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|シリア難民|子ども達が失っているのは祖国だけではない

【ベイルートIPS=レベッカ・ムレイ】

レバノンではシリアからの難民が流入し続けているが、難民の子どもの大半は学校に通っていないことから、この子供たちが「失われた世代」になるのではないかという懸念が高まっている。

レバノンに最近到着したアワドちゃん(12歳)と妹のエマンちゃん(10歳)もそうした脆弱な立場に置かれた子どもたちだ。姉妹はシリアの首都ダマスカスで両親と暮らしていたが、内戦で父親が殺害されたため、母親と祖父に手を引かれて越境し、既に過密状態のシャティラ難民キャンプに辿りついた。そこでなんとか粗末な部屋を借りることができ、難民生活が始まったという。

シャティラ難民キャンプは、元々1949年にパレスチナ難民を一時的に収容する施設として建設された場所だが、現在は手頃な値段の住宅を求めるシリア難民や、シリアから逃れてきたパレスチナ難民、さらには移住労働者が流入してきている。

「ここにはおじいちゃんとも入居するはずだったけど、到着時に死んでしまったの。故郷から遠く離れて怖かったわ。」

彼女たちの母親はここでレバノン人の男性と再婚したが、間もなく男性は妊娠した彼女を捨て出て行った。「今、家賃の支払いに困っているの。家にはお金がないから。」とアワドちゃん。

幼い姉妹は、週に3回、現地のNGOが催すお絵かき会などの行事に参加するとき以外は一日中部屋の中で過ごしている。こうしたNGOの催しは、彼女たちにとって同世代の子ども達と交流できる貴重な機会となっている。

部屋には教科書やテレビなど彼女たちが社会生活を送るために必要なものが何もないので、頼りになるのは数冊のぬり絵帳だけだ。

また彼女たちは空腹に苛まれている。「食べられるのは1日1回、お母さんが作る夕食だけです。今夜は昨日の残り物です。」とアワドちゃんは語った。

シャティラ難民キャンプでパレスチナ人とシリア人難民の子どもたちを支援しているNGO「不屈の子どもたちの家(Beit Atfal Al Somoud)」のズハイル・アカウィさんは、難民キャンプの現状について、「シリアからの難民の多さに圧倒されています。今とりわけ深刻な状況にあるのが食料問題です。ラマダンの時期であれば、慈善団体からの食料援助をあてにできるかもしれないのですが、この時期はどうにもなりません。私たちの支援活動も大変厳しい状況に直面しています。」と語った。

今日シリア難民の子どもは110万人以上にのぼるが、その内、国連難民高等弁務官事務所(UNHCRがレバノンで難民登録しているのは385,000人である。

UNHCRは11月末に発表した報告書「シリアの将来―危機の中で生きる難民の子どもたち―(The Future of Syria: Refugee Children in Crisis)」の中で、「レバノンでは就学対象年齢のシリア人難民270,000人のうち、約80%が教育を受けることができない状況に置かれている」と指摘し、その原因として次の諸要因を挙げている。①教育施設が既に飽和状態にあること。②費用の問題、③学校までの距離と通学手段の問題、④学校のカリキュラムと使用言語の問題、⑤いじめと校内暴力の問題、⑥家族を支えるための労働と就学の間の優先順位の問題。

レバノンの国内法では、教育費は無料で12歳までが義務教育とされている。この義務教育対象年齢の上限は、最近レバノン国会で15歳に引き上げられることが決議されたが、まだ実施に移されていない。

またUNHCRは同報告書の中で、「シリア難民の流入がレバノンの教育現場に大きな影響を及ぼしている。」と指摘したうえで、「教育現場の様相は大きく変化している。現場の教師は必ずしも心に傷を負った難民の子どもに対処する訓練を受けておらず、教育予算の不足も事態の悪化に拍車をかけている。インタビュー調査したシリア難民の子ども達は、公立学校の教育の質について『問題がある』と指摘した。」と記している。

シリア人精神分析医のカリル・ヨセフさんは、レバノン北部のトリポリで難民の子ども達を診療している。ヨセフさんは、シリア難民の子ども達の就学率が低い原因として、まず「費用の問題」を挙げ、「学校に通わせるよりも家族の生活を支えるために働かせる必要に迫られている事情があるのです。」と語った。次に「カリキュラムの問題」とし、レバノンではカリキュラムの一部がフランス語か英語で行われているため、アラビア語のみの教育を受けてきシリア難民の子どもの多くが、授業についていけず、脱落するものも少なくない事情を説明した。

さらにヨセフさんは、「いじめの問題」を指摘し、「(診療した)シリア難民の子ども達は学校でレバノン人の子ども達による嫌がらせにあっていました。子供たちは、(いじめっ子達とは)同じ学校に行きなくない、と訴えていたのです。」と語った。

この地域の公立学校では、受け入れ人数を増やすため、レバノン人の生徒を対象にした授業を午前で切り上げ、新たにシリア人難民の子ども達がアラビア語に翻訳したカリキュラムで学習できる午後のシフトを設けた。

ヨセフさんは、「難民の子ども達の中には、シリアでの内戦の経験が心のトラウマとなって、ここでの不安定な生活で直面する様々な困難に適応できないでいるものもいます。」と指摘したうえで、「そうした心に傷を負った子供たちは他の生徒や先生方に対して攻撃的な傾向があります。また、先生の言うことには耳を傾けず、授業を無断で休んだりします。新たに設けられた午後のシフトへの通学については、これまでの一日の生活様式を変える必要に迫られるため、帰宅が夜になるなど、様々な困難があるようです。しかし一方で良い点は、これによって難民の子ども達に生活のリズムを与えることが可能になることです。」と語った。

パレスチナ難民のファティマちゃん(11歳)は、シリアのホムスからレバノンの首都ベイルートに逃れてきた。父親は塗装工だが仕事を見つけられないでいる。また彼女の親戚は皆シリア国内にとどまったままだ。「ここに着いたとき、友達が一人もおらず、とても寂しかった。新しい暮らしになれるには時間がかかったわ。」とファティマちゃんは語った。

彼女は今、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWAが運営するパレスチナ難民のための学校に通っているが、英語とアラビア語の科目で躓いており、放課後に母親や近所の人に教えてもらっている。

「お父さんは私たち子どもに学校に通うべきだというの。たしかに子供は通りをたむろするのではなく、学校に行かせることが重要だわ。」とファティマちゃんは語った。(原文へ

INPS Japan

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笑いを誘わない風刺マンガもある

【パリIPS=A・D・マッケンジー

ある女性とその夫がテーブルに座っている。女性が夫に話しかけているが、夫の顔は新聞に隠れて、妻の話に耳を傾けていないようだ。

「少なくとも、オバマだけは私の話を聞いてくれるわ」と妻。

これは、米国の世界的な監視網が暴露されたスキャンダルを風刺した漫画の一コマで、国際的なメディア監視機関である「国境なき記者団」(本部:パリ)が「平和のための風刺漫画(Cartooning for Peace)」と協力して12月に出版した書籍に掲載されたものの一つだ。

「『平和のための風刺漫画』が選ぶ報道の自由のための100の風刺漫画」と題したこの書籍は、この1年間に世界で起こった表現の自由に対する抑圧の実態について人々の認識を高めるために作成されたもので、世界各地から参加した50人を超える漫画家の風刺作品を収録している。

焦点が当てられているテーマは、「言論の自由」「米国の情報監視戦術」「世界情勢」の3つ。「世界をスパイする」と題した節には、最も風刺に富んだ作品が収録されているが、読者によってはいくつかの作品を見て不快に思う人もいるかもしれない。

例えば、一部に指摘されているのは、描かれる人物が大統領か貧困層かに関わりなく、一部の風刺漫画家がアフリカ出身の人物を描く際に用いる描き方である。この書籍にもいくつかの作品でアフリカ系の人物が典型的なステレオタイプによる描き方をされており、読書によってはそれらを無神経と捉える向きもあるだろう。

この点について、本書に作品が収録されているベルギーの風刺漫画家ニコラス・バドは、「問題が指摘されている風刺画は、全てのキャラクターをあえて『醜く』描いている漫画家の個人的なスタイルを反映したものにすぎません。」と指摘したうえで、「政治的に何が正しいか(ポリティカル・コレクトネス)という議論を持ち出して、風刺漫画家に対して、ある集団を常にある特定の方法でしか描いてはならないと要求することはできません。つまり、風刺漫画家が何を描いても、常に気分を悪くする人はでてくるのです。」と語った。

前国連事務総長のコフィ・アナン氏は、本書の序文で、「風刺漫画家は、他者の意見や気持ちに対する思慮をもって、議論を喚起しなくてはなりません……しかし、漫画家らがそうしようとしても、依然として、(作品が)他者の気分を害することはあり得るのです。」と指摘したうえで、「しかし、挿絵を通じて他者とコミュニケーションを取る自由は、擁護され守られるべき重要な権利だということを、私たちは忘れてはなりません。」と述べている。

アナン氏とフランスの有名風刺漫画家プラントゥ氏は2006年に「平和のための風刺漫画」を立ち上げた。預言者ムハンマドを描いたデンマークの風刺漫画に対する激しい批判が巻き起こった直後のことだ。同団体には現在、世界40か国から100人以上の宗教的背景が様々な風刺漫画家が参加している。

「このイニシアチブは、風刺漫画家には作品を通して激情を煽るのではなく対話を促す責任があること、また、読者を分断するのではなく教育する責任が伴っているという考えに基づいて活動しています。」とアナン氏は語った。

さらにアナン氏は、「この『国境なき記者団』と『平和のための風刺漫画』が共同出版した書籍は、記者たちが世界各地で引き続き直面している困難な現状と、情報の自由を保護し記者を援護する『国境なき記者団』のような組織の重要さを改めて思い起こさせるものとなっています。」と語った。

こうした努力に対して疑念をもつ人がいるとすれば、ジャーナリストの置かれている厳しい状況を報告した最近のレポートが参考になるだろう。「国境なき記者団」によれば、2013年に、世界で71人のジャーナリストが殉職し、87人が拉致されている。

2012年と比較すると、2013年の死者数は減少したが、拉致さらたジャーナリストの数は129%増加している。「国境なき記者団」は、「シリアソマリアインドパキスタンフィリピンを、メディアにとって最悪の5ヵ国」に位置づけるとともに、「今日世界では少なくとも178人のジャーナリストが投獄されているほか、脅迫や暴力により、国外亡命を余儀なくされるジャーナリストが増え続けている。」と指摘している。

また多くの国々で、風刺漫画家も当局による嫌がらせや襲撃の対象となっている。本書籍では、シリアのバシャール・アサド政権を批判していたシリア人の漫画家アリ・フェルザット氏が2011年に拉致監禁され、拷問を受けた経緯を紹介している。フェルザット氏は拘禁中にシリア当局によって(二度と風刺画が画けないよう)利き腕の左手を折られた。「平和のための風刺漫画」が何とかフェルザット氏をシリアから救出し、クウェートに逃がしたが、依然としてネットを通じた脅迫が絶えないという。

「国境なき記者団」では1992年以来、写真集「報道の自由のための100の写真」を出版してきたが、こうした状況を背景に、今回初めて写真に代えて風刺漫画を採用した。「国境なき記者団」によると、本書籍の販売から得られる収益は、世界各地のジャーナリストやブロガーを援護する同団体の活動費に充てられるとのことである。なお、「『平和のための風刺漫画』が選ぶ報道の自由のための100の風刺漫画」のデジタル版は、アップルストア(App Store:i-pad及びi-phone用アプリ購入サイト)からダウンロード(有料)することも可能である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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過去の残虐行為の歴史を政治利用してはならない(トマス・ハマーベリ)

【ストラスブールIDN=トマス・ハマーベリ】

凄惨な人権侵害の歴史は、今日においても、欧州の国際関係に暗い影を投げかけている。いくつかの事例については、人々が歴史に正面から向き合うことで、その教訓を理解し相互に寛容の心と信頼の絆を育む動きが生れてきている。一方で、あまりにも深刻な残虐行為の中には、そうした事件そのものが否定・矮小化され、その結果、新たな緊張と対立の火種となっているものもある。 

また中には、過去の人権侵害の事例を狂信的な愛国主義のプロパガンダに利用することで、人々の分断と憎悪を駆り立てている事例もある。事実、歴史の歪曲は、人種差別、ユダヤ人迫害、外国人排斥などの行為を正当化する手段として様々な社会において用いられてきた。

 人々の心の中には、自国の歴史に誇りを見出したいという衝動が備わっているものだ。しかしそうした感情は反面、他民族や外国による過去の過ちに焦点をあてようとする傾向を伴うものである。こうした排他的な感情は、社会が危機に直面した際や、国家のアイデンティティが不透明で将来への不安が増幅した状況において、ますます顕著になる。 

従って歴史と正面から向き合うことが重要である。ましてや残虐行為や著しい人権侵害が関与する場合はなおさらである。過去の犯罪行為から目を背けても決して問題の解決にはならない。たとえ過去の犯罪行為に蓋をし、数世代に亘って無視し続けたとしても、被害側に繋がる人々の反感は醸成されつづけ、結果的に事件発生当時生れていなかった世代にも憎しみの連鎖を引き継ぐことになってしまうからである。 

かつて宗主国として植民地支配を行った欧州の国々は、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々が、当時無慈悲に行われた住民や天然資源の簒奪の結果、どのような被害を被ったかについて、現実を直視することを長年に亘って躊躇してきた。こうした国々は、2001年に開催された国連反人種主義・差別撤廃世界会議(ダーバン会議)に際して、歴史的事実(植民地支配や奴隷制の問題)に言及しようとする成果文書の原案に強硬に反対した。その結果、成果文書は妥協的なものとなってしまい、当然ながら様々な批判を呼び起こすこととなった。 

 一方、ナチスの犯罪、特にユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)については、実際に虐殺が行われていた時期、否定・矮小化されるか無視された。しかし戦後になって、この人道に対する犯罪は全ての良心の呵責を持つ人々の間で事実として受け入れざるを得ないものとなり、後に国際社会をして大量殺戮「ジェノサイド」の概念と将来おける同様の犯罪を防止し罰する国際条約を採択することにつながった。 

ナチスの犯罪 

戦後ドイツは、一貫してナチスの犯罪を究明し、生き残った犠牲者への補償や犯罪人の処罰を行う努力をしてきた。また将来を担う世代に対しては、父祖の名の下に行われた恐ろしい犯罪行為について教育を行ってきた。こうした取り組みは全て必要不可欠なものであり、これ以下の取り組みは受け入れられない。 

一方、ユダヤ人虐殺が行われた(ドイツ以外の)国々の中には、ナチスに協力した過去について積極的に明らかにしようとしない国々もある。またロマ(ジプシー)の大量虐殺については十分な注意が払われていないばかりか、犠牲者への補償は大幅に遅れているか、なされても最小限に止まっているのが現状である。さらに同性愛者の殺害や身体障害者を対象とした人体実験や殺害については、依然として事実から目をそむける傾向さえある。 

 またヨシフ・スターリンのソ連時代の犯罪についても、アレクサンダー・ソルジェニーツィンの作品をはじめ、ミハイル・ゴルバチョフ政権下でのグラスノスチ(情報公開政策)、アンドレイ・サハロフと人権団体「メモリアル」の活動等を通じて、様々な真実が明らかにされてきた。それでもスターリン時代の圧政と弾圧の全貌については、今なお、必ずしも全てのロシア人が認識しているわけではない。新たに始まった学校における歴史教育見直し作業の中で、この問題について対応していく必要がある。 

ソ連軍の役割 

近年欧州の一部の国々で第二次世界大戦中のソ連軍の役割について歴史を再検証する動きが出ているが、ロシアでは歓迎されていない。それはロシアの人々が、こうした歴史観が「大祖国戦争」(ロシアでの「独ソ戦」「ナチスとの戦い」の呼称)で払った膨大な犠牲を考慮していないばかりか、欧州を「解放」したソ連軍の姿を、残虐さにおいてヒトラーの軍隊と同等にみていると感じているからである。この点について、教育交流を通じで明らかになったことは、当時の歴史を振り返る場合、独裁者スターリンの政策とナチスから祖国を守るために戦った兵士や民間人は区別して考える必要性があるということである。 

欧州でさらに深刻な論争となってきたのが、1915年にオスマン帝国下で行われたとされるアルメニア人の強制移住、大量虐殺の問題である。この事件は現在のトルコ建国前の出来事であるが、同国では依然としてタブー視されており、この問題をとりあげた作家やジャーナリストが裁判にかけられる事例もでてきている。現在、依然不十分かつ学術的な議論のレベルではあるが、この問題がようやく認識されつつある段階である。 

ロマ問題 

また欧州において歴史を通じて無視され続けてきた民族がロマである。ロマ民族に関しては、ナチスによる犯罪が概ね無視されているのみならず、ナチス時代前後においても、ロマに対する残虐な抑圧・差別政策が欧州の各地で行われた事実についてあまり知らされていない。ロマに対する公式謝罪も未だにほとんど行われていないのが現状である。 

バルカン半島においては、民族ごとに異なる歴史観(中には数百年遡るものもある)が、90年代に熾烈を極めた内戦の根底にあり、国際社会による平和維持活動にも大きな障害となった。内戦中、新たな残虐行為が繰り広げられたがその規模と実態については今なお論争が続いている。旧ユーゴスラヴィア各地の人権擁護団体が、歴史の歪曲が将来における新たな対立の火種とならないよう和解委員会を通じた和解プロセスを進めるよう求めている。 

バルカン半島のみならず世界各地の紛争地域において、複数の歴史観が併存している現実を見出すことができるだろう。それぞれの歴史観は事実に基づくものであるが、視点と強調している側面が異なるのである。同じコミュニティーに属する多民族間で、多様な歴史観が併存している現実を理解するとともに、たとえ歴史的な出来事について共通認識を持てた場合でも歴史観が異なりうるという現実を受け入れることが重要である。 

こうした対立するグループ間の相互理解と和解を推進する試みが北アイルランドで始まっている。これはカトリックとプロテスタント両派の対話を通じて、相手側の歴史観に対する理解を相互に促進していこうとするものである。こうした共通の歴史を再構築していこうとするプロセスの中で、過去の殺人事件に関する不十分な捜査案件について再審理の道を開いてきた欧州人権裁判所は、重要な役割を果たしている。 

ギリシャでは1974年の軍事政権退陣後、政府の責任を問う裁判が開かれた。また軍事独裁政権を経験したスペインやポルトガルにおいても、裁判を通じて軍事独裁時代の秘密警察の活動を明らかにしようとする試みがなされてきた。スターリンの下で共産党一党独裁時代を経験した東欧諸国においては、ラストレーション(Lustration:共産党政権下で人権侵害に協力した人物を公職から追放する措置)と呼ばれるプロセスを通じて共産党時代の人権侵害を明らかにする試みがなされている。 

紛争後の状況下においては、法の支配を確立するためにも、人権侵害の実態を明らかにする作業が不可欠である。またそれは特に紛争直後において、事件の責任者に法の裁を受けさせ、被害者への補償を行い、犯罪の再発防止に取り組む上で極めて重要なプロセスである。 

視点 

また長期的な観点からも真実を明らかにすることが重要である。殺害されたのは単なる数ではなく人間なのである。生存者のみならず犠牲者の子供や孫には、尊厳を持って真実を知り犠牲者の死を悼む権利がある。また社会全体として、事件の真相から教訓を学びとるとともに、記録を取り続け、博物館や記念碑を設立し、次世代の人々が適切な教育を通じて事件を理解できるよう取り組まなければならない。 

欧州評議会は、インタラクティブな教材の提供や二国間協力を通じて、多様な視点から歴史観を育む教授法のノウハウを長年にわたり蓄積してきた。例えば20世紀の主な出来事と欧州史を教えるための教材開発や女性史の研究はそうした取り組みの一部である。また現在は、歴史の諸相を教える観点から、あえて「異なる視点」に着目した歴史教育教材の開発を進めている。 

また欧州評議会は、(90年代民族間対立が内戦に発展した)ボスニア・ヘルツェゴヴィナでは、多民族が共通で使用する新たな歴史・地理教科書及び教師用マニュアルのための共通ガイドラインの準備作業をおこなった。この作業には各民族出身の教師が積極的に参画し、多様な視点を教える歴史教材やインタラクティブな教授法を熱心に研究した。 

欧州評議会の議員会議でも、紛争後の和解プロセスを進める上で歴史教育が果たす役割に注目している。議員議会は、論争の的となっている歴史的事象を扱う場合、安易に特定の視点のみを採用する政治的なご都合主義に陥ることがないよう警告している。同議会はまた、同じ事象であっても、多くの視点や解釈が(しかも全て証拠に基づいて)存在し得ることが、今日の国際社会において受け入れられていると指摘している。 

従って、人権問題を歴史論争の「人質」にしてはならない。そうして作りだされる歴史事象の一面的な解釈や歪曲が、少数民族に対する差別、外国人嫌い、紛争の再発へとエスカレートしていく危うさを理解しなければならない。そして新たな世代は、父祖の世代の一部の人々が行った事件について非難されるべきではない。 

大切なことは、真実を誠実に追求し、異なる歴史認識について事実に基づく分別ある協議を積み重ねていくことである。そうすることができてはじめて、歴史から正しい教訓を共に学び取ることができる。

トマス・ハマーベリ氏は欧州評議会人権委員。ハマーベリ氏の論説はこちらから閲覧可能。

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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UAEの女性科学者がイスラム世界で最も影響力がある女性20人に選ばれる

【ドバイWAM】

ナヒヤーン・ビン・ムバラク・アル・ナヒヤーンアラブ首長国連邦(UAE)文化・青年・社会開発大臣兼UAE遺伝子疾患協会(UAEGDA)名誉会長は、この度「ムスリム・サイエンスCom」が発表した「イスラム世界で最も影響力がある女性20人」の一人に選ばれたマリアム・マタールUAEGDA創立者兼会長に祝辞を述べた。

「ムスリム・サイエンスCom」は、イスラム世界における科学、科学的革新、および起業家文化の復興に専心しているオンラインジャーナル・ポータルサイトで、イスラム教徒が多い世界の5つの地域(東南アジア、南・中央アジア、湾岸地域・イラン、マグレブ・北アフリカ、北米及び欧州)を対象に少なくとも6つの科学分野において卓越した実績を挙げた女性の中から20人を選出した。

また「ムスリム・サイエンスCom」は、今回初めてとなるこの試みの動機について「イスラム世界における科学とイノベーションの発展に多大な貢献をしながらほとんど無名のままでいる女性科学者に光を当てるため」としている。こうした観点から、20人の選出にあたっては、アラブ世界の王族関係者は除外し、一般女性を対象とした。

なお選出作業は、各々の研究成果が最も影響力を発揮すると思われる時期に応じて、以下の3つのカテゴリーに沿って行われた。①先駆者4人(1980年~2000年+)、②リーダー8人(2000年~2020年+)、③新進気鋭のリーダー8人(2020年~2040年+)選出された20人に関する情報はこちらへ

マリアム女史は、カテゴリー③の「新進気鋭のリーダー」部門で選出された。ナヒヤーン大臣は、「今回の選出は、マリアム女史の人類に対する科学的貢献と実績の賜物に他なりません。」と称賛した。

マリアム女史は今回の受賞について、「これは、女性の尊厳を重視し科学を含む教育・知識の普及(女性のエンパワーメント)を国家の基盤としてきたUAE政府による人材育成重視の姿勢の賜物だと思います。」と語った。

またドバイケアの副会長も務めるマリアム女史は、2年連続で最も活動的なアラブの研究者の上位4人目に選ばれている。

UAE遺伝子疾患協会(UAEGDAは、UAEでみられる人口特有の遺伝子疾患の管理・予防を目的として設立された非営利団体で、衛生教育、遺伝性疾患のスクリーニング検査、婚前スクリーニング検査及びカウンセリング等を行っている。またUAEGDAは、遺伝学に関する教育、研究を促進する観点から、科学知識の普及・出版に取り組むとともに、遺伝学と関連科学分野の研究者間の相互交流を支援している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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シリア、中央アフリカ危機が2014年の最重要課題に

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【国連IPS=タリフ・ディーン

国連の潘基文事務総長が16日、シリアや中央アフリカ共和国、マリ、リビア、パレスチナ、ダルフールなどの問題を、国際社会が2014年に直面するであろう重要課題として挙げた。

毎年恒例となっている年末記者会見で潘事務総長は、今年は4年目に入ったシリア内戦が「想像以上に悪化した年」だったと振り返り、「シリアの人々は、残虐行為と破壊が繰り返される今日の状況に、もはやこれ以上耐えられません。」と語った。

潘事務総長はまた、「中央アフリカ共和国の情勢は今や国連が最も危機感を持って取り組むべき深刻な事態に陥っている。」との現状認識を示したうえで、「2013年は同国の政情が『大混乱に陥った』年でもありました。」と振り返った。

さらに潘事務総長は、「(中央アフリカ共和国では)今にも大量殺戮が勃発するのではと強い危機感を持っています。」と警告するとともに、ミシェル・ジョトディア暫定政権に対して人命を保護するよう訴えた。

シリアと中央アフリカ共和国の危機は2014年も引き続き国連が取り組むべき最も深刻な政治課題であり続けるだろう。

シリア危機は、ロシアと中国が窮地に立っているバシャール・アサド政権を擁護して国連安保理で拒否権を発動するため、依然として解決の糸口が見えない状況にある。

1月22日にはジュネーブで紛争当事者間の会議が開かれることになっているが、反体制側からの参加者構成や、P5+1(国連安保理常任理事国である米ロ英仏中+独)に加えてイランやサウジアラビアが出席すべきかどうかという問題などをめぐって、開催が危ぶまれている(その後予定通り開催することでシリア政府と反政府勢力双方が合意、中東周辺諸国や日本を含む31か国が参加予定。一方、イランの参加については米国が反対していることから引き続き協議中:IPSJ)。

一方、9月のセレカ解散以降無政府状態に近い状態に陥った中央アフリカ共和国の情勢は、フランスやアフリカ諸国の軍隊の派遣により、一時的に鎮静化している。しかし内戦が深刻化する中、潘事務総長は、現在の「中央アフリカ共和国国際支援ミッション」を完全な国連平和維持軍に格上げすることを訴えている。

国連事務総長就任以来6年間を振り返って得た教訓について問われた潘氏は、「依然としてあまりにも多くの未解決の問題があることに、驚いています。国連が直面している危機の件数は、一期目(2007年~11年)よりも増加傾向にあります。当時はダルフール危機が最大の懸案事項でしたが、今はあまりにも多くの危機が同時並行で進行しています。とりわけシリア、中央アフリカ共和国、マリ共和国の危機に対する緊急の対応が要請されています。」と語った。

潘事務総長は「いかに強力で資金に恵まれていたとしても、特定の国や機関がこうした危機を、単独で解決することはできません。」と指摘し、問題解決に向けた国際協力の重要性を強く訴えた。

「これこそが私が学んだ最も重要な教訓であり、だからこそ私は各々の加盟国に対して『ともに協力し合っていきましょう』と積極的に協力を呼びかけているのです。」

潘事務総長はまた、国連事務総長や国連ができることには限界があると警告したうえで、「(問題解決には)多数の地域及び準地域規模の組織からの支援が必要です。」と語った。

他方、悪化し続けるシリア情勢を背景に、内戦の影響を被っている950万人に対する人道支援を実施しているいくつかの国連機関が、16日共同で、資金不足65億ドルの解消を求める異例のアピールを行った。

バレリー・アモス人道問題担当事務次長とアントニオ・グテーレス難民高等弁務官は、今日のシリア情勢を「最悪」と表現した。

イェンス・レルケ人道問題調整事務所(OCHA広報官はIPSの取材に対して、「この共同アピールは特定の危機に対する支援を訴えるものとしては史上最大規模のものです。」と語った。

どの程度の支援を見込んでいるかとの問いに対して、レルケ広報官は、「各国が過去のアピールに対してと同様の寛容さを今回も示してくれることを切に希望しています。」と述べたうえで、「ただしアピールで求められた支援額が100%満たされたことはありませんが。」と語った。

潘事務総長は記者会見で、「今年は従来の危機に加えて新たな危機が発生する一方で、外交上重要な成果をあげた年でもありました。」と述べ、2013年における様々な外交的成果についても振り返った。

国連安保理は9月27日、シリアに化学兵器の破棄を義務付ける画期的な決議案を全会一致で採択した。一方193加盟国からなる国連総会でも、4月2日、「長年の懸案」であった武器貿易条約案が採択された。

また2015年に期限切れを迎えるミレニアム開発目標(MDGsの後継となる持続可能開発目標(SDGs)を初めとするロードマップにも、2013年になって国際的合意がなされた。

潘事務総長は、先月ワルシャワで開催された国連気候変動会議(COP19)についても、「2015年の交渉妥結に向けて、協議が継続された。」と評価した。

また西アフリカ・サヘル地域においては、トゥアレグ独立派とイスラム原理主義武装組織がマリ北部を占拠し一時は中部への侵攻が懸念されたが、(フランス軍の軍事介入に続く)国連の仲介と平和維持軍の派遣でその後事態は平静を取り戻し、今月にはマリ国会議員選挙が平和裏に実施された。

潘事務総長は、「14日にはマリ北部のキダルで自爆テロ事件があったが、和平プロセスが影響を受けることはない。」と付け加えた。

また潘事務総長は、「2013年のもう一つのハイライト」として、イランの核計画を巡る11月24日のイランと「P5+1」間の歴史的な暫定合意を挙げた。

「この暫定合意が、全ての懸案事項について包括的な合意へと発展することを切に願っています。」と潘事務総長は語った。

最後に潘事務総長は、「2013年は、国際社会がネルソン・マンデラ南アフリカ共和国元大統領の死を悲しみとともにその偉大な功績を共に悼んだ年として記憶されるだろう」と指摘したうえで、「私が2014年に最も期待するものは、世界の指導者らが、道義的・政治的責任を果たすうえで故マンデラ氏の範に倣おうとする姿です。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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HRE 2020 To Promote Human Rights Education

By Jaya Ramachandran | IDN-InDepth NewsAnalysis

BERLIN | GENEVA (IDN) – “Everyone has the right to know, seek and receive information about all human rights and fundamental freedoms and should have access to human rights education and training,” says Article 1 of the United Nations Declaration adopted by the General Assembly on December 19, 2011. JAPANESE

Two years on, a global coalition of civil society organisations has been set up to promote human rights education by supporting and strengthening the implementation of existing international standards and commitments as envisaged in the Declaration, which reaffirms the purposes and principles of the UN Charter pertaining to “the promotion and encouragement of respect for all human rights and fundamental freedoms for all without distinction as to race, sex, language or religion”,

The global coalition, known as the ‘Human Rights Education 2020’ (HRE 2020), comprises Amnesty InternationalHuman Rights Education Associates (HREA)Soka Gakkai International (SGI) and nine other civil society organisations.

The importance of the year 2020 will be a key year to mark the 10th anniversary of the UN Declaration on Human Rights Education and Training in the following year with positive outcomes and to assess the achievement of governments, international institutions and civil society to provide access to quality human rights education to citizens.

Launched on the second anniversary of the adoption of the Declaration on Human Rights Education and Training by the United Nations General Assembly, HRE seeks to ensure a systematic monitoring of governments’ implementation of human rights education provisions in international human rights instruments, including the UN Declaration on Human Rights Education and Training and the World Programme for Human Rights Education.

“With the UN Declaration and the World Programme for Human Rights Education there exist clear standards and commitments for human rights education. HRE 2020 aims to systematically monitor these standards and commitments in order to ensure effective implementation,” says Adele Poskitt, Program Associate at HREA and coordinator of HRE 2020. “We call for greater accountability by governments because a comprehensive education in, through and for human rights provides knowledge, imparts skills and empowers individuals to promote, defend and apply human rights in daily life.”

“One of the aims of HRE 2020 is to support and strengthen the capacity of civil society to use international human rights mechanisms, instruments, standards and policies to hold governments accountable,” adds Sneh Aurora, International Human Rights Education Manager at Amnesty International.

Welcoming the launch of the new initiative, HRE 2020, Kazunari Fujii, Director of SGI’s UN Liaison Office in Geneva said: “It will positively influence international policies on human rights education with the UN and civil society partnership,” adding: “Civil society is a vital agent to eliminate the gap between the policies made by governments and the reality of their implementation.”

Explaining the development of the global coalition, Fujii told IDN: “Amnesty International, HREA and SGI realised that a coordinated civil society platform was necessary for collective engagement of civil society actors in interacting more effectively with international human rights mechanisms in pursuit of making human rights education a reality for all people We look forward to working with other civil society actors through HRE 2020 to globally ensure the implementation of human rights education.”

In fact SGI President Daisaku Ikeda proposed in his annual Peace Proposal 2011 “the formation of an international coalition of NGOs for human rights education” to promote human rights education on an international scale, pointing out that “the term ‘a culture of human rights’ refers to an ethos inculcated throughout society that encourages people to take the initiative to respect and protect the full spectrum of human rights and the dignity of life.”

The global coalition works with organisations worldwide and the current coalition members include: Arab Institute of Human RightsDemocracy and Human Rights Education in Europe (DARE Network)Forum Asia, Human Rights Educators USA (HRE USA), Hurights OsakaInformal Sector Service Centre (INSEC)Institute for Human Rights and Development in Africa (IHRDA)People’s WatchPeruvian Institute for Human Rights and Peace (IPEDEHP), and Raoul Wallenberg Institute of Human Rights and Humanitarian Law.

Resources

According to global coalition sources, HRE 2020 is developing a new, simple, user-friendly framework which will include indicators that stakeholders can use to monitor the implementation of human rights education commitments.

This framework will include a range of indicators and associated explanations for the presence of human rights education in the schooling sector and in the training of teachers, law enforcement officials and military personnel; civil servants and other professional groups, such as health workers and social workers. Indicators for non-formal human rights education efforts with youth and adults will also be included.

Consistent with the World Programme for Human Rights Education, the monitoring framework includes the following areas: HRE in legislation and policy documents; HRE in curricula and learning materials; HRE in education and training processes; Evaluation; and Preparation of trainers.

HRE 2020 anticipates use of this resource by civil society organisations in consultative processes associated with treaty body reporting and the universal periodic review as well as the preparation of shadow reports. This resource will also assist governments and treaty bodies in identifying in concrete terms the ways in which human rights education and training may be implemented.

The global coalition is, among others, inspired by the World Conference on Human Rights, held in Vienna in 1993. It called on all States and institutions to include human rights, humanitarian law, democracy and rule of law in the curricula of all learning institutions. The Conference also said that human rights education should include peace, democracy, development and social justice, as set forth in international and regional human rights instruments, in order to achieve common understanding and awareness with a view to strengthening universal commitment to human rights.

Also the 2005 World Summit Outcome, in which Heads of State and Government supported the promotion of human rights education and learning at all levels, including through the implementation of the World Programme for Human Rights Education, and encouraged all States to develop initiatives in that regard, provided the basis for the global coalition.

Fujii said, SGI and HREA had been closely working over many years since around 2003 in order to reflect the views and proposals of civil society in the UN international policy-making process on human rights education, particularly in the context of the UN Decade for Human Rights Education (1995-2004); World Programme for Human Rights Education (2005-ongoing); and the UN Declaration on Human Rights Education and Training.

Amnesty International became active in this approach about human rights education at the UN Human Rights Council in Geneva particularly since the drafting process of the UN Declaration on Human Rights Education and Training started in 2007 and catalysed in the UNGA adoption in 2011.

In the drafting process, SGI’s UN Liaison Office in Geneva and Amnesty International’s International Secretariat closely consulted with each other in order to effectively approach the UN Human Rights Council from civil society.

One of the key civil society networks in the entire processes, at the UN in Geneva in the context of human rights education, SGI’s Fujii said, has been the NGO Working Group on Human Rights Education and Learning (NGO WG on HREL) in Geneva, which is structured within the Conference of NGOs in Consultative Relationship with the United Nations (CoNGO). Since the creation of the NGO WG on HREL in 2006, SGI has been its Chair. [IDN-InDepthNews – December 27, 2013]

Image credit: HRE2020

2013 IDN-InDepthNews | Analysis That Matters

|UAE|除雪のための重機22台をヨルダンに寄贈

【アブダビWAM】

今月11日から中東地域の広いエリアが記録的な寒波と大雪に見舞われているが、アラブ首長国連邦(UAE)は大雪で都市機能が甚大な被害を受けたヨルダンに対して除雪用の大型重機22台を寄贈した。

アブダビ首長国皇太子で連邦軍副最高司令官のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下は、ヨルダン国民は厳しい天候に晒され、とりわけ高速道路や国内各所に降り注いだ積雪が市民生活を著しく阻害しているとして、救済の手を差し伸べるよう指示した。

今回の指示は、ハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーンUAE大統領とアブドラ・ビン・アル=フセインヨルダン国王が両国の民衆の間に育んできた強固な絆を反映したものである。

アブドラ国王は21日、UAEの善意に謝意を表明するとともに、フセイン皇太子とともに空港まで自ら赴き、重機の受け入れを見守った(上の写真)。

これらの重機は、積雪により寸断された交通・輸送インフラの復旧、さらには市民生活の改善に寄与するだろう。また、ヨルダン当局にとって、今後予想される大雪に対処するうえで、有効な戦力となるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「核兵器なき世界」実現を妨げる非核オーストラリア

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ】

オーストラリアは「核兵器なき世界」への支持を繰り返し表明しているが、軍縮支持団体「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が入手した文書によって、オーストラリア政府が、国際社会が核兵器の非人道的な側面により注目するようになると、米国の核兵器に依存する自国の政策と「齟齬をきたす」とみていることがわかった。

ICANは、情報公開法によって機密解除された外交公電や閣僚説明メモ、電子メールを取得し、オーストラリア政府が核兵器禁止を目指す取り組みに反対する計画を持っていることを明らかにした。

ICANオーストラリアのディレクターであるティム・ライト氏は、IDNの取材に対して「情報公開法を使った調査で、国際社会がますます核兵器の非人道的影響に焦点を当てるようになってきており、このままでは核兵器禁止条約(NWC)実現に向けた交渉につながるのではないかとオーストラリア政府が懸念していることがわかりました。」と語った。

前労働党(ジュリア・ギラード)政権は、今年4月22日から5月3日までジュネーブで開かれた2015年NPT運用検討会議第2回準備委員会で80か国が署名した「核兵器の人道的影響に関する共同声明」に賛同しなかった。ICANは、自由党・国民党による現連立政権(トニー・アボット)に対して、核軍縮分野でこれまでよりも積極的な役割を果たすよう求めている。

ライト氏は、「オーストラリアは核兵器を禁止し廃絶しようとする進歩的な国々の取り組みを阻害するのではなく、歴史の正しい側に立つべきです。」と語った。

今年10月、第68回国連総会の第一委員会で、ニュージーランドが125か国(日本を含む)を代表して「核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明」を発表した。

「残念なことに、オーストラリアは声明に署名しなかっただけではなく、同日、核兵器禁止から各国を遠ざけようとする別の声明を提出した。オーストラリアによるずっと薄められた内容の声明(核兵器の人道的影響への懸念を表明する一方で、「核兵器を禁止するだけでは、その廃絶は保障されない」と指摘。核兵器保有国の関与や、安全保障と人道の両方を考慮する必要性を強調する内容:IPSJ)には、わずかな数の米国同盟国(「核の傘」の元にあるNATO加盟国や日本など18か国)が署名しただけで、ほとんど影響力がなかった。ニュージーランド主導の声明が、核兵器の使用および所有の合法性を認めないとする多数かつ多様な政府からの賛同を得たことは、喜ばしいことです。」とライト氏は語った。

核兵器廃絶賛成派は、オーストラリアが、核兵器の破滅的な影響と、核が二度と使われないようにする必要性に焦点を当てようとする多くの国々による取り組みを妨げようと躍起になっていることを残念に思っている。

戦争防止医師会(オーストラリア)のスー・ウェアハム副会長はIDNの取材に対して「オーストラリアは、自ら核兵器を保有するか、使用の可能性を前提とした政策を維持するごく一握りの『核のならず者国家』のうちに自らを見出すことになります。軍縮に向けた現実的なステップを望んでいるとするオーストラリア政府の立場には、核ゼロに向けた計画が伴ったためしがありません。つまりそのレトリックとは真逆に、オーストラリア政府は、核を『持てる者』と『持たざる者』が並存する状況を単に支持しているにすぎないのです。」と語った。

核兵器は、すべての兵器の中で最大の破壊力を有しているにも関わらず、国際協定で禁止されていない唯一の大量破壊兵器である。軍縮運動は、国際赤十字・赤新月運動が核廃絶に関する法的拘束力のある国際協定に向けて努力するとの決議を採択したことによって、大きな弾みを得た。

オーストラリア国立大学核不拡散軍縮センターのラメシュ・タクール所長(教授)は、オーストラリアがニュージーランド主導の共同声明から距離を取らなければならない状況ではないという意見だ。

元国連事務次長でもあるタクール教授はIDNの取材に対して、「反対勢力と見られることで、オーストラリアは他の点に関する現在の取り組みを阻害しています。ニュージーランドが共同声明を出したころ、ギャレス・エバンス(オーストラリア元外相)と私は、インド・パキスタン(以前には、中日韓)の政策エリートに対して、核軍備管理および軍縮に向けた強い推進力を生むために、米上院が動く前にそれぞれの国が採れる措置(たとえば包括的核実験禁止条約[CTBT]の批准)について説得を試みていました。」と語った。

ほとんどのオーストラリア国民が核兵器に反対している。ICAN国際運営委員会の共同議長であるティルマン・A・ラフ准教授は、「オーストラリア国民は、自国の政府は核軍縮に関しては『よい勢力』だと信じようとしているのです。しかし、残念な事実は、オーストラリア政府には米国の核兵器配備や標的決定、さらに米国の核の使用可能性を支持・支援する意思があるため、問題解決に努力しているというよりも、むしろ問題の一部であり、軍縮を押し戻しているのです。」と語った。

1995年当時、オーストラリアの当時の外相は、地雷の完全禁止は非現実的であり受け入れられないと主張していた。これは地雷を禁止するオタワ条約が署名開放される2年前のことだった。

核なき防衛協力は可能

核戦争防止国際医師の会(IPPNW)の共同代表でもあるラフ氏はIDNの取材に対して「より悪いことに、オーストラリアがますます米国との軍事的関与を深めると、とりわけ、アリス・スプリングス近郊のパイン・ギャップにある米豪共同運営の軍事スパイ基地(1960年代以降、アジア諸国の各種通信を監視。近年、ここの高性能衛星通信機能が米国のミサイル防衛システムに利用されるようになった:IPSJ)が、米国が中国あるいは別の核武装国との戦争に巻き込まれた場合に、より重要な核攻撃の標的になってしまう。」と語った。

ニュージーランドが健全な防衛協力関係を米国と拡大させていることを見れば、核兵器なしで米国と軍事関係を結ぶことは完全に可能であることが明らかだろう。「そうした道を追求することは、世界から核をなくすためにオーストラリアができる最善のことだ」とラフ氏は語った。

非核世界の主唱者らは、核兵器の世界的禁止は、世論からの継続的な圧力と諸政府のリーダーシップによって可能になると主張している。ニュージーランドが提出した「核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明」にオーストラリアが賛同しなかったことに批判的だったマルコム・フレイザー元首相は、オーストラリアの現政権は前政権にもまして米国の歓心を買うことに勤しんでいるようだと見ている。

外務貿易省の報道官はIDNの取材に対して、オーストラリア政府はニュージーランドが提出した共同声明を歓迎し、そこに盛込まれたほとんどの内容に賛同するが、「実質的に共同宣言の内容作成に貢献する機会を与えられないまま準備され、議論の安全保障面における側面を適切に認識していない声明を支持する立場にない。私たちは、長きにわたって積極的に軍縮を推進してきた国として、核兵器なき世界という共通目標の達成と維持にコミットしつづける。」と述べている。

オーストラリア政府を核廃絶に取り組ませるためにどのような圧力をかければいいかについて、フレイザー氏は、「オーストラリア国民に、いかに私たちが米国に束縛され、いかに米国の決定に影響を受けているのかを理解させることが重要です。私たちが戦ってきた過去3回の戦争は、いずれも米国との関係ゆえに参戦したものです。彼ら(米国)に対して、次の戦争には参加しないと宣言し、独立の外交政策を確立すべきです。オーストラリアはそうしてはじめて、より効果的に軍縮に取り組むことができるでしょう。」と語った。

オーストラリアは、核兵器を保有していないが、国家安全保障へのカギを握るとみられる米国との同盟下で拡大核抑止ドクトリンを採用している国として、興味深い立ち位置にある。また、オーストラリアはウラン埋蔵量が全世界の約40%を占め、ウランの重要な輸出国である。

Map of Australia
Map of Australia

今日、世界には少なくとも2万発の核弾頭があり、そのうち約3000発が即応可能な状態にある。これらの潜在的破壊力は広島型原爆15万発分に相当する。

核軍縮に関する国際社会の焦点は不拡散から廃絶に移りつつあり、オーストラリアは、これによって、核兵器保有国やイランから拡大核抑止に依存するオーストラリアのような米同盟国へと焦点が移ってくることを懸念している。

今年3月、ノルウェー政府が、核兵器の人道的影響に関する画期的な政府間会議をオスロで主催し、(オーストラリアを含む)128か国の政府と、主要な国際機関や国際赤十字・赤新月運動の代表らが集った。

南アフリカ政府は、NPT運用検討会議準備委員会会合につながる動きとして、NPTの全ての加盟国に対して、「核兵器を違法化し核兵器なき世界を達成する取り組みを強化する」よう全ての国家に訴えた2ページの声明に賛同するよう呼びかけた。

核兵器問題に取り組む市民社会の結束が強まっていることは、ニューヨークで10月19~20日に開かれた「人道的軍縮キャンペーンフォーラム」に現れていた。メキシコは来年2月に諸政府や市民社会、学者らを集めた会議を主催するが、この会議が、核兵器の使用がもたらす人道的帰結を認識しそれに対応するための次の重要なステップとなるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

※ニーナ・バンダリ氏は、シドニーを拠点に活動する記者で、IDN(インデプスニュース)やインドの「インド・アジアン・ニュース・サービス」(IANS)等の国際通信社や国内・国際出版社に寄稿している。

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|UAE|マレーシア洪水被害者に1000万ドル相当の救援物資を供与

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領は、今月上旬にマレーシアを襲った集中豪雨に伴う洪水被害者に対して、3660万ドゥルハム(=約1000万ドル)相当の人道支援を行うよう指示した。

マレーシアでは半島東海岸部(パハン、ジョホールトレンガヌ、クランタン4州)を中心に豪雨の影響を受けて洪水が続いており、AP通信によると、15日現在で10万人以上が避難生活を送っている。

今回の支援は、多数の住宅地が流されるなど最も深刻な洪水被害がでたパハン州およびクランタン州の被災地を対象に実施される。


現地で支援活動を担当する赤新月社(RCAは、被災した20000棟以上の住宅を修理するとともに、マレーシア国内で調達した支援物資を被災者に届ける予定である。


この支援によって、10万人以上のマレーシア人が自宅へ帰還し、生活再建に向けて仕事を再開できるようになるとみられている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【シャリジャWAM】


「イスラエルはこれまでも中東和平交渉を頓挫させるための策略を巡らしてきた長い歴史がある。米国のジョン・ケリー国務長官が今月2週連続してイスラエル入りする中、中東和平交渉を巡ってイスラエル政府が新たにどのような難題を持ち出してくるのか、そして米国がどのように交渉を前進させられるのかについて再び懸念の声が上がっている。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が13日付の論説の中で報じた。

「国際社会がイスラエルの策略を注視しているのは喜ばしいことだ。国連人道問題調整官(占領下パレスチナ担当)のジェイムス・ローリー氏は、ヨルダン渓谷のパレスチナ人所有の建物(30棟)を破壊し住民を強制退去させたイスラエル政府の措置を非難した。この措置によって24人の子どもを含む41人のパレスチナ人が住居を追われた。しかも破壊された建物の中には援助機関によって建てられたものが多数含まれていたほか、犠牲者の中には今月になって2度目の強制退去に遭遇した者もいた。」とガルフ・ニュース紙が12月13日付論説の中で報じた。


「国連当局によると、2013年の年初以来、ヨルダン川西岸地区(ウエストバンク)の60%を占めるエリアC(行政権・治安権ともにイスラエルが掌握)と東エルサレム地区で630棟におよぶパレスチナ人所有の建物が取り壊され、526人の子どもを含む1035人のパレスチナ人が強制退去させられた。破壊された建物の約7割がヨルダン渓谷のパレスチナ人コミュニティーを対象としたものだった。」


パレスチナ解放機構高官のヤーセル・アベド・ラボ氏は、ラジオ局『パレスチナの声』の取材に対して、ネタニヤフ政権に対して融和策をとるケリー国務長官は、イスラエル政府が主張する安全保障措置にかこつけたヨルダン渓谷におけるイスラエル勢力の拡張要求に応じたことで、『中東和平交渉を危機的な状況に陥らせてしまった。』と語った。」

「国連総会は2014年を「パレスチナとの国際団結年」とする決議を圧倒的多数の賛成(賛成110、反対7、棄権56)で採択した。この動きはパレスチナ人にとって慰めとはなるが、国際社会にはイスラエルの動きを抑制する一層の努力が求められている。国連は1977年以来、11月29日を『パレスチナとの団結デー』として記念してきたが、1年を通じてパレスチナ人の苦境に焦点をあてる国際年の制定を決議したのは初めてのことである。」

「繰り返されるイスラエル政府による建物破壊措置により、多くのパレスチナ人が強制退去させられ土地や財産を失っている。立ち退きを強要され生活基盤を失った人々は、気候がますます厳しくなっている中で、住むあてもなく過酷な生活を強いられている。このような措置は国際法に反するものであり、イスラエル政府は一刻も早く破壊行為を止めるべきである。」とガルフ・トゥデイ紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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