先に成功がある。尾崎や相馬を大事に思ってくださる皆さんと一緒に、この2人の信念と生き方を一人でも多くの人に伝えていきたい。これからも一緒に頑張っていきましょう。

Ozaki Yukio Memroial Foundation

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* 本稿は、去る1月に都内で行なった講演の要旨(一部抜粋)です。

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中央アジア大学とのメディアプロジェクト

【IDN東京=浅霧勝浩

INPSグループはジャーナリストを目指す若者を支援する目的で中央アジア大学と協力してメディアプロジェクトを推進している。(記事リストへ) FBポスト

ラテンアメリカとカリブ海諸国が核実験禁止を支持

【ウィーンIDN=ラインハルト・ヤコブセン】

ドミニカ国は、2月上旬に包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を決定したと発表した。CTBTは、いかなる場所、いかなる人によっても、あらゆる空間(宇宙空間、大気圏内、水中、地下)における核実験の実施、核爆発を禁止している。この条約は26年前に署名解放されたが、未だに発効していない。

その理由は、CTBTには185ヵ国が署名、その内170ヵ国が批准を済ませているが、核保有国である仏、露、英を含む核技術を保有する特定の44ヵ国(=発効要件国)全ての批准が必要であり、未だに8カ国(中国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、米国)が批准を終えていない。中でもインド、北朝鮮、パキスタンは署名さえしていない。発効要件国で前回批准したのは2012年2月6日のインドネシアであった。

CTBTO
CTBTO

ウィーンに本拠を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO )準備委員会によると、ドミニカ国のCTBT署名は同条約が全中南米諸国(ラテンアメリカ・カリブ諸国)で普遍的なものと認められている証左であり、核不拡散と核軍縮分野でこの地域が果たしているリーダーシップを示すものである。

2021年2月のキューバによるCTBT署名・批准に続いて、ドミニカ国が署名することで、全中南米諸国33カ国がCTBT加盟国となる。

2月7日にドミニカ国のルーズベルト・スカーリット首相と会談したCTBTOのロバート・フロイド事務局長は、「これはドミニカ国との新たなパートナーシップ新時代を画するものであり、核実験に反対する規範強化に共に取り組んでいくことを楽しみにしている。」と語った。

フロイド氏は、昨年8月にブルキナファソのラッシーナ・ゼルボ氏の後を引き継いで以来、今回が初の中南米訪問であり、10日間の歴訪中、バルバドス、ドミニカ国、コスタリカ、メキシコで、主な地域パートナと協力関係の深化を協議した。

IMS/ CTBTO
IMS/ CTBTO

今回のフロイド事務局長による歴訪の背景には、中南米諸国がCTBTOの重要な技術パートナーとして、世界337か所を網羅して核実験を探知する国際監視制度(IMS)の内、43拠点をホストするなど、CTBTを支持し重要な取り組みを進めてきた経緯がある。

1967年に署名解放したトラテロルコ条約は、人が住む地域で結ばれた非核兵器地帯を創設する条約としては、史上初のものであった。

メキシコで開催されたトラテロルコ条約55周年記念行事で登壇したフロイド氏は、核兵器実験のない世界という共通のビジョンを実現する上で中南米諸国が果たす重要な役割を強調した。

「中南米地域には、核不拡散と核軍縮の分野で長年に亘ってリーダーシップを発揮してきた誇るべき歴史があります。そして間もなく、全ての中南米の国々がCTBTへの批准を終え、誇りと団結をもってこの偉業を記念する瞬間を迎えます。」

最初の訪問地バルバドスで、フロイド事務局長は、ジェローム・ウォルコット外相を含む政府高官と会見し、CTBTに対する同国の支持に謝意を述べた。また、東カリブ地域と小島嶼国(SIDS)を対象とした能力開発研修や、熱帯暴風雨やハリケーンで被災した国々における気候変動適応や災害リスク管理にCTBTOのデータを活用する協力を拡大することについて、様々な政府機関の技術担当者と協議した。

フロイド氏、バルバドスとドミニカ国に続いてコスタリカを訪問した。コスタリカは、ラス・フンタス・アバンガレスにコスタリカ地震火山観測所が管理するCTBTOの地震学的監視観測所補助観測所(AS25)をホストしている。

フロイド氏は、コスタリカの核不拡散分野における取組について、「この国の技術能力の高さと積極的な外交姿勢に感銘を受けた。」と称賛するとともに、「義務を国内で率先して果たしていこうとするコスタリカのビジョンを知り大いに励まされた。」と語った。また国連平和大学では、学生や教員との語いの後、次世代の若者を教育しエンパワーするCTBTOの活動を象徴する意味で、大学の伝統に従い、キャンパスに原生種のコルテザ・アマリリアを植樹した。

Latin America/ By Heraldry – Own work, CC BY-SA 3.0

そして最後の訪問地メキシコでは、ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止機関(OPANAL)がトラレロルコ条約55周年を記念して開催したイベントで講演し、「トラテロルコ条約について最も力強く感じるのは、中南米地域の国々が、核軍縮や核不拡散の問題について声を一つにし、集団安全保障や軍縮教育、訓練について協働できている点です。」と語った。

また、CTBTの長年の支持者であるマルセロ・エブラルド外相を訪ね、CTBTの普遍化と条約発効に向けたメキシコの関与について協議した。メキシコは、5つの国際監視制度(IMS)施設(地震学的監視観測所補助観測所3カ所、水中音波監視観測所1カ所、放射性核種監視観測所1カ所)のホスト国となっている。

フロイド事務局長は、メキシコ外交官向けの教育訓練機関であるマティアス・ロメロ協会において、CTBTと世界の核不拡散及び軍縮をとりまく現状について語った。(原文へ) 

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ウクライナ危機はパワーシフトの時代の地政学的な断層を映し出す

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

あらゆる大国は、外交政策を貫く組織原則を必要とする。大国は歴史の潮流の中で盛衰するもので、繁栄が永遠に続く国もなければ、永遠に衰退し続ける国もない。ある大国の退潮が恒久的な衰退の始まりなのか、それとも単に一時的な後退なのかを確実に判断する方法はない。パワー移行期における地政学的な断層は、相対する大国の誤算に根差した戦争を引き起こす重大なリスクを孕んでいる。いま述べたことは、全て批判の余地のないことだが、この真理をいかなる出来事や領域にも適用することは、なかなか難しいことである。(原文へ 

今回の危機は、ウクライナを巡るロシアとNATO(北大西洋条約機構)間の緊張であり、これが中国と台湾問題に波及してくる可能性もある。西側諸国は、ウクライナや台湾の運命を、対ロシア・中国関係の組織原則としたいのだろうか。ウクライナ・台湾との政策を策定し、それに従ってロシア・中国との関係を構築していこうという感情的な思いに駆られることがあるかもしれない。しかし現実主義に立てば、まずロシア・中国との政策を策定し、その戦略的な枠組みの中で現在および潜在的な危機に対応していくべきである。

オーストラリアのギャレス・エバンス元外相は、政治回顧録『Incorrigible Optimist(仮訳:頑固な楽観主義者)』で、米国のビル・クリントン元大統領が2002年に私的な会合の中で、冷戦終結後に米国は厳しい選択に直面したと語った、と記している。米国は永遠に「最高権力者」の位置に留まろうと努力することもできるし、「もはや世界のブロックにおける最高権力者の地位にない状況でも安心して暮らせるような世界を作り出す」ために、その支配的なパワーを利用することもできる、というのである。1999年のコソボ介入でクリントン政権がそうしたように、米国の歴代政権が採ってきたのは第1の選択肢の方であった。

現在の危機の根原は、ロシアが2014年にクリミア半島を併合したことにある。ジョン・ケリーは2014年3月、「21世紀においては『完全に捏造した口実』で他国に侵攻することはできない」と宣言した。しかしそれは、同じく21世紀の出来事だった米国のイラク侵攻から11年後の事である。この米国務長官が自身の発言の持つ皮肉と偽善を自覚していなかったのは驚きだが、そのことはロシアだけではなく米国でも当時から指摘されていた。

米国の外交当局は、冷戦後のロシアが一時的に後退している大国なのか、それとも恒久的に衰退の一途をたどっているのかを判断しなくてはならなかった。コソボやその他で起こった出来事は、後者の見方への信念を裏切った。ウラジーミル・プーチン大統領の言動は、ロシアの後退を断固阻止するという信念に裏づけられているようだ。冷戦終結後に影響力を増した米国の外交エリートたちは、対等な相手として必ずしも受入れないまでも、ロシアの利害と感情を理解しようともしなかったために、ロシアに対処する経験や分析枠組みを喪失してしまったのである。そのために、親ロシアだが選挙で選ばれたウクライナの大統領を2014年に失脚させ、従順な反ロシア派を据える陰謀に積極的に関与するという、決定的な判断ミスを犯すことになったのである。

ビクトリア・ヌーランド米国務次官補による悪名高い「EUなんかクソ食らえ発言を覚えているだろうか。2014年1月28日、ヌーランドはジェフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使との同じ電話のなかで、ウクライナの反体制派指導者アルセニー・ヤツェニュクは「支援すべき男」であると発言しており、米国がウクライナ内政に「かなり深く食い込んでいることを白日の下に晒した」(「ワシントン・ポスト」の報道による)。ヤツェニュクは2014年から2016年まで正規にウクライナ首相を務めた。ヌーランドはジョー・バイデン政権の国務次官(政治問題担当)を務めている。米政府の誰も、彼女の指名をプーチンがどう受け止めるかを立ち止まって考えることをしなかったのだろうか。

ロシアがウクライナに対して強い関心を寄せるのには、言語・民族・歴史・ナショナルアイデンティティー・地政学に深く根差した理由がある。対照的に、米国側の関心は一時的で距離の遠いものであり、あくまで選択的に付け加えられたものにすぎない。クリミア半島にはここを本拠とするロシア黒海艦隊が常駐しており、海を通じて黒海沿岸諸国や中東へのアクセス拠点であることから、ロシアにとってクリミア半島を失うことは存亡の危機となる。クリミア住民投票の法的な正当性は疑わしいものだが、正しく住民投票を行ったところで、結果は同じようものであったであろうことは、疑いの余地はほとんどない。クリミアにおけるロシアの行動に対してコソボの前例のような事態が起きることをNATOは拒絶した。「われわれは1999年をよく覚えている」とプーチン大統領は2014年3月にロシア議会の両院合同会議で演説したが、NATOの拒絶はロシアには不誠実に映った。クリミア半島はエカテリーナ大帝の治世以来ロシアの一部であった。1990年代にNATOがバルカン半島で用いたロジックでいえば、ロシアとの再統合を望むクリミアに対してウクライナが抵抗するなら、NATOはキエフを爆撃して言うことを聞かせる必要があるということになるからだ。

バイデンのアフガン撤退をめぐる大失敗と、ロシアによるウクライナへの「小規模な侵攻」発言を巡る外交失策を目の当たりにして、私は、一瞬だけだが、引退を撤回して『ホワイトハウスの頂上に白旗がはためく』という仮題の本でも書こうかという誘惑に駆られた。しかし、ウクライナを巡る米国の無能は、米国の真の力を反映したものでも、死活的な利益が危機に晒された際に米国が行動を起こす意思やその真価を反映したものでもなかった。より深刻な問題は、アフガン撤退を巡るほぼ一致した厳しい批判と、「バイデンは与しやすい大統領だ」という評判がますます強まることで、彼が外交的妥協を取る余地が狭まって、厳しい軍事的反応を示さざるを得なくなっているのではないか、ということだ。

このため、自由な社会の価値観という、最後に残された核心的な利益が危機に瀕している。米国は「戦争疲れ」でハードパワーを展開する決意が弱まっていることに加えて、ソフトパワーもまた、その内部から損なわれつつある。どの国にも後ろ暗い過去はあるものだが、人類の福祉全体に対する西側社会の貢献には比類なきものがある。にもかかわらず、西側社会は、自己嫌悪と激しく分極化した文化戦争、政治の機能不全、漂流する道徳問題で揺れてきた。プーチンですら、西側の「キャンセル・カルチャー」や「ウオゥク(Woke=覚醒)・イデオロギー」――攻撃的に歴史を見直そうとする動きや、マイノリティの利益の特権化、ジェンダーアイデンティティーの曖昧化、伝統的な家族像の解体――などは、1917年のロシア革命以後のボルシェビキによる苛烈な抑圧と同調主義を彷彿とさせるものだ、と警告しているのである。

他方で、インド太平洋地域では、止めようもないグローバルなルール違反者としての中国が真の脅威なのではない。もしパワーシフトが順調に進むのなら(もちろんそれは確実ではないが)、より大きな脅威は、中国がルールを策定し、解釈し、執行する支配的な立場に立つかもしれないということである。これは、過去数世紀にわたって西側諸国が享受してきた役割である。中国当局は、一流の大国は、国際法を用いて他国にそれを順守するよう強いるが、自らの行動に対する法的規制は否定するという教訓を学んでいる。中国の行動を導いているものは、ロシアに対する米国の弱さというよりも、米国が最高権力者であった時代の行動ぶりに関する記憶なのである。西側は、中国的特徴を持ったルールに基づくグローバル秩序に心理的に適応することができるだろうか。

※本記事は、2022年1月28日に「The Strategist」に掲載されたものです。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を努め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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【ワシントンIDN=ダリル・キンボール

ウラジーミル・プーチン大統領は外交ではなく破壊の道を選んだ。数か月にわたってウクライナ周辺に大規模なロシア軍部隊を集積し、2月21日にウクライナ東部のルハンスク州ドネツク州にロシア軍を進軍させるよう命令したことで、壊滅的な戦争を開始した。

プーチン大統領がウクライナに対して、用意周到かつ弁解の余地のない攻撃を仕掛けたことで、北大西洋条約機構(NATO)・ロシア間の緊張と欧州で紛争が勃発するリスクが高まり、今後数年にわたって核不拡散・軍縮が前進する見通しは低くなった。

NATO's Eastward Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

欧州における冷戦後の安全保障秩序を軍事力で一方的に変更しようとするこの最も恥ずべき行為の背景にはプーチン大統領が募らせてきた多くの不満がある。その中には、欧州における軍事バランスを変えるNATO東方拡大政策のように現実に根を持つものもあるが、想像にすぎないものもある。しかし、隣国に対するロシアの暴力的な攻撃がそれによって正当化されるものではない。

プーチン大統領は、ロシア軍の進軍決定を発表した怒りに満ちた演説で、ウクライナは正統な国家ではなく、大ロシアに所属するという、野蛮で、自民族中心主義的で、歴史的にみて不正確な主張を展開した。西側諸国に肩入れした独立国ウクライナは核兵器を製造するかもしれず、ロシアにとっての重大な脅威となるとの大げさで誤った主張までしてみせた。

ウクライナに対するロシアの攻撃は、ウクライナの領土や政治的独立への威嚇や武力行使に対して安全を保証したロシア・英国・米国による1994年の「ブダペスト覚書」に違反するものだ。

ウクライナはこの覚書に対応して非核兵器国として核不拡散条約(NPT)に署名し、ソ連から継承した1900発の核弾頭(当時世界3位の規模)を放棄した。ウクライナやロシア、そして世界は、その結果としてより安全になった。しかし、プーチン大統領の今回の振る舞いはNPTを棄損し、核保有国が非核保有国に嫌がらせをしているとの印象を強めた。こうして、軍縮へのインセンティブは損なわれ、核拡散を防ぐことがより難しくなってしまう。

近年のロシアと西側諸国との間の不信の負のサイクルは、冷戦の終結に一役買った重要な通常兵器・核兵器の軍備管理協定が無視され、遵守されず、果ては脱退までされてしまったことによって、さらに悪化している。

Image source: Sky News

冷戦終結を導いた防護壁としては、欧州における大規模戦力構築の予防を目的とした「欧州通常戦力条約」、軍事能力や軍事活動に関する透明性の向上を求めた「オープンスカイ条約」、攻撃的・防衛的兵器の軍拡競争が野放図に行われることを予防する「対弾道迎撃ミサイル制限条約」、欧州における核戦争の危険を低減した「中距離核戦力全廃条約」などがある。

結果として、当事者間の協力関係は浸食され、軍事能力に対する懸念が強まり、計算違いのリスクが高くなった。

ウクライナに対するプーチン大統領の恐るべき戦争が進行する中、米国や欧州、国際社会は、ロシアの主要な組織や指導者に対する強力な制裁も含め、強力かつ連帯した対応を維持しなくてはならない。包囲されたウクライナの民衆には、国際社会からの緊急の支援が必要だ。ウクライナの全てではないかもしれないが一部の領土をロシアが押さえる可能性があり、それを抑止するための防衛目的の軍事支援をウクライナ政府は手にすることになるだろう。

これからの数週間で、ロシアや米国、欧州の首脳らは、新たなかつ情勢を不安定化させる軍事的展開や、ロシア軍とNATO諸国軍の間の接近戦、共通の安全保障を損なうような攻撃的兵器の導入を避けるように、慎重に立ち回らねばならない。例えば、ロシアの従属国家であるベラルーシがロシアの求めに応じて戦術核兵器の配備を許すようなことがあれば、ロシアと欧州の安全保障が損なわれ、核戦争の危険が増してしまう。

プーチン体制は国際的な孤立に直面することになろうが、米ロの首脳は、現在止まっている戦略的安全保障対話を通じて協議の再開を模索し、広範なNATO・ロシア間の緊張を緩和し、全面的な軍拡競争を予防する共通の軍備管理措置を維持するようにしなくてはならない。

Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri
Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri

2021年12月にロシアが行った安全保障に関する提案とそれに対するバイデン政権の反応は、相互の懸念を解消する協議の余地があることを示している。例えば、大規模軍事演習の規模を縮小したり、欧州やロシア西部での中距離ミサイル配備を予防する合意がここには含まれるだろう。米国政府は、ロシアがそのような選択肢を真剣に追求する気があるかどうかを試さねばならない。

長期的には、米国・ロシア・欧州の指導者やその市民らは、戦争や核戦争の威嚇こそが彼ら全員にとっての共通の敵であるという事実を見失ってはならない。ロシアと西側諸国は、最後の核軍備管理協定である新戦略兵器削減条約(新START)が2026年初めに失効してしまう前に、膨張した核戦力をさらに削減し、短距離の「戦場」核戦力を規制し、長距離ミサイル防衛を制限する協定を締結することに関心を持っている。そうでなければ、次の対決の場はより危険なものになってしまうだろう。(原文へ

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2/28にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書第二作業部会が公開したレポートの概要を紹介した記事。このレーポートでは、これまでの予測より早く気候危機が進行しており、人々の命や生物多様性への影響の深刻さが強調された。気候危機はすぐ目前に迫っており、温室効果ガスを削減する緩和策だけでなく、損失と被害への対応や適応策の早急な強化の必要性が強調されている。(原文へ)FBポスト

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平和構築をめざす仏教者が「核軍縮は早期に解決を図らなければならない課題」と訴え

【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

地域社会に根差した仏教団体である創価学会インタナショナル(SGI)は、国際連合のように、とりわけ世界が人類の生存を脅かす複合的な危機に見舞われる中で、希望の光となっている。

仏教哲学者、教育者として世界の平和構築を一貫して訴え続けてきた池田大作SGI会長は、1983年から毎年、平和提言を発表している。40回目となる今回の提言は「人類史の転換へ 平和と尊厳の大光」と題され、1月26日に発表された。

池田会長は「現在の世代だけでなく、これから生まれる世代のために、何としても早期に解決を図らねばならない3つの課題」として、①気候変動問題の解決、②子どもたちの教育機会の確保とその拡充の取り組み、③核兵器の廃絶について、具体的な提案を行っている。

世界192カ国・地域にメンバーを擁しているSGIは、国連経済社会理事会との協議資格を持つNGOである。

ICAN
ICAN

池田会長は、「コロナ危機が続く中で、世界の軍事費は増大しており、核兵器についても13,000発以上が残存する中、その近代化は一向に止まらず、核戦力の増強が進む恐れがあると懸念されています。」と指摘している。

さらに池田会長は「またコロナ危機は、核兵器を巡る新たなリスクを顕在化させました。核保有国の首脳が相次いで新型コロナに感染し、一時的に執務を離れざるを得なかったほか、原子力空母や誘導ミサイル駆逐艦で集団感染が起こるなど、指揮系統に影響を及ぼしかねない事態が生じたからです。」と述べている。

池田会長は、「核兵器による惨劇は起きないといった過信を抱き続けることは禁物である。」と警告したうえで、「広島と長崎への原爆投下以降、核兵器が使用されずに済んできたのは、それぞれの時代で最悪の事態を防いできた人々の存在と何らかの僥倖があったからでした。」と述べている。

池田会長はさらに、「国際環境が流動化し、ガードレールは腐食しているか、もしくは全く存在していないという現在の世界において、人的な歯止めや僥倖だけに頼ることは、もはや困難になってきている。」述べている。

現在、核軍縮に関する2国間の枠組みは、2021年2月に米ロ両国が延長に合意した新戦略兵器削減条約(新START)だけしか残っていない。

5年毎に開催される核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議は、新型コロナのパンデミックの影響で今年1月に開催が予定されていたが、再び延期され、8月に開催することが検討されている。池田会長は、「2015年に開催された前回の会議では最終文書が採択されずに閉幕したが、その轍を踏むことがあってはならない。」と述べている。

そのうえで、「全ての加盟国が、NPTの前文に記された『核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払う』との誓いに合致する具体的な措置に合意するよう強く望みたい。」としている。

NPTはしばしばその中核的取引、すなわち、非核兵器国が核兵器取得を放棄する代わりに、核保有国が平和的核技術の利益を共有し、最終的に核兵器を全廃することを目的として核軍縮を推進するという取引を基盤としてきたと見られている。

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain
President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain

池田会長は、核保有5カ国の首脳が共同声明で再確認した、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」との精神は、冷戦時代の1985年11月にジュネーブで行われた、アメリカのロナルド・レーガン大統領(1911~2004)とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長による首脳会談で打ち出されたものであると指摘し、ジュネーブ首脳会談を彩った「この精神の重要性は、昨年6月の米ロ首脳会談における声明でも言及された。」と述べている。

池田会長は「核時代に終止符を打つために何が必要となるのかについて討議する機会を国連安全保障理事会で設けて、その成果を決議として採択し、時代転換の出発点にすべきだと、私は考える。」と訴えている。

「核兵器の使用を巡るリスクが高まっている現状を打開するには、核依存の安全保障に対する“解毒”を図ることが、何よりも急務となると思えてなりません。」と池田会長は述べている。

「自国の安全保障がいかに重要であったとしても、対立する他国や自国に壊滅的な被害をもたらすだけにとどまらず、すべての人類の生存基盤に対して、取り返しのつかない惨劇を引き起こす核兵器に依存し続ける意味は、一体、どこにあるというのか。」と池田会長は問いかけている。

「この問題意識に立って、他国の動きに向けていた眼差しを、自国にも向け直すという“解毒”の作業に着手することが、NPTの前文に記された『核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払う』との共通の誓いを果たす道ではないかと訴えたいのです。」

来年には、日本でG7サミット(カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・英国・米国)が開催される。その時期に合わせる形で、他の国々の首脳の参加も得ながら、広島で「核兵器の役割低減に関する首脳級会合」を行うことを池田会長は呼びかけている。

広島・長崎は米国が1945年8月6日と9日にそれぞれ原爆を投下した都市である。

1月21日、日本とアメリカがNPTに関する共同声明を発表し、そこで「世界の記憶に永遠に刻み込まれている広島及び長崎への原爆投下は、76年間に及ぶ核兵器の不使用の記録が維持されなければならないということを明確に思い起こさせる」と述べていたことに池田会長は注意を向けた。

その上で共同声明は、政治指導者や若者に対し、核兵器による悲劇への理解を広げるため、広島と長崎への訪問を呼びかけている。

池田会長は、核保有5カ国が核戦争の予防と核軍拡競争の回避に関する声明を1月3日に発したことを指摘し、国連安保理に対して、この共同声明を基礎として、核保有5カ国(米・ロ・英・仏・中。「P5」とも呼ばれ、安保理常任理事国でもある)がNPT第6条に規定された核軍縮義務を果たす具体的措置を採るよう促す決議を採択するよう求めている。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

SGI会長の核問題に関する2つ目の提案は核兵器禁止条約に関連したもので、日本を含めた核依存国や核保有国に対して、第1回締約国会合にオブザーバー参加することを強く求めている。

また、締約国会合で、条約に基づく義務の履行や国際協力を着実に推し進めるための「常設事務局」の設置を目指すことを提唱した。

池田会長は、「核兵器の廃絶に向けて、いよいよこれからが正念場となる」と述べたうえで、「私どもは、その挑戦を完結させることが、未来への責任を果たす道であるとの信念に立って、青年を中心に市民社会の連帯を広げながら、誰もが平和的に生きる権利を享受できる『平和の文化』の建設を目指し、どこまでも前進を続けていく決意」であることを誓った。(原文へ) 

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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